平成27年12月22日判決言渡平成26年(ネ)第5388号損害賠償請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成23年(ワ)第40981号) 主文 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は,控訴人に対し,3123万9726円及びこれに対する平成20年3月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は,第1審,第2審を通じ,被控訴人の負担とする。 事実 及び理由第1 控訴の趣旨主文同旨第2 事案の概要等 1 事案の概要(1) 控訴人(国立市)は,国立市内においてマンション建築を計画していたa株式会社(以下「a」という。)から,国立市の市長であった被控訴人によって営業活動を妨害され,信用が毀損されたことなどにより損害を被ったとして,国家賠償法1条1項に基づいて損害賠償金合計4億円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める旨の訴えを提起され,この訴訟において,控訴人に損害賠償金合計2500万円及びこれに対する遅延損害金の支払を命じる旨の判決が確定したことから,平成20年3月27日,aに対し,上記判決で認容された損害賠償金2500万円及びこれに対する遅延損害金623万9726円の合計3123万9726円(以下「本件損害賠償金」という。)を支払った。 (2) 控訴人の住民は,被控訴人のaに対する上記(1)の営業妨害行為及び信用毀損行為は故意又は重大な過失によるものであって,控訴人はaに本件損害賠償金を支払ったことにより被控訴人に対して国家賠償法1条2項に基づく 求償権(以下「本件求償権」という。)を有するところ,国立市長が本件求償権を行使していないのは違法に財産の管理を怠る事実に該当するとして,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,国立市長を被告として,本 (以下「本件求償権」という。)を有するところ,国立市長が本件求償権を行使していないのは違法に財産の管理を怠る事実に該当するとして,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,国立市長を被告として,本件求償権の行使を求める旨の住民訴訟(以下「前件住民訴訟」という。)を東京地方裁判所に提起し,平成22年12月22日,国立市長に対し,本件求償権に基づき,被控訴人に対して3123万9726円及びこれに対する本件損害賠償金の支払日の翌日である平成20年3月28日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を請求するよう命じる旨の判決(以下「前件住民訴訟判決」という。)が言い渡された。 国立市長は,前件住民訴訟判決を不服として東京高等裁判所に控訴をしたが,被控訴人は,前件訴訟の被告である国立市長に補助参加していたものの,控訴をせず,平成23年5月30日,新たに就任した国立市長がこの控訴を取り下げたため,前件住民訴訟判決が確定した。 (3) 本件は,控訴人が,被控訴人に対し,前件住民訴訟判決で命じられた求償請求をしたものの,前件住民訴訟判決が確定した日から60日以内にその支払がされなかったとして,地方自治法242条の3第2項に基づき,求償金3123万9726円及びこれに対する法定利息又は遅延損害金の支払を求める事案である。 原判決は,控訴人の請求を棄却したので,控訴人がこれを不服として控訴をした。 2 前提事実前提事実は,次の3のとおり原判決を補正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「2 前提事実」(3頁8行目から17頁2行目まで)及び原判決別紙2から別紙5まで(52頁1行目から76頁末まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 3 原判決の補正 (1) 原判決3頁26行目の「① 本件土地を含む 2行目まで)及び原判決別紙2から別紙5まで(52頁1行目から76頁末まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 3 原判決の補正 (1) 原判決3頁26行目の「① 本件土地を含む」から4頁3行目の「次のとおりである。」までを次のとおり改める。 「本件土地を含む周辺土地の歴史や地域性等は,別紙3「本件土地に本件建物が建築されるに至った経緯等」の1(原判決55頁3行目から58頁19行目まで)に記載のとおりであり,国立市の景観をめぐる施策等並びにaの本件土地の取得及び本件訴えに至る経緯等は,次のとおりである。」(2) 原判決5頁13行目から14行目にかけての「開始した。」を「開始した(甲B14,15)。」に改める。 (3) 原判決5頁26行目から6頁4行目までを次のとおり改める。 「キ平成11年8月8日,本件建物の建築計画に反対する学校法人b関係者,近隣住民,一般市民ら(以下,併せて「bら」という。)が集まって市民団体「c」を立ち上げ,その後加入したdが,その代表に選任された(乙A3)。」(4) 原判決10頁21行目の「本件建物のうち,」から同頁22行目から23行目にかけての「働き掛けた。」までを次のとおり改める。 「本件建物のうち,高さが20mを超える部分について,電気及びガス供給申込み承諾の保留を電気事業者及びガス事業者に要請すること,並びに控訴人が受託している水道の供給について,上記部分についての給水の申込みの承諾の保留を承認するよう働き掛けた。」(5) 原判決12頁4行目の「東京高等裁判所は,」から同頁6行目の「aの損害を認定し」までを次のとおり改める。 「東京高等裁判所は,平成17年12月19日,aの主張する被控訴人の不法行為のうち,後記の第1行為から第4行為までの行為(ただし,平成11年12 目の「aの損害を認定し」までを次のとおり改める。 「東京高等裁判所は,平成17年12月19日,aの主張する被控訴人の不法行為のうち,後記の第1行為から第4行為までの行為(ただし,平成11年12月27日のeのインタビューでの発言を除く。)について,全体としてaの営業活動を妨害する違法な行為であったとした上, 既存不適格化による不動産の価格下落による損害は受忍すべき範囲内であるなどとして認めず,本件建物の住戸に売却ができなくなったり,できたとしても遅れたものがあったことを損害と認めて,民事訴訟法248条により,その損害額を1500万円と認定し,さらに信用毀損による損害額についても同条により1000万円と認定し,」(6) 原判決12頁20行目から23行目までを次のとおり改める。 「エ(ア) 平成20年4月7日,aの役員が国立市教育委員会を訪れ,a訴訟の控訴審判決が確定した結果,控訴人からaに支払われた損害賠償金及び遅延損害相当額に関し,寄附の申出をした。その申出の内容は,「aが控訴人から受け取った損害賠償金と遅延損害金を寄附したい。子ども達の役に立つもの,例えばグランドピアノなどを購入してほしい。」というものであった。これに対し,国立市教育委員会の担当者は,市長部局とも協議した上で返答する旨を回答した。(甲B99)」(7) 原判決16頁11行目の「遅延損害金」を「金員」に改める。 (8) 原判決17頁2行目の次に改行した上で次のとおり加える。 「(6) 控訴人における本件求償権の行使を求める旨の議決ア平成27年4月26日に国立市の市長選挙が実施され,本件求償権を放棄しないとする現市長(f)が再選されると共に,同日実施された市議会選挙の結果,現市長(f)を支持する議員が多数となった(甲A16の1,2,17,弁論の全 国立市の市長選挙が実施され,本件求償権を放棄しないとする現市長(f)が再選されると共に,同日実施された市議会選挙の結果,現市長(f)を支持する議員が多数となった(甲A16の1,2,17,弁論の全趣旨)。 イ平成27年5月19日に開かれた平成27年国立市議会第1回臨時会において,「g元市長に対する求償権の行使を求める決議(案)」が3名の議員から提出され,同日,賛成多数で原案どおり可決された。この決議は,本件放棄議決に反対の意思を表明するとともに,国立市長に本件求償権の行使を求めるというものである(甲A18,19,20。 以下「本件行使議決」という。)。」(9) 原判決58頁20行目から71頁末までを削る。 第3 争点 1 争点は,次の2のとおり原判決を補正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 争点」(17頁3行目から42頁14行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 2 原判決の補正(1) 原判決17頁8行目から9行目にかけての「本件損害賠償金の支出による損失の実質的な塡補による損益相殺の可否,本件求償権行使についての信義則違反の有無」を「本件寄附による損害の実質的な塡補による損益相殺の可否,本件放棄議決による本件求償権の消滅又はその行使についての信義則違反の有無」と改める。 (2) 原判決38頁23行目「本件損害賠償金の支出による損失の」を「本件寄附による損害の」と改める。 (3) 原判決40頁5行目から42頁14行目までを次のとおり改める。 「(6) 本件放棄議決による本件求償権の消滅又はその行使についての信義則違反の有無(被控訴人)ア地方自治法112条1項は,普通地方公共団体の議会の議員は,議会の議決すべき事件につき,議会に議案を提出することができる旨を規定し,議会の議決 行使についての信義則違反の有無(被控訴人)ア地方自治法112条1項は,普通地方公共団体の議会の議員は,議会の議決すべき事件につき,議会に議案を提出することができる旨を規定し,議会の議決事項の一つである同法96条1項10号の権利放棄の議決に係る議案提案につき,予算のような議員に提出権がない旨の規定(同法112条1項ただし書)が存在していないことからすると,普通地方公共団体の議会の議員には,同法96条1項10号の議案提出権があるということができる。 イ本件放棄議決は,地方自治法96条1項10号に基づく議会の議決 事項として提案され,国立市議会に裁量権の逸脱や濫用はなく,適法に議決されたものであり,この議決によって普通地方公共団体の意思が決定するものであるから,本件放棄議決によって本件求償権が消滅した。 ウ本件行使議決は,地方自治法96条の議決事件として提案されたものではなく,本件放棄議決の効力を否定できるものではなく,国立市長(f)に対する政治的支援の意思表明でしかない。 エ仮に,本件行使議決が本件放棄議決を撤回するものであったとしても,本件求償権を消滅させるという自治体意思が決定された以上,一旦消滅した債権を債務者の意思に反して復活させることはできない。 オ現国立市長(f)は,選挙公報などで本件求償権の行使を主張したことはなく,本件行使議決に賛成した市議会議員も,本件求償権の行使を政策として掲げていたこともないから,現国立市長(f)が再選され,本件行使議決がされたとしても,本件求償権の行使が国立市民の民意であるとはいうことができない。 カ本件行使議決は,本件放棄議決の効力を否定することができるものではないから,本件放棄議決によって直ちに本件求償権が消滅しないとしても,国立市長としては,本件放棄議決を とはいうことができない。 カ本件行使議決は,本件放棄議決の効力を否定することができるものではないから,本件放棄議決によって直ちに本件求償権が消滅しないとしても,国立市長としては,本件放棄議決を執行する義務がある。普通地方公共団体の長は,議会の議決について異議があるときは,議決の日から10日以内に理由を示して再議に付することができ(地方自治法176条1項),議会の議決が,その権限を超え又は法令若しくは会議規則に違反すると認めるときは,理由を示して再議に付する義務がある(同条4項)。国立市長が,再議に付することをしないで,本件放棄議決に反して,本件求償権を行使することは,控訴人の意思を無視するものであって,権限の濫用であり,被控訴人に対する信義則違反である。 キ控訴人がaから受けた本件寄附は,控訴人の損失を実質的に塡補するものであること,控訴人が本件損害賠償金を負担することになったと しても,その一方で,国立市α地区における建築物の高さをβのイチョウ並木の高さである20m以下に制限する旨の本件地区計画の決定や本件条例の制定及び施行により,国立市民が景観利益という大きな利益を得ていること,被控訴人自身は,本件各行為により,全く私的な利益を受けていないことなどからすると,控訴人が被控訴人に対して本件求償権を行使することは信義則に反する。 (控訴人)ア本件放棄議決が地方自治法96条1項10号に定められた事件の議決であることは争う。普通地方公共団体の議会による権利放棄の議決(同法96条1項10号)は,普通地方公共団体の財産の取得管理処分はいずれも普通地方公共団体の長の専権事項に属することを前提として(同法148条,149条6号),その適正を担保するために事前に審査する権限を議会に付与したというものであることからすると,権 理処分はいずれも普通地方公共団体の長の専権事項に属することを前提として(同法148条,149条6号),その適正を担保するために事前に審査する権限を議会に付与したというものであることからすると,権利放棄の議決に係る議案の提出権は,執行機関として権利放棄の権限を有する首長にあり,議決機関である議会の議員にはなく,議員から提出された議案に係る本件放棄議決は同法96条1項10号の議決としては不適法である。また,本件放棄議決の内容は,前件住民訴訟判決によって控訴人に義務付けられた被控訴人に対する訴訟手続による損害賠償請求を拒絶するというもの,すなわち,地方自治法の定める住民訴訟制度を否定するものであり,議会の裁量権の範囲を逸脱し又はその裁量権を濫用するものであるから,本件放棄議決は無効である。 イ本件行使議決は,直近の市議会選挙の結果を反映したものであり,民意に裏付けされた現在の控訴人の意思である。被控訴人は,本件放棄議決によって本件求償権の放棄の効果が生じているから,本件行使議決がされてもその効果は消滅しないと主張するが,普通地方公共団体による債権の放棄は,条例による場合を除き,その議会が債権の放棄の議決 をしただけでは放棄の効力は生ぜず,その効力が生ずるには,その長による執行行為としての放棄の意思表示を要するものというべきである。 そして,債権放棄がされない間に,本件行使議決がされたことは,先にされた本件放棄議決が後の本件行使議決によって否定されたと解するのが相当であり,国立市長が,直近の議会の意思である本件行使議決を尊重することは地方自治の本旨に適うことである。 ウ aによる本件寄附は本件損害賠償金の支出による損失を実質的に塡補するものではない上,控訴人は,被控訴人のaに対する一連の違法行為による訴訟の裁判費用として39 地方自治の本旨に適うことである。 ウ aによる本件寄附は本件損害賠償金の支出による損失を実質的に塡補するものではない上,控訴人は,被控訴人のaに対する一連の違法行為による訴訟の裁判費用として3918万0904円の支出を余儀なくされており,aから清掃施設整備協力金及び公園緑地整備協力金の7881万2000円の納入がされていないなど,被控訴人の一連の違法行為によって控訴人が被った経済的不利益は本件損害賠償金の支払にとどまらない。その他,被控訴人には,aに対する本件各行為という違法行為について,少なくとも重過失という帰責事由があることなどからすると,控訴人が被控訴人に対して本件求償権を行使することは何ら信義則に反するものではない。 第4 当裁判所の判断 1 前件住民訴訟判決の参加的効力の有無(1) 前記前提事実によれば,被控訴人は,前件住民訴訟において,被告であった国立市長(h)から地方自治法242条の2第7項に基づく訴訟告知を受け,民事訴訟法42条に基づいて国立市長に補助参加したこと,住民らの請求を認容する前件住民訴訟判決がされ,この判決に対して,当時の国立市長が控訴をしたが,被控訴人は控訴をしなかったこと,その控訴審でも,被控訴人は引き続き国立市長に対して補助参加をしたこと,しかし,平成23年5月に新たに就任した国立市長(f)が控訴審の口頭弁論終結後に前件住民訴訟の控訴を取り下げたことから,前件住民訴訟判決が確定したことが認 められる。 (2) ところで,前件住民訴訟判決に対しては,補助参加人であった被控訴人も控訴することができたが,国立市長が控訴した後は,補助参加人が控訴しようとしても二重控訴となって不適法となるから(最高裁判所平成元年3月7日第三小法廷判決・判例タイムズ699号183頁参照),被控訴人としては独 できたが,国立市長が控訴した後は,補助参加人が控訴しようとしても二重控訴となって不適法となるから(最高裁判所平成元年3月7日第三小法廷判決・判例タイムズ699号183頁参照),被控訴人としては独立に控訴することはできず,国立市長の控訴による控訴審の訴訟手続に補助参加する以外に訴訟に関与する方法がない。また,当事者が控訴を取り下げるについては,補助参加人の同意は不要であるから,上記の国立市長の控訴取下げについては,被控訴人の意向には明らかに反していたことがうかがわれるが,被控訴人としてはこれを防止する法律上の手段がなかったことになる。 (3) そうすると,被控訴人としては,前件住民訴訟判決について,控訴審判決を受け,さらに上告審で争う機会を国立市長の上記の控訴取下げによって奪われ,被控訴人としてこれを防止する法律上の手段がなかったわけであるから,国立市長の上記控訴取下げは,民事訴訟法46条3号の「被参加人が補助参加人の訴訟行為を妨げたとき。」に該当するものというべきであり,本件訴訟においては,前件住民訴訟判決の効力が補助参加人であった被控訴人に及ばないことを前提として,控訴人の被控訴人に対する求償請求の可否について判断すべきことになる。控訴人は,被控訴人が前件住民訴訟に参加したものの,格別の主張立証をしておらず,国立市長の上記控訴取下げの時点で控訴審の口頭弁論が終結していたから,国立市長の行為によって被控訴人の訴訟行為が妨げられたという事情はないと主張するが,前国立市長(h)のときに被控訴人が格別の主張立証を行っていないのは,当時の国立市長の主張立証活動が,被控訴人の意に沿っていたからにすぎないとうかがわれるし,国立市長の上記控訴取下げの時点で控訴審の口頭弁論が終結していたとしても,被控訴人は控訴審判決を受け,仮に控訴審判決で敗訴 長の主張立証活動が,被控訴人の意に沿っていたからにすぎないとうかがわれるし,国立市長の上記控訴取下げの時点で控訴審の口頭弁論が終結していたとしても,被控訴人は控訴審判決を受け,仮に控訴審判決で敗訴したと しても,上告審で争う機会があったはずであるから,これらの機会を奪われたことは,被控訴人の訴訟行為が妨げられたものということができる。 2 被控訴人のaに対する違法行為の有無(1) 基本的な観点国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違反して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものである。そこで,普通地方公共団体の長が,個別の国民に対する関係でいかなる職務上の法的義務を負うかどうかを検討する。普通地方公共団体の長は,当該普通地方公共団体を統轄し,これを代表し(地方自治法147条),普通地方公共団体の事務を管理し及びこれを執行する(同法148条)代表的な執行機関であり,当該普通地方公共団体の条例,予算その他の議会の議決に基づく事務及び法令,規則その他の規程に基づく当該普通地方公共団体の事務を,自らの判断と責任において,誠実に管理し及び執行する義務を負うものである(同法138条の2)。地方公共団体は,住民の福祉の増進を図ることを基本として,地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとされるが(同法1条の2第1項),地方公共団体の長は,執行機関としてこれらの役割に即した事務を,法令,条例,議会の議決に従い誠実に管理し及び執行する義務を負うものと解される。地方公共団体の長の役割に鑑み,地方公共団体の長は,地域の行政を遂行するに当たり,公平性及び中立性を保つ必要があることは当然のことと解され 議決に従い誠実に管理し及び執行する義務を負うものと解される。地方公共団体の長の役割に鑑み,地方公共団体の長は,地域の行政を遂行するに当たり,公平性及び中立性を保つ必要があることは当然のことと解される。もっとも,一般職の公務員と異なり,地方公共団体の長は選挙によって選ばれ(同法17条),公職選挙法による制限はあるものの,政治活動の自由があり,議会議員や関係私企業の役員等の一定の職業を除き(地方自治法141条,142条),兼職が禁止されていないから,職務上の法的義務として要求される公正性・中立性も,一般職の公務員と異なる面があることは否定す ることができない。また,個人の営業の自由は保障されているが(憲法22条1項),個人の経済活動につき,絶対かつ無制限の自由を保障する趣旨ではなく,公共の福祉の要請に基づき,その自由に制限が加えられることがある(憲法29条2項)。そうすると,地方公共団体の長が,景観利益を重視する立場から,土地上の建築について規制をし,これによって土地を利用する個人の営業活動が制限されたとしても,その規制目的が公共の福祉に合致するものであり,規制手段が規制目的に照らして均衡のとれたものであり,法的に適正な手続に従って行われる限り,営業の自由を侵害したというだけで国家賠償法上違法とされるいわれはない。本件において,被控訴人が,βの景観利益を重視する立場から,都市計画法及び条例に基づき,本件土地を含む地域について建築物の高さを制限する建築規制を行おうとしたこと自体は,それが「住民の福祉の増進」に沿うという一つの政策判断の下にされたものであり,前記前提事実記載の本件土地を含む周辺土地の歴史や地域性(原判決55頁3行目から58頁19行目まで)に照らして,そうした建築規制については一定の合理性を肯定することができる。し にされたものであり,前記前提事実記載の本件土地を含む周辺土地の歴史や地域性(原判決55頁3行目から58頁19行目まで)に照らして,そうした建築規制については一定の合理性を肯定することができる。しかし,地域の基本的な行政機関であるという地方公共団体の役割に照らし,当該行政目的の遂行によって制限される他の法益との調和を図る義務があるものと解され,法令に従い適正な手段によって行うことが要請される。本件においては,条例の制定等による法的な規制手段にとどまらず,住民集会や議会での発言等,事実上の圧力となるような手段を用いた点において,社会的相当性を逸脱し,当該私人の営業活動を違法に妨害したものとして,職務上の法的義務に違反したということができるかどうかが問題になる。そこで,以上の観点から,控訴人の主張する第1行為から第4行為までについて,それが国家賠償法上の違法行為に該当するかどうかを順に検討する。 (2) 第1行為についてア前記前提事実及び後掲各証拠並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が 認められる。 (ア) aは,平成11年4月頃,本件土地における大規模マンション建築の可能性に関する調査を開始し,同年5月21日,控訴人や建築指導事務所の各担当部局との間で,本件建物の建築計画に関する開発相談及び建築確認相談を開始し,同年6月7日に控訴人を再度訪問して,建設部都市計画課の職員から,詳しい説明を受けた。aは,当時の都市計画課の職員から,景観条例とこれに基づく手続についての説明を受け,景観条例が建築物の高さを制限するものではない旨も確認したが,同職員からは本件土地が面しているβ沿いは,景観に関する市民の関心が高く,当時の市長(被控訴人)の元所属団体が景観権をめぐって裁判中であることなどの話を聞いた(甲B14から17まで,乙A 認したが,同職員からは本件土地が面しているβ沿いは,景観に関する市民の関心が高く,当時の市長(被控訴人)の元所属団体が景観権をめぐって裁判中であることなどの話を聞いた(甲B14から17まで,乙A18)。 (イ) 被控訴人は,平成11年7月3日,「i」の主催するj株式会社によるマンション建築計画に関する懇談会に参加し,その懇談会終了後の雑談の中で,本件土地におけるマンション建築計画について話した上,景観にそぐわないマンション建築計画について,行政だけで止めるのは容易ではないという趣旨の発言をした(甲B6,52,乙A84の6及び7。詳細な発言内容とその影響等については後述する。)。 (ウ) その後,平成11年8月8日,本件建物の建築計画に反対するbらが集まって市民団体のcを立ち上げ,その後加入したdが,その代表に選任された(乙A3)。 (エ) cが作成した「○」と題する小冊子(甲B54)によれば,「7月3日,aマンションの情報が市長からγにもたらされたことから市民の活動ははじまりました。その点でこの行動の意味は大きいです。」旨の記載がある。 (オ) 被控訴人は,その著作「○」(甲B53)において,上記「i」の主催する懇談会での発言として,「『皆さん,このマンション問題も大 事ですが,あそこのβになんと14階で340戸のマンションができます。いいんですか皆さん。はっきり申し上げて行政は止められません。』と言ったんです。」(甲B53・38頁),「『皆さんが市民的運動を広げて戦ってくれなければ勝てません』というふうに言ったものですから,『それは大変だ』というんで,住民がパーッと動き始めた。」(同)などと記載している。 イ平成11年7月3日,「i」での被控訴人の発言について,被控訴人は,上記(イ)のような程度の発言をしたこ ら,『それは大変だ』というんで,住民がパーッと動き始めた。」(同)などと記載している。 イ平成11年7月3日,「i」での被控訴人の発言について,被控訴人は,上記(イ)のような程度の発言をしたことは認めるが,この段階ではaによるマンションの建築計画が既に知られ始めており,また,発言の内容も行政の現状を率直に語ったものにすぎないことからすると,被控訴人による上記発言はaの営業活動を妨害する行為でも,住民運動を扇動する行為でもないことが明白であり,aによるマンション建設についてのcの結成と上記発言との間に因果関係はないなどと主張する。しかし,平成11年6月頃の時点でaによるマンションの建築計画は,不動産業界でaが本件土地を購入するらしいという噂が広まっていた(乙A3・88頁)とか,aと取引関係のある会社関係者であるk委員が聞いていた(乙A20・15頁)という程度のものであり,本件土地周辺の住民や一般市民には知られていなかったことがうかがわれる。被控訴人自身,前掲の著作の中で「aがちらちらと市の窓口にきているという時に私は職員から『どうも買いそうだ』という話を聞きましたから,他のマンション問題で一か所ちょっともめている場所があって,私は市民に呼ばれたものですからそこへいって訴えたんです」(甲B53・38頁)と記述していることからみて,いまだ業界の噂程度にすぎなかった段階で,控訴人が市長という立場で知り得た内部情報を元にaのマンションの建築計画があることを住民の集会で発言することによって,広く住民に流布することを意図して行った行為であるものと認めるのが相当である。その目的についても,同著作に 「周辺に住民がほとんどいませんから,反対運動が起こらなければおそらくすぐに建ってしまうでしょう。」などと記載していることなど,aのマン めるのが相当である。その目的についても,同著作に 「周辺に住民がほとんどいませんから,反対運動が起こらなければおそらくすぐに建ってしまうでしょう。」などと記載していることなど,aのマンション建設を妨害するために,これに反対する住民運動が起こることを企図して,上記発言を行ったと認めることができる。また,上記発言を聞いた者が中心となってcを立ち上げたことまでは認められないとしても,市長という責任ある立場の者が,同じようなマンションの建設反対運動を行っている住民の集会後の不特定多数の者がいる前で発言したことが,aのマンション建設に対する住民らの反対運動が起こるきっかけとなったことは,上記のような被控訴人自身の著作の記述のほか,上記ア(エ) のcが作成した小冊子(甲B54)の記述でも裏付けられているものと認められる。 ウ以上をまとめると,控訴人が主張する第1行為に関しては,少なくとも次のような事実が認められる。 (ア) 平成11年7月3日の「i」の主催する懇談会の時点では,aによるマンションの建築計画は,不動産業界の噂程度のもので,本件土地周辺住民や一般市民には知られていなかったこと(イ) 被控訴人は,市長という立場を利用して,職員から,内部的な情報であるaの建築計画を確認し,同様にマンション建設に反対する住民集会に集まった不特定多数の前で,その事実を話したこと(ウ) 被控訴人は,aのマンション建設を妨害するために,これに反対する住民運動が起こることを企図して,上記発言を行ったこと(エ) 被控訴人の発言をきっかけとしてaのマンション建設に対する住民らの反対運動が起こったことエそこで,第1行為の違法性について検討する。被控訴人が,マンション建設を妨害するため住民運動を利用したのは,被控訴人自身の著作で「おそらく ンション建設に対する住民らの反対運動が起こったことエそこで,第1行為の違法性について検討する。被控訴人が,マンション建設を妨害するため住民運動を利用したのは,被控訴人自身の著作で「おそらく『a』としては,手続上,市は建築の許可権を持ってません。許可 権者は東京都ですから,市を飛び越して申請すればそのまま『手続条例』があるかぎり30日もすれば許可がでると分かっているわけですから,住民とのもめ事の少々は承知の上で建設計画をしたふしがあります」(甲B53・37頁,38頁)と記述しているように,既存の法制度では,控訴人がaのマンション建設を阻止することができないことが分かっていたからこそ,住民運動を手段として利用したものと思われる。しかし,被控訴人の行った第1行為は,市長として知り得た内部的な情報を住民に提供して,マンション建設に反対する住民運動が起こることを企図したというものであるが,この行為は,行政の公平性に反するものである上,市長の本来の職務を逸脱したものであって,手段としての社会的相当性を欠くものであり,これによってaの営業活動を侵害したとすれば,これをもって市長の職務上の義務に反するものであって,国家賠償法上違法な行為であるというほかない。被控訴人が主張するとおり,被控訴人が第1行為に及ばなくとも,いつかの時点でaのマンション建築に反対する住民運動は起こっていたかもしれないが,第1行為の時点では,aは本件土地の購入にすら至っておらず,当時,反対運動が起こるきっかけとなるような出来事は,被控訴人の第1行為以外にはうかがわれず,cがaの本件土地購入からあまり日を置かないで立ち上げられ,住民らの反対運動がaの本件建物建築に先駆けて展開されるに至ったのは,第1行為による寄与が大きいものと評価することができる。 (3) ず,cがaの本件土地購入からあまり日を置かないで立ち上げられ,住民らの反対運動がaの本件建物建築に先駆けて展開されるに至ったのは,第1行為による寄与が大きいものと評価することができる。 (3) 第2行為についてア前記前提事実及び後掲各証拠並びに弁論の全趣旨によれば,次のような事実が認められる。 (ア) aは,本件土地を購入し,平成11年8月18日,控訴人の都市計画課に対し,旧指導要綱に基づく事業計画事前協議書を提出し,受理された。しかし,被控訴人は,当時の国立市長として,平成11年8月 19日,aに対し,改正予定の新しい指導要綱に基づく事前協議を行うとの文書を送付し,①新しい指導要綱に基づいて事前協議書を出し直すこと,②その提出時期は,標識設置の2週間後とすること,③ 標識は,紛争予防条例及び同施行規則の定める標識文言の併記をせず,国立市の単独標識とすることを要請した。 (イ) 被控訴人は,当時の国立市長として,平成11年10月8日,aに対し,景観条例28条1項に基づき,周辺の建築物や20mの高さで並ぶイチョウ並木と調和するよう計画建物の高さを低くすることなどを指導した(甲B32,乙A26,27)。 (ウ) aが,平成11年10月19日,紛争予防条例及び同施行規則に基づき,マンションの建築予定地(本件土地)上に建築予定建物(本件建物)の建築計画を記載した標識を設置したところ,被控訴人は,aに対し,その撤去を求めた。 (エ) 被控訴人は,aから指導内容が不明確であるという指摘を受けたのに対し,平成11年10月22日,建物の規模はβの景観と調和するようaにおいて検討すべきものであるなどと回答した。 (オ) 被控訴人は,建築予定建物の高さを低くするように求めた控訴人の指導にaが従わないことを踏まえ,都市計画法12 物の規模はβの景観と調和するようaにおいて検討すべきものであるなどと回答した。 (オ) 被控訴人は,建築予定建物の高さを低くするように求めた控訴人の指導にaが従わないことを踏まえ,都市計画法12条の4第1項1号所定の地区計画及び条例の制定という法的手段で対応することとし,平成11年11月24日から,控訴人をして,本件土地を含む地域について建築物の高さを20m以下に制限することを柱とする本件地区計画の原案を策定させ,その公告及び縦覧の手続を開始し,平成12年1月24日,本件地区計画を決定し,直ちにその旨の告示をした(甲B18)。一方,被控訴人は,aに対し,建築指導事務所に平成11年12月3日に受理された本件建物の建築確認申請を取り下げるよう要請した。 (カ) 被控訴人は,本件条例を早期に成立させるため,平成12年1月28日と同月31日に臨時市議会を招集することを決定し,その旨を告示した。平成12年1月31日の国立市議会において,議長及び副議長が開会宣言をしない中,出席議員において,臨時議長により開会を宣言し,選出された仮議長によって議事を進行し,本件条例の条例案を可決し,仮議長において,本件条例を被控訴人に送付した(甲B65)。 (キ) 被控訴人は,当時の国立市長として,平成12年2月1日,本件条例を公布し,本件条例は,同日,施行された。 イ控訴人の主張する第2行為に関しては,客観的事実関係についてはほぼ争いがなく,主として違法性の評価が問題となっている。ところで,控訴人の主張する第2行為は,大きく分類して,①aに対して,地区計画や条例に基づく法的規制をかけようとして,これらの手続を指示,指導した行為(ただし,条例の制定自体は市議会の行為によるものである。),②上記の法的規制が及ぶ前にaが工事に着工することを妨げ 地区計画や条例に基づく法的規制をかけようとして,これらの手続を指示,指導した行為(ただし,条例の制定自体は市議会の行為によるものである。),②上記の法的規制が及ぶ前にaが工事に着工することを妨げるために行った行為(施行されていない新指導要綱に基づく事前協議を求めたこと,aの標識について紛争予防条例及び同施行規則の定める標識文言の併記をしないように要請し,標識の撤去を求めたことなど)に分けられる。このうち,上記の①の行為は,いささか性急であり,特定の私人であるaを狙い撃ちしたと見える点において,通常の地区計画及び条例の制定手続とは異なる面があることは否めないが,それ自体は都市計画法に従って行われた手続であり,しかも,条例の制定自体は,市議会の議決に基づくものであること,aとしても,本件土地を含むβ沿いの土地についての景観問題が従来からあり,本件土地に建築規制が広がることは,本件土地の購入前に十分予見できたものであるとうかがわれることに照らし,これによって本件建物が既存不適格建物となったことによって,その販売が困難となったとしても,このような法規制を指示,指導した行為が被控訴人の職務上の義務 違反となるものではないというべきである。これに対し,上記の②の行為は,手続自体は,景観条例等に基づくaに対する行政指導として行われたものではあるが,aが任意に行政指導に従う姿勢がないのにもかかわらず,執拗に建築の進行をやめるような指導をしたことは,建築基準法等の既存の法的規制に従って建築を進めているaに対する営業妨害行為であり,仮に,これによってaの建築着工が遅れ,建築基準法に違反することになっていたとすると,このような被控訴人の行為が職務上の義務違反となる余地があったというべきである。しかし,結局のところ,aは,被控訴人の指導にか ってaの建築着工が遅れ,建築基準法に違反することになっていたとすると,このような被控訴人の行為が職務上の義務違反となる余地があったというべきである。しかし,結局のところ,aは,被控訴人の指導にかまわずに既存法規に基づく建築手続を進め,本件建物の工事に着工した時点においては,地区計画等に基づく建築規制が及ばなかったこと,本件建物が既存不適格建物となったことについては,地区計画及び条例の制定といった適法な手続によるものであって,当時の状況からすると十分に予見することができたこと,本件建物の相当数の住戸が売れ残ったことなどの後記のaの営業損害及び信用毀損の損害については,第1行為,第3行為又は第4行為が相当程度影響していることがうかがわれる一方,第2行為によるaの営業損害又は信用毀損の損害に対する直接の影響はうかがわれないことなどからみて,第2行為のうち②の行為自体は,個別に見ると,控訴人の主張するaの営業損害又は信用毀損による損害に直接寄与した行為であると認めることはできない。 (4) 第3行為についてア第3行為について検討すると,被控訴人が,平成13年3月6日,国立市議会第1回定例会における一般質問に対する答弁として,平成12年の東京高裁決定を根拠に,本件建物が本件条例に違反する違法なものである旨の認識を述べ,同月29日の同定例会においても同旨の答弁をしたことは,前記前提事実のとおりである。 イ被控訴人は,この第3行為について,議員の質問に対して誠実に答弁す ることは首長の責務であり,上記各答弁の当時,根切り工事中の建物が「現に建築の工事中の建築物」に該当するか否かについては確立した裁判例は存在せず,平成12年の東京高裁決定は司法判断として重要な意義を有していたから,被控訴人が市議会における答弁において,平成12 「現に建築の工事中の建築物」に該当するか否かについては確立した裁判例は存在せず,平成12年の東京高裁決定は司法判断として重要な意義を有していたから,被控訴人が市議会における答弁において,平成12年の東京高裁決定を引用して本件建物の適法性について答弁することは何ら不相当なものではない旨を主張する。しかし,平成12年の東京高裁決定のうち,根切り工事中の建物が「現に建築の工事中の建築物」に該当しないとして,本件建物の工事が本件条例に違反するものとした判断部分は,建築禁止仮処分の申立てを却下すべきであるとした保全訴訟における下級審の決定の理由中の判断にすぎず,当時,根切り工事中の建物が「現に建築の工事中の建築物」に該当するかどうかについては確定した裁判例がなかったのであるから,被控訴人の上記各答弁は不正確なものであるといわざるを得ない。しかも,上記(2)及び(3)において認定したとおり,被控訴人がaの本件建物建築を阻止するため,様々な手段を尽くしていたことを合わせ考えると,上記答弁は,何らの思惑なしにされたものではなく,市議会における答弁を聞いた一般市民において,aのマンション建設が違法であるとする司法判断がされていることを注釈なしに引用して,これが違法な建築物であるとの印象を与えることを意図して答弁したものと認めるのが相当である。市長という地域行政の代表者が市議会における答弁という公的な場で発言したという意味も大きく,このような答弁が報道されて,これをaの顧客らが知ったことによってaの営業損害及び信用毀損が生じたことも認められるから,この第3行為は,明らかに社会的相当性を欠く行為であり,被控訴人は,職務上の義務に違反したものと認められる。 (5) 第4行為についてア前記前提事実及び後掲各証拠並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が 行為は,明らかに社会的相当性を欠く行為であり,被控訴人は,職務上の義務に違反したものと認められる。 (5) 第4行為についてア前記前提事実及び後掲各証拠並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (ア) 被控訴人は,平成11年12月27日,eの報道番組におけるインタビューにおいて,aによる本件建物の建築に関して答え,aにマンションを「建てさせないための手段を,市が持ってるものを使っていろいろ講じていく」「例えば下水をつながないとか。ま,可能性としてはそういうこと考えられますけど」などと発言し,これがテレビで放映された(甲B93)。 (イ) 被控訴人は,平成12年12月27日,建築指導事務所長に対し,本件建物に関する平成12年の東京高裁決定を尊重した指導を求める旨の文書(甲B44,乙A44)を送付した。 (ウ) 被控訴人は,東京都知事に対し,平成13年7月10日付けの文書(甲B45,乙A45)により,住民らが建築指導事務所長らを被告として東京地方裁判所に提起した本件建物の除去命令等を求める行政事件訴訟の結論が出るまで,本件建物のうち,高さが20mを超える部分について,電気及びガス供給申込み承諾の保留を電気事業者及びガス事業者に要請すること,並びに控訴人が受託している水道の供給について,上記部分についての給水の申込みの承諾の保留を承認するよう働き掛け,このことが翌日の新聞で報道された(甲B66)。 (エ) 被控訴人は,平成13年12月20日,aのマンション建設に反対する住民らと共に東京都多摩西部建築指導事務所を訪れ,建築指導事務所長に対し,本件建物に係る検査済証の交付について抗議をし,このことが新聞で報道された(甲B67)。 イところで,被控訴人は,上記(ア)のeのインタビューにおける被控訴人の発言 れ,建築指導事務所長に対し,本件建物に係る検査済証の交付について抗議をし,このことが新聞で報道された(甲B67)。 イところで,被控訴人は,上記(ア)のeのインタビューにおける被控訴人の発言は,a訴訟の控訴審判決及び前件住民訴訟の判決において違法行為とはされていないから,被控訴人に対する本件求償権の前提となるものではなく,控訴人の主張自体が失当であると主張する。しかし,本件訴訟は,地方自治法242条の2第1項4号本文による前件住民訴訟の判決が 確定したことを受けて,同法242条の3第1項,同第2項により,控訴人によって訴訟提起されたものであるが,請求の基礎が同一である限り,前件住民訴訟で主張していない事実を加えることは,議会の議決がなくとも許されると解すべきである(なお,地方自治法242条の2第1項4号所定の訴訟を経ないで,地方公共団体が,独自の判断で違法行為を行った公務員に国家賠償法上の求償権を行使することも可能であるが,訴訟提起には議会の議決を要する(地方自治法242条の3第3項,同法96条1項12号)。)。上記(ア)のeのインタビューにおける被控訴人の発言は,被控訴人の一連のaに対する営業妨害行為の中で行われ,とりわけ第4行為(ウ)と密接に関連したものであるから,これを本件訴訟で主張することは請求の基礎の同一性の範囲内のものであると解される。 ウ上記(ア)のインタビューにおける発言は,抽象的な将来における可能性を示唆するものではあるが,下水道をつながない可能性があることを示唆するものであり,本件建物を購入しようとする顧客らに対する影響が大きいものであって,上記(ウ)の給水留保要請行為などと包括して不法行為を構成するというべきである。上記(イ)の行為については,平成12年の東京高裁決定のうち本件建物の工事が本 顧客らに対する影響が大きいものであって,上記(ウ)の給水留保要請行為などと包括して不法行為を構成するというべきである。上記(イ)の行為については,平成12年の東京高裁決定のうち本件建物の工事が本件条例に違反するものとした判断部分は,建築禁止仮処分の申立てを却下すべきであるとした保全訴訟における下級審の決定の理由中の判断にすぎないから,これに基づき,建築指導事務所長に対して指導を求めたことは不当であり,これも上記(ウ)の給水留保要請行為などと包括して不法行為を構成するというべきである。上記(ウ)の給水留保要請行為は,別件行政訴訟の結論が出るまでという留保付きではあるが,法律上給水拒否などの行為が許されるものではなく,電気,ガス及び水道などのライフラインの供給がなくなる可能性を示唆することによって,この報道を耳にしたaの顧客に対する影響は大きく,明らかにaの営業を妨害するものとして不法行為を構成すると認められる。上 記(エ)の本件建物に係る検査済証の交付についても,建築基準法上適正な行為に対して,住民らとともに圧力をかける行為であり,このことが報道されることは当然に当時の状況から予想できたものであり,このことを報道によって知ったaの顧客が違法建築であるとの印象を受ける可能性が高いものであって,明らかにaの営業を妨害するものとして不法行為を構成すると認められる。 (6) まとめ前記前提事実,上記第1行為から第4行為までを全体的にみると,被控訴人は,aによる中高層のマンション建設が,βの景観を害すると考え,その建築をやめさせようとしたが,当時は,有効な法的手段がなかったことから,住民運動を利用し(第1行為),aが行政指導に従わないとみるや,地区計画等の法的手段によって建築制限を及ぼそうと手続を急ぐとともに(第2行為①), したが,当時は,有効な法的手段がなかったことから,住民運動を利用し(第1行為),aが行政指導に従わないとみるや,地区計画等の法的手段によって建築制限を及ぼそうと手続を急ぐとともに(第2行為①),aのマンション建設に事実上圧力を加えて着工を遅らせようとし(第2行為②),市議会や報道を予期した場所でaのマンション建設が建築基準法に違反するかのような印象を与え,将来給水拒否等の不利益を受ける可能性があることを示唆して顧客に影響を与えた(第3行為及び第4行為)ものということができる。このうち,第2行為①は,それ自体は適法な法的手続であるが,それ以外の行為は全体として,aの営業を妨害するものであり,手段として社会的相当性を欠く行為であり,第2行為②についてはaの建設着工には結果的に影響はなかったということができるが,第1行為,第3行為及び第4行為によって,aの顧客がマンション購入に消極的になるなどの影響を与えたものと認められ,これによってaの信用が毀損されたことも認められる。被控訴人は,βの景観利益保護という公的な利益に基づいて上記の行為に及んだものと認められるが,aが行政指導に従わないことが確認された段階で,地区計画等の策定等の法的な規制を及ぼす手続のみをしていれば,国家賠償法上の違法といわれることはなかったものと考えら れる。しかし,当時の状況に照らし,地区計画等の法的手段では時間的にaのマンション建設を阻止できないことから,被控訴人が上記のような事実行為に出たものと推認することができるが,これらの行為は,既に述べたとおり社会的相当性を逸脱するものであり,景観利益保護という目的の公益性があったとしても,それによって手段の違法性を阻却するものではない。aの損害も後記のとおり相当なものであり,被控訴人がaの受ける損害に対してあま を逸脱するものであり,景観利益保護という目的の公益性があったとしても,それによって手段の違法性を阻却するものではない。aの損害も後記のとおり相当なものであり,被控訴人がaの受ける損害に対してあまり考慮した形跡がうかがわれない。そうすると,第1行為,第3行為及び第4行為は,個々的にみても不法行為となるものであるが,全体的に見て一連の不法行為を構成するものと認めることができる。 3 aの損害(1) 前記前提事実及び後掲各証拠並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ア aは,本件建物を完成前の平成12年春頃から,販売を開始し,建物完成までに売却を終え,完成後まもなく購入者に引き渡して代金決済を終える予定であった。しかし,本件建物が違法建築物であるとし,給水拒否を示唆する等の被控訴人の営業妨害行為や,住民らの反対運動等を考慮して当初の計画を変更し,平成13年12月,本件建物を完成し,検査済証の交付を受けた後,平成14年2月から本件建物の販売を開始した。 イ aは,平成14年2月28日に工事業者から本件建物の引渡しを受け,販売を開始したものの,aに来訪する顧客らからは,本件建物を違法建築物であるとする被控訴人を中心とする国立市の姿勢や,住民らの反対運動の激しさに対する不安を訴える声が相次いで,販売が伸び悩んだ。aは,当初に分譲予定の全343戸のうち,β沿いの棟134戸について,自社名義に保存登記手続をした上,賃貸住宅に切り替えることとしたが,残りの部分についても,平成15年3月31日までに85戸が未引渡しのままとなり,賃貸に切り替えた134戸と合わせると全体の約63.8パーセ ントに当たる219戸近くが分譲されないままとなった(甲B11,96。なお,85戸の中には,平成15年3月31日の時点で販売済みだが引渡未 えた134戸と合わせると全体の約63.8パーセ ントに当たる219戸近くが分譲されないままとなった(甲B11,96。なお,85戸の中には,平成15年3月31日の時点で販売済みだが引渡未了の住戸が含まれる可能性があるので,未販売数は219戸を下回る可能性がある。)。 ウ上記賃貸住宅に切り替えた物件及び引渡未了物件について,aが平成14年2月28日から平成15年3月31日までに負担した固定資産税は8588万2900円であり,aが負担した管理費(専用使用料,修繕積立金を含む。)は4229万1797円であった(甲B11,96)。 (2) 上記(1)のとおり,本件建物の売却時期が遅れ,相当数の住戸が売れ残り,又は賃貸住宅に切り替えることになったのは,前記前提事実及び前記2の認定事実に照らし,被控訴人の不法行為(第1行為,第3行為及び第4行為)の影響が大きかったものと認められ,上記損害との相当因果関係を認めることができる。この点について,aの担当者は,建物を販売するに当たっては,宅地建物取引業法35条1項4号に基づき,飲用水、電気及びガスの供給並びに排水のための施設の整備の状況(これらの施設が整備されていない場合においては、その整備の見通し及びその整備についての特別の負担に関する事項)について顧客に説明する義務があるところ,本件建物については,控訴人が飲用水の供給の確約をしていなかったから,顧客に上記の説明をすることが困難であり,販売が不可能であったとしている (甲B11)。販売が不可能とまでいえるかどうかはともかくとして,飲用水等のライフラインの供給に不安がある状況では,顧客への販売勧誘が困難であったことは間違いないものと認められる。しかし,本件建物の売却が伸び悩んだのは,被控訴人の行為の影響以外にも,既存不適格化(これ自 ライフラインの供給に不安がある状況では,顧客への販売勧誘が困難であったことは間違いないものと認められる。しかし,本件建物の売却が伸び悩んだのは,被控訴人の行為の影響以外にも,既存不適格化(これ自体は,前記のとおり適法な条例制定等によるものである。なお,aは,a訴訟において既存不適格化による売出価格の低下分の損害を主張していたが,a訴訟の控訴審判決では,この損害は認められていな い。この点は,本件においても同様と認められる。),住民のマンション建設反対運動,住民感情を十分配慮せずに性急に建築を進めたと見られるaの営業手法,これらの一連の紛争がマスコミ報道等されたことによる影響等も相当程度あるものとうかがわれる。ところで,aの上記損害のうち,被控訴人の不法行為がどの程度寄与しているかを確定することは,その損害の性質上極めて困難というほかないから,民事訴訟法248条により,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき相当な損害額を認定することとし,上記の損害額を1500万円と認めるのが相当である。 (3) 前記前提事実及び前記2の認定事実に照らし,被控訴人の不法行為のうち第3行為及び第4行為によって,aが違法建築物を建てる業者であるかのような印象を与えたことは明らかである。aは,a訴訟において,これによる企業イメージの低下及びこれに派生する他の事業への悪影響による経済的損害が1億円を下らないとし,その一部である5000万円の損害賠償を求めていたことが認められ(甲B101から104まで),aの取締役lは,マンション用地仕入れにおいて,競合他社より,良い条件を提示しても,売却先候補から外されたり,進めてきたプロジェクトが壊れるという影響があり,不動産仲介業者からの土地売却情報も減少し,これにより営業活動に重大な被害が出ていると供述 他社より,良い条件を提示しても,売却先候補から外されたり,進めてきたプロジェクトが壊れるという影響があり,不動産仲介業者からの土地売却情報も減少し,これにより営業活動に重大な被害が出ていると供述している(甲B15)。aの主張する損害額が認められるかどうかついてはともかく,aにかなりの企業イメージの低下があり,これがaの他の事業にも影響したことは容易に推認することができる。もっとも,このような事態を招いたのは,施工当時の建築基準法には違反しなかったとしても,住民の反対運動が予想される中でマンション建設に踏み切り,住民感情に十分な配慮をせずに性急に建築を進めたと見られるaの営業手法や,これらの一連の紛争がマスコミ報道等されたことによる影響等も相当程度あったものとうかがわれる。そうすると,前記2認定の不法行為のうち第3行為及び第4行為によって, aが信用毀損による損害を受けたものと認められるが,これによるaの損害額及び被控訴人の不法行為がどの程度寄与しているかを確定することは,その損害の性質上極めて困難であるから,民事訴訟法248条により,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき相当な損害額を認定することとし,上記の損害額を1000万円と認めるのが相当である。 (4) 以上によれば,被控訴人は,本件不法行為(第1行為,第3行為及び第4行為)によって,aに対し,2500万円の損害を与えたものと認めることができ,控訴人がaに対し,a訴訟の控訴審判決に基づき支払った損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の金額も相当であると認めることができる。 4 被控訴人の故意又は重過失の有無(1) 被控訴人のaの損害に対する認識については,前記前提事実並びに前記2及び3の認定事実によれば,被控訴人は,明らかにaのマンション建設を阻止又は遅 る。 4 被控訴人の故意又は重過失の有無(1) 被控訴人のaの損害に対する認識については,前記前提事実並びに前記2及び3の認定事実によれば,被控訴人は,明らかにaのマンション建設を阻止又は遅らせることを企図して前記不法行為(第1行為,第3行為及び第4行為)を行っており,aにマンション販売遅滞等による営業損害及び信用毀損による損害が生じることは当然予見していたと認められ,少なくとも容易に認識できたと認められる。そこで,違法性を基礎付ける事実を認識し又は容易に認識し得たかどうかについて検討する。 (2) 第1行為の違法性の認識については,市長として知り得た内部的な情報を住民に提供して,マンション建設に反対する住民運動を企図したことは,被控訴人も当然に認識したはずであり,当時被控訴人に違法性の認識がなかったとしても,この行為が市長の職務を逸脱したものであり,手段としての社会的相当性を欠く違法な行為であることは容易に認識することができたということができるから,少なくとも重過失があったものと認められる。 (3) 第3行為の違法性の認識については,下級審の保全事件の決定の理由中の判断を引用して,aのマンション建設が違法であるとする司法判断がされ ているなどと,注釈なしに発言して,市議会における答弁を聞いた一般市民において,本件建物が違法な建築物であるとの印象を与えることを意図して答弁をしたものと認めるのが相当であるから,被控訴人において,第3行為が,明らかに社会的相当性を欠く違法な行為であることは容易に認識することができたというべきであるから,少なくとも重過失があったものと認められる。 (4) 第4行為の(ア)及び(ウ)については,被控訴人は,aの建物を買おうとする顧客らをして,本件建物に上下水道を供給しないなどの対応がされる るから,少なくとも重過失があったものと認められる。 (4) 第4行為の(ア)及び(ウ)については,被控訴人は,aの建物を買おうとする顧客らをして,本件建物に上下水道を供給しないなどの対応がされる不安を与えることは容易に認識することができ,これによってaに損害を与えることも容易に認識することができたはずであり,また,正当な理由なく上下水道の供給をしないことが違法であることは明らかであるから,そのような不安を与える行為の違法性についても容易に認識することができたものと認められる。第4行為の(イ)及び(エ)については,建築指導事務所長に対し,建築基準法上適正な行為に対して,住民らとともに圧力をかける行為であって,その違法性については容易に認識することができたはずであり,かつ,そのことが報道され,これによってaの顧客が違法建築であるとの印象を受けることは容易に認識することができたものと認められる。そうすると,被控訴人において,第4行為が違法であるとの認識がなかったとしても,容易に違法性を認識することができたはずであるから,少なくとも重過失があったものと認められる。 5 本件求償権の発生の有無(1) 前記前提事実のとおり,控訴人は,a訴訟の控訴審判決の確定を受け,平成20年3月27日,aに対し,本件損害賠償金3123万9726円(内訳:損害賠償金2500万円及び遅延損害金623万9726円)を支払ったことが認められる。a訴訟の控訴審判決は,第1行為から第4行為のうち(イ),(ウ)及び(エ)の行為を一連の不法行為として損害賠償を認めるも のであるのに対し,本判決においては,第1行為並びに第3行為及び第4行為(ア)から(エ)までの行為を不法行為とするものであり,必ずしも不法行為に該当する事実が全部一致するものではないが,上記のa のであるのに対し,本判決においては,第1行為並びに第3行為及び第4行為(ア)から(エ)までの行為を不法行為とするものであり,必ずしも不法行為に該当する事実が全部一致するものではないが,上記のaの営業損害及び信用毀損による損害は,基本的に第1行為並びに第3行為及び第4行為によって生じているものと認められ,第2行為と上記のaの損害との直接の因果関係は認められないこと,第4行為(ア)の行為は,(ウ)の行為と包括して不法行為を構成すると認めることができることからすると,aの損害との関係で,両者の不法行為との間に基本的な同一性があるものと認められる。したがって,控訴人は,上記の損害賠償金の支払によって,被控訴人に対し,同額の求償権を有するものと認められる。 (2) これに対し,被控訴人は,景観維持という政策実現の結果として生じた,いわば政策実現のためのコストであって,被控訴人に負担させるべきではないと主張するが,被控訴人に景観利益保護という目的の公益性があったとしても,それによって手段の違法性を阻却するものではないことは前記のとおりであり,本件求償権の行使が信義則に反するものでないことも後記のとおりである。その他,地方公共団体の長の政策実行に基づく行為の結果,第三者に違法に損害を与えた場合において,求償権行使は,地方公共団体への背信行為があったとき等に限定されるなどとする被控訴人の主張は,法律上の根拠を欠くものであり,すべて採用することができない。 6 本件寄付による損害の実質的な補塡による損益相殺の可否a訴訟の控訴審判決が確定した結果,控訴人からaに支払われた損害賠償金に関し,aから寄附の申出があり,本件寄附に至った経緯については,前記のとおり補正した上で引用した原判決前提事実⑶エ(ア)から(ク)まで(原判決12頁20行目から14 人からaに支払われた損害賠償金に関し,aから寄附の申出があり,本件寄附に至った経緯については,前記のとおり補正した上で引用した原判決前提事実⑶エ(ア)から(ク)まで(原判決12頁20行目から14頁22行目まで)に記載のとおりである。そこで,aの本件寄附により控訴人の損害が実質的に補塡され,本件求償権が消滅したということができるかどうかについて検討する。本件寄附は,控訴人による本件損 害賠償金の支払を契機としてされたものであり,本件損害賠償金(遅延損害金を含む。)と同額のものではある。しかし,aは,控訴人からの債権放棄の打診に対し,これを明示的に拒否し,本件損害賠償金を受領したことを前提とした上で,改めて,国立市民のための教育・福祉の施策の充実に充てて欲しい旨の寄付金申出書を提出して本件寄附をしていること,控訴人側も,本件損害賠償金の返還ではなく,一般寄附として受け入れたものであることに照らすと,本件寄附をもって,控訴人の本件損害賠償金の塡補とみることは困難である。 また,本件寄附がされた経緯に照らし,本件寄附はaが本件建物建築に関連した一連の紛争により低下した企業イメージを回復するための営業判断としてされたことがうかがわれ,本件損害賠償金の支出による控訴人の損失と本件寄附との間に,いわゆる損益相殺を相当とする因果関係があるともいうことはできない。そうすると,本件求償権は,本件寄附によって消滅するものではなく,損害塡補又は損益相殺によって本件求償権が消滅している旨の被控訴人の主張は採用することができない。 7 本件求償権の消滅又は信義則違反の有無(1) 被控訴人は,本件放棄議決によって,本件求償権が消滅したと主張するので,まず,この点について判断する。地方自治法96条1項10号が普通地方公共団体の議会の議決事項とし 義則違反の有無(1) 被控訴人は,本件放棄議決によって,本件求償権が消滅したと主張するので,まず,この点について判断する。地方自治法96条1項10号が普通地方公共団体の議会の議決事項として権利の放棄を規定している趣旨は,その議会による慎重な審議を経ることにより執行機関による専断を排除することにあるものと解されるところ,普通地方公共団体による債権の放棄は,条例による場合を除いては,同法149条6号所定の財産の処分としてその長の担任事務に含まれるとともに,債権者の一方的な行為のみによって債権を消滅させるという点において債務の免除の法的性質を有するものと解される。したがって,普通地方公共団体による債権の放棄は,条例による場合を除き,その議会が債権の放棄の議決をしただけでは放棄の効力は生じないのであって,その効力が生ずるためには,その長による 執行行為としての放棄の意思表示を要するものと解すべきである(最高裁判所平成24年4月20日第二小法廷判決・裁判集民事240号185頁参照)。そうすると,本件放棄議決によって,直ちに本件求償権は消滅せず,国立市長による執行行為としての本件求償権の放棄の意思表示がされるまでは,本件求償権は消滅しないと解される。 (2) 次いで,国立市長が,本件放棄議決に従わずに本件求償権の行使をすることが権限の濫用又は信義則違反に当たるかどうか検討する。本件行使議決がされる前においては,国立市長としては,本件放棄議決に異議があったのであれば,地方自治法176条1項に基づき,議決の日から10日以内に理由を示してこれを再議に付することができたし,また,本件放棄議決が議会の権限を超え又は法令等に違反すると認めたのであれば,同条4項に基づき,理由を示してこれを再議に付し,仮にそれによる議会の議決がなおその てこれを再議に付することができたし,また,本件放棄議決が議会の権限を超え又は法令等に違反すると認めたのであれば,同条4項に基づき,理由を示してこれを再議に付し,仮にそれによる議会の議決がなおその権限を超え又は法令等に違反すると認めたときには,同条5項に基づき,東京都知事に対して審査を申し立てることができたのにもかかわらず,このような再議に付することなく,本件放棄議決に従わずに本件求償権を行使することは権限の濫用に該当する余地があったものと解される。しかし,本件行使議決は,本件放棄議決に反対の意思を表明するとともに,国立市長に対して本件求償権の行使を求めるというものであり,これが最新の市議会議員選挙によって選出された市議会議員による議決である。国立市長としては,現在の民意を反映していると考えられる最新の市議会の議決に従うべきであるから,このことを踏まえると,本件求償権を行使することが権限の濫用に当たり又は信義則に反するものということはできない。 (3) 被控訴人は,本件行使議決は,地方自治法96条の議決事件として提案されたものではなく,本件放棄議決の効力を否定することができるものではないと主張する。本件行使議決は,地方自治法96条1項10号にいう 「権利を放棄すること」には形式的には該当しないが,権利の放棄が,議会の議決事項であるとすれば,当該議決を覆して権利を行使することを求めることも,当然に議会の議決事項に含まれると解すべきであるから,本件行使議決は単なる政治的意思の表明にとどまらず,前にされた本件放棄議決の効力を否定する効果があるものと解すべきであり,少なくとも,本件行使議決があったことによって,上記(2)で述べたとおり,国立市長が,本件放棄議決に従わないとしても,権限の濫用又は信義則違反にならないとの効果を有す 果があるものと解すべきであり,少なくとも,本件行使議決があったことによって,上記(2)で述べたとおり,国立市長が,本件放棄議決に従わないとしても,権限の濫用又は信義則違反にならないとの効果を有するものというべきである。 (4) 被控訴人は,本件求償権の行使が信義則に反する事情として,種々の事情を主張するが,被控訴人の行為の動機が,国立市民の景観利益の保護という一定の公益目的であったという側面はあったとしても,それをもって前記不法行為を正当化することはできないし,これによって控訴人に多額の損害賠償金を支払わせたことは明らかである。確かに,本件寄附により,控訴人の財政的損失はある程度回復しているということもできるが,本件寄附が控訴人の損害を塡補するものということができないことは前記判示のとおりであり,控訴人がaに対する訴訟に関する裁判費用として約3918万円を支出し,この損失は回復されていないこと(甲B99,106),本件求償権の行使を求める前件住民訴訟判決が確定し,さらに,本件行使議決がされていることからすると,被控訴人の主張する事情をすべて考慮したとしても,本件求償権の行使が信義則に反するとまでいうことはできない。 8 結論以上によれば,被控訴人に対し,本件求償権に基づき,aに支払った本件損害賠償金3123万9726円及びこれに対するaに支払った日の翌日である平成20年3月28日から支払済みまで年5分の割合による法定利息の支払を求める控訴人の請求は理由があるからこれを認容すべきであるところ,これを 棄却した原判決は相当でなく,本件控訴は理由があるから,原判決を取り消し,控訴人の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第19民事部 裁判長裁判官小林昭彦 主文 本件控訴は理由があるから,原判決を取り消し,控訴人の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第19民事部 裁判長裁判官小林昭彦 裁判官岡山忠広 裁判官松谷佳樹は,転補のため,署名押印することができない。 裁判長裁判官小林昭彦
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