平成19(わ)4149 窃盗被告事件

裁判年月日・裁判所
平成20年4月25日 大阪地方裁判所
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判決文本文11,420 文字)

- 1 -主文被告人は無罪。 理由 第1公訴事実本件公訴事実は「被告人は,Aと共謀の上,平成19年7月4日午後9時,51分ころから同日午後9時52分ころまでの間,大阪市内のレンタルビデオ店aにおいて,同店店長B管理に係るDVD2枚(時価合計2万円相当)を窃取したものである」というものである。 。 第2当裁判所の判断 争点 本件公訴事実記載の日時場所において,Aが窃盗の実行行為(以下「窃取行為」又は「本件窃取行為」という)に及んだこと,そのときに被告人がその。 そばにいたことについては,関係各証拠により明らかであり,被告人もこれを認めている。検察官は,被告人とAとの間で窃盗の共謀が成立していた旨主張するのに対し,被告人は,Aと窃盗の共謀をしたことはなく,Aが窃盗の実行行為に及んだことには気付かなかったと供述し,弁護人も,被告人とAとの間には共謀が成立していないのであるから,被告人は無罪であると主張する。 前提事実(1)被告人とAの関係ア被告人は,平成18年中ごろ,バイクに乗って外出した際にバイクが故障し,そこへ通りがかったAと知り合った。 イ被告人とAは,Aから被告人を誘って数台でのバイクのツーリングに行ったり,スーパー銭湯に行ったりしたことがあり,知り合って以降,本件までに会った回数は,10回に満たない程度であった。Aは,本件以前,被告人にiPodやバイクの部品等を譲ったことがあり,その際に被告人は,Aが他の人へ物を譲った場合とは程度が異なると感じるほど,非常に- 2 -喜んだ態度を示し,Aに礼を述べたことなどから,Aは,被告人に対して,しっかりと礼を言う,まじめであるといった好印象を持っていた。 (2)本件に至る経緯ア被告人は,平成19年7月4日(以下,時刻のみを記す場合は同日の時刻のことであり, ら,Aは,被告人に対して,しっかりと礼を言う,まじめであるといった好印象を持っていた。 (2)本件に至る経緯ア被告人は,平成19年7月4日(以下,時刻のみを記す場合は同日の時刻のことであり,日付を記す場合は同月の日付のことである,Aとス。)ーパー銭湯へ行く約束をしていたので,午後8時40分ころ,Aを迎えに行くために自動車を運転して自宅を出て,午後9時過ぎにAの自宅に到着した。その後被告人は,Aを同乗させて,自動車でスーパー銭湯に向かったが,進路前方にaが見えた際,Aが同店に立ち寄ってほしい旨述べたため,a店舗前の路上に自動車を駐車して,2人で店内へ入った。 イ被告人は,Aがa店内のCDコーナーへ向かったため,同様にCDコーナーに入りCDを見ていたが,その後,店内のDVDなどを見て回った後,目に付いたアダルトコーナーへと入った。被告人は,aの会員カードを持っていたが,アダルトDVDをレンタルする意思はなかった。 被告人がアダルトコーナーに入った後,後れてAもアダルトコーナーへと入った。 ウaでは,レンタル用のDVDを陳列する際,映写時間,発売時期等を記載した紙片が貼付されている半透明のプラスチックケース(以下「ケース」という)に,商品であるDVDを盗難防止用タグと共に封緘し,D。 VDの内容,写真等が印画された外箱の中にそのケースを差し入れて商品棚に陳列し,利用客は外箱を見てDVDの内容を確認し,レンタルする際は外箱からケースを抜き出して,ケースのみをカウンターへ持参し,カウンターで盗難防止用タグを無効化して貸し出すというシステムが採用されていた。また,被告人らがアダルトコーナーへ入った際,同コーナー内では音楽が流れていた。 (3)防犯ビデオから判明する本件における被告人とAの行動- 3 -アダルトコーナー内の,Aが窃 採用されていた。また,被告人らがアダルトコーナーへ入った際,同コーナー内では音楽が流れていた。 (3)防犯ビデオから判明する本件における被告人とAの行動- 3 -アダルトコーナー内の,Aが窃取したDVD2枚が置かれていた商品棚(以下「棚」という)に面した通路(以下「本件通路」という)には,。 。 通路を見渡せる位置に防犯カメラが設置されていて,同通路における被告人とAの動静が撮影され防犯ビデオに録画されていた。その録画内容(検察官請求証拠番号甲15)には,編集や改ざんされた形跡がないため,その映像どおりの事実があったものと認められるところ,これと被告人及びAの両供述を併せると,本件通路における被告人とAの行動として,以下の事実を認めることができる(なお,以下で示す時刻は,防犯ビデオ映像の左下に表。 示されているそれを示す)。 ア被告人及びAは,遅くとも午後9時48分ころには本件通路付近に現れ,同通路を行き来しながら,それぞれがアダルトDVDの外箱を手に取るなどして,DVDの品定めをしていた。このときから,店員が現れる午後9時52分20秒ころまで,本件通路付近には被告人とA以外の第三者はいなかった。 被告人は,午後9時49分50秒ころ,DVDの外箱を手に取って眺めた後,外箱からケースを抜き出して手に持ち,1枚目のケースを手にしたままDVDの品定めを再開し,午後9時50分32秒ころ,別のDVDの外箱を手に取って眺めた後,2枚目のケースを抜き出して手に持った。 被告人及びAが本件通路付近に現れてから,被告人が2枚目のケースを手に持つまでの間,防犯ビデオ映像からは,被告人とAが会話を交わしている様子はうかがえない。 イAは,被告人と同様に本件通路付近を歩きながら,アダルトDVDの品定めをしていたが,午後9時50分48秒ころ,ケース 間,防犯ビデオ映像からは,被告人とAが会話を交わしている様子はうかがえない。 イAは,被告人と同様に本件通路付近を歩きながら,アダルトDVDの品定めをしていたが,午後9時50分48秒ころ,ケース2枚を手に持ったまま棚のDVDを見ていた被告人に声をかけた。 ウAが被告人に声をかけた午後9時50分48秒ころから,Aが2枚目のDVDを窃取して空になったケースを棚に戻した午後9時52分09秒こ- 4 -ろまでの間の被告人及びAの行動は,別表のとおりである。 その間,当初Aは被告人の左隣にいて,2人とも棚の方向を向いていたが,別表のとおり,Aは,被告人に背を向ける方向に体を回転させるなどした後,被告人の後ろを通って被告人の右隣へと移動した。 エ被告人とAは,Aが2枚目のDVDを窃取して空になったケースを棚に戻した午後9時52分09秒ころ以降も,直ちに本件通路から離れて店外へ出て行くことなく,その場にとどまってアダルトDVDの外箱を手に取り眺めるなどしていた。その間,被告人とAとの間では,午後9時52分15秒ないし同18秒ころ,Aが被告人にアダルトDVDの外箱を見せながら話している様子がうかがえるが,午後9時52分20秒ころに店員が本件通路に現れて以降は,被告人とAが接近して会話が交わされている様子は乏しく,それぞれが,棚を見たり,DVDの外箱を手に取って眺めるなどしていた。 オ午後9時55分12秒ころ,本件通路において,店員がAに声をかけて,Aは店内の事務室へと連れて行かれた。 (4)Aによる犯行後の被告人の行動ア被告人は,Aが店員に店内の事務室へと連れて行かれる際,一緒に来るよう言われたため,事務室の前までついて行ったが,事務室の中には入らなかった。その後,被告人は,店外に出て煙草を吸い,自動車をa店舗前の路上に駐車したままであ 事務室へと連れて行かれる際,一緒に来るよう言われたため,事務室の前までついて行ったが,事務室の中には入らなかった。その後,被告人は,店外に出て煙草を吸い,自動車をa店舗前の路上に駐車したままであったので,駐車違反の取締りを避けるため,自動車を運転してaから離れた。 イ被告人が自動車を運転しているとき,Aから被告人の携帯電話に電話があり,店員に万引きの疑いをかけられている,被告人にもaに戻ってきてほしいと言われたため,被告人は,自動車をどこかに駐車してすぐにaに戻る旨応答した。 ウ被告人は,Aからの電話を切った後,近隣のコンビニエンスストアの駐- 5 -車場に自動車を駐車してから,aへと戻った。被告人がaに戻ったとき,aの店舗前にはパトカーが止まっていて,警察官が立っていた。被告人は,警察官にAと一緒にいた旨話して,aの事務室内に戻った。 エその後Aは,警察官に連れられて事務室から出て行き,被告人も,店員からAが窃取している場面の防犯ビデオ映像を見せられた後,警察官に連れられて大阪府東成警察署へ行き,取調べを受け,翌5日に逮捕された。 被告人は,事務室に戻った後である午後10時41分ころから,東成警察署へ行った後である翌5日午前3時19分ころまで,断続的に,当時交際していたCとメールのやり取りを行っていた。被告人がCに送信したメールの内容は,一緒にいたAが万引きしたと警察に疑われていて,被告人はそれが事実かどうかわからない,被告人自身も逮捕されることになるらしいといった旨のものであった。 被告人は,警察署内で,被告人の携帯電話を操作しようとした際,警察官に制止されたことに憤慨して,自身の携帯電話を折って破壊した。 (5)Aの処分Aは,本件により,平成19年7月23日,大阪簡易裁判所において,窃盗罪で罰金30万円の略式命令を受け とした際,警察官に制止されたことに憤慨して,自身の携帯電話を折って破壊した。 (5)Aの処分Aは,本件により,平成19年7月23日,大阪簡易裁判所において,窃盗罪で罰金30万円の略式命令を受けた。 A供述の概要Aは,当公判廷において,本件通路でケースを2枚手に持っていた被告人に声をかけてから,そのケースを被告人から受け取り,DVDを引き抜いてズボンの右後ろポケットに入れた後,店員に声をかけられるまでの行動について,概ね,以下のとおり供述している。 (1)被告人に声をかけてから,1枚目のDVDを窃取するまで本件通路で,被告人が何かを見ていたので「何見てんの」みたいな感,。 じで声をかけたら「これいいんですよ」というような返答をされた。そ,。 こで,被告人の持っていたケースを手に取ったが,このDVDを盗んだら被- 6 -告人が喜ぶかなと考え,以前被告人にiPod等をあげたときに被告人がとても喜んだことがあり,被告人をまた喜ばせたかったので(なお,Aは,動,。 。),機について「被告人を驚かせたかった」とも供述している,被告人に被告人のために盗んであげようかという意味で「やったろか」か「取っ,。 たろか」か「ぱくったろか」というようなことを言った(なお,Aは,。 。 Aの発言と被告人からAへのケースの移動との先後関係について「この発,言が被告人からDVDを受け取る前だったか後だったかわからない」とも。 供述している。そうすると,被告人は,ええっと驚き「ほんまですか」。)。 か「いけるんですか」か「できるんですか」などと言った(以下,この。 。 とき実際に交わされた被告人とAとのこの会話を「本件会話」という。 。)そして,1枚目のケースからDVDを抜き取ろうとしたが,ケースが硬くてなかなか抜き取れなかった。 と言った(以下,この。 。 とき実際に交わされた被告人とAとのこの会話を「本件会話」という。 。)そして,1枚目のケースからDVDを抜き取ろうとしたが,ケースが硬くてなかなか抜き取れなかった。そばにいると被告人を巻き込んでしまうかもしれないということと,被告人に万引きするところを見られるのが恥ずかしいという気持ちがあったことから,ケースを開けようとするときには,被告人に背を向ける体勢をとった。被告人に背を向けたときに防犯カメラに気付いたが,店員が防犯カメラを見ていることは少ないから大丈夫だろうと思い,気にしなかった。 ケースを指で広げて透き間からDVDを抜き取り,ズボンの右後ろのポケットにDVDを入れて,空になったケースを棚に戻した。ケースをこじ開けたとき,つめのようなものが壊れて,パキッという小さな音が鳴った。 (2)1枚目のDVDを窃取してから,2枚目のDVDを窃取するまで被告人から「これもいいやつですよ」と言われて,2枚目のDVDを渡。 された。2枚目も1枚目と同様に,ケースからDVDを抜き取ろうとしたが,人影があったので,まずいなと思い,いったんケースを棚に戻した。その後,再びそのケースを手に取って2枚目のDVDを抜き取り,1枚目と同様に右後ろのポケットに入れて,空になったケースを外箱の中にいれた。 - 7 -(3)2枚目のDVDを窃取してから,店員に声をかけられるまで2枚目のDVDを盗んだ後すぐに店員が本件通路に来て,万引きしたことが店員にばれているのではないかと思った。早く店から出たかったので,「もうそろそろ出ようか」と被告人に言ったが,被告人が出て行こうとし。 なかったし,すぐに出るとその場に来ていた店員に怪しまれると思ったので,出て行かなかった。 被告人にあげるために盗んだDVD2枚は,店外へ出てから被告人に渡 告人に言ったが,被告人が出て行こうとし。 なかったし,すぐに出るとその場に来ていた店員に怪しまれると思ったので,出て行かなかった。 被告人にあげるために盗んだDVD2枚は,店外へ出てから被告人に渡すつもりだった。 本件通路で被告人に声をかけてから,店員に事務室へ連れて行かれるまでの間の被告人及びAの行動に関するA供述については,防犯ビデオ映像と概ね矛盾していないこと,記憶している部分については1枚目のDVDを抜き取る際にケースが壊れる小さな音がしたことなど,具体的かつ詳細に述べ,記憶していない部分についてはその旨供述するなど,その供述態度に作為的なところは見受けられないこと,公判廷で証言する際には,前記2(5)のとおり,既に本件に関する刑事処分が決まっていて,虚偽の供述をして被告人を罪に陥れる動機に乏しく,むしろ被告人に対しては,Aが万引きをしたことで被告人を巻き込んでしまって申し訳ないと考えていることなどからすると,Aの当公判廷における供述は,記憶を真摯にたどったものとして,以下に述べるような問題点があるものの,概ねこれを信用することができる。 被告人とAとの間の共謀の存在を推認するについての積極的な事実(1)本件会話についてAは,被告人に声をかけた直後に被告人との間で交わされた本件会話について,前記3(1)のとおり,Aが「やったろか「取ったろか「ぱくっ。」,。」,たろか」などと言い,被告人が「ほんまですか「いけるんですか,。 。」,。」「できるんですか」などと応答したと供述し,防犯ビデオにも,午後9時。 50分48秒ないし同53秒ころまでにかけて,被告人とAが笑いながら会- 8 -話を交わしている様子が録画されている。 本件会話についての供述は,問い及び答えの双方について3つの言葉の可能性を述べるあいまい 秒ないし同53秒ころまでにかけて,被告人とAが笑いながら会- 8 -話を交わしている様子が録画されている。 本件会話についての供述は,問い及び答えの双方について3つの言葉の可能性を述べるあいまいなものではあるが,A供述は,前記3のとおり,全体として信用性を概ね肯定することができるし,防犯ビデオに見られるとおり,Aが被告人から1枚目のDVDのケースを受け取るや直ちに窃取行為に及んでいることや,A自身に後にDVDを鑑賞するなど窃取にあたり固有の利益がなかったことに合致しており,発言の性質上,記憶に誤謬が混じることは考え難く,本件会話中,Aがその述べる3つの発言のうちのどれかあるいはそのような意味の発言をしたことについては,これを認めることができる。 しかしながら,本件会話中の被告人の応答については慎重な検討を要する。 すなわち,A自身が「僕が言ったことはほんまに言ったんで,ただ,それを彼がどう受け取ったんかというのは,そこまでちょっと分からないですけど」とも供述しているし,Aの動機についても,前記のとおり「被告人。 ,を驚かせたかった」と被告人がAの窃取行為を認識していないことを前提。 としていると捉えることができる供述をもしている。また,AはDVDをケースから抜き取る際,1枚目の午後9時50分57秒ないし同51分09秒ころ,2枚目の午後9時51分34秒ないし同41秒ころ及び午後9時52分03秒ないし同09秒ころの間,いずれも被告人に背中を向けて,被告人に窃取行為を見られない姿勢を取っていて,その理由につき,被告人を巻き込みたくなかった,被告人に見られたくなかったからである旨供述している。 以上の事情からすると,Aは,窃取行為をする際,被告人のためにDVDを万引きするというAの真意を被告人が認識しているものと確信していたわけではないこと に見られたくなかったからである旨供述している。 以上の事情からすると,Aは,窃取行為をする際,被告人のためにDVDを万引きするというAの真意を被告人が認識しているものと確信していたわけではないことが認められる。 さらに,本件会話の際の被告人の応答内容について,Aがその文言を正確に記憶している訳ではないことも併せ考えると,A供述にある本件会話中の「ほんまですか「いけるんですか「できるんですか」といった被告。」,。」,。 - 9 -人の言葉自体について,本当に被告人がそのように述べたのか疑問があり,被告人がAの真意を認識しないままに何らかの返答をしただけである可能性を否定することができないし,仮にそのとおりの発言があったとしても,この発言自体からはAの「やったろか「取ったろか「ぱくったろか」。」,。」,。 といった提案に対する驚きや疑問の提起は推認できても,これに対する賛同ないし承諾の意思があったとまで断定することは困難である。Aが積極的に虚偽の供述をしているとは認められないことからすると,本件会話においてAの前記発言に対して,被告人から何らかの応答があったことは認められるものの,結局その文言やその意味内容については不明であるといわざるを得ない。 そこで,被告人とAとの間の共謀の成否については,本件会話の内容にとらわれることなく,その他の事情を総合的に検討して判断する必要がある。 (2)本件会話とケースの授受の先後関係について検察官は,防犯ビデオから,Aが1枚目のケースを手に取る前に被告人と会話していたことが認められるので,本件会話の直後にAが1枚目のケースを受け取り,DVDの窃取に着手した旨主張し,確かに,本件会話の後に被告人からAへ1枚目のケースが手渡されたとすると,被告人がAの窃取の意図を認識して手渡したものと見 会話の直後にAが1枚目のケースを受け取り,DVDの窃取に着手した旨主張し,確かに,本件会話の後に被告人からAへ1枚目のケースが手渡されたとすると,被告人がAの窃取の意図を認識して手渡したものと見る余地があり,遡って,その文言やその意味内容を別にして,本件会話の存在自体を共謀を基礎づけるものと解することが不可能ではない。 しかし,Aは,本件会話と1枚目のDVDの授受との先後関係について,前記3(1)のとおりあいまいな供述をしていて,どちらかといえば「僕が取ってから,やったろか言うて,ええっという感じやったと思います。僕が取ってからだったと思います」と,本件会話はDVDの授受の後だったよう。 に記憶していること,そのころ交わされた会話の内容は本件会話に限られないこと,Aがケースを手にした後に本件会話を行うことも時間的に可能であ- 10 -ることなどから,Aがケースを受け取った直後に窃取行為に着手したことは防犯ビデオ映像から明らかであるものの,1枚目のケースを受け取る前に本件会話があったとまでは認められない。 (3)防犯ビデオ映像及びA供述から判明するその他の事情いずれも信用することのできる前記防犯ビデオ映像及びA供述から,共謀の存在を推認させる事実として,午後9時51分23秒ないし同25秒ころ,Aが1枚目のDVDを窃取して,空ケースを棚に戻している際に,被告人から「これもいいやつですよ」などと言われたこと,午後9時51分26秒。 ないし同28秒ころ,Aが手を伸ばして被告人から2枚目のケースを受け取ったこと,被告人は,Aが2枚のDVDを窃取する間,絶えずAのそばにいて,午後9時50分57秒ころのように,Aのいた方向へ視線を向けているように見える場面もあること,被告人はAの窃取行為を一切制止していないことなどを認めることができる。 A る間,絶えずAのそばにいて,午後9時50分57秒ころのように,Aのいた方向へ視線を向けているように見える場面もあること,被告人はAの窃取行為を一切制止していないことなどを認めることができる。 Aは,被告人がケースを渡した直後に窃取行為を開始していて,被告人に背を向けている時間もあったとはいえ,そのかがみ込むような姿勢はDVDを吟味しているにしては明らかに不自然であるし,被告人自身,Aがどのような反応を示すのか気になっていたと供述しているのであるから,被告人がAの行動に全く気付いていなかったと断じるには疑問が残る。そうすると,被告人が,DVDを窃取しているAを制止せず,1枚目のケースの帰趨を気にとめることもなく「これもいいやつですよ」などと言ってAが2枚目の。 ケースを被告人の手から取るがままにしていたことは,共謀の事実を推認させるものといえなくもない。 (4)小括以上のとおり,被告人とAとの間の共謀の存在を推認するについての積極的な事実として,①Aが,1枚目のDVDの窃取に着手する直前,被告人に対して被告人のためにDVDを窃取してあげようかという意味の発言をして,- 11 -これに被告人が何らかの応答をしたこと,②Aは,ケースを受け取った直後に窃取行為に着手したこと,③1枚目のDVDを窃取した直後「これもい,いやつですよ」などと言った被告人の手元から2枚目のケースを取ったこ。 と,④被告人は,Aが2枚のDVDを窃取する間,絶えずAのそばにいて,Aの窃取行為を一切制止していないことなどを指摘することができる。 これらの事実からすると,見方によっては被告人とAとの間に窃盗の共謀があったものと推認する余地がないではない。しかし,前記のとおり,本件会話の内容から両者の共謀の事実を推認することはできず,本件会話における被告人の発言を驚 方によっては被告人とAとの間に窃盗の共謀があったものと推認する余地がないではない。しかし,前記のとおり,本件会話の内容から両者の共謀の事実を推認することはできず,本件会話における被告人の発言を驚きや疑問の提起ととらえると,上記の共謀の存在を推認させる主な事実として指摘した①ないし④の各事実も被告人の賛同ないし明確な承諾のないままになされた,Aの一方的な行為と,③の被告人が1枚目のケースの帰趨に気をとめることもなく「これもいいやつですよ」など,。 と言ってAが2枚目のケースを被告人の手から取るがままにしていたことも含め,その傍らにいた被告人の傍観行為と見る余地があり,そうすると,これら事実も被告人とAとの間に共謀があることと矛盾しないという程度にとどまり,強い推認力を有するものと評価することはできない。 被告人とAとの間の共謀の存在を推認するについての消極的事実他方,被告人とAとの間の共謀の存在を推認するについての消極的事実として,関係各証拠から,以下の事実を認めることができる。 (1)Aの窃取行為の際の被告人及びAの行動被告人とAとの間に共謀があったのであれば,被告人としては,Aが窃取行為に及んでいる間,周囲に人が来ないか様子をうかがうなどするのが自然であるところ,被告人は,AがDVDを窃取する間,Aのすぐそばにいて,目の前にある棚やAに視線を送っていることはあるものの,そのほとんどの時間を手元のケースや外箱に視線を落としたり,棚の最下段をのぞき込むなどしていて,周囲の様子を気にしている様子はうかがえない。 - 12 -また,前記4(1)のとおり,AはDVDをケースから抜き取る際に,あえて被告人に背を向ける体勢をとっているところ,Aは,本件会話におけるAの真意を被告人が理解していたのかは分からないとの趣旨のことを述べたり, (1)のとおり,AはDVDをケースから抜き取る際に,あえて被告人に背を向ける体勢をとっているところ,Aは,本件会話におけるAの真意を被告人が理解していたのかは分からないとの趣旨のことを述べたり,本件窃取行為に及んだ動機について「被告人を驚かせたかった」と述べる。 などしていることからすると,Aは,被告人がAの本件窃取行為に賛同ないし積極的な承諾を与えているものとは認識していなかったために,被告人に見られないように,背を向けていたという可能性も否定できない。 (2)Aの窃取後の被告人の行動被告人は,Aが2枚目のDVDを窃取した午後9時52分09秒以降も,Aが店員に声をかけられる同55分12秒まで約3分間もの間,Aから出ようかと声をかけられることもあったのに,すぐにその場から離れようとしなかった。 そして,被告人は,Aが店員に連れて行かれた後,1人で自動車を運転していったんaから離れたにもかかわらず,Aからの電話により再度aに戻り,店舗前に警察官がいたのに,その警察官に声をかけて,aの事務室へと戻っている。また,被告人は,事務室へ戻った後,Cに対して,Aが万引きをしたのかわからないという旨のメールを送信している。 (3)小括以上のとおり,被告人とAとの間の共謀の存在を推認するについての消極的な事実として,被告人が,明確な見張り行為といえるような行動をとっていないこと,Aの窃取行為後店員が現れたのに本件通路から立ち去ろうとしなかったこと,いったんaを離れた後,警察官が臨場しているaまで戻ってきたこと,AがDVDを窃取する際,被告人に背を向けるなどし,窃取行為の様子を被告人に見られないような行動をとっていたことなどを指摘することができ,いずれの事実も,被告人とAとの間に本件共謀があったとすると直ちには説明が困難な事実といえる。 - などし,窃取行為の様子を被告人に見られないような行動をとっていたことなどを指摘することができ,いずれの事実も,被告人とAとの間に本件共謀があったとすると直ちには説明が困難な事実といえる。 - 13 - まとめ以上見てきたところを総合すると,A供述は相当程度の信用性を有しているといえるものの,同供述と防犯ビデオに録画されている内容によっても,被告人がAの本件DVD窃取行為について,明示又は黙示にも,Aと共にこれを実行する旨の意思を相通じ合っていたものと認めることができないだけでなく,被告人とAは,本件窃取行為につき両者共謀の事実があったとすると直ちには説明が困難な行動をとってもいるといえる。 したがって,捜査段階から一貫して本件公訴事実を否認している被告人供述の信用性を検討するまでもなく,被告人が,本件窃取行為について,その実行行為者であるAとの間で共謀を遂げていたとの事実が合理的疑いを容れない程度にまで立証がされているものと認めることはできない。 以上によれば,結局,本件公訴事実については,犯罪の証明がないことに帰するから,刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをすることとする。 よって,主文のとおり判決する(求刑:罰金30万円)。 平成20年4月25日大阪地方裁判所第6刑事部裁判長裁判官水島和男裁判官山崎威裁判官寺村隼人

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