令和5年1月25日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和2年第4920号損害賠償請求事件口頭弁論終結日令和4年10月5日判決主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1 請求被告は、原告らに対し、それぞれ11万円及びこれに対する令和2年3月1 7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の概要原告らは、国会が婚姻中の一方親による他方親の同意を得ない未成年の子の連れ去り(引き離し)を防ぐための立法措置(以下「子の連れ去りを防ぐ法規 制」という。)を正当な理由なく長期にわたって怠っていることにより自らの親権、監護権等が不当に制約され、精神的苦痛を受けたなどと主張して、被告に対し、国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づき、それぞれ、慰謝料等11万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めている。 遅延損害金の起算日は、不法行為の後の日である令和2年3月17日であり (訴状送達の日の翌日)、その利率は年5分である(平成29年法律第44号による改正前の民法)。 2 前提事実以下の事実は、当事者間に争いがないか、弁論の全趣旨から容易に認められる。 ⑴ 原告らは、いずれも未成年の子の親である。 ⑵ 原告らの配偶者は、各原告との婚姻中に、その同意を得ずに子を連れて別居した。そのため、各原告は、現在も、子及び配偶者と別居している。 原告らは、本件訴え提起の時には、配偶者との間で婚姻関係にあったが、原告らの一部は、本件の係属中に、配偶者と離婚した。 3 争点 ⑴ 子の連れ去りを防ぐ法規制に係る国会の立法不作為の違法性(争点1) 件訴え提起の時には、配偶者との間で婚姻関係にあったが、原告らの一部は、本件の係属中に、配偶者と離婚した。 3 争点 ⑴ 子の連れ去りを防ぐ法規制に係る国会の立法不作為の違法性(争点1)⑵ 原告らの損害(争点2) 4 争点1(子の連れ去りを防ぐ法規制に係る国会の立法不作為の違法性)に関する当事者の主張(原告らの主張) 下記⑴のとおり、日本には、子の連れ去りを防ぐ法規制が存在せず、国会は、かかる立法を怠っている(以下「本件立法不作為」という。)。 そして、下記⑵のとおり、本件立法不作為は、国民に憲法上保障されている権利を制約している。さらに、下記⑶のとおり、本件立法不作為は、国民に憲法上保障されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規 定に明白に違反するものであり、そうであるにもかかわらず、国会は、正当な理由なく長期にわたって立法措置を怠っている。 したがって、本件立法不作為は、国賠法1条1項の適用上、違法である。 ⑴ 子の連れ去りを防ぐ法規制が存在しないことア刑事法 日本には、子の連れ去りを処罰する刑事法が存在しない。 なお、未成年者拐取罪(略取又は誘拐罪。刑法224条)は、暴行、脅迫等を伴わず、かつ両親と同居している子を単に連れ去る行為には適用されないと解されており、子の連れ去りを処罰する刑事法には当たらない。 イ民事法 日本には、子の連れ去りを違法とする民事法が存在しない。民法上、子 の親権及び監護権を定める際に子を連れ去った者が不利になる規定、その他一方親による子の連れ去りを違法とする旨の規定はなく、民法766条1項には、面会交流が拒否された場合の執行規定や罰則規定が設けられていない。 裁判実務上も、離婚後単独親権制度の下、親権者又は主 他一方親による子の連れ去りを違法とする旨の規定はなく、民法766条1項には、面会交流が拒否された場合の執行規定や罰則規定が設けられていない。 裁判実務上も、離婚後単独親権制度の下、親権者又は主たる監護者の選 択に際し、別居後の監護の継続性を重視する判断がされており、連れ去られた側が親権・監護権の獲得に際して不当に不利な立場におかれている。 ウ親権の行使に係る手続規定民法818条3項本文は、「親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。」と規定する一方で、父母の意見が一致しない場合の手続規定を何 ら設けていない。仮に、その手続規定が設けられていれば、子の連れ去りが発生しても手続規定により問題が解決されることになるため、子の連れ去りを行う意味が失われることになる。そうすると、その手続規定を設けることは、子の連れ去りを防ぐ法規制であるといえる。 エ小括 したがって、日本には、子の連れ去りを防ぐ法規制が存在しない。 なお、子の連れ去りを一律に違法とする立法が相当でないのであれば、例えば、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(以下「ハーグ条約」という。)13条bと同様に、子の虐待や配偶者間の暴力がある場合の連れ去りを例外的に適法とするなどの規定を設ければ足りる。逆にいえ ば、ハーグ条約が上記例外を除いた子の連れ去りを一律に違法としていることからすると、国内法において、子の連れ去りを原則違法とする立法を行うことには何の問題もないし、ハーグ条約が定める例外の範囲を超えて子の連れ去りが適法となる場面を認めるのは相当でない。 ⑵ 本件立法不作為が、憲法上保障されている原告らの権利を制約すること ア原告らは、自らの子を育て又は教育する権利、すなわち、①子を産み育 法となる場面を認めるのは相当でない。 ⑵ 本件立法不作為が、憲法上保障されている原告らの権利を制約すること ア原告らは、自らの子を育て又は教育する権利、すなわち、①子を産み育 てるかどうかを意思決定する権利(リプロダクティブ権)、②親権、③監護権、④教育権及び⑤面会交流権を有する(以下それぞれ「権利①」から「権利⑤」という。)。 権利①~⑤は、いずれも憲法上保障される基本的人権である。すなわち、権利①は、子を産み育てることが人の幸福の源泉となり得るものであり、 人格的生存の根源に関わるから、憲法13条及び24条1項により保障される。権利②~④は、諸外国においても自然権などとして保障されており、日本でも、子に対する責務であるのと同時に、婚姻や子との関わりにより発生する自然権として、憲法13条、24条1項、2項、26条1項、2項等により保障される。権利⑤は、諸外国においても憲法上の権利とされ ており、日本でも、親子関係から当然に認められる自然権的な権利として、憲法13条、26条1項及び同条2項により保障される。 イ原告らは、本件立法不作為により、配偶者に対して子の連れ去りに係る違法性を追及することができず、配偶者との間で子をめぐって従属する地位におかれ、子をそれまでのように育て又は教育することができなくなっ たから、権利①~⑤が制約されている。 なお、被告は、法規制により直ちに法律違反の行為がなくなるものではないと主張するが、国会が子の連れ去りを防ぐ法規制(裁判所主導の下、早期に、両親の合意又は審判により、主たる監護者や養育費等を定める制度を含む。)を制定することにより、不当な子の連れ去りを防ぐことがで きる。 ⑶ 本件立法不作為が憲法の規定に明白に違反し、国会が立法義務を 意又は審判により、主たる監護者や養育費等を定める制度を含む。)を制定することにより、不当な子の連れ去りを防ぐことがで きる。 ⑶ 本件立法不作為が憲法の規定に明白に違反し、国会が立法義務を負っているにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠っていること以下の事情に照らせば、本件立法不作為は、明白に、憲法13条、14条 1項、24条1項及び同条2項に違反するから、国会は、子の連れ去りを防 ぐ法規制を制定する義務を負う。ところが、国会は、正当な理由なく長期にわたってこれを怠っている。 ア諸外国は、子の連れ去りを違法とする法制度や、親権の行使に係る父母の意見が一致しない場合の手続を定める法制度を制定している。 イハーグ条約に基づいて子の返還を請求するためには、連れ去り直前の子 の常居所の国内法において、同意のない子の連れ去りが違法とされていることが必要であるが、日本は、ハーグ条約の締約国でありながら、子の連れ去りを違法とする国内法を制定しておらず、当該連れ去りは適法であるのに、日本側から外国側に対して子の返還を請求することができるという矛盾が生じている。 ウ児童の権利に関する条約は、締約国は児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保するなどと定め、市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「自由権規約」という。)も、締約国は配偶者の権利及び責任の平等を確保するため必要な措置をとる旨定めるところ、本件立法不作為は、各規定の内容に違反している。 なお、条約は国内法に優先するから、国会は、条約と矛盾する国内法があれば、これを改正する義務を負う。 エ子どもの権利委員会は、平成31年2月1日、総括所見において、日本に対し、子の不法な移送の防止、国内 約は国内法に優先するから、国会は、条約と矛盾する国内法があれば、これを改正する義務を負う。 エ子どもの権利委員会は、平成31年2月1日、総括所見において、日本に対し、子の不法な移送の防止、国内法のハーグ条約との調和、子の返還等に関する司法決定の適正かつ迅速な実施のため、あらゆる必要な努力を 行うことなどを勧告した。 オ欧州議会は、令和2年5月28日付け決議及び同年7月1日付け決議において、日本に対し、日本が子の連れ去りや面会について国際法を遵守していないように見え、これにより欧州連合市民である親が日本に居住する子と有意義な関係を形成できていないとして、国際法に適合する国内法規 制の制定を求めた。 カ日本の国会、政府機関、政党等は、子の連れ去りによって生じる問題を取り上げて議論しており、国会及び政府において、子の連れ去りを防ぐ法規制の制定が必要である旨の共通認識が形成されている。 (被告の主張)下記⑴のとおり、日本には、子の連れ去りを防ぐ法規制が存在する。 そして、下記⑵のとおり、原告らの主張する権利が国民に憲法上保障されているとはいえず、本件立法不作為によりこれが制約されているともいえない。 さらに、下記⑶のとおり、本件立法不作為が憲法の規定に明白に違反するとはいえない。 したがって、本件立法不作為は、国賠法1条1項の適用上、違法ではない。 ⑴ 子の連れ去りを防ぐ法規制が存在することア刑事法未成年者拐取罪は、行為主体が被害者の親権者であっても適用され得るから、子の連れ去りを処罰する刑事法の規定であるといえる。 イ民事法 民法上、父母間における子の連れ去りを違法とする明文の規定は存在しないが、裁判実務において、連れ去りの具体的経緯、態様、子の年齢や意思等 処罰する刑事法の規定であるといえる。 イ民事法 民法上、父母間における子の連れ去りを違法とする明文の規定は存在しないが、裁判実務において、連れ去りの具体的経緯、態様、子の年齢や意思等により、子の連れ去りが民法上の不法行為となり、違法と評価されることはあり得る。 さらに、民法766条1項は、離婚の際、子の利益の観点から面会交流 を定めるべきことを明文化している上、いわゆるハーグ条約実施法は、ハーグ条約に基づく子の返還の強制執行に係る規律を設けている。 したがって、子の連れ去りを防ぐ民事法の規定が存在する。 ウ親権の行使に係る手続規定日本の法制度上、親権行使に係る父母の意見が一致しない場合の手続規 定は存在しないが、かかる規定の制定によって子の連れ去りを防ぎ得るわ けではないから、かかる規定は、子の連れ去りを防ぐ手続規定に当たらない。 エ小括したがって、日本には、子の連れ去りを防ぐ法規制が存在する。 ⑵ 原告らの主張する権利が国民に憲法上保障されているとはいえず、本件立 法不作為によりこれが制約されているともいえないことア権利①~⑤は、いずれも、憲法上保障されているものではないか、本件とは無関係の権利である。 すなわち、権利①は、憲法上保障されていない上、親の子に対する権利ではないから、本件で問題となるものではない。権利②~④は、子の学習 権を保障するための親の職分又は社会的責務であり、憲法上の基本的人権ではない。権利⑤は、憲法上保障されるとする根拠がない。 イ子の連れ去りを防ぐ法規制が存在しても、これに反して子を連れ去る親が生じることは避け難く、立法によっては、必ずしも子の連れ去りを防ぐことができないから、本件立法不作為により、原告らの主張する権利が 子の連れ去りを防ぐ法規制が存在しても、これに反して子を連れ去る親が生じることは避け難く、立法によっては、必ずしも子の連れ去りを防ぐことができないから、本件立法不作為により、原告らの主張する権利が制 約されているわけではない。 また、権利②及び③について、子を連れ去られた親は、引き続き、当該子に対してこれらの権利を有しているのであり、本件立法不作為によって各権利を失うことはない。権利⑤についても、別居後の面会頻度の制限や面会拒絶の理由が子の連れ去りであるか否かは不明であり、本件立法不作 為による権利の制約はない。 ⑶ 本件立法不作為が憲法の規定に明白に違反するとはいえず、国会は立法義務を負わないこと以下のとおり、現在の日本の法制度は、個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠くものとはなっておらず、本件立法不作為が憲法 の規定に明白に違反するとはいえないから、国会は、原告らが主張する立法 義務を負わない。 ア婚姻中の一方親が他方親の同意を得ずに子を連れて転居する事情には、子を置いて家を出ることで子の監護に支障を生ずるなど様々なものがあり、その場合、子の連れ去りは家庭内暴力や虐待から逃れる有効な手段とも評価し得る。また、親権行使に係る父母の意見が一致しない場合の手続規定 が設けられていないのは、子の利益という観点からみて、そのような場合に親権が行使されない方がよいことが多いと考えられたためであり、かかる手続規定が存在しないことにも一定の合理性がある。 また、裁判実務では、親権者の指定に当たり、現状の監護者がいずれであるかだけでなく、父母の監護能力や居住・教育環境等諸般の事情を総合 的に考慮し、子の利益を最も優先することとされており、別居後の監護の継続性を偏重するような に当たり、現状の監護者がいずれであるかだけでなく、父母の監護能力や居住・教育環境等諸般の事情を総合 的に考慮し、子の利益を最も優先することとされており、別居後の監護の継続性を偏重するような考え方は採用されていないし、子を無断で連れ去ったことを不利な事情とする例もある。しかも、前記⑴のとおり、連れ去り行為は、その経緯や態様等、個別の事情により違法と評価され得るのであるから、原告らが主張する立法措置を講じなくても、現行法上、大きな 不都合が生じているわけではない。 そうすると、他方親の同意を得ない子の連れ去りを防ぐ規定を制定するのは、相当でない。 イ原告らは、ハーグ条約に基づく子の返還請求に当たり、子の連れ去りを違法とする規定の整備が必要であると主張するが、前記⑴のとおり、日本 における子の連れ去りが常に適法になるわけではない。 また、ハーグ条約は、異なる言語・環境の下での生活による有害な影響から子を国際的に保護するという理念に基づき、国境を超えて連れ去られた子を元の居住国に戻すべきことを規定するにすぎず、締約国内における子の連れ去りの法規制の在り方に何ら言及していない。そうすると、同条 約の締約国になったからといって、国内における子の連れ去りを違法とす る立法義務が生じることにはならない。 ウ原告らは、児童の権利条約及び自由権規約の規定を挙げるが、両条約は、権利の実現の確保の在り方について具体的に規定するものではなく、その在り方は各締約国に委ねられている。 すなわち、各条約の規定は、直ちに子の連れ去りを防ぐ法規制を設ける ことを締約国に求めるものではないから、被告がかかる立法義務を負う根拠とはならない。 エ原告らは、子どもの権利委員会による総括所見を挙げるが、日本における 子の連れ去りを防ぐ法規制を設ける ことを締約国に求めるものではないから、被告がかかる立法義務を負う根拠とはならない。 エ原告らは、子どもの権利委員会による総括所見を挙げるが、日本における子の連れ去りを防ぐ立法を求める内容ではない。また、総括所見は飽くまで勧告にとどまり、これによって被告に立法義務が生じるものではない。 オ原告らは、欧州議会の決議を挙げるが、同決議は、日本に対しては無論のこと、欧州連合理事会や欧州委員会に対してすら法的拘束力を有するものではないから、被告が同決議に係る立法義務を負う根拠とはならない。 カ国会や政府の議論は、専ら離婚後の親子間の交流についてのものであり、国会及び政府内において、子の連れ去りを防ぐ法規制の制定が必要である 旨の共通認識が形成されているとはいえない。 5 争点2(原告らの損害)に関する当事者の主張(原告らの主張)⑴ 原告らは、本件立法不作為により、基本的人権を不当に制約され、多大な精神的苦痛を受けた。かかる苦痛を慰謝するに足りる金額は、各原告につい て、10万円を下らない。 ⑵ 原告らは、本件訴訟の追行を弁護士に依頼せざるを得なかった。本件と相当因果関係のある弁護士費用は、各原告について、1万円を下らない。 (被告の主張)いずれも否認又は争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実に加え、括弧内に記載した書証(特に断らない限り枝番を含む。 以下同じ。)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ⑴ 諸外国の法制度等アドイツには、策略等によって18歳未満の者を親の一方から引き離した 者に刑事罰を科するとの規定があり(同国刑法235条1項1号)、かかる規定は、一方の親が他 ⑴ 諸外国の法制度等アドイツには、策略等によって18歳未満の者を親の一方から引き離した 者に刑事罰を科するとの規定があり(同国刑法235条1項1号)、かかる規定は、一方の親が他方の親の配慮権や面会交流権を侵害して子を引き離した場合にも適用されると解されている(甲A12)。 同国には、親権の行使に係る父母の意見が一致しない場合、裁判所にその決定をゆだねるとの規定がある(甲A20)。 イフランスには、尊属が親権者等から未成年の子を奪取したときは刑事罰を科するとの規定があり(同国刑法227-7条)、かかる規定は、共同親権者の一方が他方のもとから子を奪取した場合にも適用されることがある(甲A10、13、17)。 同国には、ドイツと同様、親権の行使に係る父母の意見が一致しない場 合、裁判所にその決定をゆだねるとの規定がある(甲A17、20)。 ウイギリスには、16歳未満の児童と一定の関係性を有する者が、児童に対して権限を有する者全員の同意なく又は裁判所の許可なく、児童をイギリス国外に連れ去ったときは、刑事罰を科するとの規定がある(同国児童奪取法1条。甲A14)。 エカナダやアメリカには、両親が親権又は監護権を共同で有する場合において、一方の親が他方の親の同意を得ないで子を連れ去ったときは刑事罰を科するとの規定がある(甲A15)。 ⑵ 日本が批准する条約の規律日本が批准する条約には、大要、以下の規定がある。 アハーグ条約 3条子の連れ去り又は留置は、次のa及びbに該当する場合には、不法とする。 a 当該連れ去り又は留置の直前に当該子が常居所を有していた国の法令に基づいて個人、施設又は他の機関が共同又は単独で有 3条子の連れ去り又は留置は、次のa及びbに該当する場合には、不法とする。 a 当該連れ去り又は留置の直前に当該子が常居所を有していた国の法令に基づいて個人、施設又は他の機関が共同又は単独で有する監護の権利を侵害していること。 b 当該連れ去り若しくは留置の時にaに規定する監護の権利が共同若しくは単独で現実に行使されていたこと又は当該連れ去り若しくは留置がなかったならば当該権利が共同若しくは単独で現実に行使されていたであろうこと。 aに規定する監護の権利は、特に、法令の適用により、司法上若し くは行政上の決定により、又はaに規定する国の法令に基づいて法的効果を有する合意により生ずるものとする。 13条 (前略)要請を受けた国(略)は、子の返還に異議を申し立てる個人、施設又は他の機関が次のいずれかのことを証明する場合には、当該子の返還を命ずる義務を負わない。 b 返還することによって子が心身に害悪を受け、又は他の耐え難い状態に置かれることとなる重大な危険があること。 (後略)イ児童の権利に関する条約3条児童に関するすべての措置をとるに当たっては、公的若しくは私的 な社会福祉施設、裁判所、行政当局又は立法機関のいずれによって行われるものであっても、児童の最善の利益が主として考慮されるものとする。 2 締約国は、児童の父母、法定保護者又は児童について法的に責任を有する他の者の権利及び義務を考慮に入れて、児童の福祉に必要な保 護及び養護を確保することを約束し、このため、すべての適当な立法 上及び行政上の措置をとる。 4条締約国は、この条約において認められる権利の実現のため、すべての適当な立法措置、行政措置その他の措置を講ずる。(略)9条締約国は、児童がその父母の 上及び行政上の措置をとる。 4条締約国は、この条約において認められる権利の実現のため、すべての適当な立法措置、行政措置その他の措置を講ずる。(略)9条締約国は、児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保する。ただし、権限のある当局が司法の審査に従うこと を条件として適用のある法律及び手続に従いその分離が児童の最善の利益のために必要であると決定する場合は、この限りでない。(略) 3 締約国は、児童の最善の利益に反する場合を除くほか、父母の一方又は双方から分離されている児童が定期的に父母のいずれとも人的な関係及び直接の接触を維持する権利を尊重する。 ウ自由権規約23条(略) 4 この規約の締約国は、婚姻中及び婚姻の解消の際に、婚姻に係る配偶者の権利及び責任の平等を確保するため、適当な措置をとる。(略)⑶ 国際機関による勧告等 ア子どもの権利委員会は、平成31年2月1日、日本の第4回・第5回政府報告を審査し、同報告に関する総括所見を採択した(甲A25、乙1)。 上記総括所見には、大要、以下の内容が含まれている。 27 委員会は、締約国が、以下を行うため、十分な人的資源、技術的資源及び財源に裏付けられたあらゆる必要な措置をとるよう勧告する。 ⒝ 非同居親との人的な関係及び直接の接触を維持するための児童の権利が定期的に行使できることを確保すること。 31 委員会は、締約国が、子の不法な連れ去り及び留置を防止し、及びこれに対処し、国内法をハーグ条約と調和させ、子の返還及び面会交流権に関する司法決定の適正かつ迅速な実施を確保するために、あら ゆる必要な努力を行うよう勧告する。委員会はまた、締約国が、関連 に対処し、国内法をハーグ条約と調和させ、子の返還及び面会交流権に関する司法決定の適正かつ迅速な実施を確保するために、あら ゆる必要な努力を行うよう勧告する。委員会はまた、締約国が、関連 諸国、特に締約国が監護又は面会権に関する協定を署名している国々との対話及び協議を強化するよう勧告する。 イ欧州連合は、令和2年1月31日、日本に対し、児童の権利条約やハーグ条約等の国際的な約束を確保するため、国内の法的枠組み及びその効果的な実施を改善するよう求めた(甲A58、59)。 ウ欧州議会の請願委員会は、令和2年5月28日及び同年7月1日、日本における欧州連合の子の連れ去りについて、大要、以下の内容の決議を採択した。(甲A58、59) 欧州連合の戦略的パートナーたる日本が、子の連れ去り事件において国際的なルールを遵守していないように見えることに遺憾を表明し注目 する。 日本の当局に対し、日本の国内法を国際公約と整合させ、訪問権と面会権が児童の権利に関する条約の下での義務を反映していることを確保するために、日本の法制度に必要な変更を導入することを求める。 ⑷ 子の連れ去りに関する国内の議論等 ア日本の学者や国会議員等の一部は、令和元年頃以降、現在の日本の法制度において、子の親権者となることを希望する親が監護実績を作るために実力を行使して子を連れ去るという事態が生じ得る、最初に子を連れ去った側が親権者の指定において有利になる旨の指摘をしている(甲A18、40の2、甲A41、42、51)。 公益社団法人商事法務研究会は、令和3年2月頃、家族法研究会報告書において、両親が別居する際に子の養育や面会計画を定める手続規定を設置することを更に検討してはどうかと提 51)。 公益社団法人商事法務研究会は、令和3年2月頃、家族法研究会報告書において、両親が別居する際に子の養育や面会計画を定める手続規定を設置することを更に検討してはどうかと提言した。併せて、同意なき連れ去りがあった場合の事実状態を無条件に追認することは相当でないとの立場があることを紹介し、そのような立場からは、別居後の環境に対する子の 適応状況を重視してはならないという規律を設ける方向性も考えられると 述べた。(甲A145の127~131頁)イ超党派共同養育支援議員連盟は、令和4年4月27日頃、国の関係機関に対し、いわゆる「連れ去り勝ち」を防ぐために、親権を定めるに当たり、正当な理由なく子を連れ去った事実を十分考慮することなどを求める書面を提出した(甲A153)。 自由民主党の政務調査会法務部会は、令和4年6月21日、法務大臣に対し、ハーグ条約及び児童の権利に関する条約との整合性を確保する観点から、国内法の再検討をすべきである旨申し入れた(甲A165)。 2 争点1(子の連れ去りを防ぐ法規制に係る国会の立法不作為の違法性)⑴ 判断枠組み 国賠法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個々の国民に対して負担する職務上の法的義務に違反して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものであるところ、国会議員の立法行為又は立法不作為が同項の適用上違法となるかどうかは、国会議員の立法過程における行動が個々の国民に対して負う 職務上の法的義務に違反したかどうかの問題であり、立法の内容の違憲性の問題とは区別されるべきものである。そして、上記行動についての評価は原則として国民の政治的判断に委ねられるべ に対して負う 職務上の法的義務に違反したかどうかの問題であり、立法の内容の違憲性の問題とは区別されるべきものである。そして、上記行動についての評価は原則として国民の政治的判断に委ねられるべき事柄であって、仮に当該立法の内容が憲法の規定に違反するものであるとしても、そのゆえに国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに国賠法1条1項の適用上違法の評価を受ける ものではない。もっとも、法律の規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合などにおいては、国会議員の立法過程における行動が上記職務上の法的義務に違反したものとして、例外的に、そ の立法不作為は、国賠法1条1項の規定の適用上違法の評価を受けることが あるというべきである(最高裁平成25年(オ)第1079号同27年12月16日大法廷判決・民集69巻8号2427頁参照)。 この理は、法律の規定が存在しないことにより、憲法上保障され又は保護されている権利利益が合理的な理由なく制約され、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってその立法措置を怠る場合に も、妥当すると解すべきである。 そこで、前提として、本件立法不作為が認められるか(下記⑵)を検討した上で、原告らが主張する権利が憲法上保障され、本件立法不作為により制約されているといえるか(下記⑶)、本件立法不作為が、原告らの主張する権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するもの であることが明白であるか(下記⑷)を検討する。 ⑵ 本件立法不作為が認められるかア刑事法刑法224 権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するもの であることが明白であるか(下記⑷)を検討する。 ⑵ 本件立法不作為が認められるかア刑事法刑法224条は、「未成年者を略取し、又は誘拐した者」について刑罰を科しており、未成年者の親権者や監護者も、同条の行為主体となり得る と解されている。 しかし、同条に規定する犯罪が成立するためには、暴行、脅迫、欺罔又は誘惑を手段とすることを要し、これらの手段を用いない行為は不可罰とされている。親権者による子の連れ去りには様々な態様があり得るところ、配偶者の不在等の際に、暴行、脅迫、欺罔又は誘惑を手段とせず、単に子 を連れて住居を離れるといった態様のものも想定され、同条は、このような態様による連れ去りには、適用されないものと解される。 原告らの主張する刑事法の規定は、諸外国の法律の規定(認定事実⑴)にみられるように、手段を問わず、他方親の同意のない子の連れ去りを処罰するものであると解されるが、刑法224条は、上記のとおり、本件で 問題となっている子の連れ去りの一部に適用し得るにすぎず、手段を問わ ずに他方親の同意のない子の連れ去りを処罰するものではないから、同条をもって、原告らの主張する刑事法の規定が存在するとはいえない。 イ民事法民法その他の民事法において、他方親の同意のない子の連れ去りを違法とする旨定める明文の規定はない。そして、上記の子の連れ去りが他方親 に対する不法行為を構成するか否かは、行為態様に加え、経緯、目的等を総合考慮して判断されるものであり、裁判実務上、違法と評価することを原則とするとの運用が定着しているとまではいえない。 そうすると、原告らの主張する民事法の規定が存在す え、経緯、目的等を総合考慮して判断されるものであり、裁判実務上、違法と評価することを原則とするとの運用が定着しているとまではいえない。 そうすると、原告らの主張する民事法の規定が存在するとはいえない。 これに対し、被告は、民法が、離婚の際、子の利益の観点から面会交流 を定めるべきことを明文化している上、いわゆるハーグ条約実施法は、ハーグ条約に基づく子の返還の強制執行に係る規律を設けているから、原告らが主張する民事法の規定が存在すると主張する。しかし、被告が主張する各規定は、子の連れ去りを違法とする旨明言するものではないし、いわゆるハーグ条約実施法は、外国から日本に連れ去られた子の返還に係る規 定にとどまり、日本から外国に連れ去られた子の返還について規定するものではないから、原告らが主張する民事法の規定には該当しない。 ウ親権の行使に係る手続規定民法その他の民事法において、親権行使に係る父母の意見が一致しない場合の手続(子を連れ去られた場合における事後処理のための手続を含 む。)を定める明文の規定はない。そして、子の監護者指定の調停・審判制度や子の引渡しの調停・審判制度が上記の手続規定に当たるとはいえない。 そうすると、原告らが主張する親権行使に係る手続規定が存在するとはいえない。 これに対し、被告は、親権行使に係る父母の意見が一致しない場合の手 続規定の制定によって子の連れ去りを防ぎ得るわけではないから、かかる規定は、子の連れ去りを防ぐ手続規定に当たらないと主張する。しかし、諸外国の法制度には、子の連れ去りを違法とした上で、親権行使に係る父母の意見が一致しない場合の手続規定が設けられているものがあるところ(認定事実⑴)、子の連れ去りが行われるケースには、親権行使に 、諸外国の法制度には、子の連れ去りを違法とした上で、親権行使に係る父母の意見が一致しない場合の手続規定が設けられているものがあるところ(認定事実⑴)、子の連れ去りが行われるケースには、親権行使に係る父 母の意見が一致しないことを背景とするものも含まれているのであり、かかる手続規定の制定によって子の連れ去りを一切防ぎ得ないとまで断ずることはできない。 エ小括したがって、原告らが主張する刑事法,民事法及び親権の行使に係る手 続規定が現に存在するとはいえず、本件立法不作為が認められるというべきである。 ⑶ 権利①~⑤が憲法上保障され、本件立法不作為によりこれらが制約されているかア権利②~④(親権、監護権及び教育権)について 原告らは、権利②~④が、憲法上保障されると主張する。 親権の主たる内容は、子の監護及び教育であって(民法820条)、監護権や教育権は、親権の一内容とみるべきであり、原告らが本件で問題とする監護権や教育権も、親権と独立する内容をいうものであるとは解されない。親権が憲法上保障されるか否かが明らかになれば、監護権や教育権 が憲法上保障されるか否かも自ずと明らかになるというべきであるから、以下では、親権が憲法上保障されるか否かについて検討する。 原告らは、親権は、婚姻や子との関わりにより発生する自然権であるから、日本においても憲法上保障されると主張する。 親権には、子の居所の指定、懲戒、職業の許可、財産の管理などが含 まれる(民法821条~824条)。親権の行使は、子の監護及び教育 を通じて次世代の人格の形成や発展に寄与する営みであり、かかる営みは、子の人格形成のみならず、親権者自身の自己実現にも資するものということができる。その意味で、親権は、 子の監護及び教育 を通じて次世代の人格の形成や発展に寄与する営みであり、かかる営みは、子の人格形成のみならず、親権者自身の自己実現にも資するものということができる。その意味で、親権は、子の出生により当然に行使し得るものとして、自然権に類似する側面を有することは否定し難い。 しかし、親権の行使は、いずれも、子の利益のためにされなければな らず(同法820条、834条~835条参照)、そうであるからこそ、親権は、権利であると同時に親権者の義務であるとされているのであって(同法820条)、例えば、信教の自由(憲法20条1項)が宗教を信仰する自由を保障するのと同時に、信仰しない自由を保障しているのと異なり、親権については、これを行使しないという事態は、原則とし て許容されていない。そうすると、親権は、本来的には、親権者に対して子の利益となる監護及び教育を行わせるという、いわば利他的な行為を要求し、その中で、監護及び教育の内容等について一定程度の裁量を与えたものにすぎないといえ、上記のとおり、その営みが親権者自身の自己実現にも資するものであって、単なる機械的な利他行為にとどまら ないという点を考慮したとしても、憲法上の他の人権とは性質を異にするものといわざるを得ない。このような性質を有する親権が、憲法上保障された基本的人権であると解することはできない。 原告らは、親権が諸外国においても憲法上保障されていると主張するが、諸外国の制度が日本の憲法の解釈に直ちに影響を与えるということ はできず、前記の結論を左右する事情には当たらない。 そうすると、権利②~④が憲法上保障されているということはできない。 イ権利①(リプロダクティブ権)についてリプロダクティブ権は、主として性及び生殖に関 左右する事情には当たらない。 そうすると、権利②~④が憲法上保障されているということはできない。 イ権利①(リプロダクティブ権)についてリプロダクティブ権は、主として性及び生殖に関する自己決定権を意味 する用語であり、第一次的には、子の出産に焦点を当てた権利であると解 される。権利①が人の幸福の源泉となり得るとしても、出産それ自体と子の連れ去りとの関連性が乏しく、本件立法不作為によって権利①が直接制約されているとはいい難い。 なお、子を産むという点のみを権利①の対象とし、出産に引き続く子の養育をその対象外としたのでは、性及び生殖に関する自己決定権の保護と して不十分であるとして、権利①には、出産に関する事項に加え、第二次的に、子の養育に関する事項も含まれていると解する余地もある。しかし、そのように解したとしても、権利①のうち子の養育に関する事項は、権利②~④の内容と実質的に重なるものであり、権利②~④が憲法上保障されるといえないことは、前記アのとおりである。 そうすると、権利①のうち、出産に関する事項は、本件立法不作為によって制約されている権利であるとはいえず、養育に関する事項は、憲法上保障されているとはいえない。 ウ権利⑤(面会交流権)について原告らは、面会交流権が憲法上保障されると主張する。しかし、面会交 流をどのような内容及び方法で実現すべきかについては、子の利益ないし福祉に配慮して検討されるべきものであって、その観点から、面会交流を全面的に制限すべき場合もある。このような性質に照らすと、面会交流権の実質は、それが親自身の自己実現にも資するものである点を含め、権利②~④の内容と重なるというべきである。そして、権利②~④が憲法上保 障されるとはいえないことは、 性質に照らすと、面会交流権の実質は、それが親自身の自己実現にも資するものである点を含め、権利②~④の内容と重なるというべきである。そして、権利②~④が憲法上保 障されるとはいえないことは、前記アのとおりである。 原告らは、面会交流権が諸外国においても憲法上保障されていると主張するが、前記アのとおり、諸外国の制度が日本の憲法の解釈に直ちに影響を与えるということはできない。 そうすると、権利⑤が憲法上保障されているとはいえない。 エ原告らは、子を連れ去られた親は権利①~⑤を行使し得ず、子を連れ去 った親のみが権利①~⑤を行使し得るから、本件立法不作為は憲法14条1項に違反することが明白であるとも主張するようである。 しかし、憲法14条1項は、事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いをすることを禁止する趣旨と解すべきである(最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大 法廷判決・民集18巻4号676頁等参照)。子を連れ去られたとしても、その時点における法的地位には何ら影響がなく、権利①~⑤を法的に主張又は行使し得なくなるわけではないから、子を連れ去った親との間で法的な差別的取扱いがされているということはできない。 そうすると、本件立法不作為が憲法14条1項に違反するということは できない。 ⑷ 本件立法不作為が原告らの権利を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反することが明白であるかア日本において、一方親の同意を得ない子の連れ去りを違法とする規定、その他原告らが主張する法規制は存在しないところ(前記⑵)、学者や国 会議員等の一部から、遅くとも令和元年頃以降、現行の法制度の下で、不当な子の連れ去りが発生し得ることが指摘され とする規定、その他原告らが主張する法規制は存在しないところ(前記⑵)、学者や国 会議員等の一部から、遅くとも令和元年頃以降、現行の法制度の下で、不当な子の連れ去りが発生し得ることが指摘されるようになった。令和3年には、公益財団法人商事法務研究会により、両親が別居する際に子の養育計画等を定める手続規定を創設することなどの提言をまとめた報告書が公表されているが、その報告書には、同意なき連れ去りがあった場合の事実 状態を無条件に追認することは相当でないとの見解があることを前提に、別居後の環境に対する子の適応状況を重視してはならないという規律を設ける方向性についても言及されている。さらに、ハーグ条約及び児童の権利に関する条約との整合性を確保する観点からの国内法の再検討も、提案されている。(認定事実⑷) また、国際機関は、遅くとも平成31年以降、日本に対し、複数回にわ たり、日本法を児童の権利条約やハーグ条約等と整合させるよう勧告している(認定事実⑶)。国際機関が指摘する各条約(認定事実⑵)が、子の常居所国の法令によれば個人の監護権を侵害するなどの場合、子の連れ去りが原則として違法になる旨規定するほか(ハーグ条約)、締約国に対して、児童の意思に反する父母からの分離を防ぐための立法措置等を講ずる こと(児童の権利に関する条約)、及び婚姻に係る配偶者の権利等の平等を確保するための適当な措置をとることを求めていること(自由権規約)に照らすと、国際機関によるこれらの勧告が、日本の家族法制度に一定の問題提起をするものであることは明らかである。 以上の事情によれば、日本の家族法制度については、国内でその在り方 が議論されているにとどまらず、国際的にみても、条約の規定との整合性という観点等から問題視 であることは明らかである。 以上の事情によれば、日本の家族法制度については、国内でその在り方 が議論されているにとどまらず、国際的にみても、条約の規定との整合性という観点等から問題視する立場があり、憲法98条2項が定める条約遵守義務に照らしても、他方親の同意なき子の連れ去りを違法とする規定、その他原告らが主張する法規制の制定は、今後の国内法の在り方についての一つの選択肢として、議論されるべきものということができる。 イしかし、前記アで指摘した条約の規定や国際機関の勧告は、「締約国は、(略)児童の福祉に必要な保護及び養護を確保することを約束し、このため、すべての適当な立法上及び行政上の措置をとる。」、「日本の国内法を国際公約と整合させ、訪問権と面会権が児童の権利に関する条約の下での義務を反映していることを確保するために、日本の法制度に必要な変更 を導入することを求める。」など、抽象的なものにとどまっている。加えて、子の連れ去りを防ぐ法規制を制定するか否か、また仮に制定するとした場合の立法の具体的内容をどのように定めるかについては、締約国の伝統、親子・婚姻関係に係る国民の価値観等を総合的に考慮すべきであり、立法の是非の判断やその具体的内容は、各締約国の裁量に委ねられている といえるから、これらの条約の規定や国際機関の勧告が、直ちに憲法違反 の明白性を基礎付けるものとはいい難い。 また、家庭裁判所は、親権者や監護者の指定に当たり、現状の監護者がいずれであるかのみならず、父母の監護能力、居住・教育環境、子の年齢・性別・心身の発育状況・意向、従来の環境への適応状況など、親側の事情及び子側の事情を総合的に考慮しており、別居後の監護状況を特に重視 する判断をしているわけではない。このこと 育環境、子の年齢・性別・心身の発育状況・意向、従来の環境への適応状況など、親側の事情及び子側の事情を総合的に考慮しており、別居後の監護状況を特に重視 する判断をしているわけではない。このことについて、旧来重視していたとされるいわゆる継続性の原則(別居後の監護状況の継続性を重視する考え方)は、現在の裁判実務において限定的に考えられ、むしろ子の出生から現在までの生活環境及び監護の状況を重視しているとの指摘もされている(乙7)。 上記の各状況を踏まえると、日本国内において、子の連れ去りを防ぐ法規制が必要であることにつき、国民に共通認識が形成されているとはいい難く、立法の具体的内容についても、なお検討すべき事項が多数存在するものといえ、国民の議論が十分にされている状態であるとはいえない。 原告らは、そのほか、両親が離婚した子は愛情ホルモンであるオキシト シンが少ないことや、片親との交流の断絶が子の心理的、人格的成長にも悪影響を及ぼすことなど、多数の事実を指摘するが、これらの事実及び認定事実の内容を精査しても、子の連れ去りを防ぐ法規制が必要であることについて、国民に共通認識が形成されているとまではいえず、本件の結論を左右しない。 ウそうすると、仮に、本件立法不作為が、原告らの憲法上保障され又は保護されている権利利益を制約するものであるとしても、憲法の規定に違反するものであることが明白であるということはできない。 ⑸ 争点1の総括以上によれば、原告らの主張する権利が憲法上保障されているとはいえず、 又は本件立法不作為により制約されているとはいえず(前記⑶)、本件立法 不作為が、原告らの権利を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反することが明白であるともい えず、又は本件立法不作為により制約されているとはいえず(前記⑶)、本件立法不作為が、原告らの権利を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反することが明白であるともいえない(前記⑷)。したがって、その余の点を検討するまでもなく、本件立法不作為が国賠法1条1項の適用上違法になるとはいえない。 第4 結論 よって、争点2を判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がないから棄却する。 東京地方裁判所民事第50部 裁判長裁判官野口宣大 裁判官小川惠輔 裁判官大野志明 別紙当事者目録は省略
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