平成24(ネ)316 損害賠償請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成24年10月4日 名古屋高等裁判所 棄却 岐阜地方裁判所 多治見支部 平成22(ワ)266
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判決文本文22,978 文字)

平成24年10月4日名古屋高等裁判所平成24年(ネ)第316号損害賠償請求控訴事件(原審・岐阜地方裁判所多治見支部平成22年(ワ)第266号) 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴人の当審で追加した請求を棄却する。 3 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人(1) 原判決を取り消す。 (2) 被控訴人は,控訴人に対し,5000万円及びこれに対する平成22年11月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3) 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。 (4) 仮執行宣言 2 被控訴人主文と同旨第2 事案の概要 1 本件は,控訴人が被控訴人の管理する流水プールで逆飛込みをして頚髄損傷等の傷害を負った事故につき,控訴人が被控訴人に対し,被控訴人に安全保護義務違反があったとして,債務不履行による損害賠償請求権に基づき,1億8505万7811円の内金8000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成22年11月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 原審が,控訴人の請求を棄却したところ,控訴人が控訴した。 控訴人は,当審において,上記第1の1(2)のとおり請求を減縮したほか,民法717条に基づく損害賠償請求を追加し,上記債務不履行による損害賠償請求と選択的であるとした。 以下,略語は,特段の断りのない限り,原判決の例による。 2 前提となる事実次のとおり原判決を補正するほか,原判決「事実及び理由」欄の第2の1に 害賠償請求と選択的であるとした。 以下,略語は,特段の断りのない限り,原判決の例による。 2 前提となる事実次のとおり原判決を補正するほか,原判決「事実及び理由」欄の第2の1に記載のとおりであるから,これを引用する。 (原判決の補正)原判決2頁14行目の「底面」を「底面(控訴人の主張)あるいは側面(被控訴人の主張)」と改める。 3 債務不履行に基づく損害賠償請求に関する当事者の主張次のとおり当審における当事者の主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の第2の3に記載のとおりであるから,これを引用する。 (控訴人の主張)(1) 原判決の事実誤認等について原判決は,控訴人が本件プールへの逆飛込みによる危険を認識しながら,あえて自らその危険を犯して逆飛込みを行って本件事故を発生させたとの認定をしているが,控訴人が事故の発生を認識し,これを容認して飛込みをした事実はなく,そのような証拠もない。 したがって,原判決は,被控訴人が本件プール利用者に対して負っている安全保護義務を果たしていたかを具体的に検討すべきであるのに,その検討をしないまま,これを肯定して控訴人の請求を棄却しているもので,不当である。 (2) 被控訴人に安全保護義務違反があったことについて本件プールに飛込みをした場合には重篤な結果を伴う事故が発生する可能性があり,被控訴人は,利用者が本件プールに飛込みをすることを予見し得 たから,被控訴人の負担する安全保護義務の内容は,本件プールへの飛込みを阻止すべき措置をとることであったのに,被控訴人は,以下のとおり,同義務に基づく十分な措置を講じなかった。 ア本件プールの水深は約1mであるが,平成17年7月付けの財団法人日本 の飛込みを阻止すべき措置をとることであったのに,被控訴人は,以下のとおり,同義務に基づく十分な措置を講じなかった。 ア本件プールの水深は約1mであるが,平成17年7月付けの財団法人日本水泳連盟作成の「プール水深とスタート台の高さに関するガイドライン」(甲47)によると,プールでの飛込事故に関する安全確保の観点から,最低限確保すべき水深は1.35mとされているから,成人ないしは成人と同様な体格を有する未成年(以下「成人等」という。)が本件プールに飛び込んだ場合には,重篤な事故が発生する可能性があった。 イ被控訴人が,本件プールに成人等が飛び込むことがあることについて,予見できたし,少なくとも予見可能であったことは,被控訴人が開業当時から本件プールの周辺に「飛込禁止」の張り紙を貼付していたことから明らかである。 また,本件プールの水深が約1mであることは,その表示がなく,一見して明らかではない状況にあるから,本件プールの利用者が,本件プールの水深を確認することなく,本件プールに飛び込むことはあり得ることであり,そのことは予見可能であった。 そして,本件プールと同様に飛込みを禁止されていた隣接プール(20mの屋内プールで,水深は本件プールより深い。)において,平成13年1月20日に26歳の男性が酒を飲みふざけてプールサイドを走って頭からプールに飛び込み,頭を打って5日から1週間入院した事件があったが,このことから,成人でも,酒に酔った状態やふざけあっていた状態では,飛込禁止の張り紙の存在を認識していても,プールに飛び込むことがあることを,被控訴人も十分認識できたはずであり,ましてや,判断能力において未成熟ではあるが,身体的には成人と同視できる子どもが,本件プールに飛び込むことは容易に予見できるこ プールに飛び込むことがあることを,被控訴人も十分認識できたはずであり,ましてや,判断能力において未成熟ではあるが,身体的には成人と同視できる子どもが,本件プールに飛び込むことは容易に予見できることである。 ウ上記ア及びイから,被控訴人には利用者が本件プールに飛び込むことがないよう,次のような措置を講ずる義務があったが,被控訴人は,飛込禁止の張り紙をし,おざなりに監視委員の配置をしただけで,同義務を尽くさなかった。 (ア) 成人等が物理的に本件プールに近寄れないようにする措置が考えられるが,そのためには,成人と付き添いの必要な幼児ないしは小学生程度の子どもに限って本件プールの立ち入りを認め,中学生以上の立入りを禁止する。 (イ) 肉体的に成人と同視できる未成年者に対して本件プールへの飛込みを思いとどまらせるための措置として,入場の際に飛込みの危険性について注意喚起し,飛込禁止の意味を具体的に告知することが考えられる。 生命,身体に重大な危険があることを,改めて認識させておけば,飛び込もうとしたときに,同行動を躊躇させる契機となるが,被控訴人は,文書でも口頭でも一切そのような告知をしていない。(ウ) 飛込禁止を利用者に周知させ,飛込禁止を真に実効あるものとする方法としては,飛込禁止をマイクで繰り返し警告する措置が考えられるが,被控訴人はそのような措置も講じていない。 なお,被控訴人は「飛込禁止」の張り紙をしている。しかし,飛込禁止の理由としては,飛び込むことによって遊泳者と衝突する危険があることと,本件事故のようにプールの底に頭部を激しく衝突させて負傷する危険があることの二つの理由があるため,その趣旨を明確にしないと,利用者において飛込禁止の趣旨を正確に認識ができず,飛込禁止 があることと,本件事故のようにプールの底に頭部を激しく衝突させて負傷する危険があることの二つの理由があるため,その趣旨を明確にしないと,利用者において飛込禁止の趣旨を正確に認識ができず,飛込禁止の理由をプールが浅く,飛込みをすると頭部がプールの底面に衝突して重傷を負うおそれがあるなどと認識できる者ばかりではない。したがって,飛込禁止の張り紙は,少なくとも飛込みによる受傷の危険性を明示したものとすべきである。また,飛込禁止の張り紙は,飛び込もうとする人間 に良く見える場所でなくてはならず,例えば手すり(柵)に貼付すれば,飛び込もうとする眼前に確認できるが,こうした措置もとられていない。 (エ) 飛込みの気配があれば直ちに阻止できるような完全な監視態勢をとるべきであったのに,そのような監視態勢は取られていなかった。 十分な監視員を配置しておれば,現実には一部の未成年者についてのみ注意を集中させればよいので,阻止は困難ではない。また,監視員がいるだけで抑制効果がある。しかし,本件プールの監視態勢については,1人の監視員がプールゾーンを移動しながら,本件プールと隣接プールの両方を監視するという態勢であり,しかも同監視員は高校生のアルバイトであって,専門の訓練を受けたものではなく,本件プール周辺を常時監視する態勢となっておらず,全く付近に監視員がいない場合があった。現実に本件事故の際には,監視員は事故に誰も気がついていないし,被控訴人自身この監視員が,事故当時どこにいたのかさえ把握していない。飛込禁止を実効あらしめるためには,常時複数の監視員が必要であり,うち1名は全体を高所から監視できる場所に,うち少なくとも1名はプールの周囲を移動しながら監視することが必要である。そうでないと,具体的に走ったり,飛込みの気配 には,常時複数の監視員が必要であり,うち1名は全体を高所から監視できる場所に,うち少なくとも1名はプールの周囲を移動しながら監視することが必要である。そうでないと,具体的に走ったり,飛込みの気配の見える者を直ちに制御できない。 また,かつては,本件施設でもプールサイドにいた監視員が笛を鳴らして注意を喚起することがあり,控訴人の母は,現実にそうしたことによって飛込みをしようとしていた者が飛び込まなかったことを見ている。 ところが,本件事故にあっては,控訴人はジャグジーから本件プールに小走りに走って飛び込んでおり,本件プール専用に常時高所から監視する監視員あるいは周囲を巡回して監視する監視員がおれば,その段階で笛を鳴らすなどして警告することは十分に可能であって,本件飛込みを回避することが可能であった。 (オ) 本件プールの南側の部分を本件プールの縁より低くしたり,本件プー ルの縁に沿って,柵(手すり)を設置したりする措置を講ずべきであった。 本件プールの北側サイドは,プール縁より低くなっており,そこからプールに飛び込むことは不可能であるが,本件プールの南側サイドは,プール縁と同じ高さとなっており,飛込みが可能であるため,本件プールの南側サイドについても本件プールの縁より低くすることにより,飛び込むことを困難とし,容易に飛込みを阻止できる。 また,本件プールの縁に沿って柵(手すり)を設置することよっても,飛込みを阻止できる。実際にも,他のプール施設においては,プールの縁に約1mの高さの金属製の柵(手すり)を設置している(甲48の2,3)。控訴人はジャグジーから本件プールに小走りで進行し,そのまま飛び込んでいるのであるが,上記柵(手すり)が本件プールの縁に沿って設けられていれば,飛込み 柵(手すり)を設置している(甲48の2,3)。控訴人はジャグジーから本件プールに小走りで進行し,そのまま飛び込んでいるのであるが,上記柵(手すり)が本件プールの縁に沿って設けられていれば,飛込みは不可能である。少なくとも,勢いを持って飛び込むことはできない。そして,柵(手すり)の設置には多額の費用は必要でない。 (被控訴人の主張)(1) 本件事故の発生状況等に関する原判決の認定に誤りがない。 原判決は,控訴人が本件事故の発生を認識し,これを容認してあえて本件プールに飛び込んだと認定しているものではなく,本件事故の発生を十分認識し得たにもかかわらず,あえて本件プールに飛び込んで本件事故を発生させたと認定しているのであり,原判決のこの認定に誤りはない。 本件プールが幼児用の流水プールであり,付き添いの大人の腰程度までの水深しかないことは,本件プールを利用したことのある中学生であれば分かるし,控訴人は,水泳部に所属し,日常的にプールを利用していたのであるから,そのことを十分に分かっていた。また,本件プール の周囲には,「飛込禁止」の張り紙が何か所も張られていた。したがって,このような水深の浅い本件プールに頭から飛び込めば,プールの底で頭部を打撲する危険があることは,水泳部に所属し,飛込みの危険性をよく分かっていた控訴人において十分認識できたし,予見することができた。それにもかかわらず,控訴人は危険な飛込行為をして本件事故を自ら発生させたものであり,被控訴人には本件事故の発生につき注意義務違反はない。 なお,本件事故の態様は明確ではなく,控訴人が本件プールの底ではなく,本件プールの側面の壁で頭を強打した可能性も否定できない。控訴人はプールに飛び込んだ直後に,勢い余って,プ はない。 なお,本件事故の態様は明確ではなく,控訴人が本件プールの底ではなく,本件プールの側面の壁で頭を強打した可能性も否定できない。控訴人はプールに飛び込んだ直後に,勢い余って,プールの側面の壁に頭をぶつけたとも考えられるからである。 (2) 被控訴人に安全保護義務違反がないことについて本件プールは,幼児が水とたわむれ遊ぶことを目的としたものであり,通常有している安全性を有しており,本件プール自体に危険性はない。 水深の浅い本件プールに飛び込んでプールの底で頭を打つ危険性は,通常人であれば,十分予見,認識することができるから,物理的に「飛込み」を不可能にする措置をとることまでの必要はない。被控訴人は,本件プールの周囲に飛込禁止の張り紙をし,監視員によって本件プールの周辺を監視させるなどしており,本件プールの安全対策として十分な注意を払っていた。 4 民法717条に基づく損害賠償請求に関する当事者の主張(控訴人の主張)本件プールには,以下のとおり設置・保存の瑕疵があり,本件事故は同瑕疵により発生したから,本件プールの占有者である被控訴人には民法717条に基づき,本件事故により控訴人が被った損害を賠償する責任がある。 (1) 本件プールは,利用者が飛込みによりその生命身体に対する危険がある 構造である。 本件プールについては,入場制限はなく,入場料さえ支払えば,誰でも入場し利用できるから,多様な入場者に対しても安全が確保されるような設備である必要である。 ところが,前記のとおり,本件プールの水深は約1mであり,プールでの飛込事故に関する安全確保の観点から,最低限確保すべき水深1.35mに不足している。そのため,成人等が本件プールに飛び込ん ところが,前記のとおり,本件プールの水深は約1mであり,プールでの飛込事故に関する安全確保の観点から,最低限確保すべき水深1.35mに不足している。そのため,成人等が本件プールに飛び込んだ場合には,重篤な事故が発生する可能性があった。 そして,現に控訴人が本件プールに飛び込んで,本件事故が発生したものである。 なお,本件プールは流水プールであるが,流水プールであっても,飛び込んでも底面に頭部を打たない程度の水深にすることと保護者が浮き袋を着けた幼児を保護しながら,流れに身を任せて一緒に楽しむことの両方を満足させることは可能であるが,被控訴人は,その選択により,飛込みの危険を避ける水深にせず,その結果として本件プールについて飛込みによる危険性が生じることになったのである。 (2) 本件プールへの飛込行為は,プール施設として本来の使用方法に該当し,異常な利用行為ではない。 ア本件プールは,プール施設であるから,プール施設として利用する限りは利用方法に制限がなく(本件プールは流水プールであるが,流水プールが全て水深が浅く,飛込みが危険であるわけではない。),本件プールへの飛込行為もプール施設としての利用の範疇に含まれている。 なお,本件プールは水泳競技に使用されることが予定されていないこと及び本件プールには飛込台が全く設置されていないことは事実であるが,その事実から直ちに,本件プールでは当然に飛込行為は禁止されているとか,外観上飛込禁止が当然予測できるとはいえず,本件プールが 飛込禁止となったのは,本件プールについてプール施設としての本来の使用方法を被控訴人が一方的に制限していることによるものに過ぎない。 イもっとも,本件プールについて,被控訴人によって飛込禁 飛込禁止となったのは,本件プールについてプール施設としての本来の使用方法を被控訴人が一方的に制限していることによるものに過ぎない。 イもっとも,本件プールについて,被控訴人によって飛込禁止という使用方法の制限が徹底され,飛込みをする者が全くいない状態が長期にわたって継続されていれば,飛込みの禁止は控訴人の主観的な意思から,客観的な使用方法に変わったといえるかもしれないが,開業以来被控訴人がその制限を徹底するためにしてきたことは,飛込禁止の「貼り紙」「看板」(以下「貼り紙等」という。)を設置していたということだけであり,他には,飛び込もうとする者を躊躇させ再考させたり,飛込みを困難にさせたり,飛込みの勢いを減殺させる設備の設置等の措置を全くとっていなかったから,本件プール施設では,飛込禁止が一般的なルールとして確立されていたとはいえない。 また,操業から本件事故までの約15年間に,本件のほかには全く飛込行為がなかったなどということは到底考えられない。どの程度の飛込行為があったかは不明である(常時本件プールの周囲に監視員がいないので,飛込行為の集計もされていない。)。しかし,前記のとおり,本件プールと同様に飛込禁止となっていた隣接プールにおいて飛込みがあり,そのため短期間入院した事故が発生しており,これは氷山の一角であり,この事件を前提とすれば,入院までは至らず,怪我もせず,治療も受けることがなかった飛込行為が相当数あったことは予測できる。 そして,本件プールの深さが約1mであることについては,その旨の表示がなく,一見して明らかな状況にはなかった(水深を確認するためには,意識的にプールに入って確認するか,一部透明となっているところを見て確認することになるが,それではおおよその水深確認しか の旨の表示がなく,一見して明らかな状況にはなかった(水深を確認するためには,意識的にプールに入って確認するか,一部透明となっているところを見て確認することになるが,それではおおよその水深確認しかできない。)から,本件プールの外観から直ちに本件プールへの飛込みが危険であると理解することは困難であった。 なお,貼り紙等についても,「飛込禁止」というだけの記載であり,その理由として,飛び込むことによって泳いでいる人と衝突して双方が受傷する危険があるということと,プールの底面に衝突して受傷する危険があるということが考えられるが,これを見た者が前者の理由と理解すれば本件のような流水プールが空いていた時間には飛込みが可能と考えて,飛び込むことも考えられる。 (3) 本件プールへの飛込みが通常予測できない異常な行動とはいえない。 ア本件プールについては,前記のとおり入場制限がなく,入場料さえ支払えば誰でも入場し利用できるから,多様な入場者に対しても安全が確保されるような設備が必要であった。 イそして,本件プールへの飛込みが一般的に予測できたことは,「飛込禁止」を記載した貼り紙等の存在から明らかである。 また,前記のとおり,隣接プールにおいては,飛込みが禁止されていたのに,飛込事件があった。この事件のように,成人でも,酒に酔った状態やふざけあっていた状態では,飛込禁止の貼り紙の存在を認識していても,プールに飛び込むことがあるのである。ましてや,身体的には成人と同視できる判断能力において未成熟な中学生や高校生が本件プールに飛び込むことは,通常予測できない異常な行動とはいえない。 本件事故にあっては,控訴人には具体的な記憶がないが,帰るために更衣室に向かう途中で小走りに走っ な中学生や高校生が本件プールに飛び込むことは,通常予測できない異常な行動とはいえない。 本件事故にあっては,控訴人には具体的な記憶がないが,帰るために更衣室に向かう途中で小走りに走って飛び込んだ状況からすると,名残惜しく最後に一泳ぎしようとしたことや,格好よく飛び込むところを弟やその友人に見せてやろうとした感情から,危険を回避する判断能力が低下し,更衣室に至る途上に存在した本件プールへ飛び込んだものと思われる。 (4) ところで,本件プールについての通常有すべき安全性の確保は,本件プール施設の構造とともに,飛込みを阻止する被控訴人の措置とあいま って確保されることがあり得るが,飛込みを阻止するための被控訴人の対応は,前記3(控訴人の主張)(2)ウのとおりであって,極めて不十分であり,この観点からしても本件プール施設には瑕疵が存在する。 (被控訴人の主張)(1) 本件プールの設置管理の瑕疵の不存在についてア土地工作物が通常有すべき安全性を欠いているか否かは,その工作物の構造,本来の用法,場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的,個別的に判断すべきである(最高裁昭和45年8月20日判決参照)。 イ本件プールの構造本件プールは,屋外に設置された流水プールで,全長63mの円形の水路に,水流を内環させるものである。水路の幅は3m,水深は1m,水流の速さは時速1㎞である。 ウ本件プールの本来の用法流水プールは,ゆっくり流れる水の上に浮き袋等を浮かべ,浮き袋等につかまったり横たわったまま水と共に流されたり,親子などが水とたわむれながら一緒に楽しむことを目的に設置されたレジャープールである。 水プールは,ゆっくり流れる水の上に浮き袋等を浮かべ,浮き袋等につかまったり横たわったまま水と共に流されたり,親子などが水とたわむれながら一緒に楽しむことを目的に設置されたレジャープールである。 したがって,流水プールは,全体の形状が長方形で直線のコースからなる競泳用のプールとは異なり,水泳競技に使用されることは当初から予定されておらず,利用者が流水プールで泳ぐ速さを競ったりするものではない。また,本件プールには飛込台は全く設置されておらず,競泳用プールとは異なり,利用者が流水プールに飛び込むことは当初から全く想定されていない。 エ本件プールの通常の利用方法本件プールの実際の利用方法も,この本来の用法と同様である。本件 プールの利用者は,老若男女,幼児から高齢者まで多岐にわたっており,親子などが浮き袋等につかまって一緒に水に流されるなどして楽しんでいる。 なお,時々,子供が足から本件プールに飛び込むことがあるが,被控訴人ではこのような飛込みも禁止し,「飛込禁止」の貼り紙を本件プールの周囲に貼ったり,プール監視員を巡回させて監視し,違反者に厳しく注意している。したがって,本件プールに利用者が飛び込むことが常態になっていることはなく,本件プールへの飛込みは通常の利用方法ではない。 オ本件プールに対する法的規制流水プールなどのレジャープールを規制する法律は存在しない。水泳競技に使用される競泳プールについては,財団法人日本水泳連盟の作成した「プール公認規制」があるが,この規制は流水プールなどのレジャープールは対象としていない。 ちなみに,競泳プールを対象とした「プール公認規制」は,競泳用の標準プールの水深について,小中学校プ ル公認規制」があるが,この規制は流水プールなどのレジャープールは対象としていない。 ちなみに,競泳プールを対象とした「プール公認規制」は,競泳用の標準プールの水深について,小中学校プールは80㎝以上,それ以外のプールは1m以上としている。本件プールは,「プール公認規制」の対象外ではあるが,その水深1mは,この規制の規準に照らしても適合している。 カ本件プールでの事故の発生件数本件プールでは,平成7年2月の開業以来,本件事故が発生した平成20年8月18日までの約13年半にわたって,飛込事故は1件も発生していない。 キ本件プールの管理態勢被控訴人は,本件プールの周囲数か所に,「飛込禁止」の貼り紙をし,本件プールに飛び込まないように,利用者に注意を呼びかけている。ま た,監視員2名を本件プールの周りを巡回させ,利用者が本件プールの周囲を走ったり,本件プールに飛び込まないように注意するなどして,飛込事故等の防止のために必要な措置を取っている。 ク本件プールの安全性以上のとおり,本件プールの構造や本来の用法,実際の利用方法,過去に飛込事故が1件も発生していないこと,被控訴人の管理態勢等を総合的に考えれば,本件プールは本来の用法に従って利用している限り,飛込事故が発生することは考えられず,通常有すべき安全性を欠いているものとは考えられない。 (2) 被控訴人には民法717条による不法行為責任がないことについて本件プールは本来の用法に従えば安全性に欠けるものがない施設であるから,これを異常な方法で使用しないという注意義務は利用者側にある。 すなわち,本件プールの設置管理する者は,本来の用法に従えば安全な 本来の用法に従えば安全性に欠けるものがない施設であるから,これを異常な方法で使用しないという注意義務は利用者側にある。 すなわち,本件プールの設置管理する者は,本来の用法に従えば安全な施設においては,利用者が危険を認識し得ないか,危険を認識していても避け難い場合に,必要な範囲内で危険を警告する義務があるにすぎない。 水深の浅い流水プールに頭から飛び込めば大きなケガをする危険性が髙いことは控訴人は十分理解していたこと,本件プールの周囲に「飛込禁止」の貼り紙を数か所設置したり,プール監視員を巡回させていることを考えれば,本件プールの安全性に欠けるところはない。 したがって,本件プールに飛び込んだことにより発生した本件事故について,被控訴人には民法717条に基づく不法行為責任はない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前提となる事実に証拠(甲3,4の1ないし3,甲36の3,甲38の1,40,44の3,乙1ないし5,7ないし9,証人U,証人V)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 本件プールの構造や利用状況などア本件プールは,風呂施設,バーデン施設及びプール施設等からなるWの一施設である。 Wは,被控訴人が経営管理する温泉レジャー施設であり,一般に開放され,所定の利用料金を支払えば,原則として,年齢や性別などを問わず,誰でも利用できる施設であり,本件プールを含むプール施設も同様である。 Wには,プール施設として,本件プール(別紙図面の青色部分)のほかに,これに隣接して,遊泳目的用として,長方形型で長さ20m,水深約1m,3コースの室内プール(以下「隣接プール」という。別紙図面の「プール(20m×3コース)」部分)があり, 面の青色部分)のほかに,これに隣接して,遊泳目的用として,長方形型で長さ20m,水深約1m,3コースの室内プール(以下「隣接プール」という。別紙図面の「プール(20m×3コース)」部分)があり,隣接プールにはウオータースライダーの着水プール(別紙図面「着水プール」部分)が付設されている。 イ本件プールは,屋外に設置された流水プールで,別紙図面のとおり,幅3mの水路を楕円形状に巡らせたような形状をし,同水路内を,水を循環させて,常時緩やかな水流となるようにしたプールであり,水深は1mである。 本件プールの南東側の壁は,透明なアクリルガラス製となっており,アクリルガラス越しに,プールの水深が分かるようになっている。被控訴人は,ホームページにおいて,本件プールについて「X屋外流水プール」として宣伝している。 本件プールのうち,上記アクリルガラスとなっている部分から北側にかけてのプールサイド部分(本件プールの全体の約3分の1の程度)は,プール壁に接してこれより低い位置に通路があるなどのため,同部分からプールに飛び込むことは困難であるが,その他のプールサイド部分においては,プールサイドとプール水面との間に,柵や手すりなど飛込みの支障となるものはないため,プールサイドから本件プールへの飛込みは容易であ る。なお,飛込台は設置されていない。 他方,隣接プールにおいては,プールサイドとプール水面との間に,柵や手すりなど飛込みの支障となるものはないため,飛込みは容易である。 なお,飛込台は設置されていない。 ウ本件プールの利用については,後記エのとおり飛込みが禁止されている以外にはプールとしての利用に特段の制限はなく,水泳することも自由であったが,前記のような構造及び形状であるため,主と 。 ウ本件プールの利用については,後記エのとおり飛込みが禁止されている以外にはプールとしての利用に特段の制限はなく,水泳することも自由であったが,前記のような構造及び形状であるため,主として,流れる水の上に浮き袋等を浮かべ,浮き袋等につかまったり,横たわったまま水と共に流されたり,親子などが水とたわむれるなどの方法で利用する者が多く,被控訴人も,本件プールについて,主としてそのような利用を想定していた。 他方,隣接プールの利用についても,後記のとおり飛込みが禁止されている以外にはプールとしての利用方法に制限はなかったが,前記のような構造及び形状であったため,主に水泳(遊泳)目的で利用され,被控訴人においても,そのような利用を主なものとして想定していた。 エ被控訴人は,Wが開業された平成7年2月当時から,本件プール及び隣接プールでの飛込みを禁止しており,本件事故当時において,本件プール及び隣接プールの周囲の壁や柱には,別紙図面の①ないし⑤の位置に,それぞれ,「飛込禁止」の文字部分は注意を引くように赤字にした「危険ですから,飛込禁止します」と記載した縦40㎝,横60㎝の大きさの警告板を設置し,また,同図面の⑥及び⑦の位置に,蛙の絵とともに「プールゾーンバーデゾーンはとびこまないでね」と記載した縦42㎝,横30㎝の大きさの警告板を設置し,同図面の⑧の位置に,赤字に「飛込禁止」と大書した縦24㎝,横91㎝の警告板を設置していた。 もっとも,被控訴人は,上記警告板の設置以外には,本件プール及び隣接プールについて飛込禁止であることを利用者に知らせる措置(例えば, W入場に際して,飛込禁止を告知したり,館内マイクで飛込禁止の放送をするなどの措置)を講じていなかった。 オ本件プ プールについて飛込禁止であることを利用者に知らせる措置(例えば, W入場に際して,飛込禁止を告知したり,館内マイクで飛込禁止の放送をするなどの措置)を講じていなかった。 オ本件プールにおいては,平成7年2月の開業以来,本件事故が発生した平成20年8月18日までの約13年半にわたって,飛込みにより負傷するなどの事故が発生したことはない。 なお,隣接プールにおいては,平成13年1月20日に,仲間と一緒に来た26歳の男性が飲酒の上,逆飛込みをして頭部を打って頸椎がずれるなどの負傷をし,1週間近く入院するという事故があった。 カ本件事故当時には,本件プール及び隣接プールなどがあるプールゾーンを専門に監視する監視員1名(Y。当時高校3年生)とバーデゾーンとその周辺を監視するための監視員1名(Z。現場コントロール(プール,バーデゾーン,浴室ゾーンなどに人員を配置したり,指示を出したりする業務)を担当する職員)が監視業務に従事し,本件プールサイド等を巡回し,本件プールや隣接プールの周囲を走ったりする利用者があれば,注意するなどして,事故の発生を防止するようにしていた。 Y及びZとも,本件事故を目撃しておらず(本件事故発生時にどこを巡回していたかも証拠上明らかでない。),Yは,控訴人が本件プールから引き上げられた後に本件事故の発生に気づき,Zに連絡し,救急車などの手配がなされた。 (2) 本件事故発生の状況などア控訴人は,平成5年a月b日生まれで,本件事故当時14歳,中学3年生であり,身長約170㎝,体重約56㎏であり,中学1年生当時から学校の水泳部に所属し,学校のプールで水泳競技の練習を行うなどしていた。 また,控訴人は,小学5年生のころから毎年2回程度Wを訪れ,本 0㎝,体重約56㎏であり,中学1年生当時から学校の水泳部に所属し,学校のプールで水泳競技の練習を行うなどしていた。 また,控訴人は,小学5年生のころから毎年2回程度Wを訪れ,本件プール及び隣接プールを利用していた。 イ控訴人は,平成20年8月18日午後2時ころ,母,弟,弟の同級生家 族(同級生とその弟及び母親)の6名でWを訪れ,所定の利用料金を支払って入場した上,プール施設やバーデン施設で遊び,本件プールも利用した。 ウ控訴人らは,同日午後5時近くになって帰宅の準備をすることになり,屋外ジャグジー(別紙図面の「屋外ジャグジー」部分)につかった後,更衣室に戻って着替えすることになったが,控訴人は,屋外ジャグジーから上がると,もう一泳ぎしようとして,小走りに別紙図面のAからBのような経路で本件プールに向かい,その南隅のプールサイド(別紙図面のB地点辺り)から本件プールに逆飛込みをし,プール底面に頭頂部を衝突させ,頚髄損傷等の傷害を負う本件事故が発生した。 エ控訴人は,従前の本件プールの利用経験に加え,本件事故当日にも本件プールを利用していることから,本件事故当時,本件プールでの飛込みが禁止されていることを知っていたし,本件プールの水深が浅く,控訴人の腰辺りまでしかないことも知っていた。 以上のとおり認められ,この認定を左右するに足りる証拠はない。 なお,被控訴人は,本件事故は,控訴人が逆飛込みをして頭部を本件プールの底面ではなく,側面にぶつけたことにより発生した可能性がある旨主張するが,証人Vの証言によれば,控訴人の治療に当たった病院の関係者から,控訴人の頭頂部が赤くなっているので,頭頂部をぶつけたものである旨の説明を受けたことが認められるから,被控訴人の主張は採用で 張するが,証人Vの証言によれば,控訴人の治療に当たった病院の関係者から,控訴人の頭頂部が赤くなっているので,頭頂部をぶつけたものである旨の説明を受けたことが認められるから,被控訴人の主張は採用できない。 2 安全保護義務の債務不履行による損害賠償請求について(1) 控訴人は,被控訴人の経営管理するWに利用料金を支払ってその施設に入場することにより,被控訴人との間で,本件プールを含むWの施設の利用契約(以下「本件施設利用契約」という。)を締結したものであるから,被控訴人は,同契約に基づき,控訴人に対し,控訴人がWの施設を利用することに伴って控訴人の生命身体に危害が生じることがないよう,その安全に配慮 すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を負うものというべきである。 控訴人主張の安全保護義務も,その対象とする範囲や内容はともかくとして,概ね上記のような趣旨をいうものと解されるので,以下においては,控訴人の安全保護義務についての主張も,安全配慮義務の主張として説示する。 (2) ところで,証拠(甲46,47)及び弁論の全趣旨によれば,財団法人日本水泳連盟は,平成17年7月,水泳プールの飛込みによる頚椎・頚髄損傷,四肢麻痺等の重篤な事故の発生防止を目的として,「プール水深とスタート台の高さに関するガイドライン」を策定し,これを公表したが,それには,①プール公認規則では,スタート端壁前6mまでの水深が1.35m未満のプールについてはスタート台の設置を禁じていること,②しかし,1.35mの水深なら絶対安全な水深ということではなく,如何なる飛込み姿勢に対しても安全な水深となると,水深3m以上となること,③ところが,既存のプールにあっては,水深1mないし1.2m程度の施設がかなり多い状況であり,一般の営業用プー ことではなく,如何なる飛込み姿勢に対しても安全な水深となると,水深3m以上となること,③ところが,既存のプールにあっては,水深1mないし1.2m程度の施設がかなり多い状況であり,一般の営業用プールにあってはその程度の水深のものがむしろ通常であること,④如何なる飛込み状況の中でも安全確保という「絶対的な安全基準」としてではなく,既存のプールの現状等を踏まえた現実的な妥協点として,水深1mないし1.35mのプールのスタート台の高さについて,水深に応じたスタート台の高さの目安(例えば水深1mないし1.1m未満のプールのスタート台の高さ(水面上)は0.25m±0.05mとするなど)を定めたが,このガイドラインのとおり実施しても,陸上,水中で姿勢・動作等の要因が複合すれば,プール底に頭部を強打し,飛込事故が発生し得ること等の趣旨の記載があることが認められるところ,上記ガイドラインにおける飛込みとは,上記ガイドラインの内容及び趣旨からして,競泳競技において一般に行われている逆飛込み(頭からの飛込み)をいうものと解される。 そして,前記1(1)の認定事実のとおり,本件プールは,その水深が1mであり,実際にも,控訴人が,本件プールに逆飛込みをして,その頭部をプ ール底面に衝突させて頚髄損傷等の傷害を負ったのであるから,上記ガイドラインの記載内容に照らして,本件プールにおいて逆飛込みをした場合には,その際の動作速度や姿勢等によっては,上記ガイドラインに記載されているような頚髄損傷等の重篤な傷害事故の発生する危険があることが認められる。 (3) しかし,被控訴人においては,本件プールについて全面的に飛込みによる利用を禁じ,本件プール周囲に飛込禁止の警告板を複数掲示してその旨を明示していたのであり,控訴人も,従前における本件プールの (3) しかし,被控訴人においては,本件プールについて全面的に飛込みによる利用を禁じ,本件プール周囲に飛込禁止の警告板を複数掲示してその旨を明示していたのであり,控訴人も,従前における本件プールの利用経験及び本件事故当日の本件プールの利用により,本件プールにおいて飛込みが禁止されていることを知っていたことは,前記1で認定したとおりである。 したがって,控訴人は,被控訴人が本件プールの利用方法として,明示的に飛込みを禁止していたのに,そのことを知りながら,同禁止に違反して本件プールに逆飛込みをして本件事故を発生させたものというほかない。 そして,被控訴人が本件施設利用契約に基づき控訴人に対して負担する安全配慮義務は,前記のとおり,控訴人がWの施設を利用することに伴って控訴人の生命身体に生じることある危害を対象とするものであるが,この場合の利用とは,本件施設利用契約の通常の趣旨からして,施設の利用者が当該施設について通常予定されている利用方法に従って利用することを前提としての利用であるというべきであるから,控訴人が,上記のとおり,被控訴人が本件プールの利用方法として飛込みを禁止していることを知りながら,これに反して本件プールに飛び込むことによって生じることがある危害についてまでは及ばず,被控訴人は,本件施設利用契約により,控訴人との関係で,そのような危害の発生を防止するために配慮すべき義務を負担するものではないというべきである。なぜならば,被控訴人が施設の利用方法として明示的に禁止している場合のその利用方法により生じることがある危害は,原則として,同施設が予定している通常の利用方法には含まれず,したがって,被控訴人が本件施設利用契約に基づき控訴人に対して負担する安全配慮義務 の範囲にも含まれないというべきである 危害は,原則として,同施設が予定している通常の利用方法には含まれず,したがって,被控訴人が本件施設利用契約に基づき控訴人に対して負担する安全配慮義務 の範囲にも含まれないというべきであるからである。 (4) もっとも,本件プールにおいて,被控訴人の上記のような禁止にもかかわらず,これに違反して飛込みが頻繁に,あるいはしばしば行われている事実があって,飛込禁止が有名無実化していたなどの特段の事情がある場合には,本件プールにおける飛込みが本件プールについて通常予定する利用方法でないということはできないから,被控訴人は,本件プールにおける飛込みを禁止していることをもって,控訴人に対し,本件プールにおける飛込みによって生じることがある危害に対する安全配慮義務を免れるものではないというべきである。 そこで,上記特段の事情の有無について検討するに,本件プールについては,Wの開業以来13年余り,利用者が飛込みにより負傷した事故は発生していないことは前記1(1)オで認定したとおりであり,証拠(乙8,証人U,証人V)及び弁論の全趣旨によれば,本件事故当時,本件プールにおいて飛込みがしばしば行われるなどにより,被控訴人による飛込禁止が有名無実化しているような事実はなかったことが認められるから(証人Vは,控訴人の母親であり,控訴人は小学5年生のころから毎年2回程度Wを利用しているが,本件事故前に控訴人が本件プールや隣接プールに飛び込んだことはないし,監視員が,プールサイドを走ったり,飛び込んだりした人がいると,「走らない」とか,「飛び込まない」などと叫んで注意していた旨証言している。なお,同証言にいう「飛込み」が,足からの飛込み,頭からの飛込みのいずれであるかについては,その証言内容からは明らかでない。),上記特段の事情の存在を ない」などと叫んで注意していた旨証言している。なお,同証言にいう「飛込み」が,足からの飛込み,頭からの飛込みのいずれであるかについては,その証言内容からは明らかでない。),上記特段の事情の存在を認めることはできない。 (5) 控訴人は,本件プールに飛込みをした場合には重篤な結果を伴う事故が発生する可能性があり,かつ,被控訴人は,利用者の中には本件プールに飛び込む者があることを予見することができたから,被控訴人には,控訴人等の利用者に対する安全配慮義務の一環として,控訴人等の利用者が本件プール に飛び込むのを阻止するために十分な措置を講ずべき義務があったのに,被控訴人はこれを怠っていた旨主張する。 しかし,前記(1)ないし(3)で説示したところによれば,被控訴人が,その経営管理するWの施設の利用者との間に締結する施設利用契約に基づき,当該利用者に対して負担する安全配慮義務は,利用者に対し,利用者がWの施設を,同施設が通常予定する利用方法で利用することに伴って利用者の生命身体に危害が生じることがないよう,その安全に配慮すべき義務にとどまるものというべきであるところ,利用者が,本件プールにおいて飛込みが禁止されていることを知りながら,同禁止に違反して本件プールに逆飛込みをすることは,同禁止が有名無実化しているなどの特段の事情の認められない本件においては,本件プールについて通常予定されている利用方法の範囲を逸脱するものであるから,被控訴人が負担する上記安全配慮義務の範囲外であり,したがって,被控訴人には,同禁止に違反して本件プールに飛込みする利用者があることを前提として,これを阻止するための措置を講じる義務まではなく,これを怠ったからといって,上記安全配慮義務の不履行となるものではないというべきである。 し ールに飛込みする利用者があることを前提として,これを阻止するための措置を講じる義務まではなく,これを怠ったからといって,上記安全配慮義務の不履行となるものではないというべきである。 したがって,控訴人の上記主張は,控訴人主張の飛込みを阻止するための種々の措置の当否などについて検討するまでもなく,採用することができない。 (6) 以上によれば,控訴人の安全保護義務の債務不履行による損害賠償請求は,その余の点について検討するまでもなく,理由がなく,棄却すべきである。 3 民法717条に基づく損害賠償請求について(1) 前記1(1)の認定事実によれば,本件プールは,Wの諸施設の一つとして,屋外に設置されたプール施設であり,被控訴人が経営管理する土地の工作物であることが明らかである。 (2) 本件プールの設置又は保存の瑕疵の有無 ア本件プールはその水深が1mであるため,本件プールにおいて逆飛込みをした場合には頚髄損傷等の重篤な事故が発生する危険(以下「本件危険」という。)があることは,前記2(2)で認定したとおりであり,また,控訴人が本件プールに逆飛込みをして本件事故が発生していることは,前記前提となる事実のとおりである。 控訴人は,本件プールについて本件危険があることが本件プールの設置又は保存の瑕疵である旨主張するのに対し,被控訴人は,本件プールにおいて飛込みが禁止されていることを理由として,本件危険の存在は本件プールの設置又は保存の瑕疵には当たらない旨主張して争うところ,民法717条1項にいう「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があること」とは,土地工作物が通常有すべき安全性を欠いていることをいうが,同安全性を欠くか否かは,その工作物の構造,本来の用法,場所的環境及び利用状況等 項にいう「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があること」とは,土地工作物が通常有すべき安全性を欠いていることをいうが,同安全性を欠くか否かは,その工作物の構造,本来の用法,場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的,個別的に判断すべきものである(最高裁昭和45年8月20日第一小法廷判決・民集24巻9号1268頁,最高裁昭和53年7月4日第三小法廷判決・民集32巻5号809頁参照)。 そこで,以下において,上記見地に即して,本件危険があることが本件プールの設置又は保存の瑕疵に当たるか否かについて検討する。 イ本件プールは,屋外に設置された流水プールで,幅3m,水深1mの水路を楕円形様に配置し,同水路にゆっくりとした速さで水を循環させていること,本件プールについては,飛込みが禁止さているほかには,プールとしての利用方法に制限はなく,水泳(遊泳)することも自由であるが,上記のような形状及び構造等から,ゆっくり流れる水の上に浮き袋等を浮かべ,浮き袋等につかまったり横たわったまま水と共に流されたり,親子などが水とたわむれながら一緒に楽しむという態様で利用する者が多く,そのような利用が一般的であること,他方,隣接プールは,その構造等か ら,水泳(遊泳)のために利用されることが多く,そのような利用が一般的であること,本件プール及び隣接プールについては飛込み台が設置されていないこと,被控訴人は,本件プール及び隣接プールについて飛込みを禁止し,その旨の警告板を本件プール及び隣接プールの周囲の壁や柱に複数設置しており,本件プールについては,その周囲に別紙図面の①ないし③及び⑧のとおり,壁等に4枚の警告板が設置されていること,本件プールについて,平成7年2月の開業以来,本件事故が発生した平成20年8月18日までの 件プールについては,その周囲に別紙図面の①ないし③及び⑧のとおり,壁等に4枚の警告板が設置されていること,本件プールについて,平成7年2月の開業以来,本件事故が発生した平成20年8月18日までの約13年半にわたって,飛込みによる人身事故は発生していないこと,本件プールについて,被控訴人による上記のような飛込禁止措置にもかかわらず,飛込みが頻繁に,あるいはしばしば行われるなどにより飛込禁止が有名無実化しているというような事実は認められないこと,控訴人は,本件プールについて飛込みが禁止されていることを知りながら,同禁止に反して本件プールに逆飛込みをして,本件事故を惹起したものであることは,前記1及び2で認定説示したとおりである。 そして,本件プールについて,その水面とプールサイドの位置関係などから,一部を除き,プールサイドからの飛込みが容易である構造となっているのであるが(前記1(1)イ),飛込みを逆飛込みに限って検討すると,証拠(甲4の1,乙2,3,9)及び弁論の全趣旨によれば,本件プールは,上記のとおり,幅3m,水深1mの水路を楕円形様に配置した構造と形状であるところ(別紙図面の青色部分),楕円形様の南東部分(控訴人が逆飛込みをした部分)及び北西部分の各弧状部分のプールサイドから水路の直線方向に飛び込む場合を除き,本件プールについては,その大部分において,一方のプールサイドから他方のプールサイド方向に逆飛込みをした場合には,その間にはプール幅程度の距離しかないため,他方のプールサイド側のプール壁に頭部を衝突する現実的な危険があり,逆飛込みを行おうとするようなプール利用者であれば,その恐れから逆飛込みを思い とどまるような構造及び形状となっていることが認められる。 上記した本件プールの構造・形状及び利用 ,逆飛込みを行おうとするようなプール利用者であれば,その恐れから逆飛込みを思い とどまるような構造及び形状となっていることが認められる。 上記した本件プールの構造・形状及び利用状況などによると,本件プールは,レジャー用プールであって,競泳競技用のプールでなく,競泳競技において行われる逆飛込みを予定した設備構造となっていないことは,その外形などからも明らかであるところ,被控訴人は,本件プールにおける飛込みを一律に禁止し,周囲の壁等にその旨の警告板を設置してそのことを明示しているのであるから,本件プールについて,少なくとも逆飛込みする方法でこれを利用することは,本件プールの本来の用法ということはできない。そして,前記1及び2で認定説示したとおり,本件プールについては,平成7年2月の開業以来,本件事故発生までの約13年半にわたって,飛込みによる人身事故は発生しておらず,本件プールについて,被控訴人による上記のような飛込禁止措置にもかかわらず,飛込みが頻繁に,あるいはしばしば行われるなどにより飛込禁止が有名無実と化しているというような事実も認められないのであるから,本件プールにおける逆飛込みが本件プールの通常の用法であるということもできないというべきである。 そうすると,本件プールについては,これに逆飛込みをした場合には,頚髄損傷等の重篤な人身事故が発生するという本件危険があるのであるが,上記のとおり,被控訴人により本件プールにおける飛込みが一律に禁止され,その旨が警告板によって明示されているのであるから,本件プールの利用者が飛込みを禁止する警告板に従って逆飛込みをするようなことはないものと期待できるし,社会通念上そのように期待することは相当であるので,本件プールについて本件危険があることをもって,本件プー の利用者が飛込みを禁止する警告板に従って逆飛込みをするようなことはないものと期待できるし,社会通念上そのように期待することは相当であるので,本件プールについて本件危険があることをもって,本件プールが通常備えるべき安全性に欠けるものということはできない。 ウもっとも,本件プールは,前記1(1)アのとおり,Wの諸施設中のプール施設の一つとして,年齢等を問わず,被控訴人に所定の利用料を支払っ た者は,原則として誰でも入場して利用できる施設であるから,本件プールについて,幼児から老人までの幅広い年齢の者が安全に利用できる施設であることを要するものというべきであるところ,本件プールが飛込禁止であることは,飛込禁止の警告板により利用者に知らされていたものの,他には本件プールでの飛込みを禁止していることを利用者に周知させるための措置(例えば,館内放送でその旨を放送する措置やプールの周囲に柵を設置するなどして飛込みを困難とするような設備を設置する等の措置)は講じられていなかったのであるから(前記1(1)エ),飛込禁止の警告板の記載を理解できない者やそれに従って行動することが必ずしも期待できない者(幼児や小学生など)との関係で,本件プールについて上記の安全性が十分に確保されているといえるか否かについては,上記のような幼児や小学生については,同伴する保護者において,飛込禁止の警告板の趣旨を十分に説明するとともに,飛込行為をしないように適宜行動を監視し,注意を与えるなどのことが期待されるところではあるが,なお疑問がないわけではない。 しかし,控訴人は,本件事故当時,中学3年生であり,従前の本件プールの利用経験及び本件事故当日の本件プールの利用から,本件プールについて飛込みが禁止されていることは承知していたのであるから,飛込 しかし,控訴人は,本件事故当時,中学3年生であり,従前の本件プールの利用経験及び本件事故当日の本件プールの利用から,本件プールについて飛込みが禁止されていることは承知していたのであるから,飛込禁止の警告板の記載を理解できない者にも,それに従って行動できない者にも該当しない。したがって,本件プールが上記のような年齢層の利用者との関係で安全上問題があるとしても,本件プールは,控訴人との関係では通常有すべき安全性に欠けるところがないのであるから,控訴人が,そのことをもって,自己との関係でも本件プールに通常有すべき安全性に欠けるところがあったと主張することはできない。 この点について,控訴人は,本件プールと同様に飛込みが禁止されている隣接プールにおいて,飲酒した成人男性がふざけてプールに飛び込み頭 を打って1週間近く入院した事故の事例を挙げながら,身体は成人同様であっても判断能力において未成熟な控訴人のような年齢の者が本件プールに飛び込むようなことがないよう,より徹底した飛込禁止措置を講ずるべきであった旨主張するのであるが,隣接プールは,その構造及び形状等から,主に水泳(遊泳)用に利用されていたプールであって,本件プールとはその構造及び形状等が異なるから,隣接プールでの上記事故は本件プールにそのまま当てはまるものではないし,そもそも,被控訴人には,飛込禁止であることを理解し,そのことに従って行動できる者に対して,飛込禁止に反して行動する者があることを前提として,本件プールや隣接プールについて飛込みを阻止すべき措置までを講じなければならないものではないというべきである。 エ以上によると,本件プールについては,これに逆飛込みをした場合には,頚髄損傷等の重篤な人身事故が発生するという本件危険があるのであるが,被 ければならないものではないというべきである。 エ以上によると,本件プールについては,これに逆飛込みをした場合には,頚髄損傷等の重篤な人身事故が発生するという本件危険があるのであるが,被控訴人により本件プールにおける飛込みを一律に禁止され,その旨が明示されていたのであるから,警告板を見て本件プールにおける飛込みが禁止されていることを理解し,これに従って行動ができるだけの思慮分別を備えた利用者である控訴人との関係では,本件プールについて本件危険があることをもって,本件プールが通常備えるべき安全性に欠けるものということはできない。 (3) 以上のとおりであるから,本件プールについて控訴人主張の瑕疵は,これを認めることができないので,控訴人の民法717条に基づく損害賠償請求は,その余の点について検討するまでもなく,理由がなく,棄却すべきである。 4 結論よって,控訴人の債務不履行による損害賠償請求を棄却した原判決は相当であるから,本件控訴を棄却し,また,控訴人が当審で追加した民法717条に よる損害賠償請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第3部裁判長裁判官長門栄吉裁判官内田計一裁判官山崎秀尚 (別紙図面)添付省略

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