1 令和4年7月29日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 令和2年 第32586号 損害賠償請求事件 口頭弁論終結日 令和4年4月22日 判 決 主 文 5 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は、原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告らに対し、各33万円及びこれに対する令和2年1月29日から 10 支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、J(以下「J」という。)に対する出入国管理及び難民認定法(以下「入 管法」という。)違反被疑事件等につき、令和2年1月29日午前10時10分頃 から同日午後3時05分頃まで実施された原告I(以下「原告法人」という。)が 15 設置する事務所(以下「本件事務所」という。)に対する捜索・差押え(以下「本 件捜索等」という。)に際し、刑事訴訟法(以下「刑訴法」という。)222条1 項において準用する同法105条に基づいて押収拒絶権を行使したにもかかわ らず本件捜索等が実施されたとする原告らが、検察官及び検察事務官による本件 事務所への立入り、本件捜索等及び本件事務所からの不退去(以下「本件各行為」 20 という。)が違法であると主張して、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づい て、原告1名につき各33万円の損害賠償金及びこれに対する本件捜索等が実施 された日(違法行為の日)である令和2年1月29日から支払済みまでの平成2 9年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の 支払を求める事案である。 25 1 前提事実(争いのない事実並びに掲記の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に 2 認められる事実) ⑴ 当事者及び関係者 ア 原告A、原告B、原告C、原告D、原告E、原告 案である。 25 1 前提事実(争いのない事実並びに掲記の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に 2 認められる事実) ⑴ 当事者及び関係者 ア 原告A、原告B、原告C、原告D、原告E、原告F、原告G及び原告H(以 下「原告弁護士ら」ということがある。)は、いずれも原告法人が設置する本 件事務所に勤務する弁護士である。 5 イ Jは、後記⑵及び⑶のとおり、金融商品取引法(以下「金商法」という。) 違反及び会社法違反の被疑事実及び公訴事実により逮捕、勾留、起訴され、 保釈中の令和元年12月29日、入国審査官から出国の確認を受けることな く、本邦から出国した者である。 原告弁護士らは、令和2年1月16日に辞任するまで、上記被疑事実及び 10 公訴事実について、Jの弁護人を務めていた。 ウ K、L及びM(以下、3名を併せて「Kら」という。)は、上記イのJの出 国に関与したことが疑われる者らである。 ⑵ Jの逮捕、勾留、起訴及び保釈 ア 検察官は、平成30年11月19日、金商法違反の被疑事実(平成22~ 15 26年度分の虚偽記載のある有価証券報告書の提出)によりJを逮捕し、裁 判官による勾留を得て、同年12月10日、同事実につき東京地方裁判所に 公訴を提起した。また、検察官は、同日、金商法違反の被疑事実(平成27 ~29年度分の虚偽記載のある有価証券報告書の提出)により同人を逮捕し、 裁判官による勾留を得、同月21日、会社法違反の被疑事実(特別背任)に 20 より同人を逮捕し、裁判官による勾留を得て、平成31年1月11日、上記 両事実につき東京地方裁判所に公訴を提起した。 イ 東京地方裁判所は、平成31年3月5日、Jの保釈を許可する旨を決定し、 同月6日、同人は釈放された(甲2、3)。 Jは、会社法違反の被疑事実(特別背任)により同年4月4日に再逮 公訴を提起した。 イ 東京地方裁判所は、平成31年3月5日、Jの保釈を許可する旨を決定し、 同月6日、同人は釈放された(甲2、3)。 Jは、会社法違反の被疑事実(特別背任)により同年4月4日に再逮捕さ 25 れ、その後勾留されたが、同月22日の公訴の提起後、東京地方裁判所は同 3 月25日に同人の保釈を許可する旨を決定し、同日、同人は釈放された(甲 4)。 ウ 上記イの各保釈の許可に際し、東京地方裁判所は、次の条件を付した(甲 2~4)。 Jは、原告法人の事務所から貸与されたパーソナルコンピュータ(機種 5 名:(以下省略。)。以下「本件PC」という。)のみを、平日午前9時から 午後5時までの間、本件事務所内において使用し、それ以外の日時・場所 で、パーソナルコンピュータを使用してはならない。また、Jは、本件P Cのインターネットのログ記録を保存しておかなければならない。 Jは、制限住居の内外を問わず、面会した相手の氏名(ただし、同人の 10 妻、弁護人及び原告法人の事務員を除く。)、日時・場所を記録しておかな ければならない。 Jは、弁護人を介して、上記 のログ記録及び上記 の面会記録を、そ れぞれ裁判所に提出しなければならない。 ⑶ Jの出国 15 Jは、保釈中の令和元年12月29日、入国審査官から出国の確認を受けず に関西国際空港から航空機に搭乗して離陸し、本邦から出国した。 ⑷ 本件事務所に対する1回目の捜索の試み 令和2年1月8日、東京地方検察庁の検察官及び検察事務官ら合計5名が本 件事務所を訪れ、前記⑶の出国に係るJに対する入管法違反被疑事件等につい 20 て本件事務所を捜索する旨を申し出たところ、原告弁護士らは、刑訴法222 条1項において準用する同法105条に基づき押収拒絶権を行使し、捜索自体 も拒絶する旨を述べた。 管法違反被疑事件等につい 20 て本件事務所を捜索する旨を申し出たところ、原告弁護士らは、刑訴法222 条1項において準用する同法105条に基づき押収拒絶権を行使し、捜索自体 も拒絶する旨を述べた。上記検察官らは、1時間に及ぶ原告弁護士らとの問答 の末、本件事務所から退去した(乙3)。 ⑸ 本件各行為の状況等 25 ア 令和2年1月29日午前10時10分頃、東京地方検察庁の検察官及び検 4 察事務官ら合計13名(以下「検察官ら」という。)は、再度本件事務所を訪 れ、前記⑶の出国に係るJに対する入管法違反被疑事件並びにKらに対する 犯人隠避(刑法103条)及び入管法違反幇助被疑事件について、本件事務 所を捜索する旨を申し向け、当時本件事務所に居合わせた原告F、原告E及 び原告H(以下「原告Fら」という。)に対し、捜索差押許可状(以下「本件 5 許可状」という。乙4)を提示した。 本件許可状には、「被疑者の氏名及び年齢」として、J及びKらの氏名、生 年月日及び年齢の記載があり、「捜索すべき場所」として、本件事務所及び同 事務所が使用する付属施設、「差し押さえるべき物」として、本件に関係ある と思料される、①Jとの面談のために来所した事務所来所者の名簿・一覧表、 10 同来所者の名刺・身分証明書の写し、②J及びKら又は関係者が入手、作成、 保管又は使用に関与したと疑われる、ID又はパスワードを記載したノー ト・メモ・手帳・電磁的記録媒体、契約書・協定書・覚書・念書・同意書・ 預り証等の契約及び約定書類、③事件関係者がインターネットにアクセスし たログが記録された紙片・電磁的記録媒体、④事件関係者による支払又は送 15 金に関する書類、⑤事件関係者の名簿、関係機関・関係団体ないし関係者と の連絡ないし指示文書、航空券・乗車券・タクシー券等の交通関係切符類及 び 片・電磁的記録媒体、④事件関係者による支払又は送 15 金に関する書類、⑤事件関係者の名簿、関係機関・関係団体ないし関係者と の連絡ないし指示文書、航空券・乗車券・タクシー券等の交通関係切符類及 びその精算に係る請求書・領収書、日記帳・手帳・カレンダー・予定表等行 動記録関係の文書及び物件、手紙・電話番号帳、住所録・会計記録・ノート・ メモ類・写真等の記録関係文書及びその物件、ICレコーダー・録音テープ・ 20 CD・DVD・BD・ハードディスク・USBメモリー等の音声・画像・文 書の記録機器及びその媒体、携帯電話機等の通信機器、パーソナルコンピュ ータ等の機器並びにこれらに関連する文書及び物件との各記載があった。 イ 本件許可状の提示を受けた原告Fらは、検察官らに対し、秘密に当たると 主張して、本件許可状に記載された差押対象物の全てについて刑訴法222 25 条1項において準用する同法105条に基づき押収拒絶権を行使する旨及 5 び押収拒絶権を行使する以上、本件事務所内の捜索も許されないので捜索も 拒絶する旨を申し向けた。 検察官らは、本件許可状で特定された差し押さえるべき物には明らかに押 収拒絶権の対象とならない物が含まれており、適法に捜索を実施し得る旨及 び同捜索に際しては、検察官らは原告Fらに対して捜索対象となる物件ごと 5 に捜索の可否を確認し、また、同人らにおいて押収拒絶権を行使することが できる物を保管している場所を具体的に提示すれば、その場所は捜索しない 旨を説明したが、同人らは、本件事務所内への立入りを拒否し続けた。 検察官らは、同日午前11時25分頃、本件事務所の非常用出入口を開錠 し、内側から本件事務所の正面入口を開錠して、同所から本件事務所内に立 10 ち入り、その頃から同日午後3時05分頃までの間、本件事務所の弁護士及 び事務 1時25分頃、本件事務所の非常用出入口を開錠 し、内側から本件事務所の正面入口を開錠して、同所から本件事務所内に立 10 ち入り、その頃から同日午後3時05分頃までの間、本件事務所の弁護士及 び事務員の執務スペース、事件記録及び書籍の保管スペース並びにJが保釈 中に使用していた会議室(以下「本件会議室」という。)等の捜索を行った。 2 争点 ⑴ 本件各行為をしたことが国家賠償法1条1項の適用上違法であるか(争点1) 15 ⑵ 本件各行為をしたことにつき検察官らに故意又は過失が認められるか(争点 2) ⑶ 原告らの損害額(争点3) 3 争点に関する当事者の主張 ⑴ 争点1(本件各行為をしたことが国家賠償法1条1項の適用上違法であるか) 20 について (原告らの主張) ア 捜査機関が行う捜索が許容されるためには、その実体要件と手続要件の両 方が整っている必要があり、本件においても、検察官らは、本件許可状に明 示されている「差し押さえるべき物」(刑訴法219条1項)を発見するため 25 に捜索を行う「必要がある」(同法218条1項)場合でなければ、本件事務 6 所に侵入し、本件捜索等を実施することはできない。 次の 又は の理由により、検察官らは、本件許可状に明示されている「差 し押さえるべき物」を発見するために捜索を行う必要がないから、本件捜索 等は実体要件を欠き、本件事務所に侵入することを正当化する理由も失われ ることになる。したがって、本件各行為は、原告らの住居等について侵入、 5 捜索を受けることのない権利(憲法35条1項)を侵害し、また、原告らが 保持すべき依頼者の秘密そのものや、依頼者の秘密を取り扱う原告らの信頼 を毀損することにより、その弁護士業務を妨害するものであって、国家賠償 法1条1 項の適用上違法である。 本件捜索等 、原告らが 保持すべき依頼者の秘密そのものや、依頼者の秘密を取り扱う原告らの信頼 を毀損することにより、その弁護士業務を妨害するものであって、国家賠償 法1条1 項の適用上違法である。 本件捜索等に際して、原告Fらは、検察官らに対し、本件許可状に明示 10 されている「差し押さえるべき物」として明示された物について、Jと面 会した者の氏名が記録された面会記録を任意に提示したほか、全て秘密で ある旨を申し立てて押収拒絶の意思表示をした(刑訴法222条1項にお いて準用する同法105条)。 捜索・差押えの対象物が秘密であるかどうかは、押収拒絶権者たる業務 15 者が判断するものであって、捜査機関は、その対象物が押収拒絶権の対象 にならないことが外形上明白な場合に限り、当該対象物の捜索及び差押え をすることができるにすぎない。本件許可状に「差し押さえるべき物」と して明示された物は、いずれも押収拒絶権行使の対象にならないことが外 形上明白ではないから、原告Fらが押収拒絶権を行使したことにより、検 20 察官らは、上記「差し押さえるべき物」を差し押さえることはできなくな り、これらを差し押さえるための捜索をする必要もない。 原告弁護士らが、Jの保釈許可決定に従って、既に裁判所に提出した物 については、刑訴法270条1項の規定により、検察官らにおいて閲覧・ 謄写することができる状態にあったものであるから、本件事務所において、 25 それらを捜索し、差し押さえる必要はない。 7 イ 別紙主張整理表中「押収拒絶権を行使できないと主張する物」欄記載の4 種類の物件は、同表中「原告らの主張」欄記載の理由により、原告弁護士ら による押収拒絶権行使の対象となり、またその捜索が実体的要件を欠くこと となるから、その捜索・差押えをするために検察官らが本件事務所内に立ち 入る 同表中「原告らの主張」欄記載の理由により、原告弁護士ら による押収拒絶権行使の対象となり、またその捜索が実体的要件を欠くこと となるから、その捜索・差押えをするために検察官らが本件事務所内に立ち 入ることは正当化されるものではない。 5 (被告の主張) 本件捜索等については、犯罪の嫌疑が認められ、捜索・差押えの必要があり、 本件事務所には押収すべき物が存在する蓋然性が認められた上に、本件許可状 に基づき、次のとおり弁護士の押収拒絶権を侵害することなく適法に行われた ものといえるから、本件各行為が国家賠償法1条1項の適用上違法と評価され 10 る余地はない。 ア 押収拒絶権は、「業務上委託を受けたため、保管し、又は所持する物で他人 の秘密に関するもの」について、押収を拒む権利を認めたものであるから、 業務上委託を受けたため、保管し、又は所持する物とはいえない物について は、それが他人の秘密に関するものに当たるか否かを論じるまでもなく、押 15 収拒絶の対象にはならない。また、業務上委託を受けたため、保管し、又は 所持する物であっても、秘密性が失われたものについては、「他人の秘密に 関するもの」とはいえないから、押収拒絶の対象にならない。上記の各物は、 原告弁護士らが秘密である旨を申し立てたとしても、押収拒絶権の対象にな ると解する余地はない。 20 本件においては、本件許可状の「差し押さえるべき物」欄記載の各物件に 該当するもののうち、別紙主張整理表中「押収拒絶権を行使できないと主張 する物」欄記載の4種類の物件が本件事務所に存在する蓋然性が高い状況に あったものであり、これらの物件は、同表中「被告の主張」欄記載の理由に より、原告弁護士らにおいて押収拒絶権を行使することができないものであ 25 るから、それらの捜索・差押えをするために検察官らが本件事務 ものであり、これらの物件は、同表中「被告の主張」欄記載の理由に より、原告弁護士らにおいて押収拒絶権を行使することができないものであ 25 るから、それらの捜索・差押えをするために検察官らが本件事務所内に立ち 8 入ったものである。 なお、本件捜索等に当たり、検察官らは、原告Fらに対し、引き出しや棚 を開披するよう求め、同人らから内容物がどのようなものであるか説明を受 けるなどし、個々の物につき押収拒絶権行使の意向が示された物については その内容を確認しないこととして、押収拒絶権の対象となる物の秘密を誤っ 5 て侵害しないよう留意しながら捜索を実施した。 イ 原告Fらが検察官らに対して任意に提示した面会記録の原本が、真実、本 件事務所に保管されていた面会記録であるのか、そうだとしても本件事務所 に保管されていた面会記録の全てであるのかは必ずしも明確ではないから、 上記任意提示により、Jが面会した者の氏名が記録された面会記録を捜索す 10 る必要がなくなるものということはできない。 また、原告弁護士らが裁判所に提出した、Jが面会した者の氏名が記録さ れた面会記録及び同人が使用していたパーソナルコンピュータの使用履歴 を示すログの記録が、本件事務所に保管されていたそれらの全てであるかど うかは分からないから、上記裁判所への提出により、上記面会記録及び上記 15 ログの記録の捜索の必要がなくなるものということもできない。 ⑵ 争点2(本件各行為をしたことにつき検察官らに故意又は過失が認められる か)について (原告らの主張) 検察官らは、原告Fらが押収拒絶権を行使したことにより、本件捜索等が許 20 されず、違法行為であることを認識しながら、故意に本件捜索等に及んだもの である。仮に、検察官らに故意が認められないとしても、押収拒絶権の趣旨や 捜索の意義 を行使したことにより、本件捜索等が許 20 されず、違法行為であることを認識しながら、故意に本件捜索等に及んだもの である。仮に、検察官らに故意が認められないとしても、押収拒絶権の趣旨や 捜索の意義や必要性を検討すれば、本件捜索等が違法であることを認識し得た ものであるから、違法な本件捜索等に及んだことにつき過失があったものであ る。 25 (被告の主張) 9 争う。 ⑶ 争点3(原告らの損害額)について (原告らの主張) ア 原告弁護士らに生じた損害 原告弁護士らは、違法な本件各行為により甚大な精神的苦痛を受けたもの 5 であって、これに対する慰謝料は、原告弁護士ら各自につきそれぞれ30万 円を下らない。また、原告弁護士らが被った弁護士費用相当額の損害は、原 告弁護士ら各自につきそれぞれ3万円を下らない。 イ 原告法人に生じた損害 本件各行為は、原告弁護士のみならず、依頼者や一般国民の原告法人に対 10 する信頼を損なうものであり、また、原告法人としての業務も妨害するもの であった。こうした本件各行為によって原告法人が被った無形の損害を金銭 に換算すると、30万円を下らない。また、原告法人が被った弁護士費用相 当額の損害は、3万円を下らない。 (被告の主張) 15 争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実(前記前提事実のほか、掲記の各証拠等によれば、次の事実が認めら れる。) ⑴ JとKとの接触状況(乙1) 20 ア JとKは、次の各時間に、本件事務所において、面会した。 令和元年7月10日の午前10時から午後0時30分まで 同月11日の午前11時から午前11時50分まで 同年8月22日の午後2時40分から午後5時まで 同月23日の午後3時50分から午後4時35分まで 25 イ また、同人らは、次の各時間に、都内 同月11日の午前11時から午前11時50分まで 同年8月22日の午後2時40分から午後5時まで 同月23日の午後3時50分から午後4時35分まで 25 イ また、同人らは、次の各時間に、都内のレストラン又はホテルにおいて、 10 面会した。 令和元年7月8日の午後9時10分から午後11時15分まで 同月10日の昼食時 同年8月21日の午後8時30分から午後10時まで ⑵ 本件各行為の態様 5 ア 検察官らの本件事務所への立入りまでの経緯 検察官らは、令和2年1月29日、東京地方裁判所裁判官から本件許可状 の発付を受け、同日午前10時10分頃、本件事務所を訪れ、その出入口に おいて、原告Fらに対し、本件許可状を提示した。これを受けて、原告Fら は、検察官らに対し、押収拒絶権を行使し、本件事務所内の捜索についても 10 拒絶する旨を申し向けた。原告弁護士らが本件事務所への立入りを拒絶する 態度を変えなかったことから、検察官らは、同日午前11時25分頃、本件 事務所が入居するビルにおいて保守点検作業に従事していた作業員に対し、 「捜索すべき場所」を本件事務所とする本件許可状が発付されている旨を申 し向けて、同人から本件事務所の非常出入口用スペアキーを借用し、同鍵を 15 使用して同所を開錠し、本件事務所内に立ち入った。(前提事実、乙5、弁論 の全趣旨) イ 本件捜索等の態様 検察官らは、令和2年1月29日午前11時55分頃、本件捜索等に着 手し、本件事務所内の弁護士執務スペース、訴訟資料の保管スペース及び 20 事務員の執務スペースにおいて、順次、原告Fらに引き出しや棚を開扉す るよう求め、その都度、原告Fらが、上記引き出し及び棚の内容物につき 説明するなどして、本件捜索等の手続が進められた(乙5、弁論の全趣旨)。 検察官らは、事務員 順次、原告Fらに引き出しや棚を開扉す るよう求め、その都度、原告Fらが、上記引き出し及び棚の内容物につき 説明するなどして、本件捜索等の手続が進められた(乙5、弁論の全趣旨)。 検察官らは、事務員の執務スペースにおいて、同所のキャビネットのう ちの一つが施錠されていたことから、原告Fらに対し、開錠するよう求め 25 たが、同人らがこれに応じなかったため、検察官らは、同行していた業者 11 に依頼して同キャビネットを開錠させた。その後、検察官らは、同キャビ ネットの内容物につき、原告Fらに対し、どのような物であるのか説明を 求めるなどして、手続を進めた。(争いのない事実) 続いて、検察官らは、Jが他者との面会等に使用していた本件会議室の 扉を開錠するよう原告Fらに対して求めたところ、同人らは、同室内には 5 押収拒絶権の対象物しかない旨を申し立てたことから、検察官らは、同行 していた業者に依頼して、本件会議室の扉の錠を破壊、開錠させた。 検察官らは、本件会議室に入室した後、本件会議室内に設置されていた パーソナルコンピュータ2台について、原告Fらが、Jが原告法人又は原 告弁護士らから貸与を受け、使用していたものであって、いずれも押収拒 10 絶権を行使する旨を申し立てたことから、検察官らはその差押えを断念し た。また、検察官らは、本件会議室内のキャビネットを捜索したい旨を申 し向けたところ、原告Fらが、同キャビネット内の物は全て押収拒絶権の 対象であるから同キャビネット内を見ることそれ自体許されないと述べ たが、検察官らは、同キャビネットの捜索を拒絶することはできない旨を 15 申し向け、これを開披して内部を確認したほか、同キャビネットのうち施 錠されていた部分については、同行していた業者に依頼してその錠を破壊、 開錠させた上で、原告Fらにその内容物に はできない旨を 15 申し向け、これを開披して内部を確認したほか、同キャビネットのうち施 錠されていた部分については、同行していた業者に依頼してその錠を破壊、 開錠させた上で、原告Fらにその内容物につき説明を求めたところ、原告 Fらはいずれの内容物についても押収拒絶権を行使したため、検察官らは その内容物をあらためなかった。 20 (争いのない事実) 2 争点1(本件各行為をしたことが国家賠償法1条1項の適用上違法であるか) について ⑴ 原告らは、押収拒絶権の行使又は本件許可状記載の「差し押さえるべき物」 の一部の裁判所への提出若しくは検察官らへの任意の提示により、捜索の必要 25 性はなくなったのであるから、検察官らが、本件事務所に侵入し、本件捜索等 12 を実施することは許されないにもかかわらず、検察官らは、本件各行為を行い、 原告らの住居等について侵入、捜索を受けることのない権利を侵害し、その弁 護士業務を妨害したものであって、この行為は国家賠償法1条1 項の適用上違 法である旨を主張する。 ⑵ 弁護士は、業務上委託を受けたため、保管し、又は所持する物で他人の秘密 5 に関するものについては、捜査機関による押収を拒むことができ(刑訴法22 2条1項において準用する同法105条)、弁護士がこの押収拒絶権を適法に 行使したときは、同行使の対象となった捜索差押許可状記載の「差し押さえる べき物」を捜索することも許されなくなるものと解される。そして、その結果、 捜索差押許可状に記載された全ての「差し押さえるべき物」につき捜索が許さ 10 れなくなる場合には、もはや、同許可状記載の「捜索すべき場所」に立ち入る 必要性も許容性もなくなるものということができる。 また、上記押収拒絶権の趣旨が、弁護士を始めとした、個人の秘密を取扱う ことの多い一定の業務者 は、もはや、同許可状記載の「捜索すべき場所」に立ち入る 必要性も許容性もなくなるものということができる。 また、上記押収拒絶権の趣旨が、弁護士を始めとした、個人の秘密を取扱う ことの多い一定の業務者につき、個人の秘密に関する物の押収を拒む権利を認 めることによって、当該業務に対する信頼を保護しようとする点にあることか 15 らすると、ここでいう他人の「秘密」とは、その性質上客観的に秘密であるも の(非公知性及び秘匿利益が認められるもの)にとどまらず、委託者と弁護士 との間の委託の趣旨において秘密とされたものも含まれ、押収拒絶権を行使で きる「秘密」に当たるかどうかの判断は、第一次的には委託者から委託を受け た弁護士に委ねられるものと解される。そして、その帰結として、弁護士が捜 20 索・差押えの対象物につき他人の秘密に関するものであるとして押収拒絶権を 行使したときは、それが上記の意味における秘密に当たらないことが外形上明 白な場合でなければ、捜査機関においてもその秘密性を否定することはできな いものと解される。 ⑶ この点に関し、被告は、別紙主張整理表中「押収拒絶権を行使できないと主 25 張する物」欄記載の4種類の物については、同表中「被告の主張」欄記載の理 13 由により、原告弁護士らにおいて押収拒絶権を行使することができないもので あるから、それらの捜索・差押えをするために本件事務所内に立ち入ることは 適法である旨を主張する。そこで、以下、上記4種類の物について、順に検討 する。 ア Jと面会した者の氏名が記載された面会記録及び本件PCの使用履歴を 5 示すログの記録について 被告は、Jと面会した者の氏名が記載された面会記録は、本件許可状の 「差し押さえるべき物」の記載中、Jとの面談のために来所した事務所来 所者の名簿・一覧表に該当し、また、 示すログの記録について 被告は、Jと面会した者の氏名が記載された面会記録は、本件許可状の 「差し押さえるべき物」の記載中、Jとの面談のために来所した事務所来 所者の名簿・一覧表に該当し、また、本件PCの使用履歴を示すログの記 録は、本件許可状の「差し押さえるべき物」の記載中、事件関係者がイン 10 ターネットにアクセスしたログが記録された紙片・電磁的記録媒体に該当 するところ、本件捜索等の当時、これらはいずれもその写しが既に裁判所 に提出されており、裁判所のみならず、反対当事者であり押収拒絶権行使 の相手方でもある検察官もこれらを閲覧・謄写することができる状態にあ った(刑訴法270条1項)ことからすれば、上記各記録の写しが裁判所 15 に提出された段階で、押収拒絶権が保護する秘密保持の利益は喪失してお り、秘密性は失われていた旨を主張する。 前記事実関係によれば、Jは、保釈条件として、弁護人を介して、面会 した相手の氏名及び面会の日時・場所を記録した面会記録及び本件PCの インターネットのログ記録を裁判所に提出しなければならないものとさ 20 れていたことが認められるところ、上記保釈条件の定めに基づいて原告弁 護士らが裁判所に提出した同面会記録及びログ記録は、既に検察官におい ても閲覧・謄写が可能な状態にあったものである。そうすると、少なくと も、原告弁護士らが裁判所に提出した同面会記録及びログ記録の原本又は それらと同一内容の各記録の写しは、裁判所や検察官らにおいて、その内 25 容を把握することが可能な状態にあったものということができ、その秘密 14 性が失われていることが外形上明白であったものというべきである。 もっとも、秘密に当たらないことが外形上明白であるために押収拒絶権 を行使することができない場合であっても、当該証拠物等の捜索が 性が失われていることが外形上明白であったものというべきである。 もっとも、秘密に当たらないことが外形上明白であるために押収拒絶権 を行使することができない場合であっても、当該証拠物等の捜索が捜査機 関の職務の目的を遂行するうえで不必要であるときは、当該捜索は刑訴法 218条1項に違反して許されないものというべきところ、原告弁護士ら 5 が裁判所に提出した上記面会記録及びログ記録の原本又はそれらと同一 内容の各記録の写しは、本件捜索等が実施された令和2年1月29日当時 には既に捜索によらずとも、裁判所における記録の閲覧・謄写によって、 検察官らにおいて、その内容を把握し又は当該内容が記録された媒体を取 得することができたものであって、上記各記録を差し押さえるために本件 10 捜索等を実施することが必要であったということはできない。 したがって、検察官らは、上記面会記録及びログ記録の差押えの必要が あることを根拠として本件事務所に立ち入り、同所を捜索することが許容 されるものではないというべきである。 また、仮に、原告弁護士らが裁判所に対して提出したもの以外にJの面 15 会記録やその証憑となる書類、又は同人のパーソナルコンピュータの使用 履歴を示すログの記録が本件事務所に保管されているとすれば、これらの 面会記録等及びログ記録は、Jが、保釈条件を履行するために、裁判所に 提出することを目的として、原告らに託したものということができるから、 弁護士が業務上委託を受けたため、保管し、又は所持する物ということが 20 できる。そして、これらの記録の内容は、委託者であるJと原告らとの間 の委託の趣旨において秘密とされたものでないことが外形上明白である とはいえない。 したがって、原告Fらの押収拒絶権の行使により、その捜索が許されな くなったものというべきであ であるJと原告らとの間 の委託の趣旨において秘密とされたものでないことが外形上明白である とはいえない。 したがって、原告Fらの押収拒絶権の行使により、その捜索が許されな くなったものというべきであって、当該面会記録等又はログ記録の存在を 25 理由に本件捜索等に及ぶことは許されない。 15 以上によれば、Jと面会した者の氏名が記載された面会記録又は本件P Cの使用履歴を示すログの記録の捜索・差押えを理由として、本件捜索等 を正当化することはできないものというべきである。 イ 本件事務所への来所者を管理するために作成され、保管されている来所者 名簿、来所者の名刺、来所者の身分証明書の写し等 5 被告は、法律事務所は、保安上の観点、あるいは事務処理上の観点から、 通常、来所者名簿や来所事実をまとめた一覧表を作成・保管したり、来所 者の名刺や身分証明書の写し等を保管したりするところ、これらは、弁護 士が業務上委託を受けたこととは無関係に作成・保管されるものであって、 「業務上委託を受けたため、保管し、又は所持する物」とはいえないから、 10 押収拒絶権の対象とはならない旨を主張する。 しかし、前記事実関係によれば、本件許可状には、「差し押さえるべき 物」として、Jとの面談のために来所した事務所来所者の名簿・一覧表、 同来所者の名刺・身分証明書の写しとの記載があるものの、それ以外の本 件事務所への来所者一般に係る名簿やその名刺・身分証明書の写し等につ 15 いては「差し押さえるべき物」として記載されておらず、これらを差押え の対象とすることは許されていない。 そうすると、検察官らが捜索・差押えの対象とすることができるのは、 Jとの面談のために本件事務所に来所した者の名簿・一覧表、同来所者の 名刺・身分証明書の写しに限られるのであって、これらは結局、 い。 そうすると、検察官らが捜索・差押えの対象とすることができるのは、 Jとの面談のために本件事務所に来所した者の名簿・一覧表、同来所者の 名刺・身分証明書の写しに限られるのであって、これらは結局、前記アで 20 検討したJと面会した者の氏名が記載された面会記録又はその証憑とな る書類にほかならない。したがって、これらは、前記アで説示したとおり、 原告弁護士らが裁判所に提出した面会記録の原本又はそれと同一内容の 記録の写しであるために捜索の必要がないものか、原告Fらの押収拒絶権 の行使によりその捜索が許されなくなったもののいずれかであることに 25 なるから、これらの捜索・差押えを理由として、本件捜索等を正当化する 16 ことはできないものというべきである。 ウ Kら入管法違反(不法出国幇助)事件及び犯人隠避事件の関係者らが残置 した物 被告は、本件事務所を訪れた者が残置した物は、原告らが本件事務所の 管理者たる地位に基づき所持・保管するに至った物にすぎず、「業務上委 5 託を受けたため、保管し、又は所持する物」とはいえないから押収拒絶権 の対象にはならない旨を主張する。 前記⑵で説示したとおり、押収拒絶権の趣旨が、個人の秘密を取扱うこ との多い弁護士等の業務に対する信頼を保護しようとする点にあること、 刑訴法105条(同法222条1項において準用する場合を含む。)が、但 10 し書において、被疑者ないし被告人が委託者本人でない場合でも原則とし て押収拒絶権が及ぶことを前提とした規定ぶりとなっていることからす ると、同条に基づき弁護士が押収拒絶権を行使することができる客体は、 刑事事件の被疑者ないし被告人とその弁護人である弁護士との間の委託 関係に基づいて保管又は所持する物に限られないものと解される。 15 一般に、法律事務所に来訪した者が、同 することができる客体は、 刑事事件の被疑者ないし被告人とその弁護人である弁護士との間の委託 関係に基づいて保管又は所持する物に限られないものと解される。 15 一般に、法律事務所に来訪した者が、同事務所に私物を残置した場合、 当該来訪者は、少なくとも一定期間は同事務所において残置物を保管する との合理的期待を抱くことが通常であり、また、法律事務所としても事務 管理(民法697条)として一定期間は残置物を保管することが通常であ ると解される。そうすると、上記のような場合には、法律事務所に私物を 20 残置したことを原因として、来訪者と法律事務所又は同事務所の所属弁護 士との間で委託関係に類似した関係が生じるものと解することができ、前 述した押収拒絶権の趣旨からしても、弁護士がこのような関係に基づいて、 保管し、又は所持する物にも、押収拒絶権の保障が及ぶものと解するのが 相当である。 25 したがって、本件においても、仮にKらその他の事件関係者らが本件事 17 務所に私物を残置していたような場合には、そのことを契機として同人ら と原告らとの間に上記のとおりの委託関係に類似した関係が生じ、当該残 置物は、原告らが、業務上委託を受けたため、保管し、又は所持する物に 当たるということができる。 そして、上記Kらその他の事件関係者らが残置した物に係る情報は、こ 5 れらの委託者と原告らとの間の委託の趣旨において秘密とされたもので ないことが外形上明白であるとはいえない。 以上によれば、原告Fらの押収拒絶権の行使により、これらの残置物の 捜索が許されなくなったものというべきであるから、これらの残置物の捜 索・差押えを理由として、本件捜索等を正当化することはできないものと 10 いうべきである。 エ したがって、別紙主張整理表中「押収拒絶権を行使できないと主張 いうべきであるから、これらの残置物の捜 索・差押えを理由として、本件捜索等を正当化することはできないものと 10 いうべきである。 エ したがって、別紙主張整理表中「押収拒絶権を行使できないと主張する物」 欄記載の物の捜索・差押えをするために本件事務所内に立ち入ることは適法 であるとする被告の主張は採用することができず、本件各行為は、刑訴法2 18条1項の規定又は同法222条1項において準用する同法105条の 15 押収拒絶権の趣旨に違反したものといわざるを得ない。 ⑷ しかしながら、国家賠償法1条1項にいう違法とは、国又は公共団体の公権 力の行使に当たる公務員が個々の国民に対して負担する職務上の法的義務に 違反することをいうのであり(最高裁平成27年12月16日大法廷判決・民 集69巻8号2427頁等参照)、捜査機関がその職務を遂行するに当たり、 20 法令の解釈を誤ったとしても、そのことから直ちに同項にいう違法があったと の評価を受けるものではなく、法令の調査において職務上通常尽くすべき注意 義務を怠った場合に限り、同項の適用上違法の評価を受けるものと解するのが 相当である。 このような見地から本件をみると、前記説示のとおり、法律事務所への来訪 25 者が同事務所に残置した物については、同事務所又は同事務所の所属弁護士が、 18 当該来訪者との間の委託関係に類似した関係に基づいて、保管し、又は所持す る物として、刑訴法105条(同法222条1項において準用する場合を含む。) の押収拒絶権の保障が及ぶものと解するのが相当であるが、そのことが同条の 文理上明白であるとまではいうことができない上、本件捜索等が行われた令和 2年1月29日当時、上記の法令解釈が相当であることを明確に指摘した文献 5 や裁判例が存したものと認めることもできない。 このような 白であるとまではいうことができない上、本件捜索等が行われた令和 2年1月29日当時、上記の法令解釈が相当であることを明確に指摘した文献 5 や裁判例が存したものと認めることもできない。 このような状況の下では、検察官らが本件各行為を行うに当たり、別紙主張 整理表中「押収拒絶権を行使できないと主張する物」欄記載のKら入管法違反 (不法出国幇助)事件及び犯人隠避事件の関係者らが残置した物については、 原告らが「業務上委託を受けた」物ではないため、押収拒絶権行使の対象にな 10 らないと解釈したことが、法令の調査において職務上通常尽くすべき注意義務 を怠ったものということはできず、このような解釈を前提とすれば、これらの 残置物の捜索・差押えを目的として本件各行為を行ったことが法令に違反する とは認められないから、検察官らが行った本件各行為を国家賠償法1条1項の 適用上違法と評価することはできないものというべきである。 15 ⑸ なお、原告らは、本件捜索等の態様についても言及するものであることから、 本件事務所への立入りが法令違反ではなかったと仮定してこの点についても 検討するに、前記事実関係によれば、本件捜索等に際しては、検察官らにおい て、物件一つ一つにつき個別にその内容や性状を原告Fらに確認し、同人らに 個別に押収拒絶権を行使させているものと認められるから、原告らの秘密を侵 20 害することがないように本件捜索等を実施していたものということができ、現 に原告らの秘密が侵害されたものとは認められず、法令に違反した捜索が行わ れたものとは認められない(なお、検察官らは、施錠されていた本件会議室の 扉を開錠し、同室内を捜索したものであるが、同室内にはKらの残置物が存在 する可能性がないものとはいえないことからすれば、同室の扉を開錠して同室 25 内に立ち入ることが法令 錠されていた本件会議室の 扉を開錠し、同室内を捜索したものであるが、同室内にはKらの残置物が存在 する可能性がないものとはいえないことからすれば、同室の扉を開錠して同室 25 内に立ち入ることが法令に違反するとは認められない。また、検察官らは、本 19 件会議室及び事務員の執務スペースに設置されているキャビネットを開錠し て捜索を実施したものであるが、いずれもその外見からは内容物を判断するこ とはできないし、開錠後は、上記方法により捜索を実施したものと認められる から、これらのことが法令に違反するとは認められない。)。 第4 結論 5 以上によれば、その余の争点を判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも 理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第25部 10 裁判長裁判官 古 田 孝 夫 裁判官 宮 崎 雅 子 15 裁判官 髙見澤 昌 史 20 (別紙) 押収拒絶権を行使できないと主張する物 原告らの主張 令状の「差し押さえるべき物」の記載 押収拒絶権を行使できない理由 1 Jと面会した者の氏名が記載された面会記録 Jとの面談のために来所した事務所来所者の 名簿・一覧表 2 本件PCの使用履歴を示すログの記録 事件関係者がインターネットにアクセスした ログが記録された紙片・電磁的記録媒体 3 本件事務所への来所者を管理するために作成 され、保管されている来所者名簿、来所者の 名刺、来所者の身分証明書の写し等 Jとの面談のために来所した事務所来所者の 名簿・一覧表、同来所者の名刺・身分証明書の 写し 法律事務所は、その性質上、依頼者に限らず、様々な立場・属性の者が多数来所すること が想定される場所であることから、保 のために来所した事務所来所者の 名簿・一覧表、同来所者の名刺・身分証明書の 写し 法律事務所は、その性質上、依頼者に限らず、様々な立場・属性の者が多数来所すること が想定される場所であることから、保安上の観点、あるいは事務処理上の観点から、来所者 名簿や来所事実(用件、来所時刻、来所人数等)をまとめた一覧表を作成・保管したり、来 所者の名刺や身分証明書の写し等を保管したりするなどして、来所者の情報や来所そのもの に係る情報を把握し、管理することが通常であると考えられるところ、これらは、弁護士が 業務上委託を受けたこととは無関係に作成・保管されるものであって、「業務上委託を受け たため、保管し、又は所持する物」とはいえず、押収拒絶権の対象とはならない。 法律事務所に来所するのは、基本的に依頼者やその関係者であって、様々な立場・属性の 者が来所することが予定されているわけではなく、法律事務所が一般的に来所者名簿等を作 成しているといった事実はないし、現に原告らもそのような名簿等は作成していない。 仮にそのような名簿があるとしても、その内容は、依頼者及びその関係者の名簿、あるい は、依頼者らの名刺や身分証明書等であるから、「業務上委託を受けたため、保管し又は所 持する物」かつ「他人の秘密」に関する物に当たる。 4 Kら入管法違反(不法出国幇助)事件及び犯 人隠避事件の関係者らが残置した物 J及びKら又は関係者が入手、作成、保管又 は使用に関与したと疑われる、ID又はパス ワードを記載したノート・メモ・手帳・電磁的 記録媒体 事件関係者による支払又は送金に関する書類 事件関係者の名簿、関係機関・関係団体ない し関係者との連絡ないし指示文書、航空券・乗 車券・タクシー券等の交通関係切符類及びその 精算に係る請求書・領収書、日記帳・手帳・カ レンダー・予定表等行動記録関係の 係者の名簿、関係機関・関係団体ない し関係者との連絡ないし指示文書、航空券・乗 車券・タクシー券等の交通関係切符類及びその 精算に係る請求書・領収書、日記帳・手帳・カ レンダー・予定表等行動記録関係の文書及び物 件、手紙・電話番号帳、住所録・会計記録・ ノート・メモ類・写真等の記録関係文書及びそ の物件、ICレコーダー・録音テープ・CD・ DVD・BD・ハードディスク・USBメモ リー等の音声・画像・文書の記録機器及びその 媒体、携帯電話機等の通信機器、パーソナルコ ンピュータ等の機器並びにこれらに関連する文 書及び物件 本件事務所を訪れた者が残置した物は、原告らが本件事務所の管理者たる地位に基づき所 持・保管するに至った物にすぎず、「業務上委託を受けたため、保管し、又は所持する物」 とはいえないから押収拒絶権の対象にはならない。 被告が主張する「残置した物」とは、Jと面談した同人の関係者が残置した、面談内容を 記載・記録したメモ等である。原告弁護士らは、Jから委託を受けた刑事弁護に係る事務処 理の過程で、同人の保釈許可決定に付された指定条件を踏まえ、同人が本件事務所内の会議 室を来訪者との面談の用に供することを認めていたものであり、同人は、こうした原告弁護 士らとの委任関係の中で、同会議室を使用して来訪者との面談をしていた。Jと原告弁護士 らとの間に上記のような関係がある中で、面談の相手方が上記のようなメモ等を本件事務所 内に残していった場合、同人は、当然に、原告弁護士らに対し、依頼者の秘密を保持すべき 立場にある弁護人として、その依頼の本旨に従って、適切に当該メモ等を保管するよう期待 したはずである。そうすると、被告が主張するようなメモが存在するとしても、それらは 「業務上委託を受けたため、保管し、又は所持する物」に当たるものというべきであり、そ の他に、残置物が押 管するよう期待 したはずである。そうすると、被告が主張するようなメモが存在するとしても、それらは 「業務上委託を受けたため、保管し、又は所持する物」に当たるものというべきであり、そ の他に、残置物が押収拒絶権の対象でないことが外形上明白といえるような事情はない。 主張整理表 本件捜索等の当時、Jと面会した者の氏名が記載された面会記録及び本件PCの使用履歴 を示すログの記録の各写しが既に裁判所に提出されており、裁判所のみならず、反対当事者 であり押収拒絶権行使の相手方でもある検察官もこれらを閲覧・謄写することができる状態 にあった(刑訴法270条1項)ことからすれば、上記各記録の写しが裁判所に提出された 段階で、押収拒絶権が保護する秘密保持の利益は喪失しており、上記各記録の写しはいずれ も秘密性を失っていた。 被告の主張 原告弁護士らが、Jの保釈許可決定に従って、既に裁判所に提出した物については、刑訴 法270条1項の規定により、検察官らにおいて閲覧・謄写することができる状態にあった ものであるから、本件事務所において、それらを捜索し、差し押さえる必要はない。原告弁 護士らは、Jの保釈許可決定に従って、同氏が面会した者の氏名が記録された面会記録の写 し及び本件PCの使用履歴を示すログの写しを、裁判所に提出していたものであり、また捜 索当日にも原告らは検察官らに対し面会記録の原本を提示していたものであるから、それら を発見するための捜索には必要性がなく、当該捜索は実体的要件を欠くものであるから許容 されない。 なお、仮に、原告らが提示し若しくは裁判所に提出した面会記録以外の面会記録又は裁判 所に提出したログ以外のログが本件事務所内に存在していたとしても、それは対外的に全く 明らかにされていないものであるから、秘密性を有しているものというべきである。 20 面会記録又は裁判 所に提出したログ以外のログが本件事務所内に存在していたとしても、それは対外的に全く 明らかにされていないものであるから、秘密性を有しているものというべきである。 20
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