- 1 -平成29年1月26日宣告平成28年第148号詐欺,殺人被告事件判決 主文 被告人を懲役22年に処する。 未決勾留日数中180日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,第1 平成27年11月17日から同年12月上旬頃までの間,兵庫県加古川市a町bc番地d西側駐車場に駐車中の自動車内等において,A(当時20歳。以下「被害者」という。)に対し,真実は,交付を受けた現金を倍にするもうけ話はなく,かつ,同現金を返還する意思はなく,自己の用途に費消するつもりであったのに,その情を秘し,同現金が倍になるもうけ話があるなどと嘘をついて現金の交付を要求し,被害者をしてその旨誤信させ,よって,同月7日午前2時頃,同市e町fg番地付近路上において,同人から,現金約120万円の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させた第2 同日午前2時過ぎ頃,同市e町hi番地のj付近のkにおいて,同人に対し,殺意をもって,その頭部を金槌で約10回殴打し,よって,その頃,同所において,同人を脳挫滅及び外傷性脳くも膜下出血により死亡させて殺害したものである。 (法令の適用)被告人の判示第1の行為は刑法246条1項,判示第2の行為は同法199条にそれぞれ該当するところ,判示第2の罪について所定刑中有期懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第2の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役22年に処し,同法 - 2 -21条を適用して未決勾留日数中180日をその刑に算入し,訴訟費用は刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由) 1 本件は,被告人が,当時20歳の女性である被 適用して未決勾留日数中180日をその刑に算入し,訴訟費用は刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由) 1 本件は,被告人が,当時20歳の女性である被害者から現金約120万円を詐取し,その口封じのために同人を殺害した事案であるが,量刑判断の前提として,本件各犯行に至る経過を以下のとおり認定した。 ⑴ 被告人は,平成27年8月下旬頃,友人であるBの紹介により,Bの友人である被害者が元交際相手のCに貸した金銭の返済がなされないことについて相談に乗り,その取立てを引き受け,Cと会って返済を約束させた。以後,被害者は,被告人のことを信頼するようになり,Cからの返済状況に関して相談等するようになった。 ⑵ 被告人は,同年11月17日,被害者と会い,Cからの返済の件で相談を受けたが,その際,被害者が100万円余りの預貯金をしている旨の話を聞き,自身の趣味であるトライク(自動二輪車を改造した三輪自動車)の代金等に充てるために同預貯金を手に入れたいと思い立ち,そのための嘘のもうけ話を即興で考え付いて被害者に持ち掛けた。その内容は,①通帳から現金を引き出しても預貯金残高を元に戻すような方法がある,②この方法により,現金を倍にすることができる,③この方法ができる仲間を知っており,被害者に紹介することができる,④被害者に現金を持参してもらいそれを仲間に確認させる必要がある,というものであった。 また,被告人は,被害者に対し,この方法は犯罪に当たる違法な手段であり断ってもよいとも説明したが,被害者は,被告人の話を信じ,むしろ積極的に乗ってきた。 さらに,両者は,この方法は違法な手段であるから,現金持参等の際には証跡を残さないようにするため携帯電話の電源を切っておく必要があるなどといった約束事を取り決めた。 そ むしろ積極的に乗ってきた。 さらに,両者は,この方法は違法な手段であるから,現金持参等の際には証跡を残さないようにするため携帯電話の電源を切っておく必要があるなどといった約束事を取り決めた。 その後も,被告人は,被害者との間で,LINE電話等を用い,また,同年12月1日にも兵庫県加古川市内で会って下見をするなどして,現金交付の場所・方法 - 3 -等を打ち合わせ,同月7日の夜から同月8日未明に会うこととなった。 ⑶ 被告人は,同月6日の夜,被害者から予定より一日早く現金を渡したい旨の連絡を受け,これを了承した。被害者は,預貯金のほぼ全額を引き出し,消費者金融数社からの借入金も含めて現金約120万円を用意し,同月7日午前0時過ぎ頃,予定していた待ち合わせ場所の最寄りであるl駅で下車した。被害者からその旨の連絡を受けた被告人は,自宅に置いておいた金槌を持って,予定していた待ち合わせ場所に向かったが,同所にいるはずの被害者がおらず,しばらく同人を探したものの会えなかったため,携帯電話の電源を入れ同人と連絡を取って合流し,罪となるべき事実第1記載のとおり現金約120万円の交付を受け詐欺を遂げた。 ⑷ 被告人は,被害者から現金を受領した直後頃から,実際には現金を倍にすることはできない以上,いずれは被害者が不審に思いこれをBに相談することは十分予想されるであろうし,そうすればBの口から,Bとの共通の友人であり被告人がかねてより好意を寄せ当時交際を申し込んでいたDに,被告人が犯罪話を被害者に持ち掛けたこと等が伝わってしまい,Dに嫌われ交際を断られるのではないかと恐れるようになった。被告人は,現金を倍にしてくれる仲間が待っているとの口実で,約15分かけて以前下見していたk方面に被害者を連れて行き,さらに,同k内にて,仲間が来るまで待つようにと ではないかと恐れるようになった。被告人は,現金を倍にしてくれる仲間が待っているとの口実で,約15分かけて以前下見していたk方面に被害者を連れて行き,さらに,同k内にて,仲間が来るまで待つようにとの口実で被害者に目をつむらせ座らせたが,この一連の間,交付を受けた現金を保持しつつ,前記の恐れが現実化することを回避するための手段に考えを巡らせ,被害者を口封じのために殺害することも考え始めた。 結局,被告人は,それ以外の方法は考え付かず,逡巡の末に決意して,罪となるべき事実第2記載の殺害行為に及んだ。 ⑸ なお,前記⑶・⑷の認定に関して,検察官は,被告人は金槌を自宅から持ち出した時点で,これを被害者殺害のための凶器として用いることをも視野に入れていた旨主張している。確かに,不審な輩に襲われた時のため又は第三者を装って被害者から現金を奪うのに用いるために金槌を持ち出したとか,被害者から現金を受領した後のことは何も考えていなかった旨の被告人の供述には,いささか不可解な - 4 -点もみられる。しかしながら,当初の予定に反して携帯電話の電源を入れ被害者と連絡を交わすなどの証跡を残しながらも,結局殺害に及んでいることや,殺害後のやや稚拙な罪証隠滅工作,その背景に存在する被告人の場当たり的な行動・思考の傾向等を考慮すれば,検察官が主張するように,被告人が金槌を自宅から持ち出す時点で被害者を殺害することをも視野に入れていたと断定するには疑いが残る。 2 殺人の犯情について⑴ 被害者は殺害されるにつき何の落ち度もなかったのであり,被害結果は極めて重大である。被害者の両親に与えた精神的苦痛も極めて甚大であり,両名が当公判廷にて表した悲痛な心情や峻烈な処罰感情も十分に理解できる。 ⑵ 殺害態様についてみると,犯行現場で,被告人を信頼して無警戒・無防備 る。被害者の両親に与えた精神的苦痛も極めて甚大であり,両名が当公判廷にて表した悲痛な心情や峻烈な処罰感情も十分に理解できる。 ⑵ 殺害態様についてみると,犯行現場で,被告人を信頼して無警戒・無防備な状態にあった被害者の背後付近に近づき,凶器である金槌を用いて,同人の頭部を約10回も力一杯殴ったというものであり,その信頼を逆手にとった卑劣な態様といえる。 殺害前に一定時間(被告人の供述によれば20ないし30分間)逡巡したことは前記のとおりであるが,一旦殺害を決意してからは躊躇なく,強い殺意に基づいて殺害を敢行している。 なお,上記の殺害方法に関して,弁護人は,被害者に長時間の恐怖や苦しみをさほど与えずに殺害したと指摘して,被告人に有利な方向での考慮を求めている。客観的にみれば確かにそのような一面はうかがわれないではないけれども,そのことは,前記のような卑劣な方法・強固な殺意によって殺害したことの反面にすぎないというべきであり,上記指摘は考慮に値しない。 ⑶ア殺害動機については,犯罪話を被害者に持ち掛けたこと等が好意を寄せていたDに伝わることなどを恐れて,口封じのために被害者を殺害したというものであり,厳しく非難されるべき身勝手な動機である。 また,殺害直前の状況に照らせば,被告人は,例えば,仲間が現れないなどといった適当な理由を付けて受領した現金を返還する方法を採っていたならば,犯罪話 - 5 -を被害者に持ち掛けたこと等がDに伝わるのを回避すること,ひいては本件殺人を回避することも容易であった。しかし,被告人は,現金を入手したことに舞い上がり,そのような方法を採ることに思い至らないまま,本件殺人を敢行したのである。 殺害動機形成の前提には,このような金欲に目が眩んだ発想があったのであり,これは動機の身勝手さを際立たせる事情 に舞い上がり,そのような方法を採ることに思い至らないまま,本件殺人を敢行したのである。 殺害動機形成の前提には,このような金欲に目が眩んだ発想があったのであり,これは動機の身勝手さを際立たせる事情といえる。 さらに,被告人は,被害者を殺害すればCが疑われるであろうから,同人に罪をなすりつけることができるとの考えも有しており,このような卑劣な考えが本件殺害の決断を後押しした一面がある。 以上を踏まえれば,本件殺人の直接的な動機も含めた一連の思考過程は,身勝手極まりないものというべきであり,同情の余地は全くない。 イ他方,弁護人は,被告人に発達障害の疑いがあることや,虐待を受けていたことが,本件殺人の動機形成の背景として存在する旨指摘し,考慮を求めている。 被告人が十代の頃に心身鑑別においてADHD(注意欠陥多動性障害)の疑いがあるとの所見が複数回示されたことや,幼少期から小学校高学年頃までの間に母親から折檻を受けていたことは認められる。しかしながら,本件殺人に至る被告人の行動・思考の過程等は前記のとおりであるし,また,被告人は本件に至るまでの数年間,職場や友人関係にも恵まれそれなりに社会に適応した生活を送っていたものと認められることからすれば,弁護人指摘の諸事情が本件犯行の動機形成等に有意な影響を及ぼしたとは認められない。 ⑷ 殺害経緯についてみると,前記のとおり,被告人は,自宅から金槌を持ち出した時点では被害者を殺害することを視野に入れていたとまでは認められず,同人から現金を受領した直後頃から殺害することを選択肢として考え始め,その後迷いながら,犯行直前に最終的に殺害を決意したものである。この認定に加えて,犯行後の罪証隠滅工作の態様が場当たり的であったことも踏まえれば,本件殺人は,計画性が欠けていたといえる。 もっとも,他方で, ながら,犯行直前に最終的に殺害を決意したものである。この認定に加えて,犯行後の罪証隠滅工作の態様が場当たり的であったことも踏まえれば,本件殺人は,計画性が欠けていたといえる。 もっとも,他方で,被告人の供述によれば,金槌の用法について,第三者を装っ - 6 -て被害者に向けて使用し,それによって現金を奪うことも視野に入れていたというのである。実現しなかったにせよ,このような危険な用法も被告人が選択肢として事前に考えていた点や,結局のところ実際に持参した金槌を被害者に対して利用し殺害に至った点,前記に認定した殺害に至るまでの思考過程等に照らせば,本件殺人を衝動的・偶発的な犯行とみることもできない。 3 詐欺の犯情について自身の趣味であるトライクの代金等に充てるために詐欺に及んだという動機は身勝手である。約120万円という詐取金額は高額であり,被害弁償もなされておらず,被害結果は重い。 犯行態様についてみると,被害者が積極的に話に乗ってきたことに乗じ,預貯金のほぼ全額を引き出させ,消費者金融からの借入れをも示唆した上で詐取に及んでいることや,即興で現実味の乏しい話を持ち掛けて騙し始めたとはいえ,その後約3週間の間,躊躇することもなく,現金交付の場所や方法等を綿密に打ち合わせるなどして詐欺を完成させていることからすると,悪質性は高いというべきである。 なお,被害者の側にも,現実味の乏しい話を信じたとの点で迂闊さがなかった訳ではないが,他方で,被害者は,Cからの取立ての件以来,被告人のことを全面的に信頼していたからこそ被告人の話を信じていた面もうかがわれ,このような被害者の心情を利用した被告人の狡猾さをも考慮すれば,上記の点を被害者の落ち度として殊更強調すべきではない。しかしながら,被害者は,被告人のしたもうけ話は犯罪に当たる違 た面もうかがわれ,このような被害者の心情を利用した被告人の狡猾さをも考慮すれば,上記の点を被害者の落ち度として殊更強調すべきではない。しかしながら,被害者は,被告人のしたもうけ話は犯罪に当たる違法な手段であると繰り返し聞かされながら,結局積極的に金員を預ける姿勢を示しており,この点に関しては被害者の側にも落ち度があったといわざるを得ない。 4 一般情状について被告人は,本件殺人後しばらくの間,事件との無関係を装い,被害者と共通の友人を欺くなどしていたが,犯行の約2か月後からは本件各犯行への関与を認め,当公判においても,公訴事実について全て認めた上で,犯行経緯その他の事実関係全 - 7 -体をおおむね素直に供述しているとみられ,その上で,いまだ被害者遺族への慰謝の措置はなされていないものの,被告人なりの反省・謝罪の意を示している。また,被告人が本件各犯行に至った背景には,同人の極めて自己中心的な考え方,規範意識の乏しさ等が存在するが,他方で,被告人自身,そのような自らの問題点を認識しており,改善の意も示している。さらに,被告人は,本件に至るまでの数年間は,工夫を重ねながら仕事に真面目に取り組んできたし,健全な友人関係を築いてきた。 思考・性格面の矯正という大きな課題は存在するものの,更生に向けた資質の面では評価できる面もみられることのほか,いまだ若年であることや情状証人として出廷した母親が更生支援を誓約していることも考慮すれば,被告人の更生には相応に期待することができる。 5 結論以上の諸事情を踏まえて被告人に科すべき刑を検討したが,殺人の犯情については,殺害に至る思考過程の面で身勝手さが際立っているというべきであるし,これに先立つ詐欺の犯情も相当に悪い。殺人が計画的ではなかった点や,一連の経過の出発点となった詐欺に関 たが,殺人の犯情については,殺害に至る思考過程の面で身勝手さが際立っているというべきであるし,これに先立つ詐欺の犯情も相当に悪い。殺人が計画的ではなかった点や,一連の経過の出発点となった詐欺に関して被害者の落ち度がみられた点等を考慮しても,全体的にみて犯情は相当に悪いというべきであり,被害者1名(知人等)に対する殺人事件の中では重めの刑を科すのが相応しいと判断した。他方で,前記のとおり一般情状面においては諸々の酌むべき点等がみられることも考慮して,主文のとおりの刑を科すべきとの結論に至った。 (検察官の求刑―懲役27年,弁護人の意見―懲役18年)平成29年1月26日神戸地方裁判所姫路支部刑事部 裁判長裁判官木山暢郎 - 8 -裁判官寺島桂花 裁判官橋詰英輔
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