- 1 - 主文 1 差戻し前の平成10年(行ウ)第4号の一審原告らの控訴をいずれも棄却する。 2(1) 差戻し前の平成11年(行ウ)第1号の一審被告らの控訴に基づき,原判決中,同被告らの敗訴部分を取り消す。 (2) 前項の取消しに係る差戻し前の平成11年(行ウ)第1号の一審原告らの請求をいずれも棄却する。 (3) 差戻し前の平成11年(行ウ)第1号の一審原告らの控訴をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,第1ないし第3審(差戻し後のそれを含む)を通じて,すべて一審原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 一審原告ら(1) 差戻し前の平成10年(行ウ)第4号事件ア原判決を取り消す。 イ一審被告Aは,佐賀県に対し,2億2412万4000円及びこれに対する平成10年9月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 ウ一審被告知事が,県の平成7年度の複写機使用料のうち,実際には複写をしていないのに虚偽に使用したとして,架空水増し複写機使用料金2億2412万4000円を県が複写機リース会社に違法支出したことを知りながら,上記違法支出について,複写機リース会社に対する不当利得返還請求権及び上記違法支出について違法に監督権限を行使しなかった一審被告Aに対する損害賠償請求権の行使を怠っている事実が違法であることを確認する。 - 2 -エ訴訟費用は,第1,2審とも一審被告らの負担とする。 (2) 差戻し前の平成11年(行ウ)第1号事件ア原判決を次のとおり変更する。 イ一審被告Aは,佐賀県に対し,4億2021万2000円及びこれに対する平成11年1月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 ウ一審被告知事が,県の平成7年度 おり変更する。 イ一審被告Aは,佐賀県に対し,4億2021万2000円及びこれに対する平成11年1月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 ウ一審被告知事が,県の平成7年度を除く平成5年度から平成9年度までの複写機使用料のうち,実際には複写をしていないのに虚偽に使用したとして,架空水増し複写機使用料金4億2021万2000円を県が複写機リース会社に違法支出したことを知りながら,上記違法支出について,複写機リース会社に対する不当利得返還請求権及び上記違法支出について違法に監督権限を行使しなかった一審被告Aに対する損害賠償請求権の行使を怠っている事実が違法であることを確認する。 エ訴訟費用は,第1,2審とも一審被告らの負担とする。 2 一審被告ら(1) 原判決中,一審被告ら敗訴部分を取り消す。 (2) 一審原告らの請求を棄却する。 (3) 訴訟費用は第1,2審とも一審原告らの負担とする。 第2 事案の概要(略称は原判決のものを用いる。) 1 本件は,県の住民である一審原告らが,県の平成5年度から平成9年度までの複写機リース会社に対する複写機使用料に係る支出の一部6億4433万6000円が複写機使用料名下に水増しされた違法な支出であり,これにより県が損害を被ったとして,当時県知事であった一審被告Aに対し,法242条の2第1項4号に基づき,県に代位して損害賠償を求めるとともに,一審被告知事に対し,法242条の2第1項3号に基づき,上記複写機リース会社に対する不当利得返還請求権及び一審被告Aに対する損害賠償請求権の行使を怠る事 - 3 -実の違法確認を求めた住民訴訟の事案である。 上記損害賠償請求並びに不当利得返還請求権及び損害賠償請求権の行使を怠る事実の違法確認請求のうち,平成7年度分(2億2412万4 を怠る事 - 3 -実の違法確認を求めた住民訴訟の事案である。 上記損害賠償請求並びに不当利得返還請求権及び損害賠償請求権の行使を怠る事実の違法確認請求のうち,平成7年度分(2億2412万4000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成10年9月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求めたのが4号事件であり,平成7年度分を除く平成5年度から同9年度分まで(4億2021万2000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成11年1月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求めたのが1号事件である。 差戻し前の第1審は,本件訴えの前提となる住民監査請求が,監査請求の対象の特定を欠くものであり,監査請求期間も徒過し,期間徒過について正当な理由は認められないとしていずれも訴えを却下し(佐賀地方裁判所平成10年(行ウ)第4号,同平成11年(行ウ)第1号),差戻し前の控訴審は,上記住民監査請求が請求の対象の特定を欠いているとして,いずれの控訴も棄却した(福岡高等裁判所平成11年(行コ)第42号,同平成11年(行コ)第43号)が,上告審は,上記住民監査請求は請求の対象の特定に欠けるところはないとして上記控訴審判決をいずれも破棄し,本件監査請求の期間徒過について法242条2項ただし書にいう正当な理由があるのかどうか更に審理を尽くさせるために,福岡高等裁判所に差し戻した(最高裁判所平成12年(行ヒ)第292号,同平成13年(行ヒ)第66号)。 差戻審は,本件監査請求は,期間徒過について法242条2項ただし書の正当な理由があり,本件各訴えは適法であるとして,差戻し前の第1審判決をいずれも取り消し,佐賀地方裁判所に差し戻し(福岡高等裁判所平成16年(行コ)第36号,同第37号 いて法242条2項ただし書の正当な理由があり,本件各訴えは適法であるとして,差戻し前の第1審判決をいずれも取り消し,佐賀地方裁判所に差し戻し(福岡高等裁判所平成16年(行コ)第36号,同第37号),同判決は確定した。 差戻し後の原審は,1号事件については一審原告らの請求をいずれも棄却し,4号事件については,その一部である4427万6400円及びこれに対する - 4 -訴状送達の日の翌日である平成11年1月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で一審原告らの請求を認容したので,一審原告ら及び一審被告らが,各敗訴部分について控訴した。 2 争いのない事実等並びに争点及びこれに関する当事者の主張(1) 争いのない事実等並びに争点及びこれに対する当事者の主張は,後記(2)で原判決を補正し,同3で当審における当事者の補足的主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の第2の2及び3記載のとおりであるから,これを引用する。 (2)ア 7頁12行目の「支払命令」を「支出命令」と改める。 イ 14頁14行目の「通知」を「通達(以下「平成7年通達」という。)」と,同15行目の「同通知」を「同通達」といずれも改める。 ウ 15頁9行目末尾に改行の上,「平成8年12月中旬頃までには,旅費,食糧費等の不適正な執行が問題になっているとして再び自治事務次官通達が発せられ,平成18年12月末までには,一審被告Aのもとには,「預け」を含む食糧費の不正の報告がされているものと見られる。」を加える。 エ 17頁12行目の「そして,」の次に,「上記判決が長の帰責事由としているものの内容は,上司の下部職員に対する一般的な選任監督責任ではなく,本来自己の権限に属する当該財務会計上の行為を補助職員が専決する際の個別具 の「そして,」の次に,「上記判決が長の帰責事由としているものの内容は,上司の下部職員に対する一般的な選任監督責任ではなく,本来自己の権限に属する当該財務会計上の行為を補助職員が専決する際の個別具体的な指揮監督の懈怠であり,したがって,」と改める。 オ 17頁13行目の「認められ,」を「認められると解するべきである。 このことは,会社業務が高度に専門化され業務分担が行われている株式会社においては,取締役は,取締役会に上程されていない事項については,特に疑われる事情がない限り,他の取締役又は従業員がその担当業務を忠実・適正に執行していると信頼することができ(信頼の原則),この場合の取締役の責任に関しては,権限分配が合理的であり,権限の適切な行使 - 5 -を確保する監視システムの運用に配慮して適宜報告を受けていれば,下位の者の法令違反行為や不正措置を知り,又は具体的にこれを疑うべき事情を認識した場合を除き,責任を負うことはないとされているのと同様であり,」と改める。 3 当審における当事者の補足的主張(一審原告ら)(1) 一審被告Aの責任判断基準についてア最高裁判所平成3年12月20日第二小法廷判決(民集45巻9号1455頁)は,補助職員の責任をそのまま長の責任とする考え方を採らず,長について独自に故意・過失責任がある場合に責任を認めるという見解を採用したものと解するべきであるが,これは長の責任を軽減する趣旨ではなく,長の責任を監督責任と捉え,故意・過失責任を採用したにすぎないと理解すべきであり,長の指揮監督義務違反を考える場合,あえて軽過失を除外すべき根拠はない。とりわけ本件公金支出は,全庁的に長期間にわたって慣習的に構造的原因をもってされたものであり,軽過失の判断が問題となる場合ではない。 知事は,自治体の長とし ,あえて軽過失を除外すべき根拠はない。とりわけ本件公金支出は,全庁的に長期間にわたって慣習的に構造的原因をもってされたものであり,軽過失の判断が問題となる場合ではない。 知事は,自治体の長として,県政全体を指揮監督し,違法行為があればこれを是正する職責があり,違法行為がされていることについて,個別具体的な部署や方法の認識がない場合でも,違法行為がされているという合理的疑いがある場合,違法行為の有無を調査し,これを是正する義務を負っており,これに違反した場合には指揮監督義務の懈怠があるというべきであり,その場合の予見可能性については,適切に指揮監督権限を行使することが通常求められる程度の予見可能性が必要であり,かつそれで足りる。 特に,本件においては,複写機使用料以外に食糧費やその他を巡る架空支出が全国的に行われていることが報道され,市民オンブズマンの指摘も - 6 -あったのであるから,既に発覚している以外にも,それが構造的要因を有している限り,その要因の範囲で何らかの違法行為がされていることを疑うのが通常である。 イ一審被告らは,信頼の原則の適用を主張するが,営利企業として,個々の部門での専門的・機動的な判断が要求される会社と,ある程度の機動性を犠牲にしても慎重な判断が求められる組織においては,おのずから監督者の監督義務も異なり,信頼の原則を適用する前提が異なる。 仮に,これを適用するとしても,信頼の原則適用の前提として,内部統制システムの構築など,従業員を信頼してもよい体制を整備・確立しておくことが不可欠であるが,平成5年から平成7年ころまでの県庁においては,食糧費などの需用費について不正が横行しており,到底コンプライアンス体制が確立されていたとはいえない。 (2) 一審被告Aが,複写機使用料の不正支出を知った時 から平成7年ころまでの県庁においては,食糧費などの需用費について不正が横行しており,到底コンプライアンス体制が確立されていたとはいえない。 (2) 一審被告Aが,複写機使用料の不正支出を知った時期についてア上記引用に係る原判決の「事実及び理由」欄の第2の3(2)[原告ら](ただし,補正後のもの。以下同じ。)に述べた事情によれば,一審被告Aは,遅くとも平成4年度までには本件公金支出について,違法支出の存在を知っていたか,少なくとも知り得たことは明らかである。 イそうでないとしても,遅くとも①平成7年8月17日(第1次的予備的主張),②平成7年12月末(第2次的予備的主張),③平成8年12月19日(第3次的予備的主張)までには,以下の事情によれば,一審被告Aは違法支出を知り得たものである。 (ア) 平成7年8月17日(第1次的予備的主張)全国の様々な地方公共団体において,平成7年ころから,食糧費・旅費等の不適正な執行が問題となり,同年4月25日,全国市民オンブズマンは,全国一斉に各都道府県・政令指定都市の秘書課・財政課・東京事務所の平成5年度分の食糧費に関する情報公開請求を行い,同年7月 - 7 -29日,全国一斉公開請求の集計結果を発表したことで,この問題が全国的に問題視されるようになった。 宮城県では,平成7年8月10日,平成5年の財政課の食糧費支出の調査結果を発表したが,その内容は,不正経理は日常化し,カラ伝票の操作を日常的に県職員が行っていたというものであった。 このような動きを受けて,自治省(現総務省,以下,当時の名称により自治省という。)は,平成7年8月15日,各都道府県知事に対し,官官接待問題に関して,「自治体の行政運営と予算執行の適正化」を求める旨の平成7年通達を発出し,県では,同月17日,各部局に平 称により自治省という。)は,平成7年8月15日,各都道府県知事に対し,官官接待問題に関して,「自治体の行政運営と予算執行の適正化」を求める旨の平成7年通達を発出し,県では,同月17日,各部局に平成7年通達の周知徹底を指示した。 したがって,一審被告Aは,県知事として平成7年通達のいう点検を行う責務があり,この時点で原資の共通する需用費も含めて点検をすれば,ゼロ精算のための需用費の一つである複写機使用料についても,業者預け金と流用のあることが容易に判明していた。 (イ) 平成7年12月末(第2次的予備的主張)平成7年10月には,北海道石狩支庁職員のカラ出張疑惑が,同月中旬には,北海道監査事務局でのカラ出張疑惑が発覚し,同年12月16日には,会計検査院が,秋田県,茨城県,大阪府,島根県及び沖縄県の食糧費支出を検査し,内輪の飲食や架空の懇談疑惑が見付かった。不正疑いのある額が全体の6割以上にも上ることは,全国的構造的問題であることを明らかにしたものである。 よって,一審被告Aは,当然,ゼロ精算目的による業者預け金の不正,事務費全体の業者預け金等での流用不正を知り得たし,調査・点検に着手すれば,違法な水増し支出は阻止できたはずである。 (ウ) 平成8年12月19日(第3次的予備的主張)平成8年2月の北海道庁の調査により,道庁の裏金総額は約19億1 - 8 -000万円と発表され,その手口としては,カラ出張・カラ会議・カラ雇用・カラ会食・カラコピーなどであり,事務費支出の全般に及んでいることをうかがわせるものであるところ,カラコピーの手口は,業者に複写機の使用料を水増し請求させる手法であり,本件と同様である。そして,同年12月中旬頃までには,架空の出張旅費等不適正な公金支出がある都道府県は22に及び,同月19日には,旅費・食 手口は,業者に複写機の使用料を水増し請求させる手法であり,本件と同様である。そして,同年12月中旬頃までには,架空の出張旅費等不適正な公金支出がある都道府県は22に及び,同月19日には,旅費・食糧費等の不適正な執行が問題となっているとして,再び自治事務次官通達(以下「平成8年通達」という。)が発出された。また,平成8年12月末までには,一審被告Aのもとには「預け」を含む食糧費の不正の報告がされていたものと見られる。 よって,一審被告Aは,平成8年12月末には,複写機使用料を含めた「預け」の一掃の指示を出し,それ以外の複写機使用料の支出を阻止することができた。 ウ平成9年2月20日時点の一審被告Aの認識について仮に,上記各主張が認められないとしても,以下のとおり,一審被告Aは,遅くとも平成9年2月20日には,本件公金支出について具体的認識ないし認識可能性があり,具体的監督義務違反が認められる。 (ア) 全国的不正経理の判明a 食糧費の不正支出の発覚上記引用に係る原判決の「事実及び理由」欄の第2の3(2)[原告ら]エ(ア)aないしc,e,gの各事情に加え,平成8年11月13日には,島根県の東京事務所では,職員が14人しかいないにもかかわらず,平成6年7月25日だけで25件もの懇談会に職員が出席していたことが明らかとなり,カラ飲食による裏金作りの可能性が大きいことが判明し,徳島県では,平成8年11月23日,徳島県監査委員らが架空接待で飲食していたとして,裁判所が,監査委員事務局長らに - 9 -遅延損害金を支払うよう命じ,大阪府では,平成8年12月18日,50課において組織的に公金を流用して取引先の酒販売業者にこれを預け,職員の夜食などに使っていること及びその総額が約3000万円に上ることが判明した。 b カラ出 阪府では,平成8年12月18日,50課において組織的に公金を流用して取引先の酒販売業者にこれを預け,職員の夜食などに使っていること及びその総額が約3000万円に上ることが判明した。 b カラ出張による出張旅費についての不正の発覚三重県では,平成8年8月末までに,カラ出張による裏金作りが平成6年度と7年度の2年間で約10億円に上ることが同県の調査委員会の調査で判明し,福岡県では,平成8年12月18日までに,平成6年4月から平成8年9月までの2年半の県庁の旅費不正支出額が約54億円であり,帳簿どおりの適正出張は,知事部局でわずか2割であることが判明した。 その他,架空の出張旅費の不正等不適正な公金の支出がある旨の新聞記事による報道は,平成5年ころから平成8年12月中旬までの間に,宮城県,北海道など25の道府県に及んでおり,その中には部局ぐるみや,庁内の監査を行うべき監査委員事務局職員の架空出張旅費という不正支出もあり,全庁的で構造的・慣習的な違法支出をうかがわせるものであった。 c 食糧費とその他の費目の複合的不正の発覚平成7年10月には,北海道庁のほとんどの部局で不正支出が見付かり,「裏金」は,官官接待のみならず,同議会議員のパーティー券購入,香典,見舞金のほか職員同士の飲食のために作られ,費消されていたことが判明し,さらに,上記(2)イ(ウ)のとおり,平成8年2月の道庁の裏金作りの手口は,カラ出張・カラ会議・カラ雇用・カラ会食・カラコピーなど,事務費支出の全般に及び,カラコピーについては,業者に複写機の使用料を水増し請求させるという本件と同様の手法であった。 - 10 -そして,上記以外に,平成18年末ころまでに,食糧費と出張旅費の双方について架空の事実に基づく支出が発覚したのは,宮城県,秋田県,徳島県,三重 という本件と同様の手法であった。 - 10 -そして,上記以外に,平成18年末ころまでに,食糧費と出張旅費の双方について架空の事実に基づく支出が発覚したのは,宮城県,秋田県,徳島県,三重県,大阪府及び島根県などに及んでいるところ,これらから見られる各都道府県の経理処理などのやり方は基本的に同じであり,ある自治体で不正や操作が行われていれば,他の自治体にも問題があるはずであることを認識できるものであった。 (イ) 県の食糧費問題について県は,平成7年通達を受けて,平成7年8月17日,同通達の趣旨徹底を指示しており,一審被告Aは,当然,平成7年通達を知っていたものである。 県に対して市民オンブズマンがした情報公開請求について不開示としたことに対する異議申立てに関し,調査報告書(甲21,以下「平成9年報告書」という。)が作成されているところ,その2枚目によれば,対象となる3課すべてで不正処理が行われ,東京事務所で65パーセント,秘書課で81パーセント,財政課で91パーセントが実態と合わない支出がされており,中にはカラ懇談会があったことが判明するなど,不正が構造化・慣習化しており,自ら「全庁的」という言葉を使用しているとおり,全庁にはびこる手法であることが上記調査によってほぼ明らかになったというべきであり,このことは当然,一審被告Aにも報告されているはずである。 (ウ) 背景事情としてのゼロ精算上記引用に係る原判決「事実及び理由」欄の第2の3(2)[原告ら]イのとおり,一審被告Aは,県においていわゆるゼロ精算が行われていることを熟知し,実践してきたものである。 (エ) 架空複写機使用料による裏金作りカラコピーにより裏金を作る方法は,部局間で予算の多い課から少な - 11 -い課への予算の流用が行われ,事業年度末 を熟知し,実践してきたものである。 (エ) 架空複写機使用料による裏金作りカラコピーにより裏金を作る方法は,部局間で予算の多い課から少な - 11 -い課への予算の流用が行われ,事業年度末にその多くが処理されていたことにかんがみると,これがゼロ精算のために行われていたことは明らかである。 そして,この構造は,カラ出張,カラ懇談会など全国的に行われていた裏金作りと同じ構造であり,特にカラコピーによる裏金作りの手法は,県に特殊なものではなく,北海道庁でも行われており,当時,複写機業界では,地方自治体による架空複写機使用料請求による裏金作りが慣習ともなっており,裏金作りとして思い至らない特殊な手法ではなかった。 (オ) 異議申立ての棄却及び条例改正の真の意図と一審被告Aの認識県が,平成9年報告書のとおりに異議申立てを全面棄却し,県情報公開条例改正の対象から過去の文書を除外した真の理由が,過去の不正隠しにあったことは明らかである。 そのことは,平成9年報告書の2枚目に,公開した場合の弊害として,「全庁調査要求,全庁的な不適正の露見,職員による金銭返還,関係者処分,虚偽に出席者の名義に使われた国の職員の反発,国や県の職員に対する返還請求訴訟等」と具体的に記載し,「従って,当初以上の開示は困難であり,・・異議申立てを棄却し・・」とし,さらに「なお,過去のものについては開示できないが,将来に向けては条例等を改正することにより・・」などとの記載から,過去を隠すという最初からの結論があり,その中で条例を改正する意図が丸見えであり,県民が不正疑惑の部分を隠していることを批判し,市民オンブズマンも条例改正の対象に過去の文書を含めないことを批判していた中で,そのような対応をしたことは,真の意図が過去隠しであったことが明らかである。 そして の部分を隠していることを批判し,市民オンブズマンも条例改正の対象に過去の文書を含めないことを批判していた中で,そのような対応をしたことは,真の意図が過去隠しであったことが明らかである。 そして,異議申立ての棄却や条例改正については,いずれも県政の最高責任者である一審被告Aが決裁権限を有しており,上記のような真の意図を知らずに決裁するはずがない。 - 12 -(カ) 以上のとおり,一審被告Aは,県において,毎年度どの部署においてもゼロ精算がされていることは当然知っており,何らかの裏金手法がされないと完全な予算消化は困難であることは容易に想像ができることであり,さらに食糧費については,平成6年ころから社会問題化し,平成9年報告書の2枚目によれば,全庁的に不正処理として裏金作りがあったことを認識していたことが分かる。 そして,食糧費の不正支出はゼロ精算から発生しており,複写機使用料の不正処理と全く同じ構造である上,業者への預けは1年間で2億円を超える多額に上り,業者は2社だけであり,預け金の管理としてシステムを構築し,本社が把握する事業であり,全部局で同じシステムで行われていたことからすると,複写機使用料の不正処理は組織的に行われ,県側の元締めは部局長クラス以上の役職者でなければできるはずがない。 さらに,水増し複写機使用料の原資である事業費の流用は,以前は印刷局を通じてされていたことから見て,印刷局の縮小に伴い,遅くとも昭和55年ころから行われ,全庁にわたって行われていたことは明らかであり,約50年間県庁の職務についていた一審被告Aが,業者への預けという裏金の存在を知らないはずがない。 (3) 一審被告Aの調査・是正義務仮に,一審被告Aが公共事業費の事務費の支出に「預け」や流用を含む支出処理がされていることを知らなかっ が,業者への預けという裏金の存在を知らないはずがない。 (3) 一審被告Aの調査・是正義務仮に,一審被告Aが公共事業費の事務費の支出に「預け」や流用を含む支出処理がされていることを知らなかったとしても,官官接待が問題となった以降の他の道府県の不正支出問題の発覚や,県においても具体的な不正の疑いが指摘されていたこと,一審被告Aにおいてゼロ精算が背景にあることを熟知していたことからすると,一審被告Aは,事務費の支出先である需用費一般にまで広げて実態調査をし,是正措置を採る義務があったことは明らかである。 (4) 損害との因果関係について - 13 -平成15年の県庁全体の旅費及び食糧費・消耗品費等の需要費の調査自体,外部委員会という非常勤の委員を構成員とする委員会の調査という形式をとったものであるにもかかわらず,全部で10か月という短期間で一応の決着をつけ,食糧費だけであれば2か月で一応の発表ができるまでにしているのであり,首長の決意及び本気度により,当初から複写機使用料に絞込みができなくとも短期間でその不正処理の実態が判明することは可能であり,実際,平成9年2月3日に市民オンブズマンが平成7年11月の農林部林政課の複写機の使用枚数について指摘したところ,平成9年度の複写機使用料は,年間全体として水増し支出になっていない。 (5) 損害についてア上記のとおり,一審被告Aの責任は,平成5年度からの本件公金支出についても及び,平成5年度から平成9年度の公金支出額6億4433万6000円が損害である。 イ複写機リース会社から返還を受けた3億1670万1000円のうち2億6097万6000円は国に返還せざるを得なかったものであり,本来,県が県民のために適正な支出をしていれば返還する必要もなかったものであるから,国に返還 還を受けた3億1670万1000円のうち2億6097万6000円は国に返還せざるを得なかったものであり,本来,県が県民のために適正な支出をしていれば返還する必要もなかったものであるから,国に返還した2億6097万6000円については,損害として残存している。 仮に,国への返還金のうち水増し支出額の本体部分が損害でないとしても,違法行為がなければ,付加金については返還する必要がなかったのであるから,少なくとも付加金については損害である。 ウ遅延損害金の発生時期は,各翌年度の出納閉鎖日(5月31日)において違法な支出を返金しなかったので,出納閉鎖日の翌日である各翌年度6月1日から発生するものである。 (一審被告ら)(1) 一審被告Aの責任 - 14 -ア一審被告Aの食糧費問題についての認識平成7年通達を受けて,県においても,食糧費について適正執行に向けた対処がされたが,同通達は過去の食糧費支出の不正の有無を確認するものではなく,将来の支出についての改善を求めたものにすぎず,一審被告Aは,県において不正支出はないと認識しており,県としても同様であった。 平成7年通達を受けて,県においては,基準の変更等を行い,食糧費節減対策委員会や事務経費適正化推進委員会を設置するなどしたが,これらは過去の支出について不正があったか否かを調査するものではなく,以後の支出につき,その必要性を検討するなど適正化を期したものであり,その後,官官接待の廃止や県の対応により食糧費の支出額は大きく減少し,平成9年4月ころにはこれが問題視されることはなく,県において,平成8年度予算の出納整理期間の最終日である平成9年5月31日までに,食糧費問題について支出実態の網羅的な調査が行われることはなかった。 また,情報公開訴訟への対応に関し,過去の支 ,県において,平成8年度予算の出納整理期間の最終日である平成9年5月31日までに,食糧費問題について支出実態の網羅的な調査が行われることはなかった。 また,情報公開訴訟への対応に関し,過去の支出内容についての議論はなく,出席者・参集者名簿,請求書・領収書等いかなる情報を開示すべきかが議論されていたにすぎず,一審被告Aが食糧費不正支出の背景・原因を認識できたとはいえない。一審原告らは,一審被告Aが,あえて不正の隠蔽を指示したかのようにいうが,「知事はオープンにしてよいと言っているとのこと。理事確認」(甲21の5枚目)との記載にあるように,一審被告Aはむしろ情報開示に積極的姿勢を示していたのである。 平成9年報告書は,その作成時期,目的等不明であり,一審被告Aは見たことがない。同文書の存在は,平成16年に行われた食糧費に関する調査でこれが明らかになったものであるが,その体裁や内容等から, - 15 -平成9年5月31日までに作成されたものとはいえず,同日までの一審被告Aの認識の前提となるものではない。 以上によれば,一審被告Aは,平成9年5月31日までの間に,食糧費不正支出の背景・原因を認識し,または認識できる状態にあったとはいえない。 イ一審被告Aの複写機使用料の支払についての予見可能性(ア) 食糧費不正支出の原因食糧費問題の主な原因は官官接待であり,ゼロ精算ではない。 すなわち,平成7年通達を契機に,食糧費の支出自体が大きく減少しているが,平成7年から平成9年までの間,県においてはゼロ清算が抱える問題点については対策が講じられておらず,ゼロ精算を契機とした「預け」の発生を抑止することにより食糧費の支出額が減少したものではなく,当時,食糧費の支出自体が社会的に批判を浴び,いわゆる官官接待が,中央官庁側においても 講じられておらず,ゼロ精算を契機とした「預け」の発生を抑止することにより食糧費の支出額が減少したものではなく,当時,食糧費の支出自体が社会的に批判を浴び,いわゆる官官接待が,中央官庁側においても県側においても自粛されることとなったためである。 平成16年に行われた調査においても,食糧費問題の原因・背景として第一に官官接待の存在が指摘され,これに対する改善措置として平成7年通達がされて以後は支出額が大幅に減少したとの指摘があり,食糧費問題は,その根本原因が官官接待にあったことは明白である。 (イ) 食糧費支出の態様平成16年に行われた調査において,食糧費の不正支出とされたものの具体的態様の中で,店舗等への「預け」は存在するものの,全体の約0.6パーセント程度であり,県庁内部での事実上の流用も約0. 2パーセント程度にすぎず,積極的に飲食店・業者等に「預け」られ,裏金のように利用されていた実績は存在しない。 (ウ) 複写機使用料との相違 - 16 -複写機使用料のいわゆる不正支出は,各職員により各年度の予算の精算や県庁の各課間の予算の融通を目的に行われたものであり,担当職員は飽くまで県のために予算を工面・融通することを目的とし,県に損害を加えるとの認識や意図は全くなく,「預け」によるものが大きいのに対し,食糧費問題は官官接待の慣行がその主な原因であり,職員もやむを得ず必要悪としてその支払を実施していた側面があり,社会的に批判を受けたことで速やかに見直しが行われたものであり,「預け」の割合は僅かであって,食糧費問題に対する原因分析や対応がされたからといって,直ちに複写機使用料の不正支出の問題を把握できるという関係にはない。 (エ) 上記アのような一審被告Aの食糧費問題の認識を前提にすれば,一審被告Aが,複写機使用料問題を 対応がされたからといって,直ちに複写機使用料の不正支出の問題を把握できるという関係にはない。 (エ) 上記アのような一審被告Aの食糧費問題の認識を前提にすれば,一審被告Aが,複写機使用料問題を具体的に予見することは不可能であり,また,仮に一審被告Aが,食糧費の不正支出を知っていたとしても,上記(ア)ないし(ウ)によれば,それにより,需用費その他の一部にすぎない複写機使用料にも不正支出が存在することを具体的に認識することは不可能である。 ウ一審被告Aの不正調査義務についてそして,一審被告A自身には複写機使用料の不正支出への関与はなく,長が当該不正支出についての具体的認識・予見可能性を有していない場面において,長にそれ以上の不正調査義務を負わせた裁判例はない。 仮に,長に不正支出防止のための義務があるとしても,不正支出防止のための体制構築義務及びその体制の監視義務に尽き,それ以上に長自身が不正支出の具体的調査義務を負うことはない。 以上のとおり,一審被告Aには,複写機使用料の不正支出に関する具体的予見可能性及び長の不正調査義務の有無等の観点からも,責任があるとはいえない。 - 17 -(2) 損害との因果関係の不存在(予備的主張)仮に,一審被告Aが,平成9年2月20日ころまでに食糧費の不正支出を知り得,他の費目に対する調査に着手したとしても,遅くとも平成9年5月30日までに発生した平成8年度分の複写機使用料の不正支出を防ぐことは不可能であったといわざるを得ないから,仮に平成9年2月20日ころにおいて,一審被告Aに何らかの調査に着手すべき義務があるとしても,同日以降,同年5月30日までの不正支出により生じた損害との因果関係は認められない。 (3) 損害についてア平成10年にされた調査において,庁内の全課におけ 査に着手すべき義務があるとしても,同日以降,同年5月30日までの不正支出により生じた損害との因果関係は認められない。 (3) 損害についてア平成10年にされた調査において,庁内の全課における支出を精査した上で,損害がないことが確認されており,損害は全て補填されている。 また,私的流用や不適切な費目での支出は一切なく,預け金はいずれも複写機リース会社の複写機使用料の支払,紙代又は事務用品の代金に充てられ,少なくとも複写機使用料及び紙代については,正規の取引と同様の料金での取引であることが明白であり,さらに提供されたOA機器等の商品に関しても,証拠上確認できるものについては,一定の値引きがされており,正常取引の価格を上回ることの証明はされておらず,県に経済的観点からの損害が発生したとはいえず,仮に支払時に損害が生じていたとしても,その全額が複写機使用料の支払等により補填又は損益相殺により消滅したものである。 イ仮に,県における支出行為に違法性があり,それにより県に何らかの損害が生じたとしても,このような支出行為を実際に行ったのは委任を受けた当時の課長ないしその実施に当たった職員であり,また,これらの支出の適正については,県の組織内にある出納局や監査委員などによる監督が期待されていたものであり,一審被告Aの監督に過失があるとしても,その責任を全面的に同人にのみ課すことは過大であり,会計職員等の責任に - 18 -関する法243条の2第2項の職員への賠償額を責任割合について限定する趣旨を長に対する損害賠償請求においても準用すべきである。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記争いのない事実等並びに証拠(甲13の1,15の1ないし7,16,20,21,23,27ないし32,33の1,2,34ないし36,51,52,62 る。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記争いのない事実等並びに証拠(甲13の1,15の1ないし7,16,20,21,23,27ないし32,33の1,2,34ないし36,51,52,62ないし68(枝番号のあるものの全てを含む。),4号事件乙4の1,乙5,同乙25の3,同乙29の1ないし13,同乙35の1ないし5,1号事件乙5,乙10の1,同乙28の3,同乙32の1ないし13,同乙39の1ないし5,乙A35,36,41,55,67ないし86,差戻し後の原審における証人B,同C,同D,同E,同F,当審証人G,差戻し後の原審における一審被告A)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 一審被告Aの経歴・職務内容一審被告A(大正▲年▲月▲日生)は,昭和22年に佐賀県に就職して以来,県職員として勤務し,平成3年に知事に就任し,平成15年に退任するまで,知事時代を含め56年間県庁に勤務していたものであり,その経歴は別紙のとおりである。 (2) 需用費について県の財務規則(平成8年4月1日当時)によれば,需用費は,食糧費と食糧費以外の費用に分類され,その支出負担行為及びこれに伴う支出命令並びに物品の取得及び処分に伴う出納通知は部長,本庁等の各課の長及びかいの長に委任されており,食糧費については,30万円以上は部長,30万円未満は本庁等の各課の長あるいはかいの長,食糧費以外の費用については,課長が最終的な決裁権者とされている。 複写機使用料は,上記需用費のうち食糧費以外の費用に分類されるところ,これについては,上記のとおり,課長が最終的な決裁権者であるが,実質的 - 19 -には庶務係(責任者は庶務係長)が行っており,課長職を超える役職の者が通常の業務において需用費の支出に関わることはなく,知事についても, おり,課長が最終的な決裁権者であるが,実質的 - 19 -には庶務係(責任者は庶務係長)が行っており,課長職を超える役職の者が通常の業務において需用費の支出に関わることはなく,知事についても,同様に,通常の業務において需用費の支出に関わることはなかった。加えて,知事は,その通常の業務内容からして,庁内の備品の配備状況について十分に認識できるものではなかった。 (3) いわゆるゼロ精算について「ゼロ精算」とは,予算が基本的に単年度精算のため,これを使い切れずに余らせると,次年度の予算要求の際に厳しく査定されたりするため,予算を使い切ることである。 このようなゼロ精算の発想は,平成年代の初め頃までは,国家公務員,地方公務員を含め,公務員全体のいわば常識的な考え方であり,それほど罪悪感を持つことなく実行されていた。 とりわけ,公共事業においては,事業本体の事業費に対して,需用費として費消される「事務費」が個別の積み上げ方式で予算化されるのではなく,類型的に「事業費の●%」というように形式的に金額が決まるようにされていたため,農林部や土木部など公共事業の多い部署では予算に余剰が生じることが多く,ゼロ精算は,県庁においても以前から慣行的に行われていた。 (4) 本件公金支出についてア県庁においてコピー機が導入されたのは昭和51年ころのことであり,本件公金支出は,これが発覚した平成10年の時点から見て,少なくとも10数年前から慣行的に行われてきたものである。 その手法は,各課の庶務の担当者が,複写機リース会社の担当者に対し,水増し分を含む請求額を指示してその金額の請求書を出させ,それに応じた支出命令を起案し,所定の手続を経て支出するというものであった。そして,その目的は,予算のゼロ精算ということにあり,事務費が余った場合に, 含む請求額を指示してその金額の請求書を出させ,それに応じた支出命令を起案し,所定の手続を経て支出するというものであった。そして,その目的は,予算のゼロ精算ということにあり,事務費が余った場合に,複写機使用料を調整して(水増しして),複写機使用料として使い - 20 -切ったことにしていたものである。 イ本件公金支出は,平成9年9月頃,市民オンブズマンが複写機使用料の問題を指摘したことから,平成10年3月,一審被告Aが複写機使用料の実態調査を指示し,同年6月16日,県が同調査結果に基づき,県議会において報告したことから明らかになった。その後,上記調査結果は,同年9月付けの本件調査報告書にまとめられ,一審被告Aに提出されたが,それ以前に,複写機使用料の不正支出に関して,県の監督部署からの報告はなく,内部告発や監査請求もなかったし,マスコミからこれが取り上げられることもなかった。また,自治省から,具体的に複写機使用料の支出に関して通達等が出されることはなかった。 ウ本件調査報告書によれば,同報告書の「部局」の区分けによる「総務部」,「企画局」,「福祉保健部・生活環境部」,「商工労働部」,「農林部」,「水産局」,「土木部」,「教育委員会」及び「各種委員会等」の全ての部局において本件公金支出は行われており,本件公金支出により生じた水増し分の使途については,「部」「課」を超えた流用も行われていた。 そして,本件公金支出額は,原判決の「事実及び理由」欄の第2の2(2)イ記載のとおりであり,平成5年度から平成9年度まで通算で6億4433万6000円,単年度では,最も多い平成7年度が2億2412万4000円であった。 なお,当時の県の予算の規模は5000億円くらいであった。 (5) 公金の不正支出を巡る状況(食糧費・旅費問題等)について 0円,単年度では,最も多い平成7年度が2億2412万4000円であった。 なお,当時の県の予算の規模は5000億円くらいであった。 (5) 公金の不正支出を巡る状況(食糧費・旅費問題等)についてア新聞報道等について(ア) 平成5年頃から,各新聞は,多くの普通地方公共団体において,架空の出張旅費の不正等不適正な公金の支出があるという記事を掲載するようになった。 (イ) そして,H市民オンブズマンは,平成5年6月,宮城県知事及び仙 - 21 -台市長の交際費について,平成6年9月以降,仙台市及び宮城県の食糧費について,各情報公開請求を行ったところ,その中でいわゆるカラ飲食の疑いが判明したため,これを契機として,平成7年4月25日,全国の市民オンブズマンが全国一斉に情報公開請求を行い,同年7月29日,その集計結果が発表され,食糧費等の問題が全国的に問題視されるようになった。 (ウ) 北海道の石狩支庁においては,平成7年10月頃,不正をチェックすべき監査委員事務局においてもカラ出張が行われていたことが発覚したほか,同年12月19日には,十勝支庁における平成6年度と平成7年度10月末までの裏金総額が約4100万円に上ることが判明し,マスコミにより,「出張申請をした上で実際には出張せず,浮いた旅費を裏金としてプールするカラ出張,会場借り上げ料として実際より多い額をホテルなどに支払い,残金をプールさせるカラ会議,業者にコピー機の使用料を水増し請求させるカラコピー。裏金の作り方はバラエティーに富んでいた。」などと報じられた。そして,その後の調査の結果,ほとんどの部局で不正支出が見付かり,平成6年4月から1年半で約10億8000万円に上り,これら裏金は道議会議員のパーティー券の購入,官官接待などのほか,約半分が職員同士の飲み食いに の調査の結果,ほとんどの部局で不正支出が見付かり,平成6年4月から1年半で約10億8000万円に上り,これら裏金は道議会議員のパーティー券の購入,官官接待などのほか,約半分が職員同士の飲み食いに充てられていたことが判明したなどとマスコミに報じられた。 (エ) 秋田県では,平成7年9月5日付けの新聞において,同県が食糧費問題に関連して平成5,6年度に実施された懇談会の請求書2000枚のについて調査した結果,改ざんされたものが約6割に上るとする記事が掲載された。 (オ) 平成7年12月16日には,会計検査院が,秋田県,茨城県,大阪府,島根県及び沖縄県の食糧費支出を検査したところ,「農水」,「建設」及び「運輸」の3省の補助金を基にした食糧費計約7億1300万 - 22 -円のうち,4億6100万円につき,その接待相手や使途がはっきりしないとの指摘がされたことが報じられた。 (カ) 三重県については,平成8年5月19日,阪神淡路大震災のあった平成7年1月17日に監査委員が神戸を経由して新幹線で佐賀県に出張したことになっているなど架空の旅費支出の疑いがあるとしてI市民オンブズマンが知事と監査委員に対して公開質問状を提出する旨発表した際,監査委員事務局長が「単なる記載ミス」にすぎないと発言したこと,平成8年5月30日には,上記出張先の佐賀県に対する調査で架空の旅費支出であることが濃厚になったとの指摘がされたことに対して,監査委員事務局長が不正がないものと信じている旨発言したことがそれぞれ報じられた。そして,同年9月1日には,三重県知事が命じた全庁的な調査の結果,三重県職員の旅費の不正支出等により捻出された裏金の総額が約10億円に上り,三重県知事が,裏金作りが全庁的に組織ぐるみで行われていた事実を認めたことが報じられた。 (キ) 内 全庁的な調査の結果,三重県職員の旅費の不正支出等により捻出された裏金の総額が約10億円に上り,三重県知事が,裏金作りが全庁的に組織ぐるみで行われていた事実を認めたことが報じられた。 (キ) 内閣総理大臣の諮問機関である地方制度調査会の専門小委員会は,平成8年4月16日,地方自治体への「外部監査制度」の導入などの提言を盛り込んだ報告書を同調査会総会に提出したが,同報告書は,架空の出張旅費の支出等自治体の公費の不正支出への批判を背景に,「身内に甘い」と指摘される現行監査制度の改善と外部監査の導入により行政チェック機能を強化するよう求めているところ,このことが,同月17日の新聞紙上で報じられた。 (ク) 市民オンブズマン全国連絡会議は,平成8年7月27日,全国37都道府県の監査委員や監査委員事務局職員らによる平成6年の管外出張を総点検したところ,27都道府県において,架空の出張旅費の支出や旅費を水増しして請求したケースが318件あった旨公表した。 (ケ) 群馬県については,平成8年11月12日,同年7月に全国市民オ - 23 -ンブズマン連絡会議から全庁的な調査を行うよう申入れがあったのを機に,関係係長らで構成する専門の検討委員会を設置し,平成6年度に執行された約60万件,総額約32億円の旅費について旅行命令と復命書,会議資料等を照合して調査したところ,3億6700万円の旅費の不正支出が判明した旨報じられた。 (コ) 島根県については,平成8年11月13日,平成6年度の同県東京事務所の食糧費に,カラ懇談会による不正支出の疑いがある旨,同県の市民オンブズマンが発表した旨報じられた。 (サ) 徳島県については,平成8年11月23日,県の監査委員らが架空接待で飲食していたとして,当時の監査委員らに対し,飲食代金についての遅延損害金 県の市民オンブズマンが発表した旨報じられた。 (サ) 徳島県については,平成8年11月23日,県の監査委員らが架空接待で飲食していたとして,当時の監査委員らに対し,飲食代金についての遅延損害金の支払を命じる判決が言い渡された。 (シ) 大阪府については,平成8年12月18日,職員が組織的に公金を流用して酒類販売業者に預け,職員の夜食の費用などに使用していたことが市民オンブズマンの指摘で分かったことなどが報じられた。 (ス) 福岡県では,平成8年12月19日,旅費不正支出総額が約54億円に上り(後に約58億円と判明),帳簿どおりの適正出張は知事部局本庁で僅か2割であることが報じられたほか,架空の出張旅費の不正等不適正な公金の支出がある旨の新聞記事は,平成8年12月中旬ころまでには,宮城県,北海道,秋田県,徳島県,鹿児島県,愛知県,三重県,福岡県,群馬県,東京都,新潟県,岡山県,高知県,福島県,青森県,山形県,埼玉県,長野県,石川県,大阪府,和歌山県,静岡県などに及んでおり,部局ぐるみで旅費の不正支出が常態化していたという記事や不正をチェックすべき監査委員が架空の旅費支出等の不正な公金の支出をしていたという記事も相当数あった。 イ国の対応について(ア) 上記のような情勢の中で,平成7年8月15日,自治省は,各都道 - 24 -府県知事に対し,「地方公共団体の行政運営及び予算執行の適正化について」と題し,「とりわけ,食糧費については,経費の性質上,特に適正な執行が要請されるものであることから,その執行に厳正を期されたい。」などとした平成7年通達を発出した。 (イ) さらに,自治事務次官から各都道府県知事及び各政令指定都市市長に対し,平成8年12月19日付けで,「最近,地方公共団体の一部において,旅費,食糧費等の不適正な執 た平成7年通達を発出した。 (イ) さらに,自治事務次官から各都道府県知事及び各政令指定都市市長に対し,平成8年12月19日付けで,「最近,地方公共団体の一部において,旅費,食糧費等の不適正な執行が問題となっていることについては,国民の間に地方公務員への不信感を惹起させ,ひいては行政に対する信頼を損ないかねないものであるので,各地方公共団体においては,公務員倫理の確立と厳正なる予算の執行を図られるよう特に留意されたい」とされた平成8年通達が出された。 (6) 県の対応についてア県は,平成7年8月17日,平成7年通達の趣旨徹底を指示し,同年9月20日,総務部長名で,各部局長等に対し,「食糧費の適正な執行について(通知)」,「財務事務に関する取扱要領について(通知)の一部改正について(通知)」及び「食糧費の支出について(通知)」と各題する各通知を発し,食糧費の適正執行への注意喚起を行うとともに,会議における昼食の提供をしないこととしたり,支出基準を改定し,職位による接待区分を廃止し,懇談会等における県側の出席者を原則として相手方と同数以下に制限するなどし,同年10月30日,総務部長を会長とする「食糧費節減対策委員会」を設置し,同年11月1日,「食糧費の執行について(通知)」と題する通知を発し,会食を伴う食糧費の施行について,当分の間,各部局の長が決裁することとした。 その後,カラ出張等の問題がいろいろと報道されるようになり,県は,平成8年3月7日,県副知事名で「旅費の適正な執行について(通知)」と題する通知を発し,同年10月7日には,食糧費だけでなく旅費をも検 - 25 -討の対象とする「事務経費適正化推進委員会」を設置し,食糧費節減対策委員会を廃止した。 これら対策の詳細は,原判決添付別紙「食糧費等適正執行に関する対策 食糧費だけでなく旅費をも検 - 25 -討の対象とする「事務経費適正化推進委員会」を設置し,食糧費節減対策委員会を廃止した。 これら対策の詳細は,原判決添付別紙「食糧費等適正執行に関する対策」のとおりであり,その結果,食糧費の支出額は,平成9年度には平成5年度の約6分の1にまで減少した。 もっとも,これらの経緯の中で,平成16年に県が調査を行うまでは,食糧費について全庁的な実態調査が行われることはなかった。 イまた,上記1(5)ア(イ)の全国一斉の情報公開請求は県においても行われたが,その請求及びその後の経緯は,以下のとおりである。 (ア) 平成7年4月25日東京事務所・秘書課・財政課分開示請求(イ) 平成7年5月24日東京事務所・秘書課・財政課分部分開示決定(ウ) 平成7年7月24日東京事務所・秘書課・財政課分異議申立て(エ) 平成8年10月15日監理課分開示請求(オ) 平成8年11月13日監理課分部分開示決定(カ) 平成8年12月16日監理課分異議申立て(キ) 平成9年2月20日異議申立て棄却決定(ク) 平成9年3月9日地方裁判所提訴(ケ) 平成10年3月27日地方裁判所判決(コ) 平成10年4月9日高等裁判所への控訴(サ) 平成11年6月4日高等裁判所判決(シ) 平成11年6月18日最高裁判所への上告(ス) 平成16年4月8日最高裁判所判決ウ県の食糧費等の問題については,結局,平成16年6月10日に設置された食糧費等調査委員会が調査を行い(以下「平成16年調査」という。),その結果,食糧費について支出負担行為と実態が異なるなど不適正,不適切な事務処理が数多く行われていたことが判明した。 - 26 -上記委員会が作成した平成17年3月 成16年調査」という。),その結果,食糧費について支出負担行為と実態が異なるなど不適正,不適切な事務処理が数多く行われていたことが判明した。 - 26 -上記委員会が作成した平成17年3月4日付けの食糧費等調査結果報告書(甲20,以下「平成16年報告書」という。)には,食糧費に関する「預け」について,「単年度予算主義であるため,国等からの補助金はもとより,当該年度の予算は年度内に使い切ることが慣例化していた。このため,架空の支出負担行為に基づきいわゆる店舗等への「預け」(予算を使い切るため,将来の利用を見越して先に支払うこと。)が行われていた。」と記載されているほか,職員間の飲食,二次会,ツケの解消,人数の水増し等及び請求内容の修正依頼,県庁内部での事実上の流用等が記載されている。 なお,平成16年調査では消耗品費の調査も行われたが,平成16年報告書には,消耗品費について,年度末に予算消化及び事業費精算のための大量購入が行われていた旨記載されているほか,食糧費・旅費・消耗品費等の不正及び不適切な事務処理の原因・背景として,官官接待が恒常化していたことや年度別予算の使い切りにある旨などが挙げられている。 エまた,平成16年報告書には,平成9年に県の総務学事課が食糧費の支出について内部で照会し,集計を行った旨記載されており,同照会・集計によると思われる平成9年報告書は,その1枚目が平成9年11月18日付け「平成5年度食糧費に関する調書の記入要領」と題する書面であり,2枚目の「食糧費関係公文書(東京事務所,秘書課,財政課分)を開示することの問題点について」で始まる書面には,要旨,次のような記載がある。 すなわち,「実態と異なる,事実どおりでない支出」「本来,公費で支出することに問題がある,職員間の飲食費用等」についての各件 ることの問題点について」で始まる書面には,要旨,次のような記載がある。 すなわち,「実態と異なる,事実どおりでない支出」「本来,公費で支出することに問題がある,職員間の飲食費用等」についての各件数を挙げた上で,「開示することにより,このような実態が公となる可能性がある。」とし,実態についての具体例も挙げられている。さらに上記に続けて,「これらの事実の一部が公となった場合でも,他県の例をみても,県民やマス - 27 -コミ等から,県への批判とともに,全庁的に事実究明のための調査等を実施することを求められる可能性が高い。この調査の結果,全庁的に適正でないものの存在が明らかとなり,職員による金銭の返還,関係者処分ということになるおそれがある。」と指摘し,全面開示した宮城県で生じた問題点も考慮の上,「従って,当初以上の開示は困難であり,いずれにしても,全面開示する以外は,オンブズマンからの訴訟提起は避けられないことから,今回は,異議申し立てを棄却し,訴訟の場において県の立場を主張していきたい。」「なお,過去のものについては開示できないが,将来に向けては条例等を改正することにより,情報公開への要請に応えていくこととしたい。」と結ばれている。 (7) 本件公金支出の発覚後の事情ア一審被告Aは,記者会見において,本件公金支出問題に関し,「(予算を)持ったところが,持たないところにいくらか回しているというのは県が再建団体だったころだってあったのではないか」との認識を示した(なお,県が再建団体だったのは昭和30年から昭和38年までのことである。)。 イまた,当時の総務部長であったGは,マスコミに対し,本件公金支出問題に関し,「県の財政規模がぜい弱なため,公共事業をする部署が事務費予算の少ない部署を補って,一般財源の持ち出しを抑えたか )。 イまた,当時の総務部長であったGは,マスコミに対し,本件公金支出問題に関し,「県の財政規模がぜい弱なため,公共事業をする部署が事務費予算の少ない部署を補って,一般財源の持ち出しを抑えたかった」旨述べている。 ウなお,県は,本件公金支出問題に関して,県知事である一審被告Aの減給,三役らの給料の一部返上,幹部職員に対する文書訓告の各処分を行ったが,本件公金支出に関与した職員に対する処分等は行っていない。 エ本件については,市民オンブズマンの刑事告発を受け,佐賀地方検察庁が捜査したが,一審被告Aについては嫌疑なしとして不起訴処分に,また,本件公金支出に関与したとされる県職員についても不起訴処分(起訴猶予) - 28 -にそれぞれなっている。 2 本件公金支出の違法性(争点(1))について原判決の36頁18行目の「違法であり,」を「違法である。」と改め,同行目の「かかる違法」から20行目末尾までを削るほかは,原判決の「事実及び理由」欄の第3の2のとおりであるから,これを引用する。 3 一審被告Aの責任(争点(2))について(1) 上記1(2)のとおり,食糧費以外の需用費である複写機使用料の支出は,課長等に委任されていたものであるところ,財務会計上の行為を行う権限を補助機関である職員に委任した場合において,受任者が委任に係る当該財務会計上の行為を行ったときは,長は,受任者が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し,故意又は過失により受任者が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったときに限り,自らも財務会計上の違法行為を行ったものとして,普通地方公共団体に対し,上記違法行為により当該普通地方公共団体が被った損害につき賠償責任を負うものと解するのが相当である(最高裁判所平成5年2月16日 らも財務会計上の違法行為を行ったものとして,普通地方公共団体に対し,上記違法行為により当該普通地方公共団体が被った損害につき賠償責任を負うものと解するのが相当である(最高裁判所平成5年2月16日第三小法廷判決・民集47巻3号1687頁,専決処理の場合につき,最高裁判所平成3年12月20日第二小法廷判決・民集45巻9号1455頁参照)。 そして,これを本件に即してみると,一審被告Aが,本件公金支出について認識していた場合,あるいは実際に認識しないまでも,本件公金支出が行われていると具体的に認識し得たにもかかわらず漫然とこれを放置していたような場合など,自ら当該財務会計上の行為を行ったと同視し得る程度の指揮監督義務の違反ないし怠りがある場合に限り,損害賠償責任を負うものと解するべきである。 そこで,このような観点から,一審被告Aの責任について検討する。 (2) 一審被告Aの認識についてア一審被告Aの本件公金支出についての認識 - 29 -一審原告らは,遅くとも平成4年度までには,一審被告Aが本件公金支出について知っていたか,少なくとも知り得た旨主張する。 確かに,上記1認定のとおり,本件公金支出は,遅くとも昭和年代の終わり頃から,ゼロ清算を目的として県庁において広く行われていたものであり,ゼロ精算自体,県庁においては慣行的に行われていたものであること,一審被告Aは県庁勤務が長く,ゼロ精算の慣行についても認識していたことのほか,当時,複写機業界においては,他の自治体との間でもコピー費の水増し請求が行われていたこと(差戻し前の原審における証人B等)など,一審原告らの主張に沿う事実も認められる。 しかしながら,本件公金支出は全庁的に行われていたとはいえ,実際には庶務課の担当者が起案し,係長が実質的に審査をした後,最終的には課 おける証人B等)など,一審原告らの主張に沿う事実も認められる。 しかしながら,本件公金支出は全庁的に行われていたとはいえ,実際には庶務課の担当者が起案し,係長が実質的に審査をした後,最終的には課長が決裁を行うというものであり,検察庁による捜査においても,本件公金支出について統括者の存在などは認められなかったのであり,課長職を超える役職の職員までをも加えた組織的なものであるとまでは認められず,一審被告Aは,県庁勤務が長いとはいえ,これまで需用費を扱う庶務の仕事や需用費の管理等をしたことはなく,県庁にコピー機が導入された昭和51年ころ以降は次長や総務部長,副知事あるいは知事の地位にあり,複写機使用料の決裁権者である課長の職にあったことはない。そして,本件公金支出の額も,全庁の予算が約5000億円の規模であることからすると多額ともいえず,本件公金支出は,市民オンブズマンにより平成9年9月に指摘を受けた一審被告Aの指示による調査の結果,平成10年6月ころ,その事実が明らかになったものの,それまでには県の内部からの問題の指摘や社会的批判等もなかったこと,知事の職務内容などに照らすと,少なくとも本件で請求されている本件公金支出の出納期限である平成9年5月31日以前に,一審被告Aが本件公金支出について認識していたと認めることはできない。 - 30 -また,上記1(7)の本件公金支出の発覚後の一審被告Aの発言は,必ずしも同人の本件公金支出の認識に直結するものではなく,当時の総務部長であったGの発言も一審被告Aの認識を裏付けるものではない上,本件公金支出について,直接の担当者らが処分されず,一審被告Aや三役が減給等の処分を受けたことも,直接の担当者らが私的私欲を図ったものではないことから,一審被告Aらが道義的責任を果たしたものと理解するこ 金支出について,直接の担当者らが処分されず,一審被告Aや三役が減給等の処分を受けたことも,直接の担当者らが私的私欲を図ったものではないことから,一審被告Aらが道義的責任を果たしたものと理解することができるのであり,上記事情はいずれも本件公金支出が県の組織的なものであり,したがって,一審被告Aが本件公金支出を認識していたことを裏付けるものではなく,他に一審被告Aが本件公金支出を認識していたと認めるに足りる証拠はない。 イ一審被告Aの食糧費の不正支出等についての認識(ア) 次に,一審原告らは,マスコミ等で旅費や食糧費等が問題となった経緯から,一審被告Aが食糧費等の不正について認識し又は認識することができ,更には本件公金支出についても認識し得た旨主張するので,一審被告Aの食糧費等の不正の認識について検討するのに,平成5年頃以降,旅費や食糧費等についての不正支出が新聞報道等により取り上げられるようになり,一審原告らがその各主張の根拠とする平成7年通達が出され,これを受けて,県においても同通達の趣旨を徹底し,「食糧費節減対策委員会」や「事務経費適正化推進委員会」を設置し,平成7年12月16日には会計検査院が食糧費の使途不明等を指摘した旨報じられたこと,更には平成8年通達が出されるなどしたことは,上記1認定のとおりである。 (イ) しかしながら,平成7年通達自体は,新聞報道を受けて食糧費の適正執行に努めるよう注意喚起を促したものにすぎず,食糧費について不正支出があることを前提としたものではなく,また,会計検査院の指摘や平成8年通達も,一部の地方公共団体において不正支出があり得ると - 31 -いうものであり,県において不正支出があることを指摘したものではない。 そして,当時の新聞報道等においては,食糧費等の不正支出の問題は, 地方公共団体において不正支出があり得ると - 31 -いうものであり,県において不正支出があることを指摘したものではない。 そして,当時の新聞報道等においては,食糧費等の不正支出の問題は,中央官庁の官僚等に対して飲食を伴う接待を行ういわゆる官官接待に費消されていることが主として批判されていたものであり,特にゼロ精算との関係が指摘されていたわけではなく,県においても,支出基準の改定や出席者数の制限などを行い,食糧費節減対策委員会や事務経費適正化推進委員会を設置するなどした結果,食糧費の支出が大幅に減少していたことから,それ以上に食糧費の実態調査などは行っておらず,実態調査は平成16年になって行われたにすぎないのであるから,この時点で一審被告Aが食糧費についての不正支出を認識していたとまで認めることはできない。 (ウ) この点,一審原告らは,一審被告Aが食糧費の不正について認識していた根拠として,上記平成9年報告書2枚目の「当初以上の開示は困難であり,・・異議申立てを棄却し・・」さらに「過去のものについては開示できないが,将来に向けては条例等を改正することにより,」などの記載やその後の条例改正の内容から,県の情報公開に関する条例改正の真の意図が過去の不正隠しにあり,そのことを異議申立ての棄却を決すべき知事である一審被告Aが知らないはずがないなどと主張する。 確かに,平成9年報告書2枚目については,その記載内容から,情報公開請求に対する異議申立てに対する棄却決定がされた平成9年2月20日以前の調査によって作成されたものであることがうかがわれるものの,平成9年報告書1枚目の調査依頼の日付は平成9年11月18日となっており,同2枚目の作成者や作成経緯,これが平成9年報告書に綴られた経緯等は全く不明である上,一審被告Aは,平成9年報 われるものの,平成9年報告書1枚目の調査依頼の日付は平成9年11月18日となっており,同2枚目の作成者や作成経緯,これが平成9年報告書に綴られた経緯等は全く不明である上,一審被告Aは,平成9年報告書自体を見たことはない旨供述している。 - 32 -加えて,平成9年報告書5枚目には,開示請求に対して省庁名を明らかにすることに関し「知事はオープンにしてよいと言っている」との記載があり,むしろ一審被告Aは情報公開に積極的であったことがうかがわれるのであって,一審被告Aが,一審原告らが主張するような過去隠しを意図したとまで認めることはできず,以上によれば,平成9年報告書2枚目を根拠に一審被告Aが食糧費の不正支出を認識していたとする一審原告らの上記主張は採用できず,他に一審被告Aが,平成9年5月31日までに食糧費の不正支出について認識していた認めるに足りる証拠はない。 ウ本件公金支出の認識可能性(ア) もっとも,上記のとおり,平成5年以降,旅費や食糧費の不正等についての新聞報道等がされ,平成7年通達や平成8年通達が出され,一部公共団体における食糧費の不正支出等が判明していた状況にあっては,一審被告Aは,食糧費についての不正支出を認識し得た可能性があることは否定できない。 そこで,一審被告Aに食糧費の不正支出の認識可能性があるとした場合,そのことから,更に本件公金支出についても認識し得たか否かについて検討する。 (イ) 一審原告らは,食糧費の不正支出の原因がいわゆるゼロ精算にあるとし,同じく需用費に含まれ,ゼロ精算を原因とする本件公金支出についても,一審被告Aにおいて,これを認識し得たなどと主張する。 確かに,平成16年報告書によれば,食糧費については,官官接待以外の費消も認められ,いわゆるゼロ精算も原因の一つであると指摘 金支出についても,一審被告Aにおいて,これを認識し得たなどと主張する。 確かに,平成16年報告書によれば,食糧費については,官官接待以外の費消も認められ,いわゆるゼロ精算も原因の一つであると指摘されている。しかしながら,それは本件公金支出後の平成16年調査によって判明したものであり,上記認定のとおり,本件公金支出がされた当時は,食糧費の不正支出については,いわゆる官官接待が主として問題と - 33 -され,批判されていたという経緯があり,さらに,平成7年通達を契機として,参加人数や基準の改訂を行うことにより食糧費の支出が大幅に減少し,県においては,特に食糧費について実態調査を行うことがなかったことなどに照らせば,少なくとも,その時点においては,食糧費問題は官官接待に関する問題であると認識したとしても,あながち不合理とはいえない。 (ウ) また,食糧費と複写機使用料は,予算の費目上同じく需用費に属するとはいえ,需用費は,食糧費と食糧費以外の費用に分けられ,その決裁権者についても相違がある上,食糧費は書類だけで出納局の審査を受けて支払がされるのに対し,それ以外の需用費においては,必ず納品確認や納品検査が行われるなど支出の方法が異なり,複写機使用料については,カウンターでその使用枚数が表示され,これによりその金額が算出される仕組みになっている。したがって,複写機使用料については,通常,不正があるとは考えにくいのに対し,食糧費については,書類だけで支出がされることから,架空の支出がされやすく,その点,旅費の不正支出と同時期に食糧費についての不正支出が問題とされたことからもうかがわれるように,むしろ費目を異にする旅費と類似するものと考えられ,また,交際費との類似性も指摘されているところ(乙A110)である。 また,一審原告らは, の不正支出が問題とされたことからもうかがわれるように,むしろ費目を異にする旅費と類似するものと考えられ,また,交際費との類似性も指摘されているところ(乙A110)である。 また,一審原告らは,同じく需用費に属する消耗品費についても,「預け」等の不正が行われていたことを指摘するが,消耗品費についての「預け」などの実態は,食糧費の場合と同じく平成16年調査において明らかになったものである上,消耗品費の場合には,実際に現物が納品されたり,あるいは業者に現品を預け,それを他課に調達したりしていた(甲20)というのであり,必ずしも本件公金支出の場合と状況を同じくするものとはいえない。 - 34 -そして,上記1(5)ア(ウ)のとおり,北海道庁における裏金について,カラコピーの存在が指摘されているものの,様々な裏金作りの一場合として新聞記事に触れられていたにすぎず,これにより直ちに一審被告Aが本件公金支出を認識し得たものともいえない。 (エ) 以上のとおり,平成5年以降,旅費や食糧費の不正等についての報道がされていたものの,少なくとも本件公金支出が行われていた当時は,食糧費については官官接待に費消されたことが主として批判され,ゼロ精算の問題は指摘されていなかったのであり,実際,官官接待の自粛等に伴い食費費の支出が大幅に減少していたことからすると,仮に一審被告Aが,食糧費について不正支出があると認識し得たとしても,そのことから,食糧費以外にも不正支出があるのではないかという抽象的な認識を超えて,直ちに,支出の態様や原因が異なり,需用費のごく一部にすぎない複写機使用料について,不正支出があると具体的に認識し得たと見ることはできない。 (3) 以上によれば,一審被告Aには,本件公金支出について,上記のとおり,抽象的な認識可能性しかなか 部にすぎない複写機使用料について,不正支出があると具体的に認識し得たと見ることはできない。 (3) 以上によれば,一審被告Aには,本件公金支出について,上記のとおり,抽象的な認識可能性しかなかったものであり,このような場合に本件公金支出を阻止しなかったとしても,一審被告Aが,自ら財務会計上の非違行為を行ったと同視し得る指揮監督義務の違反ないし怠りがあったとは認められないといわざるを得ない。 また,一審原告らは,官官接待が問題となり他の道府県での不正支出問題が発覚したなどの状況からは,仮に一審被告Aが公共事業費の事務費の支出に不正があると認識していなかったとしても,需用費一般について実態調査を行い是正措置を採る義務があった旨主張するが,上記のとおり,一審被告Aには,食糧費について,抽象的に不正があり得るとの予見可能性があったことは否定できないものの,これについては,上記認定のとおり,平成7年通達以後,県においても食糧費節減対策委員会や事務経費適正化推進委員会 - 35 -等を設置し,支出の抑制や適正化を図り,それなりの成果を挙げているのであって,食糧費や複写機使用料の不正支出についての具体的認識はなかった段階においては,一審被告Aが採るべき不正支出防止の措置としては上記のような措置で足りるといわざるを得ず,それ以上に需用費一般についての実態調査や是正措置を採るべき義務までがあるということはできないというべきである。 4 一審被告知事の財産管理を怠る事実の有無(争点(5)について)について(1) 上記3のとおり,一審被告Aについて,自ら財務会計上の非違行為を行ったと同視し得る指揮監督義務の違反ないし怠りは認められないから,損害賠償責任は認められず,一審被告知事が一審被告Aに対する損害賠償請求権を行使しないことは違法ではない 自ら財務会計上の非違行為を行ったと同視し得る指揮監督義務の違反ないし怠りは認められないから,損害賠償責任は認められず,一審被告知事が一審被告Aに対する損害賠償請求権を行使しないことは違法ではないから,一審被告知事に対して,一審被告Aに対する損害賠償請求権の行使を怠る事実が違法であることの確認を求める請求は理由がない。 (2) 次に,複写機リース会社に対する不当利得返還請求権を行使しないことについての違法確認を求める部分について検討するのに,上記引用に係る原判決の「事実及び理由」欄の第2の2(3)のとおり,本件複写機リース会社は,本件公金支出に係る複写機使用料を返還しており,それ以前に支出された金員についても,一審被告らは,全て事務用品の購入代金に充てられた旨主張し,同主張に沿う証拠(乙4の1,差戻し後の原審における証人J,同B,同C,同D,同E)も存し,他に本件複写機リース会社について,不当に利得が生じていると認めるに足りる証拠はない。 したがって,県が本件複写機リース会社に対して不当利得返還請求権を有すると認めることはできず,一審被告知事が複写機リース会社に対する不当利得返還請求権を行使しないことは違法ではないから,一審被告知事に対して,複写機リース会社に対する不当利得返還請求権の行使を怠る事実が違法であることの確認を求める請求は理由がない。 - 36 -(3) なお,怠る事実の違法確認の対象とされた請求権の存否は,そのような請求権が存するか否かの本案の問題であり,これが認められないことから確認の訴えの利益自体が否定されるものではない。また,一審原告らが,一審被告Aに対して上記損害賠償を請求するとともに,一審被告知事に対して同損害賠償請求権の行使を怠る事実の違法確認を求めても,後者の訴えの利益が否定されるものではない( はない。また,一審原告らが,一審被告Aに対して上記損害賠償を請求するとともに,一審被告知事に対して同損害賠償請求権の行使を怠る事実の違法確認を求めても,後者の訴えの利益が否定されるものではない(最高裁判所平成13年12月13日第一小法廷判決・民集55巻7号1500頁参照)。 5 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,一審原告らの請求は理由がないからいずれも棄却すべきである。 よって,4号事件について同事件一審原告らの請求をいずれも棄却した原判決は正当であって,同一審原告らの控訴は理由がないからいずれも棄却し,1号事件について同事件一審原告らの請求を一部認容した原判決はその認容した限度で失当であるから,同事件一審被告らの控訴に基づき同認容部分を取り消し,同取消しに係る同一審原告らの請求をいずれも棄却し,同一審原告らの控訴は理由がないからいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。 福岡高等裁判所第5民事部 裁判長裁判官西謙二 裁判官脇由紀 裁判官桂木正樹
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