令和6年10月31日宣告令和元年第1377号、令和2年第29号殺人未遂、銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件判決 主文 被告人は無罪。 理由 第1 本件の争点等本件公訴事実の要旨は以下のとおりである。 1 <令和元年12月25日付け公訴事実> 被告人は、指定暴力団A組B組組長であるが、指定暴力団A組と対立抗争状態にあった指定暴力団C組傘下のD会組員を殺害しようと企て、法定の除外事由がないのに、令和元年8月21日午後6時15分頃、不特定若しくは多数の者の用に供される場所である神戸市a 区b 町c 丁目d 番e 号先路上において、同所付近に駐車中の軽四輪乗用自動車の運転席にいた前記D会傘下組織組員であるE(当時51歳)に対し、殺意をもって、持っていた自動装てん式けん銃を用いて弾丸6発を発射し、そのうち弾丸5発を前記Eの右肩背部、腹部、右手首及び右大腿部等に命中させたが、全治約180日間の右鎖骨下動脈損傷、両側血気胸、左右上葉肺挫傷、右第2肋骨骨折、腸管損傷及び右上肢コンパートメント症候群の傷害を負わせるにとどまり、殺害の目的を遂げなかった。 2 <令和2年1月24日付け公訴事実> 被告人は、法定の除外事由がないのに、令和元年8月21日午後6時15分頃、神戸市a 区b 町c 丁目d 番e 号先路上において、自動装てん式けん銃1丁を、これと適合する実包6発と共に携帯して所持した。 これに対して弁護人は、何者かが各公訴事実記載の犯行(以下、一括して「本件 犯行」という。)をしたことは争わないが、その犯人は被告人ではないと主張した。 当裁判所は、法廷で取り調べた証拠によれば、被告人が本件犯行の犯人である可能性は高いが、別人が犯人である 犯行」という。)をしたことは争わないが、その犯人は被告人ではないと主張した。 当裁判所は、法廷で取り調べた証拠によれば、被告人が本件犯行の犯人である可能性は高いが、別人が犯人である可能性を否定できず、検察官の提示した証拠だけでは被告人が犯人であると認定するには合理的な疑いが残ると判断し、無罪を言い渡すこととした。以下、その理由を述べる(以下に挙げる時刻は本件犯行当日のものである。また、「甲」を付した番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠番号を示す。)。 第2 犯人性に関する検察官の主張の骨子と当裁判所の検討の概要 1 検察官の主張の骨子検察官は、概ね以下のような間接事実を挙げ、これらを総合すれば被告人が本件犯行の犯人であると認定できる旨主張した。 (1) 本件犯行はC組D会と対立する暴力団組織による対立抗争事件であるところ、被告人はD会と対立関係にあったB組の組長であったこと(2) 本件犯行前後(午後4時51分頃から本件犯行を経て午後6時44分頃までの間)の防犯カメラ映像の「リレー分析」(犯人と思しき人物や乗車車両等が映った防犯カメラ映像を集めて時系列で並べたもの、以下「犯行時リレー分析」という。)の結果によれば、犯人は本件犯行後黒色の原動機付自転車(原付)でFセンターに移動後、白色スクーターに乗り換え、G病院に移動し、そこから徒歩で民家敷地に移動していることが認定できるところ、① 本件犯行後にFセンターで発見された黒色原付は本件犯行の際に犯人が乗車していたものであり、なおかつA組B組H会で使用されていたものであり、被告人もH会の関係者であること② 本件犯行後G病院で発見された白色スクーターは本件犯行の犯人が乗車していたものであると認められるところ、同スクーターは被告人が個人で使用するために購入し あり、被告人もH会の関係者であること② 本件犯行後G病院で発見された白色スクーターは本件犯行の犯人が乗車していたものであると認められるところ、同スクーターは被告人が個人で使用するために購入し、被告人に引き渡されていたものであること ③ 本件犯行後に犯人が帰着したのは被告人宅であり、被告人の携帯電話の発信履歴もそれに整合していること④ 本件犯行当日の他の時間帯(午前9時31分頃から午後1時40分頃までの間)の防犯カメラ映像のリレー分析(以下「犯行前リレー分析」という。)によれば、その時間帯にも犯人と同様の動きがみられること(3) 犯人の服装と本件犯行当日の被告人の服装が同じであること、すなわち犯行前リレー分析において午前11時26分前後にIビル(以下「Iビル」という。)内の防犯カメラに映っている人物(以下「Iビルの人物」という。)と被告人は同一人物であり、なおかつIビルの人物の着衣と犯人の着衣の特徴が一致していること 2 当裁判所の検討の概要検察官の主張のうち、犯人と被告人とを結びつける力が最も強い可能性があるのは前記(3)であると考えられた。そこで、当裁判所は、まず前記(3)に関して、Iビルの人物と被告人とが同一人であるといえるか及びIビルの人物と犯人の服装の特徴の異同とそれから認められる人物の同一性について検討した。次いで、前記(2)に挙げられた各リレー分析について順次検討し、それらにより認定できる事実を確定すると共に、それにより被告人が犯人である可能性がどの程度高まるかを検討した。さらに、前記(1)などの事情も含めて総合的に検討し、被告人が犯人であると認定できるか(別人が犯人である可能性が残らないか)を判断した。 第3 当裁判所の判断 1 犯人と被告人の服装の同一性について(1) Iビル どの事情も含めて総合的に検討し、被告人が犯人であると認定できるか(別人が犯人である可能性が残らないか)を判断した。 第3 当裁判所の判断 1 犯人と被告人の服装の同一性について(1) Iビルの人物と被告人の同一性Iビルの人物と被告人の顔貌等を対比して人物の同一性を鑑定したJ氏は、両人物の画像を比較対象した結果、顔型、鼻部、口唇部、耳介部等において特徴の一致が見られ、形態学的に矛盾が認められないことに加え、個人差が現れる耳介部にお いて詳細な特徴の一致がみられたことから、「おそらく同一人であると考えられる」と判断し、親指の反り返りが顕著で、親指の爪が白色様であること等の一致点は、この判断を裏付けるものであるとした(甲153)。また、「おそらく同一人であると考えられる」の意味については、最も高い確度で同一性が認められる「同一人であると考えられる」と、より低い確度である「同一人の可能性がある」の中間に位置づけられる確度であり、確率論的に同一性の程度を述べることはできないが、J氏の心証として80%程度は同一人であると考えられるとの趣旨である旨述べた(証人J)。 J氏はこの種の鑑定の経験が豊富であり、その鑑定手法も警察の鑑識におけるものとしては確立した方法によっているものと見受けられ、本件における鑑定内容も概ね納得できるものであって、J氏が示す鑑定結果には信頼性が認められる。 もっとも、J氏の鑑定結果は、前記のとおり、両人物が同一人であると断定するものではない。また、J氏の説明によれば、Iビルの人物の写真には目、眉、頭部等が映っておらず、その部位に関する対比は不可能であったところ、その他の部位の特徴が一致していても、目等の特徴が一致するとは限らず、更に、顔貌の1か所でも特徴が一致しない点があれば「別人である」旨の鑑定 映っておらず、その部位に関する対比は不可能であったところ、その他の部位の特徴が一致していても、目等の特徴が一致するとは限らず、更に、顔貌の1か所でも特徴が一致しない点があれば「別人である」旨の鑑定結果になるとのことであるから、その説明内容からしても、両人物が別人である現実的な可能性は否定できないというべきである。 したがって、J氏の鑑定結果からいえることは、「Iビルの人物と被告人とは同一人物である可能性は高いが、別人である可能性も一定程度ある」ということになる。 なお、後述の犯行前リレー分析の結果をみると、午前10時22分頃、神戸市内を走行中のタクシーのドライブレコーダー映像に下4桁○○○○のナンバープレートを装着した白色スクーターが走行している場面が映っており(甲124・11頁写真66)、その運転者の上衣の背中のデザインはIビルの人物のそれと似ているように見えるため、Iビルの人物と下4桁○○○○のナンバープレートを装着した白色スクーターの運転者が同一人である可能性がある。そして、両者が同一人である と考えた場合、被告人は登録番号「●神戸●○○○○」の白色スクーターを知人を介して購入した事実が認められること(Kの検察官調書〔甲49、166(抄本)〕、Lの検察官調書〔甲48〕)を踏まえれば、Iビルの人物と被告人とが同一人である可能性が高まるといえる。しかし、下4桁○○○○のナンバープレートを装着した白色スクーターと、被告人の購入したスクーターの登録番号が完全に一致しているわけではないし、仮に、下4桁○○○○のナンバープレートを装着した白色スクーターが被告人の購入したものであったとしても、後述のようにその管理・利用状況は全く不明で、その運転者が被告人でない可能性も残ること等を踏まえれば、Iビルの人物と被告人が同一人であ 装着した白色スクーターが被告人の購入したものであったとしても、後述のようにその管理・利用状況は全く不明で、その運転者が被告人でない可能性も残ること等を踏まえれば、Iビルの人物と被告人が同一人である可能性が大きく高まるとはいえず、依然として別人の可能性が否定できないというべきである。 (2) Iビルの人物と犯人の着衣の同一性Iビルの人物の着衣と犯人の着衣とを写真により対比した甲174に加え、それの元画像であるとみられる動画(甲123)を見ると、犯人の画像はかなり不鮮明で着衣のロゴやデザイン、色などを明瞭に読み取ることはできないものの、少なくとも上衣については、同一ブランド・同一タイプの衣服であると言ってよい。ただし、このブランド・タイプの衣服が、いつ、どの程度の量生産・販売されたか(されているか)は不明である上、両者のいた場所は大都市の中心部で、不特定多数の人が行き交う場所である。さらに、Iビルの人物が映像に映った時刻と本件犯行時刻との間には6時間余りが経過していることなども考慮すると、異なる人物が同一ブランド・同一タイプを着用していた可能性を排除することはできない。 (3) 小括検察官は、Iビルの人物と被告人が同一人物であることを前提に、被告人と犯人の着衣が類似している旨主張していると解されるが、既に検討したとおり、そもそも、Iビルの人物と被告人は別人である可能性が否定できないので、検察官の主張の前提に採用しがたい部分がある。その上、Iビルの人物と犯人が同一人物であるかも着衣の類似性という相当流動的な事情によっている。したがって、以上の検討 からは、被告人が犯人である可能性は相応にあるものの、そうでない可能性もあるといわざるを得ない。 2 各リレー分析とそれに関連する証拠から認定できる事実について(1 上の検討 からは、被告人が犯人である可能性は相応にあるものの、そうでない可能性もあるといわざるを得ない。 2 各リレー分析とそれに関連する証拠から認定できる事実について(1) 犯行前リレー分析について甲124は、犯行前リレー分析の結果得られた午前9時31分頃から午後1時40分頃までの間の写真157枚と、それらの撮影時刻(ただし、甲124自体のほか、法廷で調べたすべての証拠によっても、記載された時刻が画面上の時刻なのか補正後の時刻なのかは不明である。)及び撮影位置が記載された証拠、甲149は甲124の写真に係る防犯カメラの設置場所と画角を示す証拠である。なお、甲124に記載された写真のうち、Iビルの人物に関するものについてはそれの元資料となった動画(甲123)がある。検察官は、これらの証拠から、要するに、Iビルの人物が、被告人宅を黒色自動車で出発してG病院に行き、そこで下4桁○○○○のナンバープレートを装着した白色スクーターに乗り換えてFセンターに赴き、そこで黒色の原付に乗り換えて本件犯行現場付近に赴いた後にFセンターに戻り、前記白色スクーターに乗り換えてIビルに入り、その後再び前記白色スクーターで移動してFセンターに移動し、そこで再度黒色の原付に乗り換えて本件犯行現場に行った上でFセンターに戻り、白色スクーターでG病院に行き、そこから徒歩で被告人方に戻ったとみることができる(すなわち、本件犯行の下見と見うる動きをしている)と主張しているものと考えられる。 しかし、甲124の写真の多くは不鮮明で、何が映っているのか判然としないものも少なくなく(7頁番号32等)、写真に写っているものが、同一人物・車両の動きであると認めることは難しい。写真の一部については運転者の服装が異なっているように見受けられるものも含まれて としないものも少なくなく(7頁番号32等)、写真に写っているものが、同一人物・車両の動きであると認めることは難しい。写真の一部については運転者の服装が異なっているように見受けられるものも含まれている(8頁番号46等)ほか、車両の種類が入れ替わっている部分については、検察官が主張する場所において、車両の乗り換えがあったかどうかを写真上で認定することは困難である。そうだとすると、前記のとおり、Iビルの人物と下4桁○○○○のナンバープレートを装着した白色スク ーターの運転者が同一人である可能性があり、同運転者がIビルまで移動した可能性はあるが、それ以外に、検察官の主張どおりのIビルの人物の移動経過を認定することは困難である。 (2) 犯行時リレー分析について甲125は、犯行時リレー分析の結果得られた午後4時51分頃から午後6時15分頃(本件犯行)までの間の写真112枚と、それらの撮影時刻(関連する動画から、補正時刻を記載したものと認定できる。)及び撮影位置が記載された証拠、甲126は午後6時15分頃(本件犯行)から午後6時44分頃までの間の写真81枚と、それらの撮影時刻(補正時刻を含む)及び撮影位置が記載された証拠、甲150、151はこれらに係る防犯カメラの設置場所と画角を示す書証、甲123及び甲148はそれらに係る元資料となる動画に関する証拠である。 これらのうち、甲125及びそれに係る動画については、犯行前リレー分析について述べたのと同様、映像の多くは不鮮明で、何が映っているのか判然としないもの(12頁番号50等)もあり、写真上のものが、同一人物・車両の動きであると認めることは難しい。その上、甲125・6頁番号17及び18は、直線距離で約500m離れた2点の写真であり、その撮影時刻は9秒しか差がないところ、同一 、写真上のものが、同一人物・車両の動きであると認めることは難しい。その上、甲125・6頁番号17及び18は、直線距離で約500m離れた2点の写真であり、その撮影時刻は9秒しか差がないところ、同一の車両(白色スクーター)がこの2点間を通過したとすれば時速200km以上の非現実的な速度で進行したことになることから、17の車両と18の車両は別物であるといわざるをえない。また、甲125・17頁番号88に関連する動画(甲148・「防カメ(N方~犯行現場直前)甲125関係2/2」と題するファイルのうち38番の動画)には、2台の黒色の原付が連続して通過している様子が映っており、その前後の写真はそれらの車両のいずれが映っているのかわからない。こうしたことから、甲125やそれに関する動画から、本件犯行に至るまでの犯人の移動経過を認定することはできない。 他方、本件犯行後の犯人の移動経過については、犯人が黒色原付に乗車しながら本件犯行を実行し、その後、黒色原付でFセンター方面に移動したと認定できる(甲 126・6頁写真1ないし8頁写真9)ところ、本件犯行の2日後にFセンター内で登録番号「神戸市■■△▲▲▲▲▲」の黒色原付が発見され(甲170)、その車体からは本件犯行現場から採取した打ち殻薬きょうのものと同様の射撃残さと考えられる粒子が付着していたこと(甲113)を踏まえれば、犯人は、前記登録番号の黒色原付を用いて犯行に及び、その後Fセンターに移動してそれを放置したと認められる。また、犯人は、前記登録番号の黒色原付をFセンターに止めた後、何らかの交通手段で移動したと考えられるところ、犯人が乗車していた黒色原付がFセンターに接近したとみられる(甲126・8頁写真9)時刻後まもなく、同所から白色スクーターが発進したことが認められることからす の交通手段で移動したと考えられるところ、犯人が乗車していた黒色原付がFセンターに接近したとみられる(甲126・8頁写真9)時刻後まもなく、同所から白色スクーターが発進したことが認められることからすれば(甲126・9頁写真11)、犯人は、Fセンターから白色スクーターに乗り換えたものと認められる。その後、白色スクーターがG病院駐車場に入場したことがうかがわれ(甲126・27頁写真66)、その直後、犯人の着用していた上衣とよく似たデザインの上衣を着た人物がエレベーターに乗った状況(甲126・28頁番号68)がみられることからすれば、犯人は、Fセンターで白色スクーターに乗車し、G病院に移動したと考えられる。そして、本件犯行の8日後に、同駐車場から登録番号「●神戸●○○○○」の白色スクーターが発見されたこと(甲43)から、犯人が移動に用いた白色スクーターは、前記登録番号の白色スクーターであると考えてよい。 さらに、甲126・28頁写真68には、犯人の着用していた上衣とよく似たデザインの上衣を着た人物がエレベーターに乗った状況が映っており、さらにそれと同一人物とみられる人物が徒歩で公道を移動し、被告人方に入っていく様子も認められる。 (3) 関連する証拠から認定できる事実を踏まえての検討以上のとおり、本件犯行の犯人は、本件犯行時、登録番号「神戸市■■△▲▲▲▲▲」の黒色原付に乗車していたことが認められるところ、この車両は、被告人が組長の地位にあるB組の傘下組織であるH会事務所東側に置かれ、そのキーは同会の事務所に置かれ、同会関係者は誰でも使える状態にあった(Mの検察官調書〔甲 50〕)。また、犯人は同黒色原付から、登録番号「●神戸●○○○○」の白色スクーターに乗り換えているところ、前記のとおり、その車両は、被告人が知人を介し あった(Mの検察官調書〔甲 50〕)。また、犯人は同黒色原付から、登録番号「●神戸●○○○○」の白色スクーターに乗り換えているところ、前記のとおり、その車両は、被告人が知人を介して購入したものであった。さらに、犯人は、同車両を降りた後、被告人宅に入っていることも認められる。このような事情は、犯人が被告人である可能性を相当程度推認させる事情ではある。 しかし、前記黒色原付はH会関係者であれば誰でも使える状態で保管されていたものであり、被告人以外の者がそれを運転する可能性は十分ある。前記白色スクーターは、確かに被告人が購入したものではあるが、その管理・保管状況は全く不明であり、被告人自身が使っていた可能性がある一方で、被告人がそれを他人(配下組員等)に貸与し、使用させるといった可能性も相応に考えられる。犯人が被告人宅に入ったことについても、犯人が被告人である可能性を相応に高めるものではあるが、被告人は暴力団組織の組長で、その周辺には常に付き人がいたことが明らかである(甲169、Kの検察官調書抄本〔甲166〕)ほか、他の組員が出入りすることも容易に想定され、犯人が被告人であると絞り込む力はさほど強いものではない。検察官は、被告人の携帯電話の発信履歴(犯人らしき人物が本件犯行のため外出していた時間帯には発信がなく、犯人が被告人宅に入った後に被告人宅と矛盾しない発信地で発信があったこと)も、被告人が犯人であることと整合する旨主張するが、本件犯行前後の時間帯に被告人が電話を発信していなかったとしても格別不自然ではないし、被告人が自宅から発信するのもなんら不自然ではない。これらは被告人が本件犯行当時も在宅していたり、別の場所に外出したりしていたとしても矛盾しないのであり、被告人が犯人でなければ説明できないことではない。 3 総 ら発信するのもなんら不自然ではない。これらは被告人が本件犯行当時も在宅していたり、別の場所に外出したりしていたとしても矛盾しないのであり、被告人が犯人でなければ説明できないことではない。 3 総合評価以上の検討を踏まえて、被告人が本件犯行の犯人であるかについて総合的な評価を加える。 Iビルの人物と被告人の同一性については、前記のとおり、同一人物である可能性が高いものの、別人である可能性も有意に残る。また、Iビルの人物と犯人の同 一性については、同一ブランド・同一タイプの上衣を着ていたという限度で共通するが、そのような衣服が大量に出回っている可能性があり、なおかつIビルと本件犯行現場は大都市の中心部に近い場所であること、Iビルの人物が映像に映った時刻と本件犯行時刻との間には6時間余りが経過していること等からすると、それらが同一人物である可能性が相応にあるものの、そうでない可能性も否定できない。 Iビルの人物が被告人ではない可能性があることと、Iビルの人物と犯人が同一でない可能性とを合わせて考慮すると、被告人が犯人であるかはより一層流動的である。 犯人は、登録番号「神戸市■■△▲▲▲▲▲」の黒色原付と登録番号「●神戸●○○○○」の白色スクーターに乗車しており、それらは被告人と関連性があるものの、被告人以外の者が乗車していた可能性を排除するものではない。犯人が被告人宅に入っていったこと等も犯人が被告人である可能性を飛躍的に高めるものではない。被告人は、被害者の属する暴力団組織と対立抗争状態にあり、本件のような襲撃をする理由・動機があることは否定できないが、そのような理由・動機を有する者が被告人に限られるとみるべき証拠はない。むしろ、被告人は暴力団組織の組長で、配下・傘下の組員に本件犯行を指示して実行させることが可能 ・動機があることは否定できないが、そのような理由・動機を有する者が被告人に限られるとみるべき証拠はない。むしろ、被告人は暴力団組織の組長で、配下・傘下の組員に本件犯行を指示して実行させることが可能な地位にあり、被告人自らが検挙のリスクの高い実行行為に手を染めることはいささか不可解な面すらある。別人が犯人である可能性は決して現実性のないものではない。被告人が本件犯行の犯人である可能性は高いが、別人が犯人である可能性を否定することはできない。 検察官は、本件で現れた間接事実を総合すると、被告人が犯人でなければ説明がつかない旨主張するが、Iビルの人物と被告人の同一性にかかわる事実と、Iビルの人物と犯人の同一性にかかわる事実は、それらを掛け合わせることによって、犯人と被告人の同一性が高まるといった関係性にはなく、そこにおいて検察官の主張するような総合考慮をすることは困難である。また、その他の間接事実は、被告人の配下・傘下組員など被告人以外の者が犯人であったとしても説明が可能であるも ので、それらを総合しても、被告人が犯人でなければ説明がつかないとはいえない。 なお、検察官は、犯行前リレー分析の結果、その時間帯に犯人と同様の動きがみられることを、被告人と犯人が同一人であることの証左であるかのような主張もするが、前記のとおり、犯行前リレー分析及び犯行時リレー分析のうち本件犯行前の部分は、いずれも同一人の一連の動きを示していると認定することはできず、検察官の主張はその前提を欠くし、そもそも、犯行前リレー分析の結果としてみられた人物の動きと、犯人の動きを対比して、両者の同一性を論じることは困難である。 第4 結語以上によれば、本件各公訴事実については犯罪の証明がないことになるから、刑事訴訟法336条により、無罪の言渡しをする と、犯人の動きを対比して、両者の同一性を論じることは困難である。 第4 結語 以上によれば、本件各公訴事実については犯罪の証明がないことになるから、刑事訴訟法336条により、無罪の言渡しをする。 令和6年10月31日神戸地方裁判所第4刑事部 裁判長裁判官丸田顕 裁判官酒井英臣 裁判官加藤明日美
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