- 1 -平成16年(ネ)第648号損害賠償請求控訴事件(原審・大阪地方裁判所平成15年(ワ)第6256号)中間判決控訴人(1審原告)日本フネン株式会社同訴訟代理人弁護士田倉整同内藤義三被控訴人(1審被告)近畿車輛株式会社同訴訟代理人弁護士美根晴幸主文被控訴人が、大阪地方裁判所平成9年(ヨ)第2741号仮処分命令申立て事件につき、平成10年3月26日に仮処分命令を得てその執行をしたことについて、被控訴人には過失がある。 事実及び理由 第1控訴の趣旨 原判決を取り消す。 主位的請求被控訴人は、控訴人に対し、2000万円及びこれに対する平成15年7月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 予備的請求被控訴人は、控訴人に対し、1500万円及びこれに対する平成15年10月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。 仮執行宣言第2事案の概要 本件は、控訴人が、被控訴人に対し、被控訴人が控訴人を相手取り特許権に基づく差止請求権を被保全権利として仮処分命令申立てをし、仮処分命令を得てその執行をした後に、上記特許権に係る特許を無効とする審決が確定したため、違法な仮処分命令の執行により損害を受けたと主張して、主位的に不法行為に基づく損害賠償を、予備的に不当利得返還を求めた事案である。 原審は、被控訴人には仮処分命令を得てその執行をしたことについて過失がなく、不当利得も成立しないとして、控訴人の請求をいずれも棄却したため、控訴人が本件控訴を提起した。 (以下、控訴人を「原告、被控訴人を「被告」という)」。 前提事実当事者間に争いのない事実並びに各項に掲げた証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実は、次のとおりで 件控訴を提起した。 (以下、控訴人を「原告、被控訴人を「被告」という)」。 前提事実当事者間に争いのない事実並びに各項に掲げた証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実は、次のとおりである。 (1)原告は建築用不燃ドアパネルの開発製造販売並びに施行商、、、、(業登記簿記載のとおり)等を目的とする株式会社である。 被告は、車両の製造販売のほか、建築材料の製造修理、販売並びに取付工事等を目的とする株式会社である。 (2)被告は、次の特許権を有していた(以下「本件特許権」という。ま、()「」、たその特許公報である特公平5-43037号公報甲21を本件公報本件公報の特許請求の範囲第1項に記載された発明を「本件特許発明、本件」特許出願の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。 。)特許番号第1861289号発明の名称採光窓付き鋼製ドアの製造方法出願年月日昭和63年7月20日登録年月日平成6年8月8日特許請求の範囲採光窓部の絞り線のコーナー半径が絞り加工によってほぼ20㎜以下に形成される両面フラッシュドアにおいて、前面と背面パネルの少なくともいずれか一方の採光窓部の絞り線より内側にパネル板厚のほぼ8倍以上のフランジ代を残した開口を設け、該開口の各コーナー部に前記絞り線の各コーナーの曲線部分中央からの最短距離がパネル板厚のほぼ8倍以下となる隅フランジ代を、先端に丸味を備えた切れ目または切り欠きによって形成- 2 -し、上記構成の両パネルを絞り加工によって絞り線の部分で内側に折り曲げ、フランジ代が折り曲げられた両パネルをドア枠体と採光窓枠とに接着剤その他の手段を用いて固着し、両パネルと一体化された採光窓枠に採光用窓ガラスを挿入して保持させたことを特徴とする採光窓付き鋼製ドアの製造方法( 代が折り曲げられた両パネルをドア枠体と採光窓枠とに接着剤その他の手段を用いて固着し、両パネルと一体化された採光窓枠に採光用窓ガラスを挿入して保持させたことを特徴とする採光窓付き鋼製ドアの製造方法(請求項1。 )(3)被告は、平成9年10月28日、原告を相手取り、大阪地方裁判所に、本件特許権に基づく特許権侵害差止等請求訴訟を提起する(同裁判所同年(ワ)第10905号。以下「前訴事件」という)とともに、同日、原告を債。 務者として、同裁判所に、採光窓付き鋼製ドアの製造販売の差止め等を求める(。 「」仮処分を申し立てた同裁判所同年(ヨ)第2741号以下本件仮処分事件という。 。)本件仮処分事件において、原告は、先使用による通常実施権の主張等、。 、、をしたものの後記の本件無効理由に関する主張はしなかったまた原告は前訴事件においても、平成12年12月ころまで、本件無効理由に関する主張はしなかった。 、、、(4)大阪地方裁判所は平成10年3月26日本件仮処分事件につき債権者である被告の申立てを認める決定(以下「本件仮処分命令」という)。 をした。 (5)被告は、執行官に対し、本件仮処分命令の執行を申し立て、担当執行官は、平成10年4月2日、債務者(原告)の本社工場内にあった採光窓付き鋼製ドア2枚につき、債務者(原告)の占有を解いて執行官の保管とする執行をした。 (6)原告は、平成12年12月12日、本件特許権に対する無効審判請求を行い(無効2000-35670号事件。以下「本件無効審判請求事件」という、特許庁審判官は、平成13年11月9日、本件特許出願前に日本国。)内において頒布された刊行物である特公昭53-11791号特許公報(甲17の1。以下「刊行物1」という)及び実開昭63-62219号のマイク 官は、平成13年11月9日、本件特許出願前に日本国。)内において頒布された刊行物である特公昭53-11791号特許公報(甲17の1。以下「刊行物1」という)及び実開昭63-62219号のマイク。 ロフィルム(甲17の6。以下「刊行物2」という)に記載された発明及び。 (「」考案に基づいて当業者が容易に発明をすることができた以下本件無効理由という)として、本件特許発明に係る特許を無効にする旨の審決(以下「本。 件無効審決」という)をした。 。 (7)原告は、大阪地方裁判所に、本件無効審決を根拠として、本件仮処分事件につき事情変更による保全取消しを申し立てた(同裁判所平成13年(モ)第59032号)ところ、同裁判所は、平成14年2月1日、本件仮処分命令を取り消す決定をした。 (8)被告は、前記(7)の決定を不服とし、大阪高等裁判所に保全抗告をした(同裁判所平成14年(ラ)第176号)が、同裁判所は、平成14年7月31日、上記保全抗告を棄却する旨の決定をした。 (9)被告は、本件無効審決を不服とし、東京高等裁判所に審決取消請求訴訟を提起した(同裁判所平成13年(行ケ)第575号)が、同裁判所は、平成15年3月26日、本件無効理由の存在を根拠として、被告の請求を棄却する旨の判決(以下「本件審決取消請求訴訟判決」という)を言い渡し、被。 告は最高裁判所に上告を提起せず、上告受理申立てをしなかったため、上記判決及び本件無効審決は確定した。 (10)大阪地方裁判所は、前訴事件について、本件無効審決の後、審決が確定するまで訴訟手続を中止した(特許法168条2項。前訴事件は、平成)15年7月28日、被告(前訴事件原告)の請求放棄により終了した。 争点 (1)被告が本件仮処分命令を得てその執行をしたことについて、被告に過失があるか否 許法168条2項。前訴事件は、平成)15年7月28日、被告(前訴事件原告)の請求放棄により終了した。 争点 (1)被告が本件仮処分命令を得てその執行をしたことについて、被告に過失があるか否か。 (2)前記(1)で被告に過失がある場合に、被告の不法行為と相当因果関係のある損害の有無及び額(3)不当利得返還請求の可否第3争点に関する当事者の主張 争点(1)について【原告の主張】- 3 -本件特許権は本件無効審決の確定により遡及的に無効となったのであるから、本件仮処分命令に伴う本件特許権の行使は違法であり、特段の事情のないかぎり、被告には過失があったものと推定すべきである(最高裁判所第三小法廷昭和43年12月24日判決・民集22巻13号3428頁参照。次の)点に照らしても、本件では、被告の過失を否定すべき特段の事情は存しない。 (1)一般に、無効審判請求がされた特許が最終的に無効と判断される割合は5割前後と相当高いから、特許権が特許庁審査官の審査を経て認められた権利であるからといって、他の所有権等の私法上の権利と比べて安定した権利であるとはいえない。したがって、特許庁の審査を経ているからといって、当然に無過失であるということはできない。 (2)本件無効審決及び本件審決取消請求訴訟判決が認定した本件無効理由は、本件特許発明は、本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物1及び2に記載された発明に基づき進歩性がないというものである。歴史も古く、プレス技術の分野で多彩な技術を有する被告にとって、調査困難な無効理由であったとはいえないし、本件特許発明に特許性があると信じる特段の事由も存しないから、被告は、これらの刊行物を知っていたか、仮に知らなくても知り得べきであったという点で過失があったというべきである。 (3) はいえないし、本件特許発明に特許性があると信じる特段の事由も存しないから、被告は、これらの刊行物を知っていたか、仮に知らなくても知り得べきであったという点で過失があったというべきである。 (3)本件無効理由についてみると、本件特許発明は、四辺形にフランジを立てるには、四隅に切り欠きを設けてプレス等で曲げること、その切り欠きの奥には丸味を付けておくという周知の技術を、鋼製ドアの製造に応用したにすぎない。本件無効理由を肯定した本件無効審決及び本件審決取消請求訴訟判決の理論構成や事実認定は、極めてオーソドックスなものであり、当業者として本件特許に無効理由があることは十分予想できるものであった。 (4)前記のような無効理由があるのであれば、原告側としてなぜもっと早い段階で無効審判請求をしなかったのかを問題にする見解もあるかもしれないので、この点について補足すると、そもそも無効審判請求を行うか否かは原告の自由であるばかりか、原告は、刊行物1を発見した時点では直ちに無効審判請求を行っている。原告が本件特許に対する無効審判請求を早期に行えなかったのは、原告が専任の特許スタッフもいない地方の中小ベンチャー企業であり、当初は特許事件の経験のない弁護士に依頼せざるを得ない状況にあったためであるまた本件仮処分事件当時はキルビー特許事件最高裁判所判決最。 、、(高裁判所第三小法廷平成12年4月11日判決・民集54巻4号1368頁)が出される以前のことであったから、債務者である原告が本件仮処分事件の審尋期日において本件無効理由を主張立証しなかったのはむしろ当然である(これらの点は、過失相殺の問題としても重視されるべきではないが、被告の無過失をおよそ基礎付けるものでもない。 。)【被告の主張】原告の引用する最高裁判所判決を前提としても、次の点に照ら である(これらの点は、過失相殺の問題としても重視されるべきではないが、被告の無過失をおよそ基礎付けるものでもない。 。)【被告の主張】原告の引用する最高裁判所判決を前提としても、次の点に照らせば、本件では、被告の過失を否定すべき特段の事情があるというべきである。 (1)一般に、発明が進歩性を有するか否かの判断は決して容易ではないところ、本件特許発明は、専門家である特許庁審査官が先行技術や周知技術を検討した上で、いったんは特許査定をしたものであるから、刊行物1及び2により進歩性が否定されるか否かについて見解が相違することは当然であった。 (2)被告は、本件仮処分事件当時、刊行物1及び2の存在を知らなかった。現に、被告は、本件特許が進歩性を有することを信じて、本件無効審判請求事件における平成13年5月10日付け審判答弁書(乙20)や上記審決取消請求訴訟における平成14年2月14日付け準備書面(乙21)で、本件特許に進歩性が存することを具体的に主張していた。 (3)原告は、本件無効理由は極めてオーソドックスなものであるなどと、、主張するが刊行物1記載の発明には本件特許発明のような数値限定はないし刊行物2記載の考案は本件特許発明と技術分野が異なり、数値限定も欠くものである。異なる技術分野への転用については、原被告間で本件特許の有効性が争われていた当時、特許庁では、何らかの作用効果が認められれば登録を認める考えが有力であったのであり、本件特許発明について転用が容易であったとはいえない。被告は、これらの点から、特許査定がされた本件特許発明に進歩性ありと判断したものであり、過失はない。 - 4 -(4)原告は、本件仮処分事件当時、本件特許につき無効審判請求をしなかったばかりか、その審尋期日においても、前記の無効理由を何ら主張しなか 歩性ありと判断したものであり、過失はない。 - 4 -(4)原告は、本件仮処分事件当時、本件特許につき無効審判請求をしなかったばかりか、その審尋期日においても、前記の無効理由を何ら主張しなかったのであるから、特許権者である被告が、本件特許の有効性を疑う余地もなかった。 争点(2)及び(3)に関する当事者の主張の摘示は省略する。 第4当裁判所の判断 認定事実(1)本件無効理由本件無効審決は、要旨、次のとおりの理由により、本件特許発明の進歩性を否定した(甲3)。 ア本件特許発明の要旨「採光窓部の絞り線のコーナー半径が絞り加工によってほぼ20㎜以下に形成される両面フラッシュドアにおいて、前面と背面パネルの少なくともいずれか一方の採光窓部の絞り線より内側にパネル板厚のほぼ8倍以上のフランジ代を残した開口を設け、該開口の各コーナー部に前記絞り線の各コーナーの曲線部分中央からの最短距離がパネル板厚のほぼ8倍以下となる隅フランジ代を、先端に丸味を備えた切れ目又は切り欠きによって形成し、上記構成の両パネルを絞り加工によって絞り線の部分で内側に折り曲げ、フランジ代が折り曲げられた両パネルをドア枠体と採光窓枠とに接着剤その他の手段を用いて固着し、両パネルと一体化された採光窓枠に採光用窓ガラスを挿入して保持させたことを特徴とする採光窓付き鋼製ドアの製造方法」。 イ刊行物1の記載刊行物1には、「窓の周縁からドアの内側に向って屈曲したガラス等の挟持用リブを備えたフラッシュ板を2枚重ね合せて成るフラッシュドアを製造するに当たり、平板状のフラッシュ板の窓の輪郭線より内側に挟持用リブの幅だけ内側に位置する開口部を形成し、上記構成のフラッシュ板をプレス加工によって窓の輪郭線の部分で内側に折り曲げ、挟持用リブが折り曲げられた2枚の 板状のフラッシュ板の窓の輪郭線より内側に挟持用リブの幅だけ内側に位置する開口部を形成し、上記構成のフラッシュ板をプレス加工によって窓の輪郭線の部分で内側に折り曲げ、挟持用リブが折り曲げられた2枚のフラッシュ板を挟持用リブが内側へ向くように、枠板及び補強枠を介して重ね合わせ、補強板にガラスを挿入し、リブの間にガラスを嵌着するようにした窓付きスチール製フラッシュドアの製造方法」が記載されている。 ウ刊行物2の記載刊行物2には、「プレス加工により板部材に屈曲部を有するフランジを成形加工する際に、歪みの発生を回避するために、板部材の開口の各コーナー部に隅フランジ代を、先端に丸味を備えた切り欠きによって形成すること」が記載されている。 エ本件特許発明と刊行物1記載の発明の一致点と相違点、、本件特許発明と刊行物1記載の発明とを対比すると次の点で一致し後記の点で相違する。 (一致点)「採光窓部の絞り線のコーナー半径が絞り加工によって所定の寸法に形成される両面フラッシュドアにおいて、前面と背面パネルの少なくともいずれか一方の採光窓部の絞り線より内側に所定の寸法のフランジ代を残した開口を設け、該開口の各コーナー部に前記絞り線の各コーナーの曲線部分中央からの最短距離が所定の寸法の隅フランジ代を形成し、上記構成の両パネルを絞り加工によって絞り線の部分で内側に折り曲げ、フランジ代が折り曲げられた両パネルをドア枠体と採光窓枠とに接着剤その他の手段を用いて固着し、両パネルと一体化された採光窓枠に採光窓用ガラスを挿入して保持させた採光窓付き鋼製ドアの製造方法」。 (相違点)(ア)本件特許発明では、絞り線のコーナー半径の所定の寸法が「ほぼ20㎜以下」であるのに対し、刊行物1には特定の寸法は記載されていない- 5 -点(以下「相違点①」という 方法」。 (相違点)(ア)本件特許発明では、絞り線のコーナー半径の所定の寸法が「ほぼ20㎜以下」であるのに対し、刊行物1には特定の寸法は記載されていない- 5 -点(以下「相違点①」という。 。)(イ)本件特許発明では、フランジ代の所定の寸法が「パネル板厚のほぼ8倍以上」であるのに対し、刊行物1には特定の寸法は記載されていない点(以下「相違点②」という。 。)(ウ)本件特許発明では、隅フランジ代の所定の寸法が「パネル板厚のほぼ8倍以下」となる、及び、隅フランジ代を「先端に丸味を備えた切れ目または切り欠きによって」形成するのに対し、刊行物1には、隅フランジ代の特定の寸法、及び、隅フランジ代を上記のように形成することは記載されていない点(以下「相違点③」という。 。)オ進歩性の判断上記各相違点について検討すると、相違点③の開口部の各コーナー部に隅フランジ代を先端に丸味を備えた切り欠きによって形成することは、刊、、行物2記載の技術的思想を用いて当業者ならば容易に想到し得たものであり相違点①ないし③の数値限定は、数値に臨界的意義が認められず、当業者が適宜選択する事項である。そして、本件特許発明の効果も刊行物1及び2記載の発明から予測し得る程度のものである。 したがって、本件特許発明は、刊行物1及び2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2)本件審決取消請求訴訟判決被告は、本件無効審決に対する審決取消請求訴訟において、審決取消事由①として「本件特許発明と刊行物1(引用例1)記載の発明との一致点の認定の誤り、同②として「相違点①、②についての判断の誤り、同③として」」「相違点③についての判断の誤り」を主張したが、東京高等裁判所はいずれの主張も排斥し、本件無効審決の判断に誤りはな 致点の認定の誤り、同②として「相違点①、②についての判断の誤り、同③として」」「相違点③についての判断の誤り」を主張したが、東京高等裁判所はいずれの主張も排斥し、本件無効審決の判断に誤りはないとして、上記請求を棄却した(甲3。 ) 争点(1)について(1)はじめにア本件特許権は、本件無効審決の確定により、初めから存在しなかったものとみなされる(特許法125条)から、被告が、本件特許権に基づく差止請求権を被保全権利として本件仮処分命令申立てをし、本件仮処分命令を得てその執行をしたことは、結果として違法である。 イ仮処分命令が被保全権利の不存在を理由に取り消された場合において、同命令を得てこれを執行したことにつき債権者に故意又は過失があったときは、債権者は民法709条により債務者がその執行によって受けた損害を賠償すべき義務があり、一般に、仮処分命令が異議もしくは上訴手続において取り消され、あるいは本案訴訟において債権者敗訴の判決が言い渡され、その判決が確定した場合には、他に特段の事情のないかぎり、当該債権者には過失があったものと推定すべきではあるが、当該債権者において、その挙に出るについて相当な事由があった場合には、上記取消しの一事をもって同人に当然過失があったということはできないというべきである(最高裁判所第三小法廷昭和43年12月24日判決・民集22巻13号3428頁参照。 )ウこのことは、特許権に基づく差止請求権を被保全権利とする仮処分命令が発令され、その執行がされた後に、当該特許を無効とする旨の審決が確定した場合においても同様であると解するのが相当である。 確かに、特許権に基づく差止請求権を被保全権利とする仮処分は、被保全権利である特許権が特許庁審査官による特許出願の審査及び特許査定を経て設定登録されたもので いても同様であると解するのが相当である。 確かに、特許権に基づく差止請求権を被保全権利とする仮処分は、被保全権利である特許権が特許庁審査官による特許出願の審査及び特許査定を経て設定登録されたものであるし、進歩性の有無に関する判断は、一般に、当該特許発明、引用発明及び上記両発明の対比による一致点・相違点の認定のほかに、これを基礎として、出願前に当業者が当該特許発明に容易に到達することができたか否かという評価が入るため、専門的、技術的知識を要する困難かつ微妙な判断であることが多いということからすれば、特許権が進歩性を欠くという理由で無効審決の確定により無効になったからといって、債権者に過失があったものと推定することは、酷に失するという余地もないではない。 しかし、一方において、製造販売差止めの仮処分が執行された場合には、債務者は、営業上及び信用上、極めて深刻な打撃や影響を受けることも珍しくない(特に、対象製品が債務者の主力製品であったときは、債務者が倒- 6 -産に至ることすら考えられる)ことを考慮すれば、特許権が特許庁審査官の。 審査及び査定を経て設定登録されたものであるとか、進歩性の有無に関する判断が困難かつ微妙なものであることが多いなどという一般的、抽象的な事情をもって債権者の過失を否定することは、当事者間の衡平を失するものであり、相当ではないといわざるを得ない。 エそして、本件において、被告が本件仮処分命令申立てをし、本件仮処分命令を得てその執行をしたことについての相当な事由(以下、単に「相当」。)、、な事由ということがあるがあったか否かを判断するに当たってはまず被告において、本件仮処分命令申立て時までに、先行技術を既に知っていたか又は容易に知り得たかを検討し、その上で、既に知っていたか又は容易に知り得た先行技術 があったか否かを判断するに当たってはまず被告において、本件仮処分命令申立て時までに、先行技術を既に知っていたか又は容易に知り得たかを検討し、その上で、既に知っていたか又は容易に知り得た先行技術に基づき、被告が、本件特許発明に進歩性があると信じるにつき相応の根拠があったか否かについて検討すべきである。 (2)先行技術の調査ア(ア)証拠(甲17の1)及び弁論の全趣旨によれば、刊行物1は、「フラッシュドアの製造法」という名称の特許権に係る、本件特許出願前に日本国内で頒布された刊行物である日本国特許公報であり、刊行物1記載の発明の技術分野は、本件特許発明と同一であることが認められる(本件特許発明と刊行物1記載の発明の国際特許分類は、いずれもE06B3/82である。 。)してみると、被告は、本件特許の出願前か、遅くとも本件仮処分命令申立て前に、当業者の通常の注意力をもって本件特許発明と同一の技術分野における先行技術を調査すれば、容易に刊行物1の存在を知り得たものである。 (イ)なお、前記前提事実、証拠(甲3、乙1~3)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件仮処分命令申立てがされた当初は、先使用による通常実施権の抗弁等を主張するにとどまり、本件仮処分命令申立て時から3年以上経過した平成12年12月12日に、ようやく刊行物1を添付して本件無効審判請求をするに至ったことが認められる。 しかしながら、本件仮処分事件において、原告が刊行物1を提出できなかったからといって、直ちに被告も同様に刊行物1を知り得なかったということはできない。前記(ア)によれば、被告が刊行物1を極めて容易に発見できたことは明らかであるから、原告が刊行物1の発見に時間を要し、本件仮処分事件において刊行物1を提出できなかったことは、前記(ア)の認定を左右するものではない ば、被告が刊行物1を極めて容易に発見できたことは明らかであるから、原告が刊行物1の発見に時間を要し、本件仮処分事件において刊行物1を提出できなかったことは、前記(ア)の認定を左右するものではない。 イ(ア)また、証拠(甲17の6)及び弁論の全趣旨によれば、刊行物2は「プレス加工装置」という名称の実用新案に係る、本件特許出願前に日、本国内で頒布された刊行物である日本国公開実用新案公報のマイクロフィルムであり、上記考案の技術分野は、本件特許発明と同一であるとはいえない。 (イ)しかしながら、本件特許発明は、プレス加工等により採光窓付き鋼製ドアを製造する方法に係るものであるから(甲21、弁論の全趣旨、)刊行物2記載の考案の技術分野と本件特許発明の技術分野は、関連性が強いものということが相当である。 そして、証拠(甲22)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、プレス加工技術についての当業者であると認められる。 してみると、本件において、被告は、本件特許出願前か、遅くとも本件仮処分命令申立て前に、当業者の通常の注意力をもって本件特許発明と関連性が強い技術分野における先行技術を調査すれば、容易に刊行物2の存在を知り得たものである。 ウ以上によれば、本件において、被告は、本件仮処分命令申立て時までに、刊行物1及び2を知り得たことを前提とするのが相当である。 (3)進歩性判断の容易性前記(2)の認定に基づき、被告が本件特許発明が進歩性を有すると信じたことにつき相応の根拠があるか否かについて検討する。 ア相違点①について本件公報記載の特許請求の範囲のうち「採光窓部の絞り線のコー、ナー半径が絞り加工によってほぼ20㎜以下に形成される両面フラッシュドアにおいて」という記載は、前提を示した部分であると解される。また、本件公- 7 -報の発明の詳 ち「採光窓部の絞り線のコー、ナー半径が絞り加工によってほぼ20㎜以下に形成される両面フラッシュドアにおいて」という記載は、前提を示した部分であると解される。また、本件公- 7 -報の発明の詳細な説明によれば、本件特許発明は「採光窓部のコーナー半径、が20㎜程度以下になると、絞り加工されるパネルの開口部コーナーに歪や板割れが発生」する(本件公報の2欄8~10行目参照)という従来の技術の問題点を示した上で、その課題を解決するために、後記相違点③に係る構成を採用したものであるということができる(甲3)。 してみると、コーナー半径20㎜以下という数値限定は、本件特許発明の前提を示すものにすぎず、技術的意義がないことが明らかである。被告が、相違点①について進歩性があると信じたことについて、相応の根拠があるということはできない。 イ相違点②についてフランジ代がパネル板厚の8倍以上になることは、通常想定されることであり、8倍という数値に臨界的意義があると認めるべき事情もなく、当業者が適宜採用し得る事柄であると認められる(甲3。そして、本件明細書)にも、フランジ代がパネル板厚の8倍以上になることにつき、臨界的意義があることを示唆する記載は全くない(甲21。 )してみると、被告が、相違点②について進歩性があると信じたことについて、相応の根拠があるということはできない。 ウ相違点③について(ア)丸味切り欠き前記認定のとおり、被告は、本件仮処分命令申立て時までに、刊行物2の存在を知り得たものと認められ、証拠(甲17の6)によれば、刊行物2には「プレス加工により板部材に屈曲部を有するフランジを成形加工す、る際に、歪みの発生を回避するために、板部材の開口の各コーナー部に隅フランジ代を、先端に丸味を備えた切り欠きによって形成すること」が記 「プレス加工により板部材に屈曲部を有するフランジを成形加工す、る際に、歪みの発生を回避するために、板部材の開口の各コーナー部に隅フランジ代を、先端に丸味を備えた切り欠きによって形成すること」が記載されていることが認められる。 これに加えて、証拠(甲5の1・2、甲6)によれば、リンナイ株式会社が昭和53年11月に製造したガスストーブの上部の排気口部には、四辺形の開口部のコーナー部及び直線部にフランジを付けた曲げ加工がされており、上記形状は、四隅の先端に丸味を備えた切り欠きを設けた上で、プレス加工で直線部及びコーナー部を同時成形したものであることが認められ、これに証拠(甲17の1、3、5、6、7、甲20の65)及び弁論の全趣旨を併せ考慮すると、本件特許出願時において、四辺形の開口部にフランジを立てるに当たって、四隅の先端に丸味を備えた切り欠き又は切れ目を設け、プレス等、。 で折り曲げることは当業者にとって周知・慣用の技術であったと認められる前記(2)イ(イ)のとおり、被告は、プレス加工技術についての当、、業者であると認められるから四辺形の開口部にフランジを立てるに当たって四隅に先端に丸味を備えた切り欠き又は切れ目を設け、プレス等で折り曲げることが周知・慣用の技術であることを知っていたと推認することができ、これを覆すに足りる反証はない。 また、刊行物2記載の考案及び上記周知・慣用の技術をフラッシュドアの製造に適用することを妨げるべき事情が存在することを認めるに足りる証拠はない。 (イ)数値限定本件特許発明が対象とする採光窓付き鋼製ドアを製造する際に、隅フランジ代を小さくすればするほど、開口部コーナーの歪みや板割れが少なくなることは自明である。 本件明細書には、隅フランジ代を板厚のほぼ8倍以下とするその数値自体に、何らかの臨界的 製造する際に、隅フランジ代を小さくすればするほど、開口部コーナーの歪みや板割れが少なくなることは自明である。 本件明細書には、隅フランジ代を板厚のほぼ8倍以下とするその数値自体に、何らかの臨界的意義があることを説明したり示唆したりする記載はなく(甲21、他に、これを認めるに足りる証拠は全くない。 )(ウ)以上によれば、被告が、相違点③について進歩性があると信じたことについて、相応の根拠があるということはできない。 エまた、これらの数値限定等を組み合わせることによって、予測困難な顕著な作用効果が生じるというべき証拠も見当たらない。 (4)なお、前記前提事実のとおり、大阪地方裁判所は、前訴事件において、本件無効審決がされた後に、直ちに本件特許に無効理由が存在することが明らかなときに当たるとして請求棄却の判決をするのではなく、本件無効審決- 8 -の確定まで訴訟手続を中止した(特許法168条2項)ことが認められる。 しかしながら、侵害訴訟を担当する裁判所が、特許に無効理由が存在することが明らかなときに当たるとして請求を棄却する旨の判決を言い渡し、それが確定すると、その後、審決取消請求訴訟において、無効審決が取り消さ、、れ改めて無効審判請求において請求が成り立たないという審決が確定してももはや特許権者を救済することは極めて困難であると解されるから、侵害訴訟を担当する裁判所としては、特許が無効になる可能性が極めて高いと判断しても、そうでない可能性が存在する限りは、訴訟手続を中止することも考えられる。 したがって、前訴事件において訴訟手続が中止されたからといって、本件特許について無効理由が存在するか否か微妙な事案であったと推認することはできず、このことは被告の過失を否定すべき事情とはいえない。 (5)以上によれば、被告が、本件特許発明 されたからといって、本件特許について無効理由が存在するか否か微妙な事案であったと推認することはできず、このことは被告の過失を否定すべき事情とはいえない。 (5)以上によれば、被告が、本件特許発明に進歩性があると信じたことにつき相応の根拠があるとはいえず、他に、被告の過失を否定すべき特段の事情は見当たらない。 したがって、被告が本件仮処分命令を得てその執行をしたことについて、被告に過失があるというのが相当である。 その他、原審及び当審における当事者提出の各準備書面記載の主張に照らし、原審及び当審で提出、援用された全証拠を改めて精査しても、当審の認定、判断を覆すほどのものはない。 以上によれば、被告には、本件仮処分命令を得てこれを執行したことについて過失があったものと認められる。したがって、これを前提に、引き続き被告の過失と相当因果関係のある損害の有無及び額について審理を行うべきものである。 よって、主文のとおり中間判決をする。 (口頭弁論終結・平成16年6月9日)大阪高等裁判所第8民事部裁判長裁判官竹原俊一裁判官小野洋一裁判官中村心
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