平成16年5月27日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成14年(ワ)第1760号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成16年3月25日 主文 1 被告は,原告Aに対し,1億3383万4962円及びこれに対する平成14年5月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を,原告B及び原告Cに対し,各275万円及びこれに対する同日から各支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。 2 原告らのその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,これを5分し,その1を原告らの,その余を被告の負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 原告ら(1) 被告は,原告Aに対し,1億6403万1188円及びこれに対する平成14年5月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を,原告B及び原告Cに対し,各550万円及びこれに対する同日から各支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。 (2) 訴訟費用は被告の負担とする。 (3) 仮執行宣言 2 被告(1) 原告らの請求を棄却する。 (2) 訴訟費用は原告らの負担とする。 (3) 担保を条件とする仮執行免脱の宣言第2 事案の概要本件は,原告らが,被告の開設する被告病院において原告Aが重症仮死の状態で出生し,その後,同人が移動機能障害による身体障害者等級1級の認定を受けたことにつき,被告病院の担当医師らには,急速遂娩を可及的速やかに実施すべき義務を怠った注意義務違反があるなどと主張して,被告に対し,債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償として,原告Aにつき1億6403万1188円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成14年5月16日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を,原告B及び同Cにつき各550万円及びこれ して,原告Aにつき1億6403万1188円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成14年5月16日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を,原告B及び同Cにつき各550万円及びこれに対する同日から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。 1 前提となる事実当事者間に争いのない事実のほか,摘示した各証拠及び弁論の全趣旨によると,以下のとおり認めることができる。 (1) 原告Aは,原告B及び同Cの長男として,平成11年4月16日に出生した。被告は,名古屋市千種区a町b番地において,被告病院を開設している。 (2) 平成10年10月3日,原告Cが千葉県松戸市内のG産婦人科を受診したところ,妊娠11週で,分娩予定日が平成11年4月18日であると診断された(甲A1号証)。 原告Cは,里帰り出産のため名古屋市名東区にある実家に戻り,平成11年3月16日から同年4月13日までの間に被告病院を5回受診したが,その間,軽度の貧血が指摘された以外に妊娠経過に問題はなかった。 (3) 平成11年4月16日午前1時ころから原告Cに10分間欠の陣痛発作が生じたため,同日午前3時50分,原告B及び同Cは被告との間で,原告C及び当時胎児であった原告Aのために,同Aの出産について被告が産科医療機関として実験上必要とされる最善の注意義務を尽くして適切な医療行為を行うことを内容とする診療契約を締結し,原告Cは被告病院に入院した。 上記入院以後,原告Aが出生してH病院に搬送されるまでの経過は,別紙診療経過一覧表記載のとおりである(ただし,同一覧表記載の時刻のうち,午後4時30分以降,同57分までの時刻は被告の主張による。)。 (4) 原告Aは,平成12年4月10日,「疾病による移動機能障害」として身体障害者等級1級の認定を受けた ,同一覧表記載の時刻のうち,午後4時30分以降,同57分までの時刻は被告の主張による。)。 (4) 原告Aは,平成12年4月10日,「疾病による移動機能障害」として身体障害者等級1級の認定を受けた(甲C2号証)。 (5) 分娩監視装置は胎児心拍数と子宮収縮を連続的に測定,記録する装置であり,これにより分娩中の胎児心拍数をモニタリングする目的は,分娩中の児の状態が良好に保たれているか否かを確認して,胎児仮死を早期に発見し,死産や新生児の死亡率及び罹病率を減少させることにある。 徐脈とは,胎児心拍数が120bpm(beatsperminute)以下となる場合を指し,そのうち,胎児心拍数が100bpm未満となる場合は高度徐脈といわれる。通常,徐脈の原因としては,児低酸素症,児頭圧迫等が考えられ,特に高度徐脈は,それ自体,胎児仮死のサインとされているため,母体の一般状態を観察するとともに,内診を行って徐脈の原因を探り対応すべきものとされている。また,分娩末期に胎児心拍数基線(1分間の胎児の心拍数を示す基準の線)が正常脈(120ないし160bpm)から一過性徐脈に引き続き100bpm未満の徐脈に急激に移行する場合は,臍帯血行障害に起因する場合も多く,この状態で高度徐脈を3分以上放置することは大変危険とされている。一過性徐脈のうち,一過性徐脈の型及び子宮収縮とのタイミングが一定でないものを変動一過性徐脈といい,その発症機序は,臍帯の圧迫が児血圧を上昇させ,その結果,反射的に心拍低下を引き起こすものと考えられている。 2 争点及びこれに対する当事者の主張別紙争点整理表のとおり。 なお,同表記載の年月日はすべて平成11年4月16日を指す。 第3 争点に対する判断 1 前記前提となる事実,甲A2号証の3,甲A3ないし5号証,甲B8ないし10号証,甲C2, 紙争点整理表のとおり。 なお,同表記載の年月日はすべて平成11年4月16日を指す。 第3 争点に対する判断 1 前記前提となる事実,甲A2号証の3,甲A3ないし5号証,甲B8ないし10号証,甲C2,3,5号証,乙A2,3,7ないし9,11,14号証,乙B4号証の1,4,30,証人D及び同Eの各証言並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。 (1) 平成11年4月16日午前1時(以下,時刻のみを記載したものは平成11年4月16日を指し,月日のみを記載したものは平成11年を指す。)ころから,原告Cは,10分間欠の陣痛発作を認めたため,被告病院に電話でその旨を連絡し,原告Cの母に付き添われて午前3時50分に被告病院に入院した。入院時,看護師が内診したところ,児頭の位置はステーション-2であり,破水しておらず,出血も認められなかった。3ないし4分間欠で10ないし15秒の弱い陣痛発作があった。 入院時の胎児の状態を確認するため,午前4時20分ころから30分間,NST(NonStressTest。子宮収縮等のストレスのない状態で分娩監視装置を装着して胎児心拍等を観察するもの。)を実施したところ,胎児心拍数基線は140bpmであり,基線細変動も一過性頻脈も認められた。分娩監視装置記録上,1ないし2分間欠で60秒の陣痛発作があったが,原告C自身は,5ないし6分間欠で20秒程度の陣痛発作を感じていた。 午前7時,看護師が原告Cを内診したところ,児頭の位置はステーション-2のままであったが,子宮口開大度は4センチで,胎胞(子宮収縮に伴う子宮内圧の上昇により,羊水が頸管から剥離した子宮口付近の卵膜と児頭の間に流入し,その結果,卵膜が羊水をたたえて子宮口から膨隆した状態)及び出血が認められた。 (2) 午前7時ころ,原告Cは陣痛室に移動し,同8時3 より,羊水が頸管から剥離した子宮口付近の卵膜と児頭の間に流入し,その結果,卵膜が羊水をたたえて子宮口から膨隆した状態)及び出血が認められた。 (2) 午前7時ころ,原告Cは陣痛室に移動し,同8時30分ころ,看護師が,原告Cを内診したところ,子宮口開大度5センチ,児頭の位置はステーション-2であり,1ないし3分間欠で60秒の陣痛発作があった。同時刻ころから,原告Cに分娩監視装置が装着された。 被告病院では,看護師の勤務態勢として,午前8時30分から午後5時までの日勤と,午後4時30分から翌午前9時までの夜勤の二交代制を採っていたため,午前8時30分ころから同9時ころまでの間に,夜勤の看護師と日勤の看護師との間で申し送りが行われ,同日の日勤であったE准看護師は,夜勤の看護師から原告Cの状態について申し送りを受けた。 午前9時50分,被告病院の院長が陣痛室を訪れ,原告Cを内診したところ,子宮口開大度は5ないし6センチで胎胞が認められたが,子宮口が硬かったため,原告C及び付き添っていた同原告の母に対し,「子宮口の開きが悪いので3時間おきに注射します。 赤ちゃんは順調です。」などと説明して,Eに対しマイリス(子宮頸管熟化薬)200ミリグラムの静脈注射を指示し,Eがこれを行った。(甲A4,5,乙A2,証人E)午前11時45分ころ,Eが原告Cを内診したところ,子宮口開大度6ないし7センチ,児頭の位置はステーション-1ないし±0で,胎胞及び出血が認められた。また,Eがナースステーションで分娩監視装置のセントラルモニター画面を確認したところ,胎児心拍数基線は140bpmで,基線細変動も認められた。(乙A2,証人E)午後1時ころ,Eは陣痛室を訪れ,原告Cに対し,二度目のマイリス200ミリグラムの静脈注射を行った。また,このころ,原告Cには多少息む動作もみられ bpmで,基線細変動も認められた。(乙A2,証人E)午後1時ころ,Eは陣痛室を訪れ,原告Cに対し,二度目のマイリス200ミリグラムの静脈注射を行った。また,このころ,原告Cには多少息む動作もみられた。(乙A2)午後2時30分ころ,原告Cから息みたい旨の訴えがあり,Eが原告Cを内診したところ,子宮口開大度7ないし8センチ,児頭の位置はステーション±0ないし+1で,胎胞及び出血が認められ,また,児心拍は良好であった。上記内診の後,Eが,院長に原告Cの経過を報告したところ,院長は,子宮口の開大がなかなか進まないことなどを考慮して,人工破膜を施行するようにEに指示をした。 午後3時50分ころ,Eは,陣痛室を訪れ,原告Cに対し,「早く楽になるようにしましょうね。」などと言って人工破膜を施行し,内診したところ,子宮口開大度6ないし7センチであった。また,Eは,原告Cに対して,3回目のマイリス200ミリグラムの静脈注射を行った。その後,陣痛が増強し,原告Cに息みが生じて呼吸がうまくできていない様子であったことから,Eは原告Cに呼吸法を説明した。(甲A4,5,乙A2,9,証人E)(3) 午後4時25分ころ,原告Cから息みの訴えがあり,Eが内診したところ,子宮口は上部辺縁を残すのみで全開大に近い状態になっていたため,Eは,息みに合わせて子宮口の上部に手を添えれば,同部が上に上がり子宮口が全開大になると考え,原告Cに息んでもらいながら子宮口の上部に指を添えたところ,子宮口が全開大になり,再度,羊水が流出したが,このときから原告Cは急激な痛みを感じていた。また,午後4時29分ころ,胎児心拍が80ないし90bpm台に下降し,陣痛室内の分娩監視装置の送信機から聞こえてくるドプラ音から胎児心拍の低下に気付いたEは,直ちに原告Cを分娩室に移すこととした。ナースステー 時29分ころ,胎児心拍が80ないし90bpm台に下降し,陣痛室内の分娩監視装置の送信機から聞こえてくるドプラ音から胎児心拍の低下に気付いたEは,直ちに原告Cを分娩室に移すこととした。ナースステーション内にいた看護師らも,ナースステーション内にある分娩監視装置のセントラルモニター画面で胎児心拍の低下に気付いたため陣痛室に直ちに駆けつけ,Eに協力して原告Cをストレッチャーに移して分娩室へ運んだ。午後4時30分ころ,Eらは,原告Cを分娩室に入室させて分娩台の上に移動させ,これとほぼ同時に,Eは,分娩室内の分娩監視装置から記録紙が排出されるようスイッチを入れた。 なお,原告らは,看護記録(乙A2号証)の午後4時29分の「KHT80~90代下降あり」との記載及び午後4時30分の「入分娩室」との記載は,いずれもその時刻の正確性に疑問がある旨主張するが,乙A4,14号証及び証人Eの証言に照らせば,看護記録の上記時刻が誤りであるとまで断定することはできない。(甲A4,5,乙A2,9,14,証人E)(4) 分娩室入室後,Eらは,直ちに原告Cに対し酸素投与を行い,また,分娩の準備として,陰洗及び導尿の処置を行うとともに,分娩監視装置から排出される記録紙を見ながら内診をして児頭の下降具合をみたり,原告Cに対して「頭が見えてますよ。」などと声をかけて息ませていた。 午後4時32分ころ,胎児心拍が140bpm台の心拍数基線に回復した。書類の整理等のためにナースステーションにいたD医師は,看護師から原告Cを分娩室に移動させた旨の報告を受けたことから,様子を見るために分娩室をのぞいたが,児心拍は既に回復し,直ちに分娩に至らない状況であることをEらに確認して,再びナースステーションに戻った。(甲A4,乙A2,8,9,14,証人E)胎児心拍が140bpm台の胎児心拍数 をのぞいたが,児心拍は既に回復し,直ちに分娩に至らない状況であることをEらに確認して,再びナースステーションに戻った。(甲A4,乙A2,8,9,14,証人E)胎児心拍が140bpm台の胎児心拍数基線に回復してからも,午後4時33分,同35分及び同36分ころに一過性の徐脈が出現し,同38分ころに胎児心拍が100ないし110bpm台に下降した後は,ほぼ120bpm台に回復することなく,上下に若干変動しながら全体的には徐々に下降していったが,Eらはその間,児頭の下がり具合をみながら,原告Cを息ませていた。午後4時49分過ぎころから,児心拍が100bpmを切ったため,看護師がナースステーションのD医師に上申したが,D医師も,ナースステーション内の分娩監視装置のモニター画面で児心拍が100bpmを切ったことを確認していたため,自ら直ちに分娩室に駆けつけ,原告Cを内診し,自然分娩ではまだ時間がかかり,直ちに娩出させることは不可能であると判断し,急速遂娩を決定した。D医師は,吸引分娩の方が安全性が高いと考え,まず吸引分娩を試みることにし,看護師らに吸引の準備を指示した。看護師らは吸引器を分娩室の棚から出して包装を外すなどの準備を行い,D医師は,看護師らに用意させた麻酔注射筒を使って会陰部の麻酔を行い,会陰切開を施行した。そして,吸引器に吸引カップを装着させて,カップが陰圧となることを確認した後,膣壁がカップに挟み込まれないよう慎重に児頭に装着し,加圧しながら仮牽引を行って児頭に十分装着されていることを確認し,次の陣痛に合わせて原告Cに息んでもらいながら,圧を上げて吸引したが,吸引カップが滑脱したため,再度,慎重に吸引カップを児頭に装着し,同様に陣痛に合わせて息んでもらいながら吸引したが,再度,滑脱してしまった。そこで,D医師は,吸引分娩ではなく,鉗 を上げて吸引したが,吸引カップが滑脱したため,再度,慎重に吸引カップを児頭に装着し,同様に陣痛に合わせて息んでもらいながら吸引したが,再度,滑脱してしまった。そこで,D医師は,吸引分娩ではなく,鉗子分娩を施行することとし,看護師らに鉗子の用意をさせ,陣痛の間欠時に鉗子を児頭に装着し,仮牽引を行って装着を確認した後,陣痛に合わせて息んでもらいながら牽引したところ,児頭が発露となったため,鉗子を外し,更に息ませながら娩出を促した。その結果,午後5時5分,娩出となった。 しかし,原告Aに啼泣はなく,全身色蒼白で,心拍数は60程度であり,自発呼吸も鼻腔刺激反射もなく,筋緊張はだらりとした状態であったため,直ちにマスクで酸素投与を行い,午後5時10分ころから酸素3リットルの気管挿管を行い,午後5時15分ころ,メイロン(薬物中毒治療薬)5cc等を注射したところ,午後5時25分ころから自発呼吸が徐々にできるようになり,点滴によるメイロン10ccの側注等をした。午後5時30分ころには開眼し,同37分ころには体動が認められ,全身色も比較的良好になってきた。午後6時15分,重症新生児仮死として,I病院経由でH病院のNICU(新生児集中治療室)に搬送され入院となった。(乙A3,7,甲A2の3)(5) H病院のNICUに入院時,自発呼吸はみられたがやや弱く,四肢は動き,皮膚色も良好であったが,口をピクピクさせる痙攣様の動きや四肢の突っ張り等がみられ,フェノバール(抗てんかん薬)20mg/kgが投与された。血液ガスはph7.405,BE-6.4と正常値であった。胸部レントゲン写真上は,軽度のMAS(胎便吸引症候群。胎便により汚染された羊水を吸引して起こる呼吸障害)を認める程度であったが,入院後は間欠強制呼吸(IMV)で管理した。大泉門がやや膨隆気味であったため, トゲン写真上は,軽度のMAS(胎便吸引症候群。胎便により汚染された羊水を吸引して起こる呼吸障害)を認める程度であったが,入院後は間欠強制呼吸(IMV)で管理した。大泉門がやや膨隆気味であったため,グリセオール(利尿薬。頭蓋内圧亢進,頭蓋内浮腫等の治療に用いられる。)5ml/kgを4日間投与し,フェノバールは8mg/kg/日の投与を継続した。入院当日以降,痙攣はみられなかったが,筋緊張が逆に低下し,排尿には圧迫を要した。日令3日時点以降の呼吸は完全に人工呼吸器依存となり,また,日令7日時点までは嗜眠傾向が続いていた。日令6日時点の頭部CTでは,全体にやや浮腫状が認められ,日令7日時点には,腕を動かしたり,舌を動かしたりする体動がわずかに出現し,以後,順次体動が増加するようになった。人工呼吸器に依存していた自発呼吸も,このころから少しずつ出現し始めた。(甲A2の3,乙A7)(6) 4月26日(日令10日),原告Cらの強い希望により,原告Aは,人工呼吸器を使用した状態でI病院のNICUに転送された。同病院に入院後,血液検査,胸部レントゲン検査並びに頭,心及び腎の超音波検査を行ったが問題はなく,痙攣もみられなかった。翌27日,肺含気は良好で自発呼吸もまずまずできていたため,人工呼吸器の抜管が試みられ,4月30日には酸素投与が中止となった。同月27日ころから原告Aの哺乳量が徐々に増え,5月2日には保育器から出ることができるようになった。同月10日に実施した頭部CT検査では,前頭葉から側頭葉にかけて低吸収域と萎縮が認められ,ABR(聴覚性脳幹反応。小児の難聴,聴神経腫瘍,脳幹障害等の診断に有用とされている。)では,ぎりぎり正常範囲内であるが経過観察が必要と診断された。EEG(脳波検査)では,スパイク波は認められなかったが,全体的に活動性が少なめの 難聴,聴神経腫瘍,脳幹障害等の診断に有用とされている。)では,ぎりぎり正常範囲内であるが経過観察が必要と診断された。EEG(脳波検査)では,スパイク波は認められなかったが,全体的に活動性が少なめのような所見であった。5月12日,担当医師は,原告C及びその母に対し,原告Aの頭部CT検査の結果,前頭葉に萎縮が認められること,EEGでは異常は認められないこと,ABRの結果,脳幹の機能にも問題がないと考えられること,原告Aの出生時のエピソードからすると回復状況は良好で被害は予想より少ないこと,今後の運動機能及び知能の障害の有無については現段階では予測できず,経過観察を行う必要があることなどを説明した。(甲A3)(7) 5月14日,原告Aは,I病院を退院し,その後,約2か月間,同病院に通院し,7月に原告Cとともに千葉県松戸市の自宅に戻った。以後,原告Aは,J病院,K病院などで定期的に診察を受け,また,移動能力,作業能力,言語能力及び知的能力のリハビリのため,Lセンター,Mセンター,N病院等に通院又は入院するとともに,ボランティアの協力を得て家庭にて毎日ドーマン法のリハビリを行った。また,O医院等で内斜視の治療を受けたり,てんかんの治療のためPクリニックに通院するなどもしていた。(甲C3,5)(8) 平成12年4月10日,原告Aは,千葉県から「疾病による移動機能障害」として身体障害者等級表1級の認定を受けた。原告Aは,現在,坐位及び立位がとれず,移動は床に腹をつけて手の力だけで進むずり這いで行っている状態であり,手の動作は,物をつまんだり,マジックテープを外したりという作業は可能である。言語能力は,話し言葉がほとんど出ない難語レベルであり,また,てんかんのために朝晩2種類の抗痙攣薬を服用している。(甲C2,3)(9) 胎児心拍数図の読み方とその を外したりという作業は可能である。言語能力は,話し言葉がほとんど出ない難語レベルであり,また,てんかんのために朝晩2種類の抗痙攣薬を服用している。(甲C2,3)(9) 胎児心拍数図の読み方とその意義についてア胎児心拍数図上の一過性変動のない部分の10分間程度の平均的な心拍数を胎児心拍数基線という(乙B4号証の1)。胎児心拍数基線が120ないし160bpmの間にあるものを正常脈,161bpm以上のものを頻脈,120bpm未満のものを徐脈という。 イ 1分間に2サイクル以上の心拍数基線の変動を胎児心拍数基線細変動といい,振幅が6ないし25bpmのものを正常の細変動,振幅がはっきりしないものから5bpm以下のものまでを細変動の減少又は低下,振幅がないものを細変動の消失と評価する。 (甲B10号証,乙B4号証の1及び4)ウ一過性頻脈とは,心拍数が,開始から頂点までが急激(30秒未満)で15bpm以上増加し,元に戻るまでの持続が15秒以上2分未満のものをいう。(乙B4号証の4)エ変動一過性徐脈とは,心拍数が心拍数基線より子宮収縮に関係して,開始から最下点まで30秒未満で15bpm以上下降し,開始から元に戻るまで15秒以上2分未満を要するものをいう。(甲B10号証,乙B4号証の4)遷延一過性徐脈とは,心拍数が,開始から最下点まで30秒未満で15bpm以上下降し,開始から元に戻るまでの時間が2分以上10分未満のものをいう。10分間以上持続する徐脈は,心拍数基線の変化とみなす。(甲B10号証,乙B4号証の4)オ ①胎児心拍数基線が120ないし160bpmの間にあり,②基線細変動が5bpm以上に保たれ,③一過性徐脈がなく,④一過性頻脈が認められる胎児心拍数パターン(波形)は,胎児の状態は良好であると判断でき,「安心(reassuring)」な心拍数 の間にあり,②基線細変動が5bpm以上に保たれ,③一過性徐脈がなく,④一過性頻脈が認められる胎児心拍数パターン(波形)は,胎児の状態は良好であると判断でき,「安心(reassuring)」な心拍数パターンと評価できる。これに対し,正常でない波形が出現した場合を「安心できない(non-reassuring)」心拍数パターンと呼ぶこともある。(甲B8ないし10号証,乙B4号証の30) 2 急速遂娩を可及的速やかに実施すべき義務を怠った過失の有無について(1) 分娩室入室前の分娩監視義務違反について原告らは,被告病院の担当医師らは原告Cに人工破膜を施行した午後3時50分以降,分娩監視装置を装着して分娩監視を行うべきであったのにこれを怠った旨主張する。しかし,前示のとおり,午前8時30分ころから原告Cには分娩監視装置が装着され,陣痛室では送信機からのドプラ音により,また,ナースステーションではセントラルモニター画面により児心拍の変化を継続的に確認し得る状態であったものであり,前記認定事実,乙A2号証及び証人Eの証言によれば,分娩室入室までの間,Eがナースステーションのセントラルモニター画面及び陣痛室の送信機のドプラ音で,胎児心拍数基線が140bpm台で推移していることを確認していたことが認められる。さらに,前示のとおり,午後4時29分ころに児心拍が80ないし90bpm台に低下した際には,Eは陣痛室内の送信機のドプラ音の変化で直ちにこれに気付き,また,ナースステーションにいた他の看護師らも,セントラルモニター画面により児心拍の低下に気付いて陣痛室に駆けつけ,Eとともに原告Cを直ちに分娩室に移動させるという処置を採ったのであるから,分娩室入室前の時点においては,分娩監視に不適切なところがあったものとまで認めることはできない。 よって,この点に関する ,Eとともに原告Cを直ちに分娩室に移動させるという処置を採ったのであるから,分娩室入室前の時点においては,分娩監視に不適切なところがあったものとまで認めることはできない。 よって,この点に関する原告らの主張は採用できない。 (2) 胎児仮死を疑う危険な徴候の存在についてア分娩室入室前に出現した一過性の高度徐脈について(ア) 前記認定事実及び別紙分娩監視装置記録によれば,本件においては,胎児心拍数基線が140bpm台で推移していたところ,午後4時29分ころに突然,胎児心拍が80ないし90bpm台に下降し,分娩室入室直後の午後4時30分から同31分にかけて,100ないし110bpm台と90bpm台との間を上下に変動しながら,同31分過ぎころから上昇し始め,同32分には正常脈に回復したことが認められ,下降度50ないし60bpm台,高度徐脈の持続時間が1ないし2分程度,正常脈に回復するまでに要した時間が3ないし4分程度の一過性の高度徐脈であり,前記1(9)エの定義に従えば,変動一過性徐脈又は遷延一過性徐脈と評価することができる。 (イ) 上記の一過性の高度徐脈について,I病院産婦人科第一部長のF医師は,臨床上,一般的には児頭の下降によってみられる児頭圧迫に起因する迷走神経反射によるものと考えられ,徐脈の出現直後から午後4時39分ころまでは一過性頻脈がみられて胎児の健康状態が不良であったとは理解し難いから,上記の徐脈の時点で胎児ジストレスが存在したとは考え難い旨述べている(乙B3号証)。また,D医師は,子宮口が全開大した時点で変動一過性徐脈が起こることは珍しくなく,上記の一過性の高度徐脈については児頭の圧迫による一過性徐脈と考えた旨述べる(証人D)。 (ウ) 確かに,「子宮口が全開近くなってから児娩出直前までの間,変動一過性徐脈が出現することが は珍しくなく,上記の一過性の高度徐脈については児頭の圧迫による一過性徐脈と考えた旨述べる(証人D)。 (ウ) 確かに,「子宮口が全開近くなってから児娩出直前までの間,変動一過性徐脈が出現することが多い。」(「ナースのための産科看護手順」1996年。甲B3号証),「分娩第2期に高度変動一過性徐脈が出現することがあるが,これは臍帯圧迫によるものではなく,頭部圧迫のためと考えられている。」(「産婦人科治療 Vol.78」甲B10号証)旨の各指摘によれば,上記の一過性の高度徐脈の出現のみから直ちに胎児仮死の状態が存在したものと推認することはできないというべきである。 しかし,子宮口が全開近くになってから児娩出直前までの間に出現する変動一過性徐脈は,陣痛が終わるとすぐに元に戻り,陣痛の間欠期には一過性頻脈及び基線細変動がよく保たれているような場合には児の状態が悪くないとされている(甲B3号証)ところ,別紙分娩監視装置記録によれば,本件では,分娩室入室直後は陣痛の間欠期であったにもかかわらず,児心拍は90bpm台から110bpm台の間を上下に変動しており,陣痛の終了に合わせて直ちに140bpm台の心拍数基線に回復する状況ではなかったものと認められるから,本件の一過性の高度徐脈を,児娩出直前までの間に出現することの多い典型的な変動一過性徐脈であると直ちに評価することはできないというべきである。また,「ペリネイタルケア2001 vol.20 no.4」(甲B8号証)は,経過観察可能な変動一過性徐脈として,①徐脈の持続が45秒を越えない,②心拍数の基線への復帰が速やかである,③基線の心拍数は正常で,細変動も正常に保たれているとの3項目を挙げているところ,前示のとおり,本件で分娩室入室前に生じた一過性の高度徐脈は,100bpm未満の高度徐脈の持続時間が1ない やかである,③基線の心拍数は正常で,細変動も正常に保たれているとの3項目を挙げているところ,前示のとおり,本件で分娩室入室前に生じた一過性の高度徐脈は,100bpm未満の高度徐脈の持続時間が1ないし2分程度で,正常脈に回復するまでに3ないし4分程度要したものであるから,必ずしも,単にそのまま経過観察をしていてよい一過性の徐脈とは評価できない。「100ないし120bpmの軽度徐脈では基線細変動が正常であれば胎児ジストレスは少ない。しかし,100bpm以下の高度徐脈や突然30bpm以上低下し2分以上持続する遷延性徐脈では,母体低血圧や過強陣痛などによる低酸素血症が考えられる。」旨の指摘(「周産期医学vol.31 no.11」2001年。乙B4号証の5)によれば,下降度が50ないし60bpmで,正常脈に回復するまでに3ないし4分程度要した本件の一過性の高度徐脈は,低酸素血症の可能性を考え得る徐脈であったと解することができる。 以上によれば,本件における上記の一過性の高度徐脈は,胎児仮死などの危険な徴候を示すものである可能性も十分考えられたものと解するのが相当であり,上記の可能性を念頭に置いた上で,その後の経過をより慎重に観察し,胎児仮死などの危険な状態の有無を判断する必要があったというべきである。なお,前示のとおり,本件では,午後4時32分ころからは胎児心拍は正常脈に回復し,また,別紙分娩監視装置記録によれば,一過性頻脈もみられる状況であったものと認められるが,甲B8ないし10号証によれば,安心な心拍数パターンと評価するためには,その状態がある程度持続していることが必要であるものと解されることに照らすと,午後4時32分以降の児心拍の回復のみから直ちに,本件で出現した高度徐脈が単なる児頭圧迫による一過性のものと判断することは相当でないというべき していることが必要であるものと解されることに照らすと,午後4時32分以降の児心拍の回復のみから直ちに,本件で出現した高度徐脈が単なる児頭圧迫による一過性のものと判断することは相当でないというべきである。 イ一過性の高度徐脈出現後の経過について(ア) 前示のとおり,本件では,一過性の高度徐脈が出現した後,胎児心拍は,午後4時32分ころに正常脈に回復したものの,その後も一過性の徐脈を2,3回繰り返し,同38分ころに100ないし110bpm台に下降してからは,正常脈に回復することなく,若干の変動を伴いながら全体的には徐々に下降し,同49分の半ば過ぎころから100bpmを切ったものである。 午後4時49分ころまでの上記の胎児心拍の変動について,F医師は,午後4時40分ころ以降は,徐々に胎児心拍が減少しているが,この時点では10bpm前後の基線細変動が認められるから,ジストレスがあったとは解し難く,仮にあったとしても非常に軽度であり,午後4時49分ころまでは,胎児心拍が100bpm以上であって基線細変動も認められるから,臨床経験上,胎児心拍の回復を期待できる状況とも考えられる旨述べている(乙B3号証)。また,この点について,D医師は,基線細変動は午後4時49分の半ばころから減少している旨述べているが,午後4時36分から同37分にかけての一過性の徐脈は安心できない心拍数パターンと解され,分娩室入室前の一過性の高度徐脈及び午後4時38分以降の持続的な徐脈と併せて胎児に徐々にストレスが加わってきていることが考えられる旨も述べている(証人D)。 (イ) 基線細変動の変化についてa 「遅発一過性徐脈の症例のうちの細変動低下群では,細変動が正常な場合と比較して,有意にアシドーシスが進行していることが判明し,より重症の胎児仮死を示す所見であることが明らかに 変動の変化についてa 「遅発一過性徐脈の症例のうちの細変動低下群では,細変動が正常な場合と比較して,有意にアシドーシスが進行していることが判明し,より重症の胎児仮死を示す所見であることが明らかになった。」(甲B2号証),「一過性頻脈と基線細変動の有無は,胎児が危険な状態か否かを知るのに大切な手がかりとなる。」(甲B3号証),「正常の細変動は6ないし25bpmで,細変動が正常に保たれていることが確認できれば胎児が重症の酸血症に陥っていることは少ないと思われる。」(甲B8号証),「基線細変動の減少,消失は胎児アシドーシスの最も重要な指標である。」(乙B4号証の1),「LTV(長期細変動。一般に単に基線細変動と呼ぶときはLTVを指す。)の振幅が正常より抑制された状態をdecreasedvariabilityと呼び,注意を要する段階と判断する。更に抑制され振幅が5bpm未満で周期が毎分2回以下の状態をlossofvariabilityと呼び,胎児低酸素症又は胎児アシドーシスの状態である可能性が高い。」(乙B4号証の5)旨の各指摘によれば,基線細変動の減少,消失は,胎児仮死の徴候を示す重要な指標であると解することができる。 b 前示のとおり,F医師及びD医師は,本件においては午後4時49分ころまで基線細変動が正常に保たれている旨述べている。 しかし,前記のとおり,基線細変動とは,1分間に2サイクル以上の胎児心拍数基線の細かい心拍数の変動を指し,振幅が6ないし25bpmの場合を正常と評価すべきものであるところ,別紙分娩監視装置記録によれば,午後4時42分ころまでは,1分間に2回以上の6bpmを超える程度の振幅を認めることができるが,同42分から同44分までの間については,1分間に数回の振幅を認め得るものの,これらの振幅が6bpm以上のものであ 分ころまでは,1分間に2回以上の6bpmを超える程度の振幅を認めることができるが,同42分から同44分までの間については,1分間に数回の振幅を認め得るものの,これらの振幅が6bpm以上のものであるとは認め難いから,この間の基線細変動は減少しているものと評価できる。そして,別紙分娩監視装置記録によれば,午後4時44分以降,明確に認められる変動は,1分間に1サイクル程度であるところ,当時,原告Cに1分間欠で陣痛発作が起きていたことからすれば,上記の変動は陣痛発作と連動して生じたものである可能性も考えられ,また,上記の変動とは別に1分間に数回程度のわずかな振幅を認め得るところもある。別紙分娩監視装置記録は1分間を1センチで記録したものであるところ,これについて,「紙送り速度1分1センチは,細かい波形がつぶれて微妙な変化が判定しにくい。」(甲B3号証),「胎児心拍数図の判読は,グラフの肉眼的なパターン分類によりなされるので,画面の縦横のスケールによりパターンの認識が異なる場合があり,それを防ぐために横のスケールとしては1分間を3センチの幅で記録することが推奨されている。」(乙B4号証の1)旨の各指摘がされているのであり,これらの指摘をも併せ考慮すれば,午後4時44分以降の1分間に1サイクル程度の胎児心拍の変動を基線細変動と評価し得るものであるか疑問が残るといわざるを得ず,同38分以降の胎児心拍の変動及び基線細変動の各状況に照らせば,午後4時44分以降の上記の変動は,陣痛発作に関連した変動であって,基線細変動自体は,午後4時42分以降の前記の基線細変動の減少に引き続いて減少していたと解する余地があるというべきである。仮に,午後4時44分ころ以降の1分間に1サイクル程度の変動が基線細変動であったとしても,基線細変動は通常1分間に2サイクル以上であ の減少に引き続いて減少していたと解する余地があるというべきである。仮に,午後4時44分ころ以降の1分間に1サイクル程度の変動が基線細変動であったとしても,基線細変動は通常1分間に2サイクル以上であるから,上記の変動を正常な基線細変動と評価することはできないというべきであり,午後4時42分から同44分ころまでの基線細変動の減少と併せて,同42分ころ以降の基線細変動は正常でないものと認めるのが相当である。 (ウ) 午後4時49分ころまでの徐脈について前示のとおり,本件では,午後4時32分ころに胎児心拍が140bpm台の心拍数基線に回復してから一過性の徐脈が2,3回出現し,午後4時38分以降は100ないし110bpm台の徐脈が継続していたものであるが,D医師は,児心拍が120bpmを切ることは珍しくなく,その状態が継続しても急速遂娩の適応にはならない旨述べる(証人D)。 しかし,「細変動もよく保たれ,一過性徐脈もみられない分娩時の軽度徐脈は,特に問題とはならない。」(甲B4号証),「基線細変動の減少を伴わない軽度徐脈は胎児仮死とは診断しない。」(乙B4号証の1)及び「100ないし120bpmの軽度徐脈では基線細変動が正常であれば胎児ジストレスは少ない。」(乙B4号証の5)旨の各指摘,並びに「しっかり基線細変動を有し,軽度徐脈であれば,時間に関係なく経過観察を継続できる。」旨の証人Dの証言によれば,軽度徐脈の場合においても,基線細変動が正常でなければ胎児仮死の危険性を考慮すべきものと解されるのであり,前示のとおり,午後4時42分ころ以降の基線細変動は正常でないものと認められるのであるから,午後4時49分ころまでの徐脈を単に経過観察を継続してよい軽度徐脈と解することはできない。 そして,乙B4号証の1には「分娩中の低酸素状態やアシドーシスによる徐脈は でないものと認められるのであるから,午後4時49分ころまでの徐脈を単に経過観察を継続してよい軽度徐脈と解することはできない。 そして,乙B4号証の1には「分娩中の低酸素状態やアシドーシスによる徐脈は,通常,徐脈出現前に心拍数パターンの何らかの異常が認められ,徐々に進行した胎児状態の悪化が重度に陥った結果と考えられ,速やかな処置が要求される。この場合,基線細変動の減少又は消失を伴うことが多い。」,「基線細変動の減少,消失の原因としては,①胎児のアシドーシス,②母体への薬剤投与,③胎児疾患,④在胎週数の早い胎児及び⑤胎児のnon-REMstateが考えられ,上記のうち②ないし⑤が否定されたときは胎児仮死と診断される。」などとされ,甲B4号証には「正常脈(120ないし160bpm)から細変動(LTV)の減少や変動一過性徐脈,遅発一過性徐脈などを伴い,徐脈(120bpm未満)へと胎児心拍数基線が次第に低下するものは胎児仮死のサインとして重要である。」との指摘があり,また,甲B10号証には「徐脈は,胎児が低酸素症に陥った場合にも出現する。特に,胎児が徐々に低酸素症に陥っていく場合に出現すると考えられている。」旨指摘されているところ,前示のとおり,本件においては,分娩室入室前に,胎児心拍が突然80ないし90bpm台に下降して1ないし2分程度持続する一過性の高度徐脈が出現し,正常脈にいったん回復した後も一過性の徐脈が2,3回出現するという安心できない心拍数パターンが認められ,午後4時38分以降は100ないし110bpm台の徐脈が継続し,加えて,午後4時42分ころ以降は基線細変動も正常でない状態になったものであるから,上記の各指摘に照らせば,午後4時38分以降の徐脈は,低酸素状態又はアシドーシスによる徐脈であり,胎児仮死の重要なサインとして速やかな処 ころ以降は基線細変動も正常でない状態になったものであるから,上記の各指摘に照らせば,午後4時38分以降の徐脈は,低酸素状態又はアシドーシスによる徐脈であり,胎児仮死の重要なサインとして速やかな処置が要求されるものであったと認めるのが相当である。 なお,前示のとおり,F医師は,午後4時49分ころまでは,胎児心拍が100bpm以上であり,基線細変動も有するから,胎児心拍の回復を期待できる状況とも考えられる旨の意見を述べている。しかし,午後4時42分ころ以降の基線細変動を正常のものと評価することはできず,加えて,分娩室入室前の一過性の高度徐脈出現後の胎児心拍の変動を総合的に評価すれば,午後4時38分以降の徐脈は低酸素状態又はアシドーシスによる徐脈であると解されることは既に述べたとおりであるから,胎児心拍が100bpm以上を確保していることのみから胎児心拍の回復を期待できるものと認めることはできず,F医師の上記意見を採用することはできない。 (3) 分娩室入室後の分娩監視義務違反について原告らは,原告Cが分娩室に入室した午後4時30分から同50分までの間,D医師は,Eらに分娩監視を任せ,自ら分娩監視装置の画面を視認しながら分娩監視すべき義務を怠った旨主張する。これに対し,被告は,D医師は分娩室を一度訪れ,その後は,ナースステーションに待機して分娩監視装置のセントラルモニター画面を注視し,自ら午後4時50分ころの胎児心拍の異常を発見して分娩室に直ちに駆けつけたものであるから分娩監視を怠っていない旨主張する。 ア分娩室入室後の分娩監視義務の具体的内容前示のとおり,本件において分娩室入室前に出現した一過性の高度徐脈は,児娩出直前までの間に出現しやすい頭部圧迫のための一過性の徐脈であるとは直ちに評価できず,胎児仮死などの危険な徴候を示す可能性も十分考 のとおり,本件において分娩室入室前に出現した一過性の高度徐脈は,児娩出直前までの間に出現しやすい頭部圧迫のための一過性の徐脈であるとは直ちに評価できず,胎児仮死などの危険な徴候を示す可能性も十分考えられたものであるから,その後の経過をより慎重に観察し,胎児仮死などの危険な状態の有無を判断する必要があったのである。 そして,上記の一過性の高度徐脈出現後,胎児心拍は,午後4時32分ころいったん正常脈に回復したものの,同33分,同35分及び同36分ころには一過性の徐脈が出現し,同38分以降は徐脈が持続していたものであり,これについて,D医師が「午後4時36分から同37分にかけての一過性の徐脈は安心できない心拍数パターンに入る。」旨述べている(証人D)ことなどに照らせば,一過性の高度徐脈出現後も,安心できない心拍数パターンが継続していたものと解することができる。 「日本産科婦人科学会雑誌54巻5号」(2002年。乙B4号証の30)は,胎児仮死の診断においては,安心できない胎児の状態(nonreassuringfetalstatus)を見逃さないようにしなくてはならず,その際に最も大切なことは,患者を直接診てリスクを評価することであり,正常でない胎児心拍数パターンが観察された場合にはその後の慎重な対応が要求される旨指摘している。また,「胎児仮死-安全な分娩管理をめざして」(1994年。甲B2号証)は,遅発一過性徐脈や変動一過性徐脈が繰り返し出現したり,遷延性徐脈などを認めた場合には,その原因の除去に努め,原因除去により上記の心拍数パターンが消失した場合には,以後は厳重な監視のもとで分娩の継続を行う旨指摘しており,「産婦人科治療 Vol.78」(1999年甲B10号証)は,安心できない心拍数パターンが出現した後の管理について,各々の心拍数パター には,以後は厳重な監視のもとで分娩の継続を行う旨指摘しており,「産婦人科治療 Vol.78」(1999年甲B10号証)は,安心できない心拍数パターンが出現した後の管理について,各々の心拍数パターンの出現の原因を探索し,その原因を除去することがまず必要であり,胎児が仮死に陥っていると考えられた場合には,直ちに急速遂娩ができるようにあらかじめ準備をしておくことが最も重要である旨指摘している。 そうすると,本件においては,前示のとおり,分娩室入室前に,胎児仮死などの危険な徴候を示す可能性が十分考えられる一過性の高度徐脈が出現し,その後の経過をより慎重に観察する必要があったところ,その後も安心できない心拍数パターンが継続していたのであるから,D医師としては,胎児仮死などの危険な状態の有無を的確に判断するために,厳重に分娩監視を行うべき注意義務があったというべきであり,また,自ら内診を行い,児頭の位置,回旋の状態,息みを加えて児頭が下降する程度などを確認し,自然分娩までに要する時間,急速遂娩を行う場合の適切な術式等についてあらかじめ検討し,胎児仮死と診断した場合には直ちに適切な術式で急速遂娩を行い得る態勢で,分娩室において分娩監視を行うべき注意義務があったものと認めるのが相当である。なお,D医師は,高度徐脈が出現しても持続しなければ医師が内診する必要はなく,また,本件のように子宮口が全開大した時点で変動一過性徐脈が出現することは珍しくなく,加えて,本件では,子宮口が全開しており,いつでも娩出させられると予測したため内診をしなかった旨述べている(証人D)が,前示のとおり,本件では,分娩室入室前の一過性の高度徐脈出現後,安心できない心拍数パターンが持続していたものであり,医師による内診が不要な状況であったとは認められないから,D医師の前記供述内容 が,前示のとおり,本件では,分娩室入室前の一過性の高度徐脈出現後,安心できない心拍数パターンが持続していたものであり,医師による内診が不要な状況であったとは認められないから,D医師の前記供述内容は相当でなく,採用できない。 イ分娩監視義務違反の有無(ア) 前記認定事実によれば,D医師は,原告Cが分娩室に移動してから午後4時50分までの間に,分娩室を一度のぞいただけであり,自ら原告Cを内診したり,Eから経過及び状況について詳しい説明を聞くことはなかったものと認められる。なお,この点について,D医師は,午後4時50分以前に一度分娩室に入り,子宮口が全開していること及び児頭の下がり具合を直接確認した旨述べている(証人D)が,同医師は,午後4時50分以前に分娩室に行ったか否かははっきり記憶にない旨も述べているのであり(証人D),また,「原告Cの分娩のことは覚えている。」旨述べるE(乙A9号証,証人E)が,「分娩室へ移動した後,D医師は一度分娩室をのぞいたが,分娩室の中には入っていない。」,「分娩室へ移動した数分後,D医師が分娩室をのぞいたが,異常はなく,『まだだね。』などと言われてナースセンターに戻った。」などと述べている(乙A14号証,証人E)ことなどに照らせば,午後4時50分以前に分娩室内に入って児頭の下がり具合等を直接確認した旨のD医師の上記証言は採用できない。 また,D医師は,ナースステーションのセントラルモニター画面で,分娩室入室後の胎児心拍の様子を注視していた旨述べる(乙A8号証,証人D)。しかし,証人Dの証言によれば,D医師がナースステーションに戻った主たる目的は,分娩監視装置のセントラルモニター画面を見ることではなく,書類の整理をするためであったことが認められるのであり,また,乙A8,11,13号証及び証人Dの証言によっても, ーションに戻った主たる目的は,分娩監視装置のセントラルモニター画面を見ることではなく,書類の整理をするためであったことが認められるのであり,また,乙A8,11,13号証及び証人Dの証言によっても,原告Cを分娩室に移動させてから午後4時49分の半ばころに胎児心拍が100bpmを切るまでの経過についてD医師が明確に記憶しているものとは認め難い。 そして,急速遂娩の適応について,D医師は,「胎児心拍が120bpmを切ることは珍しくなく,これが持続しても急速遂娩の適応にはならない。胎児心拍が100bpmを切る高度徐脈,変動一過性徐脈,遅発性徐脈又は基線細変動の消失が持続した場合に急速遂娩の適応があり,急速遂娩の適応の有無を判断する際には,過去10分間程度の胎児心拍の変動を総合的に評価する必要がある。」旨述べ,また,本件において午後4時50分に急速遂娩の適応があると判断した主たる根拠は,児心拍が100bpmを切ったこと及び基線細変動が減少したことである旨述べている(証人D)。しかし,午後4時50分の時点では,胎児心拍が100bpmを切る高度徐脈の状態は30秒程度しか持続しておらず,また,証人Dの証言によれば,D医師が基線細変動が減少したと判断したのは午後4時49分ころ以降と解されるから,D医師が午後4時50分に急速遂娩を決定した時点で,過去10分間の胎児心拍の変動をどのように評価し,高度徐脈の持続及び基線細変動の減少をどの程度考慮していたか疑問が残るといわざるを得ない。 以上の各事情に,「軽度徐脈に続き,午後4時50分ころ100bpm以下となったため,すぐに分娩室に行き,診察し,このまま自然分娩は不可能と判断し,急速分娩を決定した。」旨のD医師の陳述(乙A8号証)を併せ考慮すれば,本件においてD医師が午後4時50分に急速遂娩の適応があると判断した主 に分娩室に行き,診察し,このまま自然分娩は不可能と判断し,急速分娩を決定した。」旨のD医師の陳述(乙A8号証)を併せ考慮すれば,本件においてD医師が午後4時50分に急速遂娩の適応があると判断した主たる理由は,胎児心拍が100bpmを切ったことにあったものと解するのが相当である。 (イ) 以上のとおり,D医師は,午後4時50分までの間に,分娩室を一度のぞいただけであり,原告Cを内診したり,Eらから詳しい事情を聴取したりすることもなく,ナースステーションに戻って書類の整理をし,胎児心拍が100bpmを切ったことから,直ちに急速遂娩を決定したものであるが,本件当時,D医師がナースステーションに戻らなければならない特段の事情はなかったこと(証人D)をも併せ考慮すると,D医師は,胎児心拍が100bpmを切る午後4時49分以前の時点では,胎児仮死の可能性のある切迫した状態にあるものとは意識しておらず,胎児心拍が100bpm以上を維持している間は急速遂娩の適応にはならないであろうとの見通しを有していたものと推認することができる。 したがって,D医師が午後4時50分までナースステーションで分娩監視装置のセントラルモニター画面を見ていたとしても,胎児仮死などの危険な状態の有無を的確に判断するために厳重に分娩監視を行っていたものと評価することはできないのであり,また,胎児仮死と診断した場合には直ちに適切な術式で急速遂娩を行い得る態勢で分娩監視を行っていたものとも認められないから,D医師は,原告Cの分娩室入室後の分娩監視義務を怠っていたものといわざるを得ない。 (4) 急速遂娩の術式の選択について前示のとおり,本件では,後方後頭位という回旋異常が生じていたものであるが,この点について,原告らは,吸引分娩は後方後頭位の分娩には適さないとされているから,鉗子分娩 急速遂娩の術式の選択について前示のとおり,本件では,後方後頭位という回旋異常が生じていたものであるが,この点について,原告らは,吸引分娩は後方後頭位の分娩には適さないとされているから,鉗子分娩とすべきであった旨主張し,これに対し,被告は,吸引分娩は回旋異常や胎児仮死にも適応があり,本件においては分娩が遷延していない間に胎児心拍の異常が認められて急速遂娩を行ったものであるから,後方後頭位であったことを問題とする余地はない旨主張する。 ア術式の選択における注意義務の具体的内容乙A11号証及び証人Dの証言によれば,D医師は,午後4時50分に分娩室に駆けつけて原告Cを内診した際に,後方後頭位であることを認識したが,鉗子分娩はかなり危険を伴う産科手術であり,通常は安全性の点で吸引分娩を第一に選択していたことから,本件においても急速遂娩の術式として吸引分娩をまず選択したものと認められる。この点について,F医師は,後方後頭位の場合でも吸引分娩により児頭の回旋を矯正しながら分娩を終了させ得ることは日常しばしば経験し,必ずしも鉗子分娩を第一に選択しなければならない理由はなく,更に,鉗子分娩では細心の注意を払っても母児に対して思わぬ重度の損傷を惹起することもあり得るから,本件のような場合でも吸引分娩を選択することが一般的と考えられる旨述べている(乙B3号証)。 確かに,甲B2号証,乙B2号証,乙B4号証の30などによれば,後方後頭位の場合においても吸引分娩を行うことができ,吸引分娩による牽引をきっかけとして児頭が前方後頭位に矯正されることもあるものと認められるが,後方後頭位という回旋異常が生じているだけではなく,速やかな児の娩出が要求される胎児仮死をも併発している場合において,なお,吸引分娩の適応に問題がないことを明確に認め得る証拠はない。 乙B2号証 が,後方後頭位という回旋異常が生じているだけではなく,速やかな児の娩出が要求される胎児仮死をも併発している場合において,なお,吸引分娩の適応に問題がないことを明確に認め得る証拠はない。 乙B2号証によれば,吸引分娩の利点は操作が容易で産道損傷が比較的軽いこと,問題点は,牽引力が弱く吸引カップが滑脱すること,吸引カップの面に対し垂直方向に引く必要があるため,骨盤誘導線の方向に牽引し難く,児を娩出できないことがあり得ること,吸引部直下の不自然な力により,頭血腫,帽状腱膜下血腫など児頭皮下への損傷が起こりやすいことなどであり,他方,鉗子分娩の利点は,牽引力が強く,確実に早急に娩出できること,問題点は,手技に熟練を要し,不適切な鉗子手術では児への損傷が起こること,産道損傷の頻度が高いことなどであると認められる。以上に加え,「米国では吸引分娩による児の頭血腫に対しての批判が強く,鉗子分娩は正確な内診所見に基づく適応と要約を満たした中在以下の鉗子であれば,安全に確実に児を娩出させることができる術式として広く採用されている。」(乙B2号証),「わが国で鉗子手術が行われる機会が減った理由として,主に手技の難度と,それに関連する母児損傷の危険性があげられるが,鉗子手術の要約と適応を遵守し適切な訓練を行うことにより,この問題は解決される。」(甲B1号証)などと指摘されていることを考慮すれば,鉗子分娩が吸引分娩より危険性が高いといわれているのは手技の難度によるものであって,鉗子分娩の手技に熟練した医師が施行する場合においては,吸引分娩と鉗子分娩とで安全性に大きな相違はないものと解される。 そして,「吸引分娩は牽引力が十分でないため,後方後頭位の分娩には適さない。」(甲B2号証),「鉗子遂娩術はその牽引力の強さが吸引遂娩術の場合より大きく,確実性に富む。また, はないものと解される。 そして,「吸引分娩は牽引力が十分でないため,後方後頭位の分娩には適さない。」(甲B2号証),「鉗子遂娩術はその牽引力の強さが吸引遂娩術の場合より大きく,確実性に富む。また,その迅速性においては帝切術や吸引遂娩術をはるかにしのぐものである。」(甲B1号証),「吸引分娩は,牽引力が鉗子と比べて弱く,安易に施行すると娩出に失敗して逆に母児を危険にさらす可能性がある。したがって,その適応と要約,さらに限界を熟知することがもっとも重要である。」,「急速遂娩が必要な時は,いずれかの方法に偏ることなく合理的に選択することで,母児の安全に寄与すべきと思われる。」(以上乙B2号証),「児の状態が切迫していれば,速やかに児を娩出させる。経膣的に自然分娩,吸引分娩,鉗子分娩を行うか,緊急帝王切開を行うかは内診所見その他の状況を考えて判断する。」(乙B4号証の30)などの各指摘を併せ考慮すれば,吸引分娩がいかなる場合においても鉗子分娩より安全性が高く,第一に選択すべき術式であるものとは認め難く,急速遂娩を施行する場合,担当医師としては,胎児仮死や回旋異常の有無などの分娩の状況,児頭の位置,術者の熟練度などを考慮して最も適切な術式を選択すべき注意義務があるものと認めるのが相当である。 イ本件において選択すべき術式について(ア) 乙A8,13号証及び証人Dの証言によれば,D医師は,被告病院での勤務を開始した平成3年6月以降,被告病院における年間分娩件数(約1000件)の30パーセント程度を担当し,帝王切開,鉗子分娩等の異常分娩の大部分に関与してきたことが認められるのであり,加えて,「『症例を選んで施行すればステーション+1,+2における鉗子分娩も比較的安全に行い得ると考えられた。』との甲B11号証の指摘は,自分の技術水準にも合致する。」, ことが認められるのであり,加えて,「『症例を選んで施行すればステーション+1,+2における鉗子分娩も比較的安全に行い得ると考えられた。』との甲B11号証の指摘は,自分の技術水準にも合致する。」,「最終的には鉗子分娩の方が確実であり,児頭の位置がステーション+2程度であれば安全に娩出させられると思う。」旨の証人Dの各証言を考慮すれば,本件当時,D医師は鉗子分娩の手技に十分熟練していたものと認めることができる。そして,午後3時50分の時点では子宮口開大度6ないし7センチの状態で児頭の位置がステーション+1であったこと,分娩室に入室後,看護師らが原告Cに対して,「頭が見えてますよ。」などと声をかけて息ませていたこと,Eは,「分娩室入室後,思ったより児頭が下がってこなかったと思う。」旨述べるものの,「分娩室入室後は,子宮口が全開大なので,児頭はそれ以前より下がってきている可能性が高い。」などとも述べていること(証人E)などを総合すれば,分娩室入室後は,児頭の位置が少なくともステーション+2には下降しており,D医師が慎重に鉗子分娩を施行すれば,安全に娩出することが十分可能な状況であったものと推認される。 (イ) 前示のとおり,吸引分娩は,牽引力が弱く,滑脱の可能性があるところ,本件では,後方後頭位であったから,滑脱により娩出に失敗する可能性がより高かったものと解されるのであり,他方,分娩室入室後の児頭の位置からすれば,D医師が安全に鉗子分娩を施行することは十分可能であったものと解される。 そして,本件において胎児仮死の可能性があるものと診断すべき午後4時48分ころの時点では,分娩室入室前の一過性の高度徐脈など安心できない心拍数パターンが出現してから既に20分程度経過していたものであるから,できる限り短時間で胎児を娩出させる必要性があったものと解す 8分ころの時点では,分娩室入室前の一過性の高度徐脈など安心できない心拍数パターンが出現してから既に20分程度経過していたものであるから,できる限り短時間で胎児を娩出させる必要性があったものと解するのが相当である。なお,D医師が「急速遂娩を決定してから娩出までに要した時間からすると予想以上に悪い状態だと感じた。」,「娩出後に酸素投与をすれば何の異常も残さないと予測していたので本件の障害には驚いている。」,「本件と同じように胎児心拍が100bpmを切って急速遂娩を施行した症例でもこれまで障害はみられなかった。」などと述べていること(乙A13号証,証人D)からすれば,D医師は,吸引分娩を試みて娩出に失敗したとしても予後に影響を与えない程度の時間的余裕があると判断していたものと解されるが,本件において,このような時間的余裕があったと認めるに足りる証拠はない。 (ウ) 以上によれば,本件においては,急速遂娩の術式として,牽引力が確実で短時間で児を娩出させ得る鉗子分娩を選択するのが適切であったと解するのが相当である。 ウ術式の選択に関する注意義務違反前示のとおり,本件においては鉗子分娩を選択するのが適切であったと解されるところ,D医師は,後方後頭位であることを認識しながら,吸引分娩の方が鉗子分娩より安全性が高いものと評価していることから吸引分娩を選択したものであり,その際に,安心できない心拍数パターンが出現してからの経過時間,後方後頭位であることによる吸引分娩での滑脱の可能性,児頭の位置及びD医師の手技の熟練度並びに本件において安全に鉗子分娩を行い得る可能性の程度などを考慮したことをうかがわせる事情は認められないから,D医師は,急速遂娩の術式を選択する際の前記注意義務を怠ったものと認められる。 (5) 急速遂娩を可及的速やかに実施すべき義務を怠っ 能性の程度などを考慮したことをうかがわせる事情は認められないから,D医師は,急速遂娩の術式を選択する際の前記注意義務を怠ったものと認められる。 (5) 急速遂娩を可及的速やかに実施すべき義務を怠った過失について前示のとおり,分娩室入室前の一過性の高度徐脈出現後の胎児心拍の変動を総合的に評価すれば,午後4時38分以降の徐脈は低酸素状態又はアシドーシスによる徐脈と解されるのであり,「アシドーシスによる徐脈は,徐々に進行した胎児状態の悪化が重度に陥った結果と考えられ,速やかな処置が要求される。」(乙B4号証の1),「突然30bpm以上低下し2分以上持続する遷延性徐脈が酸素投与や体位変換などでも回復せず10分以上持続する時は,低酸素血症の進行が考えられ,胎児ジストレスと診断できる。」(乙B4号証の5)旨の各指摘,別紙分娩監視装置記録上,徐脈が10分間持続した午後4時48分の時点においても胎児心拍及び基線細変動に回復の兆しは特に認められないこと,及び午後4時50分ころの時点でも自然分娩が直ちに可能な状況ではなかったこと(証人D)などの事情を考慮すれば,本件においては,午後4時48分ころの時点で,胎児心拍及び基線細変動の回復はほとんど期待できないと判断し,胎児仮死と診断して急速遂娩の実施を決断すべきであったと認めるのが相当である。 しかし,前示のとおり,D医師は,分娩室入室後の分娩監視義務を怠り,胎児心拍が100bpmを切る午後4時49分以前の時点では,胎児仮死の可能性を意識しておらず,分娩室を訪れて自ら内診することもなく,単にナースステーションで書類の整理をしながら分娩監視装置のセントラルモニター画面を見ていたものであり,胎児心拍が100bpmを切った午後4時50分に初めて分娩室に駆けつけ,急速遂娩を決定したものである。加えて,術式選択の際の注意 をしながら分娩監視装置のセントラルモニター画面を見ていたものであり,胎児心拍が100bpmを切った午後4時50分に初めて分娩室に駆けつけ,急速遂娩を決定したものである。加えて,術式選択の際の注意義務を怠って吸引分娩を選択したために,急速遂娩の実施が更に遅れたものであるから,結局,D医師は,急速遂娩を可及的速やかに実施すべき義務を怠ったものと認めることができる。 (6) 以上のとおりであり,本件において,D医師には,急速遂娩を可及的速やかに実施すべき義務を怠った過失が認められるから,この点に関する原告の主張は理由がある。 3 因果関係について(1) 脳性麻痺とは,受胎から生後4週以内の新生児までの間に生じた脳の非進行性病変に基づく,永続的な,しかし変化し得る運動及び姿勢の異常であり,その症状は満2歳までに発現するとされ,合併症候には,知能障害,てんかん発作,脳神経障害,言語障害などがある(乙B4号証の14,19)。 アメリカ産婦人科学会(ACOG)は,①臍帯血血液ガスph7.00以下,②アプガースコア5分値が0ないし3点,③神経学的後遺症の存在,及び④多臓器不全(MOF)の存在の4つの条件をすべて満たした場合に,周産期(妊娠22週以降から生後7日までをいう。)の低酸素症を原因とする脳性麻痺と解するものとした(乙B4号証の19,21及び27。以下,上記の4条件を「アメリカ産婦人科学会の4条件」という。)。 前示のとおり,原告Aは,出生時,啼泣はなく,全身色蒼白,心拍数60程度,自発呼吸も鼻腔刺激反射もなく,筋緊張はだらりとした状態で,1分後アプガースコア1点の重症新生児仮死であり,日令1日には口をピクピクさせるような痙攣様の動き等がみられ,日令6日(4月22日)での頭部CT検査では全体にやや浮腫状で,5月10日の同検査では前頭葉から側頭葉に コア1点の重症新生児仮死であり,日令1日には口をピクピクさせるような痙攣様の動き等がみられ,日令6日(4月22日)での頭部CT検査では全体にやや浮腫状で,5月10日の同検査では前頭葉から側頭葉にかけて低吸収域及び萎縮が認められるなどしていたものであり,その後,四肢麻痺,言語障害,てんかん発作などが認められるようになったとの前記の経過に照らせば,原告Aには脳性麻痺が発生したものと認めることができる。 (2) 原告Aの脳性麻痺の原因についてア F医師は,本件では,胎児心拍が80bpm以下に低下してからおおむね10分以内に娩出されていること,別紙分娩監視装置記録によれば,娩出直前においても少なくとも60ないし80bpm程度の心拍数であり,完全に血流が遮断された胎内環境にはなかったから,深刻な状況が長時間あったとは推測されないこと,脳性麻痺のうち,分娩時の胎児仮死,新生児仮死を原因とするものは約10パーセントといわれており,先天性又は胎児性の発症もあり得ること,アメリカ産婦人科学会の4条件を本件ではすべてにおいては満たしていないことなどによれば,原告Aの脳性麻痺が周産期管理に関連していたとしても,その原因をこの一点に求めることは困難である旨述べる(乙B3号証)。 イ確かに,甲B2号証,乙B4号証の5,14,15,19,21及び38によれば,脳性麻痺のうち,分娩時の胎児仮死又は新生児仮死を原因とするものは10ないし20パーセントにすぎないとの報告があることが認められる。 しかし,乙B4号証の22は,「胎児ジストレスの病態生理については,まだ多くは解明されていないのが現状である。」旨指摘しており,乙B4号証の14には,脳性麻痺78例と対照群591例を比較した結果として,胎児仮死は,対照群での11パーセントに比べて,脳性麻痺群では24パーセントと有意 ていないのが現状である。」旨指摘しており,乙B4号証の14には,脳性麻痺78例と対照群591例を比較した結果として,胎児仮死は,対照群での11パーセントに比べて,脳性麻痺群では24パーセントと有意に多くみられ,分娩中に胎児仮死を見逃したり,すぐに治療をしなかった症例は,対照群の3パーセントに対して,脳性麻痺群では12パーセントであり,また,胎児仮死に対して完全な産科管理がされると,成熟児で9パーセント,すべての症例では6パーセント脳性麻痺を減らすことができる旨の報告がある。また,甲B9号証には,「近年,脳性麻痺の発生要因として,分娩時胎児仮死を従来より過小評価する報告が相次ぎ,分娩時胎児心拍モニタリングの意義についても否定的な報告がみられるが,胎児心拍モニタリング導入前後の周産期医療指標や,脳性麻痺児発生率の推移を検討した結果,胎児心拍モニターを徹底することで,正期産例の脳性麻痺児発生率は抑制可能であることが明らかとなった。」旨報告されている。 これらの各指摘を考慮すると,脳性麻痺全体のうち,分娩時の胎児仮死又は新生児仮死を原因とするものは10ないし20パーセントである旨の報告があることから直ちに,原告Aの脳性麻痺が分娩時の胎児仮死及び新生児仮死と無関係に発生したものと認めることはできない。 ウまた,乙B4号証の19には,日本母性保護産婦人科医会が行った全国正期産仮死児調査で,先天異常のない正期産児で1分後アプガースコア4点以下,又は5分後アプガースコア6点以下で出生しNICUへの入院を要した症例のうち,アメリカ産婦人科学会の4条件を満たしたものは明らかに予後が悪かった旨の指摘があり,乙B4号証の21には,平成8ないし10年の東京女子医科大学母子総合医療センターでの妊娠36週以降の先天異常のない重症新生児仮死症例を検討したところ,アメリ のは明らかに予後が悪かった旨の指摘があり,乙B4号証の21には,平成8ないし10年の東京女子医科大学母子総合医療センターでの妊娠36週以降の先天異常のない重症新生児仮死症例を検討したところ,アメリカ産婦人科学会の4条件に沿う結果であった旨が報告されている。 前示のとおり,本件では,H病院のNICUに入院した時には,口をピクピクさせる痙攣様の動きや四肢の突っ張り等がみられ,日令7日時点までは嗜眠傾向が継続し,日令3日以降,同7日時点までの呼吸は完全に人工呼吸器に依存していたものである。また,本件でのアプガースコア5分値は,皮膚色2点(全身淡紅色)及び心拍数2点(100以上)の合計4点とされている(乙A1ないし3,7号証)が,被告の診療録等を検討すると,2点と記載されている箇所(乙A3号証2枚目の「児の状態」欄及び6枚目)及び2点を4点に訂正している箇所(乙A1号証14頁,乙A3号証2枚目の「分娩より入院迄の経過」欄)があること,前記のとおり本件で気管挿管を開始したのは午後5時10分(出生5分後)ころであるところ,カルテには,「挿管,吸引にて皮膚色上昇」などの記載(乙A3号証7枚目),「17:37体動あり。全身色まあ良好」との記載(乙A3号証2枚目)があることなどによれば,「気管挿管前にも酸素マスクで酸素を投与していた。」旨のD医師の証言を考慮しても,出生1分後に全身蒼白であった皮膚色が,出生5分後に全身淡紅色にまで回復していたとは直ちに認め難いというべきであり,皮膚色2点との上記の評価は疑問であるといわざるを得ない。したがって,本件において,アプガースコア5分値が4点であることを前提とすることは適切でない。 そして,乙A3号証及び乙B6号証によれば,本件では,静脈血を採取しての血液ガス検査しか行っていなかったものと認められるが,前示の娩出時 ースコア5分値が4点であることを前提とすることは適切でない。 そして,乙A3号証及び乙B6号証によれば,本件では,静脈血を採取しての血液ガス検査しか行っていなかったものと認められるが,前示の娩出時の児の状態,及びI病院の担当医師が原告Cらに「出生時のエピソードからすると,回復状況は良好で被害は予想より少ない。」旨述べていたことなどに照らせば,臍帯血血液ガス検査を実施していれば,ph7.00以下の結果が得られた可能性が相当程度考えられるというべきである。 以上によれば,本件においては,アメリカ産婦人科学会の4条件をすべて満たしていた可能性があるものと認められる。なお,前示のとおり,F医師は,本件では上記の条件をすべてにおいては満たしていない旨述べているが,その根拠は必ずしも明確でないから上記の認定は左右されない。 エさらに,別紙分娩監視装置記録によれば,F医師が指摘するように,本件で胎児心拍数が80bpmを切ったのは午後4時54分ころであり,その後,娩出までの間も60ないし80bpmであったものと認められる。また,乙B4号証の7及び乙B7号証並びに乙B4号証の22によれば,動物実験では,血流を完全に途絶させると10分間で脳障害が起こり,一時的に重度なアシドーシス及び低血圧にした場合には脳障害を起こすためには60分間が必要であったとの報告があることが認められる。 しかし,乙B4号証の22においては,動物実験においても,実験の方法,低酸素症の程度,胎仔自体などによって各々反応が異なり,胎児の場合も,胎児自身並びに低酸素症の程度及び期間などによって胎児個々にそれに対する反応が一様でないものと推測される旨の指摘もされている。また,胎児は成人に比べもともと低酸素状態にある上に,胎児への酸素供給に関与している複数の部分(臍帯,胎盤及び母体)のうち1つで 々にそれに対する反応が一様でないものと推測される旨の指摘もされている。また,胎児は成人に比べもともと低酸素状態にある上に,胎児への酸素供給に関与している複数の部分(臍帯,胎盤及び母体)のうち1つでも障害を受ければ胎児への酸素供給が減少し,少しでも酸素分圧が下降すれば極端に酸素飽和度が落ちる結果となることから,胎児にはもともと生理学的に低酸素状態に陥りやすい要因があるものと認められる(乙B4号証の22)。そうすると,胎児の場合について,上記の動物実験の結果と同様に血流が完全に途絶された状態が10分以上継続するか,低酸素状態が60分間以上継続しなければ脳障害は起こらないものと解することはできない。 以上に加え,午後4時29分ころから低酸素症などを疑わせる安心できない心拍数パターンが出現し,午後4時38分以降は徐脈が持続して,午後4時42分ころから基線細変動が正常でない状態になったとの本件における経過を考慮すれば,娩出直前も心拍数が60ないし80bpmであったこと,及び心拍数が80bpm以下になっておおむね10分程度で娩出されたことから,直ちに,本件において,胎児にとって深刻な状況が長時間持続していなかったものと断定することはできないというべきである。 オ以上の各事情に,原告Cの妊娠経過及び分娩室入室直前までの分娩経過に特に問題は認められなかったこと,I病院の担当医師は,原告Aの前頭萎縮の原因が周産期にあると推測していたこと(甲A3号証)などを考慮すれば,原告Aの脳性麻痺が,胎児仮死及び新生児仮死以外の原因から発生したことを認めるに足りる証拠が存在しない以上,原告Aの脳性麻痺は,胎児仮死及び新生児仮死によって発生したものと推認するのが相当である。 (3) D医師の前記注意義務違反と脳性麻痺との因果関係について前記認定事実によれば,D医師が前 ない以上,原告Aの脳性麻痺は,胎児仮死及び新生児仮死によって発生したものと推認するのが相当である。 (3) D医師の前記注意義務違反と脳性麻痺との因果関係について前記認定事実によれば,D医師が前記の注意義務を尽くし,胎児仮死などの危険な状態の有無を的確に判断し,胎児仮死と診断した場合には直ちに適切な術式で急速遂娩を行い得るように,自ら内診をして厳重に分娩監視を行っていれば,午後4時48分ころには胎児仮死と診断し,急速遂娩を決断できたものと解される。 そして,前記認定事実,乙A11号証及び証人Dの証言によれば,本件では,吸引分娩の器具の準備並びに会陰部麻酔及び会陰切開の各処置に2,3分程度を要し,また,鉗子分娩に変更してから5分程度で娩出させていることが認められるから,D医師が,前記の注意義務を尽くし,後方後頭位であること,児頭の位置及び自らの手技の熟練度などを考慮して,本件において最も適切な急速遂娩の術式として鉗子分娩を選択していれば,急速遂娩の決断から7分程度で児を娩出させることが可能であったと推認できるのであり,したがって,D医師の前記注意義務違反がなければ,本件よりも10分程度早い午後4時55分ころには娩出できていたものと推認することができる。 乙B4号証の15及び22によれば,胎児は低酸素状態におかれると,血流の再分配によって脳の酸素化を維持し脳に永続的な障害を残さないように代償反応を起こすが,この代償反応にも限界時間(低酸素状態の程度により異なる)があるものと認められる。 別紙分娩監視装置記録によれば,本件において,胎児心拍数は,午後4時49分半ばに100bpmを切った後も下降し続け,午後4時54分ころからは更に80bpm以下に下降していたことが認められるが,「高度徐脈が3分以上持続すると,胎児が危険な状態になる可能性がある。」 49分半ばに100bpmを切った後も下降し続け,午後4時54分ころからは更に80bpm以下に下降していたことが認められるが,「高度徐脈が3分以上持続すると,胎児が危険な状態になる可能性がある。」旨の証人Dの証言,「100bpm以下が60秒以上続くときは,多くは胎児仮死の末期状態のことが多く,3分間以上続くと胎児はアシドーシスになっていることが多い。」旨の指摘(甲B5号証)などを考慮すれば,100bpm以下の高度徐脈が5分間持続した後の,80bpm以下の高度徐脈の10分間の持続は,脳障害の発生の有無に非常に大きな影響を与えたものと推認することができるのであり,午後4時55分ころに児が娩出されていれば,脳障害の発生を防ぐことができた可能性が高いものと認めるのが相当である。 (4) 以上を総合すれば,D医師が前記の注意義務を尽くしていれば,原告Aに脳性麻痺が生じなかった蓋然性が高いというべきである。そして,前示のとおり,四肢麻痺等の本件後遺障害は脳性麻痺により生じたものと解されるから,D医師の前記注意義務違反と原告Aの本件後遺障害との間には相当因果関係を認めることができる。よって,この点に関する原告の主張は理由がある。 4 原告らの損害について前示のとおり,D医師には急速遂娩を可及的速やかに実施すべき注意義務を怠った過失が認められるのであり,D医師の上記過失は被告の履行補助者としての診療契約上の債務不履行に当たるから,被告は,D医師の上記過失につき,債務不履行責任に基づき,原告らに対し,上記過失と相当因果関係のある損害を賠償すべき責任を負う。以下,損害の範囲及び額について検討する。 (1) 逸失利益本件の後遺障害は身体障害者等級1級に該当し,労働能力喪失率100パーセントと認められるから,上記身体障害者等級の認定を受けた平成12年の男子労働 損害の範囲及び額について検討する。 (1) 逸失利益本件の後遺障害は身体障害者等級1級に該当し,労働能力喪失率100パーセントと認められるから,上記身体障害者等級の認定を受けた平成12年の男子労働者学歴計全年齢平均年収560万6000円,労働能力喪失期間49年に対するライプニッツ係数7. 927(症状固定時を1歳とする。)として,逸失利益を計算すると,560万6000円×7. 927=4443万8762円となる。 (2) 介護費用前記認定事実,甲C3,5号証及び弁論の全趣旨によれば,原告Aは常時介護を要する状態であると認めることができる。弁論の全趣旨によると,1日当たりの介護費用としては8000円をもって相当と認められるから,これについて症状固定時から平均余命までの75年間(「第18回生命表参考表」による平均余命年数)に対するライプニッツ係数19.485として,死亡時までの介護費用を計算すると,8000円×365×19.485=5689万6200円となる。 (3) 後遺障害慰謝料原告Aは,D医師の前記過失によって身体障害者等級1級に該当する後遺障害を負ったものであり,今後,健常者と比較して相当制限された生活を送らざるを得ないことなどを考慮すれば,上記の後遺障害により原告Aは甚大な精神的苦痛を被ったものと認めることができ,この精神的苦痛に対する慰謝料としては,2500万円を認めるのが相当である。 (4) 原告B及び同Cの精神的損害に対する慰謝料原告Aは原告B及び同Cの第一子であったこと(甲C1号証),原告Cの妊娠経過に特に問題は認められなかったこと,原告Aが重症の新生児仮死の状態で出生し,身体障害者等級1級の本件後遺障害が生じたことなどの各事情及び甲C3,5号証を総合すれば,原告B及び同Cは,D医師の前記過失によって多大な精神的苦痛を被った ,原告Aが重症の新生児仮死の状態で出生し,身体障害者等級1級の本件後遺障害が生じたことなどの各事情及び甲C3,5号証を総合すれば,原告B及び同Cは,D医師の前記過失によって多大な精神的苦痛を被ったものと認めることができ,上記精神的苦痛に対する慰謝料としては各250万円を認めるのが相当である。 (5) 弁護士費用本件訴訟の事案の内容,審理経過,認容額,その他の事情を考慮すると,本件において原告Aが被告に対し賠償請求し得る弁護士費用は750万円,原告B及び同Cが被告に対し賠償請求し得る弁護士費用は各25万と認めるのが相当である。 (6) 以上によれば,被告の債務不履行と相当因果関係のある原告Aの損害の合計額は,1億3383万4962円,原告B及び同Cの損害額は各275万円となる。 5 結論以上のとおりであるから,原告らの被告に対する本訴請求は,原告Aにつき1億3383万4962円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成14年5月16日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を求める限度で,原告B及び同Cにつき各275万円及びこれに対する上記同日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を求める限度でそれぞれ理由があるから認容し,原告らのその余の請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条,64条を,仮執行の宣言につき同法259条をそれぞれ適用し,仮執行免脱宣言については,相当でないからこれを付さないこととして,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第4部裁判長裁判官佐久間邦夫裁判官倉澤守春裁判官松田敦子は,異動のため署名押印することができない。 裁判長裁判官佐久間邦夫別紙分娩監視装置記録は添付省略 官松田敦子は、異動のため署名押印することができない。 裁判長 裁判官佐久間邦夫 別紙分娩監視装置記録は添付省略
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