令和1(わ)1924 殺人、非現住建造物等放火、死体損壊、詐欺未遂

裁判年月日・裁判所
令和4年4月14日 名古屋地方裁判所
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判決文本文31,871 文字)

主文 被告人を無期懲役に処する。 未決勾留日数中720日をその刑に算入する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、第1 分離前の相被告人Yと共謀の上、平成27年12月下旬頃から、被告人の夫であるBの死亡保険金及び相続財産を得る目的で、同人が寝入っている隙に失火を装って同人方に火を放つ方法で殺害しようと企て、平成28年2月6日午後10時18分頃から同日午後10時55分頃までの間、前記Yが、愛知県稲沢市a町b番地所在の前記B方に立ち入ったところ、同所において、前記Yが、起きていた前記B(当時60歳)と口論となった。前記Yが前記Bの顔を拳で殴ったところ、身の危険を感じた同人が、自己の生命又は身体を防衛するため、同人方のいずれかの場所から刃物を持ち出し、振り回した。そこで、前記Yは、前記Bから刃物を奪い、殺意をもって、その胸部を刃物で数回突き刺し、よって、その頃、同所において、同人を胸部刺切創による失血により死亡させて殺害した。 第2 前記Yと共謀の上、同月11日頃から、前記B方に放火して同人の死体もろとも同人方を焼失させ、前記第1の犯行発覚を防ぎ、同人の死亡保険金及び相続財産を得ようと企て、同月13日午後8時28分頃から同日午後8時49分頃までの間、同人方1階北東6畳和室において、前記Yが、同所に積み重ねた衣類等に着火して火を放ち、その火を、被告人が長女ほか1名と共有する前記B方木造瓦葺2階建住宅(床面積合計約181.50平方メートル)の柱、天井等に燃え移らせ、よって、現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない同住宅を全焼させて焼損するとともに、前記Bの死体を焼損して損壊した。 第3 生命保険契約に基づく死亡保険金の名目で現 等に燃え移らせ、よって、現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない同住宅を全焼させて焼損するとともに、前記Bの死体を焼損して損壊した。 第3 生命保険契約に基づく死亡保険金の名目で現金をだまし取ろうと考え、同年3月22日、名古屋市c区de番地f当時の被告人方において、前記Bを被保険者とし、被告人を受取人とするC相互会社との生命保険契約に関し、同会社所属のSに対し、真実は、死亡保険金受取人である被告人が前記Yと共謀して前記Bを殺害したもので、前記生命保険契約に基づく死亡保険金が支払われない場合であるのに、その事実を秘し、正当な死亡保険金支払請求であるかのように装い、支払・払込免除請求書等を提出するなどして死亡保険金等合計3000万850円の支払を請求し、前記Sらを介して前記支払・払込免除請求書等のデータを受領した同会社保険金部保険金チーム確認査定係Dらにその旨誤信させ、前記死亡保険金等の支払を受けようとしたが、前記Dらが、被告人が前記Bの殺害に関与していないことが判明するまで死亡保険金の支払を保留することとしたため、その目的を遂げなかった。 (事実認定の補足説明)第1 本件の争点本件において、判示第1についての争点は、①被告人及びYとの間での殺人の共謀の有無(争点1)、②殺意の有無(争点2)、③Yの実行行為が①の共謀に基づくものであるか(争点3)及び④正当防衛が成立する状況になかったといえるか(争点4)であり、判示第2についての争点は、⑤被告人及びYとの間での非現住建造物等放火及び死体損壊の共謀の有無(争点5)であり、判示第3についての争点は、⑥欺罔行為の有無(争点6)である。 当裁判所は、判示第1については、①被告人及びYとの間で殺人の共謀があった上、②被告人及びYには前記B(以下「被害者」という。)に対 、判示第3についての争点は、⑥欺罔行為の有無(争点6)である。 当裁判所は、判示第1については、①被告人及びYとの間で殺人の共謀があった上、②被告人及びYには前記B(以下「被害者」という。)に対する殺意があり、③Yの実行行為は被告人との間の殺人の共謀に基づくものであり、④正当防衛が成立する状況になかったと判断し、判示第2については、⑤被告人及びYとの間で非現住建造物等放火及び死体損壊の共謀があり、判示第3については、⑥欺罔行為があったことが認められると判断した。以下、その理由を説明する。 第2 前提事実関係証拠によれば以下の事実が認められる。 1 被告人とYとの関係被告人は、平成25年頃、出会い系サイトを通じてYと知り合い、交際を開始した。被告人は、当時前夫と結婚しており、Yもまた、被告人と交際を始めた当初から妻及び長男と同居しており、被告人及びYは不倫関係にあった。 被告人は、美容室を経営していたYに対し、繰り返し金銭を貸し付け、Yはそのお金で、美容商材の仕入れ代金を支払うなどしていた。その結果、Yは、平成27年4月の時点で、被告人に対し、少なくとも600万円の借金をしており、被告人が依頼した弁護士からその返済を求められるなどしていた。 被告人は、平成27年4月、外構工事の設備施工等を目的とする株式会社であるEを設立した。Yは、同年5月頃以降、自らが副理事長兼g支部長を務めるF組合(以下「美容組合」という。)からEに繰り返し工事を発注し、同社に利益を得させる方法等で前記の被告人に対する借金を返済していた。 被告人は、後記2のとおり被害者と結婚した後も、Yと不倫関係を継続し、Yは、頻繁に被告人が居住するc区のマンションの一室(以下「被告人方」という。)に寝泊まりしていた。 2 被告人と被害者との関係 人は、後記2のとおり被害者と結婚した後も、Yと不倫関係を継続し、Yは、頻繁に被告人が居住するc区のマンションの一室(以下「被告人方」という。)に寝泊まりしていた。 2 被告人と被害者との関係被告人は、平成27年3月に結婚相談所を通じ、約8000万円の預貯金を保有する被害者と出会った。被告人は、同年7月10日に被害者と結婚し、同月21日には長女及び次女が被害者と養子縁組し、被害者が死亡した場合の相続人は、被告人、長女及び次女となった。 3 結婚前の被告人の発言被告人は、次女に対し、被害者と一緒に行った旅行が楽しくなかったことなどを述べ、それを受けた次女は、平成27年6月18日、長女に対し、「酒のますとはやくしぬわ」「いいわあいつ酒のませばだって」「お金と結婚する」「byX」という内容のラインメッセージ(以下「ライン」という。)を送信した。次 女は、同年7月6日にも、長女に対し、「Bと結婚やだなってまたいってるし」というラインを送信した。 被告人は、被害者との結婚前に、当時複数いた交際相手の一人であるKに対し、被害者は6000万、7000万は持っている人で、お金には不自由しないから結婚する旨伝えた(Kの前記供述は、被害者の預貯金額が約8000万円であることとおおよそ整合するが、Kは被害者の預貯金額を把握できる立場にないこと、Kは被告人の交際相手である上、被害者について会ったときの態度が悪かったと述べるなど、被告人を庇う姿勢がみてとれ、被告人に不利な事実につきあえて虚偽を述べる動機はなく、信用することができる。)。 被告人は、結婚相談所で被害者を担当していたGに対し、被害者は本当に資産を持っているのか、どれくらいあるのかを聞くなどした(Gの前記供述は、被告人が後述のとおり被害者に車やマンションの購入費用を負担させたこ 、結婚相談所で被害者を担当していたGに対し、被害者は本当に資産を持っているのか、どれくらいあるのかを聞くなどした(Gの前記供述は、被告人が後述のとおり被害者に車やマンションの購入費用を負担させたことと符合するし、財産のことばかり聞いてくる人はいないと述べ、特に記憶に残っている理由を明確に述べており、信用することができる。)。 4 被告人が被害者に生活費を負担させた状況等被告人は、被害者と結婚後、被害者に、被告人や次女が使用する自動車を合計約468万円で購入させた上、被告人と次女が住むための被告人方の購入資金として少なくとも1000万円を提供させ、毎月の生活費として20万円を負担させた。 被告人は、平成27年8月1日付けで、被害者に、死亡保険金3000万円、受取人を被告人とする生命保険に加入させ、自らの医療保険の保険料も含め、毎月合計約7万4000円の保険料を被害者に負担させた。 被告人は、長女や次女に対し、被害者に関し「一緒に住みたくない」「早く死んでほしい」と述べるなどした上、同年9月2日頃、長女に対し、「B、お金が減っていやだと、ぐだぐだいうから、なら、離婚しようかと言ってやった、もう、用はないから」とラインを送るなどした。 被害者は、結婚後、短期間で多くの資産が流失したことを心配して、被告人の ための金銭支出を自制し始め、平成27年11月頃には、上記生命保険も解約する意向を示した。しかし、被告人が被害者を説得したため、解約されることはなかった。 5 Yへの依頼⑴ Yに対する支払い被告人は、平成27年9月29日頃、Yに対し、200万円を支払ったが、Yは、同年12月3日に、美容組合から200万円を借り入れて、これを被告人に返還した。 被告人は、Yに対し、同月25日、250万円を支払い、何事かを依 月29日頃、Yに対し、200万円を支払ったが、Yは、同年12月3日に、美容組合から200万円を借り入れて、これを被告人に返還した。 被告人は、Yに対し、同月25日、250万円を支払い、何事かを依頼した(何を依頼したかについては争いがある。)。Yは、被告人から受け取った250万円のうち、200万円については、同月26日、美容組合からの前記借入金の返済に充て、残り50万円も美容商材の仕入代金の支払いに充てて費消した。 ⑵ ラインのやり取りYは、平成27年12月24日、被告人に対し、「さっき、見に行ったら車が無かったですよ」とラインを送信した。これに対し、被告人は、「見に行ってくれたんだ。ありがとうございます、早くいってほしいから、お母さんの元に、年内でもいいと思います」と返信した。 被告人は、同月25日、Yに対し、「着手金払いたい、いくらかな」「お金、決めといて下さい、約束する、返金はなし、だめでも、文句も言わない」等のラインを送信した。これに対し、Yは、「ダメには成りません。今回は、躊躇無く致します」と答えた。その後、同日、被告人は、「いま、200、おろしてきた、成功は、300ときいてたし」「成功したら、全てお金の貸し借りは無しで、かざくだし」というラインを送信した。これに対し、Yは、「プラス50増やしてください」と答えた。その後、同日、被告人がYに対し、「250用意したいま、置いとく」、Yが被告人に対し、「秘密ごとは、これからも、お前にも言わないから、頼むぞ」というラインを送信した。 6 睡眠薬等について⑴ ラインのやり取り被告人は、平成27年12月25日から同月30日にかけて、Yに対し、「薬はばれるから、エタノールのが良いかと、思います」「知らず知らずに悪くなってるのか、コツコツやりたい」「まえ インのやり取り被告人は、平成27年12月25日から同月30日にかけて、Yに対し、「薬はばれるから、エタノールのが良いかと、思います」「知らず知らずに悪くなってるのか、コツコツやりたい」「まえのかれー、猫に食べられたといってたから、お酒に入れたほうがいいかも」「先生より電話あり、明日何もなく、家にいるそうです。けさ、いまおきたそうです、みんざいきいてるわ」「混ぜご飯、どうしよう、あまり、やらないほうがいいかなあ、今日Hクリニックの、あなたと同じ眠剤もらってきたよ、友人にたのんであり、30日分、毎日飲んだらいかん、と、いわれたらしい、ふらつき、あと、車は運転はだめ、と、かいてあった」等のラインを送信した。 ⑵ 睡眠薬等の入手状況被告人は、I及びJに、医師から睡眠薬をもらってくるよう依頼し、Iからは平成27年8月頃から平成28年2月3日にかけて10回、睡眠薬のロヒプノールを、Jからは平成27年12月30日に1回、睡眠薬のレンドルミンを入手した。 被告人は、エタノールを同月3日及び同月21日に購入した。 7 ストーブ等について⑴ ラインのやり取り被告人は、Yに対し、平成27年12月28日、「シロアリの話したら、縁の下に灯油をまくだけらしく、火事になれば。保険全額降りるそうです」、同月29日、「シロアリ、やってるらしく、断ってうちの下請けでやるようにいいましたので、お願いします」というラインを送信した。 Yは、同日、被告人に対し、「ガソリンを1000cc なんとかなるか?」とラインを送信し、これに対し、被告人は、「ガソリン1000しいしい、今日かってくるよ」「ホームセンターに。ようき、かいにいく、それで、スタンドでいらます、からかんは、いくついるかを、いま、へんじほしあ」「さんり っとるいりの、ようき、かっ 000しいしい、今日かってくるよ」「ホームセンターに。ようき、かいにいく、それで、スタンドでいらます、からかんは、いくついるかを、いま、へんじほしあ」「さんり っとるいりの、ようき、かった」等のラインを送信した。 Yは、被告人に対し、同日、「天井に断熱材にガソリンを含ませて入れるためです」とラインを送信した。 ⑵ ストーブ等の入手状況被告人は、ホームセンターで、ガソリン携行缶を平成27年12月29日に購入した。被告人とYは、平成28年2月1日、ホームセンターで、赤色の灯油用ポリタンクや灯油ポンプとともに、石油ストーブ1台(以下「本件ストーブ」という。)を購入した。 ⑶ シロアリ業者としての訪問Yは、平成28年1月26日、シロアリ駆除業者の偽造名刺をあらかじめ用意した上で、シロアリ駆除業者を装って被害者方を訪問し、被告人と被害者が外出している間、被害者方敷地内を見回るなどした。 8 平成28年2月6日の被告人らの行動被告人は、平成28年2月6日早朝、被告人、長女及び次女とのライングループから、Yを退会させた。 Yは、同日午後5時15分、レンタカー(プリウス)を借りた。Yは、同日午後8時55分、被告人を乗せてレンタカーで被告人使用駐車場を出発し、高速道路を使用せず、下道を走行して被害者方へ行った。Yは、被害者方の前で8秒間停止または低速走行し、被害者方を通り過ぎてから転回して来た道を戻り、国道155号線を左折進行して、同日午後10時18分に路肩に停車した。被告人とYは降車し、Yが、被害者方に本件ストーブを運び込んだ。その後、Yは、被害者の胸部を刃物で複数回刺し、同日午後10時55分、停めていたレンタカーを発進させ、被告人の運転で同人方へ向かった。 9 平成28年2月9日から同月11日の被告人らの行動 んだ。その後、Yは、被害者の胸部を刃物で複数回刺し、同日午後10時55分、停めていたレンタカーを発進させ、被告人の運転で同人方へ向かった。 9 平成28年2月9日から同月11日の被告人らの行動被告人とYは、平成28年2月9日未明、被告人が当時使用していたプリウスαで被害者方に行き、郵便ポストにたまった新聞を回収するなどした。被告人とYは、同日夜も、Yが当時使用していた赤色アウディで、被害者方付近に赴いた。 同月10日頃には、被告人は、Kと一緒に、被害者方に赴き、新聞を回収した。 同月11日午前9時1分頃、自動車販売店の営業として被害者を担当していたLが、被告人に対し電話し、「Bさんと連絡が取れない」旨述べた。これに対し、被告人は、「塾の仕事で疲れてるんじゃないか。私も二、三週間くらい連絡が取れないこともある」旨答えた。その直後に、被告人はYとライン及び電話で連絡をとった。同日夜、Yは赤色アウディを運転して、被告人はプリウスαを運転して被害者方付近に行き、Yと被告人はファミリーレストランの駐車場で合流した。 10 平成28年2月13日の被告人らの行動Yは、平成28年2月13日、赤色アウディとは別に使用していた黒色アウディを整備に出し、代車として白色アウディを借り受けていた。Yは、同車で被告人方付近へ行き、同日午後7時30分過ぎ頃に被告人を同乗させて出発した。 被告人及びYは、被害者方から約1.7キロメートル離れたコンビニエンスストアに立ち入り、そこを同日午後8時28分に出発し、同車を被害者方付近の国道155号線の路肩に停車させた。 Yは、被害者方母屋1階北東側6畳和室(以下「6畳和室」という。)に、本を積み重ねるなどして2本の柱を作り、柱の間に物を渡してドーム状のかまくら様にしたものを2つ作った。そして、 肩に停車させた。 Yは、被害者方母屋1階北東側6畳和室(以下「6畳和室」という。)に、本を積み重ねるなどして2本の柱を作り、柱の間に物を渡してドーム状のかまくら様にしたものを2つ作った。そして、その中に近くにあったティッシュや下着などを入れた。その後、Yは、6畳和室に作ったドームの1つの中に、火をつけたティッシュを投げ入れ、被害者方から立ち去った(なお、Yは、当公判廷において、6畳和室のドームの中の火はすぐ消えたと供述しているが、捜査段階ではそのような話はしていない上、6畳和室が出火元となっていることと整合せず、信用することができない。)。 その後、同日午後8時49分頃に火災通報がなされたが、被害者方は全焼し、同人の死体は焼損した。 11 プリウスα内での会話Yは、被告人に対し、平成28年2月14日夜、被告人使用のプリウスαの車 内で、「弟に罪かぶせないかんな」「まず、あいつの弟さんの家を調べて」「誰もいない時に入って行って、キッチンの中に薬を置いとくだな。調合するやつ」「早いうちがいいな」などと言った。これに対し、被告人は「うん。よかったとんでもない奴で」と答えた。 前記会話に続いて、Yは、「保険金が5000万以上入っている場合は疑うんだわ」「3000万ってのは順当なんだ」「2100万ぐらいしかおりないと思うけども」などと言い、これらに対し、被告人は、「うーん、あの年代で」「うん、まあ、ないよりいいで」などと答えた。 12 被害者の解剖の結果被害者の遺体には、少なくとも4つの刺切創があり(以下「第1創」ないし「第4創」という。これはM医師の公判供述における創の名称と同じである。)、いずれも左胸部の、およそ二、三十センチ四方の中に入る範囲で相互に離れて位置していた。胸部左側上部にある第1創は、第4肋骨又は 4創」という。これはM医師の公判供述における創の名称と同じである。)、いずれも左胸部の、およそ二、三十センチ四方の中に入る範囲で相互に離れて位置していた。胸部左側上部にある第1創は、第4肋骨又は肋軟骨を切断し、少なくとも約10.5センチメートルの深さまで刺さっていた。これにより、肺動脈を貫通し、被害者は短時間で失血死に至った。胸部左側下部にある第2創と左肺上葉部にある第3創は、肺の内部まで刺さっており、左肺下葉部にある第4創は、肺を貫通し、少なくとも約10センチメートルの深さまで刺さっていた。第1創と第2創は胸壁の刺入部が確認でき、いずれも形が整っていた。 被害者の遺体からは、医師の処方が必要な睡眠薬の成分であるフルニトラゼパムの代謝物が検出された。フルニトラゼパムの代謝物は、フルニトラゼパムを含むロヒプノール等の睡眠薬を摂取する以外には体内から検出されない。また、遺体からは、パーキンソン病の治療薬に含有されるトリヘキシフェニジルも検出されているが、被害者は過去5年、フルニトラゼパムを含む睡眠薬の処方も、トリヘキシフェニジルを含む薬の処方も受けたことはなかった。 13 死亡保険金の請求について被告人は、平成28年3月22日、被告人方において、保険会社のSに対し、必要書類を提出し、被害者の死亡保険金等3000万850円の支払いを請求 した。同社査定係らは、同月23日、Sを介して必要書類のデータを受領したが、同年4月28日、同査定係らは、被害者の死因が失血死であり、胸部に刺創が認められたことから、他殺の可能性が大きいと判断し、被告人が殺人に関与していないことが判明するまでの間、保険金の支払いを保留する旨の判断をした。 14 相続財産の取得について被告人は、平成28年3月から同年7月までの間、複数回にわたって、 、被告人が殺人に関与していないことが判明するまでの間、保険金の支払いを保留する旨の判断をした。 14 相続財産の取得について被告人は、平成28年3月から同年7月までの間、複数回にわたって、多数の金融機関を回り、それぞれ相続届を提出するなどした。同年2月時点において、合計約6280万円の被害者名義の預貯金が存在していたが、被告人は、1口座の預金を除いた合計約5547万円を相続手続を経て、自らの口座に入金させて取得した。 被告人は、平成30年7月18日、相続手続により、被害者が所有していた土地23筆、合計約9778平方メートルの全ての所有権を自らに移転する手続を完了し、令和元年6月12日にそのうちの一部を売却し、その売却代金合計1300万円のうち650万円を自らの口座に入金させて取得した。 15 交際相手らに対する口止め被告人は、平成28年2月13日以降、Jに対し、「自分の知り合いは元受刑者でやくざである。あなたは口が堅いか」と言い、睡眠薬を被告人に渡したことを警察に話さないよう伝えた。また、被告人は、平成28年2月16日以降、Iに対し、Iが被告人に睡眠薬を渡したのが平成28年の3月か4月頃で、量は1錠か2錠、渡した回数は1回と警察に言ってほしい旨伝えた。(I及びJは被告人の交際相手であり、虚偽の事実を述べて被告人を罪に陥れる動機はない上、被告人に口止めされた経緯及び内容について具体的に供述しているし、I及びJ自身が当初は警察で正直に話さなかったという自身にとって不利益な内容も供述しており、信用することができる。なお、Iは、平成29年9月11日に「認知機能の低下がみられ、今後認知症となるおそれがある」と診断されていることが認められるが(弁78)、同人の供述調書が作成されたのは同年4月20日で、前記診断の約5か月前であ 成29年9月11日に「認知機能の低下がみられ、今後認知症となるおそれがある」と診断されていることが認められるが(弁78)、同人の供述調書が作成されたのは同年4月20日で、前記診断の約5か月前である上、診断時においても認知症とは診断されていな かったものであるし、徐々に強い睡眠薬を被告人に渡すようになった経緯を含め、詳細に供述していることから、前記診断はIの供述の信用性を左右するものではない。)第3 殺人の共謀、殺意について(争点1、2) 1 被害者殺害依頼と報酬の授受⑴ Yの公判供述ア供述内容平成27年9月29日頃に、被害者殺害の着手金として現金200万円を被告人から受け取ったが、同年12月3日に返還した。しかし、しばらくして、被告人から「なんとかしてよ」「時間がない」などと複数回言われ、同月25日、被告人方で被告人から再度の被害者殺害の着手金として現金250万円を受け取った。 イ信用性被告人は、250万円を支払った前日には、「早くいってほしいから、お母さんの元に」と、当日には、「おろしてきた、あと、先生、嘘ついたよ、生活費振り込みなかったわ、まあ、いいけど、意地悪がはじまったみたいですね」「家族の生活を考えないんだから、やはり、お母さんのとこに行くのが一番ですね」とYにラインを送信しているが、被害者の母は平成27年当時既に死亡していたのであるから、250万円が被害者殺害の着手金であるというYの供述はラインのやり取りと整合するものである。また、Yが、250万円の受領前に、被告人から受け取っていた200万円を、美容組合から嘘を言って借金をしてまで返還していたこと、250万円を受け取った当日、被告人に対し、「今回は、躊躇無く致します」とラインを送信していることは、被告人からの依頼が っていた200万円を、美容組合から嘘を言って借金をしてまで返還していたこと、250万円を受け取った当日、被告人に対し、「今回は、躊躇無く致します」とラインを送信していることは、被告人からの依頼が被害者殺害という躊躇、すなわちためらいを持つような依頼のものであることと整合するものである。Yの立場についてみても、自身の公判において正当防衛の成立等を理由に無罪を主張していたのであり、被告人から被害者殺害の依頼がなかったのにあったとあ えて虚偽の供述をする動機はない。供述内容をみても、被告人が「早くして」「時間がない」とせかしていた、自身は被告人の催促にうんざりしていたなど、相当具体的なものである。 したがって、250万円は被害者殺害の着手金として受け取ったとのYの供述は信用することができる。 ⑵ 被告人の供述ア供述内容Yに対し、平成27年12月25日に支払った250万円は、被害者と離婚させてもらうための活動費として支払ったものであり、被害者殺害の着手金として支払ったものではない。 イ信用性まず、被告人は、離婚について、弁護士等に相談することなく、過去に被告人と結婚するつもりがあると嘘をついていたYにのみ相談したと供述しており、本気で離婚したいと考えていたのであればするべき行動をとっていない(被告人は、平成27年3月、弁護士に、Yに対する貸金返還請求交渉を依頼しており、資産もあったのであるから弁護士等に相談することに支障はなかったといえる。)。また、被告人は、被害者との離婚を考えていた理由として、性交時に手錠をはめられるなどし、被告人が拒否してもこれをやめなかったことを挙げているが、証拠となり得る写真を撮ってない上、被害者とラブホテルに行った際はそのようなことはされなかったとも供述してお 性交時に手錠をはめられるなどし、被告人が拒否してもこれをやめなかったことを挙げているが、証拠となり得る写真を撮ってない上、被害者とラブホテルに行った際はそのようなことはされなかったとも供述しており、被害者が執拗に性的虐待をしていたことに沿わない内容の供述もしている。さらに、被告人は、被害者と離婚するための証拠を得る目的で、Yが被害者を尾行し、その様子を被告人に対しラインで実況中継していたと供述しているが、その証拠となる写真をYが撮ったか記憶にないと供述しており、離婚を望んでいるのであれば重要な証拠となり得る写真が存在していたかどうかについて記憶がないというのは不合理である。 したがって、被告人の供述内容は、不自然、不合理で信用することができ ない。 ⑶ まとめ以上のとおり、被告人が、遅くとも平成27年12月25日までに、Yに被害者を殺害するように依頼した事実が認められる。 2 被告人の犯行動機被告人は、被害者との結婚前から、次女に対し、「お金と結婚」すると言い、Kに対し、被害者は「6000万、7000万は持っている人で、お金には不自由しないから結婚する」と述べ、Gに対し、被害者の資産について執拗に聞いていた。さらに、被害者と結婚した後も、被告人と次女のみが居住するマンションの購入費用として1000万円を拠出させ、被告人及び次女が使用する車2台を購入させ、死亡保険金3000万円の生命保険に加入させ、生活費として毎月20万円を支出させていた。しかし、短期間に多くの資産が流出したことを心配するようになった被害者は、平成27年11月頃には、生活費を減額する意向や、生命保険を解約する意向を示すようになっていった。したがって、被告人は、お金に執着し、被害者の財産目当てで被害者と結婚したが、次第に被害者が金銭の支出 成27年11月頃には、生活費を減額する意向や、生命保険を解約する意向を示すようになっていった。したがって、被告人は、お金に執着し、被害者の財産目当てで被害者と結婚したが、次第に被害者が金銭の支出を自制し始めたことから、財産目当てで被害者を殺害するという動機を有していたと認められる。 これに対し、弁護人は、被告人が平成27年1月26日時点で約3800万円の貯金を有しており、お金に困っていなかったのであるから、財産目当てで被害者を殺害する動機を有していなかったと主張する。しかし、前述のとおり、被告人のお金に対する執着は顕著なものであり、金銭に余裕があることを理由にその執着が否定されるものではない。弁護人の主張は採用することができない。 3 Yが殺害依頼に応じたかについて⑴ ラインのやり取り等について平成27年12月25日の着手金250万円の受領後から平成28年1月3日(同日より後のラインは被告人が同年2月15日に消去したため復元できない。)までの間の被告人とYとの間のラインのやり取りを見ても、Yが殺 害の計画の実行を拒んだり、計画が中止となったりしたようなやり取りは存在しない。また、Yは同年1月26日に白アリ業者を装って被害者方を訪問しており、同年2月1日には被告人とともに灯油用ポリタンク、灯油ポンプ、石油ストーブ1台を購入しているのであるから、被害者を殺害する旨のラインのやり取りに沿った行動を実際にしていることが認められる。 さらに、Yは、被告人から度々金銭を借入れ、平成27年4月の時点で少なくとも600万円の借金を負っていたが、着手金のやり取りにおいて、同年12月25日に被告人から、「成功したら、全てお金の貸し借りは無しで」とのラインが送信されており、殺害に成功したら借金も帳消しになる旨申し向けられていた 負っていたが、着手金のやり取りにおいて、同年12月25日に被告人から、「成功したら、全てお金の貸し借りは無しで」とのラインが送信されており、殺害に成功したら借金も帳消しになる旨申し向けられていたことが認められる。Yは、同年9月29日頃に被告人から受け取った200万円(これは、Yの「今回は、躊躇無く致します」というラインの内容からして被害者殺害依頼の着手金と推認される。)も、美容組合から借金をして返還しており(同年12月3日)、また、美容商材の支払いも滞りがちになっていたのであるから、同月25日の時点においてもYにお金の余裕はなく、被告人に対する借金の返済の目途は立っていなかったと考えられる。したがって、着手金250万円に加え、被告人に対する借金の返済を免れるために、被害者殺害依頼に応じる動機も有していたことが認められる。 以上のとおり、着手金250万円を受け取った後のYの行動や、動機があることに照らすと、Yは、被害者の殺害依頼に応じたと認められる。 ⑵ Yの公判供述ア供述内容着手金250万円は受け取ったが、被害者を本気で殺害しようとは思っていなかった。白アリ業者を装って被害者方には行ったが、被害者殺害計画に賛同した振りをしただけである。ストーブを購入したのは、単に被告人が買うといったので買っただけであり、被害者を殺害するための道具として買ったのではない。 イ信用性 Yは、着手金250万円の受領後、被告人に対し、殺害を断る発言をした形跡はないし、返還もしていない。平成27年9月に渡された着手金200万円については被告人に返還しているのであるから、250万円を返還していないことは、被告人の依頼に応じていないとの供述と整合しない。 また、Yは、被告人に対し、同年12月29日に「天井に断熱材に 万円については被告人に返還しているのであるから、250万円を返還していないことは、被告人の依頼に応じていないとの供述と整合しない。 また、Yは、被告人に対し、同年12月29日に「天井に断熱材にガソリンを含ませて入れるためです」とのラインを送信しており、自らも被害者殺害に向けた計画に関し、積極的に提案をしている。この行動は、被害者殺害計画に賛同した振りをしたということより、被害者殺害の依頼に応じたということに整合的である。 したがって、被告人からの殺害依頼に応じていないというYの供述は信用することができない。 ⑶ まとめ以上のとおり、Yは、平成27年12月25日までに、被告人からの被害者殺害の依頼に応じたことが認められる。 4 被害者殺害に向けた行動⑴ 被告人及びYのラインのやり取り及び行動被告人は、I及びJから睡眠薬を複数回入手した上、平成27年12月、Yに対し、「薬はばれるから、エタノールのが良いかと、思います」「お酒に入れたほうがいいかも」「みんざいきいてるわ」「眠剤もらってきたよ」とラインを送信し、エタノールを実際に購入している。したがって、被告人は、Yとともに、被害者の飲むお酒にエタノールや睡眠薬を混入させることを画策していたことが認められる。さらに、本件犯行後、Yが、被告人に対し、被害者の弟に罪をかぶせる方法として、被害者の弟方のキッチンの中に調合する薬を置いておく方法を提案していること、被告人が、I及びJに対し、睡眠薬を被告人に渡していたことについて口止めしていたことも、被告人及びYが睡眠薬等を混入させることを画策していたことを裏付ける事情となる。 また、被告人は、平成27年12月28日、Yに対し、「縁の下に灯油をま くだけらしく、火事になれば。保険全額降りるそうです」とラインを送 させることを画策していたことを裏付ける事情となる。 また、被告人は、平成27年12月28日、Yに対し、「縁の下に灯油をま くだけらしく、火事になれば。保険全額降りるそうです」とラインを送信し、同月29日にはガソリンやガソリンを入れる缶の調達についてのラインのやり取りをし、Yが天井の断熱材にガソリンを含ませようとする旨のラインを送信している。そして、被告人は、同日、ガソリン携行缶を購入した上、平成28年2月1日に灯油ポンプや灯油用ポリタンクとともに、本件ストーブを購入している。被告人及びYは、灯油で火事を起こすやり取り等をした上で、実際にガソリン携行缶や灯油ポンプ、灯油を使う本件ストーブを購入していることから、被害者を殺害する方法として失火を装って被害者方に放火する内容のやり取りをし、実際にその準備を進めていたことが認められる。 ⑵ 被告人の供述ア供述内容本件ストーブは、被害者から、被告人が寒がりなので、ストーブを購入するよう頼まれて購入しただけであり、被害者を殺害するために購入したわけではない。被害者からO製のストーブを購入するよう頼まれたが、私は、Oを知らなかったので、Oを知っているYについてきてもらった。被害者は平成28年2月当時、足を怪我していたので、ストーブを購入することができなかった。被害者は同月6日Pで食事をした際、被告人に対し、灯油を買って待っていると言った。 イ信用性まず、本件当時被害者方には、ストーブが2台あり、これを使用していたと認められるのであるから、防寒のために新たにストーブを購入する必要性は認められないし、既に被害者方にはストーブが2台あるのであるから、新しいストーブのために灯油を買って待っているという発言も不自然である。また、被害者がO製のストーブを指定した ーブを購入する必要性は認められないし、既に被害者方にはストーブが2台あるのであるから、新しいストーブのために灯油を買って待っているという発言も不自然である。また、被害者がO製のストーブを指定したというが、被告人らが購入したストーブはQ製のもので、O製のものを購入していない。さらに、被告人は、被害者が、平成28年2月6日、Pから車で帰ったと供述しているし、被害者が同月5日に相当の重量がある灯油18Lを購入し、押し車か一輪 車に載せて運んでいる事実も認められるから、被害者が足の怪我のため自身でストーブを購入できないとは考えられず、被告人に依頼する必要性も認められない。 したがって、被告人の供述は信用することができない。 ⑶ 弁護人の主張弁護人は、被害者方にストーブがあったのであるから、殺害にストーブを用いる計画であったのであれば、被害者方のストーブを用いればよかったのであり、わざわざ足がつくリスクを冒して新しいストーブを購入するはずがないと主張する。 被告人らが購入した本件ストーブは丸型で、側面360度から熱が出るものであるが、同型のストーブは被害者方になかったものと認められるので、衣服を重ねて燃えやすくするために購入したと考えられる。また、被害者方のストーブを用いようとした場合、犯行当時の所在や、使い方に不確定な要素が残ると考えられる。さらに、被告人は、平成28年2月1日から同月6日まで、本件ストーブを被告人方に置いていたのであるから、着火方法等を試すこともできるので、被告人らが本件ストーブを購入するメリットはあったものと認められる。したがって、弁護人の主張は採用することができない。 ⑷ まとめ以上のとおり、被告人及びYは、睡眠薬を用いるなどして被害者が寝入っている隙に、被害者方を失火にみせかけて たものと認められる。したがって、弁護人の主張は採用することができない。 ⑷ まとめ以上のとおり、被告人及びYは、睡眠薬を用いるなどして被害者が寝入っている隙に、被害者方を失火にみせかけて放火して、被害者を殺害し、その死亡保険金及び相続財産を得ることを計画し、その準備を進めていたことが認められる。 5 平成28年2月6日頃の被告人によるYに対する発言について⑴ Yの供述ア Yの公判供述の内容平成28年2月6日、被告人から同月1日に購入した本件ストーブを被害者方に早く持っていこうという趣旨で「早く行って」「結果を出して」な どと言われていたことから、同月6日にストーブを被害者方に持って行った。被告人からは、被害者は「爆睡している」と聞かされていた。 イ Yの捜査段階の供述内容(乙5、7)被告人からは、以前に、被害者方にストーブを持って行って、被害者が寝入っているところで、ストーブの火をたいて、服か何かを上に乗せて火事にしたい、そこに被害者が巻き込まれてほしいと思っているという話を聞いたことがあった。平成28年2月1日、被告人と買い物に行き本件ストーブを買った際、被告人から、同月6日に本件ストーブを持って被害者の家に一緒に行ってほしいと言われた。 被告人は、被害者方に向かう際、被害者は酒を飲んで寝入っているはずだと言っていた。被告人が望んでいるのは、同月6日に被害者が寝入っているところにストーブを持ち込み、ストーブによる火事に被害者が巻き込まれたことにして被害者が死ぬことであり、被告人は私にその計画を実行するようにという意味で「結果を出しに行こう」と言っているのだと思った。 ウ信用性Yは、公判においては曖昧な供述に終始しているものの、捜査段階の供述は、本件ストーブやガソリン 画を実行するようにという意味で「結果を出しに行こう」と言っているのだと思った。 ウ信用性Yは、公判においては曖昧な供述に終始しているものの、捜査段階の供述は、本件ストーブやガソリン携行缶を実際に購入していること、被告人が交際相手らから睡眠薬を入手していたことなど、被告人及びYの実際の行動と整合するものである。また、被害者を殺害する計画を実行するために被害者方に向かったという点は、Yが平成28年2月6日にレンタカーをわざわざ借りていることとも整合するものである。 以上のとおり、Yの捜査段階の供述は信用することができるので、被告人は、Yに対し、平成28年2月6日以前に、ストーブによる火事に被害者が巻き込まれたことにして被害者が死んでほしい旨伝え、同日、「被害者は酒を飲んで寝入っているはずだ」「結果を出しに行こう」と言ったことが認められる。 ⑵ 被告人の供述 被告人は、①被害者が、平成28年2月6日、被告人とPで食事をしている際、被告人とYとの間の不倫を問いただすために、今日この後、ストーブを運ぶことを口実にYを呼び出すように言ったので、Pから被告人方へ帰宅した後Yに連絡した、②Yは、被害者に対し、性交時に手錠を用いるなどの被害者の性的嗜好について注意するために、被害者方へストーブを運び入れることを了承したと供述する。 しかし、Yは、被告人らがPで精算した同日午後7時12分よりも前である同日午後5時15分に、被害者方へ行く際に使用するレンタカーを借りていることが明らかとなっている。したがって、被害者方へ当日行くこととなったのはPにいる際であり、その後Yに伝えたという被告人の供述は客観証拠と矛盾するものである。また、被告人は、Yの連絡先や、やり取りを消した状態で被害者に自身の携帯電話機を見せ、Yとは連 くこととなったのはPにいる際であり、その後Yに伝えたという被告人の供述は客観証拠と矛盾するものである。また、被告人は、Yの連絡先や、やり取りを消した状態で被害者に自身の携帯電話機を見せ、Yとは連絡を取っていないと説明した旨供述している一方、被害者が、被告人に対しYに連絡するように言ったという不合理な内容の供述をしている。したがって、被告人の供述は信用することができない。 ⑶ 弁護人の主張弁護人は、被害者の遺体から睡眠薬の成分が検出されているが、検出可能とされる3日以内のいずれのタイミングで摂取したものかは不明であり、平成28年2月6日より前に被害者が自分で摂取した可能性があること、被告人が被害者に同日に睡眠薬を摂取させた証拠はないことから、被害者が酒を飲んで寝入っているはずだと被告人が発言するはずがないと主張する。 しかし、被告人は、前述のとおり、Yに対し、平成27年12月、睡眠薬入りの酒を被害者に飲ませた旨のラインを送信していることから、平成28年2月6日も被害者が睡眠薬入りの酒を飲んで寝入っているのを期待すること自体は何ら不自然ではない。また、被告人らが被害者方に赴いたのは午後10時以降と、被害者がもともと寝ている時間帯である(被告人自身、被害者について、Yに対し、「朝3時に起きるらしく夜は7時には、寝るらしい」とのラ イン(平成27年12月29日)を送信している。)ことからも、被告人の前記発言を否定する根拠とはならない。したがって、弁護人の主張は採用することができない。 6 平成28年2月6日のレンタカーの動き⑴ レンタカーの使用及びその動きについてYは赤色アウディ及び黒色アウディを使用し、被告人はプリウスαを使用していたのであるから、単に防寒のためのストーブを運ぶためならレンタカーを借りる必 ⑴ レンタカーの使用及びその動きについてYは赤色アウディ及び黒色アウディを使用し、被告人はプリウスαを使用していたのであるから、単に防寒のためのストーブを運ぶためならレンタカーを借りる必要はなかったこと、被害者方に移動する際、あえて高速道路を使用しなかったこと、ストーブを運ぶために被害者方に赴いたというにもかかわらず、被害者方内に駐車せず、わざわざ被害者方から離れた路肩に駐車したことからすると、被告人及びYは、被害者や近隣住民に来訪を知られないようにし、犯罪行為の足がつくのを防ぐためにこのような行動に出たと考えられる。 ⑵ Y及び被告人の各公判供述の信用性Yは、被告人から指示されたので、レンタカーを借りた、なぜ被告人がレンタカーを借りるよう言ったのかは分からないと供述している。一方、被告人は、Yにレンタカーを借りるよう指示してはおらず、Yからは黒色アウディを修理に出したので代車を借りたと言われたと供述している。 しかし、いずれの説明も被告人のプリウスαが存在するのにレンタカーを借りた理由の説明にはなっておらず、犯罪の実行のためという目的を除くとレンタカーを借りる合理的な理由が見当たらないから、被告人及びYの各供述は信用することができない。 ⑶ まとめ以上のとおり、いずれが提案したかはともかく、被告人及びYは、犯罪行為の足がつくのを防ぐために、レンタカーを借り、料金所等で撮影されるのを防ぐため、下道で被害者方に向かい、被害者方から離れた路肩にレンタカーを駐車したものと認められる。 7 被害者方への本件ストーブの運び入れ⑴ Yの公判供述ア供述内容被告人は、車を止めた後、勝手口から被害者方内に入り、内側から玄関扉を開けた。玄関扉を開いた際、被告人から「起きちゃったわ」と言われた トーブの運び入れ⑴ Yの公判供述ア供述内容被告人は、車を止めた後、勝手口から被害者方内に入り、内側から玄関扉を開けた。玄関扉を開いた際、被告人から「起きちゃったわ」と言われた。 そこで、私は、本件ストーブを持って、玄関から、被告人方に入った。 イ信用性被害者が寝入っている前提であれば、被害者が寝ているか否かを、被害者の妻で被害者が寝ている場所等を把握しているであろう被告人が確認する必要があるから、被告人がまず部屋の様子を確認したという内容は合理的である。また、Yは、被害者方を数回しか訪問したことがないにもかかわらず、勝手口から入り、玄関扉を開けるという相当具体的な内容を供述している。さらに、Yは、被告人から酒の空瓶を片付けるよう指示されたので、片付けたという、虚偽を述べる理由のない内容についても供述している。したがって、被告人が勝手口から被害者方に入り、玄関扉を開け、Yが、ストーブを運び入れたという内容のYの供述は信用することができる。 以上のYの供述から、被告人らは、当初の計画どおり、失火を装って被害者を殺害するために、夜間に本件ストーブを被害者方に運び入れていたことが認められる。 ⑵ 被告人の公判供述ア供述内容被害者方の玄関まで行くと、玄関の外から台所の電気がついていることが分かった。被告人がチャイムを鳴らし、Yが「Bさん」と何度か呼ぶと被害者が玄関から出てきた。被害者は、「しっしっ」と手で合図した。被害者から男同士2人で話をすると聞いていたこともあり、車に戻った。 イ信用性そもそも、既に検討したとおり、被害者がYと被告人との不倫を問いただ すためにYを呼びつけた事実は認められないから、被告人の供述はその前提を欠いている。また、被害者の妻である被告 用性そもそも、既に検討したとおり、被害者がYと被告人との不倫を問いただ すためにYを呼びつけた事実は認められないから、被告人の供述はその前提を欠いている。また、被害者の妻である被告人ではなく、その不倫相手であるYが被害者を呼ぶことも不自然である。したがって、平成28年2月6日当日被害者方に立ち入っていないという被告人の供述は信用することができない。 まとめYの前記供述から、殺人の犯行当日、Yは、被告人とともに、失火を装って被害者を殺害するとの事前の計画に基づき被害者方に本件ストーブを運び入れたことが認められる。 8 犯行後の行動被告人は、判示第1の犯行後、Yから、被害者の動脈か静脈を包丁で刺した旨聞いていたにもかかわらず、救急車を呼ぶなどの救命行為をとらなかったことも、被告人が被害者を殺害する目的を有していたことを裏付ける事情となる。 これに対し、被告人は、現場では、携帯電話機を家に忘れてしまったので通報できず、帰宅した後も、Yから電話をするなと言われたので、警察への通報や、被害者への電話ができなかったと供述する。しかし、被告人の携帯電話機の位置情報によれば、平成28年2月6日午後8時45分から同月7日午前0時45分までの間は、被告人の携帯電話機は被告人方になかったことになっており、被告人が携帯電話機を自宅に忘れたとの供述は、客観証拠に反するものである。したがって、被告人の供述は信用することができない。 9 殺人の共謀、殺意についての結論以上の1ないし8を総合すると、被告人は、Yとの間で、250万円の報酬を同人に交付した平成27年12月下旬頃に、被害者の死亡保険金及び相続財産を得る目的で同人を殺害する内容の共謀を遂げたこと及びこれに基づく殺意が認められる。 10 弁護人の主張⑴ 平 報酬を同人に交付した平成27年12月下旬頃に、被害者の死亡保険金及び相続財産を得る目的で同人を殺害する内容の共謀を遂げたこと及びこれに基づく殺意が認められる。 10 弁護人の主張⑴ 平成28年2月6日に放火をしていない点について 弁護人は、平成28年2月6日当日、Yは被害者を刺して死亡させた後、被害者方に火をつけていないが、ストーブによる失火を装い被害者を殺害する共謀が存在し、その共謀に基づいて被害者方に行ったのであれば、ライターを持っていたYは火をつけたはずであると主張する。 しかし、本件は、後述するとおり、当初被害者が寝ている間に失火を装って放火することを予定していたが、起きている被害者を刺して殺害することとなり、当初予定していなかった方法により被害者を殺害したというものである。その後、被告人及びYは、死亡保険金等を得るために、事故死と見せかける方法を改めて考えなければならず、同月13日の放火に至っている。このような予定外の方法による殺害という突発的かつ衝撃的な事態が生じたのであるから、狼狽等のあまりその場で冷静に当初の計画に従って失火を装って本件ストーブに火をつけることができず、まずは戸締り等をした上で早く被害者方を去ることを優先するということは十分ありうる。そうすると、被害者死亡後、ただちに放火を行わなかったことが被告人とYとの間の殺人の共謀を否定する根拠とはならない。弁護人の主張は採用することができない。 ⑵ 平成28年2月7日の法事について弁護人は、被告人が、平成28年2月7日に被害者の親族の法事があり、被害者が出席予定であることを知っていたので、あえて発覚がしやすいその前日である同月6日に被害者の殺害を計画するはずがないと主張する。 しかし、被告人及びYは、当初の計画では同月6日 法事があり、被害者が出席予定であることを知っていたので、あえて発覚がしやすいその前日である同月6日に被害者の殺害を計画するはずがないと主張する。 しかし、被告人及びYは、当初の計画では同月6日に失火を装って放火することを予定していたのであり、被害者が自らの失火により死亡したことが火災の事実と共に同日に発覚する前提であった。そうすると、翌日に法事が予定されていたことが、被告人とYとの間の殺人の共謀を否定する根拠とはならない。弁護人の主張は採用することができない。 ⑶ 平成28年2月13日の点火方法について弁護人は、平成28年2月13日、Yはストーブを用いずに放火していることから、被告人及びYがストーブによる失火を装い被害者を殺害することを 計画していたはずはないと主張する。 しかし、後述するとおり、Yは、当初の計画と異なり、被害者を刺して殺害してしまったのであるから、被害者が刺されたことにより死亡したことが発覚しないように被害者の遺体を高度に燃やす必要があったといえる。また、直接ストーブを用いなくてもストーブのある部屋で放火したり、被害者の遺体の傍にストーブを置いたりしておけば失火を装うことができるともいえる。 そうすると、同日に放火の手段としてストーブを用いなかったことが、被告人とYとの間の殺人の共謀を否定する根拠とはならない。弁護人の主張は採用することができない。 ストーブの発見状況弁護人は、①本件ストーブは、電池によって点火するものであったが、被害者方から発見された本件ストーブには電池が入っておらず、近くに落ちていた電池も被告人が被害者と知り合う前に使用期限が切れているものであったこと、②本件ストーブに油臭がしていなかったことを挙げ、本件ストーブは被害者殺害の凶器とはなり得ず、被告人らは本件ストー 落ちていた電池も被告人が被害者と知り合う前に使用期限が切れているものであったこと、②本件ストーブに油臭がしていなかったことを挙げ、本件ストーブは被害者殺害の凶器とはなり得ず、被告人らは本件ストーブを被害者殺害目的で運んでいないと主張する。 しかし、①本件ストーブは、その説明書によると電池点火以外の方法でも点火できるものであり、新品の電池が発見されていないことが不自然であるとはいえない。さらに、②被告人らは、被害者が寝入っている隙に失火を装って被害者を殺害する予定であったのであるから、被害者方で灯油を入れればよいし、灯油を入れた状態で本件ストーブを運び込んだ場合、途中で灯油が漏れる可能性があるので、灯油を入れずに被害者方に運び込んだことが不自然とはいえない。そして、後述するとおり、本件では、被害者が起きていたため、当初予定していなかった方法により被害者を殺害していることから、本件ストーブに油臭がしていなかったことが、被告人らがストーブによる失火を装い被害者を殺害する計画をしていたことを否定する根拠とはならない。弁護人の主張は採用することができない。 ⑸ 死亡保険金の請求経緯について被告人は、被害者方が焼損した後、自ら保険会社に連絡することはなく、保険会社の方から被告人に連絡して被告人と会い、死亡保険金の支払いを請求することとなった事実が認められるが、弁護人は、これを理由に、被告人には積極的に死亡保険金を受領する意思はなく、死亡保険金目的の殺害を計画していたはずがないと主張する。 しかし、N(被告人の元交際相手であり、保険に関する一定の知識を有し、Sを被告人に紹介した人物。同人の供述はその具体性、合理性から信用することができる。)の供述によれば、保険会社からの上記連絡が来る前である平成28年2月24日、被告人 保険に関する一定の知識を有し、Sを被告人に紹介した人物。同人の供述はその具体性、合理性から信用することができる。)の供述によれば、保険会社からの上記連絡が来る前である平成28年2月24日、被告人が、Nに対し電話をかけ、「テレビとかニュースで知ってるかもしれないけど、この状態で保険金の請求ができるのかどうか」と尋ね、Nは、通常だと事件性があるものに関しては契約が凍結されるので、一切手続ができなくなる旨答えた、というやり取りがあったことが認められる。 したがって、死亡保険金をすぐに得ることは難しいと考えた被告人が、自分から死亡保険金支払の請求をすることは控えたと考えられ、このことが殺害計画に照らして不自然とはいえないし、前記のNに対する電話の内容からして、被告人は可能であれば死亡保険金の支払いを受けたいという意思を有していたといえ、むしろ殺害計画を裏付けるともいえる。弁護人の主張は採用することができない。 ⑹ 相続財産の分け前について弁護人は、被告人が、Yに対し、取得した相続財産からの分け前を支払った事実は認められないから、被告人が被害者を相続財産目的で殺害しようとしていたとは考えられない旨主張する。 しかし、前記のとおり、Yは、着手金250万円を得たほか、少なくとも600万円の借金を免除してもらう約束もしており、このような多額の利得により、報酬の話は既についていたと認められる。また、Yは、被告人から度々金銭を借り入れているし、平成28年2月13日以降も美容組合からEに仕 事を発注するなど、被告人との関係は続いていたことが認められるから、事件後も被告人にお金をその都度要求することが容易な立場にあったものと認められる。さらに、同月15日には被告人は捜査の対象になっていたのであるから、Yへの金の移動など疑いを招くような行 られるから、事件後も被告人にお金をその都度要求することが容易な立場にあったものと認められる。さらに、同月15日には被告人は捜査の対象になっていたのであるから、Yへの金の移動など疑いを招くような行動は控えたということも考えられる。したがって、被告人が、Yに対し、取得した相続財産からの分け前を支払った形跡がないことが、相続財産目的の殺害を否定する根拠とはならない。 弁護人の主張は採用することができない。 11 小括以上のとおり、弁護人の主張を踏まえて検討しても、被告人は、Yとの間で、被害者を殺害する内容の共謀を遂げていたこと及びこれに基づく殺意が認められる。 第4 共謀に基づく実行及び正当防衛状況について(争点3、4) 1 傷の状態から認定できる行為態様⑴ M医師の供述内容前記傷の状態等から、本件犯行に使用された凶器は、先が尖っていて、片側に鋭利な刃がついている、刃体の長さ10.5センチメートル以上の刃物と推定できる。また、第1創ないし第4創が相互に離れているという位置関係からすると、4つの傷はそれぞれ別の刺突行為によってできたものと考えられる。 さらに、前記傷の深さや位置からすると、いずれの傷も、力を込めて心臓や肺のある胸部を刺されてできたものである。そして、前記第1創と第2創は胸壁の刺入部の形が整っていた。 ⑵ M医師の供述の信用性M医師は、約800体の司法解剖の経験に基づき、実際に被害者を解剖した執刀医として専門的な知見に基づいて供述していること、供述内容が死体の状況に整合し、かつ、合理的であることから、M医師の供述の信用性を疑うべき事情はなく、M医師の前記供述は信用することができる。 認定できる行為態様 被害者の前記傷の状態や、信用できるM医師の供述から、被害者は、刃体の長さが10.5センチメ 用性を疑うべき事情はなく、M医師の前記供述は信用することができる。 認定できる行為態様 被害者の前記傷の状態や、信用できるM医師の供述から、被害者は、刃体の長さが10.5センチメートル以上の先端が尖った鋭利な刃物という殺傷能力の高い凶器で、心臓や肺のある胸部を、少なくとも4回強い力で刺されたことが認められる。そして、とくに第1創と第2創は、刺入部の形が整っていたことから、第1創と第2創は、被害者がもみ合いの中で刺されたものではないことが認められる。 2 被害者刺突に至る経緯及び刺突状況⑴ Yの公判供述の内容平成28年2月6日に被害者方を訪れ、玄関から本件ストーブを運び入れたところ、被害者に「お前土足じゃないか」などと罵倒され、土下座しろなどと言われたので、土下座したところ、小便をかけられた。私は、立ち上がろうとしたところ、いきなり被害者に拳で顔を殴られ、その際、眼鏡がふっとんだ。 それとほぼ同時に、私は、被害者に拳で殴り掛かり、1発目は外れたが、2発目は顔に当たった。すると、被害者は被害者方母屋1階南東側8畳和室(以下「8畳和室」という。)の方から、果物ナイフを右手に持って廊下に出てきて、その場で果物ナイフを振り回してきた。そこで、私は、前に進んで、被害者の懐に入り、果物ナイフを持った被害者の右手を自分の左手で掴み、これをひねって、果物ナイフを落とさせ、その果物ナイフを右手で拾った。すると、被害者が覆いかぶさってきたので、右手に持った果物ナイフで被害者の腹あたりを刺した。その後、被害者をもう1回刺したかどうかは覚えていない。 ⑵ Yの捜査段階の供述内容(乙7)被害者に小便をかけられ頭にきて、拳で被害者の顔に殴り掛かり、1発目は外れたが、2発目は当たった。すると、被害者は奥の方へ逃げていき、奥の方 は覚えていない。 ⑵ Yの捜査段階の供述内容(乙7)被害者に小便をかけられ頭にきて、拳で被害者の顔に殴り掛かり、1発目は外れたが、2発目は当たった。すると、被害者は奥の方へ逃げていき、奥の方から、果物ナイフを右手に持って出てきて、果物ナイフを振り回しながら、廊下にいた私に向かってきた。そこで、私は、果物ナイフを持った被害者の右手首付近を自分の手で掴んでひねって、果物ナイフを落とさせ、その果物ナイフを右手で拾い、被害者の腹あたりを1回刺した。さらに被害者を何回か刺した かもしれないが、よく覚えていない。ただ最後にもう一度被害者の身体を刺した状況については覚えており、刺されて座り込んだ被害者が立ち上がろうとしたので、被害者の襟ぐりあたりを左手で掴み、被害者の身体の正面に、右手で持っていた果物ナイフでもう1回突き刺し、そのまま果物ナイフを押したところ、その反動で被害者が尻餅をついたことは覚えている。 ⑶ 信用性まず、Yが自宅に土足で立ち入ったことを怒った被害者が、自ら小便をかけるというさらに自宅の床を汚すような行為をするのは不自然、不合理といえ、被害者から小便をかけられた旨のYの供述は信用することができない。また、被害者に殴られ眼鏡が吹っ飛んだという点も、捜査段階や、自身の裁判において供述していなかったにもかかわらず、被害者に殴られたという印象的な場面で、しかも自らが主張する正当防衛の成否に影響する可能性がある事情を当公判廷において突然思い出したというYの公判供述は不自然、不合理で、信用することができない。 しかし、Yは、来訪することを告げず、夜遅くマスク姿かつ土足で被害者方に立ち入り、さらに被害者を殴っていることから、被害者が自身の生命又は身体を防御するために刃物を持ち出し、Yに対し振り回した可能性は否定でき 、来訪することを告げず、夜遅くマスク姿かつ土足で被害者方に立ち入り、さらに被害者を殴っていることから、被害者が自身の生命又は身体を防御するために刃物を持ち出し、Yに対し振り回した可能性は否定できない。また、被告人らは失火を装って寝入っている被害者を殺害することを計画しており、被害者を刃物で刺突することは計画に含まれていなかったことを考慮すると、Yが刃物をあらかじめ用意して使用したということは考え難く、被害者が刃物を持ち出した可能性は否定できない。したがって、Yが被害者方に立ち入った後、被害者と口論となり、Yが被害者を殴打したので、これに対し、被害者が刃物を持ち出し、振り回したという可能性については否定できず、この点に関するYの公判供述を排斥することはできない。さらに、被害者が8畳和室の方から、果物ナイフを右手に持って廊下に出てきて、その場で果物ナイフを振り回したので、Yが前に進んで、被害者の懐に入り、果物ナイフを持った被害者の右手を自分の左手で掴み、これをひねって、果物ナイフを 落とさせ、その果物ナイフを右手で拾って、被害者を1回刺したとの公判供述は具体的で信用することができる。1回刺した後の刺突状況については、Yは、公判においては曖昧な供述に終始しているものの、捜査段階では、刺されて座り込んだ被害者が立ち上がろうとしたので、Yが被害者の襟ぐりあたりを左手で掴み、被害者の身体の正面に、右手で持っていた果物ナイフでもう1回突き刺したことは覚えていると供述しており、同供述は具体的で信用することができる。 刺突状況の認定信用することができるM医師の供述、Yの供述のうち信用することができる部分及び傷の状態等によれば、刺突状況は以下のとおりであったと認められる。すなわち、Yが被害者方に立ち入った後、被害者と口論となり、Yが被 ことができるM医師の供述、Yの供述のうち信用することができる部分及び傷の状態等によれば、刺突状況は以下のとおりであったと認められる。すなわち、Yが被害者方に立ち入った後、被害者と口論となり、Yが被害者を殴打したところ、これに対し、被害者が刃物を持ち出して振り回したので、Yが前に進んで、被害者の懐に入り、被害者の右手を自分の左手で掴み、刃物を落とさせ、拾った刃物で、被害者の胸部を1回刺し、その後、刺されて座り込んだ被害者が立ち上がろうとしたので、被害者の襟ぐりあたりを左手で掴み、被害者の胸部を刃物でもう1回突き刺したとの事実が認められる。また、Yは、上記2回を含め少なくとも4回、被害者の胸部を刃物で意図的に刺したが、刺した力はいずれも強く、うち2回は抵抗していない状態の被害者を刺したことも認められる。 3 共謀に基づく実行であるかYは、被告人とともに、被害者殺害目的で被害者方に立ち入った上、短時間のうちに被害者を一方的に複数回突き刺している。Yは、被告人から着手金250万円、成功報酬として借金の免除を約束されていたからこそ、被害者を確実に殺害するために執拗に突き刺したものと認められる。また、被告人は、Yから被害者を刺したと聞いた後も、救命行動をとらないばかりか、当初の計画通り死亡保険金及び相続財産を得るため、殺人の犯行発覚を防ぐための放火(判示第2の犯行)に及んでおり、Yによる被害者の刺殺を容認していたと評価できる。さらに、 当初の計画とは犯行態様が異なるものの、同一の被害者に対し、同一の場所において、計画した日時において行われた犯行であるから、計画と実際の犯行との間に大きな相違はないといえる。したがって、Yは、被告人との被害者殺害の共謀に基づき、被害者を少なくとも4回深く突き刺したものと認められる。 一方、弁護 われた犯行であるから、計画と実際の犯行との間に大きな相違はないといえる。したがって、Yは、被告人との被害者殺害の共謀に基づき、被害者を少なくとも4回深く突き刺したものと認められる。 一方、弁護人は、Yが、被害者から「お前の嫁、知ってるぞ」「お前の嫁、犯してやろうか」などと妻のことを含め罵倒され、土下座して謝っている際に小便をかけられ、人生最大の屈辱を味わわされた旨供述しているのであるから、Yは、人生最大の屈辱を味わわされて突発的に被害者を刺したのであり、被告人との共謀に基づくものではないと主張する。 しかし、被害者から小便をかけられた事実が認められないことは前述のとおりであるし、Yは、被告人と不倫関係にあった上、Tなど被告人以外の女性とも交際していたのであるから、妻に対する深い思いがあったとは認められず、妻のことを罵倒されたこと等を理由に、被害者を一方的に繰り返し刺すなど、強い殺意をもって被害者を刺すとは考えられない。弁護人の主張は採用することができない。 4 正当防衛状況の有無 Yの被害者方への立入りの目的Yは、そもそも、被害者を殺害する目的で被害者方に入っており、被害者に危害を加える目的で被害者方に出向いたことが認められる。 被害者の刃物振り回し行為の正当性被害者は、夜遅く、約束もなく被害者殺害の目的を隠して一方的に来訪し、マスク姿かつ土足で被害者方に立ち入ったYに恐怖を感じる中で、Yに殴られたことを契機に、刃物をその場で振り回してけん制したに過ぎない。そうすると、被害者による刃物の振り回し行為自体、Yに対する防衛行為に当たるといえ、被害者の前記行為は不正なものではない。したがって、被害者に対してYが刃物で胸部を刺すことが正当なものとして許容される状況にあったとはいえない。 体、Yに対する防衛行為に当たるといえ、被害者の前記行為は不正なものではない。したがって、被害者に対してYが刃物で胸部を刺すことが正当なものとして許容される状況にあったとはいえない。 ⑶ 刺突時の状況Yは、被害者から刃物を奪ったのち、放り投げるなど刃物を被害者から遠ざけることが可能であったのにそれをせず、手を捻り上げられるなどして顕著な抵抗を見せない被害者を少なくとも4回深く突き刺しているところ、これは、被害者の体勢や抵抗状況、Yによる攻撃の方法、回数、程度等から見て、被害者が刃物を持ち出し、振り回した機会を利用し、積極的に被害者を攻撃する意思で繰り返し突き刺したものと認められる。 小括以上のとおり、Yは、被害者に危害を加える目的で被害者方に出向き、被害者を攻撃することが正当なものとして許容されない状況下で、積極的に被害者を攻撃する意思で、被害者を刃物で突き刺しており、Yの当該行為は、刑法36条の趣旨に照らして許容されるものではなく、正当防衛が成立する状況にはなかったことが認められる。 第5 欺罔行為について(争点6)前記のとおり、被告人とYが共謀して被害者を殺害したことが認められるので、被告人は、Yと共に被害者を殺害した事実を秘した上で、死亡保険金等の請求を行ったといえ、欺罔行為があったことが認められる。 第6 非現住建造物等放火及び死体損壊の共謀について(争点5) 1 平成28年2月11日の話し合い⑴ Yの供述ア Yの公判供述の内容平成28年2月6日以降、被告人からは「なんとかして」と言われていた。 同月13日に被害者方に赴いた理由は覚えていない。 イ Yの捜査段階の供述内容(乙8)平成28年2月11日、被告人と被害者の死体をどうするかという話をしていた際、 かして」と言われていた。 同月13日に被害者方に赴いた理由は覚えていない。 イ Yの捜査段階の供述内容(乙8)平成28年2月11日、被告人と被害者の死体をどうするかという話をしていた際、被告人からは「どうするの。あなたがやったことでしょ。時間がない」と言われた。私は被告人が当初の予定どおり、被害者方に火をつけ ることを望んでいるのだと思った。最終的に、被告人の意を酌んで、私のほうから「じゃあ、灰にするしかないだろう」と言い、被告人は「そうだね」と言ってきたので、被害者方に火をつけるということになり、私の都合で、同月13日に被害者方に行くことに決まった。 ウ信用性Yは、公判においては曖昧な供述に終始しており、公判供述は信用することができない。他方、捜査段階の供述については、以下の点を指摘することができる。すなわち、Lは、平成28年2月11日、被告人に対し、被害者と連絡がつかない旨を伝えているが、被告人が同日「なんとかしてよ」とYに対して迫ったことは、Lが同日に電話したことで、被害者を殺害した事実が発覚するおそれが高まったことと整合するものである。また、前述のとおり、被告人とYはもともと被害者を殺害する方法として被害者方に放火をして失火を装うことを計画していたことが認められるが、Yは計画と異なり被害者を刺突して殺害してしまったので、被害者を灰にするという提案は、被害者を刺突して殺害したとの事実を捜査機関に知られないようにし、当初の計画どおり失火を装うことにつながるものである。したがって、Yの捜査段階の供述は、Lの電話や、当初の計画とも整合するものであり、信用することができる。 ⑵ 被告人の供述被告人は、平成28年2月13日に被害者方に行ったのは、Yが被害者方で眼鏡のつるを落としたので、取りに行 電話や、当初の計画とも整合するものであり、信用することができる。 ⑵ 被告人の供述被告人は、平成28年2月13日に被害者方に行ったのは、Yが被害者方で眼鏡のつるを落としたので、取りに行くために一緒についてきてほしいと頼まれたからであると供述する。 しかし、前述のとおり、Yが同月6日に被害者から殴られ、眼鏡のつるが飛んだという事実が認められないので、被告人の供述はその前提を欠いている。 さらに、被告人とYは、同月9日に被害者方に赴いているのであるから、同日に眼鏡のつるは回収できたはずであり、眼鏡のつるを取りにいくために同月13日に被害者方に赴いたという被告人の供述は信用することができない。 2 放火及び死体損壊の共謀について以上のとおり、被告人及びYは、平成28年2月11日、被害者を灰にして燃やすことを話し合っていることが認められ、実際に同月13日に被害者方に赴き、Yが被害者方に放火しているのであるから、被告人及びYとの間に非現住建造物等放火及び死体損壊の共謀があったことが認められる。 第7 結論以上のとおり、判示第1については、被告人及びYとの間で殺人の共謀があった上、被告人及びYには被害者に対する殺意があり、Yの実行行為は被告人との殺人の共謀に基づくもので、正当防衛が成立する状況になかったと判断し、判示第2については、被告人及びYとの間で非現住建造物等放火及び死体損壊の共謀があり、判示第3については、欺罔行為があったことが認められると判断した。 (量刑の理由)本件において、犯罪事実に関する事情として最も重視すべきは判示第1の犯行の目的である。本件犯行は、被告人らが、死亡保険金及び相続財産目的で被害者を殺害したというものであり、財産目的で人の命を奪うといった身勝手で悪質極まりない犯行で、殺人 最も重視すべきは判示第1の犯行の目的である。本件犯行は、被告人らが、死亡保険金及び相続財産目的で被害者を殺害したというものであり、財産目的で人の命を奪うといった身勝手で悪質極まりない犯行で、殺人罪の中でも刑事責任が特に重大である(被告人は、被害者の性癖などと称して、被害者の人格を侮辱するエピソードを複数述べたものの、いずれのエピソードについても裏付けはない上、そもそも財産目的で被害者を殺害している本件の際立った悪質性を考慮すると、考慮すべき事情になり得ない。)。被告人らは、当初の想定と異なりながらも計画どおりの結果を得るために被害者を殺害しており、本件犯行の数か月前から計画されて実行された計画的犯行であるといえる。判示第1の犯行態様をみると、ほぼ無抵抗の被害者に対し、鋭利な刃物で少なくとも4回にわたりその胸部を繰り返し強く突き刺して失血死させるというものであり、強い殺意に基づく執拗で残忍な犯行である。結果についてみても、何の落ち度もない被害者の尊い命を奪った結果が重大であることはいうまでもなく、被害者の弟が被告人に対し 厳しい処罰感情を述べているのは当然である。被告人は、Yに報酬を約束して被害者殺害を依頼し、Yと共に殺害計画を練り、殺害実行の準備をし、Yに「結果を出しに行こう」などと言って犯行を促して殺害させた上、被害者の多額の相続財産(現金だけでも預貯金合計約5547万円及び不動産の売却代金のうち650万円)を得ていることから、まさに判示第1の犯行の首謀者であり、その刑事責任は実行犯であるYよりも大きいといえる。 次に、判示第2及び第3の犯行について検討する。まず、判示第2の犯行の目的は、殺人の犯行発覚を防ぎ、死亡保険金と相続財産を被告人が取得できるようにするというものであり、当初の計画を達成するために、殺人に重ねて実行 及び第3の犯行について検討する。まず、判示第2の犯行の目的は、殺人の犯行発覚を防ぎ、死亡保険金と相続財産を被告人が取得できるようにするというものであり、当初の計画を達成するために、殺人に重ねて実行したもので、判示第1の犯行の目的と同様、利欲的な目的の点で悪質性が際立っている。被告人らは、以前から失火を装った放火を計画し、被害者殺害後、改めて放火を計画して犯行に及んだものであり、計画的犯行で、犯罪遂行に向けた意思も強固であったと認められる。犯行態様についてみても、夜間、住宅地にある木造住宅である被害者方の和室内で、本や衣類を積み重ねて、燃えやすい媒介物を入れてライターで点火するという多くの被害が生じかねない危険極まりない犯行である。そして、犯行の結果、被害者方は全焼し、近隣住宅への差し迫った延焼の危険を生じさせ、被害者の死体を著しく損壊している。被告人は、なかなか放火を実行しようとしないYに犯行を強く促し、実行に至らせており、判示第1の犯行と同様首謀者であって、Yよりも刑事責任が大きいといえる。判示第3についてみても、死亡保険金3000万円を得るための手段として被害者を殺害し放火したものであるから、非常に悪質である。 以上のとおりの犯罪事実に関する事情、とりわけ判示第1の犯行の目的や被告人が首謀者であることを考慮すると、本件は同種事案の中で非常に重い部類、すなわち無期懲役に処すべき部類に属する事案といえる。 そして、犯罪事実に関する事情以外で、被告人にとって有利な事情としては、被告人に前科前歴がないことがある。しかし、そもそも、本件のような死亡保険金及び相続財産目的の殺人のような重大な事案では、更生可能性の観点からみて、前科前歴が ないことの考慮の程度には自ずと限界がある。加えて、被告人は、本件犯行直後から、被害者の弟に罪を 保険金及び相続財産目的の殺人のような重大な事案では、更生可能性の観点からみて、前科前歴が ないことの考慮の程度には自ずと限界がある。加えて、被告人は、本件犯行直後から、被害者の弟に罪を被せようとする、ラインの履歴を消去する、長女・次女や交際相手らに口止めをするなど、執拗な罪証隠滅工作に及んだ事実が認められる。さらに、当公判廷においても、不合理な弁解に終始し、被害者の性癖を殊更に並べ立てた上、Yに責任を押し付けようとする姿勢を見せている。被害者遺族に対しても、被害弁償や謝罪等の慰謝の措置を一切講じていない。被告人は、当公判廷において、被害者に対して申し訳ないと思っている、あるいは、現在でも愛情を持っているかのような発言をするが、以上の事実を考慮すると、犯行直後から現在に至るまで反省の態度が一切見られないと評価せざるをえない。これらの事情を踏まえると、前科前歴がないという被告人に有利な事情を最大限考慮しても、被告人の刑事責任は相当重いといわざるを得ない。 以上のとおり、被告人に前科前歴がないことは、量刑を大きく左右する事情とはなり得ず、被告人に有利な事情を最大限踏まえても有期懲役刑を選択する余地はなく、被告人を無期懲役に処すのが相当と判断した。 (求刑-無期懲役)令和4年4月15日名古屋地方裁判所刑事第3部 裁判長裁判官宮本 聡 裁判官西前征志 裁判官大井友貴

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