平成11(ワ)4664 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成15年9月25日 名古屋地方裁判所
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判決文本文38,528 文字)

主文 1 被告は,原告に対し,440万円及びこれに対する平成9年11月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを18分し,その17を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,原告に対し,9819万9236円及びこれに対する平成9年11月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 仮執行宣言第2 事案の概要本件は,原告が,自宅で転倒した際に左前腕をガラスで負傷したため,平成9年11月27日に被告の開設する済衆館病院(以下「被告病院」という。)に救急搬送され,引き続き1か月余りの入院治療を受けた後,名古屋掖済会病院(以下「掖済会病院」という。)に転医して神経縫合術,腱移行術等を受けたものの,十分な回復が得られず,左手の5手指及び左手関節の著しい機能障害等の後遺障害が残存したのは,被告病院の担当医師らが阻血解消措置を採るべき注意義務又は同年11月28日までに整形外科を受診させるべき注意義務等を怠ったためであると主張して,被告に対し,不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償として,9819万9236円及びこれに対する平成9年11月30日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 1 前提となる事実当事者間に争いのない事実のほか,摘示した各証拠及び弁論の全趣旨によると以下のとおり認めることができる。 (1) 平成9年11月27日(以下,平成9年については月日のみ記載する。),原告は,自宅で転倒した際に左腕をガラス戸に突っ込み,割れたガラス片で左前腕に創傷を負い,相当量の出血があったため, 。 (1) 平成9年11月27日(以下,平成9年については月日のみ記載する。),原告は,自宅で転倒した際に左腕をガラス戸に突っ込み,割れたガラス片で左前腕に創傷を負い,相当量の出血があったため,同日午後9時30分ころ,被告病院に救急車で搬送された(甲7号証,乙1号証)。 同日の当直医であった被告病院の常勤外科医のA医師は救急外来で原告を診察し,4か所の切創のうち2か所を縫合するなどの処置を行った。原告の出血量は合計500ないし600ミリリットル程度と推定され,血圧低下が認められ,創も深部にまで及んでいたことから,A医師は経過観察のために原告を入院させることとし,翌28日午前1時ころ,原告は被告病院の外科に入院した。 (2) 11月28日,A医師,被告の代表者であり,かつ被告病院の常勤外科医であるB医師及びC医師がそれぞれ原告を診察した。原告には,疼痛,腫脹等の症状が継続しており,レントゲン検査の結果,左前腕にガラス片が残存していることが判明したため,筋肉内異物摘出手術によりガラス片が摘出されたが,疼痛,腫脹等の症状は直ちには軽快しなかった。 (3) 12月2日及び同月9日,原告は,被告病院の非常勤整形外科医であるD医師の診察を受け,同月10日,D医師の紹介状を持参して掖済会病院の整形外科を受診し,E医師の診察を受けたところ,左前腕挫創,化膿創並びに屈筋腱,伸筋腱,尺骨神経及び正中神経の各損傷と診断されたが,その後,平成10年1月6日まで引き続き被告病院において入院治療を受けた。 (4) 平成10年1月6日,原告は被告病院を退院し,同月13日,掖済会病院の整形外科主任部長であり手の外科の専門医であるF医師の診察を受け,フォルクマン拘縮,正中神経及び尺骨神経の各断裂並びに屈筋腱及び伸筋腱の各断裂と診断された(乙5号証,証人F)。同日, ,掖済会病院の整形外科主任部長であり手の外科の専門医であるF医師の診察を受け,フォルクマン拘縮,正中神経及び尺骨神経の各断裂並びに屈筋腱及び伸筋腱の各断裂と診断された(乙5号証,証人F)。同日,原告は掖済会病院に入院し,平成10年3月4日,正中神経及び尺骨神経の縫合術等を受けた。その後,同年6月5日,同年8月17日及び同年12月22日に掖済会病院で腱移行術を受けるなどしたが,左手指等の十分な機能回復は得られず,F医師は,平成11年6月24日に左手指知覚麻痺,左5指の著しい機能障害及び左手指巧緻運動不能で原告の症状が固定したものと判断した(乙5号証)。 (5) フォルクマン拘縮についてフォルクマン拘縮は,上腕,肘若しくは前腕の骨折又は挫傷のように主に非開放性の外傷に続発する血行障害によって前腕屈筋群の急激な壊死変性が起きた後遺障害であり,上記のフォルクマン拘縮における阻血性壊死については,一般的に,筋膜,骨などによって閉鎖された筋膜性区画(コンパートメント)内での組織液の圧力が増加するため筋肉や神経の血行障害が起こり,筋拘縮や神経麻痺が生じるという区画症候群(コンパートメント症候群)の一型として理解されている。フォルクマン拘縮における阻血性壊死は,受傷直後急激に発生し,疼痛,腫脹,橈骨動脈の脈拍消失,手指のチアノーゼ,知覚鈍麻過敏などの特有の前駆症状を示す。また,指は屈曲位で自動運動は不可能となり,他動的に指を屈伸しようとすると疼痛は著明に増強する。これを放置すると筋肉の非可逆性変性による拘縮及び神経線維の変性による麻痺が合併し,フォルクマン拘縮が発生するが,同拘縮が完成すると治療は極めて困難で重大な機能障害を残すので,その発生防止が重要といわれている。 フォルクマン拘縮の発生防止の第1段階として,外固定などの外部からの圧迫要素を マン拘縮が発生するが,同拘縮が完成すると治療は極めて困難で重大な機能障害を残すので,その発生防止が重要といわれている。 フォルクマン拘縮の発生防止の第1段階として,外固定などの外部からの圧迫要素をすべて除去する,垂直牽引により愛護的に血行改善を図るなどの方法があるが,これらによっても症状改善がなく,コンパートメントの内圧が高い場合には筋膜切開術,手根管開放術などを行い,動脈の損傷がある場合には修復を行う。フォルクマン拘縮が完成した場合は,機能再建術の適応となり,軽症例(病変が深層筋の一部に限局するもの)には壊死部の部分切除等,中等症例(深層筋の完全変性と病変が浅層筋の一部にも及ぶもの)には神経剥離術,腱移行術等,重症例(深層筋及び浅層筋のいずれも完全変性したもの)には腱移行術,筋肉移植術,神経移植術などが行われる。(甲1ないし6号証,14ないし16号証)(6) 正中神経,尺骨神経について正中神経は,肘の前方を走り,前腕では中央よりやや橈側を走行し,手関節の部分で指神経と運動枝に分かれ,指神経は母指,示指,中指及び環指の橈側の掌側の皮膚並びに指先背側に分布し,運動枝は母指対立筋及び短母指外転筋を支配している。 尺骨神経は,肘の内側後方で尺骨神経溝を通り前腕に至り尺側を走行し,手関節の部位で浅枝と深枝に分かれ,浅枝は指神経として小指と環指の尺側の皮膚に分布し,深枝は小指対立筋及び小指外転筋等の小指球を形成する筋,環指及び小指の虫様筋並びにすべての骨間筋,母指内転筋に分布する。 2 争点(1) 原告の後遺障害の原因(原告の主張)原告の後遺障害は,受傷当初の神経損傷,腱損傷及び筋損傷とともに,フォルクマン拘縮に起因しているものであり,本件におけるフォルクマン拘縮の原因は外傷による血管に対する直接的なダメージであると考えられるから,原 障害は,受傷当初の神経損傷,腱損傷及び筋損傷とともに,フォルクマン拘縮に起因しているものであり,本件におけるフォルクマン拘縮の原因は外傷による血管に対する直接的なダメージであると考えられるから,原告の後遺障害は,11月27日の受傷による尺骨神経及び正中神経の各損傷,屈筋腱及び伸筋腱の各損傷,筋損傷並びに血管損傷に起因するものと考えられる。 (被告の主張)原告の後遺障害の原因は,神経損傷によるものと考えるべきである。 (2) 神経損傷,腱損傷等への対応に関する注意義務違反の有無(原告の主張)ア前腕部開放性損傷の特徴及び治療上注意すべき点前腕部の損傷は,外力が大きく受傷の程度が大きい場合,手指全体に著しい機能障害を残しやすい。したがって,医師としては,機能障害を残さないよう,創による深部組織の損傷の有無を観察した上で,損傷があれば,血管の縫合,腱及び神経等の修復を行わなければならず,これらの処置に関する知識及び経験がなければ,応急処置のみ行って早急に専門医に転医させる必要がある。 イ被告病院の担当医師らの注意義務違反(ア) 原告が受けた損傷の程度は大きかったのであるから,A医師は,血管,神経及び腱等の損傷の有無について,レントゲン検査等を行って十分に観察すべき注意義務があった。しかし,A医師は,上記義務を怠り,11月27日の救急外来時において,左前腕切創と診断したのみで,活動性出血があるにもかかわらず血管損傷の有無を確認せず,また,神経損傷及び腱損傷の有無も確認せずに創を閉鎖した。 (イ) 11月28日に原告を診察したB医師は,原告に対し,「左前腕挫滅創,左手背挫創,屈筋腱伸筋腱損傷,左前腕節神経血管損傷」と診断しながら,血管損傷,神経損傷及び腱損傷に対する処置を行わなかった。 (ウ) 本件のように,神経損傷及び腱損傷が認め 対し,「左前腕挫滅創,左手背挫創,屈筋腱伸筋腱損傷,左前腕節神経血管損傷」と診断しながら,血管損傷,神経損傷及び腱損傷に対する処置を行わなかった。 (ウ) 本件のように,神経損傷及び腱損傷が認められ,主幹動脈ないしはそれに準じる動脈の血管損傷も疑われるような外傷の場合には,治療が遅れると不可逆的な後遺障害が発生するため,専門家である整形外科医による早期診断及び早期治療が必要となる。B医師及びA医師らは整形外科手術が専門外であったから,原告の受傷の翌日である11月28日までには,被告病院の整形外科を受診させるか,他の医療機関の整形外科に転医させるべき注意義務があったのにこれを怠り,12月2日まで整形外科を受診させなかった。 (被告の主張)アレントゲン検査を実施して損傷の有無を確認すべきか否か,創部の異物除去又は創部処置を行うべきか否か,損傷血管に対してどのような処置を行うべきか,転医をさせるべきか,又は救急処置を行い経過観察とすべきか等の判断は,患者の受傷経過,臨床症状,診察所見その他に照らして総合的に判断されるものである。 イ被告病院の担当医師らに診療上の注意義務違反はない。 (ア) A医師は,原告の受傷経過,臨床症状,診察所見その他に照らして総合的に判断した上で,出血,感染等に対して積極的に治療措置を行うなど外傷に対して通常必要とされる治療及び経過観察を行っていたものである。上記治療に初期治療としての一般的な治療と異なるところはなく,A医師に診療上の注意義務違反はない。 (イ) 被告病院の担当医師らは,原告の経過観察に当たり,知覚障害及び運動障害の有無を意識して観察していたものであり,また,本件では原告に血行障害の所見は認められなかった。 B医師は,11月29日(土曜日)に原告を診察した際,原告に知覚障害を認めたため,整 障害及び運動障害の有無を意識して観察していたものであり,また,本件では原告に血行障害の所見は認められなかった。 B医師は,11月29日(土曜日)に原告を診察した際,原告に知覚障害を認めたため,整形外科を受診させるべきであると判断して,被告病院の整形外科の外来診察日に受診するように指示したものである。血行障害が認められない本件では,B医師の上記判断は,時機に遅れた指示ではなく相当なものであって,診療上の注意義務違反はない。 (3) 阻血解消措置を行わなかった注意義務違反の有無(原告の主張)アフォルクマン拘縮の発生防止の必要性フォルクマン拘縮の急性期では受傷直後から症状が急激に発生し,前腕及び手指の疼痛,腫脹,橈骨動脈の脈拍消失,手指のチアノーゼ,知覚鈍麻過敏を来たし,指は屈曲位となり,自動運動は不可能で,他動的に指を屈伸しようとすれば,疼痛は著明に増強する。この状態を放置しフォルクマン拘縮が発生すると治療は極めて困難となるため,上記の急性期の症状が出現し増悪するようであれば原因除去を考えて血行改善を図り,症状の改善がなければ,筋膜切開術等を行って組織が完全に壊死に陥り拘縮が完成することを防ぐ必要がある。 イ被告病院の担当医師らの注意義務違反原告には,受傷直後から疼痛及び知覚異常など阻血の症状が複数出ていたものであり,また,救急外来受診後,間もなく左肘から指先の腫脹,疼痛の増悪,指先の痺れ,指の屈曲位など,フォルクマン拘縮の急性期の典型的な症状が認められたのであるから,B医師,A医師及びD医師らは,受傷当日である11月27日から12月2日までの間に,十分な経過観察を行い,このまま放置すればフォルクマン拘縮が完成する可能性のあることを認識して,血管損傷に対する血管の縫合等の阻血解消措置を採るべき注意義務があったのにこれを怠った 月2日までの間に,十分な経過観察を行い,このまま放置すればフォルクマン拘縮が完成する可能性のあることを認識して,血管損傷に対する血管の縫合等の阻血解消措置を採るべき注意義務があったのにこれを怠った。 なお,医療水準を決するに当たっては,当該診療に当たった個々の医師の専門性を殊更重視するのではなく,医療機関としての医療水準を考えるべきであるところ,被告病院は整形外科も専門科目として標榜しているのであるから,手の外科を専門としない外科医(以下「一般外科医」という。)にとってフォルクマン拘縮が予見不可能であったとしても被告が免責されることにはならない。 (被告の主張)ア本件のフォルクマン拘縮は,開放性の損傷から発生した珍しいものであり,典型的なフォルクマン拘縮ではない。また,本件で原告にみられた症状は,フォルクマン拘縮の急性期の症状として医学文献に紹介されている症状とは異なるものである。したがって,本件において一般外科医が原告に対しフォルクマン拘縮を予見することは困難であったと解されるから,これを予見しなかったからといって法的な注意義務違反を認めることはできない。 イフォルクマン拘縮は一般的に受傷後短期間で完成するものといわれているから,受傷後5日目に原告を診察したD医師が,フォルクマン拘縮の可能性を考慮しながら,日数が経過していたことから手の外科の専門医を緊急に受診させなければならないとの判断をしなかったことについて,法的な注意義務違反を認めることはできない。 (4) 因果関係(原告の主張)早期に整形外科を受診させていれば,整形外科医によって神経損傷及び腱損傷に対する一次縫合(受傷後直ちに縫合処置を行うこと)が行われ,また,早期にフォルクマン拘縮と診断されて血行再建等の処置が行われたものと考えられる。鋭利な刃物による清潔な創の よって神経損傷及び腱損傷に対する一次縫合(受傷後直ちに縫合処置を行うこと)が行われ,また,早期にフォルクマン拘縮と診断されて血行再建等の処置が行われたものと考えられる。鋭利な刃物による清潔な創の場合は直ちに神経縫合を行うことにより最も早くかつ完全な神経の再生が期待できるといわれ,また,屈筋腱の損傷は早期の治療が良好な予後につながり,伸筋腱の損傷は刃物による切創などの場合が観血的療法の最も良い適応になるとされ,血管損傷によるフォルクマン拘縮の発生が疑われる場合には,早期に阻血解消措置を図ることにより良好な予後が得られるものである。したがって,被告病院の担当医師らが早期に整形外科を受診させていれば,血管,神経及び腱の各損傷に対して適切な処置が行われ,原告の予後は良好であったと考えられる。 また,被告病院の担当医師らが12月2日までに原告に対して阻血解消措置を採っていれば,原告に発生したフォルクマン拘縮の予後は良好であったと考えられる。 なお,適切な診療行為が行われなかったという不作為が責任原因を構成する場合,不作為という責任原因によって患者の具体的転帰が判明せず立証が困難になるのであるから,この立証困難の不利益を患者側に負担させるべきではなく,全証拠を総合検討し,医師の注意義務違反の程度も考慮した上で相当因果関係の存否を判断すべきである。本件の場合,血管,神経及び腱の各損傷のいずれについても自ら全く処置をせず,転医等も行わなかったという被告病院の担当医師らの注意義務違反の重大性を考慮すれば,開放創に対する早期治療の一般的な有効性から相当因果関係の存在を認めるべきである。 (被告の主張)原告の後遺障害の原因は,神経損傷によるものと考えるべきである。したがって,原告の後遺障害は受傷そのものにより発生したものであり,被告病院の担当医師らの診療 存在を認めるべきである。 (被告の主張)原告の後遺障害の原因は,神経損傷によるものと考えるべきである。したがって,原告の後遺障害は受傷そのものにより発生したものであり,被告病院の担当医師らの診療行為に起因するものではない。 (5) 損害(原告の主張)原告は,被告病院の担当医師らの注意義務違反により,以下のとおり合計8209万2605円の損害を被った(なお,原告の請求の趣旨は,第1請求のとおりである。)。 ア入通院慰謝料300万円原告が,掖済会病院において入通院治療を受けざるを得なくなったことによる精神的苦痛に対する慰謝料は300万円が相当である。 イ逸失利益5759万2605円原告は,被告病院の担当医師らの注意義務違反により,左手の5手指の著しい機能障害が生じて手指の用を廃し(労働基準法施行規則別表第2身体障害等級表第7級の7及び労働能力喪失表第7級),左手関節の機能に著しい障害が残存し(同等級表第10級の9),併合すると同等級表第6級に相当する。原告は本件当時48歳の男子であり,67歳までの19年間稼働することが可能であったから,毎年の収入額を金711万2700円(平成9年度賃金センサス第1巻第1表,産業計,企業規模計,学歴計の平均賃金),労働能力喪失率を67パーセント,就労可能年数に対するライプニッツ係数12.0853として逸失利益を計算すると, 7 11万2700円×0.67×12.0853=5759万2605円となる。 ウ後遺障害慰謝料1350万円前記後遺障害による原告の精神的苦痛に対する慰謝料は,1350万円が相当である。 エ弁護士費用800万円本件と相当因果関係にある弁護士費用は800万円が相当である。 (被告の主張)損害に関する原告の主張は争う。 第3 争点に対する判断 1 前記前提となる事実,甲 である。 エ弁護士費用800万円本件と相当因果関係にある弁護士費用は800万円が相当である。 (被告の主張)損害に関する原告の主張は争う。 第3 争点に対する判断 1 前記前提となる事実,甲7号証,乙1,2号証,4号証の1及び2,乙5ないし11号証,13号証の2,14号証,証人A及び同Fの各証言,被告代表者B及び原告本人の各尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。 (1) 11月27日,原告は,自宅でビールを大瓶3ないし4本程度飲んだ後,立ち上がろうとした際に転倒して左腕をガラス戸に突っ込み,割れたガラス片で左前腕に創傷を負い,相当量の出血があったため,同日午後9時30分ころ,救急車で被告病院の救急外来に搬送された。 当直医のA医師が原告を診察したところ,左前腕部の手掌側に3か所,手背側に1か所の切創があり,手掌側のうちの橈側(母指側)2か所の切創からの出血は相当ひどく,受傷時からの出血量は合計で500ないし600ミリリットルと推定された。A医師は,原告の左前腕に刺さったガラス片のうち,目で確認できる範囲のものをすべて除去し,吸収糸で筋肉を寄せて圧迫止血処置を施した後,創部を洗浄し,出血のひどい橈側の2か所の切創は縫合し,他の2か所の切創はガーゼを当てて治療処置を施した。原告の手指の運動性を確認したところ,完全な屈曲及び伸展はできないものの指示に従った動きはみられたことから,主幹でない神経が損傷しているものと推測し,知覚障害はやや認められる程度であると判断した。また,腱の断裂の有無については直接確認しなかったものの,傷の深さ及び指の動きから腱が損傷しているであろうと推測し,血圧の下降の程度,指先の色,出血の仕方及びプレショック状態にまでなっていないことなどから,主幹動脈の損傷ではなく,筋間を走る静 ったものの,傷の深さ及び指の動きから腱が損傷しているであろうと推測し,血圧の下降の程度,指先の色,出血の仕方及びプレショック状態にまでなっていないことなどから,主幹動脈の損傷ではなく,筋間を走る静脈の損傷による出血であろうと推測した。 A医師は,原告の切創部が大きく深部にまで及んでいたこと,血圧低下が認められ,嘔気などの症状もあったことから,経過観察のために原告を入院させることとし,原告の症状及び応急処置の内容などについて,A医師(平成8年5月に医師免許取得)の指導医的な立場にあるB医師に電話で報告した。 (2) 翌11月28日午前1時ころ,原告は被告病院の外科に入院した。原告は,「どこをさわられても左手にひびく。」,「指先の感覚がほとんどない。」などと看護師に訴え,また,左肘から指先にかけて腫脹も認められたが,指先を多少動かすことは可能であった。同日午前2時20分ころ,原告から痛みが増強した旨の訴えがあったため,看護師はA医師の指示を受けて鎮痛剤のソセゴン(ペンタゾシン)15ミリグラムを筋注により投与した。しかし,同日午前3時30分ころ,原告から疼痛が治まらない旨の訴えがあったため,看護師はA医師の指示を受けてソセゴン15ミリグラムを点滴投与した。同日午前7時20分ころ,原告から再び痛みが増強した旨の訴えがあったため,看護師はA医師の指示を受けてボルタレン(ジクロフェナクナトリウム)坐薬50ミリグラムを投与した。 同日午前8時ころ,A医師が病室を訪れて原告を診察し,ガーゼ交換を行うとともに切創部の状態を確認したところ出血は止まっていた。A医師は,原告の左腕にやや腫脹があり,知覚も右手に比べてやや左手の方が鈍麻しているものの,指示に従って手指を多少動かすことは可能であると判断した。原告は,痛みが激しく,指先の感覚がないように感じてい 師は,原告の左腕にやや腫脹があり,知覚も右手に比べてやや左手の方が鈍麻しているものの,指示に従って手指を多少動かすことは可能であると判断した。原告は,痛みが激しく,指先の感覚がないように感じていたため,A医師に対し,痛みが強い旨を訴えた。 その後,B医師が原告を診察した。B医師は,原告の左前腕が,全体的に腫れぼったいこと,色が多少悪いこと,手指にしびれがあり痛覚も幾分弱いこと及び手指が完全には伸展したり屈曲したりできない状態であることから,神経,腱又は筋肉が損傷しているであろうと判断し,原告に対し,手に障害が残る可能性があるため,状態を観察していく必要がある旨説明した。 同日午前9時30分ころからC医師による回診が予定されていたため,その前に,A医師は原告の左前腕のレントゲン検査を行った。その結果,ガラス片が残存していることが判明したため,C医師は,回診時に原告に対し筋肉内異物摘出手術を行い,残存していたガラス片を摘出した。 上記の手術後も、原告の疼痛、しびれ、腫脹等の症状は軽快しなかったため,A医師は看護師に対し,疼痛時には,サリイタミン内服薬0.6グラム,ボルタレン坐薬50ミリグラム,ソセゴン15ミリグラムを順次投与するようあらかじめ指示を出しておいた。その後,原告からの疼痛の訴えに応じて,同日午後2時にはサリイタミンが,午後8時にはボルタレン坐薬50ミリグラムがそれぞれ投与された。 (3) 11月29日,B医師が原告を回診したところ,前日と比較して疼痛は軽減し,腫脹の増強は認められなかったものの,左手指は伸びない状態であり,左手指のしびれ及び知覚障害は継続して認められた。そこで,B医師は,原告に整形外科を受診させることとしたが,原告の左前腕の腫脹は特に著しいものではなく,左手指の色の変化も外傷を受けた場合に通常現れる範囲内のもので 及び知覚障害は継続して認められた。そこで,B医師は,原告に整形外科を受診させることとしたが,原告の左前腕の腫脹は特に著しいものではなく,左手指の色の変化も外傷を受けた場合に通常現れる範囲内のものであると考え,また,完全な知覚脱失までは認められず,橈骨動脈の拍動及び手指の多少の運動性は確認できたことから,直ちに整形外科医に連絡をとって診察してもらうまでの緊急性はないと判断し,12月2日の被告病院の整形外科の外来診察日に受診させることとした。 11月29日午後8時50分ころ,原告が再び疼痛を訴えたため,ボルタレン坐薬が投与された。その後,原告の疼痛は軽減した。 (4) 12月2日,原告は被告病院の整形外科においてD医師の診察を受けた。D医師が原告の左手指の運動性を調べたところ,母指及び示指は屈曲及び伸展のいずれもできず,中指,環指及び小指はいずれも屈曲のみ可能であった。また,はけを用いて左手の知覚検査を行ったところ,母指は掌側及び背側のいずれも知覚鈍麻,示指から小指は掌側及び背側のいずれも知覚脱失の状態であり,左肘から末端にかけて腫脹が認められた。D医師は,原告の上記の神経学的所見からは,橈骨神経,正中神経及び尺骨神経のいずれも障害されていることが考えられるものの,傷の位置と神経の位置が一致せず,腫脹も強いことから,フォルクマン拘縮の可能性も排除できないと考えた。しかし,受傷後5日程度経過していたことから,急性期の緊急処置を行う必要はないと判断し,他動的な運動を行ってしばらく経過を観察し,回復しないようであれば手の外科の専門医の治療を受ける必要がある旨をB医師らに報告した。 その後,B医師,A医師又はC医師が順次原告を回診していたが,原告の症状に大きな変化はみられなかった。 12月9日,D医師が再び原告を診察した。その際,左手の掌側の全指 がある旨をB医師らに報告した。 その後,B医師,A医師又はC医師が順次原告を回診していたが,原告の症状に大きな変化はみられなかった。 12月9日,D医師が再び原告を診察した。その際,左手の掌側の全指及び手掌の尺側(小指側)は知覚脱失であり,背側については,手背の橈側が知覚鈍麻でそれ以外は知覚脱失の状態であった。左手指の運動性は,同月2日の診察時と同様に,母指及び示指は屈曲及び伸展のいずれもできず,中指,環指及び小指は屈曲のみ可能という状態であったが,左手関節は背屈及び掌屈のいずれも可能であった。創の状態は,手掌側の橈側に一部ろう孔(組織深部の膿瘍形成が原因で連続性に皮膚の表面に通じている穴)が認められたものの,その他はきれいな状態であった。上記の診察所見から,D医師は,尺骨神経麻痺及び腱損傷を疑い,手の外科の専門医の診察及び治療を受ける必要があると判断し,B医師の了解を得た上で掖済会病院の整形外科に連絡をして,同月10日に原告を受診させることとした。 (5) 12月10日,原告は掖済会病院の整形外科を訪れ,E医師の診察を受けた。 E医師は,左前腕の掌側及び背側にわたる多部位の神経並びに手指の屈筋腱及び伸筋腱の広範な重大損傷があると判断し,左前腕挫創,異物化膿創,屈筋腱及び伸筋腱の各断裂,尺骨神経及び正中神経の各損傷と診断した。しかし,血行は良好であり,受傷後2週間程度経過していたことから,E医師は,緊急に血行再建術を施行する必要はなく,創による浮腫,圧迫などの影響が軽快してから改めて神経及び腱の損傷部位を詳細に検査して治療方針を立てるべきであると判断し,創の治療については被告病院で行うことが可能であると考えて,被告病院に対し,創が治癒した段階で早急に再受診させるよう依頼した。 その後,原告は,被告病院において化膿創に対する治療として,1 と判断し,創の治療については被告病院で行うことが可能であると考えて,被告病院に対し,創が治癒した段階で早急に再受診させるよう依頼した。 その後,原告は,被告病院において化膿創に対する治療として,12月15日まで1日500ないし600ミリグラムの抗生剤リンタシンS(リン酸クリンダマイシン)の点滴投与等を受けたところ,創からの膿の滲出が減少してきたため,同月24日,再度,掖済会病院のE医師の診察を受けたが,化膿創が治癒していなかったため,同日はガーゼ交換が行われる程度で,正月明けに再度受診することとされた。 12月27日ころに原告の創が治癒したことから,B医師らは,今後は掖済会病院で治療を受けるのが適当と考え,同病院への紹介書を作成した上で,平成10年1月6日に原告を退院させた。 (6) 掖済会病院での治療経過平成10年1月7日,原告は掖済会病院を訪れ,E医師の診察を受けた。E医師は,原告にF医師の診察を受けるよう指示し,被告病院のA医師に対し,受傷時のレントゲン写真及びその後のすべてのレントゲン写真,点滴注射の抗生剤名並びに被告病院で行われた手術所見を知らせてくれるよう依頼した。これを受けて,B医師は,同月8日,F医師及びE医師あてに原告に投与した抗生剤名などを記載した紹介書を作成し,レントゲン写真とともに原告に交付した。 同月13日,原告は上記の紹介書等を持参して掖済会病院でF医師の診察を受けた。F医師は,原告をフォルクマン拘縮と診断し,正中神経及び尺骨神経領域内の知覚喪失との神経学的所見並びに手指の動きから,正中神経及び尺骨神経の各断裂並びに屈筋腱及び伸筋腱の各断裂と診断した。そして,治療方針としては,温熱療法,筋肉トレーニングなどのリハビリを行って指の関節を柔らかくしてから,神経縫合術などの手術を行うこととし,同日,原告を掖済会 びに屈筋腱及び伸筋腱の各断裂と診断した。そして,治療方針としては,温熱療法,筋肉トレーニングなどのリハビリを行って指の関節を柔らかくしてから,神経縫合術などの手術を行うこととし,同日,原告を掖済会病院に入院させた。その後,リハビリにより左前腕の拘縮がやや取れ,皮膚の色もよくなり,血行が良好となったことから,平成10年3月4日,原告に対し,左手正中神経移植術,左手尺骨神経剥離術及び左手屈筋腱剥離術を施行した。上記手術により手指全体が柔らかくなり,伸展は改善したが,屈曲は依然困難であった。なお,上記手術の際,正中神経は断裂して6センチメートル欠損していたが,尺骨神経は連続性があることが確認された。同月24日,原告は掖済会病院を退院し,その後,同病院に通院してリハビリを行った。 平成10年6月4日,原告は掖済会病院に入院し,同月5日,左手伸筋腱及び屈筋腱の移行術を受け,同月12日に退院した。 平成10年6月30日,原告はリハビリ目的で液済会病院に入院し,左手指の動きがわずかに改善したことから,以後は外来でリハビリを続行することとし,同年7月14日,退院した。 平成10年8月14日,原告は手術目的で掖済会病院に入院し,同月17日,左母指屈筋腱及び左示指ないし小指の屈筋腱の各腱形成移行術を受け,同月24日に退院した。 平成10年9月8日,原告はリハビリ目的で掖済会病院に入院し,同年10月14日退院し,その後は通院してリハビリを行った。 平成10年12月21日,原告は掖済会病院に入院し,同月22日に左母指の伸筋腱の腱形成移行術を受け,その後,リハビリを行い,平成11年2月4日に退院した。 以後も,原告は,掖済会病院に通院してリハビリを行っていたが,F医師は,原告の左前腕の機能障害について,左手指知覚麻痺,左5指の著しい機能障害及び左手指の巧緻運動不 平成11年2月4日に退院した。 以後も,原告は,掖済会病院に通院してリハビリを行っていたが,F医師は,原告の左前腕の機能障害について,左手指知覚麻痺,左5指の著しい機能障害及び左手指の巧緻運動不能で,身体障害者等級の4級に該当する状態で平成11年6月24日に症状が固定したものと判断した。 2 争点(1)(原告の後遺障害の原因)について上記のとおり,原告には,左手指知覚麻痺,左5指の著しい機能障害及び左手指の巧緻運動不能との後遺障害が発生したことが認められる。ところで,前記認定事実及び証人Fの証言によれば,原告は,11月27日の受傷によって神経損傷,腱損傷及び筋損傷を受けたものと認められる。また,前示のとおり,平成10年1月13日に原告を診察したF医師は,原告をフォルクマン拘縮と診断しているところ,鑑定人G(以下「G鑑定人」又は「G」という。)の鑑定結果(以下「本件鑑定」という。)並びに証人G及び同Fの各証言によれば,上記の診断のとおり,原告の左前腕にフォルクマン拘縮が発生したものと認めることができる。そして,本件鑑定並びに証人F及び同Gの各証言によれば,原告の上記の後遺障害は,正中神経及び尺骨神経の各損傷,腱損傷並びにフォルクマン拘縮が主たる原因となって発生したものと認めることができる。 なお,原告は,本件におけるフォルクマン拘縮は血管に対する直接的なダメージが原因であるから,原告の後遺障害は血管損傷にも起因している旨主張する。確かに,G鑑定人は,本件で原告にフォルクマン拘縮が発生した機序について,血管が直接的なダメージを受けたために阻血性壊死が生じたものと推測している(証人G)が,F医師は,この点について,ガラス片によって筋肉が横断面で切断された際に筋肉内の毛細血管が切断され,これにより筋線維が栄養障害に陥り変性壊死を起こして 性壊死が生じたものと推測している(証人G)が,F医師は,この点について,ガラス片によって筋肉が横断面で切断された際に筋肉内の毛細血管が切断され,これにより筋線維が栄養障害に陥り変性壊死を起こして腫脹し,その結果,コンパートメントの内圧が上昇してコンパートメント内の筋肉が壊死したものと推測しており(証人F),手の外科の専門医の間でも必ずしも見解が一致していない。加えて,G鑑定人が本件のフォルクマン拘縮の原因を断定することは難しい旨述べていることなどを考え併せると,本件のフォルクマン拘縮の原因を特定することはできないものといわざるを得ず,血管に対する直接的なダメージが本件のフォルクマン拘縮の原因であるとは断定できないから,血管損傷が原告の後遺障害の主たる原因の1つであるとは直ちに認め難いというべきである。 3 争点(2)(神経損傷,腱損傷等への対応に関する注意義務違反の有無)について(1) 前腕部の開放性損傷の治療に関する注意義務原告は,被告病院の担当医師らには,本件のように受傷の程度の大きい前腕部の損傷の場合,手指全体に著しい機能障害を残さないように,血管,神経及び腱等の損傷の有無を観察し,損傷があれば縫合又は修復等の処置を行い,これらの処置に関する知識及び経験がなければ早急に専門医に転医すべき注意義務がある旨主張する。 前腕部の開放性損傷は,外力が大きい場合には皮膚の挫滅,血管損傷,神経損傷,腱損傷などを合併しやすく,手指全体の著しい機能障害を残しやすい(甲13号証)から,大きな外力が加わった前腕部の開放性損傷の治療に当たる医師としては,血管,神経及び腱等の損傷の有無を慎重に判断し,これらが認められた場合には,可能な限り著しい機能障害を残さないように適切な処置を採るべき注意義務を負うものと解するのが相当である。本件において原告が ,血管,神経及び腱等の損傷の有無を慎重に判断し,これらが認められた場合には,可能な限り著しい機能障害を残さないように適切な処置を採るべき注意義務を負うものと解するのが相当である。本件において原告が受けた損傷は,複数のガラス片による前腕部の切創であり,乙4号証の1,証人A及び同Fの各証言並びに代表者Bの供述によれば,相当深部にまで達する重度の損傷であったと認められるから,原告の治療に当たる医師は上記の注意義務を負うものと認めることができる。 (2) 11月27日の救急外来時におけるA医師の治療の適否について原告は,A医師には11月27日の救急外来時において血管,神経及び腱等の損傷の有無を十分観察せずに創を閉鎖した注意義務違反がある旨主張する。 前示のとおり,A医師は,11月27日の救急外来で原告を診察した際,目で確認できるガラス片を除去し,吸収糸で筋肉を寄せて圧迫止血処置を施し,創部を洗浄して4か所の切創のうちの2か所を縫合し,他の2か所はガーゼを当てて治療処置を施したものであり,血管,神経及び腱が損傷しているであろうとは推測したものの,いずれも直接の確認は行わなかったものであるが,上記の処置について,本件鑑定は「創の初期治療のみで,あえて神経や腱に対する処置を行わなかったことは間違いではないと思われる。」としている。 本件鑑定によれば,血管損傷,神経損傷又は腱損傷が想定される場合の初期治療としては,血行障害がある場合は,簡単な処置及びごく初期の治療を行った後,直ちに専門的な治療のできる施設に転送し,血行障害がない場合は,十分な創洗浄の後に一次的に創を閉鎖し,その後,必要に応じた治療を行うために専門医に受診させるのが一般的であると解される。そして,証人Gの証言によれば,実際には,受傷直後は疼痛が強いため,外来においては,指の知覚検査及び手 に創を閉鎖し,その後,必要に応じた治療を行うために専門医に受診させるのが一般的であると解される。そして,証人Gの証言によれば,実際には,受傷直後は疼痛が強いため,外来においては,指の知覚検査及び手指の運動障害の有無等によって神経損傷の程度を確認したり,レントゲン検査によって骨損傷の有無を確認したりするほかは,出血性ショックの有無など全身状態の確認をする程度であって,神経,腱等の損傷の有無に関する最終診断まではできず,大学病院程度の規模の病院であれば,外来診察後,直ちに手術室に移り,創部を展開して神経損傷等の有無を視診により確認するが,同処置は,創部をある程度切開して展開する必要があるため一般外科医にとっては難しい場合が多く,これを行い得るか否かは当該病院のスタッフの状況及び施設の規模によるなどの事情があるものと認められる。 以上に加え,本件においては,前示のとおり,救急外来時には出血が相当ひどい状態であり,受傷時からの出血量は合計500ないし600ミリリットル程度と推定され,血圧低下,嘔気などの症状もみられたこと,出血に対する処置について,F医師は,筋肉からわき出るような出血があって収拾がつかないような場合には縫って止血するしかない旨述べていること(証人F),被告病院が一般病床数152床の規模の病院であり,整形外科医は非常勤医師のみであったこと(乙12号証,代表者B)などを考慮すると,本件において,A医師に,受傷直後の救急外来の時点で,創部を展開して,血管,神経及び腱等の損傷の有無を確認すべき注意義務まで認めることはできないというべきであり,したがって,血管,神経及び腱等の損傷の有無を観察せずに創を閉鎖したA医師の処置が不適切であったということはできない。 なお,前示のとおり,本件においては,緊急の阻血解消措置を必要とするほどの血行 したがって,血管,神経及び腱等の損傷の有無を観察せずに創を閉鎖したA医師の処置が不適切であったということはできない。 なお,前示のとおり,本件においては,緊急の阻血解消措置を必要とするほどの血行障害を疑わせる所見は認められなかったものと解されるから,A医師が11月27日の救急外来後,直ちに専門的な治療のできる施設に原告を転送すべき注意義務を負っていたとも認めることはできない。 よって,11月27日の救急外来におけるA医師の治療について,注意義務違反を認めることはできないから,この点に関する原告の前記主張は採用できない。 (3) 神経損傷等に対する処置を行わなかったB医師の対応の適否について原告は,B医師には,11月28日の診察時に屈筋腱伸筋腱損傷,腱左前腕節神経血管損傷などと診断しながら,これらに対する処置を行わなかった注意義務違反がある旨主張する。 しかし,神経及び腱の一次縫合は,手の外科一般に精通した医師により行われるべきものとされており(甲12,13,17号証),この点について,G鑑定人は,神経縫合は一般外科医が行わない方がよく,血管縫合は一般外科医でも一般整形外科医でも難しい旨述べ(証人G),また,F医師は,被告病院で神経縫合を行うことはかえってマイナスである旨述べている(証人F)。以上によれば,一般外科医は,神経及び腱の一次縫合を行うべきではないと認めるのが相当であるから,一般外科医であるB医師が血管損傷,神経損傷及び腱損傷に対する一次縫合などの処置を自ら行わなかったことにつき,注意義務違反を認めることはできない。 よって,原告の上記主張は採用できない。 (4) 11月28日に整形外科を受診させなかった対応の適否について原告は,B医師らには,11月28日までに整形外科を受診させるべき注意義務があったのにこれを怠った旨主張し, 主張は採用できない。 (4) 11月28日に整形外科を受診させなかった対応の適否について原告は,B医師らには,11月28日までに整形外科を受診させるべき注意義務があったのにこれを怠った旨主張し,これに対し,被告は,同月29日に知覚障害を認めて,整形外科の受診が必要であると判断し,被告病院の整形外科の診察日(12月2日)の受診を指示したB医師の判断は,血行障害の認められない本件では相当なものである旨主張する。 ア神経損傷等が疑われる場合の注意義務について(ア) 神経損傷等に対する処置に関する知見について代表者Bの供述によれば,本件当時,B医師は,神経及び腱等の縫合処置を早期に行ってもその後の治癒には関係がなく,自らの経験及び当時の医学の常識からも創が治癒するまでは神経縫合等の処置をすべきではないとの認識を有していたことが認められる。 しかし,「末梢神経損傷」(整形外科MOOKNo19。1981年。甲12号証)には「ガラス片,ナイフなど鋭利な刃物による開放性の切創は,清潔であり,受傷後6ないし12時間以内ならば神経は一次縫合の対象となり,この場合は良い成績を得ることができる。裂創などで創が汚染され,軟部組織損傷があるとき,神経断端が挫滅されている場合などでは,創の治癒を待って3ないし4週間後に二次縫合(創が治癒してから縫合処置を行うもの)をするのがよい。」などと記載され,「手指新鮮開放創」(甲13号証)には「神経,腱及び開放創の処置は原則として一次的に行うべきであり,その方が結果もよいが,これには,患者の全身状態がよくて長時間の手術に耐えられる,損傷組織の汚染や挫滅が少なく,切除する挫滅部と健常部との境界が明瞭で続発性壊死もない,初期治療医が手の外科一般に精通しているとの条件がある。」などと記載されており,「手の外科の実際改訂第 られる,損傷組織の汚染や挫滅が少なく,切除する挫滅部と健常部との境界が明瞭で続発性壊死もない,初期治療医が手の外科一般に精通しているとの条件がある。」などと記載されており,「手の外科の実際改訂第6版」(1999年。甲20号証)には,「かつて腱縫合は,創の状態が良好な場合のみに実施するとされていたが,現在の一般的な考え方としては,腱の修復は創の如何を問わず,部位の如何を問わず,一次的に縫合すべきものとされている。」旨の指摘もある。また,G鑑定人は,一次縫合を行うべきか二次縫合を行うべきかとの開放性の損傷に関する議論は昭和60年ころには終わり,現在では,施設が整い,熟練した医師がいる場合には一次縫合をすべきものとされている,受傷後2,3日以内に神経を縫合する場合に創があることは障害にならないなどと述べている(証人G)。以上に加え,本件当時(平成9年)の一般外科医にとっては,創が治癒するまでは神経縫合等の処置を行うべきではないとの知見が一般的であったことをうかがわせる事情も認められないことを考慮すると,本件当時においては,一般外科医にとっても,ガラス片又はナイフによる切創のように損傷組織の汚染及び挫滅が少ないなどの一定の条件を満たした場合には一次縫合を行うべきであるとの知見が一般的であったと認めるのが相当である。 (イ) 神経損傷等が具体的に疑われる場合の注意義務前示のとおり,前腕部の開放性損傷で神経又は腱等の損傷が合併している場合には,手指全体の著しい機能障害を残しやすいものであるところ,血管損傷,神経損傷又は腱損傷が想定される場合の初期治療について,本件鑑定は,「血行障害が存在しなければ十分な創洗浄ののち一次的に創を閉鎖して,早い時期,受傷翌日ないしは2~3日のうちに専門医の診察,必要に応じた治療を行うことが多い。いずれにせよ,血 について,本件鑑定は,「血行障害が存在しなければ十分な創洗浄ののち一次的に創を閉鎖して,早い時期,受傷翌日ないしは2~3日のうちに専門医の診察,必要に応じた治療を行うことが多い。いずれにせよ,血管損傷,神経損傷や腱損傷が疑われる場合には早期の専門医への受診が必要であろう。」としており,この点に関し,G鑑定人は,「一般外科医が神経損傷を疑った場合には,整形外科の専門医のいる施設に転医させるべきであり,同じ施設内に整形外科医がいれば当然コンサルテーションを受けるべきである。」,「受傷時に簡単に知覚検査をして,知覚異常があれば神経損傷を疑って整形外科医にまずコンサルトすべきだろうと思う。」,「神経損傷や腱損傷等が疑われる場合にはできれば翌日にでも専門医に診せてもらいたい。早ければ早いほどいい。」などと述べており(証人G),F医師も,神経や腱の断裂が認められれば通常は手の専門医に送られてくる旨述べている(証人F)。そして,前示のとおり,本件当時,ガラス片やナイフ等による汚染や挫滅の少ない神経損傷又は腱損傷等については,原則として一次縫合を行うべきであるとの知見が一般的であったと解されるのであり,甲12,13,17,18,20号証によれば,一次縫合は受傷後できる限り早期に行うことが望ましいものと認められ,また,一次縫合を行った方が結果がよい旨指摘する文献も少なくない。 以上を総合すれば,神経損傷又は腱損傷等が具体的に疑われる場合には,診察を担当した医師は,可能な限り早期に整形外科を受診させるべき注意義務を負うものと解するのが相当である。 イ神経損傷等の有無に関するB医師らの認識について神経損傷をうかがわせる知覚障害について,G鑑定人は,多少の血行障害及び腫脹が生じている場合には,神経損傷がなくても知覚障害又はしびれが伴うものであるが,神 傷等の有無に関するB医師らの認識について神経損傷をうかがわせる知覚障害について,G鑑定人は,多少の血行障害及び腫脹が生じている場合には,神経損傷がなくても知覚障害又はしびれが伴うものであるが,神経損傷があれば感覚がないというはっきりした知覚障害が現れる旨述べる(証人G)。前示のとおり,A医師は,11月27日の救急外来時及び翌28日の午前8時の診察時のいずれにおいても,原告の知覚についてはやや悪い程度と診断し,B医師も同日の診察時においては痛覚が幾分弱い程度であるとの判断をしていたから,11月28日の時点では,神経損傷を強く疑うほどの知覚障害の所見は認められなかったものとも解し得る。しかし,A医師が行った知覚検査の方法はボールペンの先で手指の掌側の末梢部分を押して確認するというものであり(証人A),B医師が行った知覚検査の方法はつねって痛みを感じるか否かを確認するというものである(代表者B)ところ,「手指新鮮開放創」(整形外科MOOKNo15。1980年。甲13号証)には,知覚検査は必ず小筆で行う旨指摘されており,また,D医師は,知覚検査は一般的にはけを用いて触られている感じがわかるか否かを確認して行う旨述べている(証人D)。そうすると,A医師及びB医師が行った上記の知覚検査の方法では,知覚障害の有無及びその程度が正確に測定されなかった可能性を否定することができないというべきであり,原告の知覚障害の程度に関するA医師及びB医師の上記判断を直ちに適切なものと認めることはできないから,11月28日に神経損傷を強く疑わせる程度の知覚障害がなかったものとは断定できない。 前示のとおり,原告の受けた損傷は前腕部の相当深部にまで達する重度のものであり,証人Aの証言及び代表者Bの供述によれば,B医師らはこれを認識していたものと認められる。そして,甲 のとは断定できない。 前示のとおり,原告の受けた損傷は前腕部の相当深部にまで達する重度のものであり,証人Aの証言及び代表者Bの供述によれば,B医師らはこれを認識していたものと認められる。そして,甲13号証及び証人Gの証言によれば,ガラスによる前腕部の切創の場合は,神経,腱等が同時に損傷される可能性が高く,神経が完全に断裂することも多いものと解されるところ,「ガラスによる傷の場合は,血管,神経等の損傷が当然あるだろうと考えなければならない。」旨の代表者Bの供述によれば,B医師はガラスによる前腕部の切創の場合の上記可能性についても認識していたものと認められるのであり,加えて,「11月28日の朝,原告を診察した時点で,直感的に主幹神経又は腱が相当損傷しているのではないかと思った。」,「11月28日に原告を診察した時から整形外科を受診させなければならないと思った。」,「11月28日の午後に原告のレントゲン写真を見て,先が鋭利なガラス片が相当深部に入っていたことから,神経及び腱が損傷されているであろうことを確信した。」などの代表者Bの供述を考慮すると,少なくともB医師は,11月28日の朝の診察時において,神経損傷等の存在を相当強く疑うとともに整形外科を受診させる必要があると考え,同日午後の時点では神経及び腱の各損傷があることをほぼ確信していたものと認めることができる。 なお,B医師が同月29日のカルテに「知覚障害(+)来週整形に」と記載していること(乙1号証,代表者B)からすると,被告が主張するように同日に初めて明らかな知覚障害を認めて整形外科を受診させる必要があると判断したものと解する余地もあるが,「11月29日の診察時にも完全な知覚喪失は認められず,痛覚が少し鈍く,しびれた感じがあるという程度であった。」,「11月28日と翌29日とで判断 せる必要があると判断したものと解する余地もあるが,「11月29日の診察時にも完全な知覚喪失は認められず,痛覚が少し鈍く,しびれた感じがあるという程度であった。」,「11月28日と翌29日とで判断に変化はなかった。」などの代表者Bの供述を考慮すると,整形外科を受診させることとした11月29日とその前日の同月28日とで,知覚障害の程度及び神経損傷等の有無に関するB医師の判断に特段の相違はなかったものと解するのが相当である。 ウ原告の疼痛の訴えに対する判断について前示のとおり,原告は,救急外来において創の一次的な治療を受けた後,疼痛が増強したことから,11月28日の朝にかけて頻繁に鎮痛剤の投与を受け,また,同日午前には筋肉内異物摘出手術を受けて左前腕に残存していたガラス片が摘出されたものの,疼痛は直ちには軽快せず,その後も鎮痛剤の投与を受けていたものである。 上記の救急外来後の疼痛の増強について,B医師は,救急外来時には,アルコールの影響が残り,血圧が低下し,軽いショック状態であったものが,時間の経過によって酔いがさめたり,点滴等によって原告の状態が回復するに伴い疼痛が増強したものと思われる旨述べている(代表者B)。確かに,証人Gの証言によれば,体内にある程度の量のアルコールを保有していることによって鎮痛剤の効果に影響が生じ,酔いがさめるに従って,痛みに対する反応が変わることはあり得るものと解されるのであり,本件の場合,原告はビール大瓶3ないし4本程度飲んでおり,救急外来時には相当量のアルコールが体内に残っていたものと推測されるから,上記のアルコールが抜けるまでの数時間については,その影響によって痛みに対する反応が変化したことも考え得る。しかし,数時間以上経過した後も上記のアルコールが大きく影響していたとは考え難いのであり,「一般的 ルコールが抜けるまでの数時間については,その影響によって痛みに対する反応が変化したことも考え得る。しかし,数時間以上経過した後も上記のアルコールが大きく影響していたとは考え難いのであり,「一般的に,創の縫合処置をすれば仮にガラス片が残存していても疼痛は軽減し,鎮痛剤にも反応するものであるから,創の縫合処置をした後も患者が鎮痛剤にも反応しない強い疼痛を継続して訴える場合には,一般外科医であってもおかしいと気付くと思う。」旨の証人Gの証言をも考慮すると,B医師らは,11月28日に原告が継続して訴えていた強い疼痛に対し,本件のような外傷に当然伴われる疼痛とは異なるものであって,何らかの疾患発生の可能性もあり得るとの認識を持つことができたものと解するのが相当である。 エ原告の神経損傷等に対し一次縫合を行うことが不可能であったか。 原告の神経損傷等はガラス片による切創に伴って生じたものであるから,一般的には一次縫合の対象となり得るものと解されるところ,B医師は,本件では滅菌状態でないガラスが体内に入っている以上,感染が起きる可能性があるため,神経等の一次縫合をするのは問題がある旨述べている(代表者B)。しかし,上記のとおり,一般的にガラス片,ナイフなどによる損傷は一次縫合の対象となる場合が多いところ,その場合であっても通常は滅菌状態にないガラス,刃物等によって損傷が生じたものと解されるのであり,また「化学療法の進歩した今日,洗浄と創面清掃(デブリドマン。メスやはさみを用いて,汚染,挫滅した創縁を切除して新鮮化すること)により化膿はあまりおそれるにあたらない。」(甲18号証),「洗浄が確実に行われれば化膿は絶対に防止されるはずである。」(甲20号証)などの指摘もあることを考慮すると,滅菌状態にないガラスが体内に入ったことから直ちに一次縫合を行 らない。」(甲18号証),「洗浄が確実に行われれば化膿は絶対に防止されるはずである。」(甲20号証)などの指摘もあることを考慮すると,滅菌状態にないガラスが体内に入ったことから直ちに一次縫合を行い得ないものとは解し難い。 また,F医師は,創が化膿している場合に神経又は腱の縫合処置を行うと,細菌感染を広げるおそれがあるため,創が治癒してから処置を行うのが鉄則であり,本件の場合も化膿創があったため,掖済会病院での治療の開始が遅れた旨述べている(証人F)。しかし,前示のとおり,12月9日のD医師の診察時に一部ろう孔が指摘され,同月10日の掖済会病院での診察において化膿創と診断されているものの,同月9日以前には,同月2日のD医師の診察時も含めて,創部の化膿の有無等について特に指摘がない(乙1号証)のであるから,11月28日ころの時点で既に神経又は腱の縫合処置を行い得ない程度に創部が化膿していたものとは直ちに認め難い。加えて,「腱損傷後,相当長期間を経過し,分泌物多く将来化膿のおそれがあったり,外傷が鈍器によるもので広汎な損傷があるような場合には腱の縫合は二次的にした方がよいこともあるが,かかる例はさほど多いものではない。」などの指摘もある(甲17号証)ことを考慮すると,F医師の上記証言から直ちに,11月28日ころの段階においても原告に対して神経縫合等の処置を行うことが不可能であったものと解することはできない。 なお,一次縫合については,受傷後12時間以内に行うべきである旨の指摘もある(甲12号証)が,甲13,17,18,20号証及び証人Gの証言を総合すれば,受傷後12時間以上経過していても一次縫合は行い得るものと認められるのであり,その他,本件において一次縫合を行い得ない事情があったことを認めるに足りる証拠はないから,原告の神経損傷等に対 合すれば,受傷後12時間以上経過していても一次縫合は行い得るものと認められるのであり,その他,本件において一次縫合を行い得ない事情があったことを認めるに足りる証拠はないから,原告の神経損傷等に対し一次縫合を行うことが不可能であったとは認めることができない。 オ11月28日に整形外科を受診させることが可能であったか。 被告病院の整形外科には2名の非常勤医師しかおらず,整形外科の外来診察日は毎週火曜日及び木曜日の各午前中のみであった(代表者B)から,11月28日(金曜日)は,被告病院の整形外科の非外来診察日であり,整形外科医は不在であったものと解される。しかし,証人A及び同Dの各証言によれば,被告病院では,整形外科関連領域の疾患の患者が救急搬送された場合などには,D医師等の整形外科医に連絡をとってコンサルテーションを受けたり,場合によってはその後直ちに当該医師の勤務する病院に転送していたことが認められるのであり,本件当時,上記の対応を採ることが困難であったことをうかがわせる事情も特に認められない。そうすると,11月28日にD医師等の整形外科医に連絡を取ることは十分可能であり,また,同日が金曜日であることを考え併せると,その後直ちにD医師等の勤務する病院の整形外科を受診させるとの対応を採ることもそれほど困難ではなかったものと考えられる。 したがって,11月28日が被告病院の整形外科の非外来診察日であったことを考慮しても,同日に整形外科を受診させることが困難であったとまでは認め難いというべきである。 カ本件における注意義務違反の有無について原告は,B医師らには11月28日までに整形外科を受診させるべき注意義務があった旨主張するが,前記認定事実及び代表者Bの供述によれば,B医師は,11月28日の診察時から整形外科を受診させる必要があると判断して 医師らには11月28日までに整形外科を受診させるべき注意義務があった旨主張するが,前記認定事実及び代表者Bの供述によれば,B医師は,11月28日の診察時から整形外科を受診させる必要があると判断していたものの,本件では血液循環の障害が認められず,また,神経及び腱等の縫合処置を早期に行ってもその後の治癒には関係なく,創の治療が優先すると考えて,同日直ちに整形外科を受診させる必要はないと判断していたものと認められる。 前示のとおり,神経損傷等が具体的に疑われる場合には,診察を担当した医師は可能な限り早期に整形外科を受診させるべき注意義務を負うものと解されるところ,本件において,原告の受けた損傷は相当深部にまで達する重度のものであって,B医師らは,これを認識していたのであり,また,11月28日には原告に神経損傷及び腱損傷があることをほぼ確信していたのである。さらに,B医師らは,11月28日においても原告が継続して強い疼痛を訴えていたことから,通常の場合とは異なり何らかの疾患発生の可能性もあり得るものとの認識を持つことができたと解されるのであり,加えて,原告の神経損傷等に対し一次縫合を行うことが不可能であったとは認められないこと,11月28日に整形外科を受診させることが困難であったとは認め難いこと,被告病院では手の運動障害や知覚障害がある場合には手の専門医に転医させるのが通例であったこと(証人A,代表者B),11月28日が金曜日であったこと及び本件鑑定が「この場合は入院しているので,受傷翌日(11月28日)に整形外科医の診察を依頼するべきであろう。」としていることなどの各事情を考慮すると,B医師らには,同医師らが原告に神経損傷及び腱損傷があることをほぼ確信し,また,原告が通常の場合以上に継続して強い疼痛を訴えていた11月28日の時点で,神経損 していることなどの各事情を考慮すると,B医師らには,同医師らが原告に神経損傷及び腱損傷があることをほぼ確信し,また,原告が通常の場合以上に継続して強い疼痛を訴えていた11月28日の時点で,神経損傷及び腱損傷等に対して早期に適切な処置をするために,また,他の疾患発生の可能性に対して早期に適切な診断及び対処をするためにも,直ちに原告に整形外科を受診させるべき注意義務があったものというべきである。 したがって,神経,腱等の縫合処置よりも創の治療が優先すると考え,他の疾患発生の可能性を考慮せずに,整形外科を直ちに受診させる必要はないとしたB医師の判断は不適切であったといわざるを得ず,11月28日に整形外科を受診させなかったB医師らには注意義務違反があったものと認めることができる。 なお,G鑑定人は,「知覚が脱失しているような場合には神経損傷が強く疑われるが,神経損傷の有無について判断に迷うような状況では,しばらく経過観察をしようとの判断をしてもおかしくはない。」,「血行障害がない場合に,土曜日に知覚障害があると判断し,翌週に整形外科医を受診させるという判断は通常の考え方だと思う。」などとも述べている(証人G)が,前示のとおり,B医師は,11月28日の時点で,原告に神経損傷,腱損傷等があることをほぼ確信していたものであり,同日に整形外科を受診させなかったのは,神経損傷等の有無について判断に迷っていたためではなく,血行障害がなければ早期に神経損傷等に対する処置を行っても予後に影響はなく,創の治療が優先すると考えていたためであると解されるから,証人Gの上記証言によっても前記認定は左右されないというべきである。 キ以上のとおりであるから,B医師らには11月28日までに整形外科を受診させるべき注意義務違反があった旨の原告の前記主張は理由がある。 4 争点 言によっても前記認定は左右されないというべきである。 キ以上のとおりであるから,B医師らには11月28日までに整形外科を受診させるべき注意義務違反があった旨の原告の前記主張は理由がある。 4 争点(3)(阻血解消措置を行わなかった注意義務違反の有無)について(1) 原告のフォルクマン拘縮について原告の左前腕にフォルクマン拘縮が発生したと認められることは既に述べたとおりであるが,前示のとおり,フォルクマン拘縮は骨折又は挫傷のように主に非開放性の外傷に続発する血行障害により発生するものであるところ,本件の場合は,ガラスによる切創という開放性の外傷であって,一般的には,コンパートメントの内圧の上昇ということが考えにくいため,本件のように開放性の外傷からフォルクマン拘縮が発生することは珍しいものと解される(証人G)。また,証人Fの証言によれば,本件の場合,受傷時に神経,筋肉等が断裂し,当初から運動障害及び知覚異常が出現していたことから,通常のフォルクマン拘縮の場合と比べて前駆症状の現れ方に変化が少なかったものと認められる。以上によれば,本件で原告に発生したフォルクマン拘縮は,医学文献等で指摘されている通常のフォルクマン拘縮とは異なるものであったと認めるのが相当である。 (2) 被告病院外科の担当医師らの注意義務違反の有無原告は,原告にはフォルクマン拘縮の典型的な前駆症状が認められたから,被告病院外科の担当医師らは,十分な経過観察により,フォルクマン拘縮の可能性を認識して阻血解消措置を採るべき注意義務があったのに,これを怠った旨主張する。 ア原告にみられた症状について(ア) フォルクマン拘縮の症状フォルクマン拘縮の典型的な前駆症状としては,前示のとおり,疼痛,腫脹,橈骨動脈の脈拍消失,手指のチアノーゼ,運動麻痺及び知覚鈍麻過敏などが挙げ みられた症状について(ア) フォルクマン拘縮の症状フォルクマン拘縮の典型的な前駆症状としては,前示のとおり,疼痛,腫脹,橈骨動脈の脈拍消失,手指のチアノーゼ,運動麻痺及び知覚鈍麻過敏などが挙げられる。甲2,3,5,14,15号証及び証人Gの証言によれば,上記のフォルクマン拘縮の前駆症状のうち必ずみられるものは強い疼痛,腫脹及び運動麻痺であり,これらの典型的な症状としては,疼痛は,漸増性で骨折部や損傷部の治療が行われた後も増強し,鎮痛剤の効果はほとんどなく,他動的に手指を伸展すると激痛を訴える(他動伸展時痛)ものであり,腫脹は,皮膚が強く緊張して表面がテカテカと光るほど強く,また,運動麻痺は,疼痛の激烈な数時間が経過した後,手指が屈曲位を呈したまま自動運動が全く不可能となり,更に時間の経過とともに自動伸展も不可能になるという経過で現れるものと認められる。 なお,B医師は,橈骨動脈の脈拍消失がなければフォルクマン拘縮の可能性を考慮する必要はない旨述べる(代表者B)が,前示のとおり,フォルクマン拘縮が発生する場合にすべての前駆症状が常に出現するものではなく,甲3号証,14ないし16号証によれば,手指のチアノーゼ及び橈骨動脈の脈拍消失は主に重症例でみられるものであり,脈拍の消失なくフォルクマン拘縮が発生することも少なくないことが認められるから,手指のチアノーゼ又は脈拍の消失が認められないことから直ちにフォルクマン拘縮の可能性を否定するのは適切でないというべきである。 (イ) 原告にみられた症状と典型的な前駆症状との異同原告は,11月27日の救急外来で切創の縫合処置を受けたころから疼痛が強くなり,傷口が脈を打つようであった痛みが左前腕全体が重くしびれた様な痛みに変化し,その後,同月28日にかけて疼痛が非常に強く,鎮痛剤がほとんど効かなかっ 外来で切創の縫合処置を受けたころから疼痛が強くなり,傷口が脈を打つようであった痛みが左前腕全体が重くしびれた様な痛みに変化し,その後,同月28日にかけて疼痛が非常に強く,鎮痛剤がほとんど効かなかった旨述べている(甲7号証,原告本人)。前示のとおり,原告は,11月27日の救急外来で切創の治療を受けた後,疼痛が増強したため同月28日午前2時20分ころに鎮痛剤ソセゴンの投与(筋肉注射)を受けたものの,同日午前3時30分には再び疼痛を訴えてソセゴンの点滴投与を受け,その後,同日午前7時20分ころに再度疼痛が増強した旨訴えてボルタレン坐薬の投与を受けたが,同日午前8時ころのA医師の診察時には激しい疼痛がある旨訴えていたものであり,以上の経過に,原告の上記供述並びに原告の疼痛に関する証人A及び同Fの各証言等を考慮すると,原告の疼痛は,創部の治療後,鎮痛剤の効果がほとんどないほど増強していたものと認められ,フォルクマン拘縮の典型的な前駆症状とほぼ符合するものであったと認めることができる。もっとも,原告は,11月28日の夜にA医師が原告の左手指を軽く伸ばすような動作を加えた際に痛みを全く感じなかった旨述べている(原告本人)から,他動伸展時痛は認められなかったものと解される。 しかし,原告の腫脹については,「左上肢やや腫脹」(11月28日)等のカルテの記載(乙1号証),腫れが特に著しいとは思わなかった旨の証人Aの証言,血液の灌流が悪いために生じる程度の腫れであった旨の代表者Bの供述,腫脹の程度についてカルテに「+」とのみ記載し「++」又は「+++」とは記載していないからテカテカと光るほどの腫脹ではなかったと思う旨の証人Dの証言及び包帯がきつく感じたことはなかった旨の原告の供述等を総合すれば,本件では皮膚が強く緊張して表面がテカテカと光るほどの腫脹があ いないからテカテカと光るほどの腫脹ではなかったと思う旨の証人Dの証言及び包帯がきつく感じたことはなかった旨の原告の供述等を総合すれば,本件では皮膚が強く緊張して表面がテカテカと光るほどの腫脹があったとまでは認め難いというべきである。 また,運動麻痺については,原告には受傷当初から完全な屈曲及び伸展ができないとの症状が出現していたものであるが,他方,11月28日のA医師及びB医師のいずれの診察時においても左手指の自動運動はある程度可能と判断され,12月2日のD医師の診察時には原告は「熱が下がった夜(乙1号証によれば11月30日を指すものと解される。)は指が動いた。」旨告げており(乙1号証,証人D),また,原告自身も11月28日及び翌29日の時点で左の手指は多少動いた旨述べている(原告本人)から,11月28日以後も手指の自動運動は多少可能であったと認められるのであり,前記の典型的な前駆症状とは必ずしも符合しない症状であったと解される。 以上によれば,救急外来受診後,原告には強い疼痛,腫脹及び運動障害等の各症状がみられたものの,疼痛の増強以外は,必ずしもフォルクマン拘縮の典型的な前駆症状と符合するものではなかったと認めるのが相当である。 イフォルクマン拘縮の可能性を認識すべき注意義務の有無について(ア) フォルクマン拘縮の可能性に対する担当医師らの認識11月27日の救急外来時及び同月28日に原告を診察したA医師は,救急外来時における原告の血圧の下降の程度,指先の色,出血の仕方及びプレショック状態になっていないことなどから主幹動脈の損傷はないと判断していたものであり,また,証人Aの証言によれば,A医師は,救急外来時及び翌11月28日の診察時においてチアノーゼが認められなかったことから血行改善の処置は必要ないと判断し,原告の疼痛はガラスで皮 していたものであり,また,証人Aの証言によれば,A医師は,救急外来時及び翌11月28日の診察時においてチアノーゼが認められなかったことから血行改善の処置は必要ないと判断し,原告の疼痛はガラスで皮膚及び筋肉等が損傷されたことによるもの,腫脹は静脈の灌流が阻害されたことによるもの,及び,知覚障害は打ち身及び創傷によるものと考えていたことが認められる。以上によれば,A医師は,本件当時,原告にフォルクマン拘縮が発生する可能性のあることをほとんど認識していなかったものと認めることができる。 また,B医師は,11月28日の診察時に,原告の左前腕が全体的に腫れぼったいこと,手指の色が多少悪いこと,痛覚が弱いことなどを認識していたものであるが,代表者Bの供述によれば,B医師は,上記の各症状は,ガラス片による創傷及び静脈等の損傷による血液の灌流の悪化が原因であって阻血症状によるものではなく,橈骨動脈の拍動も認められたことからフォルクマン拘縮の可能性を考慮する必要はないと判断していたものと認められる。 (イ) フォルクマン拘縮の可能性を認識すべき注意義務の有無前示のとおり,手指のチアノーゼ及び橈骨動脈の脈拍消失は,フォルクマン拘縮の前駆症状として常に出現するものではないから,これらが認められないことからフォルクマン拘縮の可能性を考慮しなかったB医師らの上記判断は適切でないといわざるを得ない。 しかし,本件のフォルクマン拘縮は,医学文献等で指摘されている通常のフォルクマン拘縮とは異なる珍しいものであり,「原告のフォルクマン拘縮は症状の変化が少ないためにその診断は非常に難しい。」旨の証人Fの証言などを考慮すると,本件においてフォルクマン拘縮の可能性を認識するのは,通常のフォルクマン拘縮の場合と比較してより困難であったと認めるのが相当である。 そして,B医師 非常に難しい。」旨の証人Fの証言などを考慮すると,本件においてフォルクマン拘縮の可能性を認識するのは,通常のフォルクマン拘縮の場合と比較してより困難であったと認めるのが相当である。 そして,B医師及びA医師のいずれも臨床でフォルクマン拘縮の患者を診た経験はないのであり(証人A,代表者B),本件鑑定及び証人Gの証言によれば,整形外科医は卒後教育においてもフォルクマン拘縮については常に注意を促されているが,一般外科医が卒後教育でフォルクマン拘縮を経験することは極めてまれであるとの相違があることが認められるから,B医師ら一般外科医が整形外科医と同様にフォルクマン拘縮の可能性を認識することは期待し難いものと解するのが相当である。 以上に加え,前示のとおり,原告にみられた症状はフォルクマン拘縮の典型的な前駆症状と必ずしも符合するものではなかったのであり,また,本件鑑定でも「一般外科医に予見を期待することは困難であろう。」とされていることを考慮すると,本件において一般外科医がフォルクマン拘縮の可能性を認識することが可能であったとは認め難いというべきであり,したがって,B医師らにフォルクマン拘縮の可能性を認識すべき注意義務まで認めることはできない。 なお,原告は,医療水準を決するに当たっては個々の医師の専門性を殊更重視すべきでなく,一般外科医にとってフォルクマン拘縮が予見不可能であったとしても被告が免責されることにはならない旨主張する。しかし,医療水準は,特定の疾病に対する診療に当たった医師の注意義務の基準とされるものであるから,当該医師の置かれた諸条件の1つとして,当該医師の専門分野をも当然考慮して判断すべきものであり,一般外科医にとって予見することが可能であったと認められない以上,一般外科医である当該医師が予見しなかったことにつき注意義務違反を認 つとして,当該医師の専門分野をも当然考慮して判断すべきものであり,一般外科医にとって予見することが可能であったと認められない以上,一般外科医である当該医師が予見しなかったことにつき注意義務違反を認めることはできず,この場合に当該医師の所属する病院が責任を負うことのないことは明らかであるから,原告の上記主張は採用できない。 ウよって,B医師らにフォルクマン拘縮の可能性を認識した上で阻血解消措置を採るべき注意義務を認めることはできない。 ところで,G鑑定人は,本件において主幹動脈ないしはそれに準じる動脈が損傷されていた可能性もある旨指摘している(証人G)から,フォルクマン拘縮の可能性を認識していない場合であっても早期に阻血解消措置を採るべき注意義務があったか否かについて念のため検討する。 A医師は,11月27日の救急外来時に出血の仕方や原告の症状から主幹動脈の損傷はないものと判断し,また,乙6号証及び代表者Bの供述によれば,B医師は同月28日の診察時に橈骨動脈の拍動を確認しており,掖済会病院入院後の平成10年1月20日時点でも橈骨動脈及び尺骨動脈のいずれの拍動も確認されたことが認められる。なお,G鑑定人は,血管が損傷されても側副血行路によって脈拍が消失しない場合もある旨述べるが,これと同時に,血管が損傷されれば脈拍が消失する場合が多い旨も述べている(証人G)から,橈骨動脈等の拍動が確認された場合にはこれらの血管が損傷されていない可能性が高いものと解することができる。 また,証人Gの証言によれば,主幹動脈に何らかの損傷がある場合は,血行障害による疼痛,皮膚の色調変化,皮膚温の変化又は腫脹などがみられ,これらは血行障害の原因を取り除かない限り持続するものと解されるところ,D医師は,血管,神経及び腱等の損傷の有無を主眼に原告を診察していた(証人D) 皮膚の色調変化,皮膚温の変化又は腫脹などがみられ,これらは血行障害の原因を取り除かない限り持続するものと解されるところ,D医師は,血管,神経及び腱等の損傷の有無を主眼に原告を診察していた(証人D)にもかかわらず,主幹動脈の損傷又は血行障害の可能性についてカルテに何ら記載しておらず(乙1号証),また,掖済会病院のE医師は,12月10日の診察において原告の手指の血行は良好であるとの判断をしている(証人F)。 以上によれば,本件では,主幹動脈ないしはこれに準じる動脈の損傷を疑わせる客観的な所見は認められなかったものと解されるから,仮に何らかの血管損傷により阻血が生じていたとしても,受傷後にみられた原告の症状から動脈損傷があると判断して早急に阻血解消措置を採るべき注意義務まで認めることはできないというべきである。 エ以上のとおりであるから,被告病院外科の担当医師らが阻血解消措置を採らなかった点に関する原告の前記主張は採用できない。 (3) D医師の注意義務違反の有無原告は,D医師は12月2日に原告を診察した時点でフォルクマン拘縮の完成を防止するための阻血解消措置を採るべき注意義務があったのに,これを怠った旨主張する。 前示のとおり,D医師は,12月2日の診察において,原告に対しフォルクマン拘縮の可能性も排除できないと認識したものの,受傷後5日程度経過していたことから,フォルクマン拘縮の急性期の緊急処置として阻血解消措置を採る必要はないと判断したものであり,また,証人Dの証言によれば,D医師は,筋膜切開術等の処置が有効なのはフォルクマン拘縮の前駆症状の発生後,数時間から12時間以内であるとの認識を有していたことが認められる。この点に関し,本件鑑定は,受傷後5日くらいであればフォルクマン拘縮の急性期として扱えるとし,G鑑定人は,受傷後5日程度経過 生後,数時間から12時間以内であるとの認識を有していたことが認められる。この点に関し,本件鑑定は,受傷後5日くらいであればフォルクマン拘縮の急性期として扱えるとし,G鑑定人は,受傷後5日程度経過していても治療による回復は多少期待でき,実際に試みた例もある旨述べており(証人G),また,3日経過例に筋膜切開術が有効であった例もある旨の指摘もある(甲14号証)。 しかし,「理学療法16巻2号」(1999年。甲15号証)には「筋肉の壊死は4ないし12時間,神経変性は12ないし24時間で起こるといわれていることから,フォルクマン拘縮が完成するのに約12時間かかるとみていい。」旨記載され,「手の外科の実際(改訂第6版)」(1999年。甲16号証)には「急性期の処置は症状発生後数時間以内に行われなければならず,24ないし48時間以上も経過すれば,もはや後期療法であって筋の変性を防止することは不可能である。」旨指摘されている。また,G鑑定人は,受傷後5日程度経過した場合でもフォルクマン拘縮の急性期として扱い得るとの知見が,手の外科を専門としない整形外科医(以下「一般整形外科医」という。)にまで普及しているとはいえず,フォルクマン拘縮の症例を臨床で経験することが多くない一般整形外科医としては,48時間以内に対処しなければならないとの医学文献等の記載に従った判断にならざるを得ない旨述べている(証人G)。以上によれば,受傷後5日程度経過した場合であってもフォルクマン拘縮の急性期として扱い得るとの知見が,本件当時に一般整形外科医にまで普及していたものとは認め難いというべきであるから,一般整形外科医であるD医師が,受傷後5日程度経過した場合でもフォルクマン拘縮の急性期として扱うことができ,これに対する緊急処置を行う必要があると判断して原告に対して阻血解消措 というべきであるから,一般整形外科医であるD医師が,受傷後5日程度経過した場合でもフォルクマン拘縮の急性期として扱うことができ,これに対する緊急処置を行う必要があると判断して原告に対して阻血解消措置を採るべき注意義務まで負っていたものと認めることはできない。 よって,D医師が12月2日の時点でフォルクマン拘縮の可能性を認識しながら,緊急に阻血解消措置を採る必要はないと判断したことについて,注意義務違反を認めることはできないから,原告の上記主張は採用できない。 (4) 以上のとおりであるから,争点(3)に関する原告の主張は採用できない。 5 争点(4) (因果関係)について前示のとおり,B医師らには11月28日に整形外科を受診させなかった注意義務違反があるところ,原告には,正中神経及び尺骨神経の各損傷,腱損傷並びにフォルクマン拘縮が主たる原因となって左5手指の著しい機能障害等の後遺障害が発生しているから,B医師らが注意義務を尽くしていれば上記の後遺障害を免れることができたか否かについて,以下検討する。 (1)医師が注意義務に従って行うべき診療行為を行わなかった不作為と患者の後遺障害との間の因果関係の存否の判断においては,医学的知見に関するものを含む全証拠を総合的に検討し,医師が注意義務を尽くして診療行為を行っていたならば患者が当該後遺障害を免れたであろうことを是認し得る高度の蓋然性が証明されれば,医師の上記不作為と患者の後遺障害との間の因果関係は肯定されるものと解すべきである。 (2) ア前示のとおり,本件で原告の神経損傷及び腱損傷に対して一次縫合を行うことが不可能であったとは認められず,また,甲12,13,17,18,20号証及び証人Gの証言によれば,一般的には,一次縫合を行った場合の方が予後が良いものと認めることができるから,11月 合を行うことが不可能であったとは認められず,また,甲12,13,17,18,20号証及び証人Gの証言によれば,一般的には,一次縫合を行った場合の方が予後が良いものと認めることができるから,11月28日に整形外科を受診させていれば,当該整形外科において,又は,手の外科の専門医へ転医の上で,原告の神経損傷及び腱損傷に対して一次縫合が行われたものと推認されるのであり,一次縫合が行われていれば,少なくとも現在の神経損傷及び腱損傷による後遺障害よりは程度の軽い後遺障害にとどまった可能性が高いものと認めることができる。 イまた,前示のとおり,B医師らは,11月28日においても原告が継続して強い疼痛を訴えていたことから,通常の場合とは異なり何らかの疾患発生の可能性もあり得るものとの認識を持つことができたと解されるのであり,また,上記可能性について早期に適切な判断及び対処をするためにも11月28日に整形外科を受診させるべき注意義務があったと解されるところ,本件鑑定並びに証人G及び同Dの各証言によれば,11月28日に原告に整形外科を受診させていれば,直ちにフォルクマン拘縮の発生が予見され,当該整形外科医において,又は手の外科の専門医へ転医の上で,筋膜切開術等の緊急処置が行われたものと推認することができる。 なお,前示のとおり,本件のフォルクマン拘縮が血行障害によるものか,又はコンパートメントの内圧の上昇によるものか,原因を特定することは困難であるが,初期の段階でフォルクマン拘縮を疑って検査していればその原因をある程度特定することは可能であったと解される(証人G)から,11月28日に整形外科医が原告を診察していたならば,フォルクマン拘縮の発生を予見した上で必要な検査を行い,その結果に応じて,筋膜切開術又は血行再建術等の適切な緊急処置を採ることができた 人G)から,11月28日に整形外科医が原告を診察していたならば,フォルクマン拘縮の発生を予見した上で必要な検査を行い,その結果に応じて,筋膜切開術又は血行再建術等の適切な緊急処置を採ることができたものと解することができる。 フォルクマン拘縮は,これが完成すると治療は極めて困難であることから,その発生防止が重要であり,発生防止のための急性期の緊急処置としては筋膜切開術等が有効であるとされている。もっとも,上記の処置については,フォルクマン拘縮の前駆症状の発生後6ないし12時間以内に行われなければならない旨の指摘もある(甲3,16号証)が,甲14号証,本件鑑定及び証人Gの証言によれば,3ないし5日程度経過した場合であっても同処置による症状改善の可能性はあるものと認められるから,前駆症状の発生後12時間以上経過したとしても直ちに同処置による効果が失われるものではないと解することができる。そうすると,本件において,受傷翌日である11月28日に筋膜切開術等の適切な緊急処置が行われていれば,フォルクマン拘縮による後遺障害の発生を完全には防止できなかったとしても,少なくとも現在のフォルクマン拘縮による後遺障害の程度よりは軽減されたものであった可能性が高いと認めるのが相当である。 ウ以上に加え,原告が掖済会病院に転医した時点(平成10年1月13日)では,左手指の各関節可動域の合計が,母指9度,示指13度,中指24度,環指34度,小指21度と正常値(250度程度)の10分の1にも満たないものがほとんどであり,知覚も麻痺した状態であったものが,掖済会病院における専門的な治療及びリハビリによって,症状固定時(平成11年6月24日)には,母指54度,示指108度,中指96度,環指97度,小指114度と正常値の5分の1ないし2分の1程度にまで上記の可動域 ける専門的な治療及びリハビリによって,症状固定時(平成11年6月24日)には,母指54度,示指108度,中指96度,環指97度,小指114度と正常値の5分の1ないし2分の1程度にまで上記の可動域が拡大してトラックの運転も可能となり,小指の知覚も回復したとの機能回復の状況(乙5,14号証,証人F)をも考え併せると,本件において,神経損傷及び腱損傷並びにフォルクマン拘縮に対する適切な治療が早期に開始されていたならば,上記以上の機能回復を得られた可能性は高いというべきであり,現在の後遺障害よりは程度の軽いものにとどまったであろうことを是認し得る高度の蓋然性を認めることができる。 (3) しかし,本件の場合,手指の知覚及び運動機能をつかさどる正中神経及び尺骨神経の各損傷,腱損傷並びにフォルクマン拘縮が主たる原因となって原告に後遺障害が発生したものであるところ,甲17号証によれば,①前腕部で多数の腱及び神経が同時に損傷された場合,縫合が適切に行われないと相互に癒着を生じ,瘢痕の塊となって機能が失われ,神経縫合を正しく行っても知覚及び内在筋(巧緻運動を司る筋)の機能回復が非常に遅れること,②前腕部で腱が損傷されると,中枢端は筋の収縮により中枢側へ,末梢端は虫様筋により末梢に引かれ断端の開きが大きくなること,③屈筋腱損傷に神経損傷を合併していた場合,神経をいかに正しく縫合しても知覚及び運動の回復には数か月を要し,この間に内在筋の麻痺による各種変形が発生し機能的予後が不良となること,④同時に動脈が損傷された場合には手の栄養が障害されて治癒機転も遷延されること等の理由から,前腕部において多数の腱が同時に損傷された場合には予後は必ずしも良好とはいえないものと解される。前示のとおり,本件では,前腕部で多数の腱及び神経が同時に損傷されており,また,多数の こと等の理由から,前腕部において多数の腱が同時に損傷された場合には予後は必ずしも良好とはいえないものと解される。前示のとおり,本件では,前腕部で多数の腱及び神経が同時に損傷されており,また,多数の毛細血管の損傷によって筋肉が阻血状態になっていたことも考え得る(証人F)から,本件の神経損傷及び腱損傷の予後は必ずしも良好とはいい難いものと認められる。 また,本件において,フォルクマン拘縮の発生を防止するための処置として筋膜切開術を施行することが適切であったとしても,「本件では,神経の断裂により当初から筋肉が脱神経の状態になっており,更に毛細血管等の損傷のために筋肉が阻血状態になっているから,筋膜切開術を行ったとしてもフォルクマン拘縮の発生をどの程度防止できたかは不明である。」旨の証人Fの証言によれば,筋膜切開術の施行によってフォルクマン拘縮の発生が防止されたとまでは認め難いのであり,本件鑑定も「フォルクマン拘縮に対し適切な処置を行ったとしても同拘縮の発生を予見させるほどの外傷では後遺障害は免れ得ず,仮にフォルクマン拘縮の発生を予防できたとしても,正中神経及び尺骨神経の各損傷による手指の知覚障害や運動障害が生じる。」などとしている。 以上に加え,本件における予後について,F医師は「前腕部に,母指及び小指の各伸筋腱損傷,母指から環指の各屈筋腱損傷,正中神経及び尺骨神経の各損傷並びに筋肉の損傷という重度の損傷があるから,手の外科の専門医が当初から専門的治療を行ったとしても後遺症が残ることは確かである。」旨述べ(証人F),G鑑定人は「正中神経及び尺骨神経がともに損傷されていれば,フォルクマン拘縮がなくてもかなり高度の後遺障害が生じたと思う。」旨述べている(証人G)ことを考慮すると,本件において,B医師らが注意義務に従い,11月28日に原告に整形外 がともに損傷されていれば,フォルクマン拘縮がなくてもかなり高度の後遺障害が生じたと思う。」旨述べている(証人G)ことを考慮すると,本件において,B医師らが注意義務に従い,11月28日に原告に整形外科を受診させ,その結果,直ちにフォルクマン拘縮の発生が予見されて神経損傷及び腱損傷並びにフォルクマン拘縮に対する適切な治療が早期に開始されていたとしても,相当高度な後遺障害が残った可能性は否定できないといわざるを得ず,原告が後遺障害を免れ,又は相当軽度な後遺障害にとどまったであろうことを是認し得る高度の蓋然性まで認めることはできないというべきである。 (4) 以上によれば,本件において,B医師らが注意義務に従い11月28日に原告に整形外科を受診させていたならば,原告の後遺障害が現在の症状よりは程度の軽いものにとどまったであろうという限度では,原告の現在の後遺障害とB医師らの注意義務違反との間に相当因果関係を認めることはできるが,後遺障害を免れ,又は,相当軽度な後遺障害にとどまったであろうことについてまで相当因果関係を認めることはできないというべきである。 6 争点(5)(損害)について以上の各認定によれば,被告は,B医師らの注意義務違反との間に相当因果関係を認め得る前記の限度で原告に生じた損害を賠償すべき不法行為責任を負うものと認められるから,上記の損害の範囲及び額について検討する。 (1) 入通院慰謝料及び逸失利益について本件では,受傷時に,神経,腱及び筋肉等を同時に損傷し,フォルクマン拘縮も生ずるに至ったこと,前示のとおり,神経損傷と屈筋腱損傷とを合併していた場合には神経縫合を適切に行っても知覚及び運動の回復には数か月を要し,この間に各種変形が発生して機能的予後が不良になり,また,手の栄養が障害されていた場合には治癒機転が遷延されるこ とを合併していた場合には神経縫合を適切に行っても知覚及び運動の回復には数か月を要し,この間に各種変形が発生して機能的予後が不良になり,また,手の栄養が障害されていた場合には治癒機転が遷延されることなどを考慮すると,神経損傷,腱損傷及びフォルクマン拘縮に対する適切な治療が早期に開始されていたとしても,相当長期にわたって掖済会病院における入通院治療を受ける結果となった可能性は高いというべきであり,本件全証拠によっても,掖済会病院での治療期間がどの程度短縮され得たかを確定することはできない。 また,前示のとおり,B医師らが注意義務を尽くしていたとしても,相当高度な後遺障害が残った可能性は否定できないのであり,本件全証拠によっても原告の後遺障害が軽減され得た程度を確定することはできない。 したがって,入通院慰謝料及び逸失利益についてはこれを損害として認定することは困難であるといわざるを得ない。 (2) 後遺障害慰謝料についてB医師らが注意義務を尽くしていても相当高度な後遺障害が残った可能性は否定できないのであり,また,11月28日は被告病院の整形外科の非外来診察日であって,次回の外来診察日である12月2日には被告病院の整形外科を受診させていることなどに照らせば,本件におけるB医師らの注意義務違反の程度が著しいものとまではいい難い。これらの事情を考慮すると,B医師らの注意義務違反と相当因果関係のある後遺障害慰謝料としては,400万円を認めるのが相当である。 (3) 弁護士費用本件訴訟の事案の内容,審理経過,認容額,その他の事情を考慮すると,本件において原告が被告に対し賠償請求し得る弁護士費用は40万円とするのが相当である。 7 結論以上のとおりであるから,原告の被告に対する本訴請求は,440万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成9年1 原告が被告に対し賠償請求し得る弁護士費用は40万円とするのが相当である。 7 結論以上のとおりであるから,原告の被告に対する本訴請求は,440万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成9年11月30日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があるから認容し,その余の請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条,64条を,仮執行宣言につき同法259条をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第4部裁判長裁判官佐久間邦夫裁判官倉澤守春裁判官松田敦子

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