平成16(ネ)112 債務不存在確認請求控訴事件,同反訴請求事件

裁判年月日・裁判所
平成18年9月28日 大阪高等裁判所 その他 大阪地方裁判所 堺支部 平成15(ワ)968
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判決文本文42,196 文字)

- 1 -平成18年9月28日判決言渡平成16年(ネ)第112号債務不存在確認請求控訴事件(以下「本訴」という。)平成18年(ネ)第823号同反訴請求事件(以下「反訴」という。)(原審・大阪地方裁判所堺支部平成15年(ワ)第968号)判決主文 1審被告の本件控訴及び反訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。 ( ) 1審原告らの各本訴請求にかかる訴えをいずれも却下する。 ( ) 1審原告らは,1審被告に対し,連帯して,金2016万7091円及び これに対する平成13年11月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 ( ) 1審被告のその余の反訴請求をいずれも棄却する。 1審原告らの本件各控訴をいずれも棄却する。 訴訟費用は,第1,2審及び本訴,反訴を通じて5分し,その4を1審被告,その余を1審原告らの各負担とし,補助参加費用は,これを5分し,その4を1審被告,その余を補助参加人の各負担とする。 この判決は,第1項( )に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1申立て 1審原告らの控訴の趣旨(本訴関係)( ) 原判決を次のとおり変更する。 ( ) 1審原告らと1審被告の間において,別紙交通事故目録記載の交通事故 (以下「本件事故」という。)に基づく1審原告らの1審被告に対する損害賠償債務は,39万7608円を超えて存在しないことを確認する。 1審被告の控訴の趣旨( ) 原判決中,1審被告敗訴部分を取り消す。 - 2 -( ) 上記取消にかかる1審原告らの本訴請求をいずれも棄却する。 当審における1審被告の反訴請求の趣旨1審原告らは,1審被告に対し,連帯して,1億0223万5758円及びこれに対する平成13年11月16日から支払済みまで年6分の割合 をいずれも棄却する。 当審における1審被告の反訴請求の趣旨1審原告らは,1審被告に対し,連帯して,1億0223万5758円及びこれに対する平成13年11月16日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要 本件は,1審原告Aの運転する加害車両が,1審被告の運転する被害車両と衝突して本件事故を惹起したところ,1審被告が頸椎捻挫,左肩関節捻挫,左第7肋骨骨折等の傷害(以下「本件各傷害」という。)を負った上,RSDない,しCRPS(反射性交感神経性ジストロフィー。以下,格別のことがない限り「RSD」と総称する。)に罹患して左上肢が機能しなくなったことを理由として,損害賠償責任がある旨を主張することから,1審原告らが,1審被告に対し,本件事故に起因するRSDの発症を争った上,既払金451万円を控除すると,本件事故に基づく損害賠償債務は39万7608円を超えては存在しないと主張して,その旨の債務不存在確認を求めた事案である。 これに対し,1審被告は,本件事故による本件各傷害に起因するRSDが左上肢に発症し,その機能が廃された旨主張し,上記既払金を控除しても,1審原告ら主張の損害額をはるかに上回る損害を被ったとして,上記請求を争った。 原審裁判所は,1審原告らの1審被告に対する上記損害賠償債務が981万0271円を超えて存在しないことを確認する限度において1審原告らの請求を認め,その余の請求をいずれも棄却した。 そこで,これを不服とする1審原告ら及び1審被告の双方が本件各控訴を提起した。 なお,1審原告B所有の加害車両について自動車損害賠償責任保険を締結している補助参加人が1審原告らのために補助参加した。 また,1審被告は,当審において前記の反訴を提起したところ,1審原告ら- 3 -は,同反訴の提起につい 車両について自動車損害賠償責任保険を締結している補助参加人が1審原告らのために補助参加した。 また,1審被告は,当審において前記の反訴を提起したところ,1審原告ら- 3 -は,同反訴の提起については同意できない旨を述べた。 第3当事者の主張 争いのない事実等(証拠により認定する事実以外は,すべて当事者間に争いがない)。 ( ) 平成13年11月16日,1審原告A運転の加害車両が1審被告(昭和3 6年4月25日生)運転の被害車両に衝突する本件事故が発生した。 ( ) 1審被告は,本件事故により本件各傷害を被り,平成14年5月18日に 症状が固定したとの診断を受けた。 ( ) 責任原因 ア1審原告Aは,加害車両を後退させる際,後方の安全を確認すべき注意義務があるのにこれを怠り,被害車両に気づかないで後退し,加害車両を被害車両に衝突させた過失がある(甲第2号証,当審における1審原告A本人尋問の結果〔以下「1審原告Aの供述」という〕及び1審被告本人。 尋問の結果〔以下「1審被告の供述」という。 。〕)したがって,1審原告Aは,民法709条に基づき1審被告の被った損害を賠償する責任がある。 イ1審原告Bは加害車両の保有者であり,1審原告Cは加害車両の運行供用者である(甲第4号証)から,いずれも自賠法3条に基づき,本件事故により1審被告の被った損害を賠償する責任がある。 ( ) 1審被告が,本件事故に基づき,本件口頭弁論終結時までに,支払を受け た金額は451万円を下らない。 ( ) 1審原告らは,1審被告に対し,既払金451万円を控除すると,39万 7608円を超えて本件事故による損害賠償債務は存在しない旨を主張するのに対し,1審被告は,1審原告らに対し,既払金を控除しても1億0223万5758円の損害賠償請求権を有すると すると,39万 7608円を超えて本件事故による損害賠償債務は存在しない旨を主張するのに対し,1審被告は,1審原告らに対し,既払金を控除しても1億0223万5758円の損害賠償請求権を有するとしてこれを争っている。 争点及び当事者の主張- 4 -( ) RSD発症の有無,機能障害の内容・程度について 【1審被告の主張】アRSDの発症1審被告は,本件事故により,D整形外科(E医師)を受診し,本件各傷害を負った旨の診断を受け,同外科の平成14年5月18日(症状固定時)付け自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書(以下「後遺障害診断書」という。甲第19号証)には,圧痛著明,運動痛,知覚障害,知覚過敏,知覚鈍麻,左手指腫脹,左手指の屈曲不十分,左握力は0~1.0㎏,左肩甲部・背部への放散痛が著明,頸椎は前屈時に直線化している旨が記載された。 その後,1審被告の左上肢(左肩,左肘,前腕,左手,左手指)及び頸部には,本件事故に起因するRSDに基づく機能障害が生じた。 このことは,①F病院(医療法人G)脳神経内科H医師(以下「F病院」という)において,平成14年10月31日,1審被告が本件事故によ。 り左上肢にRSD(カウザルギー)を発症した旨診断されたこと(乙第32号証),②I病院整形外科J医師(以下「I病院」という。)も1審被告が外傷性頸部症候群,RSDであって左上肢機能の全廃にて後遺障害等級(以下「障害等級」という。)2級相当である旨の所見を示したこと(乙第,21号証の1,2),③K労働基準監督署も,平成15年6月9日付けで1審被告の労働災害の障害等級を7級3号と認定して支給決定をしたが(乙第3号証の1ないし3,その決定理由において左上肢のRSDを認)めていること(乙第12号証),④D整形外科は,同年10月19日付け後遺障 労働災害の障害等級を7級3号と認定して支給決定をしたが(乙第3号証の1ないし3,その決定理由において左上肢のRSDを認)めていること(乙第12号証),④D整形外科は,同年10月19日付け後遺障害診断書に外傷による左肩,左上肢のRSD(カウザルギー)である旨を診断したこと(当審提出の乙第47号証)からも明らかである。 イ内容及び程度1審被告は,上記RSDにより,次のとおり機能障害を生じた。 - 5 -(ア) 左上肢①左手指の機能では関節可動域はほぼ0度であり,筋力も消失又は著減であるから,1手の5の手指の用を廃したものとして障害等級7級7号である。 ②左肩の関節可動域は,右側に比べて極峡の角度であり,筋力も消失又は著減であるから,肩関節の用を廃したものである。 ③左肘の関節可動域は,右側に比べて3分の2の角度であり,筋力も消失又は著減であるから,肘関節の用を廃したものである。 ④前腕の関節可動域は,右側に比べて9分の8の角度であるが,筋力も半減しているから,前腕関節の用を廃したものである。 ⑤左手の関節可動域は,右側に比べ極峡の角度であり,筋力も消滅ないし著減であるから,左上肢の手肩関節の用を廃したものである。 ⑥以上,②から⑤は,いずれも障害等級8級6号に該当するところ,これに①を併せると,1審被告は,左上肢の用を廃したものとして5級4号に該当する。 (イ) 脊柱頸部の前・後屈,右・左屈の各可動は極峡の角度であり,筋力も半減であるから,頸部の軟部組織に明らかな器質的変化(RSD)が認められ,その主要運動の可動域が健常者の2分の1以下に制限されているものである。 よって,1審被告は,脊柱に著しい運動障害を残すものとして6級4号と認められる。 (ウ) 障害の程度以上によると,1審被告の障害の程度は,労働者災害補償保険法施 1以下に制限されているものである。 よって,1審被告は,脊柱に著しい運動障害を残すものとして6級4号と認められる。 (ウ) 障害の程度以上によると,1審被告の障害の程度は,労働者災害補償保険法施行規則14条2項,3項により5級4号と6級4号を併合し,併合3級と認められるから,労働能力喪失率は100%である。 - 6 -ウ1審被告が左手・左腕・体幹でできない動作等は,乙第46号証に記載のとおりである。1審原告ら及び補助参加人は,1審被告のRSDを否認し,当審で甲第31ないし35号証(写真・ビデオテープ)を提出して,詐病であると主張するが,それらは1審被告の動作を遠方から隠し撮りして編集したビデオにすぎず,正確な測定等は不可能であるし,相当な根拠もなく,1審被告を詐欺呼ばわりするものであって,1審被告は1審原告ら及び訴訟代理人に対し謝罪を求める。 【1審原告らの主張】アRSD発症の有無,機能障害の内容・程度についての反論(ア) 1審被告にRSDの発症はないこと①RSDの主徴は,疼痛・腫脹・関節硬直・皮膚変色の4つであり,その他の徴候としては,血管運動の不安定性・発汗・皮膚温・骨萎縮・皮膚栄養障害・手掌腱膜炎があるところ,この4主徴のすべてがあって,その他の徴候も大部分ある場合に疑診となるが,確定診断には交感神経の関与があることの証明,すなわち交感神経遮断によって明らかな改善が得られることが必要である(甲第36号証)。 しかし,1審被告が根拠として挙げるいずれの医師の診断も,RSDに関する精査を踏まえたものではなく,また,RSDに対する積極的な治療がされた形跡もない。損害保険料率算定機構L自賠責損害調査事務所(以下「自賠責損害調査事務所」という)も明確にRSD。 と認めることは困難としている(甲第29号証)。 ②RSDの浮腫 積極的な治療がされた形跡もない。損害保険料率算定機構L自賠責損害調査事務所(以下「自賠責損害調査事務所」という)も明確にRSD。 と認めることは困難としている(甲第29号証)。 ②RSDの浮腫は,初期に見られるが,病気の進行とともに萎縮性変化が見られることが多いのであって,1審被告のように初期に見られなかった浮腫が数年後に出現するのは不自然である。 ③1審被告には,D整形外科を受診した当初から平成14年3月31- 7 -日までの間に左上肢の脱力感・痺れがあった(第6号証)ところ,甲同年5月18日になると,左上肢から手指の運動障害,左背部から左上肢の知覚異常等の症状を呈しており(甲第19号証),同年4月1日以降に急激な症状の増悪が認められ,I病院の平成15年1月22日付け身体障害者診断書・意見書(乙第21号証の1,2)では左上肢機能全廃とされるに至っている。 このような一定期間を経過した後に増悪する症状の経過は,外傷に伴う症状経過としては首肯し難いものである。 ④F病院は,自賠責損害調査事務所に対し,皮膚所見,皮膚温低下,筋萎縮(軽度)があり,他に原因がないため,不全型であるがRSDと診断した旨,I病院は,受診直後から症状があったわけではなく,約半年経過して理学療法を開始してから急に症状が進行した経過を見ると,外傷そのものの症状というよりも,自律神経の関与を強く疑った旨を各回答している。また,1審被告は,上記各病院に1ないし2日受診したにすぎないし,上記各病院がRSDを疑って積極的に治療をした形跡も見られない。 ⑤I病院の身体障害者診断書・意見書によると,左上肢の周径は健側と比較して0.5センチ細いのみであり,明らかな筋萎縮の所見は認められない。 (イ) 当審における鑑定人Mの鑑定の結果(同鑑定人尋問の結果を含む。以下 害者診断書・意見書によると,左上肢の周径は健側と比較して0.5センチ細いのみであり,明らかな筋萎縮の所見は認められない。 (イ) 当審における鑑定人Mの鑑定の結果(同鑑定人尋問の結果を含む。以下「M鑑定」という)について。 ①M鑑定は,左上肢の症状をRSDないしCRPSによるものである可能性が高いとするが,故意に四肢を緊縛し血流を遮断することによって類似の病態を作出することは可能であり,たった1回の診察で故意により作出された症状かどうかを見分けることは困難と思われる。 - 8 -②M鑑定資料( )の平成17年10月31日付け左上肢機能評価書と D整形外科作成の平成14年3月31日付け後遺障害診断書(甲第16号証)の左肩関節及び頸椎部の運動障害を比較すると,前者の方がかなり悪化している。また,M鑑定資料( )の平成17年10月30 日撮影の左手の写真と,平成16年3月10日撮影の左手の写真(乙第61号証の2の下段)を比較すると,前者の方がかなり悪化している。 しかるに,1審被告において平成14年3月31日の後遺障害診断書作成以前も以後もRSDの専門医を受診した形跡はない。このように左上肢の症状が悪化しているにもかかわらず,専門医を受診し,治療を受けていないのは極めて不自然であり,詐病の疑いがある。 ③M鑑定は,左上肢に廃用性の骨萎縮や筋萎縮が実際にあるかどうか,1審被告の症状が甲第31号証(ビデオ)と矛盾しないかどうかを検討しないまま結論に導いており,問題がある。 (ウ) 以上によると,1審被告の左上肢にRSDの発症を認めることはできない。 イ機能障害の内容及び程度(ア) 自賠責損害調査事務所は,1審被告の後遺障害を併合11級と判定したが,その理由は次のとおりである(甲第29号証。 )①受傷当初から左上肢の脱力感,痺 きない。 イ機能障害の内容及び程度(ア) 自賠責損害調査事務所は,1審被告の後遺障害を併合11級と判定したが,その理由は次のとおりである(甲第29号証。 )①受傷当初から左上肢の脱力感,痺れの神経症状が存在し,D整形外科は左手指の腫脹を,F病院は左手のうっ血,冷感等を認めており,カラー写真上もこれを確認できる。したがって,頸椎捻挫後の頸部から左上肢にかけての神経症状は,他覚的に証明されたといえるから,「局部に頑固な神経症状を残すもの」として12級12号を適用するのが相当である。 ②左肩関節可動域制限については,Ⅹ線上は明らかな異常所見は認め- 9 -られない。しかし,その経過や他動値も制限されていることを考慮し,左肩関節捻挫後の拘縮に起因すると捉えることとし,その障害の程度については,屈曲・伸展及び外転の運動可能領域が健側の3/4以下に制限されていることから「左肩)関節の機能に障害を残すも,(の」として12級6号を適用する。 (イ)以上のとおりであるから,1審被告の障害等級は,併合11級と認めるのが相当である。 ウ乙第46号証中には,1審被告は,①左手で扉の開閉ができず,ノブを回せないこと,②(左手で)お盆を持てないこと,③左上肢を使えないこと等の記載がある。 しかし,当審で提出した甲第31ないし35号証のとおり,①②については,1審被告は,平成15年8月22日,右手に荷物を持ち,左手で建物出入口ドアを開けていること,③については,1審被告は,同年8月30日,外食産業の店で椅子に腰掛け,左手で自分の顔を拭いていること,また,1審被告は,同月22日,車を運転しながら左手を自分の口へ持っていっていることから,左上肢を使えないというのは真実ではない。 【補助参加人の主張】アRSD発症の有無1審被告の主張を前提にす また,1審被告は,同月22日,車を運転しながら左手を自分の口へ持っていっていることから,左上肢を使えないというのは真実ではない。 【補助参加人の主張】アRSD発症の有無1審被告の主張を前提にすると,3年以上,左上肢の痛みで全く動かせない状態が続いていることになる。そうすると,それに起因する廃用性に伴う所見(筋萎縮,骨萎縮と,皮膚温の低下・皮膚の萎縮)を見出せるはずである。そこで,この点について検討する。 (ア) 筋萎縮左上肢が全廃となる重篤な症状が存在すれば,重い筋萎縮が現認できるはずであるところ,①平成14年12月24日付けI病院の所見(甲第44号証)では筋萎縮がないこと,②同年10月31日付けF病院の- 10 -所見では筋電図は正常下界くらいで著変はないこと(甲第43号証),③L労働局地方労災医員N医師作成の平成15年12月20日付け鑑定意見書(以下「N意見」という。乙第50号証の14,15頁)は,視診上左上肢に認めるべき筋萎縮はない旨回答していることからすれば,1審被告の左上肢に筋萎縮はなく,左上肢全廃とはいえない。 (イ) 骨萎縮①N意見のX線所見として,左手には,健側に比し,明らかに骨萎縮がみられる旨の記載がある(乙第50号証15頁)。しかし,I病院の平成14年12月24日付け所見(甲第44号証),D整形外科の平成15年10月9日付け後遺障害診断書(乙第87号証)及びカルテ(甲第41号証)には,骨萎縮に関する記載はないこと,同整形外科の平成14年12月31日付け骨密度の検査結果では,同一年齢の平均骨密度と比較して111%に相当するとの所見があること(乙第87号証)等に照らすと,1審被告に骨萎縮が存在し,左上肢の全廃が生じているとはいえない。 ②M鑑定は,1審被告の患肢を目視し,写真撮影した以外には,客観的な諸 に相当するとの所見があること(乙第87号証)等に照らすと,1審被告に骨萎縮が存在し,左上肢の全廃が生じているとはいえない。 ②M鑑定は,1審被告の患肢を目視し,写真撮影した以外には,客観的な諸検査を行っていない。しかし,RSDによる骨萎縮と筋萎縮は使用しないことから生じる「廃用性の萎縮」だけでなく,血流の不全による萎縮が加わることから,骨折等による場合とは異なり,早期に,かつ,大きな萎縮が認められるはずである。したがって,1審被告の場合,肩関節から指先まで,M鑑定の指摘するような重篤な状態ならば,相当進んだ骨萎縮(筋萎縮)も認められるはずである。しかるに,M鑑定は,骨シンチグラフィーによる骨萎縮の検査はもとより,単純X線写真も,RSDないしCRPSに特異的ではなく,補助的手段としての意味を有するにすぎないとして実施しておらず,その理由を理解できない。 - 11 -③皮膚温の低下・皮膚の萎縮等皮膚の変化F病院の平成14年10月13日付け所見では,左手のうっ血,冷えが客観的に見られたこと(甲第43号証),I病院の平成15年12月20日付け所見では,左手掌,手背ともに光沢を帯びた軽度暗褐色を呈し,特に手指に浮腫性腫脹があったことに照らすと,1審被告の左上肢に,ある程度の皮膚温の低下等の変化が現認できるかもしれないが,著しい皮膚の萎縮は認められないようである。 また,I病院は,平成14年12月24日の診断の際には,皮膚状態の発赤,蒼白,チアノーゼについては認められなかった旨回答し,皮膚温については回答していないこと(甲第44号証),D整形外科も前記診断書において皮膚の変化に関する明確な記載をしていないことからすれば,皮膚の変化についても,左上肢の全廃状態を推認できるような重篤なものではないと判断してよい。 (ウ) 以上によると,R 科も前記診断書において皮膚の変化に関する明確な記載をしていないことからすれば,皮膚の変化についても,左上肢の全廃状態を推認できるような重篤なものではないと判断してよい。 (ウ) 以上によると,RSDにより左上肢の全廃であるとの1審被告の主張と整合性のある検査所見は存在せず,1審被告は,左上肢を相当程度動かせているからこそ,筋萎縮も骨萎縮も生じていないし,皮膚の状態も重篤な変化を来していないものと考えられる。 この点について,K労働基準監督署は,労災認定の中で,関節の拘縮,骨の萎縮,皮膚の変化という慢性期の3つの症状が認められたことから,1審被告の症状をRSDと判断している。しかし,筋萎縮も骨萎縮も皮膚の変化も認められないか,仮に認められるとしても比較的軽度であり,1審被告の自覚症状との整合性に問題が残る以上,RSDと判断することは早計の感を否めない。 イ機能障害の内容及び程度(ア) 1審被告は,M鑑定を援用して左上肢の各関節の可動域制限と筋力の程度を理由に左上肢の全廃を主張する。 - 12 -しかし,関節の拘縮が認められる場合には,その程度によっては関節機能障害として等級認定されることになるが,単なる疼痛に伴う可逆的な可動制限であれば,回復が見込まれるので後遺障害と判断することはできないところ,1審被告については,関節拘縮が不可逆的であり,回復が困難であることを裏付ける証拠はないから,左上肢が全廃である旨の1審被告の上記主張は首肯できない。また,現時点では,強度の疼痛のため,左上肢が全廃になっていることを裏付ける所見もない。 (イ) 1審被告主張の脊柱の運動障害については,労災基準で脊柱の運動障害を認める前提とされている脊椎圧迫骨折・脱臼等の器質的変化が認められないのであるから理由がない。 (ウ) 以上によると,1審被告の障害等 審被告主張の脊柱の運動障害については,労災基準で脊柱の運動障害を認める前提とされている脊椎圧迫骨折・脱臼等の器質的変化が認められないのであるから理由がない。 (ウ) 以上によると,1審被告の障害等級は12級であると認めるのが相当である。 ( ) 損害 【1審被告】ア治療関係費等176万0438円(ア) 治療関係費173万7168円①治療費その177万8678円②治療費その22万7570円③通院費8万2320円(9.8キロ×2回×105日×40円/㎞)④看護料・自宅介護料73万6000円(4000円×184日)⑤看護料・通院介護料11万2600円(2000円×63日)なお,1審被告のD整形外科への通院は,労災アフターケアのために,症状固定後も続いている。 - 13 -(イ) 文書料(診断書)1万3000円(2000円+5000円+6000円)(ウ) その他1万0270円①事故車運搬費用2670円(460円+210円+2000円)②家族駆け付け費用(警察署で事故車ドアロック)2000円③事故日の応急病院搬送及び帰宅費用(パート営業員が介護)5600円(1400円×4時間)イ休業損害184万8670円(ア) 実休業日数(平成13年11月16日から平成14年5月18日までの184日間)(イ) 家事従業者の休業損害(交通事故損害賠償額算定基準,いわゆる赤本による)。 30万5600円(月額)×12か月÷365日×184日=184万8670円ウ通院慰謝料300万円赤本による基準では,通院6か月であるから116万円であるところ,184日間の激しい疼痛があったから,特別加算により184万円を加算し,300万円が相当である。 エ逸失利益5369万8809円(ア) 女子年齢別 ,通院6か月であるから116万円であるところ,184日間の激しい疼痛があったから,特別加算により184万円を加算し,300万円が相当である。 エ逸失利益5369万8809円(ア) 女子年齢別平均給与額366万7200円(月額30万5600円×12か月)(イ) 労働能力喪失率は,前記のとおり左上肢全廃5級と脊柱機能障害6級を併合した障害等級3級であり,したがって100%である。 (ウ) 就労可能年数とライプニッツ計数本件事故当時40歳,係数14.643(エ) 以上によると,逸失利益は5369万8809円である。 - 14 -(計算式)366万7200円×100%×14.643オ慰謝料2270万円(ア) 障害等級3級の後遺障害慰謝料1990万円(イ) 補助参加人に対する9回の異議申立の慰謝料90万円(ウ) 損害保険料率算出機構の鑑定・診察調査義務違反の慰謝料90万円(エ) 1審原告ら代理人の信義則違反による慰謝料50万円(オ) 1審原告らの損害防止義務違反による慰謝料50万円カ将来の損害2373万7841円(ア) 将来の治療費861万3261円(計算式)月7回×5844円(平成17年8月分から平成18年1月分まで1日当たり平均治療費5844円)×12か月×17.546(イ) 将来の通院交通費115万5509円月7回×9.8㎞×2回×40円×12か月×17.546(ウ) 将来の通院介護費168万4416円月4回×2000円×12か月×17.546(エ) 60歳以降の介護費1028万8620円365日×2000円×14.094(オ) 補装具購入費用74万0441円①手袋(縫い目なし)21万0552円1組2000円×3組×2(夏・冬)×17.546②ホットカイロ52万9889円 ×2000円×14.094(オ) 補装具購入費用74万0441円①手袋(縫い目なし)21万0552円1組2000円×3組×2(夏・冬)×17.546②ホットカイロ52万9889円1個100円×2個×151日(冬)×17.546(カ) 日常生活用具購入費用6万4490円①ドライヤー(スタンド式)1万円②フードミキサー器具(スライス,みじん切り等)1万4490円- 15 -③自動食器洗い器4万円(キ) 住宅改造費用27万円①浴室の介護用取っ手1万円②介護用シャワー器具1万円③風呂釜バランス釜を介護用に交換(ボタン式)25万円(ク) 自動車改造費用92万1194円①障害者用ハンドルグリップ器具10万円(5年ごとに)2万円×5回②バック運転用カーナビテレビ40万円(10年ごとに)20万円×2台③洗車費用42万1104円月4回×500円×12か月×17.546キ遅延損害金の利率1審原告らが補助参加人から受領する保険金については商事法定利率年6%で算定されるところ,1審被告の損害賠償請求が年5%であれば,1審原告らは差益1%を不当に利得することになる。 よって,遅延損害金の利率は年6%が相当である。 クまとめ以上アからカまでの合計額から既払金451万円を控除すると,損害額の合計は1億0223万5758円となるから,1審被告は,1審原告らに対し,同金員及びこれに対する不法行為の日である平成13年11月16日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。 【1審原告ら】1審被告の本件事故による損害は,次のとおり合計490万7608円を超えない(したがって,既払金451万円を控除すると,39万7608円- 16 -を超えない)から,これを超える 【1審原告ら】1審被告の本件事故による損害は,次のとおり合計490万7608円を超えない(したがって,既払金451万円を控除すると,39万7608円- 16 -を超えない)から,これを超える1審被告の損害の主張は争う。 。 ア治療費80万6248円(ア) D整形外科(甲第6ないし21号証)平成13年11月16日から平成14年5月27日までの治療費73万8808円(イ) Oクリニック(甲第23,第24号証)平成14年5月23日の治療費6万7440円なお,1審被告が本件事故によって被った傷害は,平成14年5月18日に症状固定となっている。したがって,それ以降の治療費は,本件事故とは相当因果関係がない。 イ通院交通費4万1160円1審被告宅からD整形外科まで片道約9.8㎞であるところ,1審被告は,自家用車で105日間通院したので,通院交通費は4万1160円となる。 なお,通院介護の必要性は認められない。 (計算式)20円×9.8㎞×2(往復)×105日ウ休業損害12万3200円(ア) 1審被告は,本件事故当時,P保険株式会社のパート社員であり,代理店を回って自賠責保険金の集金業務を行っていた。しかるに,本件事故による受傷のため同業務を平成13年11月19日から同年12月21日までの間に22日間欠勤した。 1審被告の時給は1400円であり,1日の実働は4時間であるから,休業損害は12万3200円となる(甲第24,第25号証。 )(算式)1400円×4時間×22日=12万3200円(イ) 1審被告は,平成13年12月22日から従前どおり集金業務に従事しており,家事を休んでいるとは思われないから,本件事故から症状固- 17 -定時までの間の労働能力制限を40%と認め,休業損害を算定した原判決は不当である。 エ傷害(通 前どおり集金業務に従事しており,家事を休んでいるとは思われないから,本件事故から症状固- 17 -定時までの間の労働能力制限を40%と認め,休業損害を算定した原判決は不当である。 エ傷害(通院)慰謝料62万7000円オ逸失利益について(ア) 原判決は,1審被告の労働能力喪失率を18%と認定しているが,1審被告が自動車を運転して通常どおり集金業務をしていることに照らすと,労働能力喪失率はせいぜい5%程度である。 (イ) 原判決は,労働能力喪失期間を20年間として逸失利益を算定しているが,1審被告の頸部から左上肢の神経症状は,むち打ち症であるから,労働能力喪失期間としては5年から10年が相当である。 (ウ) 左肩関節の機能障害による労働能力喪失期間も左肩関節捻挫後の拘縮によるものであると考えられるから,同様の期間と認めるのが相当である。 (エ) 1審被告は,専業主婦が家事労働に使う時間の半分程度をパート業務に使用しているから,その休業損害や逸失利益を認定するに際しては,女子労働者の平均賃金額を基準にすべきではなく,その半分程度を基準にすべきである。 カ後遺障害慰謝料331万円1審被告の後遺障害は,前記のとおり併合11級であるから331万円であると認めるのが相当である。 【補助参加人】1審被告の損害の主張は争う。 ( ) 寄与度減額について 【1審原告ら】仮に,1審被告がRSDを発症しているとすれば,それは1審被告のRSDにかかり易い心因的要因によるものでもある上,1審被告が,RSD- 18 -に関する専門医の治療を受けずに病状の悪化を招き,損害を拡大させたのであれば,その責任は1審被告にもある。 したがって,1審被告の被った損害の全部を1審原告らに負担させるのは公平ではないから,民法722条の類推適用により,損害賠償 状の悪化を招き,損害を拡大させたのであれば,その責任は1審被告にもある。 したがって,1審被告の被った損害の全部を1審原告らに負担させるのは公平ではないから,民法722条の類推適用により,損害賠償額について相当程度の減額をすべきである。 【1審被告】上記主張は争う。 従来,RSDは,精神・心理学的要因により発症するとされていたが,今日では,RSDの結果として心因性の障害が惹起されるという見解に統一されており(乙第93号証の1),ストレス等の精神的要因や素因として,の性格との関連については証明されていない(M鑑定資料3)。したがって1審被告のRSDは,心因性の要因から生じたものではない。 第4当裁判所の判断 反訴の提起及び本訴の確認の利益( ) 1審原告らは,1審被告の当審における反訴の提起に同意しない。 しかし,そもそも控訴審における反訴の提起に相手方の同意を要する(民事訴訟法300条1項)とされている理由は,それが相手方の審級の利益を奪うおそれがあるからであって,そのような不利益を与えるおそれのないものについては,相手方の同意を要しないと解されるところ(最高裁判所昭和38年2月21日第一小法廷判決民集17巻1号198頁参照),本件は,1審原告らが1審被告に対し,本件事故に基づく損害賠償債務の不存在確認を求めて本訴を提起したのに対し,1審被告が当審において1審原告らに対し,本件事故に基づく損害賠償を求めて反訴を提起したものであり,両訴えは攻撃防御方法をすべて共通にしている上,実質的にも,1審原告らと1審被告は,原審以来,本件事故による損害賠償請求権の存否及び賠償額の内容を争ってきたものであって,1審被告による反訴の提起が,1審原告らの審- 19 -級の利益を奪うものでないことは明らかである。 したがって,1審被告の当審に よる損害賠償請求権の存否及び賠償額の内容を争ってきたものであって,1審被告による反訴の提起が,1審原告らの審- 19 -級の利益を奪うものでないことは明らかである。 したがって,1審被告の当審における反訴の提起については,1審原告らの同意を要しないと解されるから,同反訴の提起は適法である。 ( ) 次に,1審被告の反訴の提起が上記のとおり適法である以上,1審原告ら の本訴にかかる損害賠償債務の不存在確認を求める訴えは,もはや確認の利益を失ったというべきであるから,1審原告らの上記各訴えは,いずれも不適法として却下を免れない(最高裁判所平成16年3月25日第一小法廷判決民集58巻3号753頁参照)。 RSD発症の有無,障害の内容・程度について( ) 本件事故の状況 ア甲第2号証,第3号証の3,第4,第5号証,第141号証,乙第101,第111号証,1審原告A及び1審被告の各供述によると,次の事実が認められる。 (ア) 1審原告Aは,加害車両(トヨタクラウン・平成13年6月登録)を運転し,助手席に母親,後部座席に祖母を乗せて本件事故現場にさしかかった。 本件事故現場は三車線道路であり,加害車両は一番左側の車道を進行中に右折しようとしたが,前方に信号待ちの他車が停車していたため,いったん後退してから車線変更しようと思い,後方を確認することなく,ギヤをバックに入れて後退した。 (イ) 1審被告は,被害車両(日産サニー・平成3年6月登録)を運転し,加害車両の後方に,車2,3台分の距離を置いて停止していたが,加害車両が被害車両に向かって後退してきたことから,危険を感じ,左手をハンドルに添えて身構え,衝突の瞬間まで加害車両の動向を注視し,右手で警笛を数回鳴らした。 しかし,1審原告Aは,被害車両に気づかないでそのまま後退して衝- てきたことから,危険を感じ,左手をハンドルに添えて身構え,衝突の瞬間まで加害車両の動向を注視し,右手で警笛を数回鳴らした。 しかし,1審原告Aは,被害車両に気づかないでそのまま後退して衝- 20 -突した。 当時,1審被告は,シートベルトを締めていた。 (なお,衝突の瞬間の加害車両の速度は必ずしも明らかではないが,道路交通法に定める徐行の速度〔すぐに停止できる速度〕よりは出ていたと認められるが,10㎞毎時を大幅に超えていたものとは認められない。)。 (ウ) 1審原告A及び上記同乗者2名は,衝突するまで被害車両に気づかず,衝突の際に防御姿勢をとることはできなかったが,身体を車内の器物に衝突させたり捻ったりすることはなかった。 また,1審原告A及び同乗者らは,何らの傷害も負わなかった。 (エ) 1審原告Aは,本件事故に気づくや,1審被告のもとに赴き,怪我の有無を尋ねたところ,1審被告は「分からない」と述べた。そこで,。 1審原告Aと1審被告は,各自運転して本件事故現場近くのQ警察署に赴き,本件事故を申告した。 警察官の立会の下,両車両を確認したところ,両車両に凹痕のような目立った衝突痕はなく,加害車両のリヤバンパーに被害車両の塗料が付着していた程度であった。 (オ) しかし,1審被告は,その後,気分が悪くなってきたことから,同日,1審原告Aに対し,その旨を電話で伝え,直ちにD整形外科を受診した。 イ上記認定の本件事故の態様に照らすと,加害車両が1審被告に与えた衝撃の程度は,比較的軽微なものであったことが認められる。 ( ) 1審被告の受診状況,診療経過 アD整形外科(甲第6,第8ないし11号証,第16ないし19号証,第41,第45ないし138号証,乙第31号証,第33号証の1,2,第35号証の3,第72,第86号証)(ア) 本件事故 経過 アD整形外科(甲第6,第8ないし11号証,第16ないし19号証,第41,第45ないし138号証,乙第31号証,第33号証の1,2,第35号証の3,第72,第86号証)(ア) 本件事故当日である平成13年11月16日,頸部痛と左背部痛,頭- 21 -痛のほか,左頸部と背部及び左肩関節部に著明な圧痛があった。その他,左上肢脱力と痺れ及び左肩痛も存在した。また,左上肢については,挙上困難,関節の可動域制限があり,頸椎捻挫及び左肩関節捻挫である旨の診断を受けた。しかし,X線検査では頸椎,胸椎,肩に骨損傷はなかった。 翌17日,左上肢の挙上不能,左手指の浮腫が生じ(甲第44,第45号証,手指の可動性も狭くなり,同月23日ころには,左第7肋骨)骨折も判明した。 その後,同月30日までの間,①背中の知覚過敏(撫でるだけでも痛い),②頸椎の運動障害及び疼痛,③左肩関節の運動痛及び圧痛,④左上肢の脱力感及び痺れ,⑤左前胸部及び左背部の疼痛などが出現し,体動も困難な状況になった。 1審被告は,点滴,湿布,頸部固定シーネ,バストバンドを装着し,理学療法等の治療を受けた。 (イ) その後,平成14年3月31日付け後遺障害診断書(甲第16号証)において,1審被告の本件事故による後遺障害は,同日,症状が固定した旨の診断があったが,以後も理学療法,点滴,湿布等の治療が行われ,同年5月27日付け後遺障害診断書(甲第19号証)において,症状固定日が同年5月18日に訂正された。 同診断書には,①傷病名は本件各傷害であること,②自覚症状としては,頭痛,頸部痛,左背部痛,左肩関節痛,左上肢痛,左背部から左上肢の知覚障害,左上肢から手指の運動障害,知覚鈍麻,知覚過敏であること,③他覚症状及び検査結果として,前頸部,後頸部に圧痛が著明に残存し,下部頸椎より胸 背部痛,左肩関節痛,左上肢痛,左背部から左上肢の知覚障害,左上肢から手指の運動障害,知覚鈍麻,知覚過敏であること,③他覚症状及び検査結果として,前頸部,後頸部に圧痛が著明に残存し,下部頸椎より胸椎中央部の棘突起部の圧痛が著明に残存していること,④左肩関節前側部に圧痛及び運動痛が強く残っていること,⑤後頸部から左背部までの知覚過敏が著明であり,左上腕部知覚過敏も強- 22 -い反面,左前腕部から手指にかけて知覚鈍麻が強く認められること,⑥左手指の腫脹もあり,手指の屈曲が不十分で左握力は0ないし1.9㎏であること(右側は20㎏),⑦ジャクソンテストでは左肩甲部及び背部への放散痛が著明であるり,上下肢腱反射はやや亢進し,ホフマン反射は陽性であること,⑧レントゲン検査では頸椎の前屈時に直線化が見られるが,MRIでは圧迫所見は認められないこと,⑨頸部の運動障害検査では,前・後屈20度(同年3月31日当時は前屈40度,後屈35度。以下,かっこ内は同時期の数値),右屈20度(30度),左屈25度(30度),右回旋35度(60度),左回旋30度(45度)であること,⑩肩関節機能障害検査は,他動では屈曲・右180度(同),左90度(110度),伸展・右左50度(同),外転・右180度(同),左95度(110度),内転・右左0(同),外旋・右左60度(同),内旋・右左80度(同),自動では屈曲・右180度(同),左80度(100度),伸展・右50度(同),左40度(同),外転・右180度(同),左85度(100度),内転・右左0(同),外旋・右60度(同),左50度(同),内旋・右左80度(同)であること等を内容とする所見を示した。 この間,同年5月21日には背部のピリピリ感があり(甲第135号証1頁),6月13日には左上肢の痺れ感や,左手背部に浮 ,左50度(同),内旋・右左80度(同)であること等を内容とする所見を示した。 この間,同年5月21日には背部のピリピリ感があり(甲第135号証1頁),6月13日には左上肢の痺れ感や,左手背部に浮腫が見られた。1審被告は,左手先(母指を除く)がジンジンし,毎日のことな。 のでイライラ感が増しているとの苦境を述べた(同号証3頁)。 同年7月22日の理学療法の際,痛みを訴えたことから,同療法をいったん中止したが,まもなく再開された。 (ウ) 平成14年10月,背部痛,呼吸困難,左背部・頸椎・上腕部の知覚過敏,中手指の拘縮がみられ,11月3日には筋電図に異常はないが,RSDであるとの所見が示された(同号証11頁)。 同年12月11日,1審被告は,左手も使うようにし,右手のみで運- 23 -転できるように車を改良している旨を述べた。 同月中旬ころから,肩甲上神経ブロックが繰り返し行われるようになった。 (エ) 平成15年10月9日付け後遺症診断書(乙第47号証)において,1審被告の症状は,①外傷による左肩・左上肢のRSD(カウザルギー)であること,②頸部痛,左肩から左上肢の知覚障害(知覚過敏・知覚鈍麻),左肩から左上肢の関節拘縮,左手指の浮腫があること,③左上肢の実用性の著明な低下がみられ,左手は廃失状態であること,④平成14年5月18日に症状が固定したこと等の所見が示された。 この間,平成15年5月27日,1審被告は,左手に手袋をしていると楽である旨述べた(甲第135号証)。 (オ) 平成15年11月24日付けL労働者災害補償保険審査官宛の症状所見書(以下「症状所見書」という。乙第87号証の99頁)において,D整形外科は,①頸部症状と左肩痛,左背部痛,左上肢脱力,痺れ等が著明に出現したこと,②頸椎固定シーネで頸部を固定して鎮痛剤・湿布をし, (以下「症状所見書」という。乙第87号証の99頁)において,D整形外科は,①頸部症状と左肩痛,左背部痛,左上肢脱力,痺れ等が著明に出現したこと,②頸椎固定シーネで頸部を固定して鎮痛剤・湿布をし,頭痛については鎮痛目的の点滴を行い,運動障害に対して理学療法等で治療していること,③受傷後数日し,左前胸部痛,圧痛も強く出現し,レントゲン検査で左第7肋骨骨折が見られたため肋骨固定バンドで固定したこと,④症状は少しずつ軽減,改善傾向にあったが,左背部痛は頑固強く持続したこと,⑤頸椎及び左関節部の可動域及び疼痛は緩解と増悪を繰り返しながら少しずつ改善していたが,左上肢の脱力感と左手指の運動性の低下は持続していたこと,⑥平成14年3月31日当時の症状は,頸椎の可動域制限,左肩関節の機能障害と疼痛及び左上肢の脱力と背部痛が中心であったこと,⑦同年5月18日当時の症状は,左背部から左上肢の知覚障害(知覚過敏,知覚鈍麻)と左手指の運動障害及び腫脹が著明に出現したこと,⑧左背部から左肩,左上腕部にかけて灼- 24 -熱痛,左手指の腫脹も存在すること,⑨頸椎の可動域は前屈20度(生理的には60度。以下,同様),後屈20度(50度),右屈20度(50度),左屈25度(50度),右回旋35度(60度),左回旋30度(60度)であり,肩関節の可動域は,屈曲・右180度,左80度,伸展・右50度,左40度,外転・右180度,左85度,内転・右左0度,外旋・右60度,左50度,内旋・右左80度であること,⑩現存している障害は,頸椎捻挫,左肩関節捻挫に引き続き発生した反射性交感神経性カウザルジア(ジストロフィー)と思われ,そのため頸部より左上肢の疼痛と左手指の浮腫及び運動機能障害が発生持続していると考えられること,⑪症状は難治性であり,今後,増悪の可能性もあり, 性交感神経性カウザルジア(ジストロフィー)と思われ,そのため頸部より左上肢の疼痛と左手指の浮腫及び運動機能障害が発生持続していると考えられること,⑪症状は難治性であり,今後,増悪の可能性もあり,長期の治療が必要と思われること等の所見を示した。 イOクリニック(甲第22,第42,第45号証,乙第34,第86,第87号証)1審被告は,D整形外科の紹介で,平成14年5月23日,脊椎・脊髄疾患検査を受けた(甲第42,第87号証)。 左頸部,左背部,左腕に疼痛があったが,神経学的検査及びMRI検査によっても頸椎,胸椎,頸髄,胸髄に異常はなく,外傷性頸椎椎間板ヘルニア,外傷性胸椎椎間板ヘルニアも見当たらなかった。ただし,左右胸腔内液貯留が認められたことから肋骨等の損傷が疑われた(甲第42号証,乙第34号証)。なお,平成15年11月24日付け症状所見書においても同様の所見が示された。 ウF病院(甲第43号証,乙第32,第86,第87号証)1審被告は,D整形外科の紹介により,RSDの疑いで,左上肢痛(手腕外側,背部,肩)の検査のため,平成14年10月15日から同月31日にかけて受診した。 後頭部,頸部,左上肢,左肩甲部の腫れが見られたほか,左肩から鎖骨- 25 -上窩部への痛み,左手の痛覚過敏があった(乙第87号証)。 MRI検査の結果,頸椎・胸椎に異常はなく,脊柱管も十分広く,配列・椎間板・神経孔も良好であり,筋電図(神経伝導検査)も正常下界で著見はなかった。 同病院は,左肩痛・圧痛,左手うっ血傾向,左前腕は明らかに右前腕に比べて冷たい,前腕やや萎縮し,左上肢やや細い・廃用,左肩痛覚過敏,複合筋活動電位(下界)である等としてRSDと診断した。 エI病院(甲第44号証,乙第21号証の1,2)(ア) D整形外科の紹介で,平成14年12月24日 縮し,左上肢やや細い・廃用,左肩痛覚過敏,複合筋活動電位(下界)である等としてRSDと診断した。 エI病院(甲第44号証,乙第21号証の1,2)(ア) D整形外科の紹介で,平成14年12月24日と平成15年1月18日の2回受診した。I病院は,皮膚に物が触れただけで激痛が誘発されるなど感覚障害が存在すること,疼痛のために左上肢のほとんどを動かせないこと,ごく軽い圧迫で疼痛を誘発すること,疼痛の範囲は頸部,後頭部,左上肢全体,左肩甲部から背部にかけて存在すること,皮膚状態に腫脹はなく発赤・蒼白・チアノーゼもないこと等の所見を示した(甲第44号証13頁)。 (イ) 平成15年1月22日付け身体障害者福祉法15条3項の意見書(乙第21号証)の中で,同病院は,①本件事故により頸部を負傷し,左肩甲部から上肢の疼痛を生じ,約6か月の加療後に理学療法を開始したところ,左上肢の疼痛が増強し,筋力低下も合併して左上肢の疼痛及び異常感覚のため,左上肢が全く使用不可能であって,RSDと考えられること,②関節可動域及び筋力テストの結果,屈曲・外転等において,左側の頸部・体幹・肩・肘・前腕・手・指に可動域制限と筋力の低下が見られ,左上肢機能は全廃であり障害等級2級相当であること,③左上肢に異常感覚,弛緩性麻痺があること,④上肢・上腕周径・前腕周径はいずれも左側が右側よりも5㎜短く,握力は左側ゼロ,右側14㎏であったこと,⑤上肢機能評価は,他動で,頸(前屈20度,後屈25度,左- 26 -屈10度,右屈5度),体幹(前屈0度,後屈5度,右・左屈5度),肩(屈曲・右150度,左10度,伸展・右35度,左10度,外転・右150度,左10度,内転・右左0度,外旋・右90度,左5度,内旋・右90度,左45度),肘(屈曲・右135度,左95度,伸展・右左,0度) 150度,左10度,伸展・右35度,左10度,外転・右150度,左10度,内転・右左0度,外旋・右90度,左5度,内旋・右90度,左45度),肘(屈曲・右135度,左95度,伸展・右左,0度),前腕(回外・右95度,左40度,回内・右85度,左40度)手(掌屈・右90度,左30,背屈・右85度,左30度,中手指節)(屈曲・右60ないし100度,左30ないし45度,伸展・右55度〔母指10度,左0度),近位指節(屈曲・右90ないし110度,左〕15ないし30度,伸展・右0度〔右母指のみは10度,左0度)で〕あること,⑥左上肢の筋力は消滅ないし著減であること,以上の所見を示した(同年3月11日付け身体障害者福祉法15条3項の意見書も同様。甲第44号証9頁。 )なお,同病院は,同年11月17日付け症状所見書(同号証16頁,乙第87号証113頁)においても,①外傷性頸部症候群及び左上肢RSDであること,②後頭部,頸部,左上肢,左肩甲部の腫れ,疼痛であり,頸部・左上肢・左肩甲部の異常感覚,疼痛も存在したこと,③皮膚に物が触れただけで痛みが誘発され,疼痛のために左上肢を動かすことはできず,正確な腱反射や筋力の評価は不可能であったこと,④左上肢は右上肢に比較して可動域制限が著しく大きいこと,⑤左上肢に拘縮が認められること等の所見を示した。 オL労働基準局医員R作成の障害認定に関する意見書(乙第50,第87号証)平成15年2月12日付け同意見書において,①傷病名は頸椎捻挫,左肩関節捻挫,左第7肋骨骨折,左上肢知覚異常(RSD)であること,②主訴及び自覚症状は,左上肢全体が激しく痛み,左手がベタベタする上,左上腕から左手関節以下に疼痛が特に強く,左上肢が使えないこと,③左肩- 27 -・頸椎の運動性は各方向で0,左手指5指の運動性も 訴及び自覚症状は,左上肢全体が激しく痛み,左手がベタベタする上,左上腕から左手関節以下に疼痛が特に強く,左上肢が使えないこと,③左肩- 27 -・頸椎の運動性は各方向で0,左手指5指の運動性もほとんど0であり,左手関節運動は全体に制限されているが一応可能であること,④左肩・左背中・左上腕は,疼痛が激しくて動かせないが,左肘の屈伸は可能であること,⑤左肩甲骨上下の神経,左頸神経叢と腕神経叢,左大後頭神経の圧痛が著明にあること,⑥RSDによる左肩,左手関節から左手指の用廃と考えられ,アフターケアを要すること,⑦左肩から左手まで知覚異常があるが,肩から上腕は知覚過敏,前腕部は知覚鈍麻,手関節以下は知覚過敏であること,以上の所見を示した。 カN意見(乙第87号証)N意見は,平成15年12月10日に1審被告を診察の上,同月20日付けで提出されたものであるが,同意見は,①診察時の主訴は,左手指(示~小指)から左上肢にかけて及び左頸が痛く,左肩甲骨の下辺りが強く痛い旨を訴えたこと,②視覚上左上肢に認めるべき筋萎縮はないが,左手掌,手背ともにやや光沢を帯びた軽度暗赤褐色を呈し,特に手指に浮腫性腫脹があること,③上腕周径は左右共に30㎝であり,前腕周径は右25. 5㎝,左24.5㎝であること,④左前胸上部・左肩甲部から左上肢全般に筆及び指尖で軽く触れる程度で強い疼痛を訴えるため,同部位での通常の神経学的検査を実施できないこと,⑤頸椎運動は疼痛のため全般的に制限されていること,⑥左肩関節運動領域も疼痛のために制限が強く,自動(他動は疼痛を考慮して不実施)で屈曲・右150度,左35度,伸展・右60,左30度,外転・右130度,左25度,内旋・右左90度,外旋・右60度,左-10度であること,⑦左肘関節自動運動は,伸展・右10度,左0,屈曲・右14 で屈曲・右150度,左35度,伸展・右60,左30度,外転・右130度,左25度,内旋・右左90度,外旋・右60度,左-10度であること,⑦左肘関節自動運動は,伸展・右10度,左0,屈曲・右145度,左135度であり,概ね正常であること,⑧左手関節自動運動は背屈・右80度,左30度,掌屈・右70度,左60度であること,⑨左手指,伸展,屈曲,開排,つまみ動作はいずれも緩慢かつ不十分であり,握力測定は疼痛のため不能であること,⑩X線所見- 28 -では特記事項はないが,左手については健側に比し明らかな骨萎縮が見られたこと,⑪左上肢の反射性交感神経症ジストロフィー(RSD)であって7級3号に該当すること,以上の所見を示した。 ( ) RSDないしCRPSの判定方法等 M鑑定によると,RSD(反射性交感神経性ジストロフィー)ないしCRPS(複合部分的痛症候群)は,病因が完全には解明されておらず,症状や発症経過などについても各立場が一致しているわけではなく,診断基準も一義的ではないが,諸説の特徴的な共通点としては,①外傷の程度に不釣り合いな持続する疼痛(原因傷害の程度とは不釣り合いに強い自発痛・灼熱痛),②知覚過敏,③腫脹・浮腫(指の場合には「浮腫」が消失すると「ペンシルライク」状になる傾向がある,④関節硬直,⑤関節可動域制限,⑥皮膚。)変色,⑦血管運動不安定,⑧冷感,⑨発汗の左右差,⑩皮膚温の左右差,⑪骨萎縮,⑫皮膚萎縮性変化,⑬アロディニア(異痛症,非侵害刺激によって生じる疼痛,⑭きっかけとなる侵害的現象,⑮ギブス,シーネ等による患)部固定の時期が存在すること等であって,これらが,いずれかの時期に発生ないし存在することが必要であること,上記症状のうち,殊に浮腫・皮膚温・発汗は病期のいずれかの時期に発現することもあれば,外傷後に 部固定の時期が存在すること等であって,これらが,いずれかの時期に発生ないし存在することが必要であること,上記症状のうち,殊に浮腫・皮膚温・発汗は病期のいずれかの時期に発現することもあれば,外傷後に一過性に発現することもまれではないこと,廃用肢になると,晩期の症状として関節拘縮や筋萎縮をきたすことがあるが,全ての事例において生じるものではなく,RSDの診断基準として必須ではないことが認められる。 以上の観点から,前記認定の事実を前提として,1審被告の主症状を調べてみると,次のとおりである。 ア本件事故直後(平成13年11月当時)外傷として頸椎捻挫,左肩関節捻挫,左第7肋骨骨折の外傷を負ったこと(上記診断基準の⑭,以下同じ),本件事故直後から頸部固定シーネ及びバストバンドを装着したこと(⑮),背中の知覚過敏(②),頸椎の運動障害- 29 -及び疼痛・左肩関節の運動痛及び圧痛・左前胸部及び左背部の疼痛(①)が出現したことが認められる。 イ平成14年5月当時(症状固定時,Oクリニックを受診当時)頸椎の生理的可動域は,前屈60度,後屈50度,右屈50度,左屈50度,右・左回旋各60度であることは前記認定のとおりであるところ,当時,1審被告の頸部は,前・後屈20度,右屈20度,左屈25度,右回旋35度,左回旋30度であってかなりの可動域制限が生じ,肩関節も他動の場合に両肩は,外旋や内旋では差がないのに,屈曲・右180度,左90度,外転・右180度,左95度と大きな可動域制限が存在していたこと(⑤),前頸部,後頸部に圧痛が著明に残存し,下部頸椎より胸椎中央部の棘突起部の圧痛が著明に残存していたこと(①),左肩関節前側部に強い圧痛及び運動痛(①),後頸部から左背部まで及び左上腕部の著明な知覚過敏(②),左手指の腫脹・浮腫があり(③),手指の屈 椎中央部の棘突起部の圧痛が著明に残存していたこと(①),左肩関節前側部に強い圧痛及び運動痛(①),後頸部から左背部まで及び左上腕部の著明な知覚過敏(②),左手指の腫脹・浮腫があり(③),手指の屈曲が不十分であったこと(⑤)がそれぞれ認められる。 ウ同年10月当時(F病院を受診した当時)左肩痛・圧痛(①),左手うっ血傾向(③),左前腕は明らかに右前腕に比べて冷たい(⑧⑩) 前腕やや萎縮し,左上肢やや細い左肩痛覚過敏(②)等,,がみられた。 エ平成15年1,2月当時(I病院を受診した当時,L労働基準局医員の診察当時)(ア) 1月当時,皮膚状態に腫脹はなく,発赤・蒼白・チアノーゼもなかった。しかし,皮膚に物が触れただけで激痛が誘発されるなど感覚障害が存在し(⑬),疼痛が頸部,後頭部,左上肢全体,左肩甲部から背部にかけてあり,左上肢のほとんどを動かせなかった(①)。また,関節可動域及び筋力テストの結果,屈曲・外転等において,左側の頸部,体幹,肩,肘,前腕,手,指に可動域制限・筋力の低下が見られた(⑤)。 - 30 -(イ) 2月当時,左上肢全体が激しく痛み,特に左上腕から左手関節以下の疼痛が強く(①),左手がベタベタしていたこと(⑨),左上肢の関節可動域制限が顕著であり,左肩,左手関節から左手指までの用廃と考えられるほどであったこと(⑤),左肩から左手まで知覚異常,肩から上腕は知覚過敏,前腕部は知覚鈍麻,手関節以下は知覚過敏であること(②),平成15年12月当時には,左手指(示~小指)から左上肢にかけて及び左頸の疼痛,特に左肩甲骨の下辺りに強い疼痛があったこと(①),左手掌,手背ともにやや光沢を帯びた軽度暗赤褐色を呈していたこと(⑥),特に手指に浮腫性腫脹が確認されたこと(③),左前胸上部・左肩甲部から左上肢全般に筆及び指尖で りに強い疼痛があったこと(①),左手掌,手背ともにやや光沢を帯びた軽度暗赤褐色を呈していたこと(⑥),特に手指に浮腫性腫脹が確認されたこと(③),左前胸上部・左肩甲部から左上肢全般に筆及び指尖で軽く触れる程度で強い疼痛があること(②⑬),左肩関節・左手関節の可動域制限が強いこと(⑤),左手については健側に比し明らかな骨萎縮が存在したこと(⑪)等の症状があった。この間,左肩から左上肢の関節拘縮(④),左手指の浮腫(③)が見られた上,頸部の前屈20度,後屈25度,左屈10度,右屈5度であり,前記頸椎の生理的可動域を大きく下回ったほか,肩関節の可動域制限も増悪した(⑤)。 オM鑑定人の診察時(平成17年10月30日)M鑑定によると,鑑定人が,平成17年10月30日,S大学付属病院の麻酔科ペインクリニック外来において,1審被告を診察したところ,同人には,左上肢等の疼痛(①),左半身の冷感(⑧),左手掌の発汗(⑨),左肘関節以下の知覚過敏(②),手関節以下に軽度のアロディニア(⑬),左手背,左手指の著名な皮膚萎縮(左手指根元の腫脹尖端の先鋭化〔M鑑定資料( ) ,色調の変化,ロウソク表面のような光沢ある皮膚表面が存在し, 2 〕皺が正常な右に比べてほとんど消失しているが,特に上記光沢はRSDの典型的症状である。⑥⑫)が存在したこと,左上肢機能評価(関節可動域と筋力テスト)では,他動の場合の可動検査の結果(以下の数字は概数)に- 31 -ついてみると,頸(前屈10度,後屈0,右屈20度,左屈10度),体幹,(前屈20度,後屈5度,右・左屈0度),肩(屈曲・右180度,左0度伸展・右60度,左0度,外転・右180度,左10度以下,内転・右左0度,外旋・右90度,左0度,内旋・右90度,左45度,肘(屈曲・右150度,左110度,伸展・右 ,肩(屈曲・右180度,左0度伸展・右60度,左0度,外転・右180度,左10度以下,内転・右左0度,外旋・右90度,左0度,内旋・右90度,左45度,肘(屈曲・右150度,左110度,伸展・右左0度,前腕(回外・右90度,左)70度,回内・右左90度,手(掌屈・右90度,左0度,背屈・右70度,左10度,中手指節(屈曲・右90度〔母指60度,左0度,伸展〕・右50度〔母指10度,左0度,近位指節(屈曲・右100度,左〕)10度,伸展・右左0度)であり,運動機能としては左肩の内旋,前腕の回内,回外が僅かに可能である以外,ほぼ左上肢は肩関節,手関節,手指関節を含めてほぼ機能全廃に近い状態であること(⑤)が認められる(ただし,上記「全廃」は,神経が全て損傷した場合の「全廃」とは異なり,左上肢を可動させようと思えば可能ではあっても,RSDに起因する痛みがベースにあるため,1審被告が左上肢を動かさない場合でも「全廃」として評価するものであり,1審被告の場合には,筋力は完全には消失していないことから,痛みを我慢すれば,左上肢をかなり動かせることが認められる。 。)( ) 以上のとおり,1審被告には本件事故による本件各傷害(きっかけとなっ た侵害的事象)が存在し,M鑑定当時までの諸症状は,RSDに特徴的な症状・経過と符合していることに照らすと,1審被告には,左上肢を中心としてRSDの基本的な症状が存在し,左上肢を中心とした機能障害(左頸部から左肩,腕,手,指),疼痛,知覚障害等の後遺障害が残ったというべきであり,これらはRSDによる後遺症として本件事故と相当因果関係があるというべきである。 このように1審被告の症状がRSDであることは,その他の診断基準からも首肯することができる。 - 32 -すなわち,ア乙第49,第71号 症として本件事故と相当因果関係があるというべきである。 このように1審被告の症状がRSDであることは,その他の診断基準からも首肯することができる。 - 32 -すなわち,ア乙第49,第71号証,M鑑定によると,国際疼痛学会は,RSDという統一概念に代えてCRPS(複合部分的疼痛症候群)と総称し,これをタイプ1(従来のRSD。明らかな神経損傷のないもの)とCRPSタイプ2(カウザルギー。明らかな神経損傷のあるもの)に分けているところ,1審被告には,明らかな神経損傷はないことは前記認定のとおりであるから前者に該当する。 そして,上記証拠によると,その診断基準は,①誘因となる侵害的な出来事あるいは固定を必要とするような原因があったこと,②持続する疼痛があるか,アロディニア,痛覚過敏の状態であり,その疼痛が始まりとなった出来事に不釣り合いであること,③経過中,疼痛部位に浮腫や皮膚血流の変化,発汗異常のいずれかが存在すること,④疼痛や機能不全の程度を説明可能な他の病態がないことであり,②ないし④を必ず満たす必要があるとされている。 これを1審被告についてみると,前記認定の事実によると,①については誘因となる本件事故及びシーネ固定等が存在すること,②については持続的疼痛,アロディニア,痛覚過敏がみられること,③については,浮腫,発汗異常が存在することが認められるところ,④については,他の病態が存在していることについては,これを認めるに足りる証拠はないから,1審被告はRSDないしCRPSであると認められる。 イM鑑定によると,Veldmanらの診断基準は,①説明できない瀰慢性疼痛の存在,健側同一部位に比べて皮膚の色が異なること,瀰慢性の浮腫,健側同一部位に比べて皮膚温に差があること,関節可動域の制限の症状・徴候のうち,4ないし5つが認めら 基準は,①説明できない瀰慢性疼痛の存在,健側同一部位に比べて皮膚の色が異なること,瀰慢性の浮腫,健側同一部位に比べて皮膚温に差があること,関節可動域の制限の症状・徴候のうち,4ないし5つが認められること,②患肢の使用によってこれらの症状が発現あるいは増強すること,③発端となった創傷あるいは手術の部位により,広範かつ遠位部をも含めて上記の症状・徴候が存在す- 33 -ることであるところ,前記認定のとおり,1審被告は上記①ないし③の要件を満たしていることが認められる。 ウM鑑定によると,Gibbonらによる診断基準(1992年以前の診断基準)は,各項目(①アロディニア,知覚過敏,②灼熱痛,③浮腫,④皮膚の色調あるいは発毛の変化,⑤発汗の変化,⑥皮膚温の変化,⑦X線上の変化〔脱灰像,⑧血管運動障害・発汗障害の定量的測定,⑨RSDに〕,合致した骨シンチグラフィー所見)ごとに陽性を1点,擬陽性を0.5点陰性を0点として,合計で3点未満をRSDに該当しない,3ないし4. 5点をRSDの可能性があること,5点以上をRSDに該当するという診断基準であるところ,前記認定の事実によると,1審被告は5点以上(①②③④⑤⑥)になることは明らかである。 エM鑑定によると,HardenらのCRPS診断基準(最新の基準)は,①原因と思われる事象に不釣り合いな持続痛の存在,②症状や徴候が他の疾患では説明できないこと,③次の4項目(a感覚異常〔感覚過敏,アロディニア,b血管運動性変化〔皮膚温非対称,皮膚色調の変化,非対〕称,c浮腫・発汗異常〔腫脹,発汗異常,発汗非対称,d運動・萎縮〕〕性変化〔関節可動域の減少,筋力低下・振戦・ジストニア運動機能異常,毛・爪・皮膚の萎縮性変化〕)中,臨床診断としては,3項目について,経過中に少なくとも1つの症状があり, 対称,d運動・萎縮〕〕性変化〔関節可動域の減少,筋力低下・振戦・ジストニア運動機能異常,毛・爪・皮膚の萎縮性変化〕)中,臨床診断としては,3項目について,経過中に少なくとも1つの症状があり,評価時に2項目以上に少なくとも1つの徴候を認め,研究的診断としては,4項目中,少なくとも1つの症状があり,評価時に2項目以上に少なくとも1つの徴候が存在することを要するところ,前記認定の事実によると,①②と③の4項目中の4項目について,経過中に少なくとも1つ以上の症状があり,評価時に4項目以上に1つ以上の徴候を認めることができるから,この基準からも1審被告は,RSDと診断することができる。 ( ) RSDを疑わせる主要な反対証拠に対する検討 - 34 -アまず,I病院は,前記認定のとおり1審被告の傷病名をRSDと診断しながら,その所見は受傷直後から症状が存在したわけではなく,約半年経過後に理学療法を開始してから,急に症状が進行した旨を付記したことが認められる。 しかし,前記認定のとおり,①1審被告は,本件事故直後から理学療法を受けていたのであるから,約半年後に理学療法を受けたとの記載は事実と異なること,②I病院は,D整形外科から1審被告を紹介されたものであるが,診療情報提供書(甲第44号証)中にも上記付記事項に沿う記載は皆無であって,上記付記事項が何を根拠に記載されたかについてはこれを窺わせる証拠はないこと,③甲第44号証によると,理学療法との関連性を記載した上記記載は,平成15年1月22日の身体障害者福祉法第15条第3項の意見書のほか,同年3月11日付け意見書,同日付け照会・回答書にも明記されていたが,乙第84号証によると,同病院は,1審被告から事実と異なるとして削除を求められ,上記病院はこれに同意したことが認められ,これに照らす 3月11日付け意見書,同日付け照会・回答書にも明記されていたが,乙第84号証によると,同病院は,1審被告から事実と異なるとして削除を求められ,上記病院はこれに同意したことが認められ,これに照らすと,約半年経過後の前記理学療法により急に症状が悪化したとの記載は信用できない。 イ次に,T病院麻酔科医Uは,意見書(甲第139号証)において,①本件事故の態様と初期の他覚的所見から見て,末梢神経障害を起こしたとは考えにくいものであり,末梢神経に障害がないことは電気生理学的検査からも明らかであること,②臨床経過に照らすと,症状の悪化は,受傷後,6か月を経過後に生じているが,左手の浮腫と色調の変化については,当初見られなかった症状であって,RSDにおいては,浮腫は初期に見られ,やがて萎縮するのが通例であり,受傷後暫くしてから悪化するRSDの症例は心理的ないし社会的背景が病状に影響していると考えられること,③左手の骨萎縮については,受傷後,約1年後である平成14年12月31日のレントゲンでは左右差が認められないのに,平成15年9月7日には- 35 -極軽度認められ,受傷後,2年8か月以上経過した平成16年8月6日,平成17年4月7日,平成18年4月10日には骨萎縮が明確に認められることから,平成15年ころより,左手の使用頻度が極端に減り,骨萎縮に至ったと考えられること,④1審被告は,本件事故後,1か月後に復職しているが,重傷のRSDの場合には心身ともに落ち込みが強く就業できないのに,痛みの訴えが強い割には日常生活の質は保持されていること,⑤平成15年1月18日I病院において,頸部の回旋可動域が右5度,左10度であったのに対し,同年8月の時点では振り向く,目視で車をバックさせるなどしており,頸部の可動域制限は見られないが,このように7か月間に 1月18日I病院において,頸部の回旋可動域が右5度,左10度であったのに対し,同年8月の時点では振り向く,目視で車をバックさせるなどしており,頸部の可動域制限は見られないが,このように7か月間に受傷後1年以上経過した時点で頸部の著しい可動域制限が正常化することは通常考えられないこと,⑥浮腫を主症状とするRSDの場合,実際にはRSDではなく作為病であったとの報告もあるし,手の浮腫は上腕を駈血することによって発生しうる症状であること等の所見を示している。 しかしながら,前記認定の事実によると,上記①については,国際疼痛学会の区分によっても,本件は,CRPSタイプ1(明らかな神経損傷のないもの)であるから,末梢神経に障害がないことから,直ちに1審被告がRSDに罹患していることを否定することはできないこと,②については,前記認定のとおり,1審被告の左手の浮腫は,本件事故の翌日である平成13年11月17日の時点で既に見られ,D整形外科もI病院宛の診療情報提供書(甲第44号証4頁)にその旨を明記している上,そもそも浮腫等の症状は,疾患の経過中,いずれかの時期に発生ないし存在することで足り,浮腫は初期に見られ,やがて萎縮するのが通例であるとはいえないこと(M鑑定添付資料( )),③の左手の骨萎縮については,RSDの場 合に骨萎縮が出る場合と出ない場合があるのみならず,その出現する時期にも個体格差があることから,国際的な診断基準(国際疼痛学会の基準等)- 36 -も骨萎縮を筋萎縮と並んで要件とはしていないところ,骨萎縮は,疼痛のために罹患肢を使用できなかったことから発生することもあり,骨萎縮や筋萎縮の存在しないことが,RSDの存在を否定する根拠となるものではないこと(甲第139号証,M鑑定),④については,日常生活の質が保たれていたとしても なかったことから発生することもあり,骨萎縮や筋萎縮の存在しないことが,RSDの存在を否定する根拠となるものではないこと(甲第139号証,M鑑定),④については,日常生活の質が保たれていたとしても,本人の努力等によるものであるともいえるから,当然にはRSDを否定する根拠とはなり得ないこと,⑤については,甲第44号証によると,上記頸部の「右5度,左10度」というのは頸部の右屈・左屈に関するものであり,頸部の回旋に関するものではないし,甲第31号証によっても,1審被告が,平成15年8月当時,自動車を後退させる際の後方確認について何ら支障がなく行っている様子までは窺うことはできず,頸部の可動域制限がないとはいえないこと,⑥1審被告のRSDを作為病であることを認めるに足りる証拠はないし,M鑑定によると,1審被告の手の浮腫が,作為的な駈血によって作出されたとは認められないことを総合すると,甲第139号証の前記部分はいずれも採用することができない。 ウV整形外科医師W意見書(甲第142号証)中には,1審被告の第7肋骨骨折の事実自体に疑問を投げかけ,本件事故が軽微であるとして,RSDの受傷機転の存在を問題視する趣旨の記載がある。 しかし,前記認定のとおり,そもそもRSDは外傷の程度に不釣り合いな持続する疼痛の発生がその病態であるところ,D整形外科は,X線検査により第7肋骨骨折の傷害を負った旨を診断し,Oクリニックも肋骨骨折の可能性を認めているのみでなく,そもそも1審被告が頸椎捻挫,左肩関節捻挫,左第7肋骨骨折等の傷害を負ったことについては,1審原告らが本訴の当初から認めていて,当事者間に争いのない事実であるから,上記記載部分は採用しない。 エ甲第30,第31号証(ビデオテープ)によると,1審被告は,平成15- 37 -年8月下旬ころ,車を運 本訴の当初から認めていて,当事者間に争いのない事実であるから,上記記載部分は採用しない。 エ甲第30,第31号証(ビデオテープ)によると,1審被告は,平成15- 37 -年8月下旬ころ,車を運転して得意先回りをし,肘を曲げて,左手でドアを閉める,上肢で鞄を抱える,肘を曲げて鼻を掻く等の動作をしている状況が認められる。 しかし,甲第30,第31号証,乙第56,第62号証,1審被告の供述,M鑑定の結果によると,①1審被告は,本件事故後,免許の条件等としてAT四輪車のみの運転が可能とされ,実際にもハンドルギヤ付の自動車に右手のみでハンドル操作可能な障害者用ハンドルグリップを設置し,しかも座席シートを倒して背中が触れないようにして運転していること,②上記録画が行われた当時,1審被告の肘関節の可動性がほぼ正常に保たれていたことはN意見のとおりであるから,肘を曲げることは十分に可能であったこと,③RSDは運動神経の損傷ではなく疼痛が主な症状であるから,痛みを我慢すれば相当の動きができ,特に腋を締めて反動付けを行えば肩関節,肘関節を動かすことも可能であるし,RSDは天候その他によっても痛みも左右され,調子のよいときには上肢を動かすことも可能であること,④上記ドアのノブには留め金がなく容易に開閉可能なものであった上,1審被告は,右手で所持していたアタッシュケースでドアを押し開け,退出する際には,顧客に対する手前,左手で閉めた素振りをしたものであるし,上記「鞄」は軽量のビニール袋であって,左腕内側と左腹部に挟んでいるにすぎず「鼻を掻く動作」は左手袋で目の前の髪を払った,ものであること,⑤上記ビデオテープ中にも,1審被告は,左手で行えば足りることを右手でやるようにして左上肢をかばう場面が随所に存在していることがそれぞれ認められ,以上の事実に照ら 前の髪を払った,ものであること,⑤上記ビデオテープ中にも,1審被告は,左手で行えば足りることを右手でやるようにして左上肢をかばう場面が随所に存在していることがそれぞれ認められ,以上の事実に照らすと,上記甲号各証は,1審被告の左上肢の機能障害(RSD)の発症を覆すには足りないというべきである。 ( ) 障害の程度 前記認定の事実,殊に,①1審被告には,頸部から背部,左上肢,左手掌,- 38 -左手指にかけて著明な疼痛,知覚過敏,知覚鈍麻等の神経症状が見られること,②1審被告には,未だ顕著な関節硬直・骨萎縮までは見られないが,頸部及び左上肢には,著しい関節の可動域制限が存在しており(他動検査である平成15年1月22日付けI病院の意見書及びM鑑定の左上肢機能評価,自動検査であるN意見を参照),中でも平成15年1月当時には可動性のあった頸の後屈,体幹の右・左屈,肩の屈曲・伸展・外旋,手の掌屈,中手指節の屈曲・伸展は,M鑑定時(平成17年10月当時)までには,ほぼ0度であり,筋力は完全には消失していないが,左上肢はほぼ機能全廃に近い状態にあると評価されるに至ったこと,③しかし,RSDは,運動神経の損傷ではなく,疼痛が主な症状であるところ,1審被告の場合には明らかな神経損傷は認められず,上記患部を動かした場合に痛みが生じることから,これを動かさないというものであって,動かすことが不能という意味での全廃には至っていないこと,④したがって,1審被告の場合にも,痛みを我慢すれば相当の動きが可能であって,特に腋を締めて反動付けを行えば肩関節,肘関節を動かすことも可能であるし,調子のよいときには上肢を動かすことも可能であること,⑤現に,1審被告は,本件事故当時と同様,自動車を運転して得意先を訪問しては,集金業務を引き続き行っていること,以上の諸 動かすことも可能であるし,調子のよいときには上肢を動かすことも可能であること,⑤現に,1審被告は,本件事故当時と同様,自動車を運転して得意先を訪問しては,集金業務を引き続き行っていること,以上の諸事情を総合勘案すると,1審被告の後遺障害の程度は,全体として障害等級7級4号の「神経系統の機能又は精神に障害を残し,軽易な労務以外の労務に服することができないもの」に相当し,労働能力喪失率は56%を下らないというべきである(なお,1審被告は,労働者災害補償保険法施行規則所定の障害等級表に基づく労働能力喪失率や後遺障害の併合等を主張するが,同表は自動車損害賠償保障法施行令所定の障害等級表とほぼ同一である。)。 この点につき,1審被告は,前記のとおり,左上肢の用を廃したものとして障害等級5級4号に該当する旨主張するが,上記認定・説示に照らして採用できない。 - 39 -また,1審被告は,頸部の軟部組織に明らかな器質的変化(RSD)が認められ,その主要運動の可動域が健常者の2分の1以下に制限されているとし,脊柱に著しい運動障害を残すものとして6級4号に該当する旨主張する。しかし,1審被告の頸部の軟部組織に器質的変化が生じていることについてはこれを認めるに足りる証拠はなく,かえって,Oクリニック及びF病院は,MRI検査によっても,1審被告の頸椎,胸椎,頸髄,胸髄に異常はなく,脊柱管も十分広く,配列・椎間板・神経孔も良好である旨の診断をしていることに照らすと,上記主張は採用できない。 損害( ) 治療関係費等 ア治療関係費(ア) 治療費80万6248円甲第7,第9,第11,第13,第15,第18,第19,第21,第23号証によると,1審被告は,D整形外科において,平成14年5月18日に本件事故による症状が固定した旨の診断を受けたが,そ 248円甲第7,第9,第11,第13,第15,第18,第19,第21,第23号証によると,1審被告は,D整形外科において,平成14年5月18日に本件事故による症状が固定した旨の診断を受けたが,その旨の診断書が発行されたのは同月27日であること,同日までの1審被告の治療費は合計73万8808円であり,Oクリニックにおける同月23日の治療費は6万7440円であることが認められる。 よって,1審被告の治療費としては,症状固定の診断を受けた日までの合計80万6248円を認めるのが相当である。 (イ) 通院費8万2320円甲第19号証,乙第27号証の1,3,第29号証の5,第36,第37号証の1,2,第62号証によると,①1審被告は,自宅からD整形外科まで,本件事故日から症状固定日まで合計105日間通院したこと,②補助参加人は,1審被告に対し,本訴提起前において,自家用車での通院を前提に1キロ40円で算定した交通費を提案して- 40 -いたこと,③1キロ40円で計算すると,1審被告主張の上記金額になるのに対し,路線バスとJR線を利用する場合の往復の交通費は1440円であり,105日間の合計額は15万1200円となり,上記請求金額をはるかに超過することが認められる。 そうすると,1審被告が請求する8万2320円の限度で通院費を認めるのが相当である。 (ウ) 看護料・自宅介護料1審被告が自宅療養した際に自宅介護料を請求するには,1審被告が,単独では身の回りのことを行うことが困難であり,家族が通常の家庭生活を営む場合の相互援助の範囲・程度を超えて介護を行うことを要するような事情が必要であるところ,同事情についてはこれを認めるに足りる証拠はない。 (エ) 看護料・通院介護料乙第38号証の1,2によると,1審被告の夫であるYは,1審被告の上記 を行うことを要するような事情が必要であるところ,同事情についてはこれを認めるに足りる証拠はない。 (エ) 看護料・通院介護料乙第38号証の1,2によると,1審被告の夫であるYは,1審被告の上記通院の際,自宅からD整形外科まで通院介護したことは認められる。 しかし,通院介護料を請求するためには,医師が療養上必要と認めた場合であるなどの格別の事情が必要であるところ,これを認めるに足りる証拠はない。 したがって,上記請求は理由がない。 イ文書料1万3000円乙第62号証及び弁論の全趣旨に照らすと,1審被告は,本件事故により,警察署及び保険会社に対し,4通の診断書を提出したが,その文書料は少なくとも1万3000円を下らないものと認められる。 ウその他(ア) 事故車運搬費用- 41 -被害車両は,本件事故により走行不能になったわけではなく,レッカー車移動等の特別な運搬を必要としたものではないし,1審被告が主張する費用の内訳,必要性については,いずれもこれを認めるに足りる証拠はない。 (イ) 家族駆けつけ費用(警察署で事故車ドアロック)乙第111号証によると,1審被告は,本件事故後,被害車両を運転して警察署に赴いた際,ドアロックを行い,その開閉が困難になったことから,夫が同所に駆けつけてこれを開錠したことが認められる。 しかし,上記ドアロックは,1審被告が自ら行ったものであって,本件事故との相当因果関係を認めることはできないから,上記請求は理由がない。 (ウ) 応急病院搬送及び帰宅費用(パート営業員が介護)について乙第111号証によると,1審被告は,本件事故当日,同僚の運転する自動車で,上記警察署の斜め向かいにある勤務先から,D整形外科まで同行してもらい,受診後,自宅まで送ってもらったことが認められる。 しかし,1審被告が,上記同僚 審被告は,本件事故当日,同僚の運転する自動車で,上記警察署の斜め向かいにある勤務先から,D整形外科まで同行してもらい,受診後,自宅まで送ってもらったことが認められる。 しかし,1審被告が,上記同僚から,好意による同行・送迎ではなく,同行費用等の支払を求められたことについてはこれを認めるに足りる証拠はない。 したがって,上記費用の請求も理由がない。 ( ) 休業損害71万0270円 ア甲第24,第25号証,乙第9,第23,第26,第46号証によると,①1審被告は,本件事故当時,保険会社のパート社員として時給1400円で1日4時間の集金業務を行うとともに,主婦として家事労働も行っていたが,パート勤務の収入は,年間約148万円であったこと,②本件事故時から症状固定時までの日数は184日間であり,この間,1審被告は,本件事故による受傷のため,平成13年11月19日から同年12月まで- 42 -の22日間欠勤したこと,③平成13年度の「賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計・女子労働者の全年齢の平均賃金額」は352万2400円であるところ,1審被告は,兼業主婦であり,日常家事を行う上での支障をも考慮すると,現実の収入額ではなく,上記平均賃金を基礎として損害額を算定するのが相当である。 イ1審被告は,本件事故により,本件各傷害を負ったと診断され,頭痛,頸部痛,左背部痛,左上肢痛をはじめ,種々の機能障害及び運動痛が存在していたことは前記認定のとおりであって,その症状の内容・程度,勤務実態と稼働状況に照らすと,本件事故から症状固定日まで,平均して,その労働能力の4割が制限されたものと認めるのが相当である(なお,1審被告の後遺障害については,本件各傷害の症状固定後,RSDの症状が次第に顕著となったことから,前記のとおり労働能力喪失率を56 ,その労働能力の4割が制限されたものと認めるのが相当である(なお,1審被告の後遺障害については,本件各傷害の症状固定後,RSDの症状が次第に顕著となったことから,前記のとおり労働能力喪失率を56%としたが,症状固定時までの休業損害については,既に本件事故直後からRSDの初期症状が出現していたとはいえ,主として本件各傷害による労働能力の制限が生じたことに基づくものにすぎないと認められることに照らし,労働能力喪失率は,上記の限度で認めるのが相当である。)。 ウ以上によると,1審被告の休業損害額は71万0270円(円未満切捨。 以下同じ)である。 (計算式)352万2400円÷365日×184日×0.4( ) 通院慰謝料120万円 前記認定のとおり,1審被告は,本件事故発生日から症状固定日までの184日間,D整形外科に合計105日間にわたり通院したこと,この間,前記のとおり左上半身(頸部,背部,肩,腕,手等)に顕著な疼痛,機能障害があったことが認められ,これらの事実に照らすと,通院慰謝料は120万円であると認めるのが相当である。 ( ) 逸失利益2835万5517円 - 43 -ア労働能力喪失率労働能力喪失率を56%と認めるのが相当であることは前記のとおりである。 イ算定の基礎となる収入額前記のとおり,賃金センサスの平均賃金額である年収352万2400円を算定の基礎とすべきである。 ウ労働能力喪失期間1審被告は,症状固定時,満41歳であったところ,M鑑定によると,1審被告のRSDによる前記症状の改善ないし悪化の見通しについては,断定的な判断はできないものの,1審被告の症状は既に進行したRSDであるため,左上肢が,今後,機能的に完治することはあり得ず,疼痛,痺れ等の症状については強弱はあるが,改善,悪化を繰り返してい は,断定的な判断はできないものの,1審被告の症状は既に進行したRSDであるため,左上肢が,今後,機能的に完治することはあり得ず,疼痛,痺れ等の症状については強弱はあるが,改善,悪化を繰り返していく蓋然性が高いと認められる。 したがって,就労可能年数は,症状固定時から満67歳までの26年間と認めるのが相当であり,この期間に対応するライプニッツ係数14.3751を用いて中間利息を控除する方法で逸失利益を算定すると,1審被告の逸失利益は2835万5517円となる。 (計算式)352万2400円×0.56×14.3751( ) 後遺障害慰謝料1500万円 前記認定のとおり,1審被告は,本件事故により障害等級7級に相当する後遺障害が残ったのみならず,将来的に疼痛,痺れ等の症状が改善と悪化を繰り返す蓋然性が高いことから,1審被告主張のとおり,症状固定後も通院して治療費や交通費を負担したり,RSDの症状の1つであるアロディニアによる疼痛を緩和するため手袋を着用する必要があると推認される(乙第93号証によると,アロディニアは触覚・温覚刺激によっても激痛が起こることが認められる。 。)- 44 -しかし,治療行為としての必要性,通院の回数,手袋の買換の回数,価格,使用頻度等を含め,いずれも不確定的な要素が強いことに照らすと,アフターケアとしての治療,通院関係の諸費用や手袋の着用については,これらをいずれも慰謝料として斟酌するのが相当であり,以上の諸事実を総合考慮すれば,後遺障害慰謝料としては1500万円を認めるのが相当である。 なお,1審被告のその余の慰謝料請求(前記第3の2( )オの(イ)ないし (オ))については,1審原告ら又は同代理人の違法行為を認めるに足りる証拠はない。 ( ) 将来の損害37万4990円 ア将来の治療費 の余の慰謝料請求(前記第3の2( )オの(イ)ないし (オ))については,1審原告ら又は同代理人の違法行為を認めるに足りる証拠はない。 ( ) 将来の損害37万4990円 ア将来の治療費これを後遺障害慰謝料として斟酌するのが相当であることは上記のとおりである。 イ将来の通院交通費上記同様,後遺障害慰謝料として評価すべきである。 ウ将来の通院介護費前記のとおり,1審被告は,自ら自動車を運転することが可能であるから,仮に通院したとしても,通院について介護を要する状況にあるとは認めることができない。 エ60歳以降の介護費被害者が植物状態に陥ったり,重篤な障害を有する場合には,将来にわたり,付添看護を要する場合がある。 しかし,前記認定のとおり,1審被告は,左肩,左肘,手関節,左手指に高度な運動制限はあるが,筋力は完全に消失しているわけではなく,痛みを我慢すれば相当程度の動きが可能であること,現在でも自ら自動車を運転して得意先を回る等して稼働していること,1審被告の症状は,将来的には,現在の症状が改善と悪化を繰り返していく蓋然性が高いことに照- 45 -らすと,1審被告が,家庭生活における家族の家事分担ないし協力の範囲を超えて,常時介護を要するような状況に陥るとは認めることができない。 したがって,介護費の請求は理由がない。 オ補装具購入費用①手袋(縫い目なし)これは,前記のとおり,後遺障害慰謝料として斟酌するのが相当である。 ②ホットカイロホットカイロの必要性についてはこれを認めるに足りる証拠はない。 カ日常生活用具購入費用6万4990円前記のとおり,1審被告には左上肢の後遺障害があることに照らすと,①ドライヤー(スタンド式)1万円,②フードミキサー器具(スライス,みじん切り等1万4490円,③自動食器洗い 入費用6万4990円前記のとおり,1審被告には左上肢の後遺障害があることに照らすと,①ドライヤー(スタンド式)1万円,②フードミキサー器具(スライス,みじん切り等1万4490円,③自動食器洗い器4万円はいずれも必要かつ相当であると認められる(各価格は乙第62号証及び弁論の全趣旨によりこれを認める。)。 キ住宅改造費用1万円上記障害により,浴室の介護用取っ手の取付けを行うことは必要かつ相当であると認められるところ,弁論の全趣旨によると,その費用は1万円を下らないことが認められる。 しかし,1審被告のその余の住宅改造費については,それらの必要性を認めることができない。 ク自動車改造費用等30万円(ア) カーナビテレビ,ハンドグリップ前記認定のとおり,1審被告は,自動車を運転し,パート勤務に従事しているが,本件事故によるRSDにより頸部を動かして後方を確認することは著しく困難である上,左上肢の著しい可動域の制限があること- 46 -に照らすと,自動車のハンドルに障害者用ハンドグリップを装着したり,後方の安全確認のためのカーナビテレビを運転席に設置することには相当の理由がある。 そして,1審被告は,本件事故当時満40歳であったから,前記稼働可能年齢までに,少なくとも数台の自動車を買い換え,その都度,これらを購入して装着するものと考えられること,乙第62号証によると,カーナビテレビは1台当たり20万円,ハンドグリップ取付け費用は1回当たり1万2600円であることが認められる。 しかし,1審被告が,具体的に車両を買い換える時期や台数,将来におけるこれらの価格には不確定的要素がある(被害車は平成3年度登録のものであり本件事故時までに約10年が経過していた。)上,将来出捐予定の金額を現価計算する場合には中間利息を控除する必要があるこ におけるこれらの価格には不確定的要素がある(被害車は平成3年度登録のものであり本件事故時までに約10年が経過していた。)上,将来出捐予定の金額を現価計算する場合には中間利息を控除する必要があることを考え併せると,1審被告の主張全額50万円の6割に相当する30万円の限度でこれを認めるのが相当である。 (イ) 洗車費用同費用は,車を保有する以上,必然的に負担を避けられない費用であるから,本件事故との相当因果関係を認めることはできない。 ( ) 遅延損害金の利率 1審被告は,1審原告らが補助参加人から受領する保険金は商事法定利率で算定される旨主張するが,補助参加人は,1審原告らの1審被告に対する損害賠償債務が確定した場合に,損害保険契約に基づき,1審原告らに代わって1審被告に対し立替払いをするものであって,その場合にも,民法所定の遅延損害金で計算された賠償金を支払うにすぎず,1審原告らが補助参加人から商事法定利率で計算した保険金の支払を受けるものではないから,1審原告らが1審被告の主張する1%の遅延損害金相当額を利得する関係にはない。 - 47 -したがって,この点に関する1審被告の主張は理由がない。 ( ) 以上によると,1審被告の被った損害額は合計4654万2345円であ る。 損害額の減殺要因について( ) 心因性の要因について 1審原告らは,1審被告のRSDの発症については心因性の要因にも起因する旨主張するのに対し,1審被告は,従来,RSDは,精神・心理学的要因により発症するとされていたが,今日では,RSDの結果として心因性の障害が惹起されるという見解に統一されている旨主張し,これに沿う証拠もある(乙第93号証の1)。 確かに,RSDの結果として心因性の障害が惹起されることはあり得るとしても,M鑑定によると,きっか の障害が惹起されるという見解に統一されている旨主張し,これに沿う証拠もある(乙第93号証の1)。 確かに,RSDの結果として心因性の障害が惹起されることはあり得るとしても,M鑑定によると,きっかけとなる侵害事象は日常多く存在し「R,SDないしCRPS」を発症する患者の数百倍に及ぶ数多くの患者がこの侵害事象や「きっかけ」を経験しているにもかかわらず,一部の患者のみが「RSDないしCRPS」を発症する原因については医学的に解明されておらず,受傷機転,神経損傷の部位と障害様式,廃用,遺伝的要因等と並んで,心理的問題などの複数の因子が複雑に寄与していると考えられるから,心因性の要因がRSDの発生原因と関係がないとまではいえない。 このことは,M鑑定資料( )にも引用されているU医師が,1審被告につ いてはCRPSの診断基準を満たすが,現在の症状が本件事故にのみ起因するとは考え難い旨の所見を示していること(甲第139号証)からも首肯することができる。 しかして,前記認定のとおり,①本件事故の衝撃は,比較的軽微であったこと,②1審被告には,MRI検査及びX線検査によっても,頸椎,胸椎,頸髄,胸髄,椎間板に異常はなく,外傷性頸椎・胸椎椎間板ヘルニアの疑いも存在せず,脊柱管も十分に広く,その配列・椎間板・神経孔も良好であっ- 48 -て,筋電図(神経伝導検査)も正常内にあったこと,③1審被告は,D整形外科に対し,左肩甲部痛,左上肢痺れ感があり,左手元(母指除く)がジンジンするとした上「毎日のことなのでイライラ感がある」と訴えていること,。 等に照らすと,1審被告が本件事故により直接受けた本件各傷害のみからRSDを発症したものではなく,本件事故に起因した器質的疾患とともに,1審被告の性格及び心因性の反応を引き起こしやすい素因が合併ないし競合し すと,1審被告が本件事故により直接受けた本件各傷害のみからRSDを発症したものではなく,本件事故に起因した器質的疾患とともに,1審被告の性格及び心因性の反応を引き起こしやすい素因が合併ないし競合して発生したものと認めるのが相当である。 ( ) 第2事故,第3事故の影響について 甲第137,第138号証,1審被告の供述によると,①1審被告は,平成16年10月20日,自車を一時停止中,後方から第三者の車両によって追突されるという交通事故に遭遇し,頸椎捻挫,左肋骨挫傷の傷害を負い(以下「第2事故」という。),頸部から左上半身全体にかけて痛みが強く,前胸部痛や左眼奥のピクピク感もあったため,同日から同年11月7日まで通院治療を受けたが,第2事故後の方が本件事故よりも症状が強かったこと,②1審被告は,平成17年8月22日,上記同様,追突されるという交通事故に遭遇し,翌日,頸部痛が強く頸椎捻挫の診断を受け(以下「第3事故」という。),以後,4日間休業したが,頸部痛及びその可動域制限が生じたほか,頭痛,目眩が生じ,同年8月23日から平成18年2月28日まで通院治療を受けたこと,③第2,第3事故の際,1審被告は,衝突の瞬間まで追突を予測していなかったことから,本件事故とは異なり衝撃に対する防御姿勢をとれず,受傷機転は本件事故よりも大きかったことが各認められ,こ,れらの事実と,④1審被告のRSDの諸症状並びに頸部及び左上肢(肩関節肘関節,手関節等)について,第2,第3事故前の前記平成15年1月22日付け意見書作成当時及びN意見が提出された当時(平成15年12月10日)の可動域制限と,上記各事故後のM鑑定当時(平成17年10月30日)のそれとを比較して,M鑑定時の頸部及び左上肢の関節の可動域の制限- 49 -がより一層進行している部分があること 12月10日)の可動域制限と,上記各事故後のM鑑定当時(平成17年10月30日)のそれとを比較して,M鑑定時の頸部及び左上肢の関節の可動域の制限- 49 -がより一層進行している部分があることを併せ考えると,第2事故及び第3事故は,本件事故に起因するRSDの症状をより悪化させたか,又はその症状の軽減を妨げたものと推認される。 ( ) 専門医の治療について 1審原告らは,仮に1審被告がRSDであれば,1審被告がRSDの専門医の治療を受けず,病状の悪化を招いて損害を拡大させた旨主張する。 確かに,M鑑定によると,1審被告については,初期に行うべきRSDの治療がほとんど行われていないことが認められるから,RSDの早期治療が結果的に遅れたことが,1審被告の症状の悪化を招いた可能性があることは否定できない。 しかし,すでにみたとおり,当事者双方の主張が鋭く対立し,専門家からみてもその判定が難しいRSDの症状について,医学的な素人である1審被告において本件事故の直後から速やかにRSDに関する専門治療をすべきであるというのは酷であり,1審被告は,前記認定のとおり,本件事故当日から,D整形外科を受診し,この間,同外科も1審被告に他の専門医を受診させて所見を求めるなどし,1審被告もこれに従っていたことが認められるから,1審被告がRSDにつき,格別の治療を早期の段階から受けなかったとしても,これをもって1審被告側の落ち度ということはできない。 ( ) 以上によると,1審被告のRSDの発症については,1審被告の性格及び 心因性の反応を引き起こしやすい素因が合併ないし競合して発生し,しかも第2,第3事故が1審被告の症状に及ぼした影響(第2,第3事故による影響を「1審被告の後発的素因」の一種と考えることもできる。)も考慮すると,1審被告のRSDによる全 併ないし競合して発生し,しかも第2,第3事故が1審被告の症状に及ぼした影響(第2,第3事故による影響を「1審被告の後発的素因」の一種と考えることもできる。)も考慮すると,1審被告のRSDによる全損害を1審被告に負担させることは公平の理念から相当性を欠くというべきである。 したがって,心因性の要因については過失相殺の法理(民法722条)の類推により,第2,第3事故による影響についてはその寄与割合を考慮し,1- 50 -審被告のRSDによる損害の一部を1審原告らに負担させるべきところ,以上の過失割合及び寄与割合を総合した割合は,本件事実関係の下においては,5割と認めるのが相当である。 しかして,1審被告の被った総損害額は,前記のとおり4654万2345円であるところ,このうち,症状固定前の損害281万1838円(治療費,通院費,文書料,休業損害,通院慰謝料)については,同時点までにRSDの初期症状が一部出現していたものの,前記のとおり主として本件各傷害に起因する症状に基づく損害であって,未だ心因性の要因が作用していたとは認めることができないし,第2,第3事故の発生前の損害であるから,上記減殺をする必要はないが,症状固定後の損害4373万0507円については,主としてRSDの症状に起因する損害であるから,上記のとおりの過失割合及び寄与割合による減殺によって損害額をその5割の2186万5253円と認めるのが相当である。 よって,減殺後の損害合計額は2467万7091円となる。 (計算式)281万1838円+4373万0507円×0.5 損益相殺後の損害額合計上記損害額から既払金額451万円を控除すると,1審被告の被った損害額は2016万7091円である。 第5 結論 以上によれば,1審原告らの各本訴にかかる債務不存在確認請求の訴えは, 後の損害額合計上記損害額から既払金額451万円を控除すると,1審被告の被った損害額は2016万7091円である。 第5 結論 以上によれば,1審原告らの各本訴にかかる債務不存在確認請求の訴えは,1審被告の反訴の提起により訴えの利益がなくなったから,これを却下すべきものであり,他方,1審被告の反訴については,損害賠償金2016万7091円及びこれに対する本件事故発生の日である平成13年11月16日(不法行為日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を認める限度で理由があり,その余は理由がない。 よって,1審被告の本件控訴及び反訴に基づき,原判決を変更し,1審原告- 51 -らの各本訴請求にかかる訴えをいずれも却下し,1審被告の反訴請求を上記の限度で認容し,その余を棄却し,1審原告らの本件各控訴をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。 大阪高等裁判所第5民事部裁判長裁判官大和陽一郎裁判官菊池徹裁判官市村弘(別紙省略)

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