平成26(ヨ)31 大飯原発3,4号機運転差止仮処分命令申立事件

裁判年月日・裁判所
平成27年12月24日 福井地方裁判所
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判決文本文7,429 文字)

平成26年(ヨ)第31号大飯原発3,4号機及び高浜原発3,4号機運転差止仮処分命令申立事件決定当事者等の表示別紙当事者目録のとおり(省略) 主文 1 本件申立てをいずれも却下する。 2 申立費用は債権者らの負担とする。 理由 第1 申立ての趣旨債務者は,別紙当事者目録1記載の各債権者との関係で,福井県大飯郡おおい町大島1字吉見1‐1において,大飯発電所3号機及び4号機の原子炉を運転してはならない。 第2 事案の概要 1 本件は,別紙当事者目録1及び2記載の債権者らが,福井県大飯郡おおい町大島1字吉見1-1において原子力発電所である大飯発電所3号機及び4号機(以下,併せて「本件原発」という。)を,福井県大飯郡高浜町田ノ浦1において同じく原子力発電所である高浜発電所3号機及び4号機(以下,併せて「高浜原発」という。)をそれぞれ設置している債務者に対し,人格権に基づく妨害予防請求として,本件原発については別紙当事者目録1記載の各債権者との関係で,高浜原発については別紙当事者目録1及び2記載の各債権者との関係で,それぞれの原子炉の運転を仮に差し止めることを命じる仮処分を申し立てた事案である(以下,本件原発に係る仮処分の申立てを「本件申立て」といい,高浜原発に係る仮処分の申立てを「高浜申立て」という。)。 当裁判所は,平成27年4月14日,高浜申立てについて,後記の新規制基準に求められるべき合理性とは,基準に適合すれば深刻な災害を引き起こすおそれが万が一にもないといえるような厳格な内容を備えていることであると解すべきところ,新規制基準は緩やかに過ぎ合理性を欠くなどとして,債権者らが人格権を侵害される具体的危険性があると認め,さらに,原子力規制委員会 ないといえるような厳格な内容を備えていることであると解すべきところ,新規制基準は緩やかに過ぎ合理性を欠くなどとして,債権者らが人格権を侵害される具体的危険性があると認め,さらに,原子力規制委員会による設置変更許可がされた現時点においては保全の必要性も肯定できるとして,高浜申立てを認容する決定をした(本件申立てについては,上記決定後も審理が継続された。)。 2 本件申立てに係る当事者の主張は,双方の提出した主張書面のとおりであるから,これらを引用する。なお,本件申立てに係る主要な争点は,被保全権利(人格権に基づく妨害予防請求としての本件原発の原子炉の運転差止請求権)の存否及び保全の必要性の有無であり,保全の必要性に関する当事者の主張の骨子は次のとおりである。 債権者らの主張債権者らの被保全権利は,人の生命を基礎とする人格権であり,これを超える価値を他に見いだすことのできない最も重要な権利であって,債務者の経済的自由は,これよりも劣位にある。そして,万が一,本件原発において深刻な事故が発生すれば,債権者らの最も重要な権利が不可逆的に侵害されるのであるから,保全の必要性は高い。 他方,債務者が発電事業を営む権利は,原子力発電以外の手段によっても十分に実現可能であり,むしろ,原子力発電のコストは他の発電手段と比較しても高いのであるから,本件申立てが認容されても,債務者の被る損害はない。 以上を踏まえると,本件原発の再稼働が既に目前に迫っている現状において,保全の必要性が認められることは明らかである。 債務者の主張債務者は,本件原発につき,原子力規制委員会に対していわゆる再稼働申請を行ったが,その審査は継続中であり,今後の審査に要する期間や本件原発の再稼働時期については定かではない。 したがって,本件原発の再稼働が差し 原発につき,原子力規制委員会に対していわゆる再稼働申請を行ったが,その審査は継続中であり,今後の審査に要する期間や本件原発の再稼働時期については定かではない。 したがって,本件原発の再稼働が差し迫っているとはいえない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実各項の末尾に掲記の疎明資料及び審尋の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 新規制基準及び再稼働申請の概要ア平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(以下「東北地方太平洋沖地震」という。)に伴う原子力発電所の事故を契機に,原子力規制委員会設置法(以下「設置法」という。)が新たに制定されるとともに,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律が改正され(以下,改正後の同法律を「改正原子炉規制法」という。),設置法においては,原子力規制委員会の組織及び権能について規定された。 イ改正原子炉規制法においては,「発電用原子炉を設置しようとする者は,政令で定めるところにより,原子力規制委員会の許可を受けなければならない」(同法43条の3の5第1項)とされ(以下,この許可を「原子炉設置許可」という。),原子炉設置許可を受けた者(以下「発電用原子炉設置者」という。)が同条2項2号から5号まで又は8号から10号までに掲げる事項を変更しようとするときについても,「政令で定めるところにより,原子力規制委員会の許可を受けなければならない」(同法43条の3の8第1項)とされている(以下,この許可を「設置変更許可」という。)。なお,同法43条の3の6第1項4号及び同号を準用する同法43条の3の8第2項においては,原子炉設置許可又は設置変更許可の基準の一つとして「発電用原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質若しくは核燃料物質によつて汚染された物又は発電用原子 準用する同法43条の3の8第2項においては,原子炉設置許可又は設置変更許可の基準の一つとして「発電用原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質若しくは核燃料物質によつて汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上支障がないものとして原子力規制委員会規則で定める基準に適合するものであること」が挙げられているが,ここでいう「原子力規制委員会規則」が,「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置,構造及び設備の基準に関する規則」(以下「設置許可基準規則」という。)であり,この解釈を示すのが「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置,構造及び設備の基準に関する規則の解釈」と題する規程(以下「設置許可基準規則解釈」という。)である(以下,これらの設置変更許可の審査に係る規則等を「新規制基準」という。)。 また,発電用原子炉設置者が発電用原子炉施設の設置又は変更の工事をしようとする場合には,「原子力規制委員会規則で定めるところにより,当該工事に着手する前に,その工事の計画について原子力規制委員会の認可を受けなければならない」(同法43条の3の9第1項)とされ(以下,この認可を「工事計画認可」という。),工事計画認可を受けて工事をする発電用原子炉施設については,「その工事について原子力規制委員会規則で定めるところにより原子力規制委員会の検査を受け,これに合格した後でなければ,これを使用してはならない」(同法43条の3の11第1項)とされている(以下,上記検査を「使用前検査」という。)。 さらに,発電用原子炉設置者は,「原子力規制委員会規則で定めるところにより,保安規定(中略)を定め,発電用原子炉の運転開始前に,原子力規制委員会の認可を受けなければならない」とされ,「これを変更しようとするときも,同様とする」(同法43条の3の24第1項)とされて により,保安規定(中略)を定め,発電用原子炉の運転開始前に,原子力規制委員会の認可を受けなければならない」とされ,「これを変更しようとするときも,同様とする」(同法43条の3の24第1項)とされている(以下,上記変更に係る認可を「保安規定変更認可」という。)。 なお,設置法,改正原子炉規制法並びに設置許可基準規則及び設置許可基準規則解釈を含む原子力規制委員会規則等は,平成25年7月8日に施行された。 ウ現在停止している原子炉を再稼働させるには,当該原子炉が新規制基準に適合することが必要となることから,発電用原子炉設置者は,原子力規制委員会に対し,設置変更許可の申請を行い,同委員会による新規制基準への適合性審査を経た上で設置変更許可を受けるとともに,工事計画認可及び保安規定変更認可の各申請を行ってこれらの認可を受け,さらに,工事計画認可を受けて工事をした施設については使用前検査に合格する必要がある。 そして,設置変更許可,工事計画認可及び保安規定変更認可の各申請は,一般に「再稼働申請」と呼ばれている。 本件原発の稼働状況及び再稼働申請に係る審査状況等ア債務者は,昭和60年2月15日,本件原発の増設に係る原子炉設置変更許可の申請を行い,昭和62年2月10日,上記申請に係る許可がされた。なお,本件原発の3号機は平成3年12月,4号機は平成5年2月から,それぞれ営業運転が開始された。(甲14(3頁),15)イ本件原発は,東北地方太平洋沖地震の後,運転を停止していたが,本件原発のうち3号機は平成24年8月3日,4号機は同月16日から,それぞれ営業運転が再開された。その後,本件原発は,平成25年9月から定期検査を開始し,現在は運転を停止している。(乙18(6頁),審尋の全趣旨(仮処分申立書21頁))ウ債務者は,改正 ,それぞれ営業運転が再開された。その後,本件原発は,平成25年9月から定期検査を開始し,現在は運転を停止している。(乙18(6頁),審尋の全趣旨(仮処分申立書21頁))ウ債務者は,改正原子炉規制法の施行等を受け,平成25年7月8日,原子力規制委員会に対し,本件原発及び高浜原発について,設置変更許可,工事計画認可及び保安規定変更認可の各申請(以下,本件原発に係る各申請を併せて「本件各申請」という。)を行った。(甲124)エ原子力規制委員会は,本件各申請に対し,原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合(以下「審査会合」という。)を開催するなどして,本件原発の新規制基準への適合性審査を行い,審査会合は,平成26年12月24日までに52回にわたって開催された。 そして,新規制基準では,耐震重要施設(地震の発生によって生ずるおそれがあるその安全機能の喪失に起因する放射線による公衆への影響の程度が特に大きい施設)は,その供用中に当該耐震重要施設に大きな影響を及ぼすおそれがある地震による加速度によって作用する地震力(基準地震動による地震力)に対して安全機能が損なわれるおそれがないものでなければならない(設置許可基準規則3条1項,4条3項)とされ,また,設計基準対象施設(発電用原子炉施設のうち,運転時の異常な過渡変化又は設計基準事故の発生を防止し,又はこれらの拡大を防止するために必要となるもの)は,その供用中に当該設計基準対象施設に大きな影響を及ぼすおそれがある津波(基準津波)に対して安全機能が損なわれるおそれがないものでなければならない(同規則2条2項7号,5条)とされているところ,原子力規制委員会は,同年10月29日の審査会合において,債務者が新規制基準に基づいて策定したとする本件原発の基準地震動(以下「本件基準地震動」 ない(同規則2条2項7号,5条)とされているところ,原子力規制委員会は,同年10月29日の審査会合において,債務者が新規制基準に基づいて策定したとする本件原発の基準地震動(以下「本件基準地震動」という。)について,留保を付しつつも「一応,必要な検討がなされて回答はされている」などとして,これをおおむね了承し,同年12月19日の審査会合においては,債務者が新規制基準に基づいて策定したとする基準津波(以下「本件基準津波」という。)についても,「きちんと評価がされている」などとして,これをおおむね了承した。(乙6(スライド8),17,20(23頁),31(53頁),90)オもっとも,本件原発の設置変更許可の申請に係る審査は現在も継続中であり,今後の審査に要する期間は明らかにされていない。また,工事計画認可及び保安規定変更認可の各申請に係る審査についても,原子力規制委員会による審査が継続中であり,これらの審査に要する期間も明らかにされていない。他方,高浜原発については,平成27年2月12日,原子力規制委員会により設置変更許可がされ,遅くとも同年10月9日までに,工事計画認可及び保安規定変更認可がされた。(乙73,74,審尋の全趣旨) 本件原発の差止めに係る判決当裁判所は,平成26年5月21日,債務者を被告とする本件原発の原子炉の運転差止めを求める訴訟(当庁平成24年(ワ)第394号,平成25年(ワ)第63号大飯原発3,4号機運転差止請求事件。なお,同訴訟の原告らと別紙当事者目録1記載の債権者らとは異なる。)について,本件原発から250km圏内に居住する166名の原告との関係で請求を認容する(250km圏外に居住する23名の原告の請求をいずれも棄却する)判決(以下「福井地裁判決」という。)を言い渡した。(甲127 原発から250km圏内に居住する166名の原告との関係で請求を認容する(250km圏外に居住する23名の原告の請求をいずれも棄却する)判決(以下「福井地裁判決」という。)を言い渡した。(甲127)債務者は,福井地裁判決の敗訴部分を不服として控訴を提起し,現在,名古屋高等裁判所金沢支部において審理されている。 2 保全の必要性本件申立ては,本件原発の再稼働の差止めを求めるものであり,その発令には「著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするとき」との要件(民事保全法23条2項),すなわち保全の必要性が疎明されなければから定期検査のため運転を停止して以降,現在に至るまで運転を停止しているのであるから,その再稼働の差止めに係る保全の必要性が認められるためには,本件原発の再稼働が差し迫っているという事情が疎明されなければならないというべきである。 そして,改正原子炉規制法においては,停止中の原子炉が運転を再開するには,発電用原子炉設置者が原子力規制委員会に対して再稼働申請を行い,設置変更許可,工事計画認可及び保安規定変更認可を受けるとともに,工事計画認可を得た設備については使用前検査に合格しなければならないとさする原子力規制委員会の審査を受け,それらの許認可を得た上で,使用前検査に合格しない限り,本件原発を適法に再稼働することはできないのであるから,本件各申請に係る原子力規制委員会の審査が継続されている限り,本件原発が直ちに再稼働されることはあり得ないというべきである。 とりわけ,設置変更許可に係る審査に当たっては,原子力規制委員会によって発電用原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上支障がないものとして新規制基準に適合するか否かが審査 子力規制委員会によって発電用原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上支障がないものとして新規制基準に適合するか否かが審査されるのであり(改正原子炉規制法43条の3の8第2項,同法43条の3の6第1項4号参照),この審査が再稼働申請における審査の中核に位置付けられるものと解されるから,少なくとも,同委員会が本件原発について設置変更許可をするよりも前の段階においては,本件原発の再稼働が差し迫っていると認めることはできず,著しい損害又は急迫の危険を避けるため直ちに本件原発の再稼働を差し止める必要があると認めるに足りる特段の事情のあることが疎明されない限り,保全の必要性を肯定することはできないというべきである。 本件原発については,平成25年7月8日に本件各申請がされて以降,原子力規制委員会において新規制基準への適合性審査が行われ,本件基準地震動及び本件基準津波が審査会合においておおむね了承されたことは前記認申請に係る原子力規制委員会の審査は設置変更許可に係る審査も含めていまだ継続中であり,今後の審査に要する期間も明らかではないのであるから,現時点で,本件原発の再稼働が差し迫っているということはできない。 そこで,前記特段の事情について更に検討すると,新規制基準では,基準地震動や基準津波の策定に当たって最新の科学的・技術的知見を踏まえること等が求められている(設置許可基準規則解釈別記2第4条5項,同解釈別記3第5条1項。乙17,90)のであるから,今後,本件基準地震動や本件基準津波に関連して新たな知見が明らかになれば,その知見を反映して本件基準地震動及び本件基準津波の再評価が行われるのは当然のことというべきであるし,現時点において,本件各申請に係る原子力規制委員 件基準津波に関連して新たな知見が明らかになれば,その知見を反映して本件基準地震動及び本件基準津波の再評価が行われるのは当然のことというべきであるし,現時点において,本件各申請に係る原子力規制委員会の審査結果が合理性を欠くことが明らかであり,直ちに本件原発の再稼働を差し止めなければ本件原発の安全な再稼働を確保することができないなどの事情をうかがわせる疎明資料もない。そうすると,本件原発について,著しい損害又は急迫の危険を避けるため直ちに再稼働を差し止める必要があると認めるに足りる特段の事情のあることが疎明されたということもできない。 以上のとおりであるから,本件申立てについて,保全の必要性を認めることはできない。 3 結論よって,本件申立ては,その余の点について判断するまでもなく理由がないから,これらをいずれも却下することとし,主文のとおり決定する。なお,本件申立てがされてから既に1年以上が経過していること,本件原発については1年半以上前に福井地裁判決が既に言い渡されていることを踏まえれば,現時点で本件申立てについて決定をするのが相当である。 平成27年12月24日福井地方裁判所民事第2部 裁判長裁判官林潤 裁判官中村修輔 裁判官三宅由子

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