平成12(ワ)5719 サンワード貿易懲戒解雇

裁判年月日・裁判所
平成14年6月28日 名古屋地方裁判所
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判決文本文8,329 文字)

主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は,原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,321万1990円及びこれに対する平成12年6月15日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,被告に雇用されていて懲戒解雇された原告が,同懲戒解雇は懲戒事由が存在しない無効なものであるとして,被告に対し,賃金等の支払を求める事案である。 2 争いのない事実(1) 被告は,商品取引法の適用を受ける商品取引所の会員として,各市場における上場商品の売買取引及び受託業務を営む会社である。 (2) 原告は,平成9年4月,被告に雇用され,同年5月から,被告の名古屋支店長として,被告の顧客との商品取引の委託取引の業務に従事していた。 (3) 原告は,被告の名古屋支店長に在職中,借名口座で商品取引を行った。 (4) 原告は,自己の不正行為について自認書を作成した。 (5) 原告は,被告から,自宅待機を命ぜられた。 (6) 原告は,平成11年9月22日付け退職届を同月27日に被告に送付した。 (7) 原告は,被告から,平成11年10月1日付けで同月5日に本社へ出社するよう命ぜられたが,これに従わなかった。 (8) 被告は,原告から送付された退職届を受理せず,原告に対し,平成11年10月8日付けで懲戒解雇の通告をした(以下「本件懲戒解雇」という。)。 (9) 被告は,その後,本件懲戒解雇につき,a労働基準監督署に労働基準法20条3項による除外申請をしたが,除外認定はされなかった。 3 争点本件の争点は,①本件懲戒解雇は有効か,②未払賃金等の額はいくらか,という点にある。 (1) 争点①(本件懲戒解雇は有効か)についてア被告の主張(ア) 原告は,平成9年9月24日ころからの委 件の争点は,①本件懲戒解雇は有効か,②未払賃金等の額はいくらか,という点にある。 (1) 争点①(本件懲戒解雇は有効か)についてア被告の主張(ア) 原告は,平成9年9月24日ころからの委託者Aとの委託取引契約に関して,同年12月25日,Aに渡すべき金員をAを騙して節税対策のために仮名口座を作り,そこで運用する旨説明して,原告自身の計算による借名口座での取引の証拠金に充当していた。そして,Aには,借名口座による取引で損が生じたので渡すお金はなくなったこと,当初の資金以上の損は負担させないとの説明をしていた。 (イ) 被告は,原告がこのような不正な取引をしていたことは知らなかったが,平成11年2月ころ,Aからの苦情申立てでその事実を知るに至った。そこで,同年3月9日,被告は,Aからの苦情申立てに係る紛争について調査したところ,苦情申立てのとおり原告に不正があったと認められたので,苦情申出の金員を賠償して解決した。そして,被告は,原告に対しては,今後二度とかかる不正行為はしないこと,万一かかる行為を行った場合には,いかなる処分を受けても異議はないことの確認を求め,原告はその旨誓約した。 (ウ) しかるに,原告は,更に借名口座を利用して,自己の計算で商品取引を行っていた。Aとの紛議の解決後においても,原告の会社内での挙動には不審な点が見られたが,原告が借名口座を使って取引をしているとの確たる証拠は見いだせないでいた。そこで,不審な動きがあって確たる証拠が得られるようになるまで注視していたところ,平成11年8月5日,原告が不審な行動をとったものである。 (エ) 被告は,平成11年8月6日,原告から直接事情を聞く必要があるとして,原告を本社に出社させ,問題点があることが判明した借名口座についての聞き取り調査をした。その結果,原告は,当初は否 ある。 (エ) 被告は,平成11年8月6日,原告から直接事情を聞く必要があるとして,原告を本社に出社させ,問題点があることが判明した借名口座についての聞き取り調査をした。その結果,原告は,当初は否定していたが,調査結果に弁解ができず,B名義の取引口座は借名口座であることを認めるに至った。さらに,部下に対しても虚偽の文書を作成させていたことや,不正な手段で被告から報奨金を得ていたことも認めた。なお,上記取引口座はCが真の委託者であると原告は説明するが,これも原告の計算による借名による取引であると推認されるものである。 そして,原告は,不正行為について自認書を作成し,B名義以外の借名口座はないこと,その後の調査によっていかなる措置,処分をされても異議はないこと,騙し取った報奨金は返還することを約束した。 (オ) そこで,被告は,原告を名古屋支店長の職から解き,更に聞き取り調査があるときは直ちに出社するよう申し渡し,原告も了解した。 (カ) しかるに,原告は,その後すぐに,今後の調査により明らかにされると覚悟し,上記借名口座以外にも借名口座等の問題がある取引があると申告してきた。 そこで,原告の不正行為の解明にはまだまだ時間がかかると思われたので,その解明ができるまでは原告を自宅待機とした。 原告の申告により判明した借名口座等は更に10件はあった。 (キ) ところが,原告は,被告に対し,平成11年9月27日,一方的に退職届を送付してきて,以後の被告の調査には協力しない意向を示してきた。 (ク) そこで,被告は,更に原告の不正行為を調査するために,平成11年10月1日付けで,同月5日午後1時に本社へ出社して事実関係の解明に協力するようにとの命令を発したが,原告はこれに従わず出社しなかった。 (ケ) 上記借名口座を締結しての取引は,商品先物取引登録外 年10月1日付けで,同月5日午後1時に本社へ出社して事実関係の解明に協力するようにとの命令を発したが,原告はこれに従わず出社しなかった。 (ケ) 上記借名口座を締結しての取引は,商品先物取引登録外務員としては,やってはいけない行為として禁止されているものである(自主規制規則の第5条で日本商品先物取引協会会員が禁止されているほか,会員が登録外務員にさせてはならない行為として規制されており,その結果,当該外務員もかかる行為は禁止されているものである。)。 したがって,これらの原告の行為は,就業規則第52条の③,⑧,⑩,⑪,⑬号に該当するものである。 (コ) また,原告が本社へ出社して事実関係の解明に協力するようにとの命令を受けながら,これに従わず,事実を明らかにすることを拒否したことは,就業規則第52条の③,⑬号に該当するものである。 (サ) そのため,被告は,原告が送付してきた退職届は受理せず,平成11年10月8日付けで,被告就業規則に基づき本件懲戒解雇としたものである。 イ原告の主張(ア) 原告が借名口座で商品取引をしたことはあるが,被告においては,借名口座取引は日常多く行われており,原告自身も被告の幹部から借名口座でもよいから成績を上げるように指示を受けたこともあった。 (イ) 原告が被告主張の自認書を作成したのは,被告の幹部から,被告の言うとおりに書かなければ,他の商品取引業者で働けなくする等と脅され,やむなく作成したものである。 (ウ) 本件懲戒解雇には懲戒事由が存在せず,無効である。 (2) 争点②(未払賃金等の額はいくらか)についてア原告の主張本件懲戒解雇は無効であるので,原告は,被告に対し,以下のとおり,合計321万1990円の賃金等の支給を受ける権利を有するものである。 (ア) 平成11年10月,11月分の給料 ア原告の主張本件懲戒解雇は無効であるので,原告は,被告に対し,以下のとおり,合計321万1990円の賃金等の支給を受ける権利を有するものである。 (ア) 平成11年10月,11月分の給料  187万0220円(イ) 平成11年夏季賞与 40万1250円(ウ) 新幹線代 20万0520円(エ) 平成11年3月度報奨金 30万円(オ) 平成11年7月度報奨金 20万円(カ) 入社以来の出張手当(6000×40) 24万円イ被告の主張(ア) 平成11年10月,11月分の給料については,毎月15日締め当月25日払の約束であり,原告には平成11年10月12日までの分の給料を同月25日に日割計算にて算出した金額で支払済みであり,その後の分は原告には請求権がない。 (イ) 平成11年夏季賞与については,原告に職務上不正な行為があり,賞与が支給されなかったものであって,原告には賞与の支払請求権はないものである。 (ウ) 新幹線代については,原告が東京の実家に新幹線で帰る分(月3回分)を現物支給していた実績があったが,その支給について未支給のものはない。 (エ) 平成11年3月度報奨金については,原告には請求権がない。 (オ) 平成11年7月度報奨金については,原告には請求権がない。 (カ) 入社以来の出張手当については,精算済みであるので,原告には請求権がない。 第3 判断 1 争点①(本件懲戒解雇は有効か)について(1) 前記争いのない事実に証人D,同E,乙11,12,78及び後掲各証拠並びに弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実を認めることができる。 ア原告は,平成9年9月24日ころからのAを委託者とする委託 ) 前記争いのない事実に証人D,同E,乙11,12,78及び後掲各証拠並びに弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実を認めることができる。 ア原告は,平成9年9月24日ころからのAを委託者とする委託取引契約に関して,同年12月25日,Aに対し,Aに渡すべき金員について,節税対策のために仮名口座を作り,そこで運用する旨説明し,Aに渡すべき金員を原告自身の計算による借名口座での取引の証拠金に充当していた。そして,原告は,Aに対し,借名口座による取引で損が生じたので渡すお金はなくなったが,当初の資金以上の損は負担させない旨の説明をしていた(乙19ないし24,29ないし33,45)。 イ被告は,原告がこのような不正な取引をしていたことは知らなかったが,平成11年2月,Aから被告の管理部に原告の不正行為について調査依頼の電話があり,同月24日付けの「経過報告書」(乙19)などが送付されてきたことから,被告においてその事実を知るに至った。そこで,被告は,Aの申立てに係る原告の不正行為について,Aから経過について記載した書面(乙21ないし24,29)を送付してもらうなどして調査したところ,Aの申立てどおりの原告の不正行為があったと認められた。そこで,被告は,Aに解決金600万円を支払って紛争を解決した(乙1)。なお,同600万円は最終的には原告が負担した。 そして,原告は,被告に対し,Aの資金を流用したことに関して,原告の犯した重大な行為であると深く反省するとともに,被告に対して多大な迷惑を掛けたことをお詫びし,今後再び同様の行為を行わないこと,万一同様の行為を行った場合には,すべて原告の責任において処置するとともに,被告からのいかなる処罰に対しても異議申立てはしないことを誓約した(乙2)。 ウ被告は,原告のA以外の顧客との取引についても不審な点が 為を行った場合には,すべて原告の責任において処置するとともに,被告からのいかなる処罰に対しても異議申立てはしないことを誓約した(乙2)。 ウ被告は,原告のA以外の顧客との取引についても不審な点があったことから,内密に引き続き原告の仕事ぶりを調査することとした。その調査の過程で,B名義の取引について,実際に顧客が取引しているのか,原告が名前を借りて取引をしているのか判然としなかったことから,この取引が動いた時点で確認をとることとしていた。すると,平成11年8月5日,B名義の取引について注文指示があったことから,顧客の指示の有無について確認したところ,その確認ができず,問題のある取引と思われた。そこで,被告が直接Bに確認したところ,BはCに頼まれて名義を貸したことを認めた。しかし,そのような取引は禁止されているので,かかる正常ではない取引の実態の把握と適正な処理をする必要が生じた(乙25ないし28,34ないし43)。 エそこで,被告は,平成11年8月6日,原告から直接事情を聞く必要があるとして,原告を本社に出社させ,B名義の取引について聞き取り調査を行った。その結果,原告は,B名義の取引口座は借名口座であり,実際はCの取引であることを認めた。そこで,被告は,弁護士にも立ち会ってもらい,事実関係を確認する自認書(乙3)を原告に作成してもらった。その自認書の中で,原告は,更に部下に対しても虚偽の文書を作成させていたことや,不正な手段で被告から報奨金(正確には賞与ないし加給金)を得ていたことも認めるとともに,B名義以外の借名口座はないこと,その後の調査によっていかなる措置,処分をされても異議はないこと,騙し取った報奨金は返還することを約束した。 オそこで,被告としては,原告が他には不正な取引はないと言っているものの,真相がきちんと解明さ の調査によっていかなる措置,処分をされても異議はないこと,騙し取った報奨金は返還することを約束した。 オそこで,被告としては,原告が他には不正な取引はないと言っているものの,真相がきちんと解明されるまで自宅待機とし,原告を名古屋支店長の職から解くこととし,被告からの事情聴取のための呼び出しや事後処理のための指示には従うよう求め,原告もこれを了解した。 カところが,平成11年8月7日,原告は,被告に対し,電話で,他にも借名口座等の問題のある取引があると申告してきた。 そこで,被告は,同月9日,原告に被告本社に来てもらい,翌10日にかけて事情聴取をしたところ,原告はA及びB以外に10件の借名口座等があることを申告したので,被告としては,その申告に係る各取引について事実の確認作業を行ったところ,上記10件の借名口座の中には,原告自身が自分の資金で売買を行ったものがあることも判明した(乙44,46ないし55,58ないし70)。 キその後,原告は,被告に対し,平成11年9月27日,一方的に退職届(乙5の1)を送付してきて,以後の被告の調査には協力しない意向を示してきた。 クそこで,被告は,更に原告の不正行為を調査するために,平成11年10月1日付けで,同月5日午後1時に被告本社へ出社することを命じたが(乙6),原告はこれに従わなかった。 ケ日本商品先物取引協会作成の自主規制規則(乙18)第5条1項(12)号によれば,「顧客に対し,本人以外の名義を使用させること。」が禁止されており,同条2項(1)号で,日本商品先物取引協会の会員は,登録外務員が前項各号に掲げる行為を行うことのないようにしなければならないものとされており,その結果,登録外務員としても,借名口座による取引は禁止されているものである。 コそこで,被告としては,原告の上記借名口座取 号に掲げる行為を行うことのないようにしなければならないものとされており,その結果,登録外務員としても,借名口座による取引は禁止されているものである。 コそこで,被告としては,原告の上記借名口座取引に係る行為は,被告就業規則第52条の③,⑧,⑩,⑪,⑬号に該当するものであり,また,原告が本社へ出社して事実関係の解明に協力するようにとの命令を受けながら,これに従わず,事実を明らかにすることを拒否した行為は,就業規則第52条の③,⑬号に該当するものと判断して,原告が送付してきた退職届を受理せず,平成11年10月8日付けで,被告の就業規則に基づき原告を本件懲戒解雇としたものである(乙7)。 (2) これに対し,原告は,原告が借名口座で商品取引をしたことはあるが,被告においては,借名口座取引は日常多く行われており,原告自身も被告の幹部から借名口座でもよいから成績を上げるように指示を受けたこともあったものであり,原告が被告主張の自認書(乙3)を作成したのは,被告の幹部から,被告の言うとおりに書かなければ,他の商品取引業者で働けなくする等と脅され,やむなく作成したものであるから,本件懲戒解雇には懲戒事由が存在せず,無効である旨主張し,原告本人は,これに沿う供述及び陳述(甲1,8)をする。しかし,前記認定のとおり,乙3の書面は,弁護士立会いの下で作成されたものであって,その作成経緯に関する原告本人の供述内容は極めて不自然であり,(1)の認定において掲げた各証拠に照らし,たやすく採用することができない。 (3) (1)で認定した事実によれば,前記認定に係る,原告が複数の借名口座による取引を行い,しかもその中には,原告自身が自分の資金で売買を行ったものもあり,それらの取引実績に基づき被告から報奨金(正確には賞与ないし加給金)の支払を受け,そのことにつ 原告が複数の借名口座による取引を行い,しかもその中には,原告自身が自分の資金で売買を行ったものもあり,それらの取引実績に基づき被告から報奨金(正確には賞与ないし加給金)の支払を受け,そのことについて被告から事情聴取を受けた際も,当初から全容を明らかにしなかった行為は,被告の就業規則(乙13)第52条の③,⑧,⑩,⑪,⑬号に該当するものと認められ,また,原告が本社へ出社するようにとの命令を受けながら,これに従わなかった行為は,被告の就業規則第52条の③,⑬号に該当するものと認めることができ,本件懲戒解雇は,被告の就業規則所定の懲戒事由に該当する事由に基づき,懲戒権の行使として行われたものと認めることができるから,有効というべきである。 2 争点②(未払賃金等の額はいくらか)について(1) 平成11年10月,11月分の給料について証拠(証人D,乙14,15)によれば,被告の給与の支給については,毎月15日締め当月25日払の約束であり,原告には平成11年10月12日までの分の給料を日割計算にて算出した金額で支払済みであることが認められ,それ以降の給料については,前記認定のとおり,本件懲戒解雇が有効と認められる以上,原告に請求権はない。 (2) 平成11年夏季賞与について前記認定のとおり,原告には本件懲戒解雇を受けるような職務上不正な行為があったものであり,証拠(証人D,乙14,17)によれば,被告において,賞与は,当該算定基礎期間における会社の経営業績に応じ,従業員の勤務実績及び勤務態度等を審査して支給するものとされているところ,原告には上記不正行為があったことから,平成11年夏季賞与は支給されなかったものと認められる。したがって,原告に平成11年夏季賞与の支払請求権はない。 (3) 新幹線代について証拠(証人D)によれば,被告 記不正行為があったことから,平成11年夏季賞与は支給されなかったものと認められる。したがって,原告に平成11年夏季賞与の支払請求権はない。 (3) 新幹線代について証拠(証人D)によれば,被告は,原告が月3回程度東京の実家に新幹線で帰るための切符を現物支給することとしていたが,必要な回数分の支給はしていたことが認められ,原告本人の供述によっても,新幹線切符の現物支給を請求したが支給されなかったものがあるとは認められず,未精算の新幹線代があると認めることはできない。 (4) 平成11年3月度及び同年7月度報奨金について証拠(証人D,乙14,17)によれば,被告において,給与として加給金が支払われるものとされているが,加給金支給細則について成文化されたものはなく,営業会議でその都度決定されるものであること,平成11年1月以降の被告名古屋支店の実績によれば,目標達成率に照らし,加給金は支払われなかったことが認められる。したがって,原告が主張する報奨金が加給金を意味するものとしても,平成11年1月以降については,原告にその支払請求権はない。 (5) 入社以来の出張手当について証拠(証人D,乙16)によれば,原告の入社以来の出張手当については,精算済みであることが認められる。 第4 結論以上によれば,原告の請求は理由がないから,棄却することとし,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第1部裁判官橋本昌純

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