平成15(う)123 殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件

裁判年月日・裁判所
平成15年12月25日 仙台高等裁判所 棄却 仙台地方裁判所 平成14(わ)595
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判決文本文4,606 文字)

【判示事項の要旨】殺人の前科のある被告人が再度犯した殺人等事件について,懲役18年の一審判決が維持された事例 主文 本件控訴を棄却する。 理由 1 本件控訴の趣意は,仙台地方検察庁検察官宇井稔作成の控訴趣意書に記載のとおりであるから,これを引用する。 論旨は,量刑不当の主張であり,被告人は,筋違い,短絡的,勝手な思い込みにより,切迫した事情もないのに,給料12万円の未払いという些細なことに憤激して,殺害行為に至ったもので,経緯に同情するに足りる事情はなく,本件は被告人の凶暴な性格によるといえること,被害者は,頭部,顔面,頚部,胸部等に多数の深い創傷を負ったもので,このような殺害態様にも被告人の残忍で凶暴な性格が表れていること,被告人は,殺人,暴力事犯,暴力を伴う財産犯等の多数の前科・前歴を有し,日常的にも暴力事件が多数あり,被告人の暴力的傾向は明らかであること,本件は,被告人の人格に固着した矯正しがたい凶暴性の顕現といえ,再犯の危険性は高いこと,結果は重大であり,遺族の処罰感情は峻烈であることなどからすると,無期懲役の求刑に対し懲役18年に処した原判決の量刑は軽すぎて不当である,というのである。 2 そこで,記録を調査し,当審における事実取調べの結果を併せて検討する。 (1) 本件は,土建業を営む雇主である被害者に対しかねてより給料の支払いについて不満を持っていた被告人が,未払い給料の支払いを求めて,深夜被害者方に押し掛け,被害者から給料の未払いはないと言われたことに憤激し,持参した刃体の長さ約18.3センチメートルの作業用ナイフで,被害者の腹部,胸部,頚部等を多数回にわたり滅多突きにし,頚部・胸部の刺 被害者から給料の未払いはないと言われたことに憤激し,持参した刃体の長さ約18.3センチメートルの作業用ナイフで,被害者の腹部,胸部,頚部等を多数回にわたり滅多突きにし,頚部・胸部の刺創による失血により死亡させた,という殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反の事案である。 本件の動機及び経緯は,被害者の下で働いた被告人が,平成14年9月末日に支払われるはずと思っていた同年7,8月分の給料22万円が,10万円しか支払われなかったため,被害者に対し未払い分があるとして12万円の支払いを要求したものの,被害者が未払い分はないとして一向に支払おうとする態度を示さなかったことから,一気に憤激して殺害行為に及んだというものであるが,被害者側において支払うべき給料があるとしても,被告人は,その要求に当たって大型の作業用ナイフを持参し,当初からけんか腰で臨んでおり,赴いた被害者方で早々に怒りを露わにナイフを取り出し,それで被害者の頬を叩いたり,顔に突き付けたりし,居合わせた者に止められると,被害者を近くのa公園に連れて行き,再度未払い分の支払いを要求したものの,被害者が支払う理由がないことを口にすると,一気に憤激して殺意を抱いたものである。また,犯行態様を見ると,被告人は,殺意を抱くと,両刃で一方の刃が鋸状になっている大型の作業用ナイフでもって,被害者の頭部,顔面,頚部,胸腹部を滅多突きにしており,途中で被害者もろとも階段を滑り落ちてナイフを取り落としたが,それでも突き刺すことを止めようとせず,暗闇の中でナイフを探し出して刺し続けたものであり,一つでも致命傷たり得る創傷を7個所も負わせており,強固な殺意に基づく執ようで誠に残忍な凶行といわなければならない。こうし ようとせず,暗闇の中でナイフを探し出して刺し続けたものであり,一つでも致命傷たり得る創傷を7個所も負わせており,強固な殺意に基づく執ようで誠に残忍な凶行といわなければならない。こうした犯行の動機,経緯及び犯行の態様からすると,被告人においては,独りよがりの思い込みの傾向が強く,しかも,自分の思い込み通りにいかないと裏切られたとばかり極めて短絡的に憤激し,しかもその憤激の程度も一気に極度に達して,人を傷つけ命を奪うことに考えを巡らさず凶行に出るのであって,極めて短絡的で激しやすく凶暴なところがあり,人命を敬う意識が欠如しているといわざるを得ない。 こうした被告人の犯行により,被害者は当時54歳の男盛りで非業の最期を遂げるに至ったものであり,その死亡するに至るまでの肉体的,精神的苦痛は想像を絶するものがあり,その無念さは察するに余りある。かけがえのない父親を奪われた娘を始めとする遺族,関係者の嘆き悲しみは大きく,被告人に対する処罰感情が極めて厳しいのも当然といえる。これに対する慰謝の措置は何ら講じられていない。 被告人は,少年時代から非行を犯し,成人になってからは暴力事犯等を繰り返して多数の前科を有し,特に,昭和61年12月には,金銭トラブルを巡って相手方の態度ににわかに激高し,所携の短刀で被害者の腹部を突き刺して殺害するという本件と同じ殺人罪を犯して,懲役8年に処せられ,平成6年1月に仮出獄するまで服役し,その後も,傷害罪で罰金刑に,平成11年1月には傷害,器物損壊罪で懲役10か月に各処せられ,同年9月に刑務所を出所したものであるが,上記殺人罪による刑の出所後8年8か月余り,最終刑の出所後約3年で本件殺人罪を犯したのであり,被告人の粗暴で危 損壊罪で懲役10か月に各処せられ,同年9月に刑務所を出所したものであるが,上記殺人罪による刑の出所後8年8か月余り,最終刑の出所後約3年で本件殺人罪を犯したのであり,被告人の粗暴で危険な性格の矯正が非常に困難であることを表している。 上記の各事情からして,被告人の刑事責任が非常に重いことは明らかである。 (2) そこで,原判決の懲役18年の量刑について,改めて検討する。 原判決は,動機は短絡的で,理不尽かつ自己中心的なものであって,酌むべきものはなく,殺人の態様は強烈かつ執ようで,極めて残忍であり,殺人は偶発的とは言い切れず,強固な殺意に基づくものであり,殺人の結果は誠に重大であり,被害者の遺族の悲しみは深く,峻烈な処罰感情を有しており,被告人に多数の前科があり,特に殺人による前科もあることからして,被告人には,興奮して激しやすく,その激情を押さえきれずに粗暴な行動に出る傾向が顕著に認められ,人命軽視の態度が甚だしく,規範意識も欠如していることなどから,被告人の刑責は極めて重いとしながらも,一方で,被告人に有利ないし斟酌すべき事情が認められので,諸事情を総合考慮すると,被告人を懲役18年に処するのが相当である,と判断している。 所論は,原判決が,被告人に有利ないし斟酌すべき事情として,被告人が被害者に腹を立てたり,不満を抱いていた経緯については理解できないわけではないことを指摘する点について,給料の不払いについて立腹や不満を抱くことは理解できるとしても,殺意を抱くことは共感も同情もできない,と主張する。 その点を考察すると,本件は,被告人が,かねてより給料支払いについて被害者の対応が不誠実であると不満を持っていたところ,支払われるは 抱くことは共感も同情もできない,と主張する。 その点を考察すると,本件は,被告人が,かねてより給料支払いについて被害者の対応が不誠実であると不満を持っていたところ,支払われるはずの給料の一部が,嘘をつかれて支払われないと考えたことに起因するのであるが,給料によって一家の生活を支える者にとっては,給料の問題は深刻であるから,雇主としては雇い人に対する給料の支払いについては責任があり,十分な誠意をもって対応すべきであるのに,被害者が被告人に対して示した態度は,被告人の稼働状況をきちんと把握しないまま,その場限りのごまかしで済まそうとしたものであると判断されてもやむを得ないものであり,一方被告人は,一家の生活を支える給料のうち半分以上が未払いであるとして,その支払いを真剣に求めていたのであって,被告人が被害者は意図的に給料の支払いを免れようとしていると考えたことについては,被害者側にも落ち度があったというべきであり,被告人がもはや話合いをする余地はなく,理不尽であると憤慨したことについては,相応の理由があり,それが筋違いであるとか,被告人の独り勝手の思い込みであると非難することはできない。 次に,原判決が,前刑の出所後約3年間道路交通法違反による罰金刑以外に犯罪歴がなく,それは,婚姻し子供をもうけて安定した家庭を築き,仕事に励む中で,被告人なりに更生に努めていたためであると見ることができることを指摘する点に関連して,所論は,被告人に上記のような殺人を含む多数の前科及び前歴があり,被告人の犯罪行動は爆発しやすい凶暴な性格に根差すものであり,それは度重なる服役によっても改善されることなく,被告人の凶暴性は,その矯正が著しく困難であり,その反社会性 前科及び前歴があり,被告人の犯罪行動は爆発しやすい凶暴な性格に根差すものであり,それは度重なる服役によっても改善されることなく,被告人の凶暴性は,その矯正が著しく困難であり,その反社会性は年齢とともに深化していることを強調するのである。 なるほど,被告人には,上記のような前科,その他少年時代の前歴があり,憤激しやすく凶暴な行動に出る性格があることが明らかであり,これまで服役を繰り返してもその改善が容易でなかったことが認められるものの,被告人は,最終刑を平成11年9月23日に終えて出所後,妻と巡り会って,翌12年5月に結婚し,その後長女,長男と2人の子供をもうけて,年が行って人生初めて家庭の有難みを味わい,一方でそうした家庭を維持するため懸命に働き,その仕事振りは被害者も含めて仕事仲間では高い評価を得ていたのである。このような最終刑を終えて後の被告人の状況からすると,被告人については,他人との人間的共感が著しく欠け,意に沿わないと理不尽ともいえる凶暴な行動を繰り返す性格傾向が極端であるとまでは認めることができない。そうすると,妻,子供がいるというこれまでの服役とは異なる身上状況等を考慮すると,被告人の自覚によってその性格改善の可能性があると認められる。 (3) 以上の諸般の情状を考慮すると,被告人については,本件犯行の動機・経緯,態様,結果,被害感情などからすると,刑事責任が非常に重いことは明らかであるが,その危険な性格改善は有期懲役刑でもっては不可能であるとまではいえないので,およそ無期懲役に処すべきであって,有期懲役を選択する余地がないとまではいうことができず,結局,懲役18年に処した原判決の量刑が軽すぎて不当であるとはいえない。論旨は理由がな いえないので,およそ無期懲役に処すべきであって,有期懲役を選択する余地がないとまではいうことができず,結局,懲役18年に処した原判決の量刑が軽すぎて不当であるとはいえない。論旨は理由がない。 3 よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却し,当審における訴訟費用を被告人に負担させないことにつき刑訴法181条3項本文を適用して,主文のとおり判決する。 平成15年12月25日仙台高等裁判所第1刑事部裁判長裁判官松浦繁裁判官根本渉裁判官髙木順子

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