判決平成14年11月13日神戸地方裁判所平成14年(わ)第288号窃盗被告 主文 被告人を懲役1年10月に処する。 未決勾留日数中120日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,平成14年3月3日午後3時28分ころから同日午後3時54分ころまでの間,兵庫県三田市a町b番c号所在のA株式会社経営に係るパチンコ店「B」において,同店に設置された回胴式遊技機575番台の下部メダル払出口から挿入した長さ約16センチメートルの金属板(通称セル)(平成14年押第64号の3)を用いて,同遊技機のメダル払出しの感知装置等を誤作動させる方法により,同店店長C管理に係る遊技用メダル約1569枚(貸出価格約3万1380円相当)を同機から排出させて,これを窃取したものである。 (証拠の標目)(省略)(事実認定の補足説明) 1 弁護人は,被告人が,本件当日,判示のパチンコ店「B」(以下「本件パチンコ店」という。)において,同店に設置された回胴式遊技機575番台(以下「本件パチスロ台」という。)で遊技していたことは間違いないが,被告人が,本件パチスロ台の下部メダル払出口から挿入した長さ約16センチメートルの金具(以下「本件セル」という。)を用いてメダル払出しの感知装置等を誤作動させる方法により,メダルを不正に排出させたことはないと主張して窃盗の事実を争い,被告人もまたこれに副う供述をするので,当裁判所が前示のとおり認定した理由について,以下補足して説明をする。 2 まず,前掲各証拠によれば,次の事実が間違いのないものとして認められる。 ① 被告人が,平成14年3月3日午後3時28分ころ,本件パチスロ台で遊技を開始し,同日午後3時5 補足して説明をする。 2 まず,前掲各証拠によれば,次の事実が間違いのないものとして認められる。 ① 被告人が,平成14年3月3日午後3時28分ころ,本件パチスロ台で遊技を開始し,同日午後3時54分ころ,本件パチンコ店の店長Cに声を掛けられるまでの間,本件パチスロ台で遊技をしていたこと② 被告人が上記の遊技中,上手な人なら700枚くらい(最高711枚)のメダルが払い出される大当たりが出たのは1回だけであったが,被告人は,Cから声を掛けられた際には,本件パチスロ台のメダル払出口にあったものと同台備付けのプラスティック製箱に入れていたものとを合わせて計1569枚の遊技用メダルを所持していたこと③ 被告人が本件パチスロ台から離れた直後に,本件パチンコ店の店員Dが本件パチスロ台のメダル払出口の中を点検して,本件セルを発見したこと④ 本件パチスロ台では,入賞組合わせの図柄が揃うと規定の枚数のメダルが払い出されることになるが,その際,本件パチスロ台のメダルカウント用センサーに本件セルを入れると,払出し枚数をカウントしなくなって規定の枚数以上のメダルが払い出されるが,3秒以上・30枚以上の払出しが続くと自動的にブレーキがかかってブザーが鳴り,また,貯留メダル精算ボタン(通称「リセットボタン」)を押すと貯留されているメダルが払い出されることになるが,その際,本件パチスロ台のメダルカウント用センサーに本件セルを入れると,払出し枚数をカウントしなくなって貯留の枚数以上のメダルが払い出されるが,3秒以上・50枚以上の払出しが続くと自動的にブレーキがかかってブザーが鳴ること以上の事実が認められる。 3(1) そして,証人Cの当公判廷における供述(以下「C証言」という。)は,「コンピューターと防犯カメラで出玉の状況を確認していると,本件パチ かかってブザーが鳴ること以上の事実が認められる。 3(1) そして,証人Cの当公判廷における供述(以下「C証言」という。)は,「コンピューターと防犯カメラで出玉の状況を確認していると,本件パチスロ台のコンピューター上の出玉が400余りの数字であったのに,防犯カメラの映像上では非常に多かったことから,本件パチスロ台に注目し,防犯カメラでズームアップして注意して見ると,被告人の左手が払出口のところにあって,人差し指がぴくぴくと動いているのが見えたので,何らかの不正をしているのではないかと思い,被告人のところに行って声を掛けた。」というのであり,また,証人Eの当公判廷における供述(以下「E証言」という。)は,「被告人の右隣りの回胴式遊技機576番台で遊技していたが,被告人が本件パチスロ台で遊技し始めて間もなく大当たりを出したことから注意を向けたところ,1回の大当たりで払い出されるメダルの枚数は最高で711枚,平均で600枚前後であるのに,1400枚くらいのメダルが出ていたことから疑問に思い,被告人の左隣りの男性と目が合ってお互い首をかしげた。その後,被告人がリセットボタンを押して貯留していたメダルを全部下皿に出してから4,5枚メダルを入れ,いったんスタートレバーを押して回転させてストップさせた後,またリセットボタンを押していた。その場合,通常は1,2枚しかメダルが出てこないはずなのに10枚から20枚くらいのメダルが出てきていた。リセットボタンを押すのは,普通はその台で遊技をするのをやめるときであるのに,被告人はそのようなことを10回くらい繰り返していた。」というのであり,さらに,証人Fの当公判廷における供述(以下「F証言」という。)は,「被告人の左隣りの回胴式遊技機573番台で遊技していたが,被告人は子役が揃うとリセットボタンを押して していた。」というのであり,さらに,証人Fの当公判廷における供述(以下「F証言」という。)は,「被告人の左隣りの回胴式遊技機573番台で遊技していたが,被告人は子役が揃うとリセットボタンを押しており,そのとき払い出されるメダルの枚数が普通より多い枚数であると感じた。リセットボタンを押すのは普通はその台で遊技をするのをやめるときであるのに,被告人は子役が揃うと2回か3回に1回くらいの割合でリセットボタンを押していた。その後,被告人が大当たりを出したが,1回の大当たりで払い出されるメダルの枚数は最高で711枚であるのに,1400枚くらいの枚数のメダルが出ていたのでおかしいと思い,被告人の右隣りの男性と目が合ってお互い首をかしげた。」などというのである。 (2) C証言,E証言及びF証言のいうところは,いずれも自然かつ合理的である上,相互によく符合しており,しかも,上記2で認定した事実と考え併せると,被告人が本件パチスロ台の払出口のところで左手の人差し指をぴくぴくと動かしていたのは,払出口から挿入した本件セルをメダルカウント用センサーに入れたり出したりしていたものであり,被告人が普通はその台で遊技をするのをやめるときくらいにしか押さないリセットボタンをしばしば押していたのは,リセットボタンを押して貯留されているメダルを払い出させるためであり,また,大当たり等のときに払い出されたメダルの枚数やリセットボタンを押したときに払い出されたメダルの枚数が通常よりずっと多かったのは,本件パチスロ台のメダルカウント用センサーに本件セルを入れて払出し枚数をカウントさせなくして,規定の枚数や貯留枚数以上のメダルが払い出されるようにしていたためであるなど,すべてが明瞭かつ合理的に説明することができるのであるから,前記のようなC証言,E証言及びF証言は十分 ントさせなくして,規定の枚数や貯留枚数以上のメダルが払い出されるようにしていたためであるなど,すべてが明瞭かつ合理的に説明することができるのであるから,前記のようなC証言,E証言及びF証言は十分信用に値するものということができる。 (3) 弁護人は,E証言及びF証言の正確性には疑問があるとして,その信用性を争うけれども,両証人は,いずれも被告人のすぐ隣で遊技をしていて,被告人の遊技の仕方が通常とは異なることやメダルの払出し枚数が普通の倍くらいもあるのを見て異常を感じ,しかも,被告人が本件パチンコ店の店長らに声を掛けられた直後に本件パチスロ台から本件セルが発見されるのを間近に目撃したものであって,目撃の位置や体験の特異性からして,はっきりと認識記憶されたものと考えられるから,その各証言の正確性を疑う余地は存しない。 4 被告人は,本件セルのことは知らないし,本件パチスロ台の払出口のところで左手の人差し指を動かしていたことはなく,リセットボタンを押したことは1回もないと供述しているが,被告人の供述では,上記2①②で認定した事実、すなわち大当たりが出たのは1回だけしかなかったのにもかかわらず,遊技をしていたわずか約26分の間に合計約1569枚ものメダルを払い出させて所持していたことを合理的に説明することができないのであるから,その信用性は乏しい。 5 以上のとおりであって,上記2で認定した事実とC証言,E証言及びF証言を総合すると,被告人が,本件パチスロ台の下部メダル払出口から挿入した本件セルを用いてメダル払出しの感知装置等を誤作動させる方法により,メダルを不正に排出させて,遊技用メダル約1569枚を窃取したことは間違いがないと認めることができる。 なお,弁護人は,本件セルを誰がいつ本件パチスロ台に挿入したか明らかになっていないし, ,メダルを不正に排出させて,遊技用メダル約1569枚を窃取したことは間違いがないと認めることができる。 なお,弁護人は,本件セルを誰がいつ本件パチスロ台に挿入したか明らかになっていないし,被告人が本件セルを用いてトラブルを生じさせることなくメダル払出しの感知装置等を誤作動させる技術を習得していることを窺わせる証拠はないとも主張するが,被告人が本件セルを本件パチスロ台に挿入したことを直接認める証拠はないとしても,被告人が本件セルを用いたことは間違いがないし,被告人が本件セルを用いてトラブルを生じさせることなくメダル払出しの感知装置等を誤作動させる技術を習得していることは,本件犯行自体から明らかであるから,弁護人の主張するところから上記認定を左右するには至らない(法令の適用)被告人の判示所為は刑法235条に該当するので,その所定刑期の範囲内で,被告人を懲役1年10月に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中120日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由)本件は,被告人が,通称セルと呼ばれる金具を用いて,パチスロ台から不正にメダルを排出させて窃取したという事犯であるが,犯行の動機は,要するに不当に利益を得るためというものであるから,そこに酌むべき点はないこと,犯行の態様は,パチスロ台の仕組みに対する知識と不正な金具使用の熟練を要する巧妙悪質なものであること,本件で窃取されたメダルは,貸出価格約3万1380円相当のものであって,被害は決して少額ではないこと,被告人は,平成9年5月に覚せい剤取締法違反罪で懲役4年6月及び罰金300万円に処せられており,本件はその懲役刑の仮出獄中の犯行であること,被告人は捜査段階から一貫して犯行を否認し,不合理な弁解に終 告人は,平成9年5月に覚せい剤取締法違反罪で懲役4年6月及び罰金300万円に処せられており,本件はその懲役刑の仮出獄中の犯行であること,被告人は捜査段階から一貫して犯行を否認し,不合理な弁解に終始するなど,反省の態度が全く認められないことなどを併せ考えると,犯情は悪く,被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。 してみると,被告人が現行犯逮捕されたことにより,被害品のメダルが換金されなかったため,実損が生じるには至っていないこと,被告人には同種の前科がないことなどの,被告人のために酌むべき事情を考慮しても,主文の刑はやむを得ないところである。 (検察官の科刑意見・懲役2年)よって,主文のとおり判決する。 平成14年11月13日神戸地方裁判所第12刑事係甲裁判官森岡安廣
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