判決平成14年8月30日神戸地方裁判所平成13年(わ)第920号,同第1311号強盗致傷,有印私文書偽造,同行使,詐欺未遂被告事件 主文 被告人を懲役7年に処する。 未決勾留日数中270日をその刑に算入する。 理由 (犯罪事実)被告人は,第1 競艇を通じて知り合ったA株式会社代表取締役V(当時78歳)から金員を強取しようと企て,平成13年7月6日午前9時30分ころ,神戸市西区小山a丁目b番c号の上記V方2階応接間において,いきなり同応接間机上にあった木彫りの熊の置物(重さ約4.3キログラム)を振り上げ,同人の頭部付近をめがけて2回殴打する暴行を加え,同人を気絶させてその反抗を抑圧した上,同人が所有する現金約139万1528円,同人名義の印鑑,預金通帳等が在中していたかばん1個及びA株式会社株券(額面価格5万円,100株券)100枚を強取し,その際,同人に対し,約96日間の加療を要する前額部挫創兼割創,頭部擦過剥皮創(多発)及び急性硬膜下血腫等の傷害を負わせた。 第2 判示第1の犯行により強取したV名義の株式会社M銀行発行にかかる預金通帳及びその届出印鑑を利用して,同銀行係員を欺き,預金払戻しの名目で金員を交付させようと企て,同月13日午前9時45分ころ,兵庫県加古川市平岡町新在家d丁目e番地のf所在の株式会社M銀行H支店において,行使の目的で,ほしいままに,同支店備え付けの預金払戻請求用紙の金額欄に「1300000」,おなまえ欄に「V」などとボールペンで各冒書し,お届け印欄にVと刻した上記印鑑を冒捺し,もって,V作成名義の預金払戻請求書1通を偽造し,そのころ,同所において,同支店係員Bに に「1300000」,おなまえ欄に「V」などとボールペンで各冒書し,お届け印欄にVと刻した上記印鑑を冒捺し,もって,V作成名義の預金払戻請求書1通を偽造し,そのころ,同所において,同支店係員Bに対し,前記のとおり偽造した預金払戻請求書をあたかも真正に成立したもののように装って,前記預金通帳とともに提出行使して普通預金130万円の払戻しを請求したが,預金通帳や印鑑の事故届が出されていたため,その目的を遂げなかった。 (証拠の標目)省略(事実認定の補足説明) 1 弁護人は,判示第1の強盗致傷の犯行(以下,単に「本件犯行」という。)について,被告人の財物奪取の意思は本件暴行後に生じたもので,本件は傷害と窃盗に問擬されるべきである旨主張し,被告人も公判廷においてこれに沿った供述をするので,以下検討する。 2 まず,関係証拠によれば,以下の事実が認められる。 (1) 被告人とVとの関係等被告人は,平成13年1月初めころから競艇を始め,競艇を観戦する施設であるボートピア姫路の特別観覧室でA株式会社代表取締役であるVと知り合い,Vに対し,自分がS工業株式会社の取締役である旨虚偽の事実を告げて,交際していた。 同年6月ころ,被告人をS工業株式会社の取締役であると信じていたVは,被告人に対し,融資をして欲しい旨話を持ちかけ,被告人もこれに応じる態度を示し,この融資の話は被告人がA株式会社に株主として出資するなどといった出資の話に進展していった。 その後,被告人とVとの間でこの出資について話が進められ,本件犯行前日である同年7月5日にも,被告人はV方の2階応接間でこの件で話し合った。 (2) 被告人の経済状態等被告人は,平成12年10月末,Sを退職した際に約2000万円の退職金等を受領したが,その大 同年7月5日にも,被告人はV方の2階応接間でこの件で話し合った。 (2) 被告人の経済状態等被告人は,平成12年10月末,Sを退職した際に約2000万円の退職金等を受領したが,その大部分を,競艇等の遊興費や愛人との交際費等につぎ込んだ結果,平成13年6月初めころにはまだ1000万円以上あった所持金が,同月中ごろには1000万円を割り込み,本件犯行当日である同年7月6日ころには,200万円ほどしか残っていなかった。そのため,現実には被告人は上記(1)の出資を実行できる経済状態にはなく,むしろ,被告人は,知人から借金をし,その返済を迫られるなどしていた。 (3) 本件犯行状況等被告人は,犯行当日である同年7月6日の早朝6時30分ころ,V方に電話をした上,午前7時30分ころにはV方に赴き,V方2階応接間で,Vと面談した。被告人は,Vと,当初雑談めいた話をした後,Vから融資話がどうなったか問われ,農協の通帳に5000万円入っているなどと答えていた。同日午前9時過ぎころ,Vの会社からかかってきた電話を,被告人がVに取り次ぐなどしていたが,その直後ころ,被告人は,応接間のテーブルの上に置いてあった判示木彫りの熊の置物を手に取り,いきなりこれを振り上げ,Vの頭部付近をめがけて2回殴打した。被告人は,Vが気絶した後,Vが応接間に持参していた現金や通帳等の入ったかばんとAの株券等を持って,V方から逃走した。 なお,被告人は,V方は,平素,Vと寝たきりの妻の二人だけであること,毎日午前10時ころには,ヘルパーがV方を訪れること,Vの給料日が毎月5日であり,家族の給料を含めて100万円から120万円ほど持ち帰ることや,Vが上記かばんに現金を入れて持ち歩いていることを知っていた。 (4) 本件犯行後の状況等 こと,Vの給料日が毎月5日であり,家族の給料を含めて100万円から120万円ほど持ち帰ることや,Vが上記かばんに現金を入れて持ち歩いていることを知っていた。 (4) 本件犯行後の状況等被告人は,同日夜からサウナに宿泊し,V方から持ってきた現金約139万円余りを全額競艇等の遊興費等に費消し,所持金がわずかになると,上記かばんに入っていた通帳と印鑑を使い,判示第2の犯行に及んだ。 以上の事実が認められ,被告人もこれらの事実を争わない。 そして,以上の被告人とVとの関係,被告人の経済状態,本件犯行状況,本件犯行後の状況等を総合すると,被告人は,Vから金品を奪うことを企図して,本件犯行に及んだものと推認することができる。 3 被告人の弁解について(1) これに対して,被告人は,公判廷において,Vと話をしている間に,Vの言動にかっとなってVを殴り付け,その後に金を取ろうという気持ちになった旨弁解する。 (2) しかしながら,被告人の公判供述によっても,V方に行ってから本件犯行までの約2時間もの間,口論らしいやりとりはなかったというのであるから,被告人が,いきなりこのように激しい暴行に及ぶほど憤激する理由が見当たらず,また,Vを殴打した後,同人の出血を見て驚き,なぜかは分からないが,かばんと株券を持って逃げたと供述するなど,その供述内容は,脈絡がなく極めて不自然といわざるを得ない。被告人は,公判廷において,本件犯行に至る動機として,当初1000万円の融資話であったのが,知人の名前を出した途端に5000万円に膨れ上がったとか,Vの会社を訪問した際に別の会社の看板が掲げられており,Vが計画倒産をするのだと考えたなどと弁解するのであるが,被告人は,これらのことは,いずれも本件犯行日以前からあったというのであるから, たとか,Vの会社を訪問した際に別の会社の看板が掲げられており,Vが計画倒産をするのだと考えたなどと弁解するのであるが,被告人は,これらのことは,いずれも本件犯行日以前からあったというのであるから,被告人が本件犯行当日に突然激高する理由になるとは考え難い上,仮に被告人が公判廷で弁解するように,当初からVに対して不信感を抱いていたとすると,被告人がVとの出資話を進めていたことと整合しない。 他方,被告人は,捜査段階において,当初強盗の犯意を否認し,途中からこれを認めたものであるが,その後の被告人の捜査段階の供述は,具体的かつ詳細である上,上記の推認とも符合する極めて自然なものであって,高い信用性を認めることができる。 (3) このような諸事情に照らすと,Vを殴打した後に金を取ろうという気持ちになった旨の被告人の公判供述は,到底信用することができない。 4 結論したがって,前掲関係証拠によれば,判示第1の強盗致傷の事実は,これを優に認めることができる。 (法令の適用)被告人の判示第1の所為は刑法240条前段に,判示第2の所為のうち有印私文書偽造の点は同法159条1項に,同行使の点は同法161条1項,159条1項に,詐欺未遂の点は同法250条,246条1項にそれぞれ該当するところ,判示第2の有印私文書偽造とその行使と詐欺未遂との間には順次手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条により最も重い詐欺未遂の罪の刑(ただし,短期は偽造有印私文書行使罪の刑のそれによる。)で処断し,判示第1の罪について所定刑中有期懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第1の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重をし,その刑期の範囲内で被告人を懲役7年に処し,同法21条を適用して 選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第1の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重をし,その刑期の範囲内で被告人を懲役7年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中270日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由) 1 本件は,被告人が,競艇を通じて懇意になった中小企業経営者である被害者方の応接間で,木彫りの置物で同人を殴打して気絶させて金品を強取し,その際,同人に長期間の加療を要する傷害を負わせたという強盗致傷(判示第1)の事実,及び同人から強取した預金通帳,印鑑を用いて偽造した同人名義の預金払戻請求書を行使して,同人名義の預金を引き出そうとしたが,未遂に終わったという有印私文書偽造,同行使,詐欺未遂(判示第2)の事実からなる事案である。 2 被告人は,長年勤務した会社を退職後,競艇に熱中し,2000万円余りの退職金等の大部分を使い果たしたことから,自己の遊興費や愛人との交際費等を得るべく,本件各犯行を敢行したのであり,その犯行動機は,極めて身勝手かつ自己中心的なものであって,酌量の余地は全くない。 被告人は,判示第1の犯行で,高齢の被害者の頭部を,相当重量がある木彫りの熊の置物で2度も殴打しており,一歩間違えれば被害者を死亡させることもあり得た非常に危険なもので,暴行の態様も,悪質である。 そして,このような暴行の結果,被害者は,約96日間もの加療を必要とする重大な傷害を負い,開頭手術をも受けざるを得なくなったもので,被害者にめまいなどの後遺症が残っていること,被告人が奪った現金は139万円を超え多額であること,その他株券や預金通帳,印鑑等まで奪っている上,それらのうち大部分は犯行の発覚を恐れた被告 たもので,被害者にめまいなどの後遺症が残っていること,被告人が奪った現金は139万円を超え多額であること,その他株券や預金通帳,印鑑等まで奪っている上,それらのうち大部分は犯行の発覚を恐れた被告人が投棄するなどして,被害者に還付されていないことからも,被害は重大である。 さらに,被告人は,判示第1の犯行により被害者方から強取した預金通帳,印鑑を利用して,V名義の預金の払戻しを請求するなどしており,罪に罪を上塗りするものであって,その犯情は一層悪い。 加えて,被告人は,何らの慰謝の措置も講じておらず,当公判廷において,判示第1の犯行について,財物を強取する意思はなかったなどと不合理な弁解に終始するばかりか,あたかも被害者であるVに非があって,自分はVにだまされた被害者であると言わんばかりの供述をしていることなどからすると,被告人の反省の程には,疑問の余地がある。 これらの事情に照らすと,被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。 3 しかしながら,他方,判示第2の詐欺の犯行は幸いにして未遂に終わっていること,被告人は,本件各犯行に至るまで,相応の社会生活を送ってきたこと,被告人には前科前歴がないことなど被告人にとって有利な事情も認められる。 4 そこで,以上諸般の事情を総合して考慮すると,被告人に対しては,主文の刑を科すのが相当である。 (求刑・懲役9年)平成14年8月30日神戸地方裁判所第4刑事部裁判長裁判官笹野明義裁判官浦島高広裁判官谷口吉伸 裁判官 浦島高広 裁判官 谷口吉伸
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