主文 1 本件訴えをいずれも却下する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 被告は、A及びBに対し、3000万円及びこれに対する令和3年11月5日から支払済みまで年3分の割合による金員を連帯して支払うよう請求せよ。 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は、山口県a郡b町(以下、単に「町」ということがある。)の住民であ る原告らが、①町立病院に歯科医師として勤務しているA(以下「本件医師」という。)が、その診療過程において発生した町有財産となる歯科金属スクラップ(以下、単に「スクラップ」という。)を許可なく売却してその対価を領得したこと(以下「本件横領」という。)により(以下、この理由による部分を指して「第1事件」という。)、②町の病院事業管理者(以下、単に「管理者」とい う。)であるB(以下、執行機関として摘示する場合には「被告」という。)が、スクラップを適正に保管するなどの義務に違反したことにより(以下、この理由による部分を指して「第2事件」といい、同事件と第1事件を併せて「両事件」という。)、それぞれ町に損害を与えたとし、被告は、両事件における共同不法行為に基づく損害賠償請求権(以下「本件損害賠償請求権」という。)の行 使を違法に怠ったと主張して、被告に対し、地方自治法242条の2第1項4号に基づき、本件医師(第1事件)及びB(第2事件)に対して連帯して3000万円及びこれに対する令和3年11月5日(不法行為の後の日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を請求するよう求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨に より容易に認められる事実)⑴ の年3分の割合による遅延損害金の支払を請求するよう求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨に より容易に認められる事実)⑴ 当事者等ア原告らは、いずれもb町に居住する住民である(甲1、弁論の全趣旨)。 イ被告(B)は、町の病院等事業の管理者であり、地方公営企業法8条1項により、その職員に対する賠償命令の執行機関とされる者である(乙1、 2)。 ウ本件医師は、平成13年4月以降、町立c歯科(以下「本件歯科」という。)において歯科医師として勤務していた者である(甲10)。 ⑵ 住民監査請求原告らは、令和5年11月22日、町の監査委員に対し、地方自治法24 2条1 項に基づき、被告が違法又は不当に本件損害賠償請求権の行使を怠ったとして、監査請求(以下「本件監査請求」という。)を行ったところ、同監査委員は、令和6年1月18日、本件監査請求を棄却した(甲1)。 ⑶ 本件訴訟の提起原告らは、令和6年2月15日、被告が違法に本件損害賠償請求権の行使 を怠ったとして、本件訴訟を提起した。 3 争点及びこれに対する当事者の主張本案前の争点は、本件監査請求が監査請求前置をみたすか(具体的には、本件監査請求は監査請求期間を徒過しているか、原告らに監査請求をなしえない「正当な理由」(地方自治法242条2項ただし書)があったといえるかであ る。)であり、本案の争点は、第1事件及び第2事件の損害賠償請求の成否である。 ⑴ 本案前の争点について(原告らの主張)両事件とも、本件横領があった日又は終わった日については、町長が本件 損害賠償請求権を行使しない旨を事実上表明した日である令和5年5月17 ⑴ 本案前の争点について(原告らの主張)両事件とも、本件横領があった日又は終わった日については、町長が本件 損害賠償請求権を行使しない旨を事実上表明した日である令和5年5月17 日であると解すべきであり、仮にこれが認められないとしても、本件医師が懲戒処分を受けた日である令和4年12月27日と解するのが相当であるから、本件監査請求は1年の監査請求期間内に行われている。 仮に両事件に係る本件監査請求が監査請求期間を徒過していたとしても、徒過したことにつき、「正当な理由」がある。すなわち、本件は、町の職員ら に対する損害賠償請求権の行使の問題であり、地方公共団体の支出自体に影響を与えないといった事情を踏まえると、本件においては期間制限を厳格に解さなくとも法的安定性を害することはなく、「正当な理由」の有無については可能な限り緩やかに解すべきである。また、本件において、町の住民が客観的に監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在又は内容を知ることが できたのは、町の依頼を受けた顧問弁護士の報告書が提出され(令和4年11月30日)、あるいは、本件医師に対して懲戒処分がされた日(同年12月27日)以降と解するのが相当であり、その時点から本件監査請求までの期間は、監査委員を説得するために必要な資料の入手に要する一般的な期間として是認されるべきであるから、仮に第1事件に係る本件監査請求が監査請 求期間を徒過していたとしても、徒過したことにつき、「正当な理由」がある。 (被告の主張)第1事件においては、違法な行為の具体的な時期は明らかではないものの、怠る事実に係る損害賠償請求権の発生原因たる本件横領があった日又は終わった日は、b町病院事業局(以下、単に「病院事業局」という。)が本件歯科 からス 行為の具体的な時期は明らかではないものの、怠る事実に係る損害賠償請求権の発生原因たる本件横領があった日又は終わった日は、b町病院事業局(以下、単に「病院事業局」という。)が本件歯科 からスクラップを回収した日である令和3年11月5日と解するのが相当である。また、怠る事実(第1の怠る事実)が違法であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実(第2の怠る事実)とした上で、第2の怠る事実を対象とする監査請求がなされたときは、当該監査請求については、第1の怠る事実の終わった日を基準として1年の 監査請求期間の制限に服するものと解すべきであり、終わった日は、病院事 業局が本件歯科からスクラップを回収した日である同日と解するのが相当である。よって、両事件に係る本件監査請求は、監査請求期間を徒過して行われたものである。 原告らは、令和4年9月8日の時点では、自らが情報公開等によって入手した資料や、近隣の歯科医院におけるスクラップの量からの推計によって、 本件歯科において約3000万円分のスクラップが不明になっている事実を現に認識していたのであるから、どれほど遅くとも同日の時点において、客観的にみて監査請求をするに足りる程度に本件医師の財務会計上の行為の存在及び内容を具体的に認識し得たといえ、この時点から約1年2か月後になされた本件監査請求には、「正当な理由」がない。 ⑵ 本案の争点について(原告らの主張)病院事業局は、令和3年11月5日、本件歯科の平成13年4月以降の診療過程において発生し、同歯科が保管するに至ったものとして、約5.5kgのスクラップを同歯科から回収した。しかし、この総量は、平均的な歯科 医院で生じるスクラップの量や、その後の一定の期間 診療過程において発生し、同歯科が保管するに至ったものとして、約5.5kgのスクラップを同歯科から回収した。しかし、この総量は、平均的な歯科 医院で生じるスクラップの量や、その後の一定の期間内に本件歯科で排出されたスクラップの量と比較すると明らかに少量であるから、本件医師が、同歯科が保管していたスクラップを町の許可なく売却し、その対価を領得していたと認められる。そして、本件医院がスクラップを出し始めた平成13年4月から令和3年10月までのスクラップの量は約30Kgと推定でき、そ の間のスクラップの価格は3000万円をくだらない。 このような本件医師の行為は、Bと共に共同不法行為を成立させるものであり、その際の遅延損害金は、スクラップ回収日である令和3年11月5日から発生すると解するのが相当であるのに、被告はかかる損害賠償請求権を行使することを違法に怠った。また、Bは、管理者として、本件歯科の診療 過程において発生したスクラップを適正に保管及び換価する義務を負ってい たところ、このような義務を尽くしていれば、本件医師が本件横領に及ぶことを防止することができたのに、これを怠った。 このようなBの不作為は、本件横領について本件医師と共に共同不法行為を成立させるものであるのに、被告はかかる損害賠償請求権を行使することを違法に怠った。 (被告の主張)争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実(前提事実、後掲の証拠(特記しない限り、枝番のあるものは各枝番を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により認められる事実) ⑴ 本件の端緒a郡歯科医師会会長である原告Cは、令和3年10月1日、病院事業局の職員と会談し、同医師会内で本件医師による不正経理の疑いがあるとして、本件歯科 により認められる事実) ⑴ 本件の端緒a郡歯科医師会会長である原告Cは、令和3年10月1日、病院事業局の職員と会談し、同医師会内で本件医師による不正経理の疑いがあるとして、本件歯科における診療過程で発生したスクラップの売却収入の計上の有無について調査すべきである旨を伝えた。当該職員は、同月18日、原告Cに 対し、本件医師が本件歯科に採用された平成13年4月以降、同歯科にスクラップの売却実績はなく、一度も病院収入に計上していなかったとの調査結果を報告した(乙12、弁論の全趣旨)。 ⑵ 本件歯科に対する調査等ア原告C及び病院事業局の職員数名は、令和3年11月5日、本件歯科を 訪れ、スクラップの所在を調査したところ、同歯科の診療室等から合計5. 5kgのスクラップを発見した。当該職員らは、当該スクラップを回収した。回収されたスクラップの中に、換金性の高い金歯、金冠、金合金は含まれていなかった。(乙12、弁論の全趣旨)イその後に本件歯科における診療過程から発生したスクラップの全てにつ いては、病院事業局がこれらを回収したか、患者に返却された(甲3の2、 4、乙12、弁論の全趣旨)。 ⑶ その後の経過ア Bは、令和3年12月3日、原告Cに対し、本件医師が、同年11月5日に本件歯科から回収されたスクラップ(前記⑵ア)が同歯科内における20年間の貯蓄量であること、金歯や金冠等は全て患者に返却しており、 スクラップを東日本大震災の被災地に寄附したこともあるが、詳細は覚えていないなどと説明している旨を報告した(乙3の4、弁論の全趣旨)。 イ町長は、令和4年2月17日、原告Cを含む者らに対し、スクラップについては規約がなかったので帰属先がなく、本件医師を罪には問 ないなどと説明している旨を報告した(乙3の4、弁論の全趣旨)。 イ町長は、令和4年2月17日、原告Cを含む者らに対し、スクラップについては規約がなかったので帰属先がなく、本件医師を罪には問えないなどと発言した(乙3の4、弁論の全趣旨)。 ウ令和4年6月22日に開議された町議会において、本件歯科におけるスクラップの問題が議題として取り上げられ、町議会議員が、病院事業局ないし管理者である被告に対し、標準的な歯科医院から回収されるスクラップの量や本件歯科の年間診察診療者数に照らすと、同歯科から回収されたスクラップは金額にして5000万円程度不足しているのではないかな どと追及したが、被告は、現状ある量が全てということで判断しているなどと説明した(甲5)。 エ原告Cは、令和4年9月8日、a郡歯科医師会会長名義で、町長及び町議会議長に対し、本件歯科の20年間の総量として回収されたスクラップは、同規模の歯科医院と比べて、量として約15kg、売却益として30 00万円もの差があると指摘した上で、厳正な調査と原因究明を要望する旨を記載した「要望書」を提出した。全国紙の発行主体である株式会社朝日新聞社は、その翌日である同月9日、当該要望書に記載された上記の指摘の内容等を掲載した記事を配信した。(甲6、乙13)オ町長は、令和4年8月頃、町の顧問弁護士に対し、本件歯科におけるス クラップに関する調査を依頼した。当該弁護士は、同年11月30日、本 件歯科において保管されていたスクラップが他の歯科医院と比べて少量であったことから、本件医師が本件歯科に保管されていた町有財産であるスクラップを私的に売却したと断定することはできないものの、本件医師がこれを東日本大震災の被災地に寄附したと認定し 医院と比べて少量であったことから、本件医師が本件歯科に保管されていた町有財産であるスクラップを私的に売却したと断定することはできないものの、本件医師がこれを東日本大震災の被災地に寄附したと認定しても問題ないと考えられ、これは町有財産の不適正処理であって、懲戒処分が妥当である旨を 記載した報告書を作成した。(甲2、弁論の全趣旨)カ病院事業局は、令和4年12月27日、本件医師に対し、同人は、被告の許可なく、病院事業局の財産であるスクラップを東日本大震災の被災地に寄附したとして、懲戒処分を行った(甲8)。 2 本案前の争点について ⑴ 本件監査請求は監査請求期間を徒過しているかについてア地方自治法242条2項は、監査請求の対象たる違法又は不当な財務会計行為があった日又は終わった日から1年を経過したときは監査請求をすることができないものと規定しているところ、財産の管理を怠る事実を対象としてされた監査請求の場合であっても、特定の財務会計行為を違法 であるとし、当該行為が違法、無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって当該怠る事実としているものであるときは、当該監査請求については、当該怠る事実に係る請求権の発生原因たる当該行為のあった日又は終わった日を基準として地方自治法242条2項の規定を適用すべきものと解するのが相当である(最高裁昭和57年(行ツ) 第164号同62年2月20日第二小法廷判決・民集41巻1号122頁、最高裁平成17年(行ヒ)第341号同19年4月24日第三小法廷判決・民集61巻3号1153頁参照)。 本件では、前提事実⑵のとおり、①本件医師が行った本件横領、②Bが本件歯科の業務に伴って発生するスクラップの管理を怠ったことに基づ いて 法廷判決・民集61巻3号1153頁参照)。 本件では、前提事実⑵のとおり、①本件医師が行った本件横領、②Bが本件歯科の業務に伴って発生するスクラップの管理を怠ったことに基づ いて発生する不法行為に基づく損害賠償請求権の違法又は不当な不行使 をもって、財産の管理を怠る事実として本件監査請求が行われているのであるから、地方自治法242条2項の適用があるというべきである。 イ第1事件に係る監査請求期間の起算点について第1事件に係る本件監査請求の対象とされた財務会計行為の発生原因は、平成13年4月頃から令和4年まで(もっとも、具体的にどの時点を終期 としているのかについては判然としない。)の間に行われた本件医師による本件横領である(前提事実⑵、甲1)。 ここで、認定事実⑵アのとおり、病院事業局の職員らが令和3年11月5日に本件歯科のスクラップの所在を調査したところ、本件医師の指示のもと、本件歯科の施設内で合計5.5kgのスクラップが発見され、これ は回収され、その後に同歯科が保管するに至ったスクラップについても、認定事実⑵イのとおり、適宜に回収ないし返還されているものと認められ、また、本件医師が同施設外でスクラップを保管し、同日以降売却したことをうかがわせるような事情は認められない。そうすると、本件医師が本件歯科の治療の過程で出たスクラップを売却した事実(公有財産の処分)が あったとしたとしても、その行為の最終の日は、令和3年11月5日であると認められ、原告らにおいてもその前提で主張している。 よって、被告が第1事件に係る本件損害賠償請求権の行使を怠ったという事実に係る監査請求期間の起算点は、当該怠る事実に係る請求権の発生原因たる本件医師による本件横領の終わった日であ で主張している。 よって、被告が第1事件に係る本件損害賠償請求権の行使を怠ったという事実に係る監査請求期間の起算点は、当該怠る事実に係る請求権の発生原因たる本件医師による本件横領の終わった日である令和3年11月5 日と解すべきである。 ウ第2事件に係る監査請求期間の起算点について第2事件に係る本件監査請求の対象とされた財務会計行為との関係における第1の怠る事実は、Bが本件歯科の業務に伴って発生するスクラップの管理を怠ったことであり(前提事実⑵、甲1)、これに対応する第2の怠 る事実は、当該Bの行為に基づいて発生する不法行為に基づく損害賠償請 求権の不行使である。そして、この第1の怠る事実たるBが管理を怠った行為の終わった日は、上記イで認定説示したところと同様に、令和3年11月5日であると認められる。よって、被告が第2事件に係る本件損害賠償請求権の行使を怠ったという怠る事実に係る監査請求期間の起算点は、令和3年11月5日と解すべきである。 エ原告らの主張について原告らは、本件の監査請求期間の起算点は、Bが、損害額の確定が困難であるために本件医師に対する損害賠償請求を行うことはしていないと回答した令和5年5月17日の時点、又は、本件医師が懲戒処分を受けた令和4年12月27日(認定事実⑶カ)の時点とすべきであると主張する。 しかし、監査請求期間の起算点については、上記に説示したとおりであるうえ、上記の認定事実のほか、本件の証拠から認められるその余の事情に照らしても、原告らが主張する各時点以前において、本件医師が本件横領を行ったことを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権を行使することができなかったと認めるべき事情は認められないのであるから、原 告らの主張は採用できない。 前において、本件医師が本件横領を行ったことを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権を行使することができなかったと認めるべき事情は認められないのであるから、原 告らの主張は採用できない。 オ小括以上のとおりであるから、令和3年11月5日から2年余りが経過した令和5年11月22日にされた第1事件及び第2事件に係る本件監査請求(前提事実⑵)は、監査請求期間を徒過するものと認められる。 ⑵ 争点2(「正当な理由」の有無)についてア判断の枠組み地方自治法242条2項ただし書が定める「正当な理由」の有無は、特段の事情のない限り、普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在及 び内容を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求を したかどうかによって判断するのが相当である(最高裁昭和62年(行ツ)第76号同63年4月22日第二小法廷判決・裁判集民事154号57頁、最高裁平成10年(行ツ)第69号、第70号同14年9月12日第一小法廷判決・民集56巻7号1481頁参照)。 イ 「正当な理由」の有無について 第1事件に係る本件監査請求の対象とされた財務会計行為の発生原因は、平成13年4月頃から令和4年までの間に行われた本件医師による本件横領であるところ、本件横領に関わる経過としては、令和4年6月22日に開議された町議会において、本件歯科におけるスクラップの問題が議題として取り上げられ、町議会議員が、病院事業局等に対して本件歯科か ら回収された当該スクラップの不足を指摘していること(認定事実⑶ウ)のほか、同年9月9日には、全国紙を発行する新聞社が、原告Cの町長に対する当該スク 会議員が、病院事業局等に対して本件歯科か ら回収された当該スクラップの不足を指摘していること(認定事実⑶ウ)のほか、同年9月9日には、全国紙を発行する新聞社が、原告Cの町長に対する当該スクラップの不足に係る指摘や調査、原因究明の要望を掲載した記事にして配信するに至っていること(認定事実⑶エ)が認められる。 こうした本件横領に関わる経過に鑑みると、町の住民である原告らは、 遅くとも、上記の記事が配信された令和4年9月9日までには、相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて監査請求をするに足りる程度に本件医師による本件横領の存在及び内容を知ることができ、また同様にBによる財産の管理の懈怠の存在及び内容を知ることができたと解されるものというべきである。 そして、原告らは、同日から1年2か月余りが経過した後である令和5年11月22日に本件監査請求を行っているのであるが、原告らの中には、本件歯科に対する調査等に携わり(認定事実⑴、⑵ア)、上記の町長に対する指摘や要望をした原告Cが含まれていることや、本件医師による本件横領を理由として監査請求をする際の法的な枠組みの検討の難易にも鑑み ると、かかる期間は、上記アにいう相当な期間内に当たるとはいえず、し たがって、第1及び第2事件に係る本件監査請求が監査請求期間を徒過したことにつき、地方自治法242条2項ただし書が定める「正当な理由」があると認めることはできない。 ⑶ 原告らの主張について原告らは、町の住民が客観的に監査請求をするに足りる程度に本件横領の 存在等を知ることができたのは、町の依頼を受けた顧問弁護士が報告書を提出した日(令和4年11月30日)か、本件医師に対して懲戒処分がされた日(同年12月27日)といった 足りる程度に本件横領の 存在等を知ることができたのは、町の依頼を受けた顧問弁護士が報告書を提出した日(令和4年11月30日)か、本件医師に対して懲戒処分がされた日(同年12月27日)といった時点以降であって、それらの時点から監査請求に至るまでは、監査委員の説得に必要な資料の入手に要する一般的な期間であると主張する。 しかし、そもそも、監査請求においては、対象とする当該行為等を他の事項から区別して特定認識できるように個別的、具体的に摘示すれば足り(最高裁平成元年(行ツ)第68号同2年6月5日第三小法廷判決・民集44巻4号719頁参照)、当該行為等の存在や違法性又は不当性を裏付ける資料の証拠力の有無は、監査において初めて明らかになるものであって、監査請 求時に厳密な違法性等の立証まで要求されていないものと解するのが相当である。しかるところ、住民において当該行為の違法性等の有無を判別し得る手掛かりを全く欠いていた場合は格別、監査委員を説得するための資料の収集に要する期間を「正当な理由」の有無の判断において過大に考慮すべきではない(そして、本件においては、原告らが令和4年9月9日時点でその違 法性等の有無を判別し得る手掛かりを全く欠いていた状況にあったとは認められず、かえって、原告Cは、同日までに、本件歯科から回収されたスクラップの量が同規模の歯科医院と比べて少量であるとの指摘をなし得ている(認定事実⑶エ)。)。 なお、原告らが主張する時点である令和4年12月27日を前提としたと しても、同日から本件監査請求までに11か月余りを要しているのであって、 これが上記⑵アにいう相当な期間内に当たるともいえない。 したがって、上記の原告らの主張は、採用できない。 3 まとめこれまでの 求までに11か月余りを要しているのであって、 これが上記⑵アにいう相当な期間内に当たるともいえない。 したがって、上記の原告らの主張は、採用できない。 3 まとめこれまでの検討によれば、両事件に係る本件監査請求はいずれも、監査請求期間を徒過してされたものであり、その徒過したことに「正当な理由」がある とは認められないのであるから、不適法な監査請求であったといえる。 しかるところ、本件訴えはいずれも、適法な監査請求を経ずに提起された不適法な訴えである。 なお、本件監査請求においては、監査委員は、監査請求としての形式的要件を満たしていると解した上で、これを棄却しているが、かかる監査委員の判断 の存在によっては上記の結論は左右されない(最高裁昭和62年(行ツ)第76号同63年4月22日第二小法廷判決・集民154号57頁参照)。 第4 結論以上によれば、その余の点を判断するまでもなく、本件訴えはいずれも不適法であるから、いずれも却下することとし、主文のとおり判決する。 山口地方裁判所第1部裁判長裁判官秋信治也 裁判官石本慧 裁判官小西大地
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