平成14(ワ)25167 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成16年4月15日 東京地方裁判所
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判決文本文23,866 文字)

H16年4月15日判決東京地方裁判所平成14年(ワ)第25167号損害賠償事件 主文 1 被告医療法人真誠会亀山産婦人科医院は,原告Aに対し,165万円及びこれに対する平成9年4月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告医療法人真誠会亀山産婦人科医院は,原告Bに対し,165万円及びこれに対する平成9年4月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告らの被告医療法人真誠会亀山産婦人科医院に対するその余の請求及び被告日本赤十字社に対する請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は,原告らに生じた費用の20分の19,被告医療法人真誠会亀山産婦人科医院に生じた費用の10分の9及び被告日本赤十字社に生じた費用を原告らの負担とし,原告らに生じたその余の費用及び被告医療法人真誠会亀山産婦人科医院に生じたその余の費用を被告医療法人真誠会亀山産婦人科医院の負担とする。 5 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告らは,原告Aに対し,連帯して3361万0865円及びこれに対する被告医療法人真誠会亀山産婦人科医院については平成9年4月15日から,被告日本赤十字社については同月16日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告らは,原告Bに対し,連帯して3361万0865円及びこれに対する被告医療法人真誠会亀山産婦人科医院については平成9年4月15日から,被告日本赤十字社については同月16日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,Cが,平成9年3月15日,被告医療法人真誠会亀山産婦人科医院(以下「被告医院」という。)が経営する亀山産婦人科医院において出生し,その後,被告日本 金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,Cが,平成9年3月15日,被告医療法人真誠会亀山産婦人科医院(以下「被告医院」という。)が経営する亀山産婦人科医院において出生し,その後,被告日本赤十字社の経営する足利赤十字病院(以下「足利赤十字病院」という。)において診察を受け,富士重工業健康保険組合総合太田病院(以下「太田病院」という。)において先天性胆道閉鎖症の手術を受けるなどしていたが,平成10年6月18日に死亡したことについて,Cの両親である原告らが,Cが死亡したのは,亀山産婦人科医院も足利赤十字病院もCの先天性胆道閉鎖症を早期に発見できずに,その手術が遅れたためであると主張して,両被告に対し,それぞれの不法行為又は債務不履行に基づき,損害賠償を求める事案である。 1 前提事実(証拠を掲げない事実は,当事者間に争いがない。)(1) 当事者等ア原告ら原告Aは,Cの父であり,原告Bは,Cの母であり,両名ともCの相続人である。 イ被告医院は,栃木県足利市において,「亀山産婦人科医院」を開設,運営する医療法人であり,D医師が理事長を務めている。 E看護師は,昭和51年12月から平成12年7月まで,亀山産婦人科医院において看護師として勤務していた(証人E)。 Fは,昭和57年11月から現在に至るまで,亀山産婦人科医院において受付事務員として勤務している(乙A9)。 ウ被告日本赤十字社は,栃木県足利市所在の総合病院「足利赤十字病院」を運営する特殊法人である。 G医師は,平成8年8月から平成10年7月まで,足利赤十字病院小児科に医師として勤務していた(丙A3)。 (2) 診療経過ア亀山産婦人科医院における診療経過原告Bは,平成9年3月15日,亀山産婦人 から平成10年7月まで,足利赤十字病院小児科に医師として勤務していた(丙A3)。 (2) 診療経過ア亀山産婦人科医院における診療経過原告Bは,平成9年3月15日,亀山産婦人科医院において原告らの長男としてCを出生した。その際,原告Bと被告医院との間で,Cについて,健康状態に関する診察,検査,疾病の治療等に関して診療契約が成立した。 その後の亀山産婦人科医院におけるCの診療経過は,別紙「亀山産婦人科医院診療経過一覧表」記載のとおりである(当事者の主張の相違する部分を除き,争いがない。)。 なお,同年4月15日,亀山産婦人科医院において,Cについて新生児1か月健診(以下「1か月健診」という。)が行われた。 イ足利赤十字病院における診療経過同月16日,原告らは,足利赤十字病院の小児科に来院した。その際,原告らと被告日本赤十字社の間に,Cについての診療契約が成立した。 その後の足利赤十字病院におけるCの診療経過は,別紙「足利赤十字病院診療経過一覧表」記載のとおりである(当事者の主張の相違する部分を除き,争いがない。)。 なお,Cは,同年6月1日に足利赤十字病院に入院し,同月4日に先天性胆道閉鎖症の確定診断を受けたが,足利赤十字病院には小児外科がなかったことから,同月5日,群馬県太田市所在の太田病院へ転院した。 ウ太田病院における診療経過太田病院におけるCの診療経過は,別紙「太田病院診療経過一覧表」記載のとおりである(当事者の主張の相違する部分を除き,争いがない。)。 なお,Cは,同月10日に手術を受けるなどしたが,平成10年6月18日,先天性胆道閉鎖症により死亡した。 (3) 先天性胆道閉鎖症についてア先天性胆道閉鎖症は,胎生末 い。)。 なお,Cは,同月10日に手術を受けるなどしたが,平成10年6月18日,先天性胆道閉鎖症により死亡した。 (3) 先天性胆道閉鎖症についてア先天性胆道閉鎖症は,胎生末期から新生児期に,何らかの原因によって胆管が閉塞,破壊,欠如するなどして,胆汁(胆汁は,黄色の液体であり,ビリルビンを主要成分としている。)を腸管に分泌できなくなる症状をいう(甲B5,B9,乙A5,B6)。 先天性胆道閉鎖症に罹患すると,ビリルビンが腸管から排泄されずに血液中に増加する(ビリルビンは,水溶性の直接ビリルビンと脂溶性の間接ビリルビンとに分類されるところ,先天性胆道閉鎖症において増加するのは,直接ビリルビンである。)ため,便の色が淡黄色や灰白色となり,皮膚には黄疸が現れる(甲B5,B7,B9,乙A5,B1,丙B2)。 胆道閉鎖症マススクリーニング(以下「マススクリーニング」という。)は,新生児の便の色を調査することによって先天性胆道閉鎖症の罹患の有無を診断する検査である。 イなお,ほとんどすべての新生児は,生後2,3日目に黄疸が現れ,生後4,5日目に最も強くなり,生後7から14日目に消失するが,このような黄疸(新生児黄疸)は,生理的な現象であって,病的なものではないとされている(甲B7,乙B1,B7)。 2 争点(1) 被告医院の検査義務違反の有無(原告らの主張)ア被告医院は,遅くとも平成9年4月15日の1か月健診の際には,Cの黄疸の原因・病名を解明し,適切な診療を行うべきであった。 (ア)a 先天性胆道閉鎖症は,新生児期・乳児早期に発症する代表的な小児外科的肝胆道疾患であり,早期発見と早期治療が新生児の予後に大きく影響することから,産婦人科医師も小児科医師も,常に先天性胆道 (ア)a 先天性胆道閉鎖症は,新生児期・乳児早期に発症する代表的な小児外科的肝胆道疾患であり,早期発見と早期治療が新生児の予後に大きく影響することから,産婦人科医師も小児科医師も,常に先天性胆道閉鎖症を念頭に置いて新生児の診察に当たるべきものとされている。 b 新生児の黄疸については,生後24時間以内に現れる早期黄疸や,生後2週間以上続く遷延性黄疸は,異常黄疸であるとされ,生後2,3日ころから出現して約1週間程度で消失する一過性の生理的黄疸とは区別されている。 そして,異常黄疸であるか生理的黄疸であるかを鑑別するためには,黄疸の範囲と程度をよく観察し,記録しておくことが必要とされており,また,遷延性黄疸と鑑別された場合には,先天性胆道閉鎖症を見落とさないことが重要とされている。 c 新生児の黄疸の診断手順としては,毎日黄疸計で検査をして,必要があれば,血清総ビリルビン値を測定すべきであり,直接ビリルビン値に異常がある場合には,まず先天性胆道閉鎖症に注意すべきとされている。 したがって,先天性胆道閉鎖症の診断をするためには,黄疸の症状(高直接ビリルビン血症であるか否か)を把握しなければならず,直接ビリルビン値の測定が不可欠となる。 (イ) 本件では,Cには,出生後3,4日後に黄疸が出現し,その症状は日増しに強くなって好転することがなかったため,原告らは,D医師に対し,Cの黄疸について再三にわたって指摘をした。 また,原告らは,同年4月15日の1か月健診の際にも,D医師に対し,Cに引き続き黄疸が出現しており,便の色もおかしいと指摘をした。 D医師としては,このような指摘を受けていたのであるから,必要な検査を行うなどして,遅くとも同年4月15日の1か月健診の際には, き続き黄疸が出現しており,便の色もおかしいと指摘をした。 D医師としては,このような指摘を受けていたのであるから,必要な検査を行うなどして,遅くとも同年4月15日の1か月健診の際には,Cの黄疸の原因・病名を解明し,適切な診療を行うべきであった。 ところが,D医師は,「どこが黄色いのか」,「日光浴をさせれば治る」,「心配ない」などと言うばかりで,何らの検査もせずにCの黄疸を放置した。 イこの点,被告医院は,①出生後4日目(平成9年3月19日)から6日目(同月21日)にかけて3日間だけ測定した血清総ビリルビン値の数値と,②マススクリーニングの結果とを根拠に,Cに先天性胆道閉鎖症の疑いがなかったと主張している。 (ア) しかし,①に関しては,被告医院は,Cに明らかに黄疸症状が生じていて,原告らから再三これを指摘されていた上,イクテロメータによる簡易な検査により相当の黄疸症状を認めたのであるから,先天性胆道閉鎖症を疑い,引き続き血清総ビリルビン値の測定を行うとともに,採血によって直接ビリルビン値を定量すべき注意義務があったというべきである。 ところが,被告医院は,血清総ビリルビン値の測定を中止し,また,直接ビリルビン値の測定はわずかな血液採取で可能であり,かつ,容易に行えるにもかかわらず,これを実施しなかった。 (イ) また,②に関しては,マススクリーニング用紙が原告らに渡されたのは,平成9年4月15日の1か月健診の受付においてであった。 その際,原告らは,受付の事務員からマススクリーニング用紙を渡され,乙A第5号証の用紙に記載された1から7の色調について,いきなり実際に便を見ない状態で即答を求められた。原告らは,Cの便が淡い緑色もしくは淡い黄色だったとの記憶があったので,原告 ング用紙を渡され,乙A第5号証の用紙に記載された1から7の色調について,いきなり実際に便を見ない状態で即答を求められた。原告らは,Cの便が淡い緑色もしくは淡い黄色だったとの記憶があったので,原告Aが,「2」から「7」の間くらいの色である旨の返答をしたが,便を見てもいない事務員によって,「7」ということにされてしまった。 このように,原告らに対し,先天性胆道閉鎖症と便の色調を検査する意味及び便の色調を見る時期や回数あるいは色調の見方などについての十分な説明もせず,しかも,事前にマススクリーニング用紙も配布していなかったのであるから,被告医院の対応は不適切極まりない杜撰な措置というべきであり,マススクリーニングを実施したことにならないというべきである。 (被告医院の主張)ア原告らの主張は争う。 イ被告医院は,以下のとおり,Cに対する診察,検査等を適切に行っており,原告らの主張するような過失はない。 (ア) 黄疸の検査についてa 黄疸の症状を数値化するのには,イクテロメータと呼ばれる器具が使用される。この器具は,プラスチック板に1から5まで順次に黄色調を濃厚にした縦の基準帯が並んでいるもので,児の鼻尖部にこれを当てて,圧迫し,鼻尖の血行が消退して赤色調でなくなったところで,皮膚の黄色調がどの番号の黄色基準帯と一致するかを読むというものである。 そして,イクテロメータの数値が3.5以上の場合,血清総ビリルビン値が15mg/dlを超えていて,高ビリルビン血症に罹患している可能性があるので,血清総ビリルビン値の測定を行なう必要がある。 血清総ビリルビン値の測定には,ビルメーターBという測定器を使用する。 b この点,被告医院は,平成9年3月19日,Cについて,イ ,血清総ビリルビン値の測定を行なう必要がある。 血清総ビリルビン値の測定には,ビルメーターBという測定器を使用する。 b この点,被告医院は,平成9年3月19日,Cについて,イクテロメータ測定値が「3↑」となり,軽度の黄疸を認めたため,血清総ビリルビン値の測定を行ったが,血清総ビリルビン値は10.2mg/dlであり,正常値の範囲内であった(乙B1)。同月20日,同月21日にも,Cの血清総ビリルビン値の測定を行ったが,その数値は,それぞれ9.1mg/dl,10.1mg/dlであり,いずれも正常値の範囲内であった(乙B1)。 このように,同月19日から同月21日に行った血清総ビリルビン値の測定結果は,いずれも正常値の範囲を超えていなかったことから,被告医院は新生児黄疸として処置した。 なお,同月22日には,イクテロメータ測定値も「3」と落ち着いたため,その後は血清総ビリルビン値を測定しなかった。 また,同年4月15日の1か月健診の際も,Cの皮膚色について太陽光線のもとで肉眼的に観察したが,先天性胆道閉鎖症を窺わせるような強い黄疸は出ていなかったため,採血による血清総ビリルビン値の測定は実施しなかった。 (イ) マススクリーニングについてa 被告医院は,新生児が退院する際,全ての母親に対して,乙B第6号証に基づいてマススクリーニングに関する説明を行った上で(乙B第6号証自体は交付はしない。),マススクリーニング用紙(乙A5)を交付し,1か月健診のときにその用紙に便の色調を番号で記載して持参するよう指示している。 そして,1か月健診の際に持参されたマススクリーニング用紙は,本件当時は,栃木県保健衛生事業団へ送付していた。 なお,万が一,こ 番号で記載して持参するよう指示している。 そして,1か月健診の際に持参されたマススクリーニング用紙は,本件当時は,栃木県保健衛生事業団へ送付していた。 なお,万が一,この用紙に1から3の数字が書かれていた場合には,その場で新生児の便を採取して,便の色調を確認した上で,自治医科大学小児科に連絡することになっていた。 b 原告Bに対しても,平成9年3月24日に,マススクリーニングについての説明をするとともに,マススクリーニング用紙を配布している。 そして,同年4月15日の1か月健診の際,退院時に配布していたマススクリーニング用紙を原告Bより回収したところ,Cの便の色調について,原告Bの申告は7(緑色)に近いというものであったため,マススクリーニング用紙は,そのまま栃木県保健衛生事業団へ送付した。 (ウ) したがって,同年4月15日の時点では,Cが先天性胆道閉鎖症であることを疑う余地はなかったのである。 (2) 被告医院の検査義務違反とCの死亡との因果関係の有無(原告らの主張)1か月健診は,乳児の身体状態,発育状態を診察する最も重要かつ適当な機会であり,乳児を裸にして全身を診察するのであるから,この時(本件では平成9年4月15日)にCの黄疸等の異常を発見し,必要な検査を尽くすなり,他の専門医院に転送させて治療を受けさせるなりの措置を講じていれば,本件先天性胆道閉鎖症の診断をすることは十分に可能であった。 そして,先天性胆道閉鎖症は,早期発見と2か月以内の手術が救命率を高めることは明らかであるから(甲B3,B8,乙A5,B5,B6),本件においても,Cを救命し得た可能性か,少なくともより長く生存し得た高度の蓋然性があったといえる。 (被告医院の主張) めることは明らかであるから(甲B3,B8,乙A5,B5,B6),本件においても,Cを救命し得た可能性か,少なくともより長く生存し得た高度の蓋然性があったといえる。 (被告医院の主張)ア原告らの主張は争う。 イ(ア) 先天性胆道閉鎖症は,マススクリーニング等の結果のみで判断するものではなく,また,生後1か月を過ぎてから3か月までの間に便の色が白っぽくなる等の症状が現れることがあり,生後1か月目までに必ずしも発見できるものではないため,その後の経過診察も重要である。 この点,Cは,平成9年6月1日,足利赤十字病院に入院し,先天性胆道閉鎖症の疑いと診断され,同月5日,太田病院に転院し,同月10日,先天性胆道閉鎖症の確定診断のための手術が施行されたが,その後,再手術を勧められたにもかかわらず,原告らはこれを拒否したとのことである。 このことに照らすと,亀山産婦人科医院での処置がCの死亡に因果関係があるとは考えられない。 (イ) また,先天性胆道閉鎖症は,現在の医学技術をもってしても,合併症の発症率が40パーセント前後あり,手術をしても必ずしも全て救命し得ないのが現状であることからしても(乙B5),本件において,Cの死亡の回避は困難であったものといえる。 (3) 被告日本赤十字社の検査義務違反の有無(原告らの主張)ア G医師は,平成9年4月16日,原告らから黄疸について大丈夫かと質問された際に,顔色が黄色くなっていることを認識したのであるから,先天性胆道閉鎖症を疑い,必要な検査等を実施して確定診断を行い,適切な診療をするべきであったのに,原告らがCを連れて再来した同年5月31日までの間,何らの検査も診察もしなかった。 イこの点,被告日本赤十字社は,原告BがCの採血を強く して確定診断を行い,適切な診療をするべきであったのに,原告らがCを連れて再来した同年5月31日までの間,何らの検査も診察もしなかった。 イこの点,被告日本赤十字社は,原告BがCの採血を強く拒否したと主張するが,そのような事実はない。 同年4月16日,原告Bは,診察室に入った直後に,Cの顔を見たG医師から,「この子少し黄色いね。」と指摘されたのに対し,「そうなんです。まだ黄疸がとれないんです。」と答えた。さらに,「昨日亀山病院で1か月健診を受けた。」と話して,約1か月間にわたってCに黄疸症状が続いていることを同医師に伝えている。 しかし,G医師からは,「でもお母さんが色が黒いからね。」などと言われ,それ以上の関心をもってもらえなかったのである。 以上のとおり,原告Bが,G医師から採血を勧められたことはなく,したがって,これを拒否した事実もない。原告らは,Cの黄疸症状を心配していたのであるから,原告Bが採血を拒否する理由は全くない。 ウなお,被告日本赤十字社は,母乳性黄疸が生後1か月の時点でも認められることは希ではないと主張するが,これは,①母乳栄養児の満期産児のわずか2パーセントの希有な例を取り上げたものであること,②外国の統計例であること,③日本における文献(甲B7・418頁)が示す見解(生後2,3日ころから出現して約1週間程度で消失する一過性の新生児黄疸とは異なり,生後24時間以内に現れる早期黄疸や,2週間以上続く遷延性黄疸は,異常黄疸であるとされている。)と異なっていることからすると,信用できない。 (被告日本赤十字社の主張)ア原告の主張は争う。 イ(ア) 臨床上,生後1か月の時点で黄疸が認められることは希なことではなく,その最も可能性が高い原因としては,母乳性黄疸が挙 。 (被告日本赤十字社の主張)ア原告の主張は争う。 イ(ア) 臨床上,生後1か月の時点で黄疸が認められることは希なことではなく,その最も可能性が高い原因としては,母乳性黄疸が挙げられる。母乳栄養児の場合,その2パーセントは,生後2週間から3週間に,明らかな黄疸が出現し,その後,生後3週間から10週間の間に,除々に後退する(丙B1・517頁)。 そして,乳児に見られる黄疸が,母乳性黄疸に見られるような生理的黄疸なのか,あるいは何らかの疾患を伴う病的な黄疸であるのかは,採血で血液中に含まれる総ビリルビンの値を検査しなければ診断することができない(丙B1号証・515頁Figure98-7)。 したがって,問診でCがほぼ生後4週間の母乳栄養児であると知ったG医師が,Cに出現した若干の黄疸に気付いても,その黄疸が生理的黄疸の中で特に治療を必要とする病的な黄疸であるとの確定診断をするには,採血による検査を経なければならない。 (イ) この点,本件では,原告Bは,平成9年4月16日のCの診察の際,2週間前より鼻閉,鼻汁が続いていることを訴えたが,G医師は,このような鼻炎症状に加えて,視診上顕著ではないものの,黄疸があるようにも見えたことから,少し黄色いと話して,採血等の検査を勧めた(なお,この日の診察において,原告らの方から黄疸について尋ねられた事実はない。)。 ところが,この勧めに対して,原告Bは,亀山産婦人科医院において1か月健診の際にちゃんと検査をしてもらって大丈夫と言われていると答え,採血を強く拒否した。 そこで,G医師は,原告Bの発言を信頼し,1か月健診を受けて問題がないと診断されているのであれば大丈夫であろうと判断して,「ちゃんと検査をしたのですね。」と念を押した を強く拒否した。 そこで,G医師は,原告Bの発言を信頼し,1か月健診を受けて問題がないと診断されているのであれば大丈夫であろうと判断して,「ちゃんと検査をしたのですね。」と念を押した上で,それ以上の検査はしなかった。 G医師としては,Cについて,初診でもあり,新生児も肌の色には個体差があるところ,視診上明確な黄疸までは認められなかったことから,黄疸が母乳栄養児に見られる生理的黄疸であると判断し,それ以上の検査をしなかったのであり,医師としての注意義務に何ら違背するところはない。 (ウ) なお,原告らは,被告日本赤十字社は,同年5月31日までの間,Cに対して何らの検査も診察もしなかったと主張するが,そもそも原告らは,同年4月16日から5月31日まで,Cを一度も足利赤十字病院へ連れてきていないのであって,被告赤十字病院には診察の機会が与えられていなかった。 (4) 被告日本赤十字社の検査義務違反とCの死亡との因果関係の有無(原告らの主張)先天性胆道閉鎖症は,早期発見と2か月以内の手術が救命率を高めることは明らかであるから(甲B3,B8,乙A5,B5,B6),本件においても,被告日本赤十字社が,平成9年4月16日の時点で黄疸に気付いて検査を行い,先天性胆道閉鎖症の診断をして手術を実施していれば,Cを救命し得た可能性か,少なくともより長く生存し得た高度の蓋然性があったといえる。 (被告日本赤十字社の主張)原告らの主張は争う。 被告日本赤十字社としては,平成9年4月16日の時点においてCが先天性胆道閉鎖症であるとの確定診断をすることは不可能だったのであって,手術をした場合の救命の可能性については,不明であるといわざるを得ない。 (5) 損害(原告らの主張)ア Cが先天性胆道閉鎖症であるとの確定診断をすることは不可能だったのであって,手術をした場合の救命の可能性については,不明であるといわざるを得ない。 (5) 損害(原告らの主張)ア Cの損害(ア) 付添看護費 248万9500円原告らは,Cについて,383日間にわたって,連日付き添い看護したものであって,その費用は,1日当たり6500円とすると,6500円×383日=248万9500円となる。 (イ) 入院雑費 57万4500円1日当たり1500円として,1500円×383日=57万4500円となる。 (ウ) 葬儀費用 93万8350円 (エ) 遺失利益2221万9381円基礎収入を平成12年貸金センサス男子全年齢平均貸金によって560万6000円とし,生活費控除率を50パーセントとし,就労可能年数に対応するライプニッツ係数を7.9270とすると,560万6000円×(1-0.5)×7.9270=2221万9381円となる。 (オ) 慰謝料 2500万円(カ) 原告らの相続原告らは,Cの死亡により,法定相続分に従い,上記(ア)から(オ)までの合計5122万1731円を2分の1ずつ相続した。 イ原告ら固有の損害(ア) 慰謝料各500万円(イ) 弁護士費用各300万円ウ合計 イ原告ら固有の損害(ア) 慰謝料各500万円(イ) 弁護士費用各300万円ウ合計以上により,原告らが被った損害の合計金額は,それぞれ3361万0865円(1円未満切捨て)となる。 エまとめよって,原告らは,被告らに対し,連帯して,不法行為又は債務不履行に基づき,損害賠償金各3361万0865円及びこれらに対する被告医院については不法行為の日である平成9年4月15日から,被告日本赤十字社については不法行為の日である平成9年4月16日から支払済みまでそれぞれ民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (被告らの主張)原告らの主張は争う。 第3 判断 1 認定事実前記前提事実,証拠(各認定事実の後に掲げる。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 亀山産婦人科医院におけるCの診療経過ア Cの出生原告Bは,平成9年3月15日午前8時30分,陣痛を催したため,亀山産婦人科医院に入院し,同日午前9時33分,Cを出生した(前記前提事実,亀山産婦人科医院診療経過一覧表,乙A1・1頁,A6・1頁)。 イ入院中の黄疸検査(ア) 亀山産婦人科医院では,新生児に対して,出生翌日から,イクテロメータという器具を用いて黄疸の度合いを測定することにしている(乙A8,被告医院代表者)。 イクテロメータは,プラスチック板に1から5まで順次に黄色調を濃厚にした縦の基準帯を並べたもので,児の鼻尖部にこれを当てて圧迫し,鼻尖の血行が消退して赤色調でなくなったところで,皮膚の黄色調がどの番号の黄色基準帯と一致するかを読むというものであ 次に黄色調を濃厚にした縦の基準帯を並べたもので,児の鼻尖部にこれを当てて圧迫し,鼻尖の血行が消退して赤色調でなくなったところで,皮膚の黄色調がどの番号の黄色基準帯と一致するかを読むというものである(乙B7)。イクテロメータの数値と血清総ビリルビン値との間には,相関関係があり,イクテロメータを用いることによって,黄疸の簡易的な検査をすることができる(乙B7)。 そして,イクテロメータの数値が3.5以上の場合,血清総ビリルビン値が15mg/dlを超えていて,高ビリルビン血症を発症している(一般に,血清総ビリルビン値が15mg/dlを超える場合を,高ビリルビン血症といい,病的な症状とされている。)可能性があるので,より正確な血清総ビリルビン値の測定を行う必要があるとされている(乙B7,B9)。 このような場合,亀山産婦人科医院では,ビルメーターBという測定器(乙B8)を用いて,血清総ビリルビン値の測定を行っている(乙A8,被告医院代表者)。 (イ) Cについても,出生翌日である平成9年3月16日から退院前日である同月23日まで,イクテロメータを用いて黄疸の度合いが測定されたが,その数値は,同月16日が「2」,同月17日が「3」,同月18日が「3」,同月19日が「3↑」,同月20日が「4」,同月21日が「3↑」,同月22日が「3」,同月23日が「3」であった(乙A1・1頁)。 また,同月19日から21日までについては,イクテロメータの数値が3を超えたことから,Cの血清総ビリルビン値の測定がされ,その数値は,同月19日が「10.2」,同月20日が「9.1」,同月21日が「10.1」であった(乙A1・1頁,A8,被告医院代表者)。 (ウ) この測定結果を受けて,亀山産婦人科医院では,同月21日の段階 19日が「10.2」,同月20日が「9.1」,同月21日が「10.1」であった(乙A1・1頁,A8,被告医院代表者)。 (ウ) この測定結果を受けて,亀山産婦人科医院では,同月21日の段階で,Cに生じている黄疸は,生理的な新生児黄疸の範囲内であると判断した(被告医院代表者)。 そこで,D医師は,原告Bに対して,Cの黄疸は生理的な黄疸であって,日光浴をさせればよいと説明をした(乙A8,被告医院代表者)。 ウ 1か月健診(ア) 平成9年4月15日,Cは,1か月健診を受けるため,原告Aと原告Bに連れられて,亀山産婦人科医院を訪れた(前記前提事実,亀山産婦人科医院診療経過一覧表,甲A4,A5,原告A・原告B各本人)。 (イ) そして,原告Aは,亀山産婦人科医院の受付でCの1か月健診を申し込んだ際,Fからマススクリーニング用紙(乙A5)の交付を受けた(甲A4,原告A本人)。この点について,被告医院は,マススクリーニング用紙は原告Bに対する退院指導の際に既に交付していたと主張し,E看護師はこれに沿う供述をする(証人E)。マススクリーニング用紙の用途を考慮すると,E看護師の供述内容は自然であり,マススクリーニング用紙は,原告Bに対して,既に交付されていた可能性が高いが,Fの供述によれば,亀山産婦人科医院では,1か月健診の際にマススクリーニング用紙を持参しなかった者に対しては,1か月健診の受付の際に再度マススクリーニング用紙を交付しているとのことであり(乙A9,証人F),原告Aの供述(原告A本人)と併せ検討すると,少なくとも,原告Aは当日マススクリーニング用紙を持参しておらず,Fからマススクリーニング用紙の交付を受けたものと認められる。 原告Aは,このマススクリーニング用紙の「きょうのうんちの色は 少なくとも,原告Aは当日マススクリーニング用紙を持参しておらず,Fからマススクリーニング用紙の交付を受けたものと認められる。 原告Aは,このマススクリーニング用紙の「きょうのうんちの色は□番に近いです」の欄に,「7」と記入し,また,持参した母子手帳の「保護者の記録【1か月頃】」の頁の「便の色は何色ですか。」の欄に,「緑色」と記入し,これらを提出した(甲A2・8頁,A4,乙A4・3頁,原告A本人)。 亀山産婦人科医院では,受付で回収されたマススクリーニング用紙の「きょうのうんちの色は□番に近いです」の欄に1から3までの数字が記入されていない限り,D医師へはマススクリーニングの結果は特に連絡されないことになっており,Cについても,D医師にマススクリーニングの結果は連絡されなかった(乙A8,証人F,被告医院代表者)。 (ウ) Cは,受付を終了した後,看護師による体重,身長等の測定を受け,さらに,D医師による診察を受けた(乙A8,被告医院代表者)。 このとき,D医師は,Cを裸にして,全身の観察を行ったが,少し黄疸が残っているという気はしたものの,全く心配ないと判断した(乙A8,被告医院代表者)。 (2) 足利赤十字病院におけるCの診療経過ア平成9年4月16日の診察平成9年4月16日,Cの鼻詰まりを心配に思った原告Aと原告Bとは,Cを連れて,足利赤十字病院の小児科を訪れた(足利赤十字病院診療経過一覧表,甲A4,A5,証人G,原告A・原告B各本人)。 足利赤十字病院の小児科では,G医師がCの診療に当たった(甲A5,証人G,原告B本人)。 イ入院中の診療経過(ア) 平成9年5月30日の深夜,Cが発熱したことから,原告Aと原告Bは,翌31日,Cを連れて,足利赤十字 がCの診療に当たった(甲A5,証人G,原告B本人)。 イ入院中の診療経過(ア) 平成9年5月30日の深夜,Cが発熱したことから,原告Aと原告Bは,翌31日,Cを連れて,足利赤十字病院を訪れた(前記前提事実,足利赤十字病院診療経過一覧表,甲A4,A5,原告A・原告B各本人)。 このときCの診察に当たったのも,G医師であった(甲A4,A5,丙A3,証人G,原告A・原告B各本人)。 G医師は,Cに重度の黄疸が現れているのを認識したため,Cから採血をして,血液検査を行ったところ,直接ビリルビン値が高い数値を示した(丙A3,証人G)。 そこで,G医師は,Cが先天性胆道閉鎖症に罹患していることを疑い,確定診断のための検査を行うために,同年6月2日にCを入院させることとした(丙A3,証人G)。 (イ) ところが,Cは,同年5月31日の採血の後,採血部位からの出血が止まらなかったことから,翌6月1日に,足利赤十字病院に入院した(前記前提事実,足利赤十字病院診療経過一覧表,甲A4,A5,原告A・原告B各本人)。 (ウ) 足利赤十字病院では,同月3日,先天性胆道閉鎖症の確定診断のための検査(胆道シンチ)が行われ,翌4日,G医師は,その検査の結果から,Cが先天性胆道閉鎖症に罹患しているとの確定診断を行った(前記前提事実,足利赤十字病院診療経過一覧表,丙A3,証人G)。 この確定診断の結果,G医師は,Cについて,直ちに手術が必要であると判断したが,足利赤十字病院には小児外科の医師がいなかったため,Cを太田病院へ転院させることとした(前記前提事実,丙A3,証人G)。 (3) 太田病院入院中の診療経過ア Cは,平成9年6月5日,太田病院に入院した(前記前提事実)。 イ同 ため,Cを太田病院へ転院させることとした(前記前提事実,丙A3,証人G)。 (3) 太田病院入院中の診療経過ア Cは,平成9年6月5日,太田病院に入院した(前記前提事実)。 イ同月10日に,Cに対して手術(肝門部肝空腸吻合術。葛西手術ともいう。以下「本件手術」という。)が行われた(前記前提事実,太田病院診療経過一覧表,甲B6,乙B5)。 この手術の際,Cの胆管が極めて細いものであることが確認された(太田病院に対する調査嘱託)。 ウ Cの先天性胆道閉鎖症は,本件手術によっても治癒することはなく,平成10年6月18日,Cは先天性胆道閉鎖症を原因として死亡した(前記前提事実,太田病院診療経過一覧表,甲B2,太田病院に対する調査嘱託)。 2 争点(1)(被告医院の検査義務違反の有無)について原告らは,被告医院は,遅くとも平成9年4月15日の1か月健診の際には,Cの黄疸の原因・病名を解明し,適切な診療を行うべきであったのに,これを怠ったと主張するので,これについて判断する。 (1) 前記のとおり,Cは先天性胆道閉鎖症に罹患していたと認められるところ,先天性胆道閉鎖症の症状は,必ずしも出生直後から現れるとは限らず,生後14日を過ぎてから現れたり,生後1か月を過ぎてから現れたりすることもあるとされている(甲B5,乙A5,)。 そこで,平成9年4月15日のCの皮膚の色がどのようなものであったのかを検討する。 ア G医師は,平成9年4月16日にCを診察した際に,Cの皮膚が,病的な黄疸を疑わせるような黒ずんだ色をしていたと供述する(証人G。以下「G医師の診察結果」という。)。 これに対し,D医師は,新生児の黄疸は,太陽光のもとでの視診でなければ正確な診断はできないと述べ,蛍光灯の光のもとで視 色をしていたと供述する(証人G。以下「G医師の診察結果」という。)。 これに対し,D医師は,新生児の黄疸は,太陽光のもとでの視診でなければ正確な診断はできないと述べ,蛍光灯の光のもとで視診したG医師の診察結果の正確性を争う趣旨の供述をする(被告医院代表者)。 そして,新生児の黄疸を視診によって診断する場合,診察場所の明るさや検査による差も大きく影響し,例えば,晴天の日は黄色みが薄く感じられ,曇天の日には黄色みが強く感ぜられるとする文献も存在する(乙B9・746頁)。 しかし,同文献も,視診は500ルックス程度の明るさの場所で行う旨記載している(乙B9・746頁)だけで,太陽光のもとで視診することを求めているわけではなく,一般に新生児が小児科で診察を受ける場合には,G医師がCを診察したような診察室で診察を受けるものと認められる(証人G,弁論の全趣旨)ので,G医師が太陽光のもとで診察しなかったからといって,G医師の診察結果の正確性に疑いが生じるものとは解されない。 実際にも,その後Cの黄疸はさらに濃さを増し,先天性胆道閉鎖症の確定診断がされるに至った(前記認定事実,証人G,原告A本人)のであるから,G医師の診察結果は正確なものであったと認められ,太陽光のもとで診察したD医師は,G医師よりももっと明確にCの皮膚の状態を確認できたものと推認される。 イそして,G医師の診察結果で認められたようなCの皮膚の色が,一夜にして現れたものとは考えがたい(そのようなことが生じる可能性があることを窺わせる証拠は存在しない。)から,D医師が診察した同月15日には,既に,Cの皮膚は,G医師が診察したときと同様に,病的な黄疸を疑わせるような黒ずんだ色をしていたものと推認される。 (2) そこで,平成9年4月15日の 。)から,D医師が診察した同月15日には,既に,Cの皮膚は,G医師が診察したときと同様に,病的な黄疸を疑わせるような黒ずんだ色をしていたものと推認される。 (2) そこで,平成9年4月15日の1か月健診の際,Cの皮膚が病的な黄疸を疑わせるような黒ずんだ色をしていたことを前提に,D医師がいかなる対応をすべきであったかを検討する。 ア一般に,新生児が生後2週間以後も黄疸を持続している場合を遷延性黄疸と呼び,このような黄疸が見られた場合,先天性胆道閉鎖症の罹患を疑わなくてはならないとされている(甲B8,証人G)。 また,先天性胆道閉鎖症によって現れる黄疸の色合いは,暗緑や,ブロンズ色等の黒ずんだ色であるとされており(甲B8,B9),黒っぽい皮膚の色をしている新生児に対しては注意が必要とされている(証人G)。 そして,先天性胆道閉鎖症の鑑別診断のためには,直接ビリルビン値の測定が不可欠とされている(甲B5,B6,B9,乙B1,証人G)。 イそうすると,本件においては,前記のとおり,1か月健診の際のCの皮膚は,G医師が病的な黄疸を疑う程に黒ずんだ色をしていたのであるから,D医師としては,この時点で,Cが先天性胆道閉鎖症に罹患していないかどうかを鑑別するため,Cの直接ビリルビン値の測定をすべきであったというべきである。 ウこれに対し,被告医院は,平成9年3月19日から21日までCの血清総ビリルビン値の測定を行ったところ,その結果が正常値であったこと,1か月健診の際,マススクリーニングおいてCの便の色が緑色と報告されたことから,平成9年4月15日の時点で,Cについて先天性胆道閉鎖症を疑う余地はなかったと主張する。 (ア) 血清総ビリルビン値の測定については,確かに,前記のとおり,亀山産婦人科医院では たことから,平成9年4月15日の時点で,Cについて先天性胆道閉鎖症を疑う余地はなかったと主張する。 (ア) 血清総ビリルビン値の測定については,確かに,前記のとおり,亀山産婦人科医院では,同年3月19日から21日まで,Cの血清総ビリルビン値の測定がされ,その数値は,同月19日が10.2mg/dl,同月20日が9.1mg/dl,同月21日が10.1mg/dlであり,正常範囲内にあった(前記認定事実)。 しかし,同数値は,出生後間もない時期のものであって,この時期に血清総ビリルビン値が正常範囲内にあったからといって,出生後1か月を過ぎても残っているような遷延性黄疸については,先天性胆道閉鎖症等を現す異常な黄疸である可能性を否定することはできず(先天性胆道閉鎖症の症状は,必ずしも出生直後から現れるとは限らず,生後14日を過ぎてから現れたり,生後1か月を過ぎてから現れたりすることもあることは,さきに認定したとおり。),鑑別診断のために直接ビリルビン値を測定すべき義務を免れることはできない(前記認定事実,甲B5,証人G)。 (イ) また,マススクリーニングについては,原告Aが,1か月健診の際,マススクリーニング用紙の「きょうのうんちの色は□番に近いです」の欄に,「7」と記入し,また,持参した母子手帳の「保護者の記録【1か月頃】」の頁の「便の色は何色ですか。」の欄に,「緑色」と記入し,これらを提出したことは前記のとおりである。 しかし,マススクリーニング用紙や母子手帳における新生児の便の色についての記載は,新生児の便の色の識別に関して専門的知識を持ち合わせていない新生児の両親によってされるのが通常であるから,必ずしも正確なものとはいえない(甲B9)。本件においても,原告Aは,マススクリーニング用紙(乙A5 便の色の識別に関して専門的知識を持ち合わせていない新生児の両親によってされるのが通常であるから,必ずしも正確なものとはいえない(甲B9)。本件においても,原告Aは,マススクリーニング用紙(乙A5)の記入に際し,Cの便の色を2番と7番との中間色である(やや緑がかっている)と認識していたものの,ちょうどその色に該当するものがないので,7番と記入したと述べており(原告A本人),Cの便の色がマススクリーニング用紙に正確に反映しているとはいえない(2番は,1番や3番から6番までとは異なり,やや緑色がかって見えることは事実であり,原告AがCの便の色を2番と7番の中間色と判断したとしても不自然ではない。)。また,原告Aは,母子手帳の「保護者の記録【1か月頃】」の頁の「便の色は何色ですか。」の欄に「緑色」と記入したのは,マススクリーニング用紙の便の色の欄に7番と記入したからであると述べており(原告A本人),母子手帳のこの記載についても,Cの便の色が正確に反映しているとはいえない。 そして,前記のとおり,2番と7番とでは,D医師に受付からマススクリーニングの結果を知らせるか否か,大きな差異が生じることになるが,そのような差異が生じることが原告らに知らされていたと認めるに足りる証拠はない(乙B6号証には,「1番から3番のどれかに当てはまるようなら,うんちをおむつにくるんで持ってきて,先生に見せて下さい。」と記載されているが,E看護師は,これは原告Bに渡していないと供述している(証人E)。)ので,原告Aは,その重要性を認識していないまま7番と記入したものと認められる。 なお,原告Aは,マススクリーニング用紙への記入に当たって,Fから7番であることを示唆された旨供述し(原告A本人),Fはこれを否定するが(証人F),この点は,仮に原 ものと認められる。 なお,原告Aは,マススクリーニング用紙への記入に当たって,Fから7番であることを示唆された旨供述し(原告A本人),Fはこれを否定するが(証人F),この点は,仮に原告Aの供述どおりであるとすれば,本件におけるマススクリーニングの結果の正確性はより疑わしいものになるし,仮にFの供述どおりであったとしても,マススクリーニングの結果は記入者の主観的な判断に基づくもので,必ずしも正確なものではなく,本件においても正確性には疑問があることは否定されない。 また,そもそも,先天性胆道閉鎖症に罹患していても,胆汁がわずかずつ分泌される場合には,必ずしも便の色は白色にはならない(甲B9,証人G)。 したがって,新生児の便の色は,先天性胆道閉鎖症の鑑別診断のための一資料に過ぎず,それのみで確定診断が可能となるものではないから,G医師の診察結果で認められたような皮膚の色が認められる以上,鑑別診断のために,直接ビリルビン値を測定すべき義務を免れることはできない。 (3) 以上によれば,D医師には,平成9年4月15日の1か月健診の際,Cが先天性胆道閉鎖症に罹患していないかどうかを鑑別するため,Cの直接ビリルビン値の測定をすべき義務があったにもかかわらず,これを怠った過失があるというべきであり(1か月健診以前に直接ビリルビン値を測定すべき義務があったと認めるに足りる証拠はない。),D医師は,これによってC及び原告らが被った損害について,不法行為責任を負い,被告医院は使用者責任を負うものと認められる。 3 争点(3)(被告日本赤十字社の検査義務違反の有無)について原告らは,G医師は,平成9年4月16日,原告らから黄疸について大丈夫かと質問された際に,顔色が黄色くなっていることを認識したのであるから,先 )(被告日本赤十字社の検査義務違反の有無)について原告らは,G医師は,平成9年4月16日,原告らから黄疸について大丈夫かと質問された際に,顔色が黄色くなっていることを認識したのであるから,先天性胆道閉鎖症を疑い,必要な検査等を実施して確定診断を行い,適切な診療をするべきであったと主張するので,これについて判断する。 (1) 前記のとおり,G医師が初めてCを診察したのは,Cが亀山産婦人科医院において1か月健診を受診した翌日である(前記前提事実,前記認定事実)。 G医師は,平成9年4月16日の診察について,Cの皮膚の色が黒ずんでいることを認識し,病的な黄疸であるか否かを鑑別するために,血液検査をする必要があると考え,原告BにCの血液検査を勧めたが,原告Bは,前日に亀山産婦人科医院で1か月健診を受診し,その結果大丈夫だと言われたと言って血液検査についてはやめてほしいというような態度を示し,検査もちゃんとしたと答えたので,前日に先天性胆道閉鎖症の鑑別のために,少なくとも血清総ビリルビン値,直接ビリルビン値,間接ビリルビン値の測定はされているものと判断し,さらに痛い思いをさせて採血する必要はないと考え,血液検査を行わなかった旨の供述をしている(丙A3,証人G)。 これに対し,原告Bは,G医師に対して,前日に亀山産婦人科医院で1か月健診を受けたことは伝えたが,血液検査を勧められたことはないと供述している(原告B本人)。 (2) そこで,双方の供述内容を検討すると,Cの皮膚が病的な黄疸を疑わせるような黒ずんだ色をしていると認識したG医師(原告Bは,G医師はCが診察室に入った瞬間,「この赤ちゃん黄色いですねえ。」と言ったと供述している。)が,血液検査を勧めるのはごく自然なことであり(G医師は,先天性胆道閉鎖症の鑑別診断には G医師(原告Bは,G医師はCが診察室に入った瞬間,「この赤ちゃん黄色いですねえ。」と言ったと供述している。)が,血液検査を勧めるのはごく自然なことであり(G医師は,先天性胆道閉鎖症の鑑別診断には,直接ビリルビン値を測定することが不可欠であるという認識を有していた(証人G)。),これを行わなかったのは,1か月検診の結果を原告Bから聞いて,黄疸についても検査をして問題がなかったものと判断した(1か月健診には,新生児が先天性胆道閉鎖症に罹患していないかどうかを確かめる意義もあるとされている(甲B9,乙A5,A7,被告医院代表者)。)からと考えるのが合理的であり,G医師の供述は信用できるものというべきである。 (3) そして,G医師の供述内容を前提とすると,G医師が1か月健診で直接ビリルビン値の測定がされたものと信じたことについては,思い込みがあった面もないわけではない(G医師自身,その点は認めている(証人G)。)が,原告Bの前記のような対応によってもなお血液検査を実施すべき義務があったとまでは認めることができず,原告らの被告日本赤十字社に対する請求(不法行為に基づくものも,債務不履行に基づくものも)は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。 4 争点(2)(因果関係)及び争点(5)(損害)について(1) 被告医院の検査義務違反とCの死亡との因果関係について前記2のとおり,D医師には,平成9年4月15日の1か月健診の際,Cが先天性胆道閉鎖症に罹患していないかどうかを鑑別するため,Cの直接ビリルビン値の測定をすべき義務があったにもかかわらず,これを怠った過失が認められるので,この過失行為と,Cの死亡との因果関係について検討する。 ア前記のとおり,先天性胆道閉鎖症によって現れる黄疸の色合いは,暗緑や,ブロンズ色 たにもかかわらず,これを怠った過失が認められるので,この過失行為と,Cの死亡との因果関係について検討する。 ア前記のとおり,先天性胆道閉鎖症によって現れる黄疸の色合いは,暗緑や,ブロンズ色等の黒ずんだ色であるとされているところ,G医師の診察結果によれば,平成9年4月15日の1か月健診の際には,Cの皮膚は,先天性胆道閉鎖症によって現れる黄疸の色合いを示していたものと認められる。もっとも,この時点では直接ビリルビン値は測定されていないし,直接ビリルビン値が高値を示していた場合に先天性胆道閉鎖症の確定診断を行うための生化学的検査や画像診断等(甲B5,B6,証人G)は行われていないので,G医師の診察結果が先天性胆道閉鎖症の発現であり,その時点で直接ビリルビン値を測定すれば100パーセント高値を示し,その後の生化学的検査や画像診断等で100パーセント先天性胆道閉鎖症の確定診断がついたと断定することはできない(証人G)が,さきに判示したとおり,Cの黄疸は,その後も濃さを増し,約1か月半後の同年6月4日には先天性胆道閉鎖症との確定診断がされたのであるから,1か月健診のときに直接ビリルビン値が測定されていれば,高値を示し,その後の検査で先天性胆道閉鎖症の確定診断ができたものと推認するのが相当である。 イそこで,平成9年4月15日の1か月健診の時点で先天性胆道閉鎖症の確定診断ができた場合の,Cの救命可能性について検討する。 証拠(甲B6,B9,乙B1,B5)によれば,一般に,先天性胆道閉鎖症は,早期に手術を行ったとしても,術後の合併症の発症の可能性は少なくなく,予後は不良とされている(太田病院は,調査嘱託に対して,一般に,成人するまで生存する確率は1割程度と回答している。)。 そして,前記認定事実,太田病院診療経過一覧 発症の可能性は少なくなく,予後は不良とされている(太田病院は,調査嘱託に対して,一般に,成人するまで生存する確率は1割程度と回答している。)。 そして,前記認定事実,太田病院診療経過一覧表及び証拠(甲B1,丙4の1から3まで,太田病院に対する調査嘱託,原告A本人)によれば,Cの先天性胆道閉鎖症は,肝臓からつながる胆管が極めて細いという態様のもので,平成9年6月10日の本件手術後も黄疸が軽減せず,胆汁の出が悪いという状態が続き,胆汁排出促進剤の効果もなかったため,最終的には肝移植しか救命の方法はないという状態になった(太田病院は,調査嘱託に対して,生体肝移植の成功率は一般的には9割前後といわれていると回答している。)が,原告らは,海外での脳死肝移植は,費用もかかるし,順番を待っても間に合わないのではないかと考え,日本での生体肝移植については,Cのほかに2名の子供を育てなければならない原告らが臓器を提供することに躊躇を覚えたため,これを断念したこと,Cの先天性胆道閉鎖症の態様及び本件手術後の経緯からすると,生後2か月以内に本件手術を行っていれば,胆汁排泄が生じ,治癒したと判断することは困難であること,以上の事実が認められる。 以上によれば,D医師の前記過失行為がなかったとしても,Cの死亡を避けられなかった可能性が相当程度にあったといわざるをえず,D医師の前記過失行為とCの死亡との因果関係を認めることはできない。 ウもっとも,原告らは,D医師の前記過失行為がなかったとしたら,Cの死亡は避けられなかったとしても,より長く生存しえた高度の蓋然性があったとも主張しているので,この点について検討する。 一般に,先天性胆道閉鎖症は,早期に手術をすれば,生存可能性が高くなるとされ,生後2か月までに手術を受けることが望 しえた高度の蓋然性があったとも主張しているので,この点について検討する。 一般に,先天性胆道閉鎖症は,早期に手術をすれば,生存可能性が高くなるとされ,生後2か月までに手術を受けることが望ましいとされており(甲B3,B8,B9,乙A5,B5,B6),マススクリーニングの目的も先天性胆道閉鎖症を1か月健診で発見し,生後60日以内に本件手術の術式と同じ葛西手術を受けさせることにある(マススクリーニング用紙(乙A5)には,生後2か月までに手術を受けた患者は黄疸が消えて元気になることが多いと記載されている。)のであるから(乙A5,A7,B6),平成9年4月15日の1か月健診のころに本件手術を実施するのと,その約2か月後である同年6月10日に本件手術を実施するのとでは,救命の可能性には差異があり,少なくとも延命の可能性には有意な差異があったものと推認するのが相当であり,そうであるからこそ,G医師も,現在に至っても,平成9年4月16日に血液検査をしておけばよかったという気持ちを持ち続けているものと認められる(証人G)。 したがって,D医師の前記過失行為とCの死亡との間の因果関係を認めることはできないが,D医師の前記過失行為は,Cから救命の可能性,少なくともより長く生存しえた可能性を奪ったものというべきであるから,D医師は,これによってC及び原告らが被った損害を賠償すべき不法行為責任を負い,被告医院は使用者責任を負うものと認められる。 (2) 損害についてア Cに生じた損害について(ア) 付添看護費及び入院雑費について原告らは,Cが平成9年6月1日に足利赤十字病院に入院してから,平成10年6月18日に太田病院で死亡するまでの383日間に要した付添看護費及び入院雑費を損害として主張する。 原告らは,Cが平成9年6月1日に足利赤十字病院に入院してから,平成10年6月18日に太田病院で死亡するまでの383日間に要した付添看護費及び入院雑費を損害として主張する。 しかし,本件において,平成9年4月15日の1か月健診の時点で直接ビリルビン値が測定され,そのころ先天性胆道閉鎖症の確定診断がされたとしても,やはりCは本件手術を受ける必要があったものと認められる(先天性胆道閉鎖症は,手術以外には有効な治療方法がないとされる(甲B6,B9)。)から,D医師の前記過失行為がなかったとしても,Cの入院に際して,付添看護費及び入院雑費の支出は免れなかったというべきである。 そして,1か月健診のころに先天性胆道閉鎖症の確定診断がされた場合,Cの入院期間が383日間よりも短くなった(付添看護費及び入院雑費がより低額で済む)と認めるに足りる証拠もないので,原告らの主張する付添看護費及び入院雑費の支出とD医師の前記過失行為との間の因果関係を認めることはできない。 (イ) 葬儀費用及び逸失利益について前記のとおり,D医師の前記過失行為とCの死亡との間の因果関係は認められないから,Cの死亡による葬儀費用及び逸失利益を認めることはできない。 (ウ) 慰謝料について前記のとおり,D医師の前記過失行為とCの死亡との間の因果関係は認められないから,Cの死亡による慰謝料は認めることができず,救命可能性,少なくともより長く生存しえた可能性を奪われたことによる精神的苦痛に対する慰謝料のみが認められる。 そして,その慰謝料額は,これまで認定した事実から推測される救命可能性や延命可能性の程度,D医師の前記過失行為の態様,本件手術後,Cの死亡に至るまでの経緯,その他本件に現れた諸般の事 。 そして,その慰謝料額は,これまで認定した事実から推測される救命可能性や延命可能性の程度,D医師の前記過失行為の態様,本件手術後,Cの死亡に至るまでの経緯,その他本件に現れた諸般の事情を総合考慮し,300万円と認めるのが相当である。 (エ) 相続上記300万円のCの損害賠償請求権については,Cの両親である原告らが,それぞれ2分の1である150万円ずつ相続したものと認められる。 イ原告らに生じた損害について(ア) 慰謝料について前記のとおり,D医師の前記過失行為とCの死亡との間の因果関係は認められないから,Cの死亡によって原告らが被った精神的苦痛に対する慰謝料は認められないし,Cの救命可能性や延命可能性を奪われたことによる慰謝料はCに発生するものであり,Cとは独立して原告らに発生するものと認めることはできない。 (イ) 弁護士費用本件事案の内容や認容額等を考慮すると,原告らに生じた弁護士費用相当の損害としては,各15万円と認めるのが相当である。 ウまとめ以上によれば,被告医院は,原告らに対し,不法行為(使用者責任)に基づき,各165万円及びこれに対する不法行為の日(Cの1か月健診が行われた日)である平成9年4月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。 5 結論よって,原告らの,被告医院に対する請求は,不法行為(使用者責任)による損害賠償請求権に基づき,各165万円及びこれに対する平成9年4月15日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,被告医院に対するその余の請求及び被告日本赤十字社に対する請求は理由がないからこれらをいずれも棄却すること ら支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,被告医院に対するその余の請求及び被告日本赤十字社に対する請求は理由がないからこれらをいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第30部裁判長裁判官福田剛久裁判官川嶋知正裁判官新谷晋司は,転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官福田剛久

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