平成13(ネ)597 損害賠償請求控訴

裁判年月日・裁判所
平成13年10月10日 東京高等裁判所
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判決文本文6,682 文字)

(原審・東京地方裁判所平成11年(ワ)第15929号(原審言渡日平成12年12月25日)) 主文 本件控訴を棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第一控訴の趣旨一原判決を取り消す。 二被控訴人は、控訴人に対し、金2200万円及びこれに対する平成11年7月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 三被控訴人は、控訴人に対し、平成11年4月以降1年当たり金300万円の割合による金員を支払え。 第二事案の概要一事案の概要は、原判決9頁3行目の「昭和53年」を「昭和53年5月11日」に、同14頁9行目の「以上」を「以外」に、同15頁10行目及び同16頁6行目の各「2月」をいずれも「5月」にそれぞれ改め、控訴人の当審における補充主張を次項のとおり加えるほかは、原判決「事実及び理由」欄中の「第二事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。 なお、本判決においても、原則として原判決と同じ略語を使用することとする。 二控訴人の当審における主張 1 注射針の交換について本件予防接種の際、担当医師又は看護婦が注射針を交換しないまま複数人に対し連続して注射していたことは、その当時控訴人とともに物質研に勤務していた者の各陳述書(甲30ないし33)によっても明らかである。なお、乙17の調査報告書によれば、支部診療所において看護婦として勤務していたAは、本件予防接種が行われた当時、一般的な医療の場合に患者ごとに注射針を取り換えていたと述べているにすぎず、予防接種の場合についてまでは言及しておらず、また、支部診療所に移転する以前においては、予防接種の際に注射針を交換しないまま複数人に対し連続して注射していたことがあったことを認めている。 2 注射筒の交換について いてまでは言及しておらず、また、支部診療所に移転する以前においては、予防接種の際に注射針を交換しないまま複数人に対し連続して注射していたことがあったことを認めている。 2 注射筒の交換について仮に本件予防接種の際に被接種者ごとに注射針が取り換えられていたとしても、上記各陳述書及び支部診療所において准看護婦として勤務していたBの証明書(甲29)のほか、厚生省が、昭和63年に至り、漸く取扱通知により予防接種の実施に当たっては注射筒も被接種者ごとに取り換えるよう通知したことに鑑みると、昭和54年の本件予防接種の際には、注射筒を被接種者ごとに取り換えるというようなことが行われていなかったことは明らかである。 3 因果関係について控訴人のGOT及びGPT値の推移(甲27、28)のほか、昭和54年9月に物質研がつくば市に移転した後しばらくして、控訴人にウイルス性肝炎に感染したことを窺わせる症状が現れたこと、控訴人がHCVに感染した原因は予防接種以外にないところ、前記のとおり、本件予防接種において注射針及び注射筒を交換しないまま複数の被接種者に連続して注射されていたこと、我が国のHCV感染者は約300万人に及び、その80パーセント以上が予防接種により感染したと推定できることなどからして、控訴人が本件予防接種を受けたことによりHCVに感染したことは明らかである。 4 安全確保義務違反について仮に本件予防接種が公権力の行使に当たらないとしても、被控訴人は、定期健康診断の一環として本件予防接種を実施したのであるから、被接種者の安全を確保する義務があった。しかるに、被控訴人は、この義務を怠り、注射針及び注射筒を交換しないまま複数の被接種者に連続して注射した結果、控訴人をHCVに感染させたのであるから、これにより控訴人が被った損害を賠償する義務がある しかるに、被控訴人は、この義務を怠り、注射針及び注射筒を交換しないまま複数の被接種者に連続して注射した結果、控訴人をHCVに感染させたのであるから、これにより控訴人が被った損害を賠償する義務がある。 5 薬剤使用についての保険適用上の差別について控訴人は、インターフェロンの注射によるC型肝炎の治療を受ける場合、平成11年3月までは、国家公務員共済組合の組合員又は継続組合員として費用の1割を負担すれば足りたが、国民健康保険の被保険者となった同年4月以降は、費用の全額を負担しなければならなくなった。これは、薬剤使用についての保険適用上の重大な差別であって、法の下の平等を定めた憲法第14条に違反する。 6 異なる疾病についての薬剤使用上の差別について慢性骨髄性白血病の治療の場合には、副作用を理由にインターフェロンの使用が抑制されることはないのに対し、C型肝炎の治療の場合には、副作用を理由にその使用が厳しく抑制されている。そして、保険適用の範囲が拡大された平成12年通知によっても、控訴人のようにインターフェロンの注射による効果の発生に時日の経過を要するHCVの2型の患者が、長期にわたりインターフェロンの注射による治療を受けることを認めていない。これは、異なる疾病についての薬剤使用上の差別であって、法の下の平等を定めた憲法第14条に違反する。 第三当裁判所の判断一当裁判所も、控訴人の請求はいずれも理由がないから棄却すべきものと判断する。その理由は、原判決33頁6行目から同34頁1行目までにある「GTP」をいずれも「GPT」に、同35頁4行目から5行目にかけての「小紫胡湯」を「小柴胡湯」に、同37頁7行目及び同42頁末行から同43頁1行目にかけての各「2月」をいずれも「5月」にそれぞれ改め、控訴人の当審における主張に対する判断を次項のとお 5行目にかけての「小紫胡湯」を「小柴胡湯」に、同37頁7行目及び同42頁末行から同43頁1行目にかけての各「2月」をいずれも「5月」にそれぞれ改め、控訴人の当審における主張に対する判断を次項のとおり加えるほかは、原判決「事実及び理由」欄中の「第三当裁判所の判断」一ないし四に記載のとおりであるから、これを引用する。 二控訴人の当審における主張に対する判断 1 注射針の交換について控訴人は、本件予防接種の際、担当医師又は看護婦が注射針を交換しないまま複数人に対し連続して注射していたと主張し、甲30ないし33及び原審における控訴人の供述中には、この主張に沿う部分がある。 しかしながら、甲29(旧工業技術院診療所に准看護婦として勤務していたB作成の証明書)には、昭和54、55年度のインフルエンザ予防接種の際、被接種者ごとに注射針を交換した旨記載され、前掲乙17にも、少なくとも昭和50年以降、注射針を換えずに複数の人に注射したことはなかった旨記載されていることのほか、本件予防接種時より20年以上も前に制定された実施規則に、注射針は被接種者ごとに取り換えなければならない旨規定されていることを併せ考えると、前記陳述記載及び供述はにわかに採用することができず、他に前記主張事実を認めるに足りる的確な証拠はない。 したがって、控訴人の前記主張は採用することができない。 2 注射筒の交換について控訴人は、昭和54年の本件予防接種の際には、注射筒を被接種者ごとに取り換えるというようなことは行われていなかった旨主張し、前掲甲29ないし33のほか、厚生省が取扱通知により予防接種の実施に当たっては注射筒も被接種者ごとに取り換えるよう通知したのが昭和63年であったことを総合すると、本件予防接種の際には、被接種者数人分の注射液を入れた注射筒が使用されていた可 通知により予防接種の実施に当たっては注射筒も被接種者ごとに取り換えるよう通知したのが昭和63年であったことを総合すると、本件予防接種の際には、被接種者数人分の注射液を入れた注射筒が使用されていた可能性を否定することはできない。 しかしながら、本件全証拠を検討してみても、本件予防接種の実施状況を明らかにするだけの客観的資料はないといわざるを得ない(前掲甲29ないし33も、各作成者の記憶に基づくものであって、裏付けを欠くものであるから、十分な証明力を有するものとはいえない。)ばかりでなく、前記引用に係る原判決認定のとおり、WHOが、昭和62年11月13日、肝炎ウイルス等の感染を防止する観点から予防接種の実施に当たって注射針だけでなく注射筒も取り換えるべきである旨の意見を提出したのを受けて取扱通知が発せられたのが昭和63年1月27日であること、米国においてHCVが発見、解明されたのが平成元年のことであり、これを受けて、我が国で輸血用血液のスクリーニングにHCV抗体検査が取り入れられたのが同年11月であり、平成4年2月に検査方法が改良されるなど診断方法が確立されて、従来非A非B型肝炎と診断されていたもののほとんどがC型肝炎であったことが判明するに至ったことが認められるから、仮に昭和54年の本件予防接種の際に被接種者数人分の注射液を入れた注射筒が使用されていたとしても、これをもって直ちに違法であったということはできない。 3 因果関係について控訴人は、控訴人のGOT及びGPT値の推移のほか、昭和54年9月に物質研がつくば市に移転した後しばらくして、控訴人にウイルス性肝炎に感染したことを窺わせる症状が現れたこと、控訴人がHCVに感染した原因は予防接種以外にないところ、本件予防接種において注射針及び注射筒を交換しないまま複数の被接種者に連続し 控訴人にウイルス性肝炎に感染したことを窺わせる症状が現れたこと、控訴人がHCVに感染した原因は予防接種以外にないところ、本件予防接種において注射針及び注射筒を交換しないまま複数の被接種者に連続して注射されていたこと、約300万人に及ぶ我が国のHCV感染者の80パーセント以上が予防接種により感染したと推定できることなどを根拠として、控訴人が本件予防接種を受けたことによりHCVに感染したことは明らかであると主張する。 確かに、原判決掲記の証拠によれば、控訴人は、平成2年12月にHCV抗体が検出された上、本件予防接種と時期的に符合するころに、大便が白い粘土様となり、尿の色が濃い茶色となるなどウイルス性肝炎に罹患した場合に現れるとされている所見に沿う症状が現れていること、HCVの感染源は人の血液であり、一般に、減菌不十分な医療器具による医療行為も感染経路の一つとして指摘されていることが認められるところ、前示のとおり、本件予防接種の際被接種者数人分の注射液を入れた注射筒が使用されていた可能性を否定することができないことなどからすると、控訴人がHCVに感染した原因が本件予防接種であったことは、可能性の一つとして考え得るところではある。 しかしながら、①前記引用に係る原判決認定のとおり、C型肝炎患者のGOT、GPT値は、発症後数年間は大きく変動するが、その後一定期間沈静化し、再び活動性となることが指摘されているところ、控訴人のGOT、GPT値は、昭和55年5月22日のGOT値が41と基準値(正常値)をわずかに超えている程度であって、その後平成元年まで基準値の範囲内で推移しており、多峰性を示すのはそれ以降であることが認められるから、これらの数値の推移から見ると、本件予防接種のころにHCVに感染したことを窺わせるものであるとはいい難いこと、②前記のと 値の範囲内で推移しており、多峰性を示すのはそれ以降であることが認められるから、これらの数値の推移から見ると、本件予防接種のころにHCVに感染したことを窺わせるものであるとはいい難いこと、②前記のとおり、本件予防接種の実施状況についても、これを明らかにする的確な証拠がないこと、③原判決掲記の証拠によれば、一般にHCVの感染経路として種々のものが指摘されており、社団法人日本肝臓学会発行の「肝がん白書(平成11年度)」(乙7)によれば、平成7年度の統計資料に基づく献血者集団におけるHCV抗体陽性率について、50歳から64歳までが2.54パーセントであるとされていることが認められるところ、控訴人のHCV感染経路として本件予防接種以外のものの可能性を否定するだけの証拠もないことなどを総合して考えると、前記のような控訴人の症状等をもってしても、本件予防接種により控訴人がHCVに感染したという高度の蓋然性があるとは認め難く、他にこれを認めるに足りる証拠もない。したがって、本件予防接種と控訴人がHCVに感染したこととの間に相当因果関係があると認めることはできない。 控訴人の前記主張は、採用することができない。 4 安全確保義務違反について控訴人は、被控訴人は本件予防接種の実施に当たり被接種者の安全を確保する義務を怠ったのであるから、これにより控訴人の被った損害を賠償する義務がある旨主張するが、原判決が説示するとおり、本件予防接種は、国家賠償法第1条第1項にいう公権力の行使に当たらないというべきであるし、前示のとおり、本件予防接種と控訴人がHCVに感染したこととの間に相当因果関係があると認めることができない以上、控訴人の主張は採用することができないというほかない。 5 薬剤使用についての保険適用上の差別について控訴人は、国家公務員共済組合の組合員と ととの間に相当因果関係があると認めることができない以上、控訴人の主張は採用することができないというほかない。 5 薬剤使用についての保険適用上の差別について控訴人は、国家公務員共済組合の組合員としての身分と国民健康保険の被保険者としての身分とで、インターフェロンの投与についての保険適用の範囲に重大な差があると主張するが、加入する保険制度の違いによって控訴人主張のような保険適用の範囲に差異が生じることを認めるべき証拠はないから、控訴人の主張は前提を欠き、採用することができない。 6 異なる疾病についての薬剤使用上の差別について控訴人は、慢性骨髄性白血病の治療の場合には、副作用を理由にインターフェロンの使用が抑制されることはないのに対し、C型肝炎の治療の場合には、副作用を理由にその使用が厳しく抑制されていると主張する。 しかしながら、疾病が異なれば、その治療のために投与される薬剤の種類、使用方法等が異なるのは当然であり、乙8によれば、同じインターフェロン剤でも、C型慢性肝炎と慢性骨髄性白血病とでは、投与量、投与時間、投与方法等に相違があることが認められる。そして、原判決が正当に認定説示するとおり、インターフェロン療法はC型慢性肝炎の根治療法としては唯一の治療方法であって、HCVを駆除することができない場合でもC型慢性肝炎の進行を抑制する効果を示すことがあるという点で有用であり、医療関係者等により保険適用を拡大すべきであるとの指摘もされているが、その反面、インターフェロン療法には各種の副作用が生じるとされているところであり、厚生大臣は、これらの事情や、インターフェロンの効能又は効果、用法及び用量など薬事法に基づく承認事項を踏まえて、治療効果を確保しつつ適正かつ効率的な使用を促進するという観点から、平成5年通知により、一定の要件、投与期 事情や、インターフェロンの効能又は効果、用法及び用量など薬事法に基づく承認事項を踏まえて、治療効果を確保しつつ適正かつ効率的な使用を促進するという観点から、平成5年通知により、一定の要件、投与期間の範囲でインターフェロン療法について保険適用を認めることとし、更に、平成12年通知により、その対象を拡大し、最長6か月の再投与についても保険適用の対象とする取扱をするようになったのである。このような厚生大臣のC型慢性肝炎に対するインターフェロン療法の保険適用上の取扱は、その裁量権の範囲内のものであって、その取扱によって生じる区別が合理性を欠くものであるということはできない。 したがって、慢性骨髄性白血病の治療の場合と対比して上記取扱の不当性ないしは不平等性をいう控訴人の主張は、採用することができない。 第四結論よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法第67条第1項、第61条を適用して、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第5民事部裁判長裁判官魚住庸夫裁判官飯田敏彦裁判官菅野博之

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