平成26(行コ)51 更正すべき理由がない旨の通知処分取消請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成27年3月6日 大阪高等裁判所 租税
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判決文本文14,606 文字)

平成27年3月6日判決言渡 主文 1 本件各控訴をいずれも棄却する。 2 控訴費用は控訴人らの負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 八尾税務署長が,控訴人らに対して平成23年1月7日付けでした,平成6年 ▲月 ▲日相続開始に係る相続税の各更正の請求に対して更正をすべき理由がない旨の各通知処分を取り消す。 第2 事案の概要 1 本件は,亡A(以下「被相続人」という。)の相続に関し,相続人である控訴人ら及びBが,Bが被相続人の遺産を全部相続した上で控訴人らに対して各5000万円の代償金を支払う旨の遺産分割協議を行い,控訴人らはこれに基づいて相続税の申告をし,上記代償金各5000万円に対応する相続税を納付したところ,その後,Bが上記代償金を支払わない上,自己の相続税を滞納したため,連帯納付義務の履行を求められるに至った控訴人らが,Bとの間で上記遺産分割協議を解除した上で再度遺産分割協議を行い,その結果,控訴人らはいずれも相続財産を取得しないことになったと主張して,それぞれ相続税の更正の請求(以下「本件各更正請求」という。)をしたのに対し,八尾税務署長から,いずれも更正をすべき理由がない旨の各通知処分(以下「本件各通知処分」という。)を受けたことから,本件各通知処分の取消しを請求した事案である。 原審は,控訴人らの請求をいずれも棄却したため,これを不服とする控訴人らが控訴した。 平成26年(行コ)第51号更正すべき理由がない旨の通知処分取消請求控訴事件(原審・大阪地方裁判所平成24年(行ウ)第183号) 2 法令等の定め,前提事実,争点及びこれに関する当事者の主張は,後記3のとおり補正し, 1号更正すべき理由がない旨の通知処分取消請求控訴事件(原審・大阪地方裁判所平成24年(行ウ)第183号) 2 法令等の定め,前提事実,争点及びこれに関する当事者の主張は,後記3のとおり補正し,同4のとおり当審における補足的主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の1ないし3(原判決2頁15行目~12頁9行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。 3 原判決の補正 原判決4頁23行目冒頭から同頁25行目末尾までを次のとおり改める。 「イ被相続人には,長女である控訴人C,二女である控訴人D及び長男であるBの3人の子があり,この3人が被相続人を相続した。」 原判決5頁21行目冒頭から同頁25行目末尾までを次のとおり改める。 Bの経済状態及び相続税の納付状況等Bは,本件ゴルフセンターを運営するE株式会社及び健康ランド「F」を運営するG株式会社の2つの会社を経営しており,両社は平成6年10月3日に合併した(以下,合併後の会社を「H」という。)。Bによる相続税の納付状況等の概況,B及びHが保有していた資産並びにこれに対する差押え及び上記資産の売却の状況と売却代金の使途,その他本件に関する争いのない事実関係は,別紙1の「時系列表」記載のとおりであり(ただし,※印を付してゴチック体で記載した部分は争いがある。 なお,同表においてはBを「B」と表記する。以下,同表を「別表1」という。),Bが納付した相続税の収納済額と収納未済額の詳細な状況は,別紙2の「B相続税支払状況一覧」(以下,同表を「別表2」という。)記載のとおりであって,Bが納付した相続税の総額は2億6665万1450円である。」 原判決6頁1行目冒頭から同頁2行目末尾までを次のとおり改める。 (以下,同表を「別表2」という。)記載のとおりであって,Bが納付した相続税の総額は2億6665万1450円である。」 原判決6頁1行目冒頭から同頁2行目末尾までを次のとおり改める。 「ア平成19年1月から3月頃にかけて,大阪国税局から控訴人らに対し,Bの相続税に対する連帯納付義務に係る収納未済額等を記載した滞納処分票が送付された。同処分票において控訴人らが納付を要するとされた(1)(2)「(3)(3) 税額は,代償金5000万円から,控訴人らがそれぞれ納付済みの相続税1815万4500円と,Bが平成12年4月25日に控訴人らと連帯納付した形式で納付していた各30万円を控除した3154万5500円ずつであった(乙3の1,乙24,25)。」 原判決10頁22行目の「平成22年遺産分割」を「平成22年遺産分割協議」に改める。 原判決11頁19行目の「更正請求の」を「更正請求を」に改める。 4 当審における補足的主張 (1) 控訴人らア法定解除が許されること(争点1について)本件各代償債務は平成6年遺産分割協議の本質的部分であり,債務者であるBが本件各代償債務の支払能力を有することが平成6年遺産分割協議の大前提とされていた。このような中核的債務が履行されない場合,遺産分割そのものに重大な瑕疵があるとして遺産分割協議が否定される余地がある。本件においては,遺産分割協議が法定解除されても,影響を受ける他の共同相続人はいないから,法的安定性が問題とされる余地はない。したがって,控訴人らは,平成6年遺産分割協議をBの債務不履行を理由に解除することができるというべきである。 イ合意解除がやむを得ない事情に基づくものであること(争点1について) 控訴人ら 控訴人らは,平成6年遺産分割協議をBの債務不履行を理由に解除することができるというべきである。 イ合意解除がやむを得ない事情に基づくものであること(争点1について) 控訴人らがBに対し,本件各代償債務の支払よりもB自身の相続税の納付を優先するよう促していたことから,Bは,個人として所有していた資産及びHの資産のほぼ全てを売却し,その代金を優先権を有する抵当権者への支払と相続税の納付に充てた結果,平成19年3月頃にはHの営業活動を停止して無収入となり,本件各代償債務を履行することができなくなった。仮に,控訴人らがBから優先的に本件各代償債務の履行を受けていたとすれば,Bが納付した相続税の額は,実際に納付され(4)(5)(ア) た2億6665万1450円よりも本件各代償債務相当額である1億円分だけ少なくなっていたはずであり,その場合,控訴人らは,5000万円ずつ取得した代償金の中から3154万5500円ずつを連帯納付義務に基づき納付すれば足り,当初に控訴人らの固有財産から納付していた各1815万4500円の相続税相当額については,上記代償金から回収することができていたことになる。しかし,控訴人らがBに対して本件各代償債務の支払を猶予し,その資金でBに相続税を納付させた結果,被控訴人は,控訴人らから当初に納付を受けた合計3630万9000円のほかに,Bが代償金の支払に充てるべき資金を用いて納付した1億円をも全額回収することとなり,本来であれば連帯納付義務の上限とされるべき代償金の合計額である1億円を超えて,実質的に控訴人らの負担において相続税を回収したのである。 Bが相続税及び本件各代償債務の支払をすることができなくなったのは,税理士の過誤により,相続財産である健康ランド「F」の敷地について, 訴人らの負担において相続税を回収したのである。 Bが相続税及び本件各代償債務の支払をすることができなくなったのは,税理士の過誤により,相続財産である健康ランド「F」の敷地について,広大地としての減価をせず,実勢時価を大幅に上回った評価額に基づく相続税の申告がされ,過大な相続税を負担したことと,バブル経済の崩壊により相続財産並びにB及びHが保有していた不動産の価格が急落したことによるのであって,このことについて控訴人らには何らの落ち度もない。 控訴人らは,平成19年春頃,未納税額の通知書の送付を受けたことにより,Bが相続税を支払えない状態にあることを知り,さらに,平成20年6月頃,Bが自宅を売却して借家に転居したことを知って,Bが無資力となって本件各代償債務の支払が不可能になったことを認識した。 そのため,控訴人らは,国税庁への嘆願を経て,税理士に相談の上,本件各代償債務を免除する趣旨で平成6年遺産分割協議を合意解除し,かつ,平成22年遺産分割協議を行ったものである。 (イ)(ウ) 通則法施行令6条1項2号は,合意解除の目的についてではなく,解除がされた原因について「やむを得ない事情」が存在することを要件として,更正の請求を認める規定と解すべきであるから,連帯納付義務の追及を回避する目的で平成6年遺産分割協議を合意解除したからといって,「やむを得ない事情」の存在が否定されることにはならない。そして,債務者が資力を失って債権の回収が不可能になった場合,債権者が当該債権を放棄することにより租税負担を免れることは,税法が当然に予定するところであり,不当な租税回避行為に当たらない。平成6年遺産分割協議の合意解除と平成22年遺産分割協議がされた原因が,上記のとおりBが無資力となり,本件各代償債務の れることは,税法が当然に予定するところであり,不当な租税回避行為に当たらない。平成6年遺産分割協議の合意解除と平成22年遺産分割協議がされた原因が,上記のとおりBが無資力となり,本件各代償債務の履行が不可能となった点にあって,債務不履行解除に準ずるものであることからすれば,上記合意解除等は通則法施行令6条1項2号の要件を充足し,通則法23条2項3号の「やむを得ない理由」が存するというべきであり,本件各更正請求には理由がある。 ウ被控訴人の主張に対する反論 被控訴人は,控訴人らは平成7年7月20日頃には未納額督促状の送付により連帯納付義務について認識しており,そうでないとしても,遅くとも平成16年10月頃には徴収官とFの温泉施設内で面談することにより連帯納付義務について認識するに至った,また,Fの不動産を売却した平成17年4月頃にはBは支払不能の状態にあり,控訴人らはHの取締役の地位にあったからそのことを認識し得べき状態にあったなどと主張する。 しかし,控訴人らは,平成7年7月20日頃に未納額督促状の送付を受けたことも,平成16年10月頃に徴収官とFで面談したこともなく,これらに関して被控訴人が提出する証拠は客観的な裏付けを欠き,信用できない。また,被控訴人は,平成19年春頃までは控訴人らに対して(ア) 滞納処分票を送付することをしていないが,これは,被控訴人がその頃まではBから相続税を回収できると判断していたことを示すものにほかならないし,Bは平成17年4月当時はまだ自宅不動産等を所有していたから,この時期に確定的に支払不能になったわけではなかった。控訴人DがHの取締役となったのは,被相続人から依頼されて名義を貸しただけにすぎず,事業上の債務の名義人となったのも,被相続人の死亡による承継 ,この時期に確定的に支払不能になったわけではなかった。控訴人DがHの取締役となったのは,被相続人から依頼されて名義を貸しただけにすぎず,事業上の債務の名義人となったのも,被相続人の死亡による承継手続の一部にすぎない。したがって,控訴人らはHの経営には全く関与していない。Hは,Fを売却した後も,しばらくは委託形式で温泉施設の経営を続けていたから,控訴人らは破綻について認識し得べき状態になかった。Bが支払不能であることが確定的になったのは,自宅不動産を売却した平成20年3月頃のことであり,控訴人らがそのことを知ったのは同年6月頃である。したがって,被控訴人がその主張の前提としている事実関係は誤っている。また,控訴人らがBの破綻や連帯納付義務の存在について知った時期が,「やむを得ない事情」の存否の判断に影響するものではない。 までにBから本件各代償債務の支払を受けることができたのに,あえてその支払を受けなかったのであるから,その後代償金の支払を受けることができなくなっても,それは自らの選択の結果であり,平成6年遺産分割協議を合意解除したのは連帯納付義務を免れるためという主観的事情に基づくものにすぎないから,このような事情をやむを得ない事情ということはできないと主張する。 しかし,控訴人らが平成6年遺産分割協議を合意解除せざるを得なくなったのは,Bが平成20年3月に全ての資産を失って支払不能の状態に陥り,本件各代償債務を履行することができなくなったためであり,控訴人らの主観的事情に基づくものではない。したがって,被控訴人の(イ) 被控訴人は,上記(ア)の主張事実を前提として,控訴人らは平成19年 主張は誤りである。 被控訴人ア法定解除は許されないこと(争点1について)最高裁 人の(イ) 被控訴人は,上記(ア)の主張事実を前提として,控訴人らは平成19年 主張は誤りである。 被控訴人ア法定解除は許されないこと(争点1について)最高裁判所平成元年2月9日第一小法廷判決(民集43巻2号1頁)は,共同相続人間において遺産分割協議が成立した場合に,相続人の1人が他の相続人に対して遺産分割協議において負担した債務を履行しないときであっても,他の相続人は民法541条によってその遺産分割協議を解除することはできない旨判示しており,相続人間の利益状況に著しい不安定をもたらさない場合や,債務不履行における違反の程度が大きい場合には法定解除を認め得るなどという判示はしていない。したがって,平成6年遺産分割協議について法定解除は許されない。 イ合意解除が「やむを得ない事情」に当たらないこと(争点1について)大阪国税局長は,Bが平成7年6月30日,相続税の延納申請を取り下げたことから,控訴人らに対し,同年7月19日,通則法37条1項に基づき,連帯納付義務による収納未済額各3184万5500円について督促状を送付し(乙24,25),控訴人らは,同月20日頃には連帯納付義務を負っていることを認識した。このことは,滞納処分票の督促年月日欄に督促期日が記載されていることから明らかである。また,国税徴収官のIは,平成16年10月中旬頃,Fの温泉施設内で控訴人らと面談し,連帯納付義務について説明しているが,控訴人らはその際,連帯納付義務があることについて異論を唱えたり,督促状の送付について知らないなどと述べることはなかった。したがって,控訴人らは,平成7年7月20日頃か,遅くとも平成16年10月中旬頃には,連帯納付義務を負っていることを認識したというべきである。 本件ゴ らないなどと述べることはなかった。したがって,控訴人らは,平成7年7月20日頃か,遅くとも平成16年10月中旬頃には,連帯納付義務を負っていることを認識したというべきである。 本件ゴルフセンターは平成16年9月30日,Fの敷地は平成17年4月20日にそれぞれ売却されている。Hの平成17年12月31日現在の(2) 貸借対照表は,17億5306万円余りの債務超過であり,経常損益も3304万円余りの損失となっていたところ,主要な営業施設であった本件ゴルフセンターとFを売却した後である平成18年には,同社の損益計算書上,売上高が計上されなくなっている。したがって,Hは,上記のとおり主要な営業施設を売却したことによって累積債務を返済するための収益源を失い,Fを売却した平成17年4月には経営破綻状態にあったというべきであり,同社の代表者で他に収入源のなかったBも,同じ頃には本件各代償債務の弁済資金を捻出できない状態に陥っていたと考えられる。 控訴人Dは平成7年3月20日から,控訴人Cは平成10年10月1日から,いずれも平成17年3月31日までHの取締役の地位にあり,控訴人DはHの事業資金の借入主体となるなど,経営に関与していた(甲50の1,乙32~34)。したがって,控訴人らは,本件ゴルフセンターの売却やBの経済状態について知っていたとみることができる。 以上のとおり,控訴人らは,平成17年4月頃までには,Bの相続税について連帯納付義務を負っていること,Bの破綻により本件各代償債務の支払を受けられなくなったことをいずれも認識していた。 ウ控訴人らは,Bは平成19年頃までは経済的に破綻していなかったと主張するが,そうであるとすれば,平成16年9月30日に本件ゴルフセンターが売却されたのであるから,B ずれも認識していた。 ウ控訴人らは,Bは平成19年頃までは経済的に破綻していなかったと主張するが,そうであるとすれば,平成16年9月30日に本件ゴルフセンターが売却されたのであるから,Bに本件各代償債務の支払を請求することができたはずである。平成6年遺産分割協議が成立した当時,本件各代償債務は履行不能の状態にはなかったのであり,控訴人らがその後長年支払を請求せず,Bの破綻時期まで放置したために本件各代償債務の支払を受けることができなくなったとしても,それはBに対して本件各代償債務の履行を請求しないことを控訴人らが選択した結果なのであるから,やむを得ない事情によるものということはできず,平成6年遺産分割協議に控訴人らが拘束されることが不当な状態になったとはいえない。まして,そ のような状況下において,連帯納付義務を免れる目的で平成6年遺産分割協議を合意解除し,平成22年遺産分割協議を成立させたことが,「やむを得ない事情」によるものであったということはできない。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も,控訴人らの本訴請求はいずれも理由がないから,これらを棄却すべきであると判断する。その理由は,後記2のとおり補正し,同3のとおり当審における補足的主張に対する判断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の「第3 争点に対する判断」の1及び2(原判決12頁11行目~19頁11行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。 2 原判決の補正 原判決14頁23行目冒頭から15頁16行目末尾までを次のとおり改める。 被控訴人は,控訴人らは平成22年遺産分割協議により再分割の名の下にBに対する本件各代償債務に係る債権を放棄したにすぎないから,実質的には平成6年遺産分割協議が合意解除されたとはいえないと主張する 被控訴人は,控訴人らは平成22年遺産分割協議により再分割の名の下にBに対する本件各代償債務に係る債権を放棄したにすぎないから,実質的には平成6年遺産分割協議が合意解除されたとはいえないと主張するところ,控訴人らも,平成6年遺産分割協議を合意解除して平成22年遺産分割協議を成立させた目的が控訴人らが本件各代償債務を免除(債権を放棄)して連帯納付義務を免れる点にあったことを争わない。 しかし,平成22年当時,Bが主要な財産及び収入を失い,経済的に破綻して本件各代償債務を履行することができない状態にあったことは争いがないから,控訴人らが平成6年遺産分割協議を合意解除した上で改めて平成22年遺産分割協議を成立させる方法により,回収不能となった本件各代償債務を免除しようとしたことについて合理性を伴う理由がないわけではなく,そのような場合に遺産分割の合意解除と再分割という法形式を選択することが許されないということもできない。したがって,平成6年遺産分割協議が合意解除されたとはいえないとする被控訴(1)「(イ) 人の主張は採用できない。」 原判決15頁21行目から22行目にかけての「解すべきところ,」から17頁7行目末尾までを次のとおり改める。 「解すべきである。 前記前提事実のとおり,平成6年遺産分割協議に基づく本件各代償債務の履行期は,本件ゴルフセンターの売却時又は本件相続に係る相続税の納付時のいずれか早く到来した時とされていたところ,控訴人らが本件相続に係る相続税を納付した時期は遅くとも平成6年12月12日である(別表1)。そうすると,遅くとも同日以降,控訴人らはBに対し,本件各代償債務の支払を請求することができたのであり,Bはその翌日以降,控訴人らに対する本件各代償債務の支払を遅滞した状態にあっ である(別表1)。そうすると,遅くとも同日以降,控訴人らはBに対し,本件各代償債務の支払を請求することができたのであり,Bはその翌日以降,控訴人らに対する本件各代償債務の支払を遅滞した状態にあったということができる。 一方,Bは,別表1及び2記載のとおり,上記履行期限到来後,相続税延納申請を取り下げた上で平成7年11月9日に相続税1億円を納付しており,その後,平成8年にはほぼ毎月数百万円ずつ年間3500万円を超える額を納付し,平成13年夏頃までは毎月概ね100万円以上の相続税を納付し続けている。このことに照らせば,平成13年頃までに控訴人らがBに対して本件各代償債務の支払を請求していた場合には,何らかの方法で支払を受けることが十分に可能であったと考えられ,本件各代償債務に係る控訴人らの債権は,平成6年遺産分割協議の成立後,6ないし7年程度の間は,実質的な回収可能性及び経済的価値を有していたと考えられる。 控訴人らは,Bから代償金を回収しなかった理由について,Bの相続税の納付を優先させたためであると主張するが,仮にそうであるとしても,それは控訴人らの任意による選択の結果であり,必然的にそうせざるを得ない状況にあったなどとは認め難い。 (2)(イ) また,Bは,平成12年4月25日に納付した30万円ずつ2件の相続税について,控訴人らとそれぞれ連帯納付した形式を採っているが,その領収証書(甲7の1,2)は,住所欄にBの住所氏名を記載し,氏名欄に「連帯納税義務者」の肩書と共に控訴人らの住所氏名を記載するという簡単な形式で作成されており,このような簡易な手続により連帯納付が可能であるとすれば,控訴人らとしては,Bが納付した合計約2億6665万円の相続税のうち,少なくとも控訴人らが連帯納 記載するという簡単な形式で作成されており,このような簡易な手続により連帯納付が可能であるとすれば,控訴人らとしては,Bが納付した合計約2億6665万円の相続税のうち,少なくとも控訴人らが連帯納付義務を負っているそれぞれ約3154万円ずつの部分については,Bと協議するなどした上で,控訴人らとの連帯納付という形式で納付させておくこともさほど困難ではなかったと考えられる。 Bは,別表2のとおり,平成13年9月以降平成15年1月まで相続税の納付を全くしておらず,別表1のとおり,平成13年6月以降,B個人やH所有の不動産について差押えや参加差押えを多数受けるようになり,平成16年9月には本件ゴルフセンターを,平成17年4月にはFの敷地をそれぞれ売却してHの主要な営業設備を失い,平成19年3月にはHの本店をBの自宅に移転して営業活動を停止している。そうすると,Bは,遅くとも平成19年3月には経済的に破綻し,実質的な破産状態に陥ったと認められる。 控訴人らは,同月頃までに,大阪国税局から送付された連帯納付義務に係る収納未済額等を記載した滞納処分票を受領し,これによって連帯納付義務の存在について明確に認識するに至り,同年6月19日に大阪国税局長宛に提出した嘆願書(乙3の1)に,Bから本件各代償債務の支払を受けておらず,控訴人らには資産もないので連帯納付義務の履行は無理な状況である旨を記載している。控訴人らがこの当時,Bから本件各代償債務の支払を受けることがなお可能であると考えていたのであれば,このような嘆願書を提出することなく,Bに本(ウ) 件各代償債務の支払を求め,その上で連帯納付義務を履行していたものと考えられるから,控訴人らは,遅くとも同日までには,Bから本件各代償債務の支払を受けることがもはや不可能 なく,Bに本(ウ) 件各代償債務の支払を求め,その上で連帯納付義務を履行していたものと考えられるから,控訴人らは,遅くとも同日までには,Bから本件各代償債務の支払を受けることがもはや不可能な状況にあるとの事実を認識するに至ったと認められる。 しかるに,控訴人らは,その後約3年間,大阪国税局長宛に嘆願書を更に2通提出したほかには連帯納付義務の履行に関してこれといった動きをしておらず,本件各代償債務に係る債権の回収や法的処理に関しても,Bについて破産手続等の法的整理の申立てをするなどの措置を取ることもしないまま放置し,平成22年9月になってようやく平成6年遺産分割協議を合意解除した上で平成22年遺産分割協議を成立させ,本件各更正請求に及んでいる。 以上のように,本件各代償債務は,平成6年遺産分割協議が成立した当時はもとより,その後も6,7年間にわたり実質的な回収可能性及び財産的価値を有していたから,平成6年遺産分割協議に関し,控訴人らに,その取得した代償金債権の回収可能性や財産的価値について何らかの錯誤や誤信があったとは認められない。 その後,平成13年頃以降Bの経済状態が悪化し,平成19年3月までにはBが経済的に破綻したことに伴い,本件各代償債務は履行不能となり,経済的価値を失ったと認められるが,その大きな原因は,Bからの代償金の回収が困難な状況ではなかったにもかかわらず,控訴人らがその回収を図ろうとしないまま長年にわたって放置したことと,その間の経済事情の変動等によりB個人やHが保有する不動産の価格が下落したことにあると考えられるのであって,このような権利行使の時機に関する判断や相続財産の価格の変動に伴って生ずることのあり得る不利益は,控訴人ら自身が甘受せざるを得ないものという 不動産の価格が下落したことにあると考えられるのであって,このような権利行使の時機に関する判断や相続財産の価格の変動に伴って生ずることのあり得る不利益は,控訴人ら自身が甘受せざるを得ないものというほかはない。 (エ) さらに,控訴人らが平成6年遺産分割協議を合意解除したのは,代償金の回収不能が判明してから3年以上が経過した平成22年9月になってのことであり,解除の原因となった事情の変更(Bの支払不能)から解除までの間に長期間が経過している。この点に関し,通則法23条2項3号が,政令で定めるやむを得ない理由がある場合には,当該理由が生じた日の翌日から起算して2月以内の期間に更正の請求をすることができる旨を定めていることに照らせば,通則法施行令6条1項2号の定める「当該契約の成立後生じたやむを得ない事情によって解除され,又は取り消されたこと」にいう「やむを得ない事情によって解除され」た場合とは,解除等の原因となった事情変更の時から起算して合理的な期間内に解除等がされた場合に限られると解するのが相当であって,事情変更が生じてから数年以上といった長期間が経過した後に初めて解除等がされたような場合には,当該解除等がやむを得ない事情によってされたものであるとの評価をすることはできない。 以上の認定・説示に照らせば,控訴人らは,何らの錯誤や誤信等もなく成立した平成6年遺産分割協議により,十分な経済的価値を有する本件各代償債務に係る債権を取得したにもかかわらず,自らの任意による選択に基づき,長年にわたってその回収を図ろうとしないまま放置し,その結果,経済事情の変動等が原因で上記債権が経済的に無価値となる事態を招いた上,そのような事態が生じてから更に3年以上が経過した後,相続税の連帯納付義務を免れる目的をもっ ろうとしないまま放置し,その結果,経済事情の変動等が原因で上記債権が経済的に無価値となる事態を招いた上,そのような事態が生じてから更に3年以上が経過した後,相続税の連帯納付義務を免れる目的をもって平成6年遺産分割協議を合意解除した上で改めて平成22年遺産分割協議を成立させたものであり,このような経過の下に行われた上記解除等が「やむを得ない事情」によってされたものであるということはできないから,当該解除は,通則法施行令6条1項2号に該当せず,通則法 23条2項3号所定の更正の請求の原因とはならないというべきである。」(3) 原判決17頁8行目の「(イ)」を「(オ)」に改める。 原判決18頁4行目の「原告ら主張によれば,」から同頁5行目の「していたのであるから」までを次のとおり改める。 「別表1及び2のとおり,Bは,平成12年4月25日に控訴人らと連帯納付することを明らかにして各30万円を納付したほかは,B単独の名義でB自身の相続税を納付していたと認められるから」 3 当審における補足的主張に対する判断 法定解除が許されるとの控訴人らの主張について遺産分割協議を債務不履行を理由として解除することができないことは,前掲最高裁判所平成元年2月9日判決の判示するとおりである。 控訴人らは,中核的債務の不履行であることや影響を受ける他の共同相続人がいないことを理由に本件の場合は法定解除が許されると主張するが,そのような事情の下で法定解除が許されると解すべき根拠は見出せない。また,仮に,平成6年遺産分割協議について法定解除を認めるとした場合,Bが単独で相続したことを前提として平成6年遺産分割協議後に処分された多数の遺産について,全て法定相続分である各3分の1の割合で共同相続がされた 6年遺産分割協議について法定解除を認めるとした場合,Bが単独で相続したことを前提として平成6年遺産分割協議後に処分された多数の遺産について,全て法定相続分である各3分の1の割合で共同相続がされたことを前提とした法的処理を要する結果となりかねず,不動産の取得者等の第三者を巻き込んだ紛争が多数生ずることも想定されるが,このような事態は法の予定していないところというべきである。控訴人らは,平成6年遺産分割協議を解除した上で平成22年遺産分割協議を成立させたことを前提に,本件各代償債務がなくなったことのほかに内容的な違いは生じていないから問題はないと主張するようであるが,それは法定解除を認めた場合の結果について論ずるものではなく,合意解除と再分割の結果についての議論にほかならない。 (4)(1) したがって,法定解除が許されるとする控訴人らの主張は,採用することができない。 合意解除がやむを得ない事情に基づくものであるとの控訴人らの主張についてア控訴人らがBに対して本件各代償債務の支払を猶予していたこと,Bが約2億6665万円の相続税を納付したことは,いずれも前記認定のとおりである。しかし,控訴人らは,本件各代償債務の支払に優先してBに相続税を納付させるに当たり,控訴人らとの連帯納付の形式を採らせるなどの手続を執っていないから(控訴人らは,平成12年4月25日の各30万円の連帯納付についても控訴人らの関与を否定している。),控訴人らが本件各代償債務の支払を猶予していたことをもって,控訴人らの連帯納付義務が果たされたと評価することはできない。 控訴人らは,控訴人らがBに本件各代償債務の支払を猶予し,代償金を回収できなくなった反面,本件各代償債務相当額である1億円がBにより全額納税され,控訴人 されたと評価することはできない。 控訴人らは,控訴人らがBに本件各代償債務の支払を猶予し,代償金を回収できなくなった反面,本件各代償債務相当額である1億円がBにより全額納税され,控訴人らが固有財産から納付していた当初申告分に係る税額と併せると,被控訴人は本来の連帯納付義務の上限を超える額の相続税を回収したことになる旨主張するが,このような状況が発生することとなったのは,控訴人らが自らの任意による選択の結果,本件各代償債務の支払を長期間猶予し,それが経済的に無価値となる事態を招いたことによるものであるから,その不利益は控訴人ら自身が甘受するほかはないものというべきであって,上記主張を考慮しても先の判断は左右されない。 イ控訴人らは,本件相続に関する相続財産の評価が適正に行われていなかったことから,過大な相続税を負担したとも主張するが,仮にそのような事実があったとしても,通則法23条1項1号による更正の請求の原因となり得ることは別として,誤った財産評価をした上で本件申告をしたことについては,控訴人ら及びBが自ら不利益を被るほかはないのであって,(2) そのことを理由に平成6年遺産分割協議の合意解除がやむを得ない事情によるものであったということはできない。また,Bが経済的に破綻したことについて控訴人らに落ち度がないことは,控訴人らが主張するとおりであるが,平成6年遺産分割協議の後,本件各代償債務に係る代償金を回収することは長年にわたって可能であったにもかかわらず,履行期が到来した平成6年12月からBの破綻した平成19年3月頃までの間12年以上も代償金の回収を図ろうとしないまま放置し,大阪国税局から連帯納付義務の履行を求められた平成19年3月頃以降も更に3年以上の間事態を放置していた点について控訴人らに落ち度がな 月頃までの間12年以上も代償金の回収を図ろうとしないまま放置し,大阪国税局から連帯納付義務の履行を求められた平成19年3月頃以降も更に3年以上の間事態を放置していた点について控訴人らに落ち度がなかったとはいえない。したがって,控訴人らの上記主張を考慮に入れても,平成6年遺産分割協議の合意解除がやむを得ない事情によるものであったと認めることはできない。 ウ控訴人らが平成6年遺産分割協議を合意解除し,平成22年遺産分割協議を成立させたのは,控訴人らも自認するとおり連帯納付義務を免れること,すなわち租税回避が目的である。Bについて破産手続開始決定等の法的な整理手続が執られていたり,上記解除及び再分割協議がBの経済的破綻後遅滞なく行われていたりした場合には,債務者の破綻に伴う貸倒れの処理に類似したやむを得ない事情による解除等として,更正の請求の原因となる余地が全くないわけではないとも考えられる。しかし,本件のように,更正の請求の基礎となる事情変更(Bの経済的破綻)が発生した後,3年以上もの期間が経過した後に租税回避の目的で遺産分割協議の合意解除及び再分割を行うことを認めた場合には,更正の理由となる事実の生じた日の翌日から起算して2月以内の期間に限って更正の請求を認める通則法23条2項3号の趣旨を没却することになる上,親族間でいつでも租税回避を目的とした遺産分割協議の恣意的な合意解除と再分割を行うことを許す結果ともなりかねず,相当ではない。したがって,既に説示したとおり,解除等の原因となった事実の発生から合理的な期間を超えて長期間が 経過した後に解除等がされたような場合には,当該解除等がやむを得ない事情によってされたとはいえないと解すべきである。 以上のとおり,当審における控訴人らの補足的主張は,いずれも採用すること 経過した後に解除等がされたような場合には,当該解除等がやむを得ない事情によってされたとはいえないと解すべきである。 以上のとおり,当審における控訴人らの補足的主張は,いずれも採用することができない。 第4 結論以上によれば,控訴人らの本訴請求はいずれも理由がないからこれらを棄却すべきところ,これと同旨の原判決は相当であって,本件各控訴はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして,主文のとおり判決する。 大阪高等裁判所第13民事部 裁判長裁判官石井寛明 裁判官橋本都月 裁判官栩木純一 (3)

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