主文 1 原判決を次のとおり変更する。 2 被控訴人は,控訴人に対し,金335万7982円及び内金324万円に対する平成15年10月28日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 3 控訴人のその余の請求を棄却する。 4 訴訟費用は第1,2審を通じてこれを3分し,その1を控訴人の,その余を被控訴人の各負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人(1) 原判決を次のとおり変更する。 (2) 被控訴人は,控訴人に対し,金500万円及びこれに対する平成14年8月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 2 被控訴人控訴棄却第2 事案の概要 1 本件は,被控訴人を賃貸人とする,賃貸借期間10年間,敷金1000万円の約定による建物の賃貸借契約が法定更新された後に,賃借人からその地位を承継した控訴人が,解約の申入れをして3か月後に建物を明け渡した上で,被控訴人に対して敷金の内金500万円の返還と遅延損害金の支払を求めた事案である。被控訴人は,当初の賃貸借契約には敷金等不返還特約や解約予告期間を6か月とする告知期間特約があり,これが法定更新後も効力を有すると主張して争い,原判決は,敷金等不返還特約は法定更新後の適用を予定したものではないが,告知期間特約は解約予告期間を定めたものであり,この定めは法定更新後も有効に存続するとして,敷金から未払の3か月分の賃料を控除した176万円と遅延損害金の限度で控訴人の請求を認容した。そのため,控訴人がこれを不服として控訴したものである。 2 以上のほかの事案の概要は,次のとおり当事者双方の当審における主張を付加するほか,原判決の事実及び理由の「第2 事案の 請求を認容した。そのため,控訴人がこれを不服として控訴したものである。 2 以上のほかの事案の概要は,次のとおり当事者双方の当審における主張を付加するほか,原判決の事実及び理由の「第2 事案の概要」に記載のとおりであるので,これを引用する(ただし,原判決3頁19行目の「旧借家法」を「平成3年法律第90号により廃止された借家法(以下,「借家法」という。)」に改める。)。 (1) 控訴人の当審における主張ア本件の告知期間特約は解約予告期間を定めたものではなく,契約期間内における解約が例外的に認められるための要件を定めたものである。 すなわち,本件賃貸借契約書(甲2)の13条2項は,契約期間内の解除は原則としてできないとする同条1項を承けて,例外的に,契約期間内に解約するためには,6か月前に書面による相手方の承諾を得ることを要件としたものである。これを解約予告期間の定めと解することは,書面による相手方の承諾が必要とされていることを無視するもので誤りである。また,6条3項は契約期間中に上記要件により解約された場合の効果を定めたものであって,相手方が合意していない解約を予定した規定ではない。17条1項,2項も,建物の竣工前の解除に関する定めであって,契約期間中の解約とは異なる。 イ 13条2項の規定は,契約期間内における解約に限って適用されるものであり,法定更新後に適用されるものではない。同項の「契約期間内」とは,同条1項や6条3項と同様に当初の10年間の契約期間中のことを意味する。すなわち,13条1項と2項は,被控訴人が本件建物の建築コスト等を含む投下資金を確実に回収するために,10年間の契約期間内の解除はできるだけ認めず,6か月前に書面による承諾を得た場合にのみ例外的に解約を認めようとする趣旨の定めであり,いずれも当 の建築コスト等を含む投下資金を確実に回収するために,10年間の契約期間内の解除はできるだけ認めず,6か月前に書面による承諾を得た場合にのみ例外的に解約を認めようとする趣旨の定めであり,いずれも当初の10年間の契約期間内の解約を念頭においた規定である。これを無視して,13条2項が法定更新後にも適用があるとすることは,当事者の合理的意思に反する。 また,法定更新後も適用があるとしたのでは,いつまでも,あらかじめ6か月前に書面により相手方の承諾を得ない限り賃貸借契約を解約できないこととなってしまい,その不合理なことは明らかである。 ウ被控訴人から,平成15年10月27日に,176万円とこれに対する平成14年8月1日からの遅延損害金の合計189万1059円の弁済を受けたことは認める。 (2) 被控訴人の当審における主張ア(ア) 当事者双方の合意による解約を不可能とする必要はなく,13条1項が原則としてできないとしているのは,一方当事者からの意思表示による解約であり,合意解約は含まれないものと解される。そして,2項は,例外的に一方当事者の意思表示により賃貸借契約を終了させる場合の条件について定めたものと解すべきである。同項が相手方の承諾を得なければならないとしているのは,本件賃貸借契約のために投下した資金を無駄にする事態を避けるという趣旨に照らして,解約についてはできるだけ相手方の理解を得るようにすることを求めたものと解される。そうでなく,これが合意解約を意味するものとすれば,わざわざ契約で定型的に6か月の猶予期間を設ける必要はない。 (イ) 本件賃貸借契約において,違約を原因とする解除以外には,合意解約しか契約を終了させる方法がないとすれば,6条3項が一方的な事由により契約を解約する場合を想定していること 必要はない。 (イ) 本件賃貸借契約において,違約を原因とする解除以外には,合意解約しか契約を終了させる方法がないとすれば,6条3項が一方的な事由により契約を解約する場合を想定していることと矛盾する。17条1項が竣工前の解除について定めていることからも,契約期間内の解約の余地を認めているということができる。 (ウ) 控訴人の回答書(乙4)からは,13条2項が合意による解約の場合の規定であることを理由にその適用を否定する趣旨は読み取れない。また,平成14年初めに,控訴人からの求めに応じて改訂しようとした契約書(乙7)では,明らかに解約予告期間を6か月としているが,双方とも全く問題としていなかったのである。さらに,Aの陳述書(甲9)においても,6か月の解約予告期間と記載されている。 イ契約期間内という文言だけからは,これを当初の10年間の契約期間と契約の存続している期間のいずれと解釈すべきかは確定できない。当事者の合理的意思により,法定更新後の適用が予定されているか否かにより判断すべきである。解約予告期間は賃貸人だけでなく,賃借人の利益をも考慮して定められるものである。そして,それは建物の規模や特殊性,非代替性等を勘案して決められたものであり,法定更新の前後を通じてその事情に変化はない。当事者は,法定更新後も存続させるとの合理的意思を有していたとみるべきである。 ウ被控訴人は,平成15年10月27日,控訴人に対し,176万円及びこれに対する平成14年8月1日からの年6分の割合による遅延損害金の合計189万1059円を弁済した。 第3 当裁判所の判断 1 敷金等不返還特約及び違約金特約について当裁判所も,本件賃貸借契約における敷金等不返還特約及び違約金特約は,当初の10年間の契約期間内に限り認められる を弁済した。 第3 当裁判所の判断 1 敷金等不返還特約及び違約金特約について当裁判所も,本件賃貸借契約における敷金等不返還特約及び違約金特約は,当初の10年間の契約期間内に限り認められるものであって,法定更新後には適用されないものと判断するが,その理由は,次のとおり訂正するほかは,原判決の事実及び理由の「第3 争点に対する判断」の1に記載のとおりであるので,これを引用する。 (1) 原判決6頁25行目の「旧借家法」をいずれも「借家法」に改める。 (2) 同8頁1行目の「被告は,」の次に「敷金等不返還特約及び違約金特約によって,」を加える。 (3) 同8頁3行目の「本件契約締結後」を,「法定更新により本件賃貸借契約が期間の定めのない賃貸借契約となって,解約の申入れが可能であるにもかかわらず,」に改める。 (4) 同8頁6行目の「法定更新後の契約に適用されない」を「法定更新後の契約には適用されず,賃貸借契約書の6条3項の「本契約期間中」は当初の10年間の契約期間を意味する」に改める。 2 告知期間特約について(1) 本件賃貸借契約における契約書では,13条1項で,被控訴人及びBは「本件建物及び諸設備に相当する資金を投下するので契約期間内は原則として契約解除することができない。」と定められ,これを承けて同条2項に前記のとおりの文言で告知期間特約が定められている(甲2)。そして,証拠(甲9)及び弁論の全趣旨によれば,これらの条項は被控訴人からの申出により契約書に定められたものであり,その趣旨は上記の敷金等不返還特約や違約金特約と同様に,主として被控訴人の投下資金の回収を確実にするために,原則として契約期間内の解約はできないこととし,6か月前に書面により相手方の承諾を得た場合に限り例外的に契約期間内の解約が認めら 約金特約と同様に,主として被控訴人の投下資金の回収を確実にするために,原則として契約期間内の解約はできないこととし,6か月前に書面により相手方の承諾を得た場合に限り例外的に契約期間内の解約が認められるとしたものであることが認められる。このような上記条項の設けられた趣旨,13条1項と2項の関係や文言等からすれば,その各項に定める「契約期間内」の意味は敷金等不返還特約について定める6条3項と同じく,当初の10年間の契約期間を意味するものであり,13条2項はその契約期間内に例外的に解約が認められる場合の要件を定めたものと認めるのが相当である。これを,当事者の一方からの解約申入れが許されることを前提に,その解約予告期間を定めたものと認めることはできない。 被控訴人は,13条2項は合意による解約ではなく,当事者の一方からの解約の申入れについて定めたものであり,同項の「あらかじめ6か月前に書面により相手方の承諾を得なければならない。」との文言は,解約についてはできるだけ相手方の理解を得るようにすることを求めたものであると主張する。しかし,同条1項で当事者の一方からの解約申入れを許さないとしておきながら,2項で相手方の理解を得るようにすれば解約申入れも認められるとすることは,上記のような趣旨に基づいて解約制限の定めを設けたことと符合せず,6か月前に書面による承諾を得ることを要するとの2項の文言にも反するものといわねばならない。被控訴人は,2項が相手方の承諾を得ての合意解約を定めるものであれば,6か月という猶予期間を定める必要はないとも主張する。しかし,例外的に合意解約がされる場合においても,6か月の猶予期間を要することを契約で定めておくことが無意味とはいえない。 6条3項の「本契約期間中」の意味については前記のとおりであり,同項 かし,例外的に合意解約がされる場合においても,6か月の猶予期間を要することを契約で定めておくことが無意味とはいえない。 6条3項の「本契約期間中」の意味については前記のとおりであり,同項は,例外的に解約が認められる場合の効果を定めたものと解される。敷金には利息を付さない旨の同条1項についても,敷金の性質や当事者の合理的意思に基づいて,その適用が認められる期間が判断されるものであって,これにより13条2項の解釈が左右されるものではない。また,控訴人から被控訴人に対する回答書(乙4)に,「13条2項は契約期間内になされた解約申入れについて適用されるものであり,・・・」などの記載が存するとしても,同書面の趣旨や法定更新後の適用を争っていることからすれば,控訴人において同項が解約予告期間の定めであることを認めていたものということはできない。本件賃貸借契約の契約書の改訂案において6か月の解約予告期間の定めが盛り込まれている(乙7)からといって,本件賃貸借契約における合意も同様ということはできず,また,Aの陳述書(甲9)で解約予告期間という表現が用いられているとしても,その全体の趣旨からすればこれを認めているわけではなく,上記の認定を妨げるものではない。 (2) そして,告知期間特約がこのような趣旨と内容のものであると認められることからすれば,本件賃貸借契約が法定更新により期間の定めのない契約となり,当初の10年間の契約期間を経過して投下資金の回収が実現した後もなお13条1項,2項の効力を存続させ,賃貸借契約の解約を制限することが当事者の意思であったとは認められない。また,同条2項を上記のように解すると,相手方の承諾を得ての解約であっても,6か月という期間が事実上の猶予期間として機能することになるが,そうであるからといって,これを 思であったとは認められない。また,同条2項を上記のように解すると,相手方の承諾を得ての解約であっても,6か月という期間が事実上の猶予期間として機能することになるが,そうであるからといって,これを解約予告期間であるということはできず,同条1項とは別に,2項だけが法定更新後もその適用があるとすることもできない。 本件賃貸借契約のような建物全体についての賃貸借では,6か月の解約予告期間を定めることが格別不合理とはいえないとしても,そのことと事実としての合意の存在とは別の問題である。そして,本件賃貸借契約においては,ほかに被控訴人の主張するような解約予告期間と認め得る合意はなく,取り交わされた契約書とは別に被控訴人とBや控訴人との間でそのような合意が成立したものとも認められない(甲2,9,弁論の全趣旨)。 (3) したがって,本件賃貸借契約における告知期間特約が6か月の解約予告期間の定めであって,法定更新後もその効力が存続しているとする被控訴人の主張は採用することができない。本件賃貸借契約は控訴人からの解約申入れによって平成14年7月31日に終了したものであり,控訴人には同年8月から10月までの3か月分の賃料の支払義務はなく,これを敷金から控除することはできない。 3 以上によれば,平成14年7月31日に控訴人が本件建物を明け渡したことにより,敷金の返還請求権が生じるところ,本件では訴状送達によってこれが遅滞に陥ったものと認められ,商事法定利率年6分の割合による遅延損害金は訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成14年12月29日から生じることとなる。 そして,被控訴人が,平成15年10月27日,控訴人に対し,敷金のうち176万円及びこれに対する平成14年8月1日からの年6分の割合による遅延損害金の合計189万10 日から生じることとなる。 そして,被控訴人が,平成15年10月27日,控訴人に対し,敷金のうち176万円及びこれに対する平成14年8月1日からの年6分の割合による遅延損害金の合計189万1059円を弁済したことは当事者間に争いがない。しかし,上記のとおり遅延損害金は同年12月29日から生じるものであるので,遅延損害金としての弁済のうち同年8月1日から同年12月28日までの分として支払われた4万3397円をその余の遅延損害金に充当して計算すると,平成15年10月27日時点での遅延損害金の残額は11万7982円となることが認められる。 したがって,控訴人の請求は,敷金の残額324万円と上記の遅延損害金の残額11万7982円の合計335万7982円及び敷金残額324万円に対する平成15年10月28日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は上記の弁済により既に債権が消滅し理由がないものと認められる。 よって,これと異なる原判決をこのとおりに変更して,主文のとおり判決する。 広島高等裁判所第3部裁判長裁判官西島幸夫 裁判官大段亨 裁判官齋藤憲次 藤憲次
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