令和7特(わ)806 金融商品取引法違反

裁判年月日・裁判所
令和7年7月4日 東京地方裁判所
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判決文本文3,990 文字)

令和7年7月4日宣告東京地方裁判所刑事第7部宣告令和7年特(わ)第806号金融商品取引法違反被告事件主文被告人を懲役2年及び罰金200万円に処する。 その罰金を完納することができないときは、金1万円を1日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。 この裁判が確定した日から4年間その懲役刑の執行を猶予する。 被告人から金6143万790円を追徴する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、A銀行株式会社に勤務し、証券代行営業第二部次長又は同部部長として、取引先上場会社等に係る取引先重要情報の管理業務等に従事していたものであるが第1 令和4年12月27日、その職務に関し、株式会社東京証券取引所(以下「東京証券取引所」という。)が開設する有価証券市場に株券を上場していた株式会社Bの取締役Cがその職務に関し株式会社Dからの伝達により知り、A銀行証券代行営業第二部において証券代行業務等に従事していたEが職務上Cから伝達を受けた、D社の業務執行を決定する機関がB社の株券の公開買付けを行うことについての決定をした旨の公開買付けの実施に関する事実を知り、法定の除外事由がないのに、同公開買付けの実施に関する事実の公表前である同日から令和5年2月2日までの間、F証券株式会社を介し、東京都中央区(住所省略)所在の東京証券取引所等において、被告人名義で、B社の株券合計9500株を代金合計882万4900円で買い付け第2 同年10月24日、その職務に関し、東京証券取引所が開設する有価証券市場に株券を上場していた株式会社Gの管理本部長Hがその職務に関しI株式会社からの伝達により知り、A銀行証券代行営業第二部において証券代行業務等に従事 していたJが職務上Hから伝達を受けた、I社の業務執行を決定する機関がG社の株 本部長Hがその職務に関しI株式会社からの伝達により知り、A銀行証券代行営業第二部において証券代行業務等に従事 していたJが職務上Hから伝達を受けた、I社の業務執行を決定する機関がG社の株券の公開買付けを行うことについての決定をした旨の公開買付けの実施に関する事実を知り、法定の除外事由がないのに、同公開買付けの実施に関する事実の公表前である同日から同年11月1日までの間、F証券を介し、東京証券取引所において、被告人名義で、G社の株券合計3900株を代金合計319万300円で買い付け第3 令和6年7月29日、その職務に関し、東京証券取引所が開設する有価証券市場に株券を上場していた株式会社Kの上席執行役員Lがその職務に関しMからの伝達により知り、A銀行証券代行営業第二部において証券代行業務等に従事していたNが職務上Lから伝達を受けた、M社の業務執行を決定する機関がK社の株券の公開買付けを行うことについての決定をした旨の公開買付けの実施に関する事実を知り、法定の除外事由がないのに、同公開買付けの実施に関する事実の公表前である同月30日から同年8月1日までの間、F証券を介し、東京証券取引所等において、被告人名義で、K社の株券合計1万2500株を代金合計2008万8020円で買い付けたものである。 (追徴に関する補足説明) 1 本件においては、証券会社との信用取引により株券の売買が行われているところ、弁護人は、①金融商品取引法198条の2第1項本文、2項の必要的没収・追徴は、インサイダー取引が割に合わない犯罪であることを広く国民に知らしめ、もって犯罪の抑止を図ることを目的としたものであるから、没収・追徴によってはく奪されるべき収益は、犯罪行為により得た財産の全てではなく、犯罪行為により得た利益に限るべきである、②罰金に加え、 しめ、もって犯罪の抑止を図ることを目的としたものであるから、没収・追徴によってはく奪されるべき収益は、犯罪行為により得た財産の全てではなく、犯罪行為により得た利益に限るべきである、②罰金に加え、犯罪行為により得た利益の部分を超えて追徴を科することは、二重の罰金を科すことに等しい、③信用取引の場合、買い付けた株式を反対売買で売却すると、売付代金から買付代金及び諸経費が自動的に控除され、取引者は売付代金の全額を得ることはないのに、売付代金の全額が「犯 罪行為により得た財産」又は「その対価として得た財産」に該当するというのは文言上無理がある、④本件において、売付代金と被告人が信用取引により得た利益(売買差益)との間には2倍以上の開きがあるところ、売付代金の全額の追徴を科すことは、被告人が、本件により勤務先を懲戒解雇となり、退職金も失ったことなどに鑑みれば、被告人にとって過酷であるから、同条1項ただし書により追徴額を売買差益の範囲内に減額すべきであるなどと主張する。 2 必要的没収・追徴を規定した同条1項本文、2項は、いずれもインサイダー取引等の犯罪行為によって取得した財産を残らずはく奪することによって、更なる犯罪行為やその他の経済行為への再投資を防止し健全な金融商品市場の確保を図る趣旨の規定であり、こうした趣旨に照らせば、インサイダー取引によって取得した不正財産は全て没収・追徴されるのが原則である。そして、同条1項本文、2項は、没収・追徴の対象となる不正財産として、犯行によって得た利益ではなく、犯行によって得た財産及びその財産の対価又は行使により得た財産と定めているから、財産を取得するために要した費用等は考慮しないのが原則であると解され、このように解したからといって、二重の罰金を科すことに等しいなどということにはならない。他方 行使により得た財産と定めているから、財産を取得するために要した費用等は考慮しないのが原則であると解され、このように解したからといって、二重の罰金を科すことに等しいなどということにはならない。他方、同条1項ただし書は、取得の状況その他の事情からみて財産を没収・追徴することが行為者にとって過酷な結果をもたらすなどの例外的な場合に没収・追徴を裁量的に減免することを許容するものといえる。 そうすると、証券会社との信用取引による株券の売買の場合、株券の購入原資は借入金であるが、それだけの理由で、当該全財産の没収・追徴を不相当と評価し、反対売買を経て確定した売買差益を没収・追徴の対象とすることを原則とするような扱いをすることは、同条1項本文、2項の趣旨に沿わないものと解される。信用取引により、売付代金から反対売買後に行為者の手元に残る金額を控除した残余の部分(行為者が実質的に得ることのできない部分)が特に高額に上るなど、当該全財産を没収・追徴の対象とすることが被告人にとって過酷な結果をもたらすような特段の事情がある場合に限り同条1項ただし書を適用すべきものといえる。 3 関係各証拠によれば、第1ないし第3の各犯行により被告人が買い付けた各株券の売付代金は合計6143万790円であると認められ、その全額が同条1項2号、2項により必要的没収・追徴の対象となる。他方、本件において被告人が信用取引により得た利益(売買差益)は2932万7570円であり、被告人が実質的に得ることのできない額は3210万円余り(ただし諸経費が加算される。)となるが、本件の売買代金や売買差益等に照らすと、④において弁護人が主張する諸事情を踏まえても、本件において売付代金の全額を没収・追徴することが、被告人にとって過酷な結果をもたらすような特段の事情があるとは認めら の売買代金や売買差益等に照らすと、④において弁護人が主張する諸事情を踏まえても、本件において売付代金の全額を没収・追徴することが、被告人にとって過酷な結果をもたらすような特段の事情があるとは認められず、同条1項ただし書を適用して裁量的に減免すべき例外的な場合には当たらない。 4 よって、弁護人の主張はいずれも採用できず、本件において没収すべき財産は、第1ないし第3の各犯行により被告人が買い付けた各株券の売付代金合計6143万790円となるが、すでに特定性を欠いて没収することができないので、その価額を被告人から追徴することとする。 (量刑の理由)信託銀行の幹部職員として株式公開買付け等の取引先重要情報の管理業務等に従事していた被告人は、インサイダー取引等の不公正取引を未然に防止するため同銀行において取引先重要情報を取得した場合に作成することとされていた取引先重要情報管理票の回覧を受けて決裁するに際し、公表前に株式公開買付けの実施の事実を知り、3銘柄の株券合計2万5900株を代金合計3210万3220円で買い付けてインサイダー取引を行い、2932万7570円の利益を得た。その職務上の立場を悪用して自らの利益を追求し、相応の規模の買付けをしたもので、金融商品市場の公正性や健全性を損ない、一般投資家の信頼を失わせる悪質な犯行である。 老後資金を貯蓄したかったという動機に酌むべき点もない。 以上によれば、被告人の刑事責任は到底軽視できないが、被告人が自首し、本件各犯行を認めて反省の態度を示していること、妻が監督を誓約していること、前科がないことなど、被告人のために酌むべきその他の事情も考慮し、今回はその懲役 刑の執行を猶予し、この種犯罪が経済的に割に合わないことを示すため、罰金刑を併科する。 (求刑懲役2年及び罰金200万円、 ど、被告人のために酌むべきその他の事情も考慮し、今回はその懲役 刑の執行を猶予し、この種犯罪が経済的に割に合わないことを示すため、罰金刑を併科する。 (求刑懲役2年及び罰金200万円、6143万790円追徴)令和7年7月4日東京地方裁判所刑事第7部 裁判官開發礼子

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