【DRY-RUN】主 文 本件上告を棄却する。 理 由 弁護人上村千一郎上告趣意書は「原判決ハ上告人ノ本件行為ガ正当防衛行為デナ イト云フ理由ニ「判示ノ如クAガ単ニ手拳ヲ以テ被
主文本件上告を棄却する。 理由弁護人上村千一郎上告趣意書は「原判決ハ上告人ノ本件行為ガ正当防衛行為デナイト云フ理由ニ「判示ノ如クAガ単ニ手拳ヲ以テ被告人ノ顔面ヲ殴打シタニ過ギナイノニ対シ直チニ其ノ場ニ在ツタ日本刀ヲ取上ゲ同人ノ腹部目掛ケテ突差スカ如キハ急迫不正ノ侵害ニ対シ自己ヲ防衛スル為巳ムヲ得ナイ行為デアツタトハ認メ難イ」ト説示シテオルガ原判決中其ノ判示事実ヲ見ルニ「被告人ハ(中略)Aカラ着用中ノセーターヲ脱イデ寄越セト強要サレタノデ之ヲ拒絶シタトコロイキナリ立上ツテ顔面ヲ殴打サレタノデ憤激ノ余リ」トアリ証拠トシテ強制処分ニヨル予審判事ノ被告人ニ対スル訊問調書中「私ハ之ヲ遣ルト家へ帰ヘレナイカラ勘忍シテクレ」ト云フト相手ハ何カ言ヒ乍ラ刀ヲ其処ニ置イタ儘立上リサマ私ノ頬ヲ拳骨デ一ツ殴ツタ」トノ記載、Bニ対スル検事聴取書中「Cハ「之ガ無クチヤ家へ帰ヘレンデ貸セン」ト断ツタトコロ相手ハ刀ヲ左手ニ下ゲタ儘立上リイキナリCノ頭ヲ拳骨デ「ナメルナ」ト云ヒ乍ラ一ツ殴ツタ」トノ記載等ヲ掲ゲテオル尚Dニ対スル昭和二十一年十月六日附警察ニ於ケル聴取書中同人ノ供述タル「Aハ三虎ノ舎弟分ダト云ツテヰマスガ非常ナ不良デアリマス」「初メAガ日本刀デ嚇シテソノ刀ヲ相手ニ取ラレテ斯様ナコトニナツタノダト思ヒマス」等ノ記載ヨリ考察スル場合判示事実ハAガ単ニ手拳ヲ以テ被告人ノ顔面ヲ殴打シタニ過ギナイト云フ事実デナイコトハ明瞭デアルノニ拘ラズ同一判決中上告人ノ本件行為ガ正当防衛行為デナイト云フ理由ニAハ当時単ニ手拳ヲ以テ被告ノ顔面ヲ殴打シタニ過ギナイ」ト説示シ判示事実ニ非ザル事実ヲ判示事実トシ証拠ニヨラズシテ事実ヲ認定シ尚判決ノ理由ニ齟齬アル違法ノ判決ト云フベクコノ点ニ於テ到底破毀ヲ免レナイモノト信ズ」と云うのである。 ヲ殴打シタニ過ギナイ」ト説示シ判示事実ニ非ザル事実ヲ判示事実トシ証拠ニヨラズシテ事実ヲ認定シ尚判決ノ理由ニ齟齬アル違法ノ判決ト云フベクコノ点ニ於テ到底破毀ヲ免レナイモノト信ズ」と云うのである。 ところで原判決が証拠によつて確定した事実によると、被告人はAから着用中の- 1 -セーターを脱いで寄越せと強要されたので、これを拒絶したところ、いきなり立上つて顔面を殴打されたので憤激の余り同人が脇においていた日本刀をとりあげると同人から取戻されにきたので、その刀で突差に同人の左下腹部を突刺したと云うのであつて、被告人の判示所為がAにおいて被告人の顔面を殴打したと云う侵害行為によつて挑発されたことは明かであるが、右Aが被告人に対してその他に侵害を加え又は加えようとしたことはなく、しかも被告人の判示所為は憤激の余りに出たのであつて、自己の権利を防衛する為に出たのではない。してみれば、原判決が原審公判廷における弁護人の正当防衛論に対する判断として所論のように、Aが単に手拳をもつて被告人の顔面を殴打したにすぎないのに対し直ちにその場にあつた日本刀を取上げ同人の腹部目がけて突刺すが如きは正当防衛行為と認め難いと説示したのは、むしろ当然であつて、この説示たるや、いさゝかも判示認定事実と矛盾するところなく、又証拠によらないで事実を創定した跡もなく、尚又、判決理由に齟齬ある廉もない、所論は、所詮独自の見解たるにすぎない。論旨は理由がない。 次に弁護人原田茂上告趣意書は「第一、刑事訴訟法応急措置法第二条に「刑事訴訟法は日本国憲法、裁判所法及び検察庁法制定の趣旨に適合する様にこれを解釈せねばならない」と規定するが同第十三条第二項には刑事訴訟法第四百十二条乃至第四百十四条の規定はこれを適用しないと規定する。而してその立法趣旨として司法省刑事局の解釈は「本条第二 する様にこれを解釈せねばならない」と規定するが同第十三条第二項には刑事訴訟法第四百十二条乃至第四百十四条の規定はこれを適用しないと規定する。而してその立法趣旨として司法省刑事局の解釈は「本条第二項は最高裁判所をして憲法及裁判所法に規定する構想に添はしめんとの趣旨並に上告裁判所をして其の本来の使命たる法律審たることに専念せしめんとの意図に出ずるものである」と説明してゐる。元来刑事訴訟法第四百十二条乃至第四百十四条は法律審たる上告審に特に規定を設け神ならぬ裁判官の判断を慮り人権の尊重を考慮したものである。日本国憲法は第十一条に基本的人権の保障を宣言し第十三条以下其の具体的規定をして人権の尊重を厳重に示してゐる。 憲法其の他の法律はすべてこれを基本としてゐると言ひ得る。然るに刑事訴訟法応- 2 -急措置法は唯法律審の原則を保持するとの目的を以て第四百十二条乃至第四百十四条を削除したのは明に右憲法の趣旨に反するものである。以上の観点から原裁判所の判決に於て被告人の所為は刑法第二百五条第一項に該当すると判示したるも被告人の行為は被告人の供述Bの聴取書当時の情況を綜合して見るに明かに急迫不正の侵害があり自己防衛の行為であるから正当防衛行為なるに拘らず之を認めざるは被告に有利なる証拠を看過して事実を誤認したる疑あり刑事訴訟法第四百十四条の規定に基き上告理由あるものと解す。但し刑事訴訟法応急措置法により之を認めずとするならば右誤認により人権尊重を規定する憲法第十一条第十三条に違反するものである」と云い、同第二ほ「若し裁判所の判決の如く正当防衛とならぬとしても被告人の行為ほ当時の情況(暴行強迫を受けてゐた)から心神喪失中の行為であると考へられる。この点からも事実誤認に基き法律を適用したるものとの疑あり以て第一の場合同様に考ふるものである。右上告趣意書 被告人の行為ほ当時の情況(暴行強迫を受けてゐた)から心神喪失中の行為であると考へられる。この点からも事実誤認に基き法律を適用したるものとの疑あり以て第一の場合同様に考ふるものである。右上告趣意書刑事訴訟法第四百二十三条により提出します」と云うのであるが、そもそも三審制を採用する裁判制度において上告審をもつて純然たる法律審とするか、又は量刑不当若くは事実誤認を理由とする上告を認めて事実審理の権限をも上告審に与えるかは、立法政策上の問題であり、従つてこれをいずれに定めるかは立法上の当否の問題として論議され得ても憲法上の適否の問題として取扱わるべきでない。それ故、日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の応急的措置に関する法律第十三条第二項が刑事訴訟法第四百十二条乃至第四百十四条の規定の適用を排除し、量刑不当又は事実誤認を理由とする上告を許さないことにしたとしても、毫も憲法の保障する国民の基本的人権を侵犯したと見るべき筋合でほない。このことは既に、昭和二十二年(れ)第五六号事件の判決(昭和二十三年二月六日大法廷言渡)において当裁判所の宣示した所である。されば右刑事訴訟法の応急的措置に関する法律の規定を目して憲法の条規に違反すると為す所論は採用すべき限りでなく、又原判決の事実誤認を主張する所論は適法な上告の理由- 3 -と云うことができないので各論旨はいずれも理由がない。 仍つて刑事訴訟法第四百四十六条最高裁判所裁判事務処理規則第九条第三項の規定に則り主文の如く判決する。 この判決ほ裁判官全員一致の意見によるものである。 検察官松岡佐一関与昭和二十三年六月五日最高裁判所第二小法廷裁判長裁判官塚崎直義裁判官霜山精一 二十三年六月五日最高裁判所第二小法廷裁判長裁判官塚崎直義裁判官霜山精一裁判官栗山茂裁判官小谷勝重裁判官藤田八郎- 4 -
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