令和5(わ)291 過失運転致死被告事件

裁判年月日・裁判所
令和6年8月29日 札幌地方裁判所
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判決文本文11,265 文字)

上記の者に対する過失運転致死被告事件について、当裁判所は、検察官星野英毅及び同林正章、国選弁護人内田健太並びに被害者参加人A及び被害者参加弁護士中村浩士各出席の上審理し、次のとおり判決する。 主文 被告人を禁錮1年に処する。 この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、令和3年9月13日午前8時52分頃、大型貨物自動車を運転し、北海道苫小牧市(住所省略)先の交通整理の行われていない丁字路交差点を甲方面から乙方面に向かい右折進行するに当たり、自車は車体の長さが約11.5メートルあり、右折を開始してから完了するまでに相応の時間を要し、その間、対向車線を塞ぐことになるのであるから、前方左右を注視し、対向直進車両の有無及びその安全を確認しながら同交差点の中心の直近の内側を右折進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り、当時、同交差点内の右方には右方道路から同交差点内に進行してきて右折待ちのため停止していた車両があり、同交差点の中心の直近の内側を右折進行するためには、同車の向かって左側を通過する必要があるのに、あえて同車の向かって右側を通過して、右方道路の左側車線に進行しようとして、前方左右を注視せず、対向直進車両の有無及びその安全確認不十分のまま漫然時速約25ないし33キロメートルで同交差点を内小回りに右折進行した過失により、折から対向直進してきたB(当時32歳)運転の大型自動二輪車に気付かないまま、同車前部に自車左側面部を衝突させて同自動二輪車もろとも同人を路上に転倒させ、よって、同人に多発外傷の傷害を負わせ、同日午前10時10分頃、同市(住所省略)所在のC病院において、同人を前記傷害による外傷性ショックにより死亡させた。 二輪車もろとも同人を路上に転倒させ、よって、同人に多発外傷の傷害を負わせ、同日午前10時10分頃、同市(住所省略)所在のC病院において、同人を前記傷害による外傷性ショックにより死亡させた。 (証拠の標目)省略(事実認定の補足説明)第1 本件の争点被告人が運転していた大型貨物自動車(以下「被告人車両」という。)と被害者が運転していた大型自動二輪車(以下「被害車両」という。)が判示のとおり衝突する事故が生じ(以下「本件事故」という。)、被害者が死亡したことは争いがない。 弁護人は、被害車両は本件事故当時、最高速度が時速60キロメートルの道路を時速約118キロメートルで進行していたところ、被告人が、右折に当たり、そのような高速度で走行してくる対向直進車両の存在を予見することは不可能であったから予見義務違反はなく、結果回避義務違反もないとして、被告人に過失はなく、被告人は無罪である旨主張している。 当裁判所は、判示のとおり、被告人の過失は認められると判断したので、以下、その理由を補足して説明する(なお、以下の日時は、特に断りがない限り、令和3年のものである。)。 第2 証拠上認定できる事実関係証拠によれば、以下の事実が認められる(当事者間にも特に争いはない。)。 1 本件事故現場等の状況⑴ 本件事故現場の状況本件事故現場は、千歳市方面(北側)と甲方面(南側)を結ぶ道道(以下「本件道路」という。)に、乙方面に延びる市道(以下「市道」という。)が東側から接続する丁字路交差点(以下「本件交差点」という。)であり、交通整理は行われていない。本件交差点付近において、本件道路及び市道に交通規制はない。 本件交差点付近の本件道路及び市道の周囲は緑地帯になっており、本件事故当日である9月13日午前11時5分か り、交通整理は行われていない。本件交差点付近において、本件道路及び市道に交通規制はない。 本件交差点付近の本件道路及び市道の周囲は緑地帯になっており、本件事故当日である9月13日午前11時5分から同時24分までの間に実施された実況見分時の人及び車の交通量は少なかった。 ⑵ 本件交差点付近の本件道路の状況 本件道路は、片側1車線のアスファルト舗装された平坦な道路で、本件交差点内を含めて中央線が引かれており、本件交差点北側付近には導流帯が設けられている。 本件道路の幅員は、本件交差点の北側出口付近で約13.4メートル、南側出口付近で約12.3メートルである。 本件交差点北側方向には、こ線橋が存在し、その頂点付近から本件交差点北側出口に向けて、下り勾配(1度ないし2度)となっている。本件道路は、前記頂点付近から本件交差点南側に至るまで直線の道路形状であり、対向車線の見通しを妨げるものはなく、この間に信号機は設けられていない。 ⑶ 本件交差点付近の市道の状況市道は、片側1車線のアスファルト舗装された平坦な道路で、中央線は本件交差点の手前まで引かれており、幅員は本件交差点出口付近で約13.6メートルである。 2 本件事故関係車両⑴ 被告人車両は、右ハンドルの事業用大型貨物自動車で、その車体は、長さ約11.51メートル、幅約2.49メートル、高さ約3.63メートルで、最小回転半径は10メートルである。 ⑵ 被害車両は、大型自動二輪車の警察車両で、いわゆる白バイである。 3 本件事故状況等⑴ 被害者は、9月13日の本件事故当時、被害車両を運転し、本件道路を千歳市方面(北側)から甲方面(南側)へ進行中、本件交差点に接近した。 ⑵ 被告人は、本件事故当時、被告人車両を運転し、本件道路を甲方面(南側)から千歳 本件事故当時、被害車両を運転し、本件道路を千歳市方面(北側)から甲方面(南側)へ進行中、本件交差点に接近した。 ⑵ 被告人は、本件事故当時、被告人車両を運転し、本件道路を甲方面(南側)から千歳市方面(北側)へ進行中、本件交差点を右折して市道に入ろうと、本件交差点に接近した。その際、Dの運転する車両が、市道から本件交差点を右折して本件道路の千歳市方面(北側)に進行しようと、本件交差点内(市道と本件道路の接続部分中央付近)で、一時停止していた。 ⑶ 被告人は、本件交差点の中心(本件道路及び市道の各中央線の延長の交点。 以下同じ。)に達する約25.37メートル前(18.3+7.07=25.37。下記5⑵参照)の地点から、一時停止することなく、市道方面に向けて、右折待ちのD車両の向かって右側すなわち前記接続部分の南側を進行する、いわゆる内小回り右折(以下「本件右折」という。)を開始した。 その結果、本件右折開始から約2.5秒後の同日午前8時52分59秒頃、本件交差点内において、右折中の被告人車両左側面部(同車両後端から約4.6メートルの箇所。甲12)に、対向車線を直進進行していた被害車両前部が衝突し(以下単に「衝突」という。)、本件事故が発生した。 4 被告人車両及び被害車両の位置関係及び速度等被告人車両及び被害車両に積載されたドライブレコーダーの解析結果等によれば、以下の事実が認められる(以下、数値は小数点以下第3位を四捨五入する。)。 ⑴ 衝突までの両車の位置関係衝突の約8.5秒前には、被害車両は衝突時の位置の約265.2メートル手前の前記こ線橋の頂点付近を、被告人車両は衝突時の位置の約95.4メートル手前をそれぞれ走行していた。また、衝突の約2.5秒前に被告人車両が本件右折を開始した時点での被告人車両と被害車 2メートル手前の前記こ線橋の頂点付近を、被告人車両は衝突時の位置の約95.4メートル手前をそれぞれ走行していた。また、衝突の約2.5秒前に被告人車両が本件右折を開始した時点での被告人車両と被害車両との距離は約79メートル、その際の被害車両の位置と衝突時の同車の位置との距離は約66.4ないし67.4メートルであった。 ⑵ 被告人車両の速度ア本件右折開始前1秒間の平均速度時速約33.84キロメートル(被告人車両搭載ドライブレコーダーは1秒間あたりのコマ数が11フレームであるところ、被告人車両は、衝突前28フレーム目(本件右折開始時)から衝突前39フレーム目の1秒間に約9.4メートル(3.9+4.7+0.8=9.4)進行していると認められる。甲30、39)イ本件右折開始後から衝突時までの平均速度時速約27.86キロメートル(被告人車両搭載ドライブレコーダーによれば、 被告人車両は、本件右折開始後から衝突までの28フレームの間に約19.7メートル進行しており、その間の平均速度は秒速約7.74メートル(19.7×11÷28≒7.74)と認められる。甲30、39)ウ本件右折開始後0.54ないし0.63秒頃(被告人車両搭載ドライブレコーダーにおいて6ないし7フレーム後)の時点時速約28ないし33キロメートル(秒速約7.86ないし9.17メートル。 甲13)エ衝突時点時速約25ないし26キロメートル(秒速約6.95ないし7.22メートル。 被告人車両のデジタルタコグラフ解析結果。甲14)⑶ 被害車両の速度被害車両の速度は、衝突時の位置の手前約182.7メートルから122.7メートル(前記導流帯の北端)の区間は、時速約117ないし118キロメートル(秒速約32.61ないし32.81メートル)、本件交差 害車両の速度は、衝突時の位置の手前約182.7メートルから122.7メートル(前記導流帯の北端)の区間は、時速約117ないし118キロメートル(秒速約32.61ないし32.81メートル)、本件交差点進入後の衝突直前には、時速約88.7キロメートル(秒速約24.63メートル)であった。(甲4、13、15)。 5 被告人車両が本件交差点の右折に要する距離等⑴ 被告人車両の実際の進行経路(本件右折)による場合本件右折の開始から衝突までの被告人車両の進行距離は、約19.7メートルであった。衝突時の被告人車両の位置から、被告人車両全体が、被告人進路側にある本件道路の外側線の延長より右方の市道に入り切るまでの距離は約7.7メートルであり(甲12)、被告人車両が、右折を完了するには、本件右折を開始した地点から約27.4メートル(19.7+7.7=27.4)進行する必要がある(甲39)。 ⑵ 道路交通法に則した右折による場合被告人車両が、道路交通法34条2項に定めるとおり、本件交差点の中心の直近の内側を右折するには、同車の最小回転半径が10メートルであることからすれば、 本件右折を開始した地点から約18.3メートル前方へ直進した地点(本件交差点の中心の手前約7.07メートル(10÷2×√2≒7.07))から右折を開始し、その地点から約23.8メートル進行する必要がある(甲39)。 第3 D証言の検討 1 本件事故前後の状況を目撃したDは、要旨次のとおり証言する。 私は、9月13日、右折するために本件交差点内で一時停止し、左右を3回ほど確認した。右方からは赤い回転灯を点灯させた白バイが走ってくるのが見え、左方からは大型トラックが近付いてくるのが見えた。両車は直進すると思い、通過するのを待っていたところ、左方から衝撃音が聞こえ、両 確認した。右方からは赤い回転灯を点灯させた白バイが走ってくるのが見え、左方からは大型トラックが近付いてくるのが見えた。両車は直進すると思い、通過するのを待っていたところ、左方から衝撃音が聞こえ、両車が衝突したことに気付いた。 その後に周りの車を誘導するなどしたが、ぼう然とした様子の大型トラックの運転手に、「前の方から回転灯つけたオートバイが来てるのに分からなかったのか。」などと尋ねると、同人は「全く気が付きませんでした。」などと答えた。 2 信用性の検討Dは、被害者及び被告人と無関係の第三者であり、虚偽供述に及ぶ動機は全くうかがわれず、自己の記憶に従って証言しており、供述態度は真摯である。また、Dは、右折待ちのために被害車両の動静を注視していたことや、本件事故後の被告人との応対も、凄惨な事故を目撃した直後の出来事として強く印象に残ったと考えられることからして、見間違いや記憶違いの可能性は低いといえる。加えて、供述内容に特に不自然な点もないことに照らすと、D証言は十分信用できる。 なお、弁護人は、Dは、①被告人車両のウインカーの点灯について客観的な状況と異なる供述をしている、②2年以上前の一瞬の事故について過度に明確な証言をしている旨主張して、Dの証言中、被害車両が赤色灯を点灯していたとする部分の信用性を争っている。しかし、Dは、被害車両は白バイであり、その速度は本件道路の最高速度より速かったことを実際に認識していることにも表れているように、被害車両を特に注視していたと考えられることなどに照らすと、①の点が直ちに前記証言部分の信用性を減殺することにはならないし、②の点も、抽象的な指摘にと どまる。その余の弁護人の主張を検討しても、採用できるものはない。 第4 被告人供述の検討 1 被告人は、捜査段階においては、本件右 することにはならないし、②の点も、抽象的な指摘にと どまる。その余の弁護人の主張を検討しても、採用できるものはない。 第4 被告人供述の検討 1 被告人は、捜査段階においては、本件右折前に被害車両に気付かなかった旨の供述をしていた一方、当公判廷においては、これと異なる供述をするので、各供述の信用性について検討する。 2 捜査段階供述の検討⑴ 9月14日付け警察官調書(乙2)の供述要旨私は、右折の手前で直進している時から前方は見ていたが、その段階で白バイは確認できていなかった。自車のドライブレコーダーの映像を見ると、右折する手前で最徐行するか一時停止した上で対向車の確認をしていれば、白バイに気付いて右折せずに止まっていたと思う。私も白バイが来ていることが分かっていれば、先に右折するような運転はしなかったと思う。不注意な運転をした理由は、ハンドルを右に切り始めるときに、意識が右折先の道路の確認に向いていたからだと思う。 ⑵ 信用性の検討前記⑴の被告人供述は、被告人は対向車線からオートバイが来ていることに全く気付かなかったと述べていた旨のD証言によって、その核心部分が強く補強されている上、本件事故翌日という記憶が鮮明な時期になされた供述であり、その内容に特に不自然な点もないことからすれば、信用することができる。 3 公判供述の検討⑴ 公判供述の要旨私は、右折する前に前方を確認したところ、対向車線の上り坂になっているところの頂上付近に、自転車かバイクの影のようなものが見えたような気がするが、それが白バイとは気付かなかったし、速度も分からなかった。この距離なら曲がりきれると考えて、その後は意識的にその影の動きを追っていなかった。事故当初は気が動転して、白バイが見えなかったと答えてしまったが、落ち着いて事故を振り ったし、速度も分からなかった。この距離なら曲がりきれると考えて、その後は意識的にその影の動きを追っていなかった。事故当初は気が動転して、白バイが見えなかったと答えてしまったが、落ち着いて事故を振り返るうちに、何日か経って、影が見えたことを思い出した。 ⑵ 信用性の検討影のようなものが見えた気がする旨の前記公判供述は、具体的な車両やその速度を確認できたとする訳でもなく、非常に曖昧な内容である上、本件事故翌日の供述(前記2⑴)から供述を変遷させた理由も、本件事故後何日か経過して思い出したというものにとどまっていることからすれば、被告人の観察や記憶の正確性には疑問があり、弁護人の指摘を踏まえても、にわかに措信できるものではない。 第5 認定事実に基づく検討 1 予見可能性について⑴ 道路交通法37条は、車両等は、交差点で右折する場合において、当該交差点において直進しようとする車両等があるときは、当該車両等の進行妨害をしてはならない旨規定しており、右折車両の運転者は、対向直進車両の速度及び同車との距離を判断した上、自車が対向直進車両の進路上を通過し終えるのに要する時間を考慮して、対向直進車両に衝突等の危険を回避するために制動や進路変更をさせることなく、同車の接近前に自車が右折を完了し得ることを確認し得た場合のほかは、対向直進車両が通過するまで右折進行を一時差し控えるべき義務を負うと解される。 ⑵ 本件においては、被告人は、本件右折を開始するに当たり、前方左右を注視し、対向直進車両(被害車両)の有無を確認した上、同車の速度及び同車との距離を判断し、同車の接近前に自車が安全に右折を完了し得るかを確認する義務があったといえる。そして、本件交差点付近の本件道路は、ある程度の幅員があり、交差道路に優先し、信号機もなく、直線 び同車との距離を判断し、同車の接近前に自車が安全に右折を完了し得るかを確認する義務があったといえる。そして、本件交差点付近の本件道路は、ある程度の幅員があり、交差道路に優先し、信号機もなく、直線が続く平坦な道路であること、周囲を緑地帯に囲まれ、本件事故当時の交通量も少なかったこと、被告人車両の対向車線は、本件交差点に向けて若干の下り勾配となっており、被告人車両及び対向直進車両との間に見通しを妨げるものもなかったことなどからすれば、対向直進車両が最高速度である時速60キロメートルを基準として、時速20キロメートルをある程度超過する速度で、本件道路を進行してくることも十分予測し得るというべきであるから、上記の確認に当たっては、そのような事情をも考慮することが求められるというべ きである。 ⑶ 以上を前提に検討すると、本件右折開始時点において、被告人車両と被害車両との距離は約79メートルであり、これは、被害車両が、本件道路の最高速度を時速20キロメートル超過する時速80キロメートル(秒速約22.22メートル)で進行してきた場合には約3.56秒で、本件道路の最高速度を時速25キロメートル超過する時速85キロメートル(秒速約23.61メートル)で進行してきた場合には約3.35秒で、同時点における被告人車両の位置に到達する距離であった。 次に、被告人車両が本件右折の完了に要する時間等を検討すると、被告人車両の車体は長く、右折完了に相応の時間を要し(被告人も、このことを当然認識していたものと考えられる。)、具体的には、前記第2の5⑴のとおり、被告人車両が本件右折を開始した地点から右折完了地点までの距離は約27.4メートルであるから、被告人車両が本件右折の開始から完了に要するまでの時間は、本件右折開始後から衝突時までの平均速度の秒速 、被告人車両が本件右折を開始した地点から右折完了地点までの距離は約27.4メートルであるから、被告人車両が本件右折の開始から完了に要するまでの時間は、本件右折開始後から衝突時までの平均速度の秒速約7.74メートル(前記第2の4⑵イ)で進行した場合で約3.54秒、被告人に有利に考慮して、本件右折開始前1秒間の平均速度である秒速約9.4メートル(前記第2の4⑵ア)で進行した場合であっても、約2.91秒を要する。前者の場合であれば、時速80ないし85キロメートルで進行してくる大型自動二輪車である被害車両に急な制動や進路変更を余儀なくさせるだけでなく、被告人車両と被害車両が衝突してその運転者の死亡の結果を伴う交通事故が発生する可能性が相当高いことは明らかである。後者の場合であっても、被告人車両が本件右折を開始した時点で、被害車両は衝突時の同車の位置から少なくとも約67.4メートル手前(前記第2の4⑴)の地点を走行していたことからすれば、被害車両は、最高速度を時速23.38キロメートル超過する時速83.38キロメートル(67.4÷2.91×3.6≒83.38)以上の速度で進行していれば、被告人車両が本件右折を完了するまでに、被告人車両右折完了地点付近の上記位置に到達することになり、やはり、同様の結果が発生する可能性が高いと認められる。 ⑷ 以上によれば、被告人は、本件右折開始時に、対向直進車両の有無及び同車と自車との距離等を確認していれば、被害車両の存在を確認し、同車が通常予測し得る速度で進行してきた場合に、その接近前に自車が右折を完了することができず、自車と被害車両が衝突等してその運転者の死亡の結果を伴う交通事故を発生させることを十分予見することが可能であったし、予見する義務があったといえる。 2 結果回避可能性について 了することができず、自車と被害車両が衝突等してその運転者の死亡の結果を伴う交通事故を発生させることを十分予見することが可能であったし、予見する義務があったといえる。 2 結果回避可能性について⑴ 前記のとおり、右折車両の運転者は、対向直進車両に衝突等の危険を回避するために制動や進路変更をさせることなく、同車の接近前に自車が右折を完了し得ることを確認し得た場合のほかは、対向直進車両が通過するまで右折進行を一時差し控えるべき義務を負うと解される。この点、本件公訴事実は、判示と同旨の注意義務を掲げるものであるが、検察官は、同注意義務につき、対向直進車両の動静に留意し、その安全を確認しながら進行すべき注意義務も含む趣旨であり(仮に被告人が公判において供述するように右折に際して被害車両の存在に気付いていたとしても、同注意義務に違反している。)、また、①結果回避措置を本件交差点の中心の直近の内側を通ることに限定する趣旨ではなく、②前方を注視し、適切な走行を行うことにより、被害車両との衝突を回避すべきことも包含しており、例えば、そもそも右折を差し控えるなどの回避措置も当然含む趣旨であると釈明している。 ⑵ そして、被告人は、本件右折開始時点において、前記のとおり、被害車両の接近前に自車が右折を完了することができず、被害車両と衝突等してその運転者の死亡の結果を伴う交通事故を発生させるという結果を予見すれば、その場で右折を差し控える、又は、道路交通法34条2項にのっとり、本件交差点の中心の直近の内側を通過する右折開始地点(前記第2の5⑵)まで直進するなどして、容易に結果発生を回避することが可能であったということができるから、結果回避可能性(結果回避義務違反)も認められる。 3 弁護人の主張の検討⑴ 弁護人は、被告人は、制限速度が時速60キ して、容易に結果発生を回避することが可能であったということができるから、結果回避可能性(結果回避義務違反)も認められる。 3 弁護人の主張の検討⑴ 弁護人は、被告人は、制限速度が時速60キロメートルの道路を時速約11 8キロメートルもの高速度で進行する対向直進車両の存在を予見する義務はない旨主張する。しかしながら、本件における予見可能性の判断において重要であるのは、被告人が、本件右折を開始する前に、対向直進車両が通常予測し得る程度の速度で進行してきて被告人車両と衝突等する結果を予見することができたか否かであって、被害車両が前記高速度で進行してくることまで具体的に予見することができなかったとしても、直ちに被告人の予見可能性が否定されることにはならない。 ⑵ また、弁護人は、右折車両としては、右折開始時ではなく右折開始前の合理的な時点において、通常想定される速度で進行してきた場合に衝突のおそれがあるような位置に対向直進車両がいるかを確認すれば足りるとした上で、被告人の公判供述を前提にして、被告人は、本件右折の数秒前に一度、相当遠方まで注視し、被害車両を発見した上で右折をしたものであるから、過失はない旨主張する。しかしながら、前記のとおり、そもそも被告人の公判供述の信用性は高いものではないし、同供述を前提としたとしても、被告人は、影のようなものが見えたにすぎず、それが車両であるかの判別や速度の確認すらも十分できていない状況であった。加えて、仮に、被告人が前記こ線橋の頂上付近にいた被害車両を見たことがあったとしても、それは、被告人車両が本件右折を開始するまで約6秒も前のことであったと考えられ(8.5-2.5=6。前記第2の4⑴参照)、被告人は、その後衝突まで意識的に被害車両を確認したこともなかったというのであるから、被告 人車両が本件右折を開始するまで約6秒も前のことであったと考えられ(8.5-2.5=6。前記第2の4⑴参照)、被告人は、その後衝突まで意識的に被害車両を確認したこともなかったというのであるから、被告人は本件右折に当たって対向直進車両の動静を確認したとはいい難く、注意義務を果たしたとはいえない。弁護人の主張は、道路交通法の趣旨にも沿わない独自の見解であって採用できない。 ⑶ さらに、弁護人は、被告人の捜査段階供述を前提としても、被告人が本件右折時に被害車両を認識できなかったのは、同車が通常の注意をしても発見できないほど遠くの位置を走行していたためであるから、結果回避可能性はなかったなどとも主張するが、前記のような本件右折開始時の被告人車両と被害車両との距離や被告人車両からの見通し等に照らして、同主張がその前提を欠くことは明らかである。 ⑷ その他、弁護人の主張を検討しても、前記の判断を左右するものはない。 4 結論以上の次第で、被告人には、判示の過失が認められると判断した。 (法令の適用)罰条自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条本文刑種の選択禁錮刑を選択刑の全部執行猶予刑法25条1項訴訟費用刑訴法181条1項ただし書(不負担)(量刑の理由)被告人は、職業運転手として、大型貨物自動車を運転中、右折に際して前方左右を注視し、対向直進車両の有無及びその安全を確認するという自動車運転上の基本的な注意義務を怠り、被害車両を見落とし、更には、内小回りという不適切な右折を行った結果、本件事故を惹起した。被害車両は相当の高速度で進行していたとはいえ、警察官としての職務に従事中であった被害者に本件事故についてさしたる過失があったという は、内小回りという不適切な右折を行った結果、本件事故を惹起した。被害車両は相当の高速度で進行していたとはいえ、警察官としての職務に従事中であった被害者に本件事故についてさしたる過失があったということはできず、被告人の過失の程度には重いものがある。また、本件事故により、被害者の尊い命が失われたという被害結果は重大であり、かけがえのない家族を突如として失った被害者遺族の悲しみや喪失感は深く、処罰感情が厳しいのも理解できる。 以上によれば、被害車両が相当の高速度で進行していたことが重大な被害結果の発生に寄与した側面があることは否定できないことを考慮しても、被告人の刑事責任を軽視することはできない。 もっとも、被告人の当時の勤務会社が加入する任意保険により、今後の適切な賠償が見込まれること、被告人は、本件事故を起こしたこと自体については謝罪の弁を述べていること、被告人の同棲相手が今後の監督を誓約していること、被告人は前科がないことなど、被告人のために酌むことができる事情も認められる。 以上の事情も踏まえると、被告人に対しては、主文の刑を科した上で、その刑の 執行を猶予するのが相当と判断した。 (求刑禁錮1年2月)令和6年9月13日札幌地方裁判所刑事第1部 裁判長裁判官吉戒純一 裁判官藤井俊彦 裁判官小町勇祈

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