平成30(ワ)505

裁判年月日・裁判所
令和元年11月19日 広島地方裁判所 棄却
ファイル
hanrei-pdf-89091.txt

判決文本文22,548 文字)

主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求 被告は,原告に対し,50万円を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の概要本件は,原告が,夫婦は婚姻の際に定めるところに従い夫又は妻の氏を称すると定める民法750条の規定,婚姻しようとする者は夫婦が称する氏を届け 出なければならないと定める戸籍法74条1号の規定(以下,両規定を併せて「本件各規定」という。)について,憲法14条1項,24条1項及び2項,我が国が批准する市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「自由権規約」という。)2条1項,3項⒝,3条,17条1項及び23条各項並びに女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(以下「女子差別撤廃条約」とい う。)2条⒡,16条1項⒝及び⒢にそれぞれ違反するなどの主張をし,本件各規定を改廃する立法措置をとらないという立法不作為の違法を理由に,被告に対し,国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づき損害賠償として慰謝料50万円の支払を求める事案である。 2 関係法令等の定め 別紙「関係法令等の定め」記載のとおりである。 3 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)⑴ 原告の婚姻届の不受理についてア原告は,昭和58年9月から,Aと,いわゆる事実婚の状態にある女性 である(甲96の2)。 イ原告とAは,平成30年3月2日,広島市a区長に対し,婚姻届を提出したところ,同婚姻届の「婚姻後の夫婦の氏」の欄に,「夫は夫の氏,妻は妻の氏を希望します。」として,婚姻後も別氏を称す イ原告とAは,平成30年3月2日,広島市a区長に対し,婚姻届を提出したところ,同婚姻届の「婚姻後の夫婦の氏」の欄に,「夫は夫の氏,妻は妻の氏を希望します。」として,婚姻後も別氏を称する旨を記載した。 ウこれに対し,広島市a区長は,同月6日,本件各規定に違反していることを理由として,原告らの婚姻届を不受理とした(甲4)。 エ原告は,同年5月11日,本件訴訟を提起した。 ⑵ 自由権規約についてア我が国は,昭和54年に,自由権規約を批准し,同規約の締約国となったところ,自由権規約には,別紙「関係法令等の定め」記載3のとおりの各規定がある。 イ自由権規約委員会は,自由権規約に基づき設置された機関であり,自由権規約に関する一般的な性格を有する意見(一般的意見)を締約国に送付することとされている(自由権規約28条,40条)。 ウ自由権規約委員会は,平成2年,自由権規約23条4項に関する一般的意見として,各配偶者が自己の婚姻前の姓の使用を保持する権利又は平等 の基礎において新しい姓の選択に参加する権利は,保障されるべきである旨の意見を採択した(甲18の1,2)。 自由権規約委員会は,平成12年,自由権規約3条に関する一般的意見として,締約国は,23条4項の義務を果たすために,夫婦の婚姻前の姓の使用を保持し,又新しい姓を選択する場合に対等の立場で決定する配偶 者各自の権利に関して性別の違いに基づく差別が起きないことを確実にしなければならない旨の意見を採択した(甲19の1,2)。 女子差別撤廃条約についてア我が国は,昭和60年に,女子差別撤廃条約を批准し,同条約の締約国となったところ,女子差別撤廃条約には,別紙「関係法令等の定め」記載 4のとおりの各規定 女子差別撤廃条約についてア我が国は,昭和60年に,女子差別撤廃条約を批准し,同条約の締約国となったところ,女子差別撤廃条約には,別紙「関係法令等の定め」記載 4のとおりの各規定がある。 イ女性差別撤廃委員会は,条約の実施に関する進捗状況を検討するため,女性差別撤廃条約15条に基づき設置された機関である。 ウ女性差別撤廃委員会は,平成6年,採択した一般勧告の中で,16条1項⒢について「各パートナーは,共同体における個性及びアイデンティティを保持し,社会の他の構成員と自己を区別するために,自己の姓を選択 する権利を有するべきである。法もしくは慣習により,婚姻若しくはその解消に際して自己の姓の変更を強制される場合には,女性はこれらの権利を否定されている。」と述べた(甲20の1,2)。 女性差別撤廃委員会は,平成15年,我が国に対して,「民法が,夫婦の氏の選択などに関する,差別的な規定を依然として含んでいる」旨の指摘 をして「民法に依然として存在する差別的な法規定を廃止し,法や行政上の措置を条約に沿ったものとする」旨の勧告をした(甲21の1,2)。 女性差別撤廃委員会は,平成21年,我が国に対して,「前回の最終見解における勧告にもかかわらず,民法における夫婦の氏の選択に関する差別的な法規定が撤廃されていない」旨,「差別的規定の撤廃が進んでいないこ とを説明するために世論調査を用いている」ことに懸念を表明し,「選択的夫婦別氏制度を採用することを内容とする民法改正のために早急な対策を講じるよう」要請し,「本条約は締約国の国内法体制の一部であることから,本条約の規定に沿うように国内法を整備するという義務に基づくべきである」旨の指摘をした(甲22の1,2)。 女性差 よう」要請し,「本条約は締約国の国内法体制の一部であることから,本条約の規定に沿うように国内法を整備するという義務に基づくべきである」旨の指摘をした(甲22の1,2)。 女性差別撤廃委員会は,平成28年,我が国に対して,「2015年12月16日に最高裁判所は夫婦同氏を求めている民法第750条を合憲と判断したが,この規定は実際には多くの場合,女性に夫の姓を選択せざるを得なくしていること」に懸念を表明し,「女性が婚姻前の姓を保持できるよう夫婦の氏の選択に関する法規定を改正すること」を勧告した(甲25の 1,2)。 4 争点及びこれに対する当事者の主張⑴ 本件各規定は「信条」を理由とする別異取扱いとして憲法14条1項に違反するか。 (原告の主張)本件各規定は,以下のとおり,「信条」を理由とする別異取扱いとして憲法 14条1項に違反する。 ア本件各規定によれば,夫婦が称する氏を定めない婚姻届は受理されないことから,夫婦別氏を希望する夫婦は,事実上,法律婚をすることができない。 その結果として,夫婦別氏を希望する夫婦は,夫婦同氏を選択して法律 婚をした夫婦と比較して,法律婚の効果として生じる様々な権利又は利益を享受することができないという点で,差別的な取扱いを受けている。 イ氏は,人が個人として尊重される基礎であり,その個人の人格の象徴であって,人格権の一内容を構成するものであるから,夫婦が,婚姻後も別氏を称するか,一方の氏を変更して同氏を称するかは,夫婦としての在り 方を含む個人としての生き方に関する自己決定に委ねられるべき事項であって,その選択は,人生に関する信念であるというべきである。 したがって,夫婦が,婚姻後もお互いに生来の氏を 婦としての在り 方を含む個人としての生き方に関する自己決定に委ねられるべき事項であって,その選択は,人生に関する信念であるというべきである。 したがって,夫婦が,婚姻後もお互いに生来の氏を続用することを希望し,それをお互いに尊重して,夫婦別氏を選択することは,憲法14条1項が例示列挙する「信条」又はそれに準ずる事項に当たるというべきであ って,そのことに基づく差別的取扱いについては,その合憲性を厳格な基準で判断すべきである。 ウこの点,夫婦別氏を希望する夫婦は,法律婚をすることができない結果として,夫婦同氏を選択して法律婚をした夫婦と比較して,重大な権利又は利益に関する不利益を受けている。 具体的には,法律婚をすることができない結果として,配偶者として法 定相続人になることができない(民法900条),配偶者として後見開始の審判の請求をすることができない(同7条),夫婦間の子が嫡出推定を受けることができない(同772条),共同して親権を行使することができない(同818条3項),所得税について配偶者控除を受けることができない(所得税法83条),相続税について配偶者に対する相続税額の軽減を受け ることができない(相続税法19条の2)等の法律上の不利益を受けているほか,不妊治療に関する助成金を受給することができない,被保険者の配偶者として生命保険の受取人になることができない,居住不動産の住宅ローンの連帯保証人になることができない,治療方針の選択等について配偶者として同意権者になることができないなどの事実上の不利益を受ける ことがある。これらに加え,国民の中に法律婚を尊重する意識が幅広く浸透していることから,法律婚をしていない夫婦は,正式な夫婦ではないとされ,夫婦であることの社会的承 の事実上の不利益を受ける ことがある。これらに加え,国民の中に法律婚を尊重する意識が幅広く浸透していることから,法律婚をしていない夫婦は,正式な夫婦ではないとされ,夫婦であることの社会的承認を得ることが容易ではないという状況もある。 エ他方,このような重大な権利又は利益に関する不利益を伴う差別的取扱 いであるにもかかわらず,これを正当化するに足りる合理的な根拠はない。 すなわち,夫婦別氏を希望する夫婦に対する別異取扱いが許容されるためには,婚姻後の夫婦同氏を原則とすることに合理性が認められるだけでは足りず,さらに進んで,婚姻後の夫婦同氏に例外を許容せず,夫婦同氏を一律に強制することにまで合理性が認められなければならないところ, 本件各規定にそのような合理性までは認められない。 この点,夫婦同氏制度を正当化する根拠として,夫婦同氏には,①家族という一つの集団を構成する一員であることを,対外的に公示し,識別する機能があり,②家族の一員であることを実感する機能があるとされている。 しかしながら,①については,現代社会における家族の形態が様々であ ること,通称の使用が社会的に広がっていることなどを踏まえれば,社会において,氏の同一性によってのみ家族の一員であることが公示されているという実態があるとまでいうことはできないのみならず,むしろ,氏の同一性によってのみ家族の一員であることが公示されるべきであるとすることは,親と子の氏が異なる非嫡出子等に対する差別が助長されるという 弊害すら生じさせるものであるから,婚姻後の夫婦同氏に例外を許容しないことを正当化する根拠としては合理性に乏しい。また,②については,たしかに,国民の中には,氏の同一性によって家族の一員で う 弊害すら生じさせるものであるから,婚姻後の夫婦同氏に例外を許容しないことを正当化する根拠としては合理性に乏しい。また,②については,たしかに,国民の中には,氏の同一性によって家族の一員であることを実感する者が一定数存在するが,そうであるからといって,氏の同一性によってそのような実感をしない者も存在するのであるから,婚姻後の夫婦同 氏を原則とするにとどまらず,それに例外を許容しないことまで正当化する根拠とはならない。 オこのように,本件各規定は,信条又はそれに準ずる事項に基づく差別的取扱いであり,それに伴って生じる不利益が重大であるにもかかわらず,そのような差別的な取扱いを正当化するに足りる合理的な根拠が存在しな いから,憲法14条1項に違反し,違憲である。 (被告の主張)婚姻後も夫婦別氏を希望する者が,本件各規定に違反する婚姻届を提出しても,それが受理されないことから,そのような届出をした者について,法律婚をした者のみに与えられる法的又は事実上の権利又は利益を享受するこ とができないことは認める。 しかしながら,本件各規定は,別氏と同氏のいずれを希望するかにかかわらず,すべての者に対して,婚姻時に夫婦が称する氏を定めることを求めるものであるから,別氏を希望する者と同氏を希望する者との間で異なる取扱いをするものではない。 したがって,夫婦別氏を希望する者が,夫婦同氏を選択して法律婚をした 者と比較して,差別的取扱いを受けている旨の原告の主張は,そもそも,両者が異なる取扱いを受けているという前提を欠くものであるから,理由がない。 (原告の反論)被告は,本件各規定について,すべての者に一律に適用されることが予定 されていることを理由として,夫婦別氏を けているという前提を欠くものであるから,理由がない。 (原告の反論)被告は,本件各規定について,すべての者に一律に適用されることが予定 されていることを理由として,夫婦別氏を希望する者に対する差別的取扱いとはならない旨の主張をする。しかし,法律は,一般的,抽象的な法規範として,不特定多数の人に対して適用されることが,その性質上当然に予定されているのであり,法律である本件各規定がすべての者に対して一律に適用されることは,いわば当然なのであって,本件各規定が差別的取扱を定めた ものではないことの理由にはならない。 本件各規定は,夫婦が婚姻後に称する氏をいずれかに定めなければ婚姻届が受理されないという点で,実質的には,夫婦同氏を法律婚の要件とするものである。本来であれば,婚姻意思に基づき届出をすることのみによって法律婚をすることができるにもかかわらず,本件各規定によって,婚姻後も夫 婦別氏を希望する者は,婚姻意思に基づく届出をしたとしても,夫婦が婚姻後に称する氏をいずれかに定めていないことを理由として,法律婚をすることができないこととなる。 したがって,本件各規定が,夫婦別氏を希望する者に対する差別的取扱いを定めたものであることは,明らかである。 ⑵ 本件各規定は憲法24条に違反するか。 (原告の主張)本件各規定は,以下のとおり,憲法24条に違反する。 ア憲法24条2項は,具体的な制度の構築を第一次的には国会の合理的な立法裁量に委ねるとともに,その立法に当たっては,同条1項も前提とし つつ,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきであるとする要請,指 針を示すことによって,その立法裁量の限界を画したものといえる。 そして,憲法24条 1項も前提とし つつ,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきであるとする要請,指 針を示すことによって,その立法裁量の限界を画したものといえる。 そして,憲法24条が明示する立法上の要請,指針は,単に,憲法上の権利として保障される人格権を不当に侵害するものではなく,かつ,両性の形式的な平等が保たれた内容の法律が制定されればそれで足りるというものではないのであって,憲法上直接保障された権利とまではいえない人 格的利益をも尊重すべきこと,両性の実質的な平等が保たれるように図ること,婚姻制度の内容によって婚姻をすることが事実上不当に制約されることのないように図ること等についても十分に配慮した法律の制定を求めるものである。 イ氏は,人が個人として尊重される基礎であって,その選択は,個人の生 き方,家族の在り方に関する自己決定に委ねられるべきであるほか,氏は,個人を他人から識別し特定する機能を有するため,それを変更することは,個人が築いた業績,実績,成果などの連続性を失わせ,これらの法的利益にも影響を与えかねないとともに,氏を変更した者に対してアイデンティティの喪失感をもたらすものである。 この点,婚姻後も就労を継続する女性が増加していること,初婚年齢が上昇し,女性が婚姻までに個人の業績等を築く機会が増加していること,再婚率が上昇し,自身と子の氏の同一性を確保するために氏を続用する需要が高まっていること,社会のグローバル化,IT化に伴って,婚姻前後で氏の連続性を維持する必要性が高まっていることといった社会情勢の変 化に加え,男女共同参画の推進の重要性,夫婦別氏を許容する方向での国民の意思の変化,国際的動向等を踏まえれば,夫婦別氏を人格的利益として保護することの必要性は,ますます といった社会情勢の変 化に加え,男女共同参画の推進の重要性,夫婦別氏を許容する方向での国民の意思の変化,国際的動向等を踏まえれば,夫婦別氏を人格的利益として保護することの必要性は,ますます高まっているといえる。 したがって,夫婦別氏を選択することの利益は,人格的利益として尊重されるべきものであるところ,本件各規定は,夫婦同氏に例外を許容せず, 人格的利益を侵害するものであるから,憲法24条が明示する立法上の要 請,指針に反しているというべきである。 ウ本件各規定は,形式的には,婚姻後の夫婦がいずれの氏を称するかについて,夫婦となろうとする者の間の協議による選択に委ねている。 しかしながら,実際には,大多数の夫婦が,夫の氏を称することを選択しているという状況があり,この状況は,女性の社会的経済的な立場の弱 さ,家庭生活における立場の弱さ,種々の事実上の圧力など様々な要因のもたらすところであるといえるのであって,夫の氏を称することが形式的には妻の意思に基づくものであったとしても,その意思決定の過程に現実の不平等と力関係が作用しているのである。 したがって,本件各規定は,実質的には,大多数の夫婦にとって,妻に 対してのみ氏の変更を強制するものであって,婚姻における両性の実質的な平等が保たれているとはいい難いから,本件各規定は,憲法24条が明示する立法上の要請,指針に反している。 エ本件各規定は,人格的利益として尊重されるべき氏の選択という事項について,実質的には,妻に対してのみ不利益を課すものであり,それによ って,氏の変更を希望しない妻が法律婚をすることをためらわせ,事実上,婚姻をすることを制約しているというべきであるから,本件各規定は,婚姻制度の内容によって婚姻をするこ ものであり,それによ って,氏の変更を希望しない妻が法律婚をすることをためらわせ,事実上,婚姻をすることを制約しているというべきであるから,本件各規定は,婚姻制度の内容によって婚姻をすることを事実上不当に制約するものであるというべきである。 この点については,夫婦同氏制度の下でも,婚姻前の氏を通称として使 用することは許容されているため,氏の変更を希望しない妻が,法律婚をして戸籍上の氏を変更したとしても,婚姻前の氏を通称として使用することによって,戸籍上の氏の変更に伴って生じる不利益を一定程度は緩和し得るとされている。 しかしながら,現在,通称の使用は,便宜上許容されているのみであっ て,法制度として確立しているものではないため,戸籍上の氏と通称とし て使用する氏が異なることによる社会生活上の様々な不都合が生じている。たとえば,会社の人事上の書類等において,戸籍上の氏と通称として使用する氏の両者を併記することによって,事務処理が煩雑となり,手続上のミスが発生する原因となっていること,パスポートに両者を併記することによって,出入国の際に,パスポートの偽造等の違法行為を疑われる 場合があること,そもそも,生活上使用する各種書類に両者を併記し,又は通称を表記するための事務手続の負担が膨大であること,本人確認の際,証明書類に通称として使用する氏を表記している場合,それが戸籍上の氏と異なることを説明するために自身が事実婚の状態にあるというプライバシーに関する情報を不必要に開示しなければならないことなどの不都合が 生じている。そして,これらの不都合によって生じる負担については,多くの場合,女性である妻が一方的に引き受けている状況がある。 このように,通称の使用は,戸籍上の氏の変更に伴って生じる不利 生じている。そして,これらの不都合によって生じる負担については,多くの場合,女性である妻が一方的に引き受けている状況がある。 このように,通称の使用は,戸籍上の氏の変更に伴って生じる不利益を緩和するための措置として十分であるとはいい難い。 オ以上のとおり,本件各規定は,憲法24条が明示する立法上の要請,指 針に反しており,同条によって国会に与えられた立法裁量の限界を逸脱したものであるから,憲法24条に違反する。 (被告の主張)本件各規定が憲法24条に違反するものではないことは,最高裁判所の判例(最高裁平成26年(オ)第1023号同27年12月16日大法廷判決・ 民集69巻8号2586頁。以下「平成27年判決」という。)に照らして,明らかである。 すなわち,平成27年判決は,婚姻によって氏を改めるものにとって,そのことによりいわゆるアイデンティティの喪失感を抱いたり,婚姻前の氏を使用する中で形成してきた個人の社会的な信用,評価,名誉感情等を維持す ることが困難になったりするなどの不利益を受ける場合があることは否定で きないとした上で,他方,夫婦同氏制度には,家族という一つの集団を構成する一員であることを対外的に公示し,識別する機能,家族の一員であることを実感する機能があること,夫婦の子が嫡出子であることを示すために子が両親双方と同氏である仕組みを確保することにも一定の意義があること,夫婦同氏制度自体には男女の形式的な不平等があるわけではないこと,通称 の使用によって夫婦同氏制度による弊害が一定程度は緩和され得ることなどを総合的に考慮すれば,本件各規定は,憲法24条に違反するものではない旨を判示したものである。 したがって,同判決の判示内容に照らせば,原告が夫婦 同氏制度による弊害が一定程度は緩和され得ることなどを総合的に考慮すれば,本件各規定は,憲法24条に違反するものではない旨を判示したものである。 したがって,同判決の判示内容に照らせば,原告が夫婦同氏に例外を許容しないことの弊害として指摘する種々の問題点を踏まえても,なお本件各規 定が憲法24条に違反するということはできない。 (原告の反論)平成27年判決については,5人の裁判官が,多数意見と異なり,本件各規定が憲法24条に違反する旨の意見を述べており,多数の法学者等からも反対意見が表明されているほか,以下のとおり,同判決後,その判断の基礎 とされた社会情勢等の立法事実に変化があったので,平成27年判決の多数意見の結論が,現在においても当然に妥当するということはできない。 ア女子差別撤廃委員会は,平成28年3月7日付けで,我が国に対し,平成27年判決は本件各規定を合憲であると判断したが,本件各規定が実際には多くの場合に女性に対して夫の氏を選択せざるを得なくしていること から,女性が婚姻前の氏を保持できるように本件各規定を改正すべきである旨勧告した。 イ平成27年以降も,女性の有業率,共働き世帯の割合,育児中の女性の有業率,女性管理職の割合等は,いずれも増加し続けており,このような女性の社会進出の進展という社会情勢の変化に伴って,婚姻前後における 女性の氏の連続性を維持することが一層重要になってきている。 ウ家族の在り方に関する国民の意識についても,内閣府が実施した「家族の法制に関する世論調査」によれば,選択的夫婦別氏制度の導入について,平成24年に実施された調査では反対意見が賛成意見を上回っていたが,平成29年に実施された調査では賛成意見が反対意見を逆 た「家族の法制に関する世論調査」によれば,選択的夫婦別氏制度の導入について,平成24年に実施された調査では反対意見が賛成意見を上回っていたが,平成29年に実施された調査では賛成意見が反対意見を逆転するに至ったほか,夫婦別氏が家族の一体感に影響を与えないとする意見の割合が増加 し続けており,もはや国民の意識によれば,夫婦同氏に例外を許容しないことを正当化することはできない。 エ平成27年判決以降,全国各地の地方議会において,選択的夫婦別氏の導入を求める意見書が次々に採択されているほか,政府は,女性の活躍の推進を成長戦略として位置付けており,女性活躍の視点に立った制度等を 整備していくことが重要であるとして,選択的夫婦別氏制度の導入に関し,ウの世論調査の結果について分析を加え,引き続き検討を行う旨を表明している。 ⑶ 本件各規定は自由権規約(2条1項,3項⒝,3条,17条1項,23条)に違反するか。 (原告の主張)自由権規約は,締約国に対し,市民的権利の享有に関する男女の同権を確保すること(3条),婚姻について,婚姻に係る配偶者の権利及び責任の平等を確保するため,適当な措置をとること(23条4項)をそれぞれ義務付けている。 自由権規約の解釈に当たっては,自由権規約委員会の一般的意見が公的解釈とされているところ,一般的意見によれば,締約国は,各配偶者が自己の婚姻前の氏の使用を保持する権利又は平等の基礎において新しい氏の選択に参加する権利を保障すること,自由権規約23条4項の義務を果たすために,夫婦の婚姻前の氏の使用を保持し,又新しい氏を選択する場合に対等の立場 で決定する配偶者各自の権利に関して性別の違いに基づく差別が起きないこ とを確実にすることが 果たすために,夫婦の婚姻前の氏の使用を保持し,又新しい氏を選択する場合に対等の立場 で決定する配偶者各自の権利に関して性別の違いに基づく差別が起きないこ とを確実にすることが義務付けられているというべきであるから,夫婦同氏に例外を許容しない本件各規定が,これらの義務に違反していた規定であることは明らかである。 したがって,本件各規定は,自由権規約2条1項,3項⒝,3条,17条1項,23条各項に違反するものである。 (被告の主張)原告は,自由権規約委員会の一般的意見を根拠として,締約国には「各配偶者が婚姻前の氏の使用を保持する権利」を保障する義務があるとして,これに反する本件各規定が自由権規約に違反している旨を主張する。 しかしながら,自由権規約委員会の一般的意見は,条約それ自体ではない から,締約国に対する法的拘束力を有しているということはできない。 したがって,被告が「各配偶者が婚姻前の氏の使用を保持する権利」等を保障する義務を負っているということはできないから,本件各規定が自由権規約に違反する旨の主張は,その前提を欠き,理由がない。 (原告の反論) たしかに,自由権規約委員会の一般的意見は,条約それ自体ではないから,締約国に対する法的拘束力を有しているということはできないが,自由権規約の内容を具体化したものとして,解釈指針又は解釈基準として参照されるべきものであるから,本件各規定が,自由権規約に違反するかを判断するに当たって参照されるべきものである。 本件各規定は女子差別撤廃条約(2条⒡,16条1項⒝,⒢)に違反するか。 (原告の主張)女子差別撤廃条約は,「女子に対する差別」を,「女子が男女の平等を基礎とし 本件各規定は女子差別撤廃条約(2条⒡,16条1項⒝,⒢)に違反するか。 (原告の主張)女子差別撤廃条約は,「女子に対する差別」を,「女子が男女の平等を基礎として人権及び基本的自由を認識し,享有し又は行使することを害し又は無 効にする効果又は目的を有するもの」と定義しているところ(1条),この定 義規定に照らせば,女子差別撤廃条約において「女子に対する差別」とされるものは,女子に対する差別それ自体を目的とするものに限られず,形式的には性に関して中立的な取扱いがされていたとしても,その効果として,人権及び基本的自由を享有,行使等することを害する結果となるものは,「女子に対する差別」に当たると解される。 そして,女子差別撤廃条約は,締約国に対し,女子に対する差別を撤廃するための適当な措置をとることを義務付けており,特に,合意のみにより婚姻をする権利,姓を選択する権利について,男女の平等を確保することを義務付けている(2条⒡,16条1項⒝,⒢)。 この点,本件各規定は,形式的には,婚姻後の夫婦がいずれの氏を称する かについて,夫婦となろうとする者の間の協議による選択に委ねているものの,実質的には,女性である妻に対してのみ氏の変更を強制するものであるから,本件各規定が,女子差別撤廃条約2条⒡,16条1項⒝,⒢に違反するものであることは明らかである。 (被告の主張) 女子差別撤廃条約は,我が国の国民に対して直接権利を保障するものではないから,本件各規定が,女子差別撤廃条約によって保障されている国民の権利を侵害している旨の原告の主張は,その前提を欠き理由がない。 一般に,条約は,原則として国家間の関係を規律する法規範であり,直接 本件各規定が,女子差別撤廃条約によって保障されている国民の権利を侵害している旨の原告の主張は,その前提を欠き理由がない。 一般に,条約は,原則として国家間の関係を規律する法規範であり,直接に締約国内の個々人の権利義務を規律するものではないから,条約が,締約 国に対して,同国内において何らかの措置をとることを義務付ける内容のものであったとしても,原則として,その義務を履行するための具体的な措置は各締約当事国の国内法に委ねられている。 もっとも,いわゆる自動執行力を有する条約については,国内法による補完,具体化がなくとも,内容上そのままの形で国内法として直接に実施され, 私人の法律関係について,国内の裁判所及び行政機関の判断根拠として適用 することができるとされている。 この点,条約に自動執行力が認められるためには,第1に主観的要件として,私人の権利義務を直接に国内裁判所で執行可能な内容のものにするという締約国の意思が確認できること,第2に客観的要件として,条約の規定において私人の権利義務が明白,確定的,完全かつ詳細に定められていて,そ の内容を具体化する法令に待つまでもなく国内的に執行可能な規定であることが必要となると解されている。 これを女子差別撤廃条約についてみると,同条約は,実体規定において,「締約国は・・・適当な措置をとる」等と規定されていることなどから,締約国に対して,女子差別を撤廃するという目的を達成するために適当な国内 的措置をとることを義務付ける内容の条約にとどまり,我が国の意思としても,国会答弁において,同条約の国内における実施については,国内法制の整備を通じて行うことを前提とする旨の政府答弁が繰り返されていることなどに照らせば,同条約を自動執行力のない条約とし の意思としても,国会答弁において,同条約の国内における実施については,国内法制の整備を通じて行うことを前提とする旨の政府答弁が繰り返されていることなどに照らせば,同条約を自動執行力のない条約として理解していたことは明らかである。 また,同条約の16条1項の規定を具体的にみても,「女子に対する差別を撤廃するためのすべての適当な措置をとるものとし,特に,男女の平等を基礎として次のことを確保する。」と規定されていることから,同規定は,締約国に対して適当な国内的措置をとることを義務付けることを内容とする規定にすぎず,それ以上に,私人の権利義務が明白,確定的,完全かつ詳細に定 められていて,その内容を具体化する法令に待つまでもなく国内的に執行可能な規定であるとまでいうことはできない。 したがって,女子差別撤廃条約には自動執行力が認められない。 (原告の反論)憲法98条2項によれば,我が国において,条約は,批准,公布によって, 直ちに国内法的効力を有すると解されるから,裁判官は,国内法上その条約 解釈権限に制約がある場合や,条約の規定が不明確,不完全であって直接依拠することができないといった特段の事情がない限り,その条約の規定に直接依拠して,法令の合法性を判断することができると解すべきである。 被告は,条約を裁判規範として用いるためには,当該条約に自動執行力が認められることが必要であると主張する。 しかしながら,条約を裁判規範として用いることができるか否かは,国内法を裁判規範として用いる場合と同様に,個別の規定の内容及び具体性,訴訟の類型,当事者の援用の仕方等を踏まえ,事案に応じて個別具体的に判断されるべきものであって,必ずしも,自動執行力が認められなければ裁判規範と して用いる場合と同様に,個別の規定の内容及び具体性,訴訟の類型,当事者の援用の仕方等を踏まえ,事案に応じて個別具体的に判断されるべきものであって,必ずしも,自動執行力が認められなければ裁判規範として用いることができないということはできない。 この点,本件は,原告が,本件各規定が女子差別撤廃条約に違反することを理由として,本件各規定を改廃する立法措置をとらないことが国賠法1条1項の規定の適用上違法であると主張する事案であるから,本件各規定が女子差別撤廃条約に違反しているか否かを判断するに足りる程度の明確性が個別の規定に認められれば,同条約を裁判規範として用いることはできるとこ ろ,女子差別撤廃条約2条⒡,16条1項⒝,⒢の各規定は,これに本件各規定が違反しているか否かを判断するに足りる程度に明確である。 仮に,被告が主張するように,条約を裁判規範として用いるためには,当該条約に自動執行力が認められることが必要であると解したとしても,女子差別撤廃条約には自動執行力が認められる。 すなわち,自動執行力の主観的要件は,自動執行力を根拠付ける要件ではなく,同要件を欠く場合には自動執行力を排除するという趣旨の要件であると解する見解が有力であるところ,我が国が女子差別撤廃条約の批准に際して,自動執行力を排除する旨の解釈宣言を付したなどの事情はないほか,政府が,女子差別撤廃条約委員会の調査に対して,同条約が裁判において援用 された事案を報告していること,国会における政府答弁は,あくまでも対外 的な表示ではないから,これによって自動執行力を否定する根拠とはならないことなどを踏まえれば,我が国の意思として,女子差別撤廃条約の自動執行力を排除する意思があったことを認めることはできないから,同条約 表示ではないから,これによって自動執行力を否定する根拠とはならないことなどを踏まえれば,我が国の意思として,女子差別撤廃条約の自動執行力を排除する意思があったことを認めることはできないから,同条約の自動執行力について主観的要件を欠くとはいえない。そして,女子差別撤廃条約2条⒡,16条1項⒝,⒢の各規定には,自動執行力の客観的要件である 明確性もある。 本件各規定について改廃する立法措置をとらないことが,憲法又は条約に違反することを理由として国賠法上違法であるといえるか。 (原告の主張)ア ⑴及び⑵の(原告の主張)のとおり,本件各規定が憲法14条1項及び 24条に違反するものであることは明白である。 被告は,平成8年には,法務省法制審議会から,夫婦別氏制を含む「民法の一部を改正する法律案要綱」の答申を受けたのであるから,遅くともこの時期には,本件各規定の改廃の必要性を認識していたというべきであるにもかかわらず,現在まで20年以上の長期にわたって,正当な理由な く,本件各規定を改廃する立法措置をとることを怠っている。 よって,被告が,本件各規定を改廃する立法措置をとらないことは,国賠法1条1項の規定の適用上違法である。 イ憲法98条2項によれば,我が国において,条約は,批准,公布によって,直ちに国内法的効力を有すると解される。そして,条約は,一般の法 律より上位の規範であると解されるから,条約に違反する法律について,改廃する立法措置をとらないことは,国賠法1条1項の規定の適用上違法である。 (被告の主張)ア国会議員の立法過程における行動が,国賠法1条1項の規定の適用上違 法と評価されるのは,現存する法律の規定が憲法の規定に違反するもので あることが明白で 被告の主張)ア国会議員の立法過程における行動が,国賠法1条1項の規定の適用上違 法と評価されるのは,現存する法律の規定が憲法の規定に違反するもので あることが明白であるにもかかわらず,正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠るなどの例外的な場合に限られる。 この点,⑴及び⑵の(被告の主張)のとおり,本件各規定が憲法14条1項及び24条に違反するものであることが明白であるとはいえない。 また,平成27年判決が,本件各規定が憲法14条1項及び24条に違 反しない旨を判示しているところ,同判決後,現在まで,同判決の判断を覆す事情が認められないことを踏まえると,本件各規定を改廃する立法措置をとらないことが国賠法1条1項の規定の適用上違法と評価することはできない。 イ原告が主張する自由権規約上の権利(各配偶者が婚姻前の姓の使用を保 持する権利等),女性差別撤廃条約上の権利(婚姻に際して姓の選択に関する夫婦同一の権利,合意のみにより婚姻をする同一の権利)は,いずれも各条約上保障されている権利とは認められないから,本件各規定を改廃等する立法措置を執らなかった国会議員の立法不作為は,国賠法1条1項の適用上,違法の評価を受けない。 損害額(原告の主張)原告が被った精神的苦痛を金銭的に評価すれば,少なくとも50万円を下回ることはない。 (被告の主張) 争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点(憲法14条1項違反)について原告は,本件各規定は,原告が夫婦別氏を希望したいとの人生に関する信念に基づく別異取扱いとして,憲法14条1項が禁止する「信条」ないしそれに 準ずる事項による差別に当たると主張する て原告は,本件各規定は,原告が夫婦別氏を希望したいとの人生に関する信念に基づく別異取扱いとして,憲法14条1項が禁止する「信条」ないしそれに 準ずる事項による差別に当たると主張する。 しかしながら,本件各規定は,夫婦別氏を希望したいとの人生に関する信念を有する者とそうではない者とを区別することなく,夫婦は,婚姻の際に定めるところに従い,夫又は妻の氏を称すること(民法750条),婚姻をしようとする者は,夫婦が称する氏を届書に記載して,その旨を届け出なければならないこと(戸籍法74条1号)をそれぞれ規定したものであって,原告の有する 人生に関する信念に着目して,法律内容を区別しているものではないから,原告の信念が憲法14条1項の禁止する「信条」ないしそれに準ずる事項に該当するかどうかに関わらず,本件各規定は憲法14条1項に違反するものではない。 原告の主張する法律婚の効果を享受することができないことの不利益(差別 的取扱い)は,法律婚の有無によって生じているのであって,原告の主張する「信条」によって生じているものではない。 原告の主張を,婚姻を希望するために自己の信念に反して夫婦同氏の届出を余儀なくされる点に着目して,憲法19条に違反するものであると解したとしても,本件各規定は原告の内心の自由に対して直接的に干渉するものではない 上,自らが支持していない法律に従わざるを得ないことをもって,憲法19条に違反するものとはいえない。 原告の反論のうち,本来婚姻意思に基づき届出をすることのみによって法律婚をすることができるとの主張は,憲法24条の解釈に関する原告の主張を前提とするものであって採用できない。 2 争点(憲法24条違反)について⑴ 婚姻及び家族に関する法制度を定 婚をすることができるとの主張は,憲法24条の解釈に関する原告の主張を前提とするものであって採用できない。 2 争点(憲法24条違反)について⑴ 婚姻及び家族に関する法制度を定めた法律の規定が憲法24条に適合するものとして是認されるか否かについては,憲法24条の要請,指針に応えて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定が,国会の多方面にわたる検討と判断に委ねられているものであることからすれば,当該法制度の趣 旨や同制度を採用することにより生ずる影響につき検討し,当該規定が個人 の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き,国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ないような場合に当たるか否かという観点から判断すべきものと解するのが相当である(平成27年判決参照)。 平成27年判決は,本件各規定が,婚姻後の夫婦同氏に例外を許容しないものであるから,婚姻によって氏を改める者にとって,そのことによりいわ ゆるアイデンティティの喪失感を抱いたり,婚姻前の氏を使用する中で形成してきた個人の社会的な信用,評価,名誉感情等を維持することが困難になったりするなどの不利益を受ける場合があることは否定できないことを踏まえた上で,それでもなお,夫婦同氏制度を採用することに一定の合理性が認められることなどを踏まえ,本件各規定が,直ちに個人の尊厳と両性の本質 的平等の要請に照らして合理性を欠く制度であるとは認めることはできない旨を判示したものであるところ,これに反する原告の主張は採用することができない。 ⑵ 原告は,平成27年判決後,家族の在り方に関する国民の意識等の立法事実に変更が生じたから,現在において,平成27年判決の結論が当然には妥 当しないなどの主張をする。 できない。 ⑵ 原告は,平成27年判決後,家族の在り方に関する国民の意識等の立法事実に変更が生じたから,現在において,平成27年判決の結論が当然には妥 当しないなどの主張をする。 ⑶ 平成27年判決後の原告の主張する事情に関して,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。 ア総務省統計局が実施した「平成29年度就業構造基本調査」の結果では,平成24年に実施された同内容の調査結果と比較して,女性の有業率が2. 5%上昇し,50.7%となり,過去5年間に出産,育児のために前職を離職した者が23万1000人減少し,夫婦共働き世帯の割合が3.4%増加し,48.8%となった(甲47の1)。 イ内閣府大臣官房政府広報室が平成28年10月に実施した「男女共同参画社会に関する世論調査」の結果では,一般的に女性が職業をもつことに ついて,「子供ができても,ずっと職業を続ける方がよい」と回答した者の 割合が,平成26年8月に実施した同内容の調査結果と比較して,9.4%上昇し,54.2%となった(甲51)。 ウ内閣府大臣官房政府広報室が平成29年12月に実施した「家族の法制に関する世論調査の結果では,選択的夫婦別氏制度の是非について,平成24年12月に実施された同内容の調査結果と比較して,「婚姻をする以上, 夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきであり,現在の法律を改める必要はない」と回答した者の割合が7.1%減少し,29.3%となった一方,「夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望している場合には,夫婦がそれぞれ婚姻前の名字(姓)を名乗ることができるように法律を改めてもかまわない」と回答した者の割合が7.0%上昇し,42.5%となり, 「婚姻をする以上, ることを希望している場合には,夫婦がそれぞれ婚姻前の名字(姓)を名乗ることができるように法律を改めてもかまわない」と回答した者の割合が7.0%上昇し,42.5%となり, 「婚姻をする以上,夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきであり,現在の法律を改める必要はない」と回答した者の割合を上回ったほか,「夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望していても,夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきだが,婚姻によって名字(姓)を改めた人が婚姻前の名字(姓)を通称としてどこでも使えるように法律を改めることについて は,かまわない」と回答した者の割合が0.4%上昇し,24.4%となった。 また,氏と家族の一体感との関係については,「家族の名字(姓)が違うと,家族の一体感(きずな)が弱まると思う」と回答した者の割合が4. 6%減少し,他方,「家族の名字(姓)が違っても,家族の一体感(きずな) に影響がないと思う」と回答した者の割合が4.5%上昇した。(甲38)エ内閣官房の「すべての女性が輝く社会づくり本部」が平成30年6月12日付けで公表した「女性活躍加速のための重点方針2018」においては,「女性活躍の視点に立った制度等の整備」の項目で,「選択的夫婦別氏制度の導入に関し,平成29年12月に実施した家族の法制に関する世論 調査の結果について分析を加え,引き続き検討を行う。」とされた(甲56 の4)。 オ複数の地方議会等で選択的夫婦別姓を求める旨の意見書が採択され(甲43,52,53,79及び99〔いずれも枝番を含む。〕),国家資格における旧姓使用が広がっており(甲60,91),一部の公文書での旧姓使用が認められ(甲64),住民票,個人番号カード及びパスポートへの旧姓併 記が進めら 9〔いずれも枝番を含む。〕),国家資格における旧姓使用が広がっており(甲60,91),一部の公文書での旧姓使用が認められ(甲64),住民票,個人番号カード及びパスポートへの旧姓併 記が進められている(甲57の1,甲58の2,甲89,90,93,甲98の1)。 ⑷ ⑶の各事実を踏まえると,夫婦別氏の必要性を示す社会情勢として,女性の有職率が向上しており,夫婦別氏を希望する女性が増加していることがうかがわれ,婚姻制度や氏の在り方に対する社会の受け止め方についても,選 択的夫婦別姓を許容する意見が高まっていることが認められる。他方,家族の一員であることを表示する機能や家族の一体感を維持する機能において,氏の同一性が果たす役割が徐々に小さくなってきているという国民意識も見受けられる。 もっとも,夫婦別氏制度や通称使用制度を導入した場合には及ばないもの の,近時,公文書においても旧姓使用が認められるようになるなど,旧姓使用についての理解が一層の広がりをみせていることが認められ,このことに照らせば,氏を改める場合の不利益が拡大しているとまでは認められない。 以上の点を総合的に考慮すると,平成27年判決後の事情の変更を踏まえても,本件各規定について,直ちに国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざ るを得ないと評価することは困難であるから,本件各規定が憲法24条に違反するということはできない。 ⑸ よって,憲法24条違反に関する原告の主張は,採用することができない。 3 争点(自由権規約違反)について 自由権規約3条,23条4項は,その文言からして,憲法14条,24条 の趣旨と異なるところはないと解されるところ,本件各規定は,それが,こ れら憲法の規定に違反するとはいえないのと 由権規約3条,23条4項は,その文言からして,憲法14条,24条 の趣旨と異なるところはないと解されるところ,本件各規定は,それが,こ れら憲法の規定に違反するとはいえないのと同様の理由で,これら自由権規約に違反するものとは解されない。 原告は,自由権規約3条及び23条4項は,配偶者が婚姻前の姓の使用を保持する権利を保障したものであり,そのことは,自由権規約委員会の一般的意見からも明らかである旨の主張をする。 しかしながら,自由権規約3条は,男女に同等の権利を確保することを求め,23条4項は,婚姻に係る配偶者の権利及び責任の平等を確保するため,適当な措置をとることを求めているものの,いずれも文言からは原告の主張する配偶者が婚姻前の姓の使用を保持する権利を保障するものとは読み取れない。 原告は,自由権規約委員会の一般的意見を根拠にするが,同意見に拘束力がないことは争いがなく,上記規約について,同意見とは異なる解釈をすることは可能であると解される。 また,そもそも,自由権規約委員会の一般的意見は,自由権規約3条については,各配偶者が自己の婚姻前の姓の使用を保持する権利,又は,平等の 基礎において新しい姓の選択に参加する権利が保障されるべきものと述べており,自由権規約23条4項についても,夫婦の婚姻前の姓の使用を保持し,又は,新しい姓を選択する場合に対等の立場で決定する配偶者各自の権利に関して性別の違いに基づく差別が起きないことを確実にしなければならないと述べているため,原告の主張する配偶者が婚姻前の姓の使用を保持する権 利が保障されなくとも,平等の基礎において新しい姓の選択に参加する権利が保障される限り,これらの自由権規約に違反しないと解する余地がある。 主張する配偶者が婚姻前の姓の使用を保持する権 利が保障されなくとも,平等の基礎において新しい姓の選択に参加する権利が保障される限り,これらの自由権規約に違反しないと解する余地がある。 したがって,一般的意見を前提としても,自由権規約3条及び23条4項が,配偶者が婚姻前の姓の使用を保持する権利を保障したものと直ちに認めることはできない。 その他,原告が指摘する自由権規約2条1項,3項⒝,17条1項,23 条1項ないし3項を解釈しても,原告の主張する配偶者が婚姻前の姓の使用を保持する権利を認めたものと解する根拠が見当たらないので,原告の主張は採用できない。 よって,自由権規約違反に関する原告の主張は,採用することができない。 4 争点(女子差別撤廃条約違反)について 原告は,女子差別撤廃条約を根拠にして国賠法上の違法を主張しているところ,その主張が成り立つためには,女子差別撤廃条約に自動執行力があることが必要であると解される。 以上に反する原告の主張は採用できない。 ⑵ 女子差別撤廃条約が自動執行力を有するか検討する。 女子差別撤廃条約は一定の権利を確保することに言及しているが,いずれも締結国がその権利を確保するよう適当な措置を執る必要があり,締結国の国民に対し,直接権利を付与するような文言になっておらず,国内法の整備を通じて権利を確保することが予定されているから,自動執行力があるとは認めることができない。また,我が国の主観的意思として,国内的に直ちに 執行可能であるとの認識も認められない。 よって,女子差別撤廃条約の規定について,自動執行力を有しているということはできず,原告の主張は採用できない。 5 争点(国賠法上の違法性 執行可能であるとの認識も認められない。よって,女子差別撤廃条約の規定について,自動執行力を有しているということはできず,原告の主張は採用できない。 5 争点(国賠法上の違法性)及び争点(損害額)について憲法違反及び条約違反を前提とする原告の主張は採用できず,その余の争点については判断を要しない。 第4 結論以上のとおり,原告の請求は理由がないから棄却することして,主文のとおり判決する。 広島地方裁判所民事第3部 裁判長裁判官小西洋 裁判官大川潤子 裁判官友部一慶 (別紙)関係法令等の定め 1 民法⑴ 739条1項婚姻は,戸籍法(昭和22年法律第224号)の定めるところにより届け出ることによって,その効力を生ずる。⑵ 750条夫婦は,婚姻の際に定めるところに従い,夫又は妻の氏を称する。 2 戸籍法74条 婚姻をしようとする者は,左の事項を届書に記載して,その旨を届け出なければならない。1号夫婦が称する氏 3 自由権規約 2条ア 1項この規約の各締約国は,その領域内にあり,かつ,その管轄の下にあるすべての個人に対し,人種,皮膚の色,性,言語,宗教,政治的意見その他の意見,国民的若しくは社会的出身,財産,出生又は他の地位等によるいかなる差別もなしにこの規約において認められる権利を尊重し及び確保することを約束する。イ 3項この規約の各締約国は 意見,国民的若しくは社会的出身,財産,出生又は他の地位等によるいかな る差別もなしにこの規約において認められる権利を尊重し及び確保することを約束する。 イ 3項この規約の各締約国は,次のことを約束する。 ⒝ 救済措置を求める者の権利が権限のある司法上,行政上若しくは立法上 の機関又は国の法制で定める他の権限のある機関によって決定されること を確保すること及び司法上の救済措置の可能性を発展させること。 3条この規約の締約国は,この規約に定めるすべての市民的及び政治的権利の享有について男女に同等の権利を確保することを約束する。 17条1項 何人も,その私生活,家族,住居若しくは通信に対して恣意的に若しくは不法に干渉され又は名誉及び信用を不法に攻撃されない。 23条1項家族は,社会の自然かつ基礎的な単位であり,社会及び国による保護を受ける権利を有する。 2項婚姻をすることができる年齢の男女が婚姻をしかつ家族を形成する権利は,認められる。 3項婚姻は,両当事者の自由かつ完全な合意なしには成立しない。 4項この規約の締約国は,婚姻中及び婚姻の解消の際に,婚姻に係る配偶者の権利及び責任の平等を確保するため,適当な措置をとる。その解消の場 合には,児童に対する必要な保護のため,措置がとられる。 4 女子差別撤廃条約1条この条約の適用上,「女子に対する差別」とは,性に基づく区別,排除又は制 限であって,政治的,経済的,社会的,文化的,市民的その他のいかなる分野においても,女子(婚姻をしているかいないかを問わない。)が男女の平等を基礎として人権及び基本的自由を認識し,享有し又は行使することを害し又は無効にする効果又は目的を有するものをいう。 かなる分野においても,女子(婚姻をしているかいないかを問わない。)が男女の平等を基礎として人権及び基本的自由を認識し,享有し又は行使することを害し又は無効にする効果又は目的を有するものをいう。 2条 締約国は,女子に対するあらゆる形態の差別を非難し,女子に対する差別を 撤廃する政策をすべての適当な手段により,かつ,遅滞なく追求することに合意し,及びこのため次のことを約束する。 ⒡ 女子に対する差別となる既存の法律,規則,慣習及び慣行を修正し又は廃止するためのすべての適当な措置(立法を含む。)をとること。 ⑶ 16条1項 締約国は,婚姻及び家族関係に係るすべての事項について女子に対する差別を撤廃するためのすべての適当な措置をとるものとし,特に,男女の平等を基礎として次のことを確保する。 ⒝ 自由に配偶者を選択し及び自由かつ完全な合意のみにより婚姻をする同一の権利 ⒢ 夫及び妻の同一の個人的権利(姓及び職業を選択する権利を含む。)以上

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る