平成26(ワ)1274 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成29年9月27日 神戸地方裁判所
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判決文本文24,660 文字)

平成29年9月27日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成26年(ワ)第1274号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成29年5月31日判決 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は,原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求被告らは,原告に対し,各自,1億2634万8408円及びこれに対する平成24年10月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等以下,当事者の名称につき,被告A自治会,被告B自治会,被告C自治会及び被告D自治会を併せて「被告四自治会」という。また,被告E神社及び被告四自治会を除いた個人の被告らを併せて「個人被告ら」という。 1 事案の要旨(1) 原告(事故当時24歳・男性)は,兵庫県明石市において平成24年10月28日に開催されたE神社秋祭り(以下「本件秋祭り」という。)において,大太鼓だんじり運行に担ぎ手として参加した際,前後に傾いた大太鼓の担ぎ棒と地面の間に体を挟まれる事故(以下「本件事故」という。)に遭い,脊髄・馬尾損傷等の傷害を負った。 被告四自治会は,各区域内の住民によって構成される権利能力なき社団の性質を有する自治会であり,被告E神社は,宗教法人である。個人被告らは,E神社秋祭りの運営等を目的として設置されたE神社秋祭り統括本部(以下「統括本部」という。)の役員であった者である。 (2) 本件は,原告が,本件事故の原因は,①大太鼓の担ぎ手の人数不足,②大 太鼓だんじり運行の具体的な動作等が地区によって異なるため,担ぎ手の応援が禁止されているにもかかわらず,他地区の担ぎ手に応援を要請したこと,③日頃の練習不足にあり,本件事故が統括本部及び被告らの安全配慮義務違反によっ 体的な動作等が地区によって異なるため,担ぎ手の応援が禁止されているにもかかわらず,他地区の担ぎ手に応援を要請したこと,③日頃の練習不足にあり,本件事故が統括本部及び被告らの安全配慮義務違反によって発生したと主張して,被告らに対し,不法行為による損害賠償請求権等に基づき,それぞれ,入院治療費,逸失利益,慰謝料,弁護士費用等の損害賠償金合計1億2634万8408円及びこれに対する平成24年10月28日(本件事故発生日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うよう求める事案である。 2 前提事実(争いのない事実並びに付記する証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定し得る事実)(1) 原告は,本件秋祭りにおいて,大太鼓だんじり運行に参加した地区の一つであるD地区の大太鼓練り(担ぎ手が,掛け声を掛け合い,一斉に両手を上に伸ばし,大太鼓を差し上げる動作等を行うことをいう。以下同じ。)に担ぎ手として参加した。(乙2)(2) D地区の大太鼓(以下「本件大太鼓」ともいう。)の構造・形状は,別紙図面のとおりである。担ぎ手の持ち手となる担ぎ棒(丸太の形状をしている。)は,長さ約700cmの縦棒が左右2本ずつ合計4本配置され,幅約330cmの横棒が,大太鼓の前後に分かれて各2本ずつ合計4本,縦棒に結び付けられている。大太鼓の高さは約360cm,重さは約1.72トンである。上部に「敬神」と書かれた装飾がある方が前に当たる。(甲38,乙2,乙13) 3 当事者の主張(1) 請求原因ア本件事故に至る経緯・態様(ア) 原告は,本来B地区の大太鼓を担ぐ予定であったが,D地区から応援の要請があり,原告の外10名程度の担ぎ手が,B地区からD地区に応 援に加わった。 (イ) 原告は,本件大太鼓において,後部右側の内側 は,本来B地区の大太鼓を担ぐ予定であったが,D地区から応援の要請があり,原告の外10名程度の担ぎ手が,B地区からD地区に応 援に加わった。 (イ) 原告は,本件大太鼓において,後部右側の内側の担ぎ棒を担いでいた。担ぎ手が,一斉に両手を上に伸ばし,大太鼓を差し上げる動作を行った際,後部は差し上げができず,前部の担ぎ手のみが差し上げたため,後部の担ぎ棒が下がり,後部の担ぎ手らには下向きの力が加わった。後部の担ぎ手のうち,原告以外の者は耐え切れずに担ぎ棒を離して逃げたが,後部の内側の担ぎ棒を担いでいた原告は担ぎ棒に圧迫され,逃げることができず,スクワットのような状態で胸が地面につくほど圧迫された。 イ本件事故の発生原因(ア) 本件事故は,次のとおり,①担ぎ手の人数不足,②大太鼓を差し上げる動作や掛け声が地区によって異なるため,担ぎ手の応援が禁止されているにもかかわらず,応援を要請したこと,③D地区の日頃の練習不足が原因で発生した。 (イ) ①担ぎ手の人数不足についてa 本件大太鼓を担ぐには70人程度の担ぎ手が必要であったのに,本件事故当時には,これに満たない40人程度の担ぎ手しかいなかった。大太鼓を差し上げる動作の際,原告が担いでいた本件大太鼓の後部は,人手不足のため差し上げができず,前部のみが差し上がった。 b 本件事故の発生原因が担ぎ手の人数不足にあることは,本件事故後の平成24年10月31日,統括本部の役員らが集まり,秋祭り事故防止のための会議(以下「事故防止のための会議」という。)を開催し,担ぎ手不足が本件事故の第一の原因であることを確認していることからも明らかである。 (ウ) ②担ぎ手の応援を要請したことについてa 大太鼓練りの際の大太鼓の差し上げ方や掛け声は,各地区において 異 故の第一の原因であることを確認していることからも明らかである。 (ウ) ②担ぎ手の応援を要請したことについてa 大太鼓練りの際の大太鼓の差し上げ方や掛け声は,各地区において 異なっている。D地区の要請で,B地区からD地区へと応援に行った原告は,D地区のリズムが分からず,かつ,原告は担ぎ棒の最も危険な位置にいたため,逃げ遅れ,本件事故に遭った。 b 本件事故の発生原因が,他地区の担ぎ手を参加させたことにあることは,次の事情からも明らかである。 すなわち,統括本部の運営要綱6条4項には,他地区の大太鼓練りには参加しないよう各地区において指導する旨の規定がある。同規定は,他地区の大太鼓練りに参加することが危険であるために設けられた規定である。 また,事故防止のための会議においても,事故原因が大太鼓を担ぐリズムの違いにあることが認められ,他地区の大太鼓練りに参加しないよう指導するなどの再発防止策が策定されている。 (エ) ③D地区の日頃の練習不足についてA地区は,事前に差し上げや掛け声の練習をしており,B地区では,宮入前に差し上げを行っているが,D地区ではそのような練習をしていない。 ウ責任原因(ア) 安全配慮義務についてa 安全配慮義務の主体本件秋祭りを主催する統括本部,宮司である被告Fを介して大太鼓運行等について助言を行うなどする被告E神社,原告が応援要請に応じて大太鼓を担いだ被告D自治会,原告が当初より大太鼓を担ぐ予定であった被告B自治会,統括本部の役員である個人被告らは,いずれも,原告を含む大太鼓の担ぎ手との間に実質的な指揮命令関係があるから,原告に対する安全配慮義務の主体となる。 b 被告らの安全配慮義務の内容及びその違反 (a) 被告D自治会は,本件事故の発 も,原告を含む大太鼓の担ぎ手との間に実質的な指揮命令関係があるから,原告に対する安全配慮義務の主体となる。 b 被告らの安全配慮義務の内容及びその違反 (a) 被告D自治会は,本件事故の発生を防止するため,十分な担ぎ手を確保し,他地区の担ぎ手を練りに参加させないよう応援の禁止を徹底するとともに,差し上げの動作や掛け声について日頃から練習をしておく義務があった。同被告は,これを怠り,応援を要請した上,人手不足のまま大太鼓の差し上げを行った。 (b) 統括本部,被告E神社,被告B自治会及び個人被告らは,担ぎ手が自分の所属する地区とは異なる地区の大太鼓練りに参加しないよう指導を徹底する義務があった。同被告らは,これを怠り,原告がD地区の応援の要請に応じて,同地区の大太鼓練りに参加したことに気が付きながら,これを止めなかった。 (イ) 各被告が安全配慮義務違反について責任を負う根拠(請求権)についてa 被告E神社及び被告四自治会(a) 統括本部の構成員としての責任統括本部は,運営要綱に基づき,秋祭りの祭礼及び大太鼓だんじり運行を行うことを目的とした被告E神社,被告四自治会による単年度の組合契約による組合である。具体的には,平成24年9月24日,本件秋祭りの開催を被告E神社と被告四自治会とで決定し,本件秋祭りの開催を目的とする組合契約が成立した。 組合員である被告E神社と被告四自治会は,統括本部の上記(ア)b(b)の安全配慮義務違反について,不法行為による損害賠償義務を平等に負担する(民法675条)。 (b) 被告四自治会被告D自治会は上記(ア)b(a)の安全配慮義務違反について,被告B自治会は上記(ア)b(b)の安全配慮義務違反について,それぞれ,不法行為による損害賠償義務を負う。さらに,被告Fを除く個人被告ら 被告D自治会は上記(ア)b(a)の安全配慮義務違反について,被告B自治会は上記(ア)b(b)の安全配慮義務違反について,それぞれ,不法行為による損害賠償義務を負う。さらに,被告Fを除く個人被告ら は被告四自治会の構成員であるから,被告四自治会は,下記b(a)の各人の不法行為について,それぞれ,使用者責任(民法715条)による損害賠償義務を負う。 また,被告四自治会は,その役員(亡G,被告H,被告I及び被告J)の上記(ア)b(b)の安全配慮義務違反について,一般社団及び財団法人に関する法律78条による損害賠償義務を負う。 (c) 被告E神社被告E神社は,その代表役員である被告Fの上記(ア)b(b)の安全配慮義務違反について,宗教法人法11条1項による損害賠償義務を負う。 b 個人被告ら(a) 個人被告らは,いずれも,上記(ア)b(b)の安全配慮義務違反について,不法行為による損害賠償義務を負う。 (b) 個人被告らのうち,被告四自治会の役員である被告H,被告I,被告Jは,その職務を行うにつき悪意又は重大な過失があったから,上記(a)の責任に加え,一般社団及び財団法人に関する法律117条1項の類推適用により損害賠償義務を負う。 (c) 個人被告らのうち,被告E神社の代表役員である被告Fは,宗教法人の目的の範囲外の行為により第三者に損害を与えたということができるから,上記(a)の責任に加え,宗教法人法11条2項による損害賠償義務を負う。 エ因果関係及び損害(ア) 原告は,本件事故により,脊椎・馬尾損傷等の傷害を負い,両下肢完全麻痺の後遺障害が残った。 原告が被った損害は次のとおりである。 (イ) 損害 a 原告は,本件事故のため,平成24年10月28日~平成25年2月5日の合計101日間,入院治療を 肢完全麻痺の後遺障害が残った。 原告が被った損害は次のとおりである。 (イ) 損害 a 原告は,本件事故のため,平成24年10月28日~平成25年2月5日の合計101日間,入院治療を受けた。 b 入院雑費 15万1500円(計算式)1500円/1日×101日=15万1500円c 入院慰謝料 154万円d 休業損害 83万0119円(計算式)8219円/1日×101日(入院期間に同じ)=83万0119円e 治療費 298万8830円f 後遺障害慰謝料 2800万円両下肢完全麻痺は後遺障害等級別表第2の第1級6号に該当する。 g 逸失利益 8293万0696円原告は,両下肢完全麻痺(平成25年2月5日症状固定)により,その労働能力喪失率は100%である。原告は,本件事故当時,30歳未満であったから,賃金センサス全学歴全年齢により472万6500円を基礎収入とするのが相当である。症状固定時の年齢24歳から67歳まで43年のライプニッツ係数17.5459を乗じて算定する。 (計算式)472万6500円×17.5459=8293万0696円h その他の損害 875万1711円(a) 自宅改造費 691万円(b) 福祉車両 182万円(c) 車イス 2万0093円(d) 歩行補助杖 1618円(e) 合計 875万1711円 i 弁護士用 1250万円j 合計 1億3769万2856円被告らからの見舞金合計23万円を控除した上,このうち1億2634万8408円を一部請求する。 オよって,原告は,上記ウ(イ)a・b 1250万円j 合計 1億3769万2856円被告らからの見舞金合計23万円を控除した上,このうち1億2634万8408円を一部請求する。 オよって,原告は,上記ウ(イ)a・bに記載の各損害賠償請求権に基づき,被告らに対し,それぞれ,1億2634万8408円及びこれに対する平成24年10月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (2) 請求原因に対する認否及び主張ア本件事故に至る経緯・態様(ア) 否認する。 (イ) 本件事故に至る経緯について,被告D自治会による応援要請は存在しない。原告は,D自治会の大太鼓の担ぎ手の突発的な要請に対し,被告B自治会の担ぎ手らの制止を無視して,友人の誘いに乗ってD地区の大太鼓練りに加わった。 (ウ) 本件事故の態様は,次のとおりである。すなわち,担ぎ手が,大太鼓を差し上げる動作,すなわち,担ぎ手が,大太鼓を肩に乗せて担いでいる状態から,「まーかーせーまーかーせーそーれよいやーまーかーせー」という掛け声の最後の「せー」の部分でタイミングを取り,担ぎ手の両手で担ぎ棒を支えるように持ち替え,担ぎ手全員の腕を上げ,大太鼓を高く掲げる動作を行ったときに,担ぎ手のタイミングがずれ,大太鼓の前後のバランスが崩れた。その際,そのまま一気に後部が地面落ちたわけではなく,幾らかの時間的余裕があった。その間,原告以外の担ぎ手らは,条件反射的に大太鼓から逃れた。原告は,右後部の内側の担ぎ棒の後ろから2番目辺りにいたが,下記イ(イ)のとおり,回避動作をとることができず,本件事故が発生した。 イ本件事故の原因(ア) 争う。 (イ) 本件事故は,次のとおり,原告が,本来容易に取れるはずの回避行動を取らなかったことに起因する。 すなわち,本件事故 きず,本件事故が発生した。 イ本件事故の原因(ア) 争う。 (イ) 本件事故は,次のとおり,原告が,本来容易に取れるはずの回避行動を取らなかったことに起因する。 すなわち,本件事故は,大太鼓を差し上げる動作を行う際に,前後左右の担ぎ手のタイミングがずれ,バランスを崩したことが発端である。 差し上げを行う際の号令は,主として,大太鼓の周辺に立ち拍子木を持っている者(以下「木持ち」という。)らが行っている。しかし,木持ちはそれぞれ大太鼓の四隅や前後辺りに立っており,離れた場所にいる木持ちには直接声が届かないため,木持ち全員が完全にタイミングを合わせて担ぎ手への声掛けを行うことはできない。担ぎ手自身も,上記ア(ウ)の掛け声によって調子を合わせているが,それでも差し上げを行うタイミングがずれ,前後左右のバランスが崩れてしまうことはよくある。 バランスが崩れるかどうかに担ぎ手の人数の多寡は関係なく,担ぎ手の数が十分足りていても起こり得る。もっとも,担ぎ手のバランスが崩れても直ちに大太鼓が崩落するようなことはなく,担ぎ手には,そのまま大太鼓を支え続けて体勢を立て直すか,これ以上は支えきれないと判断して担ぎ棒から手を離すかを選択して行動する十分な時間的余裕がある。また,本件大太鼓の構造上,突然大太鼓が落下して体を挟まれないように,大太鼓の下部に高さ約80cmの台座が設置されている。 上記のとおり,バランスが崩れた際,担ぎ手が危険を感じた場合には容易にその場から離脱することが可能である。原告は,下を向いているなどして周りの人の動きに気付くのが遅れた,あるいは,飲酒の影響により判断力,反射速度が低下した状態であったため,適正な回避行動を取れなかったと考えられる。 (ウ) 原告の主張について a 担ぎ手の人数不足 遅れた,あるいは,飲酒の影響により判断力,反射速度が低下した状態であったため,適正な回避行動を取れなかったと考えられる。 (ウ) 原告の主張について a 担ぎ手の人数不足本件秋祭りの大太鼓は,いずれの地区においても,隙間なく担ぎ手が埋まると50名程度が担いでいる状態となる。本件事故当時は,正確な人数は不明であるが,30~40人程度の人員はいたのであり,担ぎ手としては十分な人数である。そして,上記(イ)のとおり,本件事故の原因に担ぎ手の人数は関係がない。 b 他地区の担ぎ手を参加させたこと運営要綱の6条4項の規定において,他地区の大太鼓練りに参加することが禁じられているのは,事故による危険防止の目的ではなく,大太鼓を担ぐ位置取り等でトラブルになることを防ぐためである。むやみに他地区の大太鼓練りに参加することは禁じられているが,人手不足等の正当な理由があって他地区へ応援に行くことまでは禁止されない。そして,差し上げ動作及びその際の掛け声は,いずれの地区においても共通しているから,他地区の大太鼓練りに参加することで事故発生の危険性が高まるということはない。 c 日頃の練習不足本件秋祭りの大太鼓練りにおいて,いずれの地区においても,事前に大太鼓を担ぐための練習は行われていない。大太鼓練り自体は特に事前の練習を必要とするような危険な行為ではない。 d 事故防止のための会議について原告が指摘する事故防止のための会議については,原告の父が,見舞いに訪れた統括本部の役員らに対し,事故原因や対策について書面を作成するように指示をしたことから,原告の父の怒りを静めることを目的として行われた。この会議には,本件事故当時,実際に大太鼓を担いでいた者は誰も参加しておらず,目撃者からの事情聴取や事故原 書面を作成するように指示をしたことから,原告の父の怒りを静めることを目的として行われた。この会議には,本件事故当時,実際に大太鼓を担いでいた者は誰も参加しておらず,目撃者からの事情聴取や事故原因に関する議論は行われていない。作成された書面は,原告の父の 意向に沿うような内容が記載されたにすぎず,真実を反映したものではない。 ウ責任原因(ア) いずれも争う。 (イ) 統括本部は,本件秋祭りの主催者であり,大太鼓の参加者や見物人の生命,身体に危害が及ぶことがないよう安全に配慮して実施すべき注意義務があり,安全配慮義務の主体となり得るが(ただし,下記(ウ)のとおり,本件事故についての予見可能性はない。),被告らは,信義則上,原告との間に安全配慮義務の主体となるような関係性はない。 すなわち,そもそも,被告自治会らの役員,大太鼓の担ぎ手は,全てボランティアであり,何らの経済的利害関係はなく,特に担ぎ手は大太鼓練りを行楽行事である祭りの楽しみとして積極的に参加している。 さらに,原告は,被告B自治会内に居住している友人の誘いにのって,被告B自治会の許可を得ず,大太鼓練りに参加しようとしていた上,D地区の大太鼓を担いでいた者の突発的な応援要請に応じて,被告B自治会の担ぎ手の制止を無視し,友人の誘いに乗って応援に行き,本件事故に遭った。この点に関し,原告自身,他の自治会の大太鼓の応援に行ってはならないことは十分認識していたということができる。すなわち,被告B自治会の会長が,朝の挨拶で他の自治会の大太鼓の応援に行かないように注意していたため,原告は,被告D自治会の大太鼓の応援に行くに当たり,着ていた被告B自治会の法被を脱いでいた。 以上の経緯に照らせば,被告B自治会及び被告D自治会のいずれについても,信義則上,原告に 意していたため,原告は,被告D自治会の大太鼓の応援に行くに当たり,着ていた被告B自治会の法被を脱いでいた。 以上の経緯に照らせば,被告B自治会及び被告D自治会のいずれについても,信義則上,原告に対する安全配慮義務を課すことが相当とはいえない。このことはその他の被告らについても同様である。 (ウ) 仮に被告らの一部が安全配慮義務の主体になるとしても,大太鼓の差し上げが失敗し,つぶれるかもしれないという予見は可能であるが,失 敗したために本件事故が発生することの予見可能性はない。 すなわち,上記イ(イ)に記載のとおり,差し上げが失敗しないよう防止手段は採られているし,本件大太鼓自体も,大事故が発生しないような構造が採られている。本件秋祭りの大太鼓の原型は江戸時代からあり,何十年と大太鼓練りがされているが,本件事故のような大けがを負った者はいない。そして,原告は,従前より,大太鼓の運行を見学したり,直接他の自治会の大太鼓を担いだりもしており,重量のある大太鼓を担いだり差し上げたりした際に伴う危険の有無及び程度に関し一定の認識や判断能力を有しているし,原告は危険を回避する能力を十分に備えていた。 以上のとおり,仮に被告らの一部が安全配慮義務の主体になり得るとしても,予見できる範囲において安全配慮義務を尽くしている。本件事故の予見可能性はなく,本件事故に対し安全配慮義務違反はない。 (エ) その他の原告の主張(被告E神社及び被告四自治会が安全配慮義務について責任を負う根拠(請求権))についてa 統括本部は,被告E神社と被告四自治会を構成員とする組合ではない。 b そもそも,統括本部は,①団体としての組織を備え,②多数決の原理が支配し,③構成員の変動に影響されることなく団体が存続して,④代表の方法・総会の運営・財産の 治会を構成員とする組合ではない。 b そもそも,統括本部は,①団体としての組織を備え,②多数決の原理が支配し,③構成員の変動に影響されることなく団体が存続して,④代表の方法・総会の運営・財産の管理などの内部組織が明確に定められており,民法上の組合ではなく権利能力なき社団である。 c また,被告E神社について,統括本部には被告E神社の宮司である被告Fが顧問として就任しているにすぎず,被告E神社自体は統括本部の構成員ではない。本件秋祭りおいて,大太鼓だんじり運行は,神職が神殿において執行する祭典である「神事」ではなく,地域住民が主催する「神賑わい」に該当する。その主催者・責任者は統 括本部であり,被告E神社は関与していない。 エ因果関係及び損害原告が,本件事故により傷害を受け,後遺障害等級別表第2の第1級6号に該当する後遺障害を負ったことは認めるが,その余は損害額を含め全て争う。 (3) 抗弁ア過失相殺上記(2)イ(イ)のとおり,本件事故は,原告が適切な回避行動を取らなかったことに起因する。原告の結果回避義務違反により,大幅な過失相殺がされるべきである。 イ損益相殺被告B自治会が加入していた火災傷害新種保険により,三井住友海上火災保険株式会社は,原告に対し,平成25年3月4日に121万円,同年5月27日に79万円,同年8月20日に1000万円の合計1200万円を保険金として支払っている。 (4) 抗弁に対する認否及び主張ア抗弁ア(過失相殺)は争う。 イ抗弁イ(損益相殺)は認める。 ただし,原告が受領した保険金は傷害保険であるから,保険金は過失相殺前の損害額(裁判基準損害額)のうち,被害者の過失部分にまず充当され 弁ア(過失相殺)は争う。 イ抗弁イ(損益相殺)は認める。 ただし,原告が受領した保険金は傷害保険であるから,保険金は過失相殺前の損害額(裁判基準損害額)のうち,被害者の過失部分にまず充当されるべきであり,本件においても,被害者の過失額が保険金額を超える場合は損益相殺の対象とならず,超えない場合に損益相殺の対象となる。 第3 当裁判所の判断 1 原告が本件事故により傷害を受け,後遺障害等級別表第2の第1級6号に該当する後遺障害が残ったことは争いがない。 2 認定事実 上記1の事実,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (1) 当事者等ア被告A自治会,被告B自治会,被告C自治会,被告D自治会は,各区域内の住民によって構成される権利能力なき社団の性質を有する自治会であり,被告H及び被告Iは,それぞれ,本件事故当時,被告B自治会,被告C自治会の自治会長を務めていた。(乙20,被告H,弁論の全趣旨)イ被告E神社は,宗教法人であり,被告Fは被告E神社の宮司である。 (乙19,被告F)ウ統括本部は,秋祭り祭礼及び大太鼓だんじり運行の安全と参拝客の安全確保を図ることを目的として設立された団体であり,統括本部の役員は,被告E神社の宮司(顧問),被告四自治会の会長のほか,各地区から選出されたその年の役員等によって構成される。(甲1,乙20,被告H)(2) 大太鼓だんじり運行の概要等ア E神社秋祭りにおいて,神職が執行する祭典である神事を除く行事は,統括本部の主催により実施されている。大太鼓だんじり運行は,統括本部主催の行事の一つであり,被告四自治会の各地区はそれぞれ大太鼓を保有し,大太鼓だんじり運行に参加している。(甲1,乙19,乙20,乙21,被告F,被告H)イ大太鼓だんじり運行を含む ,統括本部主催の行事の一つであり,被告四自治会の各地区はそれぞれ大太鼓を保有し,大太鼓だんじり運行に参加している。(甲1,乙19,乙20,乙21,被告F,被告H)イ大太鼓だんじり運行を含む,祭りの進行や各地区及び各役員の役割等は,E神社会議において決定される。同会議には,被告四自治会の自治会長,宮総代(地域の代表として神社の祭礼に当たり神職に協力する役職の者)及び被告Fが出席し,上記議題については,各自治会の構成員が主体となって審議,決定される。 大太鼓だんじり運行や祭りの警備,交通整理等に関しては,さらに,統括本部会議において具体的に審議され決定される。(以上につき,甲1 0,乙19,乙20,被告F,被告H)ウ統括本部の各役員は,その運営要綱において,秋祭り祭礼及び大太鼓だんじり運行の規律確保の措置を執ることや,警察署等と連携の上,参拝客の安全確保のため,パトロール・交通整理等を行うことのほか,救急車の進入路の確保等の緊急事態に対応する態勢を整えることが職務内容として規定されている。 他方で,大太鼓の管理や担ぎ手の募集等は,被告四自治会が独自に行っており,統括本部による指導等は行われていない。ただし,各地区の担ぎ手に関し,運営要綱において,「大太鼓だんじりの上に上がったり,他町の大太鼓だんじり練りに参加しないよう各町において指導する。」との規定が設けられている。(以上につき,甲1,乙20,乙21,弁論の全趣旨)エ被告四自治会において,大太鼓の担ぎ手は,主として,各地区の住人から構成されている。ただし,地区によっては,担ぎ手の人員を確保するため,他地区(被告四自治会以外の地区)から参加者を募集することもある。(乙20,乙21)オ大太鼓だんじり運行は,秋祭りの二日目に当たる本宮祭において,午前と午後 ては,担ぎ手の人員を確保するため,他地区(被告四自治会以外の地区)から参加者を募集することもある。(乙20,乙21)オ大太鼓だんじり運行は,秋祭りの二日目に当たる本宮祭において,午前と午後の2回に分けて行われる。各地区の大太鼓があらかじめ決められた順序でE神社の境内に入り,大太鼓を担ぎ上げたまま拝殿の前まで運び,拝殿前にある練り場と呼ばれる場所において,大太鼓練りを行う。(甲8,甲10,乙2)(3) 大太鼓の構造及び差し上げ動作等ア D地区の大太鼓(本件大太鼓)の構造・形状は,別紙図面のとおりである。担ぎ手の持ち手となる担ぎ棒(丸太の形状をしている。)は,長さ約700cmの縦棒が左右2本ずつ合計4本配置され,幅約330cmの横棒が,大太鼓の前後に分かれて各2本ずつ合計4本,縦棒に結び付けられ ている。大太鼓本体の高さは約360cm,重さは約1.72トンである。上部に「敬神」と書かれた装飾がある方が前に当たる。大太鼓の下部には,キャスターが附属した高さ約80cmの台座が設置されており,地面上を引きずることができる。 各地区において,大太鼓の形状や重さに多少の差異はあるものの,基本的な構造は同じである。(以上につき,甲38,乙2,乙11~乙13,乙21)イ大太鼓を担ぐ際には,大太鼓の左右外側に位置する縦棒については,大太鼓の側面を含めて担ぎ棒全体に担ぎ手が配置され,大太鼓の内側に位置する縦棒については,大太鼓の前後に分かれて担ぎ手が配置される。(乙1,乙13)ウ大太鼓の担ぎ手は,練り場において,前を向き,大太鼓を片方の肩に乗せて,腕を添えて担いでいる状態から,「まーかーせーまーかーせーそーれよいやーまーかーせー」という掛け声の最後の「せー」の部分でタイミングを取り,体の向きを横向き(大太鼓と並行)に変え 片方の肩に乗せて,腕を添えて担いでいる状態から,「まーかーせーまーかーせーそーれよいやーまーかーせー」という掛け声の最後の「せー」の部分でタイミングを取り,体の向きを横向き(大太鼓と並行)に変え,両手で担ぎ棒を支えるように持ち替え,担ぎ手全員の腕を上げ,大太鼓を高く掲げる動作(差し上げ動作)を行う。(乙1,乙2,被告H)エ大太鼓練りの際には,差し上げの失敗を防止するため,木持ちが,大太鼓の四方に配置され,拍子木を打ち鳴らして四方の担ぎ棒の担ぎ手のタイミングを合わせる役割を担っている。担ぎ手は,木持ちが鳴らす拍子木のリズムに合わせて掛け声を掛け合い,差し上げのタイミングを合わせる。 差し上げ動作の掛け声及び大太鼓を持ち上げるタイミングは,各地区において概ね共通している。掛け声と拍子木の速度に多少の差はみられるものの,ほぼ同じである。(以上につき,乙1,乙2,証人K,被告H)オ E神社秋祭りにおいて,大太鼓だんじり運行は,数十年にわたって実施されてきた。この間,差し上げを試みて成功せず,断念する事態は,少な からず起こっており,その際,本件事故以前には,本件事故と同様の態様の事故(後記(4)のとおり,担ぎ手が,担ぎ棒を担いだまま,大太鼓の重量を自分の体で受け,しゃがみこむような態勢となり,傾いた大太鼓の担ぎ棒と地面の間に体を挟まれるもの)を含め,担ぎ手が重傷を負うような人身事故は発生したことはなかった。(弁論の全趣旨)(4) 本件事故に至る経緯・本件事故時の状況等ア原告は,被告四自治会とは異なる地区に居住しており,平成24年に開催された本件秋祭りにおいては,B地区に居住する友人の勧誘を受けて,B地区の大太鼓練りに参加することを予定していた。原告は,平成23年に開催されたE神社秋祭りにおいても大太鼓練りに参加し 24年に開催された本件秋祭りにおいては,B地区に居住する友人の勧誘を受けて,B地区の大太鼓練りに参加することを予定していた。原告は,平成23年に開催されたE神社秋祭りにおいても大太鼓練りに参加した経験があり,その際には,B地区とD地区の大太鼓練りに参加し,差し上げ動作を行ったことがあり,差し上げ動作を行って大太鼓のバランスを崩れた際には,手を離して逃げたこともあった。 原告は,本件事故当時,通常の健康体であり(24歳,身長は小柄),当日,朝に集合した際,350ミリリットルの缶ビールと柿の種を配られ,缶ビールを飲んで士気を上げたということがあり,本件事故当時,飲酒のため,反応が鈍くなっている状況にはなかった。(甲9,原告本人)イ本件秋祭りの本宮祭では,D地区,B地区,A地区,C地区の順序で大太鼓練りが行われた。一番手であったD地区は,午前中の大太鼓練りの際,練り場において差し上げ動作を何度か試みたが,担ぎ手の人数が不足していたため差し上げることができなかった。(甲10,証人L)ウ二番手であったB地区の担ぎ手が,練り場の手前にある待機場所において待機していた際,D地区の担ぎ手又は関係者が,B地区の担ぎ手らに対し,担ぎ手の応援を要請した。 原告は,応援要請に応じて,友人とともにD地区の大太鼓練りに加わり,原告らの他にも複数名の担ぎ手がD地区の担ぎ手に加わった。(甲 9,乙18,証人K,原告本人)エ D地区の大太鼓練りに,原告を含む担ぎ手が応援に応じて加わったことにより,本件大太鼓は,担ぎ手が密集するとまではいかないものの,担ぎ棒に満遍なく担ぎ手が付き,担ぎ棒に大きな隙間がないような状態となった。(甲21,甲53の1,甲53の2,証人K,原告本人)オその後,D地区の担ぎ手が,差し上げ動作を試みた際,大太鼓の前 ,担ぎ棒に満遍なく担ぎ手が付き,担ぎ棒に大きな隙間がないような状態となった。(甲21,甲53の1,甲53の2,証人K,原告本人)オその後,D地区の担ぎ手が,差し上げ動作を試みた際,大太鼓の前部のみが差し上がり,差し上がらなかった後部との間に高低差が生じた。前部の担ぎ手は差し上げを止めなかったため,大太鼓の重量が後部の担ぎ手にかかる状態となった。後部の担ぎ手は,各々の判断で,担ぎ棒から手を離し,体を大太鼓から離した。その時,原告は,後部右側の内側の担ぎ位置におり,自分の周りの担ぎ手が離れていくのを感じつつ,担ぎ棒を担いだまま,大太鼓の重量を自分の体で受け,しゃがみこむような態勢となり,傾いた大太鼓の担ぎ棒と地面の間に体を挟まれ,脊椎を強く圧迫され,脊髄・馬尾損傷等の傷害を負った。(甲4,甲9,乙2,乙18,証人L,証人K,原告本人)カその後,原告は,大太鼓の下から運び出され,救急車で明石市立市民病院に搬送されて治療を受け,平成25年7月18日の症状固定後,後遺障害として,両下肢対麻痺,両下肢感覚鈍磨,神経因性膀胱が残存した。 (甲4,甲9,甲52,原告本人)(5) 補足説明ア差し上げ動作の掛け声及び大太鼓を持ち上げるタイミングの共通性原告は,大太鼓を差し上げる動作や掛け声が地区によって異なると主張する。 しかしながら,被告四自治会の各地区がそれぞれ差し上げ動作を行う様子を撮影した録画映像(乙1)を比較すれば,差し上げ動作に関しては,いずれの地区においても,「まーかーせーまーかーせーそーれよいやーま ーかーせー」という掛け声の最後の「せー」の部分でタイミングを取り,両手で担ぎ棒を支えるように持ち替え,担ぎ手全員の腕を上げ,大太鼓を高く掲げている。各地区の差は,掛け声と拍子木の早さに若干の違いがみられる程度 いう掛け声の最後の「せー」の部分でタイミングを取り,両手で担ぎ棒を支えるように持ち替え,担ぎ手全員の腕を上げ,大太鼓を高く掲げている。各地区の差は,掛け声と拍子木の早さに若干の違いがみられる程度である。 この点,K証人は,文言は一緒と証言しつつ,地区ごとに微妙な違いがあると述べるが,差し上げ動作が行われるのは年1回の本宮祭の午前午後の本番と,その直前の1回~数回程度の練習であり(甲50の1,甲50の2,弁論の全趣旨),地区ごとに微妙に異なるタイミングの取り方を形成・維持することができるほどの頻度で行われていたとは認め難い(なお,日常的に練習が行われていたことをうかがわせる証拠はない。)。 よって,上記(3)エのとおり認定するのが相当である。 イ本件事故当時の原告の状況証人Kは,証言及び陳述書において,本件事故後,救急搬送され,病院に収容された際,顔の見た目や体臭で飲酒したことが疑われる状況にあったと述べる。 同証人は,証言及び陳述書において,併せて,救急搬送の状況につき,救急車は1度出発した後,受け入れてくれる病院が見つからないということでM駅のロータリーでしばらく待機し,結局病院に着くのに1時間近くを要したと具体的に述べている。しかしながら,救急活動報告書(甲52)によれば,現場出発は午後0時17分,病院到着は午後0時31分であり,その間の時間は14分であって,上記供述に係る搬送状況は客観的事実に反している。また,同報告書において,原告は仲間によって境内まで仰向きで搬送され,腰背部の痛みを訴えていたこと,両大腿(鼠径部)から両足先までの麻痺(痛覚,運動,知覚の障害)を認めたことが記載されているものの,原告が飲酒していたことがうかがわれるような記載はない。 そうすると,証人Kの上記供述は採用できず,原告の本人尋 足先までの麻痺(痛覚,運動,知覚の障害)を認めたことが記載されているものの,原告が飲酒していたことがうかがわれるような記載はない。 そうすると,証人Kの上記供述は採用できず,原告の本人尋問における供述及び原告の陳述書に照らし,上記(4)アのとおり認定するのが相当である。 ウ本件事故当時の担ぎ手の人員について(ア) 原告は,本件事故当時,担ぎ手が不足していたと主張する。一方,被告らは,D地区の大太鼓は,隙間なく担ぎ手が埋まると50名程度が担いでいる状態となり,本件事故当時は,正確な人数は不明であるが,30~40人程度の人員はいたと主張する。 この点,D地区の大太鼓について,担ぎ棒に担ぎ手が隙間なく配置された場合に,担ぎ手が総勢で何名程度になるのか,本件事故当時何名程度の担ぎ手が配置されていたのかを客観的に明らかにする証拠は見当たらない。 D地区の大太鼓を担いでいたL証人は,人手は少なかったものの担ぎ手は40人前後であったと証言し,本件事故の様子を目撃していたB地区の担ぎ手であった証人Kは,30人~40人程度で,担ぎ棒に少し隙間がある程度であったと証言しており,原告自身も,応援の担ぎ手が入った後には,担ぎ棒に,担ぎ手が密集するとまではいかないものの,一応差し上げをやってみようという人数はいたと供述している。そして,本件事故当時のD地区の大太鼓練りの様子をテレビ局が撮影した録画映像(甲21,甲53の1,甲53の2)をみると,どの時点で担ぎ手の応援が入ったのかは必ずしも明らかではないものの,D地区の法被を着ていない複数人の担ぎ手が見られ,担ぎ棒に大きな隙間は見て取れない。 (イ) もっとも,前記認定事実(4)イによれば,一番手であったD地区は,午前中の大太鼓練りの際,練り場において差し上げ動作を何度か試みたが,担ぎ 手が見られ,担ぎ棒に大きな隙間は見て取れない。 (イ) もっとも,前記認定事実(4)イによれば,一番手であったD地区は,午前中の大太鼓練りの際,練り場において差し上げ動作を何度か試みたが,担ぎ手の人数が不足していたため差し上げることができず,応援の 要請に応じて,複数名の担ぎ手がD地区の担ぎ手に加わった後,再度差し上げ動作を試みたものの,本件事故が発生し,結局,完全な形での差し上げ動作を行うことはできなかった。このような結果からみて,本件事故当時,担ぎ手が不足していたとも考えられる。 しかしながら,担ぎ手の人数の多寡にかかわらず,大太鼓を担いだ状態では,各担ぎ手は,自分の周囲にいる担ぎ手の動きは見えるものの,離れた場所にいる担ぎ手の動きを見ることはできないから,掛け声と拍子木の音を頼りにして,一斉に差し上げ動作を行うことになる。このような場合,大太鼓の前部と後部又は左右で,担ぎ手が腕を上げるタイミングがずれれば,大太鼓が,差し上げが遅れた側に傾くと考えられ,遅れた側の担ぎ手がそのまま大太鼓を支え続けて体勢を立て直すことができれば,差し上げを行うことができるが,支えきれない場合には,差し上げが遅れた側に大太鼓の重量がかかることとになる。 実際,平成28年に開催されたE神社秋祭りにおいて,被告C自治会が,大太鼓の差し上げ動作を行った際の録画映像(乙23)を見ると,次のような様子が見て取れる。 a 担ぎ棒全体に隙間なく担ぎ手が配置されている。 b 掛け声と拍子木に合わせて差し上げ動作を行った際,前部と右後部は差し上がり,左後部はこれと同時に差し上げることができず,左後部に若干傾いた状態となり,同部分の担ぎ手が体勢を立て直し,差し上げを試みた。 c 大太鼓全体が右側に押されるような形となり,前後左右を含め,担ぎ手が差し上げ と同時に差し上げることができず,左後部に若干傾いた状態となり,同部分の担ぎ手が体勢を立て直し,差し上げを試みた。 c 大太鼓全体が右側に押されるような形となり,前後左右を含め,担ぎ手が差し上げ動作を諦めて,担ぎ棒を各自の肩で支える態勢に戻そうとした。 d 後部の担ぎ手が支え続けることができず,後部が大きく下がる形で,大太鼓が大きな音を立てて地面に落ちた(台座が地面と接触し た)。 上記の映像に鑑みると,差し上げ動作の際には,人数の多寡に関係なく,大太鼓の前部と後部又は左右でタイミングがずれることがあり,その場合には,その部分と他の部分との間に高低差が生じ,本件事故時と同様に,差し上げが遅れた側に大太鼓の重量がかかる状態になるということができる。 (ウ) 以上の点を総合すると,上記(4)エのとおり,担ぎ棒に満遍なく担ぎ手が付き,担ぎ棒に大きな隙間がないような状態となったと認定するのが相当である。 3 請求原因ア・イ(本件事故に至る経緯・態様,本件事故の発生原因)について(1) 前記2の認定事実(4)によれば,本件事故に至る経緯・事故態様,原告の状況等を次のように整理することができる。 ア原告を含む複数名が,D地区の担ぎ手又は関係者から担ぎ手の応援の要請を受け,D地区の大太鼓練りに加わった。その際,担ぎ棒に大きな隙間がない程度に満遍なく担ぎ手が配置されていた。 イ D地区の担ぎ手が,差し上げ動作を試みた際,大太鼓の前部のみが差し上がり,差し上がらなかった後部との間に高低差が生じた。 ウ前部の担ぎ手は差し上げを継続したため,大太鼓の重量が後部の担ぎ手にかかる状態となり,後部の担ぎ手は,各々の判断で,担ぎ棒から手を離し,体を大太鼓から離した。 エその時,原告は,後部右側の内側の担ぎ位置におり,自分の を継続したため,大太鼓の重量が後部の担ぎ手にかかる状態となり,後部の担ぎ手は,各々の判断で,担ぎ棒から手を離し,体を大太鼓から離した。 エその時,原告は,後部右側の内側の担ぎ位置におり,自分の周りの担ぎ手が離れていくのを感じたものの,逃げるタイミングを失し,大太鼓の重量を自分の体で受け,しゃがみこむような態勢となり,傾いた大太鼓の担ぎ棒と地面の間に体を挟まれた。 オ原告は,本件事故当時,通常の健康体であり,酒に酔った状態にはなか った。 カ原告自身,本件秋祭りの前年に開催されたE神社秋祭りにおいても,D地区のものを含め,大太鼓練りに参加した経験があり,差し上げ動作を行って大太鼓のバランスが崩れた際には,手を離して逃げることができた経験があった。 (2) 本件事故の発生原因に関し,上記(1)の基本的な事実関係について,前記認定事実を基にして検討すると,次のとおりである。なお,①差し上げ動作の際,大太鼓の後部が差し上がらず,前部との間に高低差が生じたことと②前部と後部との間に高低差が生じた状態から,他の担ぎ手とは異なり,原告のみが担ぎ棒から手を離すことができず,大太鼓から離れられなかったこととに分けて分析するのが相当である。 ア大太鼓の前後又は左右において,差し上げのタイミングがずれ,差し上げが遅れた側に傾き,前後左右で高低差が生じ(①),低くなった側の担ぎ手に大太鼓の重量がかかった場合において,担ぎ手が大太鼓を支えることができている間は,大太鼓が落下することはなく,担ぎ手が大太鼓の重みに耐えられず,各々の判断で担ぎ棒から手を離し,徐々に大太鼓から離れていくと,担ぎ手が手を離した側に大太鼓が大きく傾き,やがて地面に落下する。 イ大太鼓のバランスが前後左右で大きく崩れた場合でも,担ぎ手が,担ぎ棒から手を離し,大 手を離し,徐々に大太鼓から離れていくと,担ぎ手が手を離した側に大太鼓が大きく傾き,やがて地面に落下する。 イ大太鼓のバランスが前後左右で大きく崩れた場合でも,担ぎ手が,担ぎ棒から手を離し,大太鼓から離れ,(②と異なり)逃げることができれば,本件事故のように,体を地面と担ぎ棒との間に挟まれることはない。 ただし,担ぎ棒から手を離し,大太鼓から離れるタイミングは,自分の周囲の担ぎ手の様子から各自において判断する必要がある。そして,大太鼓が傾いた状態で地面に落下すれば,大太鼓には高さ約80cmの台座が設置されているものの,大太鼓の重量も相まって,担ぎ棒と地面との間に体が挟まれることがあり得る。 ウ本件事故以前にも高低差が生じること(①)による差し上げの失敗自体は少なからず起こっており,一定の頻度で起こり得る。差し上げの失敗に引き続いて重大な事態が生じたのは今回が初めてである。差し上げが失敗することは,それ自体で危険な事態をもたらすわけではなく,原告が逃げるタイミングを失した事態となったこと(②)が本件事故の直接の原因と考えられる。 エ原告が逃げるタイミングを失したのは,原告自身,本件秋祭りの前年に開催されたE神社秋祭りにおいて,D地区のものを含め,大太鼓練りに参加した経験があり,差し上げ動作を行って大太鼓のバランスを崩れた際には,手を離して逃げることができた経験を有することからすると,原告が担いでいた棒において,急速に下向きの力が加わり,その速度が通常人の反応可能な範囲を超えていたためであったと考えられる。そして,そのような事態が生じたのは,前部において,強力に差し上げを継続し,後部において,原告以外の担ぎ手が原告の予想に反して短時間で手を離し一斉に逃げる動作に入ったことによると考えられる。間もなく,大太鼓の土台の後 態が生じたのは,前部において,強力に差し上げを継続し,後部において,原告以外の担ぎ手が原告の予想に反して短時間で手を離し一斉に逃げる動作に入ったことによると考えられる。間もなく,大太鼓の土台の後部部分は,地面につき,そこを支点として,てこの原理が働き,傾いた大太鼓の担ぎ棒と地面の間において,しゃがみこむような態勢となっていた原告に大きな力が加わったものと推認することができる。 オ差し上げの断念について,現状では,担ぎ手によってそのタイミングがまちまちとなり得(木持ちは,差し上げのタイミングを合わせるために拍子木を打つが,差し上げに成功しなかった場合の収め方について,タイミングを合わせる役割は担っていない。),前後左右で強い偏りが生じた場合,本件のような事態が生じ得る。差し上げ断念のタイミングを見計らって合図をかける役割の者はおらず,事前にその合図の確認もされていない。上記のような事態(前後部で異なる動きをすること)は,担ぎ手の多寡にかかわらず,生じ得ると考えられる。 カなお,上記2の認定事実(3)及び(5)アの補足説明のとおり,差し上げ動作の掛け声及び大太鼓を持ち上げるタイミングは,各地区において概ね共通しているし,大太鼓のバランスが崩れた場合に,担ぎ棒から手を離し,大太鼓から離れるタイミングは,その状況下において,自分の周囲の担ぎ手の様子から各自において判断することになるから,大太鼓を担ぐ地区の違いによって,そのタイミングが左右されるということにはならない。 また,原告は,原告が応援に入り担いでいた場所(後部右側の内側の担ぎ棒)は,担ぎ棒の最も危険な位置であったと主張するが,外側の担ぎ棒を担ぐ担ぎ手と比較して,内側を担ぐ担ぎ手は,視界が遮られるため,周囲の様子を察知するのがやや遅れる可能性はあるものの,担ぎ棒から手 ぎ棒)は,担ぎ棒の最も危険な位置であったと主張するが,外側の担ぎ棒を担ぐ担ぎ手と比較して,内側を担ぐ担ぎ手は,視界が遮られるため,周囲の様子を察知するのがやや遅れる可能性はあるものの,担ぎ棒から手を離し,担ぎ棒と担ぎ棒の間に体をずらして大太鼓を避けることはできるから,同位置が,直ちに危険な位置であるということはできない。 したがって,担ぎ手の応援を要請したことが,本件事故の発生に寄与したとは認められない。 (3) 原,被告の主張についてア原告の主張について(ア) 原告は,上記(1)の事故態様を前提として,本件事故が発生した原因について,担ぎ手の人数不足,日頃の練習不足が原因となって,差し上げ動作の際,大太鼓の後部が差し上がらず,前部との間に高低差が生じ,さらに,原告は,D地区の差し上げ動作のタイミングが分からず,かつ,危険な場所にいたために逃げることができなかったと主張する。 このうち,担ぎ手の人数不足を指摘する点については,既に検討したとおり,採用できない。 また,練習不足を指摘する点については,原告のいう練習不足は,差し上げ動作についてであり,差し上げ断念についてのものではない。差し上げ断念について上記のような措置を執らないまま練習を繰り返して も,本件事故のような事態が起こる確率を減少させることができるとはいえない。 さらに,上記のとおり,差し上げ動作の掛け声及び大太鼓を持ち上げるタイミングは,各地区において概ね共通しているし,大太鼓のバランスが崩れた場合に,大太鼓から離れるタイミングは,大太鼓を担ぐ地区の違いによって,そのタイミングが左右されるということにはならない。 原告は,原告が担いでいた場所(後部右側の内側の担ぎ棒)は,担ぎ棒の最も危険な位置であったと主張するが,上記(2)カのとおり,同位置が よって,そのタイミングが左右されるということにはならない。 原告は,原告が担いでいた場所(後部右側の内側の担ぎ棒)は,担ぎ棒の最も危険な位置であったと主張するが,上記(2)カのとおり,同位置が,直ちに危険な位置であるということはできない。 (イ) 原告は,本件事故後に統括本部の役員らが集まり,事故防止のための会議を開き,本件事故の発生原因が,担ぎ手の人数不足にあること,大太鼓を担ぐリズムの違いにあることが確認され,他地区の大太鼓練りに参加しないよう指導するなどの再発防止策が策定されていると主張する。 この点,証拠(甲6,甲7の1,甲7の2,乙19,乙20,証人F,証人H)によれば,本件事故後の平成24年10月31日に,被告H,被告F,被告Iのほか,統括本部の役員らが集まり,事故防止のための会議が開かれ,本件事故が原告主張の原因に起因するとの議論がなされ,その旨の書面がまとめられたことが認められる。しかしながら,事故防止のための会議の際には,原告の父の意見や各出席者の経験に基づく意見に基づき議論がされたことがうかがわれるものの,本件事故当時に実際に大太鼓を担いだ者や目撃者からの事情聴取を行うなど,事故状況を再現し,議論された事故原因を吟味する調査は行われていない。 その点を踏まええれば,原告が主張する事情から本件事故の発生原因を推認することは相当でなく,上記(2)の認定を左右しない。 (ウ) 原告は,統括本部の運営要綱において,他地区の大太鼓練りには参加しないよう各地区において指導する旨の規定があること(前記2の認定事実(2)ウ)を指摘して,他地区の大太鼓練りに参加することの危険性を主張する。 しかしながら,差し上げ動作の際の掛け声は地区によって異ならず,大太鼓のバランスが崩れた場合に,担ぎ棒から手を離し,大太鼓から離 )を指摘して,他地区の大太鼓練りに参加することの危険性を主張する。 しかしながら,差し上げ動作の際の掛け声は地区によって異ならず,大太鼓のバランスが崩れた場合に,担ぎ棒から手を離し,大太鼓から離れるタイミングが地区の違いによって左右されないことは,上記(2)カのとおりである。上記規定が設けられた趣旨は必ずしも明らかでないが,同規定の存在から,直ちに,他地区の大太鼓練りに参加することが危険であるということはできない。原告の主張は採用できない。 イ被告らの主張について被告らは,大太鼓の前部と後部の担ぎ手の差し上げのタイミングがずれ,バランスが崩れた際,担ぎ手が危険を感じた場合にはその場から離脱する時間的余裕があるから,本件事故の原因は,原告が,下を向いているなどして周りの人の動きに気付くのが遅れた,あるいは,飲酒の影響により判断力,反射速度が低下した状態であったため,適正な回避行動を取れなかったことにあると主張する。 しかしながら,前記2の認定事実(4)ア及び(5)イの補足説明のとおり,原告は,本件事故当時,通常の健康体であり,酒に酔った状態にはなかった。また,原告は,差し上げ動作を行って大太鼓のバランスを崩れた際には,手を離して逃げることができた経験があり,担ぎ手が大太鼓を支えきれない場合には,各自の判断で担ぎ棒から手を離して逃げなければいけないこと自体は理解していたと考えられる。これらの点からすると,前後のバランスの崩れが急速で反応が追いつかなかったとみるのが相当である。 4 請求原因ウ(責任原因)について(1) 原告は,本件秋祭りを主催する統括本部及び被告ら全員について,原告を 含む大太鼓の担ぎ手との間の実質的な指揮命令関係に基づき,原告に対する安全配慮義務の主体となり,それぞれについて,本件事故を回避する措置 秋祭りを主催する統括本部及び被告ら全員について,原告を 含む大太鼓の担ぎ手との間の実質的な指揮命令関係に基づき,原告に対する安全配慮義務の主体となり,それぞれについて,本件事故を回避する措置を執らなかったことについて,安全配慮義務違反があると主張する。 (2) 本件事故に関し,原告に対して安全配慮義務を負う者がいるか,いるとして,どのような義務を負うか否かは,事故原因を前提として,事故発生回避措置の有無・内容を判断し,これに基づいて検討する必要がある。 そこで,上記3において検討した本件事故の発生原因を前提として,本件事故の回避措置について検討する。 ア上記3(2)において判示したとおり,差し上げ動作の際,大太鼓の後部が差し上がらず,差し上げが失敗することは,それ自体で危険な事態をもたらすわけではなく,原告が逃げるタイミングを失した事態となったことが本件事故の直接の原因と考えられる。 通常,担ぎ手は,自分の周囲の担ぎ手の様子から各自において判断し,逃げるタイミングを取ることができ,このような判断・動作自体は,特別な技術を要しないと考えられる。 しかし,大太鼓のバランスが崩れ,大太鼓が傾き急速に地面に落下すれば,大太鼓の重量も相まって,担ぎ棒と地面との間に担ぎ手の体が挟まれることがあり得る。このような場合において,担ぎ手が担ぎ棒から手を離して逃れるタイミングは,その時々で異なるから,上記のような感覚・動作を練習によって身に着けることは困難である。 そうすると,上記のような危険性が内在していることを前提として,事故を回避する措置について考える必要がある。 イ大太鼓の差し上げに際し,上記危険性が顕在化し,差し上げが遅れた側に急速に大太鼓の重量がかかり,大太鼓が地面に落下するに至る場合には,本件と同様の事態が生じ得る。その ついて考える必要がある。 イ大太鼓の差し上げに際し,上記危険性が顕在化し,差し上げが遅れた側に急速に大太鼓の重量がかかり,大太鼓が地面に落下するに至る場合には,本件と同様の事態が生じ得る。そのような事態が生じないようにするため,大太鼓の全体を観察し,差し上げ断念のタイミングを見計らって合 図をかける役割の者を配置するなどの措置を執っていれば,本件事故を防ぐことができたと考えられる。 (3) この点,本件事故が発生した被告D自治会を含め,被告四自治会と大太鼓だんじり運行を監督する立場にあった統括本部において,大太鼓練りに一定の危険性が内在していることを認識した上,上記のような措置を執ることを検討していたとはうかがわれない。 (4) そこで,被告らにおいて,本件事故当時において,少なくとも,大太鼓の差し上げ動作に内在する危険性を認識し,上記の態様の事故が起こることを予見し,事故を防止する回避措置を執り得たかを検討する。 アこの点,大太鼓の担ぎ手には,応援の担ぎ手を要請した場合に限らず,いずれの地区においても,経験の浅い担ぎ手と経験を積んでいる担ぎ手とが混在している。このように,多様な担ぎ手がいることを考慮して,事故防止措置を考える必要があることは明らかである。また,担ぎ棒の担ぎ手が支え続けることができず,当該部分が大きく下がる形で,大太鼓が大きな音を立てて地面に落ちる(台座が地面と接触した)というような事態(前記2(5)ウ(イ)d)を目にすることはこれまでもあったと考えられ,このような事態に伴う危険性を想定することは可能ということができる。 イ他方,上記(2)のとおり,本件事故については,大太鼓のバランスが崩れ,前部との間に高低差が生じたとしても,担ぎ棒から手を離し,大太鼓から離れることで基本的には回避することができる ができる。 イ他方,上記(2)のとおり,本件事故については,大太鼓のバランスが崩れ,前部との間に高低差が生じたとしても,担ぎ棒から手を離し,大太鼓から離れることで基本的には回避することができる事故であり,その点に特別な技術は必要でない。実際,前記2の認定事実(3)オのとおり,E神社秋祭りにおいて,大太鼓だんじり運行は,数十年にわたって実施されているが,本件事故以前に,本件事故と同様の態様の事故を含め,担ぎ手が重傷を負うような人身事故は発生したことはない。これまで,大太鼓の差し上げに際し,バランスの崩れに起因して,大太鼓が地面に落下したことはあっても,逃げることができなかった者はいなかったということができ る。 ウ以上の点を総合すると,上記アで想定できる危険性は抽象的なものであり,イの経緯を考慮すると,統括本部及び被告らのいずれにおいても,大太鼓の差し上げ動作に内在する危険性を具体的に認識することは困難であったといわざるを得ない。そうすると,被告らについては,本件事故に関し,これまでに,上記危険性に対処する措置を考える契機となる事情はなく,安全配慮義務の前提となる予見可能性がなかったということになる。 以上によれば,被告らのいずれについても,原告に対し,安全配慮義務を負うとは認められない。 エこの点,原告は,被告らの予見可能性を基礎づける事情として,兵庫県内及び他の都道府県において,本件大太鼓と類似した大太鼓の運行を含め,人身事故が発生したことが報道されていることを指摘し,これに沿う証拠(甲42~甲44〔いずれも枝番を含む。〕)を提出する。もっとも,いずれの事故についても,その詳細な事故原因までは明らかになっていない。これらの報道が,本件の大太鼓だんじり運行を含め,そのような行事に伴う一般的抽象的な危険性を認識する 〕)を提出する。もっとも,いずれの事故についても,その詳細な事故原因までは明らかになっていない。これらの報道が,本件の大太鼓だんじり運行を含め,そのような行事に伴う一般的抽象的な危険性を認識する契機となり得ることは否定できない。しかしながら,本件の事故原因との関係で,被告らの予見可能性を基礎づけるということはできない。原告が主張する事情を考慮しても予見可能性を認めるには足りない。 5 よって,原告の請求は,その余の争点について判断するまでもなく理由がない。 第4 結論以上によれば,原告の請求は,いずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第5民事部 裁判長裁判官冨田一彦 裁判官伊丹恭 裁判官安井亜季

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