令和2(行ウ)7 損害賠償命令等請求事件

裁判年月日・裁判所
令和3年5月20日 奈良地方裁判所 棄却
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判決文本文16,788 文字)

令和3年5月20日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和2年第7号損害賠償命令等請求事件口頭弁論終結の日令和3年2月4日判決 主文 1 原告らの請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告らの連帯負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,Aに対し,746万5530円を支払うよう請求せよ。 第2 事案の概要 1 本件は,奈良県(以下「県」ということがある。)の住民である原告らが,奈良県が株式会社サーベイリサーチセンター大阪事務所(以下「受託会社」という。)との間で,有権者に対するアンケート調査(以下「本件アンケート」という。)を内容とする投票行動を通じた地方政治調査業務委託契約(以下「本件業務委託契 約」といい,この契約に基づく業務委託を「本件業務委託」という。)を締結したこと,並びに本件アンケート実施のための会議に出席した有識者に対する謝金及び旅費の支出(以下,それぞれ「本件謝金支出」及び「本件旅費支出」という。)について,本件アンケートは違法であるから,本件業務委託契約の締結並びに本件謝金支出及び本件旅費支出は違法であり,奈良県知事であるA(以下「相手方 A」という。)は,本件業務委託契約を締結し,本件謝金支出及び本件旅費支出をした専決権者に対する適切な指揮監督権の行使を怠った旨主張して,奈良県の執行機関である被告に対し,地方自治法242条の2第1項4号本文に基づき,民法709条に基づく損害賠償として,本件業務委託契約に基づく委託料並びに本件謝金支出及び本件旅費支出に係る謝金等と同額の746万5530円を支払 うよう相手方Aに対して請求することを求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁 出及び本件旅費支出に係る謝金等と同額の746万5530円を支払 うよう相手方Aに対して請求することを求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)当事者等ア原告らは,奈良県の住民である。 イ被告は,普通地方公共団体である奈良県の執行機関(知事)である。 ウ相手方Aは,奈良県知事であり,本件業務委託契約の締結,本件謝金支出及び本件旅費支出(支出負担行為)の権限を有していた。 本件業務委託契約の締結(甲9)奈良県は,受託会社との間で,以下の内容の投票行動を通じた地方政治調査業務委託契約(本件業務委託契約)を締結した。本件業務委託契約の締結は, 奈良県地域振興部長の専決によって行われた(乙9)。 ア契約日令和元年8月28日イ委託期間令和元年8月28日から令和2年3月25日ウ委託料 715万円(うち取引に係る消費税額及び地方消費税に相当する額を含む。) エ奈良県は,投票行動を通じた地方政治調査業務委託を仕様書(乙10)に基づき実施することを受託会社に委託し,受託会社はこれを受託するものとする。 受託会社は,仕様書に定められていない事項については,奈良県の指示を受けるものとする。 第1回地方政治研究会の開催並びに謝金及び旅費の支出(甲5ないし7,10)本件業務委託契約に関連して,令和元年8月2日,第1回地方政治研究会が開催された。地方政治研究会は,奈良県が「投票行動分析を通じた地方政治研究事業」を遂行するに当たり,奈良県知事,副知事,総務部長,地域振興部長, 地域振興次長といった県幹部職員と,地方政治や計量的分析の有識者を構成員 として発足された会議体である。 治研究事業」を遂行するに当たり,奈良県知事,副知事,総務部長,地域振興部長, 地域振興次長といった県幹部職員と,地方政治や計量的分析の有識者を構成員 として発足された会議体である。第1回地方政治研究会においては,政治意識調査を令和元年度に先行実施し,令和2年度末までに,有識者調査及び議員行動調査を行うことが決定した。そして,同研究会に参加した有識者6名に対し,謝金合計30万円及び旅費合計1万5530円が支払われた。 これらのうち,謝金の支出負担行為については,令和元年7月22日,奈良 県地域振興部長の専決によって行われた(乙3)。また,旅費の支出負担行為については,同年8月2日,奈良県地域振興部市町村振興課長の専決によって行われた(乙8)。 本件アンケートの実施(甲8)ア令和元年10月,奈良県に居住する18歳以上の男女2000人に対し, 本件アンケートが郵送された(弁論の全趣旨〔令和2年9月3日付け被告第3準備書面4頁〕)。 イ本件アンケートは無記名であった。 ウ本件アンケートの冒頭には,「『2019年奈良県内における政治意識調査』ご協力のお願い」の記載の下に,本件アンケートの説明があり,その末尾に 「ご多忙の中恐縮ではございますが,調査へのご協力,重ねてお願い申し上げます。」との記載がある。また,「よくあるご質問と回答」として,「Q 答えづらい・わからない質問はどうすればいいの?」,「この調査の質問は,いずれも今後の奈良県政のあり方を検討するにあたって重要なものであり,可能なかぎりすべての質問へのご回答をお願いするものです。ただ,どうして もご回答いただけない質問については『言いたくない』とご回答のうえ,次の質問へとお進みください。『言いたくない』ともご回答できない場合は,何も へのご回答をお願いするものです。ただ,どうしてもご回答いただけない質問については『言いたくない』とご回答のうえ,次の質問へとお進みください。『言いたくない』ともご回答できない場合は,何も記入せず,次の質問へとお進みください。」との記載がある。 本件アンケートには,以下の質問が含まれていた。 Q9 昨年(2018年(平成30年)1月~12月)の,あなたのご世帯全体の年収はおよそどの程度でしたでしょうか。およそで結構ですのでお答えください。(1つに○) 1 200万円未満 2 200万円~300万円 3 300万円~400万円 4 400万円~500万円 5 500万円~600万円 6 600万円~700万円 7 700万円~800万円 8 800万円~900万円 9 900万円~1,000万円 10 1,000万円~1,300万円 11 1,300万円~1,600万円 12 1,600万円~2,000万円 13 2,000万円以上 14 言いたくない まずは,2019年(令和元年)7月21日(日)に行われた参議院議員選挙に関して,いくつかおたずねいたします。 a Q10 体調がすぐれなかった,時間がなかったなど,選挙に行かないことは決してめずらしいことではありません。あなたは,この7月に行われた参議院議員選挙で投票されましたか。以下のうち,1つだけお選びください。(1つに○) 1 選挙日当日に投票した 2 期日前に投票した 3 投票しなかった(棄権した) 4 忘れた 5 言いたくない b Q10-1とQ10-2は,Q10で「1 選挙日当日に投票した」または「2 期日前に投票した」とご回答された方におたずねします。 c Q1 4 忘れた 5 言いたくない 主文 bQ10-1とQ10-2は、Q10で「1 選挙日当日に投票した」または「2 期日前に投票した」とご回答された方におたずねします。 cQ10-1 選挙区ではどの政党所属の候補者に投票されましたか。(1つに○) 1 B(幸福実現党) 2 C(自由民主党) 3 D(無所属) 4 白票を投じた 5 言いたくない dQ10-2 比例ではどの政党または政党所属の候補者に投票されましたか。次の中から投票先を1つ選んでください。あげられている選択肢の中に投票先がない場合は、「その他」を選び、具体的な政党名あるいは候補者名をご記入ください。(1つに○) 1 自由民主党・自由民主党所属の候補者 2 公明党・公明党所属の候補者 3 立憲民主党・立憲民主党所属の候補者 4 国民民主党・国民民主党所属の候補者 5 日本共産党・日本共産党所属の候補者 6 日本維新の会・日本維新の会所属の候補者 7 社会民主党・社会民主党所属の候補者 8 れいわ新選組・れいわ新選組所属の候補者 9 NHKから国民を守る党・NHKから国民を守る党所属の候補者 10 その他(具体的に: ) 11 白票を投じた 12 言いたくない 今年の4月7日に行われた、奈良県政に関わる選挙についておたずねいたします。 aQ11 まずは、2019年(平成31年)4月7日(日)に行われた奈良県知事選挙についておたずねします。あなたは、この4月に行われた奈良県知事選挙で投票されましたか。以下のうち、1つだけお選びください。(1つに○) 1 投票日当日に投票した 2 期日前に投票した 3 投票しなかった(棄権した) 4 忘れた 5 言いたくない されましたか。以下のうち,1つだけお選びください。(1つに○) 1 投票日当日に投票した 2 期日前に投票した 3 投票しなかった(棄権した) 4 忘れた 5 言いたくない Q11-1とQ11-2は,Q11で「1 投票日当日に投票した」または「2 期日前に投票した」とご回答された方におたずねします。 Q11-1 この4月に行われた奈良県知事選挙において,あなたはどの候補者に投票しましたか。次の中から投票先を1つ選んでください。(1つに○) 1 A 2 E 3 F 4 白票を投じた 5 言いたくない Q12 次に,2019年(平成31年)4月7日(日)に行われた奈良県議会議員選挙についておたずねします。あなたは,この4月に行われた奈良県議会議員選挙で投票されましたか。以下のうち,1つだけお選びください。(1つに○) 1 投票日当日に投票した 2 期日前に投票した 3 投票しなかった(棄権した) 4 選挙が行われなかった(無投票) 5 忘れた 6 言いたくない Q12-1とQ12-2は,Q12で「1 投票日当日に投票した」または「2 期日前に投票した」とご回答された方におたずねします。 Q12-1 この4月に行われた奈良県議会議員選挙において,あなたはどの候補者に投票しましたか。次の中から投票先を1つ選んでください(1つに○)<候補者全51名の氏名が選択肢として挙げられている。> 52 忘れた 53 言いたくない Q13 政治に影響力のある人・政党・政策についておたずねします。以下の政治家や政党・政策に対して,温度に例えてお答えください。もし好意も反感もない場合は50度としてください。もし好意的な気持ちがあ に影響力のある人・政党・政策についておたずねします。 以下の政治家や政党・政策に対して,温度に例えてお答えください。 もし好意も反感もない場合は50度としてください。もし好意的な気持 ちがあれば,その強さに応じて51度から100度の数字を温度で例えてお答えください。逆に,反感を感じていれば,やはりその強さに応じて0度から49度までの数字を温度で例えてお答えください。もし,その政治家や政党・政策をご存知でなかったり,わからない場合888,言いたくない場合は999とご記入ください。 GAあなたのお住まいの市町村長大阪維新の会大阪都構想 Q31 ところで,ある政治的な立ち位置を示す表現として,よく保守 的(右派的)とか革新的(左派的)という言葉が使われています。あなた自身や,以下の政治家の政治的な立場は,以下のうちどれにあてはまると思いますか。 1がもっとも革新的(左派的),7がもっとも保守的(右派的)です。1~7の数字は4を中間に,左によるほど革新的,右によるほど保守的とい う意味です。該当しない場合やわからない場合には「わからない」を選択してください。 ①あなた自身②G③A ④あなたがお住まいの市町村長オ本件アンケートの最後の頁には,「お忙しいところ調査にご協力いただき,誠にありがとうございました。」との記載がある。 本件アンケートの経過ア奈良県は,本件アンケートの送付後,回答期限までの間に,本件アンケー トを送付した対象者に対し,「『2019年奈良県内における政治意識調査』御協力のお願いとお知らせ」と題し,「奈良県では,奈良県の有権者の皆様に投票行動や政治意識等を伺い,奈良県の地方政治の活性化につなげるため,『2019年奈良県内に 9年奈良県内における政治意識調査』御協力のお願いとお知らせ」と題し,「奈良県では,奈良県の有権者の皆様に投票行動や政治意識等を伺い,奈良県の地方政治の活性化につなげるため,『2019年奈良県内における政治意識調査』の調査票を発送いたしました。」,「御多忙中にもかかわらず,アンケートに御協力いただき,ありがとう ございました。」,「まだ調査票がお手元にある場合には,誠に恐縮ですが11月8日(金)までに同封の返信用封筒(切手不要)にて御返送いただきますようお願いいたします。」との記載があるはがきを送付した(乙2)。 イ調査期間中に,質問用紙がソーシャル・ネットワーク等に掲載されるという出来事が発生し(甲10・1,2枚目),最終的に,当初予定されていた議 ウ奈良県は,令和2年3月,「2019年奈良県内における政治意識調査結果報告書」(以下「本件報告書」という。)を作成した(甲10)。 エ本件アンケートの回収数及び有効回収数はいずれも950票であり,回収率及び有効回収率はいずれも47.5%であった(甲10・53頁)。 訴えの提起等 原告H,同I,同J,同K及び同Lほか1名は,令和2年1月6日,奈良県監査委員に対し,本件業務委託契約の違法性を主張し,同契約に基づく委託料の支払の差止めを求める住民監査請求をした(甲1)。また,原告M,同N及び同Oほか2名は,同月9日,本件業務委託契約の違法性を主張して,相手方Aの責任を問う住民監査請求をした(甲2)。これらに対し,奈良県監査委員は, 同年3月5日付けで上記各請求につき「合議に至らなかった」と結論付け(甲3,4),上記請求人らは,同月6日にその旨の通知を受けた。 上記請求人らのうち,原告らは,同年4月2日,本件訴えを提起した。 本件業 で上記各請求につき「合議に至らなかった」と結論付け(甲3,4),上記請求人らは,同月6日にその旨の通知を受けた。 上記請求人らのうち,原告らは,同年4月2日,本件訴えを提起した。 本件業務委託契約に基づく委託料の支払奈良県は,令和2年4月20日,本件業務委託契約に基づき,受託会社に対 し,委託料715万円を支払った(乙1)。 3 争点及びこれに対する当事者の主張本件の争点は,相手方Aの賠償責任の有無である。 具体的には,原告らは,後記のとおり,本件アンケートは,①対象者の投票の秘密,②思想良心の自由,③プライバシーを侵害し,また,④行政の公平性・中 立性の保持,権利濫用の禁止の原則に違反しているから,本件アンケートを目的とした本件業務委託契約の締結,本件謝金支出及び本件旅費支出は違法であるところ,相手方Aは,第1回地方政治研究会に出席し,本件アンケートの具体的な質問内容を把握した上で,本件アンケートの実施を積極的に推進する意見を述べていたのであるから,専決権者である奈良県地域振興部長ないし奈良県地域振興 部市町村復興課長が本件業務委託契約の締結,本件謝金支出及び本件旅費支出を することを阻止すべき義務があり,それにもかかわらずこれを故意又は過失により阻止しなかったものであるから,奈良県が被った損害について,賠償責任を負う旨主張する。 これに対し,被告は,後記のとおり,本件アンケートは,①対象者の投票の秘密,②思想良心の自由,③プライバシーを侵害するものではなく,④行政の公平 性・中立性の保持,権利濫用の禁止の原則に反しない旨主張して,これを争っている。 本件アンケートが対象者の投票の秘密を侵害し,違法かア原告らの主張本件アンケートにおいて,令和元年7月の参議院選挙 性の保持,権利濫用の禁止の原則に反しない旨主張して,これを争っている。 本件アンケートが対象者の投票の秘密を侵害し,違法かア原告らの主張本件アンケートにおいて,令和元年7月の参議院選挙,平成31年4月の 奈良県知事選挙及び奈良県議会議員選挙において誰に投票したのかなど,特定の選挙で誰に投票したのか,氏名や政党を尋ねる質問がある(Q10-1ないし12-2)。これらの質問は,有権者の投票の秘密を侵すものであり,また,公職選挙法226条2項の規定にも違反し,違法である。 イ被告の主張 本件アンケートに係る調査票(以下「本件調査票」という。)は,調査対象者の個人情報と一切紐づけされておらず,かつ,無記名で回答・送付するものであった。したがって,原告ら主張の質問項目に対する回答により,誰が誰に対して投票したかという投票の内容が外部に知られるおそれはなく,投票の秘密は何ら侵害されていない。 また,奈良県は,調査対象者に関する個人情報は一切取得しておらず,本件調査票の送付先は全く把握していない。送付先を把握し,送付を行ったのは受託会社の大阪事務所の担当者だけであるところ,同担当者は,公職選挙法226条2項に規定されている主体には当たらない。 なお,本件アンケートと同様に,調査主体が個人を特定できない方法で投 票先を尋ねるアンケート調査は,国や各地の選挙管理委員会においても実施 されている。 本件アンケートが対象者の思想良心の自由を侵害し,違法かア原告らの主張本件アンケートでは,アンケート回答者自身の政治的立場(革新的〔左派的〕・中間・保守的〔右派的〕)について回答する質問がある(Q31)。 政治的な立場,特に,革新的(左派的)・中間・保守的(右派的)のどの位置で政治的立場を 答者自身の政治的立場(革新的〔左派的〕・中間・保守的〔右派的〕)について回答する質問がある(Q31)。 政治的な立場,特に,革新的(左派的)・中間・保守的(右派的)のどの位置で政治的立場を取るかは,各自の世界観,人生観,思想体系,政治的意見など,人格形成に役立つ内心の活動,すなわち思想及び良心に関わる問題である。そして,公的機関が思想良心の自由にかかわる質問をし,回答者が事実上回答を強いられるような場合は,思想良心の侵害となる可能性がある。 そして,本件アンケートの体裁からすれば,まじめな回答者は答えたくないと思っても回答しようと努力してしまうおそれがあり,違法な質問項目であるというべきである。 イ被告の主張本件アンケートの表紙及び表紙裏には,本件アンケートに対する回答はあ くまで任意である旨の説明が記載されているとおり,原告らの指摘する各項目に対する回答は任意であるから,調査対象者に思想良心の告白を強制するものではない。また,本件アンケート調査に協力した回答者が誰であるかは全く特定されていないので,思想良心を理由に不利益な取扱いを受けることもない。 したがって,上記質問項目が思想良心の自由を侵害していないことは明らかである。 本件アンケートが対象者のプライバシーを侵害し,違法かア原告らの主張本件アンケートQ9では,回答者の年収を質問しているところ,年収はプ ライバシーにかかわる事項であり,このような質問はプライバシーの侵害に 当たる。 イ被告の主張本件アンケートに対する回答は任意であり,また,本件アンケートに協力した回答者は特定されないので,プライバシー情報が明らかとなった者は存在しない。 本件アンケートは,行政の公平性・中立性の保持,権利濫用の禁止 る回答は任意であり,また,本件アンケートに協力した回答者は特定されないので,プライバシー情報が明らかとなった者は存在しない。 本件アンケートは,行政の公平性・中立性の保持,権利濫用の禁止の原則に違反し,違法かア原告らの主張本件アンケートQ13では,ごく限られた政治家,政党,政策について好意又は反感の気持ちを「感情温度」として数値化して回答することを求 めている。 しかしながら,この質問では,奈良県政に直接かかわることのないG首相(当時),大阪維新の会,大阪都構想等の地域政党や他府県に関する事項についても尋ねており,奈良県政に直接かかわりのある政治家は相手方Aだけである一方,本件アンケートの直近の奈良県知事選挙に立候補した他 の候補者については対象となっていない。 また,相手方Aについての「感情温度」と,本件アンケートで特定できる性別,年代別,居住地域別の回答者の属性を組み合わせると,その結果によって,相手方Aは,次回の奈良県知事選挙に立候補する際,どの区域のどの年代に焦点を当てて選挙活動をすべきかが外形的に判明する仕組 みとなっている。 さらに,相手方Aの「感情温度」を公表することによって,世論を政治的に誘導する可能性もある。 したがって,本件アンケートは,実質的にはアンケートに名を借りた相手方Aの恣意的な人気調査であるといえる。地方公共団体の職員は,憲法 15条2項の趣旨に鑑みて,政治的行為が制限されている(地方公務員法 36条1項,2項)から,地方公共団体の行政は,中立公正でなければならないところ,本件アンケートの内容は行政の公平性・中立性の保持,権利濫用の禁止の原則に違反する。 本件アンケートは,投票率の向上をはじめとした奈良県の地方政治の活性化を目 なければならないところ,本件アンケートの内容は行政の公平性・中立性の保持,権利濫用の禁止の原則に違反する。 本件アンケートは,投票率の向上をはじめとした奈良県の地方政治の活性化を目的としているとされているが,同目的を達成するために特定の政 治家に対する調査対象者の「感情温度」と投票率の高低との相関関係の有無が必要ないし有益な情報であるとは考えられない。実際に,本件報告書(甲10)中の政策提言において,特定の政治家に対する調査対象者の「感情温度」に係る調査結果が反映されていると思われる記述はない。それゆえ,このような質問は,本件アンケートの目的との合理的関連性を欠くと いうべきである。 本件アンケートQ31の中には,「G」,「A」,回答者が居住する市町村長について,その政治的立場(革新的〔左派的〕・中間・保守的〔右派的〕)について回答する質問があるところ,この質問についても,奈良県政に直接かかわりのある政治家は相手方Aだけであり,現職の奈良県知事たる相 手方Aに対する恣意的な意識調査がなされているというべきであって,公務執行の公平性・中立性の保持,権利濫用の禁止の原則に違反する。 本件アンケートの目的は,令和2年度実施の統一地方選挙及び参議院通常選挙における有権者の投票行動,投票誘引要素等について専門家を交えて調査・研究を行い,奈良県域における特性を明らかにし,投票率の向上 をはじめとした奈良県の地方政治の活性化につなげることとされている。 しかしながら,このような業務が地方公共団体の長たる県知事の担任事務(地方自治法149条各号)に含まれるか疑問がある。 イ被告の主張本件アンケートの全ての質問項目は,投票行動や地方政治に関し見識を 有する大学教授ら複数の有識者が,奈良県 事の担任事務(地方自治法149条各号)に含まれるか疑問がある。 イ被告の主張本件アンケートの全ての質問項目は,投票行動や地方政治に関し見識を 有する大学教授ら複数の有識者が,奈良県内の政治意識調査という目的に 即して,奈良県民の政治意識と社会意識の構造を明らかにするため,専門的見地から検討し,作成したものである。奈良県は,有識者に対し,本件アンケートの目的を示したが,調査の手法などは一切指示しておらず,奈良県が独自に設定した質問項目は存在しない。 原告らの主張は失当である。 本件アンケートの質問事項は,投票行動や地方政治に関し見識を有する大学教授ら複数の有識者が,奈良県の政治意識と社会意識の構造を明らかにするため,専門的見地から検討し,作成したものであるから,上記目的との間に合理的関連性があることは明らかである。このことは,本件報告書(甲10)において,本件アンケートの結果を踏まえ,奈良県内におけ る投票率を向上させるための数々の提言がなされていることからも明らかである。 具体的には,本件アンケートの目的は,2019年度実施の統一地方選挙及び参議院議員通常選挙における有権者の投票行動や投票誘引要素等を把握,分析し,奈良県域における特性を明らかにし,奈良県の投票率の 向上をはじめとした奈良県の地方政治の活性化につなげることであるところ,投票先に関する質問は,まさに投票行動を把握,分析するために必須の質問である。 感情温度に関する質問についてこのような質問項目を設けた趣旨は,以下のとおりであり,質問自体や 対象の選定が恣意的,不公平,不公正であるとの原告らの主張は当たらない。 a 本件アンケートは,投票行動を把握,分析するために,政治学における代表的な投票行動モデル おりであり,質問自体や 対象の選定が恣意的,不公平,不公正であるとの原告らの主張は当たらない。 a 本件アンケートは,投票行動を把握,分析するために,政治学における代表的な投票行動モデルであるコロンビア・モデル,ミシガン・モデル及び業績評価投票モデルのいずれが適合的か,モデル間の重複がある かを調査することを目的の一つとしていた。そして,ミシガン・モデル において,政治家に対する感情温度は,有権者の投票行動を左右する要素の一つとして位置づけられているものであり,「感情温度」に関する質問が,本件アンケートの目的と関連性を有することは明らかである。 感情温度を尋ねる対象として,「G」,「A」,「あなたのお住まいの市町村長」を選んだ理由は,県民の国・県・市町村という「異なるレベルの長 に対する関心度や支持・不支持が,奈良県知事選挙における投票行動にどのような影響を与えているかを調査するためである。すなわち,国・県・市町村という異なるレベルの長に対する感情温度は,それぞれ国政・県政・市町村政への関数の代理変数と捉えられるところ,当該質問は,「国・県・市町村の長への感情温度が投票参加に影響するはずである」 という仮説を検証するための質問であった。奈良県知事選挙における「A」以外の候補者や国政選挙における候補者を対象としなかったのは,そのためである。 b 感情温度を尋ねる対象として,「大阪都構想」,「大阪維新の会」を選んだ理由は,以下のとおりである。奈良県民の中には,大阪市内に通勤し, 大阪の政治経済的な動向に関心を有する,いわゆる「奈良府民」と呼ばれる人々が存在すると言われているところ,このような「奈良府民」とそれ以外の県民とでは,奈良県政に対する認識や期待の違いがあることが予想され,その違いが県民 関心を有する,いわゆる「奈良府民」と呼ばれる人々が存在すると言われているところ,このような「奈良府民」とそれ以外の県民とでは,奈良県政に対する認識や期待の違いがあることが予想され,その違いが県民の投票行動に影響を与えている可能性がある。そこで,このような大阪の政治経済的な動向に関心を有している県 民の存在を把握するため,「大阪都構想」,「大阪維新の会」に対する「感情温度」を尋ねる質問を設けたものである。 c 本件報告書(甲10)中の政策提言にも,感情温度に関する質問は反映されている。すなわち,居住する市町村長に対する好感は投票率を高めることが分かった一方で,総理大臣や県知事に対する好感は,奈良県 知事選挙で投票かするかどうかと,定かな関係を確認することはできな かった。これに対し,奈良県内における選挙での投票率に対しては,県政や身近な基礎自治体レベルの政治というよりも,日頃の国政への関心が重要であることが示唆された。これらの分析の結果,提言1で示した,「国政レヴェルに対する関心が,奈良県知事選挙の投票参加に影響する一方で,奈良県政に対する関心と投票参加の間には明確に関連がみえな い。」との知見が得られたものであり,感情温度に関する質問が提言に反映されていないとの原告らの主張は当たらない。 本件業務委託の目的は,奈良県の投票率の向上をはじめとした奈良県の地方政治の活性化にあるところ,当該目的は,地方自治の本旨(憲法92条)に合致し,地方公共団体の役割(地方自治法1条の2第1項)に資す るものである。したがって,本件アンケートを含む本件業務委託に係る事務が普通公共団体の事務に含まれ,普通公共団体の長の担任事務に含まれることは,明らかである(地方自治法149条9号)。 相手方Aの過失の有無 って,本件アンケートを含む本件業務委託に係る事務が普通公共団体の事務に含まれ,普通公共団体の長の担任事務に含まれることは,明らかである(地方自治法149条9号)。 相手方Aの過失の有無ア原告らの主張 相手方Aは,本件アンケートの内容が説明された第1回地方政治研究会に出席していたのであるから,本件アンケートの内容を知っており,奈良県知事として本件アンケートに違法な内容が含まれていることを認識し得た。したがって,相手方Aは,少なくとも,違法な契約の締結を阻止する義務があり,これを阻止し得たのにこれを怠った過失がある。 また,相手方Aは,違法な本件アンケートの作成に関与した有識者らに謝金及び旅費を支出すべきでないことを知り得,その支出を阻止すべき義務があるのに,これを怠った過失がある。 イ被告の主張仮に,本件アンケートが違法であったとしても,本件アンケート調査は, 国立大学を含む大学の大学院法学研究科や法学部などに所属し,投票行動や 地方政治に関し見識を有する大学教授ら有識者が,専門家としての観点から,個人が特定されない方法で投票先を尋ねることは投票の秘密に何ら抵触しないと判断して実施されたものであること,国や各地の選挙管理委員会においても投票先を尋ねるアンケート調査が実施されており,これらアンケート調査について投票の秘密との抵触が問題となったことはないことに照らす と,相手方Aが本件アンケートについて投票の秘密を定めた憲法15条4項に反するものであると認識することは不可能であった。したがって,奈良県が本件業務委託契約を締結したこと及び本件業務委託に関連して金員を支出したことについて,奈良県知事としての相手方Aに過失はない。 第3 当裁判所の判断 1 本件アンケート たがって,奈良県が本件業務委託契約を締結したこと及び本件業務委託に関連して金員を支出したことについて,奈良県知事としての相手方Aに過失はない。 第3 当裁判所の判断 1 本件アンケートが対象者の投票の秘密を侵害し,違法か原告らは,本件アンケートには,特定の選挙の投票先を尋ねる質問(Q10ないし12)があるところ,これらの質問は,アンケート回答者の投票の秘密を侵害し,また,公職選挙法226条2項にも違反するから違法である旨主張する。 しかしながら,証拠(甲8)及び弁論の全趣旨(令和2年9月3日付け被告第 4準備書面・2ないし5頁)によれば,本件アンケートは無記名であり,回答者は無記名の返信封筒により返送していたこと,識別番号等による個人情報等との紐づけはなされていないこと,受託会社は,本件アンケートの結果を単純集計表(質問項目ごとに集計したもの)とクロス集計表(各質問項目を性別,年代別,居住地域別の3項目で集計したもの)を作成し,本件業務委託契約に係る成果物 として納品したことが認められるところ,本件アンケートによって回答者を特定することは不可能であり,誰が誰に投票したかを特定することは不可能であったことが認められる。そうすると,原告らが摘示する質問が,アンケート回答者の投票の秘密を侵害し,公職選挙法226条2項に違反して違法であるとは認められない。 2 本件アンケートが対象者の思想良心の自由を侵害し,違法か 原告らは,本件アンケートには,対象者の政治的立場を尋ねる質問(Q31)があるところ,当該質問は,アンケート回答者の思想良心の自由を侵害し,違法である旨主張する。 しかしながら,証拠(甲8)及び弁論の全趣旨によれば,本件アンケートには,ある質問に回答できない場合は当該回答欄に何も記入 質問は,アンケート回答者の思想良心の自由を侵害し,違法である旨主張する。 しかしながら,証拠(甲8)及び弁論の全趣旨によれば,本件アンケートには,ある質問に回答できない場合は当該回答欄に何も記入しないことができる旨の 注意書きがあること,本件アンケートに回答しないことにより何らかの不利益取扱いが予定されているものではなく,冒頭に「ご協力のお願い」と記載されているなどといった本件アンケートの体裁からすると,本件アンケートは回答を強制するものではなく,かつ,本件アンケートの回収率及び有効回収率はいずれも47.5%であったことからしても,本件アンケートの対象者が特段回答を強制さ れていると受け取るものとは言い難い。加えて,上記1のとおり,本件アンケートによって,回答者を特定することは不可能であったことが認められる。そうすると,本件アンケートによって,原告らが摘示する質問がアンケート回答者の思想良心の自由を侵害し,違法であるとは認められない。 3 本件アンケートが対象者のプライバシーを侵害し,違法か 原告らは,本件アンケートは,対象者の年収を尋ねる質問(Q9)があるところ,当該質問は,対象者のプライバシーを侵害し,違法である旨主張する。 しかしながら,証拠(甲8)及び弁論の全趣旨によれば,上記1及び2のとおり,本件アンケートによって回答者を特定することは不可能であったことが認められるから,原告らが摘示する質問がアンケート回答者のプライバシーを侵害し, 違法であるとは認められない。 4 本件アンケートは,行政の公平性・中立性の保持,権利濫用の禁止の原則に違反し,違法か原告らは,本件アンケートは,特定の政治家の「感情温度」や政治的立場を尋ねる質問(Q13,31)があるところ,これらの質問は,本件報告書(甲 の保持,権利濫用の禁止の原則に違反し,違法か原告らは,本件アンケートは,特定の政治家の「感情温度」や政治的立場を尋ねる質問(Q13,31)があるところ,これらの質問は,本件報告書(甲 10)中の政策提言において結果が反映されていないことや,これらの質問に おいて奈良県政と直接関係のある政治家は相手方Aだけであること等からすれば,これらの質問は投票率の向上をはじめとした奈良県の地方政治の活性化という本件アンケートとの目的との間で関連性が認められないというべきであり,これらの質問は,相手方Aが「感情温度」と回答者の属性を結びつけて選挙活動に利用したり,「感情温度」を公表して世論を誘導したりするために 恣意的に設定された質問であるといえ,行政の公平性・中立性の保持,権利濫用の禁止の原則に違反して違法である旨主張する。 なるほど,政治的独立性が制度上担保されていない県が主体となって,県知事である相手方Aの好感度を尋ねるような質問を含む本件アンケートを行うことについて,原告らを含む奈良県住民が行政の中立性に疑義を抱くことは理 解できるところである。 しかしながら,本件全証拠によっても,本件アンケートの質問項目の設定において,相手方Aの意向が反映されたものとは認められず,本件アンケートの質問項目が恣意的に設定されたものと認めるに足りない。 原告らは,本件アンケートの実施は,普通公共団体の長の担任事務に含まれ ない旨主張するが,本件アンケートの目的は,奈良県の投票率の向上をはじめとした奈良県の地方政治の活性化にあ,本件アンケートを含む本件業務委託は普通公共団体の事務に含まれ,普通公共団体の長の担任事務に含まれるものと認められる(地方自治法149条9号)から,原告らの主張を採用することはできない。 にあ,本件アンケートを含む本件業務委託は普通公共団体の事務に含まれ,普通公共団体の長の担任事務に含まれるものと認められる(地方自治法149条9号)から,原告らの主張を採用することはできない。 ア証拠(甲10,乙17)及び弁論の全趣旨によれば,本件アンケートでは,奈良県民の投票行動を分析するために,投票行動モデルのうちいずれが適合的かなどを調査の目的の一つとしていたこと,投票行動のモデルの一つであるミシガン・モデルにおいては,投票行動の因果メカニズムを「認知→感情→態度」として説明するものであること,「感情温度」は,有権者が政治的対 象に対する感情を測定する指標であることが認められる。 なお,原告らは,本件アンケートにおいてミシガン・モデルを採用すること自体が不適切である旨主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。 イそして,本件アンケートのうちQ13は,「感情温度」を尋ねる対象として,「G」,「A」,「あなたのお住まいの市町村長」が設定されており,国・県・市町村という異なるレベルの長に対する感情温度を,国政への関心・県政へ の関心・市町村政への関心の代理変数として捉えられるところ,Q13は,「国・県・市町村の長への感情温度が投票参加に影響する。」という仮説を検証することを目的として設定された質問であること,「感情温度」を尋ねる対象として,「大阪都構想」,「大阪維新の会」が設定されているところ,奈良県民の中で大阪市内に通勤し,大阪の政治経済的な動向に関心を有する「奈 良府民」と呼ばれる人々の存在及びその政治意識による投票行動への影響を分析するために設定された質問であることが認められ,これに反する証拠はない。 ウまた,総理大臣・県知事,居住する市町村の長への感情温度については,居住する びその政治意識による投票行動への影響を分析するために設定された質問であることが認められ,これに反する証拠はない。 ウまた,総理大臣・県知事,居住する市町村の長への感情温度については,居住する市町村の長に対する好感が投票率を高めることが分かった一方で, 総理大臣や県知事に対する好感は,奈良県知事選挙で投票するかどうかと,定かな関係を確認することはできなかったこと(甲10・16頁),本件報告書における政策提言では,他の質問の分析と併せて,県政に対する関心が投票参加の間には明確な関連が見えないことを前提とする提言がなされていること(甲10・19頁)が認められる。 エそうすると,本件アンケートのうち,「感情温度」に係る質問が本件アンケートの目的との間で関連性を有しないということはできない。 そして,証拠(甲10,乙17)及び弁論の全趣旨によれば,本件アンケートのうち,政治的立場を尋ねる質問については,イデオロギー的要因によって県民の投票参加がどの程度影響を受けるかを明らかにするために設けられた こと,その対象として,国・県・居住する市町村の長を選択した目的が,回答 者のイデオロギーを相対的に測定すること及び国政・県政・市町村政に関する政治的知識を測定することにあることが認められ,これに反する証拠はない。 以上によれば,本件アンケートにおいて,特定の政治家の「感情温度」や政治的立場を尋ねる質問が,本件アンケートの目的と関連性を有しないということはできず,行政の公平性・中立性の保持,権利濫用の禁止の原則に違反して 違法であるということはできない。 第4 結論以上によれば,原告らの請求は,その余の争点について判断するまでもなく,理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 違法であるということはできない。 第4 結論以上によれば,原告らの請求は,その余の争点について判断するまでもなく,理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 奈良地方裁判所民事部 裁判官石川理紗 裁判長裁判官島岡大雄及び裁判官上原美也子は,差支えのため署名押印することができない。 裁判官石川理紗

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