平成15(ネ)91 損害賠償請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成15年12月25日 広島高等裁判所 広島地方裁判所 平成12(ワ)361
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判決文本文22,601 文字)

主文 1 本件控訴(当審において拡張された請求を含む。)を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して6743万3828円及びこれに対する平成10年8月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (控訴人は,当審において,被控訴人広島市に対する請求を拡張した。)第2 事案の概要 1 事案の概要は,次のとおり付加,訂正するほかは,原判決「第2 事案の概要」に同じであるから,これを引用する。 2 控訴人の被控訴人広島市に対する請求の拡張に伴う原判決の訂正(1) 原判決15頁25行目を削除する。 (2) 原判決15頁26行目の「(ア)」を「ア」と,16頁1行目の「(イ)」を「イ」と,同頁2行目の「(ウ)」を「ウ」と改める。 (3) 原判決16頁3行目から10行目までを削除する。 (4) 原判決16頁11行目の「(イ)」を「エ」と,同頁15行目の「(ウ)」を「オ」と,同頁18行目の「(エ)」を「カ」と改める。 3 当審における当事者の主張(1) 控訴人ア A教諭の過失仮に本件においてA教諭が,部員を長時間待機させるのは良くないと思って現場にいてドングリ投げを見ていた場合において,ドングリ投げ自体に危険性はないと判断し漫然とこれを放置した結果本件事故が発生していたとしたら,A教諭に過失が認められるものと思われる。これに対して,漫然と待機場所を離れて本部席に行き雑談をしていて本件事故が発生した場合において,A教諭に過失が認められないとするのは,矛盾である。中学生である野球部員らに対して,何ら具体的な指示を与えることなく,長時間にわたって同じ待 本部席に行き雑談をしていて本件事故が発生した場合において,A教諭に過失が認められないとするのは,矛盾である。中学生である野球部員らに対して,何ら具体的な指示を与えることなく,長時間にわたって同じ待機場所に待機させておけば,部員らが待機することに飽きたり,対外試合で学校外に出たことで開放的な気分になって,悪ふざけをする可能性は十分に考えられたのであるから,A教諭としては,離れる前に具体的な注意をするとか,待機場所を見通しの良い場所にするとか,キャプテン等に何らかの指示を出すとか,時折戻るとか,戻らないまでも本部席から少し移動して時折動静をうかがったりするとか,ウォーミングアップの指示を聞きに来た生徒にクラブ員の様子を確認するとかの行為をすべきであった。 それにもかかわらず,A教諭は待機時間中1回も待機場所に赴かず部員らの動静に注意を払わなかったのであるから,A教諭には本件事故発生について,責任がある。 イ報告義務公立中学校の設置者と生徒の親権者は,一定の法律関係(在学関係)にあり,そのような関係に付随して,設置者は信義則に基づき,学校やこれに密接に関係する生活関係における生徒の行状やそれに対する指導内容について親権者の求めに対して,あるいは,学校側から教育的配慮の下,必要に応じて親権者に対して報告すべき義務を負うというべきである。特に中学校は生徒らに対して安全保持義務を負っているのであるから,生徒の生命,身体,精神等に重大な影響を及ぼす事態が発生した場合には,事態の状況や,その原因,経緯,学校がどのような対応をとったかなどについて,親権者に対して報告義務を負っているものと解するのが相当である。 控訴人の親権者は,被控訴人広島市から本件事故に関してだれが加害者であるのか,どのようにして加害行為が行わ たかなどについて,親権者に対して報告義務を負っているものと解するのが相当である。 控訴人の親権者は,被控訴人広島市から本件事故に関してだれが加害者であるのか,どのようにして加害行為が行われたのか,学校側としてどのような調査をし,その結果がどうであったのか,正式に何らの回答を得ていない。教育委員会に対する報告書も本件裁判になり初めて見た。A教諭が事件後生徒に書かせたメモについても提出されていない。 親権者としては,これらに対する調査手段をもっておらず,このため,加害生徒に対する損害賠償請求も不可能になった。仮にその因果関係が認められないとしても,被控訴人広島市が報告義務を怠った結果,控訴人は精神的苦痛を被ったのであるから,控訴人は被控訴人広島市に慰謝料請求をなし得る。 (2) 被控訴人広島市ア本件における具体的予見可能性の判断は,ドングリ投げが行われる可能性も含めて,総合的に判断されるものであり,ドングリ投げをしている状態が何らかの事故が生じる危険性が具体的に予見可能であるような特段の事情に当たるとの控訴人の主張は失当である。 イ本件においては,訴え提起前においても,学校,控訴人宅等において,話合いの機会を設け,事故の概要や経緯等についての報告を,図面(甲1)を示すなどして控訴人らに対し行っている。被控訴人広島市に,控訴人主張のような報告義務違反はない。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も控訴人の本訴請求はいずれも理由がないから棄却すべきものと判断する。その理由は,次のとおり付加するほかは,原判決「第3 争点に対する判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。 2 当審における控訴人の主張に対する判断(1) A教諭の過失控訴人は,A教諭が,現場にいてドングリ投げを見ていたにもか 争点に対する判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。 2 当審における控訴人の主張に対する判断(1) A教諭の過失控訴人は,A教諭が,現場にいてドングリ投げを見ていたにもかかわらず,漫然とこれを放置した結果,本件事故が発生した場合には,その過失が肯定されると思われるのに,用事がないのにほかの場所にいて,漫然と生徒らを放置している間に本件事故が発生した場合に過失が認められないというのは,矛盾しており,A教諭には,生徒らの動静を確認する行動をとらなかった過失があり,本件事故発生について責任があると主張する。 しかしながら,本件事故は,クラブ活動の性質・内容とは関係のない待機時間中の生徒間の悪ふざけ,いたずらに起因する事故であるから,当時の具体的状況にかんがみて,野球部員らを待機場所で待機させることによって何らかの事故が発生する具体的な可能性を予見できる特段の事情がない限り,顧問・引率のA教諭が野球部員らの動向を常時監視・監督していなかったとしても,安全配慮義務を怠った過失があると評価することはできない。原判決認定の事実(原判決22頁5行目から23頁16行目まで)によれば,野球部員らは,対外試合で学校外に出掛けた経験が比較的多く,その際,本件事故以前にはA教諭やキャプテン・副キャプテン等の指導・注意等により部員や他人にけがをさせるような問題行動を起こしたことがなく,本件事故の前日にも同じ待機場所で待機させたが格別の問題は生じなかったこと,待機場所は部員らがけがをする危険があるような構造物などはなかったというのであるから,A教諭において,ドングリ投げが行われて,本件事故のような事故が発生すると予見することが可能であったとはいえず,上記特段の事情があったと認めることはできない。したがって,A教諭に,生徒の動静を ら,A教諭において,ドングリ投げが行われて,本件事故のような事故が発生すると予見することが可能であったとはいえず,上記特段の事情があったと認めることはできない。したがって,A教諭に,生徒の動静を確認すべき義務はなく,同人に過失はない。 (2) 報告義務についてB中学校の設置者である被控訴人広島市は,信義則に基づき,生徒の生命,身体,精神等に重大な影響を及ぼす事態が発生した場合には,事態の状況や,その原因,経緯,学校がどのような対応をとったかなどについて,親権者に対して報告義務を負っているといえる。 証拠(甲1,乙4,証人A(原審))及び弁論の全趣旨によれば,A教諭らは,本件事故後10日から2週間程度,野球部員から話を聞くなどし,本件事故後原因等を調査するとともに,その調査結果に基づいて図面(甲1)を作成して,これを示して控訴人親権者に説明したことが認められる。上記事実によれば,被控訴人広島市は,上記説明義務を果たしているものといえる。なお,控訴人は,教育委員会への報告書や,A教諭が野球部員に書かせたメモを見せてもらってないことをもって,報告義務が尽くされていないと主張するが,報告義務としては,調査した内容を伝えることで足り,教育委員会への報告書や調査の過程で得たメモ自体を示すことは必要ない。 3 よって,控訴人の本件控訴を棄却し,主文のとおり判決する。 広島高等裁判所第4部裁判長裁判官草野芳郎裁判官廣永伸行裁判官山口浩司(参考原審判決) 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は甲事件,乙事件とも原告の負担とする 裁判官山口浩司(参考原審判決) 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は甲事件,乙事件とも原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 甲事件甲事件被告(以下「被告広島市」という。)は,原告に対し,金2235万3586円及びこれに対する平成10年8月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 乙事件乙事件被告ら(以下「被告生徒ら」という。)は,原告に対し,連帯して金6743万3828円及びこれに対する平成10年8月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,原告の所属する広島市立B中学校(以下「B中学」という。)野球部が野球大会に出場すべく学校外の会場に赴いた際,会場付近の公園内で待機中に,同じく野球部員である被告生徒らが原告に向けて投げたドングリが原告の右眼に当たり,原告が右眼角膜穿孔と外傷性白内障の傷害を負い,視力低下・調節障害等の後遺障害が残ったとして,原告が,B中学を開設している被告広島市に対しては,野球部の引率教諭らに安全配慮義務違反があったとして国家賠償法1条1項に基づき,被告生徒らに対しては共同不法行為(民法719条1項)に基づき,それぞれ損害賠償を請求している事案である。 1 争いのない事実等(1) 当事者等ア原告原告(昭和61年2月12日生)は,CとDとの間に生まれた子であり,平成10年8月26日当時,B中学の1年生で同校の野球部に所属していた。 イ被告広島市被告広島市は,B中学を開設している地方公共団体である。 ウ A及びEA(以下「A教諭」という。)及びE B中学の1年生で同校の野球部に所属していた。 イ被告広島市被告広島市は,B中学を開設している地方公共団体である。 ウ A及びEA(以下「A教諭」という。)及びE(以下「E教諭」という。)は,B中学の教諭であり,野球部の顧問であった。日頃の野球部の指導及び監督は主にA教諭が担当し,E教諭は補佐的に指導していた。 エ被告生徒ら被告生徒らは,平成10年8月26日当時,原告と同じくB中学の生徒であり同校の野球部に所属していた。 (2) 事故の発生ア B中学野球部は,平成10年8月26日,広島市中学校総合体育大会の2回戦の試合に出場するため,広島市F区のG公園野球場に向かった。 原告ら1,2年生より前に出発した2,3年生の第1陣が先にG公園に到着し,A教諭は,前日も部員を待機させていた木陰の場所(以下「待機場所」という。)が空いていたので,そこで待機しておくよう指示し,自らは他校の試合を見たり,他校の顧問や大会関係者と情報交換したり,当日の試合の進行状況を把握するため,大会本部席へ移動した。 原告ら第2陣は,A教諭の指示により,野球大会の応援のため,午後1時ころに同公園内に到着し,待機場所で第1陣の部員らと合流した。 当日のB中学野球部員の参加人数は総勢で36名であり,E教諭は第2試合で塁審を務めるため,部員らとは別に早朝から同公園内の野球場に行っていた。また,別途,部員の保護者5名が応援のために自家用車で同公園に来ていた。 イ B中学野球部の出場する試合は,当初午後2時30分開始の予定であったが,前の試合が予定より遅れていたため,A教諭は,午後1時15分ころ,同教諭の指示を仰ぎに本部席へ来た生徒に,前の試合が遅れているのでウォーミングアップをせず ,当初午後2時30分開始の予定であったが,前の試合が予定より遅れていたため,A教諭は,午後1時15分ころ,同教諭の指示を仰ぎに本部席へ来た生徒に,前の試合が遅れているのでウォーミングアップをせずに待機しておくよう指示した。 ウ野球部員は,待機中は木陰で休んだり話をしたり,同公園内で遊んだりしており,中にはグラウンド周辺に行き試合を観戦していた者もいたが,午後1時20分ころから,野球部員の中にドングリを他の部員に投げる者がおり,誰かが投げたドングリが原告の右眼に当たった(以下「本件事故」という。)。 (3) 本件事故後の対応ア本件事故の発生時,A教諭は,本部席で前試合を観戦していた。本部席と待機場所の間には植え込みがあって,本部席から待機場所は見通しがきかない状況であった。 同行していた保護者は,原告にどうしたのかと尋ね,午後2時5分ころ,試合が終わって本部席に戻ってきたE教諭に,本件事故の発生を知らせた。 イ午後2時10分ころ,E教諭から連絡を受けたA教諭が待機場所に戻り,原告から2mくらい離れて指を2本立て,「これが見えるか。」と尋ねたが,原告には見えないようであったので,A教諭はE教諭と相談し,試合が始まるので保護者に原告を病院に連れて行くよう頼んだ。 ウ原告がH眼科に到着したのは午後2時30分ころであったが,同病院が午後3時まで休診中であったため看護婦の応急処置を受けてそのまま待ち,午後3時に医師の診察を受けた。しかし,元どおりの視力には戻らない恐れがあり,緊急手術が必要であるとの診察結果であったので,I病院に連絡を取ってもらい,同病院で緊急手術を受けた。 A教諭は,試合開始後はベンチに入ったが,2回裏の途中で保護者から原告の病状の報告を受け,直ちにH眼科に行き,その後原告に付 たので,I病院に連絡を取ってもらい,同病院で緊急手術を受けた。 A教諭は,試合開始後はベンチに入ったが,2回裏の途中で保護者から原告の病状の報告を受け,直ちにH眼科に行き,その後原告に付き添ってタクシーでI病院に赴いた。 2 争点(1) 被告生徒らの共同不法行為の成否(原告の主張)ア本件事故当日の午後1時15分ころまでは,野球部員は待機場所でじっと待機していたが,それに飽きたため,午後1時20分ころから被告生徒らを含む2,3年生を中心にドングリを投げ合うようになった。原告は,このドングリ投げには加わらず,指示どおりに待機していた。 午後1時50分,原告が待機場所で座っていたベンチから立ち上がり歩きかけたところへ,「Cをねらえ。」との声とともに,それまで相互にドングリ投げをしていた被告生徒らは,意思を通じて一斉に原告を狙ってドングリを投げ出した。何個かのドングリがその声に対して振り向いた原告の肩などに当たり,そのうち1個が原告の右眼に当たった。 そのうち,少なくとも原告から3ないし5m程度の位置にいた被告生徒らが原告めがけてドングリを投げていたのは間違いないが,誰の投げたドングリが原告の眼に当たったかは定かではない。 イ被告生徒らが直接原告の眼を狙ってドングリを投げたかは不明だが,少なくとも原告の体にぶつけようという意思はあったというべきであり,故意があった。仮に故意がないとしても,被告生徒らは野球部員であり,常に送球の練習をしていて一般人よりもスピード及びコントロールに秀でており,原告の体のどこかに強く当たる可能性が高く,ドングリとはいえその先端は鋭くとがっていて,それが眼に当たった場合には重度の傷害が生じることは容易に想像できた。 したがって,被告生徒らは,ドングリ の体のどこかに強く当たる可能性が高く,ドングリとはいえその先端は鋭くとがっていて,それが眼に当たった場合には重度の傷害が生じることは容易に想像できた。 したがって,被告生徒らは,ドングリが原告の右眼に当たって傷害を負わせることを十分予測できたにもかかわらず,原告に向けてドングリを投げ,結果的に眼に傷害を負わせた過失がある。 (被告生徒らの主張)ア被告生徒らがドングリ投げをしていたこと自体は認めるが,被告J以外は「Cをねらえ。」との声を聞いたことはなく(同被告はお茶を飲んでいる際に声を聞いたが,さして意識することもなく異変に気付かなかった。),原告の存在自体を認識していない状態であり,原告を狙ってドングリを投げたことはない。被告生徒らは,それぞれがドングリを投げ合っていたのであり,何者かの投げたドングリが原告の眼に当たった行為と被告らがドングリを投げ合っていた行為はあくまでも別個のもので,被告らには,原告の傷害という結果に向けられた共同の行為はなく,共同不法行為が成立する余地はない。 イ過失責任が成立するためには予見可能性が必要であるが,被告らが投げたのは,それ自体何ら危険性のないドングリであり,何者かの投げたドングリが原告の眼に当たり視力が低下するなどは,予見が不可能である。 (2) 安全配慮義務違反の有無ア安全配慮義務の内容(原告の主張)(ア) 被告広島市の義務生徒が市立中学校に在学する場合の在学関係は,生徒と当該中学校の設置者である被告広島市との間の契約に基づいて成立するものであり,その法律関係は,私立学校に在学する場合の契約関係と基本的には異ならない。 よって,被告広島市には,在学契約の付随義務として,学校教育の際に生じうる危険が生徒の生命身体 立するものであり,その法律関係は,私立学校に在学する場合の契約関係と基本的には異ならない。 よって,被告広島市には,在学契約の付随義務として,学校教育の際に生じうる危険が生徒の生命身体に及ばないよう,万全の物的,人的設備及び環境を整備し,生徒の安全を保護するために必要な措置をとるべき義務を負っている。 (イ) A教諭の義務A教諭は,被告広島市の履行補助者として,あるいは学校教育に携わる公務員として,学校教育における体育指導の際には,体育の練習が常に危険を伴うことに鑑み,事故が発生しないよう常に生徒の動静を把握し監視を怠ることなく指導すべき義務を負っていた。 また,思慮未熟な年代の生徒は,自校を離れた対外的な試合というだけで自校内の練習中の緊張から解放され,教諭の目の届かないことをよいことに放恣な行動に出がちであるから,生徒を引率して対外試合に臨む場合には,このような生徒の心理を洞察し,待機を指示するに際して,生徒が開放的な気分となり投石等の危険な行動をとらないよう厳重に注意する義務があり,待機場所の選定にもそのような危険のない場所を選定する必要があるとともに,自己の視線の届く範囲内の地点に限定し,かつその指示に反していないか絶えず生徒を監視し,投石等をした場合には直ちにやめさせる義務があるというべきである。 また,全体について注意が行き届きにくい場合に備えて,事故発生の危険がある場合は直ちに連絡を取らせる体制をとるなどして,全生徒を常時掌握・監督し,事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるというべきである。 引率教諭の人員についても1人ではなく複数にする義務があったというべきである。 (ウ) 58年判例についての被告広島市の主張に対する反論a 被告広島市は,最高 るというべきである。 引率教諭の人員についても1人ではなく複数にする義務があったというべきである。 (ウ) 58年判例についての被告広島市の主張に対する反論a 被告広島市は,最高裁判所昭和58年2月18日第二小法廷判決(以下「58年判例」という。)を引用し,何らかの事故の発生する危険性を具体的に予見することが可能であるような特段の事情のある場合は格別,そうでない限り顧問の教諭としては個々の活動に常時立会い監視指導すべき義務まで負うものではないと主張する。 しかし,学校事故に関しては,種々の形態があり得るのであり,この58年判例を本件に機械的に当てはめ被告広島市の責任を否定することは妥当でなく,顧問教諭の立場,置かれている状況を基にして,結果発生の蓋然性,予見可能性の程度,結果回避の容易性等諸般の事情を総合的に検討して,作為義務の判断をなすべきである。 そして,本件の特殊性を考えれば,仮に58年判例の基準を前提に,危険の具体的な予見可能性がなくクラブ活動の顧問が常時部活動に立会い監視指導すべき義務はないとしても,クラブ活動の顧問としては,何らかの事故発生の危惧感を抱き,安全配慮義務の一環として適宜,せめて20分に1回でも部員の動静を観察すべきであったし,それは容易に可能であったのである。それを行っていれば部員らがドングリ投げをしていることを認識できたであろうし,その危険性を認識し,これを制止することによって本件事故を防止することはできたはずである。 b 最高裁判所昭和59年2月9日判決(以下「59年判例」という。)は,集団暴行が体育授業時間内から終了時にかけて教諭の監視しうる場所で公然と多数の生徒によって行われた事案で,同教諭にはかかる集団暴行を発見してこれを制止し,被害生徒の身体 「59年判例」という。)は,集団暴行が体育授業時間内から終了時にかけて教諭の監視しうる場所で公然と多数の生徒によって行われた事案で,同教諭にはかかる集団暴行を発見してこれを制止し,被害生徒の身体に対する安全を保持すべき義務を怠った過失があると判示しており,本件は,59年判例の判断基準に従えば,過失が認められるというべきである。 (被告広島市の主張)(ア) 本件事故は,課外活動である野球部活動の一環として対外試合に参加するため,試合開始前に待機場所で待機していたときに発生したものである。課外の部活動は,学校教育活動の一環として行われるものではあるが,主として放課後に行われ,特に希望する同好の生徒によって行われる活動であり,生徒の自主性を尊重すべきものであるから,その顧問の教諭は,当該部のキャプテンやこれを補佐する上級生らが中心となって自主的に部活動を運営,実施するなどの生徒らによる自主的活動が健全に行われるよう指導・監督する立場にある。 したがって,本件のような場合,何らかの事故発生の危険性が具体的に予見可能であるような特段の事情のある場合は格別,そうでない限り,個々の活動に常時立会い,監視指導すべき義務までを負うものではない(58年判例参照)。 (イ) 58年判例は,顧問教諭が立会い監視・指導すべき義務の存否については,結果の具体的な予見可能性の有無を基準に判断すべきとしている。したがって,課外クラブ活動において,何らかの事故発生の危険性が具体的に予見可能であるような特段の事情がない場合に,顧問教諭がどの程度まで立会い,監督・指導すべきかということは問題にはならない。そして,ここにいう特段の事情は,原告が主張するような「何らかの事故発生の危惧感」という漠然としたものではなく,事故発生がある程度確 程度まで立会い,監督・指導すべきかということは問題にはならない。そして,ここにいう特段の事情は,原告が主張するような「何らかの事故発生の危惧感」という漠然としたものではなく,事故発生がある程度確実視できる特別の事情が存在する場合をいうと解すべきである。よって,原告の主張は妥当ではない。 (ウ) 原告は,58年判例と59年判例を比較し,本件事案に59年判例の判断基準を当てはめれば,顧問教諭の過失は認定されると主張する。 しかしながら,58年判例は課外クラブ活動中に発生した事件であるのに対し,59年判例は自習時間中ではあるが体育授業時間内から終了時にかけて発生した事件という点で異なっているものであるから原告の主張は妥当ではない。 けだし,学校事故における学校側の注意義務は,その時間や場面により異なるものであり,正課授業中の生徒は教師の指導に服することになるので,課外活動,休憩時間,放課後等と比べて学校側の注意義務は高度なものとなり,しかも,自習時間ではあるが危険な動作等により事故が発生しやすい鉄棒という種目を生徒に指示している場合には,学校側の注意義務はより高度なものとなる。一方,課外クラブ活動は,正課授業とは異なり,主として放課後に,特に希望する同好の生徒によって行われる活動であるため,生徒の自主性を尊重する必要があることから,顧問が立会い監視指導すべき義務の成立する範囲も具体的な予見可能性の有無を基準に制限されるのである。 以上のとおり,両判例は,事故が発生した時間や場面が異なっており,また,教諭に求められる注意義務の程度も異なる事案であるから,59年判例の判断を課外クラブ活動中に発生した本件事故に当てはめることは妥当ではない。 イ義務違反の存否(原告の主張) 諭に求められる注意義務の程度も異なる事案であるから,59年判例の判断を課外クラブ活動中に発生した本件事故に当てはめることは妥当ではない。 イ義務違反の存否(原告の主張)(ア) 本件事故は,多人数の部員が一斉に原告に向かってドングリを投げたものであるが,それが眼に当たる可能性,ひいては失明の危険性を有することは明らかであり,特にドングリは先端がとがっており,投石と同じかそれ以上に危険なものともいえる。このドングリ投げは午後1時5分ないし20分ころから始まっており,本件事故は午後1時50分ころに発生したのであるから,約30分ないし45分間にわたり行われていた。さらに前日にもドングリ投げは行われていた。 よって,顧問としては,事故が発生しないように部員の動静を把握する義務があったのであり,20分に1回でも部員の動静を自らが離れたところから観察するか,部員に定期的に報告させる等して把握すべきであったし,それは容易に可能であった。現に午後1時15分に部員の1人が指示を仰ぎに来たのであるから,その者に部員の状況を確認することは可能であった。 にもかかわらず,A教諭は,事故後15分経過した午後2時5分まで全く部員らから離れており,この間本部席にいて対戦相手となる可能性のある学校の試合の様子を見たり,当日の試合の進行状況を把握したり,他校の顧問や大会関係者との情報交換をしたりしていたのである。このA教諭の行為が全く無意味なものとはいわないが,前述した安全配慮義務との関係で部員らの動静に全く注意を払えないほどの用件ではない。 (イ) この点,被告広島市は,見通しが悪く周囲がざわついていて部員がドングリ投げをしているのを確認することは不可能だったとするが,待機場所まで移動しても1分もかからない どの用件ではない。 (イ) この点,被告広島市は,見通しが悪く周囲がざわついていて部員がドングリ投げをしているのを確認することは不可能だったとするが,待機場所まで移動しても1分もかからない距離であるし,見通しのよいところまで移動するのであれば10秒くらいのものであり,さらに,本来見通せるような場所に待機させるべきであったのであるから,見通しの悪い場所に待機させたこと自体が過失というべきものである。 また,被告広島市は,中学生について,相当程度の判断力と自制力を有し,危険性の認識やその回避について相応の経験,判断力が備わっているとするが,中学生に関しては,未だその判断能力,自立能力は不十分であるというべきである。まして思慮未熟な年代の中学生は,自校を離れた対外試合というだけで緊張から解放され教諭の眼の届かないのをいいことに放恣な行動に出がちである。現に,本件においては,人に向けて投石と同じようなドングリ投げが行われているのである。A教諭は,待機という指示だけで部員らに実際の練習やウォーミングアップ等の課題を与えていないのであり,中学生という年齢の子供に長時間じっと待機せよという指示自体が無理なことである。 さらに,被告広島市は,B中学野球部の生徒らはこれまで何度も対外試合に参加し待機するという経験もしていたが,その際何らの問題も生じたことはなかったとするが,これまで幸いにも偶々事故が起きなかっただけであり,予見可能性を否定する理由にはならない。 (ウ) 以上より,A教諭は,禁止事項を明確にすることなく,待機時間も指示せず,その間の監視体制を整えることなく,生徒を自己の視線の届かない場所に待機させ,その間生徒たちが待機しているか見届けることもなく,漫然と待機を指示し,生徒たちに開放感を与えすぎた結 機時間も指示せず,その間の監視体制を整えることなく,生徒を自己の視線の届かない場所に待機させ,その間生徒たちが待機しているか見届けることもなく,漫然と待機を指示し,生徒たちに開放感を与えすぎた結果,本件事故を発生させたのであり,十分な措置を講じていれば本件のような事故が発生することは避け得たものであるから,A教諭には,本件事故発生について過失があったものというべきである。 よって,被告広島市は,国家賠償法1条に基づく責任を負う。 (被告広島市の主張)(ア) 相当程度の判断力と自制力を有し,危険性の認識やその回避について相応の経験,判断力が備わっている中学生である部員らが,何ら危険物のない公園内で待機するにあたって,人の生命,身体に危険を及ぼすようなこと,ましてや本件のような事故を惹起するとは通常は予測できない。部員らは,これまで何度も対外試合に参加し,待機するという経験もしていたが,その際何ら問題が生じたことはなかった。野球部は規律を持って部活動を行ってきたからこそ,その結果として本件事故と同種,類似の事故等は生じていなかったのである。 本件事故は,それだけでは何ら危険性を有しないドングリを投げ合い,そのドングリが眼に当たり負傷したという極めて偶発性の高い事故である。そして,本件待機場所は,前日も待機場所とした場所であり,公園内の木陰の快適かつ安全性も十分確保されている場所であった(乙2)。A教諭は,本件事故の前日に待機場所で部員らと一緒に昼食をとっており,部員らを待機させるのにふさわしい快適かつ安全な場所であることを実際に確認していた。 また,待機場所にはドングリのなる木はなく,待機場所の地面にドングリの実は落ちていなかった。本件で投げられたドングリは,2年生部員が自宅に持っ 全な場所であることを実際に確認していた。 また,待機場所にはドングリのなる木はなく,待機場所の地面にドングリの実は落ちていなかった。本件で投げられたドングリは,2年生部員が自宅に持って帰るために,待機場所から約30m離れた場所に行って拾い集めてきたものであった。仮に本件事故の前日にも小規模なドングリ投げがあったとしても,そのことをA教諭は認識しうる状況になかった。 さらに,本件事故は,練習方法や競技中のルールを誤れば危険を伴う可能性のあるスポーツの練習中や試合中に発生したものではなく,試合前の待機中に発生したものであり,待機するという行為そのものに何らの危険性も認められない。 本部席にいたA教諭は,グラウンド側を向いて待機場所を背にしていた。本部席から待機場所までは約40mあり,植え込みに遮られ見通しがきかず,さらに,本件事故の当日は本部席周辺には他校の選手,保護者及び大会関係者らが集まり,人の出入りも多く,ざわついている状況であった。よって,A教諭がドングリの投げ合いに気づくことは不可能であった。 以上から,A教諭は,本件事故の発生を予測できず,ドングリを投げないようにと注意をする等の指導・監督を行うべき特段の事情はなかった。 (イ) A教諭は,顧問として指導やアドバイスをしながら,部員らが自分達で規律を持って活動するよう,部員らの自主性を重んじるような方法での指導を日ごろから行ってきた。A教諭の指導の下,部員らは何度も対外試合に参加し,これまで何ら問題やトラブルが発生したことはなく,本件事故の前日も,部員らはいつもと同じように待機場所で待機したが,何ら問題は生じなかった。 本件事故の当日は,たまたま前の試合が長引き,時間を調整したり確認したりする必要があったた ,本件事故の前日も,部員らはいつもと同じように待機場所で待機したが,何ら問題は生じなかった。 本件事故の当日は,たまたま前の試合が長引き,時間を調整したり確認したりする必要があったため,明確な待機時間を指示することはできなかったが,待機場所で待機するのは試合前のキャプテンを中心に行うウォーミングアップを開始するまでの間であって,ここで長い間じっと待機することを予定していたわけではない。 また,待機中にどのように過ごすかは,キャプテンや部員の自主性に任されており,じっと動かず待機しておくようにという無理な指示が出されたわけではない。部員らはいつもと同じように,待機中は自由に木陰で休んだり,話をしたり,公園内で遊んだりしていたもので,中にはグラウンド周辺に行き,試合を観戦していた者もいた。 (ウ) 待機中,A教諭が待機場所から約40mしか離れていない本部席にいたことを部員らはよく知っていたし,同教諭は,途中ウォーミングアップを開始する時間を確認に来た部員に指示を与えたりもしており,緊急の場合には直ちに連絡を取れる体制は整っていた。 事実,本件事故の発生後,直ちにA教諭らに本件事故の報告がなされ状況確認が行われたが,A教諭らはその後のB中学の試合のベンチに入らなくてはならなかったため,自家用車で応援に来ていた保護者に原告を病院に連れて行ってもらうよう頼むなど適切な対応をとった。 また,A教諭は部員から離れた場所にいたものではあるが,いつでも部員らが待機している場所に駆けつけることができる状態にあったのであるから,部員らの安全管理に欠ける点はなく,過失は認められない。 (エ) 以上のとおり,本件事故は,部活動中の部員らの自主性に任せられた待機という時間中に生じた事故であり,ま 態にあったのであるから,部員らの安全管理に欠ける点はなく,過失は認められない。 (エ) 以上のとおり,本件事故は,部活動中の部員らの自主性に任せられた待機という時間中に生じた事故であり,また,何らかの事故発生の危惧感にとどまらず本件事故が発生することを具体的に予見することが可能であるような特段の事情があったとはいえないから,A教諭は,本件事故が発生しないよう常に生徒の動静を把握し監視を怠ることなく指導すべき義務まで負っていたものではない。 また,A教諭は,本部席にいる必要があったことから待機場所を離れていたが,緊急の場合には直ちに連絡を取れる体制は整っていたから,A教諭に原告が主張するような注意義務違反及び過失は認められない。 (3) 損害(原告の主張)ア甲事件(ア) 入院諸雑費 1万6210円(イ) コンタクトレンズ,ケア用品 3万5595円(ウ) 文書作成料 4410円(エ) 傷害慰謝料 12万円(オ) 後遺傷害慰謝料 270万円(カ) 後遺傷害逸失利益 1747万7371円原告の後遺傷害による労働能力喪失率を14%(後遺障害等級第12級相当)として計算した。 (キ) 弁護士費用 200万円イ乙事件(ア) 甲事件の(ア)ないし(ウ)と同じ計 5万6215円(イ) 後遺障害慰謝料 770万円原告は,右眼角膜穿孔と外傷性白内障を来たし,角膜 甲事件の(ア)ないし(ウ)と同じ計 5万6215円(イ) 後遺障害慰謝料 770万円原告は,右眼角膜穿孔と外傷性白内障を来たし,角膜縫合と水晶体切除手術を行ったが,視力が右眼0.01,左眼1.5と低下し,恒久的な調節障害が残った。 (ウ) 後遺障害逸失利益 5367万7613円原告の後遺傷害による労働能力喪失率を45%(後遺障害等級第8級相当)として計算した。 (エ) 弁護士費用 600万円(被告広島市の主張)原告の病名が右眼角膜穿孔と外傷性白内障であることは認めるが,その余は不知ないし争う。 (被告生徒らの主張)争う。原告の視力は,コンタクトレンズによる矯正で1.2まで回復するのであるから,原告の後遺障害は,後遺障害等級第12級1号を超えるものではないし,原告に後遺障害逸失利益は認められない。 仮に被告生徒らに何らかの責任があるとしても,原告の症状悪化には,速やかに病院に行き治療を受けなかったという原告自身の過失も寄与しており,相応の過失相殺がされるべきである。 第3 争点に対する判断 1 争点(1)について(1) 上記争いのない事実等及び証拠(甲1,乙1ないし6,丙1,証人K,同L,原告本人,被告M本人,同N本人,同J本人,同O本人,同P本人,同Q本人)並びに弁論の全趣旨によれば,本件事故の当日,B中学の野球部員らは,午後1時ころからA教諭の指示で待機場所で待機をしていたところ,午後1時20分ころからドングリを投げ合うようになったこと,原告は,同学年のRと一緒に座って話をしており,ドングリ投げには加わっていなかったこと,他の野球部員らは,それ 場所で待機をしていたところ,午後1時20分ころからドングリを投げ合うようになったこと,原告は,同学年のRと一緒に座って話をしており,ドングリ投げには加わっていなかったこと,他の野球部員らは,それぞれ数名のグループに分かれて待機場所付近を移動しながらドングリを投げ合い,そのグループのメンバーも固定されておらず自由に入れ替わっていたこと,午後1時50分ころ,そのうちの誰かが「Cをねらえ。」と言ったため,それを聞いた付近の野球部員数名が原告を狙ってドングリを投げたが,多数の野球部員が一斉に原告にドングリを投げたわけではなく,依然として他の相手とドングリを投げ合う者もいたこと,原告は,上記の声に呼応して何者かが投げた5,6個のドングリが飛んできたため,ドングリが飛んできた方向に振り向いたところ,直後に何者かが投げたドングリが右眼に当たったこと,原告は,振り返った際に4,5人が原告に向かってドングリを投げようとしているのを目撃したこと,ドングリが右眼に当たった後,原告はすぐに目を押さえて背を向け,もとの場所に戻ってしゃがんでいたこと,A教諭が本件事故時の待機場所付近の状況を示すものとして作成した図面(甲1)は,同教諭らが本件事故後にドングリ投げの状況を野球部員らから調査した結果に基づき作成したものであるが,野球部員らには,移動しながらドングリを投げ合っていたりドングリ投げを中断したりしていた者がおり,また,いつ原告の目にドングリが当たったのか気付かなかった者がいて,本件事故の瞬間に野球部員らがいた場所を正確に反映したものかは極めて疑問であることが認められる。 (2)アところで,民法719条1項は,前段において,数名が主観的に共同して他人に損害を加えた場合,あるいは,客観的に共同して他人に損害を加えた場合で加害者各自の行為と損害との間に因 られる。 (2)アところで,民法719条1項は,前段において,数名が主観的に共同して他人に損害を加えた場合,あるいは,客観的に共同して他人に損害を加えた場合で加害者各自の行為と損害との間に因果関係が認められる場合には,連帯して損害賠償責任を負担する旨を規定し,後段において,共同行為者のうちいずれが損害を加えたかが不明な場合についても同様に連帯責任を負う旨を規定している。 そして,同項後段の共同不法行為が成立するためには,各行為者が違法な結果を発生させる危険のある行為を客観的に共同してなしたこと,共同行為者のうちの誰の行為によって損害が発生したか不明なことが必要であるが,ある者の行為が損害を発生させるものでなかったことが認められれば,同人の行為についてはそもそも関連共同性自体が認められないのであるから,同人は共同不法行為責任を負わないものと認めるのが相当である。 イこれを本件についてみるに,上記認定事実によれば,原告らに向かってドングリを投げた野球部員らは,待機場所付近にいた野球部員らのうちでもごく限られた数名であったと認められるから,被告らがいずれも待機場所付近にいたからといって直ちに被告ら全員が「Cをねらえ。」という掛け声に呼応して原告にドングリを投げたと認めることはできない。また,上記認定事実及び証拠(原告本人)並びに弁論の全趣旨によれば,原告は,被告M及び同N以外の被告生徒らについては,A教諭作成の図面(甲1)を参考にして,ドングリが飛んできたと思われる方向にいた生徒の中から選び出したものにすぎないことが認められ,上記認定のとおりの図面の作成過程や原告の認識等に鑑みれば,これらの事実のみから直ちに被告M及び同N以外の被告生徒らが原告に向かってドングリを投げたことを認定することもできない。他にも,その事実を ,上記認定のとおりの図面の作成過程や原告の認識等に鑑みれば,これらの事実のみから直ちに被告M及び同N以外の被告生徒らが原告に向かってドングリを投げたことを認定することもできない。他にも,その事実を認めるに足りる証拠はない。 よって,被告M及び同N以外の被告生徒らについては,主観的共同関係のみならず共同行為の存在自体が認められず,いずれにしても民法719条1項前段及び後段の不法行為責任を負わないというべきである。 ウ次に,被告M及び同Nについて,原告本人は,ドングリが飛んできた方向を振り向いた際に,被告Mについては原告に向かってドングリを投げようとしている姿を,被告Nについては原告に向かってドングリを投げ終わった姿をそれぞれ4ないし5m離れた位置に確認した旨を供述するが,原告本人の供述内容は,被告M及び同Nの上記姿を目撃した時点とドングリが右眼に当たった時点の前後関係についての認識に関する部分が一貫性を欠き,曖昧さが残るし,目撃した状況も,振り向いてドングリが右眼に当たるまでの瞬時の出来事であるから,どれだけ正確に認識できたか疑問がある上,被告Nについては,「(ドングリを)投げ終わったような感じでした。」という多分に主観の混じる目撃状況であって,目撃時に同被告が具体的にいかなる体勢であったかが明らかでない。よって,被告M,同Nが原告に向かってドングリを投げようとし,あるいは投げ終わったのを目撃したとする上記供述は,たやすく採用することができない。 そして,他にも,被告M及び同Nが「Cをねらえ。」という掛け声に呼応して原告に対しドングリを投げたことを認めるに足りる証拠はない。 また,仮に,原告本人の供述どおり,原告が振り向いた後ドングリが当たる前に,被告M及び同Nが原告に向かってドングリを投げようとし,あ 告に対しドングリを投げたことを認めるに足りる証拠はない。 また,仮に,原告本人の供述どおり,原告が振り向いた後ドングリが当たる前に,被告M及び同Nが原告に向かってドングリを投げようとし,あるいは投げ終わっていたとしても,被告Mについては,原告本人の供述のとおり,振りかぶった体勢であり,ドングリを投げる前の状態であったとすれば,その直後に原告の右眼に当たったのは被告Mが投げたドングリではなかったことになるから,被告Mの上記行為は原告に対する加害行為となった可能性がなく,関連共同性自体が認められないことになる。また,被告Nについても,投げ終わった体勢であったとして,その具体的状況が明らかでないものの,同被告がドングリを投げてから原告が同被告の投げ終わった姿を目撃するまで一定の時間的間隔があったと想定される。しかるところ,被告Nがドングリを強く投げたとすれば,原告が目撃するまでに同被告が投げたドングリは原告の位置を既に通過していたと考えられるし(例えば,投げられたドングリの速度が時速100㎞であれば,5mの距離を移動するのに要する時間は0.2秒足らずである。),逆に,被告Nが山なりにゆるくドングリを投げたとすれば,それが原告の右眼に当たって本件のような重篤な傷害を負わせることは想定し難いから,いずれにしても,被告Nの上記行為も原告に対する加害行為となった可能性がないことになり,関連共同性自体が認められないというべきである。 エその他,被告生徒らが原告に対して共同してドングリを投げて原告の右眼に当てたことを認めるに足りる証拠はない。 2 争点(2)について(1) 安全配慮義務の内容についてア上記争いのない事実等及び弁論の全趣旨によれば,B中学野球部の活動は,正課外の自主的なクラブ活動であることが認められるが,課 2 争点(2)について(1) 安全配慮義務の内容についてア上記争いのない事実等及び弁論の全趣旨によれば,B中学野球部の活動は,正課外の自主的なクラブ活動であることが認められるが,課外のクラブ活動といえども,それが学校教育の一環として行われるものである以上,本質的には学校教育活動そのものであるから,顧問や監督等のクラブ活動に関与する教職員は,課外クラブ活動においても,生徒の生命・身体に危険が及ぶような事故の発生を防止すべき一般的注意義務を負う。 しかしながら,課外クラブ活動は,本来,生徒らにより自発的かつ自主的に行われるものであって正規の授業内における活動ではないことを考慮すれば,課外クラブ活動そのものが危険な器具を使用したり危険な技術を試みるものである場合,あるいは,当該クラブ活動の内容,児童生徒の年齢・知能,事故現場の具体的状況,従前の指導内容その他の諸般の事情を考慮して,課外クラブ活動中に何らかの事故が生じうる危険性が具体的に予見可能であるような特段の事情が認められる場合は別として,そうでない限り,一般的な注意を生徒に与える外に顧問教諭が個々の活動に常時立会い,監視・指導すべき義務までは負わないと解するのが相当である(58年判例参照)。 イこれを本件についてみるに,本件事故は,野球競技という課外クラブ活動それ自体に内在する危険性が直接発現して生じた事故ではなく,クラブ活動の性質・内容とは関係のない待機時間中の生徒間の悪ふざけ,いたずらに起因する事故であるから,待機場所に待機させたということ自体から何らかの事故が発生することの予見が可能であったか否かを具体的に検討しなければならず,待機場所の状況,野球部員らの年齢・判断能力,従前の指導内容等の事情に鑑みて,野球部員らを待機場所で待機させることによって 故が発生することの予見が可能であったか否かを具体的に検討しなければならず,待機場所の状況,野球部員らの年齢・判断能力,従前の指導内容等の事情に鑑みて,野球部員らを待機場所で待機させることによって何らかの事故が発生する具体的な可能性を予見できる特段の事情がない限り,顧問・引率のA教諭が野球部員らの動向を常時監視・監督していなかったとしても,安全配慮義務を怠った過失があると評価することはできない。 ウこの点,原告は,59年判例によれば,A教諭には適宜野球部員の動静を観察して,危険な行為があった場合にこれを発見・制止し,本件事故を未然に防止すべき義務があったと主張するが,同判例は,体育の授業中から授業終了時という教諭の立会・監視義務が認められる場面において発生した事故に関するものであり,課外クラブ活動中の事故につき,顧問教諭が生徒らを監視・指導すべき義務を怠ったか否かを検討する必要がある本件とは事案を異にしており,同判例の判示する教諭の義務を本件に当てはめることはできないというべきである。 (2) 具体的な義務違反の有無ア上記争いのない事実等及び証拠(甲1,4,5,乙1ないし6,丙1,証人A,同K,同L,原告本人,被告M本人,同N本人,同J本人,同O本人,同P本人,同Q本人)並びに弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。 (ア) B中学野球部は,顧問としてA教諭及びE教諭が指導にあたっていたが,上級生の部員からもキャプテン及び副キャプテンが選ばれ,自主的に練習や下級生の指導を行ったり部員のまとめ役となるようにA教諭らから指導を受けていた。 (イ) 本件事故当日,B中学野球部の部員らは,広島市中学校総合体育大会への出場と応援のために,学校を離れてG公園野球場に赴いた。 B中学野球部が対 教諭らから指導を受けていた。 (イ) 本件事故当日,B中学野球部の部員らは,広島市中学校総合体育大会への出場と応援のために,学校を離れてG公園野球場に赴いた。 B中学野球部が対外試合に赴くことは,年間約40試合と比較的多く,本件事故の前日にも同じ大会に出場するためにG公園野球場に赴いていた。 野球部員らは,移動中の態度等について教諭らから注意を受けたことはあったが,部員や他人の身体に危害が及ぶような危険な行為をこれまで行ったことはなかった。 本件事故の前日,野球部員らが待機場所からウォーミングアップ場所に向かう際,キャプテンと副キャプテンが2,3個のドングリを投げ合ったが,A教諭がそれを知ったのは本件事故後の聞取り調査の際が始めてであった。 (ウ) A教諭は,本件事故の前日も同じ待機場所に野球部員らを待機させており,特段の支障もなかったため,本件事故の当日も待機場所で野球部員らを待機させることとし,A教諭自身は,前の試合の進行が遅れていたために大会本部席に赴いて試合の進行具合を見たりルールの確認などを行っていた。 (エ) A教諭は,ウォーミングアップを始めるタイミングを聞きにくるように生徒に伝えており,実際に午後1時15分ころには野球部員2名が本部席に指示を仰ぎに行ったが,前の試合の進行具合からまだウォーミングアップを始めないよう指示した。その際,同部員らから他の部員らの動静につき格別の報告はなかった。 A教諭は,野球部員らに待機場所で待機するよう指示してから,E教諭より本件事故が発生したとの連絡を受けるまでの間,一度も待機場所に行かなかった。 (オ) 待機場所は,木陰で付近に危険な遊具・道路等はなく,他校の生徒の待機場所との距離もあったが,大会本部席からは植え込みや樹木に との連絡を受けるまでの間,一度も待機場所に行かなかった。 (オ) 待機場所は,木陰で付近に危険な遊具・道路等はなく,他校の生徒の待機場所との距離もあったが,大会本部席からは植え込みや樹木に遮られて直接見通せる場所ではなかった。待機場所付近にはドングリが実る木はなかったが,地面にはドングリが散在していた。 また,待機場所付近には,応援に来ていた生徒の保護者らも5名程度いた。 イ以上の認定事実を総合すると,中学生である野球部員らに対して,何ら具体的な指示を与えることなく,長時間にわたって同じ待機場所に待機させておけば,部員らが,やがて待機することに飽きたり,対外試合で学校外に出たことで開放的な気分になって,悪ふざけをする可能性は十分考えられるところであるから,A教諭が待機時間中1回も待機場所に赴かず部員らの動静に注意を払わなかったことが適切を欠いたことは否めず,一定の時期に待機場所に赴いて部員らの様子を観察するなどして,部員らの動静に注意を払うことが望ましかったというべきである。 しかしながら,上記認定事実によれば,B中学野球部にはキャプテンや副キャプテンがおり,同人らは中学校3年生で自己の行為の是非を弁別する能力を相応に有する年齢であったし,対外試合の経験も豊富で下級生を指導しまとめる立場にあり,A教諭らもその点に関して指導をしていたこと,野球部員らは,対外試合で学校外に出掛けた経験が比較的多く,その際,本件事故以前にはA教諭やキャプテン・副キャプテン等の指導・注意等により部員や他人に怪我をさせるような問題行動を起こしたことがなく,本件事故の前日にも同じ待機場所で待機させたが格別の問題は生じなかったこと,待機場所は部員らが怪我をする危険があるような構造物などはなかったことが認められ,これらの認定事実 行動を起こしたことがなく,本件事故の前日にも同じ待機場所で待機させたが格別の問題は生じなかったこと,待機場所は部員らが怪我をする危険があるような構造物などはなかったことが認められ,これらの認定事実によれば,本件事故の当日も,これまでの対外試合による学外行動と比較して特別に注意を払う必要があると判断すべき事情は認められないから,上記のような一般的・抽象的危惧感にとどまらず,何らかの事故の発生を具体的に予見することが可能な特段の事情があったとまで認めることはできない。また,ドングリ自体は必ずしも危険物といえるものではなく,結果的に本件では,不運にも尖端部が原告の右眼球に当たり重篤な傷害を負わせるという事故が発生したとしても,木陰の待機場所にドングリが散在しているか否かについてまでA教諭が厳重に確認すべきであったとはいい難いし,また,ドングリが落ちていたからといって,本件のようなドングリ投げが行われることを具体的に予見することが可能であったとまではいえない。 その他,上記特段の事情を認めるに足りる証拠はない。 ウしたがって,A教諭は,生徒らの待機場所に常時立会い,監視・監督すべき義務を負っていたものとはいえない。また,上記認定事実に照らして,待機場所の選定に誤りがあったとも認め難い。 (3) 原告は,A教諭が部員らを常時監視・指導をしなくても,適宜(少なくとも20分に1回程度)部員の状況を把握する措置をとっていれば本件事故は防げたとして,A教諭が安全配慮義務を怠ったと主張するが,上記判示のとおり,同教諭において待機時間中一定の時期に待機場所に赴くなどして部員らの動静に注意を払うことが望ましかったとはいえるが,それが20分に1回程度でなければならないとする具体的根拠を見出し難く,本件のような事故を具体的に予見しうる特段の 期に待機場所に赴くなどして部員らの動静に注意を払うことが望ましかったとはいえるが,それが20分に1回程度でなければならないとする具体的根拠を見出し難く,本件のような事故を具体的に予見しうる特段の事情のない状況において,原告主張のような頻度で部員らの動静を把握すべき具体的注意義務を負っていたとは認め難い。 (4) よって,A教諭につき安全配慮義務違反は認められない。 3 結論以上の次第で,その余の争点につき判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 広島地方裁判所民事第一部裁判長裁判官田中澄夫裁判官次田和明裁判官小崎賢司

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