平成29(ネ)3304 各地位確認等請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成30年2月22日 東京高等裁判所 その他 横浜地方裁判所 平成25(ワ)689
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判決文本文16,362 文字)

- 1 - 主文 1 控訴人の控訴に基づき,原判決中,割増賃金及び付加金の請求に関する部分を次のとおり変更する。 被控訴人は,控訴人に対し,273万1645円並びにこれに対する平成24年12月11日から平成29年7月7日まで年6分の割合による金員及び同月8日から支払済みまで年14.6%の割合による金員を支払え。 ⑵ 被控訴人は,控訴人に対し,273万1645円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 ⑶ 控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。 2 本件附帯控訴を棄却する。 3 訴訟費用は,第1審,差戻し前の控訴審,上告審(ただし,上告審判決で訴訟費用の負担を命ぜられた部分を除く。)及び差戻し後の控訴審を通じてこれを10分し,その9を控訴人の負担とし,その余を被控訴人の負担とする。 4 この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決中,割増賃金及び付加金の請求に関する部分を次のとおり変更する。 2 被控訴人は,控訴人に対し,362万9725円及びこれに対する平成24年12月11日から支払済みまで年14.6%の割合による金員を支払え。 3 被控訴人は,控訴人に対し,362万9725円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 第2 附帯控訴の趣旨 1 原判決中被控訴人敗訴部分を取り消す。 2 上記の部分につき,控訴人の請求をいずれも棄却する。 - 2 -第3 事案の概要 1 本件は,被控訴人が運 。 第2 附帯控訴の趣旨 1 原判決中被控訴人敗訴部分を取り消す。 2 上記の部分につき,控訴人の請求をいずれも棄却する。 - 2 -第3 事案の概要 1 本件は,被控訴人が運営する病院に医師として勤務していた控訴人が,①被控訴人から平成24年9月30日付けで解雇されたが,同解雇は無効であると主張して,雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに,②同年10月から本判決確定の日まで給与として毎月120万1000円の支払,③同年12月支給分の賞与として172万円及びこれに対する支払日の翌日である同月11日から支払済みまで賃金の支払の確保等に関する法律所定の年14.6%の割合による遅延損害金の支払,④時間外の割増賃金438万1892円及びこれに対する労働審判申立書送達の日の翌日である同年11月28日から支払済みまで同法所定の年14.6%の割合による遅延損害金の支払,⑤労働基準法114条に基づき,付加金として上記割増賃金と同額及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払,⑥被控訴人による解雇等につき不法行為が成立すると主張して,損害金として642万0337円及びこれに対する労働審判申立書送達の日の翌日である同月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 差戻し前の第1審は,控訴人の割増賃金の請求について,56万3380円及びこれに対する遅延損害金の限度で認容し,付加金の請求について,11万2334円及びこれに対する遅延損害金の限度で認容し,その余の控訴人の請求をいずれも棄却した。これに対し,控訴人が控訴し,被控訴人が附帯控訴した。 差戻し前の控訴審は,控訴人の控訴を棄却し,被控訴人の附帯控 する遅延損害金の限度で認容し,その余の控訴人の請求をいずれも棄却した。これに対し,控訴人が控訴し,被控訴人が附帯控訴した。 差戻し前の控訴審は,控訴人の控訴を棄却し,被控訴人の附帯控訴に基づき,差戻し前の原審認容額の弁済供託を理由に原判決中被控訴人敗訴部分を取り消して,同部分に係る控訴人の請求をいずれも棄却した。これに対し,控訴人は,上告及び上告受理の申立てをした。 最高裁判所は,上告を棄却し,上告受理の申立てを受理し,上告受理申立て - 3 -の理由中,割増賃金及び付加金請求に係る部分を除いた部分を排除した上,差戻し前の控訴審の判決中,割増賃金及び付加金の請求に関する部分を破棄し,同部分につき,本件を東京高等裁判所に差し戻した。 したがって,当審における審判の対象は,控訴人の割増賃金及び付加金請求である。 控訴人は,当審において,割増賃金の請求を362万9725円及びこれに対する支払期日の後の日である平成24年12月11日から支払済みまで年14.6%の割合による遅延損害金の支払請求に,付加金の請求を同額及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払請求に減縮した。 2 前提事実,争点及び当事者の主張は,次の点を改め,当審における被控訴人の主張を後記3に付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1及び2⑶に記載のとおりであるから,これを引用する。 原判決4頁23行目の末尾に改行して,以下を加える。 「割増賃金等の弁済ア被控訴人は,平成24年9月28日までに,控訴人に対し,時間外の割増賃金として合計57万5300円を支払った。 イ被控訴人は,原判決の言渡し後,控訴人に対し,原判決で支払を ア被控訴人は,平成24年9月28日までに,控訴人に対し,時間外の割増賃金として合計57万5300円を支払った。 イ被控訴人は,原判決の言渡し後,控訴人に対し,原判決で支払を命じられた金員の弁済を提供したが,控訴人が拒絶したため,平成27年6月8日,差戻し前の第1審の認容した割増賃金元本額及びこれに対する遅延損害金の合計76万8225円並びに付加金部分11万2334円を弁済供託した。(乙29)」⑵ 原判決14頁3行目の「静脈認証」を「静脈認証システム」に改める。 ⑶ 原判決14頁6行目の「また」から14行目の末尾までを次のとおり改改める。 「ただし,控訴人が静脈未承認記載簿に退勤時刻を記載した後に呼出しを受 - 4 -けたなど,静脈未承認記載簿の退勤時刻と実際の退勤時刻が異なる場合もあった。例えば,平成24年7月21日は,控訴人が一度は帰宅の準備に入り,静脈未承認記載簿に「19:00」と記載したが,その直後緊急手術をすることになり,翌22日午前零時57分頃まで手術をした。また,本件病院の電子カルテシステムは,パソコンを起動した後,個々の職員に割り当てられたID・パスワードを入力して,電子カルテシステムにログインしてから,患者別の電子カルテにログインして使用するものであるところ,ログインについては,他の医師が控訴人のID・パスワードを使用することはあり得ないから,少なくとも甲17号証のログイン・ログアウト記録のうちログインは,控訴人によるものであり,その時刻に勤務していたと認定すべきである。 もっとも,ログアウトについては,控訴人がこれを失念して,他の医師がログアウトしたこともあり,通常,電子カルテの入力は長くても1回につき40分から50分程度であるから,1時間を超えてログイン状態が続 っとも,ログアウトについては,控訴人がこれを失念して,他の医師がログアウトしたこともあり,通常,電子カルテの入力は長くても1回につき40分から50分程度であるから,1時間を超えてログイン状態が続いている記録については,控訴人がログアウトを失念したものとして,1時間以内のものは,控訴人がその時間勤務していたと認定すべきである。 また,控訴人が担当していた患者のカルテに対するログイン時には,ログインからログアウトまでの時間が1時間を超えるか否かを問わず,控訴人が勤務していたと認定すべきである。そして,ログイン・ログアウト記録からは,控訴人が出勤したことが明らかであるのに,静脈未承認記載簿に記載をしていない日があるところ,この場合には,原則として,午前8時30分から午後5時30分まで勤務したものと考え,ログイン記録がこの時間外にある場合は,その時間に始業ないし終業したものとし,休日出勤の場合は,ログイン・ログアウト記録の範囲内での労働時間を認定すべきである。 以上を前提に,静脈未承認記載簿及びログイン・ログアウト記録から, - 5 -控訴人の労働時間及び時間外の割増賃金を算出すると,別紙控訴人割増賃金計算書記載のとおりとなり,時間外の労働時間は324.42時間,割加金を除いた合計134万3525円を控除すると,割増賃金の残額は362万9725円となる。」 原判決15頁13行目の「静脈承認」を「静脈認証システム」に改める。 ⑸ 原判決19頁14行目から20頁1行目までを次のとおり改める。 「エ一部弁済前提 加えて,付加金11万2334円の弁済供託も,割増賃金の弁済とみるべきである。」 3 当審における被控訴人の主張 控訴人が本件雇用契約においてした,本件 前提 加えて,付加金11万2334円の弁済供託も,割増賃金の弁済とみるべきである。」 3 当審における被控訴人の主張 控訴人が本件雇用契約においてした,本件時間外規程に基づき支払われるもの以外の時間外労働等に対する割増賃金については,年俸1700万円に含まれる旨の合意(以下「本件合意」という。)は,時間外の割増賃金の請求権を放棄する意思表示を含むから,控訴人は,割増賃金の支払請求権を放棄した。 ⑵ 控訴人と被控訴人は,本件雇用契約において,週5日勤務,1日の所定労働時間は午前8時30分から午後5時30分まで(休憩1時間)を基本とするが,業務上の必要がある場合には,これ以外の時間帯でも勤務しなければならない旨,その場合,本件時間外規程の定めによる旨合意したことが認められ,本件時間外規程においては,通常業務の延長とみなされる時間外労働は,時間外手当の対象とならない旨,時間外手当の対象とする時間外勤務の対象時間とは,勤務日の午後9時から翌日の午前8時30分までの間及び休日に発生する緊急業務に要した時間とする旨合意していた。 そうであれば,控訴人の年俸(賞与を除く部分)1442万円は,控訴人 - 6 -の年間法定労働時間である1952時間(244日間×8時間)分の労働の対価及び年間出勤日244日間に関する午後5時30分から午後9時までの時間外労働の対価として合意されたものと合理的に解釈すべきである。 したがって,以下の計算式によって,通常の労働時間の賃金に当たる部分と上記午後5時30分から午後9時までの割増賃金に当たる部分は,容易に 対価として合意されたものと合理的に解釈すべきである。 したがって,以下の計算式によって,通常の労働時間の賃金に当たる部分と上記午後5時30分から午後9時までの割増賃金に当たる部分は,容易に算定することができる。 通常の労働時間 1442万円÷(1952時間+854時間×1.25)×1952 =932万2020.2円上記割増賃金 1442万円÷(1952時間+854時間×1.25)×(854時間×1.25)=509万7979.7円そうすると,本件時間外規程に基づき支払われるもの以外の時間外労働等に対する割増賃金を年俸1700万円に含める本件合意に基づく,被控訴人の控訴人に対する年俸の支払によって,控訴人の年間出勤日244日間の午後5時30分から午後9時までの時間外の割増賃金は,支払済みと評価されるべきである。 ⑶ 被控訴人が原判決第2の2⑶の「被告の主張」で主張した点並びに原審及び差戻し前の控訴審が控訴人の主張の大部分を採用しなかったことから,被控訴人は,合理的な理由に基づき控訴人の割増賃金請求を争っている。 したがって,賃金の支払の確保等に関する法律6条2項,同法施行規則6条4号により,遅延損害金を年14.6%とする同法6条1項の適用はない。 少なくとも,上記遅延損害金率の適用は,差戻し前の第1審及び控訴審が認容した元金額56万3380円に限られるべきである。 ⑷ 被控訴人は,控訴人の労働時間を管理しておらず,労働時間を知る余地はないこと及び上記のとおり,合理的な理由に基づき控訴人の割増賃金請求を争っていることから,控訴人の割増賃金の請求に応じなかったことについて,悪質であるとはいえないから,被控訴人に付加金を課すべきではない。 記のとおり,合理的な理由に基づき控訴人の割増賃金請求を争っていることから,控訴人の割増賃金の請求に応じなかったことについて,悪質であるとはいえないから,被控訴人に付加金を課すべきではない。 - 7 -第4 当裁判所の判断当裁判所は,控訴人の割増賃金請求は,273万1645円及びこれに対する遅延損害金の限度で,付加金の請求は,同額及びこれに対する遅延損害金の限度で理由があり,その余は理由がないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。 1 認定事実次の点を改めるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 争点に対す 原判決26頁17行目の「9」の次に「,17,19の1~3」を加える。 原判決27頁5行目の末尾に改行して,以下を加える。 「本件合意(本件時間外規程に基づき支払われるもの以外の時間外労働等に対する割増賃金については,年俸1700万円に含まれる旨の合意)。 ただし,上記年俸のうち時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分は明らかにされていなかった。」⑶ 原判決27頁12行目の末尾に改行して,以下を加える。 「 控訴人は,平成24年4月18日,同月20日,同年6月10日及び同月22日に被控訴人病院において手術を担当したが,静脈未承認記載簿には出退勤の記載がない。」 原判決27頁18行目から28頁16行目までを削る。 原判決28頁17行目の「カ」を「オ」に改める。 ⑹ 原判決30頁2行目から10行目までを次のとおり改める。 「カ割増賃金等の弁済 被控訴人は,平成24年9月28日までに,控訴人に対し,割増賃賃金として合計57万5300円を支払った。 被控訴人は,原判決の言渡し後,控訴人に対し, 「カ割増賃金等の弁済 被控訴人は,平成24年9月28日までに,控訴人に対し,割増賃賃金として合計57万5300円を支払った。 被控訴人は,原判決の言渡し後,控訴人に対し,原判決で支払を命じられた金員の弁済を提供したが,控訴人が拒絶したため,平成27 - 8 -年6月8日,差戻し前の第1審の認容した割増賃金元本額及びこれに対する遅延損害金の合計76万8225円並びに付加金部分11万2334円を弁済供託した。」原判決30頁11行目の「ク」を「キ」に改める。 ⑻ 原判決31頁4行目の末尾に改行して,以下を加える。 「ログイン・ログアウト記録(甲17)は,控訴人のID・パスワードにより,電子カルテシステムの患者別の電子カルテにログイン・ログアウトされた際の記録である。 控訴人は,電子カルテシステムにログインした後,ログアウトすることを失念し,他の医師がログアウトしたことがあった。」 2 労働時間について 開始時刻について本件雇用契約における被控訴人の始業時刻は午前8時30分であるから,労働時間の開始時刻は原則として午前8時30分と認めるのが相当である。 控訴人は,被控訴人により,午前8時30分より前に回診等の診療行為を指示されたと主張する。しかし,控訴人の陳述書(甲10)には,控訴人が被控訴人病院に就職することが内定した平成24年3月下旬ころ,副院長から「通常朝7時半から回診しています。」との説明を受けたが,これを聞いた控訴人が事前の説明と異なることなどから困惑していたところ,「先生は自分のペースで回診してください。必ずしも7時半からでなくて結構です。」と言われたとの記載があるにとどまり,同記載をもって,被控訴人が控訴人に対して午前8時30分より前の就業を指示し ころ,「先生は自分のペースで回診してください。必ずしも7時半からでなくて結構です。」と言われたとの記載があるにとどまり,同記載をもって,被控訴人が控訴人に対して午前8時30分より前の就業を指示したと認定することはできない。 また,控訴人が午前8時30分より前に回診を行っていたとの証拠もない。 したがって,控訴人の上記主張は採用できない。 また,控訴人は,外来診察日(火曜・水曜)には外来診察開始前に電子カルテで病棟の患者の確認等をするために,午前8時半より前に出勤する必要が - 9 -あった旨原審において供述する。しかし,控訴人の主張する出勤時間をみても,火曜・水曜の出勤時間は午前8時半の少し前頃であることが多く,かつ,他の曜日より早い事実も認められないから,上記供述は採用することができない。 ただし,控訴人は,陳述書(甲10)及び原審における供述において,被控訴人病院においては,毎月第1又は第2月曜日に午前8時5分か10分から朝礼があり,医師も出席を指示されていたと述べるところ,被控訴人はこれを争っていない。したがって,同朝礼への出席は業務指示に基づくものと認められる。そこで,原則として第1月曜日(同日の静脈未承認記載簿の記載による出勤時刻が午前8時を過ぎている場合は第2月曜日)は午前8時を労働時間の開始時刻と認める。上記に該当するのは,平成24年5月7日,6月4日,7月9日,8月13日及び9月10日である。 終了時刻について医師としての業務の性質からすれば,被控訴人の明示の指示がなくても,患者の診療等のために終業時刻を超えて業務をする必要性が生じることは明らかであるから,控訴人の労働時間の終了時刻については,退勤時刻とする。 のとおりであるから,これを引用する。 なお,本件雇用契約 めに終業時刻を超えて業務をする必要性が生じることは明らかであるから,控訴人の労働時間の終了時刻については,退勤時刻とする。 のとおりであるから,これを引用する。 なお,本件雇用契約に基づき,各出勤日の休憩時間は1時間と認める。 退勤時刻の認定についてア静脈未承認記載簿について控訴人が出退勤の際に,その日時を静脈未承認記載簿(甲9)に記載していたこと(原判決第3の3ウ),記載当時,控訴人は同記載に基づいて割増賃金の請求をしていたわけではなく,控訴人があえて事実と異なる記載をする理由がないこと,被控訴人は,静脈未承認記載簿を毎日回収し,確認していたこと(弁論の全趣旨),静脈未承認記載簿には - 10 -控訴人以外の職員も記載している(甲9)から,他の職員が記載した前後の時刻と矛盾するような記載をすることは困難であることを総合すれば,静脈未承認記載簿の記載内容は信用することができるというべきである。したがって,原則として,静脈未承認記載簿の記載のとおり,退勤時刻を認定するのが相当である。 被控訴人は,被控訴人病院においては静脈認証システムにより労働時間を記録していたのに,控訴人は,正規の手続を踏むことなく,静脈未承認記載簿に出勤・退勤を記録していたものであり,静脈未承認記載簿の信頼性は極めて低い旨主張する。 しかし,被控訴人においては,職員の出退勤の確認は,原則として静脈認証システムを用いて行われていた(甲8,乙10,18,原審証人A,同B)が,機械が作動しないなどの例外的な場合には,静脈未承認記載簿に記載することも許容されていた(原判決第3の3イ)上,控訴人が,継続的に静脈未承認記載簿に出勤・退勤を記載していた(甲9)のに,被控訴人が,控訴人に対し,静脈未承認記載簿への記載をやめて, 載簿に記載することも許容されていた(原判決第3の3イ)上,控訴人が,継続的に静脈未承認記載簿に出勤・退勤を記載していた(甲9)のに,被控訴人が,控訴人に対し,静脈未承認記載簿への記載をやめて,静脈認証システムを利用するよう求めた形跡はないから,控訴人が静脈認証システムを利用しなかったことをもって,控訴人による静脈未承認記載簿の記載の信用性が減殺されるということはできない。 イログイン・ログアウト記録(甲17)についてログイン・ログアウト記録(甲17)は,被控訴人病院内に設置されたパソコンを使用して,控訴人のID・パスワードにより電子カルテシステムにログインされた後,患者別の電子カルテにログイン・ログアウトがされた時刻の記録であるから,ログイン・ログアウト各時点で,控訴人が被控訴人病院内にいたことを一応推認させるものといえる。 もっともテムは,ある医師がID・パスワードを入力して一旦ログインすれば, - 11 -その医師によるログイン状態を利用して,他の医師が改めてID・パスワードを入力することなく患者別のカルテにログインすることができること,被控訴人病院では,1つのパソコンを複数の医師が使用することがあること,控訴人自身ログアウトを失念したことがあることを自認していること,控訴人の主張する退勤時刻後,翌日の出勤時刻までの間にログインがされていることがあること(甲9)からすれば,ログイン・ログアウト記録上のログイン・ログアウトを控訴人以外の医師が行ったことがあると認められるから,ログイン・ログアウト記録による控訴人の出勤時刻又は退勤時刻の推認力は,控訴人自らが記載した静脈未承認記載簿の記載に劣るというべきである。 ただし,静脈未承認記載簿の記載中には,退勤時刻又は出勤時刻の片方しか記載がないもの,控訴人が手 勤時刻又は退勤時刻の推認力は,控訴人自らが記載した静脈未承認記載簿の記載に劣るというべきである。 ただし,静脈未承認記載簿の記載中には,退勤時刻又は出勤時刻の片方しか記載がないもの,控訴人が手術を担当していることから出勤したことが明らかなのに,記載がないもの()があるから,控訴人が静脈未承認記載簿への記載を失念することがあったことは明らかである。したがって,ログイン・ログアウト記録は,静脈未承認記載簿に記載がない場合の補充として,使用するのが相当である。 控訴人は,ログインについては,他の医師が控訴人のID・パスワードを使用することはあり得ない,特に控訴人担当の患者のカルテにログインすることはあり得ない旨主張する。しかし,上記のとおり,控訴人が電子カルテシステムにログインした後,ログアウトを失念したことがあることは控訴人が自認するところ,その場合,当該パソコンを使用しようとする他の医師が,自己のID・パスワードでログインする手間を省き,控訴人がログインしたままの状態を利用して患者のカルテを閲覧することはあり得ること(乙18,原審証人B),実際,上記のとおり,ログイン・ログアウト記録(甲17)には,控訴人の主張する勤務時間を前提とすると控訴人がログインしたとは考えられない記録があること, - 12 -当直医師は,他の医師が担当する患者のカルテを閲覧する場合があり,また,当直勤務において,別の医師が使用するパソコンを使用することは頻繁にあること()に照らし,控訴人の上記主張は採用できない。 ウまとめ以上によれば,控訴人の退勤時刻は,静脈未承認記載簿により認め,静脈未承認記載簿に退勤時刻の記載がないが,出勤したと認められるときは,原則として,午後5時30分まで勤務したと認め,ログインの記録が午後5時30 控訴人の退勤時刻は,静脈未承認記載簿により認め,静脈未承認記載簿に退勤時刻の記載がないが,出勤したと認められるときは,原則として,午後5時30分まで勤務したと認め,ログインの記録が午後5時30分以降である場合には,その時刻まで勤務したと認めるのが相当である。なお,当直を行った場合は,32時30分まで勤務したとし,引き続き就業した場合には,翌日午前8時30分から勤務を開始したとするのが相当である。 エ個別判断上記ウによる認定の例外又は控訴人の主張に対する個別判断は,以下のとおりである(以下においては,平成24年を省略し,月日のみを記載する。)。 4月18日,同月20日,6月10日及び同月22日は,静脈未承認記載簿に出退勤の記載がないが,控訴人は,各日,被控訴人病院において手術を担当しているから,出勤したことは明らかである。そこで,上記各日については,ログイン・ログアウト記録により,退勤時刻を認める。 ただし,4月18日の退勤時刻については,ログイン・ログアウト記録によれば,被控訴人は,翌19日の午前8時半まで勤務し,そのまま19日午前8時半からの勤務を開始したことになるが,当該手術の予定時刻は16時から1時間半であったこと(甲19の1),当直でもないのにこのような徹夜勤務をした具体的な状況について立証が全くないこと, - 13 -控訴人は,同日の徹夜勤務につき,本件時間外規定に基づいて超過勤務の請求をしていないこと(弁論の全趣旨)及び前記のとおり,控訴人がログアウトを失念したパソコンを使用して,当直医が,入院患者のカルテを閲覧した可能性があることに照らし,ログイン・ログアウト記録により,退勤時刻を認定することは相当とはいえない。4月18日の手術の予定が16時から1時間半であったこと(甲 当直医が,入院患者のカルテを閲覧した可能性があることに照らし,ログイン・ログアウト記録により,退勤時刻を認定することは相当とはいえない。4月18日の手術の予定が16時から1時間半であったこと(甲19の1)に鑑み,退勤時刻は手術終了予定時刻の1時間後18時30分と認める。 4月29日,5月10日,同月24日,6月21日,7月16日及び同月19日は控訴人の休日であり,手術予定表に控訴人担当手術の記載がなく(甲19の1ないし3),静脈未承認記載簿にも出退勤の記載がない。ログイン・ログアウト記録には,ログイン・ログアウトの記録があるが,いずれもログイン時間が数分程度と短い(特に,6月21日は午前9時41分にログインし,午前9時48分にログアウトしたとの記録が1回あるのみである。)。以上に加え,控訴人は,訴状においては,これらの休日に出勤したと主張していなかったもので,出勤日の具体的な状況について立証が全くないこと及び控訴人は,これらの休日出勤につき,本件時間外規定に基づいて超過勤務の請求をしていないこと(弁論の全趣旨)を総合すると,ログイン・ログアウト記録により,控訴人がこれらの休日に出勤したと認定することはできない。 7月14日は,静脈未承認記載簿に退勤時刻の記載がない。しかし,手術予定表(甲19の4)によれば,控訴人は,同日22時から3時間の予定で手術を行ったことが認められること,控訴人は,本件時間外規程に基づき,7月15日付けで11時間30分の時間外勤務を申請し,時間外労働手当を受領していること(弁論の全趣旨)から,退勤時刻は翌15日午前8時半(32時30分)と認める。 控訴人は,7月21日は,一度は帰宅の準備に入り,静脈未承認記載 - 14 -簿に「19:00」と記載したが,その直後緊 ,退勤時刻は翌15日午前8時半(32時30分)と認める。 控訴人は,7月21日は,一度は帰宅の準備に入り,静脈未承認記載 - 14 -簿に「19:00」と記載したが,その直後緊急手術をすることになり,午前零時57分頃まで手術したと主張する。しかし,被控訴人は同事実を否認しており,控訴人の上記主張を裏付ける的確な証拠はない。よって,同日の退勤時刻は,静脈未承認記載簿の記載どおり,19時と認める。 静脈未承認記載簿の8月25日欄では,午後5時35分につき出勤時刻と記載されているが,ログイン・ログアウト記録によれば,同日の午前中から控訴人が電子カルテシステムにログイン・ログアウトを行っていたことが認められるから,上記記載は退勤時刻の誤記であると認められる。 労働時間の認定によれば,4月から9月までの間の本件病院における医師としての控訴人の勤務に係る始業時刻,終業時刻及び休憩時間は,別紙当審認定割増賃金計算書記載の「出勤時間」,「退勤時間」及び「休憩時間」欄記載のとおり,時間外の労働時間は289時間6分(289.10時間)であると認められる。 3 時間外の労働時間に対する割増賃金額時間外の労働時間に対する基礎時給額算出の基となる賃金は,月額120万1000円(役付手当,職務手当,調整手当を含む。)であり(前提事実⑵オ),所定労働時間の月平均時間が162時間40分(162.67時間)であることは争いがないから,基礎時給額は7383円となる。 これを基礎として,前記時間外の労働時間に対する割増賃金を算出すると,別紙当審認定割増賃金計算書記載のとおり,合計407万5170円となる。 4 管理監督者該当性及び当直勤務の断続的業務性について原判決の「事実及び 算出すると,別紙当審認定割増賃金計算書記載のとおり,合計407万5170円となる。 4 管理監督者該当性及び当直勤務の断続的業務性について原判決の「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」の3⑶ア及びイに記載のとおりであるから,これを引用する。 - 15 - 5 本件合意による割増賃金の支払について 労働基準法37条が時間外労働等について割増賃金を支払うべきことを使用者に義務付けているのは,使用者に割増賃金を支払わせることによって,時間外労働等を抑制し,もって労働時間に関する同法の規定を遵守させるとともに,労働者への補償を行おうとする趣旨によるものであると解される(最高裁昭和44年(行ツ)第26号同47年4月6日第一小法廷判決・民集26巻3号397頁参照)。また,割増賃金の算定方法は,同条並びに政令及び厚生労働省令の関係規定(以下,これらの規定を「労働基準法37条等」という。)に具体的に定められているところ,同条は,労働基準法37条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまるものと解され,労働者に支払われる基本給や諸手当(以下「基本給等」という。)にあらかじめ含めることにより割増賃金を支払うという方法自体が直ちに同条に反するものではない。 他方において,使用者が労働者に対して労働基準法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するためには,割増賃金として支払われた金額が,通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として,労働基準法37条等により定められた方法により算出された割増賃金の額を下回らない きるか否かを判断するためには,割増賃金として支払われた金額が,通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として,労働基準法37条等により定められた方法により算出された割増賃金の額を下回らないか否かを検討することになるところ,同条の上記趣旨によれば,割増賃金をあらかじめ基本給等に含める方法で支払う場合においては,上記の検討の前提として,労働契約における基本給等の定めにつき,通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要であり(最高裁平成3年(オ)第63号同6年6月13日第二小法廷判決・裁判集民事172号673頁,最高裁平成21年(受)第1186号同24年3月8日第一小法廷判決・裁判集民事240号121頁,最高裁平成27年(受)第1998号同29年2月28日第三小法廷判決・裁判所時報1671号5頁参照),上記割増賃金に当たる部分の金額が労働 - 16 -基準法37条等に定められた方法により算出された割増賃金の額を下回るときは,使用者がその差額を労働者に支払う義務を負うというべきである(上告審判決)。 ⑵ 控訴人と被控訴人との間においては,本件時間外規程に基づき支払われるもの以外の時間外労働等に対する割増賃金を年俸1700万円に含める旨の本件合意がされていたものの,このうち時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分は明らかにされていなかった(原判決第3の3ア)。そうすると,本件合意によっては,控訴人に支払われた賃金のうち時間外労働等に対する割増賃金として支払われた金額を確定することすらできないのであり,控訴人に支払われた年俸について,通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできない。 したがって,被控 れた金額を確定することすらできないのであり,控訴人に支払われた年俸について,通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできない。 したがって,被控訴人の控訴人に対する年俸の支払により,控訴人の時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金が支払われたということはできない(上告審判決)。 6 一部弁済について 控訴人の割増賃金のうち合計134万3525円が弁済されたことは争いがないから,その残額は273万1645円となる。 ⑵ 被控訴人は,前提事実の付加金11万2334円の弁済供託も,割増賃金の支払とみるべきである旨主張する。 しかし,上記弁済供託は,割増賃金とは異なる付加金(原審が認容し,被控訴人が弁済供託した割増賃金に対するもの)についてされたものであるから,被控訴人の上記主張は採用することができない。 7 付加金請求について原判決において,時間外の労働時間が323時間23分(323.38時間)と認定され,差戻し前の控訴審判決においても,この認定は維持されたこと,上告審判決において,被控訴人の控訴人に対する年俸の支払により,控訴 - 17 -人の時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金が支払われたということはできないとされたのであるから,被控訴人は,割増賃金の額が相当額に上り,その支払を命じられる可能性が高いことを十分に認識することができたことなど,本件に顕れた事情を考慮すれば,被控訴人に対し,付加金として割増賃金の残額と同額である273万1645円の支払を命ずるのが相当である。 8 当審における被控訴人の主張について 被控訴人は,本件合意は,控訴人による割増賃金の請求権を放棄する意思表示を含むと主 額と同額である273万1645円の支払を命ずるのが相当である。 8 当審における被控訴人の主張について 被控訴人は,本件合意は,控訴人による割増賃金の請求権を放棄する意思表示を含むと主張する。 しかし,上記主張は,労働基準法13条の趣旨に照らし,採用できない。 なお,本件合意は,本件時間外規程に基づき支払われるもの以外の時間外労働等に対する割増賃金については,年俸1700万円に含まれる旨を合意したものであるから,控訴人が割増賃金の請求権を放棄する意思表示をしたとは解されない。したがって,被控訴人の上記主張はこの点からも採用することができない。 ⑵ 被控訴人は,年俸(賞与を除く部分)1442万円の合意について,合理的に解釈すると,年間法定労働時間分の労働の対価と年間出勤日の午後5時30分から午後9時までの時間外労働の対価として合意したものと解されるところ,通常の労働時間の賃金部分と年間出勤日の午後5時30分から午後9時までの時間外労働の割増賃金部分を容易に算定することができるから,本件時間外規程に基づき支払われるもの以外の時間外労働等に対する割増賃金については,年俸1700万円に含まれる旨の本件合意に基づく,被控訴人の控訴人に対する年俸の支払によって,控訴人の上記時間外労働の割増賃金は,支払済みと評価されるべきである旨主張する。 しかし,控訴人と被控訴人との間においては,本件時間外規程に基づき支払われる以外の時間外労働等に対する割増賃金を年俸1700万円に含める本件合意がされたところ,本件雇用契約の契約書(甲1)及び本件時間外規 - 18 -程(甲8)には,月額の本給と諸手当(役付手当,職務手当,調整手当,初月手当)の区分とその額及び時間外手当の対象となる時間外勤務の対象時間を勤 契約書(甲1)及び本件時間外規 - 18 -程(甲8)には,月額の本給と諸手当(役付手当,職務手当,調整手当,初月手当)の区分とその額及び時間外手当の対象となる時間外勤務の対象時間を勤務日の午後9時から翌日の午前8時30分までと休日の緊急業務とすることが定められているにすぎず,年間法定労働時間分の労働の対価と年間出勤日の午後5時30分から午後9時までの時間外労働の対価の対応関係を示す記載はなく,また,被控訴人が控訴人にそのような説明をしたこともない(弁論の全趣旨)から,年俸の合意について,被控訴人の主張する解釈をすることはできない。 したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。 ⑶ 被控訴人は,合理的な理由に基づき控訴人の割増賃金請求を争っているから,賃金の支払の確保等に関する法律6条2項,同法施行規則6条4号により,遅延損害金を年14.6%とする同法6条1項の適用はない旨主張する。 この点について,本件における当事者双方の主張内容,事実関係,差戻し前の第1審及び控訴審における判決等に照らせば,上告審判決が言い渡されるまでは,被控訴人が,控訴人の割増賃金請求のうち差戻し前の第1審が認容した金額を超えた部分を争うことについて,同法施行規則6条4号の合理的な理由があり,上告審判決が言い渡された後は,合理的な理由はないというべきである。 したがって,遅延損害金率は,上告審判決が言い渡された日である平成29年7月7日までは商事法定利率年6分,その翌日である8日以降は賃金の支払の確保等に関する法律所定の年14.6%とするのが相当である。 ⑷ 被控訴人は,控訴人の労働時間を管理しておらず,労働時間を知る余地はなく,控訴人の割増賃金請求に応じなかったことについて,悪質とはいえないから 法律所定の年14.6%とするのが相当である。 ⑷ 被控訴人は,控訴人の労働時間を管理しておらず,労働時間を知る余地はなく,控訴人の割増賃金請求に応じなかったことについて,悪質とはいえないから,控訴人に付加金を課すべきではない旨主張する。 しかし,被控訴人が控訴人の労働時間を管理していなかったのは,被控訴人の事情にすぎず,前記のとおり,静脈未承認記載簿やログイン・ログアウ - 19 -ト記録に基づいて,控訴人の労働時間を算出することもできたというべきである。 したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。 9 以上によれば,控訴人の割増賃金請求は,273万1645円並びにこれに対する平成24年12月11日から平成29年7月7日まで年6分の割合による金員及び同月8日から支払済みまで年14.6%の割合による金員の限度において,付加金請求は,273万1645円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度において,いずれも理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却すべきところ,これと異なり,控訴人の割増賃金請求を56万3380円及びこれに対する平成24年11月28日から支払済みまで年14.6%の割合による金員,付加金請求を11万2334円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で一部認容し,その余を棄却した原判決は一部失当であって,控訴人の本件控訴は一部理由があるから,原判決中,割増賃金及び付加金の請求に関する部分を上記のとおり変更し,被控訴人の本件附帯控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第2民事部 控訴人の本件附帯控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第2民事部 裁判長裁判官白石史子 裁判官大垣貴靖 裁判官矢作泰幸

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