主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1 請求 1 被告TBSテレビ,被告C,被告岡山大学及び被告Dは,原告Aに対し,連帯して750万円及びうち700万円に対する平成29年7月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告TBSテレビ,被告C,被告岡山大学及び被告Dは,原告Bに対し,連帯して750万円及びうち700万円に対する平成29年7月24日から支払 済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告JOTは,原告Aに対し,150万円及びこれに対する令和元年5月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 被告JOTは,原告Bに対し,150万円及びこれに対する令和元年5月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等本件は,原告らが,原告らの子から臓器提供を受けて実施された臓器移植手術を被告TBSテレビが取材して制作したテレビ番組を放送したことなどにより,故人に対する敬愛・追慕の情及びプライバシー権が侵害されたとして,上記番組の編成担当者である被告C及び執刀医である被告Dに対しては不法行為 (民法709条)に基づき,被告Cの使用者である被告TBSテレビ及び被告Dの使用者である被告岡山大学に対しては,それぞれ主位的に使用者責任(民法715条)に基づき,予備的に不法行為(民法709条)に基づき(上記不法行為が成立する者同士について,共同不法行為が成立すると主張する。),連帯して,原告らそれぞれに損害金750万円(敬愛・追慕の情の侵害につき5 00万円,プライバシー権侵害につき200万円の慰謝料,弁護士費用50万 て,共同不法行為が成立すると主張する。),連帯して,原告らそれぞれに損害金750万円(敬愛・追慕の情の侵害につき5 00万円,プライバシー権侵害につき200万円の慰謝料,弁護士費用50万 円)及びそのうちの弁護士費用を除く700万円に対する不法行為日である番組の全国放送日である平成29年7月24日から支払済みまで民法所定の割合(平成29年法律第44号による改正前のもの,以下同趣旨)による遅延損害金の支払を求め,臓器の斡旋に関与した被告JOTに対しては,民事仲立契約類似の準委任契約上の善管注意義務違反(債務不履行)に基づき,損害金15 0万円及びこれに対する訴状送達日の翌日である令和元年5月3日から支払済みまで民法所定の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)当事者等 原告Aは,Eの父であり,原告BはEの母である(甲1)。 被告TBSテレビは,放送法による放送事業,放送番組の企画,製作及び販売等を目的とする会社である。被告Cは,被告TBSテレビ編成局所属の従業員であり,被告TBSテレビが平成29年7月24日午後8時5分から放送した番組「スーパードクターズ~すべては患者のために~♯1 7」(以下「本件番組」という。)の編成に携わった者である(同人が責任者であったか否かについては争いがある。)。(甲11,乙イ1の1,弁論の全趣旨)被告岡山大学は,国立大学法人で,岡山大学病院(以下「岡山大学病院」という。)を設置し,同病院の医師として被告Dを雇用する者である。被告 Dは,Eから提供された肺を女児に移植する手術(後記「本件移植手術」)を執刀した者である。(弁論の全趣旨,争いがない。)被告 )を設置し,同病院の医師として被告Dを雇用する者である。被告 Dは,Eから提供された肺を女児に移植する手術(後記「本件移植手術」)を執刀した者である。(弁論の全趣旨,争いがない。)被告JOTは,臓器移植に関する研究及びそれに対する援助並びに臓器の提供の斡旋を行う等臓器移植のための諸条件の整備及びそれに対する援助を行うとともに,臓器移植に関する知識の普及及び啓発を行うことによ り,臓器移植の公平かつ効果的な実施とその円滑な推進を図り,もって国 民福祉の向上に寄与することを目的として設立された法人であり,前記目的を達成するため,臓器移植を受けた者及び臓器提供後の家族に対する協力及び援助等の事業を行う者である(弁論の全趣旨)。 臓器移植について臓器の移植に関する法律(平成9年法律第104号。以下「法」という。) は,臓器の移植についての基本的理念を定めるとともに,臓器の機能に障害がある者に対し臓器の機能の回復又は付与を目的として行われる臓器の移植術に使用されるための臓器を死体から摘出すること等につき必要な事項を規定することにより,移植医療の適正な実施に資することを目的とするものである(法1条)。 平成21年法律第83号による改正前の法6条1項では,医師が移植術に使用されるための臓器を,死体(脳死した者の身体を含む。以下同じ。)から摘出することができるのは,本人の書面による臓器提供の意思表示があった場合であって,遺族がこれを拒まないときであったが,同改正後の法6条1項(平成22年7月17日施行)では,①本人の書面による臓器 提供の意思表示があった場合であって,遺族がこれを拒まないとき若しくは遺族がないとき,又は②本人の臓器提供の意思が不明の場合であって,遺族がこれを書面により承諾するときに 人の書面による臓器 提供の意思表示があった場合であって,遺族がこれを拒まないとき若しくは遺族がないとき,又は②本人の臓器提供の意思が不明の場合であって,遺族がこれを書面により承諾するときに改められた。 上記イ記載の改正前の法6条3項では,臓器提供に係る脳死の判定の要件は,本人が書面により臓器提供の意思表示をし,かつ,脳死判定に従う 意思を書面により表示している場合であって,家族が脳死判定を拒まないとき又は家族がないときであったが,同改正後の法6条3項(施行日は前同)では,①本人が書面により臓器提供の意思表示をし,かつ,脳死判定の拒否の意思表示をしている場合以外の場合であって,家族が脳死判定を拒まないとき若しくは家族がないとき,又は②本人について,臓器提供の 意思が不明であり,かつ,脳死判定の拒否の意思表示をしている場合以外 の場合であって,家族が脳死判定を行うことを書面により承諾するときに改められた。 上記改正(イ,ウ)により,脳死後の臓器提供に関する意思表示ができない15歳未満の者(乙イ2)からの臓器提供が,家族の承諾等の要件を満たせば可能となった。 臓器移植に用いるための臓器を死体から摘出するに当たっては,礼意を失わないよう特に注意しなければならず(法8条),また,移植術に使用されなかった部分の臓器は,焼却処理しなければならないとされる(法9条,臓器の移植に関する法律施行規則(平成9年厚生省令第78号。以下「規則」という。)4条)。 医師は,脳死判定,臓器の摘出又は当該臓器を使用した移植術を行った場合には,その記録を作成しなければならず,その記録には,本人の臓器提供の意思表示の書面,脳死判定に従う意思を表示した書面のほか,家族が脳死判定を行うことを承諾した書面等を添付することと 術を行った場合には,その記録を作成しなければならず,その記録には,本人の臓器提供の意思表示の書面,脳死判定に従う意思を表示した書面のほか,家族が脳死判定を行うことを承諾した書面等を添付することとされている(法10条,規則5条ないし7条)。 被告JOTは,法12条1項の厚生労働大臣の許可を受けて,業として行う臓器の斡旋をする者であり,臓器移植を前提として臓器提供に係る説明の希望があれば,臓器の斡旋に係る連絡調整を行う者(以下「コーディネーター」という。)を派遣し,その説明をした上で,臓器提供の意思表示,脳死判定への承諾等の確認という斡旋本来の業務のほかにも,報道機関へ の情報提供や臓器提供後の中長期的な家族に対する対応なども行っている(甲14,乙イ2)。 本件移植手術及び本件番組の放送に至る経緯Eは,入院当初より集中的な治療を受けていたが,意識の回復を望むことができず,平成29年4月27日,脳死とされうる状態と判断された。 被告JOTは,同年5月6日,広島県内の病院から,原告らにおいて臓器 提供に関する情報提供の希望がある旨の連絡を受け,同月8日,コーディネーターを派遣して,原告らに対し,臓器提供に関する説明等を行った。 原告らは,同日,コーディネーターらの立会いの下,Eに対して法6条2項に基づく脳死の判定が行われること及びEが脳死判定を受けた後,移植のためにEの心臓と肺を摘出することを承諾するとの書面に署名押印し, 第1回脳死判定が行われた。(甲2,3,乙イ2,5の2)被告JOTは,同月10日,Eによる臓器提供に関する記者会見を行い,ドナーが6歳未満の男児であること,臓器提供施設は広島県内の病院であること,第1回脳死判定が同月8日に行われ,第2回脳死判定は同月10日に実施の予定であること による臓器提供に関する記者会見を行い,ドナーが6歳未満の男児であること,臓器提供施設は広島県内の病院であること,第1回脳死判定が同月8日に行われ,第2回脳死判定は同月10日に実施の予定であること,肺に関するレシピエントの第一候補者は10 歳未満の女児であり,移植手術の実施予定施設が岡山大学病院であること,摘出開始・終了予定日が同月11日であること等が公表された。なお,同記者会見で公表された内容を公表することは,原告らも承諾していた。(乙イ4,5の1,2)同月10日,第2回脳死判定が行われ,同月11日,Eの肺等を摘出す る手術が行われた。摘出された肺は,岡山大学病院に運ばれ,同日,被告Dが執刀医となり,女児(当時1歳。以下「本件レシピエント」という。)に移植する手術が実施された(以下「本件移植手術」という。)。(乙イ5の1,2)本件レシピエントの母親は,ドナーの家族に向けた匿名の手紙(以下「本 件サンクスレター」という。)を書き,本件サンクスレターは,被告JOTのコーディネーターを通じて原告らに届けられた(甲7,8,弁論の全趣旨)。 本件移植手術は,日本国内における脳死臓器提供事例として451例目,6歳未満の小児の脳死臓器提供事例として7例目であり,本件レシピエン トは,当時,脳死臓器移植を受ける患者としては国内最年少であった(乙 イ5の2,弁論の全趣旨)。 本件番組の作成及び放送被告TBSテレビから本件番組の制作を受注した株式会社SOLISproduce(以下「本件制作会社」という。)は,岡山大学病院に対し,平成28年12月13日,本件番組制作のため,被告Dが執刀する肺移植 手術について約5か月間の密着取材を申し込んでその承諾を得,被告Dから本件移植手術の実施日の情報提供を ,岡山大学病院に対し,平成28年12月13日,本件番組制作のため,被告Dが執刀する肺移植 手術について約5か月間の密着取材を申し込んでその承諾を得,被告Dから本件移植手術の実施日の情報提供を受けて,平成29年5月9日,被告Dが執刀する肺移植手術の実際の様子等について,取材及び撮影を申し込み,岡山大学病院は,診療行為中は,取材・撮影を行わないこと,患者のプライバシーを侵害したり,患者に心理的影響を及ぼすことのないように することなどの留意事項を遵守する旨が記載された「取材・撮影願」を本件制作会社に提出させた上で,これを承諾した(甲22,23)。 上記アの取材及び撮影申込みに基づき,本件制作会社は,平成29年5月11日,本件移植手術前後の被告D,本件レシピエント及びその家族らの様子並びに本件移植手術等を撮影した。本件制作会社は,これらの取材 及び撮影を元に本件番組を制作し,被告TBSテレビは,同年7月24日,本件番組を全国放送した。(乙イ1の1,2)本件番組中には,ドナーの肺としてEの肺の映像がモザイク処理等の加工がされないまま放送された場面があるほか,被告Dが電話の後で,取材スタッフに対し,「今ちょうど摘出が終わって,で,あの,目論見どおりの 肺だと,いう連絡を受けました。」と回答する場面(以下「発言①」という。),被告DがEの肺を手に取って確認する際,「ほほお,小さいなあ。」,「なんか片肺なのかと勘違いするな。」と発言する場面(以下「発言②」という。),被告Dが,本件レシピエントの父親に手術の結果を報告する際,「いやいやいや,植えた肺も,あのう,脳死の子から頂いた肺も非常に軽くて,本当 に,あのう,もう羽が生えているんじゃないかというくらい,いい肺でし た。」と述べる場面(以下「発言③」とい 「いやいやいや,植えた肺も,あのう,脳死の子から頂いた肺も非常に軽くて,本当 に,あのう,もう羽が生えているんじゃないかというくらい,いい肺でし た。」と述べる場面(以下「発言③」という。)がある(乙イ1の1,2)。 2 争点及びこれに関する当事者の主張本件の主たる争点は,①本件番組の全国放送によって,原告らの権利又は法律上保護された利益(原告らの故人に対する遺族の敬意・追慕の情,原告ら自身のプライバシー権)が違法に侵害されたか,②被告C又は被告TBSテレビ と被告D又は被告岡山大学との間に共同不法行為が成立するか,③被告JOTと原告らとの間に黙示の準委任契約が成立したか及び④被告JOTに同契約に基づく善管注意義務違反があったかであり,これに関する当事者の主張は,以下のとおりである。 原告らの権利又は法律上保護された利益の違法な侵害について (原告らの主張)故人に対する遺族の敬愛・追慕の情の侵害故人に対する遺族の敬愛・追慕の情は,他者から意に反した刺激を与えられることなく静かに故人を偲ぶ権利で,私的領域ないし私生活に関する人格権として,法律上保護される利益に当たる。次のとおり,本件番組の 全国放送により,受忍限度を超えて心の平穏が乱され,原告らのEに対する敬愛・追慕の情が侵害された。その精神的苦痛を慰謝するに足る金額は,原告ら1名につきそれぞれ500万円を下らない。 (ア) 被告JOTを除く被告らは,被告JOTを通じ,容易に原告らに本件番組の取材・放送について意向を確認することができたのに,何ら確認 を行わなかった。被告Dは,全国放送される娯楽番組であることを認識しながら,専ら執刀医及び本件レシピエントの側に立って,Eが提供した肺について,「小さいな」,「目論見どおり」,「軽くてい 認 を行わなかった。被告Dは,全国放送される娯楽番組であることを認識しながら,専ら執刀医及び本件レシピエントの側に立って,Eが提供した肺について,「小さいな」,「目論見どおり」,「軽くていい肺」など,Eの肺を単なる物のように評価し扱う不適切な発言をした。本件番組では,Eがドナーとなって提供した肺にモザイク処理がされずに本件移植手術 の内容が放送され,被告Dの不適切な発言①ないし③が掣肘されること なく放送され,本件サンクスレターが,原告らに無許可で,その内容が読み取れる形で放送された。 (イ) 本件番組の全国放送の当時,原告らは,最愛の子であるEを喪ってからわずか2か月余りしか経過しておらず,心痛も未だ癒え切らない状態にあった。そのような中,本件番組が全国放送され原告らは予告なく本 件番組を目にすることになった。Eの肺にモザイク処理がされずに放送されたことにより,原告らは愛する我が子の臓器を見せつけられ,計り知れないほど大きな精神的衝撃を受け,臓器提供を決断したことに対する迷いを強いられた。原告らにとって何物にも代えがたいものであったEの思い出の姿は摘出された肺の映像に塗り替えられ,特に原告Bにお いては,夢の中でEに会えることが唯一の慰めであったのに,夢の中に出てくるEの姿が肺の映像になり,唯一の安らぎも奪われた。 (ウ) 被告Dが,Eの人格を無視し,Eの肺を単なる物として品評するような発言をしたことにより,Eの人としての尊厳は踏みにじられた。原告らは,本件移植手術を,被告岡山大学及び被告Dの売名又は被告TBS テレビの売上のために利用されたと感じた。 (エ) 本件サンクスレターは,本来,原告らにとって,臓器提供に意味があったことを確認する術の一つであり,原告らのこれからの人生の励みになるべ S テレビの売上のために利用されたと感じた。 (エ) 本件サンクスレターは,本来,原告らにとって,臓器提供に意味があったことを確認する術の一つであり,原告らのこれからの人生の励みになるべきものであったのに,本件番組が全国放送されたことにより,原告らよりも先に本件番組の制作スタッフに読まれていたことが判明し, 原告らは,本件サンクスレターを本件レシピエントの家族の真摯な感謝の表れとして受け止めることができなくなり,Eを偲ぶよりどころを奪われた。 原告らのプライバシー権侵害原告らにとって,Eをドナーにすることは大きな決断であり,Eがドナ ーになったことは誰にも知られたくない事柄であった。 本件番組内で,ドナーが新幹線で臓器を運べる距離の病院に入院していたこと,本件移植手術の実施日とEの命日が近接していること,本件レシピエントが1歳であること,本件サンクスレターの内容が公開されたこと等により,原告らの知人に,原告らがEをドナーにしたことが知られかねない状態になり,現に,本件番組内におけるドナーが原告らの子であるE と察した知人もいた。 以上のようなプライバシー権侵害による精神的苦痛を慰謝するに足る金額は,原告ら1名につきそれぞれ200万円を下らない。 (被告TBSテレビ及び被告Cの主張)原告らの主張する遺族の敬愛・追慕の情は,従来裁判例で認められてき た死者の名誉等故人の人格権を核心的利益とするものとは質的に異なる。 不法行為として法的責任が生じる違法な侵害行為というためには,通常人からみて侵害と捉え得る客観的な行為と,一定の強度を有する法益侵害が必要であり,以下のとおり,そのような行為はなく,原告らの敬愛・追慕の情が違法に侵害されたとはいえないから,本件で被告TBSテレビ及び 被 捉え得る客観的な行為と,一定の強度を有する法益侵害が必要であり,以下のとおり,そのような行為はなく,原告らの敬愛・追慕の情が違法に侵害されたとはいえないから,本件で被告TBSテレビ及び 被告Cには不法行為は成立しない。 (ア) 被告TBSテレビは,本件移植手術が脳死下臓器提供に係る移植手術であったことから,ドナー側への連絡やドナー側の個人情報の収集は一切してはならないと認識していた。移植のために提供された臓器を撮影することについて,遺族らの承諾を得なければならない法的根拠はない。 (イ) 被告Dは,摘出されたEの肺について,電話で「目論見どおりの肺だ」と報告を受けた言葉をそのまま口にしただけで,単に想定どおりという趣旨で述べたにすぎない。また,「小さいなあ。」,「ベストマッチだね。」との発言は,本件移植手術に最適な小児の移植肺の提供を受けたことへの感謝の言葉である。被告Dは,本件レシピエントの父親に対し,「脳死 の子から頂いた肺も,非常に軽くて,本当に,もう羽が生えているんじ ゃないかというくらい,いい肺でした。」などと発言したが,ドナーへの感謝に満ちたもので,肺を物として取り扱うような態度とはいえない。 被告Dの言動が不適切・不適当なものとはいえず,被告TBSテレビがこれを掣肘する理由はない。 (ウ) 本件移植手術の様子を撮影し,Eの肺にモザイク等の加工を施すこと なく全国放送したことは認めるが,Eの肺に上記加工を施すことなく本件移植手術の状況を放送することは,ドナーであるEの社会的評価を何ら低下させるものではない。 また,本件番組は,現実の手術において,医師の遭遇する困難や医師の的確な判断と高度な技術によってこれを乗り越えて手術を成功させ, 患者の生命を繋いでいく姿を伝えることを目的とし のではない。 また,本件番組は,現実の手術において,医師の遭遇する困難や医師の的確な判断と高度な技術によってこれを乗り越えて手術を成功させ, 患者の生命を繋いでいく姿を伝えることを目的としているところ,モザイクその他の加工を施すと,手術の実相を伝えることはできない。 (エ) 本件レシピエントの母親が本件サンクスレターを被告JOTに託す前に被告TBSテレビがこれを撮影したこと,本件サンクスレターが原告らの元に届いた後に一部が読み取れる状態で本件サンクスレターを放送 したことは認めるが,本件レシピエントの母親が,自ら書いた本件サンクスレターを被告TBSテレビのスタッフに読ませ,撮影を許可することに何ら違法性は認められない。 本件番組で公開されたドナーに関する情報は,被告JOTが公開した本件移植手術に関する情報の一部に限られており,その内容からすれば,一 般視聴者が,本件番組内でドナーとされた者がEであることを特定することはできないし,原告らを知る者も,本件移植手術のドナーの両親が原告らであることを推測することが可能であるにすぎない。また,被告JOTが公開した情報は,いずれもドナー家族である原告らが公開することを承諾したものであるから,仮に被告JOTが公開した情報の一部を公開した 本件番組によって原告らの知人が本件移植手術のドナーの両親が原告らで あることを推認できたとしても,原告らの承諾の範囲内である。 よって,原告らのプライバシー権が侵害されたとはいえない。 (被告岡山大学及び被告Dの主張)故人に対する遺族の敬愛・追慕の情や故人を静謐に偲ぶ権利が,一般的に保護の対象となり得るものであるとしても,権利ないし利益として強固 な内容を持つものではない。これらの侵害に係る不法行為が成立す 故人に対する遺族の敬愛・追慕の情や故人を静謐に偲ぶ権利が,一般的に保護の対象となり得るものであるとしても,権利ないし利益として強固 な内容を持つものではない。これらの侵害に係る不法行為が成立するか否かは,侵害行為の具体的態様との関係で判断されるべきであり,以下のとおり,本件で被告岡山大学及び被告Dには不法行為は成立しない。 (ア) 被告Dの「目論見どおり」との発言は,ドナーの肺の状態について,移植に適した良好な状態である旨の連絡を受けたことを取材者に告げた にすぎない。 「小さいな」との発言は,到着したドナーの肺を確認した際,症例の少ない小児の肺を目の当たりにした際の,驚きないし感想が言葉になったものである。「軽くて…いい肺」との発言は,ドナーの肺が全く問題のない状態であったことを本件レシピエントの父親に伝えたものである。 いずれの発言も,ドナーやその遺族を侮辱し社会的評価を低下させるものでも,人としての尊厳を無視した扱いをしたものでもなく,ドナーの肺を単なる物としてぞんざいに扱うような印象を与えるものでもない。 被告Dにはそのような意図もない。被告Dによる上記各発言は,具体的態様に照らして不相当とはいえず,被告Dに注意義務違反は認められな い。 (イ) レシピエントへの移植手術に挑む医師が,移植手術の成功やレシピエント側家族に集中することは非難されるべきことではないし,そのことがドナー側家族をないがしろにしていることを意味するものでもない。 被告Dの発言中に原告らのプライバシー権を侵害する可能性を有する内 容は含まれておらず,プライバシー権侵害が成立する余地はない。 (被告JOTの主張)原告らの主張は否認ないし争う。 共同不法行為の成否等(原告らの主張)共同不法行為 容は含まれておらず,プライバシー権侵害が成立する余地はない。 (被告JOTの主張)原告らの主張は否認ないし争う。 共同不法行為の成否等(原告らの主張)共同不法行為が成立するには,結果の発生に対して社会通念上全体とし て一個の行為と認められる程度の一体性があること(客観的関連共同性)又は連帯して賠償義務を負わせるのが妥当な程度の社会的な一体性(強い関連共同性)が必要であるところ,以下のとおり,本件では,被告TBSテレビ,被告D及び被告岡山大学の間に,客観的関連共同性及び強い関連共同性が認められる。 本件番組は,被告TBSテレビ及び被告Cが被告D及び被告岡山大学に取材を申し込み,被告D及び被告岡山大学がこれに応じ,被告Dが不適切な発言をし,被告TBSテレビが被告Dの発言や本件移植手術を撮影し,編集するという一連一体の行為により放送されたものであり,被告D及び被告TBSテレビの各行為はこのような一連一体の行為の一部であるから, 客観的関連共同性が認められる。また,被告TBSテレビ,被告D及び被告岡山大学には,本件番組の放送という共通の目的があること,被告D及び被告岡山大学が原告らに本件番組に関する取材を知らせる手段を講じていればほぼ確実に本件番組は放送されていないのであり,被告D及び被告岡山大学の不作為は結果の発生との関係で極めて比重が大きいから,被告 TBSテレビの行為と被告D及び被告岡山大学の行為には連帯して賠償義務を負わせるのが妥当な程度の社会的一体性が認められる。 したがって,被告TBSテレビ,被告D及び被告岡山大学との間で,共同不法行為が成立する。 被告Cは,本件番組の編成責任者であり,本件番組の制作,放送につき 責任を負う。 (被告岡山大学 て,被告TBSテレビ,被告D及び被告岡山大学との間で,共同不法行為が成立する。 被告Cは,本件番組の編成責任者であり,本件番組の制作,放送につき 責任を負う。 (被告岡山大学及び被告Dの主張)被告Dは,本件番組を放送するに当たって原告らへの意向確認をするかどうかや,本件番組の内容に関する編集について一切関与しておらず,取材内容の編集や放送について,被告D及び被告岡山大学に意思的関与や客観的な関連共同性はない。プライバシー権侵害については,被告Dの行為 と権利侵害の間に因果関係がない。 よって,共同不法行為は成立しない。 原告らは,被告TBSテレビ,被告D及び被告岡山大学の行為が連鎖した一連一体の行為であり,客観的関連共同性が認められると主張するが,本件では,被告D及び被告岡山大学には,客観的関連共同性の前提となる 過失行為が存在しない。 原告らは被告TBSテレビ及び被告Dの行為には強い関連共同性が認められるとも主張するが,被告Dは遺族の敬愛・追慕の情やプライバシー権侵害を容認していないこと,被告Dによる発言は前記権利侵害に寄与していないかその度合いは高くないこと,被告Dの発言のみによって前記権利 侵害は生じえないことからすると,強い関連共同性はない。 (被告TBSテレビ及び被告Cの主張)原告らの主張を否認し,被告岡山大学及び被告Dの上記主張を援用する。 被告Cは,本件番組の編成担当者としてその制作の監理,発注を行い,本件制作会社から送付された粗編集段階の番組のチェックをしたにすぎず,個 人として不法行為責任を負うことはない。 原告らと被告JOTとの間の黙示の準委任契約の成否及び被告JOTの善管注意義務違反の有無(原告らの主張)被告JOTは,斡旋者の立場で原告らド 人として不法行為責任を負うことはない。 原告らと被告JOTとの間の黙示の準委任契約の成否及び被告JOTの善管注意義務違反の有無(原告らの主張)被告JOTは,斡旋者の立場で原告らドナー側家族と本件レシピエント 側の調整を行う組織であり,脳死判定承諾書や臓器摘出承諾書に宛先及び 説明者として名を連ね,原告らに対し臓器摘出について詳細な説明をした。 原告らドナー側家族は,臓器提供先の選定を被告JOTに一任し,被告JOTはこれを承諾したのであるから,原告らと被告JOTの間に,臓器移植を斡旋する契約(民事仲立契約類似の準委任契約関係)が成立した。 被告JOTは,臓器移植にあたり,臓器提供施設及び移植実施施設と連 携してドナーやその家族等の心情や権利関係に最大限の配慮をする善管注意義務を負い,臓器摘出・移植の過程で問題の起こり得る情報があればドナー及びその家族に提供する情報提供義務を負う。また,大きく報道される可能性があるなど通常以上に注意が必要な移植手術の場合には,報道機関からの取材申し込みの状況や対応方法について積極的に情報を把握する 義務を負う。 本件移植手術が極めて注目度の高い事案であったこと,被告Dが著名な肺移植医であったことなどからすれば,被告JOTには積極的に情報を収集する義務があった。 被告JOTは,岡山大学病院に照会するなどすれば,報道機関からの取 材申込みの状況を確認し,損害の発生を回避できたのに,これを怠った。 よって,被告JOTは善管注意義務違反の過失により原告らに損害を与えた債務不履行責任を負い,その額は150万円を下らない。 (被告JOTの主張)臓器移植に当たってドナー側が行う意思表示は,原則として脳死判定及 び脳死判定後に臓器摘出をすることについての た債務不履行責任を負い,その額は150万円を下らない。 (被告JOTの主張)臓器移植に当たってドナー側が行う意思表示は,原則として脳死判定及 び脳死判定後に臓器摘出をすることについての承諾の意思表示のみであり,ドナー側が被告JOTに対し,何らかの委託の意思を示し,被告JOTがこれを受託したとはいえない。臓器摘出を承諾する旨の意思表示をもって,原告らと被告JOTの間に,臓器移植を斡旋する契約(民事仲立契約類似の準委任契約関係)が成立したとはいえない。 被告JOTは,本件移植手術に関し取材がされていることや本件番組の 内容について,事前に把握していなかったし,被告JOTは移植医療に関わる関係機関を統括する権限を有していないから,被告JOTが本件番組の放送に関し,何らかの措置を講じることは不可能であった。また,被告JOTは,本件番組の放送後には,原告らの心情に配慮した対応を行った。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前提事実のほか,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。 本件番組は,被告TBSテレビにおいて,平成15年から不定期に放送され,先端医療に取り組む医師やその医療現場を取り上げた特集番組「スーパ ードクターズ」のシリーズ17回目の放送である(甲22,23,乙イ1の1)。 本件番組の制作等(甲22,23,弁論の全趣旨)本件制作会社は,平成28年12月13日,岡山大学病院から被告Dが執刀する肺移植手術について約5か月間の密着取材を許され,被告Dから 執刀予定の生体肺移植手術の取材をし,平成29年4月24日付けでその取材・撮影願を提出していたところ,その後,脳死肺移植である本件移植手術の実施日の情報提供を受け,平成29年5月9日付けで,改めて本件移植 の生体肺移植手術の取材をし,平成29年4月24日付けでその取材・撮影願を提出していたところ,その後,脳死肺移植である本件移植手術の実施日の情報提供を受け,平成29年5月9日付けで,改めて本件移植手術についての取材・撮影願を提出し,本件移植手術及び本件レシピエントの術前及び術後の様子を撮影することとした。 被告Dは,本件制作会社に対し,脳死ドナー側とレシピエント側が互いの個人情報について知り得ることがないこと,ドナー及びレシピエントについて,被告JOTが公表している内容以外の個人情報を公表してはならないことについての注意を与えた。 本件制作会社は,本件移植手術並びに被告D,本件レシピエント及びそ の家族らについて,取材・撮影をし,本件番組を制作した。 被告Cは,本件制作会社に対し,本件番組の時間枠等を指定して,番組の制作業務を発注し,取材について被告Dの了解を得たこと等の報告を受けていたが,番組の内容について個別に指示するようなことはなかった。 被告TBSテレビは,本件制作会社から,粗編集段階で提出された映像等の提供を受け,編成局及び編成考査局において,個人情報の秘匿やコンプ ライアンスのチェックをし,コマーシャル・メッセージの挿入個所等を本件制作会社に指示した。本件制作会社は,その指示に沿って編集し,完成した本件番組の映像を納品した。 本件番組は,平成29年7月24日午後8時5分から同日午後10時52分まで放送された。その内容は,被告Dを含め,9名の医師を取り巻く医療 現場や同医師らが実施する医療の内容である。本件番組内で,被告D及び本件移植手術に関する放送時間は,午後8時5分から午後8時7分までの導入部分のほか,午後10時17分から番組終了までの合計約37分(コマーシャル・メッセージの の内容である。本件番組内で,被告D及び本件移植手術に関する放送時間は,午後8時5分から午後8時7分までの導入部分のほか,午後10時17分から番組終了までの合計約37分(コマーシャル・メッセージの時間を含む。)である。(甲26,乙イ1の1,2)本件番組(本編)の内容の要旨は,以下のとおりである(甲26,乙イ1 の1,2)。 午後10時17分から午後10時19分まで肺移植手術の第一人者として被告Dが紹介された後,被告Dが日本最年少の肺移植手術を執刀したこと,本件移植手術の一場面及びドナーの肺としてEの肺の映像が流れる(Eの肺の映像に,モザイク処理等の加工はさ れていない。以下同じ。)。 午後10時21分から午後10時26分まで本件レシピエントの症例,本件移植手術までに行われていた治療の内容,本件レシピエントの両親に対するインタビュー,本件移植手術当日の本件レシピエント及び被告Dの様子等の映像が流れる。 午後10時29分から午後10時38分まで 被告Dが電話をしている様子が映った後,取材スタッフから電話の内容について尋ねられ,被告Dが「今ちょうど摘出が終わって,で,あの,目論見どおりの肺だと,いう連絡を受けました。」と回答する(発言①)。Eの肺の写真が映され,「亡くなったのは男の子。その体から取り出された肺が,今から届けられる。男の子を失った家族は,どれほど悲しんでいるこ とだろう。その家族の決断と尊い命をFちゃんにつなげる。それがDの使命だ。」とナレーションが流れる。 本件移植手術の概要が説明された後,本件レシピエントの肺を剥離し,人工心肺につなぐ施術の様子が流れる(縫合や切断等の施術の様子を映した場面では,臓器の映像がモザイク加工等をすることなく放送されている。 以下同じ 説明された後,本件レシピエントの肺を剥離し,人工心肺につなぐ施術の様子が流れる(縫合や切断等の施術の様子を映した場面では,臓器の映像がモザイク加工等をすることなく放送されている。 以下同じ。)。 Eの肺が到着した後,被告Dがこれを手に取り確認する様子が映される。 被告Dは,「ほほお,小さいなあ。」,「なんか片肺なのかと勘違いするな。」と発言する(発言②)。「手のひらに乗るほどの小さな肺。亡くなった男の子からの命の贈り物だ。」とナレーションが流れる。 本件レシピエントの肺を摘出しドナーの肺を移植する場面に移り,肺動脈や気管支を切断し,縫合する映像が流れる。本件レシピエントから摘出された肺の映像もモザイク加工等をすることなく映され,「取り出された肺は赤くただれ,Fちゃんの命を守ろうと限界まで闘ったことを物語っていた。」とのナレーションが流れる。また,移植手術の場面では,「Dは言 う。肺移植は「命のリレー」だと。」,「亡くなった男の子の肺は,Fちゃんの中で生き続ける。」,「自分の役割は,そのバトンを確実につなぐこと。」,「縫う間隔は1ミリ以下。空気が漏れないよう,すき間なく縫い合わせなくてはならない。」とのナレーション,「小さいのは,小さいというだけで難しい,意外と…」との被告Dのコメントや「初めて経験する微細な世界。」 とのコメントが流れる。 午後10時41分から午後10時43分までドナーとレシピエントの気管支を縫合する過程で,直径の大きさが合わないアクシデントが発生したこと,同アクシデントに対し,被告Dが行った対処の方法の説明と共に,被告Dがドナーとレシピエントの気管支を縫合する映像が流れる。 午後10時46分から午後10時52分まで冒頭で,本件レシピエントにつながったEの肺に空 Dが行った対処の方法の説明と共に,被告Dがドナーとレシピエントの気管支を縫合する映像が流れる。 午後10時46分から午後10時52分まで冒頭で,本件レシピエントにつながったEの肺に空気を送ると,大きく膨らむ様子が映され,手術場面は終了する。 被告Dが,本件レシピエントの父親に対し,手術の結果について報告し,「いやいやいや,植えた肺も,あのう,脳死の子から頂いた肺も非常に軽 くて,本当に,あのう,もう羽が生えているんじゃないかというくらい,いい肺でした。」と述べる様子(発言③)が流れる。手術直後から術後10日までの本件レシピエントとその家族の様子が映った後,本件サンクスレターが,その一部が読み取れる形で流れる。本件レシピエントが退院する様子を映し,番組が終了する。 原告Aは,Eの臓器提供をしたことを伝えていた友人からの電話で,本件番組の放送を知り,原告Bとともに本件番組を視聴した。 原告Bは,本件番組視聴後,睡眠がとれず,心拍数が上がるなどの身体症状が出るようになり,精神的に不安定な状態となって,メンタルクリニックを受診するなどした。 2 原告らの権利又は法律上保護された利益(原告らの故人に対する敬意・追慕の情,原告ら自身のプライバシー権)の違法な侵害の有無(争点①)について敬愛・追慕の情の違法な侵害の有無について故人に対する遺族の敬愛・追慕の情は,一種の人格的利益として保護されるべきものであるが,他方で,テレビ放送の自由が表現の自由に関わる ものであって,これを不当に制約することがないようにする必要があるこ とを考慮すると,故人を取り扱ったテレビ放送の内容に遺族の心の平穏をかき乱すようなものが含まれているとしても,それだけで直ちに権利・利益の侵害に当たり私法上違法な ないようにする必要があるこ とを考慮すると,故人を取り扱ったテレビ放送の内容に遺族の心の平穏をかき乱すようなものが含まれているとしても,それだけで直ちに権利・利益の侵害に当たり私法上違法なものと評価すべきではなく,故人の名誉を毀損し,あるいは,故人の尊厳を侵害するような態様で遺体の一部である臓器をみだりに公開するなどした場合に,当該放送行為の目的や内容,故 人が他界してからの時の経過,遺族の故人との関係性や遺族が行為によって受けた影響などを総合的に考慮し,社会通念に照らして,それが遺族の受忍限度を超えるものと判断されるときに,初めて遺族の敬愛・追慕の情の侵害として,不法行為や債務不履行の問題を生じることがあり得るというべきである。これらの点について,以下検討する。 本件番組の目的本件番組は,9人の医師への密着取材を通じ,医療現場の実態や最先端の医療技術を紹介するというもので,医療に対する一般視聴者の知識を深め,その関心に応えるものである。特に,本件移植手術に関しては,平成22年に改正後の法が施行されて,臓器提供意思不明の脳死判定を受けた 15歳未満の者からの臓器提供が可能になったところ,本件は6歳未満の者からの臓器提供の7例目で,本件レシピエントも当時の日本国内最年少であったことから,症例の少ない小児(幼児)臓器提供・移植の一つとして,日本国内における臓器移植制度の運用において重要な意義を持つ事例であって,一般の関心も非常に高いものであった。本件番組は,臓器移植 制度や最先端の移植医療現場の実態について,一般視聴者の理解を深め,その高い関心に応えるという目的で制作されたものであると認められる。 本件番組の内容テレビ放送により摘示された事実がどのようなものであるかについては,一般視聴者の注 ,一般視聴者の理解を深め,その高い関心に応えるという目的で制作されたものであると認められる。 本件番組の内容テレビ放送により摘示された事実がどのようなものであるかについては,一般視聴者の注意と視聴の仕方を基準として,その番組の全体的な構成, これに登場した者の発言内容,画像に標示された文字情報の内容を重視し, 映像及び音声に係る情報の内容並びに放送内容全体から受ける印象を総合的に考慮して判断すべきである(最高裁平成14年(受)第846号同15年10月16日第1小法廷判決・民集57巻9号1075頁参照)から,原告らが違法と主張する個別の行為について,このような観点から検討することとする。 (ア) 原告らは,移植の対象となるEの肺の映像に対し,モザイク加工等をすることなく放送したことが違法であると主張する。 本件番組は,最先端医療を担う複数の医師を取り上げた特集番組の一つとして,被告D及び国内最年少のレシピエントへの肺移植である本件移植手術を取り上げたものであり,本件移植手術の社会的意義を伝えな がら,専門用語も交えて,本件移植手術の困難性について,個別の血管の切断・縫合等の細かい施術方法に言及し,気管支縫合時のアクシデントについても,その具体的内容や被告Dによる対処を説明するものである。このような内容や構成は,本件番組が,医療現場の実態や医師による治療の内容を,具体的な症例や手術に即して放送することにより,臓 器移植制度や最先端の移植医療現場の実態について,一般視聴者の理解を深め,その高い関心に応えるという本件番組の目的に照らし,相当性を有するものといえるから,本件番組が医療従事者のみに向けられたものではないことを踏まえても,移植される臓器の映像にモザイク加工等をすることなく,ありのままを放送 いう本件番組の目的に照らし,相当性を有するものといえるから,本件番組が医療従事者のみに向けられたものではないことを踏まえても,移植される臓器の映像にモザイク加工等をすることなく,ありのままを放送することには相応の社会的意義があ り,そのような映像を放送する必要性がないのに,あえてそのような内容・構成を用いたものとは認められない。 そして,本件移植手術ないしEの肺の映像が放送された時間は,被告Dを取り上げた合計約39分のうちの一部にとどまり,上記目的から外れるような長い時間というわけではなく,Eの肺は臓器提供の趣旨に沿 って医学的に相当な方法により本件レシピエントに移植されたものであ るところ,本件番組は,その移植手術の様子を事実として放送したものであり,死者を冒涜するような態様で,その臓器を映し出したりしたものではない。 (イ) 原告らは,本件番組中の被告Dの発言内容を問題にする。 発言①及び②は,いずれも臓器移植手術の執刀を控えた医師による提 供臓器に対する手術前の一連の発言であり,発言①は,Eから摘出された肺がレシピエントへの移植に当たって計画(目論見)に適合する旨の連絡が摘出手術側から入った旨をそのまま発言したものであり,発言②は,小児(乳幼児)から提供された肺を手にした際の大きさ,重量についての観察結果を内容とするものであり(発言②の趣旨は,発言③と合 わせると,肺胞などに異物がない良い状態であるとの趣旨を示すことは明らかである。),ナレーションの内容に鑑みても,人命について「軽い」ということを連想させるような構成・内容で放送されたものではなく,いずれも生前のEに対する冒涜や卑下,あるいは,殊更に物扱いするという趣旨であるとは認められない。発言③は,術後の発言であるところ, Eから提 させるような構成・内容で放送されたものではなく,いずれも生前のEに対する冒涜や卑下,あるいは,殊更に物扱いするという趣旨であるとは認められない。発言③は,術後の発言であるところ, Eから提供された肺が疾患などのない立派なものであったとするもので,同様にEを貶めるような内容ではない。 (ウ) 原告らは,本件サンクスレターの内容の一部を放送したことを問題にする。これは,故人の尊厳を侵害するかどうかとは少し観点が異なり,ドナーの家族に対する配慮の問題である。 移植医療の姿勢として,臓器を提供したドナーの家族にも,臓器提供を受けたレシピエントにも,互いの個人を特定できる情報を伝えることはせず,移植後の経過等については,コーディネーターを介して間接的に報告する形で運用されている(甲9)。レシピエントが匿名で書くお礼の手紙は,ドナーの家族とレシピエントを直接つなぐ唯一のものである が,臓器提供という判断の難しい決断をし,その後も葛藤に曝されるこ とが多いドナーの家族の複雑な心情に配慮して,上記お礼の手紙を受け取るかどうかや,受け取るとしてもその時期をいつにするかなどは,ドナーの家族の意思を慎重に確認して行われている(甲14,弁論の全趣旨)。そのようなお礼の手紙の位置づけに照らすと,ドナーの家族がその受領を望んでいない場合にその内容を放送してドナーの家族の目に触れ させたとすれば,そこには一定の問題を含んでいるといえるが,本件のように,既に原告らが本件サンクスレターを受け取ってその内容を了知している場合には,その内容の一部が放送されこれを原告らが視聴したからといって,上記のような観点からの問題は生じない。 原告らは,本件サンクスレターが,原告らよりも先に本件制作会社の スタッフに読まれていたことが判明した 部が放送されこれを原告らが視聴したからといって,上記のような観点からの問題は生じない。 原告らは,本件サンクスレターが,原告らよりも先に本件制作会社の スタッフに読まれていたことが判明したため,本件レシピエントの家族の真摯な感謝の表れとして受け止めることができなくなったと主張するが,本件レシピエントの母が,ドナーの家族に差し出す前の本件サンクスレターの撮影に応じ,本件番組制作に必要な限度で,上記スタッフがこれを読むことも許容したからといって,それがドナーの家族に対する 真摯な感謝の気持ちと相容れない行動に当たるとはいえないから,原告らが主張するような不当性があるとはいえない。 故人が他界してからの時の経過や遺族の受けた影響等本件番組は,Eの死亡から3か月も経たない時点で放送されたものであるところ,幼い我が子を亡くしたというだけでも,耐えがたい悲しみに打 ちひしがれる事柄であるのに,原告らは,未だ身体の温かい我が子に脳死判定を受けさせ,臓器を提供するという想像を絶する重い決断をしたものであって,客観的には気高く称賛されるべき行為であるとはいえ,その決断をした親の立場に立ってみれば,臓器提供を承諾したことの是非等につき,答えのない葛藤の狭間に立たされていたものと思われる。原告らは, 臓器提供制度についてコーディネーターらから説明を受け,十分に理解し た上で臓器提供を承諾したものと推察されるが,それを理解しているということと,現実に摘出された臓器の映像を直接目にするということでは,全く意味が異なるものである。 原告らは,本件番組を視聴し,愛する我が子の臓器を見せられて計り知れない精神的衝撃を受け,Eの思い出の姿が摘出された肺の映像に塗り替 えられ,また,被告Dの発言①ないし③が,Eの人格を無視し 原告らは,本件番組を視聴し,愛する我が子の臓器を見せられて計り知れない精神的衝撃を受け,Eの思い出の姿が摘出された肺の映像に塗り替 えられ,また,被告Dの発言①ないし③が,Eの人格を無視し,Eの肺を単なる物として品評するようなものであって,Eの尊厳が踏みにじられたと感じ,本件移植手術を,被告岡山大学及び被告Dの売名又は被告TBSテレビの売上のために利用されたと感じたと主張する。さらに,本件サンクスレターについても,本件番組の放送により本件レシピエントの家族の 真摯な感謝の表れとして受け止めることができなくなり,Eを偲ぶよりどころを奪われたと述べる。 原告Bは,本件番組のテレビ放送を視聴してから,不眠や心拍上昇等の体調不良を来し,精神的に不安定な状態となった。 以上のとおり,原告らは,Eの死亡からそれほど経過していない時期に, 本件番組のテレビ放送を視聴し,激しく心をかき乱され,原告Bについては,身体症状も生じるほどであったことが認められる。しかし,一般視聴者の注意と視聴の仕方を基準として判断すれば,本件番組の目的は正当なものであって,本件番組の内容も,Eやその家族である原告らの社会的評価を下げたり,Eの尊厳を侵害するようなものとはいえない。また,ドナ ーの家族の受け止め方にも様々なものがある(乙イ4)。これらの諸事情を総合的に考慮すると,原告ら主張の点は,いずれも社会通念に照らして,受忍限度を超えるものとまではいえない。 原告らは,被告JOTを除く被告らが,本件番組の放送に関し,原告らに個別に承諾を得たり,事前に情報提供したりして,原告らが本件番組を 突然見て,甚大な精神的苦痛を受けることのないように配慮すべき義務を 負っていたと主張し,また,被告JOTについては,本件移植手術について特 前に情報提供したりして,原告らが本件番組を 突然見て,甚大な精神的苦痛を受けることのないように配慮すべき義務を 負っていたと主張し,また,被告JOTについては,本件移植手術について特集番組等が制作されることを予見した上,本件レシピエントの治療を担当する岡山大学病院に照会するなどしてこれを把握し,その情報を原告らに提供すべき注意義務を負っていたなどと主張する。これらは,テレビ放送が情報を広く拡散させることによって権利侵害を生じさせることが あるという通常の側面とは異なり,特定の者に特定の放送を視聴させないように配慮することを求めるものと解されるが,上記のとおり,一般視聴者を基準として相当性を欠くとはいえず,社会通念に照らして,受忍限度を超えるものとまではいえない表現行為に対し,原告らの上記主張のような義務を課することはできないというべきである。 したがって,不法行為や債務不履行の対象となるような遺族の敬愛・追慕の情の侵害があるとはいえない。 プライバシー権の侵害について前提事実記載のとおり,本件番組内でドナーについて公開された情報は,原告らの了承の下,被告JOTによる記者会見で公開された情報に限られ ていること,その内容からして本件番組内でドナーが原告らの子であることを特定することはできないことからすれば,本件番組の放送により原告らのプライバシー権が侵害されたとは認められない。 原告らは,摘出手術の日時がEの命日と近接していることや,番組で放送されたサンクスレターを家に飾っていたことからすれば,原告らを知る 者が原告らの子が臓器提供をしたことを推知できると主張するが,前述のとおり,本件番組内で公開されたドナーに関する情報は記者会見でも公開されている上,本件番組内で公開された情報のみによって る 者が原告らの子が臓器提供をしたことを推知できると主張するが,前述のとおり,本件番組内で公開されたドナーに関する情報は記者会見でも公開されている上,本件番組内で公開された情報のみによって確定的に原告らの子が臓器提供したことを知ることはできないから,原告らの上記主張は採用できない。 3 結論 以上のとおり,原告らの権利又は法律上保護された利益の侵害があるとはいえないから,被告らの行為について,不法行為・債務不履行が成立する余地はない。 よって,原告らの請求は,その余の点につき審理するまでもなく,いずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 広島地方裁判所民事第3部 裁判長裁判官森實将人 裁判官竹尾信道 裁判官中山さほ子
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