平成23年10月31日判決言渡 平成23年(行ケ)第10189号審決取消請求事件(特許) 口頭弁論終結日平成23年10月24日 原告X 訴訟代理人弁理士竹中一宣 同 大矢広文 被告特許庁長官 指定代理人穴吹智子 同 星野紹英 同 唐木以知良 同 田村正明 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求特許庁が不服2008-6063号事件について平成23年5月23日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要 1 本件は,原告が名称を「牛,鶏,豚の生物の疾病に対して塩化マグネシウムを利用する方法」とする発明につき特許出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判請求をし,平成23年3月14日付けで手続補正(請求項の数1,発明の名称を「牛,鶏,豚の生物の細胞の活性化に対する塩化マグネシウムを利用する方法」と変更)をしたが,特許庁から請求不成立の審決を受けたことから,その取消しを求めた事案である。 2 争点は,上記補正後の請求項1に係る発明(以下「本願発明」と) マグネシウムを利用する方法」と変更)をしたが,特許庁から請求不成立の審決を受けたことから,その取消しを求めた事案である。 - 2 - 2 争点は,上記補正後の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)が下記引用例に記載された発明との間で進歩性を有するか(特許法29条2項),又は同引用例が引用文献としての適格性を有するか,である。 記引用例:X著「病気を治す機能性食品塩化マグネシウム」中日出版社平成19年2月28日発行,79頁~127頁,135頁~147頁(乙1。 以下,これに記載された発明を「引用発明」という。)第3 当事者の主張 1 請求の原因(1) 特許庁における手続の経緯原告は,平成19年8月24日,前記名称「牛,鶏,豚の生物の疾病に対して塩化マグネシウムを利用する方法」の発明について特許出願(特願2007-218907号,請求項の数3,公開特許公報は特開2009-51757号)をしたが,拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判請求をした。 特許庁は,上記請求を不服2008-6063号事件として審理し,その中で原告は,平成20年3月11日付け(第1次補正,甲5),同23年2月18日付け(第2次補正,甲10)及び同23年3月14日付け(第3次補正,発明の名称を前記のとおり変更,請求項の数1,以下「本件補正」という。甲13)で,それぞれ特許請求の範囲の変更等を内容とする補正をしたが,特許庁は,平成23年5月23日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同年6月2日原告に送達された。 (2) 発明の内容本件補正後の請求項1(本願発明)の内容は,次のとおりである。 記【請求項1】顆粒状の塩化マグネシウムを,牛,鶏,豚の 日原告に送達された。 (2) 発明の内容本件補正後の請求項1(本願発明)の内容は,次のとおりである。 記【請求項1】顆粒状の塩化マグネシウムを,牛,鶏,豚の生物に食品として- 3 -投与し,この牛,鶏,豚の生物の内部及び/又は外部からの膿の排出及び/又は析出により細胞を治癒する構成とした牛,鶏,豚の生物の細胞を治癒する塩化マグネシウムを利用する方法において,この牛,鶏,豚の生物の細胞に対して,一定の組成を維持する前記塩化マグネシウムの特性を利用し,この塩化マグネシウムを食品として投与によって体を温めながら血液を動かし細胞の活性化を確保するとともに,蛋白が牛,鶏,豚の生物の細胞に吸収され,牛,鶏,豚の生物の細胞の活性化に対する塩化マグネシウムを利用する方法。 (3) 審決の内容ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その要点は,本願発明は前記引用例(引用発明)に基づいて当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が容易に発明をすることができたから特許法29条2項により特許を受けることができない,というものである。 イなお,審決が認定した引用発明の内容,本願発明と引用発明との一致点及び相違点1,2は,次のとおりである。 (ア) 引用発明の内容「塩化マグネシウムをヒトが食事として摂取するとともに,塩化マグネシウムを散布したのちに体を温め,また適度な運動を行うことからなるヒトの体調を維持する方法」(イ) 一致点本願発明と引用発明は,共に「塩化マグネシウムを生物に食品として投与することからなる塩化マグネシウムを利用する方法」である点で一致する。 (ウ) 相違点1- 4 -本願発明が顆粒状の塩化マグネシウムを牛,鶏,豚の生物に投与す ネシウムを生物に食品として投与することからなる塩化マグネシウムを利用する方法」である点で一致する。 (ウ) 相違点1- 4 -本願発明が顆粒状の塩化マグネシウムを牛,鶏,豚の生物に投与するものであるのに対して,引用発明には塩化マグネシウムの形状についての記載はなく,また塩化マグネシウムをヒトに投与するものである点(エ) 相違点2本願発明が「生物の内部及び/又は外部からの膿の排出及び/又は析出により細胞を治癒する構成とし」,「生物の細胞に対して,一定の組成を維持する前記塩化マグネシウムの特性を利用し」,「塩化マグネシウムを食品として投与によって体を温めながら血液を動かし細胞の活性化を確保するとともに,蛋白が生物の細胞に吸収され,当該生物の細胞の活性化に対する」塩化マグネシウムを利用する方法であるのに対して,引用発明では塩化マグネシウムを散布したのちに体を温め,また適度な運動を行うとされている点(4) 審決の取消事由しかしながら,審決には,以下のとおり誤りがあるから,審決は違法として取り消されるべきである。 ア取消事由1(相違点1についての判断の誤り)(ア) 本願発明と引用発明についての相違点1につき,審決は,「引用発明において,ヒトの代わりに牛,鶏,豚等の生物を塩化マグネシウムの投与対象とし,その際に使用する塩化マグネシウムを顆粒状の形状のものとすることは当業者が容易になしうるところである」と判断している(5頁9行~11行)。 しかし,引用例には塩化マグネシウムの形状について「顆粒状」であるとの明確な記載はない(審決4頁31行参照)ため,塩化マグネシウムを顆粒状の形状のものとすることは当業者が容易になしうるところであるとする判断は誤りである。 なお,塩化マグネシウムは,食品として投与する構造 載はない(審決4頁31行参照)ため,塩化マグネシウムを顆粒状の形状のものとすることは当業者が容易になしうるところであるとする判断は誤りである。 なお,塩化マグネシウムは,食品として投与する構造であることから,- 5 -容器の中に密封状態で保管するものであり,通常は空気中に放置するものではなく,固体形状となることは考えられない。 (イ) また,本願発明では,請求項1で「顆粒状の塩化マグネシウムを牛,鶏,豚の生物に食品(原告注・「飼料」の誤りである。)として投与し,」と記載されていることから,同発明は,塩化マグネシウムを牛,鶏,豚の生物に食品(飼料)として「投与」する発明であるところ,一般的な用語として,「ヒト」に「塩化マグネシウム」を食べ物として与える場合には「投与」とはいわない。 (ウ) 以上からすれば,塩化マグネシウムを牛,鶏,豚の生物に食品(飼料)として「投与」する本願発明は,「投与」する対象を「牛,鶏,豚の生物」に限定した発明であり,「ヒト」を対象とした発明ではないから,引用例は,牛,鶏,豚の生物を対象とする本願発明の引用文献たり得ない。 よって,審決の「引用発明において,ヒトの代わりに牛,鶏,豚等の生物を塩化マグネシウムの投与対象とし,その際に使用する塩化マグネシウムを顆粒状の形状のものとすることは当業者が容易になしうるところである。」との判断は誤りである。 イ取消事由2(相違点2についての判断の誤り)(ア) 本願発明と引用発明についての相違点2につき,審決は,「引用発明は,相違点2に係る作用・効果を発揮しているといえ,相違点2については実質的な相違点であるとは認められない。」(審決9頁27行~29行)と判断するとともに,「ヒトに投与するか,牛,鶏,豚の生物に投与するかで変わるところはない。すなわち,相 といえ,相違点2については実質的な相違点であるとは認められない。」(審決9頁27行~29行)と判断するとともに,「ヒトに投与するか,牛,鶏,豚の生物に投与するかで変わるところはない。すなわち,相違点1に係る本願発明の技術的事項が採用されれば,相違点2の作用・効果は自ずともたらされるものであるといえる。また,本願明細書記載の本願発明の効果も,当業者が予想しえないほど顕著なものでもない。したがって,本願発明- 6 -は,引用刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」と判断している(審決9頁下7行~10頁1行)。 (イ) しかし,前記アのとおり,引用例には塩化マグネシウムの形状について「顆粒状」であるとの明確な記載はないため,塩化マグネシウムを顆粒状の形状のものとすることは当業者が容易になしうるところであるとする判断は誤りである。 また,請求項1に「顆粒状の塩化マグネシウムを牛,鶏,豚の生物に食品(飼料)として投与し,」と記載されていることから,本願発明は,塩化マグネシウムを牛,鶏,豚の生物に食品(飼料)として「投与」する発明であるところ,一般的な用語として,「ヒト」に「塩化マグネシウム」を食べ物として与える場合には「投与」とはいわないため,引用例は,牛,鶏,豚の生物を対象とする本願発明の引用文献たり得ない。 (ウ) したがって,審決の「本願発明は,引用刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」との判断は誤りである。 ウ取消事由3(引用例には引用文献適格性がないこと)(ア) 刑事事件の裁判所による引用例についての判断本願発明の出願人である原告は,薬事法違反で起訴され,実刑判決を受けた。本件での引用例は,上記刑事事件においても争点の一つと 格性がないこと)(ア) 刑事事件の裁判所による引用例についての判断本願発明の出願人である原告は,薬事法違反で起訴され,実刑判決を受けた。本件での引用例は,上記刑事事件においても争点の一つとなっており,裁判所はこの引用例について全くでたらめな内容の本であると判断している。 このように,裁判所において全くでたらめな内容であると判断された本を審決等で引用例とするのは妥当でない。 また,刑事事件の裁判所が引用例につき刊行物として認めないのであるから,「当該刊行物」は特許法29条1項3号所定の「刊行物」に該- 7 -当しない。 (イ) 大学教授による引用例についての判断a 原告は,引用例の出版に関し,仁愛女子短期大学教授,京都大学・福井県立大学名誉教授のA(以下「A教授」という。)に相談したところ,A教授は問題点1~4を挙げ,現時点(平成19年1月8日時点)では様々な危険性があるため,そのままの内容で出版するのは早すぎるので,出版は見合わせた方がよいと判断した(甲1,平成19年1月8日付け手紙)。 また,甲1の4頁には,「以上のようにこの本の内容には多くの教育機関で教えられている事実とことなっており,・・・・・ヒトは様々であり,あるヒトには有効である薬剤でも他のヒトには全く効かないことが良くあります。・・・・・個人的な経験のみで本をかくことは不十分で,少なくとも統計学にかけて有効性を判断できる程度の例数が要求されるような風潮になってきています。」と記載されている。 なお,A教授が,引用例(乙1)の出版に難色を示した本当の理由は,甲16ないし甲20に基づく記事が引用例に何ら示されていないことである。 b このように,大学教授において全くでたらめな内容の本であると判断した本を審決等で引用例とするのは妥当でない。 由は,甲16ないし甲20に基づく記事が引用例に何ら示されていないことである。 b このように,大学教授において全くでたらめな内容の本であると判断した本を審決等で引用例とするのは妥当でない。 (ウ) 引用例の廃刊について上記(ア)(イ)のとおり,刑事事件の裁判所も,大学教授も,引用例の内容は全くでたらめであると判断している。 このような経緯等から,引用例は廃刊となった(甲2)。 廃刊となった刊行物を引用して判断するのは妥当ではないため,引用例は本願発明の引用文献たり得ず,審決の「本願発明は,・・・引用刊行物に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであ- 8 -るから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。」との判断は誤りである。 2 請求原因に対する認否請求の原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。 3 被告の反論審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。 (1) 取消事由1に対しア原告は,本願請求項1には,「顆粒状の塩化マグネシウムを牛,鶏,豚の生物に食品(原告注・「飼料」の誤りである。)として投与し」と記載されているとして,本願発明における「食品」が「飼料」であると主張する。しかし,平成23年3月14日付け手続補正書により補正された本願請求項1には,審決認定のとおり「食品」と記載されており,原告の上記主張は特許請求の範囲の記載に基づくものではない。よって,本願発明は,請求項1に記載されるとおり,「食品」である。 なお,仮に,原告の上記主張が,牛,鶏,豚を投与の対象とする「食品」が通常「飼料」と称されることに基づくものであるとしても,「食品」と「飼料」とは技術的な意味合いにおいて実質的な違いはないものと認められるか ,原告の上記主張が,牛,鶏,豚を投与の対象とする「食品」が通常「飼料」と称されることに基づくものであるとしても,「食品」と「飼料」とは技術的な意味合いにおいて実質的な違いはないものと認められるから,その点において審決の判断が左右されるものではない。 イ塩化マグネシウムの形状につき原告は,審決において「引用刊行物には,塩化マグネシウムの形状については記載がなく不明である」としていることを挙げ,引用例には塩化マグネシウムの形状について「顆粒状」であるとの明確な記載はないため,塩化マグネシウムを顆粒状の形状のものとすることは当業者が容易になしうるところであるとする判断は誤りである旨主張する。 しかし,審決が「塩化マグネシウムの形状については記載がなく不明である」としたのは,引用例中,ヒトに与えられる食事における塩化マグネ- 9 -シウムの形状について明示的な記載がないことを述べたにとどまるものであって,同事実のみを根拠に審決の上記判断を誤りとするのは妥当性を欠く。 審決では,「引用刊行物には,ヒトに与えられる食事に塩化マグネシウムが五グラム含有されていることが記載されている(2.引用刊行物の記載事項)。塩化マグネシウムの形状については記載がなく不明であるが,塩化マグネシウムは,室温において固体形状で存在すること,さらに引用刊行物において固体として計量されていることから,固体形状として食事に供されているとするのが自然であり,」として,引用例には「固体形状」の塩化マグネシウムが記載されていると解釈した上で,「それら固体形状の成分を経口投与のための周知の形状である顆粒状に調製することにも格別の困難性はみいだせない。」と判断したものである(審決4頁下5行~5頁2行)。 すなわち,審決は,引用例にはその形状について明記されてい 口投与のための周知の形状である顆粒状に調製することにも格別の困難性はみいだせない。」と判断したものである(審決4頁下5行~5頁2行)。 すなわち,審決は,引用例にはその形状について明記されていないとはいえ,食事に含有される塩化マグネシウムが五グラムと重量で記載されているから,「固体として計量されている」としたものであり,また,塩化マグネシウムは,融点712℃の物質であり,常温で固体であることは技術常識であるから(乙2参照),「塩化マグネシウムは,室温において固体形状で存在する」としたものである。 このように,「室温において固体形状で存在すること,さらに引用刊行物において固体として計量されていること」から,審決は,引用例において,ヒトに与えられる食事に含有されている塩化マグネシウムが,「固体形状として食事に供されているとするのが自然であり」としたのであり,このような審決の解釈に誤りはない。 そして,固体形状の成分を食品として摂取することとは口から摂取することであり,また,顆粒状という形状は,経口摂取される固体形状の中の- 10 -代表的な形状の一つであって,当業者によって,薬剤やサプリメント等の形状として適宜選択されるものであるから,「固体形状の成分を経口投与のための周知の形状である顆粒状に調製することにも格別の困難性は見いだせない。」としたものであり,このような審決の判断に誤りはない。 ウ 「投与」につき(ア) 原告は,一般的な用語として「ヒト」に「塩化マグネシウム」を食べ物として与える場合には「投与」とはいわないから,塩化マグネシウムを牛,鶏,豚の生物に食品(飼料)として「投与」する本願発明は,「投与」する対象を「牛,鶏,豚の生物」に限定した発明であり,「ヒト」を対象とした発明ではなく,引用例は,牛,鶏,豚の生物 マグネシウムを牛,鶏,豚の生物に食品(飼料)として「投与」する本願発明は,「投与」する対象を「牛,鶏,豚の生物」に限定した発明であり,「ヒト」を対象とした発明ではなく,引用例は,牛,鶏,豚の生物を対象とする本願発明の引用文献たり得ないと主張する。 この主張の意味は,必ずしも明らかではないが,①本願発明と引用発明とが「塩化マグネシウムを生物に食品として投与する」点で一致しているとした審決に誤りがある旨を主張するか,又は,②ヒトを対象とする引用発明に基づいて,牛,鶏,豚の生物を対象とする本願発明を容易になし得たとする審決の容易想到性の判断の誤りを主張するかのいずれかと解される。 (イ) まず,上記①について検討するに,審決は,引用例には「塩化マグネシウムをヒトが食事として摂取する」ことが記載されていると認定している。ヒトが食事を摂取することは,当該食事に含まれる成分を摂取することと言い換えることができ,これを,ヒトを主体として表現すると「ヒトが成分を摂取する」となり,他方,ヒトを客体として表現すると「ヒトに成分を与える(投与する)」となるから,「摂取」と「投与」とは表現上の違いがあるのみで,技術的にみて何ら異なるところがない。 そうすると,審決が「ヒトが食事を摂取することは,当該食事に含ま- 11 -れる成分をヒトに食品として投与することにほかならないし」とし,本願発明と引用発明とは「塩化マグネシウムを生物に食品として投与することからなる塩化マグネシウムを利用する方法。」である点で一致していると判断した点(審決4頁8~9行,12~13行)に誤りはない。 (ウ) 次に前記②についてであるが,審決は,本願発明における塩化マグネシウムの投与の対象である牛,鶏,豚等の生物にあっても引用発明におけるヒトと同様に健康維持が望まれてい 13行)に誤りはない。 (ウ) 次に前記②についてであるが,審決は,本願発明における塩化マグネシウムの投与の対象である牛,鶏,豚等の生物にあっても引用発明におけるヒトと同様に健康維持が望まれているとした上で,ヒトの体調を維持する方法に係る引用発明を,本願においてその健康増進が望まれている牛,鶏,豚等の生物に適用することが容易であるとした(審決5頁3~11行)。 ヒトも牛,鶏,豚もともに生物であって,それらはともに体調維持,健康維持が望まれているとした審決の判断に誤りはない。 そして,引用例には,塩化マグネシウムの投与がヒトの体調を維持する効果を有することが記載されているので,引用例に接した当業者は,塩化マグネシウムを牛,鶏,豚等の生物の体調維持,健康維持に使用できると理解するのが自然であり,引用発明と本願発明における塩化マグネシウムの投与対象が異なることをもって,引用例が本願発明の引用文献たり得ないとする原告の主張は失当である。 (2) 取消事由2に対し原告は,審決による相違点2の判断が誤りであるとする理由として,相違点1の判断の誤りと実質的に同じ主張をするにすぎず,相違点2の判断に誤りがあるとする具体的な理由を何ら主張していない。 そして,相違点1の判断に関する原告の主張が失当であることは,前記(1)のとおりであるから,それと実質的に同じである相違点2に関する原告の主張も同様に失当である。 (3) 取消事由3に対し- 12 -原告は,原告自身が起訴された刑事事件において,裁判所が同引用例につき全くでたらめな内容の本であると判断したこと,引用例の出版に際し,その内容をA教授に事前に相談したが,全くでたらめな内容の本であると判断されたこと(甲1参照),以上の経緯から引用例が廃刊となったこと(甲2参照)を 容の本であると判断したこと,引用例の出版に際し,その内容をA教授に事前に相談したが,全くでたらめな内容の本であると判断されたこと(甲1参照),以上の経緯から引用例が廃刊となったこと(甲2参照)を根拠として,引用例(乙1)が引用刊行物として妥当でない旨主張するが,以下のとおり失当である。 ア刑事事件での認定につき被告は,原告が起訴された刑事事件については不知である上,当該事件において引用例が「全くのでたらめ」とされた事実も,単に原告が主張しているにとどまり,原告により立証されているとはいい難い。仮にそのような事実があったとしても,その詳細な経緯・理由等が明らかにされていない以上,審決で引用した刊行物が「引用刊行物」として妥当ではないとする原告の主張は採用されるべきものではない。 すなわち,「特許出願に係る発明が特許法29条2項の規定により特許を受けることができない」とされるためには,まず「同法29条1項各号に掲げる発明」,本件にあっては同項3号における「刊行物に記載された発明」が引用刊行物(引用例)に記載されている事項から認定され,次いで,当業者が,当該引用発明に基づいて,特許出願に係る発明を容易に発明することができたか否かが検討される。そうすると,問題とされるべきは,審決で引用された「引用刊行物」が特許法29条1項3号でいう「刊行物」といえるか否かであり,その判断は特許法上の観点からなされるべきものである。すなわち,審決で引用された刊行物について,仮に上記刑事事件において「全くのでたらめ」とされたとしても,特許法上の観点から改めて,当該刊行物が特許法29条1項3号における「刊行物」に該当するか否かが検討されるべきである。 このような観点からすると,引用例が「刊行物」の体裁をとって本件出- 13 -願前に国内におい めて,当該刊行物が特許法29条1項3号における「刊行物」に該当するか否かが検討されるべきである。 このような観点からすると,引用例が「刊行物」の体裁をとって本件出- 13 -願前に国内において頒布されたものであることは明らかであるから,特許法29条1項3号における「刊行物」に該当するといえるものであり,原告が援用する刑事事件において,仮に結論として引用例が「全くのでたらめ」とされたものであったとしても,そのような結論のみによって,審決で引用された「引用例」が特許法29条1項3号でいう「刊行物」に該当するとした審決における証拠の認定を覆し得るものではない。そもそも,上記刑事事件の経緯・理由は何ら明らかにされておらず,原告の上記主張は証拠に基づくものでなく,審決が誤りであるとする根拠たり得ない。 以上のとおり,原告が起訴された刑事事件において,裁判所が,引用例は全くでたらめな内容の本であると判断した旨の原告の主張に基づいて,審決が取り消されるべき理由はない。 イ A教授による判断につきそもそも原告がA教授に内容を相談したとする「原稿」の内容が引用例と同一の内容であることを証明する証拠は何ら提出されておらず,同一内容であるとはいえない。よって,たとえA教授がその「原稿」を読んで甲1(手紙)を作成したとしても,直ちに,引用例の内容が原告が主張するように「全くのでたらめ」であるということはできない。 また,甲1(手紙)の記載をみても,A教授が指摘していることは,「evidencebasedmedicine(科学的に根拠のある情報)を集めることを栄養補助食品政策の基本にしている」(甲1本文第2段落)ことを根拠としていることから,「原稿」に記載された内容の結論部分を導くための,科学的に根拠のある情報が十分ではないことを指摘 )を集めることを栄養補助食品政策の基本にしている」(甲1本文第2段落)ことを根拠としていることから,「原稿」に記載された内容の結論部分を導くための,科学的に根拠のある情報が十分ではないことを指摘するにとどまるものと推測されるので,甲1は「原稿」に記載された事実自体(例えば,引用例記載の唯一の塩化マグネシウムの投与例であり,それによって健康状態が維持又は改善されたという事実)を否定するものとはいえず,そのような事実に基づいて,「原稿」を執筆した筆者自身の意思により当該「原稿」- 14 -上に表現された技術的事項に想到したことを否定しようとするものとは解し得ない。ただ,そのような事実に基づいて筆者自身が導いた技術的事項が,科学的に十分な根拠に基づいているとはいえないことを指摘したにとどまるものと解される。 したがって,前記のとおり「原稿」の内容は明らかではないが,仮に引用例記載の唯一のヒトへの投与例と同じ記載がなされているものであったとしても,少なくとも,甲1に示されたA教授の指摘によっては,そのような投与例に関わる事実自体が否定されているものとはいえない。よって,審決が引用発明として認定した「塩化マグネシウムをヒトが食事として摂取するとともに,塩化マグネシウムを散布した後に体を温め,また適度な運動を行うことからなるヒトの体調を維持する方法。」は,引用例記載の投与例に基づいて導かれる事項にすぎないし,しかも上記のように認定することは,筆者が記載することを意図していた引用例の内容に反するものともいえないから,かかる引用発明を認定したことは,甲1の記載内容によって誤りとされるものではない。 また,審決の「相違点2)について」では,引用例において,当該刊行物の筆者自身が自ら考察し推論した部分を引用して検討しているが,仮に,「原稿 ,甲1の記載内容によって誤りとされるものではない。 また,審決の「相違点2)について」では,引用例において,当該刊行物の筆者自身が自ら考察し推論した部分を引用して検討しているが,仮に,「原稿」にも審決が引用したものと同じ記載がなされていて,しかもA教授がこれらの記載に対して「内容が最近著しく伸展している医学,生理学の理論と矛盾する」(甲1本文第1段落),又は「現在の医学・生理学の常識とはかけ離れており」(甲1本文第4段落)と判断しているとしても,「原稿」上に表現されている技術的事項が執筆者自身の意思と異なるものであるとか,執筆者の意思を反映したものでないとするものではない以上,「原稿」上に表現されている技術的事項と同じ内容について記載されている引用例の記載から把握される,執筆者自身が想い到った技術的事項(技術思想)に基づいて本願発明の容易想到性を判断したことは何ら- 15 -違法ではない。 すなわち,特許法29条1項及び2項によれば,刊行物に記載された発明(すなわち技術思想)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたときは特許を受けることができないとされるのであるから,審決が,引用例に記載された,当該刊行物の筆者の意思を反映したといえる技術思想に基づいて,本願発明の容易想到性を判断し,「特許を受けることができない」としたことは,たとえ原告が援用する「原稿」の内容が引用例と概ね同様なものであったとしても,原告が甲1に基づいてする主張によって違法とされるべきものではない。 以上のとおり,引用発明について,甲1を根拠に審決の判断が妥当ではないとすることは合理性を欠くものであるから,引用例の記載が「全くのでたらめ」であって引用発明を認定することができないとの原告の主張は失当である。 ウ引用例(乙1)の引用刊行物適 断が妥当ではないとすることは合理性を欠くものであるから,引用例の記載が「全くのでたらめ」であって引用発明を認定することができないとの原告の主張は失当である。 ウ引用例(乙1)の引用刊行物適格性につき前記ア,イのとおり,原告が主張する諸事情は引用例(乙1)の証拠適格性を否定する根拠たり得ず,また,引用例は,本願出願前に頒布された刊行物であることに変わりはなく,頒布後に廃刊とされたことは引用例の証拠適格性に影響するものではない。 以上のとおり,審決が引用した刊行物(引用例)が引用刊行物として妥当でない旨の原告の主張は失当であり,審決が,引用例(乙1)を引用して本願発明が特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断したことに何ら誤りはない。 第4 当裁判所の判断 1 請求の原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。 2 容易想到性の有無- 16 -審決は,本願発明は引用発明に基づいて当業者が容易に想到できるとし,一方,原告はこれを争うとともに,乙1の引用文献としての適格性も争うので,以下検討する。 (1) 本願発明の意義ア本願明細書(平成23年3月14日付け本件補正後のもの〔甲13〕)には,次の記載がある。 (ア) 特許請求の範囲【請求項1】 前記第3,1(2)のとおり。 (イ) 発明の詳細な説明・【技術分野】「本発明は,生物の細胞の活性化に対する塩化マグネシウムを利用する方法に関する。」(段落【0001】)・【背景技術】「従来,塩化マグネシウムを利用した薬剤,又は組成物と,その方法に関して,次のような文献が挙げられる。」(段落【0002】)・【課題を解決するための手段】「請求項1の発明は, ・【背景技術】「従来,塩化マグネシウムを利用した薬剤,又は組成物と,その方法に関して,次のような文献が挙げられる。」(段落【0002】)・【課題を解決するための手段】「請求項1の発明は,死滅した細胞を膿として,体外に排出及び/又は析出するか,又は細胞を治癒する構造として,塩化マグネシウムが,生物の細胞に対して,一定の組成を維持することを利用した生物の細胞に対して塩化マグネシウムを利用する方法を提供する。また傷の看部に対して,この塩化マグネシウムの特性を発揮するために,体内の傷に対しては,口内投与を介して,最適かつ確実に治療し,効率的かつ確実に治療することを意図する。」(段落【0014】)・【発明の効果】「従って,請求項1は,死滅した細胞を膿として,体外に排出及び/又は析出するか,又は細胞を治癒する構造として,塩化マグネシウム- 17 -が,生物の細胞に対して,一定の組成を維持することを利用した生物の細胞に対して塩化マグネシウムを利用する方法を提供できる。また傷の看部に対して,この塩化マグネシウムの特性を発揮するために,体内の傷に対しては,口内投与を介して,最適かつ確実に治療し,効率的かつ確実に治療できる特徴がある。」(段落【0017】)・【発明を実施するための最良の形態】「本発明が対象とする生物は,図1-1~図1-5に示した牛と,鶏,豚等の家畜1であり,この塩化マグネシウム2を口100より摂取するか,又は体101に塗布することで治癒する。そして,生物は,場合により,図2-1~図2-5に示した人3があり,この塩化マグネシウム2を口300より摂取するか,又は体301に塗布することで治癒する。」(段落【0019】)・「その具体例を説明する。まず図1-1~図1-5において,家畜1(牛)の体101に付いた傷101 シウム2を口300より摂取するか,又は体301に塗布することで治癒する。」(段落【0019】)・「その具体例を説明する。まず図1-1~図1-5において,家畜1(牛)の体101に付いた傷101a(疾病)を治療する一例を説明すると,この傷101aより出血している状態で,直ちに顆粒状の塩化マグネシウム2を塗布する(図1-2)。この塗布は,顆粒状の塩化マグネシウム2が湿潤した状態を利用して行う。これによって,傷101aへの確実な塗布と,傷口を閉じて,止血を瞬時に行えること等の特徴が発揮できる。またこの傷口全体に,この塩化マグネシウム2の特性である生物の細胞に対して,一定の組成を維持する特性を発揮し,その治癒の向上と,化膿を回避できると考えられる。その後,一昼夜を経過することで,この傷101aが塞がれ,治癒が始まったことになる(図1-3)。そして,略一日経過した段階で,傷口の肉盛りが始まり,治癒の中間段階と考えられる(図1-4)。翌朝には(傷101aの発生後,二日目である),傷101aは略完全に回復している(図1-5)。このように,回復の速さと,化膿がなく,か- 18 -つ痛みも最小限度となった。尚,塩化マグネシウム2が,水を媒介する菌を殺すことで,治療の効果(治癒力)が向上する(以下同じ)。」(段落【0020】)・「続いて,図2-1~図2-5において,人3の体301(指)に付いた傷301a(疾病)を治療する一例を説明すると,この傷301aより出血している状態で,直ちに顆粒状の塩化マグネシウム2を擦り込む(図2-2)。この擦り込みは,顆粒状の塩化マグネシウム2が直接作用することで,傷301aへの確実な接触と,傷口を閉じて,止血を瞬時に行えること等の特徴が発揮できる。しかし,場合により,湿潤した状態を利用して行うこともあり得る。 粒状の塩化マグネシウム2が直接作用することで,傷301aへの確実な接触と,傷口を閉じて,止血を瞬時に行えること等の特徴が発揮できる。しかし,場合により,湿潤した状態を利用して行うこともあり得る。これによって,前述の特徴の他に,例えば,傷301aに違和感を与えず,かつ恐怖感を無くしての治癒や,治療が可能と考えられ,例えば,子供,老人等の弱者に有効であると考えられる。そして,また,この傷口全体に,この塩化マグネシウム2の特性である生物の細胞に対して,一定の組成を維持する特性を発揮し,その治癒の向上と,化膿を回避できると考えられる。その後,一昼夜を経過することで,この傷301aが塞がれ,治癒が始まったことになる(図2-3)。そして,略一日経過した段階で,傷口の肉盛りが始まり,治癒の中間段階と考えられる(図2-4)。翌朝には(傷301aの発生後,二日目である),傷301aは略完全に回復している(図2-5)。このように,回復の速さと,化膿がなく,かつ痛みも最小限度となった。」(段落【0022】)・「そして,また,前述の各例において,この塩化マグネシウム2の投与に,ナトリウムを併せて投与することで,この両者の関与を介して,このナトリウムの特徴である,例えば,細胞外液の浸透圧の維持,糖の吸収の向上と,神経,筋肉細胞の活動等に役立つこと,また骨の構成要素としての骨格の維持に役立つこと,各種の全ての疾病回復,抗- 19 -体の生成等が考えられる。また欠乏症による後述の検証例の他に,疲労感,低血圧,過剰症として浮腫等が知られている。勿論,生物の中でも人3の場合は,腎機能低下により,このナトリウムの摂取が制限される状況もあり得る。また傷の状況,健康等の面からも,ナトリウムの摂取が制限される状況もあり得る。」(段落【0023】)イ上記記載に 人3の場合は,腎機能低下により,このナトリウムの摂取が制限される状況もあり得る。また傷の状況,健康等の面からも,ナトリウムの摂取が制限される状況もあり得る。」(段落【0023】)イ上記記載によれば,本願発明は,塩化マグネシウムを利用することで,牛,鶏,豚等の生物の細胞を活性化する方法に関する発明であると認められる。なお,原告は,本願発明における「食品」は「飼料」の誤りである旨主張するが,特許請求の範囲に「食品」と記載されていることから,明白な誤記であるとまでいうことはできないので,上記主張は認めることはできず,いずれにしても,この点が本件訴訟の結論に影響を及ぼすものではない。 (2) 引用発明の意義ア一方,引用例(乙1)には,以下の記載がある。 (ア)「⑤ 心筋梗塞の治療経過(退院後)・・・六月一一日◇ 食事は以下のとおり。今後これをベースにした。 朝=塩化マグネシウム五㌘,牛乳を一五〇㏄昼=塩化マグネシウム五㌘,牛乳一五〇㏄,うどん一杯夜=塩化マグネシウム五㌘,牛乳一五〇㏄,おかゆを一五○㌘,グレープフルーツ一個,肉五○㌘,魚一切れ,梅干一個※ 食事の目標として,牛乳は一日一㍑。・・・◇ 臓器,つまりすべての細胞を活発に動かすために運動を開始(運動が血流を生み出す)。内容は真剣に歩くこと。・・・◇ 痛いところがあれば塩化マグネシウムを散布し,血液を動かした。」- 20 -(89頁1行~90頁7行)(イ)「六月二一日◇ 夜,全身に塩化マグネシウムを散布して湯船につかる。塩化マグネシウムを全身から吸収させた(目的は血流の促進)。その後の歩行が非常に楽になった。」(95頁1~3行)(ウ)「一一月一四日・・・体調がほぼ回復し,歩行になんら問題なくなり,・・・。塩化マグネ ムを全身から吸収させた(目的は血流の促進)。その後の歩行が非常に楽になった。」(95頁1~3行)(ウ)「一一月一四日・・・体調がほぼ回復し,歩行になんら問題なくなり,・・・。塩化マグネシウムの散布をしてから全身をあたためること,歩行を長時間行うこと,そしてこれまでと同様の食事を続けた。・・・これ以降,体調は良好な状態で経過し,体調が悪化することはなかった。胸に違和感は全くなく,心筋梗塞による支障はほぼ消えた。」(123頁9行~124頁9行)(エ)「⑦ 全ての治療を終えて言えること・・・現在も,塩化マグネシウムの散布をしてから全身をあたためること,長時間の歩行,・・・そして塩化マグネシウムの摂取は続けている。 ・・・病気で死ぬことはないだろうという自信はある。果たして何歳まで生きられるか自分でも楽しみである。」(125頁9行~127頁8行)(オ)「・・・塩化マグネシウムを散布,投与或いは塩化マグネシウムを含有する乳を,仔牛に投与することにより,キラー細胞の活性化と抗体の生成が確認された。」(【0027】,146頁)(カ)「・・・塩化マグネシウムを含有する飼料,換言すれば,抗体合成特性を備えた飼料,仔牛が自発的に,採食することは,仔牛の生体内に,抗体が生成される。」(【0029】,146頁)- 21 -イ上記記載によれば,引用発明は,塩化マグネシウムを食事として摂取するとともに,塩化マグネシウムを散布した後に体を温め,また適度な運動を行うことからなる人間の体調を維持する方法に関する発明であると認められる。なお,引用例(乙1)には,塩化マグネシウムを牛に投与することも記載されている。 (3) 取消事由の主張に対する判断ア取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について(ア) 原 められる。なお,引用例(乙1)には,塩化マグネシウムを牛に投与することも記載されている。 (3) 取消事由の主張に対する判断ア取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について(ア) 原告は,引用例には塩化マグネシウムの形状につき「顆粒状」であるとの明確な記載はないため,塩化マグネシウムを顆粒状の形状のものとすることは当業者が容易になしうるとした審決の判断は誤りであると主張し,また,引用例では塩化マグネシウムを食品として投与するので,塩化マグネシウムは密封状態で保管されており,空気中に放置するものではないので,固体形状となることは考えられないとも主張する。 しかし,審決は,引用例には塩化マグネシウムの形状についての記載がない点を本願発明と引用発明との相違点として認定した上で,当該相違点について当業者が容易に想到可能である旨の判断を示しているところ,以下のとおり,同判断には誤りはなく,原告の主張は理由がない。 すなわち,審決は,引用発明においてヒトが食事として摂取する塩化マグネシウムは固体形状である旨認定した上で,固体形状の成分を経口投与のための周知の形状である顆粒状に調製することに格別の困難性は見いだせないと判断している(審決4頁29行~5頁2行)。 そして,共立出版株式会社発行「化学大辞典1 縮刷版」(乙2)の1074頁の「塩化マグネシウム」の項には,塩化マグネシウムの無水塩は常温で結晶性粉末であり,六水塩も常温で結晶であること,無水塩は吸湿性が強く,六水塩も潮解性であることが記載されているところ,これらは,結晶状態の塩化マグネシウムは,密封状態で保管しなければ,- 22 -空気中の水分を取り込むことを意味する。そして,原告が主張するように,食品として投与する物質は,通常,空気中に放置せずに,容器の中に密封状 化マグネシウムは,密封状態で保管しなければ,- 22 -空気中の水分を取り込むことを意味する。そして,原告が主張するように,食品として投与する物質は,通常,空気中に放置せずに,容器の中に密封状態で保管するものなので,引用例で使用される塩化マグネシウムは固体形状が維持されているものと認められる。したがって,引用発明における塩化マグネシウムが固体形状である旨の審決の認定に誤りはない。 次に,引用例には,塩化マグネシウムに製剤化のための添加剤を配合して錠剤やカプセル剤のような剤型とすることは示されておらず,引用例では,塩化マグネシウムという固体形状の物質をそのまま使用することが意図されているものと解される。そして,固体形状の塩化マグネシウムは,その結晶の大きさによって粉末状と顆粒状(粒状)に分けることができるので,経口摂取可能な固体形状の塩化マグネシウムは,粉末状又は顆粒状(粒状)という2種類の形状しかない。そうしてみると,引用発明において,塩化マグネシウムの形状を顆粒状(粒状)のものとすることは,当業者であれば容易に行うことができるものであって,これと同旨の審決の判断に誤りはない。 (イ) また,原告は,本願発明は,塩化マグネシウムを投与する対象を牛,鶏,豚の生物に限定した発明であり,人間を対象とする発明ではないので,人間を対象とする引用例は本願発明の引用文献たり得ない旨主張し,投与対象についての審決の容易想到性の判断は誤りである旨主張する。 しかし,引用発明が人間の体調を維持する方法に関する発明であることが直ちに,同発明の技術内容を人間以外の生物に適用することの阻害要因となるものではない。 そして,審決は,引用発明において投与対象を変更することの容易想到性につき,家畜にあってもその健康維持が当然に望まれている点,及 容を人間以外の生物に適用することの阻害要因となるものではない。 そして,審決は,引用発明において投与対象を変更することの容易想到性につき,家畜にあってもその健康維持が当然に望まれている点,及- 23 -び,引用例には家畜に塩化マグネシウムを投与する方法も記載されており,塩化マグネシウムが家畜にも適用可能な成分である点を根拠に,引用発明において,人間の代わりに牛,鶏,豚等の生物を投与対象とすることは当業者が容易になし得ると判断しているところ,その容易想到性の判断に誤りはない。 なお,原告は,本願発明は塩化マグネシウムを生物に食品として「投与」する発明であるところ,一般的な用語として人間に「塩化マグネシウム」を食べ物として与える場合に「投与」とはいわないため,引用例は本願発明の引用文献たり得ないとも主張するが,「投与」との文言は,必ずしも動物に限定して使用されるものではなく,人に対しても用いることは十分に可能であるから,原告の上記主張は前提を欠くものである。 (ウ) 以上のとおり,審決による相違点1についての判断に誤りはない。 イ取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について原告は,相違点2の判断の誤りについても,相違点1の判断の誤りと同様の主張をするにとどまるところ,前記アのとおり,これらの主張はいずれも理由がない。 そして,審決は,本件出願手続において提出された書類を参照した上で,相違点2につき,「引用発明は,相違点2に係る作用・結果を発揮しているといえ,相違点2については実質的な相違点であるとは認められない」と判断しているところ,同判断に誤りがあるとは認められない。 ウ取消事由3(引用例には引用文献適格性がないこと)について原告は,①刑事事件において裁判所が引用例(乙1)の内容をでたらめと判断し 判断しているところ,同判断に誤りがあるとは認められない。 ウ取消事由3(引用例には引用文献適格性がないこと)について原告は,①刑事事件において裁判所が引用例(乙1)の内容をでたらめと判断し,これを刊行物として認めなかったこと,②A教授が,引用例の内容をでたらめと判断したこと,③引用例が絶版となったことの3点を根拠に,引用例は引用刊行物として妥当でないと主張する。 - 24 -しかし,仮に刑事事件において裁判所が引用例の内容をでたらめと判断し,あるいはA教授が引用例の内容をでたらめと判断し,さらには引用例とされた刊行物が絶版になった事実が認められたとしても,当該刊行物が出版されたという事実自体が消滅するものではなく,引用例は特許法29条1項3号所定の「特許出願前に日本国内・・・において,頒布された刊行物」に該当する。 したがって,引用例が引用刊行物としての適格性を欠く旨の原告の主張は採用することができない。 3 結論以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,審決の判断に誤りはない。 よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第1部 裁判長裁判官中野哲弘 裁判官東海林 保 裁判官矢口俊哉
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