平成25(行ケ)10125 審決取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成26年4月16日 知的財産高等裁判所 2部 判決 請求棄却
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判決文本文51,159 文字)

- 1 -平成26年4月16日判決言渡平成25年(行ケ)第10125号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成26年3月19日判決 原告株式会社林原 訴訟代理人弁護士安江邦治安江裕太 弁理士須磨光夫 被告日本食品化工株式会社 訴訟代理人弁護士宮嶋 学 大野浩之高田泰彦 柏 延之 弁理士勝沼宏仁 横田修孝森田 裕主文原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 - 2 -第1 原告の求めた判決特許庁が無効2012-800102号事件について平成25年3月25日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要本件は,特許無効審判請求を不成立とする審決の取消訴訟である。争点は,先願発明との同一性の有無である。 1 特許庁における手続の経緯被告は,発明の名称を「新規分岐グルカン並びにその製造方法および用途」とする発明について,平成21年4月15日,特許出願をし(特願2009-99117号。優先権主張日:平成20年9月18日,優先権主張番号:特願2008-239570号。請求項の数36。以下「本件出願」という。),平成21年10月30日,設定登録を受けた(特許4397965号,以下「本件特許」という。甲19)ものであるところ,原告は,平成24年6月15日,本件特許の請求項1~36につき特許無効審判請求をした。被告は,同年9月3日付け訂正請求書(甲22)により,特許請求の 下「本件特許」という。甲19)ものであるところ,原告は,平成24年6月15日,本件特許の請求項1~36につき特許無効審判請求をした。被告は,同年9月3日付け訂正請求書(甲22)により,特許請求の範囲を減縮し,請求項1~3,7,8,11~36を削除し,請求項4~6,9,10を後記2のとおり訂正したところ,特許庁は,平成25年3月25日,訂正を認めた上で,「本件請求は成り立たない。」との審決をし,同審決は,同年4月5日,原告に送達された(なお,本件において審決が訂正を認めた部分については争いがない。)。 2 本件訂正発明の要旨平成24年9月3日付け訂正請求書(甲22。以下,甲19の特許公報と併せて「本件明細書」ともいう。)によれば,訂正後の本件特許の請求項4,5,6,9,10に係る発明(以下,これらを合わせて「本件訂正発明」ということがある。)は,以下のとおりである。 - 3 -【請求項4】(本件訂正発明4)シクロデキストリン生成酵素と糖転移作用を有する酵素とを,デンプン原料に作用させる工程を含んでなる,α-1,4-結合により構成された直鎖状グルカンと,少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有する,重合度11~35のグルカンまたはその還元物であって,分岐構造がα-1,4-結合以外の結合様式により直鎖状グルカンの非還元末端に結合した1個以上のグルコース残基であるグルカンまたはその還元物を含有する液糖または粉糖の製造法であって,糖転移作用を有する酵素がアスペルギルス・ニガー(Aspergillusniger)またはアクレモニウム・エスピー(Acremoniumsp.)由来のα-グルコシダーゼである,製造法。 【請求項5】(本件訂正発明5)シクロデキストリン生成酵素と llusniger)またはアクレモニウム・エスピー(Acremoniumsp.)由来のα-グルコシダーゼである,製造法。 【請求項5】(本件訂正発明5)シクロデキストリン生成酵素と糖転移作用を有する酵素に加えて,枝切り酵素を更に作用させる,請求項4に記載の製造法。 【請求項6】(本件訂正発明6)シクロデキストリン生成酵素が,パエニバチルスエスピー (Paenibacillussp.),バチルスコアギュランス (Bacilluscoagulans),バチルスステアロサーモフィルス(Bacillusstearothermophilus),またはバチルスマゼランス (Bacillusmacelans) 由来のものである,請求項4または5に記載の製造法。 【請求項9】(本件訂正発明9)枝切り酵素が,イソアミラーゼ,プルラナーゼ,およびこれらの組み合わせからなる群から選択される,請求項5に記載の製造法。 【請求項10】(本件訂正発明10)枝切り酵素が,マイロイデスオドラータス (Myroidesodoratus)由来イソアミラーゼ,シュードモナスアミロデラモサ (Pseudomonasamyloderamosa) 由来イソアミラーゼ,およびクレブシエラプネウモニアエ(Klebsiellapneumoniae)由来プルラナーゼ,並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される,請求項5に記載の製 - 4 -造法。 3 原告が主張する無効理由本件訂正発明4~6,9,10は,本件出願日前の2008年(平成20年)4月23日に日本語でされた国際出願(PCT/JP2008/057879。日本における出願番号:特願2009-512944号。優先権主張日:2007年(平成19 件出願日前の2008年(平成20年)4月23日に日本語でされた国際出願(PCT/JP2008/057879。日本における出願番号:特願2009-512944号。優先権主張日:2007年(平成19年)4月26日。優先権主張番号:特願2007-117369号)であって,本件出願の優先日後の2008年(平成20年)11月13日に国際公開(再公表公報WO2008/136331。甲10)がされたものの国際出願日における国際出願に添付された明細書,請求の範囲又は図面(以下,これらを合わせて「先願明細書」という。)に記載された発明(以下,後記4(1)記載の発明を含めて,「先願発明」ということがある。)と同一であるから,本件特許は,特許法184条の13の規定により読み替えて適用される同法29条の2の規定に違反して特許されたものである。 4 審決の理由の要点本件訂正発明4~6,9,10は,先願発明と同一であるということはできないから,無効理由には理由がない。 (1) 先願発明ア先願発明1「バチルス・サーキュランスPP710由来α-グルコシル転移酵素及びバチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillusthermophilus)由来のCGTaseとを,澱粉部分分解物に作用させることにより,分岐α-グルカンを調製する方法。」イ先願発明2「バチルス・サーキュランスPP710由来α-グルコシル転移酵素,バチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillusthermophilus)由来のCGTase及びイソア - 5 -ミラーゼを,澱粉部分分解物に作用させることにより,分岐α-グルカンを調製する方法。」(2) 一致点及び相違点ア先願発明1と本件訂正発明4との一致点及び相違点【一致点】 ミラーゼを,澱粉部分分解物に作用させることにより,分岐α-グルカンを調製する方法。」(2) 一致点及び相違点ア先願発明1と本件訂正発明4との一致点及び相違点【一致点】「シクロデキストリン生成酵素と糖転移作用を有する酵素とを,デンプン原料に作用させる工程を含んでなる,グルカンを含有する糖の製造法。」である点。 【相違点1】本件訂正発明4が液糖又は粉糖の製造法であるのに対し,先願発明1ではこのような特定がなされていない点。 【相違点2】本件訂正発明4で製造される糖が,α-1,4結合により構成された直鎖状グルカンと,少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有する,重合度11~35のグルカンであって,分岐構造がα-1,4結合以外の結合様式により直鎖状グルカンの非還元末端に結合した1個以上のグルコース残基であるグルカンを含むものであるのに対し,先願発明1ではこのような特定がなされていない点。 【相違点3】本件訂正発明4において,糖転移作用を有する酵素がアスペルギルス・ニガー(Aspergillusniger)又はアクレモニウム・エスピー(Acremoniumsp.)由来のα-グルコシダーゼであるのに対し,先願発明1ではバチルス・サーキュランスPP710由来α-グルコシル転移酵素が用いられる点。 イ先願発明2と本件訂正発明5との一致点及び相違点【一致点】「シクロデキストリン生成酵素と糖転移作用を有する酵素と枝切り酵素とを,デンプン原料に作用させる工程を含んでなる,グルカンを含有する糖の製造法。」であ - 6 -る点。(なお,審決において,本件訂正発明5と先願発明2との一致点に係る記載には,上記の「枝切り酵素」に関する記載が脱落しているが,審 含んでなる,グルカンを含有する糖の製造法。」であ - 6 -る点。(なお,審決において,本件訂正発明5と先願発明2との一致点に係る記載には,上記の「枝切り酵素」に関する記載が脱落しているが,審決は,「本件訂正発明5と先願発明2を対比すると,後者の『イソアミラーゼ』は前者の『枝切り酵素』に相当する」との認定をしており,この点について当事者も争うものではないことから,裁判所において上記下線部を補い,上記のように摘示した。)【相違点】上記の相違点1~3と同じ。 (3) 先願発明1と本件訂正発明4の相違点に対する判断ア相違点1について実質的な相違点ではない。 イ相違点2について先願発明1の糖も,グルコース重合度11~35のグルカンを含むものであり,「α-1,4結合により構成された直鎖状グルカンと,少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有する」グルカンであって,「分岐構造がα-1,4結合以外の結合様式により直鎖状グルカンの非還元末端に結合した1個以上のグルコース残基であるグルカンを含むもの」に該当することから,上記相違点は,実質的なものでない。 ウ相違点3について先願明細書には,アミラーゼで消化されない水溶性食物繊維について,「α-1,6結合を多く含むグルカンにも水溶性食物繊維としての用途が期待でき」るところ,水溶性食物繊維として有用なグルカンとその製造方法を提供するという課題を解決するために,「α-1,4グルカンを原料(基質)とし,分岐・・・(中略)・・・を比較的多く有する分岐α-グルカンを生成する酵素に期待を込め」たことが記載されている。また,アスペルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼは,本件出願前に既に周知の酵素であり,澱粉分解物から,一定 ・を比較的多く有する分岐α-グルカンを生成する酵素に期待を込め」たことが記載されている。また,アスペルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼは,本件出願前に既に周知の酵素であり,澱粉分解物から,一定(α-1,6結合)の分岐α-グルカンを生成する酵素であることは当業者に周知である。 - 7 -しかし,先願明細書のいう「分岐」とは,グルカンにおけるグルコースの結合様式のうち,α-1,4結合以外のグルコースの結合様式を意味すると定義しているように,分岐α-グルカンの「分岐」をα-1,6結合に限定するものではない。 また,先願明細書には,分岐を比較的多く有する分岐α-グルカンを生成する酵素を探索した結果として見出した,PP710株及びPP349株が産生する新規なα-グルコシル転移酵素が,α-1,4,α-1,6結合だけでなく,「α-1,3結合,α-1,4,6結合及びα-1,3,6結合をも有するグルカンを生成」することが記載されていることから,当該「分岐」にはα-1,3結合,α-1,4,6結合及びα-1,3,6結合による分岐も含むものとして解釈されるべきである。 そして,α-グルカンにこれらの分岐が導入される点が,先願明細書に記載された「水溶性食物繊維として有用なグルカンとその製造方法」を提供するという課題を解決するために必要であり,それが先願発明の技術的特徴の一部として認識されている。先願明細書には,具体的な構成としてはPP710株及びPP349株が産生するα-グルコシル転移酵素を使用することしか開示されておらず,しかも,当該酵素により導入される特定の分岐構造が先願発明1の技術的特徴の一部として認識されており,そのようなものを得るために一般的な酵素ではなく,上記PP710株及びPP349株が産生するα-グルコシル転移酵素を探索して見出し, 特定の分岐構造が先願発明1の技術的特徴の一部として認識されており,そのようなものを得るために一般的な酵素ではなく,上記PP710株及びPP349株が産生するα-グルコシル転移酵素を探索して見出し,使用したのであるから,当該酵素に代えて別の酵素を用いるといった技術的思想を,先願明細書の記載から読み取ることはできない。 さらに,デンブン原料に,シクロテキストリン生成酵素とアスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼを作用させる,分岐α-グルカン含有糖液の製造方法(本件明細書に記載の製造例13)を再現した実験報告書III(甲15)においても,α-1,4,6結合が確認されたものの,α-1,3結合及びα-1,3,6結合のいずれも検出されていない。 なお,アクレモニウム・エスピー由来のα-グルコシダーゼを用いた場合は,「直鎖状グルカンの内部にもα-1,3-結合を介した分岐構造が導入されることにな - 8 -る」と推測されるが,アクレモニウム・エスピー由来のα-グルコシダーゼはα-1,3結合を介した分岐構造を導入するものであり,α-1,6結合を導入するものでないから,α-1,6結合,α-1,3,6結合及びα-1,4,6結合のいずれを介した分岐構造も導入されるとは予測できない。 このように,先願発明1の方法におけるバチルス・サーキュランスPP710由来のα-グルコシダーゼを,アスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼ(あるいはアクレモニウム・エスピー由来のα-グルコシダーゼ)に置換した場合には,得られる分岐α-グルカンの分岐の種類が限定され,分解酵素や他の物質との相互作用といった性質が変化することは,その構造から明らかである。 したがって,分岐α-グルカンを調製する方法についての上記置換は,得られる分岐α-グルカンの性質 定され,分解酵素や他の物質との相互作用といった性質が変化することは,その構造から明らかである。 したがって,分岐α-グルカンを調製する方法についての上記置換は,得られる分岐α-グルカンの性質を変化させるものであり,新たな効果を奏するものといえる。 以上のことから,先願発明1におけるバチルス・サーキュランスPP710由来のα-グルコシダーゼを,アスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼに置き換えることは,先願発明1の特徴部分又は課題解決のために必要な部分を除くものであって,単なる周知技術の付加,削除,転換等であるとはいえず,また,そのことによって新たな効果を奏するものでないともいえないから,上記相違点3は課題解決のための具体化手段における微差とはいえず,本件訂正発明4と先願発明1が実質同一であるともいえない。 (4) 本件訂正発明5,6,9,10について本件訂正発明5と先願発明2も,前記と同様の理由により,実質同一であるとはいえない。そして,本件訂正発明6,9,10はいずれも本件訂正発明4又は5の発明特定事項を限定して含むものであるから,同様の理由により,上記無効理由にはいずれも理由がない。 第3 原告主張の審決取消事由 - 9 - 1 取消事由1(先願発明1の認定誤り)及び取消事由2(相違点3の認定の誤り)(1) 先願発明1の認定誤り審決は,先願発明1について「バチルス・サーキュランスPP710由来α-グルコシル転移酵素及びバチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillusthermophilus)由来のCGTaseとを,澱粉部分分解物に作用させることにより,分岐α-グルカンを調製する方法。」を認定したが,これらの酵素を審決のように特定の微生物由来のものに限定して認定したのは,以下のと s)由来のCGTaseとを,澱粉部分分解物に作用させることにより,分岐α-グルカンを調製する方法。」を認定したが,これらの酵素を審決のように特定の微生物由来のものに限定して認定したのは,以下のとおり,誤りである。 ア先願明細書の段落【0027】に「本発明でいうα-グルコシル転移酵素とは,マルトース及び/又はグルコース重合度が3以上のα-1,4グルカンに作用し,実質的に加水分解することなくα-グルコシル転移を触媒することにより,本発明の分岐α-グルカンを生成する酵素を意味する。」,段落【0031】に「本発明のα-グルコシル転移酵素はその給源によって制限されないものの,好ましい給源として微生物が挙げられ,とりわけ,本発明者らが土壌より単離した微生物PP710株又はPP349株が好適に用いられる。」と記載されているとおり,バチルス・サーキュランスPP710由来α-グルコシル転移酵素及びバチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillusthermophilus)由来のCGTaseは,それぞれ,糖転移酵素及びシクロデキストリン生成酵素(CGTase)の好適な一例にすぎない。 イまた,先願明細書には,「新規なα-グルコシル転移酵素を産生する微生物を土壌から単離したという知見」(以下「第1の知見」という。)のほか,段落【0008】,【0046】に記載されているように,「α-グルコシル転移酵素とCGTaseなどの加水分解作用を有する他のアミラーゼとを併用すると,α-グルコシル転移酵素を単独で使用する場合に比べて,得られる分岐α-グルカンの粘度を低減させ消化性の低減に寄与するα-1,3,α-1,6及びα-1,3,6結合の割合を更に増加させることができるという知見」(以下「第2の知見」という。)が - 10 -示されている。こ 粘度を低減させ消化性の低減に寄与するα-1,3,α-1,6及びα-1,3,6結合の割合を更に増加させることができるという知見」(以下「第2の知見」という。)が - 10 -示されている。この第2の知見からすれば,CGTaseと併用する場合,α-グルコシル転移酵素はα-1,4グルカンの非還元末端グルコースにα-1,6グルコシル転移する酵素作用及びα-1,3グルコシル転移する酵素作用を有しておればよく,特定の微生物由来のものに限られないことは,先願明細書の記載及び先願発明の出願時の技術常識から明らかである。このことは,先願発明1の分割出願(特願2013-151138号)が登録された事実によっても裏付けられることである。 ウ先願発明1は,正しくは,「糖転移作用を有する酵素とシクロデキストリン生成酵素(CGTase)とを,デンプン原料に作用させる工程を含んでなる,分岐α-グルカンを含有する液糖又は粉糖の製造法。」と認定されるべきである。 (2) 相違点3の認定の誤りそうすると,本件訂正発明4と先願発明1の相違点3は,「本件訂正発明4において,糖転移作用を有する酵素がアスペルギルス・ニガー(Aspergillusniger)又はアクレモニウム・エスピー(Acremoniumsp.)由来のα-グルコシダーゼと特定されているのに対し,先願発明1ではそのような特定がなされていない点。」と認定すべきであり,これと異なる審決の認定は誤りである。 (3) 上記認定の誤りが結論に影響を及ぼすこと審決の認定した相違点1及び2は実質的相違点でないとする判断については争いがないから,本件訂正発明4と先願発明1とは,本件訂正発明4において,糖転移作用を有する酵素が「アスペルギルス・ニガーまたはアクレモニウム・エスピー由来のα- 的相違点でないとする判断については争いがないから,本件訂正発明4と先願発明1とは,本件訂正発明4において,糖転移作用を有する酵素が「アスペルギルス・ニガーまたはアクレモニウム・エスピー由来のα-グルコシダーゼ」と特定されている点でのみ相違することになる。そして,アスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼがα-1,6グルコシル転移する酵素作用及びα-1,3グルコシル転移する酵素作用を有するα-グルコシル転移酵素であることは,先願発明の出願時の技術常識であり,先願発明の出願前から,α-グルコシル転移酵素として,特に分岐を有するオリゴ糖(分岐α-グルカン)の製造に汎用されていた周知の酵素である。これを考慮に入れると,アスペルギル - 11 -ス・ニガー由来のα-グルコシダーゼという酵素の名称が,文言上先願明細書に記載されていないとしても,先願明細書の記載を目にした当業者には,「α-1,4グルカンの非還元末端にα-1,6グルコシル転移する酵素作用及びα-1,3グルコシル転移する酵素作用を有するα-グルコシル転移酵素」として,アスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼが直ちに想起されるのは明らかであり,アスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼは先願明細書に記載されているに等しく,本件訂正発明4と先願発明1とは同一である。 仮に,アスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼが記載されているに等しいとまではいえないとしても,アスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼの上記記載の酵素作用や周知性に照らすと,先願発明1の「α-1,4グルカンの非還元末端にα-1,6グルコシル転移する酵素作用及びα-1,3グルコシル転移する酵素作用を有するα-グルコシル転移酵素」として,アスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼを用いるこ グルカンの非還元末端にα-1,6グルコシル転移する酵素作用及びα-1,3グルコシル転移する酵素作用を有するα-グルコシル転移酵素」として,アスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼを用いることは,明らかに周知技術の転換等に相当し,何らの新たな効果を奏するものでもない。 したがって,アスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼを用いることは,課題解決のための具体化手段における微差にすぎず,本件訂正発明4と先願発明1とは実質的に同一である。 以上のとおり,取消事由1及び2についての認定誤りは,結論に影響を及ぼすものである。 2 取消事由3(相違点3についての判断の誤り)(1) 判断内容の誤り審決は,「先願発明1におけるバチルス・サーキュランスPP710由来のαグルコシダーゼを,アスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼに置き換えることは,先願発明1の特徴部分又は課題解決のために必要な部分を除くものであって,単なる周知技術の付加,削除,転換等であるとはいえず,また,そのことによって - 12 -新たな効果を奏するものでないともいえないから,相違点3は課題解決のための具体化手段における微差とはいえず,本件訂正発明4と先願発明1が実質同一であるともいえない」としたが,以下のとおり,誤りである。 ア本件訂正発明4で用いられるα-グルコシダーゼと先願発明1で用いられるα-グルコシル転移酵素とは同一であること(ア) 本件訂正発明4のα-グルコシダーゼについて本件訂正発明4は,「糖転移作用を有する酵素」を「アスペルギルス・ニガー(Aspergillusniger)またはアクレモニウム・エスピー(Acremoniumsp.)由来のα-グルコシダーゼ」に訂正されたものであるが,訂正の前後 る酵素」を「アスペルギルス・ニガー(Aspergillusniger)またはアクレモニウム・エスピー(Acremoniumsp.)由来のα-グルコシダーゼ」に訂正されたものであるが,訂正の前後を通じて請求項4に係る発明を実質的に変更したものではない。そして,本件明細書(段落【0047】,【0048】,【0053】,【0055】)によれば,本件分岐グルカンは,糖転移作用を有する酵素として,α-グルコシダーゼ,6-α-グルコシルトランスフェラーゼ,デキストリンデキストラナーゼ,環状マルトシルマルトース生成酵素のいずれを使用しても製造でき,この中からα-グルコシダーゼを選択した場合,そのα-グルコシダーゼは,市販のものを用いても,微生物から単離したものを用いてもよく,微生物起源は,特に限定されない。つまり,本件分岐α-グルカン(分岐メガロ糖)は,どんな微生物由来のα-グルコシダーゼを用いても,製造することができる。 しかも,本件訂正発明4で用いるアスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼは,先願発明1の出願前から,α-1,6及びα-1,3グルコシル転移する酵素として,また,アクレモニウム・エスピー由来のα-グルコシダーゼは,α-1,3及びα-1,4グルコシル転移する酵素として周知であり,いずれも市販され,工業的に使用されていたものである。 したがって,本件訂正発明4において,糖転移作用を有する酵素として,アスペルギルス・ニガー又はアクレモニウム・エスピー由来のα-グルコシダーゼに限定することに格別の技術的意義はない。 (イ) 先願発明1で用いられるα-グルコシル転移酵素について - 13 -先願明細書(段落【0027】,【0031】)によれば,先願明細書でいうα-グルコシル転移酵素は,α-1,4グルカンに作用し, 発明1で用いられるα-グルコシル転移酵素について - 13 -先願明細書(段落【0027】,【0031】)によれば,先願明細書でいうα-グルコシル転移酵素は,α-1,4グルカンに作用し,実質的に加水分解をすることなくα-グルコシル転移を触媒することにより分岐グルカンを生成する酵素で,その給源は制限されない。そして,前記のとおり,先願発明1のバチルス・サーキュランスPP710由来のα-グルコシル転移酵素は,アルスロバクター・グロビホルミスPP349由来のものとともに挙げられた,好ましい例にすぎない。 したがって,α-1,4グルカンに作用し,実質的に加水分解をすることなくα-グルコシル転移を触媒することにより,分岐α-グルカンを生成する酵素であれば,先願発明1の製造法において使用できることは,先願明細書の記載からみて当業者には明らかである。 (ウ) このように,本件訂正発明4で用いられるα-グルコシダーゼは,α-グルコシル基を他の糖質へ転移する酵素作用からみて,先願発明1でいうα-グルコシル転移酵素と異なる酵素ではない。 イ本件訂正発明4と先願発明1とで得られる分岐構造が同じであること(ア) 本件訂正発明4において糖転移作用を有する酵素がアスペルギルス・ニガー(Aspergillusniger)由来のα-グルコシダーゼの場合審決は,実験報告書III(甲15)のみに基づいて,本件訂正発明4において糖転移作用を有する酵素としてアスペルギルス・ニガー(Aspergillusniger)由来α-グルコシダーゼを用いた場合に得られる分岐グルカンには,α-1,3結合及びα-1,3,6結合のいずれも含まれない旨認定したが,以下のとおり,誤りである。 α-1,6結合のみならず,α-1,3結合をも分岐中に含 ゼを用いた場合に得られる分岐グルカンには,α-1,3結合及びα-1,3,6結合のいずれも含まれない旨認定したが,以下のとおり,誤りである。 α-1,6結合のみならず,α-1,3結合をも分岐中に含むことについては,本件明細書の段落【0055】に,アスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼを用いた場合はごく微量ではあるがα-1,2結合やα-1,3結合が分岐構造中に含まれることがあることが記載されているほか,農学博士A作成の見解書(甲31・以下「A見解書」という。),理学博士B作成の見解書(甲37・以下「B見解書」という。),工学博士C作成の見解書(甲40・以下「C見解書」という。)等 - 14 -にも示されている。 そして,α-1,3,6結合を形成することについて,C見解書において,α-1,6グルコシル転移及びα-1,3グルコシル転移の両方のα-グルコシル転移作用を有する酵素であれば,その頻度は別にして,当然に生じ得るものであるとされる。すなわち,その反応機序について,α-グルコシル転移酵素が,非還元末端グルコースに対してまずα-1,6グルコシル転移を行い,α-1,6結合を介した分岐構造が生成し,分岐したグルコース残基に更にα-1,3グルコシル転移が起こり,結果としてα-1,3,6結合が形成される,ということが合理的であるとされており,A見解書及びB見解書においても同様の見解が示され,受託研究報告書(甲35)による実験結果の裏付けもある。したがって,α-1,6グルコシル転移及びα-1,3グルコシル転移の両方のα-グルコシル転移作用を有する酵素であれば,その頻度は別にして,当然にα-1,3,6結合が生じ得るというのが,酵素反応メカニズムから合理的かつ科学的に導かれる先願発明の出願時の技術常識である。 したがって,アスペル 有する酵素であれば,その頻度は別にして,当然にα-1,3,6結合が生じ得るというのが,酵素反応メカニズムから合理的かつ科学的に導かれる先願発明の出願時の技術常識である。 したがって,アスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼを用いた場合,α-1,6結合のみならず,α-1,3結合,α-1,3,6結合が形成されることになる。 (イ) 本件訂正発明4において糖転移作用を有する酵素がアクレモニウム・エスピー(Acremoniumsp.)由来のα-グルコシダーゼの場合審決は,本件訂正発明4において糖転移作用を有する酵素としてアクレモニウム・エスピー(Acremoniumsp.)由来α-グルコシダーゼを用いた場合に得られる分岐グルカンには,α-1,6結合,α-1,3,6結合及びα-1,4,6結合のいずれもが含まれるとは予測できないとしたが,以下のとおり,誤りである。 A見解書において述べられているように,一般にα-グルコシダーゼは,特定の分岐を形成させる主反応に加えて,他の分岐を形成させる副反応をも触媒し,いくつかの異なる結合様式で分岐構造を形成することがあり,アクレモニウム・エスピ - 15 -ー由来のα-グルコシダーゼもその例外ではなく,α-1,6結合,α-1,3,6結合及びα-1,4,6結合のいずれも形成しないとはいえない。 (ウ) そうすると,先願明細書でいうα-グルコシル転移酵素と,アスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼ及びアクレモニウム・エスピー由来のα-グルコシダーゼとは,共に,α-1,4グルカンを基質とした場合,加水分解活性が弱く,糖転移活性が強い酵素であり,実質的に加水分解をすることなくα-グルコシル転移を触媒することにより,α-1,6結合だけでなくα-1,3結合やα-1,3, ルカンを基質とした場合,加水分解活性が弱く,糖転移活性が強い酵素であり,実質的に加水分解をすることなくα-グルコシル転移を触媒することにより,α-1,6結合だけでなくα-1,3結合やα-1,3,6結合を有する分岐α-グルカンを生成する酵素という点で,性質を全く同じくする酵素なのである。 ウ効果について本件明細書の段落【0013】には,非還元末端に分岐構造を有する重合度が11~35程度のグルカンであれば,高い耐老化性を有するとともに,風味改善や食感の改善等に極めて有効であることが記載されているのだから,α-グルコシダーゼを置換することで非還元末端以外の分岐構造に変化が生じたとしても,本件明細書に記載された効果において差異がもたらされるはずがない。 また,実験報告書II(甲11),受託研究報告書(甲33),農学博士D作成の見解書(甲39・以下「D見解書」という。)によれば,先願発明1において,バチルス・サーキュランスPP710由来のα-グルコシダーゼをアスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼに置換しても,耐老化性や保存安定性において新たな効果が奏されることはないことを示している。 被告は,先願発明1のバチルス・サーキュランスPP710由来のα-グルコシダーゼをアスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼに置換すると,水溶性食物繊維含量が57.5%から20%台まで有意に低下するという新たな効果が奏されると主張するが,これは,本件訂正発明4によって得られる液糖が先願発明1によって得られるものと比較して水溶性食物繊維含量において劣っていることを示すにすぎない。また,被告の従業員が,甲58(「独立行政法人農畜産業振興機構」 - 16 -のウエブページ「コーンスターチの特性と新加工・利用技術」)において,約20% いて劣っていることを示すにすぎない。また,被告の従業員が,甲58(「独立行政法人農畜産業振興機構」 - 16 -のウエブページ「コーンスターチの特性と新加工・利用技術」)において,約20%の食物繊維を含有するハイアミロースコーンスターチについて,難消化性でん粉(レジスタントスターチ)とも呼ばれている旨述べており,被告において,食物繊維含有量が約20%程度でも難消化性であるとの認識を有していることが窺われるところ,本件訂正発明4の水溶性食物繊維含有量は上記のとおりであるから,難消化性の観点からも先願発明1と技術的意義において何らの差異もない。 エ以上のとおり,相違点3は課題解決のための具体化手段における微差であって,本件訂正発明4と先願発明1とは実質同一であると判断されるべきである。 (2) 相違点2についての認定判断との矛盾審決は,相違点3の判断に当たり,α-グルコシル転移酵素としてバチルス・サーキュランスPP710由来のものを用いた先願発明1では,α-1,6結合,α-1,3結合,α-1,3,6結合,及びα-1,4,6結合の分岐構造が導入されるのに対して,本件訂正発明4のアスペルギルス・ニガー(Aspergillusniger)由来の場合は,α-1,3結合及びα-1,3,6結合の分岐構造が導入されず,アクレモニウム・エスピー(Acremoniumsp.)由来の場合は,α-1,6結合,α-1,3,6結合,及びα-1,4,6結合の分岐構造が導入されないことから,先願発明1と本件訂正発明4とでは,得られる分岐構造が異なる旨認定した。 その一方,相違点2に関する判断において,審決は,本件訂正発明4も,先願発明1も,α-1,4結合により構成された直鎖状グルカンと,少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された 認定した。 その一方,相違点2に関する判断において,審決は,本件訂正発明4も,先願発明1も,α-1,4結合により構成された直鎖状グルカンと,少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有し,分岐構造がα-1,4以外の結合様式により直鎖状グルカンの非還元末端に結合した1個以上のグルコース残基であるグルカンを製造するという点で一致する旨判断した。 このように,審決は,本件訂正発明4により製造される分岐グルカンと先願発明1により製造される分岐グルカンの同一性について,矛盾した判断をしている。 (3) 特許請求の範囲に基づかない判断審決は,相違点3の判断に当たり,本件訂正発明4において糖転移作用を有する - 17 -酵素であるα-グルコシダーゼがアスペルギルス・ニガー(Aspergillusniger)由来の場合及びアクレモニウム・エスピー(Acremoniumsp.)由来の場合に得られる分岐構造について,前記のとおり認定したが,訂正請求項4には,製造される分岐グルカンがこれら特定の分岐構造を有さないことは記載されていない。 したがって,審決は,特許請求の範囲に記載されていない事項に基づいて本件訂正発明4の内容を認定,解釈したものであって,失当である。 (4) 無効審判の経緯無効審判において,被告が,本件訂正発明4により得られる分岐グルカンは非還元末端のみに分岐構造を有するのに対して,先願発明1により得られる分岐グルカンは非還元末端以外の部分にも分岐構造を有する旨主張したため,原告は,実験報告書III(甲15)を提出し,本件明細書の製造例13及び製造例9を再現して得た分岐グルカンが非還元末端以外の内部グルコースにも分岐構造を有することを実験的に示した。 それにもかかわ は,実験報告書III(甲15)を提出し,本件明細書の製造例13及び製造例9を再現して得た分岐グルカンが非還元末端以外の内部グルコースにも分岐構造を有することを実験的に示した。 それにもかかわらず,審決は,本件訂正発明4及び先願発明1により得られる分岐グルカンの分岐構造が非還元末端のみに存在するか否かについては何ら判断を示さず,実験報告書III の結果に基づいて,本件訂正発明4により製造される分岐グルカンが特定の分岐結合を有さないものであるとの認定をした。審決のこの認定は,無効審判における被告主張と乖離した独断であり,失当である。 3 本件訂正発明5,6,9,10について審決は,本件訂正発明4と同様の理由により,本件訂正発明5,6,9,10は先願発明1に記載された発明とはいえないとする。しかし,先願発明1の認定に誤りがあるのと同様に,先願発明2について,バチルス・サーキュランスPP710由来のα-グルコシル転移酵素に限定解釈した認定は,誤りである。 仮に,この点が誤りでないとしても,審決の認定した相違点1~3は,本件訂正発明5との相違点でもあるから,同様に,先願明細書に記載された発明とはいえな - 18 -いとする審決の判断は誤りである。そして,本件訂正発明5,6,9,10におけるCGTaseないし枝切り酵素と先願発明におけるそれとは差異はないから,本件訂正発明5,6,9,10は,先願発明1又は2と同一であるといえる。 第4 被告の反論 1 取消事由1(先願発明1の認定誤り)及び取消事由2(相違点3の認定の誤り)に対し(1) 原告主張1(1),(2)に対し審決が,先願発明1で用いられる酵素を特定の微生物株由来のものに限定して認定したことに誤りはなく,相違点2の認定にも誤りはない。 ア )に対し(1) 原告主張1(1),(2)に対し審決が,先願発明1で用いられる酵素を特定の微生物株由来のものに限定して認定したことに誤りはなく,相違点2の認定にも誤りはない。 ア先願発明1におけるα-グルコシル転移酵素は,段落【0013】に規定された「本発明の分岐α-グルカン」を生成し,かつ,「加水分解活性が弱い点,低濃度から高濃度まで基質溶液の濃度に依存せず効率の良い転移活性を有する点,及び,α-1,3及びα-1,3,6結合をも生成する点で,従来公知の真菌由来α-グルコシダーゼや酢酸菌由来デキストリンデキストラナーゼとは異なる酵素」(段落【0027】)である点に特徴がある発明であるところ,先願明細書に記載されたα-グルコシル転移酵素は,実質的にバチルス・サーキュランスPP710由来のものとアルスロバクター・グロビホルミスPP349由来のものの二つのみである。そうすると,先願明細書には,特定の菌株由来の酵素が記載されていると判断するのが妥当であり,そのような限定のない「α-グルコシル転移酵素」を上位概念として認定するのは不可能である。 また,同段落に,先願明細書に開示されたα-グルコシル転移酵素が公知の真菌由来のα-グルコシダーゼとは異なることが記載されているとおり,先願明細書において,本件訂正発明のアスペルギルス・ニガー(Aspergillusniger)又はアクレモニウム・エスピー(Acremoniumsp.)由来のα-グルコシダーゼは除外されているのだから,これを含む形で,抽象的なα-グルコシル転移酵素を認定することはでき - 19 -ない。 イまた,原告がいうところの「第2の知見」は,先願明細書には何ら記載されておらず,「第2の知見」に基づく原告の主張は先願明細書の記載に基づかない独自 ことはでき - 19 -ない。 イまた,原告がいうところの「第2の知見」は,先願明細書には何ら記載されておらず,「第2の知見」に基づく原告の主張は先願明細書の記載に基づかない独自の見解にすぎず,失当というほかない。 すなわち,原告が根拠として指摘する段落【0046】には,「本発明のα-グルコシル転移酵素」をCGTaseと併用することが記載されており,原告の主張するような,菌株限定のないα-グルコシル転移酵素をCGTaseと併用する技術思想が記載されているとはいえない。また,原告が根拠とする段落【0008】についても,そもそも「CGTase」という記載自体がなく,菌株限定のないα-グルコシル転移酵素をCGTaseと組み合わせて用いることは何ら記載されていない。同段落に記載された方法で得られた分岐α-グルカンは,血糖上昇抑制作用や生体内脂質低減作用をも有する顕著に難消化性の水溶性食物繊維であり,先願明細書で提供された特殊なα-グルコシル転移酵素を使用しなければ生産物はこのような効果を奏さないから,同段落の「α-グルコシル転移酵素」は,先願明細書で提供された特殊なα-グルコシル転移酵素を意味すると解するほかない。 したがって,審決における先願発明1の認定に誤りはなく,それに基づく相違点3の認定にも誤りはない。 (2) 原告主張1(3)に対しア先願明細書において「本発明のα-グルコシル転移酵素」として規定されているのは,上記のとおりの特殊な酵素であり,「α-1,4グルカンの非還元末端にα-1,6グルコシル転移する酵素作用及びα-1,3グルコシル転移する酵素作用を有するα-グルコシル転移酵素」としてアスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼが直ちに想起されるか否かは,同酵素が先願明細書に規定された「本 酵素作用及びα-1,3グルコシル転移する酵素作用を有するα-グルコシル転移酵素」としてアスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼが直ちに想起されるか否かは,同酵素が先願明細書に規定された「本発明のα-グルコシル転移酵素」に当たるか否かの判断とは無関係である。 また,そもそも特許法29条の2の同一性の判断はあくまで引用文献に当該発明が記載されているか,記載されていると等しいといえるか否かを判断基準とするの - 20 -であるから,アスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼが想起される旨の原告主張は,進歩性の判断であればともかく,本件のような先願発明の同一性の議論としては主張自体失当である。 イアスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼが,「α-1,4グルカンの非還元末端にα-1,6グルコシル転移する酵素作用及びα-1,3グルコシル転移する酵素作用を有するα-グルコシル転移酵素」に該当するか否かは,「本発明のα-グルコシル転移酵素」に該当するか否かの判断とは関係がないので,糖転移作用を有する酵素としてアスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼを用いることは周知技術の転換等に相当するといえる根拠はそもそも存在しない。 また,先願明細書の段落【0046】にあるα-グルコシル転移酵素とCGTaseとの併用は,あくまでも,「本発明のα-グルコシル転移酵素」とともにCGTaseを用いた場合についてのものであり,「本発明のα-グルコシル転移酵素」に該当しないα-グルコシダーゼを用いることを想定したものではなく,その場合にどの分岐がどの程度増えて結果的にどのような分岐α-グルカンが生成されるかについて,先願明細書から予想し得るものでもない。そのため,アスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼをCGTaseと併用し の分岐がどの程度増えて結果的にどのような分岐α-グルカンが生成されるかについて,先願明細書から予想し得るものでもない。そのため,アスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼをCGTaseと併用した場合に,段落【0013】で規定されている「本発明の分岐α-グルカン」を生成すると予想することは全く不可能であるし,先願発明1の特徴である「本発明のα-グルコシル転移酵素」を,原告自らが段落【0027】の記載でその作用効果を否定しているアスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼに置き換えることは,先願発明1の技術思想に明らかに反するものであり,「周知技術の転換等に相当する」といえるものでない。 2 取消事由3(相違点3についての判断の誤り)に対して(1) 原告主張2(1)に対して以下のとおり,糖転移作用を有する酵素の相違は,課題解決のための具体化手段 - 21 -の微差ではないから,実質的同一性を否定した審決の判断に誤りはない。 ア糖転移作用を有する酵素の相違について先願発明1は,水溶性食物繊維として有用なグルカンとその製造方法等を提供することを課題としており(段落【0006】),その解決手段としてα-グルコシル転移酵素を用いているものであるが,段落【0027】において「本発明のα-グルコシル転移酵素は,加水分解活性が弱い点,低濃度から高濃度まで基質溶液の濃度に依存せず効率の良い転移活性を有する点,及び,α-1,3及びα-1,3,6結合をも生成する点で,従来公知の真菌由来α-グルコシダーゼや酢酸菌由来デキストリンデキストラナーゼとは異なる酵素である」と記載されていることからも明らかなとおり,先願発明1においては従来公知の真菌由来α-グルコシダーゼや酢酸菌由来デキストリンデキストラナーゼとは異なる酵素を リンデキストラナーゼとは異なる酵素である」と記載されていることからも明らかなとおり,先願発明1においては従来公知の真菌由来α-グルコシダーゼや酢酸菌由来デキストリンデキストラナーゼとは異なる酵素を用いて,低濃度から高濃度まで基質溶液の濃度に依存せず効率の良い転移活性を有し,かつ,α-1,6結合に加えてα-1,3及びα-1,3,6結合をも生成させることを特徴とするものである。したがって,α-グルコシル基を他の糖質へ転移する酵素作用の点のみから,本件訂正発明4のα-グルコシダーゼと先願発明1のα-グルコシル転移酵素とが,異なる酵素ではないとすることはできない。 また,先願明細書の実験4-3(段落【0080】)には,アスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼを加水分解酵素として用いたことが記載されており,これは,アスペルギルス・ニガー由来α-グルコシダーゼが,強い加水分解活性を有することを示しており,実質的に加水分解をすることなくα-グルコシル転移を触媒するものであると原告が主張する先願発明1のα-グルコシル転移酵素には該当しないことを示している。しかも,原告作成の論文(乙21)では,アスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼでは,バチルス・サーキュランスPP710による生成される高分岐α-グルカンの形成を説明することはできないと結論付けられていることから,原告自身も,アスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼが先願発明のα-グルコシル転移酵素とは異なると認めているものといえる。 - 22 -さらに,被告は,実験により,本件訂正発明4で用いるアスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼが,バチルス・サーキュランスPP710由来α-グルコシル転移酵素と酵素活性の点で異なり,先願発明のα-グルコシル転移酵素に該当しな 訂正発明4で用いるアスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼが,バチルス・サーキュランスPP710由来α-グルコシル転移酵素と酵素活性の点で異なり,先願発明のα-グルコシル転移酵素に該当しないことを確認した。すなわち,実験報告書A(乙17)により,低基質濃度での加水分解活性及び糖転移活性が異なること,実験報告書B(乙18)により,高基質濃度での加水分解活性及び糖転移活性が異なること,実験報告書C(乙19)により,澱粉部分分解物に対する加水分解活性及び糖転移活性が異なること,実験報告書D(乙20)により,マルトペンタオースに対する加水分解活性及び糖転移活性が異なることが,それぞれ明らかである。 加えて,農学博士E作成の見解書(乙24・以下「E見解書」という。)において,同博士は,先願明細書に記載されたα-グルコシル転移酵素と分岐α-グルカンの定義に基づいて検討したが,アスペルギルス・ニガー由来α-グルコシダーゼは先願明細書に記載された条件を満たすα-グルコシル糖転移酵素であるとはいえない,両者は同じ性質を有する糖転移酵素であるとはいえないとの見解を述べている。 イ得られるグルカンの分岐構造について本件訂正発明4は,物を生産する方法の発明であるから,新規性の判断において,生産された物の新規性が要求されることはないし,先願発明1と生産された物同士が同一であったとしても,方法が異なれば,本件訂正発明4と先願発明1とは別発明である。念のため,原告の主張に対して,以下に反論する。 (ア) 本件訂正発明4において糖転移作用を有する酵素がアスペルギルス・ニガー(Aspergillusniger)由来α-グルコシダーゼの場合原告は,審決が,本件訂正発明4において糖転移作用を有する酵素がアスペルギルス・ニガー(Aspe る酵素がアスペルギルス・ニガー(Aspergillusniger)由来α-グルコシダーゼの場合原告は,審決が,本件訂正発明4において糖転移作用を有する酵素がアスペルギルス・ニガー(Aspergillusniger)由来α-グルコシダーゼの場合には,α-1,3結合及びα-1,3,6結合が形成されないと認定したのは誤りである旨主張する。 しかし,実験報告書III(甲15)では,α-1,3結合及びα-1,3,6結合が検出されていないのであるから,α-1,3結合及びα-1,3,6結合が形成 - 23 -されていないというべきである。同報告書では,実験目的ではなかったため,α-1,3結合及びα-1,3,6結合の同定及び定量を行わなかった旨の陳述書(甲38)があるが,これと同時期に提出され,比較された実験報告書II(甲11)ではα-1,3結合及びα-1,3,6結合のピークが記載されていることに照らすと,上記陳述書は信用性がない。 また,原告が上記主張の根拠とする岡山県工業技術センターに依頼して作成した受託研究報告書(甲35)についても,サンプルの調製を原告が行い,分析条件も原告が決定したものであるから,原告自身により作成された実験報告書III(甲15)と比較して信用できるものではない。 さらに,E見解書において,E博士は,2009年に発表されたOtaらの報告及びShimbaらの報告では,アスペルギルス・ニガー由来α-グルコシダーゼの糖転移反応が詳細に調べられているが,α-1,6結合での転移の報告に限られ,α-1,2結合やα-1,3結合すら言及されていないから,2008年の先願発明の出願時点ではα-1,3,6結合の形成は確認できていなかったといえること,自分の経験からもα-1,3,6結合の報告を目にしたことはないこと,及び,α 合すら言及されていないから,2008年の先願発明の出願時点ではα-1,3,6結合の形成は確認できていなかったといえること,自分の経験からもα-1,3,6結合の報告を目にしたことはないこと,及び,α-グルコシダーゼの転移反応は一般に非還元末端に対して行われると認識されており,それ以外の残基に転移する必要があるα-1,3,6結合の形成は,あったとしても非常に微弱で,それに着目して研究を行わない限り明らかにはならないと考えられることを述べている。 そうすると,仮に,受託研究報告書III(甲35)のデータどおりの事実が認められるとしても,アスペルギルス・ニガー由来α-グルコシダーゼを用いた場合でも,ある特定の条件においてα-1,3結合及びα-1,3,6結合が形成されることがあるという,先願発明の出願時には知られていなかった新たな知見を示すものであって,先願発明の出願当時の技術常識を構成するものではない。 (イ) 本件訂正発明4において糖転移作用を有する酵素がアクレモニウム・エスピー(Acremoniumsp.)由来α-グルコシダーゼの場合 - 24 -原告は,審決が,本件訂正発明4において糖転移作用を有する酵素がアクレモニウム・エスピー(Acremoniumsp.)由来α-グルコシダーゼの場合には,α-1,6結合,α-1,3,6結合及びα-1,4,6結合のいずれも形成されるとは予測できないと認定したのは誤りである旨主張する。 しかし,先願明細書(段落【0084】)には,α-1,6結合の割合が極めて高く,α-1,4,6結合に加えてα-1,3結合及びα-1,3,6結合をも有するグルカンはそれまで全く知られていないことが記載されているのだから,審決の上記認定は,当業者の技術認識に反していない。原告が上記主張の根拠として提 加えてα-1,3結合及びα-1,3,6結合をも有するグルカンはそれまで全く知られていないことが記載されているのだから,審決の上記認定は,当業者の技術認識に反していない。原告が上記主張の根拠として提出したA見解書(甲31)は,α-グルコシダーゼを作用させると特定の分岐を形成させる主反応に加えて他の分岐を形成させる副反応をも触媒するという抽象的な可能性が述べられているだけで,アクレモニウム・エスピー由来α-グルコシダーゼを作用させた場合にどのような作用機序が予想されるかについて何ら見解が示されていないのだから,原告の上記主張は失当である。 ウ α-グルコシダーゼの置換による新たな効果について以下のとおり,先願発明1のバチルス・サーキュランスPP710由来α-グルコシル転移酵素をアスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼに置換することで,得られる分岐α-グルカンの構造と性質は変化する。 すなわち,実験報告書III(甲15)のとおり,先願発明1で用いるα-グルコシダーゼをアスペルギルス・ニガー(あるいは,アクレモニウム・エスピー)由来のα-グルコシダーゼに置換すると,得られるグルカンの分岐構造の種類が限定されたものになる。分岐構造の種類が限定されるとアミラーゼなどの分解酵素で消化されやすくなるから,糖転移作用を有する酵素を置換することにより,水溶性食物繊維含量が少なく,消化性が高くなるように性質が変化する。実際,原告が提出した受託研究報告書(甲33)には,本件の製造例を再現した試料の水溶性食物繊維含量が最低でも57.5%であるのに,先願明細書の実験18-3を再現した試料では20%台であることが示されている。 - 25 -また,被告が作成した実験報告書E(乙22)のとおり,澱粉部分分解物を基質として,シクロデキスト 先願明細書の実験18-3を再現した試料では20%台であることが示されている。 - 25 -また,被告が作成した実験報告書E(乙22)のとおり,澱粉部分分解物を基質として,シクロデキストリン生成酵素とイソアミラーゼを併用して,アスペルギルス・ニガー由来α-グルコシダーゼを作用させるか,バチルス・サーキュランスPP710由来α-グルコシル転移酵素を作用させるかで,得られる反応生成物は,平均分子量に5倍以上の差があり,イソマルトース生成量においても差が見られ,水溶性食物繊維含量にも大きな差が見られた。 さらに,実験報告書F(乙28)にも示されるとおり,本件訂正発明4の製造方法により製造された液糖は,消化性で血糖値を上昇させインスリン分泌を刺激するものであり,先願発明とは技術的意義が異なる。 (2) 原告主張2(2)に対し審決は,相違点2についての判断では,先願発明1で得られる分岐グルカンは,本件訂正発明4の「α-1,4結合により構成された直鎖状グルカンと,少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有する」という抽象的な範囲の限度で本件訂正発明4で得られるグルカンと共通することを認定したにすぎず,両者が別組成物であるという相違点3についての認定判断とは矛盾しない。 (3) 原告の主張2(3)に対し先願明細書に,先願明細書のα-グルコシル転移酵素は,α-1,3結合及びα-1,3,6結合をも生成する点で従来公知の真菌由来α-グルコシダーゼ等と異なること(段落【0027】)や,先願明細書のα-グルコシル転移酵素を用いて得られたグルカンはα-1,4結合,α-1,6結合,α-1,4,6結合,α-1,3及びα-1,3,6結合を有する,これまで全く知られていない分岐グルカンであること(段 α-グルコシル転移酵素を用いて得られたグルカンはα-1,4結合,α-1,6結合,α-1,4,6結合,α-1,3及びα-1,3,6結合を有する,これまで全く知られていない分岐グルカンであること(段落【0084】)が記載されているから,先願発明1においてこのような分岐構造が相当数導入されるのは,特殊な酵素を用いているからにほかならず,本件訂正発明4と先願発明1とでは,α-グルコシダーゼの機能が異なると考えるのが合理的である。審決の認定判断は,先願明細書に記載された技術的事項を踏ま - 26 -え,本件訂正発明4の「アスペルギルス・ニガー(Aspergillusniger)またはアクレモニウム・エスピー(Acremoniumsp.)由来のα-グルコシダーゼ」という構成に基づく合理的な推論であり,特許請求の範囲に基づかない認定であるとの原告の主張は失当である。 (4) 原告の主張2(4)に対し無効審判における審判官の判断は,当事者の主張や証拠の立証趣旨に拘束されるものではないから,原告の主張は失当である。 3 原告の主張3に対し前記のとおり,取消事由1~3にはいずれも誤りはないから,本件訂正発明5,6,9,10についての審決の認定判断の誤りをいう原告の主張はいずれも理由がない。 第5 当裁判所の判断 1 取消事由1(先願発明1の認定誤り)について(1) 先願明細書の記載事項について先願明細書(甲10)には,以下の事項が記載されている。 「【特許請求の範囲】【請求項1】グルコースを構成糖とするα-グルカンであって,メチル化分析において,下記の特徴を有する分岐α-グルカン:(1)2,3,6-トリメチル-1,4,5-トリアセチルグルシトールと2,3,4-トリメチル-1,5,6-トリア るα-グルカンであって,メチル化分析において,下記の特徴を有する分岐α-グルカン:(1)2,3,6-トリメチル-1,4,5-トリアセチルグルシトールと2,3,4-トリメチル-1,5,6-トリアセチルグルシトールの比が1:0.6乃至1:4の範囲にある;(2)2,3,6-トリメチル-1,4,5-トリアセチルグルシトールと2,3,4-トリメチル-1,5,6-トリアセチルグルシトールとの合計が部分メチル化 - 27 -グルシトールアセテートの60%以上を占める;(3)2,4,6-トリメチル-1,3,5-トリアセチルグルシトールが部分メチル化グルシトールアセテートの0.5%以上10%未満である;及び(4)2,4-ジメチル-1,3,5,6-テトラアセチルグルシトールが部分メチル化グルシトールアセテートの0.5%以上である。 ・・・【請求項4】高速液体クロマトグラフ法(酵素-HPLC法)により求めた水溶性食物繊維含量が40質量%以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の分岐α-グルカン。 【請求項5】マルトース及びグルコース重合度が3以上のα-1,4グルカンに作用し,α-グルコシル転移することによって,請求項1乃至4のいずれかに記載の分岐α-グルカンを生成する作用を有するα-グルコシル転移酵素。 ・・・【請求項7】バチルス属又はアルスロバクター属に属する微生物に由来する請求項5又は6記載のα-グルコシル転移酵素。 【請求項8】バチルス属微生物が,バチルス・サーキュランス(Bacilluscirculans)PP710(独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター,寄託番号FERMBP-10771)又はその変異株である請求項7記載のα-グルコシル転移酵素。 【請求項9】 irculans)PP710(独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター,寄託番号FERMBP-10771)又はその変異株である請求項7記載のα-グルコシル転移酵素。 【請求項9】アルスロバクター属微生物が,アルスロバクター・グロビホルミス(Arthrobacterglobiformis)PP349(独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター,寄託番号FERMBP-10770)又はその変異株である請求項7記載のα-グ - 28 -ルコシル転移酵素。 【請求項10】請求項5乃至9のいずれかに記載のα-グルコシル転移酵素の産生能を有する微生物を培養して得られる培養物からα-グルコシル転移酵素を採取することを特徴とするα-グルコシル転移酵素の製造方法。 【請求項11】バチルス・サーキュランス(Bacilluscirculans)PP710(独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター,寄託番号FERMBP-10771),アルスロバクター・グロビホルミス(Arthrobacterglobiformis)PP349(独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター,寄託番号FERMBP-10770),又はこれらの変異株である請求項5乃至9のいずれかに記載のα-グルコシル転移酵素産生能を有する微生物。 【請求項12】マルトース及び/又はグルコース重合度が3以上のα-1,4グルカンに,請求項5乃至9のいずれかに記載のα-グルコシル転移酵素を作用させて,請求項1乃至4のいずれかに記載のグルカンを生成せしめる工程と,これを採取する工程とを含んでなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の分岐α-グルカンの製造方法。 ・・・【請求項15】アミラーゼが,バチルス のグルカンを生成せしめる工程と,これを採取する工程とを含んでなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の分岐α-グルカンの製造方法。 ・・・【請求項15】アミラーゼが,バチルス属に属する微生物に由来する請求項13又は14記載の分岐α-グルカンの製造方法。 【請求項16】バチルス属微生物がバチルス・サーキュランス(Bacilluscirculans)PP710(独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター,寄託番号FERMBP-10771)又はその変異株である請求項15記載の分岐α-グルカンの製造方法。 - 29 -・・・【請求項18】請求項1乃至4のいずれかに記載の分岐α-グルカンを含有する組成物。 【請求項19】飲食物,化粧品,医薬品,医薬部外品又は工業原料である請求項18記載の組成物。 【請求項20】請求項1乃至4のいずれかに記載の分岐α-グルカンを有効成分として含んでなる血糖上昇抑制剤。 【請求項21】請求項1乃至4のいずれかに記載の分岐α-グルカンを有効成分として含んでなる生体内脂質低減剤。 【請求項22】請求項5乃至9のいずれかに記載のα-グルコシル転移酵素を有効成分とするマルトース及び/又はグルコース重合度3以上のα-1,4グルカンのための品質改良剤。 【請求項23】請求項5乃至9のいずれかに記載のα-グルコシル転移酵素を作用させることを特徴とするマルトース及び/又はグルコース重合度3以上のα-1,4グルカンの改質方法。 【請求項24】マルトース及び/又はグルコース重合度3以上のα-1,4グルカンに,請求項5乃至9のいずれかに記載のα-グルコシル転移酵素とともにイソマルトデキストラナーゼを作用させてイソマルトースを生成させる工程 マルトース及び/又はグルコース重合度3以上のα-1,4グルカンに,請求項5乃至9のいずれかに記載のα-グルコシル転移酵素とともにイソマルトデキストラナーゼを作用させてイソマルトースを生成させる工程と,得られるイソマルトース又はこれを含む糖質を回収する工程とを含んでなる,イソマルトース又はこれを含む糖質の製造方法。」 - 30 -「【発明の詳細な説明】【技術分野】【0001】本発明は,分岐α-グルカン及びこれを生成するα-グルコシル転移酵素とそれらの製造方法並びに用途に関し,詳細には,グルコースを構成糖とするα-グルカンであって,メチル化分析において,(1)2,3,6-トリメチル-1,4,5-トリアセチルグルシトールと2,3,4-トリメチル-1,5,6-トリアセチルグルシトールの比が1:0.6乃至1:4の範囲にある;(2)2,3,6-トリメチル-1,4,5-トリアセチルグルシトールと2,3,4-トリメチル-1,5,6-トリアセチルグルシトールとの合計が部分メチル化グルシトールアセテートの60%以上を占める;(3)2,4,6-トリメチル-1,3,5-トリアセチルグルシトールが部分メチル化グルシトールアセテートの0.5%以上10%未満である;及び(4)2,4-ジメチル-1,3,5,6-テトラアセチルグルシトールが部分メチル化グルシトールアセテートの0.5%以上である;ことを特徴とする分岐α-グルカン,及び,マルトース及びグルコース重合度が3以上のα-1,4グルカンに作用し,α-グルコシル転移することによって,当該分岐α-グルカンを生成する作用を有するα-グルコシル転移酵素とそれらの製造方法,並びに当該分岐α-グルカンを含んでなる組成物とその用途に関する。」「【0004】グルカンにおけるグルコースの 分岐α-グルカンを生成する作用を有するα-グルコシル転移酵素とそれらの製造方法,並びに当該分岐α-グルカンを含んでなる組成物とその用途に関する。」「【0004】グルカンにおけるグルコースの結合様式であるグルコシド結合(以下,本明細書では「グルコシド結合」を単に「結合」と略称する。)の内,α-1,6結合はα-1,4結合に比べてアミラーゼで分解され難いことから,α-1,6結合を多く含むグルカンにも水溶性食物繊維としての用途が期待できる。例えば,乳酸菌に属するロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostocmesenteroides)由来のデキス - 31 -トランスクラーゼ(EC 2.4.1.5)によりスクロースを原料として製造されるデキストランは,グルコースが主にα-1,6結合で重合したグルカンであって,α-1,2結合及びα-1,3結合の分岐を有する場合もある。ロイコノストック・メセンテロイデス B-512F株由来のデキストランスクラーゼを用いた場合,得られるデキストランにおける結合のα-1,6結合の含量は90%以上にもなり,難消化性であることが期待される。しかしながら,デキストランは,スクロースからの収率が低く,また,粘性が高いため精製操作が煩雑で,コスト高になることから,水溶性食物繊維として利用しようとする試みはほとんど行われていない。 【0005】また,安価な澱粉にアミラーゼを作用させ,主としてα-1,4結合を分解することによりα-1,6結合の含量を高めて水溶性食物繊維を調製しようとする試みも為されている。特開2001-11101号公報には,澱粉液化液に,α-アミラーゼとβ-アミラーゼの混合物を作用させた後,残存するデキストリン部を回収することにより,α-1,4結合に対するα-1,6結合の割合を10~ 開2001-11101号公報には,澱粉液化液に,α-アミラーゼとβ-アミラーゼの混合物を作用させた後,残存するデキストリン部を回収することにより,α-1,4結合に対するα-1,6結合の割合を10~20%に高めた分岐デキストリンを調製する方法が提案されている。しかしながら,この分岐デキストリンは,澱粉が本来持つ分岐(α-1,6結合)を保持しつつ,グルコースがα-1,4結合で連なった直鎖部分を取り除くことでα-1,6結合の割合を高めるという方法で製造されるため,原料澱粉からの収率が低く,また,大幅な消化性の低減が期待できないなどの課題がある。また,澱粉部分分解物(デキストリン)に作用しα-1,6結合を導入する酵素として,デキストリンデキストラナーゼ(EC 2.1.1.2)が知られている(例えば,山本一也ら,「バイオサイエンス・バイオテクノロジー・バイオケミストリー」,第56巻,(1992年),第169頁乃至173頁を参照)。デキストリンデキストラナーゼは,澱粉部分分解物に作用し,主としてα-1,6グルコシル転移反応を触媒することにより,デキストラン構造(グルコースがα-1,6結合で連なった構造)を生成する酵素であるものの,従来から知られている,酢酸菌に属するアセトバクター・カプスラタム - 32 -(Acetobactercapsulatum)由来のデキストリンデキストラナーゼは,α-1,6結合の導入割合が少ない(例えば,Fら,「ジャーナル・オブ・アプライド・グリコサイエンス(JournalofAppliedGlycoscience)」,第48巻,第2号,第143頁乃至151頁(2001年)などを参照)こと,また,酵素自体の安定性が低いことなどの問題点があり,現実に使用されるに至っていない。このような状況下,水溶性食物繊維の 」,第48巻,第2号,第143頁乃至151頁(2001年)などを参照)こと,また,酵素自体の安定性が低いことなどの問題点があり,現実に使用されるに至っていない。このような状況下,水溶性食物繊維の選択肢を広げる意味でも,新たな難消化性グルカン及びそれを製造する手段の提供が強く望まれる。 【発明の開示】【0006】本発明は,水溶性食物繊維として有用なグルカンとその製造方法並びにその用途を提供することを課題とする。 【0007】上記課題を解決するために,本発明者らはマルトース及び/又はグルコース重合度3以上のα-1,4グルカンを原料(基質)とし,分岐(本明細書において,「分岐」とは,グルカンにおけるグルコースの結合様式の内,α-1,4結合以外のグルコースの結合様式を意味する)を比較的多く有する分岐α-グルカンを生成する酵素に期待を込めて,このような酵素を産生する微生物を広く探索した。その結果,土壌から単離した微生物,PP710株及びPP349株が,マルトース及び/又はグルコース重合度3以上のα-1,4グルカンに作用し,α-1,4,α-1,6,α-1,3,α-1,4,6及びα-1,3,6結合を有する分岐α-グルカンを生成する新規なα-グルコシル転移酵素を菌体外に産生することを見出した。」「【0013】本発明で言うグルカンとは,グルコースを構成糖とするグルコース重合度3以上のオリゴ糖ないしは多糖を意味する。本発明の分岐α-グルカンは,グルコースを構成糖とするα-グルカンであって,メチル化分析において,(1)2,3,6-トリメチル-1,4,5-トリアセチルグルシトールと2,3, - 33 -4-トリメチル-1,5,6-トリアセチルグルシトールの比が1:0.6乃至1:4の範囲にある;(2)2,3,6-トリメチル チル-1,4,5-トリアセチルグルシトールと2,3, - 33 -4-トリメチル-1,5,6-トリアセチルグルシトールの比が1:0.6乃至1:4の範囲にある;(2)2,3,6-トリメチル-1,4,5-トリアセチルグルシトールと2,3,4-トリメチル-1,5,6-トリアセチルグルシトールとの合計が部分メチル化グルシトールアセテートの60%以上を占める;(3)2,4,6-トリメチル-1,3,5-トリアセチルグルシトールが部分メチル化グルシトールアセテートの0.5%以上10%未満である;及び(4)2,4-ジメチル-1,3,5,6-テトラアセチルグルシトールが部分メチル化グルシトールアセテートの0.5%以上である;ことを特徴とする。 【0014】本発明でいうメチル化分析とは,多糖又はオリゴ糖においてこれを構成する単糖の結合様式を決定する方法として一般的に知られている方法である。・・・【0015】上述した(1)における,2,3,6-トリメチル-1,4,5-トリアセチルグルシトール(以下,「2,3,6-トリメチル化物」と略称する)とはC-4位が1,4結合にあずかるグルコース残基を意味し,2,3,4-トリメチル-1,5,6-トリアセチルグルシトール(以下,「2,3,4-トリメチル化物」と略称する)はC-6位が1,6結合にあずかるグルコース残基を意味する。そして,「2,3,6-トリメチル化物と2,3,4-トリメチル化物の比が1:0.6乃至1:4の範囲にある」とは,すなわちメチル化分析における部分メチル化グルシトールアセテートのガスクロマトグラムにおいて,本発明の分岐α-グルカンは,C-1位以外にC-4位のみが結合にあずかるグルコース残基とC-1位以外にC-6位のみが結合にあずかるグルコース残基の合計に対するC-1位以外 ガスクロマトグラムにおいて,本発明の分岐α-グルカンは,C-1位以外にC-4位のみが結合にあずかるグルコース残基とC-1位以外にC-6位のみが結合にあずかるグルコース残基の合計に対するC-1位以外にC-6位のみが結合にあずかるグルコース残基の割合が37.5乃至80.0%の範囲を示すことを意味する。 - 34 -【0016】上述した(2)における,「2,3,6-トリメチル化物と2,3,4-トリメチル化物との合計が部分メチル化物の60%以上を占める」とは,本発明の分岐α-グルカンは,C-1位以外にC-4位のみが結合にあずかるグルコース残基とC-1位以外にC-6位のみが結合にあずかるグルコース残基の合計がグルカンを構成する全グルコース残基の60%以上を占めることを意味する。 【0017】同様に,上述した(3)における,「2,4,6-トリメチル-1,3,5-トリアセチルグルシトール」(以下,「2,4,6-トリメチル化物」と略称する)とは,C-3位が1,3結合にあずかるグルコース残基を意味し,「2,4,6-トリメチル化物が部分メチル化物の0.5%以上10%未満である」とは,本発明の分岐α-グルカンは,C-1位以外にC-3位のみが結合にあずかるグルコース残基がグルカンを構成する全グルコース残基の0.5%以上10%未満存在することを意味する。 【0018】さらに同様に,上述した(4)における「2,4-ジメチル-1,3,5,6-テトラアセチルグルシトール」(以下,「2,4-ジメチル化物と略称する」)とは,C-3位及びC-6位の両方がそれぞれ1,3結合と1,6結合にあずかるグルコース残基を意味し,「2,4-ジメチル化物が部分メチル化物の0.5%以上である」とは,本発明の分岐α-グルカンは,C-1位以外にC-3位とC-6位が がそれぞれ1,3結合と1,6結合にあずかるグルコース残基を意味し,「2,4-ジメチル化物が部分メチル化物の0.5%以上である」とは,本発明の分岐α-グルカンは,C-1位以外にC-3位とC-6位が結合にあずかるグルコース残基がグルカンを構成する全グルコース残基の0.5%以上存在することを意味する。 【0019】上記の(1)乃至(4)の条件を全て充足する本発明の分岐α-グルカンは,これまで知られていない新規なグルカンである。本発明の分岐α-グルカンは,メチル化分析において,上記(1)乃至(4)の条件を充足する限り,グルコース残基 - 35 -の結合順序は特に限定されない。 【0020】本発明の分岐α-グルカンは,通常,グルコース重合度が10以上の様々なグルコース重合度を有する分岐α-グルカンの混合物の形態にある。また,本発明の分岐α-グルカンにおいて,その重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除した値(Mw/Mn)は,通常,20未満である。」「【0027】本発明でいうα-グルコシル転移酵素とは,マルトース及び/又はグルコース重合度が3以上のα-1,4グルカンに作用し,実質的に加水分解することなくα-グルコシル転移を触媒することにより,本発明の分岐α-グルカンを生成する酵素を意味する。本発明のα-グルコシル転移酵素は,加水分解活性が弱い点,低濃度から高濃度まで基質溶液の濃度に依存せず効率の良い転移活性を有する点,及び,α-1,3及びα-1,3,6結合をも生成する点で,従来公知の真菌由来α-グルコシダーゼや酢酸菌由来デキストリンデキストラナーゼとは異なる酵素である。」「【0031】本発明のα-グルコシル転移酵素はその給源によって制限されないものの,好ましい給源として微生物が挙げられ,とりわけ,本発 由来デキストリンデキストラナーゼとは異なる酵素である。」「【0031】本発明のα-グルコシル転移酵素はその給源によって制限されないものの,好ましい給源として微生物が挙げられ,とりわけ,本発明者らが土壌より単離した微生物PP710株又はPP349株が好適に用いられる。・・・」「【0042】例えば,澱粉又はその部分分解物やアミロースの水溶液に,本発明のα-グルコシル転移酵素を作用させた場合の分岐α-グルカンの生成メカニズムは,以下のように推察される。 1)本酵素は,基質としてマルトース及び/又はグルコース重合度が3以上のα-1,4グルカンに作用し,非還元末端グルコース残基を他のα-1,4グルカンの非還元末端グルコース残基に主としてα-1,4又はα-1,6グルコシル転移することにより,非還元末端グルコース残基の4位又は6位水酸基にグルコースがα - 36 --結合したα-1,4グルカン(グルコース重合度が1増加したα-グルカン)と,グルコース重合度が1減じたα-1,4グルカンを生成する。 2)本酵素はさらに,1)で生じたグルコース重合度が1減じたα-1,4グルカンに作用し,1)で生じたグルコース重合度が1増加したα-グルカンに対して,1)と同様に分子間α-1,4又はα-1,6グルコシル転移することにより,1)で生成したグルコース重合度が1増加したα-グルカンの非還元末端グルコース残基の4又は6位水酸基にグルコースをさらに転移し,鎖長を伸長する。 3)上記1)及び2)の反応を繰り返すことにより,マルトース及び/又はグルコース重合度3以上のα-1,4グルカンからα-1,4及びα-1,6結合を有するグルカンを生成する。 4)本酵素は,さらに,頻度は低いながらも,α-1,3グルコシル転移やグルカンの内部にあるα-1,6結合 合度3以上のα-1,4グルカンからα-1,4及びα-1,6結合を有するグルカンを生成する。 4)本酵素は,さらに,頻度は低いながらも,α-1,3グルコシル転移やグルカンの内部にあるα-1,6結合したグルコース残基に対するα-1,4又はα-1,3グルコシル転移を触媒することにより,α-1,3結合,α-1,4,6結合及びα-1,3,6結合をも有するグルカンを生成する。 5)上記1)乃至4)の反応が繰り返される結果として,グルコースが主としてα-1,4結合及びα-1,6結合で結合し,僅かながらα-1,3結合,α-1,4,6結合及びα-1,3,6結合を有する本発明の分岐α-グルカンを生成する。」「【0051】また,本発明の分岐α-グルカンは,浸透圧調節性,賦形性,照り付与性,保湿性,粘度付与性,接着性,他の糖の結晶防止性,難発酵性などの性質を具備している。従って,本発明の分岐α-グルカン又はこれを含む糖質は,水溶性食物繊維,品質改良剤,安定剤,賦形剤などとして,飲食物,嗜好物,飼料,餌料,化粧品,医薬品などの各種組成物に有利に利用できる。」「【0139】<実験17:α-グルコシル転移酵素とアミラーゼを併用した分岐α-グルカンの調製> - 37 -実験6の方法で得たバチルス・サーキュランスPP710由来α-グルコシル転移酵素精製標品と実験15-2の方法で得たアミラーゼ精製標品を用いて,実験14に記載したバチルス・サーキュランスPP710由来α-グルコシル転移酵素の粗酵素を用いたグルカンCの調製が再現できるか否かを検討した。・・・」「【0144】<実験18-1:α-グルコシル転移酵素とイソアミラーゼを併用した分岐α-グルカンの調製と得られた分岐α-グルカンの分子量分布と水溶性食物繊維含量>バチルス・サーキュラ ・」「【0144】<実験18-1:α-グルコシル転移酵素とイソアミラーゼを併用した分岐α-グルカンの調製と得られた分岐α-グルカンの分子量分布と水溶性食物繊維含量>バチルス・サーキュランスPP710由来アミラーゼに変えて,シュードモナス・アミロデラモサ(Pseudomonasamyloderamosa)由来のイソアミラーゼ(株式会社林原生物化学研究所製)を固形物1グラム当たり0,50,200,500又は1,000単位加えた以外は実験17と同様に反応させた。・・・」「【0152】<実験18-3:α-グルコシル転移酵素とCGTaseを併用した分岐α-グルカンの調製と得られた分岐α-グルカンの分子量分布と水溶性食物繊維含量>シュードモナス・アミロデラモサ由来のイソアミラーゼに変えてバチルス・ステアロサーモフィラス(BacillusthermophilusBacillusthermophilus)由来のCGTase(株式会社林原生物化学研究所製)を固形物1グラム当たり0,0.1,0.2,0.5又は1.0単位加えた以外は実験18-1と同様に反応させた。・・・」「【0155】この結果から,本発明のα-グルコシル転移酵素にCGTaseを併用して澱粉部分分解物に作用させることで,分子量が低下し,水溶性食物繊維含量が顕著に増加した分岐α-グルカンが調製できることが判明した。CGTaseはα-1,4結合の加水分解作用と共に転移作用をも有していることから,α-アミラーゼと比較して極端に分子量を低下させることなく,非還元末端グルコシル残基を生成するため,α-グルコシル転移酵素の作用頻度が高くなり,α-アミラーゼ添加よりも水溶性食物繊維含量が増加した分岐α-グルカンが得られたものと推察される。」 - 38 -(2) 残基を生成するため,α-グルコシル転移酵素の作用頻度が高くなり,α-アミラーゼ添加よりも水溶性食物繊維含量が増加した分岐α-グルカンが得られたものと推察される。」 - 38 -(2) 先願発明1の認定についてア上記(1)の記載によれば,先願発明について,以下のことが認められる。 先願発明は,水溶性食物繊維として有用なグルカン及びその製造方法並びにその用途を提供することを課題とするものである(段落【0006】)。 グルカンにおけるグルコースの結合様式であるグルコシド結合のうち,α-1,6結合はα-1,4結合に比べてアミラーゼで分解され難く,α-1,6結合を多く含むグルカンにも水溶性食物繊維としての用途が期待できることから(段落【0004】),主にα-1,6結合で重合したグルカンであって,α-1,2結合及びα-1,3結合の分岐を有するものや,主としてα-1,4結合を分解することによりα-1,6結合の含量を高めて水溶性食物繊維を調製しようとする試みがなされるなどしたが,様々な問題があって現実に使用されるに至っていなかった(段落【0005】)。 このような状況下,水溶性食物繊維の選択肢を広げる意味でも,新たな難消化性グルカン及びそれを製造する手段の提供が強く望まれており(段落【0005】),発明者らは,マルトース及び/又はグルコース重合度3以上のα-1,4グルカンを原料(基質)とし,分岐(グルカンにおけるグルコースの結合様式のうち,α-1,4結合以外のグルコースの結合様式を意味する。)を比較的多く有する分岐α-グルカンを生成する酵素に期待を込めて,このような酵素を産生する微生物を広く探索した。その結果,土壌から単離した微生物,PP710株及びPP349株が,マルトース及び/又はグルコース重合度3以上のα-1,4 を生成する酵素に期待を込めて,このような酵素を産生する微生物を広く探索した。その結果,土壌から単離した微生物,PP710株及びPP349株が,マルトース及び/又はグルコース重合度3以上のα-1,4グルカンに作用し,α-1,4,α-1,6,α-1,3,α-1,4,6及びα-1,3,6結合を有する分岐α-グルカンを生成する新規なα-グルコシル転移酵素を菌体外に産生することを見出した(段落【0007】)。そして,この新規酵素は,澱粉部分分解物などのα-1,4グルカンから,グルコースを構成糖とするα-グルカンを生成するものであり,このグルカンは,これまでに知られていない,新規な,分岐構造に富む分岐α-グルカンである(段落【0019】)。すなわち,このα-グルカンは, - 39 -メチル化分析において,全グルコース残基に占める割合が,C-1位以外にC-6位のみが結合するグルコース残基について,最低でも22.5%(計算式:37. 5%×0.6)(段落【0015】,【0016】),C-1位以外にC-3位のみが結合にするグルコース残基について,0.5~10%,C-1位以外にC-3位とC-6位が結合にするグルコース残基について,0.5%以上(段落【0018】)を含むことを特徴とする。 また,PP710株を培養して得たα-グルコシル転移酵素の粗酵素液には,澱粉を分解するアミラーゼが混在しており,この粗酵素液を用いるか,又は単離した当該アミラーゼをα-グルコシル転移酵素と併用することにより,α-グルコシル転移酵素を単独で用いた場合よりも水溶性食物繊維含量を高めた分岐α-グルカンが製造できること,これらの方法によって得られる分岐α-グルカンは,原料α-1,4グルカンに比べα-1,6結合の割合が大幅に増加しており,かつ,α-1,3及びα-1,3,6結合 めた分岐α-グルカンが製造できること,これらの方法によって得られる分岐α-グルカンは,原料α-1,4グルカンに比べα-1,6結合の割合が大幅に増加しており,かつ,α-1,3及びα-1,3,6結合を有し,顕著な難消化性を示すことから水溶性食物繊維として有用であり,血糖上昇抑制作用や生体内脂質低減作用をも有することを見出して,本発明を完成した(段落【0008】)。 上記の新規α-グルカンを生成する上記の微生物PP710株及びPP349株を菌学的性質に基づいて同定した結果,微生物PP710株は,バチルス・サーキュランス(Bacilluscirculans)に属する微生物であり,微生物PP349株は,アルスロバクター・グロビホルミス(Arthrobacterglobiformis)に属する微生物であり,いずれも新規微生物であることが判明した(段落【0034】)。 イ先願明細書には,上記のようにして発見されたバチルス・サーキュランスPP710とアルスロバクター・グロビホルミスPP349以外の微生物から由来したα-グルコシル転移酵素についての記載は一切ない。また,先願明細書には,上記以外にも,これらの微生物由来の酵素及びその酵素により生成されるα-グルカンが新規である旨が記載されている(段落【0007】,【0009】,【0034】など)。 - 40 -ウ上記ア及びイを踏まえると,先願明細書には,特定の菌株由来の新規な酵素を用いた発明(先願発明1)が開示されているのであって,「α-グルコシル転移酵素」について,上記のバチルス・サーキュランスPP710及びアルスロバクター・グロビホルミスPP349との特定の微生物由来の酵素以外のα-グルコシル転移酵素について開示があると認めることはできない。 そして,実験18-3に ・サーキュランスPP710及びアルスロバクター・グロビホルミスPP349との特定の微生物由来の酵素以外のα-グルコシル転移酵素について開示があると認めることはできない。 そして,実験18-3には,バチルス・サーキュランスPP710由来α-グルコシル転移酵素とバチルス・ステアロサーモフィラス由来シクロデキストリン生成酵素とをデンプン部分分解物に作用させて分岐α-グルカンを得たことが記載されているのであるから(段落【0152】~【0155】),先願明細書の記載から,先願発明1を「バチルス・サーキュランスPP710由来α-グルコシル転移酵素及びバチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillusthermophilus)由来のCGTaseとを,澱粉部分分解物に作用させることにより,分岐α-グルカンを調製する方法。」と認定した審決の判断に誤りはない。なお,先願明細書には,α-グルコシル転移酵素として,バチルス・サーキュランスPP710由来のほかに,アルスロバクター・グロビホルミスPP349由来のものが記載されており,CGTaseとして,バチルス・ステアロサーモフィラス由来以外のものが記載されているとしても,それらを認定しなかった場合に新たな別個の相違点を生じさせるものではないから,上記の実験に示されたものを特定して認定することに問題はない。 (3) 原告の主張についてア原告は,審決が認定した先願発明1は,先願明細書の実験18-3に記載された具体的な製造法に限定したものであるから合理性を欠く,正しくは,「糖転移作用を有する酵素とシクロデキストリン生成酵素とを,デンプン原料に作用させる工程を含んでなる,分岐α-グルカンを含有する液糖又は粉糖の製造法。」と認定すべきである旨主張する。 しかし,微生物の株により産生される酵素が異 デキストリン生成酵素とを,デンプン原料に作用させる工程を含んでなる,分岐α-グルカンを含有する液糖又は粉糖の製造法。」と認定すべきである旨主張する。 しかし,微生物の株により産生される酵素が異なり,それにより酵素活性・作用も異なることはよく知られているところ,前記のとおり,先願明細書は,新たな難 - 41 -消化性グルカン及びそれを製造する手段の提供を目指して,一定の条件を満たす酵素を探索した結果得られた,新規微生物である上記二つの微生物が産生する新規なα-グルコシル転移酵素に特徴を有する発明を開示するものである。この点に関し,原告の指摘するように,段落【0031】には,先願発明1のα-グルコシダーゼは給源によって制限されず,「本発明者らが土壌より単離した微生物PP710株又はPP349株が好適に用いられる。」旨の記載があるが,微生物の株により産生される酵素は異なり,一般に,所望の活性を有する酵素を産生する微生物を単離するには相当の試行錯誤が必要であるにもかかわらず,先願明細書には,バチルス・サーキュランスPP710及びアルスロバクター・グロビホルミスPP349と同様の他の微生物等からα-グルコシル転移酵素を得るための手段についての開示がないことに照らすと,この一文をもって,上記二つの微生物以外の微生物由来の糖転移作用を有するα-グルコシル転移酵素一般,あるいは,α-1,4グルカンの非還元末端にα-1,6グルコシル転移する酵素作用及びα-1,3グルコシル転移する酵素作用を有するα-グルコシル転移酵素一般が開示されているものと認めることはできない。 また,段落【0027】には,「本発明でいうα-グルコシル転移酵素とは,マルトース及び/又はグルコース重合度が3以上のα-1,4グルカンに作用し,実質的に加水分解することなくα ことはできない。 また,段落【0027】には,「本発明でいうα-グルコシル転移酵素とは,マルトース及び/又はグルコース重合度が3以上のα-1,4グルカンに作用し,実質的に加水分解することなくα-グルコシル転移を触媒することにより,本発明の分岐α-グルカンを生成する酵素を意味する。」旨の記載があるが,当該記載は,「本発明でいう」α-グルコシル転移酵素との記載であって,α-グルコシル転移酵素一般を示す記載となっているわけではないこと,また,「本発明でいうα-グルコシル転移酵素」は,「本発明の分岐α-グルカン」を生成する酵素をいうものであるところ,「本発明の分岐α-グルカン」は,段落【0015】~【0021】に示されるような上記一定の条件を充足する新規なα-グルカンであること(段落【0019】)からすれば,段落【0027】にいう「α-グルコシル転移酵素」が,α-1,4グルカンに作用し,実質的に加水分解することなくα-グルコシル転移を触媒す - 42 -る作用を有するα-グルコシダーゼ一般を指すものと解することはできず,原告の上記主張は採用できない。 イまた,原告は,先願明細書に第2の知見が開示されていることを前提として,CGTaseと併用する場合,α-グルコシル転移酵素はα-1,4グルカンの非還元末端グルコースにα-1,6グルコシル転移する酵素作用及びα-1,3グルコシル転移する酵素作用を有しておればよく,特定の微生物由来のものに限られないことは,先願明細書の記載及び先願発明の出願時の技術常識から明らかである旨主張する。 しかし,原告が第2の知見が先願明細書に開示されている根拠として指摘する段落【0008】は,バチルス・サーキュランスPP710を培養して得たα-グルコシル転移酵素と,その粗酵素液又はそこから単離した当該 し,原告が第2の知見が先願明細書に開示されている根拠として指摘する段落【0008】は,バチルス・サーキュランスPP710を培養して得たα-グルコシル転移酵素と,その粗酵素液又はそこから単離した当該アミラーゼ,公知のα-アミラーゼ,澱粉枝切酵素などとを併用することについての記載であり,段落【0046】についても,「本発明の」との特定がなされた「α-グルコシル転移酵素」と,α-アミラーゼやCGTaseなどを併用することについて記載されたものである。そうすると,いずれについても,先願発明において開示された特定の菌株由来のα-グルコシル転移酵素との併用について述べられたものにすぎず,原告主張のような一定の酵素作用を有するα-グルコシダーゼ一般が開示されたものということはできず,第2の知見が開示されているということはできない。 したがって,先願明細書には,CGTaseと併用する場合であっても,バチルス・サーキュランスPP710及びアルスロバクター・グロビホルミスPP349由来の酵素を離れて,一定の酵素作用を持つα-グルコシル転移酵素一般についての開示があると認めることはできない。 2 取消事由2(相違点3の認定誤り)について上記のとおり,審決の先願発明1の認定には誤りがなく,原告が主張する発明を先願明細書から認定することはできないので,原告が主張する取消事由2は,その - 43 -前提を欠き,理由がない。 3 取消事由3(相違点3の判断の誤り)について(1) 本件訂正発明についてア本件訂正発明は,上記第1のとおりであるところ,本件明細書(甲19)には,次の事項が記載されている。 「【0001】発明の分野本発明は,少なくとも非還元末端に分岐構造を有するグルカンおよびその製造方法に関する。本発 おりであるところ,本件明細書(甲19)には,次の事項が記載されている。 「【0001】発明の分野本発明は,少なくとも非還元末端に分岐構造を有するグルカンおよびその製造方法に関する。本発明はまた,前記分岐グルカンの用途並びにそれを含有する食品および医薬品に関する。」「【発明の概要】【0013】本発明者らは,糖転移作用を有する酵素をシクロデキストリン生成酵素と共にデンプン液化液に作用させると,シクロデキストリンをほとんど生成させずに,非還元末端に分岐構造を有する重合度11~35程度のグルカンを製造できることを見出した。本発明者らは,また,非還元末端に分岐構造を有する重合度11~35程度のグルカンが,直鎖状マルトデキストリンと比べて極めて高い耐老化性を有するとともに,風味改善や食感の改善等に極めて有効であることを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。」「【0015】本発明による分岐メガロ糖は,優れた耐老化性を有するとともに,保存安定性や操作性にも優れている。本発明による分岐メガロ糖は,また,不快な味をマスキングするなど風味改善作用を有する。本発明による分岐メガロ糖は更に,糖類などの混合成分を含有する水に添加した場合に氷の均一性を向上・促進させる作用を有する。本発明による分岐メガロ糖はまた,食品の照りやつやを向上させる作用を有す - 44 -る。本発明による分岐メガロ糖は,更にまた,低甘味であるとともに,食品に添加しても食品本来の風味に影響を与えない。本発明による分岐メガロ糖は,また,乳タンパク質の凝集や沈殿を防止し,乳タンパク質を安定して存在させることができる。従って,本発明による分岐メガロ糖およびその還元物並びにそれを含有する液糖および粉糖は,食品添加物や製剤用添加剤として幅広く実用可能で 集や沈殿を防止し,乳タンパク質を安定して存在させることができる。従って,本発明による分岐メガロ糖およびその還元物並びにそれを含有する液糖および粉糖は,食品添加物や製剤用添加剤として幅広く実用可能である。」「【0018】分岐メガロ糖およびその製造本発明による分岐メガロ糖は,直鎖状グルカンと分岐構造とからなる重合度11~35のグルカンであって,少なくとも直鎖状グルカンの非還元末端に分岐構造が導入されたグルカンである。ここで,「直鎖状グルカン」とは,単一のグルコシド結合によりグルコース分子が結合して構成された直鎖状のグルカンを意味する。」「【0020】本発明において「分岐構造」とは,α-1,4-グルコシド結合以外のグルコシド結合により直鎖状グルカンに結合した1個以上のグルコース残基からなるグルカン残基を意味する。α-1,4-グルコシド結合以外のグルコシド結合としては,α-1,6-グルコシド結合,α-1,3-グルコシド結合,α-1,2-グルコシド結合が挙げられる。 【0021】後述するように,本発明による製造方法で使用される糖転移作用を有する酵素を選択することによって,非還元末端に導入される分岐構造を変化させることができる。・・・」「【0034】以下に拘束される訳ではないが,分岐メガロ糖の生成機構は次のようなものであると考えられる。すなわち,デンプン原料に含まれるデキストリンの非還元末端,あるいはシクロデキストリン生成酵素の加水分解,カップリング,不均化反応のいずれかにおいて低分子化されたデキストリンの非還元性末端にα-グルコシダーゼ - 45 -が作用してα-1,4-結合を切断し,グルコシル基を他のあるいは同一の非還元性末端のグルコシル基にα-1,6-結合,α-1,2-結合,あるいはα-1,3-結合 α-グルコシダーゼ - 45 -が作用してα-1,4-結合を切断し,グルコシル基を他のあるいは同一の非還元性末端のグルコシル基にα-1,6-結合,α-1,2-結合,あるいはα-1,3-結合で付加する。これにより非還元性末端に分岐構造を有するメガロ糖が生じる。反応初期はこのような分岐メガロ糖が反応系内に存在しないため,シクロデキストリン生成酵素は反応初期にはシクロデキストリンを生じる。しかし,反応後期では大半のマルトデキストリンの非還元性末端に分岐鎖が付加されるため,このような分岐構造を有する糖質はシクロデキストリン生成酵素の環状化反応の基質とはならない。このため,シクロデキストリン生成酵素によるシクロデキストリン生成反応は反応初期にしか起こらず,また,シクロデキストリン生成酵素のカップリング反応により生じたシクロデキストリンが開環され,α-グルコシダーゼによる糖転移反応の基質として供給される。その結果,反応初期に生じたシクロデキストリンは反応後期にはほぼ完全に分解し,反応後期にはシクロデキストリンはほとんど残存しない。枝切り酵素を反応液中に共存させた場合には,デンプン分岐鎖を切断し,直鎖状のデキストリンを供給するため,シクロデキストリン生成酵素によるデンプンの低分子化を促進する他,このような直鎖状のデキストリンはカップリング反応における受容体分子としても働くため,反応を効率的に進めることが可能となると考えられる。」「【0046】本発明による製造方法に用いる「シクロデキストリン生成酵素」は,市販のものを用いても,微生物から単離したものを用いてもよい。単離源となる微生物は,天然由来の微生物に加えて,シクロデキストリン生成酵素産生能を有する組換え微生物や,天然由来の微生物を変異させた変異株であってもよい。「シクロデキストリン たものを用いてもよい。単離源となる微生物は,天然由来の微生物に加えて,シクロデキストリン生成酵素産生能を有する組換え微生物や,天然由来の微生物を変異させた変異株であってもよい。「シクロデキストリン生成酵素」の微生物起源は特に限定されないが,例えば,パエニバチルスエスピー(Paenibacillussp.),バチルスコアギュランス (Bacilluscoagulans),バチルスステアロサーモフィルス (Bacillusstearothermophilus),およびバチルスマゼランス(Bacillusmacelans) 由来のものを用いることができる。」 - 46 -「【0048】α-グルコシダーゼは,市販のものを用いても,微生物から単離したものを用いてもよい。単離源となる微生物は,天然由来の微生物に加えて,α-グルコシダーゼ生成酵素産生能を有する組換え微生物や,天然由来の微生物を変異させた変異株であってもよい。α-グルコシダーゼの微生物起源は特に限定されないが,例えば,アスペルギルス・ニガー (Aspergillusniger) およびアクレモニウム・エスピー(Acremoniumsp.) 由来のものを用いることができる。」「【0053】本発明による製造方法では,糖転移酵素としてアクレモニウム・エスピー由来のα-グルコシダーゼを使用すると,グルコース残基がα-1,3-グルコシド結合により非還元末端に結合した分岐メガロ糖を製造することができる。この場合,分岐メガロ糖が有する分岐構造は,グルコースがα-1,3-結合により分岐した構造,マルトースがα-1,3-結合により分岐した構造,ニゲロースがα-1,3-結合により分岐した構造,マルトトリオースがα-1,3-結合により分岐した構造,マルトシル- 1,3-結合により分岐した構造,マルトースがα-1,3-結合により分岐した構造,ニゲロースがα-1,3-結合により分岐した構造,マルトトリオースがα-1,3-結合により分岐した構造,マルトシル-α-1,3-グルコースがα-1,3-結合により分岐した構造,ニゲロシル-α-1,4-グルコースがα-1,3-結合により分岐した構造,ニゲロトリオースがα-1,3-結合により分岐した構造が挙げられる。4糖以上の分岐構造が結合する場合には,その分岐構造は,基質の直鎖状グルカンの非還元末端にα-1,3-結合により結合するグルカンであって,分岐構造を構成するグルコシド結合がα-1,4-結合および/またはα-1,3-結合からなるグルカンであってもよい。 【0054】本発明による製造方法においてアクレモニウム・エスピー由来のα-グルコシダーゼを使用した場合には,本発明による分岐メガロ糖を高収率で製造することができ,特に,重合度15~35の比較的重合度が高い分岐メガロ糖を高効率で製造することができる。 - 47 -【0055】本発明による製造方法では,また,糖転移酵素としてアスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼを使用すると,グルコース残基がα-1,6-グルコシド結合により非還元末端に結合した分岐メガロ糖を製造することができる。この場合,分岐メガロ糖が有する分岐構造は,グルコースがα-1,6-結合により分岐した構造,マルトースがα-1,6-結合により分岐した構造,イソマルトースがα-1,6-結合により分岐した構造,マルトトリオースがα-1,6-結合により分岐した構造,イソパノースがα-1,6-結合により分岐した構造,パノースがα-1,6-結合により分岐した構造,イソマルトトリオースがα-1,6-結合により分岐した構造が挙げられる ,6-結合により分岐した構造,イソパノースがα-1,6-結合により分岐した構造,パノースがα-1,6-結合により分岐した構造,イソマルトトリオースがα-1,6-結合により分岐した構造が挙げられる。4糖以上の分岐構造が結合する場合には,その分岐構造は,基質の直鎖状グルカンの非還元末端にα-1,6-結合により結合するグルカンであって,分岐構造を構成するグルコシド結合がα-1,4-結合および/またはα-1,6-結合からなるグルカンであってもよい。なお,アスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼを用いた場合はごく微量ではあるがα-1,2-結合やα-1,3-結合が分岐構造中に含まれることがある。」「【0108】試験例1:糖化酵素の活性測定・・・【0109】1-2:α-グルコシダーゼの活性測定糖化反応に使用したα-グルコシダーゼを以下に示す。 ・アスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼ:アマノエンザイム社製トランスグルコシダーゼアマノ・アクレモニウム・エスピー由来のα-グルコシダーゼ:キリンフードテック社製テイスターゼ・・・」「【0150】 - 48 -製造例13:分岐メガロ糖の製造(13)30%(w/w)DE6.5コーンスターチ液化液を温度53℃,pH6.0に調整し,これにパエニバシルスエスピーのシクロデキストリン生成酵素を対固形分1g当たり1単位,アスペルギルス・ニガーのα-グルコシダーゼを対固形分1g当たり3.75単位添加して60時間糖化した。以後の操作を製造例1と同様に行い,固形分75%の分岐メガロ糖含有シラップを対固形分当たり約90%の収率で得た。 なお,本品はメガロ糖を対固形分当たり17.3%含有しており,分岐メガロ糖を対固形分当たり17.0%含有していた。 【0151】製造例1 ガロ糖含有シラップを対固形分当たり約90%の収率で得た。 なお,本品はメガロ糖を対固形分当たり17.3%含有しており,分岐メガロ糖を対固形分当たり17.0%含有していた。 【0151】製造例14:分岐メガロ糖の製造(14)30%(w/w)DE6.5コーンスターチ液化液を温度53℃,pH6.0に調整し,これにパエニバシルスエスピーのシクロデキストリン生成酵素を対固形分1g当たり1単位,アクレモニウム・エスピーのα-グルコシダーゼを対固形分1g当たり0.65単位添加して60時間糖化した。以後の操作を製造例1と同様に行い,固形分75%の分岐メガロ糖含有シラップを対固形分当たり約90%の収率で得た。なお,本品はメガロ糖を対固形分当たり32.6%含有しており,分岐メガロ糖を対固形分当たり29.2%含有していた。」イ以上によれば,本件訂正発明について,以下のとおり認められる。 本件訂正発明は,少なくとも非還元末端に分岐構造を有するグルカン及びその製造方法に関するものである(段落【0001】)。 本件訂正発明のように,糖転移作用を有する酵素をシクロデキストリン生成酵素とともにデンプン液化液に作用させると,シクロデキストリンをほとんど生成させずに,非還元末端に分岐構造を有する重合度11~35程度のグルカン(分岐メガロ糖)を製造でき,また,非還元末端に分岐構造を有する重合度11~35程度のグルカンは,直鎖状マルトデキストリンと比べて極めて高い耐老化性を有するとともに,風味改善や食感の改善等に極めて有効である(段落【0013】)。本件訂正 - 49 -発明によって作成される分岐メガロ糖は,デンプン原料に含まれるデキストリンの非還元末端等にα-グルコシダーゼが作用してα-1,4結合を切断し,グルコシル基を他の,あるいは,同一の - 49 -発明によって作成される分岐メガロ糖は,デンプン原料に含まれるデキストリンの非還元末端等にα-グルコシダーゼが作用してα-1,4結合を切断し,グルコシル基を他の,あるいは,同一の非還元性末端のグルコシル基にα-1,6結合,α-1,2結合,あるいは,α-1,3結合で付加することにより生じるものであり(段落【0034】),本件訂正発明による製造方法で使用される糖転移作用を有する酵素を選択することによって,非還元末端に導入される分岐構造を変化させることができる。そこで用いられるα-グルコシダーゼは,市販のものを用いても,微生物から単離したものを用いてもよく,単離源となる微生物に限定がない(段落【0048】)。 本件訂正発明4は,糖転移作用を有する酵素として,アスペルギルス・ニガー(Aspergillusniger)又はアクレモニウム・エスピー(Acremoniumsp.)由来のα-グルコシダーゼを選択したものである。糖転移酵素として,アクレモニウム・エスピー由来のα-グルコシダーゼを使用すると,α-1,4,α-1,3結合による分岐構造ができ,アスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼを使用すると,グルコース残基がα-1,6グルコシド結合により非還元末端に結合した分岐メガロ糖を製造することができ,ごく微量ではあるがα-1,2結合やα-1,3結合が分岐構造中に含まれることがある(段落【0055】)。 (2) 本件訂正発明4と先願発明1の同一性について上記に述べたとおり,本件訂正発明4で用いる糖転移作用を有する酵素の選択肢の一つは,アスペルギルス・ニガー(Aspergillusniger)由来のα-グルコシダーゼである。これは,遅くとも1970年代には,主としてα-1,6結合形成を触媒し,わずかにα-1,3 択肢の一つは,アスペルギルス・ニガー(Aspergillusniger)由来のα-グルコシダーゼである。これは,遅くとも1970年代には,主としてα-1,6結合形成を触媒し,わずかにα-1,3結合やα-1,2結合の形成をも触媒するものであることが知られ,1980年代には,糖転移用酵素剤として事業化され,長年にわたって市販されてきたものである(甲14,19,31,37,40)。また,本件訂正発明4で用いる糖転移作用を有する酵素のもう一つの選択肢は,アクレモニウム・エスピー(Acremoniumsp.)由来のα-グルコシダーゼであって,少なくとも先願発明の - 50 -出願前からα-1,3結合形成を触媒する酵素として知られ,市販されてきたものである(甲14,38の7頁20,甲19の段落【0053】,【0109】)。 これに対して,前記認定のとおり,先願明細書は,水溶性食物繊維として有用なグルカンを製造することを課題として,分岐構造を比較的多く有する分岐α-グルカンを生成する酵素を産生する微生物を広く探索して,土壌からバチルス・サーキュランスPP710及びアルスロバクター・グロビホルミスPP349を見出したことに基づいて,それらが産生する,主としてα-1,4結合又はα-1,6結合,頻度は低いながらもα-1,3結合,α-1,4,6結合及びα-1,3,6結合の分岐結合を導入する新規なα-グルコシル糖転移酵素に特徴を有する発明を開示するものである。そして,先願明細書において開示されているのは,バチルス・サーキュランスPP710及びアルスロバクター・グロビホルミスPP349に由来のα-グルコシル転移酵素のみであることは前記のとおりであり,これらは,それまで知られていなかった新規分岐グルカンを生成するもので,α-1,4結合,α-1,4, ター・グロビホルミスPP349に由来のα-グルコシル転移酵素のみであることは前記のとおりであり,これらは,それまで知られていなかった新規分岐グルカンを生成するもので,α-1,4結合,α-1,4,6結合及びα-1,3,6結合を一定割合,導入できる点や,先願明細書等にα-1,2結合導入について記載されていない点からみて,本件訂正発明4で用いる,従来から広く知られていたアスペルギルス・ニガー及びアクレモニウム・エスピー由来のα―グルコシダーゼとは一線を画するものである。 したがって,先願明細書には,α-グルコシル転移酵素として,アスペルギルス・ニガー及びアクレモニウム・エスピー由来のα―グルコシダーゼを用いる本件訂正発明4が開示されている,あるいは,開示されているに等しいと認めることはできず,相違点3は実質的な相違点であるとした審決の判断に誤りはない。 (3) 原告の主張についてア原告は,本件訂正発明4について,糖転移作用を有するα-グルコシダーゼであれば,微生物起源を限定することに意味がないとし,先願発明1についても,α-1,4グルカンに作用し,実質的に加水分解をすることなくα-グルコシル転移を触媒することにより,分岐α-グルカンを生成するという糖転移作用を有 - 51 -する酵素であればよいのであるから,糖転移作用から見て,両発明が異なる酵素を開示するとはいえないと主張する。 しかし,そもそも,前記のとおり,先願発明1には,所望の酵素として,もっぱらバチルス・サーキュランスPP710及びアルスロバクター・グロビホルミスPP349由来のα-グルコシル転移酵素が開示されているのであり,それらは「従来公知の真菌由来α-グルコシダーゼ・・・とは異なる酵素である。」(段落【0027】)と明記されており,単に糖転移作用を PP349由来のα-グルコシル転移酵素が開示されているのであり,それらは「従来公知の真菌由来α-グルコシダーゼ・・・とは異なる酵素である。」(段落【0027】)と明記されており,単に糖転移作用を有する酵素であれば用いられるというものではない。したがって,従来から広く知られ,市販されてきた真菌由来α-グルコシダーゼであるアスペルギルス・ニガー(Aspergillusniger)由来α-グルコシダーゼが,先願明細書に開示された新規なα-グルコシル転移酵素と同等であると解釈する余地はない。 この点,原告は,上記の段落【0027】において,先願発明のα-グルコシル転移酵素は,加水分解活性が弱く,糖転移活性が強く,α-1,3及びα-1,3,6結合をも生成する点で,従来公知の真菌由来のα-グルコシダーゼとは異なっているとの見解が表明されているだけのことであり,「本発明のα-グルコシル転移酵素」が「アスペルギルス・ニガーまたはアクレモニウム・エスピー由来のα-グルコシダーゼ」と異なる酵素であるとは一言も述べられていないし,従来公知の真菌由来のα-グルコシダーゼであっても,加水分解活性が弱く,かつ,目的とする分岐α-グルカンを生成するに足る糖転移活性を備えたα-グルコシダーゼについてまで,単にその由来のみをもって,α-グルコシル転移酵素としての使用を排除することを述べたものでもなく,アスペルギルス・ニガー由来の酵素は「従来公知の真菌由来α-グルコシダーゼ」とは異なる旨主張する。 しかし,先願発明は,同段落に記載の特徴を有する酵素を探索して新規微生物の酵素として特定したものであり,その点において従来公知の酵素と異なるものであり,「α-1,4結合に対するα-1,6結合の割合が極めて高く,α-1,4,6結合に加えて,α-1,3結合及びα-1,3 の酵素として特定したものであり,その点において従来公知の酵素と異なるものであり,「α-1,4結合に対するα-1,6結合の割合が極めて高く,α-1,4,6結合に加えて,α-1,3結合及びα-1,3,6結合を分岐するα-グルカンは - 52 -これまで全く知られていない」(段落【0084】)とされているのであるから,先願発明の出願当時において,周知の酵素であったアスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼが,「従来公知の真菌由来のα-グルコシダーゼ」に含まれると解されるのが当然であり,原告の上記主張は採用できない。 イ原告は,先願発明1のα-グルコシル転移酵素と,本件訂正発明4のアスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼとは,共に,α-1,4グルカンを基質とした場合,加水分解活性が弱く,糖転移活性が強い酵素であり,実質的に加水分解をすることなくα-グルコシル転移を触媒することにより,α-1,6結合だけでなくα-1,3結合やα-1,3,6結合を有する分岐α-グルカンを生成する酵素という点で,性質を全く同じくする酵素であるから,異なる酵素であるとはいえないと主張する。 しかし,アスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼは,前記のとおり,α-1,6,α-1,3結合を形成する触媒であることは知られており,糖転移酵素として市販されていたとしても,α-1,3,6結合が導入される酵素であることが,先願発明の出願当時の技術常識であったと認めることはできない。この点に関し,原告は,複数の専門家の見解書(甲31,37,40)や受託研究報告書(甲35)により,上記主張が裏付けられると述べるが,アスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼが,α-1,3結合及びα-1,6結合のみならず,α-1,3,6結合を導入することが,理論的にあ 書(甲35)により,上記主張が裏付けられると述べるが,アスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼが,α-1,3結合及びα-1,6結合のみならず,α-1,3,6結合を導入することが,理論的にあり得ると考えたとしても,あるいは,現実にそのような結合が生じているとしても,先願発明の出願時において,アスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼが,「α-1,3,α-1,6,α-1,3,6結合を導入する酵素」であることが技術常識であったと認めるに足りる的確な証拠がない以上は,先願発明の出願当時において,バチルス・サーキュランスPP710由来のα-グルコシル転移酵素とアスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼとが導入する分岐構造の点において,実質的に同一であるとみなされていたということはできず,上記主張は採用できない。 - 53 -ウ原告は,本件訂正発明4のアスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼを用いた場合と,先願発明1のバチルス・サーキュランスPP710を用いた場合とで,得られるα-グルカンに差異はなく,また,本件明細書の段落【0013】には,非還元末端に分岐構造を有する重合度が11~35程度のグルカンであれば,高い耐老化性を有するとともに,風味改善や食感の改善等に極めて有効であることが記載されているのだから,α-グルコシダーゼを置換することで非還元末端以外の分岐構造に変化が生じたとしても,本件明細書に記載された効果においても差異がないなどと主張する。 しかし,本件訂正発明4と先願発明1はともに物を製造する方法の発明であるから,両者の同一性を判断するには,当該方法の技術的内容の異同を判断しなければならず,また,これをもって足りるというべきである。上記に述べてきたとおり,本件訂正発明4と先願発明1とで用いる糖 であるから,両者の同一性を判断するには,当該方法の技術的内容の異同を判断しなければならず,また,これをもって足りるというべきである。上記に述べてきたとおり,本件訂正発明4と先願発明1とで用いる糖転移作用を有する酵素の相違は,課題解決のための具体化手段の微差ではなく,両発明は別異の方法と認められるから,製造された物の異同は,この認定を左右するものでなく,原告の上記主張は採用できない。また,同様に,先願発明1の構成を本件訂正発明4の構成に置換した場合の効果の差の有無を論じることに意味はなく,上記主張は採用できない。 エ原告は,審決には,相違点2についての認定判断と相違点3についての認定判断とで,得られるグルカンの構造の認定に関する矛盾がある旨主張する。 しかし,審決は,相違点3についての認定判断では,周知技術,本件明細書及び先願明細書の記載に基づいて,本件訂正発明4と先願発明1とでは得られるグルカンの分岐構造の種類が異なることを認定したのに対して,相違点2についての認定判断では,両発明で得られるグルカンは,本件訂正発明4の発明特定事項である「α-1,4結合により構成された直鎖状グルカンと,少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有する」の限りでは一致すると認定したものにすぎないから,両判断に矛盾があるとはいえず,上記主張には理由がない。 - 54 -オ原告は,審決が,相違点3の判断において,本件訂正発明4で得られるグルカンの分岐構造の種類を考慮して判断したのは,特許請求の範囲に基づかない判断である旨主張する。 しかし,審決は,アスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼについては,先願明細書に明示的な記載がなく,原告がその酵素作用から先願発明1と本件訂正発明4との同一 ない判断である旨主張する。 しかし,審決は,アスペルギルス・ニガー由来のα-グルコシダーゼについては,先願明細書に明示的な記載がなく,原告がその酵素作用から先願発明1と本件訂正発明4との同一性を主張したことから,原告の主張に沿ってその酵素作用について検討したものにすぎない。そして,審決は,訂正後の特許請求の範囲の請求項4の「糖転移作用を有する酵素がアスペルギルス・ニガー(Aspergillusniger)またはアクレモニウム・エスピー(Acremoniumsp.)由来のα-グルコシダーゼである」の記載に基づいて,周知技術及び本件明細書に記載されたこれらのα-グルコシダーゼの分岐導入作用から,本件訂正発明4の製造法により得られるグルカンの分岐構造の種類を認定したものであり,その判断手法及び判断内容に問題があるとはいえない。 カ原告は,審決が,実験報告書III(甲15)のデータを無効審判における被告の主張や立証趣旨とは無関係な判断に用いたのは独断である旨主張するが,審判合議体の判断は,当事者の主張や提出された証拠の立証趣旨に拘束されるものではないから,原告の上記主張は失当である。 4 本件訂正発明5,6,9,10について以上のとおり,原告主張の取消事由1~3にはいずれも理由がないから,先願発明2の認定及び本件訂正発明5と先願発明2との相違点3に関する判断にも同様に誤りがない。これらに誤りがあることを前提とする本件訂正発明5,6,9,10に係る審決の判断に関する取消事由も成り立たない。 第6 結論以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。 - 55 -よって,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官 原告主張の取消事由はいずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。 主文 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官清水恭 裁判官中村恭 裁判官中武由紀

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