平成20(ワ)3224 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成22年3月26日 名古屋地方裁判所
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判決文本文30,011 文字)

平成20年(ワ)第3224号損害賠償請求事件判決主文 原告らの請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1請求 被告は,原告X1信用金庫(以下「原告X1信金」という。)に対し,2億0002万6835円及びうち1億9790万円に対する平成21年7月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告X2信用金庫(以下「原告X2信金」という。)に対し,1億9980万9529円及びうち1億9790万円に対する平成21年7月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告株式会社X3銀行(以下「原告X3銀行」という。)に対し,9978万1909円及びうち9895万円に対する平成21年7月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,原告らが,被告がアレンジャーとなって組成したA株式会社(以下「A」という。)に対するシンジケートローン(以下「本件シンジケートローン」という。)にそれぞれ参加して貸付けを行ったところ,貸付けの実行後,Aが,商品の主要仕入先であったB株式会社(以下「B」という。)から取引を解除され,また,粉飾決算を理由として取引銀行から融資の継続を打ち切られるなどしてその経営が破綻し,Aに対する民事再生手続開始決定がなされるに至ったことについて,被告が,アレンジャーとしての地位に基づき,あるいは信義則上,参加金融機関に対して参加の是非を判断するために適正に情報を提供すべき義務を負っていたにもかかわらず,その履行を怠ったために,原告らにおいて,貸付金の使途に係るAの説明が虚偽のものであったこと,貸付けの当時Aに粉飾決算の疑惑があったことなどを知らないまま本件シンジケートローンへの参加を決定し,Aの の履行を怠ったために,原告らにおいて,貸付金の使途に係るAの説明が虚偽のものであったこと,貸付けの当時Aに粉飾決算の疑惑があったことなどを知らないまま本件シンジケートローンへの参加を決定し,Aの経営破綻により回収不能となった貸付金相当額の損害を被ったと主張して,被告に対し,債務不履行又は不法行為に基づき,損害賠償を求めた事案である。 争いのない事実等(認定事実は末尾に証拠等を掲記する。)(1) 本件シンジケートローンについてア被告は,平成19年8月ころ,Aから,同社を借入人とするシンジケートローンの組成につき委託を受け,同月下旬から同年9月上旬にかけて,原告らを含む10金融機関に対しシンジケートローンへの参加の招聘を行った。(甲5,弁論の全趣旨)被告は,上記の招聘を行う際,各金融機関に対し,Aの平成19年3月期決算書,「A株式会社タームローン(1,000,000,000円)参加ご案内資料」と題する資料(甲5。以下「本件参加案内資料」という。)及び平成19年8月30日付け「A株式会社シンジケートローン補足資料」と題する資料(甲6。以下「本件補足資料」という。)を配布した。(弁論の全趣旨)イ原告らが上記の招聘に応じたことから,次の契約当事者らは,平成19年9月26日,次の内容でシンジケートローンを行う旨の契約を締結した(本件シンジケートローン)。 (ア) 契約当事者借入人A連帯保証人C(A代表取締役)エージェント兼貸付人被告貸付人原告ら(イ) 内容貸付実行日平成19年9月28日貸付額9億円個別貸付額被告4億円原告X1信金2億円原告X2信金2億円原告X3銀行1億円ウ被告及び原告らは,本件シンジケートローンに基づき,平成19年9月28日,Aに対し,上記イ(イ)の個別貸付額記載の金員 告4億円原告X1信金2億円原告X2信金2億円原告X3銀行1億円ウ被告及び原告らは,本件シンジケートローンに基づき,平成19年9月28日,Aに対し,上記イ(イ)の個別貸付額記載の金員をそれぞれ貸し付けた(以下,各貸付金をまとめて「本件貸付金」という。)。(甲4)エ被告は,平成19年9月28日,Aから,アレンジャーフィーないしエージェントフィーとして3780万円の支払を受け,このうち,原告X1信金及び原告X2信金につき各210万円,原告X3銀行につき105万円(個別貸付額の1%及びこれに対する消費税相当額)を,本件シンジケートローンの参加手数料として,原告らそれぞれに対し支払った。(甲43,弁論の全趣旨)(2) AについてアAは,石油製品の販売等を目的とする株式会社である。 イAは,平成19年10月19日,石油の主要仕入先であるBから,同月17日をもって取引を解除する旨の通知を受けた。(甲10,弁論の全趣旨)ウAは,平成19年3月末ころに組成及び貸付実行がなされた,D銀行をエージェントとし,同行の外11金融機関を貸付人とするシンジケートローン(以下「別件シンジケートローン」という。)において総額約30億円の融資を受けていたところ,同年10月31日以降,同融資の継続を受けられなくなった。(甲2の2,9,乙6,弁論の全趣旨)エAは,平成20年3月28日,名古屋地方裁判所に対し民事再生手続開始の申立てをし,同年4月11日,民事再生手続開始決定を受けた。 (3) 被告は,平成17年2月ころからAと銀行取引を行っていた。 争点 (1) 被告がどのような法的義務を負うか。 (2) 被告に情報提供義務違反行為があったか。 (3) 損害及び因果関係 当事者の主張争点(1)(被告がどのような法的義務を負うか。)について 争点 (1) 被告がどのような法的義務を負うか。 (2) 被告に情報提供義務違反行為があったか。 (3) 損害及び因果関係 当事者の主張争点(1)(被告がどのような法的義務を負うか。)について(1)(原告らの主張)アシンジケートローンのアレンジャーは,参加金融機関の利益に配慮しながら適正なシンジケートローンの組成に努める義務(信認義務)を負い,その義務の一内容として,参加金融機関が参加の是非を判断するための情報を適正に提供すべき義務(情報提供義務)を負う。 したがって,被告は,本件シンジケートローンのアレンジャーとして,原告ら参加金融機関に対する情報提供義務を負っていた。 イシンジケートローンにおいて,参加金融機関はアレンジャーを通じて借入人との情報授受を行うしかないこと,インフォメーション・メモランダムの作成をアレンジャー自ら行っているのが通常であることなどに照らすと,下記(ア)又は(イ)のような場合には,アレンジャーは,信義則上,情報提供義務違反の責任を負うというべきである。なお,アレンジャーが信義則上の情報提供義務を負うのは,シンジケートローンにおけるアレンジャー,借入人及び参加金融機関の特殊な関係に基づくものであり,債務不履行責任と位置づけるのが相当である。 (ア) 次の①ないし③の要件に該当する情報を取得しながら,当該情報を参加金融機関に提供しなかった場合①アレンジャーが知っていながら参加金融機関に伝達していない情報が存在すること②その情報が,借入人から提供されない限り,参加金融機関が入手し得ないものであること③その情報が,参加金融機関のローン・シンジケーションへの参加の意思決定のために重大な情報であること(イ) インフォメーション・メモランダムに重大な虚偽記載がある場合において,アレンジャーがそのこと その情報が,参加金融機関のローン・シンジケーションへの参加の意思決定のために重大な情報であること(イ) インフォメーション・メモランダムに重大な虚偽記載がある場合において,アレンジャーがそのことを知りながら,当該記載を訂正させたり,あるいは虚偽であることを参加金融機関に告知するなどの適切な情報提供を怠った場合ウ上記イの場合に,信義則上の情報提供義務が契約責任(債務不履行責任)と認められないとしても,不法行為を構成するというべきである。 (被告の主張)否認ないし争う。 アアレンジャーたる地位に基づく情報提供義務(信認義務)について(ア) 原告らが主張する信認義務の内容は,極めて曖昧で漠然としており,それ自体法的概念とは認め難い。 (イ) アレンジャーは,あくまで借入人から委任を受けてローン・シンジケーション取引の組成を行うものであり,参加金融機関との間で委任関係等特段の契約関係はないから,法論理的にみて,参加金融機関に対する法的義務として信認義務を観念する余地はない。 (ウ) 欧米においては,当事者の一方が相手方の信頼を受け,その者の利益を念頭において行動,助言しなければならないという関係における忠実義務,情報提供義務という意味での信認義務が主張されているが,通常のシンジケートローンにおいては,自己責任の原則に照らし参加金融機関のアレンジャーに対する依存は認められず,一方の当事者が他方の当事者に信頼を置く関係にはないのであって,このことは本件シンジケートローンにおいても同様である。したがって,原告らと被告との間に上記のような意味での信認義務を観念することもできない。 イ信義則に基づく情報提供義務についてシンジケートローンとは,複数の金融機関が協調して同一の借入人に対し融資を行う手法の一つであり,①借入人にとっては多額の資金調達 義務を観念することもできない。 イ信義則に基づく情報提供義務についてシンジケートローンとは,複数の金融機関が協調して同一の借入人に対し融資を行う手法の一つであり,①借入人にとっては多額の資金調達が可能であること,②参加金融機関にとってはクレジットリスクを分散できること,③アレンジャーやエージェントに就任すれば手数料やコミットメントフィー収入を得られること,④参加金融機関の間で融資条件を統一して融資の透明性を確保できることなどのメリットがある手法であるが,その法的内容は,借入人と参加金融機関との間でそれぞれ別個独立に複数の金銭消費貸借契約が成立することが前提とされ,そうである以上,シンジケートローンに参加するかどうかは各金融機関が自己の責任において判断するのが当然であるし,仮に,借入人の開示情報や融資条件に満足できないのであれば,アレンジャーを通じて,借入人に対して追加の情報開示や融資条件の変更を働きかけ,それでも満足しなければ参加しないことを決定できるという,最終的なリスク回避の選択肢が存在する。 シンジケートローンへの招聘を受けるのは融資の専門家である金融機関であるから,自己責任の原則がより一層強く働くべきであり,事業者と一般消費者ないし一般公衆との間で認められるような信義則上の説明義務ないし情報提供義務を,安易にアレンジャーに課すべきでない。 (2) 争点(2)(被告に情報提供義務違反行為があったか。)について(原告らの主張)被告の情報提供義務違反行為として,以下のとおり,Aの粉飾決算に関する情報提供を怠った行為と,本件貸付金の使途を偽った行為があった。 ア粉飾決算に関する情報提供を怠った行為その1被告は,Aが,原因関係の存しない株式会社E(以下「E」という。)からの受取手形を割引に回して資金繰りに利用していることや,決算書 偽った行為があった。 ア粉飾決算に関する情報提供を怠った行為その1被告は,Aが,原因関係の存しない株式会社E(以下「E」という。)からの受取手形を割引に回して資金繰りに利用していることや,決算書中Eからの受取手形部分を粉飾していることを知っていたにもかかわらず,本件シンジケートローン招聘時,これらの情報を原告らに提供しなかった。 上記情報は,原告らが独自に入手し得ない情報であるが,Aの倒産リスクを示す重要な事実であって,参加金融機関の意思決定のために重大な情報といえ,上記情報が事前に提供されていれば,原告らは本件シンジケートローンに参加しなかった。 被告は,上記情報の重大性を十分に認識していたはずであるが,仮に何らかの事情によりその重大性を確定的に認識していなかったとしても,原因関係の存しない融通手形の存在や粉飾決算の存在が財務状況の悪化を裏付ける事実に他ならないことに照らせば,被告の担当者らにおいて上記情報が重大な情報であることは容易に認識し得ることであって,被告には,上記情報を原告らに提供しなかったことにつき重大な過失がある。 したがって,被告が本件シンジケートローン招聘時に上記情報を原告らに提供しなかったことは,アレンジャーである被告の情報提供義務違反に当たる。 イ粉飾決算に関する情報提供を怠った行為その2被告は,AのメインバンクであるD銀行が,Aに対し,同社の平成19年3月期決算書に記載されたEの受取手形が融通手形である疑いがあり,また同決算書に粉飾がある疑いがある旨指摘し,D銀行の要請によりAが専門家による財務調査を行うこととなった旨の情報を,平成19年9月21日に得ながら,本件シンジケートローンの貸付実行前に,この情報を原告らに提供しなかった。 上記情報は,原告らが独自に入手し得ない情報である。そして,融通手形及び粉 った旨の情報を,平成19年9月21日に得ながら,本件シンジケートローンの貸付実行前に,この情報を原告らに提供しなかった。 上記情報は,原告らが独自に入手し得ない情報である。そして,融通手形及び粉飾決算の存在がそれ自体重要な情報であることに加え,メインバンクが粉飾決算を疑う前提としては何らかの具体的根拠を入手していると考えるのが自然であること,メインバンクの要請で専門家による財務調査が行われることが,粉飾決算を疑う具体的根拠が存在する蓋然性をさらに高める事実であり,財務調査により疑いが晴れなければ融資打切りという意味で経営破綻に直結し得る事態であることなどに照らせば,上記情報は,参加金融機関の意思決定のために重大な情報といえ,これらの情報が事前に提供されていれば,原告らは本件シンジケートローンに参加しなかった。 被告は,上記情報の重大性を十分に認識していたはずであるが,仮に何らかの事情によりその重大性(粉飾の規模等)を誤信し,その重大性を確定的に認識していなかったとしても,被告の担当者らにおいて上記情報が重大な情報であることは容易に認識し得ることであって,被告には,これらの情報を原告らに提供しなかったことにつき重大な過失がある。 したがって,被告が本件シンジケートローンの貸付実行前に上記情報を原告らに提供しなかったことは,アレンジャーである被告の情報提供義務違反に当たる。 ウ粉飾決算に関する情報提供を怠った行為その3被告の主張を前提としても,被告の担当者であるFが,平成19年9月5日又は同月21日のいずれかにおいて,Aが,メインバンクであるD銀行から,Aの平成19年3月期決算書に記載されたEの受取手形が融通手形である疑いがあり,また同決算書に粉飾がある疑いがある旨の指摘を受けている旨の情報を,Aの代表取締役であるCを通じて得たことは 銀行から,Aの平成19年3月期決算書に記載されたEの受取手形が融通手形である疑いがあり,また同決算書に粉飾がある疑いがある旨の指摘を受けている旨の情報を,Aの代表取締役であるCを通じて得たことは明らかである。 上記情報のみに着目しても,それは原告らが独自に入手し得ない情報であり,参加金融機関の意思決定のために重大な情報といえ,その情報が事前に提供されていれば,原告らは本件シンジケートローンに参加しなかった。 Fは,上記情報の重大性を十分に認識していたはずであるが,仮に何らかの事情によりその重大性(粉飾の規模等)について誤信し,その重大性を確定的に認識していなかったとしても,上記情報が重大な情報であることは金融実務に携わる者にとって常識であり,担当者において容易に認識し得ることであって,被告には,上記情報を原告らに提供しなかったことにつき重大な過失がある。 したがって,被告が本件シンジケートローンの貸付実行前に上記情報を原告らに提供しなかったことは,アレンジャーである被告の情報提供義務違反に当たる。 エ本件貸付金の使途を偽った行為被告は,被告のA及びその関連会社である株式会社G(以下「G」という。)に対する既存貸付金(平成18年10月にAに対して貸し付けた当座貸越1億円及び同時期にGに対して貸し付けた当座貸越2億円)が,AのBに対する前渡金制度・CODを利用した仕入資金とは関係なく,A及びGそれぞれの運転資金に利用されている事実を知りながら,本件補足資料(甲6)に本件貸付金全額が前渡金制度・COD利用資金に充てられる前提の記載をした上,本件シンジケートローンへの招聘時に,原告らに対し,本件補足資料を配付し,本件貸付金の使途がすべてBに対する前渡金である旨,及び,被告が既に前渡金制度の利用のために3億円を貸し付けており,本件貸付 本件シンジケートローンへの招聘時に,原告らに対し,本件補足資料を配付し,本件貸付金の使途がすべてBに対する前渡金である旨,及び,被告が既に前渡金制度の利用のために3億円を貸し付けており,本件貸付金の一部をその既存貸付金の回収に充てる旨の虚偽の説明をした。 既存貸付金の使途がAのBに対する前渡金制度・COD利用資金でなかったこと,既存貸付金のうち2億円がGに対する貸付金であったことは,原告らが独自に入手することは困難な情報であった。そして,資金使途は融資判断における重要な判断要素であり,特に転貸資金(AがGに対し,同社の被告に対する借入金債務の返済資金を貸し付けるという意味での転貸資金)の貸付けは異例なものであるから,転貸資金であるか否かは参加の意思決定に当たり重要な判断要素となるものであって,上記情報が事前に提供されていれば,原告らは本件シンジケートローンに参加しなかった。 被告は,上記既存貸付金の回収についてあえて正確な説明をしないことにより原告らを誤信させたのであるが,仮に意図的に虚偽の説明をしたとまではいえないとしても,本件補足資料の記載及び招聘時の不正確な説明内容によって,原告らの担当者に誤信を生じさせたのは疑いのない事実であって,被告において本件補足資料に資金使途を明確に記載し,又は招聘時に正確な説明をすることによってかかる誤信を容易に防ぐことができたことに照らすと,被告には,上記情報を原告らに提供しなかったことにつき重大な過失がある。 したがって,被告が本件シンジケートローン招聘時に上記情報を原告らに提供しなかったことは,アレンジャーである被告の情報提供義務違反に当たる。 (被告の主張)否認ないし争う。 ア粉飾決算に関する情報提供を怠った行為その1について融通手形であるかどうかを決算書から判断することは不可能であり, ジャーである被告の情報提供義務違反に当たる。 (被告の主張)否認ないし争う。 ア粉飾決算に関する情報提供を怠った行為その1について融通手形であるかどうかを決算書から判断することは不可能であり,被告は,Eの受取手形の支払サイトが6か月と長いことから決済懸念を有していたものの,融通手形であるとの認識はなかった。 イ粉飾決算に関する情報提供を怠った行為その2についてCが,平成19年9月21日,Fに対し,D銀行から平成19年3月期決算書に疑義を出された旨を告げた事実は存しない。 また,Cが,平成19年9月21日,Fに対し,同月10日付け「貸付人各位」で始まる書面(甲8。以下「本件書面」という。)を示した事実も存しない。 ウ粉飾決算に関する情報提供を怠った行為その3についてFは,平成19年9月5日,Cから,「D銀行から,Eの受取手形が融通手形ではないか,決算をごまかしているんじゃないかと言われた。」旨を告げられたが,これだけでは,調査を必要としないほど客観性があり,容易に重大であることが判断し得る情報とはいえず,提供義務の対象となる情報ではない。 エ本件貸付金の使途を偽った行為について(ア) 被告は,Aの平成19年3月期決算書の「仮払金(前渡金)の内訳書」欄に「Bに対する前渡金3億円」と記載されていたこと,Cが示した「前渡し金(COD)支払いによる利益効果」と題する書面(乙4)の記載内容及び前渡金制度の内容に関するCの説明,D銀行が作成した平成19年3月付「A株式会社シンジケートローンご検討資料」と題する資料(乙6)の記載内容等から,AとBとの取引において前渡金制度が存在していると認識したものであり,これは正当な認識である。 (イ) 被告は,原告らを本件シンジケートローンへ招聘する際,本件貸付金がすべて前渡金に充てられる旨の説明は Bとの取引において前渡金制度が存在していると認識したものであり,これは正当な認識である。 (イ) 被告は,原告らを本件シンジケートローンへ招聘する際,本件貸付金がすべて前渡金に充てられる旨の説明はしていないし,被告は,原告らの担当者に対し,Aに対する1億円の当座貸越及びGに対する2億円の当座貸越を閉鎖し,被告が純増1億円で本件シンジケートローンに参加することとなる旨を説明している。 (3) 争点(3)(損害及び因果関係)(原告らの主張)ア原告らには,本件シンジケートローンの各貸付金額から参加手数料を差し引いた金額に相当する損害が,貸付実行時(平成19年9月28日)に生じたものであるところ,参加手数料は,原告X1信金及び原告X2信金につき各210万円,原告X3銀行につき105万円であるから,原告らの損害額は,原告X1信金及び原告X2信金につき各1億9790万円,原告X3銀行につき9895万円である。 他方で,原告らは,本件シンジケートローンに関し,Aから,平成20年4月14日,利息金の支払として,原告X1信金及び原告X2信金につき各50万円,原告X3銀行につき25万円を受領し,また,平成21年7月22日,民事再生手続第1回配当金として,原告X1信金につき1536万6144円,原告X2信金につき1508万3450円,原告X3銀行につき791万4584円を受領した。原告らは,Aに対し,不法行為に基づき上記各損害及び損害発生日である平成19年9月28日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の請求権を有するところ,上記の各支払額を遅延損害金,損害元金の順に充当すると次のとおりとなる。 そして,原告らの被告に対する損害賠償請求権はAに対する上記請求権と連帯する関係にあるから,原告らの被告に対する損害賠償請求権の金額も次の額まで減額して ,損害元金の順に充当すると次のとおりとなる。 そして,原告らの被告に対する損害賠償請求権はAに対する上記請求権と連帯する関係にあるから,原告らの被告に対する損害賠償請求権の金額も次の額まで減額している。 (ア) 原告X1信金損害元金1億9790万円確定遅延損害金212万6835円その余の遅延損害金上記損害元金に対する平成21年7月23日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金(イ) 原告X2信金損害元金1億9790万円確定遅延損害金190万9529円その余の遅延損害金上記損害元金に対する平成21年7月23日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金(ウ) 原告X3銀行損害元金9895万円確定遅延損害金83万1909円その余の遅延損害金上記損害元金に対する平成21年7月23日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金イまた,被告の情報提供義務違反がなければ原告らが本件シンジケートローンに参加しなかったことは前記(2)(原告らの主張)のとおりであり,いずれの義務違反も,上記損害との因果関係を有する。 (被告の主張)否認ないし争う。 第3当裁判所の判断 前記争いのない事実等のほか,証拠(以下の各項末尾に掲記する。)及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。 (1) 被告は,平成19年2月26日ころ,D銀行から平成19年3月末に組成予定のAに対するシンジケートローン(別件シンジケートローン)への参加の招聘を受けたが,これに参加せず,相対融資又は被告をアレンジャー兼エージェントとするシンジケートローンに取り組むこととした。(弁論の全趣旨)(2) Aは,平成19年5月24日,同年3月期の決算書を確定させ,同年5月31日,これを確定申告書とともに半田税務署に提出した。(甲27の3)(3) 被 ンに取り組むこととした。(弁論の全趣旨)(2) Aは,平成19年5月24日,同年3月期の決算書を確定させ,同年5月31日,これを確定申告書とともに半田税務署に提出した。(甲27の3)(3) 被告は,Aの依頼を受け,平成19年6月ころから,同年9月末ころを貸付実行時期とするAに対するシンジケートローンの組成の準備を開始した。 被告は,平成19年8月29日,Aから正式にアレンジャーとなるよう依頼を受けて本件シンジケートローンのアレンジャーとなり,同日ころから同年9月上旬にかけて,原告らを含む10金融機関に対し本件シンジケートローンへの参加の招聘を行った。原告X1信金及び原告X3銀行は同年8月30日に,原告X2信金は同月31日に,それぞれ被告から招聘を受けた。 (弁論の全趣旨)(4) 被告は,原告らに対する招聘を行った際,原告らに対し,それぞれ,Aの平成19年3月期決算書,本件参加案内資料(甲5)及び本件補足資料(甲6)を配布するとともに,口頭で,①本件シンジケートローンにおける貸付金の使途がBに対する前渡金であり,AがBとの間で前渡金を利用して月額15億円規模の仕入取引を行う場合,Aに月額1800万円,年間2億1600万円の収益メリットがあること,及び,②本件シンジケートローンにおける被告の貸付金額(参加額)を4億円とするが,被告は既にAグループに対して合計3億円の当座貸越枠を設定しており,これらの当座貸越枠による貸付金3億円について,本件シンジケートローンの貸付金の一部を返済に充てて当座貸越枠を閉鎖する予定であることを説明した。(甲6,43・2頁,乙23,証人F,弁論の全趣旨)(5) 被告L支店の行員として本件シンジケートローンを担当していたFは,平成19年9月5日,本件シンジケートローンのエージェント口座作成手続のため,Aを訪問 2頁,乙23,証人F,弁論の全趣旨)(5) 被告L支店の行員として本件シンジケートローンを担当していたFは,平成19年9月5日,本件シンジケートローンのエージェント口座作成手続のため,Aを訪問し,Cと面談した。(乙23,証人F,弁論の全趣旨)(6)ア原告X1信金は,前記(4)の決算書等を分析し,これらについて不明な点を問い合わせるため,Aに対する質問事項を記載した書面を被告に送付し,平成19年9月10日,被告から回答を受けた。原告X1信金は,同月20日,本部稟議を経て,本件シンジケートローンに2億円で参加することを決定した。(甲7,31,弁論の全趣旨[枝番のある書証は特記しない限りすべての枝番を含む。以下同じ。])イ原告X2信金は,前記(4)の決算書等を分析した上,平成19年9月21日,本部稟議を経て,本件シンジケートローンに2億円で参加することを決定した。(甲36,弁論の全趣旨)ウ原告X3銀行は,前記(4)の決算書等を分析し,これらについて不明な点を問い合わせるため,Aに対する質問事項を記載した書面を被告に送付し,平成19年9月7日ないし同月10日ころ,被告から回答を受けた。 原告X3銀行は,同月18日,本部稟議を経て,本件シンジケートローンに1億円で参加することを決定した。(甲19,39[補足資料2],46,証人H,弁論の全趣旨)(7) Fは,平成19年9月21日午前10時15分ころ,本件シンジケートローンの契約書一式への調印手続のため,Aの社長室を訪れた。 原告X3銀行の担当者であったHら2名は,遅くとも同日午前10時45分ころまでに,Cの連帯保証意思を確認するため,Aの社長室を訪れた。その際,Fは社長室の応接セットのソファーに座り書類の確認作業をしていたが,Cの指示で社長机に移動し,Hらは,応接セットのソファーに座 ころまでに,Cの連帯保証意思を確認するため,Aの社長室を訪れた。その際,Fは社長室の応接セットのソファーに座り書類の確認作業をしていたが,Cの指示で社長机に移動し,Hらは,応接セットのソファーに座り,20分から30分程度Cと面談し,下記の原告X1信金の担当者らが社長室に到着するのと近接した時点で社長室を退室した。その間,Fは社長机に座ったままであり,席を立つことがなかった。 原告X1信金の担当者であったIら2名は,遅くとも同日午前11時20分ころまでに,Cの連帯保証意思の確認,普通預金口座の作成及び出資加入手続のため,Aの社長室を訪れ,Cと面談した。Fは,Iらの訪問から10分経たないうちに,社長室を退室し,帰社した。(甲44,46,50,乙23,証人H,証人I,証人F)(8) 原告X2信金の担当者であったJら2名は,平成19年9月26日,Cの連帯保証意思の確認及びAの出資加入手続のため,Aを訪問し,Cと面談した。(甲45,証人J)(9) Cは,平成19年8月28日ないし同月29日ころ,D銀行から,D銀行に開設されたAの口座に入る売掛金の入金額がAの提出した資料の金額と合わず,平成19年3月期の決算書において不適切な処理がなされている疑いがある旨の指摘を受けた。D銀行は,Cに対し,決算書に関して専門家による財務調査を行う必要があるとして,財務調査を行わなければ平成19年9月末以降の別件シンジケートローンの継続ができない旨を告げてこれを行うよう要請し,Cはこれを承諾した。 Cは,平成19年9月10日付けで本件書面(甲8)を作成し,これを別件シンジケートローンの各貸付人に対し送付した。本件書面には,Aの平成19年3月期決算書において一部不適切な処理が記載されている可能性があるため,K株式会社(以下「K」という。)に決算書の精査を依頼する ンジケートローンの各貸付人に対し送付した。本件書面には,Aの平成19年3月期決算書において一部不適切な処理が記載されている可能性があるため,K株式会社(以下「K」という。)に決算書の精査を依頼する予定である旨が記載されている。(甲8,47,証人C)(10) Kは,平成19年9月20日から同年10月29日にかけてAの財務調査を行った。その結果,実在しない売掛金や前渡金が計上されていることをはじめとする種々の要因により,平成19年3月期決算書の数値(純資産の金額に影響を与えるもの)が実態数値よりも約40億円上回っており,Aが粉飾決算をしていたことが明らかとなった。 同決算書には,平成19年3月末現在,合計8億7985万1866円の前渡金が存するとしてその内訳の記載があるが,財務調査の結果,これらの前渡金のうち約7億0300万円については実在しないことが確認され,同決算書において3億円存在するとされたBに対する前渡金も存在しなかった。 Aは,同財務調査の費用2000万円を自社で負担し,これをKに対し支払った。(甲2の3,24,27の3,弁論の全趣旨)(11) Aは,少なくとも平成17年3月期以降,継続的に粉飾決算を行っていた。(乙19の2)(12) 本件貸付金9億円のうち,①3780万円は,平成19年9月28日,被告のアレンジャーフィーないしエージェントフィー(ただし,前記争いのない事実等記載の原告らの参加手数料を含む。)としてAから被告に対し支払われ,②2億円は,同日,Gの口座に入金され,その後,Gから被告への借入金(当座貸越)返済に充てられ,③1億円は,同日,Aから被告に対し借入金(当座貸越)返済として支払われ,④5億5000万円は,同日,AからBに対して支払われ,Bに対する買掛金債務の弁済に充てられた。 上記④の5億5000万円は, ③1億円は,同日,Aから被告に対し借入金(当座貸越)返済として支払われ,④5億5000万円は,同日,AからBに対して支払われ,Bに対する買掛金債務の弁済に充てられた。 上記④の5億5000万円は,Aが遅くとも平成19年9月20日までに仕入れた石油の代金債務(買掛金債務)の弁済に充てられたものであり,仕入前の石油の代金として支払われたものではなかった。(甲43,47,証人C,弁論の全趣旨) 争点(1)(被告がどのような法的義務を負うか。)及び争点(2)(被告に情報提供義務違反行為があったか。)について(1)アシンジケートローンは,複数の金融機関(貸付人)が協調して同一の借入人に対して融資を行う手法の一つであり,一般に,各貸付人間で融資条件の統一が図られ,融資の実行から回収に至るまで貸付人側の協調的な行動が予定されているが,各貸付人が直接の契約当事者となって借入人との間で金銭消費貸借契約を締結し,融資に係る権利義務も借入人と各貸付人との間で個別に発生するものとして構成される。本件シンジケートローンにおいても,「個別貸付」を「本契約に基づき貸付人毎に実行される金銭消費貸借取引」と定義した上(甲3・1条15号),各貸付人は,実行日に借入人に対し個別貸付を実行する義務を負うものとし(甲3・2条2項,1条7号),また,本件シンジケートローンに基づく貸付人の権利及び義務が個別かつ独立のものである旨を規定することによって(甲3・2条1項,3項),かかる趣旨が明らかにされている。 アレンジャーは,シンジケートローンの組成段階において,借入人との間で主要な融資条件を協議した上,借入人からその融資条件に従ってシンジケートローンに参加する金融機関を勧誘することの授権を得て,金融機関に対する招聘を行う主体であるが,借入人との間で委任契約ないし準委任契 な融資条件を協議した上,借入人からその融資条件に従ってシンジケートローンに参加する金融機関を勧誘することの授権を得て,金融機関に対する招聘を行う主体であるが,借入人との間で委任契約ないし準委任契約を締結しているものと解され(なお,アレンジャーは,シンジケートローン組成の対価として借入人からアレンジャーフィーの支払を受けることとなる。),招聘の相手方となる各金融機関との間に契約関係は存しない。この点は,本件シンジケートローンにおける被告についても同様といえる。そして,アレンジャーは,借入人から提供を受けた情報に基づき,融資条件,借入人についての基本的な情報,財務状況等を記載した書面(いわゆるインフォメーション・メモランダム)を作成し,これを招聘先の金融機関に対して配布することがあるが,同書面には,①アレンジャーは単に借入人から提供された情報を借入人の依頼によりそのまま紹介しているにすぎないこと,②アレンジャーが同書面中の情報の真正さを検証しているわけではなく,参加金融機関が独自に情報の真正さを検証する義務を負っていること,③同書面作成後の事情の変化等についてアレンジャーが追加の情報提供義務を負わないことなどを内容とする免責条項が置かれるのが通常であり,被告が配布した本件参加案内資料についても,留意事項として,被告が本件参加案内資料に含まれる情報の正確性・真実性について一切の責任を負うものではないこと,本件参加案内資料が招聘先の金融機関において参加を検討するために必要な情報をすべて包含しているわけでなく,招聘先の金融機関において,独自にAの信用力その他の審査を行う必要があることなどが記載されていることが認められる(甲5)。 このような借入人,アレンジャー及び貸付人間の関係に照らせば,被告は,そもそもシンジケートローンに参加する金融機関 用力その他の審査を行う必要があることなどが記載されていることが認められる(甲5)。 このような借入人,アレンジャー及び貸付人間の関係に照らせば,被告は,そもそもシンジケートローンに参加する金融機関の利益の確保に努める主体ではない上,招聘を受けた金融機関である原告らは,自己の権限と責任において融資の可否を判断すべきものであり,融資の可否の判断に関し被告に一方的に依存する関係にはないから,本件シンジケートローンにおいて,原告らが主張するような一般的・抽象的な信認義務をアレンジャーたる被告に課すべき法的根拠はないというべきである。信認義務違反ないしアレンジャーたる地位に基づく情報提供義務違反をいう原告らの主張は,採用することができない。 イもっとも,シンジケートローンへの参加を検討する金融機関は,適正な情報に基づき参加の可否の意思決定をする法的利益を有するというべきであり,具体的事情の下でアレンジャーが故意・過失によりかかる法的利益を侵害したといえる場合には不法行為責任を負うことがあると考えられる。 本件は,アレンジャーが特定の情報を提供しなかった不作為が問題とされている事案であって,そのような不作為が違法と評価されるためには,アレンジャーが信義則上参加金融機関に対して当該情報を提供すべき義務を負い,これに違反したことが必要であるというべきところ,信義則の適用に当たっては,当該情報の内容,性質,アレンジャーが当該情報を入手した経緯等の諸般の事情に照らし,当該情報を提供しないことが取引通念上容認し得ないといえるか否かという観点から判断するのが相当である。 そして,特定の情報(とりわけ借入人の信用力を否定する情報(いわゆるネガティブ情報))を提供しないことが取引通念上容認し得ないというためには,少なくとも,①当該情報が,招聘を受けた金融機関の ある。 そして,特定の情報(とりわけ借入人の信用力を否定する情報(いわゆるネガティブ情報))を提供しないことが取引通念上容認し得ないというためには,少なくとも,①当該情報が,招聘を受けた金融機関の参加の可否の意思決定に影響を及ぼす重大な情報であり,かつ正確性・真実性のある情報であること,②アレンジャーにおいて,そのような性質の情報であることについて,特段の調査を要することなく容易に判断し得ることを要するというべきである。けだし,金融機関は,顧客との取引内容に関する情報や顧客との取引に関して得た顧客の信用に関わる情報等の顧客情報につき,商慣習上又は契約上,当該顧客との関係において守秘義務を負い,その顧客情報をみだりに外部に漏らすことは許されないと解されるが(最高裁平成19年12月11日第三小法廷決定・民集61巻9号3364頁参照),アレンジャーは,上記のような取引関係上の一般的な守秘義務に加え,シンジケートローンの組成に係る借入人との間の契約(委任契約ないし準委任契約)上も,借入人に対する関係において守秘義務を負い,借入人が開示に同意しない情報を正当な理由なく第三者に開示することは許されないと解され,借入人の信用に関わる重大なネガティブ情報であっても,それが正確性・真実性のある情報であることをアレンジャーにおいて確認できない段階で外部に漏らせば,正当な理由のない開示行為として守秘義務違反となるおそれがあり,加えて,前示の借入人,アレンジャー及び貸付人間の関係に照らせば,アレンジャーが借入人に関して入手した情報が,招聘を受けた金融機関の参加の可否の意思決定に影響を及ぼす重大な情報であり,かつ正確性・真実性のある情報であることについて,アレンジャーにおいて独自に調査して明らかにする負担を課すのは相当でないからである。 なお,原告らは信 可否の意思決定に影響を及ぼす重大な情報であり,かつ正確性・真実性のある情報であることについて,アレンジャーにおいて独自に調査して明らかにする負担を課すのは相当でないからである。 なお,原告らは信義則上の情報提供義務違反を債務不履行責任と位置づけるべき旨主張するが,原告らと被告との間に契約関係がないことは前示のとおりであって,契約上の義務ないしその付随義務を観念する余地がないことからして,債務不履行責任が生ずる旨の主張は採用できない。 そこで,原告らの主張に照らし,被告が不法行為責任を負う否かを以下検討する。 (2) 粉飾決算に関する情報提供を怠った行為その1(前記第2の3(2)(原告らの主張)ア)についてア前記争いのない事実,前記認定事実に加え,証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。 (ア) Eは,愛知県春日井市においてガソリンスタンドを経営する株式会社であり,Aから石油を仕入れていたものであるが,Aは,Eから,納入済みの石油の代金のほか,いまだ納入していない石油の代金を含める形で,将来における売掛金債務の決済の趣旨でEが振り出した約束手形を預かるようになった。Aは,Eから預かった約束手形を,取引先への支払に充てたり手形割引に回すなどして,Aの資金繰りに利用していた。 (甲28,29,48,証人C・15頁,16頁)(イ) 被告L支店は,平成19年2月ころ,Aから,満期日が振出日から約1年後のEの約束手形の割引依頼を受けたが,帝国データバンクの資料からEの信用力に懸念があったこと,当該約束手形の支払サイトが長かったことなどを考慮し,その割引依頼を断った。その際,被告L支店の行員は,Cに対しEの約束手形の内容について問い質し,Cから,Eから前渡金に代わる前渡手形を預かっているものである旨の説明を受けた。(甲26・9頁 考慮し,その割引依頼を断った。その際,被告L支店の行員は,Cに対しEの約束手形の内容について問い質し,Cから,Eから前渡金に代わる前渡手形を預かっているものである旨の説明を受けた。(甲26・9頁,証人M・5頁,6頁)(ウ) Aの平成19年3月期決算書中「受取手形の内訳書」欄には,Eを振出人とする7通の受取手形の記載があるが,その額面はいずれも2250万円であり,振出日から支払期日までの期間はいずれも3か月ないし3か月半程度であり,7通のうち支払期日の最も遅い手形の支払期日は平成19年6月30日である。(甲27の3)(エ) Kによる財務調査の結果,Aの平成19年3月期決算書におけるEの受取手形の記載金額につき,約2億7800万円分の計上漏れがあったことが判明した。(甲2の3)イまた,前記1の認定事実によれば,被告は,Aに対する相対融資又はシンジケートローンに取り組む必要から,Aが平成19年3月期の決算書を確定させた平成19年5月24日に近接した時期に,同決算書を入手し,その内容を確認したことが推認できる。 ウ原告らは,前記ア(ア)ないし(ウ)の事実をもって,①被告が,平成19年2月ころ,AがE振出に係る原因関係たる売買代金債権が発生していない手形を割引に回して資金繰りに利用している事実を認識していたものであり,②<ア>被告が,平成19年5月末ころ,平成19年3月期決算書の内容を確認した時点で,決算書に記載されていないE振出に係る受取手形が存在することを知ったものであり,<イ>仮にその時点で認識しなかったとしても,本件補足資料にEの受取手形の金額に関する記載があることから(甲6・6頁),本件補足資料を作成した時点で決算書の記載を確認し,決算書に記載されていないE振出に係る受取手形が存在することを知ったものである旨主張する。 し 手形の金額に関する記載があることから(甲6・6頁),本件補足資料を作成した時点で決算書の記載を確認し,決算書に記載されていないE振出に係る受取手形が存在することを知ったものである旨主張する。 しかしながら,上記①の点については,被告が割引依頼を受けた当該手形に振出しの時点で原因関係たる売買が成立していない部分が含まれるとしても,AとEとの間で継続的な取引関係が存する以上,将来における石油の納入及びそれによる売掛金債務の発生が見込まれることは明らかであって,直ちに融通手形と評すべきものとはいえず,本件シンジケートローンとの関係で参加金融機関の参加の可否の意思決定に影響を及ぼす重大な情報とまではいえない。仮にこれが融通手形と評すべきものであり,Aの資金繰りの困窮の兆候を示すものであったとしても,現実に資金繰りに困窮しているか否かは財務調査をしないと正確な状況が確認できない性質のものであること,被告はAの平成19年3月末の財務状況が示された決算書を確認しており,同決算書上,資金繰りの困窮の兆候を示すものであったとは認められないこと,被告は同決算書に過大な粉飾があるとは認識していなかったこと,上記①の事実は被告が本件シンジケートローンとは関係のない取引において知り得た情報であることなどに照らせば,被告が上記①の事実を原告らに提供しなかったことが取引通念上容認し得ないものとは到底いえないというべきである。 また,上記②の点についても,被告L支店がAから割引依頼を受けた時点とAの平成19年3月期決算書の締日(同月末日)が異なることからすれば,同決算書中「受取手形の内訳書」欄に記載のEの受取手形7通のうち支払期日の最も遅い手形の支払期日が平成19年6月30日であることをもって,直ちに同決算書に計上漏れがあるかどうかを判断し得るものでなく,前記 中「受取手形の内訳書」欄に記載のEの受取手形7通のうち支払期日の最も遅い手形の支払期日が平成19年6月30日であることをもって,直ちに同決算書に計上漏れがあるかどうかを判断し得るものでなく,前記ア(エ)のとおり,Kによる財務調査によってはじめて計上漏れが明らかになったものであり,被告が本件シンジケートローンの貸付実行前に計上漏れの事実を知っていたとは認められない。このことに加え,仮に計上漏れがあったとしても,それが意図的なものかどうかは不明であること,被告がたまたまAから満期日が振出日から約1年後のEの約束手形の割引依頼を受けたことがあったからといって,計上漏れの可能性について疑義を抱いた上,独自に調査する義務を負うものでもないことからすると,被告がAの平成19年3月期決算書に記載されていないE振出に係る受取手形が存在するとの情報を原告らに提供しなかったことが取引通念上容認し得ないものとは到底いえないというべきである。 したがって,上記①及び②のいずれの事実についても,被告が原告らに対し信義則上提供する義務を負っていたものとはいえず,この点に関する情報提供義務違反をいう原告らの主張には理由がない。 (3) 粉飾決算に関する情報提供を怠った行為その2(前記第2の3(2)(原告らの主張)イ)についてア原告らは,Cが平成19年9月21日にAを訪問したFに対し本件書面(甲8)を見せており,これをもって,被告が,D銀行がAに対し,同社の平成19年3月期決算書に記載されたEの受取手形が融通手形である疑いがあり,また同決算書に粉飾がある疑いがある旨指摘し,D銀行の要請によりAが専門家による財務調査を行うこととなった旨の情報を入手した旨主張し,これに沿う証拠として証人Cの証言及び会話録音におけるMの供述(甲21,乙12)を指摘する。 イ証人C し,D銀行の要請によりAが専門家による財務調査を行うこととなった旨の情報を入手した旨主張し,これに沿う証拠として証人Cの証言及び会話録音におけるMの供述(甲21,乙12)を指摘する。 イ証人Cの証言について(ア) しかるに,前記認定事実のとおり,平成19年9月21日は,本件シンジケートローンの契約書一式への調印手続が行われた日であるところ,本件書面の内容は,平成19年3月期決算書に粉飾処理がなされている可能性を示す重要なものであるから,仮にFがこれを見せられていたのであれば,Fは,本件書面のコピーを持ち帰って上司に報告・相談し,指示を仰ぐはずであるのに,そのような行動を取っておらず,Mに報告をした事実もない(証人M・9頁,10頁)。なお,本件全証拠によっても,Fが本件書面の交付を受けながら上司に一切報告しない理由となる事情は何らうかがわれず,Fが本件書面の交付を受けながらMに報告しなかったとはおよそ考えることができない。 (イ) また,仮に,Cが本件書面が重大な情報を含むものであり,これを被告及び本件シンジケートローンの招聘先の金融機関に対しても示さなければならないと認識していたのであれば,Cが本件書面を作成し,これを別件シンジケートローンの各貸付人に対し送付したのが平成19年9月10日ころであるのに,本件シンジケートローンの契約書一式への調印日である平成19年9月21日まで被告に示さなかったというのも不自然である。この点につき,Cは,本件シンジケートローンの契約書一式への調印日である平成19年9月21日になって被告に本件書面を示した理由として,D銀行から指摘があったからには,金融機関に示さなければならず,被告に黙って本件シンジケートローンを進めてはいけないと思った旨供述するが(証人C・10頁,37頁),同日まで被告に示さな 理由として,D銀行から指摘があったからには,金融機関に示さなければならず,被告に黙って本件シンジケートローンを進めてはいけないと思った旨供述するが(証人C・10頁,37頁),同日まで被告に示さなかった点についての合理的な理由の説明はない。 (ウ) 仮に,Cが,本件書面が重大な情報を含むものであり,これを被告及び本件シンジケートローンの招聘先の金融機関に対しても示さなければならないと認識していたのであれば,契約書一式への調印日である平成19年9月21日において,被告のFに対して本件書面を示しながら,同日来訪した原告X3銀行及び原告X1信金の担当者らに対して本件書面を示していないというのも不自然である。Cは,原告X3銀行及び原告X1信金の担当者らに対して本件書面を示さなかった理由として,Cは原告X3銀行及び原告X1信金と直接関わる立場になく,窓口となるのは被告であり,後は被告がやるべきことであった旨供述するが(証人C・27頁,29頁,30頁,44頁),そうであれば,原告らへの説明のために本件書面を被告に交付してしかるべきところ,MがFから本件書面の内容等につき報告を受けた事実がないこと(証人M・9頁,10頁),Mが平成19年11月1日になってCからファックス送信を受ける方法により本件書面を入手していること(乙26,証人M・10頁),Fが本件書面の交付を受けながら上司に一切報告しない理由となる事情は何らうかがわれないことからして,Cが平成19年9月21日にFに本件書面を交付した事実は認められず,Cの上記説明は不合理というほかない。 (エ) さらに,証拠によれば,Cは,平成19年12月19日に開催されたAの第1回債権者説明会において,「デューデリをしていることは,○○さん(被告)に報告されたのですか。」との質問に対し,「記憶が定かでなく に,証拠によれば,Cは,平成19年12月19日に開催されたAの第1回債権者説明会において,「デューデリをしていることは,○○さん(被告)に報告されたのですか。」との質問に対し,「記憶が定かでなく,分かりません。」と回答していること(乙15・2頁),Aは,平成19年12月19日に開催されたAの第1回債権者説明会において,代理人であるN弁護士が作成した書面をもって,「○○(被告)のシンジケートの組成から融資までの間,○○(被告)と社長とどのようなやりとりがあったのか」との質問に対し,「○○(被告)のシンジケートの組成から融資までの間に,D銀行から,決算書の内容についての疑義(株式会社Eからの受取手形の真偽)につき指摘があり,専門家による調査の要請を受けたので,平成19年9月10日ころ,Cにおいて,その旨の概略を○○(被告)ご担当者に対し口頭にてご説明申し上げたところ,○○(被告)ご担当者から,調査の結果の予測につき質問を受け,『大したことにはならないでしょう。』と回答したところ,予定どおり融資が実行されたものであります。」と回答したこと(乙16[乙16の2・3頁ほか]),Cは,Aの代理人であるN弁護士外3名が原告らから平成20年3月26日付けで照会を受けたのに対し,同弁護士が平成20年5月19日付けで回答をするに当たって,同弁護士から事情の調査を受け,その際,同弁護士に対し,「平成19年9月22日ころ,Aの本社事務所において,Fに対し,本件書面を示して,『D銀行から平成19年3月期の決算書につき疑義がある旨の指摘を受けたので,本件書面を作成し同銀行に提出した』旨を報告した」旨の事実があったと説明したこと(甲17,18[第8項ほか])が認められる。これらのAないしCの回答ないし説明をみるに,当初は記憶が定かでないと述べているにもかか し同銀行に提出した』旨を報告した」旨の事実があったと説明したこと(甲17,18[第8項ほか])が認められる。これらのAないしCの回答ないし説明をみるに,当初は記憶が定かでないと述べているにもかかわらず,時を経るごとに被告担当者とのやりとりの内容が詳細になっているばかりでなく,被告に伝えたとする時期及び本件書面の呈示の有無の点につき内容が食い違っており,Cが,巨額の粉飾決算をしていたこと及びKによる財務調査が進行中であったことを秘したまま本件シンジケートローンの貸付実行を受けたことに対する自己への責任追及を免れるために自己に有利な事実を作出したことが強くうかがわれる。 ウMの供述(甲21,乙12)について(ア) 証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。 aCは,平成19年11月6日午後1時13分ころ,Mに電話を架け,Mとの会話を録音した。その会話において,Cが,CがFに本件書面を示した事実が存することを確認しようとしたのに対し,Mは,CとFとのやりとりを確認しておらず,被告の方で確認する趣旨の発言をした。(甲20,乙11の1)bMは,平成19年11月7日午前11時28分ころ,Cを訪問し,Cは,その際,Mとの会話を録音した。Mの訪問の目的は,被告の本部審査課長,主任調査役及びL支店長が同月5日にAの代理人であるO弁護士の事務所を訪問した際,同弁護士から,被告がAの財務内容に疑義があることを知りながら本件シンジケートローンを組成したのではないかとの指摘を受けたことから,そのような事実がないことをCと直接面談して確認し,Cの言質を取るためであった。(甲21,乙12,13,24,証人M)cMは,同日の会話において,本件書面に関し,「まあ一応この文書を見る限り,当然,一部不適切な処理という表現がありますけど,当然こ 言質を取るためであった。(甲21,乙12,13,24,証人M)cMは,同日の会話において,本件書面に関し,「まあ一応この文書を見る限り,当然,一部不適切な処理という表現がありますけど,当然この時点では,今もそうですけど,うちが御社の財務内容について何か疑問を持つとか,そういったことは当然,今でもないわけですから,これを見せていただいた上で,D銀行が何か動かしたことがあるんだなあと,そうとしか当然思いません。」,「うちのほうとしては,これを見せていただいたことと,その社長がD銀行へ行かれてやめた方がいいということとは別にですね,うちはその,シンジケートローンの組成をしたわけですから,その時点で何か重大な疑義があって,実際とはだいぶ違うんだよということを知っていたか知らないかという,それだけだもんですから,それを知っていたのに招聘なんかしてたらとんでもない話なので。だから,その時点では,これを見せていただいただけで社長からもそんなお話はないですから,それでそういったこととは知らなかったというね。」,「これを見せてもらった上でこういうことをD銀行が言われて,調査しているんだということは,ええ,お聞きしていると思います。」などと発言した。(甲21,乙12・1頁,2頁)(イ) 上記(ア)cの発言は,Fが本件書面を呈示されたことを認める趣旨とも受け取れる。しかしながら,Mはその一方で,「だからそれがその,まあ一部Eとかね,そういうことだろうという当然うちも予測をした上でのことですから,それは別にいいですが。実際のそのー,これの背景にあるのは,財務内容の過大な何か疑義をうちが知っていたとか,社長がうちに言ったとか言わないか,それは言ってみえないことで,であればそれでいいですけど。」,「うちも,例えば仮にこれを見せていただいた席で社長が 財務内容の過大な何か疑義をうちが知っていたとか,社長がうちに言ったとか言わないか,それは言ってみえないことで,であればそれでいいですけど。」,「うちも,例えば仮にこれを見せていただいた席で社長が財務内容についても疑義があるんだよということをもし言われればですね,それはうちだってそんなことであれば,当然,シンジケートローンの組成についても中断しますし,さらにうちの融資についても保全を図らなきゃいけないということになりますから。そうじゃない,そんなんじゃないわけだから。」とも発言している(甲21,乙12・2頁,3頁)。これらの発言をみると,Mは,本件書面に記載の「一部不適切な処理」がEのことを指すものであり,財務内容に対する疑義とは別の問題であって,特に重要にならないと考えていたことがうかがわれるのであって,このことに,Mが同日午後1時16分ころO弁護士に対して送信したメールにおいて,「C社長から,『一部不適切な処理』とは,以前に当行からも指摘した販売先Eの件であるが,これは金額的にも甚大な影響を及ぼすものでなく軽微なものと回答された。」と記載していること(乙13),及び証拠(証人M・21頁,22頁,46頁)を総合すると,Mは,Cと面談した際,上記のように考えていたことが認められる。 (ウ) さらに,Mが,本件書面に記載の「一部不適切な処理」がEのことを指すものであり,特に重要にならないと考えていたことからすると,上記(ア)aの事実によっても,Mが,平成19年11月7日のCとの面談までの間にFに対してCから本件書面を呈示された事実があったかどうかを確認したとの事実は推認できない。加えて,Mが同日午後1時16分ころO弁護士に対して送信したメールにおいて,「当行としては,書面を開示頂いたかどうかは別として(担当者の記憶が曖昧)」と記載 うかを確認したとの事実は推認できない。加えて,Mが同日午後1時16分ころO弁護士に対して送信したメールにおいて,「当行としては,書面を開示頂いたかどうかは別として(担当者の記憶が曖昧)」と記載していること(乙13)に照らすと,仮に上記面談までの間にFに対する確認を行っていたとしても,Mとしては,事の真偽の判断がつきかね,いずれにせよ,上記面談の際,本件書面を呈示された事実があったと断定できる立場になかったといえる。 エ上記イ及びウの事情を総合すれば,本件シンジケートローンの契約書一式への調印日にAを訪問したFに対し本件書面を見せた旨をいう証人Cの証言はたやすく採用できず,証拠(甲21,乙12)によっても,そのような事実があったとは認められない。そして,他にこれを認めるに足りる証拠はない。 したがって,この点に関する原告らの上記主張は,前提を欠き,採用することができない。 (4) 粉飾決算に関する情報提供を怠った行為その3(前記第2の3(2)(原告らの主張)ウ)についてア証拠(甲11,25,26・2頁~4頁,乙23,証人F)及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。 (ア) Fは,平成19年9月5日,本件シンジケートローンのエージェント口座作成手続のためにAを訪問し,Cと面談した際,Cから唐突に話しかけられ,次の会話をした。 ①C「D銀行が茶々を入れてきている。」②F「うちで,シ・ローンをやることを言ったんですか。」③C「そりゃ,言うわ。今回のシンジケートローンの組成は止めるように言われた。」④F「どうしてですか。」⑤C「受取手形のEに関して,融手ではないかと言ってきている。しかも,決算をごまかしているとも言っている。」⑥F「粉飾決算なんですか。」⑦C「そんなもんあるわけないだろう。」⑧F「それでは,Eの件はどう 取手形のEに関して,融手ではないかと言ってきている。しかも,決算をごまかしているとも言っている。」⑥F「粉飾決算なんですか。」⑦C「そんなもんあるわけないだろう。」⑧F「それでは,Eの件はどうですか。」⑨C「何にも問題ないに決まっている。」⑩F「御社に対しては,招聘行も含め,各行独自で財務分析及び審査を行っています。もし,社長が言われるとおり,問題ないのであれば,それでいいじゃないですか。」⑪C「それもそうやなぁ。一体,D銀行は何を考えているのかなぁ。」(イ) Fは,被告L支店に帰ってから,次長であるMのほか,支店長及び融資担当支店長代理のいる前で,上記の会話内容を報告した。また,Fは,平成19年9月5日の夜又は同月6日の夜にL支店において受けた電話で,Cから,「D銀行が受取手形には問題ないとして,上席と担当者が二人で訪問し,謝罪して帰っていった」旨の連絡を受け,その電話の内容についても,M及び支店長に報告した。 (ウ) 被告L支店としては,<ア>被告において,Aが地元○○の優良企業であり,C自身も○○の名士であると認識していたことから,Cを信用しており,粉飾決算をするとは考えられなかったこと,<イ>被告が,別件シンジケートローンへの参加招聘を断りながら,独自に本件シンジケートローンの組成を進めていたことから,別件シンジケートローンのエージェントであるD銀行側から妨害されることが考えられたこと,<ウ>仮にEの受取手形が融通手形であったり,Aが決算をごまかしているとすれば,本件シンジケートローンのアレンジャーである被告の担当者に,その組成が中止になりかねないことを言うわけがないと考えられたこと,<エ>被告は当時,本部においてAの財務内容の審査を行っていたが,本部からL支店に対し,Eの受取手形が融通手形であったり,Aが決算をご 組成が中止になりかねないことを言うわけがないと考えられたこと,<エ>被告は当時,本部においてAの財務内容の審査を行っていたが,本部からL支店に対し,Eの受取手形が融通手形であったり,Aが決算をごまかしていると疑われる旨の指摘は一切なかったことなどから,Cの発言のとおり,D銀行が茶々を入れてきている,すなわち,D銀行が被告によるシンジケートローンの組成を妨害しようとしているにすぎないものと判断した。その結果,上記(ア)及び(イ)のCとのやりとりが被告のL支店から本部に対し連絡されることがないまま,本件シンジケートローンの貸付実行に至った。 イ原告らは,上記ア(ア)及び(イ)の事実をもって,Aが,D銀行から,Aの平成19年3月期決算書に記載されたEの受取手形が融通手形である疑いがあり,また同決算書に粉飾がある疑いがある旨の指摘を受けている旨の情報を得た旨主張する。 しかしながら,Cは,Eの受取手形が融通手形であること,Aが粉飾決算をしていることをいずれも否定し,D銀行が何を考えているかわからないとの発言をしていることからすると,被告L支店において,D銀行がCに対し,Aの平成19年3月期決算書に記載されたEの受取手形が融通手形である疑いがあり,また同決算書に粉飾がある疑いがある旨の指摘をしたことについて,被告によるシンジケートローンの組成を妨害するために嫌がらせで言っているにすぎないものであり,取り立てて調査をしなければならないような重要な情報ではないと判断したことにも無理からぬ事情があったというべきであるし,また,被告において,そうした指摘の信憑性を明らかにしようとして,D銀行に対して上記事実の有無を問い合わせたとしても,D銀行がAに対する関係において守秘義務を負っていることからして有益な回答が得られる見込みはなかったと推認され,被 信憑性を明らかにしようとして,D銀行に対して上記事実の有無を問い合わせたとしても,D銀行がAに対する関係において守秘義務を負っていることからして有益な回答が得られる見込みはなかったと推認され,被告としては,上記のD銀行からの指摘の信憑性についてそれ以上の調査・確認をすることは困難であったというほかない。 そして,上記ア(ア)及び(イ)の事実のみでは,D銀行がいかなる根拠に基づきAの決算書のどの点にどのような粉飾の疑いがあるという指摘をしたのかが全く不明であり,それが果たして信憑性ある指摘なのかも不明であったことからすれば,被告において,本件シンジケートローンへの参加の可否の意思決定に影響を及ぼす重大な情報であると直ちに判断し得るようなものではなかったというべきであって,被告L支店の判断により,決算書に異常がないかの点を含め,Aの信用力については各金融機関が自らの責任で行う信用調査や審査等に基づいて自主的に判断すべき事柄であるという前提で招聘先の金融機関に格別の情報提供をしなかったとしても,信義則上,非難されるべき落ち度とまではいえない。 そうすると,Aが,D銀行から,Aの平成19年3月期決算書に記載されたEの受取手形が融通手形である疑いがあり,また同決算書に粉飾がある疑いがある旨の指摘を受けている旨の情報は,それが招聘を受けた金融機関の参加の可否の意思決定に影響を及ぼす重大な情報であり,かつ正確性・真実性のある情報であることについて,被告において特段の調査を要することなく容易に判断し得るものではなかったといえ,かかる情報について,被告が原告らに対し信義則上提供する義務を負っていたとまではいえないというべきである。 したがって,この点に関する情報提供義務違反をいう原告らの主張には理由がない。 (5) 本件貸付金の使途を偽った行為(前 告らに対し信義則上提供する義務を負っていたとまではいえないというべきである。 したがって,この点に関する情報提供義務違反をいう原告らの主張には理由がない。 (5) 本件貸付金の使途を偽った行為(前記第2の3(2)(原告らの主張)エ)についてア原告らは,被告が原告に対し,被告のA及びGに対する既存貸付金が,AのBに対する前渡金制度・CODを利用した仕入資金に充てられているものでなく,また,既存貸付金のうち2億円がAでなくGに対する貸付金であった旨の情報を提供しなかったことが,被告の情報提供義務違反に当たる旨主張するので,以下検討する。 イ前記争いのない事実,前記認定事実に加え,証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。 (ア) Aの平成19年3月期決算書には,同月末の時点でBに対する前渡金が3億円存在する趣旨が記載されている。(甲27の3)(イ) Fは,平成19年8月21日,被告L支店において,支店長であるQ,次長であるM及びP銀行の担当者とともに,Aへの融資取組のため,Cと面談した。Cは,その際,A作成に係る「前渡し金(COD)支払いによる利益効果」と題する書面(乙4)を示し,Aが石油を仕入れる際に利用している前渡金制度の存在及び内容について説明した。同書面には,「前渡し金」による揮発油の仕入単価と「サイト30日」によるそれとが記載され,両者を比較した場合のメリットが具体的数値をもって示されるとともに,「石油元売会社及び商社,Bについても,過去数年間の前渡し金とサイト30日の仕入れ格差を試算調査した数値です」と記載されている。(乙4,23,証人F)(ウ) Fは,本件補足資料(甲6)を作成した際,D銀行が別件シンジケートローンに関して作成した平成19年3月付け「A株式会社シンジケートローンご検討資料」と題する資料 る。(乙4,23,証人F)(ウ) Fは,本件補足資料(甲6)を作成した際,D銀行が別件シンジケートローンに関して作成した平成19年3月付け「A株式会社シンジケートローンご検討資料」と題する資料(乙6)を参考にしたところ,同資料には,Aが,平成18年9月ころから,Bとの間で,軽油以外の石油製品について,支払と同時に決済する現金払いの割合を6分の4にすることなどを内容とする支払条件の変更を行い,これによって増加運転資金が発生するが,仕入価格のディスカウントメリットを享受している旨の説明が記載されている。(甲6,乙6,弁論の全趣旨)(エ) Cは,平成21年9月25日の本件口頭弁論期日においても,要旨次のとおり証言している。すなわち,平成19年8月ころにおいても,本件補足資料中の「A前渡金明細」と題する表(甲6・3枚目。なお,Aの平成19年3月期決算書の記載を引用して作成されたものと推認される。)に記載の前渡金が存在し,同表記載の金額がおおむね毎月の前渡金の金額であること,Aは,本件シンジケートローンの組成段階において,その貸付金をBに対する前渡金として使用する予定であったこと,本件貸付金のうち,AがBに対して支払った5億5000万円には,前渡金として支払われた部分もあったことを証言している。(甲6,証人C・1頁,3頁,4頁,21頁,22頁)ウ上記イの事情に照らすと,被告が,本件シンジケートローンの貸付実行前において,本件貸付金がBに対する前渡金に充てられるものでないこと,被告のA及びGに対する既存貸付金が,AのBに対する前渡金に充てられているものでないことを認識していなかったことは明らかである。そして,Aの仕入資金が,仕入前や通常の支払サイトよりも前にBに対して支払われているか否かは,請求書,納品書,振込明細その他の資料に基づき ているものでないことを認識していなかったことは明らかである。そして,Aの仕入資金が,仕入前や通常の支払サイトよりも前にBに対して支払われているか否かは,請求書,納品書,振込明細その他の資料に基づき,仕入によって生じたAのBに対する買掛金債務の状況とAのBに対する代金支払の状況とを照らし合わせてはじめて把握し得るものであり,実際に,被告がAの経営破綻後にこれを調査したことによって明らかとなったものであること(甲43)を併せ考えると,被告において,被告のA及びGに対する既存貸付金がAのBに対する前渡金に充てられていなかったことなどを特段の調査を要することなく容易に判断し得たものとは到底認めることができず,これらの点について,被告が原告らに対し信義則上提供する義務を負っていたとはいえないというべきである。 エまた,原告らは,既存貸付金のうち2億円がAでなくGに対する貸付金であった旨の情報を提供しなかったことを問題としている。 しかしながら,前記認定のとおり,被告は,Aグループに対する合計3億円の当座貸越枠による貸付金3億円について,本件シンジケートローンの貸付金の一部を返済に充てて当座貸越枠を閉鎖する予定であることを口頭で説明しており,これによって,Aの関連会社に対する貸付金も含めて回収する予定であることを伝えているところ,関連会社に対する貸付金額の内訳及びその資金使途が仮に本件シンジケートローンへの参加の可否の判断に重要というのであれば,原告らにおいて,その点を被告に問い合わせて開示を受ければ足りることであるのに,本件全証拠によっても,原告らがその点を被告に問い合わせた事実は認められない。また,本件シンジケートローンに関する原告らの稟議書には,いずれも,被告が個別貸付額4億円のうち3億円を既存貸付金の回収に充てることの記載すらなく(甲 がその点を被告に問い合わせた事実は認められない。また,本件シンジケートローンに関する原告らの稟議書には,いずれも,被告が個別貸付額4億円のうち3億円を既存貸付金の回収に充てることの記載すらなく(甲30ないし39),原告らが被告の既存貸付金の内容,内訳等について特段重視していなかったことがうかがわれる。これらの事情に照らすと,既存貸付金のうち2億円がAでなくGに対する貸付金であった旨の情報は,そもそも,原告らにとって,本件シンジケートローンへの参加の可否の意思決定に影響を及ぼす重大な情報であったといえるか疑問であり,仮に被告が既存貸付金3億円の貸付先及び貸付金額の内訳を具体的に提供していなかったとしても,これを提供しないことが取引通念上容認し得ないものということはできず,この点について,被告が原告らに対し信義則上提供する義務を負っていたものとはいえない。 オしたがって,原告らの上記主張には理由がない。 結論 以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,原告らの請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第7部裁判長裁判官田近年則裁判官畑佳秀裁判官細井直彰

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