令和5年7月26日判決言渡令和5年(行コ)第15号所得税更正処分取消請求控訴事件(原審・大阪地方裁判所令和3年(行ウ)第48号)主 文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人Aの負担とする。 事実 及び理由第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 α税務署長が令和2年2月28日付けで控訴人Aに対してした▲年分の所得税及び復興特別取得税の更正処分を取り消す。 第2 事案の概要(略称は原判決の例による。)1⑴ 控訴人Aは、▲年11月から▲年12月まで第〇期司法修習生であった期間のうち、▲年中に最高裁判所から支給を受けた基本給付金合計155万7000円(本件給付金)を雑所得の総収入金額に算入し、本件交通費を必要経費に算入して、同年分の所得税及び復興特別所得税(所得税等)の確定申告をした。その後、控訴人Aは、本件給付金は所得税法9条1項15号の「学資に充てるため給付される金品」に該当し非課税所得であるなどとして更正の請求をしたが、α税務署長は、控訴人Aに対し、更正をすべき理由がない旨の通知処分をし、さらに、必要経費の算入を認めず、控訴人Aが最高裁判所から無利息で貸与を受けた修習専念資金に係る▲年中の利息相当額合計1万1286円(本件利息相当額)を経済的利益として雑所得の総収入金額に算入すべきであるなどとして、令和2年2月28日付けで増額更正処分(本件更正処分)をした。 本件は、控訴人Aが、被控訴人国を相手に、本件更正処分の全部の取消しを求める事案である。 ⑵ 原審は、控訴人Aの請求を棄却し、控訴人Aが控訴した。 2 関係法令の定め、前提事実(当事者間に争いがないか、証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)、税額等の計算に関する当事者の主 ⑵ 原審は、控訴人Aの請求を棄却し、控訴人Aが控訴した。 2 関係法令の定め、前提事実(当事者間に争いがないか、証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)、税額等の計算に関する当事者の主張、争点及び争点に関する当事者の主張は、原判決11頁13行目の「過程」を「課程」と改めるほかは、原判決「事実及び理由」第2の1~5のとおりであるから、これを引用する。 3 当審における控訴人Aの主張争点1について以下の事情からすれば、本件給付金は所得税法上の学資金に該当する。 ア 「学資」は、「学費」と現実の使用場面が異なる。法令用語としての学資金は、生活費にも使用されることが明らかな給与に含まれる場合すらあるといえる。 したがって、基本給付金が学資に含まれると解したとしても、学資金という文言の通常の意味内容から乖離するとまではいえない。 イ就学援助制度に基づく就学援助費の場合、給付対象者が教育・指導を受ける対価の負担を負うことはおよそあり得ない点でその支援の対象に入学金や授業料は一切含まれていないにもかかわらず、文部科学省は特段の理由もなく就学援助費は学資金であると判断している。 したがって、基本給付金の支給対象となる司法修習生について学費負担がないことは、基本給付金の学資該当性を否定する事情とはならない。 ウ基本給付金と給付型奨学金は、給付の目的及び趣旨が類似している。 ⑵ 争点2について以下の事情からすれば、本件利息相当額は所得税法上の学資金に該当する。 ア本件利息相当額が雑所得となった場合、平成16年の裁判所法改正により創設された修習資金に係る政策的配慮(兼業等により収入を得ることを禁止していることに対する代償措置を講ずべき必要性、司法修習生が貸与 を受けやすくして修習専念義務の担保をより により創設された修習資金に係る政策的配慮(兼業等により収入を得ることを禁止していることに対する代償措置を講ずべき必要性、司法修習生が貸与 を受けやすくして修習専念義務の担保をより十全なものとする必要性、法曹に優秀な人材を確保する政策的な必要性)を著しく害することになる。 イ修習専念資金の貸与制度は、自衛隊法による学資金貸与制度、矯正医官修学資金貸与制度、日本学生支援機構による学資金貸与制度と類似の制度であるから、それら類似の制度における利息相当額が学資金として非課税となっていることとのバランスを考慮すべきである。 ウ本件利息相当額は1万1286円だけであるから担税力はない。 争点3について国税庁の公式見解によれば、業務に係る雑所得及びその他雑所得のいずれについても必要経費が存在するものとされており、必要経費の存在を観念し得ない雑所得は存在しないから、本件費用を雑所得の金額の計算上必要経費に算入できる。 争点4について農業次世代人材投資資金(準備型)は、基本給付金と同様に「その他の雑所得」に該当するといえる。そして、農業次世代人材投資資金(準備型)については研修に要した費用が必要経費とされる。 また、所得税基本通達35-1からすれば、「その他雑所得」について「所得を生ずべき業務」という概念など存在しない。 よって、本件費用を必要経費と認めないことは憲法14条1項に違反する。 当審における追加主張控訴人Aは、選択型実務修習開始に伴う引越しにより雑所得に係る必要経費として移転給付金相当額である10万8000円以上の金員を▲年10月上旬に支出した。 しかし、控訴人Aは、この部分に関する移転給付金の支給申請を忘れたため、雑所得に係る収入金額となる移転給付金10万8000円を受領していない。すなわち 0円以上の金員を▲年10月上旬に支出した。 しかし、控訴人Aは、この部分に関する移転給付金の支給申請を忘れたため、雑所得に係る収入金額となる移転給付金10万8000円を受領していない。すなわち、費用弁償として支払われる点で経費となることが明らかな1 0万8000円に対応する収入を得ていない。そのため、業務に係る雑所得は10万8000円のマイナスとなっている。 仮に、基本給付金が学資金ではなく、必要経費すら存在しない「その他雑所得」に該当するとしても、「業務に係る雑所得」が10万8000円のマイナスである以上、控訴人Aについて課税される所得金額は118万8000円から10万8000円を控除した108万円であるといえる。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は、原判決と同様に、控訴人Aの請求には理由がないと判断する。その理由は、次のとおり補正し、後記2で「当審における控訴人Aの主張に対する判断」を付加するほかは、原判決「事実及び理由」第3の1~6のとおりであるから、これを引用する。 原判決24頁18行目の「752頁」を「759頁」と改める。 ⑵ 原判決26頁8行目の末尾の次に「(甲5)」を加える。 原判決28頁12行目の「修習に伴う」の前に「移転給付金は、」を加える。 原判決30頁2行目の「「給付型奨学金を」の前に「文部科学省の見解を示した」を加える。 原判決31頁15行目の「そして、」から17行目の末尾までを削除し、同頁22行目の「学資」の前に「上記アのとおりの」を加える。 ⑹ 原判決33頁10行目の「司法修習中の」の前に「修習専念義務を負い生活費を稼ぐことのできない司法修習生の」を、同頁13行目の「経済的な」の前に「個人の」を、同頁15行目の「司法修習中の」の前に「修習専念義務を負い生活費を稼ぐことの の」の前に「修習専念義務を負い生活費を稼ぐことのできない司法修習生の」を、同頁13行目の「経済的な」の前に「個人の」を、同頁15行目の「司法修習中の」の前に「修習専念義務を負い生活費を稼ぐことのできない司法修習生の」を各加える。 ⑺ 原判決34頁23行目の「経済的な」の前に「個人の」を加える。 ⑻ 原判決36頁9行目、37頁3行目の各「就学」をいずれも「修学」と改める。 ⑼ 原判決38頁25行目の「学資給付金」を「学資支給金」と改める。 ⑽ 原判決41頁3行目の「修習専念義務」を「修習専念資金」と改める。 2 当審における控訴人Aの主張に対する判断(以下では、前記1で補正の上引用した原判決「事実及び理由」第3の1の認定事実を引用する場合は、単に「認定事実」という。)争点1についてア控訴人Aは、前記第2の3のとおり主張する。 イしかし、所得税法9条1項15号の非課税の趣旨は学術奨励にあるところ、基本給付金は、「司法修習生がその修習期間中の生活を維持するために必要な費用」に充てるために支給される費用であり、使途についても限定されていない。加えて、司法修習生は、司法修習(職業訓練課程・臨床教育課程)における教育・指導を受ける対価を負担しない。 したがって、基本給付金を所得税法9条1項15号の「学資に充てるための金品」に当たるとすることは、上記規定の趣旨にそぐわないとともに、「学費」を含まない生活費に充てる場合も「学資に充てる」に含まれると解することになり、通常の「学資」の意味内容として理解し難い。 このように、所得税法の趣旨、基本給付金の文言及び趣旨目的等からすれば、基本給付金は、所得税法9条1項15号の学資金に該当しないというべきである。 学校教育法に基づく就学援助は、援助の内容として、学校 うに、所得税法の趣旨、基本給付金の文言及び趣旨目的等からすれば、基本給付金は、所得税法9条1項15号の学資金に該当しないというべきである。 学校教育法に基づく就学援助は、援助の内容として、学校教材費、特別活動費等の学校徴収金相当額、修学旅行費、学校給食費の学費というべきものを含む。(甲129)したがって、就学援助費が非課税とされること(甲130の1)から、所得税法9条1項15号の「学資に充てるため給付される金品」に学費を含まないということはできない。 そして、上記規定の趣旨に照らしても、給付対象者が教育・指導を受ける対価(学資・学費の中核的な部分)の負担を負うかどうかという点は、 所得税法上の学費該当性に係る重要な考慮要素となるというべきである。 支援機構法に基づく給付型奨学金と裁判所法及び修習給付金規則に基づく基本給付金は、根拠法令、制度の趣旨・目的、支給要件及び支給額の基準を異にするものであり、支給内容についても、学費を含むか否かの違いがある。 そして、基本給付金については、司法修習生に対する給付が、給費制、貸与制を経て、修習専念資金制度を伴う、新たな経済的支援策として給付制に移行し、基本給付金が創設されたという経緯がある。 以上によれば、給付型奨学金と基本給付金が、所得税法9条1項15号の「学資に充てるため給付される金品」の該当性の判断において、類似性を有していると解することはできない。 以上によれば、本件給付金が所得税上の学資金に該当するとの控訴人Aの主張を採用することはできない。 ⑵ 争点2についてア控訴人Aは、前記第2の3⑵のとおり主張する。 イしかし、前記1で引用した原判決「事実及び理由」第3の3で説示したとおり、本件利息相当額は、修習専念資金が、基本給付金と同様、司法修習生 いてア控訴人Aは、前記第2の3⑵のとおり主張する。 イしかし、前記1で引用した原判決「事実及び理由」第3の3で説示したとおり、本件利息相当額は、修習専念資金が、基本給付金と同様、司法修習生がその修習期間中の生活を維持するために必要な費用に充てるため支給され、学資に充てるため貸与されるものとはいえず、司法修習生が無利息で修習専念資金の貸与を受けたことによって生じる利息相当額の経済的利益も、学資に充てるためのものとはいえないから、雑所得の総収入金額に算入される。この結論は、修習専念資金という給付の趣旨目的等を踏まえたものであり、本件利息相当額が所得税法上雑所得とされるからといって、修習専念資金の創設に係る政策的配慮を著しく害することにはならない。 また、修習専念資金と類似の貸与制度が存在するとしても、本件利息相当 額が本件給付金より低廉であっても、上記判断を左右しない。 争点3についてア控訴人Aは、前記第2の3のとおり主張する。 イしかし、本件費用を基本給付金につき必要経費として算入できるかどうかは、司法修習が所得税法37条1項に定める「所得を生ずべき業務について生じた費用」に該当するかどうかによる。控訴人Aが挙げる国税庁見解をもって、必要経費の存在を観念し得ない雑所得は存在しないということはできない。 そして、前記1で引用した原判決「事実及び理由」第3の4⑵で説示したとおり、基本給付金については、その性格や支給要件等に照らせば、所得税法37条1項の「総収入金額を得るため直接に要した費用」(個別対応の費用)、「所得を生ずべき費用について生じた費用」(一般対応の費用)のいずれも観念することができず、必要経費として控除できる経費は存在しない。 争点4についてア控訴人Aは、前記第2の3のとお )、「所得を生ずべき費用について生じた費用」(一般対応の費用)のいずれも観念することができず、必要経費として控除できる経費は存在しない。 争点4についてア控訴人Aは、前記第2の3のとおり主張する。 イしかし、前記1で引用した原判決「事実及び理由」第3の5で説示したとおり、農業次世代人材投資資金(準備型)は、就農希望者が所定の研修を受けることが交付要件の一つとされていることから、当該研修が「所得を生ずべき業務」に該当し、当該研修に要した費用が、一般対応の費用として雑所得の計算上必要経費に算入される。このように根拠法令から導かれる給付金の性格及び支給要件に照らし、所得税法37条1項所定の費用の該当性が検討されるべきである。「その他雑所得」について「所得を生ずべき業務」という概念が存在するかどうかを論じる意味はない。そして、上記の検討の結果、必要経費の存否に違いが出ても、これをもって合理的な理由のない差別ということはできず、憲法14条1項に違反しない。 当審における追加主張についてア控訴人Aは、前記第2の3のとおり主張する。 イしかし、前記で説示したとおり、基本給付金について必要経費として控除できる経費は存在しないから、移転給付金相当額の経費があるとはいえない。 また、移転給付金は、司法修習生がその修習に伴い住所又は居所を移転することが必要と認められる場合、修習給付金規則の定めにより算定され支給される(裁判所法67条の2第5項、修習給付金規則10条)。 修習給付金規則11条及び12条によれば、移転給付金は、裁判所法67条の2第5項に規定する要件具備に係る証明書類を添付した、所定様式による最高裁判所への届出、最高裁判所での事実確認及び支給認定という手続を経て、司法修習生にその請求権が発生す 給付金は、裁判所法67条の2第5項に規定する要件具備に係る証明書類を添付した、所定様式による最高裁判所への届出、最高裁判所での事実確認及び支給認定という手続を経て、司法修習生にその請求権が発生するものである。 そうすると、控訴人Aは、▲年10月上旬に支出した移転費用につき支給申請を忘れたとしており、上記手続を経ていないと解されるから、当該費用につき移転給付金の請求権を取得しておらず、収入として得るべきものはなかったというにすぎない。 したがって、業務に係る雑所得が、10万8000円のマイナスになることはなく、いずれにしても、控訴人Aの主張は失当である。 3 以上によれば、控訴人Aの請求には理由がないから、これを棄却した原判決は相当である。 よって、本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。 大阪高等裁判所第7民事部 裁判長裁判官冨田一彦 裁判官上田卓哉 裁判官桑原直子
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