判決平成14年9月25日神戸地方裁判所平成12年(ワ)第2214号通行権確認請求事件 主文 1 原告が,別紙物件目録2記載の土地のうち,別紙図面のA,B,C,D,Aの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地,及び,別紙物件目録3記載の土地のうち,別紙図面のC,D,E,F,Cの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地につき,通行権を有することを確認する。 2 被告は,原告が通行権を有する前項の土地に設置等したポール(昇降可能なもの),鎖,柵その他の工作物,ドラム缶,タイヤ,バッテリーその他の物品を全て撤去せよ。 3 被告は,原告が通行権を有する第1項の土地にポール(昇降可能なものを含む),杭,鎖,柵その他の工作物を設置したり,オートバイ,自転車,ドラム缶,タイヤ,バッテリーその他の物品を置くなどして,原告の通行を妨害してはならない。 4 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求主文同旨第2 事案の概要本件は,原告が被告に対し,被告所有地に対する通行地役権及び被告賃借地に対する使用借権としての通行権の確認を求めると共に,これらの権利に基づいて,各土地上の妨害物の撤去と将来の妨害予防を求める事案である。 1 争いのない事実別紙物件目録1ないし3記載の各土地はいずれも原告の母である亡a(以下「亡a」という)がもともと所有していた。これらの土地の位置関係は別紙図面のとおりであって,東西に延びる幅約1メートルの公道(里道)(以下「本件里道」という)を挟んで,北側が別紙物件目録1記載の土地(以下「里道北側土地」という),南東側が同目録2記載の土地,南西 紙図面のとおりであって,東西に延びる幅約1メートルの公道(里道)(以下「本件里道」という)を挟んで,北側が別紙物件目録1記載の土地(以下「里道北側土地」という),南東側が同目録2記載の土地,南西側が同目録3記載の土地である(以下,同目録2記載の土地と同目録3記載の土地を合わせて「里道南側土地」という)。 被告は,平成元年11月28日,別紙物件目録3記載の土地(以下「被告現所有地」という)を亡aから購入するとともに,同日,別紙物件目録2記載の土地(以下「被告現賃借地」という)を亡aから賃借した(以下,上記売買契約を「本件売買」,上記賃貸借契約を「本件賃貸借」という)。 被告は,平成2年11月8日,両土地をまたいで別紙物件目録4記載の建物を建築し,これを被告代表者であるbと共有している。 原告は,平成8年5月22日,里道北側土地を亡aから相続によって取得した。 原告の妻であるcは,平成8年5月22日,被告現賃借地を亡aから遺贈によって取得し,これに伴って被告に対する賃貸人の地位を亡aから承継した。 原告は,里道南側土地のうち,別紙図面の,A,B,C,F,E,D,Aの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地約25・4平方メートル(以下,これを「本件係争地」という)について通行権を主張している。 被告は,本件係争地の西端に,平成7年ころ,ドラム缶(廃油入り)数本,自動車用バッテリー数個などを置いた。また,被告は,別紙図面のD,Eを直線で結んだ線上に高さ1・2メートルの鉄製ポールを設置し,これに金網を張って柵を設けた。さらに,別紙図面のAには昇降可能なポールを設置し,DからA及びAからBに鎖を通した。 原告は,平成10年8月19日,神戸地方裁判所に対し,通行妨害禁止等仮処分 金網を張って柵を設けた。さらに,別紙図面のAには昇降可能なポールを設置し,DからA及びAからBに鎖を通した。 原告は,平成10年8月19日,神戸地方裁判所に対し,通行妨害禁止等仮処分命令を申し立て,平成11年3月31日,仮処分決定を得た。 被告は,上記仮処分決定の後に,上記金網張りの柵を撤去した。 2 争点亡a及び被告間において,被告現所有地に関する通行地役権の設定及び被告現賃借地に関する使用借権(通行権)の設定がなされたかどうか。 (1) 原告の主張本件係争地は,里道南側土地より約0.15ないし0.65メートル低く,本件里道と合わさって幅約2メートルの道を形成し,長年にわたり私道として通行の用に供されてきた。 被告は,本件係争地の形状とこれが通行の用に供されていることを承知し,これを私道に供することを承諾の上で,平成元年11月28日,亡aとの間で,本件売買及び本件賃貸借契約を締結した。従って,この際に,里道北側土地を要役地,被告現所有地を承役地とする通行地役権が設定されたことになる。また,この際に,被告は,被告現賃借地を,里道北側土地の所有者である亡aに対して,通行の目的の限度において使用貸ししたことになる。 そして,亡aが平成8年5月22日に死亡し,原告が里道北側土地を相続したことによって,原告は上記通行地役権及び上記使用借権を相続取得した。 上記通行地役権及び上記使用借権はいずれも里道北側土地のためのものである。そして,道の役割からみて,単に里道北側土地の所有者である原告,同土地に対する権利を有する者のみならず,同土地に至ろうとする者,同土地から立ち去ろうとする者の全てが通行できるというべきである。そして,通行の方法は,徒歩 みて,単に里道北側土地の所有者である原告,同土地に対する権利を有する者のみならず,同土地に至ろうとする者,同土地から立ち去ろうとする者の全てが通行できるというべきである。そして,通行の方法は,徒歩に限られることなく,その広狭,路面の状態に適ったものであれば許されるというべきである。また,その期間は,里道北側土地が存続する限りということになる。 (2) 被告の認否被告が,本件売買及び本件賃貸借の際に,本件係争地を私道に供することを承諾したという主張は否認する。 被告は,本件売買及び本件賃貸借契約締結当時,本件係争地を自由に使用できるという説明を受けていたのであって,私道として負担を受ける旨の説明はなかった。それどころか,本件係争地について,道ではないから宅地部分と同一の対価を支払うように要求されてその部分の代金を支払ったくらいである。 原告は,被告が,本件係争地の形状とこれが通行の用に供されていることを承知していたと主張する。しかしながら,被告が本件売買及び本件賃貸借を検討していた当時,本件里道及び本件係争地は,現在のようなアスファルト舗装にはなっておらず,部分的に舗装が施されるにとどまっていた。また,本件係争地は,北側の住民たちによって植木のプランターなどの置き場として利用されており,道路として使用されていたわけではなかった。当時は,むしろ,本件里道の北側に存在した建物がいずれもセットバックして建てられており,本件里道の北側に約1メートルの幅の空間があった。以上の次第で,被告は,本件売買及び本件賃貸借当時,本件係争地が私道として使用されている旨を認識すべくもなかったのである。 第3 争点に対する判断 1 以下に掲げる証拠(但し,被告代表者本人の供述については,以下の認定に反する部 本件賃貸借当時,本件係争地が私道として使用されている旨を認識すべくもなかったのである。 第3 争点に対する判断 1 以下に掲げる証拠(但し,被告代表者本人の供述については,以下の認定に反する部分を除く)及び前記争いのない事実によれば,以下の事実が認められる。 (1) 里道北側土地及び里道南側土地の使用状況ア亡aは,里道北側土地を4分して,西から東の順に,d(2戸),e,fに賃貸していた。e及びfの建物は現在も存在するが,dの建物2戸は平成7年の阪神大震災により倒壊したため,dに対する賃貸借契約は終了し,その敷地部分は現在更地になっている(甲22,乙12,原告本人)。 イ里道南側土地は,従前,原告の父によってガソリンスタンドとして利用されていた(原告本人)。 ウ里道南側土地内の本件係争地は,本件里道と一体の通路として利用されており,本件係争地部分とガソリンスタンド敷地部分との間にはコンクリート製の防火壁が設けられていた(甲25ないし27,原告本人)。上記防火壁は,別紙図面のB,C,Fの各点を直線で結んだ線上に存在した(原告本人)。 なお,被告は,本件売買及び本件賃貸借当時,本件里道の北側の建物がセットバックして建てられており,本件里道の北側に約1メートルの空間があった旨主張するけれども,かかる事実を認めるに足りる証拠はない。 エ昭和57年ころ,新栄建設によって,本件係争地と本件里道を一体として,通路部分にアスファルト舗装が施され(甲24ないし27,原告本人),同アスファルト舗装は現在も残っている(甲29,原告本人)。なお,被告代表者本人は,本件売買及び本件賃貸借契約締結当時,アスファルト舗装は約半分がはげ落ちていた旨供述するが,平成元年に撮影された本件里道及 ファルト舗装は現在も残っている(甲29,原告本人)。なお,被告代表者本人は,本件売買及び本件賃貸借契約締結当時,アスファルト舗装は約半分がはげ落ちていた旨供述するが,平成元年に撮影された本件里道及び本件係争地付近の写真(甲25,26)によれば,全面にアスファルト舗装が施されていることが認められるから,被告代表者本人の上記供述は信用することができない。 オ本件係争地には地下に下水管が埋設されており,現在も本件係争地上にそのマンホールが存在する(甲7,8,25,29,30,原告本人)。 カ以上の事実を総合すると,本件係争地は,里道南側土地の一部ではあるけれども,従前は,コンクリート製防火壁によって,ガソリンスタンド敷地部分とは明確に区切られ,本件里道と一体のものとして,アスファルト舗装を施されて通路として使用されていた上に,その地下には共用物である下水管が埋設されていた。 (2) 亡aによる里道南側土地の分譲計画亡aは,里道南側土地上のガソリンスタンド廃業後,里道南側土地についても,里道北側土地と同様に,住宅4戸を建築の上,借地権付で分譲することを計画し,仲介業者であるgにこれを依頼した(原告本人)。gは,里道南側土地を西から東の順にA,B,C,Dと4区画に分けて建物4戸を建築した(なお,A区画上の建物のみ有限会社hが建築した)(乙6ないし9,原告本人)。g及び有限会社hは,建物購入希望者が現れた場合,建物を敷地の借地権と共に譲渡する予定で,亡aに対して借地料を支払っていた(原告本人)。 亡aは,上記借地権付建物の売却後も,本件係争地は本件里道と共に通路として使用することを意図していた。そこで,亡aは,gに対し,借地上の本件係争地部分については私道としての負担に応じることを賃 亡aは,上記借地権付建物の売却後も,本件係争地は本件里道と共に通路として使用することを意図していた。そこで,亡aは,gに対し,借地上の本件係争地部分については私道としての負担に応じることを賃貸借の条件とする旨の了解を賃借人から取り付けるように申し渡していた(甲15ないし19,原告本人)。 (3) 亡aと被告の交渉被告は,自動車ショールームの建設地を探しており,里道南側土地に目をつけた。被告は,里道南側土地を亡aから買い取った上で,住宅4戸を取り壊してショールームを建築しようと考え,gと交渉した。しかしながら,亡aは,被告現所有地の売却には応じるものの,被告現賃借地の売却には応じない意向を示したため,被告は,被告現所有地については亡aから購入し,被告現賃借地については亡aから賃借して,ショールームを建設することにした(原告本人,被告代表者本人)。 被告は,gから,里道南側土地のうち本件係争地部分については私道負担に応じることが本件売買及び本件賃貸借の条件であるという説明を受けて,これを了解した(甲15ないし19,原告本人)。 以上の認定に対して,被告代表者本人は,gから,本件係争地の私道負担について説明を受けたことはないし,これを承諾したこともない旨供述する。確かに,本件売買の契約書(甲14)及び本件賃貸借の契約書(甲6)には,本件係争地部分の私道負担に関する記載がないことが認められる。 しかしながら,前記認定のとおり,本件係争地は,従前から,本件里道と一体の道路として,コンクリート製防火壁やアスファルト舗装によって客観的にも明確な形態で使用されてきたこと,その下には共用物である下水管が埋設されていること,本件係争地が通路でなくなった場合,里道北側土地上の4戸の住 コンクリート製防火壁やアスファルト舗装によって客観的にも明確な形態で使用されてきたこと,その下には共用物である下水管が埋設されていること,本件係争地が通路でなくなった場合,里道北側土地上の4戸の住宅前の通路は約1メートルの幅しかなくなり,あまりにも手狭であることなどの事実に照らすと,亡aは,かかる事情に鑑みて,里道南側土地の分譲に際しては,里道北側土地上の建物所有者の生活の便宜や,里道北側土地上の建物の再建築の際の便宜などのために,本件係争地を通路として残そうと考えていたものと推認される。そして,AないしD区画の各住宅の分譲という当初の計画が,被告に対する本件売買及び本件賃貸借という計画に変更になったからといって,上記の事情に変わりはないのであるから,亡aが上記の意向を変更するはずはないものと考えられる。そして,仲介業者であるgが亡aの意向を無視するということも考えられないことである。従って,gは被告に対し,本件係争地の私道負担が本件売買及び本件賃貸借の条件であることを伝えたとみるのが合理的である。 また,A区画の建物の売買に関してgが作成した重要事項説明書(甲19)には,「私道に関する負担に関する事項」という項目があり,同項の負担の有無欄の「有」が「○」によりチェックされ,「負担の内容」欄に面積約30・0㎡という記載があり,「略図」欄には,物件ABCDの敷地の北端が通路にかかることを図示する手書図の記載があるから,A区画の建物の購入者が本件係争地部分について私道負担を被ることが明らかであるところ,被告代表者本人尋問の結果によれば,被告代表者は,同重要事項説明書の末尾の「以上の重要事項について説明を受け,重要事項説明書を受領しました。」という記載の下に記名押印したことが認められる。 さらに,AないしDの れば,被告代表者は,同重要事項説明書の末尾の「以上の重要事項について説明を受け,重要事項説明書を受領しました。」という記載の下に記名押印したことが認められる。 さらに,AないしDの区画上の各建物の売買契約書(甲15ないし18)には,各物件表示欄の借地面積の項に「上記面積は私道含む」という記載があるところ,被告代表者本人尋問の結果によれば,被告代表者はこれらの売買契約書にも記名押印したことが認められる。 加えて,上記認定のとおり,本件売買及び本件賃貸借契約締結当時,本件係争地は,本件里道と一体のものとして,アスファルト舗装を施されて通路として使用されていたのであるから,被告代表者は本件係争地のかかる使用状況を容易に認識することができたはずである。 以上の事実を総合すると,gは,本件係争地の私道負担について,上記A区画上の建物の売買契約の重要事項説明書やAないしD区画上の各建物の売買契約書を流用することにより,被告に説明したものと認めることができる。 従って,本件係争地の私道負担について説明を受けなかったという被告代表者の供述を信用することはできない。 なお,十分な幅の通路を確保するためには,本件里道の北側を広げる方法も考えられなくはないが,証拠(甲25ないし27,29,33,乙1,原告本人)によれば,本件売買及び本件賃貸借契約当時,e,fらが本件里道と里道北側土地との境界付近にブロック塀を設置していたことが認められる。そうすると,本件里道北側の土地を広げて通路を確保するためには,これらの既存のブロック塀を撤去させなければならないから,現実的ではなかったというべきである。 (4) 本件売買及び本件賃貸借契約上記認定のとおり,本件係争地の私道負 めには,これらの既存のブロック塀を撤去させなければならないから,現実的ではなかったというべきである。 (4) 本件売買及び本件賃貸借契約上記認定のとおり,本件係争地の私道負担について被告の承諾を得たので,亡aと被告は,gの仲介により,平成元年10月27日,本件売買契約を締結し,手付金600万円が被告から亡aに交付された。なお,売買対象となる土地の面積は187.79㎡,売買代金は6000万円と一応定められたが,後日面積を実測することとし,面積に増減があった場合は,3.3平方メートル(1坪)につき100万円を乗じた金額を6000万円から増減することとされた(甲14,乙13,14,被告代表者本人)。 亡aと被告は,平成元年11月28日,売買土地の実測面積を元に本件売買代金を精算して所有権移転登記手続を済ませると共に,賃貸土地の実測面積を元に賃料を算定して本件賃貸借契約を締結した(甲3,4,乙11,13,14,被告代表者本人)。 2 結論以上の認定事実によれば,被告は,本件売買契約及び本件賃貸借契約を締結するに際し,被告現所有地内の本件係争地部分及び被告現賃借地内の本件係争地部分について,本件里道と共に私道として使用されるという負担に応じたものと認めることができる。 そして,これを法的にみれば,被告現所有地については,そのうちの本件係争地部分(別紙図面記載のC,D,E,F,Cの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地)について通行地役権を設定したものと認めることができる。また,被告現賃借地については,そのうちの本件係争地部分(別紙図面記載のA,B,C,D,Aの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地)について私道としての使用を許諾する旨の黙示の使用貸借契約を締結したものと認めることができ については,そのうちの本件係争地部分(別紙図面記載のA,B,C,D,Aの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地)について私道としての使用を許諾する旨の黙示の使用貸借契約を締結したものと認めることができる(なお,上記の私道負担が本件賃貸借契約の内容になったと解する余地もないではないが,本件賃貸借の契約書(甲6)上に,私道負担に関する条項が何ら定められていないことに照らすと,当事者の合理的意思解釈としては,私道負担については,本件賃貸借契約とは別個に,独自の使用貸借契約が締結されたとみるべきである)。 なお,以上の経緯に照らすと,上記物権的,債権的通行権の受益者は,原告,c,里道北側土地上に住宅を所有するe,f,これらの者の関係者(e,f所有建物に出入りする者を含む)と認められる。 よって,原告は,別紙図面記載のC,D,E,F,Cの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地については通行地役権に基づき,同図面記載のA,B,C,D,Aの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地については使用貸借契約上の債権的通行権に基づき,通行妨害物の撤去を求めることができるとともに,被告が妨害物を将来において設置しないことを求めることができる。 以上の次第で,原告の請求をいずれも認容する。 神戸地方裁判所第4民事部裁判官太田敬司
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