平成29(行ウ)72 遺族補償一時金不支給処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
令和3年10月11日 名古屋地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-90799.txt

判決文本文37,733 文字)

令和3年10月11日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成29年(行ウ)第72号遺族補償一時金不支給処分取消請求事件口頭弁論終結日令和3年6月2日判決当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 津労働基準監督署長が原告に対して平成26年9月26日付けでした労働者災害補償保険法による遺族補償一時金を支給しない旨の処分を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 第2 事案の概要本件は,中部電力株式会社(以下「本件会社」という。)の従業員であり,本件 会社の三重支店(以下「三重支店」という。)営業部法人営業グループのソリューションスタッフチームに所属していたa(以下「本件労働者」という。)の母である原告が,本件労働者は本件会社における過重な業務及び上司によるパワーハラスメントにより精神障害を発病し,平成▲年▲月▲日に自殺した(以下「本件自殺」という。)旨主張して,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。) に基づく遺族補償一時金の支給を請求したところ,津労働基準監督署長(以下「処分行政庁」という。)が平成26年9月26日付けで不支給とする旨の処分(以下「本件処分」という。)をしたことから,被告に対し,本件処分の取消しを求めた事案である。 1 前提事実(末尾に証拠等を掲げた事実以外は当事者間に争いがない。) ⑴ 当事者等 ア原告は,本件労働者(昭和▲年▲月▲日生まれ,男性)の母である。 イ本件会社は,名古屋市に本店を置き,愛知,岐阜(一部を除く),三重(一部を除く),長野及び静岡(富士川以西)の中部5県の営業区域において ,本件労働者(昭和▲年▲月▲日生まれ,男性)の母である。 イ本件会社は,名古屋市に本店を置き,愛知,岐阜(一部を除く),三重(一部を除く),長野及び静岡(富士川以西)の中部5県の営業区域において電力の供給業務及びその付帯事業を行う株式会社である。(甲A1の2・954頁) ⑵ 本件労働者の経歴等ア本件労働者は,平成15年4月,武蔵工業大学工学部建築学科に入学し,平成19年3月,同大学を卒業した。 イ本件労働者は,平成19年4月,武蔵工業大学(ただし,同大学は,平成21年4月,「東京都市大学」に名称変更した。)大学院建築学専攻に入学し, アメリカのPurdue大学機械工学部への留学を経て,平成22年3月,東京都市大学大学院建築学専攻を修了した。(甲A1の2・711頁)ウ本件労働者は,平成22年4月1日,本件会社に入社した。本件労働者は,本件会社研修所において新人社員教育を受け,同月16日,三重支店営業部法人営業グループに配属された。 ⑶ 三重支店営業部法人営業グループの業務等法人営業グループには,直轄担当と地区販売担当があり,直轄担当はさらにアカウントマネージャー(営業担当者。AMともいう。),ソリューションスタッフ(SOともいう。),バックオフィス(BO)に分かれていた。 本件労働者が所属していたSOチームは,AMが特別高圧(20,000Ⅴ 以上)で受電している顧客等に対して効率的な電気の利用に資する空調設備や厨房設備・システム等の推奨及び省エネ提案活動を行う際,AMを技術面からサポートすることを業務としていた。なお,法人営業グループの業務では,従業員個人が一定期間に提案する件数等についての目標値やそれを達成できなかった場合のペナルティはなかった。 (甲A1の1・252頁,甲A を業務としていた。なお,法人営業グループの業務では,従業員個人が一定期間に提案する件数等についての目標値やそれを達成できなかった場合のペナルティはなかった。 (甲A1の1・252頁,甲A1の2・716~717頁,同831頁) ⑷ 本件会社における新人へのサポート教育体制本件会社においては,新入社員に対しては,以下のような指導教育をすることとされていた(ただし,本件労働者に必要な指導教育がされていたかは,後述のとおり争いがある。)。(甲A5)ア新入社員の育成は,自己啓発,OJT及びOff-JT(研修等)を中心 に行う。 大学及び大学院を卒業している新入社員に対しては,2年の育成期間を設定し,1年目は業務の基本事項を計画的に教え,2年目は個別の修得状況や担当業務に応じたフォロー指導を行う。また,計画策定にあたっては,新入社員の能力及びレベル分けされた業務管理表一覧を参考に行う。 イ直属長は,新入社員の指導に対する計画作成と実施を行う。また,指導員の指導場面をサポートし,計画に基づいた育成の進捗管理を行い,他の副長との情報交換を図りながら新人指導の中心的役割を果たすものとする。 本件労働者の直属長は,b課長であった。 ウ入社後1年目の社員には年次の近い指導員を付ける。指導員は,直属長の アドバイスを受けながら,計画に基づいて継続的・日常的に新人の育成指導を行う。 本件労働者の指導員は,平成22年7月末まではc(以下「c指導員」という。),同年8月以降はd(以下「d指導員」という。)であった。 エ 「いしずえ~私の入社1年目の成長記録~」(以下「いしずえ」という。) は,新入社員が業務における気付きを記入して指導員及び直属長に提出し,指導員らはコメントを記入して当該社員に返 た。 エ 「いしずえ~私の入社1年目の成長記録~」(以下「いしずえ」という。) は,新入社員が業務における気付きを記入して指導員及び直属長に提出し,指導員らはコメントを記入して当該社員に返却することによりコミュニケーションの手段として活用することとする。(甲A3)オ新入社員の人事評価は,育成期間であることを考慮して原則として全員同じ評価とする。(甲A1の2・831頁) ⑸ 三重支店における本件労働者の担当業務 本件労働者の執務状況は,おおむね別紙1(甲A1の1・357~360頁,甲A1の2・796~799頁,甲A34)のとおりであり,本件労働者は,以下のような案件や業務を行っていた。 アクボタ松下案件本件労働者は,平成22年5月頃から同年7月頃まで,クボタ松下電工外 装株式会社の案件(以下「クボタ松下案件」という。)に携わり,提案書の作成等を行った。クボタ松下案件の担当者は,本件労働者のほかに,e主任及びc指導員であった。 イ技術振興センター案件本件労働者は,平成22年8月末頃から同年10月12日まで,主担当と して三重県科学技術振興センターに関する案件(以下「技術振興センター案件」という。)に携わり,提案書の作成等を行った。技術振興センター案件の担当者は,本件労働者のほかに,d指導員及びb課長であった。 ウ三井住友案件本件労働者は,平成22年7月26日以降,主担当として三井住友金属鉱 山伸銅株式会社の案件(以下「三井住友案件」という。)に携わり,作図等を行った。三井住友案件の担当者は,本件労働者のほかに,f(以下「f主任」という。),g(以下「g主任」という。)及びb課長であった。 エ日立金属桑名案件本件労働者は,平成22年8月頃から同年9月 。三井住友案件の担当者は,本件労働者のほかに,f(以下「f主任」という。),g(以下「g主任」という。)及びb課長であった。 エ日立金属桑名案件本件労働者は,平成22年8月頃から同年9月頃まで,日立金属株式会社 桑名工場の案件(以下「日立金属桑名案件」という。)に携わり,現場見学等を行った。日立金属桑名案件の担当者は,本件労働者のほかに,d指導員(主担当)及びg主任であった。 オ産業論文本件労働者は,平成22年7月7日,任意参加であるフレッシャーズ産業 論文コンクール(以下「産業論文」という。)に論文を応募した。 ⑹ 本件労働者の自殺本件労働者は,遅くとも平成22年10月28日頃までに,何らかの精神障害を発症し,▲月▲日,自殺した(本件自殺)。 ⑺ 本件訴訟に至る経緯ア原告は,平成25年8月29日,処分行政庁に対し,遺族補償一時金の支 給請求をしたが,処分行政庁は,平成26年9月26日,以下のとおりの理由を示して不支給とする旨の処分(本件処分)をした。(甲A1の1,甲A1の2)本件労働者に発症した精神障害は,発病前のおおむね6か月の間に,客観的に当該精神障害を発病させるおそれのある業務による強い心理的負荷が 認められないから,業務上の事由によるものとは認められない。 イ原告は,本件処分を不服として,平成26年11月27日,三重労働者災害補償保険審査官に対し,審査請求をしたが,同審査官は,平成28年3月31日,これを棄却する決定をした。(甲A1の1,甲A1の2)ウ原告は,前記イの決定を不服として,平成28年4月18日,労働保険審 査会に対し,再審査請求をしたが,同審査会は,平成29年3月8日,これを棄却する裁決をした。(甲A2)エ原告は,平成 原告は,前記イの決定を不服として,平成28年4月18日,労働保険審 査会に対し,再審査請求をしたが,同審査会は,平成29年3月8日,これを棄却する裁決をした。(甲A2)エ原告は,平成29年6月15日,本件訴訟を提起した(顕著な事実)。 ⑻ 「心理的負荷による精神障害の認定基準」について労働省(現・厚生労働省)は,精神障害の業務起因性を適正・迅速に判断す るための基準を策定するため,精神医学,心理学及び法律学の研究者で構成される「精神障害等の労災認定に係る専門検討会」を設置し,同専門検討会から平成11年7月29日付けで提出された「精神障害等の労災認定に係る専門検討会報告書」を踏まえ,同年9月14日,「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」を策定し,これに基づき業務起因性の判断を行ってきた。 その後,厚生労働省は,平成21年4月6日に上記判断指針を一部改正したが, 精神障害の労災請求件数が大幅に増加し,審査の迅速化及び効率化が求められるようになったことから,精神医学,心理学及び法律学等の専門家で構成される「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」(以下「平成23年専門検討会」という。)を設置し,業務起因性の認定基準に関する検討を依頼した。厚生労働省は,平成23年専門検討会から平成23年11月8日付けで提出され た「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」(以下「平成23年専門検討会報告書」という。)の内容を踏まえ,同年12月26日,業務起因性に関する新たな判断基準として,別紙2「心理的負荷による精神障害の認定基準」(以下「認定基準」という。)を策定し,上記判断指針を廃止した。(乙1~6) 2 本件の争点及び当事者の主張本件の争点は,本件自殺の業務起因性 心理的負荷による精神障害の認定基準」(以下「認定基準」という。)を策定し,上記判断指針を廃止した。(乙1~6) 2 本件の争点及び当事者の主張本件の争点は,本件自殺の業務起因性であり,特に,業務の質的過重性が争いになっている。当事者の主張は,以下のとおりである。 (原告の主張)⑴ 判断枠組み等 ア労働者災害補償保険制度は,労働者とその遺族の生活保障にあることを考えると,業務の過重性は労務の提供をしている労働者本人を基準にして判断をするのが相当である。そして,業務に内在する危険を考えるに当たっては,使用者によって労務の提供が期待されている者の中で最も危険に対する抵抗力の弱い者を基準として危険の有無を考えるべきである(本人基準説)。 イまた,業務起因性を肯定するに当たって相当因果関係が必要であるとしても,その内容は,業務が他原因と共働して発症に至ったことで足りると解するのが相当である(共働原因説)。労働者に生ずる疾病は,多数の原因又は条件が競合していることが多いところ,それを理由に業務起因性の判断を厳格にしようとするのは,労働者災害補償保険制度が労働者の保護及び救済を目 的としていることに逆行する。 ウ判断指針や認定基準は,行政認定の基準であって,厚生労働省の内部基準に過ぎず,相当因果関係の存否の基準ではない上,その内容,制定の経緯,その後の裁判例の状況からも明らかなとおり,因果関係の範囲を限定的にとらえている不当な基準であるから,検討判断するときの参考にすることができても,これらに当てはまらないという理由で相当因果関係を否定すること は,誤りである。 ⑵ 精神障害の発病時期本件労働者は,新入社員であるにもかかわらず過大な業務が課され,支援体制が得ら も,これらに当てはまらないという理由で相当因果関係を否定すること は,誤りである。 ⑵ 精神障害の発病時期本件労働者は,新入社員であるにもかかわらず過大な業務が課され,支援体制が得られないまま業務の進め方が分からなくなり,平成22年7月21日には自殺関連のウェブサイトを検索し始めていることからすれば,同時期に精神 障害を発症したというべきであり,遅くとも同年10月28日には適応障害を発症していた。 ⑶ 業務の質的過重性アクボタ松下案件本件労働者は,集合研修終了後,省エネ手法や機器に関する知識が全くな い状況において,b課長から,主担当として提案書作成の指示を受けた。 そして,「一般的な省エネ提案(空調,照明,給湯,節水など)」に関する提案書の社内での提出期限は,作業に慣れていない本件労働者に対するものとして必要以上に短く設定された。本件労働者は,「いしずえ」に締切期限が迫り困惑していることを記載したが,c指導員から指導助言はなかった。ま た,残業も事実上許されない中,本件労働者は当初の締切期限を大幅に超過して提案書を提出し,能力不足という自責の念に苛まれ続けていることにも照らせば,これは,新入社員であった本件労働者にとって他に参考となる例がある案件であっても容易であったとはいえない。したがって,本件労働者は,クボタ松下案件の提案書作成業務により強い心理的負荷を受けた。 イ産業論文 本件労働者は,深夜及び休日を含めた業務時間外に産業論文を執筆したが,b課長の指導を受けて何度も論文テーマを大きく変更しており,変更に伴って作成は困難を極め,過大な負担が生じた。そして,産業論文の執筆は,クボタ松下案件を主担当として取り組んでいるのと並行して行ったものであり,これらの業務 も論文テーマを大きく変更しており,変更に伴って作成は困難を極め,過大な負担が生じた。そして,産業論文の執筆は,クボタ松下案件を主担当として取り組んでいるのと並行して行ったものであり,これらの業務遂行により受けた心理的負荷を総合的に評価すれば,心理 的負荷の強度は,「強」と評価するのが相当である。 ウ技術振興センター案件技術振興センター案件は,熱源構成や機器容量などの「試算条件」を設定し,ランニングコスト及びイニシャルコストを算出した上,「経済性」(ランニングコスト,イニシャルコスト)と「環境性」を総合的に判断し て最適のシステムを提案するというものであった。しかし,過去の提案書は,その一部数値を引用することはできるものの,経済評価やシステム推奨順位の評価のために参考にすることはできず,評価のために必要な熱源構成の選択についてb課長から指示はあったものの,その選択を行う理由や内容についてb課長やd指導員から具体的な指示はなかった。したがっ て,未経験の新入社員であった本件労働者は,提案書作成過程で何度も計算をやり直すもののその理由が理解できず,さらには提案書を顧客に提出する直前になって重大な計算ミスが発見されても一人では修正できず,b課長とともに休日出勤して修正していることからすれば,技術振興センター案件は,本件労働者にとって困難なものであった。しかも,技術振興セ ンター案件は,後述する三井住友案件と同時並行で作業を進めており,提案書の提出まで時間的余裕もなかったことから,本件労働者は,追い込まれた状況にあった。 また,本件労働者は,休日出勤をした2日後に友人のh(旧姓「i」。以下「i」という。)に対し,b課長から「計算ミス,おまえが悪い。おまえ のせい。おまえなんていらん。ひとりでやれ。」 た。 また,本件労働者は,休日出勤をした2日後に友人のh(旧姓「i」。以下「i」という。)に対し,b課長から「計算ミス,おまえが悪い。おまえ のせい。おまえなんていらん。ひとりでやれ。」と言われて怒鳴られたと話 し,その後,自殺関連のウェブサイトを検索するなど,希死念慮,自殺願望を強めていたことが推認される。b課長は,監督者としての自らの責任を棚に上げ,計算ミスについて本件労働者を理不尽に厳しく叱責し,これにより本件労働者は強い心理的負荷を受けたことが明らかである。 エ三井住友案件 本件労働者は,平成22年7月26日,b課長から主担当として業務に当たるよう指示を受け,①重油使用量,水の使用量及び蒸気量等の計測,②工場内蒸気配管のスケッチ及び蒸気配管図の作成,③蒸気配管等の熱損失計算を行った。 蒸気配管図の作成は,三井住友案件において非常に重要であり,かつ正 確性が要求されるものであったところ,本件労働者にとって蒸気配管図の作成は,初めての業務であって全く知識がないため困難を極めた。また,熱損失計算も,電気設備の提案のためには必要不可欠な重要な業務であったが,本件労働者は計算方法が分からず,エネルギー応用研究所に出張した。しかし,SOチームには蒸気配管の熱損失計算や配管図作成に精通す る人はおらず,本件労働者を指導することができなかったため,本件労働者は,自室でインターネット検索をしながら,自分の建築用に使っていたCAD(コンピューターによる設計支援ツール)を使用して図面作成や熱損失計算を行った。そして,本件労働者は,三井住友案件において主担当を任されており,上席者であるf主任とg主任に仕事を指示することはで きないにもかかわらず,期限までに業務を遂行する責任を負わされた。したがって して,本件労働者は,三井住友案件において主担当を任されており,上席者であるf主任とg主任に仕事を指示することはで きないにもかかわらず,期限までに業務を遂行する責任を負わされた。したがって,これらの業務は,本件労働者にとって非常に困難な業務であり,大きな心理的負荷になったことは明らかである。 さらに,b課長は,本件労働者に対し,本件労働者が三井住友案件に携わる目的が蒸気設備等の勉強であることを伝えておらず,案件の検討内容 や目標が関係者の間で共有されていなかったことから,本件労働者は,混 乱し,中間報告の作成に行き詰った。 そして,本件労働者は,平成22年10月27日午前,翌日の客先訪問で提出する中間報告書の作成を指示されたが同日中にこれを作成することができず,翌28日,客先に対し配管図面のみを提示して図面の作成状況について説明をしたものの,客先から「今日は,これだけ?」と中間報 告になっていないことを指摘され,非常に大きな屈辱を受けた。また,本件労働者は,ボイラーを撤去して電気設備を入れることを構想して業務を進めていたところ,客先から物理的に不可能と思われ,ボイラー移設更新の予算計上をする方向となり,大きなショックを受けた。さらに,本件労働者は,b課長への報告の際,支離滅裂な状況になっており,b課長らか ら,ボイラー移設更新の方針で進むことになったことは想定の範囲内である旨の発言があったことにより困惑し,強い心理的負荷を受けた。 オ日立金属桑名案件本件労働者は,三井住友案件で手いっぱいの中,日立金属桑名案件にも担当者として携わった。いしずえに「日立金属,全く役に立たず申し訳ありま せん。自分のことでいっぱいいっぱいになってしまって…」と記載しているように,いくつもの案件を行うこ 立金属桑名案件にも担当者として携わった。いしずえに「日立金属,全く役に立たず申し訳ありま せん。自分のことでいっぱいいっぱいになってしまって…」と記載しているように,いくつもの案件を行うことは,本件労働者にとって心理的に過重であった。 カ新入社員への支援態勢の欠如による負荷本件労働者は,新入社員であり,現場実務能力がゼロに等しかったところ, その現場実務能力を上げるための教育中にもかかわらず,業務案件の主担当に任命され,本人の実務能力と業務案件が要求する能力とのギャップの大きさにより常時緊張を強いられ,心理的負担を極度に強めた。 キ上司によるパワーハラスメントの有無及び内容本件労働者は,b課長から,「こんなんで大卒か。」,「おまえなんかいらな い。」,「帰れ。」,「役に立たない。」などと言われたりしたことを複数の友人や 同期入社社員に話しており,本件労働者がこれらの言動を誇張して話す必要もないことに照らせば,b課長によるパワーハラスメントがあったことが明らかであり,これにより強い心理的負荷を受けた。 ⑷ まとめ本件労働者は,精神障害の影響により本件自殺に至ったところ,以上のとお り,本件労働者の精神障害の発病については業務起因性が認められることから,本件自殺には業務起因性が認められる。 (被告の主張)⑴ 判断枠組み等ア労働者災害補償保険制度は,労基法による使用者の災害補償責任を担保す るための保険制度であり,業務に内在する各種の危険の現実化として労働者が負傷し又は疾病にかかった場合には,使用者は,その傷病の発症について過失がなくても,その危険を負担し,労働者の損失のてん補に当たるべきであるとする危険責任の法理に基づくものである。 そして,業務起因性を肯定する にかかった場合には,使用者は,その傷病の発症について過失がなくても,その危険を負担し,労働者の損失のてん補に当たるべきであるとする危険責任の法理に基づくものである。 そして,業務起因性を肯定するためには,当該労働者が当該業務に従事し なければ当該結果(負傷,疾病,障害,死亡等)を生じなかったという条件関係があるのみでは足りず,①当該業務に当該傷病発生の危険性が内在していること(危険性の要件),②当該傷病が当該業務に内在する危険の現実化として発生したことが認められること(現実化の要件)が必要である。 イ精神障害の成因についての確立した医学的知見であるストレス―脆弱性 理論によれば,ストレスが非常に強ければ,個体側の脆弱性が小さくても精神障害が起こり,逆に,個体側の脆弱性が大きければ,ストレスが小さくても破たんが生じるとされており,現時点において,ストレス―脆弱性理論を超えて,業務と精神障害発症の因果関係を合理的に説明しうる確立した医学的知見は存在しない。 ウ厚生労働省労働基準局長が策定した認定基準は,従前の判断指針による対 象疾病,認定要件及び認定要件に関する基本的な考え方を踏襲しつつ,ストレス―脆弱性理論に基づく評価,業務起因性の考え方,業務による心理的負荷の評価,業務以外の心理的負荷及び個体側要因の評価等を検討した平成23年専門検討会報告書の内容を踏まえたものであり,精神障害に関する業務起因性の判断は認定基準に依拠して判断することが合理的である。 ⑵ 精神障害の発病の時期本件労働者は,平成22年10月28日,客先へ訪問する際に必要な道具を忘れたり,b課長の指導が理解できないような様子であったこと,d指導員に対して「社会人として僕は駄目だ。」などの自己否定的な発言をするなどの事情が 22年10月28日,客先へ訪問する際に必要な道具を忘れたり,b課長の指導が理解できないような様子であったこと,d指導員に対して「社会人として僕は駄目だ。」などの自己否定的な発言をするなどの事情が認められることから,同日頃,適応障害を発病したと認めるのが相当であ る。 ⑶ 業務の質的過重性アクボタ松下案件本件労働者は,「一般的な省エネ提案(空調,照明,給湯,節水など)」については,平成22年5月24日から同僚2名のサポートを受けながら提案 書の作成を開始して同年6月22日に同僚3名とともに提案書を提出し,「現地調査結果および電気使用実績に基づいた省エネ提案」については,同年5月24日に上司及び同僚とともに現地調査を行って同年7月6日に同僚3名とともに客先との打合せを行い,同日から同僚2名のサポートを受けながら提案書の作成を開始し,同年10月1日に同僚2名と提案書を提出し た。そして,本件労働者は,同年7月17日以降はクボタ松下案件に関与していないか,又は関与していてもその程度が極めて限定的であり,新入社員であったことや,提出までのスケジュール等を踏まえても業務が困難であったとはいえない。 本件労働者が記載した「いしずえ」には,提案書の作成が終わらなかった ことに対する謝罪や反省などの言葉もなく,むしろ慰安会が楽しみであると 記載していることからすれば,気持ちのゆとりすら認められる。また,c指導員ら先輩が新人である本件労働者のことを気遣い,成長のためのアドバイスをしている状況は認められるが,突き放している状況は,全く認められない。 したがって,本件労働者が,クボタ松下案件の提案書の作成業務により強 い心理的負荷を受けたとする原告の主張には理由がない。 イ産業論文産業論文 突き放している状況は,全く認められない。 したがって,本件労働者が,クボタ松下案件の提案書の作成業務により強 い心理的負荷を受けたとする原告の主張には理由がない。 イ産業論文産業論文は,本件会社の新入社員に対し,応募が勧奨されるものであったが,あくまでも任意であり,応募する場合には勤務時間中に取り組むことができ,上司や指導員からの指導を仰ぐことも可能であった。 本件労働者に対して必要以上の指導が行われた事実は認められず,b課長が産業論文のテーマを変更したことを示す証拠も存在しなから,本件労働者が産業論文の作成によって心理的負荷を受けたとは認められない。 ウ技術振興センター案件 技術振興センター案件は,平成19年に作成された提案書を活用できる 再提案であり,新規顧客に対する新規提案と比較すれば容易であるといえ,新入社員のOJTの教材として適切な程度のものである。また,本件労働者が作成した提案書は,平成19年の提案書と基本的な構成及び記載事項を同一にするなど変動する数値以外の主な項目について平成19年の提案書を参考にしていることが認められる。また,本件労働者は,空調提案 ソフトを活用し,指導員の支援を受けて提案書を作成するのであるから,技術振興センター案件が客観的に困難な業務とはいえない。 b課長は,本件労働者に対し,平成22年10月9日の休日出勤の際,「見直しすれば防げたミスだから,これからはチェックする癖をつけなさい。」と普通の口調で指導したにとどまる。 本件労働者は,平成22年10月8日,b課長の決裁を通った提案書に 計算誤りがあるとの指摘を受けた。b課長は,この提案書の修正作業は緊急を要する重大な出来事ではなかったが,休日明けに客先に提案を行うことになっていた 月8日,b課長の決裁を通った提案書に 計算誤りがあるとの指摘を受けた。b課長は,この提案書の修正作業は緊急を要する重大な出来事ではなかったが,休日明けに客先に提案を行うことになっていたことから,二人で修正及び確認を行えば短時間で対応でき,スムーズに客先に提案を行うことができると考え,翌9日,本件労働者とともに休日出勤をして修正作業を行ったが,一般的にパワハラと評価でき るような本件労働者への叱責は認められない。 エ三井住友案件本件労働者が三井住友案件の中間報告書の作成に取り掛かったものの,結局同報告書を作成できなかったことは,事実である。 三重支店においては,三井住友案件のような蒸気設備の提案を行う案件は, 複数存在しており一般的な案件であった。また,本件労働者は,主担当であったが常に同僚が一緒に業務を遂行して本件労働者をサポートしており,業務の引継ぎもされていた上,周囲からの助言指導を十分に得ていたことがうかがわれるから,三井住友案件が本件労働者にとって過大な業務であったとはいえない。 また,中間報告書の作成は,本件労働者に対して強く求められていたものではなく,作成できなかったことに関する何らかのペナルティもなかったことに照らせば,心理的負荷の強度は,「弱」にとどまる。 さらに,客先がボイラーの更新を平成23年度予算に計上することなどの顧客情報は,当初から本件労働者に伝達されていた。 そうすると,三井住友案件の心理的負荷の強度は,「弱」にとどまる。 オ日立金属桑名案件本件労働者は,日立金属桑名案件において,工場見学のために現場に1回同行したに過ぎず,その関与の程度は,訪問に同行して議事録を作成するためのメモを取る程度であって,あくまでも補助作業に過ぎず,担当者として ,日立金属桑名案件において,工場見学のために現場に1回同行したに過ぎず,その関与の程度は,訪問に同行して議事録を作成するためのメモを取る程度であって,あくまでも補助作業に過ぎず,担当者として の役割は,何ら果たしていない。 したがって,本件労働者が何らかの心理的負荷を受けていたとは認められない。 カ新入社員への支援態勢の欠如による負荷三重支店法人営業グループにおける平成22年4月から同年7月までの配席は,本件労働者の両脇にc指導員,j主任,対面にk氏,g主任,l課 長代理が配置されており,同年8月からの配席は,本件労働者の両隣にd指導員及びg主任,対面にf主任,j主任が配置されており,相談及び助言を受けやすい環境であった。また,本件会社は,平成22年4月から同年10月までの間,11回の研修を行うなど,OJT以外でも支援体制が整えられていた。さらに実地調査等には必ず同行者がいたから,本件労働者は,周囲 から支援を受け,新入社員に対するOJTも,正常に行われていたから,本件会社及び職場の支援体制は,整っていた。 平成22年4月から同年10月までに本件労働者が担当した案件数が同職種の同期新入社員と比べて多かったという事実は認められず,また,携わった業務内容を見ても過重なものであるとか,業務の難易度が高いものであ った事実は認められない。 キ上司によるパワーハラスメントの有無及び内容b課長が,上司として今後に向けた一般的な指導を行ったことは認められるものの,同僚は,パワーハラスメントを否定している上,同期入社社員も,b課長の発言を目撃したものではなく,単に本件労働者から聞いた内容を述 べているだけであるから,本件労働者の発言から,実際にb課長がそのような言動をしたと認定することは る上,同期入社社員も,b課長の発言を目撃したものではなく,単に本件労働者から聞いた内容を述 べているだけであるから,本件労働者の発言から,実際にb課長がそのような言動をしたと認定することはできない。したがって,一般的にパワーハラスメントと評価できるような本件労働者への叱責は認められない。 b課長による指導の心理的負荷の強度は,せいぜい「弱」にとどまる。 ク小括 以上によれば,本件労働者が適応障害を発症した平成22年10月28日 前のおおむね6か月間において,「心理的負荷が極度なもの」あるいは「極度の長時間労働」といった「特別な出来事」は認められない。また,特別な出来事以外の出来事の心理的負荷の全体評価も,「強」に至るものとは認められない。 ⑷ まとめ 以上のとおり,本件労働者の精神障害発病は,業務上の事由によるものとは認められないから,本件労働者の適応障害の発病について業務起因性を認めなかった本件処分は,適法である。 第3 当裁判所の判断 1 判断枠組等 ⑴ア労働者の疾病等を業務上のものと認めるためには,業務と疾病等との間に相当因果関係が認められることが必要である(最高裁昭和51年11月12日第二小法廷判決・裁判集民事119号189頁参照)。そして,労働者災害補償保険制度が,労働基準法上の危険責任の法理に基づく使用者の災害補償責任を担保する制度であることからすれば,上記の相当因果関係を認めるた めには,当該疾病等の結果が,当該業務に内在又は通常随伴する危険が現実化したものと評価し得ることが必要である(最高裁平成8年1月23日第三小法廷判決・裁判集民事178号83頁,最高裁平成8年3月5日第三小法廷判決・裁判集民事178号621頁参照)。 イ現在の医学的知見によれば 価し得ることが必要である(最高裁平成8年1月23日第三小法廷判決・裁判集民事178号83頁,最高裁平成8年3月5日第三小法廷判決・裁判集民事178号621頁参照)。 イ現在の医学的知見によれば,精神障害発病の機序について,環境由来の心 理的負荷(ストレス)と,個体側の反応性・脆弱性との関係で決まるという考え方(ストレス-脆弱性理論)が合理的であるというべきところ,ストレス-脆弱性理論によれば,環境由来のストレスが非常に強ければ,個体側の脆弱性が小さくても精神障害を発病するし,逆に,個体側の脆弱性が大きければ,ストレスが小さくても破綻が生じるとされる。(乙1,3,4,6) ウこのようなストレス-脆弱性理論を前提とすれば,精神障害の業務起因性 の判断においては,環境由来のストレスと個体側の反応性・脆弱性とを総合考慮し,業務による心理的負荷が,当該労働者と同程度の年齢,経験を有する同僚労働者又は同種労働者であって,日常業務を支障なく遂行することができる者(平均的労働者)を基準として,社会通念上客観的にみて,精神障害を発病させる程度に強度であるといえる場合に,当該業務に内在又は通常 随伴する危険が現実化したものとして,当該業務と精神障害の間に相当因果関係を認めるのが相当である。 エそして,前記前提事実⑻のとおり,厚生労働省は,精神障害の業務起因性を判断するための基準として認定基準を策定しているところ,認定基準は,行政処分の迅速かつ画一的な処理を目的として定められたものであり,裁判 所を法的に拘束するものではないものの,精神医学及び法学等の専門家により作成された平成23年専門検討会報告書に基づき策定されたものであって,その作成経緯及び内容等に照らしても合理性を有するものといえる。そうすると,精神障害 ないものの,精神医学及び法学等の専門家により作成された平成23年専門検討会報告書に基づき策定されたものであって,その作成経緯及び内容等に照らしても合理性を有するものといえる。そうすると,精神障害に係る業務起因性の有無については,認定基準の内容を参考にしつつ,個別具体的な事情を総合的に考慮して判断するのが相当とい うべきである。 ⑵ 認定基準は,①対象疾病を発病していること,②対象疾病の発病前おおむね6か月の間に,業務による強い心理的負荷が認められること,③業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないことを認定要件としている。そして,①対象疾病については,世界保健機関が定める 国際疾病分類第10回修正版(以下「ICD-10」という。)第Ⅴ章「精神および行動の障害」に分類される精神障害のうち,器質性のもの及び有害物質に起因するもの以外のものとし,対象疾病の発病の有無,発病時期及び疾患名については,「ICD-10 精神および行動の障害臨床記述と診断ガイドライン」(以下「診断ガイドライン」という。)に基づき医学的に判断するとし ている。 ⑶ 平成23年専門検討会報告書は,精神障害について,発病から遡るほど,出来事と発病の関連性を理解するのは困難であり,ライフイベント調査では6か月を調査期間としているものが多いこと,各種研究結果では発病前1か月以内に主要なライフイベントのピークが認められるとする報告が多いことなどから,原則として,発病前おおむね6か月以内の出来事を評価することが適当で あるとする。他方,平成23年専門検討会報告書は,いじめやセクシュアルハラスメントのように出来事が繰り返されるものについては,繰り返される出来事を一体のものとして評価することから,発病の6か月よ あるとする。他方,平成23年専門検討会報告書は,いじめやセクシュアルハラスメントのように出来事が繰り返されるものについては,繰り返される出来事を一体のものとして評価することから,発病の6か月よりも前に開始されている場合でも,発病前6か月以内の期間にも継続していれば,開始時からの行為を評価することとしている。認定基準は,これと同様の基準を採用している。 (乙5,6) 2 認定事実当事者間に争いのない事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実を認めることができる。 ⑴ 三重支店配属から平成22年7月末頃までの執務状況 ア本件労働者は,平成22年4月16日,本件会社本店での新入社員教育を終え,三重支店に配属された。 配属当時の三重支店営業部法人営業グループのSOチームは,b課長の下に北勢チームとしてm課長代理,l課長代理,j主任,g主任,k氏及びc指導員が,中南勢チームとしてn課長代理,e主任,f主任及びo氏が所属 していた。本件労働者は,北勢チームに加わり,同チームの席配置は,本件労働者の前にk氏,両隣にj主任及びc指導員が着席していた。(甲A1の2・713頁,甲A43の1)イ b課長は,各案件の進捗状況の管理を行っており,月に1度開催される課内会議で担当者から各案件の進捗状況の報告を受けるほか,客先に対する提 案の前にも事案の確認を行っていたほか,担当者から提出された提案書等を 決裁する際にも,担当者の指導を行っていた。(甲A1の1・228頁,同283頁,同284頁,同470頁,甲A15)本件労働者の直属長であるb課長は,仕事に厳しく,特に若手や新人に厳しく,強い口調で叱責することがあった。(甲A1の1・249頁,同305頁,同312頁,同315頁,同320頁 70頁,甲A15)本件労働者の直属長であるb課長は,仕事に厳しく,特に若手や新人に厳しく,強い口調で叱責することがあった。(甲A1の1・249頁,同305頁,同312頁,同315頁,同320頁) ウ本件労働者は,三重支店営業部において,平成22年4月20日から同月30日まで新入社員導入研修を,同年5月6日から同月21日まで支店ソリューション研修をそれぞれ受け,さらに同月26日から同月28日まで本件会社本店において新入社員ソリューション導入研修を受けた。(別紙1,甲A34,55) 本件会社の新入社員は,入社した年の8月頃からは案件を主担当として持ったり,複数の案件を並行して持つことがあった。 (甲A1の1・263頁,同299~301頁,同322頁,甲A1の2・897~900頁,乙29)エクボタ松下案件 クボタ松下案件は,事務所棟及び厚生棟の空調や照明の省エネの提案を行うというものであった。b課長は,クボタ松下案件が省エネの基礎を学ぶ基本的な案件で勉強に最適なものであると考え,平成22年5月初旬,本件労働者に対し,主担当であるe主任に同行して現場調査に行き,e主任及びc指導員の指導の下で提案書①(一般的な省エネ提案(空調,照明,給湯,節 水等))及び提案書②(現場調査結果および電気使用実績に基づいた省エネ提案)を作成するよう指示した。クボタ松下案件は,客先からAMに依頼があったもので客先との関係は良好であったことに加え,工場全体の省エネ提案ではなく施設の一部分(事務所棟及び厚生棟)の省エネ提案であり,資料収集等の範囲も限定されていた。 本件労働者は,平成22年5月24日,他の担当者とともに現場調査を実 施し,同年6月10日頃には提案書①を完成させ,同月22日,客先 あり,資料収集等の範囲も限定されていた。 本件労働者は,平成22年5月24日,他の担当者とともに現場調査を実 施し,同年6月10日頃には提案書①を完成させ,同月22日,客先に提案書①(乙37)に基づき,合計38か所の既設の照明や空調設備を新しい設備に変更する場合のランニングコストやイニシャルコストの説明をして省エネの提案を行った。 その後,本件労働者らは,平成22年7月7日,提案書②のための打合せ を実施し,同月16日頃までには提案書②を完成させたが,客先からの要望により提案の日程が先延ばしになり,同年10月1日,客先に提案書②に基づく提案を行った。 (甲A1の1・240頁,同273~276頁,同292~295頁,甲A1の2・838頁,同839頁,甲A3・24~38頁,甲A16の2,甲 A17の2,乙23,37)オ産業論文本件労働者は,平成22年6月1日頃から業務終了後に図書館に出かけて資料を集めたり,業務時間中及び自宅で産業論文を執筆し,同月27日頃までに顧客満足(CS)及び従業員満足をテーマに産業論文を執筆した が,その後,従業員満足にテーマを絞り,同年7月7日,「長期インターンシップによる雇用条件に関するミスマッチの解消」というテーマの産業論文を提出した。(甲A1の1・128~147頁,甲A3・27頁,同31頁,同33頁,同38頁,甲A18の1ないし23,甲A57~61)なお,新入社員は,産業論文に応募しないことにより何らかの不利益を 受けるおそれはなく,平成22年度の応募数は,同年に入社した新入社員の半数以下であった。(乙27)事実認定の補足説明原告は,本件労働者は直属長であるb課長から指導を受けて産業論文の内容を何度も大幅に変更せざるを得なくな 応募数は,同年に入社した新入社員の半数以下であった。(乙27)事実認定の補足説明原告は,本件労働者は直属長であるb課長から指導を受けて産業論文の内容を何度も大幅に変更せざるを得なくなったと主張する。 そこで検討するに,平成22年6月27日頃までに作成された顧客満足 及び従業員満足との関連性をテーマとする論文の原稿(甲A57)には,「誰の意見かわからない」,「『自由』を広げて」という手書きの記載があり,これを誰が記入したかは明らかでない。しかし,本件会社が応募要項に「参加することとなった新入社員は,作成した論文を直属長等へ提出してください。提出を受けた直属長等は,新入社員ならではの新鮮・情熱的 な切り口であるか,着眼点・創造性・論理構成・文章力等について,指導・助言願います。」と記載し,応募用紙に上長印を必要としていること(甲A1の2・888~891頁)に加え,c指導員が産業論文の補正を行うことになっており,いしずえにも「産業論文,楽しみにしてるんで頑張って」などと記載していること(甲A1の1・296頁,甲A3・31頁,同3 8頁,乙23)に照らせば,本件労働者は,執筆した産業論文をb課長やc指導員に提出して指導やアドバイスを受けたものと推認される。他方,本件労働者は,いしずえに「テーマを“CS”に決めたものの,私が考えていた切り口が,本を読んでいるうちに全く新らしくないことがわかってしまいました…。」(甲A3・31頁),「フレッシャーズ産業論文が完成し ました。出来は情けないですが,最悪です。完全に失敗しました。」(甲A3・33頁)などと記載し,執筆した産業論文の内容が十分な出来ではないと考えていたばかりか,最終的に提出した産業論文は,「長期インターンシップによる雇用条件に関する す。完全に失敗しました。」(甲A3・33頁)などと記載し,執筆した産業論文の内容が十分な出来ではないと考えていたばかりか,最終的に提出した産業論文は,「長期インターンシップによる雇用条件に関するミスマッチの解消」と題して従業員満足が企業の利益につながることを論ずるもので当初のテーマとの連続性が 認められることに照らせば,本件労働者がb課長やc指導員から産業論文のテーマについて指導や助言を受け,提出期限までに自発的に内容を変更ないし具体化した合理的な可能性がある一方,b課長の指導により内容変更を強いられたと認めるに足りる的確な証拠はない。 したがって,原告の主張は採用できない。 ⑵ 平成22年8月以降の執務状況 ア平成22年8月以降の指導体制大学院卒で本件労働者と年次の近い同僚であったc指導員,k氏及びo氏は,平成22年8月1日付けで異動し,本件労働者の指導員にはd指導員がつくことになった。同日以降の北勢チームには,本件労働者のほか,p課長代理,j主任,f主任,g主任及びd指導員が所属し,北勢チームの席配置 は,本件労働者の前がf主任,両隣がg主任及びd指導員となった。(甲A1の2・714頁,甲A43の2)イ日立金属桑名案件本件労働者は,d指導員が主担当を務める日立金属桑名案件に携わり,平成22年8月18日に現場見学に同行してメモを取るなどの補助を行い,そ の後,同年9月6日及び同月16日の打合せに参加し,議事録作成のためのメモ取りや,資料作成の補助として過去の事例検索などを行った。 (乙18)ウ技術振興センター案件 b課長は,津営業所から三重県科学技術振興センターの空調設備リニューアル再提案のための提案書作成依頼を受けた。技術振興センター案件は, 空調設備 (乙18)ウ技術振興センター案件 b課長は,津営業所から三重県科学技術振興センターの空調設備リニューアル再提案のための提案書作成依頼を受けた。技術振興センター案件は, 空調設備の基礎や空調提案ソフトの活用方法を学ぶ基本的な案件であり,以前自身が提案書(乙34)を作成していたことから,b課長は,新入社員である本件労働者が担当するに最適であると判断し,平成22年8月末頃,本件労働者に対して技術振興センター案件の主担当として提案書の作成を,d指導員に対して提案書作成のサポートをそれぞれ指示した。 本件労働者は,過去の提案書(乙34)を参考に,空調提案ソフトの使用及び手計算による数値の算出,各システムについて回収率,環境性,評価(提案の優先順位),特徴等の項目を加えるなどして提案書を作成した。 d指導員は,空調提案ソフトの活用方法等について助言指導を行った(乙29)。 本件労働者は,平成22年10月1日,3時間35分の時間外労働を行 っている(甲A1の2・709頁)が,同日頃,d指導員から提案する設備の優先度等の修正を受け(甲A26),同月7日までに修正を反映した提案書(乙35)をb課長に提出し,決裁を受けた。なお,d指導員は,同月6日頃から同月11日まで休暇及び所定休日であったため,b課長の決裁前に修正後の提案書(乙35)を確認していない(乙29)。 本件労働者とb課長は,平成22年10月8日(金曜日),休暇を取得して課内の同僚とともにゴルフコンペに参加していたところ,f主任から,技術振興センター案件の提案書の中の数値に誤りがある旨の連絡を受けた。b課長は,週明けの同月12日(火曜日)午前10時に客先に出向いて提案書に基づく提案を行うことを予定していたため,本件労働者と相談 の上 ー案件の提案書の中の数値に誤りがある旨の連絡を受けた。b課長は,週明けの同月12日(火曜日)午前10時に客先に出向いて提案書に基づく提案を行うことを予定していたため,本件労働者と相談 の上,同月9日(土曜日)に一緒に休日出勤し,提案書のガス単価,ヒートポンプの台数等の修正作業を二,三時間かけて行った。その後,b課長は,本件労働者から研修の報告書を作成したいとの申し出を受け,同日午後5時までの残業を許可した。 b課長は,本件労働者に対し,提案書の計算ミスに関して「見直しすれ ば防げたミスだから,これからはチェックする癖をつけなさい。」という趣旨の指導を行った。 なお,b課長は,d指導員に対しては提案書の修正が必要になったことについて事後に伝えただけであった。 本件労働者及びb課長は,平成22年10月12日,修正した提案書(乙 36)に基づいて客先に提案を行った。 (甲A1の1・241頁,甲A1の2・709頁,甲A34,乙29,30,33~36,38,39,証人d)事実認定の補足説明原告は,本件労働者が平成22年10月9日の休日出勤の際,b課長か ら「計算ミス,おまえが悪い。おまえのせい。おまえなんていらん。ひと りでやれ。」と理不尽に怒鳴られたと主張する。 しかしながら,b課長がそのような発言をしたことについては,これを裏付けるに足りる的確な証拠がない。iは,平成22年10月11日,本件労働者から聞いた話として,本件労働者が休日出勤した際に上司から「計算ミスはおまえのせいや,こんな単純なことも分からんのか,おまえ なんか要らん,自分で全部直せ,そんなんもできひんのに大卒なのか。」などと怒鳴られた旨供述する(証人i6頁)。しかし,b課長は,休日出勤をしてともに修正作業を行ってお とも分からんのか,おまえ なんか要らん,自分で全部直せ,そんなんもできひんのに大卒なのか。」などと怒鳴られた旨供述する(証人i6頁)。しかし,b課長は,休日出勤をしてともに修正作業を行っており,本件労働者を突き放すような対応はしていないばかりか,提案書作成をサポートしたd指導員に対しても事後に経緯を伝えたにとどまり,厳しい指導を行ったことはうかがえないこと, 計算ミスは,珍しいミスではなく手計算による確認をしてから提出するように指導されることは,よくあったこと(証人d11頁)から,b課長が本件労働者を殊更非難する発言をしたとは考えにくく,iの供述から,直ちにb課長がそのような発言をしたと認めることはできない。 よって,前記の限度の事実を認定できるにとどまる。 エ本件労働者は,平成22年10月4日,本件会社本社においてプロジェクトマネジメント&ソリューションプロセス研修を受けた。この研修は,受講者がSO計画書を作成し発表するものであったが,本件労働者に対する評価合計平均は,3点満点中2.09点であり,中でもリスク分析(計画または提案内容等を立案する過程において,回避すべきリスク,予想されるリスク を抽出し,その対策を具体化しているか)は,平均1.89点,行動状況(計画書どおりに提案,活動が実践されているか。遅延していた場合の対処は,計画性をもって進められているか。)は,平均1.63点であった。(甲A1の1・153頁)本件労働者は,研修後に行われた懇親会において,何事に対しても自分を 責める性格を直したいとの話をしたり,仕事の進め方では上司との書類のや り取りに時間がかかることが多くうまく先に進めないとの話をしていた。教育担当者は,自身も時間がかかったこと,新入社員は皆同じ悩みを抱え たいとの話をしたり,仕事の進め方では上司との書類のや り取りに時間がかかることが多くうまく先に進めないとの話をしていた。教育担当者は,自身も時間がかかったこと,新入社員は皆同じ悩みを抱えているが半年ほどして仕事が分かってくるようになればその悩みはなくなると思うよとアドバイスした。(甲A1の1・44頁,甲A51)オ三井住友案件 三井住友案件は,ボイラーで集中的に製造した蒸気を配管を通じて各生産設備に供給するというセントラル供給方式の既設設備の更新を検討している客先に対し,設備の一部ないし全部の電化を提案するという案件であり,客先では平成21年頃から更新のための予算計上の話は出ていたが先送りされ,平成23年度の予算を申請する可能性があった。そこで,S Oチームは,提案を行う期限は決められてはいなかったものの,予算が立てられる前の平成22年11月頃までには提案を行うことを想定していた。g主任は,同年4月時点では,ボイラー設備の省エネに加えて洗浄工程の電化も検討しており,同年5月から同年6月にかけてボイラーの現場調査等を行い,ボイラー及び熱設備に関する省エネ提案を同年7月下旬に 行うことを予定していたが,実際には同月末時点ではボイラーの現場調査が実施されておらず,その後に洗浄工程の電化について検討された形跡はない。(甲A1の1・262頁,甲A17の4,乙11,証人f)本件労働者は,平成22年7月20日頃から三井住友案件に携わったところ,b課長は,同月26日頃,本件労働者に主担当として提案書の作成 等を行うよう指示し,同月下旬頃,g主任から本件労働者に対して同年3月17日に実施された現場調査結果の資料や過去の提案書を基に引継ぎが行われた。g主任は,引継ぎ時点で最終結論までのスケジュールや提案 を行うよう指示し,同月下旬頃,g主任から本件労働者に対して同年3月17日に実施された現場調査結果の資料や過去の提案書を基に引継ぎが行われた。g主任は,引継ぎ時点で最終結論までのスケジュールや提案内容の検討項目を作成しており,本件労働者が自ら提案内容を考えて行う必要はなかったため,本件労働者でもできる案件だと判断した。また,蒸 気ボイラーを電気設備に転化する案件は,当時少なくなく,g主任が以前 に一緒に仕事をした新入社員の中には三井住友案件よりも複雑で大規模な蒸気に関する案件に携わった者もいた。(甲A1の1・277~280頁,同490頁,甲A3・39頁,甲A17の4,乙22,証人d)なお,g主任は,平成22年8月1日以降の担当地区が変更となったことから,f主任に対して三井住友案件を引き継ぎ,以後は相談役として関 与することになり,本件労働者は,主にf主任の指導のもとで業務を行った。 (甲A1の1・259~265頁,同499頁,同500頁,甲A28) 本件労働者は,f主任と相談の上,提案の時期や本件労働者の研修日程なども踏まえて現場調査及び提案書作成の具体的なスケジュールを策定し,平成22年10月末に現地調査及び計測の結果並びに配管ロスの算定 結果を報告し,同年11月に提案書の作成及び報告を行う予定とした。本件労働者を含む担当者は,同年8月3日から同年10月7日頃にかけて,提案書作成に必要な計測器取付け及び取外し並びにこれに伴う現場調査や現場訪問を行った。(甲A1の1・470頁,同499頁,同500頁,甲A15,甲A28) 本件労働者は,三井住友案件の提案のために,①蒸気配管図の作図,②蒸気配管の熱損失計算,③提案する電化(ヒートポンプ設置)の手法の検討(メリットの試算)を行う必要があ 5,甲A28) 本件労働者は,三井住友案件の提案のために,①蒸気配管図の作図,②蒸気配管の熱損失計算,③提案する電化(ヒートポンプ設置)の手法の検討(メリットの試算)を行う必要があった。①蒸気配管図の作図は,正確な縮尺で図面を作成することまでは要求されていなかったものの,蒸気配管の熱損失計算をする前提となる資料で,現場調査結果に基づき作図する 必要があったが,f主任は,三井住友案件以前に蒸気配管図を作図したことはなかった(乙10・2頁)。本件労働者は,平成22年9月21日に蒸気配管サイズ等を確認するための現場調査を行い,f主任から手書きスケッチした図面をパソコンで見やすく作図するように指示を受け,同年10月12日から同月25日にかけて,業務時間外に寮の自室で蒸気配管図を 作成し,職場のパソコンに送信した。 (甲A1の1・499頁,同500頁, 甲A28,甲A38の1の1~甲A38の5の2,乙10,証人f)また,②f主任は,蒸気配管の熱損失計算を過去の業務で行ったことがあったが,d指導員は,その経験がなく,本件労働者から相談を受けても具体的な助言ができなかった。(証人f,証人d)本件労働者は,蒸気配管図がひととおり完成した平成22年10月中旬 頃,打合せにおいて熱損失計算に不安がある旨を述べたところ,g主任らから,本件会社エネルギー応用研究所に行って簡易な計算方法等を教えてもらうよう助言を受けた。本件労働者及びf主任は,同月19日,本件会社エネルギー応用研究所を訪問し,簡易な熱損失計算の方法等を教えてもらったところ,追加の現場調査を行う必要があることが判明したため,同 月28日,現場再調査を行うことにした。(甲A1の1・499頁,同500頁,甲A28,甲A54の2,証人f)なお えてもらったところ,追加の現場調査を行う必要があることが判明したため,同 月28日,現場再調査を行うことにした。(甲A1の1・499頁,同500頁,甲A28,甲A54の2,証人f)なお,三井住友案件での提案書の作成状況は,スケジュールからは遅れていた。(甲A1の1・280頁,甲A15) 三井住友案件の客先窓口であったqAMは,平成22年10月26日, 感謝の集い(本件会社が得意先を招いて感謝の意を伝えるとともに情報交換を行う場)において,三井住友案件の客先から進捗状況について中間報告を求められた。そこで,本件労働者を含む担当者は,同月27日午前,打合せを行い,きちんとした中間報告書を作成する必要はないものの,8割完成している配管図面,前回調査で判明した設備的不具合箇所の報告及 び今後の予定スケジュールをA3ないしA4ペーパー1枚程度にまとめたものを作成し,これらに基づき報告を行うことにした。もっとも,f主任及びqAMは,同日は出張で不在にする予定であったため,本件労働者がg主任と相談の上作成することになった。 しかし,本件労働者は,g主任から参考資料を見せてもらいアドバイス を受けたものの,客先訪問の前日である平成22年10月27日午後5時 までに報告書を作成することができず,その頃,b課長に対し,報告書が作成できなかったためほぼ完成している配管図面をもって説明する方針であること,同日はf主任がいないので報告書作成のために残業しても効率が悪いので残業はしないことを報告し,了解を得た。 本件労働者は,平成22年10月28日,f主任及びqAMとともに三 井住友案件の客先での現場再調査に向かったが,本件労働者が準備すべきメジャーやカメラを忘れ,事務所まで取りに戻った。本件労働者は,客先 者は,平成22年10月28日,f主任及びqAMとともに三 井住友案件の客先での現場再調査に向かったが,本件労働者が準備すべきメジャーやカメラを忘れ,事務所まで取りに戻った。本件労働者は,客先に向かう車内においてf主任に対して中間報告書をうまく作成できなかったことを報告し,これを受けてf主任は,中間報告書がないことを前提に,本件労働者が質問事項の回答の聞き取りを行い,f主任とqAMが今 後のスケジュール等を口頭で説明すること,客先から報告書がないことを指摘される可能性があるがf主任とqAMでうまくフォローすることにした。 客先との打合せでは,本件労働者が質問事項の確認や配管図面の説明を行い,続けて,qAMが客先に来年度の予算進捗状況について尋ねると, 客先からボイラーの更新を平成23年度予算に計上する方針であると回答を受けた。客先が予算計上を行うと電化の提案を採用してもらうことは難しい状況に陥るところ,本件労働者らは,客先が予算を計上した場合の対応策については事前に検討していなかったため,今後の方針や手法を再度検討する必要が生じた。 また,本件労働者らは,中間報告書がないことについて客先から「今日は,これだけ?」と指摘を受けた。qAMは,当日の聞き取り結果と現場再調査結果に基づき早急に資料を作成すると説明して謝罪した。 (甲A1の1・486~506頁,甲A28,33,41,42)本件労働者は,平成22年10月28日,客先から三重支店に戻ると, b課長に対し三井住友案件の報告を始めたが,何を言いたいのかよく分か らない状況であったため,f主任がフォローして一度内容を整理してから報告することになった。 その後,b課長,f主任,g主任,qAM及び本件労働者で打合せを行った。本件労働者は,客 分か らない状況であったため,f主任がフォローして一度内容を整理してから報告することになった。 その後,b課長,f主任,g主任,qAM及び本件労働者で打合せを行った。本件労働者は,客先からボイラー更新の話が出て,自分が思い描いていた提案(ロスが一番大きいと思われる屋外配管を撤去して電気設備を 入れるというもの)が物理的に不可能であると感じ,今後の進め方についてどうすべきか分からなくなった旨を述べた。f主任は補足説明を行うとともに客先から「今日は,これだけ?」と言われたことを説明したところ,b課長は,「当初から物理的に不可能と思われたところは,想定の範疇だったと思うがどうか。」と尋ね,f主任とg主任は,「そのとおりである。」 と答えた。さらに,b課長は,本件労働者に対し,三井住友案件の趣旨は第1に蒸気の勉強であり,第2に客先が喜んでくれる蒸気の省エネ提案,最後に理想は電化の提案であると述べ,今後のスケジュールが重要であるから,f主任と一緒に考えて実施するようにと指示した。本件労働者は,打合せ後,f主任からb課長の話が分かったかと尋ねられたが,これに答 えなかった。f主任は,本件労働者に,熱損失計算は自分が行うので,図面と計算式の資料を翌日朝に渡すように指示した。 (甲A1の1・486~506頁,甲A28,33,41,42)本件労働者は,同日である平成22年10月28日夜に開かれた懇親会の開始時から落ち込んでいる様子であったため,同席した同僚らは,新入 社員だからうまくいかないこともある,落ち込まなくてもいい,間違ってもいいから周囲に質問して教えてもらえばよいなどと声を掛けた。 本件労働者は,懇親会後の帰路において,d指導員に対し,「社会人として僕は駄目だ。」と述べ,d指導員が「何かやっちゃった いい,間違ってもいいから周囲に質問して教えてもらえばよいなどと声を掛けた。 本件労働者は,懇親会後の帰路において,d指導員に対し,「社会人として僕は駄目だ。」と述べ,d指導員が「何かやっちゃったの?例えば,けがをしたの?お金のミスをしたの?」と聞くと,「違う。スケジュール通りに 進まない。」と述べた。 なお,f主任らは,本件労働者死亡後,本件労働者が作成していた蒸気配管図を使用して提案書を完成させ,平成22年12月上旬頃,三井住友案件の客先にボイラーの設置場所変更やヒートポンプ導入を内容とする提案を行ったが,採用には至らなかった。 (甲A1の1・255頁,同256頁,同262頁,甲A16の4,乙1 7,19)事実認定の補足説明(前記)原告は,b課長が本件労働者に対し,三井住友案件に携わる目的が蒸気設備等の勉強であることを伝えておらず,目標等が担当者間で共有されていなかったことから本件労働者が中間報告の作成に行き詰まり,ボイラー 移設更新の方針で進むことになったことは想定の範囲内である旨の発言に困惑したと主張する。 しかし,本件労働者は,新入社員で蒸気設備案件にはこれまで携わっていないのであるから,三井住友案件を通じて蒸気設備等の勉強を行うことは当然の前提となっており,本件労働者がこれを認識していなかったとは 考え難い。また,本件労働者は,三井住友案件の担当を指示された後である平成22年7月下旬頃,g主任から過去の提案書(甲A17の4)等に基づく引継ぎを受けており,その後も担当者間での打合せが実施されていること,同年10月28日には客先に予算進捗状況を確認していることに照らせば,客先がボイラー更新の予算を計上する可能性があることや提案 内容の方向性を本件労働者のみが知らされ せが実施されていること,同年10月28日には客先に予算進捗状況を確認していることに照らせば,客先がボイラー更新の予算を計上する可能性があることや提案 内容の方向性を本件労働者のみが知らされていなかったとするのは不自然であり,このことは,本件労働者を含む担当者間で共有されていたと考えるのが合理的である(証人f)。また,b課長の発言は,ソリューション業務の目的において電化設備の提案が採用されることが最も重要であるわけではないこと(甲A3・24頁,甲A6~8)を改めて確認したもの であって,従前共有されていた目標と乖離するものではない。他方,本件 労働者の今後の進め方が分からなくなった旨の発言は,本件労働者を含む担当者において客先が予算を計上することになった場合の対応策については同日まで検討していなかったためであると解するのが自然である。 (甲A1の1・493頁)よって,原告の上記主張はいずれも採用できない。 ⑶ 本件労働者死亡に至る経緯本件労働者は,平成22年10月29日,三重支店に出勤しなかった。b課長は,同日,寮母の立会いの下,本件労働者の部屋に入ると,本件労働者がおらず折り畳み式の携帯電話が半分に折られた状態で机の上に置かれていた。b課長は,ただ事ではないと思い上司に報告を行った上,j主任とともに原告宅 を訪問した。その後,原告は,警察に捜索願を提出した。(甲A1の1・232~234頁)iは,本件労働者と平成22年10月30日に一緒にテニスをする約束をしていたところ,同月29日,原告から本件労働者が無断で仕事に行っていない旨の連絡を受けて自宅に帰宅すると,本件労働者が保管していたテニスボール 入りのかごが置いてあった。(甲A1の1・328頁,甲A1の2・552頁,同553頁,甲A 者が無断で仕事に行っていない旨の連絡を受けて自宅に帰宅すると,本件労働者が保管していたテニスボール 入りのかごが置いてあった。(甲A1の1・328頁,甲A1の2・552頁,同553頁,甲A32,証人i)本件労働者は,平成22年11月1日,本件労働者とiが以前通っていた三重県伊勢市二見町の二見浦のテニスコート駐車場において,車中で練炭を用いて自死しているところを発見された。死亡時刻は,同年▲月▲日早朝と推定さ れた。(甲A1の1・160頁,甲A1の2・553頁,甲A32)⑷ 時間外労働時間三重支店ではできるだけ残業は行わないよう指導されており,本件労働者の時間外労働時間は,平成22年6月は3時間30分,同年9月は2時間50分,同年10月は10時間35分であり,その他の月は,0時間であった。(甲A1 の2・703~709頁) 他方,本件労働者は,自宅や寮で作図等を行っていたところ,d指導員は,必要があれば上司に申し出て許可をもらうことができるので,持ち帰って仕事をするのではなく会社で業務を行うように助言した。(証人d)⑸ いしずえの記載本件労働者は,別紙3のとおり,平成22年9月17日分まで,日々の業務 での悩みや気付きをいしずえに記載し,d指導員らからコメントを受けていた。 (甲A3)⑹ 本件労働者の様子及び業務外の出来事ア本件労働者は,業務において自分で仕事を完成させる意識が強く,成果物ができるまで周囲に相談しなかったり,準備は大丈夫かと尋ねられても大丈 夫であると答えるが実際にはできておらず,f主任らが時間外に準備を手伝うことになるなど,周囲の同僚に相談することが苦手であった。 c指導員は,いしずえに,「細かいところまで作ってから全体像が変わると,確かに時間がか 実際にはできておらず,f主任らが時間外に準備を手伝うことになるなど,周囲の同僚に相談することが苦手であった。 c指導員は,いしずえに,「細かいところまで作ってから全体像が変わると,確かに時間がかかってしまいます。コツとして,初めの方はザックリたたき台を作って,上長等と相談してから,細かい所をつめていくという手順 をとるといいヨ。」等と記載して本件労働者に対し助言を行った。また,d指導員をはじめとする同僚らは,本件労働者に頻繁に声掛けを行い,途中経過についても上司や同僚に報告・連絡・相談を行うよう指導していた。 (甲A1の1・255頁,同261頁,同280頁,同296頁,同499頁,同500頁,甲A3・29頁,甲A28,証人d) イ本件労働者は,職場同僚との飲み会に平成22年4月は1回,同年5月は5回,同年6月は5回,同年7月は4回,同年8月は3回,同年9月は2回,同年10月は6回参加していたほか,同年6月から同年7月にかけてc指導員と数回飲みに行くとともに,同期入社社員との飲み会が月に一,二回開催されていた。(甲A30) 本件会社では,歓送迎会等の公式の飲み会は,強制ではないものの参加を 推奨されており,飲み会の欠席によるペナルティはなかったが,本件労働者は,飲み会に欠席したことで上司に無視された,翌日呼び出されて叱責を受けたと周囲に話していた。また,本件労働者は,三重支店での飲み会が多く,新入社員がお酒を席に運んだり先輩にお酌をしなければならないこと,飲み会の会費負担について疑問や不満を述べたり,上司に出身大学を笑われるな ど飲み会が辛い,上司からいじめられていると周囲に愚痴をこぼしていた。 (甲A1の1・42頁,同43頁,同45~47頁,同301~303頁,同316頁,同476頁,甲A30 出身大学を笑われるな ど飲み会が辛い,上司からいじめられていると周囲に愚痴をこぼしていた。 (甲A1の1・42頁,同43頁,同45~47頁,同301~303頁,同316頁,同476頁,甲A30,甲A52)さらに,本件労働者は,平成22年8月に行われた懇親会において,電験三種と一級建築士の資格を取得するつもりであり,これらの資格を取得すれ ばc指導員を超えられる,東京の設計事務所へ異動できるなどと発言したところ,b課長から資格の取得と人事異動は必ずしも連動するものではなく,資格の取得をどのように業務に生かすのかを考えるべきであるという趣旨の指導を受けた。しかし,本件労働者は,納得していない様子であった。(甲A1の1・41頁,同251頁,同476頁,甲A30,証人b) 本件労働者は,平成22年10月頃,b課長との面談時,公式の飲み会でのコミュニケーションが苦手であると述べた。(甲A1の1・476頁,甲A30)ウ本件労働者は,平成22年5月,同年2月頃から交際していた交際相手に結婚を申し込んだが断られ,同年6月,同交際相手と別れた。両名は,交際 中は毎日電話やメールで連絡を取っていたが,仕事の話はそれほど多くなく,別れた後も同年8月頃までは連絡を取ることがあった。(甲A1の1・330~332頁)エ原告は,平成22年4月,本件労働者の父親である配偶者に対し,離婚調停を申し立てたが,同年6月頃,不調停に終わり,本件労働者死亡後である 平成23年2月頃,離婚訴訟を提起し,平成24年7月19日,離婚が成立 した。(甲A1の1・216頁,同220頁)オ本件労働者は,平成22年7月,通勤に時間がかかることに加え,両親が離婚調停中で母親と同居する家を立ち退く可能性があることを理由に本件会社所有 した。(甲A1の1・216頁,同220頁)オ本件労働者は,平成22年7月,通勤に時間がかかることに加え,両親が離婚調停中で母親と同居する家を立ち退く可能性があることを理由に本件会社所有の寮への入寮を申し込み,同年8月1日,入寮した。(甲A1の1・247頁,同248頁,同302頁,同317頁,甲A1の2・851頁, 原告本人)カ本件労働者は,平成22年7月19日,インターネットで「自殺」,「リストカット」などを検索し,同月21日にも「硫化水素自殺」,「練炭自殺」などを検索した。(甲A1の1・422頁,同423頁,甲A37)キ本件労働者は,平成22年10月1日,自殺関連のウェブサイトを検索し た。(甲A1の1・459頁,甲A37)ク本件労働者は,平成22年10月11日,iに対し,上司から「計算ミスはおまえのせいや,こんな単純なことも分からんのか,おまえなんか要らん,自分で全部直せ,そんなんもできひんのに大卒なのか。」と言われたと述べ,「強迫性障害」関連のウェブサイトを検索した。また,本件労働者は,同月 23日,「練炭」「練炭の火のつけ方」を検索した。(甲A1の1・462頁,同467頁,甲A1の2・550頁,同551頁,甲A32,甲A37,証人i)。 3 精神障害の発病の有無及び時期三重労働局地方労災医員協議会精神障害専門部会の意見(甲A1の2・913 ~919頁)によれば,本件労働者は,平成22年8月頃に精神障害の兆候が見られるが,同時点ではICD-10診断ガイドラインに示されている診断基準を充たすまでには至っておらず,同年10月28日の「自分は社会人としてダメな奴だ。」との発言からは自己評価の低下がうかがわれ,「提案書の回付が遅く迷惑をかけています。」との発言からは罪悪感がうかが を充たすまでには至っておらず,同年10月28日の「自分は社会人としてダメな奴だ。」との発言からは自己評価の低下がうかがわれ,「提案書の回付が遅く迷惑をかけています。」との発言からは罪悪感がうかがわれることから,発病時期は 同日頃,発病した精神障害はICD-10診断ガイドラインに示されている「F 43.2 適応障害」と考えられる旨の診断がされている。そして,当事者は,同診断について特段争っていないから,本件労働者は,同日頃,適応障害を発症したと認められる。 4 業務の質的過重性⑴ クボタ松下案件 原告は,クボタ松下案件の提案書作成業務は,本件労働者にとって容易ではなく,大きな心理的負荷を受けたと主張する。 そこで検討するに,クボタ松下案件は,本件労働者が三重支店に配属されて初めて携わった案件であるが,本件労働者は,平成22年4月から同年5月にかけて本件会社本社及び三重支店で研修を受け,その中には省エネの基礎知識 に関する講義があり,過去の提案書を見ることができたこと(甲A3・24頁),本件労働者が作成した提案書①は,合計38か所の設備について省エネになると考えられる新しい設備を紹介するものであって,既設の設備との詳細な比較や数値を算出するものではないことに照らせば,本件労働者にとって特別難しいものであったとはいえない。また,g主任は,いしずえで,概略を理解して もらえばよく,必要に応じて勉強してくださいと助言していること,提案書①作成の社内提出期限は,当初同年6月4日に設定されていたが,本件労働者が同日までに提案書を作成できなかったことに関して特段注意やペナルティが与えられた様子はなく,同月10日には提案書(乙37)が完成し,上司から高評価を受けている(甲A3・24~29頁)ことから 働者が同日までに提案書を作成できなかったことに関して特段注意やペナルティが与えられた様子はなく,同月10日には提案書(乙37)が完成し,上司から高評価を受けている(甲A3・24~29頁)ことからすれば,本件労働者が クボタ松下案件においてスケジュールどおりに業務を遂行する難しさを感じたことは認められるものの(甲A3・38頁),提案書作成に当たって特段困難な状況があったとは認められない。 原告は,実際に客先に提案がされた平成22年6月22日より2週間以上前である同月4日に社内での提出期限が設定されたことを指摘して,必要以上に 短い提出期限が設定されたと主張する。しかし,新入社員が作成した提案書に 上司らが指導や修正を加えることは,当然想定されるのであって,修正や再検討を行う期間を見越して提出期限を設定することは,何ら不合理ではなく,提出期限までの期間に研修等を受けていたことを考慮しても,当初設定された提出期限が必要以上に短いものであったという原告の主張は採用できない。 よって,クボタ松下案件は,本件労働者に過大な業務ではなく,本件労働者 がこれにより業務起因性を判断するに当たって評価すべき心理的負荷を受けたとは認められない。 ⑵ 産業論文原告は,本件労働者がクボタ松下案件と並行して産業論文の執筆を行ったことにより受けた心理的負荷は強度であったと主張する。 しかし,前記認定事実によれば,産業論文は,応募が推奨されるものの飽くまで任意とされ,内容が執筆者の自由に委ねられており,応募しないことにより不利益を受けるおそれもなかったこと,既に述べたとおりb課長の指導によってテーマを大幅に変更させられたとまでは認められないことからすれば,業務としての負荷は,小さいものであったと認められる。 利益を受けるおそれもなかったこと,既に述べたとおりb課長の指導によってテーマを大幅に変更させられたとまでは認められないことからすれば,業務としての負荷は,小さいものであったと認められる。 そして,本件労働者がクボタ松下案件と並行して産業論文の執筆に取り組んだことは認められるものの,前記⑴で述べたとおり,クボタ松下案件は,基本的な案件であって困難であったという事情は認められず,本件労働者がこれらの業務を並行して行ったことによって,業務起因性を判断するに当たって評価すべき心理的負荷を受けたとは認められない。 ⑶ 技術振興センター案件ア原告は,技術振興センター案件は計算や熱源構成の選択が難しく,b課長やd指導員から具体的な指示がない中での提案書作成は本件労働者にとって困難であり,提案直前にミスが発見されても一人で修正できなかったことからすれば本件労働者にとっては困難なものであったと主張する。 しかしながら,本件労働者が作成した提案書は,過去の提案書と試算条件 や比較項目はおおむね同一であって過去の提案書を参考に作成したものであることが明らかであり,そこに記載されている数値も,本件会社が用意するソフトを使用して計算ができる部分が多く,一部について本件労働者が加筆した部分や手計算が必要な部分があることを踏まえても,本件労働者にとって困難な業務であったとは認められない。また,平成22年10月8日に 判明した提案書の計算ミスは,二,三時間で修正できるものであり,本件労働者がb課長とともに休日出勤して修正を行ったことのみをもって重大なミスであったとはいえず,ほかに原告の主張を裏付ける証拠はない。 イまた,前記2⑵ウのとおり,本件労働者は,平成22年10月9日の休日出勤時にb課長から「見直しすれば防げ たことのみをもって重大なミスであったとはいえず,ほかに原告の主張を裏付ける証拠はない。 イまた,前記2⑵ウのとおり,本件労働者は,平成22年10月9日の休日出勤時にb課長から「見直しすれば防げたミスだから,これからはチェック する癖をつけなさい。」との指導を受けたことが認められるが,かかる指導は,業務指導の範囲内というべきであるから,b課長による同指導によって受けた心理的負荷は,「弱」にとどまるというべきである。 ウよって,技術振興センター案件によって本件労働者が受けた心理的負荷は,「弱」にとどまる。 ⑷ 三井住友案件ア蒸気配管図の作成及び熱損失計算業務原告は,三井住友案件の蒸気配管図の作成及び熱損失計算業務は本件労働者にとって非常に困難な業務であり,精神的負荷は大きかったと主張する。 そこで検討するに,前記認定事実によれば,蒸気ボイラーを電気設備に転 化する案件は,当時少なくなく,新入社員であっても蒸気に関する案件に携わる者はいたものの,本件会社が作成している新入社員の修得業務管理表一覧の技術営業に関する項目(別紙4。甲A5)によれば,給湯・ボイラーの設備提案知識は,レベル1,省エネ提案知識及び測定(熱)は,レベル3と位置付けられているから,三井住友案件の業務は,新入社員にとって比較的 難易度の高いものであったと認められる。そして,本件労働者は,①平成2 2年9月21日の現場調査後,蒸気配管図の作図に着手したが,同図面をおおむね完成させたのは同年10月18日頃であり,同月28日の中間報告時点では熱損失計算ができておらず,当初計画していたスケジュールと比べて業務が遅れていたこと(甲A15),②同時期に技術振興センター案件での提案書作成業務や日立金属桑名案件の補助業務,研修への参加や 点では熱損失計算ができておらず,当初計画していたスケジュールと比べて業務が遅れていたこと(甲A15),②同時期に技術振興センター案件での提案書作成業務や日立金属桑名案件の補助業務,研修への参加やその準備を 行っていること,③同月4日の懇親会で業務がうまく進められていないという趣旨の発言をしていることからすれば,本件労働者は,三井住友案件がスケジュールどおりに業務が進んでいないことに焦りや不安を感じていたといえる。 他方,蒸気配管図の作成は,熱損失計算をする前提となる資料で提案に必 要なものではあるものの,これを前提に工事を施工するものではなく,正確な縮尺で図面を作成することまでは要求されていなかった。また,本件労働者は,熱損失計算に不安を抱いていたところ,d指導員やf主任から具体的な計算方法を教えてもらうといった指導がされたことは認められないものの,本件会社エネルギー応用研究所に協力してもらうよう助言を受け,f主 任とともに同研究所に出張して計算方法を教えてもらい,その結果,現場再調査が必要になったという経緯に照らせば,f主任らが本件労働者に必要な指導を行うことなく一人で業務を行わせたとはいえない。このほか,本件労働者は,三井住友案件の主担当として提案書の作成やスケジュール管理等を主体的に行う立場にあったが,f主任から進め方や工程の指導を受けながら, 客先の状況及び本件労働者の研修日程等も踏まえてスケジュールを策定しており,b課長も,各案件の進捗状況について課内会議で確認していたこと,f主任らは本件労働者からの相談を受けるにとどまらず本件労働者に声を掛けて進捗状況を確認し,必要に応じて準備を手伝っていたことに照らせば,本件労働者が主担当であるとはいえ,必要な指導や補助はされていたと認め るのが相当で を受けるにとどまらず本件労働者に声を掛けて進捗状況を確認し,必要に応じて準備を手伝っていたことに照らせば,本件労働者が主担当であるとはいえ,必要な指導や補助はされていたと認め るのが相当である。 そうすると,三井住友案件の蒸気配管図作成及び熱損失計算業務は,本件労働者にとって比較的難易度が高く,提案書の作成が当初スケジュールから遅れていたことにより一定の心理的負荷を受けたといえるものの,上司らから必要な指導や補助があったことを踏まえれば,他の新入社員の業務(甲A1の2・897~900頁)と比べて過大な業務であったとはいえず,達成 困難なノルマが課されたとか,あるいはノルマが達成できずにペナルティが予定されていたとは評価できない。したがって,三井住友案件の蒸気配管図の作成及び熱損失計算業務によって受けた心理的負荷は,「弱」にとどまるというべきである。 イ現場再調査及び中間報告における出来事 原告は,本件労働者が中間報告書を作成することができず,客先から「今日は,これだけ?」と指摘されて非常に大きな屈辱を受け,さらに客先がボイラー移設更新の予算計上をすることになったことにより大きなショックを受けたと主張する。 そこで検討するに,本件労働者は,平成22年10月28日,客先からの 帰社後にb課長に報告を行った際,報告内容をうまくまとめられず,同日の懇親会でも落ち込んだ様子が見られたことからすれば,客先から「今日は,これだけ?」との指摘を受けたことや予算計上の話を聞いたことにより一定の心理的負荷を受けたといえる。また,客先がボイラー移設更新の予算計上を行う可能性があることは,本件労働者を含む担当者間であらかじめ共有さ れていたものの,実際に予算計上されることになった場合の対応策について たといえる。また,客先がボイラー移設更新の予算計上を行う可能性があることは,本件労働者を含む担当者間であらかじめ共有さ れていたものの,実際に予算計上されることになった場合の対応策について担当者間では検討がされていなかったことから,本件労働者は,今後の進め方について困惑したと認めるのが相当である。 他方,客先からの指摘は,本件労働者一人に向けられたものではなかった上,客先から指摘を受けることは,あらかじめ想定されており,指摘を受け た場合にはf主任とqAMがフォローをすることも事前に打合せされてい たばかりか,本件労働者が中間報告書を作成できなかったことによりb課長やf主任らから注意や叱責を受けたり客先との関係が悪化して提案自体が困難になったことをうかがわせる事情は見当たらない。 以上に照らせば,三井住友案件の現場再調査及び中間報告における出来事による心理的負荷は,本件労働者に最大限有利に斟酌しても「中」にとどま るものである。 ウ前記ア(蒸気配管図の作成及び熱損失計算業務)及びイ(現場再調査及び中間報告における出来事)は,関連して生じた出来事であるから,本件労働者がこれらにより受けた心理的負荷は,両者を総合評価しても「中」にとどまるというべきである。 ⑸ 日立金属桑名案件ア本件労働者が日立金属桑名案件において行った業務は,現場調査に同行してメモを取ったり,打合せに出席して議事録を作成するなど主に補助としての業務であったから,関与の程度は小さく,本件労働者にとって困難な業務ではなかったと認められる。 イ本件労働者は,平成22年8月から同年10月にかけて三井住友案件,技術振興センター案件及び日立金属桑名案件を並行して進めていたところ,各案件の内容及び難易度は既に述べたとおり られる。 イ本件労働者は,平成22年8月から同年10月にかけて三井住友案件,技術振興センター案件及び日立金属桑名案件を並行して進めていたところ,各案件の内容及び難易度は既に述べたとおりであり,これらの業務を並行して行う中で三井住友案件が当初スケジュールよりも遅れていたこと等による心理的負荷の評価は前記のとおりである。 ⑹ b課長による暴言原告は,本件労働者がb課長から日常的に暴言を吐かれるなどのパワーハラスメントを受けていたと主張する。 そこで検討するに,本件労働者は上司から大学名を馬鹿にされたり,「おまえなんていらない」,「こんなんで大卒か」などと言われた旨周囲に話していた (甲A1の1・42頁,同43頁,同45~47頁,同301~303頁,同 326頁,同332頁)。また,o氏及びr氏は,b課長は仕事に厳しい人で,若手に対して大きな声で厳しく指導していたことがある旨供述する(甲A1の1・308~319頁)ほか,m課長代理は,「短時間で新人を育てなければならないので,一部厳しい面があったと思います。(中略)b課長は仕事が出来る方でしたが,こんな事までを言われなければならないのと思うことがありまし た。」(甲A1の1・305~307頁)旨供述する。 しかし,r氏は,「厳しいだけではなく,人情味のある人で,常に部下の事を考えてくれる上司でした。面倒見もよく,私が三重支店を離れた後,自宅へ泊めてもらったこともありました。時々,厳しく指導される事はありましたが,私としてはパワハラを受けているとは感じませんでした。」旨述べ,b課長が, 部下等に対して,大きな声で厳しい指導をすることはあっても,罵倒するなどしていた事実は見当たらない。m課長代理も,「a氏(判決注・本件労働者)に対してb課長が んでした。」旨述べ,b課長が, 部下等に対して,大きな声で厳しい指導をすることはあっても,罵倒するなどしていた事実は見当たらない。m課長代理も,「a氏(判決注・本件労働者)に対してb課長が強い口調で接していたことは記憶にありません。(中略)私が三重支店で3か月a氏と接した中で,パワハラ等を受けていたことはありませんでした。a氏からの相談も受けていません。」旨供述し,ほかに同僚の中に本 件労働者がb課長からこれらの発言を受けている場面を直接見聞きした者はいない。 このほか,m課長代理から本件労働者に送付されたメールに添付された『SOグループでの納得いかない話』とのファイル(甲A1の1・418~421頁)には,b課長への不満や不信感が縷々記載されているが,これらの記載に よっても,b課長が部下等に対して暴言を述べ,あるいは罵倒していた事実は認められない。 また,同僚の中には,飲み会の場で「聞いたことがない大学」や「学卒もたいしたことないな」といった発言を冗談として聞いた者がいる(甲A1の1・477頁,甲A30)が,b課長が当該発言をしたことの的確な証拠はなく, 仮にb課長の発言であったとすれば,本件労働者に不快感を与えるもので適切 なものとはいい難いが,それがいじめや人格非難の程度に達しているとまでは評価できない。 以上によれば,b課長が,本件労働者に対し,日常的に業務指導の範囲を逸脱した言動をしていたとは認められず,本件労働者がb課長による同指導によって受けた心理的負荷は,「弱」にとどまるというべきである。 ⑺ このほか,認定事実及び各案件について述べたとおり,本件労働者は,業務を行うに当たって上司や指導員らから必要な助言や指導を受けるとともに,本件会社本店等での研修も受けており,他の新入 。 ⑺ このほか,認定事実及び各案件について述べたとおり,本件労働者は,業務を行うに当たって上司や指導員らから必要な助言や指導を受けるとともに,本件会社本店等での研修も受けており,他の新入社員の業務と比べて過大な業務であったとも認められないから,新入社員である本件労働者に必要な支援等が欠如していたとする原告の主張はいずれも採用できない。 ⑻ 小括以上検討したところから,本件労働者が担当した業務の質的過重性を基礎付ける事情として考慮すべきは,①三井住友案件及び②休日出勤での指導(技術振興センター案件)を含むb課長による業務指導であり,その他に原告が主張する事情を考慮に入れることはできない。そして,これらの心理的強度は,原 告に最大限有利に斟酌しても,①が「中」に,②が「弱」にとどまるものであったから,全体評価は,「中」にとどまる。 5 まとめ以上の次第であるから,本件労働者の精神障害の発病については業務起因性を認めることができない。そうすると,原告による遺族補償一時金の支給に係る申 請について不支給と判断した本件処分は,適法にされたというべきである。 第4 結論よって,本件処分は,適法であり,原告の本件請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第1部 裁判長裁判官井上泰人 裁判官前田早紀子 裁判官松浦絵美は,差支えのため署名押印できない。 裁判長裁判官井上泰人 別紙当事者目録(省略) 別紙1~4 (省略) 井上泰人 別紙当事者目録(省略) 別紙1~4(省略)

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る