主文 一原判決中被控訴人が株式会社コリンズカントリークラブに対し平成3年9月17日指令林第1395号をもってした森林法の規定に基づく林地開発行為の許可処分に関する部分を取り消す。 同部分につき、本件を浦和地方裁判所に差し戻す。 二控訴人らのその余の控訴を棄却する。 三前項に関する控訴費用は控訴人らの負担とする。 事実及び理由 第一控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 本件を浦和地方裁判所に差し戻す。 第二事案の概要一本件は、被控訴人がゴルフ場を開設することを計画した株式会社コリンズカントリークラブ(以下「コリンズ」という。)に対し平成3年9月17日にした都市計画法の規定に基づく土地開発行為の許可処分(以下「本件土地開発許可処分」という。)及び森林法の規定に基づく林地開発行為の許可処分(以下「本件林地開発許可処分」といい、本件土地開発許可処分とまとめて「本件各処分」という。)がそれぞれの関係法令の定めに違反するとして、近辺に居住する控訴人らが、本件各処分の取消しを求める事案である。 本件の争点は、①いわゆる審査請求前置主義を定める都市計画法第52条の規定は違憲であるか、②本件土地開発許可処分の取消しの訴えを提起するに当たって埼玉県開発審査会の裁決を経なかったことにつき行政事件訴訟法第8条第2項第3号にいう「正当な理由」があるか、③控訴人らに本件各処分の取消しを求めるにつき原告適格があるか、④本件各処分は違法か、以上の4点である。 二争いのない事実等 1 コリンズは、埼玉県比企郡嵐山町大字東山、平沢、志賀の3地区に跨る総面積90万8450平方メートルの山林(以下「本件計画地」という。)にゴルフ場を開設しようと計画し、被控訴人に対し、ゴルフ場を開設するための開発行為の許可申請をした(以下、コリンズが行おうと 跨る総面積90万8450平方メートルの山林(以下「本件計画地」という。)にゴルフ場を開設しようと計画し、被控訴人に対し、ゴルフ場を開設するための開発行為の許可申請をした(以下、コリンズが行おうとしている開発行為を「本件開発行為」。という)。 2 これに対し、被控訴人は、平成3年9月17日、都市計画法第29条第1項(平成4年法律第82号による改正前のもの。以下同じ。)に基づく本件土地開発許可処分及び森林法第10条の2に基づく本件林地開発許可処分をした。 3 控訴人らは、いずれも本件計画地の近辺に居住している者である。 4 コリンズの計画によると、ゴルフ場造成工事の着工は平成3年9月、完了は平成6年12月の予定であったが、その後計画は大幅に遅れ、造成工事の進捗率はわずか0.342パーセントで、1年ごとに控訴人に対し工期延長申請をしている。 5 本件計画地は、その全域が埼玉県東部の沖積平野と同県西部の秩父山地をつなぐ丘陵地にあり、その93.8パーセントの地域が森林法に基づく地域森林計画に係る民有林によって占められている。本件計画地の南側には槻川、南東側には都幾川、北東側には市野川が流れており、槻川と都幾川は本件計画地東側の下流約2キロメートルの地点で合流している。本件計画地は県立比企丘陵自然公園内にあるが、その周辺3キロメートル四方に県立自然公園が2か所、自然環境保全地域が2か所、ふるさとの森が1か所、ふるさと歩道が2か所存在し、全体として緑豊かな自然環境に恵まれた地域を形成している。 6 都市計画法第52条は、同法第29条の規定に基づく処分の取消しの訴えは開発審査会の裁決を経た後でなければ提起することができないと規定しているところ、控訴人らの本件土地開発許可処分の取消しの訴えは、埼玉県開発審査会(以下「県開発審査会」という。)の裁決を経ない 訴えは開発審査会の裁決を経た後でなければ提起することができないと規定しているところ、控訴人らの本件土地開発許可処分の取消しの訴えは、埼玉県開発審査会(以下「県開発審査会」という。)の裁決を経ないで提起された。 二争点に対する当事者双方の主張 1 争点1(審査請求前置主義の違憲性)について(控訴人らの主張)行政事件訴訟法第8条第1項但書、都市計画法第52条のいわゆる訴願前置主義は、訴願を訴訟の前提として強制し、訴訟条件とするものであって、国民の裁判を受ける権利(憲法第32条)を不当に制限するものであり、違憲無効である。 (被控訴人の主張)審査請求に対する裁決を経ることを行政処分取消請求訴訟提起の前提要件とする(いわゆる訴願前置)とするか否かは法律に一任しているものと解すべきであって、法が訴願前置を定めたからといって憲法第32条に違反するものではない。 2 争点2(「正当な理由」の存否)について(控訴人らの主張)控訴人aらは、度々埼玉県土地行政課を訪れ、本件開発行為についての申入れや疑問の究明を行っていたにもかかわらず、同課の職員は、同控訴人らに対し、県開発審査会への裁決申請を教示しなかつた。 また、裁決の結果が明らかであって、原処分が是正される可能性がないと控訴人らが信ずるにつき無理からぬ事情があった。すなわち、埼玉県は、もともとゴルフ場造成に関して極めて起業者、開発者寄りの姿勢が顕著であり、控訴人らが土地行政課や環境審査課を訪れ、本件開発行為の問題点を指摘し、県の見解を質すなどしていたが、担当課員はこれを真摯に受け止めようとはしなかった。県開発審査会を組織する委員には土木工学の専門家がいないので、県開発審査会には本件開発行為における排水、防災計画等をチェックする能力がない。本件開発行為が都市計画法第33条第1項第7号、第9 かった。県開発審査会を組織する委員には土木工学の専門家がいないので、県開発審査会には本件開発行為における排水、防災計画等をチェックする能力がない。本件開発行為が都市計画法第33条第1項第7号、第9号等に規定する具体的な環境基準を満たしているかどうかの評価は、環境アセスメント手続に委ねられているので、控訴人らは、開発技術審査会に対し環境アセスメント手続の不備を訴えたが、結局問題にされなかったため、控訴人らは県の審査会全般について強い不信感を懐いた。近接の鳩山町住民による別件のゴルフ場開発行為許可処分に係る県開発審査会の裁決は、全く杜撰であり、行政処分を再審査したものとは到底いえないものであった。以上のような事情から、控訴人らが本件土地開発許可処分について審査請求をしても、県開発審査会がこれを棄却することは明らかであった。 したがって、控訴人らが県開発審査会に不服申立てをしなかったことについては、行政事件訴訟法第8条第2項第3号にいう「正当の理由」があるというべきである。 (被控訴人の主張)処分庁は、不服申立てをすることができる処分を書面でする場合には、処分の相手方に対し、教示することが義務付けられており(行政不服審査法第57条第1項)、また、利害関係人から当該処分が不服申立てをすることができる処分であるかどうかなどにつき教示を求められたときは、当該事項を教示することが義務付けられている(同条第2項)が、本件においてはそのような事実はない。 また、控訴人らが裁決の結果が明らかであったとして例示している事情は、いずれも根拠のない憶測や、処分庁に対する控訴人らの見解、評価もしくは感想にすぎず、このような処分庁に対する一方的な主観的事情が、処分庁から独立している県開発審査会の裁決を経ないことについての「正当な理由」を根拠付けることにはなら 対する控訴人らの見解、評価もしくは感想にすぎず、このような処分庁に対する一方的な主観的事情が、処分庁から独立している県開発審査会の裁決を経ないことについての「正当な理由」を根拠付けることにはならない。 3 争点3(原告適格の存否)について(控訴人らの主張)(一) 最高裁判例によれば、行政事件訴訟法第9条に当該処分の取消を求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も「法律上保護された利益」に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するとされ、当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規の趣旨・目的、当該行政法規が当該処分を通じて保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断すべきものとされている(最高裁平成9年1月28日判決・民集51巻1号250頁)。 そして、最高裁平成9年1月28日判決は、開発区域内の土地が、都市計画法第33条第1項第7号にいう「地盤の軟弱な土地、がけ崩れ又は出水のおそれが多い土地その他これに類する土地」に当たる場合には、がけ崩れや水害による直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者は、開発許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟における原告適格を有するものとしている。 (二) 森林 による直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者は、開発許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟における原告適格を有するものとしている。 (二) 森林法第10条の2第2項第1号の2は、林地開発行為について、「当該開発行為をする森林の現に有する水害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水害を発生させるおそれ」がないことを、開発許可の基準としている。このような森林の保水機能(水害防止機能)に依存する地域において水害を発生させるおそれのある開発行為は、その開発の結果、水害をひきおこして、その地域の住民の生命、身体等の安全が脅かされるおそれがあることに鑑み、そのような水害を発生させるおそれのない林地開発のみ許可することとしていることが明らかである。そして、水害は、当該開発行為の対象となっている森林の保水機能(水害防止機能)に依存する一定範囲の地域に居住する住民に直接的に及ぶことが当然予想される。さらに、「開発行為の許可基準の運用細則について」と題する林野庁長官の各都道府県知事宛の通達(昭和49年10月31日林野治第2521号。以下「本件通達」という。)には、開発行為によって災害があった場合には、開発地域に近い住民ほど被害を受ける蓋然性が高く、被害がより重大、直接的になることを考慮して、具体的な許可基準が定められている。 以上のような同号の趣旨・目的、同号が開発許可を通じて保護しようとしている利益の内容・性質等に鑑みれば、同号は、水害のない適切な林地開発により森林の保持・形成を図るとともに、水害等による被害が直接的に及ぶことが想定される開発区域内外の一定範囲の地域(水害防止機能に依存する地域)の住民の生命、身体の安全等を個々人の個人的利益としても保護すべきものとする 成を図るとともに、水害等による被害が直接的に及ぶことが想定される開発区域内外の一定範囲の地域(水害防止機能に依存する地域)の住民の生命、身体の安全等を個々人の個人的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解すべきである。そうすると、林地開発によって水害の防止機能が破壊される場合には、水害等による直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者は、開発行為の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟における原告適格を有すると解するのが相当である。 (三) 以上のような理解に立って本件をみると、本件開発行為により失われる保水機能・水害防止機能の代替施設として、AからGまでの7つの調整池と土留め擁壁が予定されているところ、A~D調整池はいずれも大幅な容量不足が明らかであり、B調整池には背面の盛り土擁壁の安定性欠如に起因する崩壊の危険性がある。 ところで、A、B調整池の下流水路は、B調整池から直近の位置で道路(国道254号線バイパス)を横切り、水路(志賀沢)に沿って東武東上線線路を横切り、志賀地区を経て、約1.2キロメートル下流で市野川に合流する。志賀沢は、幅員約5メートル、深さ約2メートルの緩やかな水路であるが、市野川との合流地点の手前、本件計画地から約930メートルの地点で控訴人b宅前を通る。また、志賀沢との合流地点より下流で、市野川沿いに地産団地があり、同団地の、本件計画地から約1.5キロメートルの地点に、控訴人c、同dの居宅がある。C調整池直近の下流には平沢大沼があり、同沼は国道254号線バイパスに接している。D、E調整池直近の下流には平沢の集落がある。C~F調整池からの排水は、平沢、志賀を経て、地産団地の南縁に沿う水路を通り、市野川に合流する。G調整池の下流には、遠山部落があり、同調整池からの排 る。D、E調整池直近の下流には平沢の集落がある。C~F調整池からの排水は、平沢、志賀を経て、地産団地の南縁に沿う水路を通り、市野川に合流する。G調整池の下流には、遠山部落があり、同調整池からの排水は、槻川に放流され、その下流に嵐山町の上水道の取水口がある。 A、B調整池の容量不足のため、志賀沢の下流に自宅がある控訴人bは、30年確率の降雨強度すなわち30年に1度の確率で予期すべき強度の雨が10分間続くだけで、自宅が水害にみまわれるおそれがある。また、これらの調整池からの越流によって、下流の国道254号線バイパス、東武東上線線路、平沢、志賀、遠山の各地区、地産団地などに被害が及ぶおそれがあり、さらに上記取水口の水質汚染によっても、控訴人らの生命、身体に被害が及ぶおそれがある。 (四) したがって、控訴人らは、本件各処分の取消しを求める原告適格を有するというべきである。 (被控訴人の主張)(一) 計画法第33条第1項第7号は、危険が予想される軟弱な土地等における開発行為という特殊な場合について、災害発生の事前防止の観点から、その許可基準を定め、さらに、同条第2項により当該許可基準の審査の技術的細目についても法規たる政令に委任する旨を定めている。このように、都市計画法は、災害の発生を事前に防止するために、同法第33条第1項第7号及び同条第2項が授権する政令・規則によって具体的かつ詳細な審査基準を定めることにより、開発許可に際し、がけ崩れ等を防止するためにがけ面、擁壁等に施すべき措置について十分な審査をすべきとこととしているから、がけ崩れ等による被害が直接的に及ぶことが想定される開発区域内外の一定範囲の住民の生命、身体の安全をも射程内に入れているものと解することができる。 (二) これに対し、林地開発行為の許可基準を定める森林法第10条の 被害が直接的に及ぶことが想定される開発区域内外の一定範囲の住民の生命、身体の安全をも射程内に入れているものと解することができる。 (二) これに対し、林地開発行為の許可基準を定める森林法第10条の2第2項各号の規定内容は一般的・抽象的で具体性に欠けるにもかかわらず、同法は、当該許可基準の審査の技術的細目について、直接規定することなく、また、政令に授権する規定を定めることもなく、専らその判断を所管行政庁に任せているのである。 そして、許可基準の技術的細目については、本件通達等により示されているにすぎない。これらの通達は、行政上の取扱いの統一を期するための行政組織内部の規範たる性質を持つにすぎず、行政主体と国民との間の権利義務について規律する「法規」たる性質を有するものではない。 このように、森林法は、林地開発許可制度を設定し、開発行為の許可基準を規定してはいるものの、その規定内容は理念的で具体性に欠けており、また、その運用は専ら所管行政庁に委ねられているのであって、これからみても、同法第10条の2第2項各号は、地域住民の個々人の個別具体的権利ないし利益をも保護するものではない。 したがって、控訴人引用の最高裁判決が都市計画法第33条第1項第7号について周辺住民の原告適格を肯定したからといって、森林法第10条の2第2項について、周辺住民の個々人の個別的権利ないし利益をも国土の保全という一般的公益とともに保護していると解することはできない。 (三) 控訴人a宅は、直近のF調整池から約0.8キロメートルの距離にあるが、その下流水路の流域とは異なる流域にあり、しかも対岸の小高い山の反対斜面にあるため、同控訴人らに被害が及ぶことは到底考えられない。 控訴人e、同f、同g宅は、C~F調整池の下流で本件計画地から約1.1ないし2.0キロメートル離れ にあり、しかも対岸の小高い山の反対斜面にあるため、同控訴人らに被害が及ぶことは到底考えられない。 控訴人e、同f、同g宅は、C~F調整池の下流で本件計画地から約1.1ないし2.0キロメートル離れた台地上にあるため、同控訴人らに被害が及ぶことは考えられない。 控訴人h、同i、同j宅は、本件計画地から約0.7ないし0.8キロメートル離れた、C~F調整池下流の平沢地区にあるが、山の中腹にある新興住宅地にあり、しかも各調整池設置予定個所及びその下流水路よりも高い位置にあるため、同控訴人らに被害が及ぶことは考えられない。 控訴人c、同d宅は、本件計画地から約1.5ないし2.0キロメートル離れている市野川沿いにあるため、同控訴人らに被害が及ぶことは考えられない。 控訴人b宅は、A、B調整池下流の志賀沢沿いで本件計画地から約1.0キロメートル離れており、志賀沢沿いには広大な田園地帯が広がっているため、仮に溢水を起こしたとしても、水が拡散してしまうため、同控訴人に被害を及ぼすことは考えられない。 4 争点4(本件各処分の違法性)について(控訴人らの主張)(一) 本件計画地は、結晶片岩(人工・自然緑化とも極めて困難な特殊基盤である。)に覆われ、地盤が極めて脆弱な一帯にあるため、本件開発行為に伴い、土砂崩れや土石流等が発生することが予想され、これにより控訴人らの生命、身体等に危険が及ぶおそれがある。とりわけ、本件計画地近辺を流れる槻川、都幾川はその東側下流約2キロメートルの地点で合流しているが、本件計画地の地形からして、本件開発行為による土砂崩れが両河川の氾濫をもたらすことは必至であり、本件開発行為が両河川周辺に居住する控訴人らの生命、身体等の安全を害する危険性は極めて高い。 また、本件開発行為は、山林を削り取りその水源涵養機能を損なわせ、その結 氾濫をもたらすことは必至であり、本件開発行為が両河川周辺に居住する控訴人らの生命、身体等の安全を害する危険性は極めて高い。 また、本件開発行為は、山林を削り取りその水源涵養機能を損なわせ、その結果、控訴人らを始めとする周辺住民の生活上必要な水源が失われる。 さらに、本件計画地はその豊かな自然環境のゆえに、嵐山町民が慈しんできたオオムラサキやトウキョウサンショウウオ等の貴重かつ希少な生物類の棲息の場にもなっているが、本件開発行為がもたらす本件計画地の著しい地形の改変、植生の変化、景観の変更は、この豊かな自然環境を破壊し、ここに棲息する貴重かつ希少な生物類の生存を危うくする。 加えて、ゴルフ場に散布される農薬は、本件計画地周辺の地下水、飲料水に混入し、大気中に拡散して、控訴人らの生命、健康を損なわせる。殊に、都幾川と槻川の合流地点付近には、嵐山町の3つの取水口が設けられ、ここで取水された水が嵐山町住民全体の水道水となっており、農薬は、この取水口で取水される水道水混入するおそれがある。また、本件計画地周辺の井戸水にも農薬が混入し、これにより控訴人ら嵐山町住民等の健康が損なわれることは明らかである。 以上の事実関係からすれば、本件開発行為は、森林法第10条の2第2項第1号にいう「土砂の流出又は崩壊その他の災害」、同項第1号の2にいう「水害」、同項第2号にいう「水の確保に著しい支障」、同項第3号にいう「環境を著しく悪化させるおそれ」をそれぞれ発生させる危険がある。したがって、被控訴人がした本件林地開発行為許可処分は、右規定に違反する処分である。 また、前記のように、本件計画地の地盤は結晶片岩で覆われ極めて脆弱であるから、本件土地開発許可処分をするには、設計上、都市計画法第33条第1項第7号に定める「地盤の改良、擁壁の設置等」に係る具体的 また、前記のように、本件計画地の地盤は結晶片岩で覆われ極めて脆弱であるから、本件土地開発許可処分をするには、設計上、都市計画法第33条第1項第7号に定める「地盤の改良、擁壁の設置等」に係る具体的な措置が示されていなければならないのに、これが示されず、しかも、本件土地開発許可処分は、これによる環境破壊等を無視してされたものであるから、同法第1条、第2条、第33条に違反する。 以上のことは、終局的には、憲法第13条及び第25条にも抵触するものであって、違法である。 (二) コリンズは、本件開発行為の許可申請において、関係する水利組合、土地改良組合等との間で、森林法施行規則第8条の2及び都市計画法第33条第1項第14号の要件を満たすための同意書や協定書を作成しているが、これらの同意書等の作成過程には、組合内部の手続上多数決で決定できない事項を多数決で決定したり、組合関係者に対する贈賄や、反対する組合員に対する威嚇等の瑕疵があるから、これらの同意書等は無効である。 そうであるとすれば、本件各処分には、「開発行為に係る森林について当該開発行為の施行の妨げとなる権利を有する者の相当数の同意を得ていることを証する書類」(森林法施行規則第8条の2)及び「当該開発行為の施行又は当該開発行為に関する工事の実施の妨げとなる権利を有する者の相当数の同意を得ていること」(都市計画法第33条第1項第14号)に該当する事実は存在せず、本件各処分は違法である。 (三) コリンズは、「埼玉県環境影響評価に関する指導要綱」に基づく環境影響評価書の縦覧期間が満了した直後である平成3年6月24日に、用地の一部が取得不能であることを理由として、ゴルフ場を従来の計画の18ホールから12ホールに変更する内容の造成事業変更申出書を嵐山町長に提出したが、これは開発面積を137. 平成3年6月24日に、用地の一部が取得不能であることを理由として、ゴルフ場を従来の計画の18ホールから12ホールに変更する内容の造成事業変更申出書を嵐山町長に提出したが、これは開発面積を137.13ヘクタールから90.84ヘクタールに大幅に縮小するものである。 この開発面積の縮小は、水害や土砂流出防止を目的とした調整池の縮小等、その安全や環境の保全措置の縮小を伴い、また残存する森林の偏在化をもたらし、それまでの環境影響評価では想定されていない問題を発生させるものである。したがって、埼玉県は、これについて、上記指導要綱の定めるところに従い環境アセスメント手続をやり直すべきであったのにこれをせず、変更後の開発行為を再度環境影響評価技術審議会にかけることもなく、その小委員会に諮ることもしないで、変更後の開発計画について本件各処分をした。上記指導要綱は、環境の保全、公害の防止、地域住民の権利の擁護のための手続的ルールを、住民参加を得て定めたものであり、環境破壊を未然に防止する基本規範というべきものであるから、埼玉県の行政行為を覊束すると解すべきところ、本件各処分はこの指導要綱の定めに反してされたものであるから違法である。 (四) 都市計画法第33条第1項第11号及び埼玉県のゴルフ場等の造成事業に関する審査基準第6・2の定めるところによると、本件計画地に至るには幅員6メートル以上の取付道路が存在していなければならないが、実際に存在するのは幅員5メートルの林道である。これについて嵐山町は、コリンズの要望を受け、この林道を町道1-12号線とした上、昭和63年12月21日、コリンズとの間で、その費用負担でこの町道の幅員拡張工事を嵐山町が行うことを趣旨とする協定を締結しているが、いまだに道路拡幅に必要な用地買収の目途もたっていない。したがって、本件計画 12月21日、コリンズとの間で、その費用負担でこの町道の幅員拡張工事を嵐山町が行うことを趣旨とする協定を締結しているが、いまだに道路拡幅に必要な用地買収の目途もたっていない。したがって、本件計画地に至る取付道路は存在しないというべきであり、本件土地開発行為許可処分は、都市計画法第33条第1項第11号及び上記ゴルフ場等の造成事業に関する審査基準第6・2に違反する。 (五) 埼玉県は、昭和63年9月26日、本件開発行為について立地承認をしているが、埼玉県のゴルフ場等の造成事業に関する指導要綱第11によると、それから3年以内の平成3年9月26日までに本件開発行為の工事に着工しなければ、この承認の効力は失効することになっている。コリンズが、前記のように18ホールのゴルフ場を12ホールに計画規模を縮小して本件各処分を得たのは、さしあたり形だけの工事着工をしておいて上記承認の効力が失効するのを防ぎ、後日、用地買収の目途が立った時点で、改めて事業変更の届出をして18ホールのゴルフ場にしょうと意図したものであることが明らかである。これは明らかに上記ゴルフ場等の造成事業に関する指導要綱が定める「3年以内の着工」という規制の脱法行為であり、その「自然環境の保全及び災害の防止」の目的に違反する。 (被控訴人の主張)控訴人らの主張はすべて争う。 第三当裁判所の判断一本件土地開発許可処分の取消請求について 1 争点1(審査請求前置主義の違憲性)について行政事件訴訟法第8条第1項ただし書は、行政処分の取消しを求める訴えにつき、法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがあるときは、同条第1項本文の規定にかかわらず、審査請求に対する裁決を経ることを訴え提起の適法要件とする旨規定してい 対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがあるときは、同条第1項本文の規定にかかわらず、審査請求に対する裁決を経ることを訴え提起の適法要件とする旨規定している。 控訴人らは、審査請求前置を要求することは、審査請求を訴訟の前提として強制し、訴訟条件とするものであって、国民の裁判を受ける権利(憲法第32条)を不当に制限するものであり、違憲無効である旨主張する。 しかし、審査請求の前置は、上級行政庁による監督権の行使により行政の統一的運用を図る半面において、行政庁自身に処分是正の機会を与え、行政庁による簡易迅速な手続により国民の権利利益の救済を期待することを目的とするものであり、かつ、行政事件訴訟法第8条第2項各号所定の事由があるときは裁決を経ることなく訴えを提起することができるものとされていることに鑑みると、審査請求の前置が国民の裁判を受ける権利を侵害するものでないことは明らかであり、また、いかなる行政処分について審査請求前置を採用するか否かは立法政策の問題であって、都市計画法第52条が同法第29条の開発行為の許可処分について審査請求前置を定めたからといって、それが憲法第32条に違反するものではないというべきである。 2 争点2(「正当な理由」の存否)について当裁判所も、控訴人らが本件土地開発行為許可処分につき審査請求を経ないことについて行政事件訴訟法第8条第2項第3号にいう「正当な理由」があるとは認められないものと判断する。その理由は、原判決34頁6行目の次に行を改めて次のように加えるほかは、原判決「事実」欄中の「第三争点に対する判断」一に記載のとおりであるから、これを引用する。 「控訴人らは、埼玉県土地行政課の職員が控訴人aらに対して県開発審査会へ裁決の申請をするよう教示しなかった旨主 「事実」欄中の「第三争点に対する判断」一に記載のとおりであるから、これを引用する。 「控訴人らは、埼玉県土地行政課の職員が控訴人aらに対して県開発審査会へ裁決の申請をするよう教示しなかった旨主張するが、行政庁が、審査請求等の不服申立てをすることができること及び不服申立てをすべき行政庁等について教示すべきことが義務付けられているのは、当該処分を書面でする場合における処分の相手方に対してであって(行政不服審査法第57条第1項)、控訴人らはそれに当たらないことが明らかであるし、行政庁が、利害関係人に対して、当該処分が不服申立てをすることができる処分であるかどうか、不服申立てをすべき行政庁等の事項について教示すべきことが義務付けられているのは、利害関係人から教示を求められたときであるが(同条第2項)、本件全証拠をもってしても、控訴人らがこれらの事項について教示を求めた事実を認めることはできない。したがって、控訴人らの上記主張は、その前提を欠き、失当である。」 3 そうすると、控訴人らが本件土地開発行為許可処分につき審査請求を経ていないことについて行政事件訴訟法第8条第2項第3号にいう「正当な理由」があると認められないから、控訴人らの本件訴えのうち本件土地開発行為許可処分の取消しを求める部分は、不適法な訴えというほかない。 二本件林地開発許可処分の取消請求について 1 行政事件訴訟法第9条は取消訴訟の原告適格について規定するが、同条にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利 を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、このような利益もここでいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。そして、当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規の趣旨・目的、当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断すべきである(最高裁平成13年3月13日第三小法廷判決・裁判所時報第1288号8頁、同平成9年1月28日第三小法廷判決・民集51巻1号250頁参照)。 2 上記の見地に立って、本件訴えについての控訴人らの原告適格について検討する。 本件において、控訴人らは、本件計画地に近接する肩書住所地に居住しており、本件開発行為によって起こり得る水害等により、その生命、身体等を侵害されるおそれがある旨主張している。そこで検討するに、森林法第10条の2第2項第1号は、当該開発行為をする森林の現に有する土地に関する災害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域において土砂の流出又は崩壊その他の災害又は水害を発生させるおそれがないことを、また、同項第1号の2は、当該開発行為をする森林の現に有する水害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水害を発生させるおそれがないことを開発許可の要件としている。これらの規定は、森林において必要な 発行為をする森林の現に有する水害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水害を発生させるおそれがないことを開発許可の要件としている。これらの規定は、森林において必要な防災措置を講じないまま開発行為を行うときは、その結果、土砂の流出又は崩壊、水害等の災害が発生し、人の生命、身体の安全等が脅かされるおそれがあることに鑑み、開発行為の段階で、開発行為の設計内容を十分審査し、当該開発行為により土砂の流出又は崩壊、水害等の災害を発生させるおそれがない場合にのみ許可することとしているものである。そして、この土砂の流出又は崩壊、水害等の災害が発生した場合における被害は、当該開発区域に近接する一定範囲の地域に居住する住民に直接的に及ぶことが予想される。以上のような上記各号の趣旨・目的、これらが開発許可を通して保護しようとしている利益の内容・性質等に鑑みると、これらの規定は、土砂の流出又は崩壊、水害等の災害防止機能という森林の有する公益的機能の確保を図るとともに、土砂の流出又は崩壊、水害等の災害による被害が直接的に及ぶことが予想される開発区域に近接する一定範囲の地域に居住する住民の生命、身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解するのが相当である。そうすると、土砂の流出又は崩壊、水害等の災害による直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者は、開発行為の許可を求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟における原告適格を有すると解するのが相当である(前記最高裁平成13年3月13日第三小法廷判決参照)。 3 そうすると、森林法第10条の2第2項各号がいずれも開発区域の周辺住民個々人の利益を保護する趣旨を含むものではないとの解釈に基づき、控訴人らが水害等の災害による 3月13日第三小法廷判決参照)。 3 そうすると、森林法第10条の2第2項各号がいずれも開発区域の周辺住民個々人の利益を保護する趣旨を含むものではないとの解釈に基づき、控訴人らが水害等の災害による直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者であるかどうかについて何らの検討することなく、控訴人らの原告適格を否定し、本件林地開発許可処分の取消しを求める控訴人らの訴えを却下した原判決は、不当であり、取消しを免れない。 4 なお、付言するに、森林法第10条の2第2項第1号及び同項第1号の2は、周辺住民の生命、身体の安全等の保護のほかに、周辺土地の所有権等の財産権までを個々人の個別的利益として保護すべきものとする趣旨を含むとは解することができないし、同項第2号は、当該開発行為をする森林の現に有する水源のかん養の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水の確保に著しい支障を及ぼすおそれがないことを、また、同項第3号は、当該開発行為をする森林の現に有する環境の保全の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域における環境を著しく悪化させるおそれがないことを開発許可の要件としているけれども、これらの規定は、水の確保や良好な環境の保全という公益的な見地から開発許可の審査を行うことを予定しているにとどまり、周辺住民等の個々人の個別的利益を保護する趣旨を含むものと解することができない。したがって、控訴人らの原告適格の審査に当たっては、以上のような観点からの検討が行われるべきである。 第4 結論以上によれば、原判決中、控訴人らの本件土地開発行為許可処分の取消しを求める訴えを不適法却下した部分は相当であるから、同部分に関する控訴人らの控訴は棄却を免れないが、本件林地開発許可処分の取消しを求める控訴人らの訴えを却下 訴人らの本件土地開発行為許可処分の取消しを求める訴えを不適法却下した部分は相当であるから、同部分に関する控訴人らの控訴は棄却を免れないが、本件林地開発許可処分の取消しを求める控訴人らの訴えを却下した部分は不当であるから、行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第307条により、同部分に関する原判決を取り消した上、本件を浦和地方裁判所に差し戻すこととする。 よって、上記控訴棄却部分に関する訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第67条、第61条、第65条を適用して、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第5民事部裁判長裁判官魚住庸夫裁判官飯田敏彦裁判官小野田禮宏は、転補につき、署名押印することができない。 裁判長裁判官魚住庸夫
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