令和2(ワ)670 国家賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和7年7月17日 大津地方裁判所
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判決文本文77,278 文字)

令和7年7月17日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和2年(ワ)第670号国家賠償請求事件口頭弁論終結日令和7年2月20日判決当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり(添付省略) 主文 1 被告滋賀県は、原告に対し、3131万4841円及びこれに対する令和2年4月2日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は、原告に生じた費用の2分の1と被告滋賀県に生じた費用との合 計の19分の11を被告滋賀県の負担とし、その余を原告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 拡張後の請求被告らは、原告に対し、各自5464万3576円及びこれに対する令和2年 4月2日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は、滋賀県所在の病院において平成15年に生じた患者の死亡につき、殺人罪により逮捕、勾留された上で公訴を提起され、有罪判決を受けて服役し、後に再審により無罪判決を受けた原告が、被告滋賀県及び被告国の違法な捜査活動 並びに被告国の違法な公訴提起及び再審開始決定に対する違法な特別抗告により損害を被ったとして、国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づき、被告滋賀県及び被告国に対し、5464万3576円及びこれに対する最後の違法行為後の日である令和2年4月2日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を求め る事案である。 1 前提事実次の事実は、当事者間に争いがな 日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を求め る事案である。 1 前提事実次の事実は、当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨から容易に認めることができる。なお、関係者の氏名についてはプライバシー保護の観点から一部アルファベットで表記することがある。 ⑴ A氏は、平成14年10月から滋賀県愛知郡B町(当時)所在の医療法人 C病院(以下「本件病院」という。)に入院していた患者であり、同入院以降、いわゆる植物状態にあり、人工呼吸器(以下、A氏に装着されていた人工呼吸器を「本件呼吸器」という。)で呼吸を管理されている状態であった。 本件呼吸器は、呼吸器の管が外れるとアラームが鳴るが、異常状態が改善されるとアラームが止まるし、異常状態が改善されなくとも消音ボタンを押 すと1分間アラームが止まる仕様となっている(以下、同仕様に係る機能を「消音機能」という。)。また、消音機能によるアラームの停止中に再度消音ボタンを押すと、その時点から更に1分間アラームが止まる仕様となっている(以下、同仕様に係る機能を「消音状態維持機能」という。)。(乙2の5、2の6、丙69、86) ⑵ 本件病院における平成15年5月21日夜から同月22日朝にかけての当直は、D看護師、E看護師及び看護助手である原告(昭和54年12月生)の3名であったところ、同日午前4時30分頃、A氏(当時72歳)が、D看護師及び原告により本件病院3階B病棟22号室において心肺停止状態で発見(以下「本件異常発見」という。)された。当時、E看護師は仮眠中で あった。A氏には看護師及び医師による蘇生措置が施されたが、同日午前7時31分、死亡が確認された(以下、A氏の死亡を巡 で発見(以下「本件異常発見」という。)された。当時、E看護師は仮眠中で あった。A氏には看護師及び医師による蘇生措置が施されたが、同日午前7時31分、死亡が確認された(以下、A氏の死亡を巡る事件を「本事件」という。)。 ⑶ F大学法医学教室のG教授(以下「G教授」という。)は、平成15年5月23日、A氏につき鑑定処分許可状に基づき解剖(以下「本件解剖」と いう。)を行い、その結果につき同年6月9日付け鑑定書(以下「G鑑定書」 という。)を作成した。(乙2の13、6、丙64)⑷ 滋賀県警察(以下「滋賀県警」という。)の巡査部長であったH(以下「H警察官」という。)は、G教授から鑑定状況等を聴取し、その結果につき平成16年3月2日付け犯罪捜査報告書(以下「H報告書」という。)を作成した。(乙5の4、丙99) ⑸ H警察官は、平成16年5月、本事件の捜査に当たって、原告の取調べ担当となった。 ⑹ 原告は、H警察官に対し、平成16年7月2日、本件呼吸器のチューブを故意に抜いた旨の供述(以下「本件不利益供述」という。)をし、滋賀県警は、同月6日、本事件に関し、原告を殺人罪の被疑事実で逮捕した。また、 原告は、同月2日、A氏のおむつ交換をしようと、少し荒っぽく布団をめくったら、人工鼻とジャバラの先端部分が外れてアラームが鳴ったので、慌ててジャバラをはめた、このとき消音ボタンは押していない、次に布団をかけたときも、荒っぽくしてなんか触ったかなと思ったけど、まあいいわと放っておいた、部屋を離れた後アラームが鳴ったが放っておいた、などといった 供述書(以下「本件供述書」という。)を作成した(丙194)。 ⑺ 原告の捜査は、大津地方検察庁(以下「大津地検」という。)の検事であったI(当時。以下「I検察官」 っておいた、などといった 供述書(以下「本件供述書」という。)を作成した(丙194)。 ⑺ 原告の捜査は、大津地方検察庁(以下「大津地検」という。)の検事であったI(当時。以下「I検察官」という。)が担当することとなったところ、I検察官は、平成16年7月27日、本事件に関し、原告を殺人罪の公訴事実で大津地方裁判所に公訴の提起をした(以下、「本件起訴」といい、本件 起訴に係る事件を「本件公訴事件」という。)。 ⑻ 大津地方裁判所は、平成17年11月29日、本件公訴事件につき原告を殺人により懲役12年に処する判決(以下「本件確定判決」という。)をしたため、原告は控訴した。大阪高等裁判所は、平成18年10月5日、同控訴を棄却したため、原告は更に上告し、最高裁判所は、平成19年5月21 日、同上告を棄却し、これにより本件確定判決は確定し、原告は服役するこ ととなった。 ⑼ 原告は、大津地方裁判所に対し、平成22年9月21日、本件確定判決につき再審の請求をしたが、同裁判所は、平成23年3月30日、同請求を棄却した。原告はこれに即時抗告したが、大阪高等裁判所は、同年5月23日、同即時抗告を棄却し、原告は更にこれに特別抗告をしたが、最高裁判所は、 同年8月24日に、同特別抗告を棄却した。 ⑽ 原告は、大津地方裁判所に対し、平成24年9月28日、本件確定判決につき二度目の再審の請求(以下「本件二次再審請求」という。)をしたが、大津地方裁判所は、平成27年9月30日、本件二次再審請求を棄却した。 原告はこれに即時抗告したところ、大阪高等裁判所は、平成29年12月2 0日、再審開始の決定(以下「本件再審開始決定」という。)をした。検察官は、同月25日、同決定に対し特別抗告(以下「本件特別抗告」という。)をしたが、 、大阪高等裁判所は、平成29年12月2 0日、再審開始の決定(以下「本件再審開始決定」という。)をした。検察官は、同月25日、同決定に対し特別抗告(以下「本件特別抗告」という。)をしたが、最高裁判所は、平成31年3月18日、同特別抗告を棄却し、同決定は確定した。(甲5)⑾ 原告は、本件二次再審請求の審理中である平成29年8月24日、L 刑務 所を満期出所した。 ⑿ 本件二次再審請求に基づく再審(以下「本件再審」という。)において、検察官は、平成31年4月23日に実施された第1回三者協議では有罪立証をする方針を示していたが、令和元年9月30日に実施された第5回三者協議では従前の主張立証方針を撤回する予定である旨を述べ、同年10月18 日付けの書面において、原告が有罪である旨の新たな立証を行わないこと、一回結審による早期終結を希望すること、年度内に判決を希望することなどの意向を述べた。(被告国との関係で争いなし、被告県との関係で甲9、10及び弁論の全趣旨)⒀ 大津地方裁判所は、本件再審において、令和2年2月3日、同月10日に 公判期日を実施したところ、検察官は、「本件公訴事実につき、被告人が有 罪である旨の新たな立証は行わないこととし、取調済みの証拠に基づき、適切な判断を求める」旨のみを述べ、本件再審の弁論は終結した。同裁判所は、同年3月31日、原告に対し判決で無罪の言渡をしたところ、検察官は、同年4月2日、同判決に対する上訴権を放棄し、同判決は確定した。 ⒁ 原告は、本事件に関する身柄拘束期間について、刑事補償法4条1項によ る補償金5997万5000円の交付を受けた。(甲14の1、14の2) 2 争点及び当事者の主張本件の争点は次のとおりであり、各争点についての当事者の主張は、別紙「 刑事補償法4条1項によ る補償金5997万5000円の交付を受けた。(甲14の1、14の2) 2 争点及び当事者の主張本件の争点は次のとおりであり、各争点についての当事者の主張は、別紙「争点についての当事者の主張」のとおりである。 ⑴ 滋賀県警による原告の取調べが国賠法1条1項上違法か ⑵ 滋賀県警が証拠を大津地検に送致しなかったことが国賠法1条1項上違法か⑶ 滋賀県警がG教授に対し国賠法1条1項上違法な働きかけをしたか⑷ 本件起訴が国賠法1条1項上違法か⑸ I検察官が、滋賀県警による原告の違法な取調べを是正しなかったことが 国賠法1条1項上違法か⑹ I検察官が、滋賀県警をして及び自ら原告の否認調書を作成しなかったことが国賠法1条1項上違法か⑺ 大津地検に、滋賀県警に対し捜査資料を全て送致させるように監督しなかったという国賠法1条1項上違法な不作為があるか ⑻ 本件特別抗告が国賠法1条1項上違法か⑼ 因果関係ある損害及びその額第3 当裁判所の判断 1 認定事実後掲各証拠に、前記前提事実及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認 められる。 ⑴ 本事件については、当初、医療過誤による業務上過失致死の嫌疑で捜査が始まっており、捜査本部は設置されていなかった。(証人H、証人J)⑵ 本件異常発見時に当直であったD看護師及び原告は、任意の取調べにおいて、本件異常発見時、本件呼吸器のアラームは吹鳴していなかった旨を一致して供述していた。(乙2の65、2の66、3の8、5の22、丙51、 52、87、)そのうち、平成15年5月22日作成のD看護師の事情聴取結果を記載した犯罪捜査報告書には、D看護師が本件呼吸器の消音機能について供述した旨の記載があり(乙5の22) 丙51、 52、87、)そのうち、平成15年5月22日作成のD看護師の事情聴取結果を記載した犯罪捜査報告書には、D看護師が本件呼吸器の消音機能について供述した旨の記載があり(乙5の22)、また、平成15年7月8日作成の原告の警察官調書では、原告が、本件異常発見時、チューブが蛇腹のところから外れ ている状態になっているのを発見した旨、アラームは鳴っていなかったが、アラームが鳴らなかったことはこれまでになく、信じられないので、その時鳴っていたけれども気が付いていなかったかもしれない旨及び本件呼吸器のアラームを消すボタンについて言及する供述が録取されている。(乙2の65、丙51) ⑶ G教授が、平成15年6月9日作成したG鑑定書には、次のような記載がある。(乙2の13、6、丙64)ア鑑定結果中、死因欄急性の心停止状態が発生し、死亡した所見は残されているが、疾病が原因で心停止を生じたことを示す検査結果は得られていない。人工呼吸器 停止、管の外れ等に基づく酸素供給欠乏が一義的原因と判断される。 イ本件事歴欄本件異常発見時の際、看護師らは、人工呼吸器の管が外れていることに気が付いた。 ウ説明欄 解剖所見に基づき、本件事歴を参考として判断するに、急性の心停止を 生じさせる所見がなく、肺にも疾病の急激な悪化に基づく呼吸機能低下を示す所見がなく、その他の臓器にも急死を生じさせる疾病の所見を見出せないことから、本件事歴に記載の人工呼吸器の管が外れ酸素供給低下状態で心臓が停止したと判断される。 ⑷ 滋賀県警は、平成15年7月10日、本事件当時本件病院に入院していた 患者の付添看護者から、付き添っていた患者の点滴機械の警報がなったらナースコールをするよう言われていたため、同年5月21日 ⑷ 滋賀県警は、平成15年7月10日、本事件当時本件病院に入院していた 患者の付添看護者から、付き添っていた患者の点滴機械の警報がなったらナースコールをするよう言われていたため、同年5月21日深夜から同月22日早朝につき、多いときは30分くらいの間隔でナースコールをしていたが、他の部屋からアラーム等を聞いた覚えはない旨を聴取した。(乙5の19)⑸ 平成16年2月3日、本件呼吸器に異常がなかった旨の鑑定報告書が作成 された。(乙2の15、丙49)⑹ H警察官は、平成16年2月ないし3月頃に本事件の捜査に加わり、G教授からG鑑定書に係る鑑定状況等を聴取し、同年3月2日、捜査書類の様式(当時の通達においては様式第2号)に従って作成された、次のような記載がある、H警察官の署名、押印がされたH報告書を作成した。なお、下線部 は手書で加筆された部分であり、訂正印が押捺されている。(乙5の4、丙99、証人H)ア解剖結果からは、死者の心臓には古い心筋梗塞の痕跡等の変化、急性の心筋梗塞発生の痕跡、慢性の心機能不全継続の痕跡が残されておらず、その他臓器についても急死を生じさせる疾病は見出せないが、心臓内血液が 流動性であること、腎臓には軽度なショック腎の所見が見られ、急性死の所見があることイ死者の顔面は鬱血状で、急性心臓死の所見があることウ死者の細気管部には、痰が多量に見られ、常に痰の吸引が必要であったことが示されているが、事故発生時の状況からこの痰の詰まりが原因で急 性死に至ったものではないと思われる エ死者は、人工呼吸器を装着していた事実からも、人工呼吸器なくしては十分な酸素を供給できない状態であり、管の外れのほか、管内での痰の詰まりにより酸素供給低下状態で心臓停止したことも十分に考えら エ死者は、人工呼吸器を装着していた事実からも、人工呼吸器なくしては十分な酸素を供給できない状態であり、管の外れのほか、管内での痰の詰まりにより酸素供給低下状態で心臓停止したことも十分に考えられる⑺ 本事件についての原告の被疑者としての取調べ担当が、平成16年5月10日から、H警察官に交代し、以降、原告の取調べは全てH警察官が担当し ているところ、H警察官は、同月11日、原告が、本件異常発見時に本件呼吸器のアラームが鳴っていたことを聞いていた、本当のことを言えば病院にいられなくなると考えてアラームが鳴っていたことを言えなかったなどと供述している供述調書を作成した。(乙2の32、2の39、2の67、丙54) また、同日、原告は、午前4時30分頃、一人でA氏のおむつ交換に行った際本件呼吸器のアラームが鳴り出したので消音ボタンを押してアラームを消した、その際管が外れていたかは見ていない、その後、またアラームが鳴ったが、D看護師が対応すると思ってそのまま放っておいたが、鳴り止まなかったのでA氏の病室に行くとD看護師がいて、A氏を見ると顔面青くなっ ていて目が開いたままだったのでだいぶ苦しんで死んだんだと思った旨の供述書を作成した。同供述書の訂正箇所には指印が押捺されている。(乙2の81)⑻ H警察官は、平成16年5月22日、原告が、A氏のおむつ交換をした際に本件呼吸器のアラームが鳴り出した、仕事に追われていたので本件呼吸器 を確認せずに部屋を離れた、アラームにはD看護師が対応すると思った、アラームが鳴りっぱなしの状態で慌ててA氏の病室に行ったら、既に息がなく、ちょうどD看護師が本件呼吸器の外れた管をつなぎ合わせているところだった、管が外れていたのをよくは確認していないが、これまで管が外れてアラームが鳴ら 状態で慌ててA氏の病室に行ったら、既に息がなく、ちょうどD看護師が本件呼吸器の外れた管をつなぎ合わせているところだった、管が外れていたのをよくは確認していないが、これまで管が外れてアラームが鳴らなかったことは一度もなかったので、このことは原告とD看護師 の責任に間違いない、本事件後、D看護師からアラームは鳴っていなかった よねなどと言われた、これまで本当のことを言えなかったなどと供述している供述調書を作成した。(乙2の68、丙80)⑼ 原告は、平成16年5月20日から同年6月中旬にかけて、呼出しを受けたわけでもないのに警察署に出頭したり、まだ正直に本当のことが話せていないなどという内容のH警察官宛の手紙を他の警察官に預けたりした上、自 殺未遂を装って、手首に包帯を巻いて警察署を訪れることもあった。(乙2の32、2の39、2の83、証人H)⑽ 原告は、平成16年6月19日、本件呼吸器のアラームは実は鳴っていなかった、いままではうそをついていた、うそをついていたのは、アラームが鳴っていたと言えば取調べがなくなると思ったからである旨の供述書を作成 した。同供述書の訂正箇所には指印も含め訂正印が押捺されていない。(乙2の82)⑾ H警察官は、平成16年6月21日、原告が、アラームが鳴っていなかったと言ったが、本当はアラームが鳴り続けていたなどと供述している供述調書を作成した。(乙2の69、丙81) ⑿ 原告は、平成16年6月29日、A氏のおむつ交換時、布団をめくった際に本件呼吸器の管が外れてアラームが鳴ったのでつなぎなおした、その後、布団をかけた際に管が外れたように思ったが確認しなかった、部屋を離れた後アラームが鳴ったが無視した、アラームが鳴り止まなかったので戻ったらA氏は顔面蒼白で亡くなっていた のでつなぎなおした、その後、布団をかけた際に管が外れたように思ったが確認しなかった、部屋を離れた後アラームが鳴ったが無視した、アラームが鳴り止まなかったので戻ったらA氏は顔面蒼白で亡くなっていたので、慌てて消音ボタンを押してD看護師 を呼びに行った旨の供述書を作成した。同供述書の訂正箇所には印章による押印がされている。(乙2の84、丙82)⒀ 原告は、平成16年6月30日、A氏のおむつ交換時、布団をめくった際に管が外れてアラームが鳴ったのでつなぎなおした、その後やけくそで布団をかけた際に管が外れたような気がしたが確認しなかった、アラームが鳴り 止まなかったので戻ったらA氏が亡くなっていた、管をつなぎなおして消音 ボタンを押してD看護師を呼びに行った旨の供述書を作成した。同供述書の訂正箇所には指印も含め訂正印が押捺されていない。(乙2の32、2の85)⒁ 原告は、平成16年7月2日、本件不利益供述を行い、H警察官は、原告が、これまで刑事さんにいろんなうそをついてきたが、本当は私がA氏を殺 した、本件呼吸器の管を勢いよく引っ張り上げて外したら当然アラームは鳴り続けていた、このままではA氏が死んでしまうと思いながらも病室を出た、約10分後、D看護師が気が付いたので、原告も一緒にA氏の病室に向かったが、A氏は本当に苦しそうに死んでいた、D看護師が外れていた管をつなぎ、アラーム鳴っていなかったよねと言ったので、原告は消音ボタンを押し たなどと供述している供述調書を作成した。(乙2の70、丙1)同日、原告は、本件呼吸器の管を引っ張って外した、当然アラームが鳴ったところ、D看護師が気が付いてくれると思ったが気が付いてもらえず、怒りが込み上げてきたので放っておいた、アラームに気が付いて起きてきたD看護師と 件呼吸器の管を引っ張って外した、当然アラームが鳴ったところ、D看護師が気が付いてくれると思ったが気が付いてもらえず、怒りが込み上げてきたので放っておいた、アラームに気が付いて起きてきたD看護師とA氏の病室に入り、D看護師がA氏の急変に驚いて管を触っている うちに原告が消音ボタンを押した旨の供述書を作成した。同供述書の訂正箇所には、印章による押印がされている。(乙2の86、丙83)また、同日、原告は本件供述書を作成しているところ、本件供述書の訂正箇所には指印も含めて訂正印が押捺されていない。(丙194)⒂ H警察官は、平成16年7月5日、原告が本件呼吸器の管を外してA氏を 殺してしまったことに間違いはない、アラームに気が付いたD看護師と一緒にA氏のところに行って、D看護師が外れていた管をはめているときに原告が消音ボタンを押したというのはうそである、本当は、管を外した後別の部屋でおむつ交換をしていた、アラームは鳴り続けていたのにD看護師が起きてこなかったので、本件呼吸器の管をはめ、ナースステーションに戻ったと ころ、D看護師が起きてきたので一緒にA氏のおむつ交換に行くとA氏が死 んでいるのに気が付いたなどと供述している供述調書を作成した。(乙2の71、丙2)同日、原告は、病院に当直業務の不満を分かってもらうために、本件呼吸器の管を故意に外したなどといった内容の供述書及び本件呼吸器の管を外した後、別の部屋でおむつ交換をしていたがアラームが鳴り止まなかったので A氏の病室に戻るとA氏は亡くなっていた、放っておいたのがばれると嫌だと思い管をはめて休憩室に行ったが、D看護師にA氏のことは報告しないでいた、その後、D看護師とA氏の病室に行くとD看護師はA氏が急変したことに驚いていたなどといった内容の供述書 いたのがばれると嫌だと思い管をはめて休憩室に行ったが、D看護師にA氏のことは報告しないでいた、その後、D看護師とA氏の病室に行くとD看護師はA氏が急変したことに驚いていたなどといった内容の供述書を作成した。同各供述書の訂正箇所には、印章による押印がされている。(乙2の87、乙2の88)。 ⒃ D看護師は、本事件発生後間もない頃は、本件異常発見時、本件呼吸器の管は外れていた旨を医師に報告し、捜査機関にもその旨供述していたところ(前記⑵)、平成16年7月6日よりも前の時点で、捜査機関に対し、本件異常発見時に管が外れていたかは実ははっきりしないと供述するようになった。(乙3の8、丙87) ⒄ 滋賀県警は、平成16年7月6日、A氏についての殺人罪の被疑事実で原告を逮捕した。H警察官は、同日、原告が本件呼吸器の管を故意に外し、そのまま放置してA氏を殺したなどと供述している供述調書を作成し、原告は、同日、本件呼吸器の管を故意に外したこと及びそれを前提とする供述書を4通作成した。同各供述書の訂正箇所には指印が押捺されている。(乙2の5 9、2の72、2の89ないし2の91、丙23)⒅ 原告は、平成16年7月8日、本事件につき殺人罪の被疑事実で勾留され、以降、平成29年8月24日に満期出所するまで、身体拘束をされ続けた。 (甲2の1ないし2の3、丙31、37)原告は、平成16年7月8日に実施された勾留質問において、事実はその とおり間違いない旨を供述した。(乙2の64、丙59) ⒆ 原告は、平成16年7 月8日に本事件についての弁護人と初回接見をし、弁護人に対し、A氏の死亡は事故であり、自分は殺していない旨を述べたところ、その後のH警察官の取調べにおいて、弁護人に対しては逃げようとしてうそをついた旨の に本事件についての弁護人と初回接見をし、弁護人に対し、A氏の死亡は事故であり、自分は殺していない旨を述べたところ、その後のH警察官の取調べにおいて、弁護人に対しては逃げようとしてうそをついた旨の供述書を作成した。同供述書の訂正箇所には指印が押捺されている。(乙2の95、2の126、丙20) 同日以降、原告は弁護人と接見を繰り返したが、H警察官は、接見後に原告から接見内容を聴取し、時には、原告が、接見内容を供述した上で、弁護人には故意に本件呼吸器の管を外していないなどとうそをついた旨や、管を外してA氏を殺したことは間違いないなどと供述する供述調書を作成し、また、原告は弁護人にうそをついた旨の供述書や、いままでうそをついていた 弁護人にも本当のことを言ったら弁護人に絶対に刑務所に入らなければならない、罪は重いと言われたが、正気にならないと前に進んでいけないのでがんばろうと思った旨の供述書を作成した。これらの供述書の訂正箇所には指印が押捺されている。(乙2の41、2の73、2の95、2の97ないし2の102、5の21、丙5、20、21、27、28、61、62、20 1)⒇ 滋賀県警は、平成16年7月13日及び同月16日、隣室の入院患者の付添看護者から、平成15年5月22日の深夜、アラームは聞いてない旨を聴取した。(丙294、295)(21) 滋賀県警は、平成16年7月10日午後3時45分から同日午後5時に かけて、本件病院の臨床工学技士を立会人として本件呼吸器につき実況見分を行い、本件呼吸器の消音機能について立会人から説明を受けた旨の実況見分調書を作成した。(乙2の5、丙86)H警察官は、同日、原告が、本当は本件呼吸器のアラームは鳴っていない、本件呼吸器の管を外した後、D看護師などに気が付かれないように から説明を受けた旨の実況見分調書を作成した。(乙2の5、丙86)H警察官は、同日、原告が、本当は本件呼吸器のアラームは鳴っていない、本件呼吸器の管を外した後、D看護師などに気が付かれないように、本件呼 吸器の消音ボタンを押し続けてA氏が死んでいくのを待っていた、などと供 述している供述調書を作成した。(乙2の41、丙5)同日の原告の取調べ時間は、午前10時15分から午前10時20分、午前11時30分から午前11時55分、午後1時から午後4時50分、午後5時35分から午後5時55分、午後7時から午後11時25分であり、午前10時20分と午後4時50分からの取調べの中断は、弁護人との接見に よるものである。(丙201)(22) H警察官は、平成16年7月11日、原告が、本件呼吸器の管を外した後、消音ボタンを押し続けてA氏が死亡していくのを待っていた、消音ボタンを押せば1分間アラームの音が消えるので、その度に消音ボタンを押し続けていたなどと供述している供述調書を作成した。(乙2の42、丙6) 同日、原告は、本件呼吸器の管を外し、音が鳴ったら見つかると思い、消音ボタンを押し続けた、A氏が死亡した後に管を元に戻して放っておいたなどといった内容の供述書を作成した。同供述書の訂正箇所には指印が押捺されている。(乙2の60)H警察官は、同月12日、原告が、本件呼吸器の管を外し、すぐに消音ボ タンを押した、再びアラームがなる1分前になれば消音ボタンを押してジッとその場でA氏が死んでいく様子を見届けた、A氏が死亡に至る際、眉間にしわを寄せて苦しそうにし、口をはぐはぐさせ、口を縦に大きく開け目を上向きにして白目になったなどと供述している供述調書を作成した。(乙2の43、丙7) 原告は、同日、本件呼 至る際、眉間にしわを寄せて苦しそうにし、口をはぐはぐさせ、口を縦に大きく開け目を上向きにして白目になったなどと供述している供述調書を作成した。(乙2の43、丙7) 原告は、同日、本件呼吸器の管を外してすぐ消音ボタンを押し、またアラームが鳴ると困ると思い消音ボタンを押してA氏を見ると、眉間にしわを寄せ、苦しそうにもがいているように見えた、また鳴ると困ると思い消音ボタンを押してA氏を見ると目が上に向いて口を大きく開いて顔面が青白くなっていて死んでいたなどといった内容の供述書を作成した。同供述書の訂正箇 所には指印が押捺されている。(乙2の61) (23) 滋賀県警は、平成16年7月13日、本件病院の臨床工学技士から本件呼吸器の消音機能、消音状態維持機能につき説明を受け、同月14日午後7時45分から同日午後10時25分にかけて、同月12日発付の検証許可状に基づき本件病院の臨床工学技士らを立会人として本件病院において本件呼吸器の検証を行い、同月20日、本件呼吸器のアラームがナースステーショ ンやA氏の病室から5メートル程度離れた廊下などからも聞こえた旨や、消音状態維持機能について確認した旨の検証調書を作成した。(乙2の6、2の17、丙18、69)(24) 原告は、平成16年7月15日、弁護人に、この後調書を書かれたら助けようがない、自分が故意にやったことを言ってしまうと罪が重くなり一生 家族と会えなくなるなどと言われた、H警察官と弁護人のどちらを信用したらいいのか分からない、いろんなことを詳しく聞いてくれるH警察官のいうことを信用するなどといった内容の供述書を作成した。同供述書の訂正箇所には指印が押捺されている。(乙2の102、丙21)(25) 原告は、平成16年7月16日、I検察官による取調べ H警察官のいうことを信用するなどといった内容の供述書を作成した。同供述書の訂正箇所には指印が押捺されている。(乙2の102、丙21)(25) 原告は、平成16年7月16日、I検察官による取調べにおいてはA氏 を殺害したことを否認したが、その後のH警察官の取調べにおいては、検察官の取調べにおいてはうそをついた旨の供述書を作成した。同供述書の訂正箇所には指印が押捺されている。(乙2の103、丙22)(26) H警察官は、平成16年7月20日、原告が、本件呼吸器の消音機能につき仕事を通じて自然と覚えたなどと供述している供述調書及び原告が、本 件呼吸器の管が外れると点灯する赤ランプが、消音ボタンを押すとアラームとともに消えることを今までの経験から知っていた、本件呼吸器の管を外し、その後しばらくしてピッと1回アラームが鳴ったのを聞いてすぐに消音ボタンを押し、その後もA氏が死んでいるのを見届けながら、次にアラームがなるまで時間を数えて1分になる前に消音ボタンを合計3回押したなどと供述 している供述調書を作成した。(乙2の47、2の48、丙9) (27) H警察官は、平成16年7月22日、原告が、本件呼吸器の消音状態維持機能を自然と覚えた、本件呼吸器の管を外して最初のアラームが鳴った後、1、2、3、4と数え続けて1分になる前に消音ボタンを押し、A氏が死亡するのを確認したなどと供述している供述調書を作成した。(乙2の49、丙10) 同日、I検察官は、原告が、前回の検察官取調べではA氏を殺すつもりはなかったと述べたが、本当はA氏を殺すつもりで本件呼吸器の管を外して、消音ボタンを3回押してアラームが鳴らないようにしてA氏を殺した、うそをついた理由は、弁護人から、殺意を認めれば10年以上刑務所に行かなければな が、本当はA氏を殺すつもりで本件呼吸器の管を外して、消音ボタンを3回押してアラームが鳴らないようにしてA氏を殺した、うそをついた理由は、弁護人から、殺意を認めれば10年以上刑務所に行かなければならないなどと言われて不安になったからであるなどと供述している供 述調書を作成した。(乙2の77、丙63)H警察官は、同月23日、同月24日にも、I検察官は、同月23日に、原告が消音状態維持機能を自然と覚えたこと、消音ボタンを押してから1分を数えて繰り返し消音ボタンを押してA氏が死ぬのを見届けたなどと供述する供述調書を作成した。(乙2の51ないし2の53、2の55、丙11な いし13、17)(28) I検察官は、平成16年7月25日、原告が、本件呼吸器の消音機能、すなわち、消音ボタンを押しても1分くらい経過するとまたアラームがなることは経験上知っていた、消音ボタンを押してから再びアラームが鳴るまでの時間が1分であることは看護師の誰かから聞いた記憶があると供述する一 方で、消音状態維持機能については知らなかったが、本事件の際にも消音ボタンを押してから1秒、2秒と時間を数えて1分くらい経つ頃に消音ボタンを再び押したところ、たまたまアラームが鳴らない状態が続いたなどと供述している供述調書を作成した。(乙2の57、丙14)(29) 本件病院の看護師中に、消音機能のアラーム停止時間が1分間であるこ とを正確に認識していた者はおらず、また、消音状態維持機能の存在を知っ ていた者も利用したことがある者もいなかった。(乙5の22ないし5の24、5の26ないし5の35、丙87)(30) 平成16年7月27日、本件起訴がされたが、H警察官は、本件起訴後も原告を繰り返し取り調べ、同年8月4日、原告が、万が一、弁護人のいう 2ないし5の24、5の26ないし5の35、丙87)(30) 平成16年7月27日、本件起訴がされたが、H警察官は、本件起訴後も原告を繰り返し取り調べ、同年8月4日、原告が、万が一、弁護人のいうとおりに従ってA氏を殺していない、殺意はなかったといってしまってもそ れは自分の本当の気持ちではない、A氏を殺そうと思って本件呼吸器の管を故意に外して殺してしまったことは間違いないなどと供述する供述調書を、同月24日、弁護人に殺意はなかったとうそをついてしまった、もし裁判でA氏を殺していないと言ってしまってもそれは自分の本当の気持ちではないなどと供述する供述調書を作成し、原告は、検察官宛の手紙の体裁で、同月 1日、同月4日、同月23日、同月25日、同年9月21日、同趣旨の供述書を作成した。同各供述書の訂正箇所には指印が押捺されている。(乙2の78、2の80、2の114、2の117、2の122、2の123、2の125、丙219ないし223)他方で、H警察官は、原告に対し、本件起訴後、原告が本件病院やその前 に勤務していた病院で他の患者に対して暴行を加えたという余罪についても取調べを行い、原告は、同年8月3日及び同月4日、これを認める供述書を作成し、H警察官は、同月10日、その旨の原告の供述調書を作成した。同各供述書の訂正箇所には指印が押捺されている。(丙92ないし98)(31) 平成17年11月29日、本件確定判決がされたところ、本件確定判決 は、G鑑定書により、A氏は本件呼吸器からの酸素供給が何らかの理由で途絶したことにより急性の低酸素状態に陥り、これにより急性の心停止に至って死亡したと認められること、本件呼吸器は正常に作動していたことから、アラームが鳴らなかったことにつき何者かの作為が加えられたことにより酸素 より急性の低酸素状態に陥り、これにより急性の心停止に至って死亡したと認められること、本件呼吸器は正常に作動していたことから、アラームが鳴らなかったことにつき何者かの作為が加えられたことにより酸素供給が途絶したものと認められること、原告の自白に任意性、信用性を認 めて、その自白に基づき、原告が本件呼吸器の管を外してA氏を殺害したこ とを認定し、その控訴審判決も同認定を基本的に是認した。(甲2の1、2の2)(32) 大阪高等裁判所は、平成29年12月20日、本件再審開始決定をした。 本件再審開始決定の理由は、概要、次のようなものであった。(甲4の2)ア原審においては、解剖結果のみから死因が判定できない場合には、致死 的不整脈を含む心機能不全が疑われるという医師の鑑定書が提出されていたところ、これらの証拠に即時抗告審で提出された医師の意見書等を併せ考慮すると、原告の供述を除くそれ以外の証拠の下では、A氏の死因が機能性の致死的不整脈であった可能性は排除されておらず、その急死の原因が酸素供給途絶によるとどの程度いえるのかという点、すなわちG鑑定書 等の証明力は揺らぎ、A氏の死因が酸素供給途絶にあることは証明されていないことが明らかとなった。 イ原告の供述については、消音状態維持機能をいつ知ったのかという部分について、供述録取者がH警察官から検察官に代わっただけで大きく変遷していること、その変遷理由として取調官の誘導が考えられること、自白 内容に、信用性を決定づけるほどの具体性はないこと、原告が自発的に本件不利益供述をした点についても、原告がH警察官に好意を抱き信頼していたと認められることや原告の迎合的な性格からすると、取調べによる心理的圧力もある中で、H警察官との関係を維持しようと虚偽自白したことが 益供述をした点についても、原告がH警察官に好意を抱き信頼していたと認められることや原告の迎合的な性格からすると、取調べによる心理的圧力もある中で、H警察官との関係を維持しようと虚偽自白したことが考えられることから、自白の信用性があることを決定付ける事情とまで はいえないことなどから相当程度信用できるものの、それ単独でA氏が酸素供給途絶状態により死亡したことを認め得るほどに信用性が高いものとはいえない。そうすると、原告の供述を加えて検討しても、弁護人請求の新証拠により、A氏の死因が酸素供給途絶にあるとするG鑑定書等の証明力は減殺され、A氏が自然死した合理的疑いが生じたというべきである。 (33) 検察官は、平成29年12月25日、本件特別抗告をした。本件特別抗 告の理由は、概要、次のようなものであった。(甲5)ア本件再審開始決定は、弁護人提出の致死的不整脈に関する鑑定書及び意見書(以下「再審鑑定書等」という。)に刑訴法435条6号所定の「あらたに発見した」証拠該当性(新規性)を認めているが、鑑定について新規性が認められるためには、①鑑定の手段自体が有罪判決確定時には存在 しなかった新たな経験則に基づく鑑定であるか、②鑑定の資料とされたものが新規のものである必要があり、そうではない場合は、③従前の鑑定と異なる内容というだけでは当然に新規性は認められず、確定審で取調べられた鑑定の特定の鑑定事項を特化し、その中で十分に検討されていないと考えられる部分を取り出して新たな鑑定人の知見に基づき詳細に検討を加 えたもので、結論も異なるものである必要があるとするのが判例(①、②につき東京高裁昭和40年4月8日決定、③につき最高裁平成21年12月14日第二小法廷決定及びその原決定である東京高裁平成20年7月1 ので、結論も異なるものである必要があるとするのが判例(①、②につき東京高裁昭和40年4月8日決定、③につき最高裁平成21年12月14日第二小法廷決定及びその原決定である東京高裁平成20年7月14日決定)である。 再審鑑定書等のうち、低カリウム血症に関するもの(乙4の31、4の 32)については、G鑑定書に記載済みの事情に基づくものであり、上記①、②に当たらず、また、致死的不整脈が生じる可能性を抽象的に指摘するにとどまることから、上記③にも当たらない。したがって、本件再審開始決定の上記認定は判例に違反する。 イ本件再審開始決定は、再審鑑定書等に基づき、①A氏の死因が低カリウ ム血症による致死的不整脈の可能性が排斥できないこと、②当時のA氏の身体状況からすると、低カリウム血症以外の原因で致死的不整脈が生じた可能性が残ること、③60歳以上の高齢者の瞬間死全体の中では、解剖しても原因が判明しない不整脈による死亡は決してまれではないことを示す証拠があることなどから、A氏の死因が致死的不整脈であった可能性につ いては無視できるほど低い程度ではないとして、G鑑定書の信用性を排斥 し、刑訴法435条6号所定の無罪を言い渡すべき明らかな証拠該当性(明白性)を認定している。 しかしながら、上記①の判断は、次のとおり誤りである。すなわち、血中カリウムイオン濃度は、死後に値が変動するため、解剖時の血液検査結果を基にして議論することに意味はなく、同結果から死亡時の濃度を 推定することもできないというのが検察官提出の医師の意見書によれば医学的知見であること、A氏の死亡から15日前の血液検査では血中カリウムイオン濃度は正常値であり、これを下げる薬剤投与も認められないこと、A氏の解剖時の血中カリウムイオン濃度が低値であったこ よれば医学的知見であること、A氏の死亡から15日前の血液検査では血中カリウムイオン濃度は正常値であり、これを下げる薬剤投与も認められないこと、A氏の解剖時の血中カリウムイオン濃度が低値であったことは、検察官提出予定のG教授の意見書によれば医学的に説明が可能であるこ となどから、再審鑑定書等に基づきA氏の心停止前に血中カリウムイオン濃度が低かったことを前提とする上記①の判断をしたことは誤っている。 また、上記②の判断についても、再審鑑定書等が指摘する死亡機序については、検察官提出予定のG教授の意見書によれば、解剖時所見で判明 するものであるか、結局酸素供給途絶を原因とする機序であるため、G鑑定書の信用性を否定するものではない。 そして、上記③の判断についても、統計に基づく一般抽象的な可能性を示すものにすぎず、具体的な所見に基づく推論ではないから、証明力が極めて乏しいものである。 以上からすると、本件再審開始決定の再審鑑定書等につき無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たるとの認定は、判例(最高裁昭和50年5月20日第一小法廷決定、最高裁昭和51年10月12日第一小法廷決定、最高裁平成9年1月28日第三小法廷決定)に違反する。 ウ無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たるかどうかの判断に当たっては、 新証拠と、新証拠として提出された証拠の立証命題と共通する確定審提出 証拠との総合評価に限られるとするのが判例(最高裁昭和50年5月20日第一小法廷決定)であるところ、本件再審開始決定は、原告の自白の信用性を否定するに当たって新証拠を示しておらず、再審鑑定書等についてはその立証命題が原告の自白とは異なるから、新証拠に基づかずに原告の自白の信用性を否定したものであって、上記判例に違反する判断である。 するに当たって新証拠を示しておらず、再審鑑定書等についてはその立証命題が原告の自白とは異なるから、新証拠に基づかずに原告の自白の信用性を否定したものであって、上記判例に違反する判断である。 また、本件再審開始決定は、全体をみると、A氏の死因に関する新証拠が提出されたことを機に、確定審が取り調べた証拠を全面的に評価し直して、事案全体に自らの心証を形成した上で、本件確定判決の事実認定全体の当否を判断したものであるところ、このような判断は、判例(東京高裁平成13年10月29日決定)に違反するものである。 加えて、本件確定判決の原告の自白の信用性判断についての判断には事実誤認がある。 エ再審請求棄却決定に対する即時抗告審は事後審と解されているから、即時抗告審において新たな証拠による新たな主張を再審事由として判断することはできないとするのが判例(最高裁平成17年3月16日第一小法廷 決定)であるところ、大阪高等裁判所は、本件二次再審請求の即時抗告審において、原決定で判断されなかった致死的不整脈を新たな争点として付け加えており、これを受けて弁護人から提出された医師の意見書を基に致死的不整脈について判断して本件再審開始決定をしているから、本件再審開始決定は、事後審の範囲を超えた判断をしているものであり、上記判例 に違反する。 オ本件二次再審請求の即時抗告審においては、A氏の死因については検察官に意見を述べる機会が与えられているものの、原告の自白の信用性について全く意見を述べる機会が与えられていなかったにもかかわらず、本再審開始決定においては、原告の自白の信用性についてそれ単独でA氏が酸 素供給途絶状態により死亡したと認め得るほどの信用性はないとの判断が されており、検察官の意見を述べる機会を奪う 審開始決定においては、原告の自白の信用性についてそれ単独でA氏が酸 素供給途絶状態により死亡したと認め得るほどの信用性はないとの判断が されており、検察官の意見を述べる機会を奪う審理過程によるものであり、およそ公平公正な訴訟手続とはいい難いから、本件再審開始決定には、当該手続違背という、著しく正義に反する、決定に影響を及ぼす法令違反(刑訴法411条1号)がある。 カ本件再審開始決定の事実認定には、論理則、経験則違反があるから、著 しく正義に反し、決定に影響を及ぼすべき重大な事実誤認(刑訴法411条3号)がある。 (34) 精神保健指定医であるK医師は、平成29年2月から同年9月にかけて原告及びその両親と面談、検査し、令和元年10月23日、原告に発達障害、軽度の知的障害、愛着障害があると診断した。(乙5の18、丙193、原 告本人) 2 争点⑴(滋賀県警による原告の取調べが国賠法1条1項上違法か)について⑴ 被疑者の取調べが国賠法1条1項上違法となる場合について国賠法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別 の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものである(最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁、最高裁平成13年(行ツ)第82号、同年(行ツ)第83号、同年(行ヒ)第76号、同年(行ヒ)第77号同1 7年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁参照。)。したがって、公務員の行為又は不作為が同項の適用上違法となるかどうかは、公務員の行為又は不作為が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかによって判 民集59巻7号2087頁参照。)。したがって、公務員の行為又は不作為が同項の適用上違法となるかどうかは、公務員の行為又は不作為が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかによって判断されるものである。 そして、被疑者の取調べが国賠法1条1項上違法であるか否かは、取調べ の対象となった事案の内容及び性質、被疑者に対する嫌疑の程度、取調べ時 点における証拠関係の下での取調べの必要性、取調べの具体的態様等諸般の事情を勘案して、当該取調べが社会通念上相当と認められる範囲を超えるものであるか否かにより判断するのが相当であり(最高裁昭和57年(あ)第301号同59年2月29日第二小法廷判決・刑集第38巻3号479頁参照)、その判断に際しては、被疑者の人格権はもとより、被疑者に保障され ている黙秘権、弁護人依頼権等の権利の内容及びその保障の趣旨を考慮すべきものと解される。 これに対し、被告滋賀県は、警察官による捜査活動について国賠法1条1項上の違法性が認められるためには、警察官の犯罪の嫌疑に関する判断が、証拠の評価について通常考えられる個人差を考慮にいれても、なおかつ行き 過ぎで、経験則、論理則に照らして到底その合理性を肯定することができないという程度に達していることが必要である旨を主張するが、嫌疑の程度は取調べの相当性を判断にするに当たって勘案すべき事情とはなるものの、高度の嫌疑があるからといっても社会通念上相当と認められる範囲を超える取調べは許容されないのであるから、嫌疑に関する判断の当否を専ら考慮の対 象とする被告滋賀県の上記主張は明らかに不適切であって、採用できない。 ⑵ H警察官による供述書作成指示についてア前記1⑺、⑽、⑿、⒀、⒁、⒂、⒄、⒆、(22)、(24)、(25)、(30) 象とする被告滋賀県の上記主張は明らかに不適切であって、採用できない。 ⑵ H警察官による供述書作成指示についてア前記1⑺、⑽、⑿、⒀、⒁、⒂、⒄、⒆、(22)、(24)、(25)、(30)に認定のとおり、原告の供述書は、自白方向のものは訂正印が押捺されており、そうではないものは訂正印が押捺されていない。一般人において、契約書 等ならばともかく、供述書を訂正するのに訂正印を押捺するという認識があるのは通常とはいえず、原告においても、職業上などの理由でそのような認識を有していたとは解し難いことからすると、原告が自発的にこれらの供述書を作成したとすると、訂正印を押捺するのは明らかに不自然である。仮に、原告が供述書であっても訂正箇所には訂正印を押捺するという 認識があったとすると、全ての供述書の訂正箇所に訂正印を押捺するのが 自然である。したがって、上記供述書の訂正印は、H警察官が、原告の犯行の立証に用い得るものを選別して、それらの訂正箇所のみ押捺するよう指示したことを推認でき、ひいては、供述書の作成自体、H警察官が、原告が自発的に供述したような外観を作出する意図で指示したことが強くうかがわれる。 イ以上に加えて、前記1に認定のとおり、原告の供述書のうち、訂正印が押捺されている自白方向の供述書については同趣旨の供述調書が作成されていることからすると、原告の、本件公訴事件の公判廷(丙186)及び本人尋問における、H警察官に供述書の作成を指示された旨の供述は信用することができる。なお、原告は、H警察官に指示されたわけではなく自 ら供述書を作成したこともある旨を供述しているが、上記のとおり、原告の供述書は訂正印が押捺されていない自白方向とはいえない供述書も混在しており、これらについてはH警察官が指示 わけではなく自 ら供述書を作成したこともある旨を供述しているが、上記のとおり、原告の供述書は訂正印が押捺されていない自白方向とはいえない供述書も混在しており、これらについてはH警察官が指示して作成させたものとも解されないことからすると原告が自発的に作成したものと推認することができるから、上記原告の供述は、自白方向の供述書の作成をH警察官が指示し たことと矛盾する供述とはいえない。 ウ H警察官は、証人尋問において、平成16年7 月6日の供述書1通を除き、供述書の作成を指示したことはない、供述書の記載内容を指示したことも、書き方を聞かれたこともない旨を供述するが、前記アの訂正印のある供述書とない供述書が混在している理由が説明できず、不合理であって 信用できない。 エ以上のとおり、H警察官は、原告の自白方向の供述については、原告が自発的に供述したような外観を作出する意図で、供述調書を作成するだけではなく、供述書を作成するよう指示したことが認められる。 ⑶ 消音状態維持機能の認識に関する供述誘導について ア前記1⒁、⒂、(21)、(22)、(23)、(26)ないし(28)に認定のとおり、原 告の消音状態維持機能の認識についての供述は、次のような変遷をしている。 平成16年7月2日に本件不利益供述を開始した当時、原告は、本件呼吸器のアラームは鳴り続けていたと供述していたが、滋賀県警が本件呼吸器の実況見分をした平成16年7月10日には消音ボタンを押し続け てA氏が死亡するのを待ったと供述し始めた。同月11日の供述調書では、複数回消音ボタンを押したという供述が見られるが、消音状態維持機能を原告が認識していることを前提として消音ボタンを押してから1分経過を待ち、再びアラームが鳴る直前に再度消音ボ 11日の供述調書では、複数回消音ボタンを押したという供述が見られるが、消音状態維持機能を原告が認識していることを前提として消音ボタンを押してから1分経過を待ち、再びアラームが鳴る直前に再度消音ボタンを押したのか、それとも単に消音ボタンを繰り返し押した結果たまたまアラームが鳴ら ない状態が維持されたのか、又は消音ボタンを押し、再びアラームが鳴るのを待ち構えて鳴った直後に消音ボタンを押してアラームが吹鳴するのを最小限に抑えたのかはあいまいな供述となっており、必ずしも消音状態維持機能に言及する供述とはいえない。同月12日の供述調書では、消音ボタンを押してから再びアラームがなる1分前に再度消音ボタンを 押した旨を供述しており、原告が消音状態維持機能を認識していることを前提にしているようにも、消音ボタンを繰り返し押した結果たまたまアラームが鳴らない状態が維持されたとも取れる供述となっている。そして、同月14日に滋賀県警が本件病院において消音状態維持機能の確認を含む本件呼吸器の検証を行い、その検証調書が作成された日である 同月20日には消音機能につき仕事を通じて自然と覚えた、アラームがなるまで時間を数えて1分経つ前に消音ボタンを押すことを繰り返したと供述し、同月22日、同月23日、同月24日と、消音状態維持機能につき仕事を通じて自然と覚えた、消音ボタンを押してから時間を数えて1分になる前に消音ボタンを押すことを繰り返したと供述するに至っ ている。しかしながら、その後、同月25日のI検察官に対する供述に おいては、消音状態維持機能は知らなかったが、消音ボタンを押してから数を数えて1分くらい経つ頃に消音ボタンを再び押すと、たまたまアラームが鳴らない状態が続いたと供述している。 以上のとおり、原告のH警察官に対 音状態維持機能は知らなかったが、消音ボタンを押してから数を数えて1分くらい経つ頃に消音ボタンを再び押すと、たまたまアラームが鳴らない状態が続いたと供述している。 以上のとおり、原告のH警察官に対する供述においては、原告の消音状態維持機能の認識についての供述は、当初は全く言及がなかったにもか かわらず、滋賀県警が本件呼吸器の客観的状況について証拠を作成するのに応じて供述が具体化していっているものの、その後のI検察官に対する供述では、消音状態維持機能を認識していたかどうかについての供述が、同月11日又は同月12日頃の供述と同程度まで後退している。 イ確かに、消音機能は、アラームが鳴ったために看護師が駆け付けた際に 利用することはあると解されるが、アラームは異常状態が改善されても止まるのであるから(前提事実⑴)、看護師としては消音ボタンを押した後は異常状態の改善に努めるのが通常であり、仮に1分以内に異常状態が改善できず、またアラームが鳴った場合には再び消音機能を利用すればよいのであり、あえてアラームが再び鳴らないように1分経過前に消音ボタン を押すことを繰り返す必要があるとは解し難い。そうすると、本件病院の看護師において、消音状態維持機能を利用する必要があったかは極めて疑わしいから、原告が、消音状態維持機能を仕事を通じて自然と覚えた旨の供述は、極めて不自然である。現に、前記1(29)に認定のとおり、本件病院の看護師中に消音機能のアラーム停止時間が1分間であることを正確に 認識していた者も、消音状態維持機能の存在を知っていた者もいなかったのであるから、原告だけがこれを知っていたとはおよそ考え難い。 加えて、消音状態維持機能を原告が初めから知っていたのであれば、あえてその点について語らず、アラームは鳴っていた旨の供 た者もいなかったのであるから、原告だけがこれを知っていたとはおよそ考え難い。 加えて、消音状態維持機能を原告が初めから知っていたのであれば、あえてその点について語らず、アラームは鳴っていた旨の供述をする動機付けが原告には見当たらないことからすると、原告が、消音状態維持機 能について自然と覚えた旨の虚偽供述に自発的に及んだとは考え難く、 前記⑵のとおり、H警察官が原告において自発的に供述したかのような外観を作出する目的で供述書を作成するよう原告に指示したことを併せ考慮すると、上記消音状態維持機能の認識についての原告の供述はH警察官による誘導によるものと推認される。 ウまた、前記1(22)に認定のとおり、原告はA氏死亡時の表情変化につい て眉間にしわを寄せて苦しそうにした、顔色は蒼白であったなどと供述をするものの、A氏の当時の看護記録から認められる顔面神経の機能喪失状況や、解剖所見から認められる中脳機能の喪失状況からすると眉間にしわを寄せるなどの表情変化が起きたとは解し難く(乙5の7)、また、本件呼吸器の管が外れたことによる酸素供給低下によりA氏が死亡したのであ れば、その顔面はチアノーゼにより鬱血して赤黒くなるはずであり、現に解剖時のA氏の顔面は鬱血状態であった(乙2の13、2の35、6、丙64、90)。 上記認定の事実からすると、上記の原告のA氏死亡時の表情変化についての供述は真実に反するものであり、原告がA氏が死亡に至るまでの状 況を観測しておらず、引いては本件呼吸器の管を外していないことを裏付ける事実であるが、G教授が証人尋問において供述するとおり、原告のA氏死亡時の表情変化のうち、顔面蒼白というのは、一般人が心停止すると血の気が引くというイメージから用いかねない用語であり、苦しそうにし 事実であるが、G教授が証人尋問において供述するとおり、原告のA氏死亡時の表情変化のうち、顔面蒼白というのは、一般人が心停止すると血の気が引くというイメージから用いかねない用語であり、苦しそうにしていたなどの供述についても、顔面神経等の機能喪失について の認識及び知識がなければ、酸素供給低下という言葉から一般人がイメージしがちな内容であることからすると、原告自身の想像で供述した可能性はあるものの、そのような真実に反する表情変化についての供述をしたこと自体、本件呼吸器の管を外して消音状態維持機能を利用してA氏を殺害したのであれば、A氏の様子を見ていたはずであるとの推測か らA氏の表情変化を供述するように誘導した結果のものと推認すること ができ、これも消音状態維持機能についての供述誘導を裏付ける事情といえる。 エなお、消音状態維持機能が客観的な証拠上明確に確認されるのは平成16年7月20日の検証調書作成時からであるが、これについては、次の二つのような経過であったことが推測される。 すなわち、一つ目の推測としては、滋賀県警は、平成16年7月10日の本件呼吸器の実況見分において消音状態維持機能を認識したが、消音状態維持機能について原告が秘密の暴露をしたかのような外観を作出しようと、実況見分調書にこれを記載せず、原告の供述調書等の作成を先行させようとし、H警察官が原告に対し消音状態維持機能について知っ ていた旨を供述するよう誘導し、原告の消音状態維持機能についての供述が具体化するのに合わせて実況見分調書及び検証調書を作成した、というものである。二つ目は、滋賀県警は、消音機能を利用し、再びアラームがなる前に消音ボタンを押せば消音状態が継続するのではないかと推測し、同月10日には消音ボタンを押し続けた、同月 書を作成した、というものである。二つ目は、滋賀県警は、消音機能を利用し、再びアラームがなる前に消音ボタンを押せば消音状態が継続するのではないかと推測し、同月10日には消音ボタンを押し続けた、同月11日には消音 ボタンを押せば1分間アラームが消えるので、その度に消音ボタンを押し続けた、同月12日には消音ボタンを押し、再びアラームがなる1分前になれば消音ボタンを押したなどと、例えば、消音ボタンを押してから1分経過前に消音ボタンを再度押したらたまたまアラームが鳴らない状態が維持されたとも、アラームが再び鳴った直後に消音ボタンを押し てアラームが鳴るのを一瞬にとどめたとも解し得るあいまいな供述を誘導の上で録取するにとどめ、その後、同月14日の検証において消音状態維持機能の詳細を把握してから、消音状態維持機能についての具体的な供述を誘導し、同様に秘密の暴露があったかのような外観を作出しようとこれを録取した、というものである。現に、I検察官によれば、滋 賀県警は、I検察官に対し、消音状態維持機能について秘密の暴露にな らないかと尋ねたというのである(証人I)。 具体的にどちらの誘導過程を経たのかは明らかではないが、以上のとおり、滋賀県警及びH警察官において原告に消音状態維持機能を知っていた旨の供述をするよう誘導することは十分可能であったものであるから、消音状態維持機能が同月14日の検証で初めて確認されたかのような証 拠関係となっていたとしても、前記イのとおり、消音状態維持機能については、およそ原告が知るはずもなく、それを知っていた旨の虚偽供述を自発的にする動機も見当たらない旨の認定を左右するものではない。 オ I検察官は、証人尋問において、滋賀県警から、原告が消音ボタンを押し続け犯行に及んだという供述を始め れを知っていた旨の虚偽供述を自発的にする動機も見当たらない旨の認定を左右するものではない。 オ I検察官は、証人尋問において、滋賀県警から、原告が消音ボタンを押し続け犯行に及んだという供述を始めた旨の供述書か供述調書を見せられ、 その時点では消音状態維持機能を知らなかったため、消音状態を連続させることができるのか確認するよう滋賀県警に指示したところ臨床工学技士の話により裏付けが取れた旨を供述する。しかしながら、前記のとおり、原告の供述はH警察官による不当な働きかけがみられることや、後記3のとおり、滋賀県警は証拠を選別して大津地検に送致していることからする と、前記エのとおり、原告が秘密の暴露をしたかのような外観を作出しようと、I検察官に真実を伝えていなかったものと推認されるから、I検察官が上記のような認識であることは、前記認定と矛盾しない。 ⑷ H警察官による原告の弁護人への信頼を失わせるような言動について前記1⒆、(24)、(30)に認定の事実のとおり、原告が弁護人との接見内容 に言及する供述書及び供述調書を複数作成していること、H警察官も証人尋問において認めているように、原告が接見後に一時的であっても否認に転じているにもかかわらず、その後の取調べで結局自白し、弁護人にはうそをついたなどといった供述書及び供述調書を繰り返し作成していること、前記⑵、⑶に認定のとおり、H警察官は原告の供述につき供述書をあえて作成するよ うに指示したり、消音状態維持機能の認識につき誘導したりするなど不当な 介入をしていることからすると、原告の本件再審の公判廷における、H警察官等から、両親が書いた弁護士を信用している旨の手紙は弁護士が書かせたもので、両親は弁護士ではなく警察を信用している、弁護士を信用するな、起訴前 とからすると、原告の本件再審の公判廷における、H警察官等から、両親が書いた弁護士を信用している旨の手紙は弁護士が書かせたもので、両親は弁護士ではなく警察を信用している、弁護士を信用するな、起訴前に接見に来るような弁護士は聞いたことがない、そんな弁護士は信用するな、などといわれたため、H警察官を弁護士や両親の手紙より信頼した 旨の供述(丙193)は信用することができる。 H警察官は、証人尋問において、一時的に否認に転じるだけですぐ自白に戻っており、不当な働きかけはしていない旨を供述する。しかしながら、すぐといっても数分というわけではない旨も供述している上、相応の働きかけがない限り、弁護人と接見し、否認に転じた被疑者に、虚偽の自白を再びさ せることは難しいことからすると、原告に対し、自白するように強く働きかけたことが推認される。それにもかかわらず、どのように働きかけをした結果自白を再びするに至ったのかついて具体的な供述はなく、取調べ方法の何がよかったのかもわからないと供述していること、本事件の捜査当時から20年近く経過している証人尋問時においても原告の取調べ経過について相応 に詳細な供述をしていることからすると、本事件の捜査については記憶が相当程度保たれているにもかかわらず、取調べが成功した理由という記憶に残っていてしかるべき体験について記憶が減退しているとも解し難いこと、前記⑶に認定のとおり、H警察官は、消音状態維持機能の認識について原告の供述を誘導しているにもかかわらず誘導を否定する旨の虚偽の供述をしてい ることを考慮すると、H警察官は、両親や弁護人に対する信頼を失わせるような不当な働きかけをしたことを糊塗しようと上記のような供述をしたものといえ、上記供述は信用できない。 ⑸ 否認する内容の供述調書を作成し 慮すると、H警察官は、両親や弁護人に対する信頼を失わせるような不当な働きかけをしたことを糊塗しようと上記のような供述をしたものといえ、上記供述は信用できない。 ⑸ 否認する内容の供述調書を作成しなかったことについてア前記1に認定の事実及び弁論の全趣旨によれば、原告が否認する内容の 供述をしている趣旨が含まれる供述調書は、I検察官が平成16年7月2 2日に作成した前回の検察官取調べではA氏を殺害するつもりはなかったと述べた旨の記載がある供述調書(前記1(27))のみであることが認められる。 イ刑訴法198条3項が、「被疑者の供述は、これを調書に録取することができる」と定めていることからすると、同法が、被疑者の供述を全て調 書に録取することを捜査機関に義務付けているものとは解されない。犯罪捜査規範177条は、取調べを行ったときは、特に必要がないと認められる場合を除き、被疑者供述調書を作成しなければならないと定めるものの、被疑者の供述を例えば逐語のような形で、その経過全てを録取しなければならない趣旨とは必ずしも解されず、供述が揺れ動いているような場合に、 それを逐一録取することまではせず、一区切りの取調べのうち最終供述に絞って録取するようなことを許容していないものとまでは解されない。 ウしたがって、前記⑷に認定のとおり、本件不利益供述後、原告は、一度否認に転じたとしても、最後まで否認を維持したことはなかったことからすると、H警察官が否認する内容の供述調書を作成しなかったこと自体を 直ちに違法とみることはできない。 しかしながら、前に説示したとおり、H警察官は、原告に対し、あえて供述書を作成させ、自発的に供述をしたかのような外観を作出した上で、不当な誘導及び働きかけをして原告に虚偽自白をさせ、こ できない。 しかしながら、前に説示したとおり、H警察官は、原告に対し、あえて供述書を作成させ、自発的に供述をしたかのような外観を作出した上で、不当な誘導及び働きかけをして原告に虚偽自白をさせ、これを維持させていることからすると、H警察官が原告の否認する内容の供述調書を作 成しなかったことは、原告がA氏殺害について少なくとも核心部分は一貫して供述している旨の外観を作出しようとする意図に基づくものと推認することができるから、上記のような取調べ経過のもとでは、原告が否認に転じてもその旨を録取しようとせず、原告に不当に働きかけて虚偽自白を維持させようとしたことは、事案の真相を明らかにするとの刑 訴法1条所定の目的に反する行為であったといえる。 ⑹ 起訴後の取調べ前記⑵、1(30)に認定のとおり、H警察官は、本件起訴後も原告を繰り返し取り調べ、公判で否認しても真意ではないなどといった内容の原告の供述調書を作成し、原告に供述書を作成させているところ、H警察官は、証人尋問において余罪捜査と原告の心情安定のための取調べであった、余罪につい ては、被害者である患者が認知症であったなどとして裏付けができず事件送致を見送り、情状送致をするにとどめた旨を供述する。 しかしながら、前記1(30)に認定のとおり、余罪についての供述書が作成されているのは平成16年8月10日までのことであり、それ以降は余罪について取り調べていたかどうかは明らかではない上、余罪につき具体的に裏 付け捜査をしていたことを認めるに足りる証拠はなく、余罪取調べは、起訴後の取調べをするための名目にすぎなかったことが強くうかがわれる。また、原告本人によれば、原告は心情不安定であったと認められるから、心情安定のために取調べを行う目的があったこと自体はあ 調べは、起訴後の取調べをするための名目にすぎなかったことが強くうかがわれる。また、原告本人によれば、原告は心情不安定であったと認められるから、心情安定のために取調べを行う目的があったこと自体はあり得るものの、心情安定のための取調べというのであれば、上記のような内容の供述調書を作成し、供 述書を作成させる必要はないのであるから、H警察官は、原告の心情を安定させることを奇貨として、原告の心情をコントロールして本件公訴事件の公判においても自白を維持させる目的があったことも強くうかがわれるものである。 以上からすると、上記のとおり、H警察官が本件起訴後も原告を繰り返し 取調べ、自白を維持する旨の供述調書の作成等をした事実は、H警察官が、原告の虚偽自白を維持させようと不当な働きかけをする意図を有していたことを裏付ける事実といえる。 ⑺ 小括以上からすると、H警察官は、原告に対し、あえて供述書を作成させ、原 告が自発的に供述したかのような外観を作出し、また、否認する内容の供述 調書を作成せず、原告の自白が少なくとも核心部分については一貫しているかのような外観を作出しつつ、消音状態維持機能の認識に関する虚偽供述を強く誘導の上で行わせ、また、弁護人に対する信頼を失わせるような言動をして原告の虚偽自白を維持させたことが認められるところ、このような取調べは、個人の基本的人権の保障を全うしつつ事案の真相を明らかにするとの 刑訴法1条所定の目的に明らかに反するものであって、当該取調べが社会通念上相当と認められる範囲を超えるものといえるから、国賠法1条1項上違法であると認められる。 3 争点⑵(滋賀県警が証拠を大津地検に送致しなかったことが国賠法1条1項上違法か)について ⑴ 刑訴法203条1項、211条、 のといえるから、国賠法1条1項上違法であると認められる。 3 争点⑵(滋賀県警が証拠を大津地検に送致しなかったことが国賠法1条1項上違法か)について ⑴ 刑訴法203条1項、211条、216条、246条によれば、司法警察員が犯罪の捜査をした場合は、いわゆる微罪処分の場合を除き、書類及び証拠物とともに被疑者又は事件を検察官に送致しなければならない旨を定め、同法247条により被疑者につき公訴を提起するかの判断は検察官が独占して行うこととされていること、後記7⑴に説示するとおり、検察官の公訴の 提起が国賠法1条1項上違法となるかを判断するに当たっては、検察官が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があるかどうかを判断することとなることからすると、警察官が捜査によって収集した証拠資料については、検察官において被疑者につき公訴を提起するかどうか を適切に判断するために、作成途中のメモや草稿など、捜査資料として完成しておらず、かつ、これらを基に清書等により完成した証拠がその後に作成されているものは例外的に送致しないことがあり得るとしても、全て検察官に送致されることが前提とされているものと解するのが相当である。 被告滋賀県は、滋賀県警が大津地検に送致しなかった書類は、不正確な内 容であったり、重複する内容であったりする書類や、未完成な書類、メモ的 な書類であって、犯罪事実の有無や事案の解明に必要なものとは判断できないものについて送致しなかった旨を主張するが、証拠内容の信用性判断やその必要性判断は上記のとおり、公訴の提起をするか検討するに当たって検察官において独占的に行われるべきものであり、警察の判断においてこれを送致 て送致しなかった旨を主張するが、証拠内容の信用性判断やその必要性判断は上記のとおり、公訴の提起をするか検討するに当たって検察官において独占的に行われるべきものであり、警察の判断においてこれを送致しないとの判断をすることは刑訴法上想定されておらず、許されないもの と解される。 ⑵ H報告書及び本件供述書が大津地検に送致されていないことは当事者間に争いがない。 前記1⑹に認定のとおり、H報告書については、捜査書類の様式に従って作成されており、H警察官の署名、押印があり、訂正印も押印されているこ とからすると、犯罪捜査報告書として一度完成しており、作成途中のメモや草稿に当たるものではない。滋賀県警は、平成16年7月17日、G教授の供述調書を作成しているが、これはH警察官ではない他の警察官が別の機会にG教授から供述を録取したものであり(丙78)、H報告書とは別の捜査によって作成された証拠であるから、この供述調書はH報告書を基にこれを 清書等して完成された証拠資料ではなく、H報告書がメモ、草案であることを意味するものではない。 また、前記1、2⑸アに認定の事実及び弁論の全趣旨によれば、本件供述書については、これと同内容の原告の供述調書及び供述書が作成されたことはないから、本件供述書は作成途中のメモや草稿には当たらないものといえ る。 したがって、H報告書及び本件供述書は、作成途中のメモや草稿には当たらないから、滋賀県警は、大津地検に送致する必要があった証拠といえる。 ⑶ 次に、H報告書及び本件供述書が本件公訴事件に与えた影響について検討すると、前記1⑹に認定のとおり、H報告書は、A氏は常に痰の吸引が必要 であったことが示されているが、事故発生時の状況から痰詰まりを死因から 除外できる旨と、A氏が痰 響について検討すると、前記1⑹に認定のとおり、H報告書は、A氏は常に痰の吸引が必要 であったことが示されているが、事故発生時の状況から痰詰まりを死因から 除外できる旨と、A氏が痰詰まりによる酸素供給低下状態で心臓停止したことも十分考えられる旨が記載されており、一件矛盾するような記載にみえるものの、解剖所見からは痰詰まりにより死亡した可能性は十分あるものの、解剖所見以外の事故発生時の状況を考慮すると痰詰まりが死因であることは除外できると整合的に解釈することが十分可能である。このように解釈した 場合は、解剖所見という客観的事情からは、痰詰まりが死因であることが除外できないことを示すものといえ、G鑑定書の死因鑑別が、解剖所見以外の事情を考慮して行われたものであり、専ら医学的見地に基づいた場合は、A氏の死の原因が本件呼吸器の管の外れにあるとは判断できないことを相応にうかがわせる捜査資料といえる。また、前記前提事実⑹のとおり、本件供述 書は、原告が本件呼吸器の管が外れたことにつき故意がなかったことを供述するものであり、本件呼吸器の管を外したという供述の根幹部分につき原告の供述が変遷していることを示す証拠であるから、原告の自白の信用性に影響を与える捜査資料といえる。 他方で、H報告書は、H警察官の捜査報告書にすぎず、G鑑定書の作成か ら10か月程度経過してから作成されており(前提事実⑶、⑷)、G教授に内容を確認してもらったものでもないことから(証人G、証人H)内容の信用性について一定の留保が付く。また、本件供述書は、本件不利益供述をした日と同日に作成されており(前提事実⑹)、原告がA氏の殺害の自白に移行する段階の供述にすぎないと判断される可能性がある。 後記7に説示するとおり、本件起訴時に大津地検に送 件不利益供述をした日と同日に作成されており(前提事実⑹)、原告がA氏の殺害の自白に移行する段階の供述にすぎないと判断される可能性がある。 後記7に説示するとおり、本件起訴時に大津地検に送致されていた捜査資料からすると、G鑑定書に信用性を認め、これを根拠に本件呼吸器からの酸素供給が何らかの理由に途絶したことにより急性の低酸素状態に陥り、これにより急性の心停止に至って死亡したと判断し、本件異常発見当時、本件呼吸器が正常に作動していたこと、本件呼吸器のアラームが鳴っていなかった ことに加えて、原告が自発的にA氏の殺害を供述し始めたこと、本件呼吸器 の管を外してA氏を殺害したという根幹部分については自白が一貫しているようにみえることから、自白に任意性、信用性があると判断して、原告がA氏を殺害したことにつき有罪と認められる嫌疑があると判断することには相応の合理性がある。 そうすると、H報告書及び本件供述書が大津地検に送致され、本件公訴事 件の公判廷において証拠調べされていたとしても、これらをもってI検察官が本件起訴をするに至らなかったとか、大津地方裁判所が本件確定判決と異なり、無罪判決をしたとまでいえるかは明らかとはいえない。 ⑷ しかしながら、前記1(31)に認定し、後記7⑶ウに説示するとおり、本件確定判決は、G鑑定書が信用できることと原告の自白に任意性、信用性が認 められることをその判断の核としているところ、前記2に認定のとおり、原告の虚偽自白についてはH警察官の違法な働きかけにより作出、維持されたものであることからすると、H警察官の違法な働きかけがなく、本件不利益供述後、原告の虚偽自白が維持されていない状態で、かつ、H報告書及び本件供述書が送致され、証拠調べされていたとすれば、本件不利益供述の信用 ことからすると、H警察官の違法な働きかけがなく、本件不利益供述後、原告の虚偽自白が維持されていない状態で、かつ、H報告書及び本件供述書が送致され、証拠調べされていたとすれば、本件不利益供述の信用 性に重大な疑義が生じるとともに、G鑑定書におけるA氏の死因判断にも疑義が生じていたものと解されるから、I検察官において起訴に及ぶことはなかったものと認められる。 ⑸ 前記⑶に認定のとおり、H報告書及び本件供述書は、G鑑定書や原告の自白の信用性を動揺させる証拠書類であるから、滋賀県警は、原告がA氏を殺 害したとの事件の見立てを維持しようと意図的にこれらを送致しなかったことが相応に疑われるものの、そのような不当な意図があったとまでは断定できず、証人Jが供述するとおり、不正確であったり、未完成であったりする書類は送致する必要はないと誤信し、H報告書及び本件供述書は不正確だったり、未完成であったりするので送致する必要はないと誤って判断したため、 送致しなかった可能性もないとはいえない。 しかしながら、これらの証拠書類は、前記⑵に説示したとおり、滋賀県警は、刑訴法上検察官に送致する必要があった証拠書類であるところ、前記⑷に認定のとおり、H警察官による違法な取調べがなく、かつ、これらの証拠書類が本件公訴事件の公判廷に提出されていれば、本件確定判決の結論が変わっていたと認められることからすると、滋賀県警がこれらを送致すること を怠ったことは、これによって原告は適切な判決が受けられなくなったものであり、個人の基本的人権の保障を全うしつつ事案の真相を明らかにするとの同法1条所定の目的に反するものであるから、滋賀県警が上記のとおり誤った判断をしたとすればそれ自体が捜査対象者である原告に対して負う職務上の法的義務に違背する判 うしつつ事案の真相を明らかにするとの同法1条所定の目的に反するものであるから、滋賀県警が上記のとおり誤った判断をしたとすればそれ自体が捜査対象者である原告に対して負う職務上の法的義務に違背する判断であるといえる。したがって、滋賀県警がH報 告書及び本件供述書を大津地検に送致することを怠ったことは、その職務上の法的義務に違背する不作為といえ、滋賀県警の主観を問わず、国賠法1条1項上違法であると解するのが相当である。 4 争点⑶(滋賀県警がG教授に対し国賠法1条1項上違法な働きかけをしたか)について 原告は、G教授がA氏が痰詰まりにより死亡した可能性について不自然に供述を変遷させているところ、G教授にはそのような供述を変遷させることについて利害関係がないから、滋賀県警が不当な働きかけをしたことが原因であると推論がするのが最も合理的である旨を主張する。 しかしながら、人が一度表明した意見に誤りを認めることに忌避感を覚える ことはよくあることであり、専門家においても、その専門性に基づき一度表明した見解について、事後的に誤りを認めることに忌避感を覚えたとしても、専門家も人である以上は自然なことといえる。 そして、G鑑定書についてはその検討に不十分なところがあり、本件再審判決でもA氏の死亡原因の判断についてその信用性を否定されているところ(甲 1)、G教授においては、G鑑定書を含めた自分が本事件について述べた一連 の意見が否定されることに忌避感を覚え、これに間違いないことを示そうとして不自然に供述が変遷してしまった可能性は否定できない。 したがって、G教授の供述が変遷しているからといって、滋賀県警がG教授に不当な働きかけをしたことがその原因とは限らず、そのように推認することはできず、他にそのような不当な た可能性は否定できない。 したがって、G教授の供述が変遷しているからといって、滋賀県警がG教授に不当な働きかけをしたことがその原因とは限らず、そのように推認することはできず、他にそのような不当な働きかけをしたことを認めるに足る証拠はな い。 5 争点⑹(I検察官が、滋賀県警をして及び自ら原告の否認調書を作成しなかったことが国賠法1条1項上違法か)について事案に鑑み、争点⑹、⑺につき争点⑷、⑸に先行して判断することとする。 ⑴ 前記2⑸に説示したとおり、刑訴法198条3項は被疑者の供述を全て調 書に録取することを捜査機関に義務付けているものとは解されず、犯罪捜査規範177条も、供述が揺れ動いているような場合に、それを逐一録取することまではせず、一定区切りの取調べのうち最終供述に絞って録取するようなことを許容していないものとまでは解されない。 前記2⑷に認定のとおり、本件不利益供述後、原告は、一日の取調べにお いて、H警察官の不当な働きかけが原因であったにせよ、最後まで否認を維持したことはなかったことからすると、I検察官においては、一定区切りの取調べのうち最終供述については録取されていると判断したとしても本事件の捜査当時の状況からすると相応の合理性が認められ、一日の取調べにおける原告の供述過程を逐一録取するよう指示する義務があったとはいえない。 また、前記1(27)に認定のとおり、I検察官は、平成16年7月22日の原告の供述調書において、原告が、前回の検察官取調べではA氏を殺すつもりはなかったと述べた旨を録取しており、原告の供述過程を一応は録取したものといえるところ、原告が、I検察官に対し、長時間否認供述を維持したことを認めるに足る証拠はないことからすると、これを超えてI検察官にお いて調書に録取す り、原告の供述過程を一応は録取したものといえるところ、原告が、I検察官に対し、長時間否認供述を維持したことを認めるに足る証拠はないことからすると、これを超えてI検察官にお いて調書に録取する義務があるといえるほどの否認供述をI検察官に対し原 告がしたとは認められない。 ⑵ 被疑者の供述過程の記録化が法制化されたのは、平成28年法律第54号により刑訴法301条の2が制定され、取調べの録音、録画が義務化されたことによるものであり、平成21年頃から、捜査機関において録音、録画は試行されてはいたものの、裁判員制度対象事件のうち自白事件から、否認事 件へと順次対象を拡大して試行していったことからすると、本事件の捜査当時に、被疑者の供述過程を逐一記録化することが必要であると検察官において認識していたとは認められないから、I検察官において、原告の供述を逐一調書に録取するよう滋賀県警に指示し、また、自らも逐一調書に録取すべきと判断し得たものともいえない。 ⑶ 以上からすると、I検察官に、本事件の捜査当時、滋賀県警をして及び自ら原告の否認調書を作成する法的義務があったとは認められない。 6 争点⑺(大津地検に、滋賀県警に対し捜査資料を全て送致させるように監督しなかったという国賠法1条1項上違法な不作為があるか)について⑴ I検察官が証人尋問において供述するとおり、検察官は、作成途中のメモ 的なものは格別、完成した捜査資料については全て送致されると理解しており、本事件についても同様であると理解していたとしても、不合理とはいえない。原告が指摘する報道(甲44の1ないし44の3)は、いずれも本件起訴よりも後のものであり、本件起訴当時、I検察官において、滋賀県警が送致する捜査資料を選別していることを認識していたことを示 えない。原告が指摘する報道(甲44の1ないし44の3)は、いずれも本件起訴よりも後のものであり、本件起訴当時、I検察官において、滋賀県警が送致する捜査資料を選別していることを認識していたことを示す事情とはい えない。 ⑵ また、原告が指摘するH報告書は、その存在を検察官において予想し得る捜査報告書とはいい難いし、本件供述書についても、多数の原告の供述書が送致されていたことからすると、本件供述書の存在を具体的に想定することは困難である。 滋賀県警が、前記3に認定のとおり、不当な意図にせよ、誤った判断に基 づくものにせよ、意識的にH報告書及び本件供述書を送致していなかったことからすると、大津地検が、抽象的に全ての捜査資料を送致するように指示したとしてもH報告書及び本件供述書が送致されたとは限らないことからすると、これらの存在を大津地検において具体的に想定し得ない以上、これらを送致させるように具体的に指示することができるとは考えられない。 したがって、大津地検に、H報告書及び本件供述書を送致させるように指示、監督する具体的な義務を観念することはできず、結果回避可能性が認められないから、これらの指示、監督義務違反があったともいえない。 7 争点⑷(本件起訴が国賠法1条1項上違法か)について⑴ 公訴の提起が国賠法1条1項上違法となる場合について 刑事事件において無罪の判決が確定したというだけで直ちに公訴の提起が違法となるということはなく、公訴提起時の検察官の心証は、その性質上、判決時における裁判官の心証と異なり、その提起時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば足りるものと解されるから(最高裁昭和49年(オ)第419号同53年10月 20日第二 異なり、その提起時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば足りるものと解されるから(最高裁昭和49年(オ)第419号同53年10月 20日第二小法廷判決・民集32巻7号1367頁参照)、公訴の提起時において、検察官が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば、当該公訴の提起は国賠法1条1項上の違法性を欠くものと解するのが相当である。したがって、公訴の提起後その追行時に公判廷に 初めて現れた証拠資料であって、通常の捜査を遂行しても公訴の提起前に収集することができなかったと認められる証拠資料をもって公訴提起の違法性の有無を判断する資料とすることは許されないものというべきである(最高裁昭和59年(オ)第103号平成元年6月29日第一小法廷判決・民集43巻6号664頁参照)。 ⑵ 原告の自白の任意性、信用性について ア前記1に認定の事実及び証人Iからすると、滋賀県警は、当初、本事件につき業務上過失致死の嫌疑で捜査を進めており、殺人事件という見立てで捜査はしていなかったところ、原告が、平成16年6月末から同年7月初めにかけて、本件呼吸器の管を外したともとれる供述を始めたため、そこから殺人事件の可能性を検討するようになり、その後、同月2日に、原 告が本件不利益供述をするに至ったこと、これらのことは、I検察官においても認識していたことが認められる。 捜査機関が殺人事件という見立てをして捜査を進めていたわけではないのに被疑者が殺害した旨の供述を始めた場合、捜査機関の誘導があったとは解し難いから、そのような被疑者の供述については自発的にされた ものと解するのが通常 立てをして捜査を進めていたわけではないのに被疑者が殺害した旨の供述を始めた場合、捜査機関の誘導があったとは解し難いから、そのような被疑者の供述については自発的にされた ものと解するのが通常であり、人を殺害したという重大な内容を自発的に虚偽に供述することは通常ではなく、不自然であるから、そのような不自然な虚偽供述をする特段の事情がうかがわれない限り、基本的には信用性が高い供述であると判断することは相応の合理性を有するものである。 イ原告は、H警察官に恋愛感情を抱くに至っており、その関心を引くためにそのような虚偽供述をするに至った旨を供述するところ(丙193)、当時被疑者とその取調べ担当という対立的関係にあった警察官(前記1⑺)に対し恋愛感情を抱くことは通常とはいえないし、仮に、取調べ担当者に恋愛感情を抱くに至ったからといって、その関心を引くために殺人という 重大な内容の虚偽供述に及ぶことも通常とはいえない。 原告は、軽度知的障害、発達障害、愛着障害があったことや(前記1(34))、H警察官による連日の取調べ(丙198ないし228)によって異常な精神状態に陥ったことの影響もあって、そのような通常ではない行動に至ったものと解される。しかしながら、専門医でない者が、ある 者が精神障害や発達障害であると判断することは極めて困難であり、ま た、適当ではないこと、本事件の捜査当時、原告が上記軽度知的障害等の診断を受けていたことは証拠上認められず、また、素人にも比較的察しやすい知的障害についても原告は軽度のものにとどまっていた上、本事件時、原告が看護助手として一定の就労ができていたこと(前提事実⑵)、捜査によって特に原告の高等学校の成績が極端に悪かったことはな い旨を確認していたこと(丙296)からす どまっていた上、本事件時、原告が看護助手として一定の就労ができていたこと(前提事実⑵)、捜査によって特に原告の高等学校の成績が極端に悪かったことはな い旨を確認していたこと(丙296)からすると、I検察官が証人尋問において供述するとおり、原告に知的障害があるとまで認識することができたとも解し難い。 また、本事件の捜査当時、原告は、H警察官に対し好意を言葉にして伝えたことはなく、態度で示すにとどまったというのであり(丙193)、 原告は、呼出しを受けたわけではないのに警察署に複数回出頭したり、H警察官宛の手紙を他の警察官に預けたりした上、自殺未遂を装って警察署を訪れるなどしており(前記1⑼)、後に本件再審公判廷において原告が述べるとおりこれらはH警察官と会ったりその関心を引いたりするための行動であったと認められるから(丙193)、原告がH警察官に対 し恋愛感情を抱いていたことをうかがわせる事情があったとはいえるものの、これらの行動をもって、恋愛感情まで抱いていることを直接的に、又は強く指し示す事情とはいえない。また、原告の供述書、供述調書には、いろいろなことを詳しく聞いてくれるH警察官のことを信用する(乙2の102、丙21)、H警察官は真剣になって私の話を聴き、私の ことを考えてくれて嬉しかった(乙2の72、丙23)、H警察官は親身になって事情を聴いてくれた、初めて原告のことを理解しようとしてくれている人がいると思ったなどと(乙2の76、丙24)、原告のことでこんなに真剣になってくれた人は初めて(乙2の44、丙8)、H警察官は、原告の言うことを聞いて信じてくれようとしていた、原告のために なんとかしてくれようとしていることが分かり、初めて信用できる人に 会った気持ちだった(乙2の58、丙84 H警察官は、原告の言うことを聞いて信じてくれようとしていた、原告のために なんとかしてくれようとしていることが分かり、初めて信用できる人に 会った気持ちだった(乙2の58、丙84)、H警察官は原告のことを見捨てようとはせず、一生懸命に私の話を聞いてくれた、こんなに私のことを思って話を聞いてくれる人は初めて(乙2の54、丙60)などと、原告がH警察官へ信頼や一定の好感情を抱いていることを示す内容の記載があるものの、恋愛感情を抱いていることまで直接的に、又は強く指 し示す記載とはいえない。 上記のとおり、取調べ担当者に対して恋愛感情を抱くことは通常とはいえず、その理由の一つと解される原告の知的障害等についてI検察官において認識し、又は認識し得たといえないことからすると、I検察官において、原告が、H警察官に信頼感を抱いていたことまでは認識し得た としても、それを超えて恋愛感情を抱いており、その関心を引くために殺人という重大な事実を虚偽供述したとまで推察し得たとは認められない。 ウ前記1に認定の事実及び証拠(乙2の54、丙60、乙2の87、2の88、2の72、丙23、乙2の59、2の89、2の91、2の63、 丙58、乙2の21、丙48、24、乙2の64、丙59、乙2の73、丙61、乙2の41、丙5、乙2の42、丙6、乙2の60、2の43、丙7、乙2の61、2の44、丙8、乙2の108、2の47、2の48、丙9、乙2の49、丙10、乙2の77、丙63、乙2の51、丙17、乙2の52、丙11、乙2の53、丙12、乙2の75、2の57、丙1 4。なお、証拠の摘示順は時系列によっている。)によれば、原告が本件不利益供述をした平成16年7月2日後に作成された原告の供述書及び供述録取書には、I検察官作成 、乙2の75、2の57、丙1 4。なお、証拠の摘示順は時系列によっている。)によれば、原告が本件不利益供述をした平成16年7月2日後に作成された原告の供述書及び供述録取書には、I検察官作成の供述調書及び勾留質問調書も含め、本件呼吸器の管を外してA氏を殺害したという部分についてはこれと異なる記載はなく、また、真犯人であったとしても自己保身等から供述に一定の変遷 があり得ること、前記1に認定の原告の供述の変遷過程は、刑事責任を免 れるために弁解をしたことにより変遷していると解することも可能な内容であったことからすると、I検察官からみれば、根幹部分については原告の供述は一貫しているようにみえたものと認められる。 エ消音状態維持機能の認識についての原告の供述についてみると、前記1(21)ないし(23)に認定のとおり、滋賀県警は、原告が消音状態維持機能に ついて供述した後に消音状態維持機能について記載した検証調書を作成していることからすると、I検察官からしてみれば、証人尋問において供述するとおり、消音状態維持機能についての原告の認識は一応裏付けが取れており、原告が消音状態維持機能を明確には認識していなかった可能性はあるものの、消音ボタンを押してアラームがまた鳴らないうちにまた押す ことを単純に繰り返すことはあり得、また、原告の殺害自白の経緯等からして原告の自白の信用性を否定する事情ではないと判断したことも、合理性を欠くものとはいえない。 オ以上からすると、I検察官において、原告が、自発的にA氏殺害の供述を始めていることから、不自然な虚偽供述をする特段の事情がうかがわれ ない限り基本的には信用性が認められることを前提に、原告の殺害を認める供述の核心部分は一貫しているようにみえたこと、原告に殺人という いることから、不自然な虚偽供述をする特段の事情がうかがわれ ない限り基本的には信用性が認められることを前提に、原告の殺害を認める供述の核心部分は一貫しているようにみえたこと、原告に殺人という重大な内容の虚偽自白をするような事情があったと認識し、又は推察していたとも認められないことからすると、原告が、本件呼吸器の管を外してA氏を殺害した旨の不自然な虚偽供述をする特段の事情がうかがわれないと して、原告の自白に任意性、信用性を認めたことには、本件起訴当時の捜査資料からみると相応の合理性があったものといえる。 カ前記5、6に説示したとおり、大津地検において、原告の否認調書を逐一作成させるよう指導したり、原告の供述書等を送致させるように監督したりしなかったことにつき、国賠法1条1項上違法な不作為であるとはい えないことを考慮すると、現に作成していたもの以外の原告の否認調書及 び本件供述書については通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料には当たるとはいえないから、同証拠資料を勘案すれば原告の自白に任意性、信用性を認めることはなかったとも解せない。 ⑶ G鑑定書の信用性についてア前記1⑶に認定及び本件再審の判決が指摘するとおり、G鑑定書は、① 本件呼吸器の停止、管の外れ等に基づく酸素供給欠乏以外の原因によるA氏の死亡の可能性について具体的にどのような検討をしてこれを除外鑑別したのか判断できる記載が十分になく、②また、本件事歴欄に記載があるとおり、本件異常発見時、本件呼吸器の管が外れているというA氏の遺体からは直接判別できない事情を前提に作成されたものであり、その前提が ない場合にも、上記酸素供給欠乏の原因が本件呼吸器の管が外れたことによるものと判断できる根拠の記載もないから、これのみでA からは直接判別できない事情を前提に作成されたものであり、その前提が ない場合にも、上記酸素供給欠乏の原因が本件呼吸器の管が外れたことによるものと判断できる根拠の記載もないから、これのみでA氏が本件呼吸器による酸素供給欠乏により死亡したとか、酸素供給欠乏の原因が本件呼吸器の管が外れたことによるものであることを認定するに十分な証拠とはいえない(甲1、乙2の13、丙64)。 イしかしながら、①についてみると、死因鑑別というのは法医学者、医師による高度に専門的な判断であり、本件再審の判決も、複数の鑑定意見を踏まえて本件呼吸器による酸素供給欠乏以外の原因として低カリウム血症に起因する致死性不整脈、慢性閉塞性肺疾患、冠動脈狭窄、肺水腫等を原因とする致死性不整脈を想定するに至っていることからすると(甲1、乙 5の6ないし5の16)、医学の専門家ではないI検察官が、証人尋問において供述するとおり、前記1⑶アのとおり一定の根拠を記載した上で疾病を原因とする心停止ではない旨の判断をしたG鑑定書に信用性を認めたことには相応の合理性があったものといえる。 ウ次に、②についてみると、前記1(31)に認定のとおり、本件確定判決は、 G鑑定書により、本件呼吸器からの酸素供給が何らかの理由によって途絶 したことにより急性の低酸素状態に陥り、これにより急性の心停止に至って死亡したと認めつつも、G鑑定書によってのみ酸素供給の途絶原因が本件呼吸器の管が外れたことにあると判断したわけではなく、本件異常発見当時、本件呼吸器が正常に作動していたこと、本件呼吸器のアラームが鳴っていなかったことに原告の自白を考慮して管の外れを認定している。 前記1⑸、(21)、(23)のとおり、本件呼吸器の動作自体に異常がなかったことは確認され いたこと、本件呼吸器のアラームが鳴っていなかったことに原告の自白を考慮して管の外れを認定している。 前記1⑸、(21)、(23)のとおり、本件呼吸器の動作自体に異常がなかったことは確認されており、前記1⑵、⑷、⒇、(23)のとおり、本件呼吸器のアラーム音についてはA氏の病室外からも聞こえる状態であったのに、原告以外の者については、入院患者の付添看護者も含めて本件異常発見当時本件呼吸器のアラームが鳴っていなかったと一致して供述して いるところ、これらのことは本件起訴当時の捜査資料からI検察官も認識していたと認められることに証人Iを総合すると、I検察官においても、G鑑定書を無批判に信用してこれのみ根拠にA氏が本件呼吸器の管の外れを原因とする酸素供給欠乏によって死亡したと判断したわけではなく、本件確定判決と同様に、G鑑定書を基礎に、上記の事情や前記⑵ に説示したとおり任意性、信用性が認められると判断した原告の自白も含めてA氏の死因を判断したものと解され、本件起訴当時の捜査資料に照らせば、そのような判断は相応の合理性を有するというべきである。 エ以上に対し、原告は、①につき、G鑑定書には、A氏の遺体はカリウムイオン値が低値で不整脈を生じ得るとの結果が記されていたのに、I検察 官において、低カリウム血症による致死性不整脈の可能性をG教授等に問い合わせたり医学文献を調査したりしなかった違法がある旨を主張する。 しかしながら、G鑑定書にはA氏の血液中のカリウムイオン値が1.5ミリモルであり、不整脈を生じ得ること、カリウムイオン値が低値であることの記載はあるが、心停止が生じ得る値であることまでの記載はな い(乙2の13、6、丙64)。不整脈が心停止の原因となり得るとして も、必ず心停止に至るものではない 値が低値であることの記載はあるが、心停止が生じ得る値であることまでの記載はな い(乙2の13、6、丙64)。不整脈が心停止の原因となり得るとして も、必ず心停止に至るものではないところ、I検察官は医学の専門家ではないから、仮に不整脈が心停止の原因となり得ることについて常識として認識していたとしても、上記カリウムイオン値が心停止を引き起こすほどの低値である可能性を認識しなかったとしても自然であり、かつ、前記イのとおり、G鑑定書においては、疾病による心停止の可能性を一 定の根拠を記載した上で否定していることからすると、G教授その他の医師に確認したり、医学文献を調査したりすることが通常要求される捜査であったとはいえない。 オ原告は、②につき、痰詰まりによる酸素供給低下の可能性を捜査しなかった違法がある旨を主張する。 しかしながら、原告が主張する、本件呼吸器に設定されたアラームが吹鳴する圧力値が推奨値よりも高く、その結果、酸素供給途絶に至らず、アラームが吹鳴しない程度の痰詰まりによる酸素供給停止の可能性については、本件呼吸器についての鑑定報告書(前記1⑸)、実況見分調書(前記1(21))及び検証調書(前記1(23))にはアラームの設定値の推 奨値やアラームが吹鳴しない程度の痰詰まりの可能性についての記載はないことからすると、I検察官において想定することは困難であったといえる。前記ウに説示したとおり、I検察官は、G鑑定書を基礎に、本件異常発見当時本件呼吸器のアラームが鳴っていなかったなどの事情や原告の自白も考慮して判断したものと解されるところ、上記のような特 異な痰詰まりの可能性を想定し得なかった以上、以上のようなI検察官の判断に相応の合理性が認められることに変わりはない。 ⑷ 小括以上か 慮して判断したものと解されるところ、上記のような特 異な痰詰まりの可能性を想定し得なかった以上、以上のようなI検察官の判断に相応の合理性が認められることに変わりはない。 ⑷ 小括以上からすると、I検察官において、G鑑定書に信用性を認め、これを根拠に本件呼吸器からの酸素供給が何らかの理由で途絶したことにより急性の 低酸素状態に陥り、これにより急性の心停止に至って死亡したと判断し、本 件異常発見当時、本件呼吸器が正常に作動していたこと、本件呼吸器のアラームが鳴っていなかったことに加えて、原告の自白に任意性、信用性があると判断して、原告がA氏を殺害したことにつき有罪と認められる嫌疑があると判断したことには相応の合理性があるといえる。したがって、本件起訴時において、I検察官が現に収集した証拠資料を総合勘案して合理的な判断過 程により原告を有罪と認めることができる嫌疑があったというべきであり、本件起訴に国賠法1条1項の違法があるとはいえない。 8 争点⑸(I検察官が、滋賀県警による原告の違法な取調べを是正しなかったことが国賠法1条1項上違法か)について⑴ 起訴前の取調べについて ア原告は、I検察官は原告が供述弱者であることを認識していたし、原告がH警察官に対する恋愛感情を抱いていることをうかがわれる記載が原告の供述調書及び供述書に多数存在することから、I検察官は、H警察官が原告の性格特性や恋愛感情に乗じてその供述をコントロールしようとしていたことを推認できたから、これを是正する義務があった旨を主張する。 しかしながら、前記7⑵イに説示したとおり、本事件についての捜査当時、I検察官において、原告が軽度知的障害、発達障害、愛着障害であったことや、H警察官に恋愛感情を抱いていたと推察し得たとは認 しかしながら、前記7⑵イに説示したとおり、本事件についての捜査当時、I検察官において、原告が軽度知的障害、発達障害、愛着障害であったことや、H警察官に恋愛感情を抱いていたと推察し得たとは認められないから、原告の上記主張は前提を欠き、理由がない。 イまた、原告は、H警察官による原告の弁護人依頼権、秘密交通権を侵害 する取調べを原告の供述書等を閲覧することによって認識することができたのに、これを是正する義務を怠った旨を主張する。 しかしながら、捜査機関が働きかけによらず、被疑者が自ら接見内容を取調べにおいて供述し始めた場合に、これを捜査機関が積極的に中止させる法的義務があるとまでは解されないところ、原告の供述書等(乙2 の73、2の95、2の98ないし2の100、2の102、丙20、 21、27、28、61、62)をみると、弁護人との接見内容や弁護人にはうそをついた旨の供述が記載されているものの、H警察官が積極的に弁護人との接見内容を聞き出したことや弁護人を誹謗中傷したことを指し示す記載があるわけではなく、これらの供述書等の存在をもって、I検察官において、H警察官が、原告の弁護人依頼権、秘密交通権を侵 害する取調べをしたことを容易に認識できる事情とはいえない。 原告は、弁護人の説得によって否認に転じた被疑者が、取調べ担当者に対し自発的に弁護人の説得によって考えが変わったから否認するなどと説明することは考え難いから、否認に転じた理由を明らかにするよう接見内容を聞き出すのが通常と主張する。 しかしながら、弁護人との接見があることは取調べ担当者においても認識し得るのであり、その後の取調べで否認に転じた場合は接見に理由があることは容易に推察できるのであるから、なぜ否認に転じたのか理由を問うことは ら、弁護人との接見があることは取調べ担当者においても認識し得るのであり、その後の取調べで否認に転じた場合は接見に理由があることは容易に推察できるのであるから、なぜ否認に転じたのか理由を問うことは十分考えられるものの、弁護人との接見内容を積極的に聞き出すことが通常とまではいえない。むしろ、前記7⑵イのとおり、I 検察官は、原告のH警察官に対する信頼感を認識していたことからすると、H警察官が否認に転じた理由を尋ねたのに対し、原告がその信頼感から自発的に接見内容に言及するに至ったと考えたとしても合理性を欠くとまではいえず、原告の上記主張する事情は、H警察官による原告の弁護人依頼権、秘密交通権を侵害する取調べをI検察官が認識し得たこ とを強く指し示す事情とはいえない。 以上からすると、H警察官の違法な取調べを直接覚知していないI検察官において、H警察官が、原告に対し、弁護人との接見内容を積極的に聴取したことや、弁護人を誹謗中傷したことを認識し得たとはいえず、I検察官においてH警察官の取調べを是正することが可能であったとは 認められない。 ⑵ 起訴後の取調べについてア刑訴法197条は、捜査については、その目的を達するため必要な取調べをすることができる旨を規定しており、同条は捜査官の任意捜査について何ら制限をしていないから、同法198条の「被疑者」という文字にかかわりなく、起訴後においても、捜査官はその公訴を維持するために必要 な取調べを行うことができるものであり、起訴後においては被告人の当事者たる地位に鑑み、捜査官が当該公訴事実について被告人を取り調べることはなるべく避けなければならないところであるが、これによって直ちにその取調べを違法とすべきとはいえない(最高裁昭和36年(あ)第1766号同年1 、捜査官が当該公訴事実について被告人を取り調べることはなるべく避けなければならないところであるが、これによって直ちにその取調べを違法とすべきとはいえない(最高裁昭和36年(あ)第1766号同年11月21日第三小法廷決定・刑集15巻10号1764頁参 照。)。 また、起訴後であっても、公訴事実以外の事実についての取調べは、任意捜査として一般に許容されている。 イ証人I及び証人Hによれば、H警察官は、原告が精神的に不安定になっていたためにこれを安定させるためと余罪の取調べのためという名目で本 件起訴後に原告を取り調べており、滋賀県警から大津地検にその旨が連絡されていたものと認められる。 前記7⑵イに説示したことからすると、I検察官は、証人尋問において供述するとおり、原告とH警察官との間には一定の信頼関係があると認識していたものと認められる。そうすると、H警察官において、公訴を 維持するために原告の心情を安定させるとともに、余罪の捜査をするために必要だとして原告の取調べを要請された場合、当時の状況においてI検察官においてこれを違法であると判断することは困難であり、また、前記1(30)に認定のとおり、H警察官は、現に、余罪について原告の供述調書及び供述書を作成し、又は作成させていたことからすると、I検 察官において、H警察官が不当な目的で起訴後に原告を取り調べようと し、取り調べたことを認識し得たとまではいえない。 また、大津地検検察官は、本件公訴事件において、上記起訴後の取調べによって作成された原告の供述調書等を証拠請求していないことからすると(乙2の1、丙33)、原告の心情の安定を超えて、本件公訴事件において起訴後の取調べによって得た原告の供述を用いるつもりがあった とも直ちにはいえない。 調書等を証拠請求していないことからすると(乙2の1、丙33)、原告の心情の安定を超えて、本件公訴事件において起訴後の取調べによって得た原告の供述を用いるつもりがあった とも直ちにはいえない。 ウ以上からすると、I検察官において、H警察官の原告に対する本件起訴後の取調べを制限する義務を負っていたとまではいえない。 9 争点⑻(本件特別抗告が国賠法1条1項上違法か)について⑴ 再審開始決定に検察官が特別抗告をすること自体が国賠法1条1項上違法 となるかについて原告は、再審開始決定に検察官が特別抗告をしたこと自体が国賠法1条1項上違法である旨を主張する。しかしながら、刑訴法450条は、再審開始の決定に対し即時抗告ができる旨を定めるところ、再審開始決定に対し同法439条1項2号ないし同項4号の者が即時抗告をすることは通常想定され ないことからすると、検察官による即時抗告を許容した規定と解するのが相当であるから、同法は、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを一般論として排除していないものといえる。加えて、同法433条1項は、特別抗告の主体を同法439条1項2号ないし同項4号の者及びその弁護人に限定していないことからすると、現行法下において、検察官が再審開始決定に特 別抗告をすることは刑訴法上想定された行為であり、同特別抗告をすること自体が同法に反し、ひいては国賠法1条1項上も違法となるとは解せない。 したがって、原告の上記主張には理由がない。 ⑵ 再審開始決定に対する検察官の特別抗告が国賠法1条1項上違法となる場合について 特別抗告についても、最高裁判所は、刑訴法411条を準用することがで きるものとされており(最高裁昭和36年(し)第38号同37年2月14日大法廷決定・刑集16巻2号85 ついて 特別抗告についても、最高裁判所は、刑訴法411条を準用することがで きるものとされており(最高裁昭和36年(し)第38号同37年2月14日大法廷決定・刑集16巻2号85頁参照)、再審開始の決定に対する検察官による特別抗告についても、最高裁判所は、平成29年3月31日、検察官による特別抗告の趣意については、刑訴法433条の抗告理由に当たらないとしつつも職権をもって調査した結果、再審を開始した原決定には審理不 尽の違法があるとしてこれを取り消し、事件を原裁判所に差し戻す決定をしたこと(最高裁平成28年(し)第639号・裁判集刑事321号55頁)、同年12月25日、検察官による特別抗告の趣意については、同条の抗告理由には当たらないとしつつ、職権をもって調査した結果、再審を開始した原決定には同法435条6号の解釈適用を誤った違法があるとしてこれを取り 消し、再審請求棄却決定に対する即時抗告を棄却する決定をしたこと(最高裁平成27年(し)第587号第一小法廷決定・裁判集刑事322号253頁)からすると、現行法下においては、検察官の特別抗告の趣意が同法433条1項の抗告理由に当たらないとしても、最高裁判所がこれを端緒に職権調査をして原決定を取り消すことが想定されているものといえる。 したがって、再審開始の決定に対する検察官の特別抗告につき、検察官の主張する抗告理由が同項の抗告理由に当たらないものであったとしても、現行法下においては、直ちに特別抗告をしたこと自体が検察官の職務上の注意義務違反になると解するのは相当ではない。 以上に説示したことからすると、検察官は、本件特別抗告の際、仮にその 抗告の趣意について刑訴法433条1項の抗告理由に当たらなかったとしても最高裁判所が職権調査をして原決定を 相当ではない。 以上に説示したことからすると、検察官は、本件特別抗告の際、仮にその 抗告の趣意について刑訴法433条1項の抗告理由に当たらなかったとしても最高裁判所が職権調査をして原決定を取り消し得ることを認識していたものと認められることからすると、検察官が、特別抗告時の訴訟資料を総合勘案して合理的な判断過程により、再審開始の決定につき、最高裁判所により職権調査を経る場合も含めて取り消される見込みがあると判断したといえる のであれば、検察官による再審開始の決定に対する特別抗告は国賠法1条1 項上の違法性を欠くものと解するのが相当である。 ⑶ 判例違反の主張についてア本件特別抗告の理由のうち、判例違反の理由についてみると、前記1(33)アに認定のとおり、再審鑑定書等の新規性の判断について違反すると主張する判例のうち、最高裁判所平成20年(し)第281号同21年1 2月14日第二小法廷決定・裁判集刑事299号1075頁は、なお書において、記録によれば、証拠の新規性及び明白性を認めて再審請求を認容すべきものとした原々決定を正当とした原判断に誤りがあるとは認められないとするもので、判断内容については原決定を参照しなければ判断できないことからすると、検察官が判例に違反すると主張する判例は、実質的 には高等裁判所の判例(刑訴法433条1項、405条3号)であるといえる。裁判のうち、判例部分及びその射程について特に見解が分かれ得るものであるところ、特に高等裁判所の裁判については判例部分及びその射程について明確ではないものも相当数存在するから、判例部分及びその射程について見解がより分かれ得るものであり、分かれた見解のうちどの見 解が正当であるかは必ずしも自明とはいえない。 イ上記違反するとされる判例 いものも相当数存在するから、判例部分及びその射程について見解がより分かれ得るものであり、分かれた見解のうちどの見 解が正当であるかは必ずしも自明とはいえない。 イ上記違反するとされる判例である東京高等裁判所昭和39年(く)第173号同40年4月8日決定は、確定審における鑑定と同一の基礎資料及び経験法則によって引き出された新規鑑定書が、たまたま確定審における鑑定及び鑑定証人尋問の結果とその結論を異にするというだけの理由で、 新規性のある証拠とはいえない旨を判示していること、東京高等裁判所平成17年(く)第455号同20年7月14日決定は、なお書において、検察官の上記東京高等裁判所昭和40年4月8日決定の判示を踏まえた主張を排斥するに当たり、新規鑑定は、新たな基礎資料に基づく鑑定とはいい難いし、その鑑定手法に特段の新規性があるともいえないように思われ るが、確定審における鑑定が鑑定事項としたもののうち、「死因、自他殺 の別」の鑑定部分を特化し、その中で十分に検討されてないと考えられる部分を取り出して新たな鑑定人の知見に基づき詳細に検討を加えたものであり、その結論も確定審における鑑定とは異なるものとなっているから、新規性を認めるのが相当であると判示していることからすると、上記各決定は、前記1(33)アに認定の①ないし③のような規範に相当する理由付け をして結論を導き出しているといえるから、これらの規範が上記各決定の判例部分であると判断したことが合理性を欠くものとはいえない。 ウこれに対し、原告は、上記東京高等裁判所平成20年7月14日決定は、新規性につき「証拠の未判断資料性(裁判所の実質的な証拠価値の判断を経ていない証拠であること)を意味するものと解するのが相当である」と 判示しているところ、 裁判所平成20年7月14日決定は、新規性につき「証拠の未判断資料性(裁判所の実質的な証拠価値の判断を経ていない証拠であること)を意味するものと解するのが相当である」と 判示しているところ、検察官の特別抗告理由は上記決定の傍論部分で示された部分のみを取り出して新規性要件を限定的に解釈しようとするものであり、通説・判例に反する見解である旨を主張する。 しかしながら、少なくとも刑事事件における判決においては、一般論として「なお書」部分が判例に当たらないということはできない。例えば、 最高裁判所昭和52年(あ)第623号同53年7月28日第三小法廷判決・刑集32巻5号1068頁は、強盗殺人未遂の罪は強盗犯人が強盗の機会に人を殺害しようとして遂げなかった場合に成立するものであることは、当裁判所の判例とするところである旨を判示し、当該判例として最高裁判所昭和31年(あ)第4203号同32年8月1日第二小 法廷判決・刑集11巻8号2065頁を摘示しているところ、同判決は、強盗機会に殺人行為が行われる場合には刑法240条後段を適用すべきものである旨の判断をなお書において行っている。 そして、上記東京高等裁判所平成20年7月14日決定は、証拠の未判断資料性該当性のみをもって新規鑑定の新規性を認定したものではなく、 なお書であっても、新規鑑定の新規性についての前記イのような理由に より新規鑑定の新規性を認めており、同新規鑑定の新規性判断は、再審開始決定を導き出すのに必要となる判断といえることからすると、前記1(33)アに認定の③のような規範も同決定及び前記アの最高裁平成21年12月14日決定の判例部分であると判断することには相応の合理性があるといえる。 したがって、検察官が、前記1(33)アに認定の①ないし 定の③のような規範も同決定及び前記アの最高裁平成21年12月14日決定の判例部分であると判断することには相応の合理性があるといえる。 したがって、検察官が、前記1(33)アに認定の①ないし③のような規範とする東京高等裁判所及び最高裁判所の判例があると判断することが合理性を欠くものとはいえない。 エそして、そのような規範を前提にすると、再審鑑定書等のうち、低カリウム血症に関するもの(乙4の31、32)は、G鑑定書と同一の資料を 基礎として作成されたものであり、G鑑定書作成当時存在しなかった経験則に基づいて作成されたものであることをうかがわせる記載はない上、G鑑定書におけるA氏の死因判断につき全般的に検討を加えて批判するものであることからすると、確定審で取り調べられた鑑定の特定の鑑定事項を特化し、その中で十分に検討されていないと考えられる部分を取り出して 新たな鑑定人の知見に基づき詳細に検討を加えたものに当たるといえないと解することには相応の合理性がある。 また、ある裁判が高等裁判所の判例に違反することについては、高等裁判所の判例と同様の判断を最高裁判所がするとは限らないことからすると、同裁判が取り消される可能性が高いことを示す事情とはいえないが、 最高裁判所により同裁判が取り消される見込みがあるとはいえる事情といえる。 以上からすると、本件特別抗告の理由のうち、証拠の新規性について判例違反があるとする部分についての検察官の判断には、相応の合理性があるものといえる。 ⑷ 手続の著しい法令違背について ア民事訴訟の例ではあるが、最高裁平成22年(ク)第1088号同23年4月13日第二小法廷決定・民集65巻3号1290頁は、即時抗告審が、同即時抗告の相手方に対し、即時抗告申立書を送付 ア民事訴訟の例ではあるが、最高裁平成22年(ク)第1088号同23年4月13日第二小法廷決定・民集65巻3号1290頁は、即時抗告審が、同即時抗告の相手方に対し、即時抗告申立書を送付することも、即時抗告があったことを知らせる措置もとらず、何らかの反論の機会を与えないまま、原々決定後に提出された書証をも用いて原々決定を取り消した原 決定につき、明らかに民事訴訟における手続的正義の要求に反するというべきであり、その違法は裁判に影響を及ぼすことが明らかであるとして原決定を職権で破棄している。 民事訴訟法令において、刑事訴訟法令と異なり、即時抗告の相手方の意見聴取につき特有の規定があり、法令上刑事訴訟における当事者よりも 手厚く保護がされているような事情は見当たらない(むしろ、刑訴法と異なり、特別抗告理由が「裁判に憲法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反があることを理由とするとき」に限定されている)ことからすると、一般論として、上訴審において不利益変更がされる場合の、不利益な裁判を受ける当事者に対する手続保障の欠缺は、それ自体裁判の取 消し、破棄理由となり得るものといえる。 イ本件再審開始決定についてみると、原告による本件二次再審請求を棄却する決定に対する即時抗告申立書記載の抗告理由には、原告の自白の信用性等についての言及があり、同申立書は検察官に交付されていると解されるから(丙43)、検察官は原告の自白の信用性について反論する機会を 有していたといえ、本件再審開始決定が再判断したことが直ちに不意打ちに当たるとは解せない。しかしながら、裁判所が、再審請求事件において、被告人の自白の信用性については打合せにおいて何ら言及しないまま争点整理をした場合、検察官において裁判所は同争点については重視していな たるとは解せない。しかしながら、裁判所が、再審請求事件において、被告人の自白の信用性については打合せにおいて何ら言及しないまま争点整理をした場合、検察官において裁判所は同争点については重視していないと認識することもあり得ることからすると、自白の信用性について争点 整理過程で言及しないまま裁判中でこれを否定された場合、検察官におい て不意打ちであると認識することが合理性を欠くとまではいえない。 そして、このような事情が、著しく正義に反する、決定に影響を及ぼす法令違反といえるかどうかは評価的判断であって判断が分かれ得るものであるから、検察官において最高裁判所において取り消される可能性があるため、その判断を仰ぎたいと判断することには相応の合理性がある といえる。 ⑸ 抗告理由の流用について原告は、本件特別抗告の抗告理由が、再審開始決定に対する即時抗告を棄却した福岡高等裁判所平成29年11月29日決定に対する平成29年12月4日付け特別抗告申立書(甲20)の抗告理由をコピーアンドペーストし たものであることから、本件機械的、形式的に特別抗告したものであって職務怠慢、権限濫用である旨を主張する。 しかしながら、検察官は、いわゆる独任制の官庁であるものの(検察庁法4条、6条1項)、刑事訴訟においては国を代表する機関であることから、検事総長の指揮監督を受けること(検察庁法7条)などに現れているように、 一定の統一的判断がされることも併せて法令上確保されている(いわゆる検察官同一体の原則)。そうすると、最高裁判所に対する特別抗告においては、その抗告理由について最高検察庁と協議するなどして、検事総長の指揮監督を受けることは当然想定されるところである。 そして、原告が主張する平成29年12月4日付け特別抗告申立書 る特別抗告においては、その抗告理由について最高検察庁と協議するなどして、検事総長の指揮監督を受けることは当然想定されるところである。 そして、原告が主張する平成29年12月4日付け特別抗告申立書の抗告 理由と本件特別抗告の抗告理由について共通する部分はいずれも証拠の新規性、明白性についての規範部分であるから(甲5、20)、検察官としては、その規範が最高裁判所等によって否定されるなどして見解を変更するまでは統一的な規範を各事件で主張することがむしろ想定されているものといえる。 前記前提事実⑽及び上記に認定のとおり、これらの特別抗告は近接した時期 に行われていることからすると、これらが同一文言であることはむしろ上記 想定から導かれる通常の事情であるといえ、特別抗告の理由中の規範の文言が同一であること自体が検察官の職務上の法的義務に違反するということはできない。 ⑹ 小括以上のとおり、本件特別抗告については、検察官が、特別抗告時の訴訟資 料を総合勘案して合理的な判断過程により、再審開始の決定につき、最高裁判所により取り消される見込みがあると判断したといえるから、検察官が本件特別抗告をしたことに国賠法1条1項の違法があるとはいえない。 争点⑼(因果関係ある損害及びその額)について⑴ 原告が受けた違法な身体拘束について ア前記1⒄、2及び3に認定のとおり、H警察官による違法な取調べ及び滋賀県警がH報告書及び本件供述書を大津地検に違法に送致しなかったことにより本件起訴がされ、原告が本件確定判決を受けたと認められることからすると、原告は、これらの違法な行為により、本件起訴時である平成16年7月27日(前提事実⑺)から満期釈放時である平成29年8月2 4日(前提事実⑾)まで違法な身体拘束を受 認められることからすると、原告は、これらの違法な行為により、本件起訴時である平成16年7月27日(前提事実⑺)から満期釈放時である平成29年8月2 4日(前提事実⑾)まで違法な身体拘束を受けたものと認められる。 イ他方で、原告は、平成16年7月6日の逮捕時から身体拘束について損害として主張するところ、前記1⑶、⒁、⒄、⒅、7⑵、⑶に認定のとおり、原告が本事件につき殺人の被疑事実により逮捕されたのは、本件不利益供述をしたことがきっかけであり、本件不利益供述自体は、原告が自発 的に供述し始めたものであること、逮捕当時の捜査資料からは、G鑑定書の信用性について医学の専門家ではない者においては適切に判断できない状況にあったことからすると、原告を逮捕し、引き続き勾留した時点においては、原告が罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があったものと認められ、原告を逮捕、勾留したこと自体が国賠法1条1項上違法であったと までは認められない。したがって、上記逮捕時から本件起訴時までの身体 拘束については、違法な行為により原告が受けた損害とは認められない。 なお、刑事補償は、未決の抑留又は拘禁が違法であったことを補償の要件とはしていないから(刑事補償1条1項)、本件起訴前の身体拘束について原告が刑事補償を受けているからといって、当該身体拘束について国賠法1条1項の損害賠償の対象になることを意味するものではない。 ⑵ 身体拘束中に生じた損害についてア身体拘束期間中の逸失利益原告は、本事件当時、本件病院で看護助手として就労していたものの、昭和54年12月生まれであるから(前提事実⑵)、平成16年7月27日の本件起訴当時(前提事実⑺)、24歳であった。したがって、原告は 本件起訴当時、若年労働者であるといえ、また いたものの、昭和54年12月生まれであるから(前提事実⑵)、平成16年7月27日の本件起訴当時(前提事実⑺)、24歳であった。したがって、原告は 本件起訴当時、若年労働者であるといえ、また、原告の最終学歴は高等学校卒業であるから(甲39)、逸失利益の基礎収入については、賃金センサス(産業計・企業規模計・高卒・女子・年齢別)により算定し、また、生活費控除率については30パーセントとするのが相当である。 そうすると、前記⑴アの違法な身体拘束期間中の原告の逸失利益は、次 のとおりとなる。なお、下線部は賃金センサスによる算定が原告の主張と異なる部分である。 平成16年7月27日から同年12月31日まで(158日)253万3500円×158日/366日≒109万3697円(1円未満四捨五入) 平成17年 275万4200円(当時原告25歳)平成18年 275万6200円(当時原告26歳)平成19年 279万5200円(当時原告27歳)平成20年 281万7400円(当時原告28歳)平成21年 271万7800円(当時原告29歳) 平成22年 285万0900円(当時原告30歳) 平成23年 285万8600円(当時原告31歳)平成24年 284万4600円(当時原告32歳)平成25年 281万2600円(当時原告33歳)平成26年 289万3200円(当時原告34歳)平成27年 305万2800円(当時原告35歳) 平成28年 310万6900円(当時原告36歳)平成29年1月1日から同年8月24日まで(236日)312万5900円(当時原告37歳)×236日/365日≒202万1130円(1円未満四捨五入)上記合計 3737万5227円 上記合 年1月1日から同年8月24日まで(236日)312万5900円(当時原告37歳)×236日/365日≒202万1130円(1円未満四捨五入)上記合計 3737万5227円 上記合計から生活費控除率30パーセントを控除した額3737万5227円×0.7=2616万2659円イ違法な身体拘束による精神的損害原告は、平成16年7月27日から平成29年8月24日まで約13年1月間違法な身体拘束を受け、多大な精神的苦痛を被ったものと認めら れるから、その慰謝料は2700万円であるとするのが相当である。 ウ身体拘束による精神的苦痛に収まらない精神的苦痛に対する慰謝料について原告は、本件公訴事件の捜査、公判中、精神的に不安定な状態であり、本件公訴事件の第1回公判期日の後に針金を飲み込んで自殺未遂行為に 及んでいるところ(原告本人、証人H)、前記2に認定のH警察官による原告の弁護人への信頼を失わせるような言動や起訴後の違法な取調べは、原告の精神に悪影響を与えるものであるから、上記のとおり原告が精神的不安定な状態に陥り、自殺未遂行為に及んだことの一つの原因となったものと認めるのが相当である。 そして、このような違法な取調べにより原告が精神的に不安定な状態に 陥り、自殺未遂行為に及んだことは、単なる違法な身体拘束による精神的苦痛の範囲にとどまるものではないから、前記イの慰謝料とは別途慰謝料を算定するのが相当であり、その額は300万円と認めるのが相当である。 エ刑事補償金の控除について 前記前提事実⒁のとおり、原告は本事件に関する身体拘束による補償金として、5997万5000円の交付を受けている。刑事補償法5条3項は、他の法律によって損害賠償を受けるべき者が同一の原因について刑 前記前提事実⒁のとおり、原告は本事件に関する身体拘束による補償金として、5997万5000円の交付を受けている。刑事補償法5条3項は、他の法律によって損害賠償を受けるべき者が同一の原因について刑事補償を受けた場合には、その補償金の額を差し引いて損害賠償の額を定めなければならない旨を規定するところ、甲14の1、14の2に よれば、原告に対する補償金額を定めるに当たっては、身柄拘束の種類及び期間のほか、本件再審の判決で認定された捜査の経緯やその過程における原告に対する取調べの在り方などが考慮されていることからすると、前記アないしウの各損害については原告に対する補償金と同一の原因についての損害といえるから、同各損害額合計5616万2659円 から同補償金額5997万5000円が控除されるべきものといえる。 以上によれば、原告が身体拘束期間中に被った損害につき、被告県が賠償すべき金額は残存していないものといえる。 ⑶ 満期釈放後の逸失利益についてア後掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、原告が、満期釈放後の平成 30年から就労を開始し、現在に至るまで次の給与収入を得ていることが認められる。 平成30年 46万0812円(甲13の1)令和元年 118万9964円(甲13の2)令和2年 101万8800円(甲42の1) 令和3年 129万2156円(甲42の2) 令和4年 42万1296円(甲42の3)令和5年 125万8275円(甲42の4)令和6年 52万6694円(甲42の5、42の6)イ前記アに認定の原告の収入は、賃金センサスによる平均賃金を大きく下回るものであるところ、そのことは、本件確定判決により長期間服役した ことによってキャリアアップの機会を奪われるとともに、本 イ前記アに認定の原告の収入は、賃金センサスによる平均賃金を大きく下回るものであるところ、そのことは、本件確定判決により長期間服役した ことによってキャリアアップの機会を奪われるとともに、本件再審により無罪判決を受けるまでは殺人犯という汚名を社会的には背負わされたため、就労の機会が著しく制限されたことによる影響が大きかったものと考えられる。 前記⑵のとおり、原告が本件起訴当時若年であったことからすると、本 件起訴及び本件確定判決による長期間の身体拘束及び有罪判決がなかったとすると、原告は満期釈放時である平成29年8月24日時点において(前提事実⑾)、平均賃金程度の賃金を得ていた蓋然性があるものといえるから、前記アに認定の実収入と平均賃金との差額及び上記による将来の減収分については、前記2、3に認定の滋賀県警の違法行為と相当 因果関係のある損害と認められる。 ウ前記アに認定の実収入と平成29年から令和6年までの平均賃金との差額については、次のとおりである。なお、賃金センサスについては、前記⑵ア同様に「産業計・企業規模計・高卒・女子・年齢別」により算定した。 なお、令和6年については、平均賃金につき原告は令和5年の賃金センサ スより算定しているところ、令和6年の賃金センサスにより算定した。 平成29年8月25日から同年12月31日まで(129日)312万5900円(当時原告37歳)×129日/365日≒110万4770円(1円未満四捨五入)平成30年 310万2500円(当時原告38歳)-46万0812円 =264万1688円令和元年312万3700円(当時原告39歳)-118万9964円=193万3736円令和2年 330万1100円(当時原告40歳)-10 2円 =264万1688円令和元年312万3700円(当時原告39歳)-118万9964円=193万3736円令和2年 330万1100円(当時原告40歳)-101万8800円=228万2300円令和3年330万1300円(当時原告41歳)-129万2156円=200万9144円 令和4年339万3700円(当時原告42歳)-42万1296円=297万2404円令和5年349万2600円(当時原告43歳)-125万8275円 =223万4325円令和6年359万9200円(当時原告44歳)-52万6694円=307万2506円上記合計 1825万0873円 エ前記イに説示したところによれば、少なくとも原告が主張する令和11年までは原告の実収入は平均賃金より少ない状態が続くものと認められるところ、前記ウに認定の事実からすれば、その差額が平均賃金の2割であるとする原告の推算には合理性が認められる。 そこで、令和6年の賃金センサス(産業計・企業規模計・高卒・女 子・年齢別〔45~49歳〕)371万5400円に2割を乗じた74 万3080円の5年分から原告主張の年5パーセントの割合による中間利息を控除すると(ライプニッツ係数4.3295)、321万7165円(1円未満四捨五入)となる。なお、原告は令和5年の賃金センサスに基づき算定しているが、令和6年の賃金センサスに基づき算定しても処分権主義、弁論主義に反しないことについては前記ウに説示したと おりである。 オ合計額2146万8038円⑷ 民事再審事件の弁護士費用について甲43の1、43の2及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認めら れる。 ア 示したと おりである。 オ合計額2146万8038円⑷ 民事再審事件の弁護士費用について甲43の1、43の2及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認めら れる。 ア損害保険ジャパンは、原告に対し、A氏の殺害についての保険代位による2000万円の損害賠償及び遅延損害金の請求訴訟を提起したところ、和歌山地方裁判所は、本件確定判決等に基づきこの請求を認容する旨の判決(和歌山地裁平成22年(ワ)第341号同23年10月27 日判決)をし、同判決に対する各上訴はいずれも退けられて、同判決は確定した。 イ原告は、令和2年4月18日、前記アの確定判決につき訴訟代理人を選任して大阪高等裁判所に対し民事再審の訴えを提起し(大阪高裁令和2年(ム)第39号)、同裁判所は、令和2年9月4日、本件再審の経 緯を踏まえて、再審開始の決定をした。 ウ損害保険ジャパンは、前記イの再審事件の第1回弁論準備手続において、請求を放棄した。 上記に認定の事実からすると、原告は、前記2、3に認定の滋賀県警による違法な行為によって不当に本件確定判決を受け、そのことから損害保険ジ ャパンから不当な保険代位による損害賠償請求等をされてこれを認容する確 定判決を受けたため、これを取り消すために民事再審の訴えを提起せざるを得なくなったものと認められる。 そして、民事再審の訴えについては、再審の事由(民訴法338条1項)の適切な主張、立証のために訴訟代理人を選任することが必要と認められるから、その弁護士費用についても上記違法な行為によって原告が被った損害 と認めるのが相当であり、同弁護士費用額については、上記アの損害保険ジャパンの請求額等に鑑み、200万円と認めるのが相当である。 ⑸ 満期釈放後の慰謝料について 行為によって原告が被った損害 と認めるのが相当であり、同弁護士費用額については、上記アの損害保険ジャパンの請求額等に鑑み、200万円と認めるのが相当である。 ⑸ 満期釈放後の慰謝料について原告は、満期釈放後も、平成17年11月29日に本件確定判決を受けてから令和2年4月2日に本件再審の無罪判決が確定するまで(前提事実⑻、 ⒀)、14年間強にわたり、殺人罪で懲役12年の有罪判決を受けた犯罪者という著しく不名誉な社会的評価を受け、偏見にさらされて多大な精神的苦痛を被ったものと認められるところ、本件に現れた他の満期釈放後の事情も考慮すると、その慰謝料額については500万円と認めるのが相当である。 ⑹ 本訴弁護士費用について 前記⑶ないし⑸の損害額の合計額は2846万8038円となるところ、前記2、3の滋賀県警の違法行為と相当因果関係のある弁護士費用としては284万6803円と認めるのが相当である。 ⑺ 合計以上⑶ないし⑹を合計すると、3131万4841円となる。 11 結論よって、原告の請求は、被告滋賀県に対し、国賠法1条1項に基づき3131万4841円及びこれに対する前記2、3に認定の違法行為後の日である令和2年4月2日から支払済みまで平成29年法律第44号により改正前の民法所定の年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で 理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからいずれも棄却するこ ととし、仮執行免脱宣言の申立てについては、その必要がないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。 大津地方裁判所民事部 裁判長裁判官池田聡介 裁判官田野倉真也 、主文のとおり判決する。 大津地方裁判所民事部 裁判長裁判官池田聡介 裁判官田野倉真也 裁判官中村隼太 (別紙)争点についての当事者の主張 1 争点⑴(滋賀県警による原告の取調べが国賠法1条1項上違法か)について(原告の主張)⑴ 供述弱者である原告に不当な誘導をしたこと 原告は軽度の知的障害や発達障害があり、いわゆる供述弱者であったところ、滋賀県警、とりわけH警察官は、遅くとも平成16年6月下旬までには、原告が供述弱者であることを認識していたか、少なくとも、その迎合的な供述態度を認識するとともに、原告がH警察官に好意と信頼を寄せて、その関心を引くためにうそをつくことを認識していた。滋賀県警、とりわけH警察 官は、原告が供述弱者であり、H警察官に恋愛感情を抱いていたことから、虚偽自白の温床が醸成されていたことを十分に認識し、少なくとも容易に認識し得たにもかかわらず、次のように違法な取調べを行って、原告の虚偽自白を維持させた。 これらのH警察官をはじめとする滋賀県警の行為は、犯罪捜査規範167 条、168条に違反するだけでなく、真実発見にも人権保障にも反するものであって刑訴法1条にも違反し、警察官の職務上の注意義務に違反する国賠法1条1項上違法な行為である。 ア H警察官を原告の取調べ担当から変更することなく、原告のH警察官に対する恋愛感情を利用した。 イ当時の原告とその弁護人との接見内容を違法に聞き出して接見交通権を侵害しつつ、同弁護人を誹謗中傷するなどして弁護人との信頼関係を破壊し、また、原告の両親は全面的に警察を信頼している、両親の手紙は イ当時の原告とその弁護人との接見内容を違法に聞き出して接見交通権を侵害しつつ、同弁護人を誹謗中傷するなどして弁護人との信頼関係を破壊し、また、原告の両親は全面的に警察を信頼している、両親の手紙は弁護士が書かせたものであるなどの虚偽の事実を告げて、原告をマインドコントロール下においた。 ウ連日、長時間の取調べを行った。 エ原告を強力に誘導して、原告が知るはずのない消音状態維持機能について知っていた旨の証拠に沿った供述調書や供述書を作成させ、また、原告が、本事件の前に、他の高齢患者に対し、3回にわたって殺害行為に及んだが目的を達しなかった旨の供述や、多数の高齢患者に暴行を加えたという供述をさせた。 ⑵ 否認する内容の供述調書を作成しなかったこと原告は、H警察官に対し、その取調べ態様に恐怖を覚えて本件呼吸器のアラーム音を聞いた旨の虚偽供述をしてその旨の供述調書の作成にも応じてしまい、後にそれを撤回させてほしいと懇願したにもかかわらず、H警察官は、同供述を撤回する旨の供述調書を作成しなかった。また、原告は、本事件の 捜査当時、当時の弁護人との接見後は、本件不利益供述につき、チューブを外していないと明確な否認に転じたが、H警察官は原告が否認している旨の供述調書を作成しなかった。他方で、H警察官は、原告が否認から自白に転じると、速やかに自白調書を作成していることからすると、滋賀県警は、本事件についての自らの見立てに沿う証拠だけを作成、招集していたものであ り、滋賀県警が原告の供述経過を正しく調書化しなかったことにより、大津地方裁判所に対し、本件確定判決において原告が一貫して故意の殺害を自白していたと認定する誤りに陥らせた。 このような滋賀県警の捜査手法は犯罪捜査規範166条、167条に反し、 ったことにより、大津地方裁判所に対し、本件確定判決において原告が一貫して故意の殺害を自白していたと認定する誤りに陥らせた。 このような滋賀県警の捜査手法は犯罪捜査規範166条、167条に反し、警察官の職務上の注意義務に違反する国賠法1条1項上違法な行為である。 ⑶ 自白維持を画策しての本件起訴後の違法な取調べ本事件の捜査中、原告は、H警察官らから、両親は弁護人を信用しておらず、全面的に警察を信用していると聞かされており、警察の誘導に従って殺害の自白をすることも両親の意に沿っていると考えていた。本件起訴後、接見等禁止が解けた原告は、面会した両親から弁護人を信頼しているので犯罪 をしていないのであれば否認するように、などと言われて、騙されていたこ とを自覚し、公判においては公訴事実を否認しようと考えるようになったものの、H警察官によるマインドコントロールが一気に解けたわけではなく、精神的に不安定な状況が続いていた。 そこで、滋賀県警は、否認に転じそうな原告の自白を維持させるため、公訴の提起後にもかかわらず、H警察官をして余罪取調べ名目で14回、64 時間15分にわたって原告と面談をさせた。同面談において、H警察官は、原告が公判で否認するのかどうかを探り、否認しそうだという感触を得ると、本件公訴事件の第1回公判期日までの間に、5回にわたり、原告が公判で否認したとしてもうそであり、原告の本当の気持ちではないなどといった内容の検察官宛の手紙を書かせた。 結果、原告は、本件公訴事件の第1回公判期日において精神的に不安定であることを理由に罪状認否を留保し、第2回公判期日までの間に、自分で壁に頭を打ち付ける等の自傷行為に及んだ上、針金を嚥下して自殺を図ったが、第2回公判期日において、ようやく犯行を否認する に不安定であることを理由に罪状認否を留保し、第2回公判期日までの間に、自分で壁に頭を打ち付ける等の自傷行為に及んだ上、針金を嚥下して自殺を図ったが、第2回公判期日において、ようやく犯行を否認することができた。 以上の滋賀県警がH警察官をしてさせた面会は、原告のマインドコントロ ール状態を維持し、公判期日における原告の被告人としての供述内容までコントロールしようとし、原告の本件公訴事件における当事者たる地位を侵害したものであって、警察官の職務上の注意義務に違反する国賠法1条1項上違法な行為である。 ⑷ 弁護人依頼権の侵害 H警察官は、原告から本事件の弁護人との接見内容を聴取し、原告に対し、両親が警察を信用しており弁護士を信用していない、起訴前に接見に来る弁護士は聞いたことない、そんな弁護士は信用するな、などと告げ、両親の弁護士を信用している旨の手紙についても、それは弁護士が書かせたもので両親の本当の気持ちではないなどと告げて、原告が弁護人に対する信頼感を持 つことを妨害した。 これらのH警察官の行為は、原告の被疑者、被告人としての弁護人依頼権を侵害するものであり、また、弁護人との秘密交通権を侵害するものであるから、警察官の職務上の注意義務に違反する国賠法1条1項上違法な行為である。 (被告滋賀県の主張) ⑴ 警察官による捜査活動について国賠法1条1項上の違法性が認められるためには、警察官の犯罪の嫌疑に関する判断が、証拠の評価について通常考えられる個人差を考慮にいれても、なおかつ行き過ぎで、経験則、論理則に照らして到底その合理性を肯定することができないという程度に達していることが必要である。 ⑵ H警察官は、従前の原告の取調べ担当者から、原告が取調べ中に泣きわめいたり暴れたりす 、論理則に照らして到底その合理性を肯定することができないという程度に達していることが必要である。 ⑵ H警察官は、従前の原告の取調べ担当者から、原告が取調べ中に泣きわめいたり暴れたりするため、取調べに当たっては注意する必要がある旨の引継ぎを受けていたことや、自己の経験から、大きな声を出さず、誘導とならないように注意して取調べをしており、不当な誘導をしたことはないし、原告を長時間、厳しい取調べをしたことはない。また、H警察官は、取調べ当時、 原告の言動が自己に対する恋愛感情に基づくものであるとの認識はなく、原告の恋愛感情を利用したことはないし、滋賀県警は、原告が在籍していた中学校や高等学校に対し、原告の学校生活や成績について聴取するなど適切な裏付け捜査を行い、原告の知的能力に問題がないことを確認している。本件呼吸器のチューブを外した旨の原告の供述は、原告が、自発的に始めたもの であり、その核心部分についての原告の供述については、以降変遷はなかったものである。 ⑶ 原告が供述調書への署名を拒否することもあったものの、その理由は、弁護人からこれ以上署名をすれば助けようがないと言われたなどといったもので、本当にやっていないという理由で署名を拒否するものではなかった上、 一旦否認しても、H警察官が、本当の話を言うように諭すとすぐに殺害の事 実を再び認めるという状況が繰り返されたことから、結果的に事実を認める供述調書が多く作成されることになったもので、H警察官が不当に否認する旨の原告の供述調書等を作成しなかったものではない。 ⑷ 起訴後、第1回公判期日までの間に、当該公訴事実の取調べをしたとしても直ちに違法となるものではない。H警察官が起訴後に原告の取調べを行っ た理由は、原告が留置場内で自傷行為に のではない。 ⑷ 起訴後、第1回公判期日までの間に、当該公訴事実の取調べをしたとしても直ちに違法となるものではない。H警察官が起訴後に原告の取調べを行っ た理由は、原告が留置場内で自傷行為に及ぶなどしたことから、原告との間に一定の信頼関係が形成されたH警察官が話を聴いて原告の心情を安定させようとしたものであり、また、余罪について任意聴取するためであった。 ⑸ H警察官は、原告に対し、弁護人を信頼できないなど述べるなどの弁護人の活動を妨害する行動を執ったことはない。また、原告が弁護人との接見内 容を述べた供述調書は存在するものの、H警察官が積極的に原告と弁護人との接見状況を聞き出したこともなく、あくまでも原告が自発的に説明したものにすぎない。 ⑹ 以上からすると、滋賀県警による原告の取調べには、証拠の評価について通常考えられる個人差を考慮にいれても、なおかつ行き過ぎで、経験則、論 理則に照らして到底その合理性を肯定することができないという程度に達していないため、国賠法1条1項上の違法性はない。 2 争点⑵(滋賀県警が証拠を大津地検に送致しなかったことが国賠法1条1項上違法か)について(原告の主張) ⑴ H報告書には、A氏の死因として本件呼吸器の管の外れや管内での痰詰まりによる酸素供給低下状態で心停止したことも十分考えられる旨が記載されており、検察官がこれを閲読していれば、A氏が痰詰まり(遷延性低酸素状態)により死亡した可能性があることや、原告の自白の任意性に問題があることを認識することができ、本件起訴に及ばなかった可能性があった。それ にもかかわらず、滋賀県警は、H報告書を大津地検に送致しなかった。 ⑵ 本件供述書は、原告が本件呼吸器のチューブが外れたことについて過失があった旨を内容 った可能性があった。それ にもかかわらず、滋賀県警は、H報告書を大津地検に送致しなかった。 ⑵ 本件供述書は、原告が本件呼吸器のチューブが外れたことについて過失があった旨を内容とするものであって、故意に本件呼吸器のチューブを外したという原告の供述と矛盾するものであり、原告の自白の信用性判断に重要な影響を及ぼすものであった。原告は、本件供述書の作成日と同日に、本件呼吸器の蛇腹を故意に外した旨の確定的故意の供述調書及び自供書の作成に応 じているが、滋賀県警は、大津地検に対し、これらのみを送致し、本件供述書は送致しなかった。 ⑶ 滋賀県警が、H報告書、本件供述書を大津地検に送致しなかったのは、滋賀県警の本事件が原告による殺人であるとの見立てに反する証拠であったからであり、意図的にこれらを送致しなかったものといえ、誤判、冤罪を生じ せしめる極めて悪質な行為であって、国賠法1条1項上違法である。 (被告滋賀県の主張)⑴ 刑訴法246条は、事件の送致に主眼がある規定であって、送致すべき書類及び証拠物の範囲について、明確な定めはない。 ⑵ そして、滋賀県警が大津地検に送致しなかった書類は、不正確な内容であ ったり、重複する内容であったりする書類や、未完成な書類、メモ的な書類であって、犯罪事実の有無や事案の解明に必要なものとは判断できないものについて送致しなかっただけであり、捜査機関において不利だからという理由で送致しなかったものではない。 ⑶ H報告書は、G鑑定書作成後にG教授から鑑定状況等を聴取して記載した ものであり、G鑑定書と異なる意見が記載されたものではない。原告が主張する痰詰まりに関する記載についても、事件発生時の状況から、痰詰まりが原因で急逝したものではないと思われる旨が明記されており、 ものであり、G鑑定書と異なる意見が記載されたものではない。原告が主張する痰詰まりに関する記載についても、事件発生時の状況から、痰詰まりが原因で急逝したものではないと思われる旨が明記されており、公判廷においても同様の供述をしている。 H報告書がG教授から聴取した内容を記載したものである以上、G教授が 直接作成したG鑑定書やG教授の公判廷における供述に優越するものではな い。H報告書は、H警察官が、死体所見に詳しくない無知な状態で、認識不足のまま作成した不正確なものにすぎないこと、被告国においても、本件起訴前にH報告書を大津地検が閲読していたとしても、本件起訴の判断には影響を与えなかった旨を主張しているところであり、H報告書が送致されなかったことが、本事件の捜査に特段の影響を与えたことはない。 以上に加えて、H報告書が上司に対する報告メモのような扱いであったことからすると、H報告書を送致しなかったことに国賠法1条1項上の違法性はない。 ⑷ 原告は、平成16年7月2日、同年6月30日における供述と変わりのない内容の供述をしているときに本件供述書を作成した後、同年7月2日の夜、 本件不利益供述をし、その旨の供述書を作成するに至ったものである。本件供述書は、平成16年6月30日の原告の供述書と重複したものであって、同供述書及び上記本件不利益供述が記載された供述書は大津地検に送致されている。したがって、本件供述書を送致しなかったことに国賠法1条1項上の違法性はない。 3 争点⑶(滋賀県警がG教授に対し国賠法1条1項上違法な働きかけをしたか)について(原告の主張)⑴ G教授は、A氏の死因につき、①G鑑定書においては、人工呼吸器停止、管の外れ等に基づく酸素供給欠乏が一義的原因と判断されるとし、②H 条1項上違法な働きかけをしたか)について(原告の主張)⑴ G教授は、A氏の死因につき、①G鑑定書においては、人工呼吸器停止、管の外れ等に基づく酸素供給欠乏が一義的原因と判断されるとし、②H捜査 報告書では、管の外れのほか、管内での痰の詰まりにより、酸素供給低下状態で心停止したことも十分考えられるとし、③平成16年7月17日付け供述調書では、人工呼吸器の停止、あるいは管の外れ等に基づいて酸素供給が低下、欠乏したことで、急性低酸素状態となり、死亡したと判断したとし、④本件公訴事件において同年11月19日に実施された証人尋問では、窒息 ということになると、どこかに詰まった証拠があってほしい、今回は、分泌 物というのは結構あったのはあったが、それで私の判断として窒息する程度にはみられなかった、痰による窒息の可能性は最終的には外したということになるなどと証言した。 ⑵ 本件公訴事件においては、本事件の原因が痰詰まりであった可能性については最重要な争点であるから、G教授の前⑴④の証言内容は、本件確定判決 に大きな影響を与えたといえる。G教授は、前記⑴②では痰詰まりの可能性を説明しながら、その後それを否定するに至っているが、その理由についてG教授は、合理的な理由を説明できていない。G教授には供述を変遷させるような利害があるとは考え難いことからすると、G教授が本事件の原因が痰詰まりであった可能性を否定するに至ったのは、滋賀県警が原告によるA氏 殺害をなんとか立証しようと不当な働きかけをしたことが原因であると推論するのが最も合理的である。 ⑶ 前記⑵のとおり、G教授の証言が本件確定判決に与えた影響からすれば、前記⑵の滋賀県警によるG教授への働きかけは国賠法1条1項上違法である。 (被告滋賀県の主張) のが最も合理的である。 ⑶ 前記⑵のとおり、G教授の証言が本件確定判決に与えた影響からすれば、前記⑵の滋賀県警によるG教授への働きかけは国賠法1条1項上違法である。 (被告滋賀県の主張) G教授は、G鑑定書作成当時から、A氏が痰詰まりで心停止したとすると、急性死の所見など他の所見と合いにくくなることから、痰詰まりによる心停止の可能性を否定しており、H報告書は、H警察官の理解不足などから、不正確な内容で作成されたものにすぎず、滋賀県警が、G教授に、痰詰まりによる心停止の可能性を否定するよう不当な働きかけをしたことはない。 4 争点⑷(本件起訴が国賠法1条1項上違法か)について(原告の主張)⑴ 検察官は、公訴の提起時において、検察官が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があると認められないにもかかわらず 起訴したときは、国賠法1条1項上違法となる。 ⑵ 本件では、犯行の目撃者も、指紋等の原告の犯行を裏付ける物的証拠もなく、原告の犯行を証明する証拠としては、G鑑定書と原告の自白しかなかったため、本件起訴につき原告に合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があると認められるためには、G鑑定書に高度の信用性が認められ、原告の自白の任意性、信用性が高く評価できることが必須であった。 ⑶ それにもかかわらず、大津地検検察官は、次のとおり、G鑑定書の信用性につき検討を怠った。 ア G鑑定書は、本件異常発見時に本件呼吸器の管が外れていたとの、解剖結果から分かることではない警察官の説明内容を前提にしてA氏の死因を判断しているところ、当該前提が認められないことをI検察官においても 認識していたから、本件呼 吸器の管が外れていたとの、解剖結果から分かることではない警察官の説明内容を前提にしてA氏の死因を判断しているところ、当該前提が認められないことをI検察官においても 認識していたから、本件呼吸器の管が外れていなかった場合も想定して死因の特定を求めるべきであった。 A氏は、痰が多く、2時間間隔で痰の吸引を行わなければならない状態であり、E看護師は、本件異常発見後にA氏の痰を吸引した旨を供述しており、G鑑定書においても、A氏の大きな気管支に痰が見られない理 由として痰が吸引された可能性に言及があったことからすると、A氏が痰詰まりにより窒息死した可能性も否定できなかった。 以上からすると、大津地検検察官としては、本件異常発見時、本件呼吸器の管が外れていたとは限らないこと、本件異常発見後、A氏に痰吸引がされたことを伝えた上で、痰詰まりが死因である可能性についてG教 授に確認すべきであり、そうしていれば、H報告書と同様、G教授は痰詰まりによる酸素供給低下状態により心停止した可能性がある旨の回答をしていたことは確実である。 イ I検察官は、痰詰まりにより本事件が発生した可能性については、本件呼吸器のアラームが吹鳴していなかったことから除外した旨を証言するが、 本件呼吸器は50水柱センチメートル(cmH2O)以上の高圧となると アラームが吹鳴する設定となっていたが、これは推奨値よりも10水柱センチメートル程度高い設定値であり、痰が気道や本件呼吸器の管の一部を塞ぐにとどまり、酸素供給途絶に至らない酸素供給低下状態にとどまった場合には、アラームが吹鳴しなかった可能性があった。A氏の本事件当時の身体状態は、酸素供給低下状態でも死に至る可能性があったものである から、大津地検検察官は、痰詰まりが起きても本件呼吸器 った場合には、アラームが吹鳴しなかった可能性があった。A氏の本事件当時の身体状態は、酸素供給低下状態でも死に至る可能性があったものである から、大津地検検察官は、痰詰まりが起きても本件呼吸器のアラームが吹鳴しない可能性について臨床工学技士に確認する必要があり、確認していれば、酸素供給低下状態にとどまったためアラームが吹鳴しなかった可能性を認識することが十分に可能であった。 ウ G鑑定書によればA氏の遺体はカリウムイオン値が1.5ミリモル(m mol)と極めて低値であり、不整脈の可能性が記載されていたが、A氏が低カリウム血症による致死性不整脈により死亡した可能性を排斥できる合理的理由の記載はなかった。それにもかかわらず、大津地検検察官は、致死性不整脈による死亡の可能性について何らの検討をしていない。 ⑷ また、大津地検検察官は、次のとおり、原告の自白の任意性、信用性の検 討を怠った。 ア I検察官は、原告の知的レベルが若干低く、誘導等に乗りやすいこと、取調べ当時、原告が大声で泣くなど非常に精神的に不安定な状態にあったことを認識していたから、原告の取調べには格別の注意を払うとともに、その供述の任意性や信用性の判断は特に慎重にすべきであったことは明ら かである。 イ原告の捜査段階の供述は、本件異常発見時、本件呼吸器のアラームが鳴っていたのかどうか、管が外れていたのかどうか、原告が管を外したのかどうか、消音状態維持機能を知っていたのかどうかという重要な点について変遷を繰り返していた。 特に、本件異常発見時、本件呼吸器のアラームが吹鳴していなかったこ とは関係者が一致して供述していたため、原告が本件呼吸器の管を外しながらアラームが鳴らなかった理由については、原告の犯行の可否を解明する上で決定 件呼吸器のアラームが吹鳴していなかったこ とは関係者が一致して供述していたため、原告が本件呼吸器の管を外しながらアラームが鳴らなかった理由については、原告の犯行の可否を解明する上で決定的に重要な点であったところ、捜査機関は、本件呼吸器につき実況見分を行い、臨床工学技士から本件呼吸器の消音機能につき説明を受けた平成16年7月10日までに消音状態維持機能につき認識 したため、原告を誘導して消音状態維持機能を利用してA氏を殺害したとも解せる供述調書を作成したものといえる。 これらの事情についてはI検察官も認識していたにもかかわらず、原告の自白の信用性について検討を怠った。 ⑸ 加えて、原告がA氏を殺害したことを否定する証拠である、H報告書、本 件供述書については、滋賀県警の手元にあった証拠であり、大津地検検察官において滋賀県警に確認すれば容易に入手できる証拠であったにもかかわらず、これを送致させることを怠った。また、I検察官は、前記⑶のとおり、G鑑定書が前提を誤ったものであることを認識していたにもかかわらず、G教授に本件解剖につき事情を聴取するという捜査の基本も怠っている。 ⑹ 以上のとおり、大津地検検察官は、適切に捜査、検討していれば、原告につき合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があるとは認められないと判断できたにもかかわらず、これを怠り、本件起訴に及んだものであって、本件起訴は国賠法1条1項上違法である。 (被告国の主張) ⑴ 公訴の提起において検察官に要求される犯罪の嫌疑の程度は、裁判官が有罪と認定するために要求される合理的な疑いをいれない程度の確信よりも低いもので足りるのであって、公訴の提起時において、各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば、 罪と認定するために要求される合理的な疑いをいれない程度の確信よりも低いもので足りるのであって、公訴の提起時において、各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば、検察官の公訴提起に職務上の法的義務違反は認められず、公訴の提起は国賠法1条1 項上の違法性を欠くと解すべきである。 そして、上記有罪と認められる嫌疑があるかどうかの判断は証拠評価及び法的判断を含む判断であるから、当該判断が合理的な判断過程により行われたかどうかを判断するに当たっては、その判断を行う際に不可避的に生ずる検察官の個人差による判断の幅を考慮にいれるべきである。したがって、公訴の提起は、有罪と認められる嫌疑があると判断した検察官の証拠評価及び 法的判断が、法の予定する一般的な検察官を前提として、通常考えられる検察官の個人差による判断の幅を考慮にいれても、なお行き過ぎで、経験則、論理則に照らして到底合理性を肯定することができない程度に達している場合に、初めて国賠法1条1項上違法となると解すべきである。また、その判断資料についても、公訴提起時において、検察官が現に収集していた証拠資 料及び通常要求される捜査を遂行し得た証拠資料に限られる。 ⑵ I検察官は、①本事件が、業務上過失致死事件として捜査中に原告がA氏の殺害を自白したことから出発した事件であり、捜査機関が殺人事件という見込みで捜査を進めた事件ではないこと、②本件呼吸器のチューブを外すという核心部分について原告の自白が一貫していたこと、③消音状態維持機能、 A氏の死因及び死戦期の状態の裏付けがあったこと、④A氏殺害の動機もあると判断されたこと、⑤I検察官には、原告が、H警察官に恋愛感情を抱いていたとか、知的レベルが著しく低いといった認識はなく、殺 A氏の死因及び死戦期の状態の裏付けがあったこと、④A氏殺害の動機もあると判断されたこと、⑤I検察官には、原告が、H警察官に恋愛感情を抱いていたとか、知的レベルが著しく低いといった認識はなく、殺人を自ら自白するほど迎合するという想定まではせず、原告に虚偽供述の動機が見出せなかったことを理由に、原告の自白の任意性、信用性を認めたものであるとこ ろ、これらの任意性、信用性判断の基礎となった事実は本件公訴提起当時の捜査資料によって裏付けられており、また、本件公訴提起当時の原告の供述調書等には、原告がH警察官に恋愛感情を抱いていることを示す文言などはないことなどからすると、このようなI検察官の判断が合理性を欠くものとはいえない。 ⑶ I検察官は、原告の自白が信用できるとの判断を前提に、G鑑定書を原告 の自白の信用性を担保する証拠という位置付けで検討していたところ、G鑑定書においてA氏に疾病による急死を示す所見がないとされていたことから自然死の可能性を除外し、痰詰まりを起こせば本件呼吸器のアラームが鳴る仕組みであったところ、本件異常発見時、アラームが鳴っていなかったことから、痰詰まりの可能性を除外し、G鑑定書において、人工呼吸器停止、管 の外れ等に基づく酸素供給欠乏が一義的原因と判断されているところ、酸素欠乏というのは、管が外れた以外のことも想定されていると理解したことから、本件呼吸器のチューブが外れていたかどうかはG鑑定書において影響は大きくないと判断した。これらのI検察官の判断の基礎となる事実は本件起訴当時の捜査資料によって裏付けられており、これらによってG鑑定書の信 用性を認めたI検察官の判断が合理性を欠くものとはいえない。 ⑷ I検察官は、H報告書、本件供述書の存在を把握していなかった。また、G 料によって裏付けられており、これらによってG鑑定書の信 用性を認めたI検察官の判断が合理性を欠くものとはいえない。 ⑷ I検察官は、H報告書、本件供述書の存在を把握していなかった。また、G教授がH報告書の存在を認識していなかったためG教授と面接してもH報告書の存在を認識することはできなかったことからすると、これらについては、検察官が通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料には当た らない。 ⑸ また、H報告書は、G鑑定書の作成から約9か月後に作成されたもので、G教授の初期供述とはいえない上、痰詰まりにつき酸素供給欠乏を引き起こす原因の一つとして例示したものにすぎないこと、また、G鑑定書はA氏を急性死と診断しており、遷延性低酸素状態による死亡とは異なる診断をして いることからすると、仮にH報告書が送致されていたとしても、I検察官において、A氏が、アラームが吹鳴しない程度の痰詰まりによる遷延性低酸素状態に陥った可能性につき想定し得たとはいえないから、本件起訴の判断に影響を与えたとはいえない。 ⑹ 以上からすると、I検察官が本件起訴に及んだことが合理性を欠くとはい えないから、本件起訴に国賠法1条1項上の違法はない。 5 争点⑸(I検察官が、滋賀県警による原告の違法な取調べを是正しなかったことが国賠法1条1項上違法か)について(原告の主張)⑴ 検察官には、警察の捜査が不適正であると判断し得る場合、それを正すべき法的義務が発生する場合があると解するのが相当である。 ⑵ I検察官は、原告が供述弱者であることを認識していたし、原告の逮捕後の供述調書や供述書には、H警察官に対する恋愛感情がうかがわれる記載が多数存在することからすると、I検察官は、H警察官が、原告の性格特性や恋愛感情に乗 述弱者であることを認識していたし、原告の逮捕後の供述調書や供述書には、H警察官に対する恋愛感情がうかがわれる記載が多数存在することからすると、I検察官は、H警察官が、原告の性格特性や恋愛感情に乗じて、その供述をコントロールして、自白を維持させようとしていたことを推認できたし、かえって、H警察官の原告に対する原告の恋愛 感情を利用したコントロール力を利用していたか、少なくとも容認していたものである。 ⑶ また、I検察官は、前記1(原告の主張)⑴イで述べた原告の弁護人依頼権、秘密交通権を侵害する取調べを原告の供述書等を閲覧することにより認識することができたのに、これを是正させなかった。 ⑷ 加えて、I検察官は、前記1(原告の主張)⑶で述べた、本件起訴後の違法な取調べを了承していた。 ⑸ 以上からすると、I検察官には、滋賀県警による原告への違法な取調べを認識しながら、これを正すことを怠っており、当該不作為は国賠法1条1項上違法である。 (被告国の主張)⑴ 前記4(被告国の主張)⑵のとおり、I検察官は、原告が、H警察官に恋愛感情を抱いていたという認識はなかったし、原告の供述書等から、同恋愛感情の存在を推認することは困難であった上、恋愛感情を理由に虚偽の殺人を自白するということは考えられないという見方もあり得ることからすると、 H警察官による原告の恋愛感情を利用した取調べを放置したことが違法であ るとの主張は前提を欠く。 ⑵ 起訴後の取調べについては、公訴事実についての取調べと余罪の取調べがあるところ、後者については任意取調べとして一般に許容されている上、前者についても直ちに違法となるものではない。本事件についてみると、H警察官による本件起訴後の取調べのうち、相当時間は余罪の取調べであって許 後者については任意取調べとして一般に許容されている上、前者についても直ちに違法となるものではない。本事件についてみると、H警察官による本件起訴後の取調べのうち、相当時間は余罪の取調べであって許 容されるものであるし、その余の取調べが本事件についての取調べであったとしても、直ちに違法となるわけではない。そうすると、検察官において、H警察官が起訴後の取調べを行っていることを認識したとしても、これを直ちに違法と評価することはできないから、これを是正すべき法的義務は生じない。 6 争点⑹(I検察官が、滋賀県警をして及び自ら原告の否認調書を作成しなかったことが国賠法1条1項上違法か)について(原告の主張)I検察官は、原告の供述が前記4(原告の主張)⑷のとおり、重要部分において変遷していることを認識していたのであるから、滋賀県警に否認調書を作 成させるとともに、自己による取調べ時にも否認調書を作成すべきであったにもかかわらず、これらを怠っており、当該不作為は国賠法1条1項上違法である。 (被告国の主張)刑訴法198条3項が、被疑者の供述を「調書に録取することができる。」 と定めていることからすると、法は、捜査機関において被疑者の供述を供述調書に録取することを義務付けているものではなく、供述調書を作成するかどうかは取調官の裁量に委ねているものと解されるから、否認調書を作成すべき法的義務はない。したがって、否認調書の作成義務があることを前提とする原告の主張は前提を欠く。 なお、I検察官は、平成16年7月22日作成の検察官調書において原告の否認調書を作成しているから、検察官が自ら原告の否認調書を作成しなかった違法を主張する原告の主張には理由がない。 7 争点⑺(大津地検に、滋賀県警に対し捜査 7月22日作成の検察官調書において原告の否認調書を作成しているから、検察官が自ら原告の否認調書を作成しなかった違法を主張する原告の主張には理由がない。 7 争点⑺(大津地検に、滋賀県警に対し捜査資料を全て送致させるように監督しなかったという国賠法1条1項上違法な不作為があるか)について (原告の主張)前記4(原告の主張)⑴のとおり、検察官の公訴提起が国賠法1条1項上違法かどうかを判断するに当たっては、公訴提起当時、通常要求される捜査を遂行すればその当時収集し得た証拠資料もその判断資料に含まれることからすると、検察官が公訴提起するに当たっては、通常要求される捜査を遂行すればそ の当時収集し得た証拠資料を検討すべき職務上の注意義務があるといえる。 したがって、大津地検検察官は、滋賀県警に対し、捜査記録が全て送致されているかを確認すべき職務上の注意義務があったものである。 そして、本事件に関しては滋賀県警においては多数の送致していない捜査資料が存在し、また、鹿児島県警では捜査資料の適宜廃棄を促す文書を配布して いた旨が報道されていたことなどからすると、大津地検検察官においても、警察には捜査資料を選別して送致する体質があることを認識していたものといえるから、大津地検検察官は、本事件についても、未送致の捜査記録がないか確認する職務上の注意義務を負っていたものである。 大津地検検察官が未送致の捜査記録がないか確認していれば、H報告書、本 件供述書という公訴提起判断に重要な影響を与える捜査資料の存在に気が付き、本件起訴に及ばない判断をし得たことからすると、大津地検検察官が上記義務を怠ったことは、国賠法1条1項上違法である。 (被告国の主張)刑訴法246条は、警察官に対し犯罪の捜査をしたときに関係書類等を送致 ない判断をし得たことからすると、大津地検検察官が上記義務を怠ったことは、国賠法1条1項上違法である。 (被告国の主張)刑訴法246条は、警察官に対し犯罪の捜査をしたときに関係書類等を送致 する義務を定めているものの、検察官について何らかの法的義務を課す規定で はない。刑訴法は、司法警察職員と検察官をそれぞれ独立の捜査機関とした上、警察官の捜査権を第一次的、本来的なもの、検察官の捜査権を第二次的、補充的なものと定め、この両者の関係を原則として協力関係と規定していることからすると、警察官による関係書類等の送致の適正は、警察官の責任において確保されるべきであり、検察官においてこれを確認すべき法的義務を負わない。 8 争点⑻(本件特別抗告が国賠法1条1項上違法か)について(原告の主張)⑴ 再審開始決定に対し、検察官は抗告する法的根拠がそもそもなく、再審開始決定自体について検察官が抗告できないと解しても、違法、不当な再審開始決定については、再審において有罪主張をすることができ、再審開始決定 自体に検察官による抗告を認める必要性もないから、検察官が特別抗告をしたこと自体が違法である。 ⑵ 仮に、例外的に検察官による再審開始決定に対する特別抗告が許容される余地があったとしても、本件特別抗告は、その3週間前に特別抗告された松橋事件の特別抗告申立書をコピーアンドペーストして作成されたものであり、 およそ認められる余地のないことを認識しながら脊髄反射的に行った明らかに違憲な特別抗告である。 ⑶ また、本件再審開始決定には、検察官が主張するような判例違反はなく、本件特別抗告以前に再審開始決定に対する検察官による特別抗告につき、検察官の主張が最高裁判所に認められたケースは皆無であったにもかかわらず、 検 定には、検察官が主張するような判例違反はなく、本件特別抗告以前に再審開始決定に対する検察官による特別抗告につき、検察官の主張が最高裁判所に認められたケースは皆無であったにもかかわらず、 検察官は過去に裁判所に否定された抗告理由を繰り返して漫然と特別抗告を行ったものといえ、最高裁判所が本件特別抗告を認容すると検察官が期待する合理的根拠は全くなかった。したがって、本件特別抗告は、検察官がその職務上の注意義務に反して行ったものであり、国賠法1条1項上違法である。 (被告国の主張) 検察官による特別抗告が国賠法1条1項上違法となるのは、特別抗告に当た っての検察官の証拠評価及び法的判断が、法の予定する一般的な検察官を前提として、通常考えられる検察官の個人差による判断の幅を考慮にいれても、なお行き過ぎで、経験則、論理則に照らして到底合理性を肯定することができない程度に達している場合に限られると解される。 そして、本件特別抗告は、判例違反、手続の法令違反、G鑑定書の信用性判 断について論理則、経験則違反を理由とするものであるところ、これらの判断はその当時の訴訟状況を総合勘案すれば合理的な判断過程により特別抗告の理由となると判断されたものであって、法の予定する一般的な検察官の判断として、通常考えられる検察官の個人差による判断の幅を考慮にいれても、なおかつ行き過ぎで、経験則、論理則に照らして到底その合理性を肯定することがで きない程度に達しているとは認められない。 9 争点⑼(因果関係ある損害及びその額)について(原告の主張)原告は、被告らの違法行為により不当に身体拘束されるとともに、本件確定判決により服役することとなり、次の損害を受けた。 ⑴ 原告が本事件により平成16年7月6日に逮捕されてから 告の主張)原告は、被告らの違法行為により不当に身体拘束されるとともに、本件確定判決により服役することとなり、次の損害を受けた。 ⑴ 原告が本事件により平成16年7月6日に逮捕されてから平成29年8月24日に満期により釈放されるまでの逸失利益ア身体拘束期間 4798日イ基礎収入各年の賃金センサス(高卒女子労働・年齢別)平成16年 271万0300円(当時原告24歳) 平成17年 275万4200円(当時原告25歳)平成18年 275万6200円(当時原告26歳)平成19年 279万5200円(当時原告27歳)平成20年 281万7400円(当時原告28歳)平成21年 271万5800円(当時原告29歳) 平成22年 285万0900円(当時原告30歳) 平成23年 285万8600円(当時原告31歳)平成24年 284万4600円(当時原告32歳)平成25年 281万2600円(当時原告33歳)平成26年 289万3200円(当時原告34歳)平成27年 305万2800円(当時原告35歳) 平成28年 310万6900円(当時原告36歳)平成29年 312万5900円(当時原告37歳)ウ逸失年収平成16年同年の基礎収入を同年7月6日から同年12月31日までの日数179日で日割計算した額 132万9161円 平成17年ないし平成28年各年の基礎収入のとおり平成29年同年の基礎収入を同年1月1日から同年8月24日までの日数236日で日割計算した額 202万1130円エ逸失利益前記ウの合計額から、生活費として30パーセントを控除した額 2632万6083円⑵ 身体拘束による精神的苦痛に対する慰謝料5000万円 算した額 202万1130円エ逸失利益前記ウの合計額から、生活費として30パーセントを控除した額 2632万6083円⑵ 身体拘束による精神的苦痛に対する慰謝料5000万円を下らない。 ⑶ 滋賀県警及び大津地検の違法行為による身体拘束による精神的苦痛に収まらない精神的苦痛に対する慰謝料 500万円を下らない。 ⑷ 刑事補償請求による補償金5997万5000円が支払われているため、同額が上記⑴ないし⑶の損害額と損益相殺される。 ⑸ 満期釈放後の逸失利益 原告は、本事件で逮捕される前は稼働する意思と能力を十分に有していた が、本事件により殺人犯の汚名を着せられ、就業の障害となった上、違法な身体拘束によりキャリアアップの機会を奪われた。また、原告は、本事件による違法な取調べと13年間に及ぶ身体拘束によるトラウマを負っており、このことも就業の妨げになっている。これらにより、原告は、少なくとも本訴提起から10年間は収入が少ない状態が続くものといえ、これにより、賃 金センサス(高卒女子労働者・年齢別)と実収入額との差額相当額の損害が生じている。 ア口頭弁論終結時(ただし、令和7年については、次のイに含めて計算するので、ここでは令和6年末まで)までの減収分平成29年 賃金センサス312万5900円(当時原告37歳)を満期釈放日の翌日である同年8月25日から同年12月31日までの日数129日で日割計算した額 110万4770円平成30年賃金センサス310万2500円(当時原告38歳)と実収入額46 万0812円との差額264万1688円令和元年賃金センサス312万3700円(当時原告39歳)と実収入額118万9964円との差額193万3736円令和 告38歳)と実収入額46 万0812円との差額264万1688円令和元年賃金センサス312万3700円(当時原告39歳)と実収入額118万9964円との差額193万3736円令和2年 賃金センサス330万1100円(当時原告40歳)と実収入額101万8800円との差額228万2300円令和3年賃金センサス330万1300円(当時原告41歳)と実収入額129万2156円との差額200万9144円 令和4年 賃金センサス339万3700円(当時原告42歳)と実収入額42万1296円との差額297万2404円令和5年賃金センサス349万2600円(当時原告43歳)と実収入額125万8275円との差額223万4325円 令和6年令和5年の賃金センサス349万2600円(当時原告44歳)と実収入額52万6694円との差額296万5906円イ令和7年から令和11年まで5年間の減収分令和5年の賃金センサス(女子労働者・高卒・45歳~49歳)367 万3200円の2割である73万4640円の5年分から年5パーセントの割合による中間利息を控除した318万0623円(ライプニッツ係数4.3295)⑹ 民事再審事件の弁護士費用原告は、損害保険ジャパン株式会社を原告とする、A氏の殺害についての 保険代位による2000万円の損害賠償及び遅延損害金の請求についてこれを認容する旨の確定判決(和歌山地裁平成22年(ワ)第341号)を受けたため、令和2年4月17日、同確定判決につき大阪高等裁判所に対し民事再審の訴えを提起し(大阪高裁令和2年(ム)第39号)、同再審事件の審理において同社から請求が放棄されているところ、同民事再審に係る弁護士費用 として200万円を つき大阪高等裁判所に対し民事再審の訴えを提起し(大阪高裁令和2年(ム)第39号)、同再審事件の審理において同社から請求が放棄されているところ、同民事再審に係る弁護士費用 として200万円を下らない損害を被った。 ⑺ 満期出所後の慰謝料原告は、被告らによって、満期出所後2年7か月余りもの間、殺人犯の汚名を着せられて生活させられ、拘禁反応の後遺症により今も精神的に不安定な状態である。加えて、検察官が違法な本件特別抗告をしたこと、被告滋賀 県が、本訴において、なお原告がA氏を殺害した趣旨の準備書面を提出し、 原告に著しい精神的苦痛を与えたこと、H警察官の証人尋問における不誠実な証言、被告滋賀県代理人による原告本人尋問における暴言ともいえる質問があったことを考慮すると、満期出所後に原告が受けた精神的、肉体的苦痛に対する慰謝料は500万円を下らない。 ⑻ 本訴弁護士費用 496万7597円を下らない。 ⑼ 合計以上の⑴~⑻を合計(⑷は主張した範囲で控除)すると、5464万3576円となる。 (被告滋賀県の主張) 否認ないし争う。 (被告国の主張)⑴ 否認ないし争う。 ⑵ 原告が、本件公訴事件の公判廷においては一貫して犯行を否認し、無罪主張をしていたこと、起訴後の原告の供述調書等が証拠請求されていないこと からすると、起訴後の取調べは本件確定判決に影響を及ぼしていないから、起訴後の取調べを是正しなかったことと原告が主張する損害との間に因果関係がない。 以上

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