平成24(ワ)14227 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成26年5月22日 東京地方裁判所
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平成26年5月22日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成24年(ワ)第14227号損害賠償請求事件口頭弁論の終結の日平成26年3月20日判決徳島県阿南市<以下略>原告日亜化学工業株式会社同訴訟代理人弁護士古城春実牧野知彦堀籠佳典加治梓子同訴訟復代理人弁護士八木啓介同補佐人弁理士蟹田昌之大阪府守口市<以下略>被告三洋電機株式会社同訴訟代理人弁護士尾崎英男上野潤一日 野 英一郎今田 瞳鷹見雅和 主文 1 被告は,原告に対し,1億円及びこれに対する平成24年5月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 この判決は仮に執行することができる。 事実 及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,1億円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,p型窒化ガリウム系化合物半導体の製造方法に関する特許権を有していた原告が,(1)被告は,窒化ガリウム系化合物半導体レーザー素子を組み込んだ半導体レーザー製品を製造,販売して原告の特許権を侵害し,これにより損害を受けた, 半導体の製造方法に関する特許権を有していた原告が,(1)被告は,窒化ガリウム系化合物半導体レーザー素子を組み込んだ半導体レーザー製品を製造,販売して原告の特許権を侵害し,これにより損害を受けた,(2)被告は原告に無断で原告の特許権に係る発明を実施して法律上の原因なく利得し,そのために原告に損失を及ぼしたとして,不法行為による損害賠償請求権又は不当利得返還請求権に基づき,平成14年3月から平成23年12月24日までの間に原告が受けた実施料相当額の損害又は被告が受けた実施料相当額の利益12億5000万円のうちの1億円及びこれに対する不法行為の後であり,訴状送達により支払を催告した日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに各項末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 原告の特許権ア原告は,平成3年12月24日,発明の名称を「p型窒化ガリウム系化合物半導体の製造方法」とする発明について特許出願し,平成8年7月25日に特許権(特許番号第2540791号。以下「本件特許権」といい,この特許を「本件特許」という。)の設定の登録がされた。請求項の数は4である。 イ本件特許に対し特許異議の申立てがされ,これが特許庁に係属していた平成9年9月24日,原告は,特許請求の範囲の減縮又は明りょうでない記載の釈明を目的として,願書に添付した明細書の訂正を請求した(以下,この訂正を「本件訂正」という。)。本件訂正は,特許請求の範囲の請求 項1を訂正し,明細書の発明の詳細な説明の段落【0008】を訂正するという内容を含むものである。本件訂正前後の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。 (ア) 本件訂 求 項1を訂正し,明細書の発明の詳細な説明の段落【0008】を訂正するという内容を含むものである。本件訂正前後の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。 (ア) 本件訂正前の記載【請求項1】気相成長法により,p型不純物がドープされた窒化ガリウム系化合物半導体を成長させた後,400℃以上の温度でアニーリングを行うことを特徴とするp型窒化ガリウム系化合物半導体の製造方法。 (イ) 本件訂正後の記載(訂正部分に下線を付す。)【請求項1】気相成長法により,p型不純物がドープされた窒化ガリウム系化合物半導体を成長させた後,実質的に水素を含まない雰囲気中,400℃以上の温度でアニーリングを行い,上記p型不純物がドープされた窒化ガリウム系化合物半導体層から水素を出すことを特徴とするp型窒化ガリウム系化合物半導体の製造方法。 ウ特許庁は,平成10年2月18日,上記特許異議申立事件について,「訂正を認める。特許第2540791号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。」との決定をし,上記決定は,そのころ確定した。 (甲2の2・3,乙3の1ないし12)(2) 被告の行為被告は,平成23年12月24日までの間,業として,p型窒化ガリウム系化合物半導体を利用したレーザー素子を組み込んだ半導体レーザー製品(以下「被告製品」という。)を製造,販売した。 (3) 被告製品の中のp型窒化ガリウム系化合物半導体を製造する方法(以下「被告方法」という。)における本件特許に係る発明の構成要件充足性ア本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した構成要件をそれぞれの符号に従い「構成要件A」のようにいう。)。 A 気相成 の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した構成要件をそれぞれの符号に従い「構成要件A」のようにいう。)。 A 気相成長法により,p型不純物がドープされた窒化ガリウム系化合物半導体を成長させた後,B 実質的に水素を含まない雰囲気中,C 400℃以上の温度でアニーリングを行い,D 上記p型不純物がドープされた窒化ガリウム系化合物半導体層から水素を出すE ことを特徴とするp型窒化ガリウム系化合物半導体の製造方法。 イ被告方法被告方法は,MOCVDにより,Mgがドープされた窒化ガリウム系化合物半導体を成長させた後,400度以上の温度でアニーリングを行うことを特徴とするp型窒化ガリウム系化合物半導体の製造方法であり,本件発明の構成要件A,C及びEを充足する。 2 争点争点は,本件発明の構成要件B及びDに対比される被告方法の構成,被告方法における本件発明の技術的範囲の属否であり,これに関する当事者の主張は,次のとおりである。 (1) 争点(1)(本件発明の構成要件B及びDに対比される被告方法の構成)についてア原告被告方法は,アニーリングにより低抵抗なp型窒化ガリウム系化合物半導体を得ることの妨げにならない程度にしか水素を含まない雰囲気又はほぼ0%から理論的な最大値で1.3%のアンモニアを含む雰囲気中,400℃以上の温度でアニーリングを行い,これにより,Mgがドープされた窒化ガリウム系化合物半導体から水素を出すというものである。 イ被告被告方法は,1.3%のアンモニアを含む,窒素ガスとアンモニアガス の混合雰囲気中,400℃以上の温度でアニーリングを行うものであり,その際に,Mg すというものである。 イ被告被告方法は,1.3%のアンモニアを含む,窒素ガスとアンモニアガス の混合雰囲気中,400℃以上の温度でアニーリングを行うものであり,その際に,Mgがドープされた窒化ガリウム系化合物半導体から水素を出すかについては確認したことがない。 (2) 争点(2)(被告方法における本件発明の技術的範囲の属否)についてア被告方法が本件発明の構成要件B及びDを充足するか。 (ア) 原告a 本件発明の構成要件Bについて(a) 従来,窒化ガリウムにおいてp型ができなかった理由の一つは,窒化ガリウムを気相成長法で成長させる場合に,窒素の原料として用いるアンモニアが半導体層の成長中に原子状水素となって,Mgなどのp型不純物と結合して,p型不純物がアクセプターとして機能することを妨げたことにある。本件発明は,このような原理的な問題に対し,半導体層を成長させた後にアニーリングを行い,その熱によって,Mg-H,Zn-H等の形で結合している水素を解離し,当該水素がp型不純物をドープした窒化ガリウム系化合物半導体層から出て行くようにすることで,正常にp型不純物がアクセプターとして機能するようにしたものである。そして,特許出願において,「実質的に…含まない」との用語は様々な技術分野において多用されるが,その使用例からすると,作用効果を基準に,数値的には数%程度以下をもって「実質的に…含まない」ものと解釈されている。そうであるから,構成要件Bの「実質的に水素を含まない雰囲気」は,アニーリングにより低抵抗なp型窒化ガリウム系化合物半導体を得ることの妨げにならない程度にしか水素を含まない雰囲気を意味する。 (b) 被告方法のアニーリングの雰囲気は,そもそもアニーリングにより低抵抗なp型窒化ガリウ なp型窒化ガリウム系化合物半導体を得ることの妨げにならない程度にしか水素を含まない雰囲気を意味する。 (b) 被告方法のアニーリングの雰囲気は,そもそもアニーリングにより低抵抗なp型窒化ガリウム系化合物半導体を得ることの妨げに ならない程度にしか水素を含まないし,仮に理論的な最大値で1. 3%までのアンモニアを含有していても,アニーリングにより窒化ガリウム系化合物半導体がp型化しているから,アニーリングにより低抵抗なp型窒化ガリウム系化合物半導体を得ることの妨げにならない程度にしか水素を含んでいない。そうであるから,被告方法は構成要件Bを充足する。 b 本件発明の構成要件Dについて被告方法は,アニーリングを行い,Mgがドープされた窒化ガリウム系化合物半導体から水素を出すものであるから,構成要件Dを充足する。 (イ) 被告a 本件発明の構成要件Bについて(a) 「実質的に水素を含まない雰囲気」は,水素を含まない雰囲気を意味する表現であるが,雰囲気中には通常の方法で除去することができない水素が存在するので,このことを許容するために「実質的に」という文言を付したものと解される。 このことは,本件特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の実施例におけるアニーリング雰囲気が窒素雰囲気又はアルゴンと窒素の混合ガス雰囲気であり,本件明細書中にアニーリング雰囲気中に水素を含むことを許容する記載がないことからも明らかである。 しかも,原告は,特許異議申立事件において,特許庁が,異議申立人が提出した「JOURNALOFCRYSTALGROWTH,42(1977)136~143(以下「本件刊行物」という。)」には,気相成長法により,p型不純物がドー おいて,特許庁が,異議申立人が提出した「JOURNALOFCRYSTALGROWTH,42(1977)136~143(以下「本件刊行物」という。)」には,気相成長法により,p型不純物がドープされた窒化ガリウム系化合物半導体を成長させた後,400℃以上の温度 (950℃)でアニーリングを行うp型窒化ガリウム系化合物半導体の製造方法が記載され,本件訂正前の請求項1に記載された発明と本件刊行物に記載されている発明とが同一であるとして,取消理由を通知したところ,本件訂正により,本件発明が水素を含まない雰囲気中でアニーリングを行うことを示して,本件刊行物に記載されている発明と区別し,本件特許を維持したのである。 そうであるから,「実質的に水素を含まない雰囲気」は,通常の方法では除去することができない程度にしか水素を含まない雰囲気を意味する。 (b) 1.3%のアンモニアを含む雰囲気中でアニーリングを行う場合の作用効果は,窒素雰囲気中でアニーリングした場合の作用効果と異なり,10%のアンモニアを含む雰囲気中でアニーリングした場合の作用効果と同様であり,1.3%のアンモニアを含む雰囲気は,通常の方法では除去することができない程度にしか水素を含まない雰囲気であるとはいえないから,被告方法は構成要件Bを充足しない。 b 本件発明の構成要件Dについて被告方法では,Mgがドープされた窒化ガリウム系化合物半導体から水素を出すかどうかを確認していないから,構成要件Dを充足するということはできない。 イ被告方法が本件発明と均等なものであるか。 (ア) 原告仮に構成要件Bの「実質的に水素を含まない雰囲気」が通常の方法では除去することができない程度にしか水素を含まない雰囲気を意味し イ被告方法が本件発明と均等なものであるか。 (ア) 原告仮に構成要件Bの「実質的に水素を含まない雰囲気」が通常の方法では除去することができない程度にしか水素を含まない雰囲気を意味し,被告方法が構成要件Bを充足しないと認められるとしても,その差異は,被告方法が理論的最大値で1.3%のアンモニアを含む混合ガスを導入 した雰囲気である点にあるところ,①被告方法において僅かの水素源を含ませることに課題解決手段としての本質的な差異はなく,②本件発明の構成を被告方法に置き換えても,特許発明の目的を達成することができ,同一の作用効果を奏し,③被告方法実施時の技術水準において,アニーリングの雰囲気に多少の水素源を加えてもp型化の妨げにならないことは,当業者であれば容易に想到することができ,④被告方法が本件発明に対する公知技術から容易に推考できたものでなく,⑤本件発明には意識的限定などの特段の事情はない。 そうであるから,被告方法は本件発明の構成と均等なものとして本件発明の技術的範囲に属する。 (イ) 被告本件訂正によれば,「実質的に水素を含まない雰囲気中」でアニーリングを行うのであるから,アニーリングの雰囲気を通常の方法では除去することができない程度にしか水素を含まない雰囲気とすることが本件発明の本質的な部分であり,また,本件訂正は,原告が,「実質的に水素を含まない雰囲気」以外の雰囲気でアニーリングを行う第三者の行為に対し本件特許権を行使しない意思を表明したものであるから,明確な意識的限定を示す行為である。 そうであるから,被告方法は,本件発明の構成と均等なものであるということはできず,本件発明の技術的範囲に属しない。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(本件発明の構成要件B及びDに対比される被告方法 あるから,被告方法は,本件発明の構成と均等なものであるということはできず,本件発明の技術的範囲に属しない。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(本件発明の構成要件B及びDに対比される被告方法の構成)について前記前提事実に,証拠(乙7,8,17ないし19)を総合すれば,被告方法は,MOCVDにより,Mgがドープされた窒化ガリウム系化合物半導体を成長させた後,1.3%のアンモニアを含む窒素ガスとアンモニアガスの混合 雰囲気中,400度以上の温度でアニーリングを行うことが認められる。また,証拠(甲39)によれば,アンモニアの流量比が2.5%未満の雰囲気において,400℃以上でアニーリングすると,水素パッシベーション(水素結合)を発生させることなく,窒化物半導体がp型化することが認められる。 これらを総合すれば,被告方法は,1.3%のアンモニアを含む雰囲気中,400℃以上の温度でアニーリングを行い,Mgがドープされた窒化ガリウム系化合物半導体から水素を離脱させるものであることが認められる。 2 争点(2)(被告方法における本件発明の技術的範囲の属否)について(1) 被告方法が本件発明の構成要件B及びDを充足するか。 ア本件発明の構成要件Bについて(ア) 証拠(甲2の3)によれば,(a)本件発明は,紫外,青色発光レーザーダイオードや紫外,青色発光ダイオード等の発光デバイスに利用されるp型窒化ガリウム系化合物半導体の製造方法,詳しくは,気相成長法によりp型不純物をドープして形成した窒化ガリウム系化合物半導体層を低抵抗なp型にする方法に関する,(b)青色発光素子は,Ⅱ-Ⅵ族のZnSe,Ⅳ-Ⅳ族のSiC,Ⅲ-Ⅴ族のGaN等を用いて研究が進められていて,最近は,その中の窒化ガリウム系化合物半導体[GaX 層を低抵抗なp型にする方法に関する,(b)青色発光素子は,Ⅱ-Ⅵ族のZnSe,Ⅳ-Ⅳ族のSiC,Ⅲ-Ⅴ族のGaN等を用いて研究が進められていて,最近は,その中の窒化ガリウム系化合物半導体[GaXAl1-XN(ただし0≦X≦1)]が常温で比較的優れた発光を示すことが発表されて注目されているが,窒化ガリウム系化合物半導体が低抵抗なp型にできないために,ダブルヘテロ,シングルヘテロ等の数々の構造の発光素子ができず,窒化ガリウム系化合物半導体を有する青色発光デバイスは未だ実用化に至っていない,(c)高抵抗なi型を低抵抗化してp型に近づけるための手段として特開平2-257679号公報に,p型不純物としてMgをドープした高抵抗なi型窒化ガリウム化合物半導体を最上層に形成した後に,加速電圧6ないし30kVの電子線をその表面に照射して,表面から約0.5μmの層を低抵抗化する技術が開 示されているが,この方法では電子線の侵入深さ,すなわち,極表面しか低抵抗化できず,また,電子線を走査しながらウエハー全体を照射しなければならないために面内均一に低抵抗化できないという問題があった,(d)本件発明は,このような問題を解決するために,p型不純物をドープした窒化ガリウム系化合物半導体を低抵抗なp型とし,膜厚によらず抵抗値がウエハー全体に均一で,発光素子をダブルヘテロ,シングルヘテロ構造可能な構造とできるp型窒化ガリウム系化合物半導体の製造方法を提供することを目的として,特許請求の範囲の請求項1の構成を採用した,(e)本件発明のp型窒化ガリウム系化合物半導体の製造方法は,気相成長法により,p型不純物をドープした窒化ガリウム系化合物半導体層を形成した後,実質的に水素を含まない雰囲気中,400℃以上の温度でアニーリングを行い,上記p型不純物がドープされ の製造方法は,気相成長法により,p型不純物をドープした窒化ガリウム系化合物半導体層を形成した後,実質的に水素を含まない雰囲気中,400℃以上の温度でアニーリングを行い,上記p型不純物がドープされた窒化ガリウム系化合物半導体層から水素を出すことを特徴とするものであり,これにより,従来p型不純物をドープしても低抵抗なp型にならなかった窒化ガリウム系化合物を低抵抗なp型にすることができるので,数々の構造の素子を製造することができ,また,従来の電子線照射による方法では最上層の極表面しか低抵抗化することができなかったが,アニーリングによってp型不純物がドープされた窒化ガリウム系化合物半導体層全体をp型化することができるので,面内均一に,かつ,深さ方向均一にp型化することができ,しかも,どこの層にでもp型層を形成することができ,さらに,厚膜の層を形成することができるので,高輝度な青色発光素子を得ることができるという作用効果を奏する,以上の事実が認められる。 (イ) 「実質」とは,「物事の内容または本質」を意味し,「実質的」とは,「実際に内容が備わっているさま。また,外見や形式よりも内容・実質に重点をおくこと。」を意味する(広辞苑第六版)から,構成要件 Bの「実質的に水素を含まない雰囲気」との文言は,文字通り水素を全く含まない雰囲気ではなく,水素を含んでいても,その内容や本質において,水素を含まないと認められる雰囲気をいうと解される。 そして,証拠(甲2の3)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,「【0009】アニーリング(Annealing:焼きなまし)はp型不純物をドープした窒化ガリウム系化合物半導体層を形成した後,反応容器内で行ってもよいし,ウエハーを反応容器から取り出してアニーリング専用の装置を ニーリング(Annealing:焼きなまし)はp型不純物をドープした窒化ガリウム系化合物半導体層を形成した後,反応容器内で行ってもよいし,ウエハーを反応容器から取り出してアニーリング専用の装置を用いて行ってもよい。アニーリング雰囲気は真空中,N2,He,Ne,Ar等の不活性ガス,またはこれらの混合ガス雰囲気中で行い,最も好ましくは,アニーリング温度における窒化ガリウム系化合物半導体の分解圧以上で加圧した窒素雰囲気中で行う。なぜなら,窒素雰囲気として加圧することにより,アニーリング中に,窒化ガリウム系化合物半導体中のNが分解して出て行くのを防止する作用があるからである。」,「【0021】アニーリングにより低抵抗なp型窒化ガリウム系化合物半導体が得られる理由は以下のとおりであると推察される。【0022】即ち,窒化ガリウム系化合物半導体層の成長において,N源として,一般にNH3が用いられており,成長中にこのNH3が分解して原子状水素ができると考えられる。この原子状水素がアクセプター不純物としてドープされたMg,Zn等と結合することにより,Mg,Zn等のp型不純物がアクセプターとして働くのを妨げていると考えられる。このため,反応後のp型不純物をドープした窒化ガリウム系化合物半導体は高抵抗を示す。【0023】ところが,成長後アニーリングを行うことにより,Mg-H,Zn-H等の形で結合している水素が熱的に解離されて,p型不純物をドープした窒化ガリウム系化合物半導体層から出て行き,正常にp型不純物がアクセプターとして働くようになるため,低抵抗なp型窒化ガリウム系化合物半導体が得られるのである。 従って,アニーリング雰囲気中にNH3,H2等の水素原子を含むガスを使用することは好ましくない。また,キャップ層においても,水素原子を含む材 化ガリウム系化合物半導体が得られるのである。 従って,アニーリング雰囲気中にNH3,H2等の水素原子を含むガスを使用することは好ましくない。また,キャップ層においても,水素原子を含む材料を使用することは以上の理由で好ましくない。」との記載があることが認められる。これらの記載に前記(ア)認定の事実を併せ考えると,本件発明は,アニーリングという技術手段を採用して,これにより,p型不純物をドープした窒化ガリウム系化合物半導体から水素を出すという作用が生じ,p型窒化ガリウム系化合物半導体が製造されるという効果が得られるというものである。そして,この場合のアニーリング雰囲気は,真空中,N2,He,Ne,Ar等の不活性ガス又はこれらの不活性ガスの混合ガス雰囲気中で行うのが好ましく,さらに,アニーリング温度における窒化ガリウム系化合物半導体の分解圧以上で加圧した窒素雰囲気中で行うのが最も好ましいとされる。これに対し,アニーリング雰囲気中にNH3,H2等の水素原子を含むガスを使用したりキャップ層に水素原子を含む材料を使用することは,p型不純物に結合した水素原子を熱的に解離するというp型のための反応が進行せず,上記作用効果を奏しないことがあるので好ましくないとされるが,逆に,p型不純物に結合した水素原子を熱的に解離するというp型化のための反応が進行して,上記作用効果を奏することもあると考えられることから,アニーリング雰囲気中にNH3,H2等の水素原子を含むガスを使用したり,キャップ層に水素原子を含む材料を使用することが排除まではされていないということができる。 そうであれば,構成要件Bの「実質的に水素を含まない雰囲気」とは,このような作用効果を奏するような雰囲気,言い換えれば,アニーリングにより低抵抗なp型窒化ガリウム系化 うことができる。 そうであれば,構成要件Bの「実質的に水素を含まない雰囲気」とは,このような作用効果を奏するような雰囲気,言い換えれば,アニーリングにより低抵抗なp型窒化ガリウム系化合物半導体を得ることの妨げにならない程度にしか水素を含まない雰囲気を意味するものと解するのが相当である。 (ウ) 被告は,次のように主張して,構成要件Bの「実質的に水素を含まない雰囲気」が通常の方法で除去することができない程度にしか水素を含まない雰囲気を意味するとする。 a 被告は,本件明細書の実施例におけるアニーリング雰囲気は窒素雰囲気又はアルゴンと窒素との混合ガス雰囲気であり,本件明細書中にアニーリング雰囲気中に水素を含むことを許容する記載はないと主張する。 証拠(甲2の3)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,6の実施例が掲げられていて,そのうちの実施例1及び3ないし6では,窒素雰囲気中でアニーリングを行い,実施例2では窒素とアルゴンの混合ガス雰囲気中でアニーリングを行っていること(段落【0024】ないし【0041】)が認められる。しかしながら,実施例は発明の好ましい態様を開示したものであって,特許発明の技術的範囲が実施例に限定されるわけではないし,本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0023】には,アニーリング雰囲気中に水素原子を含むガスを使用することが「好ましくない」と記載されているものの,水素を含む雰囲気中でのアニーリングが排除されていないことは,前示のとおりである。 被告の上記主張は,採用することができない。 b 被告は,原告が,本件訂正により,本件発明が水素を含まない雰囲気中でアニーリングを行うことを示して,本件刊行物に記載されている発明と区別して本 の上記主張は,採用することができない。 b 被告は,原告が,本件訂正により,本件発明が水素を含まない雰囲気中でアニーリングを行うことを示して,本件刊行物に記載されている発明と区別して本件特許を維持したと主張する。 証拠(甲2の1,乙3の7ないし3の9,3の11,3の12)によれば,原告は,特許異議申立事件において,特許庁から,本件刊行物には気相成長法により,p型不純物がドープされた窒化ガリウム系化合物半導体を成長させた後,400℃以上の温度(950℃)でア ニーリングを行うp型窒化ガリウム系化合物半導体の製造方法が記載されているから,本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明と本件刊行物に記載されている発明とは同一であるとして,特許法29条1項3号の規定により特許を受けることができないとの取消しの理由の通知を受けて,本件訂正を請求し,その原因として,「実質的に水素を含まない雰囲気中,400℃以上の温度でアニーリングを行い,上記p型不純物がドープされた窒化ガリウム系化合物半導体層から水素を出す」ことは特許明細書の段落【0023】に記載されていたものであると述べ,また,併せて,本件刊行物には,950℃で,高抵抗のGaN:Zn層をNH3分圧が0.15気圧であるNH3-N2混合雰囲気下でアニールされることが記載されているところ,このような雰囲気条件はアニーリング温度で分解して原子状水素を供給するので,実質的に水素を含み,本件発明の雰囲気条件「実質的に水素を含まない」と相異するとの意見を述べたことが認められる。 上記認定の事実によれば,原告は,取消理由を解消するために,本件刊行物に記載されている発明が,実質的に水素を含む雰囲気中でアニーリングを行う発明であると評価して,実質的に水素を られる。 上記認定の事実によれば,原告は,取消理由を解消するために,本件刊行物に記載されている発明が,実質的に水素を含む雰囲気中でアニーリングを行う発明であると評価して,実質的に水素を含まない雰囲気中でアニーリングを行う本件発明と相違するとの意見を述べているのであって,原告が,「実質的に水素を含まない雰囲気」をもって,「通常の方法で除去することができない程度にしか水素を含まない雰囲気」を意味すると主張したということはできない。 被告の上記主張は,採用することができない。 (エ) 被告方法は,1.3%のアンモニアを含む雰囲気中でアニーリングを行い,これにより,p型窒化ガリウム系化合物半導体を製造するのであって,アニーリング雰囲気中の1.3%のアンモニアから生じる水素 原子は,窒化ガリウム系化合物半導体をp型化することを妨げていない。 そうであるから,被告方法は,アニーリングにより低抵抗なp型窒化ガリウム系化合物半導体を得ることの妨げにならない程度にしか水素を含まない雰囲気中でアニーリングを行うものであって,本件発明の構成要件Bを充足する。 イ本件発明の構成要件Dについて被告方法は,Mgがドープされた窒化ガリウム系化合物半導体から水素を離脱させるというものであって,Mgはp型不純物であり,窒化ガリウム系化合物半導体から水素を離脱させることは,窒化ガリウム系化合物半導体から水素を出すものであるから,被告方法は,本件発明の構成要件Dを充足する。 (2) したがって,被告方法は,本件発明の技術的範囲に属する。 3 以上によれば,被告が被告方法により製造したp型窒化ガリウム系化合物半導体を利用したレーザー素子を組み込んだ被告製品を製造,販売した行為は本件特許権を侵害し,かつ,こ の技術的範囲に属する。 3 以上によれば,被告が被告方法により製造したp型窒化ガリウム系化合物半導体を利用したレーザー素子を組み込んだ被告製品を製造,販売した行為は本件特許権を侵害し,かつ,これについて過失があったことを覆すに足りる証拠はないから,原告は,被告に対し,本件特許権の侵害により自己が受けた損害の賠償を請求することができる。 平成15年7月から平成23年12月24日までの間の被告製品の売上額が51億7487万2414円を下らないこと,本件発明の実施に対し原告が受けるべき金銭の額が被告製品の売上額の5%に相当する額であることは,当事者間に争いがなく,これらの事実によれば,本件発明の実施に対し原告が受けるべき金銭の額は,2億5874万3620円を下らない(51億7487万2414円×5%=2億5874万3620円(小数点以下切捨て))。そうすると,原告は,被告に対し,少なくとも2億5874万3620円を自己が受けた損害額としてその賠償を請求することができる。 4 以上のとおりであって,原告は,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償請 求権に基づき,2億5874万3620円のうち1億円及びこれに対する不法行為の後で訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成24年5月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。 よって,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官高野輝久 裁判官三井大有 裁判官藤田 壮 三井大有 裁判官藤田

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