平成18(行ウ)15 障害基礎年金不支給決定取消等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成19年11月15日 名古屋地方裁判所
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判決文本文23,656 文字)

- 1 -平成18年(行ウ)第15号障害基礎年金不支給決定取消等請求事件主文 原告の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1請求 社会保険庁長官が原告に対し平成16年7月7日付けでした国民年金障害基礎年金不支給決定(中社発1052号)を取り消す。 被告は,原告に対し,2354万1125円及びこれに対する平成16年1月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,国民年金の保険料納付要件を満たさないことを理由に障害基礎年金の不支給決定(中社発1052号。以下「本件不支給決定」という。)を受けた原告が,保険料を納付しなかったのは,保険料の免除を申請した後,社会保険事務所職員から同申請に対する判断がされるまで保険料の納付を待つように教示されたことによるものであるなどとして,本件不支給決定の取消しを求めるとともに,同教示等が違法であるとして,国家賠償法に基づき,得べかりし年金相当額1754万1125円,慰謝料200万円及び弁護士費用400万円の損害賠償(ただし,得べかりし年金相当額の賠償請求は,本件不支給決定の取消請求の予備的請求である。)を求める事案である。 前提事実(争いがないか,証拠上明らかである。)(1) 当事者原告は,昭和36年▲月▲日生まれで,原告住所地において,夫(昭和30年▲月生。昭和54年12月婚姻届出),長男(昭和55年▲月生),長女(昭和56年▲月生)及び二女(昭和60年▲月生)と共に暮らしている。 - 2 -処分行政庁は,国民年金法(以下「法」ともいう。)16条に基づいて,障害基礎年金等の給付に係る裁定を行う権限を有するものであり,被告は,同処分行政庁が属する行政主体である。 (2) 本件不支給決定に至る経緯ア原 民年金法(以下「法」ともいう。)16条に基づいて,障害基礎年金等の給付に係る裁定を行う権限を有するものであり,被告は,同処分行政庁が属する行政主体である。 (2) 本件不支給決定に至る経緯ア原告は,平成13年度(同年4月分~平成14年3月分)の国民年金の保険料の免除を受けていたものであるが,平成14年4月11日,A役場に赴き,B社会保険事務所長に対し,同年度(同年4月分~平成15年6月分)の国民年金の保険料について全額免除の申請をした。 イ原告は,その後,社会保険庁から平成14年4月以降の保険料の納付書が送付されたことから,同年6月ころ,B社会保険事務所に対し,全額免除申請後の保険料の納付について問い合わせたところ,同事務所職員から,免除申請に対する判断がされるまで保険料の納付を待つように教示を受けた(以下,これを「本件教示」という。)。 なお,社会保険庁は,当時,全額免除申請中の保険料の取扱いについて,全国的に「結果通知があるまで国民年金保険料納付書は保管していただき,承認通知の場合は国民年金保険料納付書を破棄,却下通知の場合はお手持ちの国民年金保険料納付書にて納付してください。」との説明をしていた。 ウ原告は,同年7月29日午後2時25分ころ,愛知県津島市C町の路上において,原動機付自転車で走行中に交通事故(以下「本件事故」という。)に遭い,同日,津島市民病院で診察を受け,頭部打撲と診断された。 エB社会保険事務所長は,同年8月13日,原告の上記アの申請に対し,世帯主(夫)の前年所得が限度額を超えているとして,同申請を却下した。その後,B社会保険事務所職員は,原告の夫の全額免除申請及び半額免除申請につき半額免除の承認がされたことを踏まえて,原告についても保険料の半額免除の申請があったものと取り扱うこととし,その上で,B社会保 ,B社会保険事務所職員は,原告の夫の全額免除申請及び半額免除申請につき半額免除の承認がされたことを踏まえて,原告についても保険料の半額免除の申請があったものと取り扱うこととし,その上で,B社会保険事務所長は,平成15年11月13日,原告の上記アの申請を却下する処分を取り消し,平成14年度(同年4月- 3 -分~平成15年6月分)の保険料の半額免除を承認した。 オ原告は,平成14年8月13日に上記アの申請を却下されたにもかかわらず,同年4月分以降の保険料を納付せず,また,平成15年11月13日に平成14年度(同年4月分~平成15年6月分)の保険料の半額免除が承認された後も,同年度分の保険料の半額を納付しなかった。 カ原告は,平成15年7月17日,本件事故のために受傷の3か月後から徐々に両眼が見えにくくなったとして,津島市民病院眼科で診察を受け,両外傷性視神経症と診断され,平成16年3月12日,両外傷性視神経症により,法施行令別表の障害等級に当たる障害の状態にあるとして,障害基礎年金の給付に係る社会保険庁長官の裁定を請求するため,A役場を介してB社会保険事務所に対し,国民年金障害基礎年金裁定請求書を提出した。 なお,原告は,そのころ,社会保険庁長官にあてて,本件事故の損害賠償金を受けたときはその価額の限度において年金たる給付が支給停止されることに異議がない旨の念書を差し入れた。 キ社会保険庁長官は,平成16年7月7日,原告の両外傷性視神経症による障害の状態は,法施行令別表1級に該当すると判断したが,保険料の納付要件について,当該傷病における初診日(平成14年7月29日)の前日において,①初診日の属する月の前々月までの被保険者期間のうち,保険料納付済期間と免除期間(半額免除期間にあっては半額納付済期間)を合算した期間が3分の2以上ある 初診日(平成14年7月29日)の前日において,①初診日の属する月の前々月までの被保険者期間のうち,保険料納付済期間と免除期間(半額免除期間にあっては半額納付済期間)を合算した期間が3分の2以上あること(以下,これを「3分の2納付要件」という。),②初診日の属する月の前々月までの1年間のうちに,保険料納付済期間及び保険料免除期間以外の期間がないこと(以下,これを「直近1年納付要件」という。)のいずれの要件も満たしていないとして,障害基礎年金を支給しない旨の本件不支給決定をし,B社会保険事務所長は,そのころ,原告に対し,本件不支給決定を通知した。 原告の場合,直近1年納付要件は平成13年6月分~平成14年5月分の保険料の納付が問題とされるところ,原告は,平成13年6月分~平成14年3月分の保- 4 -険料は全額免除の承認を受けていたが,同年4月分及び5月分の保険料は,上記のとおり,半額免除の承認を受けたものの,同保険料の半額分は,当該傷病における初診日(同年7月29日)の前日において納付されておらず,半額免除の承認(平成15年11月13日)後も納付されていない。 また,3分の2納付要件は昭和56年9月17日~平成14年5月31日の納付が問題とされるところ,原告は,昭和56年9月~昭和60年6月は納付(1号被保険者),昭和60年7月~平成9年2月は未納,平成9年3月~平成11年4月は納付(3号被保険者),平成11年5月~平成12年3月は免除,平成12年4月~平成13年3月は未納,平成13年4月~平成14年3月は免除,平成14年4月及び5月は半額未納(半額免除)である。 (3) 審査請求及び再審査請求原告は,本件不支給決定を不服として,平成16年7月14日,愛知社会保険事務局社会保険審査官に対して審査請求をしたが,これを受けた同社会保険審査官 (半額免除)である。 (3) 審査請求及び再審査請求原告は,本件不支給決定を不服として,平成16年7月14日,愛知社会保険事務局社会保険審査官に対して審査請求をしたが,これを受けた同社会保険審査官は,同年9月15日付けで,本件不支給決定は妥当であるなどとして,その取消しを求める審査請求を棄却・却下する旨の決定をした。 原告は,その後,本件不支給決定を不服として社会保険審査会に対して再審査請求をしたが,これを受けた社会保険審査会は,平成18年1月31日,本件不支給決定は妥当であるとして,再審査請求を棄却する旨の裁決をした。 (4) 身体障害者手帳の交付原告は,平成15年10月10日,「両外傷性視神経症による視力右0.02矯正不能,左0.02矯正不能,視能損失率93%,頚髄損傷による両下肢機能障害(交通事故)」を障害名とする身体障害者手帳(身体障害者等級表による級別1級)の交付を受けた。 (5) 気管支ぜんそくによる障害基礎年金原告は,平成12年1月7日を初診日とする気管支ぜんそくを患っていたところ,平成18年11月21日,同傷病の事後重症による障害基礎年金裁定の請求をした。 - 5 -社会保険庁長官は,平成19年2月1日,原告に対し,受給権発生年月日を平成18年11月21日,障害の程度を2級15号,支給開始を同年12月,年金額を79万2100円とする障害基礎年金を支給する旨裁定し,平成19年2月8日,原告に対して年金証書を発送した(以下,この障害基礎年金を「別件障害基礎年金」という。)。 (6) 本件事故に係る損害賠償原告は,平成17年,本件事故の加害車両の所有者に対し,損害賠償を求める訴えを提起し,同訴訟は,現在,名古屋地方裁判所に係属している。なお,原告は,加害車両の所有者の契約していた任意保険から,平成15年中に合計100万円の 故の加害車両の所有者に対し,損害賠償を求める訴えを提起し,同訴訟は,現在,名古屋地方裁判所に係属している。なお,原告は,加害車両の所有者の契約していた任意保険から,平成15年中に合計100万円の支払を受けた。 (7) 本件訴え原告は,平成18年3月8日,本件不支給決定の取消し等を求める本件訴えを提起した。 関連法令の定め(1) 障害基礎年金について障害基礎年金は,次の支給要件を満たしている場合に支給されることとされている。 ア疾病にかかり,又は負傷し,かつ,その疾病又は負傷及びこれらに起因する疾病(以下「傷病」という。)について初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日(以下「初診日」という。)において,①被保険者であること,又は,②被保険者であった者であって,日本国内に住所を有し,かつ,60歳以上65歳未満であること(法30条1項本文,1号,2号)。 イ当該初診日から起算して1年6月を経過した日(その期間内にその傷病が治った場合においては,その治った日《その症状が固定し治療の効果が期待できない状態に至った日を含む。》とし,以下「障害認定日」という。)において,その傷病により,障害等級(政令で定める障害等級の1級又は2級)に該当する程度の- 6 -障害の状態にあること(法30条1項本文,2項)。 ウ次の保険料納付要件を満たしていること(原告の初診日が平成14年7月29日であること,原告が同初診日において40歳であり,被保険者であったことを前提とする要件のみを記載する。)。 (ア) 3分の2納付要件当該傷病に係る初診日の前日において,当該初診日の属する月の前々月までに被保険者期間があり,かつ,当該被保険者期間に係る保険料納付済期間(平成16年法律第104号による改正前の法5条2項)と保険料免除期間(同改正前の法5条3項)とを 当該初診日の属する月の前々月までに被保険者期間があり,かつ,当該被保険者期間に係る保険料納付済期間(平成16年法律第104号による改正前の法5条2項)と保険料免除期間(同改正前の法5条3項)とを合算した期間が当該被保険者期間の3分の2以上あること(法30条1項ただし書)。 (イ) 直近1年納付要件上記(ア)の要件を満たさなくても,当該傷病に係る初診日の前日において,当該初診日の属する月の前々月までの1年間(当該初診日において被保険者でなかった者については,当該初診日の属する月の前々月以前における直近の被保険者期間に係る月までの1年間)のうちに保険料納付済期間及び保険料免除期間以外の被保険者期間がないこと(昭和60年法律第34号附則20条1項)。 (2) 保険料の免除についてア所定の要件を満たす被保険者等から申請があったときは,社会保険庁長官(法施行令2条1項5号,2項により管轄社会保険事務所長に委任)は,その指定する期間に係る保険料につき,既に納付されたもの及び法93条1項の規定により前納されたものを除き,これを納付することを要しないものとすることができ(平成16年法律第104号による改正前の法90条1項),上記処分があったときは,年金給付の支給要件及び額に関する規定の適用については,その処分は,当該申請のあった日にされたものとみなされる(同条2項)。 イ平成14年3月31日まで(ア) 上記保険料の免除承認期間につき,「申請のあった日の属する年度の末月- 7 -までの間において必要と認める月」とすると定められていた(平成12年社会保険庁告示第16号。乙4)。 (イ) 全額免除の要件は,「所得がないとき」(平成12年法律第18号による改正前の法90条1項1号),「被保険者又は被保険者の属する世帯の他の世帯員が生活保護法による生活 庁告示第16号。乙4)。 (イ) 全額免除の要件は,「所得がないとき」(平成12年法律第18号による改正前の法90条1項1号),「被保険者又は被保険者の属する世帯の他の世帯員が生活保護法による生活扶助以外の扶助その他の援助であって厚生労働省令で定めるものを受けるとき」(同項2号),「地方税法(昭和25年法律第226号)に定める障害者であって,年間の所得が政令で定める額以下であるとき」(同項3号),「地方税法に定める寡婦であって,年間の所得が前号に規定する政令で定める額以下であるとき」(同項4号),「その他保険料を納付することが著しく困難であると認められるとき」(同項5号)と規定されていた。 そして,「所得がないとき」(同項1号)の判断は,①被保険者本人,配偶者又は被保険者の世帯の世帯主のいずれかに,前年分の所得税が課税されている場合は免除を承認せず,②被保険者本人,配偶者又は被保険者の世帯の世帯主のいずれにも,当該年度の市町村民税(均等割)が課税されていない場合は免除を承認するという大きな判別基準を設定し,その中間の被保険者らに対しては,被保険者の属する世帯の世帯全員の前年の所得額をはじめとする世帯の保険料負担能力を表す項目を用いた判別指数により判別を行っていた。さらに,その判別指数が免除の該当,不該当判別の中間にある場合は,世帯員の生活状況や身体状況等を考慮して免除の承認,不承認を決定する判断をしていた(弁論の全趣旨)。 ウ平成14年4月1日以降(ア) 上記保険料の免除承認期間につき,「申請のあった日の属する年の6月(申請のあった日の属する月が7月から12月までの月である場合にあっては,翌年の6月)までの間において必要と認める月」とすると変更された(平成14年社会保険庁告示第8号。乙5)。 (イ) 全額免除の要件は,平成12年法律第 月が7月から12月までの月である場合にあっては,翌年の6月)までの間において必要と認める月」とすると変更された(平成14年社会保険庁告示第8号。乙5)。 (イ) 全額免除の要件は,平成12年法律第18号により,法90条1項1号が「前年の所得(1月から厚生労働省令で定める月までの月分の保険料については,- 8 -前々年の所得とする。以下この章において同じ。)が,その者の扶養親族等の有無及び数に応じて,政令で定める額以下であるとき。」と改正され,同項5号が「保険料を納付することが著しく困難である場合として天災その他の厚生労働省令で定める事由があるとき。」と改正された。 そして,法90条1項による申請があった場合の同項1号に規定する「厚生労働省令で定める月」は6月と定められ,1月から6月までの月分の保険料については前々年の所得を基にして,7月から12月までの月分の保険料については前年の所得を基にして,免除の許否を判断することとされたが(平成14年厚生労働省令第25号による改正後の法施行規則77条の2),平成14年4月から同年6月までの月分の保険料については,前年の所得を基にすることとされた(平成14年厚生労働省令第25号附則6条。以下,平成12年法律第18号,平成14年厚生労働省令第25号及び平成14年社会保険庁告示第8号による改正を併せて「平成14年改正」という。)。 争点及びこれに対する当事者の主張(1) 本件不支給決定の違法性(原告の主張)ア障害基礎年金の法的性格について障害者の自立の促進と社会生活上のあらゆる分野への参加の促進を図るためには,年金による所得保障が不可欠であり,そうすることが国際的には世界人権宣言,障害者の権利宣言等によって要請され,国際人権規約,世界行動計画,障害者の機会均等化に関する基準規則等によって具 るためには,年金による所得保障が不可欠であり,そうすることが国際的には世界人権宣言,障害者の権利宣言等によって要請され,国際人権規約,世界行動計画,障害者の機会均等化に関する基準規則等によって具体化されており,国民年金法が定める障害基礎年金は,これらの規定や憲法25条の理念の下で規定されたものである。 憲法は,13条において,「すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする。」と定めており,この趣旨は,国民1人1人が自分の生き方をデザインし決定することができ,その者が努力をすれば- 9 -そのように生きることができるようにすることを目的とするものである。そのためには,国民が一定の生活水準を維持できるような条件整備が必要となるところ,社会保障は,その点での条件整備の役割を果たすものである。 障害基礎年金の受給権は,尊厳ある個人として生きていくために必要不可欠な条件として,健康で文化的な最低限度の生活を維持するために,国が加入を強制してまで保障を予定した,傷病により大きく日常生活活動能力,労働能力を喪失した者が取得する所得保障権であって,憲法25条の生存権規定を具体化し,憲法の社会福祉主義の根幹をなす重大な権利である。そして,それは,観念的に「重大な権利」であるのではなく,具体的に原告及び原告の家族の生活を支えるために,必要不可欠な権利である。 イ本件教示の違法性について原告が直近1年納付要件を満たさないこととなったのは,B社会保険事務所職員が原告に対して免除申請に対する判断がされるまで保険料の納付を待つようにとの本件教示をし,保険料を受領する意思のないことを明らかにしたことに起因する。 B社会保険事務所職員としては,保険料 事務所職員が原告に対して免除申請に対する判断がされるまで保険料の納付を待つようにとの本件教示をし,保険料を受領する意思のないことを明らかにしたことに起因する。 B社会保険事務所職員としては,保険料の納付を待つように教示するだけでなく,保険料の納付を保留すると,その間に傷病により障害を負った場合には障害基礎年金が支給されない可能性があるというリスクをも教示すべきであったから,本件教示は違法である。 被告は,免除申請者が保険料を納付した後に免除の承認を得ても,納付済保険料が返還されないことを前提として,本件教示が,免除申請者の合理的意思に沿ったものであり,かつ,納付義務そのものを否定したものではないから本件教示は違法でないと主張する。しかし,もし,保険料の納付を保留している間に傷病によって障害を負うようになった場合,障害基礎年金の支給を受けられない可能性があるというリスクが正しく教示されていれば,免除申請者は,保険料の納付を保留することはないと考えられるから,本件教示は免除申請者の合理的意思に沿ったものであるとはいえない。 - 10 -被告は,免除申請が承認されるまでは保険料納付義務があるから,本件教示は納付義務自体を否定しているものではない旨主張するが,本件教示は,法が定める納付期限を過ぎても免除申請に対する結果が出るまでは納付義務を履行しないことを促すものであり,違法な教示というほかない。 また,被告は,原告の保険料納付を受領拒絶したものであり,原告に免除申請期間に係る保険料未納の責めを負わせることはできない(民法413条)。 さらに,被告は,免除申請者が保険料を納付した後に保険料が免除されても,納付済保険料が返還されないことを前提としているが,保険料が免除された場合には,当該期間は保険料納付義務がないのに納付したことになるのであるから 免除申請者が保険料を納付した後に保険料が免除されても,納付済保険料が返還されないことを前提としているが,保険料が免除された場合には,当該期間は保険料納付義務がないのに納付したことになるのであるから,過誤納等として処理すべきであって,社会保険事務所職員が免除申請者に対し本件教示をするのは,単に,納付済保険料の返還手続のために行政事務が増えることを避けるための事務処理上の便宜を目的とするものにすぎない。 本件不支給決定は,先行してされた本件教示と密接不可分な関係にあるから,本件教示が違法である以上,本件不支給決定についても違法というべきであり,また,憲法25条が保障する障害者の「年金による所得保障」を侵害するものであるから,違憲というべきである。 ウ救済措置の欠如について社会保険事務所職員が免除申請者に対し政策的に本件教示を行っているのであれば,被告としては,本件教示に従って保険料の納付を保留した免除申請者が障害基礎年金の受給資格が得られなかった場合の救済措置を講ずべき義務があったにもかかわらず,こうした救済措置が講じられていない。 被告は,3分の2納付要件を満たしていれば障害基礎年金の支給を受けられるから実質的な救済措置が備わっていると主張する。しかし,そもそも,昭和60年法律第34号により直近1年納付要件が規定されたのは,多くのケースで,3分の2納付要件が満たされないために障害基礎年金が支給されないこととなり,傷病によって障害を負った場合の救済が実現しなかったためであり,直近1年納付要件は,- 11 -現在,平成16年法律第104号により,初診日が平成28年4月1日前にある傷病による障害についてまで延長されている。 原告は,違法な本件教示がなければ,直近1年納付要件を満たして障害基礎年金の支給を受けることができたのであって,原告が3 初診日が平成28年4月1日前にある傷病による障害についてまで延長されている。 原告は,違法な本件教示がなければ,直近1年納付要件を満たして障害基礎年金の支給を受けることができたのであって,原告が3分の2納付要件を満たしていなかったことは,本件とは別の問題であるから,3分の2納付要件が救済措置の役割を果たしているとはいえない。 救済措置のないまま社会保険事務所職員による違法な本件教示を受けた結果,本件不支給決定がされたのであるから,本件不支給決定は違法というべきである。 エ免除承認期間の指定について社会保険庁長官は,平成14年改正までは,4月から翌年3月までを免除承認期間と定めていたところ,6月又は7月に確定する前年度の所得を基にして審査を行うため,保険料の免除の判断は7月又は8月にされることになるから,免除承認期間が4月から翌年3月までであると,免除申請をしても,4月分及び5月分,場合によっては6月分も,保険料を納付しておかないと,万一傷病により障害を負ったとしても,障害基礎年金の支給を受けられない事態となる。このような免除制度の欠陥は,社会保険庁長官が,免除承認期間を4月から翌年3月までと定めたことに起因するものであり,こうした免除承認期間の指定は,法90条の趣旨を逸脱する違法なものである。 社会保険庁長官は,上記のとおり免除承認期間を4月から翌年3月までと違法に定め,これを前提として,原告が直近1年納付要件を満たさないとして本件不支給決定をしたものであって,本件不支給決定は違法というべきである。 オ信義則違反について原告は,B社会保険事務所職員による違法な本件教示の結果,直近1年納付要件を満たさなくなったものである。 公法の分野においても,自己の過去の言動に反する主張をすることにより,その過去の言動を信頼した相手方の利益を害する 務所職員による違法な本件教示の結果,直近1年納付要件を満たさなくなったものである。 公法の分野においても,自己の過去の言動に反する主張をすることにより,その過去の言動を信頼した相手方の利益を害することが許されないとする禁反言の法理- 12 -の適用を否定すべき理由はない。 そして,本件においては,①違法な本件教示が,平成14年春当時,社会保険庁の指導の下で,すべての社会保険事務所において政策的に一律に行われており,こうした違法な政策が行われることについて,原告側に責められるべき事情はなかったこと,②原告は,B社会保険事務所職員から,全国一律に行われている本件教示を受けたこと,③複雑化している年金行政の下では,国民は社会保険事務所職員の指示に従わざるを得ず,同職員の指示に従えば不利益は被らないと信頼するのが通常であり,本件教示が違法であると気付かなかったのは無理もなく,本件教示に従えば不利益を被ることはないという原告の期待は保護されるべきであること,④原告は,労働能力を喪失し日常生活も困難な障害を負い,原告の家族も十分に働ける状態にはないから,障害基礎年金の支給を受けられないとすれば,極めて過酷な状況に追い込まれることになり,原告が受ける損害の程度は甚だしいこと,⑤社会保険庁は,平成14年春当時,4月から翌年3月までを免除承認期間とした場合には,新年度の免除申請に対する処分がされるまでに時間がかかりすぎ,この間に免除申請者が傷病によって障害を負った場合のリスクを認識していたにもかかわらず,違法な本件教示を継続的に行わせ,免除申請者に対して上記リスクについては一切説明させていなかったものであり,社会保険庁による本件教示の違法性は極めて大きいものであること,⑥社会保険庁は,上記リスクを認識しながら,平成14年改正まで,免除承認期間を変更す スクについては一切説明させていなかったものであり,社会保険庁による本件教示の違法性は極めて大きいものであること,⑥社会保険庁は,上記リスクを認識しながら,平成14年改正まで,免除承認期間を変更するなどのリスクを回避する措置を講じなかったこと,⑦社会保険庁が,違法な本件教示をするよう指導していたことは,自らの事務処理上の便宜を目的とするものであること,以上の事情が認められる。 これらの事情によれば,原告が,違法な本件教示に従って,平成14年4月分及び5月分の保険料の納付を保留したことにより,障害基礎年金の支給を受けられないという不利益が及ぶことになれば,著しく正義に反することは明らかであるから,信義則上,本件教示に従って納付を保留した平成14年4月分及び5月分の保険料については未納があったとみるべきではなく,同保険料の未納を理由とする本件不- 13 -支給決定は違法というべきである。 (被告の主張)ア原告が障害基礎年金の支給要件を備えているというためには,少なくとも,3分の2納付要件又は直近1年納付要件のいずれかを満たしている必要があるが,3分の2納付要件については,原告の被保険者期間249か月のうち,納付済期間と免除期間を合算すると95か月であって3分の2に満たないし,直近1年納付要件については,平成14年4月分及び5月分(半額免除による半額分)の納付をしていないから,原告は支給要件を満たさない。 社会保険庁長官が支給要件を満たさない原告に対して障害基礎年金を支給する旨の裁定を行うことは,予想されない傷病によって障害を負った後に,障害基礎年金の支給要件を満たさないにもかかわらず事後的に救済されることを意味し,これは社会保険方式をとる我が国の年金制度の考え方と相反するものであって,制度の根幹を揺るがすものになりかねないから,このよう 金の支給要件を満たさないにもかかわらず事後的に救済されることを意味し,これは社会保険方式をとる我が国の年金制度の考え方と相反するものであって,制度の根幹を揺るがすものになりかねないから,このような裁定は,立法府の意思を無視するもので許されないことは明らかである。 したがって,本件不支給決定は,障害基礎年金の支給要件を適法に審査した結果されたものであり,違法性はない。 以下,原告が本件不支給決定が違法であると主張する各事項について,反論する。 イ障害基礎年金の法的性格について原告は,憲法25条は,障害者について「年金による所得保障」を保障していると主張する。しかし,障害者が必要とする介護,日常家事援助の必要,補装具・自助具の使用等について,何らかの措置が講じられることは憲法25条の要請であるとも考えられるが,同条は,所得保障の措置を年金として講ずることを規定している訳ではないし,所得保障の方策としては生活保護等を含めた様々なものがあるから,同条が障害者に対して「年金による所得保障」を保障していると解することはできない。 ウ本件教示の違法性について- 14 -B社会保険事務所職員が原告に対し免除申請に対する判断がされるまで納付を待つように教示したことは争わないが,①保険料の免除を申請してから,その判断がされるまでの間に保険料を納付しても,納められた保険料が返還されないこと,②同職員の教示内容は免除申請に係る判断がされるまで納付を待つようにというものであって,保険料納付義務を否定するものではないことからすれば,当該教示内容は妥当かつ適法である。 また,免除申請者が保険料を納付した後に保険料が免除されても納付済保険料が返還されないのは,保険料を納付した以上,負担能力があったとしてその返還がされないことを理由とするものであり,保険料免除の 。 また,免除申請者が保険料を納付した後に保険料が免除されても納付済保険料が返還されないのは,保険料を納付した以上,負担能力があったとしてその返還がされないことを理由とするものであり,保険料免除の制度趣旨から当然のことが規定されているものであって,何ら不合理なところはない。 エ救済措置の欠如について免除申請からその判断がされるまでに審査のために相当期間を要し,その間に被保険者が傷病により障害を負うことがあり得る。 しかし,障害基礎年金の支給要件は,3分の2納付要件又は直近1年納付要件のいずれかを満たすことであり,免除申請者が保険料の納付を保留しその後に免除申請が却下されると,直近1年納付要件に該当しないことになるが,免除申請者が保険料を納付した後に保険料が免除されても納付済保険料は返還されないこと,直近1年納付要件を満たさなくても3分の2納付要件を満たせば障害基礎年金の支給を受けられることからすれば,こうした法の規定は合理性を欠くとはいえない。 オ免除承認期間の指定について平成14年改正前は,社会保険庁長官が指定する保険料の免除承認期間は,原則として4月から翌年3月までであったが,一般の会計年度と同じ期間と規定したこの指定は合理性を有する。 なお,社会保険庁長官は,平成14年改正により,免除承認期間を7月から翌年6月までと変更しているが,これは,平成14年改正前は,保険料の免除の判断において前年の所得の把握が必要であったものの,法律上,前年の所得のみによらな- 15 -い判断が可能であり,広い裁量が認められていたのに対し,平成14年改正後は,所得要件が厳格化され全額免除に関する行政の裁量を縮減したために,保険料の免除申請に対しては,前年の所得が確定し,市町村が所得証明を発行し得るようになる6月ころ以降に判断せざるを得ないこととなっ ,所得要件が厳格化され全額免除に関する行政の裁量を縮減したために,保険料の免除申請に対しては,前年の所得が確定し,市町村が所得証明を発行し得るようになる6月ころ以降に判断せざるを得ないこととなったものであり,免除承認期間の変更はこうした理由による。 したがって,社会保険庁長官の免除承認期間の指定に違法はない。 カ信義則違反について(ア) そもそも行政機関において,法令の根拠のない処分をすべきではないから,信義則上,被告が本件不支給決定をすべきでなかったという主張は,それ自体失当である。 (イ) また,既に述べたとおり,B社会保険事務所職員の本件教示は違法ではないし,3分の2納付要件は実質的な救済措置であって,原告は被保険者期間の3分の1を超える大幅な保険料未納期間を有するのであるから,事後的な判断としても,信義則上,被告が本件不支給決定をすべきでなかったとはいえない。 (ウ) B社会保険事務所職員の本件教示は,「結果が出るまで納付を止めておいてほしい」というにとどまり,免除申請が却下された場合は原則どおり納付すべきことをその内容とするものであった。 しかし,原告は,平成15年10月以降の保険料は全額免除されているものの,半額免除されただけの平成14年4月分~平成15年6月分の半額相当の保険料,及び平成15年7月分~平成15年9月分の保険料を,いずれも納付しておらず,必ずしも職員の教示に従ってはいないのであって,このような原告が上記のような信義則上の主張をすることは許されない。 (2) 国家賠償請求(原告の主張)ア原告は,社会保険庁長官及びB社会保険事務所職員によって,違法な本件教示を受けたことにより,直近1年納付要件を満たすことができず,障害基礎年金- 16 -の支給を受けられないことになり,以下の損害を被った。 (ア) 逸失利 B社会保険事務所職員によって,違法な本件教示を受けたことにより,直近1年納付要件を満たすことができず,障害基礎年金- 16 -の支給を受けられないことになり,以下の損害を被った。 (ア) 逸失利益1754万1125円原告の障害基礎年金の受給見込み時期は平成16年1月29日であり,当時原告は42歳で,同年齢に対応する平均余命は44.19年であるから,原告が支給を受けられたであろう1級の障害基礎年金額99万3100円を基礎に,新ホフマン係数(44年に対応する同係数17.663)により中間利息を控除して逸失利益を求めると,1754万1125円(99万3100円×17.663)となる。 (イ) 慰謝料200万円原告は,B社会保険事務所職員に何度も確認し,職員から受けた本件教示に従って保険料の納付を保留し,「できることはすべてやった」にもかかわらず,本件不支給決定を受けた。これにより,原告は「このときに何ができたんだろう」と思い悩み,つらい気持ちになり,原告の人生のみならず,夫や子供の人生も変わってしまった。 原告が被った上記の精神的苦痛に対する慰謝料は,200万円を下らない。 (ウ) 弁護士費用400万円原告は本件訴訟追行を弁護士に委任したが,その弁護士費用は400万円が相当である。 (エ) 以上の合計は,2354万1125円となる。 イ被告は,原告が交通事故の加害者等から支払を受けた100万円や,2級の別件障害基礎年金の支給分について,逸失利益から控除されるべきであると主張するが,同主張は争う。 原告が2級の別件障害基礎年金の支給を受けているとしても,それによる損益相殺は,原告に生じた損害が現実に補てんされたということができる範囲(支給を受けることが確定した額)に限られるべきであり,いまだ支給を受けることが確定していない額につい いるとしても,それによる損益相殺は,原告に生じた損害が現実に補てんされたということができる範囲(支給を受けることが確定した額)に限られるべきであり,いまだ支給を受けることが確定していない額についてまで損益相殺すべきではない。 (被告の主張)- 17 -ア国家賠償法1条1項は,「違法に他人に損害を加えた」ことを賠償の要件としているところ,B社会保険事務所職員の本件教示及び社会保険庁長官による免除承認期間の指定に違法性がないことは既に述べたとおりであり,国家賠償法上の違法性(個別の国民に対する職務上の法的義務違背)も認められない。 イ原告の損害に係る主張は争う。 なお,仮に,被告が国家賠償法上の責任を負うとすれば,原告が主張する1級の障害基礎年金が認められていた場合に調整(控除)されるべき金額もまた,算定の基礎となるべきである。 すなわち,法22条2項により,受給権者が加害者から損害賠償を受けた場合に,その限度で被告は給付義務を免れるのであるから,原告が交通事故の加害者等から支払を受けた100万円については逸失利益から控除されるべきであるし,原告は現在2級の別件障害基礎年金の支給を受けているから,当該支給分については併給調整されるべきである。 第3当裁判所の判断 要旨当裁判所は,原告の主張のうち,信義則違反をいう点については,原告が本件教示を信頼して保険料の納付をしなかったものである場合には,社会保険庁長官が原告につき保険料の不納付を理由に納付要件を欠くものと取り扱うことは信義則に反するが,原告が半額免除決定後も納付をしていないことなどにかんがみると,社会保険庁長官が原告につき納付要件を欠くものと取り扱ったことは信義則に反せず,社会保険庁長官が原告に対して不支給決定をしたことに違法はないと判断する。また,原告のその余の主張はい にかんがみると,社会保険庁長官が原告につき納付要件を欠くものと取り扱ったことは信義則に反せず,社会保険庁長官が原告に対して不支給決定をしたことに違法はないと判断する。また,原告のその余の主張はいずれも理由がないと判断する。 争点(1)について(1) 原告が,平成14年7月29日の交通事故により,両外傷性視神経症に罹患し,当該初診日(交通事故当日の診察日)において被保険者であり,かつ,当該初診日から起算して1年6月を経過した日において,その傷病により,法施行令別表- 18 -1級に該当する程度の障害の状態にあることは,当事者間に争いがない。 そうすると,原告が,障害基礎年金の受給資格を得るためには,当該初診日の前日において,当該初診日の属する月の前々月までに被保険者期間があり,かつ,当該被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の3分の2以上あること(3分の2納付要件),あるいは,当該初診日の前日において,当該初診日の属する月の前々月までの1年間のうちに保険料納付済期間及び保険料免除期間以外の被保険者期間がないこと(直近1年納付要件)のいずれかを満たしていることが必要となる。 そこで,まず,原告の3分の2納付要件についてみると,初診日の前日は平成14年7月28日であり,初診日の属する月の前々月は同年5月であるところ,初診日の前日において,初診日の属する月の前々月までの被保険者期間(昭和56年9月~平成14年5月の249か月間)のうち,保険料納付済期間は,昭和56年9月~昭和60年6月の46か月,平成9年3月~平成11年4月の法7条1項3号の被保険者期間である26か月,全額免除承認期間は平成11年5月~平成12年3月の11か月,平成13年4月~平成14年3月の12か月であるから,保険料納付済 9年3月~平成11年4月の法7条1項3号の被保険者期間である26か月,全額免除承認期間は平成11年5月~平成12年3月の11か月,平成13年4月~平成14年3月の12か月であるから,保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間は95か月となる(甲2)。これは,当該被保険者期間の5分の2以下にすぎず(3分の2に相当するのは166か月である。),3分の2納付要件を満たしていない(未納期間の合計は154か月である。)。 次に,直近1年納付要件についてみると,初診日の前日において,初診日の属する月の前々月までの1年間(平成13年6月分~平成14年5月分)のうち,平成14年4月分及び5月分の保険料が未納となっているから,直近1年納付要件を満たしていない。 したがって,原告は,3分の2納付要件及び直近1年納付要件のいずれも満たしていないから,国民年金法が定めた障害基礎年金の受給資格を得ていない。 (2) 原告は,本件教示が違法である旨主張するので,以下,検討する。 - 19 -アB社会保険事務所職員が,原告に対し,免除申請に対する判断がされるまで保険料の納付を待つようにという本件教示をしたことは,当事者間に争いがない。 なお,B社会保険事務所職員は,原告が納付しようとした保険料の納付を拒絶したものではなく,原告の問い合わせに対して本件教示をしたものにすぎないから,本件教示をしたことをもって,受領拒絶ということはできないし,また,原告は,本件教示の後に,納付の準備をしたことを通知して受領の催告をしたものでもないから,原告が納付につき提供をしたということもできない。 イ社会保険庁長官が,保険料を免除することができるのは,その指定する期間に係る保険料のうち,既に納付されたもの及び法93条1項の規定により前納されたものを除いたものであるから(法90条 できない。 イ社会保険庁長官が,保険料を免除することができるのは,その指定する期間に係る保険料のうち,既に納付されたもの及び法93条1項の規定により前納されたものを除いたものであるから(法90条1項本文),免除申請者が保険料を納付した場合には,仮に前年の所得等につき保険料免除の要件を満たしていたとしても,納付済保険料は返還されないこととなる。そして,免除申請者であっても,保険料を納付することができた以上,その負担能力があったと認められるから,納付済保険料が返還されないことは保険料免除の制度趣旨から何ら不合理なものとはいえない。 そうすると,B社会保険事務所職員が本件教示を行ったのは,免除申請者が保険料を納付してしまうとその保険料が返還されないこととなるため,免除申請者の利益を考えて納付を猶予する趣旨に出たものと認められ,本件教示を直ちに違法であるということはできない。 ウ原告は,保険料の納付を保留するように教示するだけでなく,保険料の納付を止めておくと,その間に傷病により障害を負うようになった場合には障害基礎年金が支給されない可能性があるというリスクをも教示すべきであり,こうしたリスクの教示がない本件教示は違法と解すべきであると主張するが,保留期間中に免除申請者が傷病により障害を負うこととなる確率は,一般的には小さいと考えられることにかんがみると,上記リスクの教示を欠いたことをもって直ちに本件教示を違法ということはできない。 - 20 -(3) 原告は,免除申請中の傷病によって障害を負った者に対する救済措置が欠如している旨主張するので,以下,検討する。 ア国民年金制度は,憲法25条の趣旨を実現するために設けられた社会保障上の制度であるところ,同条の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は,立法府の広い裁量に 下,検討する。 ア国民年金制度は,憲法25条の趣旨を実現するために設けられた社会保障上の制度であるところ,同条の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は,立法府の広い裁量にゆだねられているから,当該国民年金制度が違憲,違法となるのは,同制度が著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱,濫用とみざるを得ないような場合や,受給権者の範囲,支給要件等につき何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いをするときに限られると解すべきである(最高裁昭和51年(行ツ)第30号同57年7月7日大法廷判決・民集36巻7号1235頁,平成17年(行ツ)第246号同19年9月28日第二小法廷判決・裁判所時報1445号1頁,平成18年(行ツ)第227号同19年10月9日第三小法廷判決・裁判所時報1445号4頁等参照)。社会保険庁長官が関連規則を制定するについても,国民年金法による委任の趣旨を逸脱しない範囲で,上記と同様の裁量にゆだねられているものと解することができる。 イ国民年金制度は,老齢,障害又は死亡によって国民生活の安定が損なわれることを国民の共同連帯によって防止することを目的とし,被保険者の拠出した保険料を基として年金給付を行う保険方式を制度の基本とするものであり(法1条,87条),障害基礎年金も,法30条の4が規定する無拠出制のものを除き,保険方式の年金制度として設けられたものである。 そして,障害基礎年金支給の納付要件においては,当該初診日の前日における当該初診日の属する月の前々月までの一定割合の保険料納付(保険料免除を含む。)を要件としているから,当該初診日の前日までに当該初診日の属する月の前々月までの保険料を納付していたか否かによって納付要件を満たすこととなるか否かが決まり,当該初診日の前日までに上記保険料を納付していなかった場合 るから,当該初診日の前日までに当該初診日の属する月の前々月までの保険料を納付していたか否かによって納付要件を満たすこととなるか否かが決まり,当該初診日の前日までに上記保険料を納付していなかった場合には納付要件を満たさず,不利益を負うことがあり得る制度となっている。 保険方式の年金制度において,免除申請者が保険料の納付を保留し,その判断が- 21 -されるまでの間に傷病により障害を負い,後に免除申請が却下された場合,保留していた保険料を事後的に納付することによって納付済みであったとして取り扱うという制度にすることは,実際には保険料の免除要件を満たさないにもかかわらず免除申請をしていた者についてのみ事後的救済を認めることとなる。保険方式の年金制度において,そうした事後的救済が求められているとはいえない。 したがって,免除申請中の傷病によって障害を負った者に対する救済措置が,制度的に設けられていないとしても,そのことから,当該国民年金制度が著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱,濫用に当たるとか,受給権者の範囲,支給要件等につき何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いをするものであるということはできず,救済措置が欠如していることの違法をいう原告の主張は理由がない。 (4) 原告は,社会保険庁長官の免除承認期間の指定が違法である旨主張するので,以下,検討する。 ア社会保険庁長官は,免除承認期間について,平成14年改正前は4月から翌年3月までと定めていたものを,同改正後は7月から翌年6月までと変更し,同期間の保険料免除の許否を,前年の所得等を基に厳格に判断することとした(前記第2の2(2)イ,ウ参照)。 市町村は,その住民が2月16日から3月15日までの間に提出した確定申告書を基に(所得税法120条1項,地方税法45条の3,317条の3),地方税の ることとした(前記第2の2(2)イ,ウ参照)。 市町村は,その住民が2月16日から3月15日までの間に提出した確定申告書を基に(所得税法120条1項,地方税法45条の3,317条の3),地方税の最初の納期限として定められた6月(地方税法320条)までに所定の手続を行い,所得証明を発行し得るのは6月ころになるから,平成14年改正によって,社会保険事務所は,免除承認期間とされた7月から翌年6月までの保険料免除の許否を,6月ころに発行される前年の所得証明を基に判断することができるようになった。 なお,平成14年改正前は,免除承認期間が4月から翌年3月までと定められており,「所得がないとき」等の要件につき,その前年の所得額等を考慮して保険料免除の判断をしていたから,その判断は所得証明の発行が可能となる6月ころ以降になり,免除の判断がされるまでに免除承認期間のうち4月,5月等が経過してし- 22 -まい,それらの保険料の納付を保留し,傷病により障害を負った場合には,後に免除申請の承認が得られないと,そのために障害基礎年金支給の納付要件を満たさない場合が生じ得た。原告は,こうした社会保険庁長官の免除承認期間の指定が違法であると主張している(なお,原告が直近1年納付要件を満たさないことの理由とされた平成14年4月分及び5月分の保険料について,その免除申請において前年の所得を基にして免除の許否が判断されるのは,平成14年改正の際に,平成14年4月分~同年6月分の保険料については,その前年の所得を基に判断する旨定められたことによるものである。前記第2の2(2)ウ参照)。 イ平成14年改正後の免除承認期間(7月~翌年6月)については,免除の判断がされるまでの間に,免除承認期間が経過することがある程度避けられることにはなったが,平成14年改正後においても ウ参照)。 イ平成14年改正後の免除承認期間(7月~翌年6月)については,免除の判断がされるまでの間に,免除承認期間が経過することがある程度避けられることにはなったが,平成14年改正後においても,免除申請に対する判断がされる時期によっては,当該月の保険料の納付期限までにその免除の判断がされないこともあり得るし(甲8の1・29頁),免除の不承認の判断に対して不服を申し立てた場合には,その判断が確定するまでに更なる期間を要することになる。したがって,社会保険庁長官による免除承認期間の定め方によって,免除の判断がされるまでの間に免除承認期間が経過するという不都合をある程度是正できるとしても,これをすべて解消することは困難であって,結局,こうした不都合は,保険方式の年金制度において保険料の免除制度を取り入れた場合に不可避のものということができる。 なお,法90条2項は,全額免除の処分があったときは,年金給付の支給要件及び額に関する規定の適用については,その処分は,当該申請のあった日にされたものとみなす旨規定し,全額免除処分の遡及的効果を定めているのに対し,半額免除の場合は,法90条2項を準用していないところ,この趣旨は,半額免除申請の場合は保険料の半額を納付しなければならないという性格を有することから,事後的に半額免除処分の効果を遡及させたとしても,半額免除処分の後に保険料の半額を納付したという事実までを遡及させることはできないことを理由とするものと考えられ,こうした国民年金法の規定自体も,免除の判断がされるまでの間に傷病によ- 23 -り障害を負った場合等に,障害基礎年金の支給の可否が問題となり得ることを想定しているものと解される。 ウまた,3分の2納付要件を満たしていれば障害基礎年金の受給資格を得られるから,3分の2納付要件を満たさな った場合等に,障害基礎年金の支給の可否が問題となり得ることを想定しているものと解される。 ウまた,3分の2納付要件を満たしていれば障害基礎年金の受給資格を得られるから,3分の2納付要件を満たさない程度の納付実績の者が保険料免除の申請をした場合にリスクが生じ得るという制度が著しく合理性を欠くということもできない。 エそして,平成14年改正前の免除承認期間(4月~翌年3月)は,一般の会計年度の期間に合わせたものであって,また,平成14年改正後の同期間(平成14年4月~平成15年6月)は,平成14年4月~同年6月の期間を,平成14年改正後の一般的な免除承認期間(7月~翌年6月)と併せて審査することにしたものと推測できることを考慮すれば,平成14年改正前の社会保険庁長官の免除承認期間の指定が,著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱,濫用とみざるを得ないような場合であるとか,受給権者の範囲,支給要件等につき何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いをするものであるということはできず,それが違憲,違法であるということはできない。 (5) 原告は,本件不支給決定は信義則に違反する旨主張するので,以下,検討する。 原告は,信義則違反の主張を基礎付ける事情として,①社会保険庁の指導の下でB社会保険事務所職員は違法な本件教示を行ったこと,②原告はB社会保険事務所職員から本件教示を受けたこと,③本件教示に従えば不利益は被らないという原告の期待は保護されるべきであること,④原告が本件教示に従った結果,直近1年納付要件を満たさなくなり,そのことで障害基礎年金の支給を受けられないとすれば,原告やその家族が極めて過酷な状況に追い込まれること,⑤社会保険庁は,免除申請に対する判断がされるまでの間に傷病によって障害を負った場合のリスクを認識していたにもかかわらず,違法な れないとすれば,原告やその家族が極めて過酷な状況に追い込まれること,⑤社会保険庁は,免除申請に対する判断がされるまでの間に傷病によって障害を負った場合のリスクを認識していたにもかかわらず,違法な本件教示を継続的に行わせ,免除申請者の上記リスクについては一切説明させていなかったこと,⑥社会保険庁は,上記リスクを認- 24 -識しながら,平成14年改正まで免除承認期間を変更するなどのリスクを回避する措置を講じなかったこと,⑦社会保険庁が違法な本件教示をするよう指導していたことは,自らの事務処理上の便宜を目的とするものであることなどを主張する。 しかしながら,本件教示が違法とはいえないこと,免除申請中の傷病によって障害を負った者に対する救済措置が設けられていないことが違法とはいえないこと,社会保険庁長官の免除承認期間の指定が違法とはいえないことは,前記(2)~(4)で述べたとおりである。もっとも,本件教示が保険料の免除申請に対する判断がされるまで保険料の納付を待つことを内容とし,保険料の納付がされない場合のリスクについて何ら教示しないものであることにかんがみると,免除申請者が本件教示に従って保険料の支払を保留しても何ら不利益を受けることがないものと信頼し,その信頼に基づいて行動した場合には,免除申請者が誠実に保険料の納付をする者であって,本件教示がなければ,免除の利益を一部喪失することとなっても保険料を納付したであろうと認めるのが相当な事情のあるときには,社会保険庁長官が本件教示に従って保険料の納付をしなかった免除申請者についてその間の不納付を理由に納付要件を欠くものと取り扱うことは信義則上許されないものというべきである(最高裁昭和60年(行ツ)第125号同62年10月30日第三小法廷判決・判例時報1262号91頁参照)。 これを本件につ に納付要件を欠くものと取り扱うことは信義則上許されないものというべきである(最高裁昭和60年(行ツ)第125号同62年10月30日第三小法廷判決・判例時報1262号91頁参照)。 これを本件についてみるに,原告は,前記第2の1(2)オのとおり,平成14年8月13日に全額免除申請を却下されたにもかかわらず,同年4月分以降の保険料を納付せず,また,平成15年11月13日に平成14年度(同年4月分~平成15年6月分)の保険料の半額免除が承認された後も,同年度分の保険料の半額を納付していないこと(なお,原告は,B社会保険事務所職員や愛知社会保険事務局職員から,「今から保険料の半額を納付しても障害基礎年金は支給されない」旨の説明を受けたことがあると述べるが,原告の主張によれば,原告がこうした説明を受けたのは,本件不支給決定がされた平成16年7月7日以降のことである。),また,前記(1)のとおり,3分の2納付要件についても大幅にこれを満たしていない- 25 -ことなどの事実関係に照らすと,原告は,誠実に保険料の納付をする者とは認められず,本件教示がなければ免除の利益を喪失することとなっても保険料を納付をしたであろうとは到底認め難いものといわなければならない。 そうすると,社会保険庁長官が原告について納付要件を満たしていないと取り扱うことが信義則に反するとはいうことができないから,原告の信義則違反の主張は理由がない。 (6) 以上のとおり,本件不支給決定が違憲,違法であるとする原告の主張は採用することができず,原告の本件不支給決定取消請求は理由がない。 争点(2)について本件教示が違法とはいえないこと,免除申請中の傷病によって障害を負った者に対する救済措置が設けられていないことが違法とはいえないこと,社会保険庁長官の免除承認期間の指定が違法と 争点(2)について本件教示が違法とはいえないこと,免除申請中の傷病によって障害を負った者に対する救済措置が設けられていないことが違法とはいえないこと,社会保険庁長官の免除承認期間の指定が違法とはいえないことは前記1(2)~(4)で述べたとおりであり,国家賠償法上の違法についても認めることができない。 したがって,原告の国家賠償法に基づく損害賠償請求は理由がない。 結論 以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第9部松並重雄裁判長裁判官前田郁勝裁判官片山博仁裁判官

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