主文 一原告の請求を棄却する。 二訴訟費用は原告の負担とする。 事実 第一当事者の求めた裁判一請求の趣旨 被告は原告に対し,金187万7600円及びこれに対する平成12年6月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 訴訟費用は被告の負担とする。 二請求の趣旨に対する答弁主文同旨第二当事者の主張一請求原因1(訴訟委任)原告は次の各事件につき,弁護士である被告に対し,次のとおり,原告のための訴訟遂行の委任をした。 (一)岡山地方裁判所倉敷支部平成6年(ワ)第438号損害賠償請求事件(以下「甲事件」という)平成7年1月20日委任平成6年12月6日訴提起原告A,B被告C概容平成6年2月9日,Aが代表取締役を務める株式会社Dの事務所で,Aが,Cから暴行を受けて傷害を負い,上記暴行を止めに入ったAの母BがCから肘打ちをされて傷害を負ったとして,Aにおいて171万1460円,Bにおいて15万4060円の各損害賠償金と遅延損害金の支払を求めた。 さらに,Aは,平成7年4月20日,Eカントリークラブ内の風呂場で,Cに暴行を受け,傷害を負わされたとして,後記丙事件で起訴された事件における不法行為に基づき,Cに,,対し20万4850円の損害賠償請求権があると主張して同年5月24日請求を追加変更した上,従前の請求額の限度で一部請求した。 (二)岡山地方裁判所倉敷支部平成7年(ワ)第115号損害賠償請求事件(以下「乙事件」という)平成7年5月15日委任平成7年4月24日訴提起原告株式会社D(代表取締役A)被告C,株式会社F(代表取締役C)概容株式会社DがCあるいは株式会社Fから買い受けた建物がCらの行為によって利用できなかったことなどによる損害賠償金合計851万9000円と遅延損害 締役A)被告C,株式会社F(代表取締役C)概容株式会社DがCあるいは株式会社Fから買い受けた建物がCらの行為によって利用できなかったことなどによる損害賠償金合計851万9000円と遅延損害金の支払いを求めた。 (「」(三)姫路簡易裁判所平成7年(ろ)第36号傷害被告事件以下丙事件という)平成7年5月22日委任平成7年4月20日午後3時ころ,原告が,Eカントリークラブ内の風呂場脱衣所でAに対し,顔面等を手拳で3,4回殴打する暴行を加え,加療約3日間を要する右顔面打撲の傷害を負わせたとして起訴され,原告は公訴事実を否認して争った。 原告は,平成7年5月22日逮捕され,10日間の勾留延長を含め同年6月12日まで勾留されて,同日起訴され,保釈金150万円で保釈された。 原告は,被告の勧めにより,平成7年11月15日,G弁護士を弁護人に追加して選任した。 2(弁護士費用の支払い)原告は被告に対し,各事件の弁護士費用として,次のとおり支払った。 (一)甲事件(1)着手金16万円(2)消費税4800円(3)費用実費2万円(二)乙事件(1)着手金71万2000円(2)消費税2万1360円(2)費用実費5万円(三)丙事件(1)着手金50万円(2)経費38万5120円①H署への接見旅費3万円②Eカントリ-クラブの現地調査費用2万円③I興信所への証人Jについての調査依頼費用2万0600円④水島への旅費日当1万円⑤姫路簡裁への旅費日当1万円⑥その余の諸経費29万4520円3(訴訟委任の終了)原告は,平成8年10月25日,甲,乙両事件について,被告を解任し,K弁護士を選任した。 丙事件については,平成8年9月4日,被告人を無罪とする判決宣告がなされた。 20円3(訴訟委任の終了)原告は,平成8年10月25日,甲,乙両事件について,被告を解任し,K弁護士を選任した。 丙事件については,平成8年9月4日,被告人を無罪とする判決宣告がなされた。 4(原告の本件請求)ア不当利得返還請求合計77万7600円(一)甲事件被告のなした訴訟行為は,答弁書を作成提出した程度であり,また,丙事件で起訴された事件における不法行為に基づき,Aが原告に対し,20万4850円の損害賠償請求権があると主張して,同年5月24日請求を追加変更したのに,被告はこれをすみやかに原告に報告せず,,。 丙事件においてAによる追加的訴変更の事実を有利に利用しなかった被告のなした訴訟行為の程度と,任務懈怠に照らすと,報酬額は5万円が相当である。したがって,着手金から5万円を差し引いた11万円を被告は不当に利得している。 (二)乙事件被告のなした訴訟行為は,答弁書(求釈明を含む)及び準備書面を作成提出した程度であり,報酬額は10万円が相当である。したがって,着手金から10万円を差し引いた61万2000円を被告は不当に利得している。 (三)丙事件前記2(三)(2)の①の旅費は,被告が別事件の大阪出張の帰途を利用してのものであるから,その半額である1万5000円は被告が不当に利得している。 同②については,被告は原告運転の車に同乗して,現場に行き,数分間現場を確認しただけであるからその半額分1万円は不当に利得している。 同③については,被告は原告に調査報告書を開示しないから,調査をしたことにはならない。したがって,被告は2万0600円を不当に利得している。 同④については,架空計上したものであるから,被告は1万円を不当に利得している。 イ債務不履行若しくは不法行為に基づく慰藉料合計110万円(一)被告は は2万0600円を不当に利得している。 同④については,架空計上したものであるから,被告は1万円を不当に利得している。 イ債務不履行若しくは不法行為に基づく慰藉料合計110万円(一)被告は,前記Jについての調査報告書を原告に開示しないので,原告は精神的苦痛を受けた。これに対する慰藉料は10万円が相当である。 (二)被告は,原告に対し,株式会社Lに5000万円ないし1億円の出資をするよう不当に勧誘し,原告は,被告に弁護を依頼していた立場上,これを断るために精神的苦痛を受けた。これに対する慰藉料は50万円が相当である。 (三)原告は丙事件で保釈された平成7年6月12日以降,被告に対し公訴事実が事実無根であることを詳細に説明するとともに,虚偽の被害申告をしたA,虚偽の目撃状況を供述したJ,M,Nを誣告罪で告訴するとともに,同人らに対し損害賠償請求訴訟を提起することを依頼した。これに対し被告は,丙事件の終了した時点で提訴すると約束,,しながら丙事件の無罪判決が確定した後の平成8年9月20日ころその受任を断った。そのために,原告は,K弁護士に依頼して上記損害賠償請求訴訟を提起したが,証拠保全と時機を失し,精神的苦痛を受けた。これに対する慰藉料は50万円が相当である。 よって,原告は被告に対し,不当利得金77万7600円及び慰藉料110万円並びにこれらに対する訴状送達日の翌日である平成12年6月10日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。 二請求原因に対する認否 請求原因1ないし3の事実は認める。ただし,請求原因2の丙事件の費用中には,G弁護士に対する弁護料,旅費日当等25万円が含まれている。 請求原因4のアの事実は否認する。 (一)甲事件答弁書により,反論についても具体的に記載しており し,請求原因2の丙事件の費用中には,G弁護士に対する弁護料,旅費日当等25万円が含まれている。 請求原因4のアの事実は否認する。 (一)甲事件答弁書により,反論についても具体的に記載しており,主張は完結し,平成6年2月9日発生の傷害事件の一件記録が提出されていて,立証も事実上終了していた。 (二)乙事件答弁書及び準備書面により主張は一応完結していた。 (三)丙事件,,③の調査報告書については被告は原告にその結果を口頭で伝えており原告に対する開示義務はない。 ④の費用について,被告は平成7年7月28日O病院のP医師と面会して診断書作成経過を尋ねており,現に水島に出張している。 (四)着手金は,訴訟事件を受任するに当たって,事件の解決に着手し,誠実に処理することを約束して,依頼人から受領する金銭である。 そして,日弁連報酬等基準における「依頼者が弁護士の同意なく依頼事件を終結させたときは,報酬等の全額を請求することができる」旨のみなし成功報酬規程は,弁護士が独立した職務上の良心に従って誠実に事件処理をしている間の依頼者からの不当な解任に対し,弁護士の努力により当然得るはずの成功報酬,従ってまた取得した着手金の確保を保障するための手段をうたったものとして合理性を有する。したがって,かかる関係において,依頼者によって不当な中途解約がなされた場合,弁護士と依頼者の間では,みなし成功報酬規程の定めによるとするのが通常の場合,当事者の合理的意思であると推認される。 原告が被告を中途解任した理由は,被告が丙事件の無罪判決後,これに関連した損害賠償請求事件を受任しなかったからというものである。 しかしながら,弁護士は依頼者に対し自由かつ独立の立場を有すべきものであり,それは事件の受任に当たっては,受任の諾否の自由を有することを意味すると 賠償請求事件を受任しなかったからというものである。 しかしながら,弁護士は依頼者に対し自由かつ独立の立場を有すべきものであり,それは事件の受任に当たっては,受任の諾否の自由を有することを意味するところ,被告は,丙事件の無罪判決の前に,無罪判決を前提とした丙事件関係者に対する損害賠償請求事件等につき委任状を得ていたわけでもなく,また事件の性質上,委任状を得るべきものでもなかったから,上記事件の諾否の自由を有していたものであり,丙事件の無罪判決後,上記委任を断ったことについて何ら非難される理由はない。 したがって,被告は法律上の原因に基づき着手金を受領したものであり,不当利得として返還すべき義務はない。 請求原因イの事実は否認する。 被告は原告に対し,株式会社Lを紹介したにとどまる。 三仮定的抗弁1(消滅時効)仮に本件の被告に対する各訴訟委任に伴い,被告の弁護士としての職務に,,,関して原告主張の何らかの請求権が発生したとしても各受任事件終了後民法172条所定の2年間の短期消滅時効期間が経過した。 被告は,平成13年11月27日付準備書面により,同月30日,本件弁論準備手続期日において上記消滅時効を援用した。 2(相殺)本件訴訟は訴権を濫用した不当訴訟であって,不法行為に当たる。 そのため,被告は,応訴を余儀なくされて,精神的苦痛を受け,本件訴訟の遂行を代理人弁護士に委任することにより,弁護料相当の損害を生じた。 上記による慰藉料は100万円が相当であり,相当因果関係のある弁護士費用部分は50万円が相当である。 被告は,原告主張の何らかの請求権が認められたときには,これと,上記不法行為に基づく150万円の損害賠償請求債権とを対当額で相殺する。 四仮定的抗弁に対する認否争う。 理由 一請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いが の請求権が認められたときには,これと,上記不法行為に基づく150万円の損害賠償請求債権とを対当額で相殺する。 四仮定的抗弁に対する認否争う。 理由 一請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。 二本件請求について 弁護士は,基本的人権を擁護し,社会正義を実現することを使命とする高度の専門性を備えた職業人であり,その使命に基づき,誠実にその職務を行い,社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力すべきもの(弁護士法1条)とされている。弁護士は依頼者から委任あるいは準委任を受けて,善管注意義務をもって受任事件の処理に当たることになるが,その使命に照らし,依頼者と一体化したり,依頼者に従属してはならず,依頼者から独立した職務上の倫理,条理,良心に従い,高い見識をもって,法的正義を実現すべく,誠実に職務を遂行することが求められる。上記の行動規範に従うことが,目先の依頼者の利益や欲求には沿わないことがあったとしても,最終的には,真の依頼者の利益に適う結果となるのであって,無批判にその時々の依頼者の欲求に従うことは,弁護士自らの自殺行為となるのみならず,依頼者の究極的な利益を損なう結果にもなる。また,弁護士のなす知的営為は,単純労務作業とは異なり,作成した書面の枚数や,出頭した回数,時間等による定量的な評価には馴染まないものであることはいうまでもない。 そして,刑事訴訟,民事訴訟はいずれも争訟であり,いわば,戦いの側面があることは当然であるが,刑事訴訟においては,人権の保障と適正な刑罰権の行使に向けて,関係当事者が協働しなければならない面を軽視できず,民事訴訟においても,実体的真実に迫り,紛争の公正で妥当な解決に向けて,関係当事者が協働しなければ,正義に反する結果となり,ひいては依頼者の利益に適わない結果となる。そのために訴訟上の信義則 きず,民事訴訟においても,実体的真実に迫り,紛争の公正で妥当な解決に向けて,関係当事者が協働しなければ,正義に反する結果となり,ひいては依頼者の利益に適わない結果となる。そのために訴訟上の信義則に照らした訴訟行為をなしうる主体として,弁護士に高い地位が与えられており,弁護士の職務を評価するに当たっては,前記弁護士の使命に照らして与えられる高い信用という付加価値が大きな要素となる。 本件訴訟において,原告は弁護士に委任することなく,訴訟遂行していると,,,,,ころ本件訴訟が原告の主張を整理するために多くの時日を費やしまた訴訟関係者のエネルギーを費やし,弁論終結に至るまで2年以上もかかる結果となっている上,原告において,既に取り下げた丙事件における被告の不当弁護活動や暴言を理由とする損害賠償請求に関する事実主張をさらに蒸し返して,,,,主張し審理の混乱を招いていることは訴訟記録上明らかであるがこれは,,,一に原告の場合のみならず本人訴訟において往々に見られる欠陥であってこれが我が国の民事訴訟の遅延を来す要因となっていることは否定できない。 ,,,このことからも弁護士がかかわることにより早期に争点整理がなされて円滑に訴訟進行がなされることが当事者に大きな価値をもたらすものであることが窺われるところである。 弁護士報酬の内容には,以上の観点からする付加価値部分に対する対価が包含されているものと考えられる。 以上の見地に立って,原告の主張について吟味する。 ア不当利得返還請求について原告は,甲事件において丙事件にかかる損害賠償請求が追加されたことを被告が原告に速やかに報告せず,丙事件において有利にその事実を利用しなかったことが,任務懈怠であると主張する。しかしながら,丙事件は無罪が確定し,原告の 丙事件にかかる損害賠償請求が追加されたことを被告が原告に速やかに報告せず,丙事件において有利にその事実を利用しなかったことが,任務懈怠であると主張する。しかしながら,丙事件は無罪が確定し,原告の勝訴となっているから,丙事件において何らの損害も発生していないことはもとより,丙事件記録関係の証拠を検討しても,上記Aによる請求の追加があったことが何らかの意味で丙事件の心証に響くものとは認め難いから,原告の主張は採用できない。 また,甲事件については,甲第1号証,第5号証の1,2,第6ないし第15号証によると,被告は答弁書を提出して,認否のみならず,反論をし,送付嘱託の申立をなして,刑事記録の送付がなされており,主張,立証活動,,,,を相当程度なしており乙事件については甲第20号証第26号証の12,第27ないし第34号証によれば,被告は答弁書及び準備書面を提出して主張はほぼ完結していたことが認められるところ,原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると,原告は,被告が丙事件の無罪判決後,これに関連した損害賠償請求事件を受任しなかったことから,一方的に被告を解任したことが認められることや受任事件の事案等に照らすと,着手金の性格やみなし報酬規程の趣旨に鑑み,被告が着手金額全額を取得すべき法律上の原因はあるものというべきである。 また,丙事件関係の書証及び弁論の全趣旨によると,丙事件における既存証拠状況の下で,無罪の判決を得ることは必ずしも容易ではない条件下で,無罪判決が宣告される結果となったが,原告は,成功報酬を支払っていないことが認められ,このことと,前記1に説示した弁護士報酬の性格に照らして考えると,丙事件の経費として計上されたもののうち,①のH署への接見旅費3万円についてはたとえ他の事件の出張の帰途であるとしても,不相当であ ,このことと,前記1に説示した弁護士報酬の性格に照らして考えると,丙事件の経費として計上されたもののうち,①のH署への接見旅費3万円についてはたとえ他の事件の出張の帰途であるとしても,不相当であるとはいえず,②のEカントリ-クラブの現地調査費用2万円についても不相当とはいえない。そして,③の調査依頼費用について,原告に調査書を開示しないからといって,これを費用請求することができないものということはできないし,④の水島への旅費日当分1万円が架空の出張にかかるものであると窺える資料はない。 イ慰藉料請求について(一)Kについての調査報告書は被告において調査依頼をなしたものであることは弁論の全趣旨から明らかであるところ,これをどのように扱うかは,秘密の保持の観点等から,被告が独自にその社会的責任を念頭において,決すべきところであり,依頼者であるからといって原告に開示すべき義務があるものとはいえない。したがって,上記開示義務を前提とする原告の主張は採用できない。 (二)被告が原告に対し,株式会社Lに出資をするよう勧誘したことは当事者間に争いがないが,原告がその勧誘に応じてはいないことは弁論の全趣旨から明らかであり,原告本人尋問の結果によっても,上記勧誘が,社会的相当性を逸脱してなされたものとは認められず,これが,不当にわたるものと認められる資料は見出せない。 (三)被告が原告に対し,A,J,M,Nを誣告罪で告訴すること,同人らに対し損害賠償請求訴訟を提起することの委任を承諾したことを認め得る証拠はなく,また,1に説示したとおり,弁護士は依頼者からの独立を保つべきものであり,事件を受任するかどうかは自由に決すべきところであるから,被告が上記訴訟提起を受任しなかったことをもって何ら非難することはできない。 したがって,原告の各請求 者からの独立を保つべきものであり,事件を受任するかどうかは自由に決すべきところであるから,被告が上記訴訟提起を受任しなかったことをもって何ら非難することはできない。 したがって,原告の各請求はいずれも理由がない。 四消滅時効についてさらに付言するに,仮に,本件に関する何らかの原告の請求債権の発生が認められるとしても,民法172条は,弁護士の職務に関する債権について,後日まで無用な紛議を招かないよう早期に落着させるために,2年の短期消滅時効を定めており,その趣旨に鑑みると,上記債権には依頼人の弁護士に対する債権も含まれるものと解されるところ,本件においては,各受任事件終了後,2年間の短期消滅時効期間が経過したことは明らかであり,被告が,平成13年11月27日付準備書面により,同月30日,本件弁論準備手続期日において上記消滅時効を援用したことは訴訟上明らかであるから,時効消滅したことが認められる。 五 結論 してみれば,いずれの点からみても,原告の本件請求はいずれも理由がないから,これを棄却すべく,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。 岡山地方裁判所第1民事部裁判官金馬健二
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