平成26年7月17日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成23年(ワ)第23651号特許権侵害差止請求事件口頭弁論の終結の日平成26年6月12日判決東京都千代田区<以下略>原告新日鐵住金株式会社同訴訟代理人弁護士増井和夫橋口尚幸齋 藤 誠二郎東京都千代田区<以下略>被告東レ・ダウコーニング株式会社同訴訟代理人弁護士大野聖二井上義隆同訴訟代理人弁理士片山健一 主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求被告は,下記の製造方法により製造されたパワー半導体向け4H型炭化珪素ウエハ(3インチ及び4インチ)及び同ウエハにエピタキシャル層を設けたエピタキシャルウエハ(3インチ及び4インチ)の輸入,販売又は販売のための展示をしてはならない。 記A ●(省略)●方法によりB 4H型単結晶炭化珪素を成長させる際に, C 抵抗率が4インチの4H型単結晶炭化珪素につき0.015Ω・㎝から0.025Ω・㎝,3インチの4H型単結晶珪素につき0.010Ω・㎝から0.028Ω・㎝となるよう,窒素を含む雰囲気ガス中で4H型単結晶炭化珪素に窒素を導入する。 第2 事案の概要本件は,4H型単結晶炭化珪素の製造方法に関する特許権を有する原告が,被告によるパワー半導体向け4H型炭化珪素ウエハの輸入,販売等がその特許権を侵害すると主張して,特許法100条1 案の概要本件は,4H型単結晶炭化珪素の製造方法に関する特許権を有する原告が,被告によるパワー半導体向け4H型炭化珪素ウエハの輸入,販売等がその特許権を侵害すると主張して,特許法100条1項に基づき,前記ウエハの販売行為等の差止めを求める事案である。 1 前提事実 原告の特許権ア原告は,発明の名称を「4H型単結晶炭化珪素の製造方法」とする特許権(特許番号第3590464号。以下「本件特許権」といい,この特許を「本件特許」という。)を有している。 イ本件特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである(以下,この請求項1に係る発明を「本件発明」という。)。 「種結晶を用いた昇華再結晶法により単結晶炭化珪素を成長させる際に,炭素原子位置に窒素を5×1018㎝-3以上5×1019㎝-3以下導入することを特徴とする4H型単結晶炭化珪素インゴッドの製造方法。」 被告の行為ダウコーニング株式会社は,4H型単結晶炭化珪素インゴッドからパワー半導体向け4H型炭化珪素ウエハ(3インチ及び4インチ)を切り出してこれを製造し,また,同ウエハにエピタキシャル層を設けてエピタキシャルウエハ(3インチ及び4インチ)を製造している。 被告は,業として,ダウコーニング株式会社から上記4H型炭化珪素ウエ ハ(3インチ及び4インチ)及び同ウエハにエピタキシャル層を設けたエピタキシャルウエハ(3インチ及び4インチ。以下,上記4H型炭化珪素ウエハと併せて「被告製品」という。)を輸入し,販売し,販売のための展示をしている。 ダウコーニング株式会社が被告製品の原料となる4H型単結晶炭化珪素インゴッドを製造する方法(以下「被告方法」という。)における 品」という。)を輸入し,販売し,販売のための展示をしている。 ダウコーニング株式会社が被告製品の原料となる4H型単結晶炭化珪素インゴッドを製造する方法(以下「被告方法」という。)における本件特許に係る発明の構成要件充足性ア本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した構成要件をそれぞれの符号に従い「構成要件A」のようにいう。)。 A 種結晶を用いた昇華再結晶法によりB 単結晶炭化珪素を成長させる際に,C 炭素原子位置に窒素を5×1018㎝-3以上5×1019㎝-3以下導入することを特徴とするD 4H型単結晶炭化珪素インゴッドの製造方法。 イ被告方法被告方法は,●(省略)●方法により,4H型単結晶炭化珪素を成長させる際に,抵抗率が4インチの4H型単結晶炭化珪素につき0.015Ω・㎝から0.025Ω・㎝,3インチの4H型単結晶珪素につき0.010Ω・㎝から0.028Ω・㎝となるよう,窒素を含む雰囲気ガス中で4H型単結晶炭化珪素に窒素を導入することを特徴とする4H型単結晶炭化珪素インゴッドの製造方法である。 ウ被告方法は,本件発明の構成要件B及びDを充足する。 2 争点争点は,被告方法が本件発明の技術的範囲に属するか,本件特許が特許無効審判により無効とされるべきものと認められるかであり,これに関する当事者の主張は,次のとおりである。 被告方法が本件発明の技術的範囲に属するかア原告 構成要件Aについて本件発明は,種結晶を用いた昇華再結晶法において単結晶炭化珪素を成長させた場合に結晶成長過程で多形が混在したり,成長条件の僅かな変動により結晶形が転移しやすいという課題を解決するためのものであるから,「種結晶」は,このような課題を有 法において単結晶炭化珪素を成長させた場合に結晶成長過程で多形が混在したり,成長条件の僅かな変動により結晶形が転移しやすいという課題を解決するためのものであるから,「種結晶」は,このような課題を有する結晶成長面を意味する。 4H型の単結晶炭化珪素のC面を結晶成長面とした場合でも上記課題があるから,4H型の単結晶炭化珪素のC面は「種結晶」に当たる。 炭化珪素の技術分野においては,原料を2000度以上まで加熱し,昇華に際し,Siの蒸気,SiC2の蒸気,Si2Cの蒸気などが発生し,これらの蒸気が種結晶上で炭化珪素の単結晶に再構成されるが,このプロセスが「再結晶」であり,その原料としては,昇華に際し,Siの蒸気,SiC2の蒸気,Si2Cの蒸気などが発生するものであれば足りるから,「昇華再結晶法」は,生成物と同じ物質又は生成物と異なる物質からなる多結晶固体原料を昇華させてから結晶させ単結晶の生成物を得ることを意味する。そうであるから,●(省略)●炭化珪素結晶を生成する方法は「昇華再結晶法」に当たる。 したがって,被告方法は構成要件Aを充足する。 構成要件Cについて4H型単結晶炭化珪素の窒素含有量と抵抗率との間には相関関係があり,抵抗率が0.028Ω・㎝であると窒素含有量は6.17×1018㎝-3であり,抵抗率が0.010Ω・㎝であると窒素含有量は3.0×1019㎝-3である。被告方法において4H型単結晶炭化珪素を成長させる際の抵抗率は,0.010Ω・㎝から0.028Ω・㎝の間にあるから,窒素の導入量は,6×1018㎝-3以上3×1019㎝-3以下の範囲 内にある。 炭化珪素中に導入された窒素が「炭素原子位置」を置換することは技術常識であり,測定結果とも合致するから,被告方法において4H型単結晶炭化珪素 以上3×1019㎝-3以下の範囲 内にある。 炭化珪素中に導入された窒素が「炭素原子位置」を置換することは技術常識であり,測定結果とも合致するから,被告方法において4H型単結晶炭化珪素インゴッドに導入された窒素は,全て「炭素原子位置」にある。 本件発明は,炭化珪素単結晶に高濃度の窒素を含有させることで安定して高品質の4H型炭化珪素単結晶を得ることを可能にした発明であり,炭化珪素単結晶の電気的特性(伝導型,抵抗率)が変化することは,本件発明の実施に付随して必然的に生じる効果に過ぎないから,「炭素原子位置」に関する被告の解釈は失当である。 したがって,被告方法は構成要件Cを充足する。 イ被告 構成要件Aについて本件発明は,種結晶を用いた昇華再結晶法において単結晶炭化珪素を成長させた場合に6H型炭化珪素単結晶が高い確率で形成されるという課題を解決するためのものであるから,「種結晶」は,このような課題を有する結晶成長面を意味する。4H型の単結晶炭化珪素のC面を結晶成長面とした場合には上記課題がないから,4H型の単結晶炭化珪素のC面は「種結晶」に当たらない。 「再結晶」は,炭化珪素の技術分野においても,文言のとおり,結晶であったものが一旦結晶でなくなり,その後,再度結晶となることと解されているから,「昇華再結晶法」は,生成物と同じ物質からなる多結晶固体原料を昇華させてから結晶させて単結晶の生成物を得ることを意味する。そうであるから,●(省略)●方法は「昇華再結晶法」に当たらない。 したがって,被告方法は構成要件Aを充足しない。 構成要件Cについて被告方法において4H型単結晶炭化珪素インゴッドに導入された窒素は,全てが「炭素原子位置」にない。 本件発明において炭 要件Aを充足しない。 構成要件Cについて被告方法において4H型単結晶炭化珪素インゴッドに導入された窒素は,全てが「炭素原子位置」にない。 本件発明において炭化珪素中に窒素を導入する目的は,従来のように電気的特性(伝導型,抵抗率)を変化させることではなく,ポリタイプを制御することで良質の4H型炭化珪素単結晶を再現性よく成長させるためであるから,「炭素原子位置」とはポリタイプを制御することで良質の4H型炭化珪素単結晶を再現性よく成長させることができる位置と解釈すべきである。被告方法においては,単に電気的特性を得るために窒素を導入しているに過ぎないから,窒素の導入位置は「炭素原子位置」に当たらない。 したがって,被告方法は構成要件Cを充足しない。 本件特許が特許無効審判により無効とされるべきものと認められるかア無効理由1(実施可能要件(特許法36条4項1号),サポート要件(特許法36条6項1号))について被告4H型炭化珪素単結晶の炭素原子位置に導入された窒素を直接測定する方法はなく,本件明細書の発明の詳細な説明には窒素の活性化率が100%である4H型炭化珪素単結晶を製造するための条件が記載されていない。そうであるから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないし,特許請求の範囲の記載は発明の詳細な説明に記載したものでない。 原告炭化珪素単結晶に取り込まれた窒素量は二次イオン質量分析法(SIMS)で測定することができる。また,炭化珪素単結晶中の窒素が炭素 原子位置を置換することは技術常識である。そうであるから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者がその実施をすることができる程度に明確 とができる。また,炭化珪素単結晶中の窒素が炭素 原子位置を置換することは技術常識である。そうであるから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり,特許請求の範囲の記載は発明の詳細な説明に記載したものである。 イ無効理由2(明確性要件(特許法36条6項2号),実施可能要件(特許法36条4項1号),サポート要件(特許法36条6項1号))について被告本件発明の規定する窒素濃度を採用することによって,4H型炭化珪素が得られることを,本件明細書に記載されている一実施例から知ることはできず,本件発明の構成から4H型炭化珪素を再現性良く成長させるという効果を得ることができるかも不明である。そうであるから,特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が明確ではなく,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものでないし,また,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。 原告本件明細書の発明の詳細な説明は,4H型炭化珪素を成長させる具体的な条件を示した実施例,及びX線回折及びラマン散乱により4H型炭化珪素単結晶の品質を確認できることも記載されており,実施例において得られた4H型炭化珪素単結晶が高品質であることが確認されている。 また,本件発明の規定する窒素濃度の上限値は下限値の10倍に過ぎず,実施例の窒素濃度はこの範囲のほぼ中間であるから,当業者であれば,実施例の記載をもとに,本件発明の数値範囲で窒素量を増減させることは困難ではない。そうであるから,特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が明確であり,本件明細書の発明の詳細な説明に記載 ,実施例の記載をもとに,本件発明の数値範囲で窒素量を増減させることは困難ではない。そうであるから,特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が明確であり,本件明細書の発明の詳細な説明に記載 したものであるし,また,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。 ウ無効理由3(明確性要件(特許法36条6項2号),実施可能要件(特許法36条4項1号),サポート要件(特許法36条6項1号))について 被告 「種結晶」に4H型炭化珪素若しくは6H型炭化珪素のSi面を用いると4H型炭化珪素が得られないにもかかわらず,特許請求の範囲に「種結晶」とのみ記載し,そのポリタイプ及び面極性を限定していない。 発明の詳細な説明の記載には,「種結晶」のポリタイプ等に関わらず,所望の効果が得られることを当業者が認識できる記載がない。そうであるから,特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が明確でなく,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものでないし,また,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。 原告「種結晶」に4H型炭化珪素若しくは6H型炭化珪素のC面を用いることは技術常識である。そうであるから,特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が明確であり,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるし,また,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。 エ無効理由4(新規性の欠如(特許法29条1項))について 被告平成7年9月 明の記載は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。 エ無効理由4(新規性の欠如(特許法29条1項))について 被告平成7年9月18日に京都府内で開催された国際会議(Silico nCarbideandRelatedMaterials1995)において,本件発明の構成がすべて記載された論文(乙21)の内容を説明する講演が行われ,この論文は,同年8月18日までにICSCREM-95統括委員長宛に提出され正式な守秘義務を負わない査読者が査読しているから,本件発明は,本件特許出願前に日本国内又は外国において,公然知られた発明である。 原告平成7年9月18日に開催された国際会議における講演の内容は明らかでないし,上記論文の査読者が原稿を無断で公開することはないから,本件発明は,本件特許出願前に日本国内又は外国において,公然知られた発明ではない。 オ無効理由5(新規性の欠如(特許法29条1項))について 被告平成7年11月17日頃からアメリカ国防技術情報センターの登録ユーザーがアクセスすることができた,「SiC 静電誘導トランジスタ」プログラムの最終レポート(乙38)には,本件発明が記載されているから,本件発明は,本件特許出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明である。 原告アメリカ国防技術情報センターの登録ユーザーは一般公衆ではなく,一般公衆が「SiC 静電誘導トランジスタ」プログラムの最終レポートにアクセスできたのは,平成8年3月15日であるから,本件発明は,本件特許出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明ではない。 カ無効理由6(進歩性の ラムの最終レポートにアクセスできたのは,平成8年3月15日であるから,本件発明は,本件特許出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明ではない。 カ無効理由6(進歩性の欠如(特許法29条2項))について 被告 1994年9月に発表され,1995年1月に頒布された「SiliconCarbideSubstratesandPowerDevices」と題する論文(乙14)に記載された発明と本件発明とは,種結晶を用いた昇華再結晶法により単結晶炭化珪素を成長させる際に,炭素原子位置に窒素を導入する4H型単結晶炭化珪素の製造方法である点で一致し,①窒素の導入量に関し,本件発明が5×1018㎝-3以上5×1019㎝-3以下であるのに対し,上記論文に記載された発明は1×1020㎝-3である点,②本件発明が4H型単結晶炭化珪素インゴッドの製造方法であるのに対し,上記論文に記載された発明はSiCウエハを製造する方法である点が相違するが,相違点に係る構成はいずれも設計事項に過ぎない。そうであるから,本件発明は,本件特許出願前に当業者が特許出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができた。 原告上記論文に記載された窒素の導入量に関する数値範囲は,本件発明の数値と大きく離れており,かつ,当業者であれば,これよりも高濃度の窒素を導入することが自然であって,本件発明の数値範囲を探索する動機付けは生じないし,上記論文からは,窒素の導入量に関する数値範囲において,窒素が4H型炭化珪素単結晶の安定性に与える影響を読み取ることはできないから,窒素の導入量に関する相違点は設計事項でない。 そうであるから,本件発明は,本件特許出願前に当業者が する数値範囲において,窒素が4H型炭化珪素単結晶の安定性に与える影響を読み取ることはできないから,窒素の導入量に関する相違点は設計事項でない。 そうであるから,本件発明は,本件特許出願前に当業者が特許出願前に日本国内において,公然知られた発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。 キ無効理由7(進歩性の欠如(特許法29条2項))について 被告平成6年11月15日に公開された公開特許公報(特開平6-316 499,甲40の5)に記載された発明と本件発明とは,種結晶を用いた昇華再結晶法により単結晶炭化珪素を成長させる際に,炭素原子位置に窒素を導入する4H型単結晶炭化珪素インゴッドの製造方法である点で一致し,窒素のドープ量に関し,本件発明が5×1018㎝-3以上5×1019㎝-3以下であるのに対し,上記論文に記載された発明は抵抗率が0.1Ω㎝となるドープ量,すなわち,1×1018㎝-3未満である点が相違するが,相違点に係る構成は設計事項に過ぎない。そうであるから,本件発明は,本件特許出願前に当業者が特許出願前に日本国内において,公然知られた発明に基づいて容易に発明をすることができた。 原告上記論文に記載された窒素の導入量に関する数値範囲は,本件発明の数値と大きく離れており,かつ,当業者であれば,これよりも高濃度の窒素を導入することが自然であって,本件発明の数値範囲を探索する動機付けは生じないし,上記論文からは,窒素の導入量に関する数値範囲において,窒素が4H型炭化珪素単結晶の安定性に与える影響を読み取ることはできないから,窒素の導入量に関する相違点は設計事項でない。 そうであるから,本件発明は,本件特許出願前に当業者が特許出願前に日本国内において,公然知られた発明に基づいて容易に る影響を読み取ることはできないから,窒素の導入量に関する相違点は設計事項でない。 そうであるから,本件発明は,本件特許出願前に当業者が特許出願前に日本国内において,公然知られた発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。 ク無効理由8(進歩性の欠如(特許法29条2項))について 被告前記論文(乙14,21)に開示された発明において単結晶炭化珪素への窒素の導入が結晶の電気的特性を変化させるために行われるもので,本件発明のようにポリタイプの制御を目的としない場合であっても,平成7年1月に発表された「GrowthofbulkSiC」と題する論文(乙6)によれば,窒素不純物をドーピングすることが炭化 珪素結晶のポリタイプに大きく影響を及ぼすことが公知であったから,上記論文(乙14,21)が開示する種結晶を用いた昇華再結晶法において,適宜,炭化珪素結晶のポリタイプに大きく影響を及ぼす窒素をドーピングし,所望の抵抗率からなる4H型炭化珪素を得ることは容易であった。そうであるから,本件発明は,本件特許出願前に当業者が特許出願前に日本国内において,公然知られた発明に基づいて容易に発明をすることができた。 原告上記論文(乙6)からは,窒素不純物をドーピングすることが炭化珪素結晶のポリタイプに大きく影響を及ぼすことが公知であったと認めることはできないから,上記論文(乙14,21)が開示する種結晶を用いた昇華再結晶法において,適宜,炭化珪素結晶のポリタイプに大きく影響を及ぼす窒素をドーピングし,所望の抵抗率からなる4H型炭化珪素を得ることは容易であるとはいえない。そうであるから,本件発明は,本件特許出願前に当業者が特許出願前に日本国内において,公然知られた発明に ぼす窒素をドーピングし,所望の抵抗率からなる4H型炭化珪素を得ることは容易であるとはいえない。そうであるから,本件発明は,本件特許出願前に当業者が特許出願前に日本国内において,公然知られた発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。 第3 当裁判所の判断 1 被告方法が本件発明の技術的範囲に属するかについて 構成要件Aについてア証拠(甲29の2)によれば,① 本件発明は,単結晶炭化珪素の製造方法に係わり,特に,青色発光ダイオードや電子デバイスなどの基板ウエハとなる良質で大型の単結晶インゴットの成長方法に関する,②炭化珪素(SiC)は耐熱性及び機械的強度も優れ,放射線に強いなどの物理的,化学的性質から耐環境性半導体材料として注目されているが,大面積を有する高品質の単結晶炭化珪素を,工業的規模で安定に供給し得る結晶成長技術は,いまだ確立されておらず,炭化珪素は,多くの利 点及び可能性を有する半導体材料にもかかわらず,その実用化が阻まれていた,③ 従来,研究室程度の規模では,例えば昇華再結晶法(レーリー法)で単結晶炭化珪素を成長させ,半導体素子の作製が可能なサイズの単結晶炭化珪素を得ていたが,この方法では,得られた単結晶の面積が小さく,その寸法及び形状を高精度に制御することは困難で,炭化珪素が有する結晶多形及び不純物キャリア濃度の制御も容易でなく,また,化学気相成長法(CVD法)を用いて珪素(Si)等などの異種基板上にヘテロエピタキシャル成長させることにより立方晶の単結晶炭化珪素を成長させることも行われていたが,大面積の単結晶は得られるものの,基板との格子不整合が約20%もあること等により多くの欠陥を含む(~107 ㎝-2)単結晶炭化珪素しか成長させることができず,高品質の単結晶炭化珪素を得 れていたが,大面積の単結晶は得られるものの,基板との格子不整合が約20%もあること等により多くの欠陥を含む(~107 ㎝-2)単結晶炭化珪素しか成長させることができず,高品質の単結晶炭化珪素を得ることは容易でなかった,④ これらの問題点を解決するために,種結晶を用いて昇華再結晶を行う改良型のレーリー法が提案され,この方法では,種結晶を用いているため結晶の核形成過程が制御でき,また不活性ガスにより雰囲気圧力を数Torrから100Torr程度に制御することにより結晶の成長速度等を再現性良くコントロールでき,結晶の抵抗率は,不活性ガスからなる雰囲気中に不純物ガスを添加する,あるいは炭化珪素原料粉末中に不純物元素あるいはその化合物を混合することにより,制御することが可能であり,結晶多形(ポリタイプ),形状,及び抵抗率を制御しながら,大型の単結晶炭化珪素を再現性良く成長させることができたが,通常の温度条件(摂氏2200度から2400度)では,6H型の単結晶炭化珪素が高い確率で形成されてしまい,高周波高耐圧電子デバイスに適した4H型の単結晶炭化珪素を得るのは困難であり,種結晶の温度を低下させ,さらに雰囲気圧力を低下させることにより結晶成長の過飽和度を上昇させ,4H型単結晶炭化珪素の形成確率を高めても,一般に過飽和度を高める と欠陥発生の確率も上昇してしまい,また,Sc,Ceといった希土類金属を炭化珪素成長表面に供給し,表面エネルギーを変化させ4H型結晶の核発生を促進させることは,半導体デバイスへの応用を考えた場合には,これらの重金属の使用は好ましくないという問題があった,⑤本件発明は上記事情に鑑みてされたもので,大型のウエハを切り出せる,欠陥が少なく良質の4H型単結晶インゴットを再現性良く製造し得る単結晶炭化珪素の製造方法を提 は好ましくないという問題があった,⑤本件発明は上記事情に鑑みてされたもので,大型のウエハを切り出せる,欠陥が少なく良質の4H型単結晶インゴットを再現性良く製造し得る単結晶炭化珪素の製造方法を提供することを目的として,特許請求の範囲の請求項1の構成を採用した,⑥ 本件発明の単結晶炭化珪素の製造方法は,炭化珪素からなる原材料を加熱昇華させ,単結晶炭化珪素からなる種結晶上に供給し,この種結晶上に単結晶炭化珪素を成長する方法において,炭素原子位置に窒素を5×1018㎝-3以上5×1019㎝-3以下導入することを特徴とするものであり,これにより,大型のウエハを切り出せる,欠陥が少なく良質の4H型単結晶インゴットを再現性良く製造し得る,以上の事実が認められる。 上記認定の事実によれば,本件発明は,高品質の単結晶炭化珪素を得るために導入された炭化珪素原料粉末を原料とし種結晶を用いて昇華再結晶を行う改良型のレーリー法においても解決できなかった課題を解決するために,炭化珪素からなる原材料を加熱昇華させ,単結晶炭化珪素からなる種結晶上に供給し,この種結晶上に単結晶炭化珪素を成長する方法において,炭素原子位置に窒素を5×1018㎝-3以上5×1019㎝-3以下導入するという技術手段を採用したものであると認められる。 そうだとすれば,構成要件Aの「昇華再結晶法」は,結晶性固体を「昇華」させて再び結晶させる,すなわち,生成物と同じ物質からなる多結晶固体原料を昇華させてから結晶させて単結晶の生成物を得ることを意味すると解するのが相当である。 原告は,構成要件Aの「昇華再結晶法」は,生成物と同じ物質又は生 成物と異なる物質からなる多結晶の固体原料を昇華させてから単結晶の生成物を得ることを意味すると主張する。 しかし,証拠 原告は,構成要件Aの「昇華再結晶法」は,生成物と同じ物質又は生 成物と異なる物質からなる多結晶の固体原料を昇華させてから単結晶の生成物を得ることを意味すると主張する。 しかし,証拠(甲3,乙23ないし25)によれば,SiCアライアンスは,SiCウエハ,SiC素子及びSiC素子の自動車等の最終製品への実装等のSiCの実用化に係る研究開発並びにSiC半導体の国内外への普及等について産学官が連携を図り,SiC半導体の導入を促進することによって,低炭素社会の実現に貢献することを目的とし,平成24年10月1日当時34の企業,14の大学,8の研究機関が会員となっている団体であるが,同団体は,ホームページ上で,昇華再結晶法(改良レーリー法)について,炭化珪素単結晶を製造する結晶成長方法の一つで,工業的に最も広く用いられている方法であり,炭化珪素固体原料(通常は粉末)を高温(2000℃以上)で加熱,昇華させ,不活性ガス雰囲気中を輸送後,低温部に設置された種結晶上に再結晶化させることにより塊状の単結晶を育成するものであると説明していること,日刊工業新聞社が発行した「半導体SiC技術と応用」は,炭化珪素の解説書であるが,これには,レーリー法は,純度の良い結晶成長法として初めて試みられた昇華再結晶法であって,グラファイトるつぼ内で原料の炭化珪素粉末を昇華させ,低温部に再結晶化させる方法である旨の記載があることが認められ,これらは,レーリー法や改良レーリー法を昇華再結晶法として説明する場合に,炭化珪素を原料とすることをあえて明示し,炭化珪素を原料としないレーリー法や改良レーリー法を昇華再結晶法としていないことが認められる。また,証拠(甲15,16)によれば,「HighqualitySiCbulkgrowthbysublima としないレーリー法や改良レーリー法を昇華再結晶法としていないことが認められる。また,証拠(甲15,16)によれば,「HighqualitySiCbulkgrowthbysublimationmethodusingelementalSiliconandCarbonpowderasSiCsourcematerials」(甲15) 及び特許第4427470号の特許公報(甲16)には,炭素粉末と珪素粉末を原料とすることが記載されていることが認められるが,これらは,いずれも一旦炭化珪素を生成する工程を経て,その炭化珪素を昇華させて炭化珪素結晶を得る方法を開示するものである。そうであれば,「再結晶」の原料として,昇華に際し,Siの蒸気,SiC2の蒸気,Si2Cの蒸気などが発生するものであれば足りるとは認められないから,レーリー法や改良レーリー法において,炭素粉末及び珪素粉末からなる原料を加熱昇華させて炭化珪素結晶を得る態様のものがあるとしても,炭化珪素の技術分野において,「昇華再結晶法」が,生成物と同じ物質又は生成物と異なる物質からなる多結晶の固体原料を昇華させてから単結晶の生成物を得ることを意味するものと解することはできない。 原告の上記主張は,採用することができない。 イ被告方法は,●(省略)●これは構成要件Aの「昇華再結晶法」に当たらない。 ウしたがって,被告方法は,本件発明の構成要件Aを充足しない。 以上のとおりであって,被告方法は,本件発明の技術的範囲に属するとは認められない。 2 よって,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 主文 よって,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 理由 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官高野輝久 裁判官三井大有 裁判官藤田
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