主文 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人が平成8年3月29日付けで控訴人に対してした懲戒免職処分はこれを取り消す。 3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨主文同旨第2 請求,争いのない事実等,争点次の1のとおり訂正し,当審における控訴人の補充的主張及びこれに対する被控訴人の反論として2,3のとおり付加するほか,原判決3頁4行目から75頁2行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。 1 原判決の訂正(当審における主張の訂正を含む)(1) 原判決4頁6行目末尾に「同学部附属病院講師,」を加える。 (2) 同7頁1行目の「事務官」の次に「(歯学部歯科矯正学講座)」を加える。 (3) 同9頁8行目の「歯学部長」の次に「,評議員」を加える。 (4) 同11頁7行目の「取扱い」の次に「について」を加える。 (5) 同17頁10行目の「SS院生」を「S院生」と改める。 (6) 同22頁につき,1行目末尾に「そこで,控訴人は,同年5月29日,本訴を提起したものである。」を加え,2行目の「医員手当の寄付」を「海外研修旅行中の助手給与の寄付」と改める。 (7) 同29頁につき,7行目の「二八万二〇〇〇円一」を「28万2000円」と,10行目の「アと同様」を「前同様」と各改める。 (8) 同33頁1行目の「大院生」を「医員」と改める。 (9) 34頁6行目の「同年五月二九日」を「同年5月1日ころ又は同月29日」と改める。 (10) 同37頁3行目の「もしに」を「もしこれに」と改める。 (11) 同41頁3行目の「科学研究費補助金取扱規程」の次に「9条」を加える。 (12) 同50頁6行目の「 」と改める。 (10) 同37頁3行目の「もしに」を「もしこれに」と改める。 (11) 同41頁3行目の「科学研究費補助金取扱規程」の次に「9条」を加える。 (12) 同50頁6行目の「円合計」を「合計」と改める。 (13) 同52頁3行目の「間がないため、」の次に「講座の先輩等の協力者による寄付が期待できず,」を加える。 2 当審における控訴人の補充的主張(1) 学位取得に係る研究の指導を巡る金銭の授受への関与について① 抗告訴訟において当該行政処分の適法性の立証責任は行政庁の側にあるから,本件の学位取得に係る研究の指導を巡る金銭の授受に控訴人が関与したか否かは,被控訴人の側で立証すべきである。しかも,その立証の程度は,行政庁の懲戒処分という不利益処分の性質上,合理的な疑いを入れない程度になされなければならない。しかし,本件においては,上記の程度の証明がなされたとはいえない。 ② 原判決がA教授の「控訴人から,B助手が金銭を持参するので受け取ってほしいと言われた。」との旨の供述を信用できないとした点は正当であるが,B助手の「A教授に学位取得に係る研究の指導に対する謝礼として金銭を支払ったのは,控訴人から指示がなされたためである。」との供述を採用したのは不当である。原判決の認定によると,控訴人は部下であるB助手には学位に係る研究の謝礼として240万円を持参するように指示しながら,研究を指導する講座の責任者であり,かつ,学位の審査者になるかもしれない同僚に対しては何も言わなかったということになるが,不自然である。 ③ B助手の供述が信用できない理由は,次のとおりである。 (a) 原判決がB助手の上記供述を信用できるとした理由は次の点にある。 すなわち,(ア)B助手がA教授に渡した現金の額は合計200 ③ B助手の供述が信用できない理由は,次のとおりである。 (a) 原判決がB助手の上記供述を信用できるとした理由は次の点にある。 すなわち,(ア)B助手がA教授に渡した現金の額は合計200万円であって多額であること,(イ)B助手が控訴人に無断でA教授に金銭の提供を申し出てその支払を続け,これが後日控訴人に判明した場合,控訴人から叱責その他の措置を受けることが十分に予想されること,以上の2点からすると,B助手が自ら進んで金銭の提供を申し出たものとは認めがたいから,B助手は,同人の供述するように,控訴人から謝礼を支払うように指示されたためにA教授に200万円を提供したとみるのが自然であるというのである。 しかし,(ア)についてみると,200万円という金額は,毎月10万円という金額が20か月集積された結果にすぎないから,40万円程度の月給と賞与のほかにアルバイト収入を得ていたB助手にとって多額ではない。 また,(イ)の点については,これを認めるに足りる証拠は存在していない。B助手は,大学内での噂や大学院生から聞いた話から学位取得の際に謝礼として金員を支払う必要があると思っていたので,控訴人に無断で謝礼を持っていったことが後日判明した場合に控訴人から叱責を受ける可能性があるという認識は持っていなかった。しかも,B助手は,昭和62年12月に山口の病院での勤務から帰ってきてからは,「教授に対しても言いたいことは言えるようになった。」と供述しているのであるから,控訴人からの制裁として何らかの措置が取られることをおそれていたとは考えられない。B助手と控訴人との人間関係は悪化しており,B助手が控訴人抜きの行動に及んだとしても不自然ではない。 (b) B助手の供述は,次のとおり客観的事実と矛盾しており,信用できない。 考えられない。B助手と控訴人との人間関係は悪化しており,B助手が控訴人抜きの行動に及んだとしても不自然ではない。 (b) B助手の供述は,次のとおり客観的事実と矛盾しており,信用できない。 Ⅰ B助手は,「平成4年1月か2月ころに,控訴人から,歯科理工学講座で指導を受け,矯正用接着剤に関する研究を行い,学位を取得するように勧められた。」,「平成4年4月に控訴人がA教授に『B助手を理工学でお願いしたい』と紹介した。」,「平成4年4月に,控訴人から,実際の指導はC助教授から受けるように指示された。」などと供述するところ,B助手が取り組んでいた接着剤の研究には材料工学に関する知識が不可欠であり,歯科理工学教室の協力が得られなければできないから,上記供述によれば,B助手が接着剤の研究を開始したのは平成4年4月以降ということになる。 しかし,B助手は,(ア)平成4年10月14日の大宮で行われた矯正歯科学会で「フッ素徐放性レジンの矯正臨床への試行」というテーマで発表を行っており,その準備期間からみて研究のスタートが同年4月であるということはあり得ない。そして,B助手は,(イ)平成2年10月から11月半ばころに「耐齲蝕性を重視した矯正用接着剤の研究-フッ素徐放性レジンの応用」という研究課題で科研費の申請を行い,その採用内定通知を受け,平成3年5月2日に交付申請の内容をまとめているのであり,そのころには研究に着手していたこと,(ウ)平成3年12月17日に歯科矯正学講座と歯科理工学講座の間で消耗品代の支払に関する合意がなされているが,これはこの当時既にB助手が理工学教室において研究を開始していたことを裏付けていることからすると,B助手が上記研究を開始したのは平成3年5月ころと認められる。以上によれば,控訴人からA教授への紹 が,これはこの当時既にB助手が理工学教室において研究を開始していたことを裏付けていることからすると,B助手が上記研究を開始したのは平成3年5月ころと認められる。以上によれば,控訴人からA教授への紹介時期に関するB助手の供述は信用できない。 Ⅱ B助手は「平成4年4月28日に,A教授,控訴人,C助教授,D医員とともに研究の打ち合わせをしたすぐ後に,控訴人と2人切りになり,控訴人からA教授への謝礼の指示がなされ,その後具体的な金額の指示がなされた。」とも供述する。しかし,ア 確かに,平成4年4月28日に上記5名で集ってB助手の研究に関する打ち合わせをしたが,同日は午後5時30分からOホテルでE大学歯学部第一口腔外科新入医局員歓迎会が開催される予定になっており,当時歯学部長であり会合の主催者の1人であった控訴人は,これに出席するためにB助手の研究に関する打ち合わせを中座し,午後4時30分ころにはE大学を出た。したがって,同打ち合わせ終了後に控訴人とB助手と2人きりになるとか,謝礼の指示をしたということはない。 イ B助手の上記供述は,接着剤に対する研究の開始時期とも符合しない。 ウ 控訴人がB助手の研究指導を依頼した相手は接着剤の第一人者のC助教授であり,接着剤について専門でないA教授にだけ謝礼を持参するように指示したというのは不自然である。 エ 原判決の指摘するとおり,上記供述は,B助手の「A教授と謝礼の支払を巡って小一時間も話しあった。」との供述部分とも矛盾している。 オ B助手は,A教授に謝礼を持参したかどうかの報告を控訴人にしていないし,A教授に対し指導が不十分であるとして抗議したとき控訴人に対しその旨の抗議をしていない。これらの事実は,B助手が控訴人から謝礼支払の 手は,A教授に謝礼を持参したかどうかの報告を控訴人にしていないし,A教授に対し指導が不十分であるとして抗議したとき控訴人に対しその旨の抗議をしていない。これらの事実は,B助手が控訴人から謝礼支払の指示を受けたとの事実と矛盾する。 Ⅱ B助手は,A教授と面会した際,金銭の受領を拒否していたのに約1時間ほど話をしていて「やっぱり要る。」というふうになってしまったと供述するが,これによれば約1時間にわたって謝礼を受け取ってほしいと説得していたはずであって,控訴人から言われて災難だと思って会ったとは考えられず,積極的にA教授に金員を受け取ってもらうために会ったと考えられる。 Ⅲ B助手は,乙第33号証を作成したのは控訴人が金銭の授受への関与を否定している旨聞き及んだためであると供述するが,その供述が不自然であることは,原判決の指摘するとおりである。同書証は,後になって,控訴人を200万円の贈収賄事件に引き込むためにわざわざ作成ないし書換えられたものとみるべきである。 ④ B助手は,控訴人からの指示ではなく,謝礼をA教授に持って行けば,研究も臨床もできるし,指導もしてもらうことができ,その結果順調に進めば学位を取れるという思惑で,A教授に200万円を交付したのである。すなわち,(a) B助手は,適切な研究指導をしてもらえるように何らかの措置を取る必要があったが,自分を外来医長から更迭するなどした控訴人は当てにならないから,A教授に頼らざるを得ず,しかも,同教授は学位取得の審査の際主査又は副査を勤めることが確実であったから,B助手にとって,A教授に金員を持参する利益はあった。 (b) これに対し,控訴人には,A教授に対する謝礼をB助手に指示する動機がなかった。 (c) B助手は,学位取得の際に謝礼と ,B助手にとって,A教授に金員を持参する利益はあった。 (b) これに対し,控訴人には,A教授に対する謝礼をB助手に指示する動機がなかった。 (c) B助手は,学位取得の際に謝礼として金員を支払う必要があるとの噂を耳にしており,大学院生に謝礼をしなければならないのか相談したところ,何も答えなかったり,払うのが当然であるとの答えがあったことから,自ら進んで謝礼をすることを決意し,また,だいたいの金額も聞いていたので,その額を自ら決定し,ただ一度に多額の金額を支払うのは困難であったため,A教授にその支払方法について相談した。 ⑤ 控訴人が200万円の授受に関与したということが新聞に掲載されるまでは,関係者の誰もそのことを話題にしたり,控訴人の責任を問うたり,控訴人に事実確認をしたりしたことがなかった。このような経緯は,控訴人が200万円の授受に関与していたとすると不思議である。 (2) 医員手当等の寄付等について① B助手の医員手当の寄付B助手は,T歯科大学からE大学歯学部矯正学講座にただ1人入局したものであり,当時頼りになるのは同じくT歯科大学から来た控訴人だけであった上,入局後すぐに医員となり,翌年には助手に採用されたのであるから,昭和59年当時,控訴人はB助手の恩人であった。したがって,B助手が講座運営に苦しんでいた控訴人の状況を察して医員手当の寄付を申し出たのは自然なことであって,控訴人による強要があったとするのは不自然である。 ② F助手及びG助手の給与の寄付原判決は,控訴人がF助手及びG助手に対し,寄付を求めた際,同意できないのであれば,助手採用が5か月くらい後になる旨申し渡したと認定する。 しかし,G助手は,そのようなことを言われたことは記憶していないと供述 助手及びG助手に対し,寄付を求めた際,同意できないのであれば,助手採用が5か月くらい後になる旨申し渡したと認定する。 しかし,G助手は,そのようなことを言われたことは記憶していないと供述するし,F助手も,現実にそのような発言があったとは供述しておらず,自分のニュアンスとして任官を遅らせる趣旨だと感じたと供述するのみである。しかも,F助手の供述によっても,控訴人の発言は全員を同一に扱うという趣旨にすぎず,F助手が控訴人の発言のニュアンスを取り違えたにすぎない。 ③ B助手の研修旅行中の給与の保管自己都合により海外留学する場合,退職又は休職していくのが通例であるところ,B助手は,そのような処置をとらないまま海外留学しようとしたことから,帰国後講座内で他の医員から反感を抱かれるおそれが生じた。そこで,B助手は,帰国後の講座内での立場を確保できるようにするため,自己の意思で給与を寄付したのである。 B助手のした寄付の方法は,(ア)給料振込口座のキャッシュカードとともに暗証番号を書いた紙をH助手に引き渡し,(イ)家賃相当額は別の口座に振り込まれるようにするというものであるが,控訴人が寄付を要求したとするにはあまりに不自然な寄付の方法である。 また,B助手から寄付された金員は,費消されることなく講座で保管されていたのであり,この点も,控訴人が積極的に寄付を求めたのではなく,B助手が自主的に寄付した事実と符合する。 ④ ティーチングアシスタント手当の寄付V院生らがティーチングアシスタント手当を寄付したのは任意のものであり,控訴人が強要したわけではない。この点は,原審で主張したとおりである。 (3) 処分権限の濫用について① 本件懲戒処分の処分事由は,(ア)科研費の謝金の不正処理,( たのは任意のものであり,控訴人が強要したわけではない。この点は,原審で主張したとおりである。 (3) 処分権限の濫用について① 本件懲戒処分の処分事由は,(ア)科研費の謝金の不正処理,(イ)B助手に対しA教授に研究指導料及び材料費として240万円を支払うように指示したこと,(ウ)医員等に対する手当,給与を寄付させ,あるいはH助手において助手給与を預かり保管していることを知りながら返却しなかったことであるが,上記(イ),(ウ)について処分事由が存在しないことは,上記主張のとおりである。 ② 科研費謝金の不正流用について原判決は,控訴人が常習犯的に科研費の不正取得を繰り返していることを重視して懲戒免職処分を合理的裁量の範囲内であると結論付けている。 しかし,本件事案は,次のような特質を有しており,補助金等不正流用に関する他の懲戒処分事例と比較すると,本件に対する懲戒処分としては,重くても停職処分にとどまることが明らかである。現に平成8年3月7日に開かれた評議会では,科研費謝金の不正流用問題については訓告処分が相当であるとの判断がなされている。なお,科研費謝金の目的外使用は,人事院が作成した懲戒処分の指針(甲82)の「諸給与の不適正受給」に該当し,又はこれに準じる行為というべきであるところ,同指針によると,その懲戒処分標準例は「減給又は戒告」である。 (a) 控訴人が科研費謝金を謝金会計としてプールしていた理由は,講座の研究費不足を補うためであり,私的に流用するためではない。そして,控訴人による科研費謝金の目的外使用の背景には,講座制による慢性的運営費不足と科研費制度における過度の使途制限という2つの構造的問題が存在しているのであって,この点を考慮する必要がある。 (b) 本件の科研費の申請書 的外使用の背景には,講座制による慢性的運営費不足と科研費制度における過度の使途制限という2つの構造的問題が存在しているのであって,この点を考慮する必要がある。 (b) 本件の科研費の申請書類は,毎年本人によって作成されており,また,本件科研費謝金の支出については,対応関係が明確でないとはいえ,謝金の対象となるべき労務の提供は存在していた。したがって,目的外使用であるかもしれないが,架空伝票等が作成されていたわけではなく,不正取得ではない。 (c) 科研費謝金の支払対象者は,謝金を謝金会計に拠出することを講座内の慣例として受容し,自由意思に基づいて寄付したものと評価されるべきであり,控訴人が謝金の寄付を強要した事実はない。 (d) 控訴人による科研費謝金の目的外使用がなされた期間は,平成2年度から平成7年度までであり,他の懲戒処分事例と比較してそれほど長期ではない。 (e) 控訴人による目的外使用がなされた謝金の金額は原判決の認定によっても106万3000円であって,他の懲戒処分事例と比較すると極めて少額である。 (f) 控訴人は,目的外使用をした謝金に相当する金員を返還した。 (g) 控訴人は,歯学部教授会の辞職勧告を受けて辞職を申し出た。 ③ 控訴人に対する本件懲戒処分が他の関係者であるA教授及びB助手に対する処分と比較してバランスを失していることは原審で主張したとおりである。 ④ 本件懲戒処分の手続が違法であることも,原審で主張したとおりである。加えて,本件懲戒処分を決定するに当たり,評議会は,控訴人の陳述内容を十分に調査しておらず,この点も違法である。 3 上記主張に対する被控訴人の反論(1) 学位取得に係る研究の指導を巡る金銭の授受への関与について① B助手とA教授 は,控訴人の陳述内容を十分に調査しておらず,この点も違法である。 3 上記主張に対する被控訴人の反論(1) 学位取得に係る研究の指導を巡る金銭の授受への関与について① B助手とA教授の供述は,大筋で一致している上,その内容は具体的かつ自然で無理がなく,十分に信用することができる。 ② 控訴人が,A教授に,B助手の研究指導料として240万円を支払わせる提案をし,次いで,B助手に対し,謝礼を持って行くことを指示した事実は,次の諸点からも裏付けられる。 (a) B助手は,学位を取得するため,控訴人からA教授に紹介され,歯科理工学講座で接着剤の研究を始めた。 (b) B助手は,歯科矯正学講座の助手にすぎないのに対し,A教授は,歯科理工学講座の教授であって,B助手の方からA教授に対し謝礼の交渉を持ちかけるというのは,はばかられる。 (c) B助手の上司である控訴人が,A教授に対し,B助手を紹介した手前,研究に対する謝礼の話を持ちかけたと考えるのが自然である。 ③ 控訴人は,B助手の歯科理工学講座における研究の開始時期が平成3年5月ころであるのに,B助手が「平成4年4月に控訴人からA教授に『B助手を理工学でお願いしたい』と紹介した。」と供述したと主張する。そして,上記研究開始時期が平成3年5月ころである根拠として,(ア)B助手が平成4年10月14日の大宮で行われた矯正歯科学会で「フッ素徐放性レジンの矯正臨床への試行」というテーマで発表を行っていること,(イ)平成2年10月から11月半ばころに「耐齲蝕性を重視した矯正用接着剤の研究-フッ素徐放性レジンの応用」という研究課題で科研費の申請を行い,その採用内定通知を受け,平成3年5月2日に交付申請の内容をまとめていること,(ウ)同年12月17日に歯科矯正学講座 矯正用接着剤の研究-フッ素徐放性レジンの応用」という研究課題で科研費の申請を行い,その採用内定通知を受け,平成3年5月2日に交付申請の内容をまとめていること,(ウ)同年12月17日に歯科矯正学講座と歯科理工学講座の間で消耗品代の支払に関する合意がなされていることを指摘する。 しかし,(ア)についてみると,B助手は,平成3年12月ころ,控訴人に,D助手(当時大学院生)が行っていた接着剤の研究を手伝うように指示され,平成4年3月ころまで,株式会社I(以下「I」という)が開発していた接着剤の性能を確かめるため,学生を対象に実験を行ったことがあり,その実験終了後元どおり矯正の臨床に戻ったのであり,上記発表は,その実験の結果を発表したにすぎない。(イ)で指摘されている研究はD助手が行ったものであり,B助手はその研究に関与していない。(ウ)の合意も,歯科矯正学講座に属するD助手が歯科理工学講座で学位取得を目指して研究中であることから,その研究に要した費用に関するものであって,B助手の研究とは関係がない。したがって,控訴人の主張は,理由がない。 (2) 医員手当等の寄付等について控訴人が助手に対し,手当,給与の寄付を強要した事実は,原判決が認定するとおりである。 (3) 処分権限の濫用について本件懲戒処分が濫用でないことは,原審で主張したとおりである。 第3 争点に対する判断 1 科研費謝金不正流用及びその隠蔽工作について当裁判所も,控訴人は,科研費に係る謝金の執行に際し,H助手に指示して不正な事務手続を行わせ,謝金の交付を受けた上,歯科矯正学講座内に保管し,他の目的に費消・流用するとともに,その不正経理発覚後,J院生に対し隠蔽工作をした(他の大学院生に対する隠蔽工作があったとまでは認められない)と認めるの の交付を受けた上,歯科矯正学講座内に保管し,他の目的に費消・流用するとともに,その不正経理発覚後,J院生に対し隠蔽工作をした(他の大学院生に対する隠蔽工作があったとまでは認められない)と認めるのが相当であると判断する。その理由は,次のとおり訂正するほか,原判決75頁7行目から102頁2行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決75頁につき,9行目の「、第三五号証(前同)」を「及び弁論の全趣旨」と,10行目から末行にかけての「の申請交付までの主な事務手続に関し」を「についての申請から研究終了までの主な事務手続に関しては(ただし平成2年ないし平成7年当時)」と各改める。 (2) 同77頁5行目の「収支決算報告書」の次に「 )」を加える。 (3) 同78頁3行目の「事実が」の前に「という流れないし取り扱いになっていた」を加える。 (4) 同81頁10行目の「R講師は、」の次に「謝金関係の書類を自ら書いていないし,」を加える。 (5) 同82頁につき,4行目の「従事したが、」の次に「自己の研究のための作業との区別がついておらず,」を加え,5行目の「また」から6行目末尾までを削除する。 (6) 同84頁10行目の「認めることができる。」の次に次のとおり加える。 「また,J院生は,人事院での証人尋問において,平成5年度一般研究C及び平成6年度一般研究Cの各研究の謝金に関する謝金支出伺い及び領収書中のJ院生の署名部分(乙24,30の各(2),(5))は入学当初に書込部分が白紙の状態の用紙数枚に署名するように言われて署名したものを利用されたと供述するが,平成5年度の研究の書類と平成6年度の研究の書類とは書式・体裁が一部異なっているのであって,これらをいずれも入学時に署名したとのJ院生の供述はいかにも不自 れて署名したものを利用されたと供述するが,平成5年度の研究の書類と平成6年度の研究の書類とは書式・体裁が一部異なっているのであって,これらをいずれも入学時に署名したとのJ院生の供述はいかにも不自然である。」(7) 同85頁3行目を「右の点からJ院生の供述が全面的に信用できないとまではいえず,少なくとも前記認定の限度では信用することができる。」と改める。 (8) 同88頁末行の「12ないし16記載のとおり」の次に「(ただし,番号12の『態様』欄中の『1日7時間』を『1日4時間』と訂正する)」を加える。 (9) 同89頁につき,3行目から4行目にかけての「九一万〇〇〇〇円」を「10万円」と改め,9行目の「されているが、」の次に「そのうち平成3年度及び平成4年度の各研究については,」を加える。 (10) 同90頁6行目の「平成五年度についても同様である。」を削除する。 (11) 同91頁3行目の「記載され」から5行目の「明らかなように」までを「記載されていることからも明らかなように」と改める。 (12) 同92頁1行目から2行目にかけての「研究代表者である謝金業務を行っているかにつき認識がない」を「謝金業務を行っているとの認識がない」と改める。 (13) 同94頁3行目の「原告及びK助教授」を「K助教授等(平成7年度は控訴人も加わる)」と改める。 (14) 同96頁5行目の「研究費で」を削除する。 (15) 同97頁4行目の「関係書類」の次に「の多く」を加える。 (16) 同98頁につき,2行目の「法律以下の法令」を「法律3条,11条」と改め,3行目の「規程」の次に「9条」を加え,5行目の「乙第一号証の七」を「乙第1号証の10」と改める。 2 学位取得に係る研究の指導を巡る金銭の授受への関与について(1) 律3条,11条」と改め,3行目の「規程」の次に「9条」を加え,5行目の「乙第一号証の七」を「乙第1号証の10」と改める。 2 学位取得に係る研究の指導を巡る金銭の授受への関与について(1) 証拠(甲7の(1)ないし(4),9,10,13ないし17,21の(1)ないし(6),25の(1),26の(1)ないし(3),29,34,39,45,46,48の(1),(2),49ないし51,55の(1)ないし(3),56の(2),59,60,76,77,79ないし81,84,乙1の(1)ないし(13),3の(1)ないし(8),4の(1)ないし(7),16の(1)ないし(7),17の(1)ないし(7),18の(1)ないし(8),19,33,43の(1)ないし(5),49,52,53,60ないし62,証人B,同A,同D,控訴人本人《原審,当審》)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。 ① D助手(昭和39年1月生)は,昭和63年にU大学歯学部を卒業して同年4月にE大学歯科矯正学講座に入局し,平成元年ころから歯科理工学教室で指導を受けながら矯正用接着剤に関する研究をしていた。しかし,大学院生は科研費の研究代表者になれないため,「耐齲蝕性を重視した矯正用接着剤の研究・フッ素徐放性レジンの応用」との研究課題で平成3年度以降の科研費(一般研究C)を申請した際,B助手(昭和33年3月生)を形式上の研究代表者とし,実際の実験はD助手(当時大学院生)が中心になって行い,科研費の申請書類の詳細もD助手が記入した。もっとも,控訴人は,B助手について,それまで行っていた研究のレベルが低いとして,後輩ではあるが優秀なD助手の下で矯正用接着剤の研究をさせた方がよいとの考えを有しており(なお,控訴人は,平成3年7月ころ,外来医長であったB助手を解 ,それまで行っていた研究のレベルが低いとして,後輩ではあるが優秀なD助手の下で矯正用接着剤の研究をさせた方がよいとの考えを有しており(なお,控訴人は,平成3年7月ころ,外来医長であったB助手を解任したこともある),B助手に指示してD助手の下でその研究に協力させていた。そのため,D助手が,平成3年9月に大阪で行われた日本矯正歯科学会(甲59)で発表した「フッ素徐放性矯正用接着剤による耐齲蝕性の向上」という研究においても,その研究者のセカンドネームとしてB助手の名前が記載された。そして,平成3年8月にIからフッ素徐放性レジンを利用して試作した矯正用接着剤の新材料が提供され,同材料に関し大学生を対象とする実験(以下「大学生を被験者とする実験」という)をすることになったが,D助手は,同年11月に学位取得に向けた研究発表を済ませ,以後学位論文の作成に研究の比重を移したことから,その後はB助手が中心になって,同実験の準備をし,平成4年1月から3月ころにかけて同実験を実施した。 ② ところで,平成4年4月28日午後2時ころ,歯科矯正学講座において,同講座から控訴人,B助手,D助手が,歯科理工学講座からA教授,C助教授が集まり,大学生を被験者とする実験を踏まえて今後B助手が歯科理工学講座での指導を受けながら矯正用接着剤の研究を進めていくことが確認され,その研究方法について話合いがなされた。なお,この会合のことは,歯科矯正学講座の日記(甲48の(2)),A教授の日記(甲55の(2)),B助手の手帳(乙60)に記載されている。そして,同日は,午後3時から矯正科の医局会(控訴人は参加しなかったが,B助手は本来参加すべきものである)が行われ,また,夜は,E大学歯学部第一口腔外科新入局員歓迎会がOホテルで開催された。 ③ 次いで,平成4年5月26日 正科の医局会(控訴人は参加しなかったが,B助手は本来参加すべきものである)が行われ,また,夜は,E大学歯学部第一口腔外科新入局員歓迎会がOホテルで開催された。 ③ 次いで,平成4年5月26日にも,朝からB助手,D助手,A教授,C助教授らがB助手の実験についての打合せをした。なお,この会合のことは,A教授の日記(甲55の(1))に記載があり(なお,控訴人が参加したとの記載はない),また,B助手の手帳にもA教授と会ったこと又はその予定が記載されているが,歯科矯正学講座の日記にはその旨の記載がない。そして,歯科矯正学講座では,同日は,午前中に幹部会が,午後に他の教授の特別講義が行われていた。 ④ B助手は,平成4年4月ないし5月ころから本格的に歯科理工学講座でC助教授の指導を受けながら矯正用接着剤の研究をするようになった(矯正用接着剤についてはC助教授が専門家であり,A教授には専門的知識がない)が,そのころ,A教授に対し,2か月に1度20万円ずつ,2年間合計240万円を支払うと約束し(以下,この約束に基づき支払われる金員を「本件約束金」という),そのころから,本件約束金をA教授の教授室に持参してこれを手渡すようになった。なお,C助教授は,そのことを知らされていなかった。 A教授は,B助手から本件約束金を受領すると,これをそのままA教授名義の株式会社L銀行岡山支店の普通預金口座に入金し,個人資金と混同し,その一部を費消し,その口座の残高が200万円を下まわることもあった。同口座における本件約束金の入金の経緯は次のとおりであり(入金額は平成5年7月2日入金分を除きいずれも20万円ずつ),これによれば,最初の入金日は平成4年6月25日であった。 平成4年6月25日,7月8日,9月8日,11月16日 は平成5年7月2日入金分を除きいずれも20万円ずつ),これによれば,最初の入金日は平成4年6月25日であった。 平成4年6月25日,7月8日,9月8日,11月16日平成5年2月5日,3月16日,7月2日(ただし40万円)7月23日,12月22日なお,B助手の手帳(乙60,61)にも,A教授への本件約束金の持参予定日が記載されているが,その内容は次のとおりである。 平成4年5月1日,7月1日,9月1日,11月2日平成5年1月4日,3月1日,5月1日,7月1日9月1日,11月1日平成6年1月1日,3月1日⑤ その一方で,A教授は,控訴人との間で,歯科矯正学講座のD助手やB助手が歯科理工学講座で指導を受けることで同講座にそのための出費が生じることから,平成3年度ないし平成5年度の各予算について,次のとおり,研究協力費として,歯科矯正学講座(病院予算)の予算で歯科理工学講座の消耗品を購入する旨の合意をした。 (a) 平成3年度研究協力費同年12月17日付け合意 50万円(b) 平成4年度研究協力費平成5年1月8日付け合意 50万円(c) 平成5年度研究協力費同年12月15日付け合意 30万円⑥ B助手は,大学生を被験者とする実験の結果に基づき,平成4年10月に大宮で行われた日本矯正歯科学会(甲60)で,「フッ素徐放性レジンの矯正臨床への試行」というテーマで研究発表を行った。しかし,B助手は,その研究が順調に進まず,また,IがB助手の研究を待たずに新材料を製品化したこともあって,研究テーマを変更することになっ レジンの矯正臨床への試行」というテーマで研究発表を行った。しかし,B助手は,その研究が順調に進まず,また,IがB助手の研究を待たずに新材料を製品化したこともあって,研究テーマを変更することになった。そして,新しいテーマについて,平成5年11月に鹿児島で行われた日本矯正歯科学会で「クエン酸エッチングが接着強さ・歯質表層の形状に与える影響」との研究発表をし,平成6年10月にE大学で行われた岡山歯学会でも,「クエン酸水溶液による被着面処理とブラケットの接着について」との研究発表をしたものの,C助教授やD助手の指導に従わないところがあり,また,C助教授らを介さないで歯学部理工学講座の助手に個人的に相談して実験を進めるなどしたことから,C助教授,D助手らとの関係は良くなかった。 その挙げ句,B助手は,A教授に対し,C助教授の指導が不十分であるなどと抗議することもあった。なお,A教授は,平成5年末ころ,B助手に対し,本件約束金の支払額が合計200万円に達したとき,金員の支払はこれ以上継続しないでよいと伝え,B助手は,その後その支払をやめた。 ⑦ B助手は,平成7年12月7日,学位取得に向けた研究発表会で,「矯正用DBS応用時の歯面損傷の軽減に関する研究-クエン酸水溶液による被着面処理-」とのテーマで発表を済ませた。しかし,控訴人は,そのころ,B助手に対し,研究者として進むのではなく,山口の病院に行って開業の準備を進めるように述べた。 ⑧ ところで,J院生は,歯科矯正学講座で研究していた歯の動揺度測定装置について控訴人の了解を得ずに岡山県の企業育成事業に申し込んだところ,同年11月,その対象事業に選ばれた。しかし,J院生は,控訴人から,同事業の対象となることを承諾する前提として歯科矯正学講座と岡山県との間で一定の合意をすることを要求され 成事業に申し込んだところ,同年11月,その対象事業に選ばれた。しかし,J院生は,控訴人から,同事業の対象となることを承諾する前提として歯科矯正学講座と岡山県との間で一定の合意をすることを要求され,このままでは自分の地位が危ないと考え,同年12月8日,文部省学術国際局研究助成課に電話をかけて,(ア)控訴人に係る科研費補助金の執行につき不正があること,(イ)控訴人の教室の講師や助手が学生や患者を対象にマルチ商法まがいの行為を行っていること,(ウ)控訴人が学生にアルバイトをさせ,賃金を取り上げ遊興費に充てていることを通報し,次いで,同月11日,再度同課に電話をかけて,(エ)自分は控訴人から大学院の休学を迫られていること,(オ)近く博士の学位を取得する予定の助手が,控訴人から研究指導料として,多額の金銭を要求されていること,(カ)科研費で購入することとなっている測定器について,代金が支払われているのに物品が納入されていないこと,(キ)自分はアルバイトをしておらず,お金も受け取っていないのに,自分の印鑑を押した出勤簿や領収書があることを通報した。そこで,同課長はE大学事務局長に対し,通報内容に係る事実関係の調査をして,しかるべき対応措置をとるように要請した。しかし,同課長は,文部省としては当面科研費補助金の不正経理の件のみを問題とするつもりであり,その他の問題は大学内で処理してほしいとの意向を示していた。 ⑨ E大学事務局長は,同年12月12日,歯学部長であるA教授及び歯学部事務部長に上記通報があったことを伝えるとともに,同事務部長に対し,関係書類の確保と内容の点検を指示し,また,経理部長に対し,医学部,歯学部(附属病院を含む)の平成6年度及び7年度の科研費補助金に係る特別監査の実施を指示した。 ⑩ A教授は,上記通報内容を聞くと, 類の確保と内容の点検を指示し,また,経理部長に対し,医学部,歯学部(附属病院を含む)の平成6年度及び7年度の科研費補助金に係る特別監査の実施を指示した。 ⑩ A教授は,上記通報内容を聞くと,平成7年12月13日,株式会社L銀行の普通預金口座から200万円を引き出し,そのころ,B助手に対し,同助手から受領した200万円を返還したい旨申し出た。B助手は,A教授に対し待ってほしいと言って直ちにこれを受領せず,J院生と相談の上,同年12月14日,歯学部事務部長に対し,「学位論文の作成に関し,研究指導したA教授から,研究指導謝金としてこれまでに渡してきた200万円を返還したいと言われた」と話してその対応について相談した。そして,A教授は,同年12月18日,学長に対して,本件約束金の授受について,その経緯を説明するとともに,責任を取り辞任したいとの意思を表明するに至った。 ⑪ B助手は,歯学部事務部長から,A教授申出の200万円を受け取ったらよいと助言されたので,同年12月20日ころ,A教授から200万円を返還してもらった。そのころ,A教授は,B助手の求めに応じ,200万円を受領し返還したとの経緯を記載した書面(以下「旧受領確認書」という)を作成したが,その後,B助手から,隔月20万円を支払ったのは控訴人の要請によるものであることを明示する内容の書面に書き替えることを求められたことから,次のとおりの内容を記載した同年12月20日付け書面(乙33。以下「新受領確認書」という)を作成した。 「矯正科中後忠男教授の要請により,矯正科B先生より指導料並びに材料費として隔月20万円ずつ2年間計240万円受けとるように言われ,20ヶ月にわたり計200万円受取りましたが,この金額から特に支出しなければならないような事態も起きず,今般研究発 り指導料並びに材料費として隔月20万円ずつ2年間計240万円受けとるように言われ,20ヶ月にわたり計200万円受取りましたが,この金額から特に支出しなければならないような事態も起きず,今般研究発表会も無事終了しましたので,ここにB先生に返却いたします。」⑫ しかし,E大学事務局は,科研費補助金の執行に係る不正経理の問題を中心に調査を進め,控訴人も,平成7年12月13日にそのことで事務局長から事情聴取を受ける(A教授及び歯学部事務部長も立会い)などしたが,本件約束金や研究指導に対する謝礼の問題で事情聴取を受けたことはなかった。 ⑬ B助手は,E大学事務局長に対し,平成8年1月11日,学位論文作成に係る謝礼については,一件落着したとの話があるが,事実かとの照会をし,翌11日,学位論文作成に係る研究指導料の授受についての経緯を説明した。しかし,その後も,控訴人は,その問題で調査を受けたことがなく,同年1月25日,同年1月30日,翌31日,翌2月1日に開催された歯学部臨時教授会でも専ら科研費補助金の不正経理の問題が審議された。また,控訴人は,平成7年12月下旬ころから平成8年1月にかけて,A教授,E大学事務局長,評議員らから辞職を勧められたが,その際も,本件約束金や研究指導に対する謝礼の問題が話題になったことはなかった。 ⑭ 同年2月5日に開催された歯学部臨時教授会で歯学部調査委員会が設置され,同日第1回歯学部調査委員会が開催された。そして,翌6日に第2回(午前),第3回(午後)の歯学部調査委員会が開催されたが,第2回歯学部調査委員会において,歯学部事務部長は,科研費補助金の不正経理の件,博士号授与に伴う金員の要求の件及び勤務時間中にマルチ商法まがいの行為が行われている件について調査してもらいたいと述べるとともに,博士号授 会において,歯学部事務部長は,科研費補助金の不正経理の件,博士号授与に伴う金員の要求の件及び勤務時間中にマルチ商法まがいの行為が行われている件について調査してもらいたいと述べるとともに,博士号授与に伴う金員の要求の件とは,B助手の学位取得に伴い,控訴人から金員の要求があったことと,同助手が控訴人から,歯科理工学講座において指導を受けるのであればA教授に金員(20万円ずつ12回)を持っていくように強要されたことであるとの説明をした。 ⑮ 同年2月7日,NHKニュースでE大学歯学部教授が科研費を流用し,水増し請求をしているとの報道があり,また同日の中国新聞(甲46)に,A教授(ただし匿名)が200万円を受領した旨の記事が掲載され,同教授の説明として「助手本来の所属講座の教授が私の目の前で助手に現金の支払を指示した。道義的には釈然としなかったが,先輩教授の言うことだから,受け取ってしまった。うかつだった。」との話が載っている。また,同月9日の中国新聞(甲34)には,控訴人にお礼として240万円を支払うように強要されたとのB助手の話が掲載された(ただしすべて匿名)。 ⑯ 同年2月21日に開催された臨時教授会では,歯学部調査委員会の結果報告が承認され,また,控訴人に対する辞職勧告理由書が承認された。そして,同日,学部長事務代理が控訴人に対し口頭で辞職勧告をするとともに,辞職勧告書を手渡し,控訴人は,同日,同年3月31日付け辞職願いを提出した。すると,同年2月22日の毎日新聞(甲49)には,B助手(ただし匿名)の話として,控訴人に対する辞職勧告について「うれしいの一言。十年以上付き合ってきたが,研究,臨床そして人生も無駄にさせられた。もう大学に来てほしくない。」との話が,また,J院生(ただし匿名)の「金のために教授をやり,研究も第三者 告について「うれしいの一言。十年以上付き合ってきたが,研究,臨床そして人生も無駄にさせられた。もう大学に来てほしくない。」との話が,また,J院生(ただし匿名)の「金のために教授をやり,研究も第三者にやらせて研究者づらをしていただけの人だった。辞職ではなく,大学側が厳正な処分を下してほしい。」との話が掲載された。 ⑰ なお,A教授は,平成8年1月24日,静養を理由として歯学部長としての活動を停止し(M歯学部附属病院長に歯学部長事務代理の発令があった),同年2月13日,学長に対し,同年2月29日付けで学部長を辞任し,同年3月31日付けで教授を辞職したい旨の意思表示をして辞表を提出した。 ⑱ ところで,E大学歯学部に限らず,学位の取得について謝礼をするとの風評が大学院生や助手の間であり,同年3月22日に開かれたE大学評議会でも,評議員から,学位授受の謝礼として100万円単位の支払がなされているとの風評があることが指摘された。 (2) 被控訴人は,「控訴人は,平成4年4月28日又は同年5月26日,A教授,C助教授,B助手及びD助手とB助手の研究につき打合せを終えた後,歯科矯正学講座教授室で,A教授に対し,B助手が歯科理工学講座で研究を行うに当たり,機械の使用料,機械の操作担当者に対する謝礼,消耗品が必要であることを理由に,B助手に月額10万円として2年分合計240万円を持参させるのでこれを受け取るように申し入れ,次いで,B助手に対し,A教授に研究指導料として月額10万円を隔月に20万円ずつ2年間合計240万円を持参するように指示した。 このため,B助手は,A教授を訪ね,研究指導料の支払につき相談し,その後,本件約束金合計200万円を支払った。」として,控訴人が本件約束金の授受に関与した旨主張するところ,B助手の供述(歯学部調査委員 のため,B助手は,A教授を訪ね,研究指導料の支払につき相談し,その後,本件約束金合計200万円を支払った。」として,控訴人が本件約束金の授受に関与した旨主張するところ,B助手の供述(歯学部調査委員会《乙1の(5)》,人事院での証人尋問(乙53),原審証人尋問における各供述)及びA教授の供述(歯学部調査委員会《乙1の(8),(10)》,人事院での証人尋問(乙52),原審証人尋問における各供述)は,細部を除き上記主張に概ね沿うものである。 これに対し,控訴人は,上記主張を否認し,A教授に対しB助手から研究指導料等の金銭を受け取るように提案したことも,B助手に対しA教授に研究指導料等の名目で金銭を提供するように指示したこともないと主張し,その旨供述(歯学部調査委員会《乙1の(10)》,原審及び当審の各本人尋問における各供述)し,陳述書(甲76,84)にもその旨記載する(以下,控訴人の上記各供述及び陳述書の作成を併せて「控訴人の供述」という)。 そこで,B助手,A教授及び控訴人の各供述の信用性について検討する。 (3) 本件約束金の授受に関する上記3名の各供述内容は,概ね次のとおりである。 ① B助手の供述内容(a) 平成3年12月ころからD助手の矯正用接着剤の研究の手伝いをしていたが,平成4年1月か2月ころ(歯学部調査委員会における供述)又は2月か3月ころ(人事院での証人尋問における供述),控訴人から,学位を取得するために,D助手(当時大学院生)と同じく,歯科理工学講座で指導を受け,矯正用接着剤の研究を行うように指示された。そして,そのころ,控訴人にA教授を紹介してもらい(ただし,原審証人尋問における供述中には,紹介してもらったのは平成4年4月28日であるとの供述部分がある),その後,控訴人から,実際の指導は歯 れた。そして,そのころ,控訴人にA教授を紹介してもらい(ただし,原審証人尋問における供述中には,紹介してもらったのは平成4年4月28日であるとの供述部分がある),その後,控訴人から,実際の指導は歯科理工学講座のC助教授から受けるように指示された。さらに,A教授の同席していないときに,控訴人から,他の講座のお世話になるのでお礼をするように言われ,自分もお礼をすることは当然であると思ったが,盆,暮れにお菓子を持っていく程度のことだと考えていた。 (b) 平成4年4月28日,控訴人,A教授,C助教授,D助手と5人で今後の実験の計画について打合せをしたが,その後で控訴人とA教授が2人で歯科矯正学講座教授室で話をし,その話が終わった後,教授室に呼ばれて控訴人と2人で話をした。その際,控訴人から,「大学院生の場合は授業料を払って学位を取得するが,君の場合は給料をもらって研究できる。」として,他大学の例を引用しながら,月10万円で2年間分の合計240万円をA教授に支払うように指示された。 これに対し,240万円を1度で支払うことはできないと言うと,控訴人から,2か月に1回20万円ずつを2年間支払うように言われた。しかし,その場では返事をしないで教授室から出て行き,すぐにA教授に電話した上で,A教授とその教授室で面会した。そして,A教授に対し,研究指導に対する謝礼を支払う話をすると,A教授は,「控訴人から聞いているが,僕もおかしいと思う。」と言い,そうであれば支払わなくてすむと思ったが,小一時間ほど話をしていると,A教授から,「研究するにはお金がいる。」,「指導のため時間を削くので。」などと言われ,「やっぱり預かります。うまくいったらもらいます。」と言われた。そして,A教授の教授室を退室すると,控訴人から呼ばれて控訴人の教授室に行った。その間 」,「指導のため時間を削くので。」などと言われ,「やっぱり預かります。うまくいったらもらいます。」と言われた。そして,A教授の教授室を退室すると,控訴人から呼ばれて控訴人の教授室に行った。その間にA教授から控訴人に電話があったようであり,控訴人から「A教授から控訴人と君との間に信頼関係がないのではないかと言われた。A教授が不安がっている。」と言われた。このように指導教授2人から言われたら仕方ないと思い,平成4年5月から20万円ずつ隔月に2年間これを支払うことにした。A教授は,直接自分に要求することができないので,控訴人を通して要求しているのだと思った。 なお,最初に20万円を持参したのは平成4年5月1日であるから,その前に本件約束金の授受の合意をしたことに間違いがない。 (c) そこで,平成4年5月から2か月ごとに月初めにA教授の部屋で同教授に20万円ずつ手渡して支払った。このことは手帳(乙60,61)にも記載してある。しかし,Iが商品を製品化したためC助教授らが当初考えていた方法では学位論文に値する論文ができないこととなり,C助教授から指導に責任が持てないと言われ,指導が事実上打ち切られた。そのため,本件約束金の支払額合計が200万円に達した平成5年11月に,A教授から以後の支払は不要であると言われた。 (d) 自分は,A教授に対し,謝礼までさせながら研究指導が十分でないなどと6ないし7回抗議に行った。そして,歯科理工学講座の助手に個人的に指導を受けながら研究を進め,その結果,平成7年12月7日に研究発表ができた。 (e) 平成7年9月ころに他科のある先生に本件約束金の支払について相談したら,その人はびっくりし,訴えるか言いふらすしかないと言われたので,数人に本件約束金の支払について話をした。J院生もこのときに本 ) 平成7年9月ころに他科のある先生に本件約束金の支払について相談したら,その人はびっくりし,訴えるか言いふらすしかないと言われたので,数人に本件約束金の支払について話をした。J院生もこのときに本件約束金の授受の事実を知ったようである。 (f) そして,平成7年12月の発表会の1か月ほど前と1週間ほど前に,控訴人から,学位取得の謝礼の相場が500万円から1000万円であると言われたが,これを支払おうとしなかったところ,控訴人から山口の病院に行き早く開業するように言われた。 (g) 平成7年12月の研究発表が終わり,大学院生が事情聴取を受け出したころ,A教授から「悪かった,悪かった。」と言われ,本件約束金を返還したいとの意向を伝えられ,歯学部事務部長に相談の上,これを返還してもらった。そして,A教授に対し,200万円を受領し返還したとの経緯を記載した書面を下書きしてA教授に示し,旧受領確認書を作成してもらった。しかし,その後,控訴人が本件約束金の授受に関与していないと言い出したので,A教授に控訴人が関与していることを受領書に書き加えてほしいと伝え,平成7年12月20日,新受領確認書を作成してもらった(なお,新受領確認書の作成日についてのB助手の供述は,非常にあいまいである)。 ② A教授の供述内容(a) 平成4年1月か2月ころ,控訴人から,B助手を歯科理工学講座で研究させてほしいとの話があった。 (b) 平成4年5月26日,歯科矯正学講座の部屋において,控訴人,B助手,D助手,C助教授と5人で,B助手の学位取得のための研究について打合せをした。控訴人からB助手の指導を正式に頼まれたのはこのときが初めてである。その後,D助手,C助教授及びB助手が退室し,控訴人と2人になったとき,控訴人から,今後機械の 得のための研究について打合せをした。控訴人からB助手の指導を正式に頼まれたのはこのときが初めてである。その後,D助手,C助教授及びB助手が退室し,控訴人と2人になったとき,控訴人から,今後機械の使用料,オペレーターへの謝礼,消耗品費等がかかることを理由に,研究費をB助手に用意させること,具体的には2か月に1回20万円ずつ2年間持参させることの話があった。これに対し,自分は,学校でやることであるから歯科理工学講座でしかるべくやらせてもらうと答え,控訴人と押し問答となったが,自分が研究費を預かるということで押し切られた。 (c) その後,B助手から研究費について相談があり,このときにも,その必要はないと答えたが,研究するには大きな機械を借りる必要もあるし,機械を借りるということは人を動かさなければならないことから,研究費を預かることにした。しかし,B助手に対し,研究費は研究のために使う必要があるときに使用するが,その必要がなかったときは返還すると言っていた。 (d) B助手は,平成4年5月29日から本件約束金を持参するようになったが,際限なく続くので,200万円というきりのいいところで止めた。 (e) B助手に対する指導はC助教授がしたが,B助手は,その能力に問題があり,同助教授と衝突し,自分で勝手に指導してくれる助手を選び,その助手に研究の指導を受けたりしたため,その研究に一貫性がなかった。しかし,C助教授の苦労の結果,B助手は,平成7年12月7日に発表会で研究発表を済ませた。この間B助手の研究のために費用がかかったという事情がなかったため,上記発表会が終了した後に200万円を返還した。 (f) その後,200万円を返還してから若干日を置いて,200万円を受領し返還したとの経緯を記載した旧受領確認書を作成した 情がなかったため,上記発表会が終了した後に200万円を返還した。 (f) その後,200万円を返還してから若干日を置いて,200万円を受領し返還したとの経緯を記載した旧受領確認書を作成した。その後何日も経過しないときに,B助手から,本件約束金の授受が控訴人の要請に基づくものであると書き加えてほしいとの依頼があり,新受領確認書を作成した。 ③ 控訴人の供述内容(a) 私は,平成3年度科研費補助金一般研究Cの申請をしたころから,B助手に対し,研究テーマを矯正用接着剤にするように助言しており,B助手もこれを承諾していた。そして,上記科研費補助金が出る旨の内定があった平成3年4月か5月ころ,A教授を通じてC助教授に対し,B助手を歯科理工学講座に行かせるので指導をしてほしいと依頼した。 (b) 私は,B助手に対し,A教授のところに研究費指導料を持っていくように指示したことはない。 (c) 平成4年4月28日は,午後2時ころからのB助手の研究についての打合せに参加したが,同打合せがなされている途中に退席し,午後4時半にE大学歯学部を出て,午後5時半からパーティーが開かれることになっていたOホテルに向かった。そのパーティーは,E大学歯学部第一口腔外科新入医局員歓迎会であるが,N講師がE大学歯学部附属病院歯科麻酔室に赴任したことのお祝いの会も兼ねていたことから,歯学部長として同会に出席した。 (d) 同年5月26日に矯正学講座でA教授,C助教授,B助手,D助手に控訴人が加わって5人でB助手の研究の打合せをしたということはない。 (e) B助手に対し,学位の相場が500万円から1000万円と言ったことはない。ただし,B助手は研究者として不適であるため,B助手に対し,臨床を生かして開業するように勧め,その とはない。 (e) B助手に対し,学位の相場が500万円から1000万円と言ったことはない。ただし,B助手は研究者として不適であるため,B助手に対し,臨床を生かして開業するように勧め,その準備のために山口の病院に行くようにということは言った。 (f) B助手がA教授に200万円を支払い,後日その返還を受けたという事実は,平成8年2月2日夜にP医員から聞いて初めて知った。その後これを詳しく知ったのは,同年2月8日ころの毎日新聞を読んだときであり,その後同年2月7日の中国新聞の記事を友人が送ってくれた。 (4) 上記各供述内容を前記(1)で認定した事実に照らして検討する。 ① 被控訴人は,控訴人がA教授及びB助手に対し本件約束金の支払についての働きかけをした日をまず平成4年4月28日であると主張し,より具体的には,同日,控訴人,A教授,C助教授,B助手及びD助手がB助手の研究につき打合せを終えた後であると主張するが,この点はB助手の供述と一致する。なるほど,前記(1)で認定したとおり,平成4年4月28日午後2時ころ,歯科矯正学講座において,同講座から控訴人,B助手,D助手が,歯科理工学講座からA教授,C助教授が集まり,大学生を被験者とする実験を踏まえて今後B助手が歯科理工学講座での指導を受けながら矯正用接着剤の研究を進めていくことが確認され,その研究方法について話合いがなされた。 しかし,B助手の供述には次の疑問がある。 (a) B助手は,平成4年になってから,控訴人に,歯科理工学講座で指導を受け,矯正用接着剤の研究を行うように指示され,そのころ,控訴人にA教授を紹介してもらい,その後,控訴人から,実際の指導は歯科理工学講座のC助教授から受けるように指示されたと供述する。 しかし,前記(1 剤の研究を行うように指示され,そのころ,控訴人にA教授を紹介してもらい,その後,控訴人から,実際の指導は歯科理工学講座のC助教授から受けるように指示されたと供述する。 しかし,前記(1)で認定したとおり,D助手が歯科理工学講座で指導を受けながら矯正用接着剤の研究をしていたところ,B助手も,平成3年ころからD助手の上記研究に協力しており,同年11月からは中心になって大学生を被験者とする実験の準備を進め,その実験を実施しているのであって,平成4年になってから,控訴人にA教授を紹介してもらい,その後,控訴人から,実際の指導は歯科理工学講座のC助教授から受けるように指示されたというのは,いささか不自然の感を免れない。 (b) B助手は,「平成4年4月28日,控訴人,A教授,C助教授,D助手と5人で今後の実験の計画について打合せをした後,控訴人から,A教授に240万円を支払うように指示され,すぐにA教授と面会し,研究指導に対する謝礼の話をすると,A教授は,『控訴人から聞いているが,僕もおかしいと思う。』と言い,そうであれば支払わなくてすむと思ったが,小一時間ほど話をしていると,A教授から,『研究するにはお金がいる。』,『指導のため時間を削くので。』などと言われ,『やっぱり預かります。うまくいったらもらいます。』と言われ,A教授の教授室を退室した。すると,控訴人から教授室に来るように言われ,控訴人の教授室に行くと,『A教授から控訴人と君との間に信頼関係がないのではないかと言われた。A教授が不安がっている。』と言われ,指導教授2人から言われたら仕方ないと思い,平成4年5月から20万円ずつ隔月に2年間支払うこととした。」と供述する。 しかし,B助手がA教授と話し合う前に控訴人からB助手に対し具体的な支払方法まで含む詳細 れたら仕方ないと思い,平成4年5月から20万円ずつ隔月に2年間支払うこととした。」と供述する。 しかし,B助手がA教授と話し合う前に控訴人からB助手に対し具体的な支払方法まで含む詳細な指示があったのであれば,B助手とA教授との間で小一時間も話し合う必要があったというのは疑問であるし,「控訴人から聞いているが,僕もおかしいと思う。」と述べていたA教授が本件約束金の支払について気の進まないB助手と小一時間話し合っている間に態度を変えた経緯も明らかでない。 (c) B助手は,最初に本件約束金の20万円を持参したのが平成4年5月1日であるから,その前に本件約束金の授受の合意をしたことに間違いがないと供述し,上記20万円を持参した日を裏付けるものとして,同助手の手帳(乙60,61)を引用する。 しかし,前記(1)で認定したとおり,A教授は,B助手から本件約束金を受領すると,これをそのままA教授名義の銀行預金口座に入金していたところ,同口座への最初の20万円の入金日は平成4年6月25日であり,B助手の手帳に記載された最初の持参予定日である同年5月1日の2か月近くも後の日になっている。そして,B助手の手帳に記載されたそれ以後の本件約束金の持参予定日も,A教授の銀行口座への入金日と大きく異なっている(特に平成5年)し,B助手の手帳に記載された持参予定日の中には平成6年1月1日といった通常では考えられない日まで記載されている。そうすると,B助手の手帳における本件約束金の持参予定日の記載の正確性には問題があり,後記の新受領確認書の記載の問題と併せて考えると,平成8年に本件約束金の授受についての控訴人の責任が問題になってから記載されたものではないかとの疑問も生じるところである。 そして,B助手の手帳の記載に上記のよ 載の問題と併せて考えると,平成8年に本件約束金の授受についての控訴人の責任が問題になってから記載されたものではないかとの疑問も生じるところである。 そして,B助手の手帳の記載に上記のような疑問が生じる以上,これを引用するB助手の供述自体についても疑問を持たないわけにはいかない。 (d) そして,特に疑問であるのは,本件約束金の授受の合意後のB助手の控訴人に対する対応である。すなわち,B助手は,本件約束金を実際に支払っていることや,その支払が200万円に達した時点で終了したことなどについて,控訴人に報告した様子が全くない。仮にB助手の供述するとおり,控訴人の指示により本件約束金をA教授に支払うようになったとすると,その経過を報告するのが自然であり,その報告をした様子がないというのは,B助手の供述の信用性にさらに疑問を抱かせるものである。 (e) B助手は,A教授から200万円を返還してもらった後,A教授に対し,200万円を受領し返還したとの経緯を記載した旧受領確認書を作成してもらったが,その後,控訴人が本件約束金の授受に関与していないと言い出したので,A教授に控訴人が関与していることを受領書に書き加えてほしいと伝え,平成7年12月20日,新受領確認書を作成してもらったと供述する。 しかし,B助手は,控訴人が本件約束金の授受に関与していないと言い出したとの情報を誰から聞いたのか明らかにすることができず,また,平成7年12月当時,控訴人が本件約束金の授受の件で事情聴取を受けた形跡はないのであって,新受領確認書の作成についてのB助手の供述部分は,いかにも不自然であり,信用することができない。 (f) 前記(1)で認定したとおり,B助手は,控訴人から,その研究者としての能力を評価されておらず,平成7年 成についてのB助手の供述部分は,いかにも不自然であり,信用することができない。 (f) 前記(1)で認定したとおり,B助手は,控訴人から,その研究者としての能力を評価されておらず,平成7年12月ころ,研究者として進むのではなく,山口の病院に行って開業の準備を進めるように言われるなどしていたところ,平成8年2月21日に開催された臨時教授会で,控訴人に対する辞職勧告理由書が承認され,同日,学部長事務代理が控訴人に対し口頭で辞職勧告をするとともに,辞職勧告書を手渡し,控訴人が,同年3月31日付け辞職願いを提出すると,同年2月22日の毎日新聞に,B助手の話として,「うれしいの一言。十年以上付き合ってきたが,研究,臨床そして人生も無駄にさせられた。もう大学に来てほしくない。」との話が掲載された。これらの事実に照らすと,B助手が控訴人に対し強い嫌悪感を抱き,その排斥を強く希望していたことが明らかである。 ところで,B助手は,平成7年12月14日,歯学部事務部長に対し,本件約束金の授受の件の話をし,また,A教授も,同月18日,学長に対し,本件約束金の授受の経緯について説明しているが,控訴人は,その後平成8年2月の歯学部調査委員会で本件約束金の授受に関与している疑いを指摘されるまでは,その件で事情聴取を受けておらず,E大学事務局長らから辞職を勧告されたときも,その件が話題になったことがない。そうすると,B助手及びA教授は,平成7年12月にE大学事務局長ないし学長に本件約束金の授受の経緯を話した際,控訴人の関与を述べていなかった蓋然性が高い。 そして,B助手は,200万円の返還についていったん作成された旧受領確認書を破棄し,控訴人が本件約束金の授受に関与したことをわざわざ書き加えて新受領確認書を作成している。 以上の事情 そして,B助手は,200万円の返還についていったん作成された旧受領確認書を破棄し,控訴人が本件約束金の授受に関与したことをわざわざ書き加えて新受領確認書を作成している。 以上の事情を総合勘案すると,B助手は,当初,本件約束金の授受に控訴人が関与していたとは述べていなかったにもかかわらず,その後,控訴人に対する嫌悪感から,供述を変えて控訴人がこれに関与しているように供述するようになった可能性があり,そうすると,控訴人の関与についてのB助手の供述を直ちに採用することには躊躇を覚えざるを得ない。 ② ところで,控訴人は,「平成4年4月28日に上記5名で集ってB助手の研究に関する打ち合わせをしたが,同日は午後5時30分からOホテルでE大学歯学部第一口腔外科新入医局員歓迎会が開催される予定になっており,当時歯学部長であり会合の主催者の1人であった控訴人は,これに出席するためにB助手の研究に関する打ち合わせも中座し,午後4時30分ころにはE大学を出た。したがって,同打ち合わせ終了後に控訴人とB助手と2人きりになるとか,謝礼の指示をしたということはない。」と主張し,その旨供述する。 そして,前記(1)で認定したとおり,平成4年4月28日の上記5名の打合せは午後2時ころからなされたものであり,同日夜はE大学歯学部第一口腔外科新入医局員歓迎会がOホテルで開催されており,当時控訴人は歯学部長であったものである。そうすると,上記打合せを中座してホテルに向かったとの控訴人の供述も,あながちこれを否定しがたいところである。なお,歯科矯正学講座の日記(甲48の(2))には,上記歓迎会のことが記載されていないが,同歓迎会は歯学部第一口腔外科の会合であって,控訴人は歯学部長としてこれに参加したというのであるから,歯科矯正学講座の日記にそ 座の日記(甲48の(2))には,上記歓迎会のことが記載されていないが,同歓迎会は歯学部第一口腔外科の会合であって,控訴人は歯学部長としてこれに参加したというのであるから,歯科矯正学講座の日記にその記載がないからといって,異とするに足りない。 ③ 被控訴人は,控訴人がA教授及びB助手に対し本件約束金の支払についての働きかけをした日を平成4年5月26日であるとも主張する。そして,A教授は,歯科矯正学講座の部屋で5人でB助手の学位取得のための研究について打合せをした後控訴人から本件約束金の授受の話があったという日は,平成4年5月26日であると供述する。 しかし,同教授の供述は信用することができない。すなわち,(a) 平成4年5月26日に歯科矯正学講座の部屋で5名がB助手の研究について打合せをしたとの事実は認められない。 すなわち,歯科矯正学講座の日記には,同年4月28日の会合と異なり,同年5月26日のA教授らとの会合のことが全く記載されていない。A教授の日記(甲55の(1))には,B助手,D助手,C助教授との打合せについての記載があるが,控訴人が参加したとの記載はないし,同年4月28日の会合の記載(甲55の(2))と異なり,控訴人の所に行ったとの記載もない。また,B助手の手帳にも,A教授と会ったこと又はその予定が記載されているが,控訴人を交えての会合であるとの記載はない。以上の各記載からすると,同年5月26日の会合は,A教授,B助手,D助手及びC助教授の4名で,歯科理工学講座の部屋において打合せをしたものであって,控訴人はこれに参加していなかったと認めるのが相当である。そうすると,同日,歯科矯正学講座の部屋で控訴人を含む5名がB助手の研究について打合せを行い,その後控訴人と2人だけになったとき,控訴人から ,控訴人はこれに参加していなかったと認めるのが相当である。そうすると,同日,歯科矯正学講座の部屋で控訴人を含む5名がB助手の研究について打合せを行い,その後控訴人と2人だけになったとき,控訴人から本件約束金の授受の話をされたとのA教授の供述は,採用できないというほかない。 (b) 前記②でB助手の供述について検討したのと同様に,A教授も,控訴人が本件約束金の授受に関与していたとは当初供述していなかった蓋然性が高い。 また,前記(1)で認定のとおり,平成8年2月7日の中国新聞に,A教授の「助手本来の所属講座の教授が私の目の前で助手に現金の支払を指示した。」との話が載っており,控訴人と2人だけのときにA教授から本件約束金の授受の話があったとする供述と異なる説明を新聞記者にしていたことがうかがわれる。そうすると,A教授の供述は,主要な部分に変遷が見られるのであって,この点からも,採用できない。 (c) なお,A教授は,本件約束金を研究のために使う必要がある場合に備えて預かったものであり,B助手に対し,その必要がなかったときは返還すると言っていたと供述する。しかし,前記(1)で認定したとおり,A教授は,本件約束金を受領すると,自己名義の銀行預金口座に入金することにより自己の個人資金と混同させ,その後その一部を費消し,その口座の残高が200万円を下まわることもあったこと,そして,本件約束金の授受について,B助手を直接指導していたC助教授に知らせていないこと,A教授は,B助手に対し常に200万円を返却することを考えていたとしながら,C助教授による指導が事実上打ち切られた後もこれを返還することをせず,E大学事務局長から,歯学部の不正についての通報を聞いた翌日に自己の銀行預金口座から200万円を引き出し,B助手にこれを返還したいと申し出 よる指導が事実上打ち切られた後もこれを返還することをせず,E大学事務局長から,歯学部の不正についての通報を聞いた翌日に自己の銀行預金口座から200万円を引き出し,B助手にこれを返還したいと申し出たこと,A教授と控訴人との間では,歯科矯正学講座のD助手やB助手が歯科理工学講座で指導を受けることで同講座にそのための出費が生じることから,研究協力費として,歯科矯正学講座(病院予算)の予算で歯科理工学講座の消耗品を購入することについて合意がなされているが,その合意の際,本件約束金の支払がなされていることが考慮された様子はないことなどの事実に照らすと,本件約束金の趣旨についてのA教授の供述部分は採用できない。 ④ 以上によれば,本件約束金の授受について,平成4年4月28日に控訴人から働きかけがあったとするB助手の供述も,同年5月26日に控訴人から働きかけがあったとするA教授の供述も,直ちに採用するわけにはいかない。そして,他に控訴人が本件約束金の授受について関与したことを認めるに足りる証拠はない。 もっとも,(ア)B助手が,指導教授である控訴人の了解を得ることなく,A教授に対し多額の金員の支払を申し出てこれを支払い続けたというのは,不自然であるようにも思われないではない。また,(イ)Q講師は,歯学部調査委員会で,同講師が学位を取得した際,控訴人に言われて,常識の範囲内ではあるが,謝礼をしたと供述し(乙1の(6)),K助教授も,同委員会で,控訴人が,主査,副査に謝礼(ただし社会通念上の範囲)をもっていくように指示したり,学位が1000万円とのうわさ話をしているのを聞いたことがあると供述しており(乙1の(6)),これらの供述によれば,控訴人は,B助手以外の者に対しても,学位の取得に対する謝礼を要求したり,指示したりしていることが認め とのうわさ話をしているのを聞いたことがあると供述しており(乙1の(6)),これらの供述によれば,控訴人は,B助手以外の者に対しても,学位の取得に対する謝礼を要求したり,指示したりしていることが認められる。そうすると,B助手がA教授に対し本件約束金の支払を申し出るに当たっては,控訴人が何らかの助言をしたのではないかとの疑いが生じなくはない。 しかし,前記(1)で認定したとおり,E大学歯学部に限らず,学位の取得について謝礼をするとの風評があり,平成8年3月22日に開かれたE大学評議会でも,評議員から,学位授受の謝礼として100万円単位の支払がなされているとの風評があることが指摘されていたのであって,B助手が自己を外来医長から解任するなどした控訴人に相談することなく,上記風評を考慮し,自らの判断でA教授に対し本件約束金の支払を申し出たということはあり得ることである。さらに,控訴人が,B助手以外の者に対してした謝礼の要求ないし指示も,その具体的な内容は明らかでなく,常識の範囲内での「お礼」の指示であった可能性も十分にある。 そして,いずれにせよ,上記(ア),(イ)の事情だけでは,控訴人が本件約束金の支払に関与していた疑いがあるというに止まり,控訴人がこれに関与していた事実を認めるには足りないというべきである。 (5) 以上のとおりであるから,本件懲戒免職処分の処分事由とされた事実のうち,控訴人がB助手に対しA教授に本件約束金を支払うように指示したとの事実は認められない。 3 医員手当等の寄付の強要について(1) 医員手当及び助手給与の寄付当裁判所も,控訴人がB助手に対し昭和59年7月から昭和60年3月までの医員手当合計約100万円の寄付を,F助手及びG助手に対し,昭和61年7月から同年10月までの助手給与合計約130 寄付当裁判所も,控訴人がB助手に対し昭和59年7月から昭和60年3月までの医員手当合計約100万円の寄付を,F助手及びG助手に対し,昭和61年7月から同年10月までの助手給与合計約130万円の寄付をそれぞれ強要したと認めるのが相当であると判断する。その理由は,次のとおり訂正するほか,原判決119頁3行目から124頁7行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。 ① 原判決119頁8行目の「七月分」を「昭和59年7月分」と改める。 ② 同122頁2行目の「歯科矯正講座」を「歯科矯正学講座」と改める。 (2) B助手の助手給与の保管① 証拠(甲22,54,乙1の(8),5,34,53,控訴人本人《原審》)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。 (a) B助手は,平成2年4月から同年7月にかけてアメリカ合衆国に研修旅行に行くことにしたが,これに先立ち,控訴人から,退職も休職もせずに研修旅行に行くと他の医員から反感を抱かれるおそれがあると言われ,控訴人に対し,研修旅行中の給与(夏期賞与を除く)を歯科矯正学講座に寄付する旨述べた。なお,控訴人は,その当時歯科矯正学講座開設10周年記念の業績集を作る予定であったので,B助手から提供された給与をその費用の一部として利用する予定であった。 (b) B助手は,H助手に対し,給与の振り込まれる銀行預金口座のキャッシュカード及びその暗証番号を記載したメモを渡した。ただし,その際,B助手は,家賃分(1か月当たり5万円)は当該銀行口座に振り込まれないようにし,また,共済組合から借入れをして同口座から1か月当たり約3万円ずつ借入金の返済がなされるような措置を取った。 (c) H助手は,B助手から預かったキャッシュカードを利用して,平成2年5 し,また,共済組合から借入れをして同口座から1か月当たり約3万円ずつ借入金の返済がなされるような措置を取った。 (c) H助手は,B助手から預かったキャッシュカードを利用して,平成2年5月21日に13万円,同年6月15日に28万3000円,同年7月26日に20万6000円,以上合計61万9000円の払戻しを受けた。しかし,控訴人が予定していた10周年記念の業績集は実行に移されなかったため,H助手は,上記払戻しを受けた金員をそのまま歯科矯正学講座のロッカー内に保管し,問題が発覚した後の平成8年3月28日に控訴人から全額がB助手に返還された。 ② B助手は,キャッシュカード及び暗証番号を記載したメモの提供は控訴人に強要されたものであるとの趣旨の供述をする。 これに対し,控訴人は,「寄付を強要していないし,キャッシュカードを渡すように言ったこともない。B助手が,帰国後の講座内での立場を確保できるようにするため,自己の意思で給与を寄付したのである。H助手にキャッシュカードを渡したのは,B助手がH助手にこれで引き出すように強要したものである。」と供述する。 また,H助手は,歯学部調査委員会での事情聴取や人事院での証人尋問の際,「B助手から,キャッシュカードを預けるから給料の3か月分を引き出して教室に寄付するように言われた。キャッシュカードを預かりたくはなかったが,B助手が怖かったので,これを拒否できなかった。以前にもB助手からキャッシュカードを渡され,現金を引き出してくるように私用で頼まれることがあった。」と供述する。 以上のとおり,B助手が控訴人に海外研修旅行中の給与の寄付を強要されたのか否か,キャッシュカードを預けることは控訴人が指示したのかB助手が給与の寄付の方法として選択したのかといった点で,供述に食い 以上のとおり,B助手が控訴人に海外研修旅行中の給与の寄付を強要されたのか否か,キャッシュカードを預けることは控訴人が指示したのかB助手が給与の寄付の方法として選択したのかといった点で,供述に食い違いがあり,そのいずれが真実であるかは証拠上明確でない。もっとも,上記認定のとおり,B助手は,指導教授である控訴人から,退職も休職もせずに研修旅行に出ると他の医員から反感を抱かれるおそれがあると言われている。そして,控訴人は,その当時歯科矯正学講座開設10周年記念の業績集を作る予定であったから,その費用を捻出する必要があった。そうすると,控訴人がB助手に対し,指導教授としての立場を背景に給与の寄付を強要した可能性がなくはないが,その際脅迫的言辞を用いたなどの事情が認められない本件において,上記の事情から直ちに控訴人がB助手に対し給与の寄付を強要したと断じることは困難である。 ところで,処分説明書(甲1の(2))には,控訴人は,H助手がキャッシュカードを利用し,B助手の銀行預金口座から引き出した現金の存在を知りながら,B助手に返却せず,平成2年から6年間にわたり講座内に保管していたと記載されているから,B助手の給与を6年間にわたり返還しなかったことが処分事由とされたものということができる。しかし,上記のとおり,控訴人がB助手に対し給与の寄付を強要したと認めることができない以上,その金員を6年間にわたって講座内に保管する行為が官職の信用を傷つけるということはできないし,その他の懲戒事由に該当するとも認められない。 (3) ティーチングアシスタント手当の寄付当裁判所も,控訴人がティーチングアシスタント手当の寄付を強要した非違行為はないものと判断する。その理由は,原判決129頁2行目から132頁1行目までに記載のとおりであるか タント手当の寄付当裁判所も,控訴人がティーチングアシスタント手当の寄付を強要した非違行為はないものと判断する。その理由は,原判決129頁2行目から132頁1行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決130頁4行目の「その支払いのための書類を受け取り、」を削除する。 4 処分権限の濫用について(1) 前記1ないし3で検討したところによれば,本件懲戒処分の処分事由のうち認められるのは,(ア)科研費謝金の執行における不正及びこの点についての隠蔽工作,(イ)B助手に対する医員手当の寄付の強要,(ウ)F助手及びG助手に対する助手給与の寄付の強要の各事実であり,(エ)本件約束金の授受への関与,(オ)B助手の研修旅行期間中の助手給与の保管,(カ)ティーチングアシスタント手当の寄付に関しては懲戒処分の対象となり得る行為が認められない。 (2) そこで,上記(1)の(ア)ないし(ウ)の各事実に照らして控訴人を免職する本件懲戒処分が懲戒権者の裁量権の範囲内にあるか否かを検討する。 ① まず,科研費謝金の執行における不正((1)(ア))についてみると,いわば常習犯的になされたものであり,不正取得された金額も106万3000円に達しており,大学における予算の執行に対する国民の信頼を失わせるものであって,その情状は軽いとはいえない。しかも,上記不正が発覚しそうになると,指導教授としての立場を利用して大学院生に圧力をかけ,隠蔽工作をはかっており,この行為は教育公務員としてあるまじき行為である。 また,医員手当や助手給与の強要((1)(イ),(ウ))も,講座担当教授及び附属病院長として有する人事権に関する権能を背景に部下職員である助手及び医員に対し威圧的言動により数か月分にわたりその手当,給与全額を寄付させたもの の強要((1)(イ),(ウ))も,講座担当教授及び附属病院長として有する人事権に関する権能を背景に部下職員である助手及び医員に対し威圧的言動により数か月分にわたりその手当,給与全額を寄付させたものであり,悪質である。 ② しかしながら,控訴人は,上記各行為によって得た金員を私的に費消しようとしたものではなく,講座の研究費の不足を補おうとしたものであって,その背景に大学における研究費の不足という実態があること(甲63ないし71)も否定できない。また,医員手当や助手給与の強要行為は,その態様が脅迫行為に当たるとまではいえないものである。 そして,上記のとおり科研費謝金について不正取得した金額は少ないものではなかったが,証拠(甲19の(1),(2),20の(1)ないし(5),38の(1),(2),54)によれば,控訴人は,E大学事務局に対し,その求めに応じて,平成8年3月25日に控訴人を研究代表者とする平成7年度試験研究B及びQ講師を研究代表者とする一般研究Cの謝金分合計30万円(原判決添附科学研究費補助金一覧表記載番号8ないし11,19ないし21)を,平成8年5月15日にB助手ないしQ講師を研究代表者とする平成3年度ないし6年度一般研究Cの謝金分の一部31万6000円(同一覧表12,14ないし18)を,同年6月13日に控訴人を研究代表者とする平成4年度ないし6年度一般研究Cの謝金分合計30万円(同一覧表3ないし7)及びその加算金9万1290円をそれぞれ支払ったこと(なお,R講師及びD助手を支払対象者とする科研費謝金《同一覧表1,2,13》は,E大学事務局から支払を求められなかったため,支払っていない)を認めることができる。 さらに,控訴人は,歯学部教授会の辞職勧告決議を受けて辞職を申し出ており,反省の姿勢を示すと 3》は,E大学事務局から支払を求められなかったため,支払っていない)を認めることができる。 さらに,控訴人は,歯学部教授会の辞職勧告決議を受けて辞職を申し出ており,反省の姿勢を示すとともに社会的制裁を受ける結果となっている。 ③ ところで,評議会が控訴人に対する懲戒処分案を決定するまでの経緯については,原判決132頁4行目から139頁5行目までに記載(ただし,平成12年10月24日付け更正決定により更正されたもの)のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決133頁7行目から8行目にかけての「の一三回にわたり」を「の11日間に13回にわたり」と,134頁4行目の「同年三月七日」を「同日」と各改め,7行目の「右の評議会」から末行の「発言した。」までを削除する。そして,「争いのない事実等」に記載のとおり,小坂学長は,被控訴人に上記懲戒処分案を上申し,被控訴人が本件懲戒処分をするに至った。 上記経緯によれば,控訴人に対する懲戒処分案が決定されるに当たっては,懲戒処分委員会において,科研費謝金不正流用(事後の口止め等の工作も含む。前記(1)(ア))については訓告処分が,学位取得に係る研究の指導を巡る金銭の授受への関与(前記(1)(エ))については懲戒免職に近い処分が,医員手当,助手給与,ティーチングアシスタント手当の寄付の強要行為(前記(1)(イ),(ウ),(オ),(カ))については訓告処分がそれぞれ適当であるとの判断がされ,これらを総合して懲戒免職が適当であるとの結論が示され,評議会においても懲戒処分委員会における上記結論を是認し,小坂学長から被控訴人にその旨の懲戒処分案が上申され,本件懲戒処分に至ったものである。 ④ 以上の諸点を総合して検討すると,なるほど,控訴人の前記(1)(ア)ないし(ウ)の行為 記結論を是認し,小坂学長から被控訴人にその旨の懲戒処分案が上申され,本件懲戒処分に至ったものである。 ④ 以上の諸点を総合して検討すると,なるほど,控訴人の前記(1)(ア)ないし(ウ)の行為は,上記①のとおり悪質な面があることは否定できないけれども,上記②のとおり斟酌すべき事情も認められる。 そして,懲戒処分を行うかどうか,懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは,懲戒権者の裁量に任されており,懲戒権者がその裁量権の行使としてした懲戒処分は,それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し,これを濫用したと認められる場合でない限り,その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないものと解すべきである(最高裁昭和47年(行ツ)第52号同52年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1101頁参照)。しかし,上記③のとおり,控訴人に対し懲戒免職が相当であるとの結論が出されるに至ったのは,控訴人が学位取得に係る研究の指導を巡る金銭の授受に関与したとの事実が重視されていたものであり,前記(1)(ア)ないし(ウ)の行為は,訓告処分が適当であるとの判断がなされていた。 そうすると,控訴人に対して懲戒処分が行われることはやむを得ないところであるが,前記(1)(エ),(オ)の行為が認めらず,本件懲戒処分をするに当たって訓告処分が相当であるとされていた前記(1)(ア)ないし(ウ)の行為だけが認められる控訴人に対し,上記②の事情もありながら,懲戒免職を選ぶことは,被控訴人に認められた裁量権の範囲を逸脱しているというべきである。結局,本件懲戒処分は違法であるというほかない。 5 結論以上のとおりであるから,その余の点について判断するまでもなく,本件懲戒処分の取消しを求める控訴人の本訴請求は理由があるから, ある。結局,本件懲戒処分は違法であるというほかない。 5 結論以上のとおりであるから,その余の点について判断するまでもなく,本件懲戒処分の取消しを求める控訴人の本訴請求は理由があるから,これを認容すべきである。 よって,これと異なる原判決を取り消し,控訴人の請求を認容することとし,主文のとおり判決する。 広島高等裁判所岡山支部第2部裁判長裁判官前川鉄郎 裁判官辻川昭裁判官森一岳は,転補につき,署名捺印することができない。 裁判長裁判官前川鉄郎
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