- 1 - 主文 原決定中、運賃の変更を命ずる処分に関する部分を破棄し、同部分につき原々決定を取り消す。 前項の部分に関する相手方らの申立てを却下する。 手続の総費用は相手方らの負担とする。 理由 抗告代理人松本真ほかの抗告理由について 1 本件は、特定地域及び準特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法(令和5年法律第18号による改正前のもの。 以下「特措法」という。)3条の2第1項に基づき準特定地域として指定されている区域内に営業所を有する一般乗用旅客自動車運送事業者(以下「タクシー事業者」という。)である相手方らが、特措法16条1項に基づき変更された一般乗用旅客自動車運送事業(以下「タクシー事業」という。)に係る旅客の運賃の範囲(以下、同項に基づき指定又は変更される運賃の範囲を「公定幅運賃」という。)の下限を下回る運賃を届け出たため、関東運輸局長から、同法16条の4第3項に基づく運賃の変更を命ずる処分(以下「運賃変更命令」という。)等を受けるおそれがあるとして、運賃変更命令等の差止めを求める訴えを提起した上、これを本案として、行政事件訴訟法37条の5第2項に基づき、運賃変更命令等の仮の差止めを求める事案である。 令和6年(行フ)第1号仮の差止めの申立て一部認容決定に対する抗告審の一部取消決定に対する許可抗告事件令和7年2月26日第三小法廷決定(処分行政庁の表示)抗告人 事案である。 令和6年(行フ)第1号仮の差止めの申立て一部認容決定に対する抗告審の一部取消決定に対する許可抗告事件令和7年2月26日第三小法廷決定(処分行政庁の表示)抗告人国処分行政庁関東運輸局長 A- 2 - 2 記録によれば、本件の経緯等は次のとおりである。 ⑴ 相手方らは、道路運送法(令和5年法律第18号による改正前のもの。以下同じ。)4条1項所定の許可を受けたタクシー事業者であり、タクシー事業が供給過剰となるおそれがあるなどとして、特措法3条の2第1項に基づき準特定地域として指定されている東京都特別区、三鷹市及び武蔵野市から成る区域(以下「本件交通圏」という。)内に営業所を有している。 ⑵ 国土交通大臣から権限の委任を受けた関東運輸局長(以下、国土交通大臣又はその権限の委任を受けた地方運輸局長を「国土交通大臣等」という。)は、平成26年2月、本件交通圏につき、適法に営業することができる運賃の範囲である公定幅運賃を指定し、令和元年8月30日、消費税の税率引上げを契機としてこれを変更した。 ⑶ 関東運輸局長は、令和4年10月11日、その適用日を同年11月14日として、原々決定別紙4の「改正」欄記載のとおり、本件交通圏における公定幅運賃を変更し(以下、この変更を「本件変更」といい、本件変更前の公定幅運賃を「本件旧公定幅運賃」、本件変更後の公定幅運賃を「本件公定幅運賃」という。)、これにより、本件交通圏における公定幅運賃は、上限及び下限のいずれについても、本件旧公定幅運賃より引き上げられることとなった。 ⑷ア関東運輸局長は、「公定幅運賃の範囲の指定方法等について」(平成26年1月27日付け関東運輸局長公示)において、特定地域又は準特定地域における公定幅運賃 運賃より引き上げられることとなった。 ⑷ア関東運輸局長は、「公定幅運賃の範囲の指定方法等について」(平成26年1月27日付け関東運輸局長公示)において、特定地域又は準特定地域における公定幅運賃の設定方法を、概要、次のとおり定めている(以下、この設定方法を「本件総括原価方式」という。)。 (ア) 公定幅運賃の上限は、当該地域に営業所を有するタクシー事業者のうち、小規模事業者、事故を多発している事業者、実働率の低い事業者等を除外して選定した「能率的な経営を行う標準的な一般乗用旅客自動車運送事業者」の中から、所定の基準に従い抽出したタクシー事業者(以下「原価計算対象事業者」という。)のタクシー事業に係る費用及び適正な利潤を算出し、これと同事業に係る運送収入- 3 -が相償う運賃水準とする。 (イ) 公定幅運賃の下限は、原価計算対象事業者が特に効率的な経営を行った場合に収支が相償う運賃水準とするとの考え方に基づき、基本的には上記(ア)と同様の方法により算定するが、上記のタクシー事業に係る費用の算出に当たり、燃料油脂費、車両償却費、役員報酬等の特定の費用項目については、各原価計算対象事業者が要した費用のうち、最も低い水準のものを用いる。 イ関東運輸局長は、本件総括原価方式により、本件公定幅運賃を定めたものであるところ、その計算過程に明らかな過誤又は欠落があるとは認められない。 ⑸ 相手方らは、本件変更前、本件旧公定幅運賃内の運賃を定めてタクシー事業を行っていたが、本件変更後の令和4年11月11日付けで、関東運輸局長に対し、原々決定別紙2記載のとおり、本件旧公定幅運賃内ではあるが、本件公定幅運賃の下限を下回る運賃を定めて、これを届け出た(以下、この届出を「本件届出」という。)。 3 原審は、要旨次のとおり判断して、相手方らの運賃変更命 とおり、本件旧公定幅運賃内ではあるが、本件公定幅運賃の下限を下回る運賃を定めて、これを届け出た(以下、この届出を「本件届出」という。)。 3 原審は、要旨次のとおり判断して、相手方らの運賃変更命令の仮の差止めを求める申立てを一部認容すべきものとした。 公定幅運賃の変更に係る裁量権は、タクシー事業者の営業上の利益の保護の観点から一定の制約を受け、国土交通大臣等は、公定幅運賃を変更するに当たり、当該変更の程度、当該変更によるタクシー事業者への影響の程度、タクシーの需給状況も踏まえた過度な運賃競争を引き起こす蓋然性やそれを原因とするタクシー運転者の労働条件の悪化の蓋然性等の諸般の事情を考慮すべきである。しかるに、関東運輸局長は、本件公定幅運賃の下限の設定につき、少なくとも公定幅運賃の変更の程度及び当該変更によるタクシー事業者への影響の程度を考慮しておらず、その判断は合理性を欠き、本件変更は、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法なものであると一応認められる。そうすると、本件届出を理由として運賃変更命令をすることは許されず、相手方らの運賃変更命令の仮の差止めを求める申立ては、本案について理由があるとみえるときに当たるというべきである。 - 4 - 4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。 ⑴アタクシー事業者は、所定の基準に適合するものとして国土交通大臣等の認可を受ける必要があるものの、原則として自ら定めた運賃でタクシー事業を行うことができるところ(道路運送法9条の3第1項、2項、附則2項)、特措法は、特定地域及び準特定地域における運賃の特例として、これらの地域に営業所を有するタクシー事業者は、公定幅運賃内で運賃を定めなければならないとしている(第8章。同特例を「公定幅運賃制度」という 措法は、特定地域及び準特定地域における運賃の特例として、これらの地域に営業所を有するタクシー事業者は、公定幅運賃内で運賃を定めなければならないとしている(第8章。同特例を「公定幅運賃制度」という。)。これは、同法が、タクシー事業が供給過剰である又はそのおそれがあるなどと認められる特定地域又は準特定地域においては、タクシー運転者の労働条件の悪化等に伴い輸送のサービス及び安全性が低下するなどのおそれがあることを前提として、上記の供給過剰状態の解消又はその予防に向けた取組について定めているところ(8条の2、8条の3、8条の7、8条の10、8条の11、9条、10条等)、タクシー事業者間で過度な運賃値下げ競争が行われるおそれがある状況では、タクシー事業者が減車による収入減を恐れ、同取組が阻害される懸念があることから、公定幅運賃内で運賃を定めるべきものとすることにより、運賃値下げ競争を一時的に制限する趣旨に出たものと解される。 イ特措法16条2項は、公定幅運賃の基準として、能率的な経営を行う標準的なタクシー事業者が行うタクシー事業に係る適正な原価に適正な利潤を加えた運賃を標準とすること(1号)、特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものでないこと(2号)及び道路運送法9条6項3号に規定する一般旅客自動車運送事業者の間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること(3号)を定めているところ、これらの基準に従って公定幅運賃を指定し又は変更するに当たっては、当該特定地域又は準特定地域におけるタクシー事業に係る専門技術的な知見を踏まえた公益的見地からする判断が必要不可欠であるから、公定幅運賃の指定又は変更に係る判断は国土交通大臣等の裁量に委ねられるものと解される。 - 5 -しかるところ、上記アの公定幅運賃制度の趣旨に鑑みると、特 的見地からする判断が必要不可欠であるから、公定幅運賃の指定又は変更に係る判断は国土交通大臣等の裁量に委ねられるものと解される。 - 5 -しかるところ、上記アの公定幅運賃制度の趣旨に鑑みると、特措法は、特定地域又は準特定地域に営業所を有するタクシー事業者が、運賃の設定につき一定の制約を受けることを当然に予定しているものというべきであり、上記公定幅運賃の基準の内容に照らしても、同法が、国土交通大臣等に対し、公定幅運賃の指定又は変更に係る裁量権を行使するに当たり、当該地域において現にタクシー事業を営む個々のタクシー事業者の営業上の利益を保護する観点から、原審が指摘するような諸般の事情を考慮することまで求めているものとは解されない。 そして、本件総括原価方式は、前記のとおり、当該地域に営業所を有する能率的な経営を行う標準的なタクシー事業者の中から抽出した原価計算対象事業者のタクシー事業に係る費用及び適正な利潤を算出し、これと運送収入が相償う運賃水準を基本として公定幅運賃を定めるものである。このような公定幅運賃の設定方法は、当該地域に営業所を有するタクシー事業者一般の営業上の利益を踏まえたものであり、特措法16条2項各号の規定に照らし、不合理なものとはいえないというべきである。 ⑵ 関東運輸局長は、本件変更において、本件総括原価方式により本件公定幅運賃を定めたものであるところ、上記⑴で述べたところに照らせば、これを超えて、原審が指摘するような諸般の事情を考慮しなければならないものということはできない。 したがって、本件公定幅運賃の下限の設定につき、公定幅運賃の変更の程度及び当該変更によるタクシー事業者への影響の程度を考慮していないことを理由として、本件変更が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法なものであると一応認められるとした原 き、公定幅運賃の変更の程度及び当該変更によるタクシー事業者への影響の程度を考慮していないことを理由として、本件変更が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法なものであると一応認められるとした原審の判断には、公定幅運賃の変更に係る裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法があるというべきである。 5 以上によれば、原審の判断には、裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原決定のうち運賃変更命令に関する部分は破棄を免れない。そして、相手方らの運賃変更命令の仮の差止めを求める申立てにつき、- 6 -本案について理由があるとみえるときに当たるものと認めるべき事情はうかがわれないから、原々決定のうち上記申立ての一部を認容した部分を取り消し、同部分に関する相手方らの申立てを却下することとする。 よって、裁判官宇賀克也の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。 裁判官宇賀克也の反対意見は、次のとおりである。 私は、多数意見と異なり、原審の判断は是認することができ、本件抗告は棄却されるべきと考える。以下、その理由を述べる。 1 公定幅運賃制度は、ダンピングといえるような採算割れの低料金で顧客を奪い合う価格競争の結果、タクシー業界の収益が悪化すると、歩合制が主流のタクシー業界では、タクシー事業者の収益の減少を補うために、タクシー運転者の労働時間が長期化し、乗客の安全性も損なわれるおそれがあることから、かかる事態を回避する目的で設けられたものと解すべきである。そして、タクシー運転者が過重労働になる傾向があるとしても、その要因は歩合制にあるから、それについては、本来、労働時間の規制、固定給の割合の増加等の労働規制で対処すべきであって、公定幅運賃制度という価格規制で対処することは合理性に乏しいから があるとしても、その要因は歩合制にあるから、それについては、本来、労働時間の規制、固定給の割合の増加等の労働規制で対処すべきであって、公定幅運賃制度という価格規制で対処することは合理性に乏しいから、同制度については、営業の自由を過度に制約しないような解釈が特に求められるというべきである。したがって、国土交通大臣等が、公定幅運賃を設定するに当たり、それまで能率的な経営の下に適正な原価に適正な利潤を加えた運賃で営業してきたタクシー事業者の届け出た運賃であって、それを認めることによって同業者との競争が激化することが想定されず、また、当該タクシー事業者においても安全性の低下が懸念されないような場合にまで、当該運賃を違法として認めないことは、上記の公定幅運賃制度の趣旨を逸脱し、営業の自由に対する過度な制約となるものとして許されないというべきである。 2 相手方らが同業者と比較して低額の運賃を設定できるのは、予約送迎中心の営業形態により、特定の固定客を主な取引先とするなどして相応の利益を確保して- 7 -いるとみられるからであって、そのような運賃の設定により、過度の運賃値下げによる不当な競争を惹起するものではない。そして、相手方らは、上記のとおり、一般のタクシー事業者とは異なるビジネスモデルで営業しており、競合するのは同業者というよりも、バス、ハイヤー、鉄道等であるといえるから、本件総括原価方式の下で算定された下限運賃を下回る運賃を認めたとしても、同業者との競争を激化させることは想定しがたい。また、相手方らにおいては、上記のとおり相応の利益を確保しているのであるから、従前どおりの運賃での営業を認めたとしても、それにより相手方らのタクシー運転者が過重労働となり、乗客の安全性が低下する懸念もないと考えられる。ところが、本件変更により大幅な公定幅運 いるのであるから、従前どおりの運賃での営業を認めたとしても、それにより相手方らのタクシー運転者が過重労働となり、乗客の安全性が低下する懸念もないと考えられる。ところが、本件変更により大幅な公定幅運賃の改定が行われ、本件旧公定幅運賃の上限が本件公定幅運賃の下限を大きく下回ることになった結果、相手方らは、従前どおりの運賃で営業することができなくなり、同業者ではなく、バス、ハイヤー、鉄道等への切替えによる予約客の大幅な減少による経営危機に陥るおそれがある。 そうすると、関東運輸局長は、本件変更に当たり、かかるタクシー事業者の存在を認識し、それに与える影響を最小限に抑えるように努めるよう配慮すべきであったといえる。 また、特措法16条2項1号の「標準とすること」という文言は、本件で用いられた総括原価方式による基準の画一的な適用を義務付けるものではなく、上記のような事情がある場合には、柔軟な運賃設定を認める趣旨と解すべきである。 以上によれば、本件変更は、相手方らのようなタクシー事業者に与える影響に対する配慮を欠くものであり、公定幅運賃制度の趣旨を逸脱し、営業の自由に対する過度な制約をするものとして違法であるというべきである。 3 また、準特定地域の指定は、タクシー事業が「供給過剰となるおそれ」(特措法3条の2第1項)があることが要件となっており、その事由がなくなったと認めるときは、同指定を解除するものとされているのであって(同法3条3項、3条の2第2項)、公定幅運賃制度による運賃の設定に対する制限は、当該地域におい- 8 -てタクシー事業が供給過剰となるおそれがあることが前提になっている。 本件交通圏においては、コロナ禍の一時期は、タクシー需要が減少したものの(本件変更がされたのは、なおコロナ禍が完全には終焉していない令和4年10月 過剰となるおそれがあることが前提になっている。 本件交通圏においては、コロナ禍の一時期は、タクシー需要が減少したものの(本件変更がされたのは、なおコロナ禍が完全には終焉していない令和4年10月11日であった。)、コロナ禍の終焉とともに、タクシー需要は回復し、インバウンドの急増もみられる。また、コロナ禍で解雇したタクシー運転者の補充が困難であること、高齢者ドライバーの退職、インバウンドの急増により、タクシーの供給不足が全国で問題になっており、実際、各地の交通圏で特定地域から準特定地域への移行、準特定地域の指定解除が相次いでいる。さらには、日本版ライドシェアが一定の条件の下で導入され、令和6年4月に本件交通圏で導入されたのを皮切りに、全国各地に広がりつつある。 ところで、特措法16条の4第3項は、届け出られた運賃が公定幅運賃に適合しないと認めるときは、期間を定めてその運賃を変更すべきことを「命ずることができる」と規定しており、「命じなければならない」とは規定していない。これは、本件交通圏のように、準特定地域の指定後の事情の変化により、その指定が解除されてもおかしくないといえるような状況において、何ら公定幅運賃制度の目的に反する行為を行っていないタクシー事業者に対してまで運賃変更命令を行うことは、営業の自由を過度に制約する疑いが濃厚であるため、そのような場合に、国土交通大臣等に、運賃変更命令を出すか否かの効果裁量を付与した趣旨と解すべきである。そうすると、相手方らに対し、本件公定幅運賃内の運賃で営業するように運賃変更命令を出すことは、効果裁量を逸脱し又は濫用するものといわざるを得ず、この点でも違法であるというべきである。 4 以上によれば、相手方らの運賃変更命令の仮の差止めを求める申立てにつき、「本案について理由があるとみえるとき」に 逸脱し又は濫用するものといわざるを得ず、この点でも違法であるというべきである。 4 以上によれば、相手方らの運賃変更命令の仮の差止めを求める申立てにつき、「本案について理由があるとみえるとき」に当たり、仮の差止めが認められるべきである。 (裁判長裁判官平木正洋裁判官宇賀克也裁判官林道晴裁判官渡辺惠理子裁判官石兼公博)
▼ クリックして全文を表示