平成24(行ケ)10373 審決取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成25年9月30日 知的財産高等裁判所 1部 判決 審決取消
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判決文本文27,095 文字)

平成25年9月30日判決言渡平成24年(行ケ)第10373号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成25年7月17日判決原告シャープ株式会社訴訟代理人弁護士永島孝明同安國忠彦訴訟代理人弁理士磯田志郎被告住友金属鉱山株式会社訴訟代理人弁護士舟橋定之訴訟代理人弁理士伊東忠彦同伊東忠重同大貫進介同山口昭則同杉山公一 主文 1 特許庁が,無効2012-800006号事件について平成24年9月19日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求主文同旨第2 前提となる事実 1 特許庁における手続きの経緯原告は,特許発明の名称を「半導体装置および液晶モジュール」とする特許第4550080号(平成15年6月30日(以下「原出願日」という。)にした特許 出願の一部を平成19年3月26日に分割出願したもの。平成22年7月16日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である(甲1)。 被告は,平成24年1月30日,本件特 )にした特許 出願の一部を平成19年3月26日に分割出願したもの。平成22年7月16日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である(甲1)。 被告は,平成24年1月30日,本件特許の請求項1ないし6に係る発明に係る特許につき,特許無効審判(無効2012-800006号事件。以下「本件審判」という。)を請求し,特許庁は,同年9月19日,「特許第4550080号の請求項1なしい請求項6に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同月27日,原告に送達された。 2 特許請求の範囲本件特許に係る特許請求の範囲の記載は以下のとおりである(以下,請求項1ないし6に係る発明を順に「本件発明1」ないし「本件発明6」といい,あわせて「本件発明」という。)(甲1)。 「【請求項1】絶縁性を有するベースフィルム,該ベースフィルム上に形成されたニッケル-クロム合金からなり厚みが7nm以上のバリア層,および該バリア層の上に形成された銅を含んだ導電物からなると共に表面にスズメッキが施された配線層を有する半導体キャリア用フィルムと,前記配線層に接続された突起電極を有する半導体素子とを備える半導体装置であって,前記バリア層と前記配線層とを所定パターンに形成した半導体素子接合用配線が複数あり,そのうちの少なくとも隣り合う二つの前記半導体素子接合用配線の間において,配線間距離及び出力により定まる電界強度が3×105~2.7×106V/mであり,前記半導体素子接合用配線の配線間距離が50μm以下となる箇所を有し,前記バリア層におけるクロム含有率を15~50重量%とすることにより,前記バリア層の溶出によるマイグレーションを抑制することを特徴とする半導体装置。 【請求項2】前記半導体素子接合用配線 を有し,前記バリア層におけるクロム含有率を15~50重量%とすることにより,前記バリア層の溶出によるマイグレーションを抑制することを特徴とする半導体装置。 【請求項2】前記半導体素子接合用配線の端子間ピッチが100μm以下となる箇所を有するものであることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。 【請求項3】前記バリア層のクロム含有率が15~30重量%であることを特徴 とする請求項1または2に記載の半導体装置。 【請求項4】前記バリア層の厚みが10~35nmであることを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載の半導体装置。 【請求項5】前記ベースフィルムの厚みが25~50μmであることを特徴とする請求項1から4の何れか一項に記載の半導体装置。 【請求項6】請求項1から5の何れか一項に記載の半導体装置を備えたことを特徴とする液晶モジュール。」 3 審決の理由審決の理由は,別紙審決書写しに記載のとおりであり,その概要は,本件発明は,原出願日前に頒布された刊行物である特開平6-120630号公報(甲2。以下「甲2文献」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたとするものである。 審決が認定した引用発明の内容,本件発明1と引用発明の一致点,相違点,本件発明6と引用発明の相違点は以下のとおりである。 (1) 引用発明の内容「厚さ50μmのポリイミドから成る支持基板1,支持基板1の上に形成された厚さ200Å(20nm)のNi-Cr合金層2,Ni-Cr合金層2の上に形成された銅層3,4を有するプリント配線基板を備え,Ni-Cr合金層2と銅層3,4をエッチング処理により所定の配線パターンに形成した配線に半導体素子を接続した半導体装置であって,該配線は,配線 に形成された銅層3,4を有するプリント配線基板を備え,Ni-Cr合金層2と銅層3,4をエッチング処理により所定の配線パターンに形成した配線に半導体素子を接続した半導体装置であって,該配線は,配線幅及び配線間距離がいずれも20μmの配線パターンであり,Ni-Cr合金層2におけるCr含有率が18重量%である半導体装置。」(2) 本件発明1と引用発明の一致点「絶縁性を有するベースフィルム,該ベースフィルム上に形成されたニッケル-クロム合金からなり厚みが7nm以上のバリア層,および該バリア層の上に形成された銅を含んだ導電物からなる配線層を有する半導体キャリア用フィルムと,前記 配線層に接続された半導体素子とを備える半導体装置であって,前記バリア層と前記配線層とを所定パターンに形成した半導体素子接合用配線が複数あり,前記半導体素子接合用配線の配線間距離が50μm以下となる箇所を有し,前記バリア層におけるクロム含有率を15~50重量%とする半導体装置。」の点。 (3) 本件発明1と引用発明の相違点ア相違点1本件発明1は,配線層の表面にスズメッキが施されるのに対して,引用発明は,銅層3,4の表面にスズメッキが施されていない点。 イ相違点2本件発明1は,半導体素子が配線層に接続された突起電極を有するのに対して,引用発明は,半導体素子が銅層3,4に接続される突起電極を有するか否か不明である点。 ウ相違点3本件発明1は,隣り合う二つの半導体素子接合用配線の間において,配線間距離及び出力により定まる電界強度が3×105~2.7×106V/mであるのに対して,引用発明は,隣り合う二つの配線の間における電界強度が不明である点。 エ相違点4本件発明1は,バリア層におけるクロム含有率を15~50重量%とすることにより,バ 106V/mであるのに対して,引用発明は,隣り合う二つの配線の間における電界強度が不明である点。 エ相違点4本件発明1は,バリア層におけるクロム含有率を15~50重量%とすることにより,バリア層の溶出によるマイグレーションを抑制するものであるのに対して,引用発明は,Ni-Cr合金層2におけるCr含有率は18重量%であるが,バリア層の溶出によるマイグレーションを抑制するものであるか否か不明である点。 (4) 本件発明6と引用発明の相違点前記相違点1ないし4で相違するほか,以下の点で相違する。 相違点5本件発明6は,半導体装置を備えた液晶モジュールであるのに対して,引用発明の半導体装置は,その用途が特定されていない点。 第3 取消事由に関する当事者の主張 1 原告の主張審決には,判断遺脱又は理由不備(取消事由1),本件発明1の容易想到性の判断の誤り(取消事由2),本件発明2ないし6の容易想到性の判断の誤り(取消事由3)があり,その結論に影響を及ぼすから,違法であるとして取り消されるべきである。 (1) 判断遺脱又は理由不備(取消事由1)原告は,本件審判手続において,本件発明における課題は新規なものであること,本件発明に係る半導体装置は本件発明の構成要件の全てを有機一体的に具備することによって課題を解決することができること,本件発明と引用発明とは,発明の課題,構成,効果のいずれも異なり,甲2文献及び甲3ないし13には本件発明の構成を採用する動機付けがないこと,本件発明の効果は予測できるものではないこと等を主張立証した。しかし,審決では,原告の主張に対する判断が示されていない。 審決には,判断遺脱又は理由不備の違法が存在する。 (2) 本件発明1の容易想到性の判断の誤り(取消事由2)以下のとおり,本件 証した。しかし,審決では,原告の主張に対する判断が示されていない。 審決には,判断遺脱又は理由不備の違法が存在する。 (2) 本件発明1の容易想到性の判断の誤り(取消事由2)以下のとおり,本件発明1と引用発明とは,発明の課題,構成,効果のいずれも異なり,さらに,甲2文献及び甲3ないし13には,引用発明から本件発明1の構成に至る動機付けが存在せず,また,本件発明1の効果は当業者が予測し得ないものである。したがって,本件発明1が容易想到であるとした審決の判断には誤りがある。 ア本件発明1の認定の誤り審決は,本件発明1の構成としての特許請求の範囲の記載を形式的に認定しただけであり,以下のような本件発明1の課題及び効果,本件発明1の技術的意義の認定判断を怠っている。 (ア) 本件発明は,従来のメタライジング法で形成された半導体キャリア用フィルムでは,端子間距離を小さくした場合又は端子間電圧を大きくした場合に,高温 高湿環境下で,端子間にマイグレーションが発生するという問題が生じ易かったことから,かかる問題を解決し,高温高湿環境下であっても,端子間の絶縁抵抗が劣化しにくい半導体装置を提供するものである。このマイグレーションは,エッチング条件の不良によるバリア層の残渣によるものではなく,バリア層の一部がバリア層の中に進入した水の中にイオンとして溶出し,さらに配線を構成する銅が析出して発生することにより生じるものである。 (イ) 原出願日当時,一般的に使用されていたクロム7重量%,ニッケル93重量%の組成比を持つニッケル-クロム合金のバリア層を有する半導体キャリア用フィルムは,40μmピッチで,ライン反転駆動方式のCOF用として使用することに何ら問題はなく,その構成を変更する必要性又は動機付けは存在しなかった。また,クロムは,耐 ア層を有する半導体キャリア用フィルムは,40μmピッチで,ライン反転駆動方式のCOF用として使用することに何ら問題はなく,その構成を変更する必要性又は動機付けは存在しなかった。また,クロムは,耐食性が比較的良い金属であることから,クロムの重量%が増加するとエッチングが難しくなるのは自明である。 このような状況において,原告は,上記問題の存在及びその原因を解明し,本件発明1に至ったのである。本件発明1では,半導体装置が本件発明1に係る構成要件の全てを有機一体的に具備することにより,バリア層の表面抵抗率・体積抵抗率が向上するため,バリア層を流れる電流が小さくなり,配線層を形成する銅の腐食を抑制することができ,また,バリア層の表面電位が標準電位に近くなるため,バリア層を形成している成分の水分中への溶出を抑制することができ,その結果,端子間のマイグレーションの発生をなくし,高温高湿環境下であっても,従来より端子間の絶縁抵抗が劣化しにくい半導体装置を提供することができる。 イ引用発明の認定の誤り(ア) 引用発明は,従来のプリント配線基盤においては,中間層としてクロム層が設けられていたため,クロム層及び銅層を1種類のエッチング溶液で連続的にエッチング処理することができず,エッチング処理が2工程となり,複雑かつ長時間となるため,クロム層へのエッチング処理時に銅層の側壁にオーバーエッチングが進行して配線パターンに欠陥部が生じて断線に至るという問題があったことから, この問題を解決するために,1種類のエッチング溶液で配線パターンを形成することができ,かつ,中間層としてクロム層を介在させた場合と同等の密着強度を有するプリント配線基板を提供することを課題としたものである。そして,引用発明では,支持基板と銅層との間に中間層としてNiが5at% でき,かつ,中間層としてクロム層を介在させた場合と同等の密着強度を有するプリント配線基板を提供することを課題としたものである。そして,引用発明では,支持基板と銅層との間に中間層としてNiが5at%~80at%のNi-Cr合金層を設けることによって,上記課題を解決したものである。 (イ) 審決の引用発明の認定には,以下のとおり誤りがある。 本件発明1の半導体素子は「突起電極を有する半導体素子」であり,ハンダ付けによって接続されるものではないので,甲2文献の「ハンダ付けを必要とする素子」は本件発明1の半導体素子には該当しない。また,甲2文献の実施例には「プリント配線基板の銅箔」について説明されており,「半導体キャリア用フィルムと,半導体素子とを備える半導体装置」を開示するものではない。また,引用発明は,単なるプリント配線基板に関するものであり,具体的にどのような目的,条件で使用するかについての特定はなく,半導体素子を実装させた半導体装置とは異なる。 なお,本件発明1の半導体装置はCOF(別称SOF)を用いたものであり,TAB(TCP)を用いた半導体装置とは異なるので,甲2文献に従来技術としてTABを用いた半導体装置が開示されていたとしても,本件発明1の「半導体キャリア用フィルムと,半導体素子とを備える半導体装置」を開示するものではない。 また,引用発明では,Ni-Cr合金層においてNiを5at%~80at%(クロム含有率を94~18重量%)とすることが開示されているのであり,Niの含有率を80at%(クロム含有率が18重量%)とすることに限定されていない。 (ウ) 甲2文献に開示されているのは,以下のプリント配線基板の発明である。 「厚さ50μmのポリイミドから成る支持基板1,支持基板1の上に形成された厚さ200Å(20nm)のNi れていない。 (ウ) 甲2文献に開示されているのは,以下のプリント配線基板の発明である。 「厚さ50μmのポリイミドから成る支持基板1,支持基板1の上に形成された厚さ200Å(20nm)のNi-Cr合金層2,該Ni-Cr合金層2上に形成された厚さ2000Åの銅層3及び厚さ20μmのメッキ銅層4を有するプリント配線基板であって, Ni-Cr合金層2及び銅層3,4をエッチング処理により所定の配線パターンに形成した配線が複数あり,配線はラインスペース20μmの配線パターンであり,Ni-Cr合金層2におけるNiが5at%~80at%(クロム含有率を94~18重量%)とすることにより,1000g/cmの高い密着強度を有し,かつ1種類のエッチング溶液で配線パターンを形成することを特徴とするプリント配線基板。」ウ相違点の認定の誤り甲2文献に記載された発明の内容が上記のとおりであるとすると,本件発明1と引用発明との相違点は,以下のとおりである。 (ア) 相違点A:本件発明1が,「半導体キャリア用フィルムと,前記配線層に接続された突起電極を有する半導体素子とを備える半導体装置」を対象とするのに対し,引用発明は単なる「プリント配線基板」を対象とする点。(強いて対比すれば,相違点Aの一部が審決の相違点2に対応する。)(イ) 相違点B:本件発明1の半導体キャリア用フィルムが「バリア層の上に形成された銅を含んだ導電物からなると共に表面にスズメッキが施された配線層」を有し,「前記バリア層と前記配線層とを所定パターンに形成した半導体素子接合用配線が複数あり,そのうちの少なくとも隣り合う二つの前記半導体素子接合用配線の間において,配線間距離及び出力により定まる電界強度が3105~2.7106V/mであり,前記半導体素子接合用配線 用配線が複数あり,そのうちの少なくとも隣り合う二つの前記半導体素子接合用配線の間において,配線間距離及び出力により定まる電界強度が3105~2.7106V/mであり,前記半導体素子接合用配線の配線間距離が50μm以下となる箇所を有する」のに対し,引用発明のプリント配線基板では,「該Ni-Cr合金層2上に形成された厚さ2000Åの銅層3及び厚さ20μmのメッキ銅層4」を有し,「Ni-Cr合金層2及び銅層3,4を所定の配線パターンに形成した配線が複数あり,配線はラインスペース20μmの配線パターンを有する」点。(強いて対比すれば審決の相違点1,3に対応する。)(ウ) 相違点C:本件発明1では,「前記バリア層におけるクロム含有率を15 ~50重量%とすることにより,前記バリア層の溶出によるマイグレーションを抑制する」のに対し,引用発明では,「Ni-Cr合金層2におけるNiが5at%~80at%(クロム含有率を94~18重量%)とすることにより,1000g/cmの高い密着強度を有し,かつ1種類のエッチング溶液で形成する」点において相違する。(強いて対比すれば審決の相違点4に対応する。)エ容易想到性の判断の誤り(ア) 相違点Aについて甲2文献並びに甲3及び4には,引用発明のプリント配線基板を「半導体キャリア用フィルムと,前記配線層に接続された突起電極を有する半導体素子とを備える半導体装置」として利用する積極的な動機付けは存在しない。 (イ) 相違点Bについて甲2文献には,配線パターンの表面にスズメッキを施すことの動機付けの記載はない。 また,引用発明には,電界強度が3×105~2.7×106V/mとなるような半導体素子を接続する動機付けは存在しない。甲3ないし5には電界強度は示されておらず,引用発明において の記載はない。 また,引用発明には,電界強度が3×105~2.7×106V/mとなるような半導体素子を接続する動機付けは存在しない。甲3ないし5には電界強度は示されておらず,引用発明において「複数の半導体素子接合用配線の少なくとも隣り合う二つの間において,配線間距離及び出力により定まる電界強度が3×105~2. 7×106V/mとすること」の動機付けとなる記載はない。むしろ,甲6ないし8及び11によると,マイグレーションが発生する虞のある大きな電界強度を採用することには阻害要因がある。 (ウ) 相違点C甲2文献には,マイグレーションを抑制することについての記載も示唆もなく,スズメッキを施すか否かにかかわらず,当業者は,引用発明及び周知技術から本件発明の「バリア層の溶出によるマイグレーションを抑制する」との構成を想到できない。 甲6ないし13には,引用発明において「前記バリア層におけるクロム含有率を 15~50重量%とすることにより,前記バリア層の溶出によるマイグレーションを抑制する」ことの動機付けとなる記載はない。 (エ) 以上のとおり,甲2文献及び甲3ないし13には,引用発明において相違点AないしCに係る構成を採用する動機付けは存在せず,本件発明1は,当業者が容易に想到できたものではない。さらに,本件発明1は,本件発明1の構成要件の全てを有機一体的に具備することにより発明の効果が得られるものであるから,本件発明の容易想到性の判断は,引用発明において相違点AないしCに係る構成の全てを一体として採用することが容易であるか否かについても判断する必要があるところ,甲2文献及び甲3ないし13には,引用発明において相違点AないしCに係る構成の全てを同時に採用することについての動機付けも存在せず,この点においても,本件発 否かについても判断する必要があるところ,甲2文献及び甲3ないし13には,引用発明において相違点AないしCに係る構成の全てを同時に採用することについての動機付けも存在せず,この点においても,本件発明1は,当業者が容易に想到できたものではない。 オ予測できない効果本件発明1は,半導体装置が本件発明1の構成要件全てを有機一体的に具備することにより,端子間のマイグレーションの発生をなくし,高温高湿環境下であっても,従来より端子間の絶縁抵抗が劣化しにくい半導体装置を提供するものである。 これに対し,引用発明は,支持基板と銅層との間に中間層をNiが5at%~80at%(クロム含有量を94~18重量%)のNi-Cr合金層とすることによって,1000g/cmの高い密着強度を有し,かつ1種類のエッチング溶液で配線パターンを形成することができるものである。 このように,本件発明1と引用発明とでは,その効果が異なる。また,引用発明は本件発明1の課題を認識しておらず,各相違点に係る構成を具備していないので,本件発明1の効果を予測することができない。よって,本件発明1は,引用発明に比べ,予測できない異質な効果を奏する。 カ以上のとおり,本件発明1は,甲2文献及び甲3ないし13に基づいて,当業者が容易に発明することができたものではない。 (3) 本件発明2ないし6の容易想到性の判断の誤り(取消事由3) 上記のとおり,本件発明1は,甲2文献及び甲3ないし13に基づいて,当業者が容易に発明することができたものではない。本件発明2ないし6は,本件発明1を直接または間接的に引用するものであるから,本件発明2ないし6も,甲2文献及び甲3ないし13に基づいて,当業者が容易に発明することができたものではなく,この点に関する審決の判断には,誤りがあ 明1を直接または間接的に引用するものであるから,本件発明2ないし6も,甲2文献及び甲3ないし13に基づいて,当業者が容易に発明することができたものではなく,この点に関する審決の判断には,誤りがある。 2 被告の反論(1) 判断遺脱又は理由不備(取消事由1)に対して審決は,本件発明の課題が隣り合う端子間のバリア層の溶出によるマイグレーションを抑制することであると,相違点4として認定した上で,容易想到性の判断をしている。また,審決は,「端子間距離を小さくした場合」「端子間電圧を大きくした場合」「高温高湿環境下」についても,認定した上で,判断している。 本件発明の課題は新規なものではなく,審決はそのことも認定判断している。 審決は,原告の主張に対する必要な判断を尽くしており,審決に,原告主張のような判断遺脱や理由不備はない。 (2) 本件発明1の容易想到性の判断の誤り(取消事由2)に対してア本件発明1の認定の誤りに対して審決は,本件発明1の解決課題を「バリアー層の溶出によるマイグレーションを抑制する」ことであると正確に把握した上で判断をしており,本件発明1の認定に誤りはない。 原告は,本件発明1は,半導体装置が本件発明1の構成要件全てを有機一体的に具備することにより,特定の課題を解決することができるものであると主張するが,審決は,本件発明1の全ての構成要件を理解・把握した上で,特定の端子間距離及び電界強度の条件下でクロム含有率を18重量%とすることにより,バリア層の溶出によるマイグレーションが抑制されることについて,認定判断している。 イ引用発明の認定の誤りに対して甲2文献には,半導体キャリア用フィルムと,配線層に接続された半導体素子と を備える半導体装置が記載されている。また,審決は,引用発明に 判断している。 イ引用発明の認定の誤りに対して甲2文献には,半導体キャリア用フィルムと,配線層に接続された半導体素子と を備える半導体装置が記載されている。また,審決は,引用発明について,半導体素子が「突起電極」を有するとしたのではなく,「突起電極」については相違点2としている。さらに,甲2文献には,プリント配線基板の使用目的について,プリント配線基板の配線パターンを素子(半導体素子)に接続するとの事項が記載されている。なお,本件特許に係る明細書(以下,図面も含めて「本件明細書」という。)の実施例には,半導体素子を実装していない半導体キャリア用フィルムも記載されており,その電界強度値に基づいて本件発明1の電界強度範囲が定められている。したがって,半導体装置とプリント配線基板とは異なるものであるとの原告の主張は失当である。 ウ相違点の認定の誤りに対して審決の本件発明1,引用発明の認定に誤りはなく,相違点の認定にも誤りはない。 エ容易想到性の判断の誤りに対して(ア) 相違点1についてスズメッキは周知な技術であり,引用発明において銅層の表面にスズメッキを施すことは,当業者が容易になし得ることである。 (イ) 相違点2について突起電極は周知な技術であり,相違点2に係る構成は,引用発明に単に周知技術を適用したにすぎず,容易に想到し得る。 (ウ) 相違点3について甲2文献には,配線の端子間距離が20μmの配線パターンを備える半導体装置が記載されており,これを液晶ドライバに用いた場合には,その駆動電圧を甲4に示された通常の電圧値である12~15Vに設定することは通常行われることである。 甲3ないし5に示された周知又は標準的な印加電圧値及び配線間距離から計算した電界強度は,いずれも本件発明1の電 に示された通常の電圧値である12~15Vに設定することは通常行われることである。 甲3ないし5に示された周知又は標準的な印加電圧値及び配線間距離から計算した電界強度は,いずれも本件発明1の電界強度の範囲内である。また,甲6に記載された加速試験における電界強度は1×106V/m,6×105V/m,4×1 05V/mとなり,いずれも本件発明1の電界強度の範囲内であり,甲6には,本件発明1と同様な構成において,本件発明1で特定された電界強度の場合に,バリア層の溶出によるマイグレーションの発生を抑制するという課題が明示されている。 以上のとおり,本件発明1で特定された電界強度の数値範囲は周知又は標準的な範囲であり,当業者は容易想到である。 (エ) 相違点4本件発明の構成は,引用発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものであり,Cr含有量を18重量%とした引用発明の構成から,相違点4に係るマイグレーション抑制の効果は自ずから生じる。したがって,マイグレーション抑制効果は引用発明の構成中に必然的に内在しており,相違点4は実質的な相違点ではない。 Ni-Cr合金層におけるマイグレーション抑制の課題は,周知の技術課題であり,原出願日当時,当業者において,引用発明におけるNi-Cr合金層について,マイグレーションを抑制する課題は認識されていた。さらに,バリア層の溶出成分がNiであることも周知であり,マイグレーションの発生を抑制するために,バリア層としてクロムの含有量を高めた抵抗値の高いNi-Cr層材料を選択する技術事項も周知であった。そして,マイグレーション抑制のためにバリア層におけるクロム含有量を15~50重量%とすることは,当業者が容易に選択できる事項である。 したがって,相違点4に係る構成を採用することは,当業者が容易に想到 マイグレーション抑制のためにバリア層におけるクロム含有量を15~50重量%とすることは,当業者が容易に選択できる事項である。 したがって,相違点4に係る構成を採用することは,当業者が容易に想到できる技術的事項である。 オ予測できない効果に対して引用発明に基づいて,本件発明1の構成を採用することは容易であり,その構成を備えれば本件発明1の効果は得られるのであるから,本件発明1の効果は,容易に予測できる。 (3) 本件発明2ないし6の容易想到性の判断の誤り(取消事由3)に対して本件発明2ないし6は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明 することができたものである。 第4 当裁判所の判断当裁判所は,原告の取消事由2のうち,「予測できない効果」に係る主張は,理由があるものと判断する。 その理由は,以下のとおりである。 1 認定事実(1) 本件明細書の記載本件明細書には以下の記載がある(甲1)。なお,本件明細書の図3,図4,図7及び図9は別紙図3,同図4,同図7及び同図9のとおりである。 「【発明の詳細な説明】【技術分野】【0001】本発明は,例えば液晶表示装置を駆動させる半導体チップや受動部品などを搭載するための半導体キャリア用フィルムを用いた半導体装置に関するものである。 【背景技術】【0002】近年,液晶ドライバを搭載するキャリアテープは多機能及び高性能化が進む液晶ドライバの多出力に伴い,ファインピッチ化が急速に進んでいる。現在,キャリアテープとしては,液晶ドライバを実装するTCP(TapeCarrierPackage)よりファインピッチ化が可能な半導体キャリア用フィルムであるCOF(ChipOnFilm)が主流を占めつつある。 【0003】このCOFを用 るTCP(TapeCarrierPackage)よりファインピッチ化が可能な半導体キャリア用フィルムであるCOF(ChipOnFilm)が主流を占めつつある。 【0003】このCOFを用いた半導体装置の一般的な組立方法(製造方法)は次の通りである。ポリイミドからなるベースフィルム上に銅からなる配線をエッチングにてパターニングし,その配線の上にスズメッキを施すことによって形成された半導体キャリア用フィルムに,突起電極を形成した半導体チップを熱圧着により接合する。」「【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】【0006】しかしながら,上述のような従来のメタライジング法で形成された半導体キャリア用フィルムでは,電位差の生じる配線(端子)間の距離を小さくした場合や,高出力によって端子間に生じる電位差が大きくなった場合に,高温高湿環境下で電位差の生じた隣り合う端子間にマイグレーションが発生して,該端子間の絶縁抵抗が劣化しやすかった。特に,配線に金メッキを施している場合には,メッキ液としてシアン系の溶剤を使用しているため,微量に残る該溶剤のため,より顕著にマイグレーションが発生していた。これにより,更なるファインピッチ化や高出力化を図ることができないという問題があった。 【0007】ここで,マイグレーションの発生の機構(メカニズム)について検討したところ,以下のような知見を得たので,図9を用いて説明する。 【0008】図9は,従来例の半導体キャリア用フィルムの断面図である。ポリイミドからなるベースフィルム110の上にバリア層102および銅の配線層103a,103bが形成されている。バリア層102および配線層103a,103bの表面には,スズメッキ104が形成され,さらに,その上層には金メッキ105が形成されている 層102および銅の配線層103a,103bが形成されている。バリア層102および配線層103a,103bの表面には,スズメッキ104が形成され,さらに,その上層には金メッキ105が形成されている。ここで,バリア層102は,クロム含有率が7重量%であり,ニッケル含有率が93重量%であるニッケル-クロム合金からなり,その厚みは7nmである。また,配線層103aと配線層103bとの間には電位差が生じており,配線層103aは正電位,配線層103bは負電位もしくはGND電位を帯びている。 【0009】このような従来の半導体キャリア用フィルムが高温高湿のような環境下におかれると,水分106が半導体キャリア用フィルム上に付着する。水分106は塩素等の不純物を含んでおり,正電位を帯びた配線層103a側のバリア層102に存在するポーラス部分から該水分106が浸入する。これによりバリア層102の一部が水分中にイオンとして溶出し,負電位もしくはGND電位を帯びている配線層103bに向けて移動する。該バリア層溶出部分107を通じて配線と なる銅が腐食し,腐食部109が発生する。さらに,配線層103aを形成している銅も,負電位もしくはGND電位を帯びた配線層103bに向けて溶出する。特に,金メッキ105が施されるときに,通常シアン系の溶剤が使用されるが,洗浄しきれずに残存している該シアン系の溶剤により銅の腐食や,配線層103aの成分である銅およびバリア層102の成分の溶出が発生しやすくなっている。このようにして,上記銅溶出部分108やバリア層溶出部分107によって,マイグレーションが発生し,端子間の絶縁抵抗が劣化する。 【0010】本発明は,上記の問題点に鑑みてなされたものであり,その目的は,ファインピッチ化や高出力化に適用できるように,高温高湿環 よって,マイグレーションが発生し,端子間の絶縁抵抗が劣化する。 【0010】本発明は,上記の問題点に鑑みてなされたものであり,その目的は,ファインピッチ化や高出力化に適用できるように,高温高湿環境下であっても,従来よりも端子間の絶縁抵抗が劣化しにくい半導体装置,液晶モジュールを提供することにある。」「【発明の効果】【0024】本発明の半導体キャリア用フィルムは,以上のように,絶縁性を有するベースフィルムと,ベースフィルムの上に形成されたクロム合金からなるバリア層と,バリア層の上に形成された銅を含んだ導電物からなる配線層とを有する半導体キャリア用フィルムであって,前記バリア層におけるクロム含有率が15~50重量%である構成である。 【0025】それゆえ,バリア層の表面抵抗率・体積抵抗率が向上するため,バリア層を流れる電流が小さくなり,配線層を形成する銅の腐食を抑制することができる。また,バリア層の表面電位が標準電位に近くなるため,バリア層を形成している成分の水分中への溶出を抑制することができる。これにより,端子間のマイグレーションの発生がなくなる。 【0026】以上により,ファインピッチ化や高出力化に適用でき,高温高湿環境下であっても,従来よりも端子間の絶縁抵抗が劣化しにくい半導体装置を提供することができるといった効果を奏する。」「【0037】ここで,本実施の形態に特徴的な部分は,バリア層2を形成して いるニッケル-クロム合金のクロム含有率を従来の7重量%から15~50重量%に増加させたことである。これにより,従来のクロム含有率が7重量%であるバリア層と比較して,バリア層2の表面抵抗率および体積抵抗率を増大させ,半導体キャリア用フィルム1における配線(端子)間のマイグレーションの発生を抑制し,端子間の絶縁劣化を防 含有率が7重量%であるバリア層と比較して,バリア層2の表面抵抗率および体積抵抗率を増大させ,半導体キャリア用フィルム1における配線(端子)間のマイグレーションの発生を抑制し,端子間の絶縁劣化を防止している。 【0038】図3は,異なるクロム含有率におけるニッケル-クロム合金で形成されたバリア層の表面抵抗率および体積抵抗率を示したグラフである。なお,図3で示しているバリア層の厚みは30nm(300Å)である。図3で示されるように,バリア層の表面抵抗率および体積抵抗率は,クロム含有率が30重量%において極大値を示す。ここで,クロム含有率は15~55重量%が望ましい。これにより,表面抵抗率が30Ω/□以上となり,従来の7重量%のときに比べ,1.3倍以上となる。このように,表面抵抗率および体積抵抗率が増大すると,バリア層2に流れる電流が小さくなるので,配線層3の銅と侵入した水分中の不純物との化学反応が抑制される。これにより,銅の腐食や銅イオンの溶出を抑制することができるため,マイグレーションの発生を抑制することができる。」「【0040】また,図4は,異なるクロム含有率を有する各バリア層におけるシアン水溶液中での表面電位を示したグラフである。なお,縦軸は飽和カロメル電極(SCE)の電極電位を0Vとしたときの電位である。図4で示されるように,クロム含有率が従来の7重量%のときは約-0.4V vs.SCEであるが,クロム含有率を増やすことで約-0.2V vs.SCE付近に近づく。標準水素電極の電極電位は,約-0.2V vs.SCEであるため,クロム含有率を増やすことで,バリア層の表面電位を標準水素電極の電位とほぼ同じにすることができる。これにより,水分中へのバリア層の金属イオンの溶出量を抑制することができ,つまりは,マイグレーションの発生をよ 率を増やすことで,バリア層の表面電位を標準水素電極の電位とほぼ同じにすることができる。これにより,水分中へのバリア層の金属イオンの溶出量を抑制することができ,つまりは,マイグレーションの発生をより一層抑制することができる。図4で示したように,クロム含有率の増大による表面電位の絶対値の低下はシアン水溶液で確認されており,上記クロム含有率が15~55重量%のバリア層を有する半導体キャリアフィルム は,通常のシアン系溶剤を用いた金メッキを配線に施す場合にも適していることがわかる。」「【0048】〔実施例1~11および比較例1~2〕厚み38μmのポリイミドのベースフィルム(住友金属鉱山製,品名:エスパーフレックス)上に,下表1に示すクロム含有率および厚みを有するニッケル-クロム合金を主成分とするバリア層をスパッタ法により形成した。なお,表1には,後述する他の実施例および比較例についても合わせて記載している。」「【0050】次に,該バリア層の上に銅からなる配線層を厚み8μmになるように電解銅メッキにより形成した。次に,100μmの端子間ピッチ(配線幅50μm,配線間距離50μm)を有する配線パターンになるように,フォトレジストを用いて,銅の配線層の上に塗布して乾燥・硬化させた。次に,ガラスフォトマスクで露光を行った後,現像した。さらに,銅の配線層およびバリア層の不要部分のエッチング除去を行った。バリア層および配線層の表面には,スズメッキ0.2μmおよび金メッキ0.2μmを施し,該半導体キャリア用フィルムの配線パターンの上に,半導体チップをILB方式により接合させた信頼性評価用の半導体装置を作製した。 【0051】この半導体装置を,85℃,85%RHの環境条件に設定された恒温恒湿槽(ETAC製,品名FH13)の中に置き,隣り ップをILB方式により接合させた信頼性評価用の半導体装置を作製した。 【0051】この半導体装置を,85℃,85%RHの環境条件に設定された恒温恒湿槽(ETAC製,品名FH13)の中に置き,隣り合う配線(端子)間に15Vの直流電圧を印加させ,所定時間経過後におけるマイグレーションの発生の有無を確認した。なお,マイグレーションの発生の有無は,顕微鏡による評価である。」「【0055】表2より,クロム含有率が15~50重量%の実施例1~4では,100h経過後においてもマイグレーションの発生が無く,クロム含有率が7重量%および10重量%の比較例1,2に比べて信頼性が向上していることがわかる。 これは,上述したように,バリア層の表面抵抗率が比較例1に比べて1.3倍以上になったことと関係している。さらに,クロム含有率が20~30重量%の実施例 2および実施例3では,500h経過後においてもマイグレーションの発生が無く,より一層端子間の絶縁抵抗の劣化を抑制できることがわかる。 【0056】また,表3より,クロム含有率20重量%の実施例2および実施例5~10において,バリア層の厚みに関係せず,マイグレーションの発生が見られなかった。なお,バリア層の厚みが50nmの実施例11では,後述するように,層の厚みが厚すぎたために,配線パターニングにおいて,エッチング除去すべきバリア層および配線層が除去しきれずに残存していたためマイグレーション評価ができなかった。」「【0059】このように,比較例1では,240h経過後において,すでにマイグレーションの発生確率が20%であるが,実施例2では,1000h経過後においても,マイグレーションの発生確率が0%であることがわかる。」「【0064】〔実施例12,13および比較例3,4〕実施例1~11と 生確率が20%であるが,実施例2では,1000h経過後においても,マイグレーションの発生確率が0%であることがわかる。」「【0064】〔実施例12,13および比較例3,4〕実施例1~11と同様の方法で,ベースフィルム上に,上表1に示すクロム含有率および厚みを有するニッケル-クロム合金からなるバリア層を形成した後,該バリア層の上に銅からなる配線層を形成した。次に,40μmの端子間ピッチ(配線幅20μm,配線間距離20μm)を有する櫛型配線パターンになるように,実施例2と同様の方法で,エッチング処理を施し,半導体キャリア用フィルムである実施例12,13および比較例3,4を作製した。なお,櫛型部にはその一部のみを露出させた状態でソルダーレジストを塗布した。 【0065】該半導体キャリアフィルムを,まず常温常湿(20℃,25%RH)において端子間に40Vの直流電圧を印加し,端子間のリーク電流値を電流計により測定した。次に,各サンプルを85℃の恒温槽(ETAC製,品名KEYLESS)の中に置き,かつ,隣り合う端子間に40Vの電圧を印加させた状態で約1h保持した後,湿度を常湿(25%RH)から段階的に上げて,端子間に流れるリーク電流値を測定した。 【0066】測定結果を図7に示す。図7において,横軸は測定時における温度, 湿度の環境条件であり,縦軸は端子間に流れるリーク電流値である。図7に示されるように,クロム含有率7重量%の比較例3および100重量%の比較例4では,湿度60%RHを超えると,リーク電流値が上昇している。これに対し,クロム含有率が20重量%である実施例12,13では,湿度が95%RHまで上昇してもリーク電流値に変化はなく,湿度上昇による端子間の絶縁抵抗の劣化はみられなかった。これは,上述したように,バリア層の表面 含有率が20重量%である実施例12,13では,湿度が95%RHまで上昇してもリーク電流値に変化はなく,湿度上昇による端子間の絶縁抵抗の劣化はみられなかった。これは,上述したように,バリア層の表面抵抗率が比較例よりも高いためである。 【0067】〔実施例14および比較例5,6〕実施例12と同様の方法で,上表1に示したクロム含有率およびバリア層の厚みを有し,櫛型電極配線パターンの端子間ピッチが30μm(配線幅15μm,配線間距離15μm)になるように,半導体キャリア用フィルムである実施例14および比較例5,6を各々3個づつ作製した。該半導体キャリア用フィルムを85℃,85%RHに設定された恒温恒湿槽の中に置き,端子間に40Vの直流電圧を印加させた状態で,100h,240h,500h,1000h経過後における配線銅の腐食発生の有無を顕微鏡によりベースフィルムの裏面側より確認した。測定結果を下表5に示す。なお,表5において,分母はサンプル全数を表しており,分子は腐食の発生が確認されたサンプル数を表している。」「【0069】上表5に示されるように,クロム含有率が7重量%の比較例5および100重量%の比較例6においては,100h経過後で全サンプルに腐食が確認されたが,クロム含有率20重量%の実施例14では1000h経過後においても全サンプルで腐食が見られなかった。」(2) 甲2文献の記載甲2文献は,発明の名称を「プリント配線基板用の銅箔」とする発明に係る公開特許公報であり,以下の記載がある(甲2)。 「【特許請求の範囲】【請求項1】プリント配線基板用の銅箔において,支持基板と銅層との間に中間 層としてNiが5at%~80at%のNi-Cr合金層を設けたことを特徴とするプリント配線基板用の銅箔。 【発明の詳細な説明 】プリント配線基板用の銅箔において,支持基板と銅層との間に中間 層としてNiが5at%~80at%のNi-Cr合金層を設けたことを特徴とするプリント配線基板用の銅箔。 【発明の詳細な説明】【0001】【産業上の利用分野】本発明は,プリント配線基板用の銅箔に関し,更に詳しくは,配線パターンを形成するためのエッチング処理を容易に行うことが出来,支持基板に対して優れた密着性を有するプリント配線基板用の銅箔に関する。 【0002】【従来の技術】従来,プリント配線用の銅箔を被覆するための支持基板としては,テープ自動ボンデイング(TAB)用,フレキシブルプリント配線板(FPC)用には,配線パターンと素子をハンダ付けを必要とする場合は耐熱性の要求性からポリイミド,ポリアミド等の耐熱性の高分子フィルムが,またハンダ付けを必要としない場合はポリエチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート等の高分子フィルムが知られており,また,リジット配線用にはアルミナ(Al2O3),ガラスエポキシ等のセラミックが知られている。」「【0005】また,高分子フィルム,セラミック等の支持基板と,その表面に被覆せる銅層との密着性は,その界面に酸化銅(CuO,Cu2O)等の脆弱層が発生するために非常に弱く,プリント配線基板に要求される銅層との密着強度1000g/cmを維持するために通常,支持基板と銅層との間に中間層としてクロム層を設けていた。」「【0011】【発明が解決しようとする課題】前記構成の支持基板a上に被覆された銅層c,d(銅箔)およびクロム層bに配線パターンを形成するために,レジスト材の塗布,パターン露光,エッチング処理,洗浄処理を行うが,銅層c,dは塩化第2鉄系のエッチング溶液で容易に配線パターンを形成することが出来る。 【001 bに配線パターンを形成するために,レジスト材の塗布,パターン露光,エッチング処理,洗浄処理を行うが,銅層c,dは塩化第2鉄系のエッチング溶液で容易に配線パターンを形成することが出来る。 【0012】しかしながら,クロムは耐食性に優れているから銅層と同じエッチ ング溶液ではパターンを形成することが出来ず,塩化第2鉄と塩酸との混合液で行うようにしているので,1種類のエッチング溶液で銅箔とクロム層のエッチング処理を連続的に行えず,従って,エッチング処理が2工程となり,しかもクロム層へのエッチング処理は短時間で行わなければならないから,エッチング処理は複雑となるばかりではなく,全体のエッチング処理が長時間となるため,クロム層bへのエッチング処理時に既にエッチングされている銅層c,dの側壁にオーバーエッチングが進行して配線パターンに欠陥部が生じて断線に至るという問題がある。 【0013】また,支持基板と銅層との密着性を確保するために中間層としてクロム層を介在させる必要不可欠なことから,製品の歩留まりの低下と,コストアップの原因となっていた。 【0014】本発明はかかる問題点を解消し,1種類のエッチング溶液で配線パターンを形成することが出来,中間層としてクロム層を介在させた場合と同等の密着強度を有するプリント配線基板用の銅箔を提供することを目的とする。 【0015】【課題を解決するための手段】本発明らは前記目的を達成すべく鋭意検討した結果,支持基板と銅層との中間層としてクロム層の代わりにクロムにニッケルを添加したNi-Cr合金層を用いることにより,1種類のエッチング溶液で銅層とNi-Cr合金層を連続してエッチング処理することが出来,従来のクロム層を中間層とした場合と同等の密着性を有することを知見した。」「【0022】本発明の銅箔 により,1種類のエッチング溶液で銅層とNi-Cr合金層を連続してエッチング処理することが出来,従来のクロム層を中間層とした場合と同等の密着性を有することを知見した。」「【0022】本発明の銅箔構成において,Ni-Cr合金層2と支持基板1の界面に形成されるNi-Cr-Ox の酸化物は酸化クロム(Cr2O3,CrO2)と同様に緻密で密着性が高く,これによりNi-Cr合金層2と,その上に形成された銅層3,4との界面は金属-金属の強い結合となる。よって,中間層としてNi-Cr合金層2が形成された銅層3,4は支持基板1との密着強度が1000g/cmの高い値となる。」「【0025】実験例」 「【0030】そして,各基板用銅箔の支持基板1と銅層3,4との密着強度(g/cm)を180°反転剥離法(JPCA-FC01-4.4に準拠)により測定し,その測定結果を図2に示す。 【0031】また,配線パターンが形成された各基板用銅箔の断面形状を走査電子顕微鏡(SEM)で観察し,その模式を図3に示した。尚,図3にはNi-Cr合金層中のNi含有量が0at%,4at%,5at%並びに80at%の場合のみを示した。 【0032】図2から明らかなように,Ni-Cr合金層中のNiが1at%~80at%の範囲で,Niを全く含まないクロム層のみの場合と同等の密着強度が得られることが確認された。また,図3から明らかなように,Ni-Cr合金層中のNiが4at%の場合,Niを全く含まないクロム層の場合は,エッチング処理時に中間層であるクロム層またはNiが4at%のNi-Cr合金層がエッチングされることなくそのまま残渣として残存するが,Niが5at%,80at%のNi-Cr合金層はエッチング時に,その上に形成されている銅層と一緒に除去されて配線パターンが確実に -Cr合金層がエッチングされることなくそのまま残渣として残存するが,Niが5at%,80at%のNi-Cr合金層はエッチング時に,その上に形成されている銅層と一緒に除去されて配線パターンが確実に形成出来ることが確認された。」「【0034】【発明の効果】本発明のプリント配線基板用の銅箔によるときは,支持基板と銅層との間にNiが5at%~80at%のNi-Cr合金層の中間層を設けるようにしたので,支持基板と銅層との密着強度は1000g/cmと高く,また,1種類のエッチング溶液でラインスペース20μm程度の微細パターンの形成が出来るため,プリント配線基板用の銅箔に配線パターンを形成する際,工程の簡略化,製品の歩留まりアップ,コスト削減に寄与することが出来る等の効果がある。」 2 本件発明1の容易想到性の判断の誤り(取消事由2)について(1) 相違点4に係る構成の技術的意義本件発明1は,高温高湿環境下であっても,マイグレーションの発生を抑制して,端子間の絶縁抵抗を劣化しにくくすることにより,ファインピッチ化や高出力化に 適用できる半導体装置を提供することを課題とし,その課題解決手段として,ニッケル-クロム合金からなるバリア層におけるクロム含有率を15~50重量%とすることとしたものであり,これによって,バリア層の表面抵抗率・体積抵抗率が向上して,バリア層を流れる電流が小さくなり,配線層を形成する銅の腐食を抑制することができ,また,バリア層の表面電位が標準電位に近くなり,バリア層を形成している成分の水分中への溶出を抑制することができ,マイグレーションの発生を抑制するとの効果を奏する。 これに対し,引用発明は,1種類のエッチング溶液で配線パターンを形成することができ,さらに,中間層としてクロム層を介在させた場合と同等の でき,マイグレーションの発生を抑制するとの効果を奏する。 これに対し,引用発明は,1種類のエッチング溶液で配線パターンを形成することができ,さらに,中間層としてクロム層を介在させた場合と同等の密着強度を有するプリント配線基板用の銅層(銅箔)を提供することを課題とし,その課題解決手段として,支持基板と銅層との中間層にクロム層の代わりにCrを一定割合含有するNi-Cr合金層を用いた発明である。また,甲2文献には,マイグレーションの発生の抑制に関する事項については,記載及び示唆はない。 (2) 原出願日前に頒布された各刊行物の記載そこで,原出願日前に頒布された各刊行物の記載等について検討する。 ア平成15年に開催された,「モバイル用液晶モジュールにおけるCOF実装技術のファインピッチ/高信頼性化」に関するセミナーのテキスト(甲3)上記文献には,①COFテープの開発課題として高信頼性化対応があり,高信頼性化対応とは耐マイグレーション性を含むこと(スライド5),②基板・パッケージの長期絶縁信頼性における主な劣化要因のうち,環境条件として電界(バイアス電圧)があり,その主な作用がイオン(銅)マイグレーションであること(スライド20),③COF用2層テープの絶縁信頼性試験が,「評価パターン:櫛形電極,L/S=25/25μm,Snめっき厚:0.5μm,ソルダーレジスト:ポリイミド系,試験条件:85℃/85%RH,DC55V印加」の条件の下で行われたこと(スライド21),が記載されている。 上記文献には,モバイル用液晶モジュールにおけるCOFにおいて,絶縁信頼性 を維持する上でマイグレーションが問題となることは記載されているが,その機序や発生抑制方法等に関しては記載も示唆もない。 イ平成15年に発行された雑誌に掲載された「プリ いて,絶縁信頼性 を維持する上でマイグレーションが問題となることは記載されているが,その機序や発生抑制方法等に関しては記載も示唆もない。 イ平成15年に発行された雑誌に掲載された「プリント配線板の耐イオンマイグレーション性に関する研究」と題する論文(甲6)上記文献には,①隣接配線間においてイオン化した金属が絶縁間隙を移行・析出するイオンマイグレーション(IM)現象による絶縁劣化が,電子機器の信頼性低下を招いていること,②イオンマイグレーションの発生原理は電気化学反応に基づく電極金属のイオン化であり,具体的には,電解質(多くの場合は水)を介した二つの電極間に直流電圧が印加されると,陽極から電極の金属イオンが溶出し,電界の作用により,電解質中を陰極に向かって移行し,その間に,酸化・還元反応を繰り返しながら金属として析出すること,③ポリイミドフィルムにNi-Cr接着層を約7nm付着させ,銅メッキを施し,配線パターンを形成し,エッチング処理により電極幅/電極間隙(L/S)が20/20,30/30,50/50(μm/μm)の3水準の櫛形電極を作成し,イオンマイグレーション抑制手法として吸湿防止のためのエポキシ係樹脂を電極にコーティングして,温度85℃,湿度85%RH,印加電圧を加速のため20Vとして,定常試験法により評価試験を実施したところ,1000時間後においても107Ωを下回る絶縁抵抗低下は確認されなかったが,表面観察により全ての試験片で析出物が確認されたこと,さらに,この試験により,狭ピッチ配線では,イオンマイグレーションによる析出物の成長速度が急激に加速されることや,Ni-Cr層からNiも溶出したことが判明したこと,が記載されている。 上記文献には,イオンマイグレーションの発生メカニズムについて説明されており,イオン 物の成長速度が急激に加速されることや,Ni-Cr層からNiも溶出したことが判明したこと,が記載されている。 上記文献には,イオンマイグレーションの発生メカニズムについて説明されており,イオンマイグレーション現象による絶縁劣化が電子機器の信頼性低下を招いていることや,狭ピッチ配線ではイオンマイグレーションによる析出物の成長速度が急激に加速されること,イオンマイグレーション抑制手法として吸湿防止のために樹脂コーティングを行うことは記載されているが,Ni-Cr接着層(バリア層) におけるクロム含有率を調整することによってマイグレーションの発生を抑制することができることについては記載も示唆もない。 ウ平成15年発行の雑誌に掲載された「TAB材料の現状と今後」と題する論文(甲7)上記文献には,スパッタ材では銅の下のニッケルやクロムのシード層を完全に除去できないことがあり,特にファインピッチになるとその部分は残りやすく,マイグレーションの原因となることが記載されているが,高温高湿下において電位差の生じた隣り合う端子間に発生するマイグレーションに関しては,記載も示唆もない。 エ平成12年発行の「腐食・防食ハンドブック」(甲8)上記文献の「第6章電子機器」には,「6.1.1電子材料の腐食メカニズム電子材料の腐食は,水溶液中での腐食と同様に水と酸素の存在下で電気化学的に生じる。空気中の水分が材料表面で結露し,表面に薄い水膜を形成し,空気中の酸素やSO2,H2Sなどの微量の腐食性ガス成分,さらには表面に付着した塩微粒子がこの水膜中に溶け込み腐食環境を構成する。」「銅,銀などではアノードで溶出した金属イオンがカソードに移行,還元,再析出し,デンドライト成長が起こる。 これがメタルマイグレーションで,短絡・絶縁不良を起こす。」「6.1 込み腐食環境を構成する。」「銅,銀などではアノードで溶出した金属イオンがカソードに移行,還元,再析出し,デンドライト成長が起こる。 これがメタルマイグレーションで,短絡・絶縁不良を起こす。」「6.1.3電子部品の腐食防止技術前述したように,電子材料の腐食は水分,塵埃,腐食性ガスが共存する環境下で進行する。したがって雰囲気からの水分や腐食性ガスの除去,および塵埃や水分の電子部品内への浸入を遮断することが有効である。さらに耐食材料を使用することにより腐食損傷を低減することが期待できる。 a.材料制御による腐食防止・・・電子材料はそれ自身きわめて微細化しており腐食許容量も非常に小さい。したがって合金化や組織制御などでは大幅な信頼性の向上は期待できないことがわかる。」との記載,さらに,環境制御と構造制御による腐食防止技術についての記載がある。 上記のとおり,上記文献には,マイグレーションの発生メカニズム及びその防止技術について記載されているが,マイグレーション一般について記載されたもので あって,半導体キャリア用フィルムにおいて生じるマイグレーションについての記載はない。また,上記文献には,ニッケル-クロム合金からなるバリア層におけるクロム含有率を調整することによってマイグレーションの発生を抑制することができることについては記載も示唆もない。 オ発明の名称を「マイグレーション防止方法」とする発明に係る特開平7-283525号公報(甲11)上記文献には,電子回路基板上のハンダ表面に,絶縁体で水に難溶な不動態皮膜を形成することにより,マイグレーションの発生を防止することが記載されているが,ニッケル-クロム合金からなるバリア層におけるクロム含有率を調整することによってマイグレーションの発生を抑制することができることについては記載も イグレーションの発生を防止することが記載されているが,ニッケル-クロム合金からなるバリア層におけるクロム含有率を調整することによってマイグレーションの発生を抑制することができることについては記載も示唆もない。 カ昭和48年発行の「ステンレス鋼便覧」(甲12)上記文献の「3.耐食性」の項には,「環境の酸化性が高くなれば金属の腐食は起こりやすくなることが一般である。」「不動態になりやすい金属としては,Fe,Ni,Crおよびその合金のほかMo,Ti,Zrなどがある。」「(Feに添加する)Cr%が増すとともに・・・不動態は起こりやすくなっていて,酸化性のさほど強くない環境中でも不動態化することがわかる。」「中性からpH=0くらいまでの多くの環境中ではCr12~14%以上で自己不動態化するようになる。」「FeやNiと比べてCrは不動態化電位ははるかに低く,山も低いのであるから弱い酸化力でも容易に不動態化するうえに,不動態になってからの保持電流もFeやNiの数百分の一で,きわめて安定な不動態を生ずる。FeにCrを13%以上添加した合金は純Crほどではないが,Feに比べて不動態化電位ははるかに低く,また保持電流も小さくなること,またCrを18%に増せばさらにその程度が大きくなることはすでに述べた・・・。」との記載がある。 上記文献には,一般的にCrが腐食性に優れていることや,FeにCrを添加した場合の不動態化のことは記載されているが,半導体キャリア用フィルムにおいて, ニッケル-クロム合金からなるバリア層におけるクロム含有率を調整することによってマイグレーションの発生を抑制することができることについては記載も示唆もない。 キ昭和41年発行の「非鉄材料の選定と加工」と題する書籍(甲13)上記文献には,Ni-Cr合金はCrの含有 よってマイグレーションの発生を抑制することができることについては記載も示唆もない。 キ昭和41年発行の「非鉄材料の選定と加工」と題する書籍(甲13)上記文献には,Ni-Cr合金はCrの含有量が15~50%のときに比抵抗が大きいことを示すグラフが記載されている。しかし,上記文献には,半導体キャリア用フィルムにおけるマイグレーションの発生防止方法に関する記載はなく,ニッケル-クロム合金からなるバリア層におけるクロム含有率を15~50重量%とすることにより,マイグレーションの発生を抑制することができることについては記載も示唆もない。 ク平成11年発行の「金属の百科事典」(甲9)には,ニッケル-クロム合金に関する項に,「NiにCrを添加していくと,①電気抵抗が急増するがその温度変化は小さい,②耐酸化性・耐食性が向上する,③純Niに対する熱起電力が急増する,などの変化が起こる。」との記載がある。 また,平成13年発行の「岩波理化学辞典第5版」(甲10)の耐食合金の項には,耐食合金として,ニッケル合金ではニクロムがあることが,ニクロムの項には,高温でも酸化されにくく,耐食性に富んでいることが記載されている。 平成8年(1996年)発行の「イオンマイグレーションの試験方法ノウハウ集」(甲14)にはイオンマイグレーションの試験方法について記載されている。 上記各文献には,半導体キャリア用フィルムにおけるマイグレーションの発生防止方法に関する示唆はない。 原告の液晶用LSIカタログ(甲4),平成13年発行の雑誌「M&E」(甲5)にも,マイグレーションに関する記載はない。 (3) 小括以上によれば,原出願日当時,当業者において,半導体キャリア用フィルムにおいて,端子間の絶縁抵抗を維持するため,マイグレーションの発生を抑制する必要 グレーションに関する記載はない。 (3) 小括以上によれば,原出願日当時,当業者において,半導体キャリア用フィルムにおいて,端子間の絶縁抵抗を維持するため,マイグレーションの発生を抑制する必要 があると考えられていたこと,マイグレーションの発生を抑制するため,吸湿防止のための樹脂コーティングを行ったり,水に難溶な不動態皮膜を形成したり,半導体キャリア用フィルムを高温高湿下におかないようにしたりする方法が採られていたことは認められる。しかし,原出願日当時,本件発明1のように,ニッケル-クロム合金からなるバリア層におけるクロム含有率を調整することにより,バリア層の表面抵抗率・体積抵抗率を向上させ,また,バリア層の表面電位を標準電位に近くすることによって,マイグレーションの発生を抑制することについて記載した刊行物,又はこれを示唆した刊行物は存在しない。そうすると,甲2文献に接した当業者は,原出願日当時の技術水準に基づき,引用発明において本件発明1に係る構成を採用することにより,バリア層の溶出によるマイグレーションの発生を抑制する効果を奏することは,予測し得なかったというべきである。したがって,本件発明1が容易想到であるとした審決の判断には誤りがある。 (4) 被告の主張に対する判断この点,被告は,ニッケル-クロム合金層におけるマイグレーションの課題は周知ないしは技術課題であり,また,バリア層の溶出成分がNiであることも周知であり,マイグレーションの発生を抑制するために,バリア層としてクロムの含有量を高めた抵抗値の高いニッケル-クロム層材料を選択するという技術事項も周知であったと主張する。 しかし,上記認定のとおり,原出願日当時,半導体キャリア用フィルムにおいてマイグレーションの問題があることは,当業者に周知であったと ロム層材料を選択するという技術事項も周知であったと主張する。 しかし,上記認定のとおり,原出願日当時,半導体キャリア用フィルムにおいてマイグレーションの問題があることは,当業者に周知であったと認められるが,マイグレーションの発生を抑制するために,バリア層としてクロムの含有量を高めた抵抗値の高いニッケル-クロム層材料を選択するという技術が周知であったと認めるに足りる証拠はない。したがって,上記のとおり,当業者が,ニッケル-クロム合金からなるバリア層におけるクロム含有率を15~50重量%とすることにより,マイグレーションの発生を抑制する効果を奏すると予測し得たとは認められない。 3 結論 以上によると,原告主張の取消事由2は理由があり,また,原告主張の取消事由3(本件発明2ないし6の容易想到性の判断の誤り)も同様に理由があり,その余の点を判断するまでもなく,審決にはその結論に影響を及ぼす誤りがある。よって,審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第1部 裁判長裁判官飯村敏明 裁判官八木貴美子 裁判官小田真治 別紙図3 図4 図7 図9 図4 図7 図9

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