令和6(行ヒ)214 懲戒処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
令和7年9月2日 最高裁判所第三小法廷 判決 破棄自判 福岡高等裁判所 令和4(行コ)48
ファイル
hanrei-pdf-94422.txt

判決文本文4,012 文字)

- 1 - 主文 1 原判決を破棄し、第1審判決を取り消す。 2 被上告人の請求を棄却する。 3 訴訟の総費用は被上告人の負担とする。 理由 上告代理人市丸信敏ほかの上告受理申立て理由について 1 本件は、普通地方公共団体である上告人の消防職員であった被上告人が、任命権者である糸島市消防長(以下「消防長」という。)から、部下に対する言動を理由とする停職6月の懲戒処分(以下「本件処分」という。)を受けたため、上告人を相手に、その取消しを求める事案である。 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。 ⑴ 地方公務員法29条1項は、職員が、同法、これに基づく地方公共団体の機関の定める規程等に違反した場合(1号)、全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合(3号)等においては、当該職員に対し、懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる旨を規定し、糸島市職員の懲戒の手続及び効果に関する条例(平成22年糸島市条例第36号)4条1項は、停職の期間は1日以上6月以下とする旨を規定する。 ⑵ 被上告人は、平成14年4月に消防職員として採用され、平成23年4月から平成24年3月までの間、糸島市消防本部(以下「消防本部」という。)のa課等に所属し、消防隊の分隊長として、小隊長であるAの下で訓練を取り仕切る立場にあった。 被上告人は、本件処分前に懲戒処分を受けたことはなかったが、平成23年11月に部下に対する暴言を理由に文書による訓告を受けていた。 令和6年(行ヒ)第214号懲戒処分取消請求事件令和7年9月2日第三小法廷判決- 2 -⑶ 被上告人は、平成23年4月に採用された部 下に対する暴言を理由に文書による訓告を受けていた。 令和6年(行ヒ)第214号懲戒処分取消請求事件令和7年9月2日第三小法廷判決- 2 -⑶ 被上告人は、平成23年4月に採用された部下であるBに対し、次の各行為をした。 ア平成23年10月頃から平成24年3月頃までの間、夜間に、トレーニングとして、複数回にわたり、A及び分隊長であったCと共に、Bの身体を鉄棒に掛けたロープで縛った状態で懸垂をさせ、同人が力尽きて鉄棒から手を放すと、上記ロープを保持して数分間宙づりにし、更に懸垂をするよう指示したり(以下「本件行為1」という。)、同人に雑巾掛け競争を行わせ、これに負けたペナルティとして腕立て伏せ等をさせたりした(以下「本件行為2」という。)。 イ平成23年10月から同年11月頃に実施されたはしご車の誘導訓練終了の際、上記訓練で用いた道具である敷板をBが粗雑に扱ったことから、「お前帰れ。 二度と消防に来るな。今すぐ帰れ。消防署辞めて帰れ。」などと言い、同人の肩を叩き、ヘルメットの上から頭部を叩き、胸倉をつかんで揺さぶり、突き飛ばすなどして消防署の敷地の外に押し出し、さらに、敷板に謝罪するように命じ、複数回、「敷板さん、ごめんなさい。」と謝罪の言葉を述べさせた(以下「本件行為3」という。)。 ウ平成23年11月から同年12月頃、Bがした指差し呼称が不十分であるとして訓練のやり直しを命じた際、ヘルメットの上から同人の頭部を複数回叩いた(以下「本件行為4」といい、本件行為1、本件行為2及び本件行為3と併せて「本件各行為」という。)。 ⑷ 消防本部においては、平成28年6月頃、消防職員を対象とした職場環境改善に関するアンケートが実施され、職場にパワー・ハラスメントがまん延しているなどの回答が出された。糸島市長は、同年7 )。 ⑷ 消防本部においては、平成28年6月頃、消防職員を対象とした職場環境改善に関するアンケートが実施され、職場にパワー・ハラスメントがまん延しているなどの回答が出された。糸島市長は、同年7月頃、消防本部でのパワー・ハラスメントにより職員の退職や病気休暇が相次いでおり、実態調査のための調査委員会を立ち上げてほしいなどの記載がある、消防職員有志一同名義の文書の提出を受けたことから、消防職員に対する事情聴取を実施するなどした。 ⑸ 消防長は、平成29年3月3日、被上告人に対し、本件各行為をしたこと等- 3 -を理由に地方公務員法29条1項1号及び3号に基づき本件処分をした。 3 原審は、上記事実関係等の下において、要旨次のとおり判断し、被上告人の請求を認容すべきものとした。 本件行為1及び本件行為2は、被上告人が主導的な役割を果たしたとはいえないし、トレーニングの方法として不適切なものではあるが、逸脱の程度が特段大きいとまではいえない。本件行為3及び本件行為4は、指導が度を超えたもので、暴力等の内容や程度が著しいものとはいえず、Bによる軽率な言動が契機となった面もある。また、本件各行為を受けたBは負傷していない。これらに加え、被上告人が、本件処分以前に懲戒処分を受けたことがなく、訓練やトレーニングの際の指導等につき個別に注意等を受けたとの事情も見当たらないこと、被上告人が一応反省の態度を示していること等を考慮すると、懲戒の種類として停職を選択し、かつ、その期間を最も重い6月とした本件処分は、重きに失するものとして社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法なものである。 4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。 ⑴ 公務員に対する懲戒処分につ 当を欠き、裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法なものである。 4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。 ⑴ 公務員に対する懲戒処分について、懲戒権者は、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をするか否か、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択するかを決定する裁量権を有しており、その判断は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合に、違法となるものと解される(最高裁昭和47年(行ツ)第52号同52年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1101頁、最高裁平成23年(行ツ)第263号、同年(行ヒ)第294号同24年1月16日第一小法廷判決・裁判集民事239号253頁等参照)。 ⑵ 本件各行為は、被上告人が、職場内における優位性を背景として、採用後間もないBに対し、鉄棒に掛けたロープで身体を縛って懸垂をさせた上、同人が力尽きた後もそのロープを保持して数分間宙づりにして更に懸垂するよう指示したり、- 4 -同人の肩や頭部を叩き、胸倉をつかんで揺さぶり、突き飛ばすなどした上、道具である敷板に複数回謝罪の言葉を述べさせるなどしたというものであり、身体的な苦痛のみならず強い恐怖感や屈辱感を与えるものであって、Bに傷害を負わせるものであるか否かにかかわりなく、訓練等の際の部下に対する指示や指導としての範ちゅうを大きく逸脱した極めて不適切な言動であるというほかない。そうすると、本件各行為は、被上告人が主導したとはいえないものが含まれているとしても、その非違の程度は重いものというべきである。そして、被上告人が、部下に対する暴言を理由に文書による訓告を受けていたにもかかわらず、採用後間もないBに対する上記のような本件各行為を継続したことは も、その非違の程度は重いものというべきである。そして、被上告人が、部下に対する暴言を理由に文書による訓告を受けていたにもかかわらず、採用後間もないBに対する上記のような本件各行為を継続したことは、非難を免れない。 また、消防職員については、火災等の現場において住民の生命や身体の安全確保のための活動等を行うという職務の性質上、厳しい訓練が必要となる場合があるとしても、指示や指導としての範ちゅうを大きく逸脱する本件各行為が許容される余地はないのであって、被上告人が本件各行為に及んだ経緯に酌むべき事情があるとはいえない。 さらに、消防組織においては、職員間で緊密な意思疎通を図ることが職務の遂行上重要であるところ、本件各行為は、分隊長として訓練を取り仕切る立場にあった被上告人が訓練等の際にしたものであり、著しく職場環境を悪化させ、上告人の消防組織の秩序や規律に看過し難い悪影響を及ぼすものである。 以上説示したところに照らせば、被上告人には本件処分以外に懲戒処分歴がないこと等の事情があるとしても、停職6月という本件処分の量定をした消防長の判断は、懲戒の種類についてはもとより、停職期間の長さについても社会観念上著しく妥当を欠くものであるとはいえず、懲戒権者に与えられた裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものということはできない。 ⑶ したがって、本件処分が裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法なものであるとした原審の判断には、懲戒権者の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法があるというべきである。 - 5 - 5 以上のとおり、原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、前記事実関係等の下においては、他に本件処分を違法と評価すべき事由も見当たらず、 、原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、前記事実関係等の下においては、他に本件処分を違法と評価すべき事由も見当たらず、被上告人の請求は理由がないから、第1審判決を取り消し、同請求を棄却すべきである。 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官石兼公博裁判官宇賀克也裁判官林道晴裁判官渡辺惠理子裁判官平木正洋)

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る