判決 主文 1 原判決を次のとおり変更する。 2 被控訴人は、控訴人に対し、1500万円及びこれに対する平成30年6月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを2分し、その1を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。 5 この判決は、第2項に限り、被控訴人に送達された日から14日を経過したときは、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2⑴ 主位的請求被控訴人は、控訴人に対し、3000万円及びこれに対する平成30年6 月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 ⑵ 予備的請求(当審における追加的請求)被控訴人が、控訴人に適切な補償を受けさせないことは違法であることを確認する。 3⑴ 被控訴人は、控訴人に対し、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日本経済新 聞及び産経新聞の全国版において、原判決別紙謝罪広告目録第1記載の謝罪 広告を、同目録第2記載の条件で掲載せよ。 ⑵ 被控訴人は、控訴人に対し、被控訴人が運営する原判決別紙謝罪広告目録第3記載のインターネットウェブサイト上に、同目録第1記載の謝罪広告を、同目録第4記載の要領で掲載せよ。 第2 事案の概要等(以下、略称は、別途定めるほかは、原判決の例による。) 1 本件は、平成8年法律第105号による改正前の優生保護法(昭和23年法律第156条。以下「優生保護法」という。)に基づいて強制不妊手術(本件優生手術) めるほかは、原判決の例による。) 1 本件は、平成8年法律第105号による改正前の優生保護法(昭和23年法律第156条。以下「優生保護法」という。)に基づいて強制不妊手術(本件優生手術)を受けさせられたと主張する控訴人が、被控訴人に対し、国家賠償法(国賠法)1条1項に基づく慰謝料及び遅延損害金の支払等を求める事案である。 原審において、控訴人は、⑴国賠法1条1項に基づき、①主位的に、本件優生手術が憲法13条、14条1項、36条に違反する違憲・違法なものであるにもかかわらず、当時優生保護法を所管していた厚生大臣等において、これを漫然と実施させた違法があると主張し、②予備的に、厚生労働大臣において、控訴人を含む優生手術の被害者の被害回復を図るための施策を遂行すべきであ ったのにこれを怠った違法(不作為)があり、国会議員において、控訴人を含む優生手術の被害者の被害回復を図るための金銭賠償等に係る特別立法をすべきであったのに長期にわたりこれを怠った違法(不作為)があると主張して、慰謝料3000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成30年6月27日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。 以下、これを単に「民法」といい、同改正後の民法を「改正後民法」という。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、併せて、⑵被控訴人には条理上又は民法723条の法意に照らし、優生手術を受けた者に対する社会的評価を回復させる義務があるなどと主張して、被控訴人に対し、原判決別紙謝罪広告目録記載のとおりの謝罪広告を求めた。 原審は、控訴人の請求をいずれも棄却したため、これを不服として控訴人が 本件控訴をした。 当審において、控訴人は、原審における上記⑴の国賠法 とおりの謝罪広告を求めた。 原審は、控訴人の請求をいずれも棄却したため、これを不服として控訴人が 本件控訴をした。 当審において、控訴人は、原審における上記⑴の国賠法1条1項に基づく損害賠償請求の請求原因について、ⅰ原審における上記⑴②の主張のうち、厚生労働大臣及び国会議員の作為義務違反の主張を、厚生大臣・厚生労働大臣・法務大臣・文部大臣・文部科学大臣及び国会議員の優生保護法の制定、優生政策 の推進及び本件優生手術の実施を先行行為とする優生手術を受けた者に対して被害回復措置を講ずべき作為義務違反の主張に変更し、ⅱ本件優生手術の実施に基づく不法行為の主張(原審における上記⑴①の主張)、ⅲ特別の賠償立法に係る立法不作為に基づく不法行為の主張(原審における上記⑴②の主張のうち、国会議員の立法不作為の主張を金銭補償に関する立法不作為に限定したもの) の3つに変更し、このうちⅰとⅱが主位的主張、ⅲが予備的主張であると整理した。さらに、原審における上記⑵の謝罪広告の請求と併せて、これらを主位的請求とした上で、上記⑴の損害賠償請求が認容されることを解除条件として、被控訴人が控訴人に適切な補償を受けさせないことは違法であることの確認を求める旨の訴えを予備的に追加した(平成8年改正の時点で、控訴人を含め優 生手術を受けた者のほとんどは、既に除斥期間が経過して国家賠償請求をすることができない状態であったことから、権利侵害がされたのに訴訟で権利救済を図ることができない状態にあるにもかかわらず、これを救済する金銭補償に関する立法措置がされていないことを理由とする。)。 2 前提事実 次のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要等」の2(原判決6頁19行目から13頁3行 関する立法措置がされていないことを理由とする。)。 2 前提事実 次のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要等」の2(原判決6頁19行目から13頁3行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。 原判決7頁23行目の「切除して」を「切断して」に改める。 原判決8頁8行目の「遺伝性奇型」を「遺伝性奇形」に、同9頁4行目の 「強度な遺伝性奇型」を「強度な遺伝性奇形」にそれぞれ改める。 原判決8頁19行目の「都道府県優生保護審査会」を「都道府県優生保護委員会」に改める。 ⑷ 原判決11頁24行目から25行目にかけての「(以下、この部分を「優生条項」ということがある。)」を削り、同12頁8行目の「ものであった。」を「ものであった(以下、平成8年改正前の目的(1条)並びに4条による優 生手術及び12条による優生手術に係る規定を併せて「優生条項」という。)。」に改める。 3 争点当審において控訴人が訴え及び主張を変更した結果、本件の争点は、後記のとおりとなる。 なお、控訴人は、当審において、訴え及び主張を変更するに際し、国賠法1条1項に基づく損害賠償請求(主位的請求)の請求原因について、①優生保護法の制定、優生政策の推進及び本件優生手術の実施を先行行為とした作為義務違反による不法行為、②本件優生手術の実施による不法行為並びに③特別の賠償立法に係る立法不作為による不法行為の3つに整理した上で、①・②が主位 的主張、③が予備的主張の関係にあるとしつつ、①と②は選択的関係にあるが、前者が優先的に審理されるべきであるとの意見を述べている。しかし、これらの請求及び主張の法的位置付けや論理関係についての意見の当否はおくとし 備的主張の関係にあるとしつつ、①と②は選択的関係にあるが、前者が優先的に審理されるべきであるとの意見を述べている。しかし、これらの請求及び主張の法的位置付けや論理関係についての意見の当否はおくとしても、本件事案の本質は、むしろ本件優生手術が実施され、控訴人が損害を負わされたこと自体(②)にあると考えられるし、控訴人自身が本件優生手術の実 施自体によって受けた損害(②によるもの)が、被控訴人が被害者一般の被害回復に向けて然るべき対応をしてこなかったことによる損害(①によるもの)を上回るものと考えられる。控訴人の上記意見の理由は、民法724条後段の適用の有無に関連しているかとも思われるが、①、②いずれの主張による請求が認容されるかは、判断の順に左右されるものではない。もとより、控訴人の 上記意見は、審理の順についてのものであり、裁判所を拘束するものではない ことは、控訴人も理解してのことであると思われる。よって、争点及び判断は、②、①の順とすることとする。 ⑴ 本件優生手術の違憲性・違法性及び民法724条後段の規定の適用関係⑵ 優生保護法の制定、優生政策の推進及び本件優生手術の実施を先行行為とする作為義務違反の有無(控訴人は、原審においては、厚生労働大臣及び国 会議員について、控訴人を含む優生手術の被害者の被害回復を図るための施策を講じ、又は立法をすべきであったのにこれを怠った不作為がある旨主張していたが、当審において、その者の範囲を厚生大臣、厚生労働大臣、法務大臣、文部大臣、文部科学大臣及び国会議員に変更した。)⑶ 特別の賠償立法に係る立法義務違反の有無(控訴人は、原審においては、 金銭補償以外の被害回復措置に関する立法の不作為も含めて主張していたが、当審において、金銭補償に関する立法の 。)⑶ 特別の賠償立法に係る立法義務違反の有無(控訴人は、原審においては、 金銭補償以外の被害回復措置に関する立法の不作為も含めて主張していたが、当審において、金銭補償に関する立法の不作為に限る旨主張を変更している。)⑷ 控訴人が被った損害⑸ 謝罪広告の必要性⑹ 違法確認の訴えの予備的追加の当否 4 争点⑴(本件優生手術の違憲性・違法性及び民法724条後段の規定の適用関係)に関する当事者の主張⑴ 次のとおり補正し、下記⑵及び⑶のとおり当審における当事者の補充・追加主張(原審における主張と重複するところも含む。以下同じ。)を加えるほかは、原判決13頁12行目から46頁8行目までに記載のとおりであるか ら、これを引用する。 ア原判決19頁14行目の「刑罰に関する条約(」の次に「以下「拷問等禁止条約」という。」を加える。 イ原判決33頁12行目の「上記2及び同イ」を「上記2及び4イ」に、同39頁23行目の「上記イ」を「上記イa」にそれぞ れ改める。 ⑵ 民法724条後段の規定の適用関係について【控訴人の主張】ア本件における起算点について 本件優生手術により、控訴人は、生涯にわたり、生殖に関する自己決定権及び人としての尊厳を著しく毀損され続け、それによりライフステ ージごとに精神的苦痛を強いられ、人生被害ともいうべき損害が生じたものであるが、控訴人に生じたこれらの損害について、被控訴人に損害賠償請求できるほどに権利侵害が明確になったのは最近になってからのことである。これは、被控訴人による優生保護法の制定及びその後の一連の優生政策の推進の結果であり、また、被控訴人が偏見・差別除去 や被害回復 ほどに権利侵害が明確になったのは最近になってからのことである。これは、被控訴人による優生保護法の制定及びその後の一連の優生政策の推進の結果であり、また、被控訴人が偏見・差別除去 や被害回復の措置を執らなかったために、控訴人はもちろん、社会においても、優生手術による権利侵害の意識が醸成されるのが遅れ、その結果、長きにわたり、控訴人において、自身の被った被害が、損害賠償請求権の行使が可能な人権侵害であるとの認識を持つことができなかったからである。 したがって、本件優生手術による継続的な権利侵害から生じる本質的な損害は、加害行為時ではなく、加害行為から相当期間経過した最近になってその内容が顕在化したものというべきであり、本件の損害は、最高裁平成16年判決のいう「性質上、加害行為時から相当期間経過後に損害が発生する場合」に該当するものといえる。最高裁平成元年判決後 の最高裁判決における民法724条後段の考え方からすると、最高裁平成16年判決は、単に「蓄積進行性又は遅発性の健康被害」のみを射程とするのではなく、本件のような権利侵害が継続する中で損害の本質的内容が顕在化する場合においても射程となることを許容していると解するのが相当である。 そして、本件における被害者側の事情及び加害者側の事情に照らせば、 除斥期間の起算点は「損害発生時」と解すべきである。 すなわち、優生保護法は明らかに違憲な法律であったのに、平成8年改正時まで約50年間存在し続け、改正時にも国会で同法の違憲性や被害回復に関する議論はほとんどされず、かえって、被控訴人は、改正後も、補償は行わないとの姿勢を貫いてきたもので、「謝罪を求める会」が 20年以上にわたり、被害実態に対する調査を行うよう要請し 被害回復に関する議論はほとんどされず、かえって、被控訴人は、改正後も、補償は行わないとの姿勢を貫いてきたもので、「謝罪を求める会」が 20年以上にわたり、被害実態に対する調査を行うよう要請し続けたにもかかわらず、調査を拒んできたことに加え、そもそも優生手術を受けたことは、自らの生殖機能を喪失したという極めてセンシティブな情報であるところ、被控訴人が社会における優生思想の除去を行っていない状況下において、これを世間に公表して被控訴人に対して国家賠償請求 訴訟を提起することは、さらなる差別を生み出す可能性が高いため、社会通念上極めて困難といわざるを得ない。このような様々な事情が複雑に絡み合い、被害者が自らの被害を世に訴えることが構造的に困難又は不可能だったものであり、かかる状況下においては、被控訴人が積極的に被害実態を解明し、偏見・差別の解消及び被害回復の措置を執ること なくして、被害者らが自らの人権侵害を認識し、損害賠償請求を行うことなど不可能である。そうすると、本件では、最高裁平成16年判決のいう「損害の発生を待たずに除斥期間の進行を認めることは、被害者にとって著しく酷である」という場合であるといえる。 他方、被控訴人は、優生保護法を制定して優生手術を推進し、社会に 優生思想を蔓延させ、平成8年改正後も同法の違憲性や補償につき検討せず、被害者の権利行使を阻害してきた。強制不妊手術が人権侵害であるとの指摘は、国民優生法の時代から存していたものであり、被控訴人は、法改正後に、国連自由権規約委員会からの勧告や国連女性差別撤廃委員会からの勧告を受けていることから、強制不妊手術が違法であるこ とは認識し又は認識し得たものといえ、最高裁平成16年判決のいう 「加害者としても、自己の行為により 国連女性差別撤廃委員会からの勧告を受けていることから、強制不妊手術が違法であるこ とは認識し又は認識し得たものといえ、最高裁平成16年判決のいう 「加害者としても、自己の行為により生じ得る損害の性質からみて、相当の期間が経過した後に被害者が現れて、損害賠償の請求を受けることを予期すべき」場合であるといえる。 以上のとおり、本件においては、「不法行為の時」ではなく「損害発生時」を除斥期間の起算点とすべきである。そして、事実上損害が発生し ていても、それが被害者にとって客観的に認識可能な程度に顕在化していない間に除斥期間が進行することは、被害者にとって著しく酷であるから、「損害発生時」とは、その損害の性質上、客観的に権利行使が可能となる程度に損害が顕在化した時点(客観的認識可能時)と解すべきである。 本件では、優生保護法が平成8年に改正されるまでは、本件優生手術の正当性を支える法制度が継続して存在し、改正後もしばらくの間は、損害に対する賠償や補償についての制度化は程遠い状況にあったが、近時になって、障害者差別を明確に禁止する一連の国際的国内的な法整備の動きがあり、障害者差別に対する社会通念に一定の変化が見られ、平 成29年2月16日付けで日弁連が、優生保護法に基づく強制不妊手術が違憲無効な法律に基づく手術であり、国はこうした被害に対し、補償を行い謝罪すべきであると明確に指摘する意見書(以下「日弁連意見書」という。甲A5)を公表し、これらを受けて、平成30年1月30日に、優生保護法下で優生手術を受けた人が初めて仙台地裁に提訴したこと で(仙台訴訟)、ようやく控訴人にとっても、客観的に権利行使が可能な程度に損害が顕在化したものといえる。したがって、本件における起算点は、平 優生手術を受けた人が初めて仙台地裁に提訴したこと で(仙台訴訟)、ようやく控訴人にとっても、客観的に権利行使が可能な程度に損害が顕在化したものといえる。したがって、本件における起算点は、平成30年1月の仙台訴訟の提起日と解すべきであり、そうすると、本件訴訟における控訴人の損害賠償請求権は、現時点で除斥期間を経過していない。 イ 20年が経過しているとしても、正義・公平の理念に基づき民法724 条後段は適用されないことについて 最高裁平成10年判決は、「不法行為の被害者が不法行為の時から20年を経過する前6箇月内において右不法行為を原因として心神喪失の常況にあるのに法定代理人を有しなかった場合において、その後当該被害者が禁治産宣告を受け、後見人に就職した者がその時から6箇月内 に右損害賠償請求権を行使したなど特段の事情があるときは、民法158条の法意に照らし、同法724条後段の効果は生じないものと解するのが相当である。」と判示した。 また、最高裁平成21年判決は、「被害者を殺害した加害者が、被害者の相続人において被害者の死亡の事実を知り得ない状況を殊更に作出 し、そのために相続人はその事実を知ることができず、相続人が確定しないまま上記殺害の時から20年を経過した場合において、その後相続人が確定した時から6か月内に相続人が上記殺害に係る不法行為に基づく損害賠償請求権を行使したなどの特段の事情があるときは、民法160条の法意に照らし、同法724条後段の効果は生じないものと解す るのが相当である。」と判示した。 最高裁平成10年判決及び最高裁平成21年判決は、除斥期間の適用を制限する前提として、時効の停止等その根拠となる規定が存在することを要求するものと るのが相当である。」と判示した。 最高裁平成10年判決及び最高裁平成21年判決は、除斥期間の適用を制限する前提として、時効の停止等その根拠となる規定が存在することを要求するものと解されている。しかし、最高裁平成10年判決についていえば、予防接種時から20年が経過する前6か月以内に被害者が 禁治産宣告を受けていなかった事案であり、厳密にいえば民法158条1項と異なる要件の下に除斥期間の停止を認めているのであって、時効の停止規定が形式的に議論の端緒として置かれているにすぎないものであり、当該規定の存在が除斥期間の適用を制限するための要件として必要とされているものではない。同判決において河合伸一裁判官が「要 は、前記特段の事情の存在が主張され、あるいはうかがわれるときには、 期間経過の一事をもって直ちに権利者の権利行使を遮断するべきではなく、当該事案における諸事情を考究して具体的正義と公平にかなう解決を発見することに努めるべきなのであって、それについて民法1条の宣言する信義誠実ないし権利濫用禁止の法理に依拠するか、あるいは、前述の不法行為制度の目的ないし理念から出発するかは、結局、同じ山 頂に達する道の相違として、いずれであってもよいと考えるのである。」と述べるとおり、当該事案における諸事情を考究して具体的正義と公平にかなう解決を導くべきと考えるところであり、これに判例変更を要するというのであれば、本件は判例変更の上で除斥期間の適用を制限すべき事案といわなければならない。 仮に上記各最高裁判決が、時効の停止等の根拠規定の存在を必要としているという立場を採っているとしても、本件では、以下のとおり、民法や条約の根拠規定が存在し、その法意に照らし、除斥期間の適用が制限されるべき 各最高裁判決が、時効の停止等の根拠規定の存在を必要としているという立場を採っているとしても、本件では、以下のとおり、民法や条約の根拠規定が存在し、その法意に照らし、除斥期間の適用が制限されるべきである。 すなわち、昭和28年には、厚生省から各都道府県知事宛てに昭和2 8年厚生省次官通知を発出したが、これによれば、本人がそれだとわからない形で手術を行ってよいという指導になっていることから、本人が仮に手術に気付いたとしても、それが優生保護法に基づく手術とは気付き得ない構造的な仕組みが作られていた。控訴人自身、優生保護法下の厚生省の前記通知に基づき、事実を知る機会すら与えられず、「子供がで きなくなるような手術」が「優生保護法による優生手術」であり、「加害者が国」であることを知る機会を障害され、権利行使ができない状況に置かれていたものである。 ところで、民法2条は、「この法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等を旨として、解釈しなければならない。」と規定しているが、優生保護法 における優生手術の被害者は、基本権の根幹をなす個人の尊厳が侵害さ れたことを本質とするものであることから、本件において同法724条後段が憲法の要請に従って解釈されるための指針として民法2条が位置付けられ、用いられなければならないのであって、優生手術の被害者には、同法2条の趣旨が妥当し、その法意に照らし、除斥期間の適用が制限されるべきである。 また、民法161条は、「時効の期間の満了の時に当たり、天災その他避けることのできない事変のため時効を中断することができないときは、その障害が消滅したときから2週間を経過するまでの間は、時効は、完成しない。」と規定しているが、その趣旨は、「事実上権利を行使する 避けることのできない事変のため時効を中断することができないときは、その障害が消滅したときから2週間を経過するまでの間は、時効は、完成しない。」と規定しているが、その趣旨は、「事実上権利を行使することを得ない者をして時効によってその権利を失わせないための制度 であるから、事実によって実際権利を行使することができない場合において、権利者のために過酷である。」という点にあるとされている。上記のように、控訴人を含む優生手術の被害者は、仮に手術に気付いたとしても、それが優生保護法に基づく手術であると気付き得ない構造的な仕組みの下で被害が発生しているのであり、民法161条の趣旨が妥当し、 被害者が「避けることのできない事変」のために権利行使ができない場合ということができる。同法161条を含む158条から161条までの時効停止の規定は、時効完成の際に一定の事由のある場合に限り、その事由の存在する期間中及びその事由消滅後法定の期間内に時効の完成を妨げる制度であるが、その趣旨は、上記の同法161条の趣旨が妥 当する。したがって、優生手術の被害者には、民法158条から161条までの趣旨が妥当し、その法意に照らし、除斥期間の適用が制限されるべきである。 さらに、拷問である優生手術に除斥期間を適用することは、拷問等禁止条約14条に反するのであり、優生手術の被害に関し、除斥期間の適 用制限を検討するに当たっては、時効の停止等の規定に代わるものとし て、拷問等禁止条約14条が妥当するから、仮に本件に同条約14条が直接適用されない場合であっても、その法意に照らし、その他正義・公平の理念に照らした考慮要素を踏まえ、除斥期間の適用が制限されるべきである。 以上のとおり、仮に民法724条後段の法的性質を 適用されない場合であっても、その法意に照らし、その他正義・公平の理念に照らした考慮要素を踏まえ、除斥期間の適用が制限されるべきである。 以上のとおり、仮に民法724条後段の法的性質を除斥期間であると 解したとしても、除斥期間制度の適用が著しく正義、公平の理念に反し、その適用を制限することが条理にもかなうと認められる場合は、同条後段の規定は適用されるべきではない。最高裁平成10年判決やその後の下級審の判決においても、民法724条後段を適用することが著しく正義・公平の理念に反し、その適用を制限することが条理にもかなうと認 められる場合には同条後段の適用を制限するとしているが、そのような場合に当たるかどうかについては、加害者の性質、被害の重大性、加害行為の悪質性、権利行使に至った経緯を考慮要素として判断すべきである。 すなわち、「国による」「悪質な」加害行為があり、これにより被 害者が憲法上の重大な人権侵害を受けた場合において、権利行使が遅れたことについて権利者に帰責性がない場合には、「除斥期間制度の適用が著しく正義、公平の理念に反し、その適用を制限することが条理にもかなうと認められる場合」に該当するというべきである。さらに、当該判断に当たっては、条約違反の事実及び社会の意識の変化等について も考慮されなければならない。 本件では、控訴人は、一方的に本件優生手術をされ、被控訴人は、欺罔等の手段を許容することで被害に遭ったことを認識困難な状況を自ら作出し、その被害実態を調査するために必要な証拠の保管を怠り、手術が合法であり謝罪も補償もしないことを明言することで、被害者の救 済が行われる見込みのないことを示して控訴人が被害を申告すること を断念することを結 めに必要な証拠の保管を怠り、手術が合法であり謝罪も補償もしないことを明言することで、被害者の救 済が行われる見込みのないことを示して控訴人が被害を申告すること を断念することを結果的に助長したといえるから、「国による」「悪質な」加害行為があったといえる。また、控訴人は、本件優生手術により、身体侵襲を受けない権利・自由等の憲法上の重大な人権侵害を受け、加えて、本件優生手術において控訴人が受けた被害の本質は「人としての尊厳に対する毀損」であり、控訴人が被った偏見・差別は、人としての 尊厳を著しく毀損させるものであったから、被害者が憲法上の重大な人権侵害を受けた場合に当たる。さらに、前記のように、被害者である控訴人自身が被害に遭ったことを認識するのが困難な状況であり、実態調査も最近まで行われなかったことや、長年にわたり偏見・差別に苦しめられており、被害を公なものとして訴えることが困難な状況だったこ とに加え、控訴人側に優生手術に関する資料は存在せず、提訴に向けた準備を行うことは困難だったことなどからすると、権利行使が遅れたことについて被害者である控訴人には帰責性はないといえる。 そして、除斥期間は民法上の規定であるところ、民法は本来対等な私人間の関係を規律する法律である。除斥期間の適否を判断するに当たっ ては、除斥期間の適用に当たって利益を得る者は誰かという点も検討される必要がある。被控訴人は、優生思想に基づき優生保護法を制定し、優生手術という侵害行為を行い、学校教育の場等で優生思想を浸透させ、さらには被害者に対する救済を明確に拒否することで被害者が裁判を受ける権利をも奪ったのであり、このような被控訴人の重大な帰責性を 不問とし、このような事実を無視して、平成8年改正時には提訴が可 さらには被害者に対する救済を明確に拒否することで被害者が裁判を受ける権利をも奪ったのであり、このような被控訴人の重大な帰責性を 不問とし、このような事実を無視して、平成8年改正時には提訴が可能であったとすることは、優生保護法の被害の本質や優生手術の被害者の置かれた状況を無視し、被控訴人の重大な帰責性を不問として、理由なく被控訴人の責任を免除する結果となるものであり、正義、公平の理念に反し、著しく不公平である。 したがって、本件について除斥期間の適用は認められない。 【被控訴人の主張】ア民法724条後段は、不法行為を巡る法律関係の速やかな確定を意図して、被害者側の認識のいかんを問わず、一定の時の経過によって法律関係を確定させるため請求権の存続期間を画一的に定めたものと解すべきであり、除斥期間を定めたものであることは、確立した判例法理である。し たがって、これが消滅時効を定めたものであることを前提とする控訴人の主張は失当である。 イ上記のような民法724条後段の趣旨や、同条前段が「損害及び加害者を知った時」を時効期間の起算点としていることとの対比からすると、控訴人が主張するような権利行使可能性の観点から、同条後段の「不法 行為の時」を解釈することはできないというべきである。したがって、民法724条後段の除斥期間の起算点は、加害行為が行われた時に損害が発生する不法行為の場合には、加害行為の時がその起算点となると解される。 これに対し、控訴人は、最高裁平成16年判決や最高裁平成21年判 決等を挙げて、民法724条後段の起算点は、損害賠償請求権の権利行使可能性を踏まえて考察すべきと主張する。しかし、最高裁平成16年判決は、不法行為の成立要件から離 年判決や最高裁平成21年判 決等を挙げて、民法724条後段の起算点は、損害賠償請求権の権利行使可能性を踏まえて考察すべきと主張する。しかし、最高裁平成16年判決は、不法行為の成立要件から離れて、権利行使可能性の観点から、「不法行為の時」を解釈する余地を認めたものではなく、被害者が損害賠償を請求することができたかどうかというような被害者側の主観的 な事情は考慮しない趣旨と解されるし、最高裁平成21年判決も、除斥期間の起算点については加害行為の時を前提としており、起算点の判断に当たり、被害者の権利行使の可能性を考慮していないことは明らかである。 したがって、除斥期間の起算点について、損害賠償請求権の権利行使 可能性を踏まえて考察すべきとの控訴人の主張は独自の見解であって、 理由がない。 本件で控訴人が主張する損害は、仮にその発生が認められるとしても、控訴人が主張する加害行為(本件優生手術の実施)と相当因果関係の範囲内にあり、本件優生手術実施時に既に発生していることになる。仮に、「加害行為の性質上、損害が拡大しながら継続」するといった事情や、 「『不法行為による』損害であることが顕在化していなかった」というような事情があったとしても、実体法上は、本件手術が実施された時点で将来生ずるべき損害を含む全損害が発生しているとみるべきことになるからである。 したがって、本件においては、除斥期間の起算点について、加害行為 時説・損害発生時説のいずれの見解を採用するとしても、本件優生手術時が起算点となることは明らかであり、その実施時は昭和32年春頃であるから、それから20年後である昭和52春頃の経過をもって、控訴人の損害賠償請求権は当然に消滅したものである。 ウ 生手術時が起算点となることは明らかであり、その実施時は昭和32年春頃であるから、それから20年後である昭和52春頃の経過をもって、控訴人の損害賠償請求権は当然に消滅したものである。 ウ正義・公平の理念に基づき724条後段の適用を制限すべきという控訴 人の主張に対する反論 法律関係の速やかな確定を図る除斥期間の性質とその意義、特に民法724条後段が、被害者の保護と加害者と目される者の利害の調整の上に立って、不法行為を巡る法律関係の速やかな確定を意図して、20年という除斥期間を定めたものであることからすると、その適用の有無は、 基本的に被害者の認識のいかんを問わず、20年の経過の有無という一義的な基準でこれを決すべきであり、広く法の正義・公平の観点からその適用を制限すべきものと解することは相当ではない。したがって、民法724条後段の規定の適用が制限される場合があり得るとしても、それは極めて限定的な場合に限られるというべきであり、その法的根拠と して、信義則違反や権利の濫用に依拠することはできない。 除斥期間の規定の適用を制限した最高裁平成10年判決及び最高裁平成21年判決の射程は短く、極めて限定的な場合にのみこれを制限したものであり、民法724条後段の規定の適用が制限される場合があるとしても、これが認められるのは、時効の停止規定等のような除斥期間の規定の適用を制限する根拠となる規定があり(以下「基準」という。)、 かつ、除斥期間の規定を適用することが著しく正義・公平の理念に反する事情が認められる場合(しかも、これが認められるのは、加害者の行為に起因して被害者等による権利行使が客観的に不可能になった場合に限られる。以下「基準」という。)に限られるというべきであ 念に反する事情が認められる場合(しかも、これが認められるのは、加害者の行為に起因して被害者等による権利行使が客観的に不可能になった場合に限られる。以下「基準」という。)に限られるというべきである。 本件では、以下のとおり、いずれの基準にも当てはまらず、これらの判 決が示した例外的な場合には当たらない。 基準について控訴人は、本件には民法2条の趣旨あるいは同法158条から161条に共通する趣旨が妥当するから、その法意に照らし、除斥期間の規定の適用が制限されるべきであると主張する。しかし、民法2条は、憲法 で定められた原則を民法でも明文をもって規定したものであり、憲法の解釈、適用を明確にする意味で注意的に規定されたものにとどまるから、民法2条が、民法の個別規定による法的効果の発生を制限する根拠規定になると解することはできない。また、除斥期間について時効の停止規定の類推適用が認められないことに照らしても、類推適用以上に除斥期 間の規定の適用の例外を広く認めかねない「158条から161条の法意に照らして」これを制限する旨の控訴人の主張には理由がない。 最高裁平成10年判決及び最高裁平成21年判決の事案は、民法724条後段の規定が時効であるとしたら、まさに民法158条や160条が直接適用され得る事案であったのに対し、本件では、仮に724条後 段の期間が時効であると解したとしても、時効の停止等の根拠規定が直 接適用され得るような事案ではない。また上記判決は、いずれも、民法158条や160条という個々の規定の法意に照らし、同法724条後段の適用が制限されると判示しているのであって、時効の各停止規定又はその全体から特定の命題やルールを引き出し、それを規範として判断した 58条や160条という個々の規定の法意に照らし、同法724条後段の適用が制限されると判示しているのであって、時効の各停止規定又はその全体から特定の命題やルールを引き出し、それを規範として判断したものではない。 除斥期間の規定の適用の例外をより広範に認めかねない控訴人の主張は、除斥期間の趣旨に反することは明白である。 基準について除斥期間の趣旨からすると、広く「正義・公平の理念」に基づき、除斥期間という画一性を重んじる制度の例外を認めるのは相当ではない。 民法724条後段が図った、被害者の保護と、加害者と目される者が長期間経過して反証資料を失った後に訴訟上加害者とされることを防ぐという利害の調整の前提を欠くような特段の事情、すなわち、加害者が被害者等による権利行使を意図的・積極的に妨害した等といった、加害者の行為に起因して被害者等による権利行使が客観的に不可能となっ た場合に限られるというべきである。 控訴人が加害者たる被控訴人の行為として指摘する諸事情、すなわち、「優生保護法により強制不妊手術が合法なものとして行われるようになったこと」、「被控訴人による優生手術の積極的な推進」、「自ら偏見差別を広めたこと」、「手術は合法であり、謝罪も補償もしない旨明言して いたこと」、「優生保護法及び優生手術が違法であることにつき平成8年改正よりかなり前の段階で認識していたか、少なくとも認識し得たにも関わらず、同年まで改正をしなかったこと」、「優生保護法に基づく優生手術に関する資料は国及び都道府県等被控訴人側に集中していたこと」などという事情は、いずれも、被控訴人の行為に起因して控訴人が損害 賠償請求権を行使することが客観的に不可能となったことを基礎付け る資料は国及び都道府県等被控訴人側に集中していたこと」などという事情は、いずれも、被控訴人の行為に起因して控訴人が損害 賠償請求権を行使することが客観的に不可能となったことを基礎付け る事情ではない。 その上、これらの事情のうち主たるものは、平成8年改正前の事情であることからすれば、控訴人の主張を考慮したとしても、平成8年改正時点においては、提訴が困難な状況であったとは認められないところ、この改正時点から相当期間が経過してもなお、控訴人が提訴していない ことに鑑みれば、本件が民法724条後段所定の除斥期間の規定の適用を制限すべき例外的場合に当たらないことは明らかである。 また、国賠法4条は、同法1条1項に基づく損害賠償請求権についても、その不法行為の内容・性質等といった個別事情による限定を何ら付すことなく、広く724条後段を含めた民法上の不法行為責任に関する 規定の適用を認めているのであり、724条後段の適用について、私人に対する損害賠償請求権と国に対する損害賠償請求権とで別異の取扱いを認めるべきであるとする控訴人の主張は理由がない。 民法724条後段の規定の適用関係(条約等)について【控訴人の主張】 ア基本的人権の尊重は、平和、経済開発と並んで国連憲章の3つの活動の柱であり、国連は、昭和23年に世界人権宣言を採択したのを始めに、様々な人権条約を採択し、加盟国にその批准、遵守を求めている。本件訴訟に関連する国連人権条約として、拷問等禁止条約、自由権規約、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(以下「社会権規約」という。)、女 子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(以下「女子差別撤廃条約」という。)及び障害者の権利に関する条約( 的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(以下「社会権規約」という。)、女 子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(以下「女子差別撤廃条約」という。)及び障害者の権利に関する条約(以下「障害者権利条約」といい、これらを併せて、以下「本件各人権条約」という。)が存在するが、日本はこれらの条約に批准ないし加入しており、これらの条約は当然に国内法的効力を有するものである。本件各人権条約の規定は、いずれも内容 が十分に明確であり、裁判規範として直接適用が可能であると考えられる し、仮に直接適用が相当でないとしても、間接適用によって、民法724条後段の適用は制限されるべきである。 また、法律と条約の関係では条約が優位することから、民法724条後段の適用を含む国内法の効力を考えるに当たっては、これに関連する国際法の規定を検討しなければならない。 イ拷問等禁止条約等に反すること強制不妊手術は、拷問等禁止条約における拷問の要件を全て満たしており、同条約が禁止する「拷問」に当たる。これは国際人権機関における共通認識であり、国際人権規範の内容であるといえる。 拷問等禁止条約14条1項は、「締約国は、拷問に当たる行為の被害者が 救済を受けること及び公正かつ適正な賠償を受ける強制執行可能な権利を有すること(できる限り十分なリハビリテーションに必要な手段が与えられることを含む。)を自国の法制において確保する。被害者が拷問に当たる行為の結果死亡した場合には、その被扶養者が賠償を受ける権利を有する。」と規定し、拷問禁止委員会は、同条に関し、一般的意見第3号(平成 24年。甲A190の1、2)において、以下のように述べている。 「救済を受ける権利に対する障害 権利を有する。」と規定し、拷問禁止委員会は、同条に関し、一般的意見第3号(平成 24年。甲A190の1、2)において、以下のように述べている。 「救済を受ける権利に対する障害38.本条約の締約国は、救済を受ける権利が効果的であることを確保する義務がある。救済を受ける権利の享受を妨げ、14条の効果的な実施を阻む具体的な障害としては、国の不適切な法律、 通報及び調査の制度や改善及び救済を求める手続の利用における差別、加害者の身柄を確保するための対策が不適切であること、国の秘密保護に関する法律、救済を受ける権利の確定を妨げる立証責任や手続上の要件、出訴期間、恩赦及び免責・・・(以下略)。 40.拷問の影響が継続的な性質を有することに照らし、出訴期間の 適用によって被害者が救済、補償、リハビリテーションの機会を奪われることになるため、出訴期間は適用されるべきではない。多くの被害者にとって、時間が経過してもその損害は軽減するものではなく、むしろ心的外傷後ストレスで強まることもあり、医療面、心理面、社会面からの支援が必要になるが、こ れらの支援は救済を得ていない者には利用できないことがしばしばある。締約国は、違反行為が行われた時期や、以前の政権によって又はその承諾のもとで実行されたか否かにかかわらず、拷問又は不当な取扱いを受けたすべての被害者が救済の権利を取得し、救済を得ることができることを確保しなくてはならな い。」また、拷問・虐待に対して除斥期間を理由に請求を排除するとする日本の司法判断に対して、拷問禁止委員会は、我が国から提出された報告書に対する総括所見(甲A192の1、2)において、「時効に関する規則及び規定を見直し、それらを条約上の義務 に請求を排除するとする日本の司法判断に対して、拷問禁止委員会は、我が国から提出された報告書に対する総括所見(甲A192の1、2)において、「時効に関する規則及び規定を見直し、それらを条約上の義務に完全に一致させるべきである」等 として、明確に条約違反を指摘している。かかる拷問禁止委員会の一般的意見及び総括所見は、仮に法的拘束力がないとしても、拷問等禁止条約における有効かつ重要な解釈指針となる。 したがって、拷問に当たる強制不妊手術被害に基づく損害賠償請求に対し、除斥期間を適用することは、明らかに拷問等禁止条約に違反する。 ウ国際慣習法に反すること国連総会において平成17年に採択された「国際人権法及び国際人道法の重大な違反の被害者のための救済と補償の権利に関する基本原則及びガイドライン」(以下「基本原則及びガイドライン」という。)は、国際人権法及び国際人道法の被害者が救済を受ける権利に関する基準として取 りまとめられたものである。この基本原則及びガイドラインは、時効に関 し以下のようなルールを示している(甲A184)。 「Ⅳ.時効6.適用される条約又はその他の国際法上の義務に規定されている場合、時効は、国際人権法及び国際人道法の重大な違反であって国際法上の犯罪を構成するものには適用されない。」 この時効に関するルール(以下「原則6」という。)は、国際人権機関の経験に基づき広く共通認識を得ているものであって、「慣習国際法」になっているものであるから、憲法98条2項にいう「確立された国際法規」でもある。 よって、「国際人権法及び国際人道法の重大な違反であって国際法上の 犯罪を構成する」という要件を満たす優生保護法 のであるから、憲法98条2項にいう「確立された国際法規」でもある。 よって、「国際人権法及び国際人道法の重大な違反であって国際法上の 犯罪を構成する」という要件を満たす優生保護法における強制不妊手術に係る本件損害賠償請求において出訴期間を制限すること(除斥期間を適用すること)は、慣習国際法に違反する。 エ時間的管轄について被控訴人は、条約法に関するウィーン条約(以下「条約法条約」という。) 28条を根拠に、本件優生手術は拷問等禁止条約が批准される前に完結しているから、同条約の適用は受けないと主張する。 しかし、条約に基づき、締約国が市民に対して権利を保障するという場合において、締約国は、その権利を侵害しないという消極的な避止義務を負うとともに、権利の実効的な保障という観点から引き出される積極的な 作為義務を負うのであり、本件加害行為の本質は、各国務大臣及び国会議員が優生保護法の制定及びこれに基づく手術の実施によって損害を発生させるとともに、法改正を数十年にわたって行わなかった結果、被害を拡大させ、さらに、法改正後も現在に至るまで、被害の除去、回復に係る措置を行わないことによって損害を放置し存続させているという積極的作 為義務違反が生じている場合である。かかる救済義務が履行されていない 場合には、それは継続的な条約違反であり、時間的制約によって救済義務の履行を求める権利行使が妨げられることはない。 オ条約違反の事実及び社会の意識の変化等を考慮して民法724条後段の適用の可否が判断されるべきことについて本件においては、人権条約・慣習国際法に違反する事実に加え、障害者 の権利保障や優生手術に対する社会の意識の変化等の諸事情を考慮要素と 後段の適用の可否が判断されるべきことについて本件においては、人権条約・慣習国際法に違反する事実に加え、障害者 の権利保障や優生手術に対する社会の意識の変化等の諸事情を考慮要素として、民法724条後段の解釈やその適用の可否が判断されるべきである。最高裁判所平成19年(行ツ)第164号同20年6月4日大法廷判決・裁判集民事228号101頁や最高裁判所平成24年(ク)第984号、第985号同25年9月4日大法廷決定・民集67巻6号1320頁 は、我が国が批准した条約の内容や条約に基づき設置された人権機関からの勧告の内容を判断の考慮要素の1つとしているように、批准された人権条約と人権機関による勧告等が、社会の動向、国民意識の変化等と並んで、先例たる最高裁判例を見直すに当たっての重要な考慮要素となっている。 本件では、以下のような条約に係わる事情や社会の意識の変化が生じてい るのであって、民法724条後段の解釈や適用に当たりこれらを考慮すべきであり、そうすると本件について同条後段の適用は制限すべきである。 強制不妊手術は、日本が批准、加入する数多くの人権条約に違反するのみならず、拷問等禁止条約や慣習国際法上、その被害者に対する補償について時効は適用されないとされていること。 国際人権機関により、被控訴人に対して、拷問である強制不妊手術に基づく損害賠償請求に対して行使期間制限を適用すべきでないとの度重なる勧告や質問が繰り返されていること。 障害者権利条約の批准に向けた法改正運動等による日本における障害者の人権保障に対する社会意識の変化 優生手術に関する訴訟提起を契機とする社会の認識・意識の変化 (「不良な子孫」であることを公表するこ 運動等による日本における障害者の人権保障に対する社会意識の変化 優生手術に関する訴訟提起を契機とする社会の認識・意識の変化 (「不良な子孫」であることを公表することになることからタブー視されていた優生手術の問題について、重大な人権問題として被害者に対する救済の必要性が肯定されるようになった。) 平成29年の民法改正により、民法724条を消滅時効に統一したこと。 【被控訴人の主張】ア控訴人は、優生手術を受けた者が被控訴人に対して有する救済を受ける権利につき、時効ないし除斥期間の規定が適用されないとする根拠に拷問等禁止条約14条1項とこれに関する拷問禁止委員会の一般的意見及び総括所見を挙げる。 しかし、同条約14条1項の文言は、締約国に対して、拷問に当たる行為の被害者の救済を受ける権利及び賠償を受ける権利を締約国の「法制において確保する」ことを規定したものにすぎず、これらの権利について時効ないし除斥期間の規定の適用が当然に否定される旨を規定したものではないことが明らかであるし、時効ないし除斥期間の規定の適用を撤廃す る法制度を構築することを締約国に義務づけていると直ちに解釈することも極めて困難である。また、拷問禁止委員会の一般的意見及び総括所見は、我が国に対する法的拘束力を有するものではなく、これに従うことを同条約の締約国に法的に義務付けているものではないから、これらを根拠に同条約14条1項が、拷問に当たる行為の被害者の救済を受ける権利に ついて時効ないし除斥期間の規定の適用を当然に否定されることまでを規定したものと解することはできない。 イ控訴人は、基本原則及びガイドラインにおける原則6が慣習国際法になっているとした上で、 いて時効ないし除斥期間の規定の適用を当然に否定されることまでを規定したものと解することはできない。 イ控訴人は、基本原則及びガイドラインにおける原則6が慣習国際法になっているとした上で、優生手術は原則6の「国際人権法及び国際人道法の重大な違反であって国際法上の犯罪を構成する」の要件を満たすから、本 件損害賠償請求において出訴期間制限を適用することは、慣習国際法に違 反する旨主張する。 しかし、基本原則及びガイドラインは、国連憲章10条等に基づき採択された国連総会の決議であるから、あくまで国連加盟国に対する勧告としての意味を有するにすぎず、国連加盟国に対する法的拘束力を有するものではない。 また、一般に、国際慣習法とは、「法として認められた一般慣行の証拠としての国際慣習」(国際司法裁判所規程38条1b)であり、その成立要件は、諸国家の行為の積み重ねを通じて一定の国際的慣行が確立していること(一般慣行)及びそれを法的な義務として確信する諸国家の信念(法的確信)が存在することである。原則6は、平成14年に開催された国連 人権委員会第1回諮問会議において、「国際法上の犯罪を構成する国際人権法及び国際人道法に関する規範の違反を起訴するに当たっては、時効は適用されない」との文言案を巡って、スウェーデン、ロシア連邦、アメリカ合衆国及び日本から、「戦争犯罪及び人道に対する罪に対する時効不適用条約」(以下「時効不適用条約」という。)の締約国数が44カ国にすぎ ないことや、依然として前記文言案に係る国際慣習法は確立していないなどとの懸念が示され、平成16年に開催された国連人権委員会第3回諮問会議においても、各国代表団が前記と同様の懸念を表明したことから、このような懸念に対応するため 案に係る国際慣習法は確立していないなどとの懸念が示され、平成16年に開催された国連人権委員会第3回諮問会議においても、各国代表団が前記と同様の懸念を表明したことから、このような懸念に対応するため、文言案の冒頭に「適用可能な条約において規定されている場合、あるいは、他の国際的な法的義務に含まれている場 合」との限定文言を挿入することが提案され、基本原則及びガイドラインが平成17年の国連総会で最終的に採択された際においても、前記限定文言がそのまま採用されたものである。このような原則6の策定経緯に加え、その後も時効不適用条約の締約国が少数にとどまっていることなどを踏まえれば、原則6が国際慣習法として確立していないことは明らかである。 ウ条約法条約28条は、「条約は、別段の意図が条約自体から明らかである 場合及びこの意図が他の方法によって確認される場合を除くほか、条約の効力が当事国について生ずる日前に行われた行為、同日前に生じた事実又は同日前に消滅した事態に関し、当該当事国を拘束しない。」と規定して、条約不遡及の原則を定めている。ところが、控訴人が援用しようとしている本件各人権条約には、いずれも遡及適用を認める明文の規定はなく、ま た、他の方法によっても遡及適用を行うとの意図は確認されていない。本件の場合、控訴人の主張によっても、本件優生手術が終了した時点で、同手術の実施に係る国の加害行為は完結しており、本件各人権条約の効力発生後の加害行為は認められないはずである。控訴人は、優生手術後もその効果が継続していることを前提とした上で、そのことをもって、行為その ものが継続しているとみなすことができると主張するが、条約が適用されるためには、当該条約の効力発生後に、同条約の規定の下にあると主張される事柄 とを前提とした上で、そのことをもって、行為その ものが継続しているとみなすことができると主張するが、条約が適用されるためには、当該条約の効力発生後に、同条約の規定の下にあると主張される事柄そのものが起こるか生じる必要があるから、控訴人の主張には理由がない。さらに、控訴人は、国務大臣・国会議員の積極的作為義務違反の状態は継続しているとして、時間的制約は及ばない旨の主張をするが、 後記5で主張するとおり、そもそも国務大臣・国会議員が積極的作為義務として、本件手術の実施等を先行行為とする被害回復義務等を国賠法1条1項の違法を構成する法的義務として負う余地はないから、かかる主張にも理由はない。 エまた、控訴人は、人権条約の間接適用により、あるいは人権条約違反の 事実及び社会の意識の変化等を考慮することにより、本件への民法724条後段の規定の適用を制限すべきであると主張する。 しかし、前記のとおり、基本原則及びガイドラインにおける原則6や、拷問等禁止条約14条1の規定の存在が、優生手術の実施に係る損害賠償請求権について民法724条後段の規定の適用を制限する根拠となるも のではない。そして、国賠法4条は、「強制不妊手術」を内容とする不法行 為により控訴人が取得したとする損害賠償請求権についても、民法724条後段の規定の適用を当然に予定しているということができるから、「強制不妊手術」という不法行為の内容・性質等に着目して、「強制不妊手術という類型の被害」については、民法724条後段の規定が適用されない(制限される)とする余地はないというべきである。さらに、控訴人が上記主 張の根拠として挙げるからまでの各事情は、いずれも本件優生手術に係る損害賠償請求権が20年の経過により既に消滅した い(制限される)とする余地はないというべきである。さらに、控訴人が上記主 張の根拠として挙げるからまでの各事情は、いずれも本件優生手術に係る損害賠償請求権が20年の経過により既に消滅した後の事情であるから、この点からしても控訴人の主張には理由がない。 オ以上のとおり、条約及び国際慣習法を根拠に、本件に時効ないし除斥期間の規定を適用することは許されないとする控訴人の主張はいずれも理 由がない。 5 争点⑵(優生保護法の制定、優生政策の推進及び本件優生手術の実施を先行行為とする作為義務違反の有無)並びに争点⑶(特別の賠償立法に係る立法義務違反の有無)に関する当事者の主張⑴ 次のとおり補正し、下記⑵及び⑶のとおり当審における当事者の補充・追 加主張を加えるほかは、原判決46頁11行目から69頁1行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。 ア原判決50頁7行目から8行目にかけての「第1000号」の次に「、第1282号、平成11年(ワ)第383号」を、同51頁22行目の「第82号」の次に「、第83号、同(行ヒ)第76号、第77号」をそれぞ れ加える。 イ原判決54頁10行目の「平成13年1月」を「平成13年11月」に改める。 ⑵ 先行行為等について【控訴人の主張】 ア先行行為 優生保護法は、先天性の疾患を持つ者を「悪質な素質を持つ者」と断定し、そうした者に対しては強制的に不妊手術を行っても問題ないとの優生思想に基づいて成立した。被控訴人が主導して優生手術を推進していたことは、国会における国務大臣や政府を代表する立場の人間から、優生手術を積極的に推進していく意見が示されていたことからも窺える。そして、 昭和24年、 。被控訴人が主導して優生手術を推進していたことは、国会における国務大臣や政府を代表する立場の人間から、優生手術を積極的に推進していく意見が示されていたことからも窺える。そして、 昭和24年、27年と同法は改正され、強制不妊手術の対象者が拡大されるとともに、優生手術実施の要件が緩和されていったのであり、優生手術件数の増加が国の積極的施策に基づくものであることは、優生保護法を管轄する厚生省による強制的な手段や欺罔的な手段によって優生手術の実施を促す昭和28年厚生省次官通知(甲A3)に如実に表れている。さら に、国は、学校教育の場などでも優生思想の浸透を図ってきた。 被控訴人には、優生保護法の制定及び優生政策の推進に基づき、同法の適用を受け得る者に対し、偏見・差別の除去義務が生じるものであるが、控訴人のように同法に基づく優生手術を受けた者に対しては、同法に基づく具体的被害が顕在化した者として、偏見・差別の除去に加え、適切な金 銭補償を内容とする被害回復措置が義務付けられる。 以上のとおり、国による優生保護法の制定、優生政策及び優生手術の推進並びにその具現化である控訴人に対する本件優生手術の実施が、国に作為義務を生じさせる根拠となる先行行為(以下「本件先行行為」という。)に相当する。 イ作為義務違反 優生保護法は、様々な人権侵害を包含する違憲な法律であり、同法の対象とされる者あるいは対象とされ得る者が、いわれのない「劣性」「生まれるべきではない者」というレッテルを貼られるものであることから、優生保護法の制定及び推進を行った被控訴人において、条理上、自ら当 該対象者らに対する偏見・差別の除去を行うべき作為義務を生じさせる ものである。また、優生保護法の制定及 ことから、優生保護法の制定及び推進を行った被控訴人において、条理上、自ら当 該対象者らに対する偏見・差別の除去を行うべき作為義務を生じさせる ものである。また、優生保護法の制定及び推進の具現化である優生手術が実施された控訴人については、現に手術を受けたことにより生じている身体的及び精神的苦痛を踏まえ、被控訴人には、条理上、上記の偏見・差別の除去に加え、加害者が国であることの個別の通知を行い、優生手術の被害者であることを認識し得る状態に置くとともに、具体的な手術 による被害について回復するための措置(真摯な謝罪及び被害を回復するに足りる適切な賠償がなされるための措置)を内容とする作為義務が生じる。 作為義務の主体としては、厚生大臣及び厚生労働大臣、法務大臣、文部大臣及び文部科学大臣、国会議員が具体的に作為義務を負うところ、 以下のとおり、それぞれが上記作為義務に違反しており、また、優生保護法及び優生手術が違憲・違法であることは容易に認識でき、上記の国務大臣・国会議員は、遅くとも平成8年の改正時にはこれを認識していたものであることから、当該義務違反につき少なくとも過失があると認められ、被控訴人は作為義務違反の不法行為に基づき、控訴人に対して 損害賠償責任を負う。 そして、上記作為義務違反は現在もなお継続しているため、民法724条後段の適用は問題にならない。 厚生大臣及び厚生労働大臣の作為義務違反優生保護法及び関連する政策等を所管した厚生大臣及び厚生労働大臣 は、本件先行行為に基づき、偏見・差別の除去に加え、控訴人ら被害者に対し、加害者が国であることの個別の通知を行い、優生手術の被害者であることを認識し得る状態に置くとともに、具体的な手術による は、本件先行行為に基づき、偏見・差別の除去に加え、控訴人ら被害者に対し、加害者が国であることの個別の通知を行い、優生手術の被害者であることを認識し得る状態に置くとともに、具体的な手術による被害について回復するための措置(謝罪、金銭賠償)を行うべき作為義務を負う。 しかし、厚生大臣及び厚生労働大臣は、平成8年に優生保護法が改正 されたことを除き、同法の対象者への偏見・差別の除去や被害回復の措置を採ることはなかった。平成10年11月、国連自由権規約委員会から我が国に対してされた勧告に対して、被控訴人は、平成18年12月に提出した第5回報告書において、「旧優生保護法は優生保護法の一部を改正する法律により改正され、本人の同意を得ない優生手術に係る規 定等は削除されたところであるが、同法による改正前の旧優生保護法に基づき適法に行われた手術については、過去にさかのぼって補償することは考えていない」と回答しており(甲A8)、また、平成9年以降、「謝罪を求める会」が優生手術の被害者のためのホットラインを実施し、厚生労働省とも対話を行ってきたものの、同省は、優生手術は当時として は合法であり、謝罪も調査も考えていない、不服申立てができたから強制ではないとの対応に終始していたものである。そして、具体的な手術による被害についても、平成31年4月に一時金支給法が成立したものの、真摯な謝罪及び被害を回復するに足りる適切な賠償がされるための措置を内容とするものではなく、被害回復には程遠い内容であって、被 控訴人の作為義務が果たされたとは到底いえない。 したがって、厚生大臣及び厚生労働大臣には作為義務違反が認められる。 法務大臣の作為義務違反偏見・差別の除去には、 の作為義務が果たされたとは到底いえない。 したがって、厚生大臣及び厚生労働大臣には作為義務違反が認められる。 法務大臣の作為義務違反偏見・差別の除去には、かかる差別が正当化することのできない不当 かつ違法な差別であることを国民らに周知させ、偏見・差別を廃止するよう働きかける人権啓発活動が必要不可欠である。そして、かかる人権啓発活動は法務省の所管事務であるから、法務省の長である法務大臣は、職務上通常尽くすべき義務として、偏見・差別除去義務の一内容である上記の人権啓発活動を実施するための相当な措置を行う義務を負う。 しかし、優生保護法に基づく優生手術は平成8年改正までは実施し得 る状況にあり、実際に被害者は判明しているだけでも約2万5000人存在する上、優生手術に関する条項が障害者差別に当たるとして削除された経緯等について、少なくとも一般国民が了知し得るような方法で周知することはなかったもので、法務大臣は、偏見・差別除去義務の一内容である人権啓発活動を実施するための相当な措置を行っていない。 したがって、法務大臣には作為義務違反が認められる。 文部大臣及び文部科学大臣の作為義務違反文部省及び文部科学省は、初等中等教育の基準の設定に関すること、教科用図書の検定に関すること、大学及び高等専門学校における教育の基準の設定に関することを所管事務とする。文部省及び文部科学省にと って、これらの学校教育における人権教育の扱いを定めることは重要な事務となる。そして、偏見・差別除去にとって教育は重要であり、教育の場で偏見に基づかない正確な知識に基づいた指導がなされなければ、社会から偏見・差別を除去することは困難である。よって ることは重要な事務となる。そして、偏見・差別除去にとって教育は重要であり、教育の場で偏見に基づかない正確な知識に基づいた指導がなされなければ、社会から偏見・差別を除去することは困難である。よって、文部大臣及び文部科学大臣は、職務上通常尽くすべき義務として、学校の保健、社 会科及び人権教育などの科目で、優生保護法及びそれによる被害者等に関する授業を行い、正しい知識を教育するとともに、同法の対象者及び対象とされ得る者に対する偏見・差別の是正を含む人権啓発教育が実施されるよう教育委員会や学校に指導するなどの適正な措置を行う義務を負う。そのためには、教育を担当する教員に対し、優生保護法の解釈、 運用並びに同法の対象者及び対象とされ得る者に関する認識について誤った教育を行わないよう適切な指導をし、学校教育において、全ての児童生徒に対し、その成長過程と理解度に応じた正しい知識を教育するとともに、教材の作成、教育指導の方法を含め適切な措置を執るべきであった。 しかし、少なくとも昭和47年発行の高校の保健体育の教科書までは 優生保護法を支持・推進する内容の記載があり、それによって当時学校教育を受けた者を中心に、優生思想等の偏見・差別意識が広く浸透する結果となった。一度植え付けられた偏見差別意識を個人で除去することは極めて困難であることからも、文部大臣及び文部科学大臣は、教科書から「国民優生」等の記述を削除するだけではなく、学校教育の場でか つての教科書に国民優生の記載があったことや優生保護法等について触れ、それが誤った知識であったこと等の正しい知識を教育するとともに、同法の対象者及び対象となり得る者に対する偏見・差別の是正を含む人権啓発教育が実施されるよう、教材の作成、教育指導の方法を含め適切な 、それが誤った知識であったこと等の正しい知識を教育するとともに、同法の対象者及び対象となり得る者に対する偏見・差別の是正を含む人権啓発教育が実施されるよう、教材の作成、教育指導の方法を含め適切な措置を執るべきであった。 文部大臣及び文部科学大臣はこれらの義務を何ら履行していないから、作為義務違反が認められる。 国会議員の作為義務違反国会議員は、優生保護法の法案をまとめ国会に提出するとともに、政府に対し優生保護法に基づく優生手術の実施件数拡大を求めるなど、被 害の発生拡大と偏見・差別の形成に大きく寄与したから、被害に対する補償や謝罪とともに、自ら作り出した偏見・差別を軽減除去する作為義務が認められる。 しかし、国会議員は、優生保護法の成立後、委員会での発言や国会答弁等を通じて優生手術の件数の拡大を図ったにもかかわらず、自ら行っ た行為につき謝罪することもなければ、一部の議員を除き優生保護法の問題点等を省みることもなかった。 したがって、国会議員には、作為義務違反が認められる。 【被控訴人の主張】ア先行行為について 公権力の行使に当たる公務員の加害行為である不法行為の効果として発 生する「被害者が被った不利益を補てんして、不法行為がなかったときの状態に回復させる」義務は、原則として、国賠法4条により適用される民法が定める金銭賠償の方法による損害賠償義務として発生するものであり、特別の定めがない限り、それ以外の内容の作為義務として発生する余地はない。したがって、先行行為が不法行為を構成する場合には、これと 相当因果関係にある損害は、特別の定めがない限り、先行行為の不法行為責任として発生する金銭賠償の方法 作為義務として発生する余地はない。したがって、先行行為が不法行為を構成する場合には、これと 相当因果関係にある損害は、特別の定めがない限り、先行行為の不法行為責任として発生する金銭賠償の方法による損害賠償により回復されるべきものであり、かかる損害賠償をすべき義務とは別に、損害回復のための作為義務を観念することはできないから、控訴人が主張するような損害を回復する措置を怠る不作為が、先行行為から独立して別個の不法行為を構 成する余地はないというべきである。 そう解さなければ、先行行為を不法行為とする損害賠償請求権が消滅時効の援用又は除斥期間の経過により消滅している場合において、加害者に当該損害賠償とは別個の損害回復措置を義務付ける特別の定めなどの根拠がなくても、被害者は、損害回復措置を怠る作為義務違反という不法行 為に基づく損害賠償請求権を訴訟物として構成することにより、先行行為と相当因果関係にある損害について、実質的に金銭賠償を受けられることになってしまうが、このような帰結は、国賠法が国家賠償制度において導入している民法の不法行為責任の規律が、損害賠償の方法として金銭賠償を原則とし、不法行為に基づく損害賠償請求権について消滅時効・除斥期 間の適用があるとした趣旨を没却するとともに、解釈による原状回復の余地を否定する確立した判例理論にも沿わないものであって、到底採り得ない。 本件についてみると、控訴人が主張する国務大臣・国会議員の作為義務違反に係る損害賠償請求は、本件優生手術の実施に係る損害賠償請求にお いて不法行為とした先行行為と相当因果関係にある損害について、国務大 臣・国会議員が、国賠法4条により適用される民法の定める金銭賠償の方法による損害賠償とは異なる被害回復措置 にお いて不法行為とした先行行為と相当因果関係にある損害について、国務大 臣・国会議員が、国賠法4条により適用される民法の定める金銭賠償の方法による損害賠償とは異なる被害回復措置を講ずる義務を負っていたと主張し、その義務違反を理由に、先行行為である本件優生手術の実施という不法行為によって生じた損害に係る金銭賠償等を求めるものにほかならず、国務大臣・国会議員の作為義務違反が、本件優生手術の実施に係る 不法行為から独立して別個の不法行為を構成する余地はないから、控訴人のかかる主張は失当である。 イ国務大臣・国会議員の作為義務違反について 国賠法1条1項の意義行政活動における公権力の行使に係る公務員の行為については、いわ ゆる職務行為基準説を前提に国賠法1条1項の適用上違法となるかどうかを判断することとなり、公務員が個々の国民に対して負担する職務上の法的義務に違反することが必要となる。したがって、公務員の公権力の行使に当たる行為が国賠法1条1項の適用上違法とされるためには、問題とされる行為が公務員の職務上の法的義務として義務付けら れたものであること及びその義務は被害を受けたという個人に対して負うものであることが必要である。 そして、ある作為が公務員の職務上の法的義務といえるためには、当該作為を求められる公務員において、注意義務の内容を認識してこれを尽くすことが可能な程度に(通常なすべきものとして認識できる程度 に)当該作為の発生要件及び作為すべき内容が明確なものでなければならない。国家賠償請求訴訟という行政救済制度は、法律による行政の原理を前提として、法令に違反した行政活動によって侵害された私人の権利・利益を救済することを念頭に置いたものと が明確なものでなければならない。国家賠償請求訴訟という行政救済制度は、法律による行政の原理を前提として、法令に違反した行政活動によって侵害された私人の権利・利益を救済することを念頭に置いたものというべきであり、根拠となる法令の規定や、その趣旨・目的等に照らして、当然に行われるべき ものとして導くことのできない作為を職務上の法的義務とし、その不作 為を違法と評価することは、法律による行政の原理に抵触し、国家賠償請求訴訟に期待される機能を超えるものであるといわざるを得ない。 この点に関し、控訴人は、作為義務の根拠を条理に求めているが、条理とは、成文法・慣習法・判例法等が欠けているときに裁判の基準となる事物の本性をいい、法律による行政の原理の下で行政活動の直接的な 根拠となるものでも、行政活動に当たる公務員においてその内容が一義的に明確なものでもないから、条理のみを根拠に職務上の法的義務を認める余地はない。 また、国家賠償請求訴訟が、私人の個人的な権利利益を救済することを目的とする制度であることからすると、公務員の職務上の法的義務 については、国民一般に対して負うものでは足りず、被害を受けたという個人に対して負う法的義務であることが必要である。 以上を基にすると、以下のとおり、国務大臣、国会議員が控訴人の主張するような作為義務を国賠法上の法的義務として負う余地はない。 本件への当てはめ 控訴人は、前記のとおり、本件先行行為により、各国務大臣及び国会議員について偏見・差別除去義務及び被害回復義務が生ずる旨を主張するが、そのような作為義務が当然に導かれるような法令の規定等の根拠は存しない。控訴人の主張する本件先行行為を勘案するとしても、本件 議員について偏見・差別除去義務及び被害回復義務が生ずる旨を主張するが、そのような作為義務が当然に導かれるような法令の規定等の根拠は存しない。控訴人の主張する本件先行行為を勘案するとしても、本件先行行為を構成するものとして控訴人が主張する優生保護法の制定、優 生手術及び優生政策の推進等が国民一般に及びそれらが与えた影響については、その有無、範囲及び程度とも様々あり得るものであるし、偏見・差別を除去するための活動を行うとしても、どのような活動が、どの程度個々の国民の心理に影響を及ぼし、偏見・差別の解消又は低減に寄与するのか明確にされてもいないのであって、偏見・差別除去及び被 害回復という作為については、その内容(実施時期・期間、実施対象、 実施内容及び実施方法等)が一義的に定まるものではなく、その性質上、これを定めるべきものともいえない。 したがって、控訴人の主張する偏見・差別除去及び被害回復という作為は、いずれも当該作為を求められる公務員である国務大臣・国会議員において、通常なすべきとして認識できる程度にその発生要件及び作為 すべき内容が明確なものとして当然に導き出されるものとはいえない。 また、仮に、国務大臣・国会議員が控訴人の主張するような偏見・差別除去のための措置という作為に係る職務上の義務を負うことがあるとしても、当該作為の性質からすれば、それは、広く人権尊重の理念に係る国民の理解を深めるという公益上の見地から、専ら国民一般に対し て負うものであり、優生手術等の優生政策により人権侵害を受けたという個々の国民に対して負うものではないことが明らかである。 以上のとおり、国務大臣・国会議員が、控訴人の主張する偏見・差別除去義務及び被害回復義務を、それぞれ国賠法 人権侵害を受けたという個々の国民に対して負うものではないことが明らかである。 以上のとおり、国務大臣・国会議員が、控訴人の主張する偏見・差別除去義務及び被害回復義務を、それぞれ国賠法1条1項の「違法」を構成する法的義務として負う余地はないから、控訴人の主張に理由はない。 厚生大臣及び厚生労働大臣の作為義務違反控訴人は、厚生大臣及び厚生労働大臣が、優生手術を受けた者の被害を回復するための措置として、被害を回復するに足りる適切な賠償がなされるための措置、すなわち金銭賠償の措置を講ずる国賠法上の法的義務を負うと主張するもので、要するに、違法な本件優生手術により控訴 人が被った被害を金銭をもって補償するための施策を講ずるための法案提出を行い、その施策を講ずる職務義務があったと主張しているものと解される。 しかし、昭和22年以降、国賠法が存在していたことからすると、控訴人が損害賠償請求権を行使する機会は確保されており、国会議員に国 賠法とは別の控訴人が主張するような制度や特別措置法を制定する立 法義務があったとはいえず、そうであれば、厚生大臣及び厚生労働大臣においても、控訴人が主張する法案の提出を行い、その施策を講ずる法律上の職務義務を負っていたということはできないのであって、控訴人の主張する厚生大臣及び厚生労働大臣の権限不行使が国賠法上違法と評価されることはない。 ⑶ 特別の賠償立法に係る立法義務違反の有無について【控訴人の主張】ア控訴人は、原審において、国会議員について、金銭補償以外の被害回復措置に関する立法の不作為も含めて国賠法上の違法を主張していたが、当審においては、国賠法とは異なる、優生保護法に基づく優生手術の被害に 人は、原審において、国会議員について、金銭補償以外の被害回復措置に関する立法の不作為も含めて国賠法上の違法を主張していたが、当審においては、国賠法とは異なる、優生保護法に基づく優生手術の被害に 対する「金銭補償のための立法不作為」を理由とする違法性に限って主張することとし、これを本件優生手術に基づく不法行為及び国務大臣・国会議員の作為義務違反に基づく不法行為の予備的主張とする。 そして、原判決が示した最高裁平成17年判決の立法不作為の判断基準(憲法上の権利侵害、損害賠償請求権の発生、上記の権利行使の機 会を確保するための立法措置の必要不可欠性、必要不可欠性の明白性、国会が正当な理由なく長期に立法措置を怠ること)に照らしても、以下のとおり、優生手術の被害者に対する国賠法とは異なる金銭補償のための特別の賠償(又は適切な補償)立法が必要であったことは明白であるにもかかわらず、国会は現在においても正当な理由なく、賠償立法の制定を怠 っているというべきである。 イ憲法上の権利侵害、損害賠償請求権の発生について優生保護法の優生条項は、リプロダクティブ・ライツに加えて、身体侵襲を受けない権利、憲法13条で保障される個人の尊厳、身体の不可侵性、憲法36条で保障される残虐な刑罰を受けない権利を侵害し、不良な子孫 を出生させないという不合理な目的に基づく障害者差別として憲法14 条1項で保障される平等権も侵害することから違憲無効であり、本件優生手術の被害者である控訴人は、これらの権利を侵害されたものとして国賠法1条1項に基づき、被控訴人に対して損害賠償請求権を有する。 そして、憲法13条からは、特定の個人の犠牲において社会全体が利益を受けることがない、「特別犠牲を強 侵害されたものとして国賠法1条1項に基づき、被控訴人に対して損害賠償請求権を有する。 そして、憲法13条からは、特定の個人の犠牲において社会全体が利益を受けることがない、「特別犠牲を強制されない権利」が導かれ、これは憲 法17条、29条3項、40条などにおいても具体化され、同法17条においては、国家補償制度を貫く公平負担の原則として、公務員の不法行為によって、「特定の人や集団に損害を甘受させることが正義と公平に反する場合」に国による金銭賠償を保障する権利として顕れる。 よって、憲法13条及び17条に基づき、控訴人は、国賠法上の損害賠 償請求の除斥期間にかかわらず金銭補償(国家補償)を受ける権利を有する。 ウ立法措置の必要不可欠性原判決は、平成8年改正時点で、国会議員が優生保護法の優生条項に人権上の問題があることを認識していたことは認められるとしても、同時点 では既に障害の有無により人を差別することは許されないという意識は国内に広く浸透していたとして、立法措置の必要不可欠性及びその明白性を否定した。 しかし、国内における障害者差別の事象は現在まで連綿と続いており、優生思想の影響は全く減少していない。優生保護法が国内法制に与えた影 響は大きく、障害者を劣性とみなし社会から排斥すべき存在として法律で位置付け、長年にわたり優生手術という形で現に障害のある人の人権を侵害し続けた事実は、人々の優生思想を正当化及び助長したのであり、これにより根付いた優生思想は法が改正されることだけで排除できるものではない。仮に平成8年改正時点で、既に障害の有無により人を差別するこ とは許されないという意識が国内に広く浸透していたとしても、その時点 で優生手術を受けた とだけで排除できるものではない。仮に平成8年改正時点で、既に障害の有無により人を差別するこ とは許されないという意識が国内に広く浸透していたとしても、その時点 で優生手術を受けた者の約98%について、各々の手術実施から20年を経過していたのであって、優生手術の被害者において国賠法に基づく損害賠償請求をすることはもはや不可能であったという状況には何ら影響を与えないのであるから、国会は自ら被害の拡大に積極的に関与してきたことから、被害者に対して被害回復措置を講じる必要があったことは明らか である。 また、優生保護法に基づく被害者は類型的に障害があるから、その権利行使の可能性を、障害がない者のそれと同じくみることは、実質的平等の見地にもとるものである。本件で問題となっている国家賠償請求については、事実上裁判までしなければ権利実現できないもので、裁判による権利 行使は、非常に高いハードルである。障害のある者が20年間国家賠償請求訴訟をしなかったという形式的基準のみによって、一律に権利の消滅を主張するのは、障害のある者に不可能を強いるものであり、優生保護法の被害者には、そのような脆弱さのゆえに合理的配慮を必要とする存在であることを踏まえて、被害回復措置の方法を判断する必要がある。 なお、平成31年4月に成立した優生手術被害者を対象とする一時金支給法は、優生保護法が違憲であることを前提とせず、一時金の額からしても、極めて甚大な被害を償う損害賠償の実質はなく、一時金支給法の国会審議に先立つ参議院厚生労働委員会の一般質疑においても、一時金支給法の成立は、被害者の損害賠償請求権に影響を与えることはないことが確認 されていた(甲A229)から、一時金支給法によって支給される金銭の法的性質 生労働委員会の一般質疑においても、一時金支給法の成立は、被害者の損害賠償請求権に影響を与えることはないことが確認 されていた(甲A229)から、一時金支給法によって支給される金銭の法的性質が賠償金でないことは明らかである。したがって、一時金支給法の成立により、立法の必要不可欠性が否定もしくは減殺されるものではない。 エ立法の必要不可欠性の明白性について 原判決は、立法の必要不可欠性の明白性を否定するにあたり、最高裁平 成17年判決に加え、最高裁判所平成25年(オ)第1079号同27年12月16日大法廷判決・民集69巻8号2427頁(以下「最高裁平成27年判決」という。)も引用している。最高裁平成27年判決は、前夫との離婚後、6か月の再婚禁止期間を定める民法733条1項の再婚禁止規定を改廃する立法措置を執らなかったことの違法性に関する事案である ところ、同判決は、再婚禁止規定の不合理性ないし違憲性が国会にとって容易に理解可能であったか否か、再婚禁止規定をめぐっては、100日超過部分を撤廃する趣旨の平成8年民法改正要綱案が公表され、また、諸外国が再婚禁止期間を廃止する傾向にあったこと、他方、再婚禁止規定については、憲法判断を示すことなく立法不作為の違法性を否定した最 高裁判所平成4年(オ)第255号同7年12月5日第三小法廷判決・裁判集民事177号243頁(以下「最高裁平成7年判決」という。)という最高裁の先例があり、これによって再婚禁止期間の設定を含めてその改廃が立法政策に委ねられたとの信頼が立法府の側に生じたものと考えられ、再婚禁止規定の違憲性に言及する司法判断は今回初めてであることな どを挙げた上で、その当てはめにおいて、上記を重視して違憲の明白性を否定した れたとの信頼が立法府の側に生じたものと考えられ、再婚禁止規定の違憲性に言及する司法判断は今回初めてであることな どを挙げた上で、その当てはめにおいて、上記を重視して違憲の明白性を否定したものである。しかし、最高裁平成27年判決の事案は、再婚禁止規定の違憲性が正面から問題となった事案であり、また、相対的立法不作為の事案であるから、再婚禁止規定を改廃すべきか否かを判断するにあたっての前提事情である「再婚禁止規定の違憲性」を含む事情を明白 に認識している必要がある。 他方、本件は、絶対的立法不作為の問題であり、「新たな立法を制定すべきか否か」という点が問題となるのであるから、これを判断するための前提事情として、優生保護法の違憲性、被害者の特性、優生思想の社会への定着度合、除斥期間経過後は一切の権利救済が不可能となることなどの具 体的事情を認識又は認識可能であれば明白性は肯定すべきであって、特別 の賠償立法がない状態が憲法17条違反であることの国会議員の認識まで求める必要はない。 また、最高裁平成27年判決と本件では事案の背景事情が大きく異なり、同一の検討要素を用いることはできないし、仮に同一の検討要素を用いるとしても、優生保護法を巡る国内外の動き、平成8年改正時に優生手術の 被害者の約98%について優生手術の実施から20年を経過していたこと、平成13年5月にはハンセン病隔離政策被害者への補償金支給法が制定されたことなどの各事情を国会が認識していた、あるいは容易に認識し得たことや、特別法制定を立法府に委ねる旨の先行する司法判断がないことなどに鑑みれば、特別立法の必要不可欠性は国会にとって明白であった といえる。 さらに、立法府、行政府、学会における議論を経て、リプロ を立法府に委ねる旨の先行する司法判断がないことなどに鑑みれば、特別立法の必要不可欠性は国会にとって明白であった といえる。 さらに、立法府、行政府、学会における議論を経て、リプロダクティブ・ライツは権利として確立され、権利の実現のため各種具体的な施策が講じられてきたもので、「実子を持つかどうかについて意思決定をすること」を含むリプロダクティブ・ライツを巡る議論は十分に蓄積されてきたといえ、 このことは、立法措置が必要不可欠であったことの明白性を裏付ける事情として考慮されなければならない。これに加え、優生手術による被害者が憲法32条の保障する「裁判を受ける権利」を侵害されている(国民の権利利益の侵害に対する実効的な救済が妨げられている場合にも憲法32条違反を観念すべきである。)事実からも、賠償立法措置の明白性が認めら れる。 オ国会が正当な理由なく長期に立法措置を怠っていること上記のとおり、国会にとって、優生手術の被害者に対する特別の賠償立法が必要であったことは明白であるにもかかわらず、国会は、平成16年3月24日(坂口厚生労働大臣が参議院厚生労働委員会において、優生手 術を受けた者に対する被害回復措置に対する責務を認める旨の答弁を行 った日)以降も、国内外から賠償立法の必要性を指摘され続けてきたにもかかわらず立法を怠り、現在においても正当な理由なく賠償立法の制定を怠っている。 どれだけ遅くとも、優生手術の被害者による仙台訴訟の提起及び同報道がされた平成30年1月末頃には、優生保護法による被害に関する国民的 な議論が広く巻き起こったのであり、その被害に対し特別の賠償立法が必要であったことは明白であるといえる。 よって、現在に至っても特別の 月末頃には、優生保護法による被害に関する国民的 な議論が広く巻き起こったのであり、その被害に対し特別の賠償立法が必要であったことは明白であるといえる。 よって、現在に至っても特別の賠償立法の制定を怠る国会の立法不作為は、国賠法1条1項の適用上違法となる。 【被控訴人の主張】 ア控訴人は、本件優生手術の実施に係る国務大臣等の不法行為によって生じた損害と、国会議員の立法不作為という不法行為によって生じた損害とを区別せずに、同一の損害であると主張するものであり、結局、国会議員の立法不作為にかかる損害賠償請求も、本件優生手術の実施に係る損害賠償請求において不法行為とした先行行為と相当因果関係にある損害につ いて、国会議員が国賠法とは別の被害回復のための立法措置を講ずる義務を負っていたと主張し、その義務違反を理由に、本件優生手術の実施という不法行為(先行行為)によって生じた損害に係る金銭賠償等を求めるものにほかならない。したがって、前記において主張したとおり、控訴人が不法行為として主張する国会議員の立法不作為が、本件優生手術の実施 に係る不法行為から独立して別個の不法行為を構成する余地はなく、控訴人の主張は失当である。 また、以下のとおり、最高裁平成17年判決の後段の基準によっても、本件において、国会議員の立法不作為について国賠法上の違法は認められない。 イ憲法上の権利侵害、損害賠償請求権の発生について 控訴人は、憲法13条及び17条に基づき、国賠法上の損害賠償請求の除斥期間にかかわらず金銭補償(国家補償)を受ける権利を有する旨主張する。 しかし、憲法13条は、国民の基本的人権の包括的な宣言であって、同条を直接の根拠として控訴 法上の損害賠償請求の除斥期間にかかわらず金銭補償(国家補償)を受ける権利を有する旨主張する。 しかし、憲法13条は、国民の基本的人権の包括的な宣言であって、同条を直接の根拠として控訴人の主張する金銭補償請求権が保障されてい ると解することはできないし、憲法17条は、損害賠償請求権行使の要件の定めを法律の定めに委ねており、本来、法律によって具体化されることを予定しているところ、これを具体化する法律として国賠法が制定されている。したがって、憲法13条及び17条が、国賠法上の損害賠償請求の除斥期間にかかわらず金銭補償を受ける権利を保障しているとはいえな い。 ウ立法措置の必要不可欠性控訴人が本件優生手術を受けた昭和32年当時、公務員の不法行為によって国民が被害を受けた場合にその被害を金銭的に回復する制度を定める法律として既に国賠法が存在しており、控訴人の主張によれば、被控訴 人は同法1条1項の責任を負うのであるから、優生保護法に基づく優生手術を受けた者について、国賠法による損害賠償とは別の金銭補償を行う賠償法の立法措置を講ずることが、優生保護法に基づく優生手術の被害を金銭的に回復するために必要不可欠なものであるとはいえない。 そして、憲法17条の制定経過等からも明らかなとおり、同条は、国又 は公共団体が負うことになる損害賠償責任について、民法上の不法行為責任を超える内容の規律とすることまでは要請していないと解すべきであり、憲法17条を受けて制定された国賠法が、民法の不法行為制度の規律を国家賠償制度に導入することは、国又は公共団体が、公務員の行った不法行為に関し、民法上の不法行為責任と同等の責任を負うことの一環とし て定められたものであるから、国賠法は憲法17条の の規律を国家賠償制度に導入することは、国又は公共団体が、公務員の行った不法行為に関し、民法上の不法行為責任と同等の責任を負うことの一環とし て定められたものであるから、国賠法は憲法17条の要請にかなうもので あり、憲法17条の要請に従ってこれを具体化する法律として制定されたものであるから、国賠法とは別の賠償法の立法措置を講ずることが必要不可欠であったとはいえない。 また、控訴人は、優生手術の被害者の権利行使の困難性を強調して、その権利行使の機会を確保するために、国賠法とは別の賠償法の立法措置を 講ずることが必要不可欠であったと主張するが、憲法17条の趣旨に照らしても、優生手術を受けた者に、国賠法の存在によって確保されている権利行使の機会以上に、具体的、現実的な権利行使の機会を確保すべき地位が憲法上保障されているとはいえない。 エ立法の必要不可欠性の明白性について 立法府には、立法行為に関し、一定の裁量が付与されているのであるから、ある立法行為につき国会議員に職務義務違反の行為規範違反があると認めるためには、国会に認められる合理的な立法裁量を超えて立法義務に違反したといえる事実があることに加え、当該立法義務があることが明白であることを要すると解される。本件では、憲法17条の保障する国家賠 償請求権の行使の機会を確保するために、所要の立法措置を執ることが必要不可欠であることが明白であることが必要であるところ、控訴人が本件優生手術を受けた当時、既に国賠法が存在していたのであり、国賠法が存在するにもかかわらず、優生手術を受けた者との関係では、国賠法以外の救済立法を制定しないことが憲法17条に違反するものであるかどうか は、まさに本件訴訟において初めて問題となったもの 賠法が存在するにもかかわらず、優生手術を受けた者との関係では、国賠法以外の救済立法を制定しないことが憲法17条に違反するものであるかどうか は、まさに本件訴訟において初めて問題となったものであるから、控訴人が挙げる諸事情を勘案しても、そのことが国会において明白であったとは認められない。 オ以上のとおり、国会議員には、控訴人が主張するような立法措置を講ずべき立法義務の懈怠があったとはいえないから、控訴人の主張には理由が ない。 6 争点⑷(控訴人が被った損害)に関する当事者の主張原判決69頁4行目から72頁9行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。 7 争点⑸(謝罪広告の必要性)に関する当事者の主張原判決72頁11行目から74頁18行目までに記載のとおりであるから、 これを引用する。 8 争点⑹(違法確認の訴えの予備的追加の当否)に関する当事者の主張【控訴人の主張】⑴ 控訴人は、優生手術の被害者として、憲法13条及び17条に基づき、その被害の金銭補償を求める権利を有しているが、平成8年改正の時点で既に 除斥期間が経過し、国家賠償請求をすることはできないおそれが生じていたものであり、国会において、優生手術を受けた者に対する適切な補償を認める立法的措置を講じない限り、控訴人は、今後も補償を受けることができず、その権利侵害は現実的なものとして存在する。したがって、仮に、被控訴人に特別の賠償立法措置を講じる作為義務違反が認められないのであれば、被 控訴人が控訴人に適切な補償を受けさせないことは違法であることの確認を求める(予備的請求)。 控訴人には被害回復を図る必要性が高い一方、そのために他に適切な方法がなく、即時確定の利益もあるこ 訴人が控訴人に適切な補償を受けさせないことは違法であることの確認を求める(予備的請求)。 控訴人には被害回復を図る必要性が高い一方、そのために他に適切な方法がなく、即時確定の利益もあることから、控訴人の違法確認の訴えは、公法上の法律関係に関する確認の訴え(実質的当事者訴訟)として適法である。 また、控訴人の個人としての権利の保護、救済を求めるものであるから、抽象的に立法不作為の違法の確認を求める客観的な法秩序の維持等を目的とする客観訴訟ではなく、あくまで控訴人の受けた被害に対する適切な補償を求める権利が立法不作為により妨げられていることの確認を求めるものであり、法律上の争訟に当たり、適法な訴えである。 ⑵ 実質的当事者訴訟については、その訴訟手続は実質上民事訴訟手続と同様 であるし、平成16年の行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)改正の基本的趣旨として、国民の権利利益のより実効的な救済を図るため、処分以外の行政上の行為形式に関わる紛争での権利救済を「公法上の法律関係に関する確認訴訟」の活用によって実現しようとした経緯なども踏まえれば、国民の権利救済の拡大の見地から、いわゆる逆併合も肯定すべきである。本件の 補償立法の不作為を理由とする国家賠償請求と本件違法確認請求とは、相互に密接な関連性を有するものとして、請求の基礎を同一にするものといえるから、本件の損害賠償請求に違法確認請求を追加的に併合することは、民訴法143条1項による訴えの追加的変更に準じて認められるべきである。 ⑶ 通常の民事訴訟において請求の基礎が同一である限り相手方の同意なくし て控訴審での訴えの変更ができるのと同様に、実質的当事者訴訟については、控訴審における逆併合にも相手方の同意を要しないと解するのが相当であ において請求の基礎が同一である限り相手方の同意なくし て控訴審での訴えの変更ができるのと同様に、実質的当事者訴訟については、控訴審における逆併合にも相手方の同意を要しないと解するのが相当である。 本件では請求の基礎の同一性が認められるから、控訴審における逆併合を認めても相手方の審級の利益を害するものではない。 よって、本件違法確認請求を控訴審で予備的追加的に併合することに関し て、被控訴人の同意は不要であり、本件違法確認の訴えが適法なものであることは明らかである。 【被控訴人の主張:本案前の答弁】⑴ 控訴人が当審において追加した本件違法確認の訴えは、控訴人が本件優生手術を受けたことによって被った損害につき、被控訴人が金銭補償すべき立 法を制定しないことの違憲・違法の確認を求めるものであるから、行訴法4条後段の「公法上の法律関係に関する確認の訴え」(実質的当事者訴訟)と解するほかない。そうすると、本件違法確認の訴えの追加は、民事訴訟に、行政訴訟である実質的当事者訴訟を併合するいわゆる逆併合を求めるものである。 行訴法41条2項、19条1項は、当事者訴訟に関連する請求に係る訴え を追加的に併合して提起することができる旨を定めているが、その逆の場合にも追加的併合が許されるか否かについて直接定めた規定はない。しかし、行訴法は、行政事件の特殊性に鑑み、行政庁の訴訟参加(23条)、職権証拠調べ(24条)、取消判決の拘束力(33条1項)の特則を定め、基本となる請求とその関連請求との間には主従の区別をしており、関連請求が民事訴訟 の場合は、これを主として行政訴訟を従とすることは、行政訴訟手続を中心として規定する行訴法の予想するところではないというべきである。 また、本来行 の区別をしており、関連請求が民事訴訟 の場合は、これを主として行政訴訟を従とすることは、行政訴訟手続を中心として規定する行訴法の予想するところではないというべきである。 また、本来行訴法の予定する形態での追加的併合の場合は、行訴法の定める手続によって審理されることになるが、いわゆる逆併合を認めた上で、手続の混在を認めたり、民事訴訟の手続で審理がされたりすることは、訴訟法 上、看過し得ない法的問題があるといわなければならない。 ⑵ 仮に、民訴法143条による訴えの追加的変更に準じて、控訴人の従前の請求に本件違法確認の訴えを追加する余地があるとしても、控訴審における訴えの変更については、相手方の審級の利益に配慮する必要があり、また、行訴法上の関連請求の追加的併合の場合には、控訴審における併合に当たっ ては相手方の同意を要すること(行訴法41条2項、19条1項、16条2項)との均衡も考慮すると、控訴審における上記訴えの変更には相手方の同意を要するというべきである。 しかし、被控訴人としては、本件違法確認の訴えの追加的変更に対して不同意であり、異議を述べるものである。 ⑶ 以上のとおり、控訴審における本件違法確認の訴えの追加は許されないところ、控訴人は専ら併合審判を受けることを目的としてこれを追加請求したものと認められるから、裁判所は、これを従前の請求と分離して自ら審判したり、管轄裁判所に移送したりする等の措置を採るべきではなく、直ちにこれを不適法として却下すべきである。 第3 当裁判所の判断 1 争点に対する判断の基礎となる認定事実については、次のとおり補正するほかは、原判決「第7 当裁判所の判断」の1(原判決74頁21行目から126頁22行目まで)に記載のとおり 判断 1 争点に対する判断の基礎となる認定事実については、次のとおり補正するほかは、原判決「第7 当裁判所の判断」の1(原判決74頁21行目から126頁22行目まで)に記載のとおりであるからこれを引用する。 原判決76頁3行目の「審査」を「審判」に改める。 原判決82頁2行目の「(略)…」の次に「現在我が国の人口は…」を加え、 同4行目の「産児制限」を「産児制限問題」に改める。 原判決101頁1行目の「6967件」を「6867件」に、同2行目の「1551件」を「1550件」にそれぞれ改める。 原判決106頁11行目の「点から」を「点からの」に、同15行目の「理解力」を「理解能力」にそれぞれ改める。 原判決113頁4行目から5行目にかけての「特定の精神病者、精神薄弱者又は精神障害者の不妊手術に関する法律」を「特定の精神病患者、精神薄弱者、その他の精神的無能力者の不妊化に関する法律」に、同114頁24行目から25行目にかけての「遺伝性疾患子孫防止法」を「遺伝病子孫防止法(断種法)」にそれぞれ改める。 原判決123頁8行目の「甲1B1から3まで、8」を「甲1B1から3まで、9」に改める。 2 本件優生手術の違憲性・違法性について 認定事実(ただし、当審における補正後のもの。以下同じ。)⑽イのとおり、控訴人が昭和32年2月又は3月頃に本件優生手術を受けたことが認め られるところ、当時、地方自治法(平成11年7月16日法律第87号による改正前のもの。)148条1項、2項及び同法別表第三(十一)により、優生保護法上の都道府県優生保護審査会の監督及び優生手術を行った旨の届出の受理等の事務につき、機関委任事務として都道府県知事が管理し、執行す の。)148条1項、2項及び同法別表第三(十一)により、優生保護法上の都道府県優生保護審査会の監督及び優生手術を行った旨の届出の受理等の事務につき、機関委任事務として都道府県知事が管理し、執行するとされ、厚生大臣が上記事務につき同法150条により都道府県知事を指 揮監督していたこと(争いのない事実)、すなわち、本件優生手術は、優生保 護法に基づき、被控訴人(国)の施策として、同法を所管する厚生大臣の指揮監督のもと、都道府県優生保護審査会等の機関が関与して、全国的かつ組織的に行われていた優生手術の一つであることが認められるから、その違憲性・違法性を判断するためには、その基となった優生保護法の憲法適合性について判断することが必要であり、これを避けることはできない。 優生保護法の優生条項の違憲性についてア優生保護法の優生条項は、「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」ことを目的とする旨を明言し(1条)、その目的達成のために行う不妊手術を「優生手術」と称して、これを行う要件、手続等を定めていたものである。すなわち、特定の障害又は疾患を有する者が子をもうけると「不 良な子孫の出生」につながる(その前提に、上記の者が「不良」な存在であるとする差別的思想がある。)として、これを防止するために、その者の身体に強度の侵襲を伴う不妊手術を行い、その生殖機能を回復不可能な状態にさせるものであり、その立法目的が差別的思想に基づくものであって正当性を欠く上、目的達成の手段も極めて非人道的なものである。 イ憲法13条は、生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利が保護されるべきことを規定しているところ、子をもうけるか否かについて意思決定をする自由は、幸福追求に対する権利の一内容を構成する権利と イ憲法13条は、生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利が保護されるべきことを規定しているところ、子をもうけるか否かについて意思決定をする自由は、幸福追求に対する権利の一内容を構成する権利として同条により保障されている。また、その意に反して身体への侵襲を受けない自由も、同様に同条により保障されていることも明らかである。 憲法14条1項は、国民に対して法の下の平等を保障した規定であるところ、同項後段列挙の事項は例示的なものであり、この平等の要請は、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り、差別的な取扱いをすることを禁止する趣旨と解される(最高裁判所昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁参照)。 ウ特定の障害又は疾病を有することは憲法14条1項後段の列挙事由に含 まれないが、同規定によって保護されるものと解される。優生保護法の優生条項は、優生思想に基づき、特定の疾病又は障害を有する者に対し、そのことを理由として優生手術を行う対象者として選定し、実施する旨を規定するものであり、不合理な差別的取扱いを定めるものであって、法の下の平等に反し、憲法14条1項に違反することは明らかである。 また、優生保護法の優生条項のうち、4条による優生手術及び12条による優生手術に係る部分は、本人及びその配偶者の同意を要しないものであり、子をもうけるか否かについて意思決定をする自由を一方的に奪い、その意に反して身体に対する侵襲を受けさせるものであるから、憲法13条に違反することは明らかである。 エ優生保護法の優生条項が違憲であることは、以上で十分に認められる。 違反する憲法の規定の多寡が控訴人の被った損害の多寡に影響するもの ら、憲法13条に違反することは明らかである。 エ優生保護法の優生条項が違憲であることは、以上で十分に認められる。 違反する憲法の規定の多寡が控訴人の被った損害の多寡に影響するものではないので、以上のほかに、控訴人が主張するところの優生条項が憲法36条にも違反している旨等の主張については、判断を要しない。 ⑶ 本件優生手術の違憲性・違法性について ア上記⑵のとおり、優生保護法の優生条項は違憲であると認められるところ、認定事実⑽イのとおり、控訴人が本件優生手術を受けたことが認められ、本件優生手術時、控訴人は未成年者であり、これが控訴人の同意によるもの(優生保護法3条の定める「医師の認定による優生手術」)でないことは明らかであるから、本件優生手術が優生条項に基づくものであり、 憲法13条、14条1項で保障される人権を侵害するものであることが認められる。 イそして、本件優生手術が実施された当時、同法を所管していた厚生大臣は、国家公務員としての憲法尊重擁護義務(憲法99条)を負っており、本人の同意によらない優生手術(4条による優生手術又は5条による優生 手術)を実施しないよう、都道府県知事を指導すべき注意義務を負ってい たにもかかわらず、違憲・違法な優生手術をむしろ積極的に実施させていたものであり、被控訴人は、このような厚生大臣の公権力の行使たる職務行為につき、国賠法1条1項に基づく国家賠償責任を負うものと解される。 ウなお、本件優生手術については、4条による優生手術、12条による優生手術のいずれであったのかは必ずしも明らかではないところ、いずれで あったとしても、認定事実⑽によれば、控訴人に対する優生手術を適当と判断した宮城県優生保護審査会の審査が誤りであっ 条による優生手術のいずれであったのかは必ずしも明らかではないところ、いずれで あったとしても、認定事実⑽によれば、控訴人に対する優生手術を適当と判断した宮城県優生保護審査会の審査が誤りであった可能性が高く、同県知事の監督が不十分であったことが認められる。しかし、これらの手続違反、義務違反を理由として、本件優生手術が違法であったと認定するのは、相当ではない。上記⑵のとおり、優生条項自体が違憲であると認められる 以上、仮に優生条項上の手続を履践していたとしても、本件優生手術が違法であること自体は何ら影響されないからである。宮城県優生保護審査会の審査や同県知事の監督に優生条項上の手続違反、義務違反がなかったとしたら、本件優生手術は違法ではないという結論が不当であることは明白である。 控訴人を含む優生手術の被害者(以下、単に「被害者」という。)が、国賠法1条1項に基づき、損害賠償を請求するためには、優生保護法の優生条項に基づき、自らの同意なく優生手術(4条による優生手術又は12条による優生手術)を受けさせられたことの立証が必要であり、かつこれで足りるというべきである。 3 民法724条後段の規定の適用関係について 国賠法4条により適用される民法724条後段は、不法行為による損害賠償の請求権は、不法行為の時から20年を経過したときは消滅する旨を規定しており、これを本件に適用すると、本件優生手術は昭和32年2月又は3月頃に実施されたから、本件優生手術実施時が「不法行為の時」であるとす れば、控訴人の被控訴人に対する損害賠償請求権は、昭和52年2月又は3 月頃の経過をもって、消滅していることとなる。 しかし、控訴人は、このような結論は、著しく正義・公平の理念に反するもの 人の被控訴人に対する損害賠償請求権は、昭和52年2月又は3 月頃の経過をもって、消滅していることとなる。 しかし、控訴人は、このような結論は、著しく正義・公平の理念に反するものであり、本件には、民法724条後段は適用されない旨主張するので、以下検討する。 民法724条後段の法的性質について ア控訴人は、民法724条後段の法的性質について、除斥期間ではなく、消滅時効を定めたものであり、本件について民法724条後段が適用される旨の被控訴人の主張は、消滅時効の援用に当たり、信義則違反又は権利濫用として排斥される旨主張する。控訴人の主張は、①民法724条後段所定の期間を除斥期間であると判示した最高裁平成元年判決に合理的な 根拠はなく、最高裁平成10年判決や最高裁平成21年判決との整合性に問題があることに加え、②立法過程の議論、民法起草者の認識、学説の状況等からすれば、上記期間の法的性質は、除斥期間ではなく消滅時効であると解すべきであるというものである。 イしかし、最高裁平成10年判決及び最高裁平成21年判決は、いずれも 説示から明らかなとおり、最高裁平成元年判決の判断を前提として引用した上で、具体的な事情を考慮して、当該各事案については、民法724条後段の効果は生じないとしたものであり、その間に矛盾は認められない。 最高裁平成元年判決は、確立した判例法理であるといえる。除斥期間と解しても、結論の妥当性は、最高裁平成10年判決及び最高裁平成21年判 決のように、解釈により図ることも可能であり、直ちにこの判例法理を変更すべき理由があるとはいえない。改正後民法724条2号で20年の期間が消滅時効である旨明文で定められたが、同法改正附則35条1項により、改正法施行時(令和2年4月 能であり、直ちにこの判例法理を変更すべき理由があるとはいえない。改正後民法724条2号で20年の期間が消滅時効である旨明文で定められたが、同法改正附則35条1項により、改正法施行時(令和2年4月1日)に既に20年が経過していた場合には、なお従前の例によると規定されていることからすれば、改正後民法 が従前の民法の解釈や確立した判例法理を変更するものではないと解さ れるのであって、上記の解釈を左右するものではない。 ウよって、民法724条後段所定の期間の法的性質は除斥期間であると解され、これを消滅時効であると解すべきである旨の控訴人の主張は採用することができないから、同主張を前提とする控訴人の主張は、その前提を欠くものであるといわざるを得ない。 民法724条後段所定の期間の起算点についてア控訴人は、民法724条後段を除斥期間と解するとしても、所定の期間の起算点の判断に当たっては、「不法行為の時」という解釈を硬直的にせず、最高裁平成16年判決の趣旨を踏まえ、①損害の性質、②期間を進行させることが被害者に酷であること、及び③加害者の事情を検討して実質的に 判断するべきであるとして、本件では、民法724条後段の起算点を「不法行為の時」である本件優生手術時ではなく、「損害発生時」とすべきであり、具体的には、客観的に権利行使が可能となる程度に損害が顕在化した時点(控訴人に生じた損害が被控訴人による不法行為によるものであることが顕在化した時点)である平成30年1月の仙台訴訟の提起日とすべき であると主張する。 イしかし、民法724条前段が被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時を起算点とし、民法166条1項が消滅時効は権利を行使することができる時を起算点としているの あると主張する。 イしかし、民法724条前段が被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時を起算点とし、民法166条1項が消滅時効は権利を行使することができる時を起算点としているのと異なり、民法724条後段は、文言上明確に「不法行為の時」を起算点としているところ、不法行為時と は通常は加害行為時をいうものであって、損害の発生時期に左右されるものではないと解されることからすると、加害行為時を起算点とするものと解するほかはない。 ウ控訴人が援用する最高裁平成16年判決も、民法724条後段の除斥期間は、加害行為が行われた時に損害が発生する不法行為の場合には、加害 行為の時がその起算点になることを前提としつつ、身体に蓄積した場合に 人の健康を害することとなる物質による損害や、一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる損害のように、当該不法行為により発生する損害の性質上、加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合には、当該損害の全部又は一部が発生した時が除斥期間の起算点となるとしたものであるところ、ここで検討する本件優生手術の実施による不 法行為を請求原因とする損害賠償請求に関しては、損害の性質上、加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生するものとは認められない。 エよって、本件優生手術の実施による不法行為を請求原因とする損害賠償請求について、民法724条後段の除斥期間の起算点は、加害行為時であ る本件優生手術時(昭和32年2月又は3月頃)であるといわざるを得ない。 したがって、上記起算点を遅らせることによって、本件訴訟の提起が民法724条後段所定の期間経過前であったとすることはできない。 民法724条後段の適用制限につ わざるを得ない。 したがって、上記起算点を遅らせることによって、本件訴訟の提起が民法724条後段所定の期間経過前であったとすることはできない。 民法724条後段の適用制限について ア控訴人は、民法724条後段の規定が除斥期間を定めるものであるとしても、最高裁平成10年判決及び最高裁平成21年判決によれば、被害者による権利行使を同条後段規定の期間の経過によって排斥することが著しく正義・公平の理念に反するような特段の事情がある場合には、条理上、その効果を制限するべきであり、仮に上記各最高裁判決が、除斥期間の効 果を制限するには時効の停止規定等の根拠規定の存在することが必要であるという立場に立っているとしても、本件においては、加害者の性質、被害の重大性、加害行為の悪質性、権利行使に至った経緯等において上記にいう特段の事情があり、また、民法や条約の根拠規定も存在することから、その法意に照らし、除斥期間の効果を制限すべき場合である旨主張す る。 イ本件における特段の事情について 本件における特段の事情として、まず指摘されるべきものは、本件優生手術は、違憲ではあるが法令の手続に基づいて立法された優生保護法に基づき、被控訴人(国)の施策として、全国的かつ組織的に行われていた優生手術の一つとして実施されたものであるということである。被 控訴人が、法に基づき、施策として、被害者に対する強度の人権侵害を行った事案であり、被害者の多くは、特定の疾病又は障害を有することをもって、「不良」な子孫をもつことが防止されるべき存在として、優生手術の対象者として選定されるという差別を受けた上で、その意に反して、強度の侵襲を伴う不妊手術を受けさせられ、その生殖機能を回復不 て、「不良」な子孫をもつことが防止されるべき存在として、優生手術の対象者として選定されるという差別を受けた上で、その意に反して、強度の侵襲を伴う不妊手術を受けさせられ、その生殖機能を回復不 可能な状態にさせられたものであり、二重、三重にも及ぶ精神的・肉体的苦痛を与えられたものである。 被控訴人は、優生保護法制定当初から優生手術を積極的に推進し、学校教育の場においても、教科書に優生思想を正当化する旨の記載をする等しており、被控訴人の行った施策により、優生手術の対象者に対する 偏見・差別が社会に浸透したものと評価できる。また、被控訴人は、優生手術に際しては、身体の拘束、麻酔薬使用、欺罔の手段を用いることも許容される場合がある旨の昭和28年厚生省次官通知(甲A3)を各都道府県知事宛に発出し、これにより優生手術が行われてきたことによって、被害者が優生保護法に基づく手術であることを認識し難い構造的 な仕組みを構築してきたものである。そして、被控訴人は、昭和60年頃までには優生条項の人権侵害性及びその被害について認識できたものと解される(甲A140~142)にもかかわらず、平成8年まで法改正をせず、平成8年改正においても、優生条項の違憲性について明確に言及しないままであり、同改正後も優生保護法における優生手術は適 法である旨の見解を表明して、長期間にわたり被害の実態について調査 せず、優生手術を受けた者に対して権利を侵害されたものであることを知らせる等の被害に関する通知等の被害救済のための措置を執らなかったものであり、その結果、平成8年改正時には、ほとんどの被害者について、自己の受けた優生手術が、被控訴人による不法行為であることを認識できないまま、既に優生手術時から20年が経過していたことが ったものであり、その結果、平成8年改正時には、ほとんどの被害者について、自己の受けた優生手術が、被控訴人による不法行為であることを認識できないまま、既に優生手術時から20年が経過していたことが 認められる。 実際に、控訴人も、本件優生手術が被控訴人の政策である優生保護法に基づくものであることを誰からも知らされず、生殖機能を回復不可能な状態にさせる手術であることを知った後も、長らくこれが被控訴人による不法行為であると認識することができずにいたものである。 このような加害者側の事情は、民法724条後段の効果を制限すべきかどうかに当たり、十分に斟酌されなければならないというべきである。 憲法は国の最高法規であり(憲法98条1項)、国務大臣、国会議員等の公務員は、憲法を尊重し擁護する義務を負うものである(同法99条)ことからすると、憲法違反の法律に基づく施策によって生じた被害の救 済を、憲法より下位規範である民法724条後段を無条件に適用することによって拒絶することは、慎重であるべきである。 加えて、控訴人に生じた損害賠償請求権は、憲法17条に基づいて保障された権利である。確かに、憲法17条に基づく国家賠償制度の具体的、細目的な事項の設計や法制度化は、国会の合理的な裁量に委ねられ ており、これを具体化する法律として国賠法が規定され、国賠法4条は国家賠償制度においても民法724条後段を含む民法の不法行為制度を国家賠償制度に導入しているところである。 しかし、権力を法的に独占する国と私人との関係が問題となっている本件において、本来、対等な私人間の関係を規律する法律である民法の 条文の適用・解釈に当たっては、公務員の違法な行為に対して救済を求 法的に独占する国と私人との関係が問題となっている本件において、本来、対等な私人間の関係を規律する法律である民法の 条文の適用・解釈に当たっては、公務員の違法な行為に対して救済を求 める国民の憲法上保障された権利を実質的に損なうことのないように留意しなければならないというべきである。 そもそも、被害者が自己の受けた被害自体は認識していたとしても、それが不法行為により生じたものであることを認識できないうちは、加害者に対して損害賠償請求権を行使することは現実に期待できないの であるから、それ以前に当該権利が除斥期間の経過により当然に消滅するというのは、被害者にとって極めて酷であるといわざるを得ない。 国家賠償請求を含む不法行為制度の理念は、損害の公平な分担にあるところ、被控訴人は、平成8年改正後も、国連自由権規約委員会の勧告や日弁連の提言などがされているにもかかわらず、優生手術について十 分な調査をして、被害者が自己の受けた被害についての情報を入手できる制度を整備することを怠ってきたこと等からすると、除斥期間の経過という一事をもって、そのような被控訴人が損害賠償責任を免れ、被害者の権利を消滅させることは、被害者に生じた被害の重大性に照らしても、著しく正義・公平の理念に反するというべき特段の事情があるもの と認めるのが相当である。 ウ以上の事情を総合考慮すれば、優生手術の被害者が自己の受けた被害が被控訴人による不法行為であることを客観的に認識し得た時から相当期間が経過するまでは、民法724条後段の効果は生じないものと解するのが相当である。 エそこで、被害者において、自己の受けた被害が被控訴人による不法行為であることを客観的に認識し得たのはいつであるかを検討 法724条後段の効果は生じないものと解するのが相当である。 エそこで、被害者において、自己の受けた被害が被控訴人による不法行為であることを客観的に認識し得たのはいつであるかを検討するに、まず考えられるのが、優生保護法が改正された平成8年6月18日であるが、前記前提事実(ただし、当審における補正後のもの)⑵及び認定事実⑹のとおり、平成8年改正は、題名及び条文の文言の改正、4条による優生手術、 12条による優生手術等に関する条文の削除であって、一般人の目から見 ると、どこがどのような理由で改正されたのかは判然としないものであり、同改正後も被控訴人による積極的な広報活動等がされたことがうかがえないことからすれば、これをもって、被害者が自己の受けた被害が被控訴人による不法行為であることを客観的に認識し得るようになったものとは認め難い。 その後、認定事実⑻のとおり、日弁連が、平成27年6月に、後に仙台訴訟の原告の一人となった女性から人権救済の申立てをされたことを受けて、平成29年2月16日付けで日弁連意見書を発表し、平成30年1月に初めて優生手術の被害者による仙台訴訟が提訴されたこと等が認められるが、これらも他者が訴訟を提起したり、日弁連が意見書を発表した りしたというにとどまるのであり、被害者が自己の受けた被害が被控訴人による不法行為であることを客観的に認識し得るようになった状況としては、不十分であるといわざるを得ない。 しかし、平成31年4月24日、議員立法により一時金支給法(平成31年法律第14号)が制定されたことは、一つの転機として考慮し得る事 情であると考えられる。 認定事実⑼のとおり、一時金支給法は、その前文において、「昭和23年制定の旧優生保 成31年法律第14号)が制定されたことは、一つの転機として考慮し得る事 情であると考えられる。 認定事実⑼のとおり、一時金支給法は、その前文において、「昭和23年制定の旧優生保護法に基づき、あるいは旧優生保護法の存在を背景として、多くの方々が、特定の疾病や障害を有すること等を理由に、平成8年に旧優生保護法に定められていた優生手術に関する規定が削除されるまでの 間において生殖を不能にする手術又は放射線の照射を受けることを強いられ、心身に多大な苦痛を受けてきた。このことに対して、我々は、それぞれの立場において、真摯に反省し、心から深くおわびする。今後、これらの方々の名誉と尊厳が重んぜられるとともに、このような事態を二度と繰り返すことのないよう、全ての国民が疾病や障害の有無によって分け隔 てられることなく相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の 実現に向けて、努力を尽くす決意を新たにするものである。ここに、国がこの問題に誠実に対応していく立場にあることを深く自覚し、この法律を制定する。」と述べており、内閣総理大臣及び厚生労働大臣が、同法の成立を受け、同日、それぞれに謝罪の談話を公表したことに照らすと、同法の制定された平成31年4月24日頃になり、ようやく社会全体として、優 生保護法下における優生手術が違憲であり、被控訴人による不法行為を構成するものであることを明確に認識することが可能になったものと認めるのが相当である。 オ次に、上記平成31年4月24日から、どの程度の期間が経過するまでは、民法724条後段の効果は生じないものと解するのが相当かについて 検討するに、最高裁平成10年判決や最高裁平成21年判決は、いずれも一審原告の訴訟提起が可能となったと認められる時期から6 は、民法724条後段の効果は生じないものと解するのが相当かについて 検討するに、最高裁平成10年判決や最高裁平成21年判決は、いずれも一審原告の訴訟提起が可能となったと認められる時期から6か月以内に訴訟提起がされた事案において、「民法158条の法意に照らし」(最高裁平成10年判決)とか、「民法160条の法意に照らし」(最高裁平成21年判決)として、民法724条後段の効果は生じないとした。 しかし、本件は、民法724条後段を適用すると著しく正義・公平の理念に反する場合であることは、これらの事案と同様であるが、最高裁平成10年判決のような被害者が加害者の行為によって心神喪失になったという事情や、平成21年判決のような加害者の行為によって相続人が確定しなかったという事情のあった事案と異なり、時効停止の規定の法意を考 慮する際に参考とすべき法律上の規定が存しない。よって、民法158条及び160条を根拠とする6か月という期間は、本件においてそのまま適用することが相当であるとはいい難い。 そこで、上記のとおり、被害者が自己の受けた被害が被控訴人による不法行為であることを客観的に認識し得るようになった契機として考えら れる一時金支給法を見ると、その5条3項において、「請求は、施行日から 起算して5年を経過したときは、することができない。」と定め、21条において、「国は、特定の疾病や障害を有すること等を理由として生殖を不能にする手術又は放射線の照射を受けることを強いられるような事態を二度と繰り返すことのないよう、全ての国民が疾病や障害の有無によって分け隔てられることなく相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社 会の実現に資する観点から、旧優生保護法に基づく優生手術等(2条2項各号 ことのないよう、全ての国民が疾病や障害の有無によって分け隔てられることなく相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社 会の実現に資する観点から、旧優生保護法に基づく優生手術等(2条2項各号に掲げる者に係る生殖を不能にする手術又は放射線の照射をいう。)に関する調査その他の措置を講ずるものとする。」と定めている。これは、国会において、優生手術の被害者が障害者差別等の厳しい環境下に置かれていること等に鑑み、同法立法後もなお早期に請求することが困難である と考えられることを配慮して、国会が5年間の猶予期間を与え、さらに、国に対して調査等の義務を課しているものである(同義務は、具体的にその内容が定められているものではないが、22条が「国は、この法律の趣旨及び内容について、広報活動等を通じて国民に周知を図り、その理解を得るよう努めるものとする。」と定め、努力義務であることを明示している こととの対比から、より強い義務と解するのが相当である。)と解されることからすれば、同請求よりも困難である訴訟提起について、少なくとも一時金支給法の施行日から5年間の猶予を与えるのが相当であると解される。 カ以上によれば、被害者が自己の受けた被害が被控訴人による不法行為で あることを客観的に認識し得た時と考えられる一時金支給法の施行日である平成31年4月24日から5年間が経過するまでは、民法724条後段の効果は生じないものと解するのが相当である。 キ控訴人は、平成30年1月末頃、仙台訴訟が提訴されたことについて新聞を読んで知り、優生保護法及びこれに基づく優生手術というものがある ことを初めて知って、自分が受けた手術も同様のものではないかと考える に至り、同年2月2日には、仙台弁護士会の弁護士による優生手術 優生保護法及びこれに基づく優生手術というものがある ことを初めて知って、自分が受けた手術も同様のものではないかと考える に至り、同年2月2日には、仙台弁護士会の弁護士による優生手術を受けた者に対する電話相談に連絡し(甲1B20、21)、さらには同月23日に、宮城県知事に対して、本件優生手術に関して同県が作成した一切の記録について情報開示請求をするなどし(同請求については、文書保存期間が満了し、廃棄したことを理由に不存在である旨の決定がされた。甲1B 6、7)、同年5月17日、本件訴訟を提起するに至ったものであり、本件においては、民法724条後段の効果は生じないというべきである。 クこれに対し、被控訴人は、最高裁平成10年判決及び最高裁平成21年判決は、民法724条後段を形式的に適用すべきではない事案があることを肯定したものであるが、両判決の射程範囲は狭く、除斥期間の効果を制 限するに当たっては、除斥期間の規定を適用することが著しく正義・公平の理念に反する事情が認められることに加え、民法158条や同160条等の時効停止の根拠規定が存在すること(民法724条後段を消滅時効と解するならばまさに時効の停止規定の適用場面であること)を前提としているのであって、本件は時効の停止規定が適用されるような場合には当た らないから、除斥期間の規定の適用は制限されない旨主張する。 しかし、最高裁平成10年判決も最高裁平成21年判決も、民法724条後段の効果が生じないと判断し得る前提として、それぞれの事案に則した場合設定を行っているものではあるが、いずれも民法158条、160条等の根拠規定が存在することを明示的に要求しているものではなく、そ の「法意に照らし」、除斥期間の効果を制限すべきと判示するも 場合設定を行っているものではあるが、いずれも民法158条、160条等の根拠規定が存在することを明示的に要求しているものではなく、そ の「法意に照らし」、除斥期間の効果を制限すべきと判示するものである。 そして、ここにいう時効停止規定の法意とは、両判決が判示するところに照らせば、「権利行使が極めて困難ないし事実上不可能な場合に、被害者の権利が消滅し、その原因を作った加害者が責任を免れることは、著しく正義・公平に反する」という趣旨に解される。 そうすると、上記のとおり、本件においては、優生手術を受けたことを 認識できたとしても、優生手術が国策によるものであること、しかもそれが違憲な優生条項に基づくものであることについて、被控訴人の作為又は不作為により構造的に理解しにくくされている状況下で、被害者において、これが被控訴人による不法行為を構成するものであると明確に認識して権利行使をすることは、平成31年に一時金支給法が制定される頃までは 極めて困難ないし事実上不可能であったといえるから、このような場合に、不法行為時(本件優生手術実施時)から20年の経過をもって被害者の損害賠償請求権が消滅することを許容することは、著しく正義・公平の理念に反するということができる。 本件は、民法158条から161条までの時効停止規定が直接適用され るような事例ではないとしても、同法724条後段の効果を制限するのが相当であり、また、条理にもかなうというべきであり、このような帰結について、最高裁平成10年判決及び最高裁平成21年判決に反するものではないと解される。 ⑸ 以上のとおり、本件における控訴人の被控訴人に対する損害賠償請求権は、 民法724条後段の適用が制限される結果、除斥期間の経過により消 平成21年判決に反するものではないと解される。 ⑸ 以上のとおり、本件における控訴人の被控訴人に対する損害賠償請求権は、 民法724条後段の適用が制限される結果、除斥期間の経過により消滅したとは認められないから、被控訴人は控訴人に対し損害賠償責任を負うものと認められる。したがって、条約や国際慣習法により、民法724条後段の適用が制限されるか否かについて判断の必要はない。 4 控訴人が被った損害について 控訴人は、特定の疾病又は障害を有することをもって、「不良」な子孫をもつことが防止されるべき存在として、優生手術の対象者として選定されるという差別を受けた上で、その意に反して、強度の侵襲を伴う本件優生手術を受けさせられ、その生殖機能を回復不可能な状態にさせられたものであり、二重、三重にも及ぶ精神的・肉体的苦痛を与えられたものである。 加えて、控訴人は、本件優生手術を受けたことによって、「不良」、「劣性」と いう評価付けをされ、それゆえに、身近な家族にすら優生手術を受けたことを打ち明けることができずに葛藤を抱えてきている。 交通事故の損害賠償実務では、生殖機能の喪失と同義の「両側睾丸喪失」が生じた場合は、一般に後遺障害等級7級相当と解されていること、本件は、差別政策である優生政策の一環として、被控訴人が意図的に控訴人に傷害を加え たものであるから、その損害は交通事故事案のそれよりも重大であると考えられることに加え、本件に現れた一切の事情を斟酌すると、本件優生手術により控訴人が被った損害に係る慰謝料としては、1500万円をもって相当と認める。 5 その余の損害賠償請求について 仮に控訴人が主張する優生保護法の制定、優生政策の推進及び本件優生手術の実施を先行行 害に係る慰謝料としては、1500万円をもって相当と認める。 5 その余の損害賠償請求について 仮に控訴人が主張する優生保護法の制定、優生政策の推進及び本件優生手術の実施を先行行為とした作為義務違反に基づく不法行為又は特別の賠償立法に係る立法不作為に基づく不法行為が認められたとしても、これらに対する賠償額は、本件優生手術を実施されたこと自体による損害額を上回るものとは解されないから、上記の各請求については、判断する必要は認められない。 6 謝罪広告の必要性について 控訴人は、被控訴人による優生政策の遂行により、我が国に優生思想が固着し、優生手術を受けた者は、それが知れると周囲から忌避、排除され、劣等な存在として社会的評価を減ぜられるため、これらの偏見・差別等の被害を除去するためには、社会的評価の回復が必要であり、被控訴人は、優生政 策の遂行という先行行為に基づく作為義務として、権利侵害を除去する条理上の義務を負うとして、民法723条の法意に照らし、被害回復措置として原判決別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告をする義務があると主張する。 ところで、民法723条が、金銭賠償の例外として名誉回復処分を命じ得ることを規定している趣旨は、金銭による損害賠償のみでは填補され得ない、 毀損された被害者の人格的価値に対する社会的、客観的な評価自体を回復す ることを可能ならしめるためであると解すべきであり、このことに照らすと、名誉回復処分として謝罪広告の掲載が認められるのは、金銭賠償に加えて名誉回復のための措置を講じる必要性が特に高い場合に限られると解するのが相当である。 これを本件についてみると、控訴人の主張は、本件優生手術を受けたこと が明らかになれば、当該事実を知った者か のための措置を講じる必要性が特に高い場合に限られると解するのが相当である。 これを本件についてみると、控訴人の主張は、本件優生手術を受けたこと が明らかになれば、当該事実を知った者から偏見・差別の対象とされるのではないかとの恐れから、本件優生手術を受けた事実を対外的に明らかにできず、そのことにより精神的苦痛を被ったというものであり、控訴人の社会的名誉が現に低下・毀損されていることを前提として、その回復を図るために謝罪広告を求めるものではない。 また、仮に控訴人が本件優生手術を受けたことを知って偏見・差別の念を抱く者が存在するとしても、前記のとおり、控訴人の受けた本件優生手術が違憲な優生条項に基づく違法な権利侵害に当たることが本判決で認定されることにより、今後の偏見・差別の念が拡大することを相当程度防止する効果が期待できる。加えて、控訴人の受けた精神的損害は、前記のとおり、金銭 による相当額の賠償がされることによって相当程度回復が図られるものといえるから、これに加えて謝罪広告の掲載を命ずることが必要であるとは認められない。 したがって、控訴人の謝罪広告掲載の請求には理由がない。 7 違法確認の訴えの予備的追加の当否について 控訴人は、国賠法1条1項に基づく損害賠償請求(主位的請求)の請求原因のうち、予備的主張とする特別の賠償立法に係る立法義務違反の主張が認められない場合の予備的請求として、当審において訴えを変更し、控訴人に適切な補償を受けさせないことは違法であることの確認を求める旨の訴えを追加しているところ、上記のとおり、本判決においては、主位的請求について、本件優 生手術の実施による不法行為の主張に基づき一部理由があるものとして認容し たものであり、主位 の訴えを追加しているところ、上記のとおり、本判決においては、主位的請求について、本件優 生手術の実施による不法行為の主張に基づき一部理由があるものとして認容し たものであり、主位的請求に係るその余の各主張については判断の要はないところ、判断の要がない主張に対応する上記予備的追加の訴えも同じく判断の要はないというべきである。 なお、同訴えは、行訴法4条後段の「公法上の法律関係に関する確認の訴え」と解され、控訴人の当審における同訴えの追加は、民事訴訟に行政訴訟を併合 することを求めるものであるところ、行訴法41条2項、19条1項は、当事者訴訟に関連する請求に係る訴えを追加的に併合して提起することができる旨を定めているが、その逆の場合にも追加的に併合して提起することが許されるか否かについて直接定めた規定はない。しかし、行訴法は、行政事件の特殊性に鑑みて様々な特則を定め(23条、24条、33条1項等)、基本となる請求 とその関連請求との間には主従の区別をしているから、関連請求に係る訴えが民事訴訟の場合には、これを主として行政訴訟を従とすることは行訴法の予定するところではないと解される。 また、仮に民訴法143条に準じて、違法確認の訴えを追加する余地があるとしても、控訴審における追加的併合については、被控訴人の審級の利益に配 慮する必要があり、加えて、行訴法上の関連訴訟の控訴審における併合に当たっては、相手方の同意を要するとされていること(行訴法41条2項、19条1項、16条2項)からすると、本件においても、当審における訴えの追加的変更には相手方の同意を要するというべきである(最高裁昭和63年(オ)第1410号平成5年7月20日第三小法廷判決・民集47巻4号4627頁) ところ、被控訴人は も、当審における訴えの追加的変更には相手方の同意を要するというべきである(最高裁昭和63年(オ)第1410号平成5年7月20日第三小法廷判決・民集47巻4号4627頁) ところ、被控訴人は、控訴人の違法確認請求の追加的変更について、同意しない旨を明確に表明している。 したがって、いずれにせよ、当審において予備的に追加された控訴人の違法確認の訴えは不適法であり、却下を免れないといわざるを得ないが、上記のとおり、判断の要がないものであるから、主文に掲げることはせず、理由中で説 示することとする。 第4 結論以上のとおり、控訴人の請求は、被控訴人に対し、1500万円及びこれに対する平成30年6月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余はいずれも理由がないからこれらを棄却すべきところ、これと異なり、控訴人の請求 を全部棄却した原判決は失当であって、本件控訴は一部理由があるから、原判決を上記のとおり変更することとし、仮執行宣言については、本件事案の性質に鑑み、本判決が被控訴人に送達された日から14日が経過したときに仮に執行することができるものとする限度で付し、仮執行免脱宣言については、相当ではないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第12民事部 裁判長裁判官平田豊 裁判官酒井良介 裁判官中久保朱美 中久保朱美
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