平成18(行ヒ)187 公文書非公開決定取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成19年5月29日 最高裁判所第三小法廷 判決 破棄自判 大阪高等裁判所 平成17(行コ)14
ファイル
hanrei-pdf-34713.txt

判決文本文3,690 文字)

- 1 -主文原判決のうち上告人敗訴部分を破棄する。 前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。 控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。 理由 上告代理人松本佳典ほかの上告受理申立て理由について 本件は,滋賀県の住民である被上告人が,滋賀県情報公開条例(平成12年滋賀県条例第113号。平成16年滋賀県条例第30号による改正前のもの。以下「本件条例」という。)に基づき,上告人に対し,滋賀県警察本部(以下「滋賀県警」という。)が平成10年度ないし同15年度に支出した捜査費又は捜査報償費(以下,これらを併せて「捜査費等」という。)に係る個人名義の領収書のうち実名ではない名義で作成されたもの(以下「本件領収書」という。)等の公開を請求したところ,上告人から,本件領収書には本件条例6条1号又は3号所定の非公開情報が記録されていることなどを理由として,平成16年7月14日付けで公文書非公開決定(以下「本件決定」という。)を受けたため,本件決定のうち本件領収書に係る部分の取消しを求める事案である。 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。 (1)本件条例6条は,「実施機関は,公開請求があったときは,公開請求に係る公文書に次の各号に掲げる情報(以下「非公開情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き,公開請求者に対し,当該公文書を公開しなければならない。」と定め,その1号本文及び3号において,以下のとおり規定している。 1号本文「個人に関する情報(中略)であって,特定の個人を識別することがで- 2 -きるもの(他の情報と照合することにより,特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)または特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの。」 情報と照合することにより,特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)または特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの。」3号「公にすることにより,犯罪の予防,鎮圧または捜査,公訴の維持,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報」(2)滋賀県警においては,犯罪捜査に際し,捜査関連情報を有していると思われる者等に対し情報提供を求めるほか,犯罪等に関連しない一般人に対しても種々の協力を求め,その場合に受けた協力又は情報等の内容,程度,頻度等の諸事情を勘案して,これらの者(以下「情報提供者等」という。)に捜査費等として現金を支払う場合があった。 その場合,滋賀県警は,情報提供者等が住所,氏名,受領年月日及び受領金額を自筆で記載した領収書の交付を受けていたが,事件関係者等の周辺に存在する情報提供者等が,何らかの事情で情報提供者等として特定されることを危ぐし,実名による領収書の作成に難色を示した場合は,その意向を受け入れ,受領年月日及び受領金額については真実に合致した記載を求めるものの,受領者の氏名及び住所については,たとえ真実でない記載がされたものであっても,正規の領収書として取り扱い,その交付を受けていた。 (3)本件領収書には,例えば,作成者の特異な筆跡の現れたたぐいのもの,偽名を実名と1字しか違えていないたぐいのもの,住所の記載を作成者の住所の近隣としているたぐいのものなど多種多様な記載がされている可能性がある。 (4)上告人は,本件領収書に本件条例6条1号又は3号所定の非公開情報が記- 3 -録されていると認めた理由として,本件領収書を公にした場合,①記載事項の筆跡等から情報提供者等が 能性がある。 (4)上告人は,本件領収書に本件条例6条1号又は3号所定の非公開情報が記- 3 -録されていると認めた理由として,本件領収書を公にした場合,①記載事項の筆跡等から情報提供者等が特定され,情報提供者等やその家族らが事件関係者等から報復を受ける可能性があり,以後の捜査協力が得られなくなるなど,捜査に支障を及ぼすおそれがある,②情報提供者等に対して警察の情報管理そのものに対する不信の念を抱かせ,新たな情報提供者等の獲得が困難となるなど,以後の捜査に支障を及ぼすおそれがある,③情報提供者等の人数や捜査部署が判明することで,事件等の態様に応じた捜査手法や方針が明らかとなり,犯罪を企図する者等が対抗措置を講じるなどして,以後の捜査に支障を及ぼすおそれがあるなどと主張している。 原審は,上記事実関係等の下において,次のとおり判断して,本件請求のうち,上告人が平成14年4月1日以後に取得した本件領収書に係る部分についての請求を認容すべきものとした。 本件領収書(ただし,上告人が同日以後に取得したもの。以下同じ。)に含まれる情報は,せいぜい氏名,住所,受領年月日及び受領金額程度の情報であって,しかも,領収書の作成者が,その記載により自らが情報提供者等として特定されることを回避するため,あえて偽名で作成したものであるから,事柄の性質上,容易に自己が特定されるような体裁の記載をしていないと推認するのが合理的である。もちろん,本件領収書には,作成者の特異な筆跡の現れたたぐいのものなど多種多様な記載がされている可能性もあるが,これについては,具体的に領収書の記載,体裁に関する個別事情とこれに関する関連事情が明確にされない限り,上告人主張のような非公開情報が記載されているか否かが不明確である。非公開情報との結び付きに関する上告人の主張 具体的に領収書の記載,体裁に関する個別事情とこれに関する関連事情が明確にされない限り,上告人主張のような非公開情報が記載されているか否かが不明確である。非公開情報との結び付きに関する上告人の主張は,具体性が希薄であるといわざるを得ず,本件全証拠に- 4 -よってもこれを認めるには足りない。したがって,本件領収書に本件条例6条1号又は3号所定の非公開情報が記録されているということはできない。 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 前記事実関係等によれば,①本件領収書は,いずれも,滋賀県警において,情報提供者等から犯罪捜査に関連する情報の提供や種々の協力を受け,その対価として捜査費等を支払った際に作成されたものである,②本件領収書中の氏名及び住所の記載は,事件関係者等の周辺に存在する情報提供者等が何らかの事情で情報提供者等として特定されることを危ぐし,真実とは異なる記載をしたものである,③本件領収書中の氏名,住所,受領年月日及び受領金額の記載は,上記情報提供者等がすべて自筆で記載したものである,④本件領収書には,例えば,作成者の特異な筆跡の現れたたぐいのもの,偽名を実名と1字しか違えていないたぐいのもの,住所の記載を作成者の住所の近隣としているたぐいのものなど多種多様な記載がされている可能性があるというのである。 これらの事実を前提とすると,仮に,本件条例に基づき本件領収書の記載が公にされることになれば,情報提供者等に対して自己が情報提供者等であることが事件関係者等に明らかになるのではないかとの危ぐを抱かせ,その結果,滋賀県警において情報提供者等から捜査協力を受けることが困難になる可能性を否定することはできない。また,事件関係者等において,本件領収書の記載の内容やその筆跡等を手 いかとの危ぐを抱かせ,その結果,滋賀県警において情報提供者等から捜査協力を受けることが困難になる可能性を否定することはできない。また,事件関係者等において,本件領収書の記載の内容やその筆跡等を手掛りとして,内情等を捜査機関に提供し得る立場にある者に関する知識や犯罪捜査等に関して知り得る情報等を総合することにより,本件領収書の作成者を特定することが容易になる可能性も否定することができない。そうすると,本件領収書の- 5 -記載が公にされた場合,犯罪の捜査,予防等に支障を及ぼすおそれがあると認めた上告人の判断が合理性を欠くということはできないから,本件領収書には本件条例6条3号所定の非公開情報が記録されているというべきである。 以上と異なる見解の下に,前記3の部分についての被上告人の請求を認容した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決のうち上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,上記部分に関する被上告人の請求は理由がなく,これを棄却した第1審判決は正当であるから,上記部分に係る被上告人の控訴を棄却すべきである。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官堀籠幸男裁判官上田豊三裁判官藤田宙靖裁判官那須弘平裁判官田原睦夫)

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る